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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172141
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】切削インサートおよび切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20241205BHJP
   B23B 27/16 20060101ALI20241205BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23B27/14 C
B23B27/16 B
B23B27/00 C
B23B27/16 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089679
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 駿輔
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046BB02
3C046CC00
3C046EE14
3C046EE16
3C046PP00
(57)【要約】
【課題】加工不良(びびり)の発生を減少させ、かつ、より高能率で加工することを可能とする。
【解決手段】長手方向に沿って延在する切削インサート10であって、当該切削インサート10は、長手方向Xの端部に設けられた、湾曲したコーナ切れ刃21と、該コーナ切れ刃21を挟むように、長手方向Xに垂直な幅方向Yの両側に配置された一対の横切れ刃22と、コーナ切れ刃21の、長手方向Xおよび幅方向Yの両方に垂直な高さ方向Zの下部に設けられた平坦面24と、を備えている。一対の横切れ刃22は、直線状に形成されていて直角または鈍角をなし、一対の横切れ刃22が、当該切削インサート10の幅方向Yの最大幅を規定している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延在する切削インサートであって、
長手方向の端部に設けられた、湾曲したコーナ切れ刃と、
該コーナ切れ刃を挟むように、前記長手方向に垂直な幅方向の両側に配置された一対の横切れ刃と、
前記コーナ切れ刃の、前記長手方向および前記幅方向の両方に垂直な高さ方向の下部に設けられた被拘束面と、
を備え、
一対の前記横切れ刃は、直線状に形成されていて直角または鈍角をなし、
一対の前記横切れ刃が、当該切削インサートの前記幅方向の最大幅を規定している、切削インサート。
【請求項2】
前記幅方向から見た側面視において、前記高さ方向および前記幅方向の双方に平行な仮想面と前記被拘束面とがなす角度は、0°以上かつ10°以下である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
一対の前記横切れ刃がなす角は、90°以上かつ160°以下である、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
前記被拘束面は、その幅が、前記高さ方向に沿って前記コーナ切れ刃から離れるにつれて長くなる、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項5】
一対の前記横切れ刃がなす角は90°である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項6】
一対の前記横切れ刃がなす角は120°である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項7】
前記長手方向に沿って延在するインサート胴部と、該インサート胴部の長手方向端部に形成された、前記コーナ切れ刃および前記横切れ刃を含むインサート切れ刃部と、を有する、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項8】
一対の前記インサート切れ刃部が、前記インサート胴部の長手方向の両端部に形成されている、請求項7に記載の切削インサート。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の切削インサートと、該切削インサートを保持するホルダーと、を有する、切削工具。
【請求項10】
前記ホルダーに、前記切削インサートの前記被拘束面と当接して当該切削インサートの前記長手方向への動作を抑止する拘束面が形成されている、請求項9に記載の切削工具。
【請求項11】
前記インサート胴部の上面と下面の少なくとも一部が、前記ホルダーに当接する被拘束面となる、請求項10に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートおよび切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
略棒状で両端部に切れ刃が形成されたドッグボーン型と呼ばれる2コーナ仕様の切削インサートは、溝入れ加工や突切り加工さらには横送り加工などに用いることができることから、製品の仕上げ加工用や倣い加工用として利用されている(たとえば、特許文献1参照)。このようなドッグボーン型の切削インサートが用いられる具体的な適用の一例には、航空機や宇宙ロケット等のエンジン系統に搭載されるディスクやブリスクが挙げられる。これらディスクやブリスクは、袋溝形状部分を有した形状であるものが多い。袋溝部の加工には、ISO菱形形状のインサートとそのホルダーでは被削材に干渉してしまうことがあるため、干渉するのを回避しつつ切削加工をすることが可能な工具として上記のようなドッグボーン型インサートとそのホルダーが利用されることがある(たとえば特許文献1~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-104243号公報
【特許文献2】特許第7112684号公報
【特許文献3】特表2012-531318号公報
【特許文献4】特表平05-500640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記のごとき航空機や宇宙ロケット等のエンジン系統の部品には、極端な温度や圧力差への耐性が不可欠であるためにニッケル基合金やチタン合金のような難削材が使用されることから、従来、これらの部品を高能率で加工することは難しいものであった。すなわち、袋溝部の掘り込み加工の際、長突出しとなることが多いことから振動による加工不良(びびり)が発生しやすいといったように、加工物の被削性と工具剛性の面からすれば高能率加工を実現することは難しかった。
【0005】
そこで、本発明は、加工不良(びびり)の発生を減少させ、かつ、より高能率で加工することを可能とする切削インサートおよび切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、長手方向に沿って延在する切削インサートであって、
長手方向の端部に設けられた、湾曲したコーナ切れ刃と、
該コーナ切れ刃を挟むように、長手方向に垂直な幅方向の両側に配置された一対の横切れ刃と、
コーナ切れ刃の、長手方向および幅方向の両方に垂直な高さ方向の下部に設けられた被拘束面と、
を備え、
一対の横切れ刃は、直線状に形成されていて直角または鈍角をなし、
一対の横切れ刃が、当該切削インサートの幅方向の最大幅を規定している、切削インサートである。
【0007】
従来の溝入れ用のドッグボーン型インサートなどにおいては、被削材に対する切込み角がたとえば90°程度であったのに対し、上記のごとき態様の切削インサートによれば、それぞれ直線状に形成された一対の横切れ刃が直角または鈍角をなす角度で開いていることから、従来のインサートと比較して切込み角がそのぶん小さくなっている。切込み角が小さいと切れ刃の境界摩耗が抑制されるようになるため、横方向への送り量を上げることが可能となるから、そうすることによって横送り旋削加工時の能率を上げることができるようになる。また、上記のようにすることで、送りに対する切りくず厚みを小さくすることができる
【0008】
また、切込み角がたとえば90°である従来の溝入れ用の切削インサートを横送りした場合、刃先から送り方向の抵抗を受ける結果、送り分力が大きいため、切削工具全体がたわみやすく、びびり振動による加工不良につながることがあった。この点、上記のごとき態様の切削インサートによれば、それぞれ直線状に形成された一対の横切れ刃が直角または鈍角をなす角度で開いていることから、切込み角が所定値以下(本態様の場合、45°以下)となり、横送り旋削加工時に送り分力が低減する。この結果、びびりの要因となる成分が減り、耐びびり性が向上する。
【0009】
また、上記のごとき態様の切削インサートによれば、一対の横切れ刃が当該切削インサートの幅方向の最大幅を規定していることから、別言すれば最大幅が切れ刃となる形状となっている。このため、インサートの胴部となる部分が被削材に干渉するのを避けつつ掘り込み加工に対応することが可能である。
【0010】
上記のごとき切削インサートでは、幅方向から見た側面視において、高さ方向および幅方向の双方に平行な仮想面と被拘束面とがなす角度は、0°以上かつ10°以下であってもよい。
【0011】
上記のごとき切削インサートにおける一対の横切れ刃がなす角は、90°以上かつ160°以下であってもよい。
【0012】
上記のごとき切削インサートにおいて、被拘束面は、その幅が、高さ方向に沿ってコーナ切れ刃から離れるにつれて長くなるものであってもよい。
【0013】
上記のごとき切削インサートにおいて、一対の横切れ刃がなす角は90°であってもよい。
【0014】
上記のごとき切削インサートにおいて、一対の横切れ刃がなす角は120°であってもよい。
【0015】
上記のごとき切削インサートは、長手方向に沿って延在するインサート胴部と、該インサート胴部の長手方向端部に形成された、コーナ切れ刃および横切れ刃を含むインサート切れ刃部と、を有していてもよい。
【0016】
上記のごとき切削インサートにおいて、一対のインサート切れ刃部が、インサート胴部の長手方向の両端部に形成されていてもよい。
【0017】
本発明の一態様における切削工具は、上記のごとき切削インサートと、該切削インサートを保持するホルダーと、を有するものである。
【0018】
上記のごとき切削工具において、ホルダーに、切削インサートの被拘束面と当接して当該切削インサートの長手方向への動作を抑止する拘束面が形成されていてもよい。
【0019】
上記のごとき切削工具において、インサート胴部の上面と下面の少なくとも一部が、ホルダーに当接する被拘束面となっていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施形態における切削インサートの斜視図である。
図2】切削インサートの平面図である。
図3】切削インサートの正面図(切削インサートの幅方向に沿ってインサート胴部に向かって見た図)である。
図4】切削インサートの側面図(切削インサートの長手方向に沿ってコーナ切れ刃に向かって見た図)である。
図5】切削インサートが取り付けられた切削工具の一例を示す斜視図である。
図6図5に示した切削工具から切削インサートを取り外してホルダー本体の拘束面を示す斜視図である。
図7】切削インサートの拘束部がホルダー本体拘束部に当接した状態を示す斜視図である。
図8】(A)切削インサートの切込み角について説明する図、(B)従来の切削インサートの切込み角について説明する図、(C)切れ刃角と切りくずの厚みとの関係について説明する図である。
図9】(A)切削インサートの最大幅について説明する図、(B)切削インサートの一部を示す平面図、(C)従来の切削インサートの最大幅について説明する図、(D)従来の切削インサートを用いて旋削加工をしている様子を参考として示す画像である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ本発明にかかる切削インサートおよび切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(図1等参照)。
【0022】
[切削インサート]
本発明にかかる切削インサート10は、旋削加工などに用いられるもので、長手方向に沿って延在する形状であり、インサート胴部11とインサート切れ刃部15とを有している。本実施形態の切削インサート10は、インサート胴部11の長手方向の両端にそれぞれインサート切れ刃部15が形成された、ドッグボーン型と呼ばれる2コーナ仕様の切削インサートである(図1等参照)。なお、本願では、当該切削インサート10の長手方向をX、幅方向をY、高さ方向をZで表して説明することとする(図1等参照)。後述するように、幅方向とは、一対の横切れ刃22が配置される方向に一致する。本実施形態の切削インサート10は、長手方向Xの中心を通るYZ平面(長手方向Xに垂直な平面)を中心にして対称な形状であり、また、幅方向Yの中心を通るZX平面(幅方向Yに垂直な平面)を中心にして対称な形状である(図2図4等参照)。
【0023】
インサート胴部11は長手方向Xに沿って延在する略直方体状であり、上面11tと下面11uの少なくとも一部が切削工具1のホルダー50に当接する被拘束面となるように形成されている(図2図5等参照)。上面11tと下面11uのそれぞれには、ホルダー50の拘束用の突部52が係合する形状のたとえば略円弧状の切り欠き部12が形成されている(図4参照)。
【0024】
インサート切れ刃部15は、インサート胴部11の長手方向Xの両端にそれぞれ形成されている。インサート切れ刃部15の幅(幅方向Yに沿った最大長さ)Y15は、インサート胴部11の幅(幅方向Yの長さ)Y11よりも大きい(図2参照)。インサート切れ刃部15には、切れ刃20と平坦面24が設けられている。切れ刃20は、コーナ切れ刃21と横切れ刃22とを含む(図2等参照)。
【0025】
コーナ切れ刃21は、切削インサート10の長手方向Xの端部に設けられた、湾曲した切れ刃である(図2等参照)。
【0026】
横切れ刃22は、コーナ切れ刃21を挟むように幅方向Yの両側に配置された一対の切れ刃で構成されている(図2等参照)。これら一対の横切れ刃22は直線状に形成されていて、互いに所定の角度βをなすように配置されている(図2参照)。本実施形態では、この角度βを90°またはそれを超える値に設定しており、これら一対の横切れ刃22は直角または鈍角をなしている。角度βの具体的な範囲は、たとえば90°以上かつ160°以下である。一対の横切れ刃22がこのような範囲の角度βをなすように配置された本実施形態の切削工具1によれば、従来の切削工具に比して切込み角αが小さくなることから(図8参照)、横送り旋削加工時の高能率化と耐びびり性の向上とが実現される(これについては後に詳述する)。
【0027】
一対の横切れ刃22は、所定値の角度β、たとえば90°あるいは120°等をなすように配置されていてもよい。角度βが90°である場合には切込み角αが45°となり、角度βが120°である場合には切込み角αが30°となることから、一般的な45°面取りや30°面取りといった加工に対応することができる。このような45°面取りや30°面取りといった範囲は、高送り加工に適した範囲であるということができる。この点、従来の溝入れインサートでは、面取り形状に沿ったツールパスで工具を動かす必要があったのに対し、上記のごとき本実施形態の切削インサート10によれば揉みつけで面取り加工することが可能である。
【0028】
また、本実施形態の切削インサート10において、これら一対の横切れ刃22はインサート切れ刃部15の最大幅を規定する部分に達するように形成されている。別言すれば、切削インサート10の最大幅Y15は、これら一対の横切れ刃22によって規定されている。
【0029】
平坦面24は、コーナ切れ刃21から見て、当該コーナ切れ刃21の逃げ面よりも高さ方向Zに沿って下面11u寄りとなる位置に設けられている(図1等参照)。この平坦面24は、切削インサート10が切削工具1のホルダー50に保持された際、ホルダー50の拘束面54に当接するように設けられており、ホルダー50に対する当該切削インサート10の動き、とくに長手方向Xへの動きを拘束するためのいわば被拘束面として機能する(図7等参照)。本実施形態の切削インサート10においては、このように被拘束面として機能する部位が、コーナ切れ刃21の逃げ面にではなく、それよりも下面11u寄りとなる位置に設けられていることから、2コーナ仕様であっても比較的に大きな面積を確保することが可能であり、そのぶん、長手方向Xにおける位置決め精度ないしは当該位置に切削インサート10を拘束する機能にすぐれる。このような平坦面24における被拘束面としての機能からすると、当該平坦面24は、幅方向Yに沿って見た側面視において、高さ方向Zおよび幅方向Yの双方に平行な仮想面(本明細書ではYZ仮想垂直面といい、図3において符号SYZで示す)となす角度γが、0°以上10°以下となるように形成されているとよい。このように平坦面24とYZ仮想垂直面SYZとがなす角度γが比較的小さい範囲内に収まっていると、ホルダー50の拘束面54に当接する平坦面24の傾斜が小さいということになり、切削加工の際に切削抵抗の背分力が作用したときホルダー50に切削インサート10を安定して拘束した状態に保ちやすく、切削インサート10が高さ方向Zに動きにくい。
【0030】
また、本実施形態の切削インサート10における平坦面24は、その幅が、高さ方向Zに沿ってコーナ切れ刃から離れるにつれて(別言すれば、下面11uに向かうにつれて)長くなるように形成されている(図4等参照)。平坦面24をこのように形成することで、ホルダー50の拘束面54との接触面積をより大きく確保されるようになる結果、横送り旋削加工を高能率化した場合にもホルダー50により切削インサート10を安定して拘束することができるようになる。
【0031】
[切削工具]
本発明にかかる切削工具1は、旋削加工などに用いられる工具で、上記のごとき切削インサート10、ホルダー50、工具本体70を有している(図5等参照)。
【0032】
ホルダー50は切削インサート10を保持する部材である。本実施形態のホルダー50は、突部52と、拘束面54とを有している。突部52は、切削インサート10の上面11tと下面11uのそれぞれに係合するように形成された部位である(図5図6参照)。拘束面54は、切削インサート10の平坦面24が当接する位置に設けられた面(受け面)であり、当該ホルダー50によって保持された切削インサート10を長手方向Xへの動作を抑止するように拘束する(図6図7参照)。
【0033】
ここまで説明したごとき本実施形態の切削インサート10あるいはそれを含む切削工具1の利点等について、従来のインサートとの違いに言及しつつ説明する(図8図9参照)。
【0034】
従来の溝入れ用のドッグボーン型インサートなどにおいては、被削材100に対する切込み角αがたとえば90°程度であり、比較的大きい(図8(B)参照)。これに対し、上記のごとき本実施形態の切削インサート10によれば、それぞれ直線状に形成された一対の横切れ刃22が直角または鈍角をなす角度βで開いていることから、従来のインサートと比較して切込み角αがそのぶん小さくなっている(図8(A)参照)。切込み角αが小さいと切れ刃20の境界摩耗が抑制されるため、横方向への送り量を上げることが可能となり、そうすることによって横送り旋削加工時の能率を上げることができるようになる。
【0035】
また、本実施形態のごとき態様とすることで、送りに対する切りくずのが厚みを小さくすることができる(図8(C)参照)。すなわち、切りくず厚みをt、送りをfとした場合、切りくず厚みtは、
t=f×sinα (αは切込み角)
で表されるところ、sinαの値を小さくすればそのぶん切りくず厚みtを小さくできることがわかる。また、従来の溝入れインサートと同等の切りくず厚みtとした場合であれば、切込み角αを小さくした本実施形態の切削インサート10の方が高い送りfで旋削加工することが可能である。また、この関係式からすれば、送りfをある程度大きくしたとしても切りくず厚みtを小さくすることが可能であることがわかる。
【0036】
また、切込み角αがたとえば90°である従来の溝入れ用の切削インサートを横送りした場合、刃先から送り方向の抵抗を受ける結果、送り分力が大きくなり、切削工具全体がたわみやすく、びびり振動による加工不良につながることがあった(図8(B)参照)。この点、本実施形態の切削インサート10によれば、それぞれ直線状に形成された一対の横切れ刃22が直角または鈍角をなす角度βで開いていることから、切込み角αが所定値以下(本態様の場合、45°以下)となり、横送り旋削加工時に送り分力が低減する。この結果、びびりの要因となる成分が減り、長突出しとした場合であっても耐びびり性が向上する。
【0037】
また、本実施形態の切削インサート10によれば、一対の横切れ刃22が当該切削インサート10の幅方向Yの最大幅を規定していることから(図9(A)(B)参照)、そのようにはなっていない従来の切削インサート(図9(C)(D)参照)とは異なり、インサート胴部11が被削材100に干渉するのを避けつつ掘り込み加工に対応することが可能である。
【0038】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。たとえば、上述の実施形態では、一対の横切れ刃22が直線状に形成された切削インサート10を図示しつつ説明したがこれは好適な一例にすぎない。ここまで説明した本発明の要旨に照らせば、横切れ刃22がたとえば緩やかに湾曲しているといったように非直線状であって構わない。
【0039】
また、上述した実施形態における「平坦面24」もまた、被拘束面の好適な一例として説明したものにすぎず、たとえば緩やかに湾曲する曲面などであっても構わない。要は、成形時の実際を考慮すれば平坦な面であることが好適といえるが、ホルダー50の拘束面54に当接することによって切削インサート10を拘束するという機能が発揮されうる限り当該面は平坦でなくてもよいし、同様に、ホルダー50の拘束面54もまた平坦面でなくてもよい。
【0040】
また、上述した実施形態においてはドッグボーン型と呼ばれる2コーナ仕様の切削インサート10を説明したが、これもまた好適な一例にすぎず、たとえばインサート胴部11の一方にしかインサート切れ刃部15ないしは切れ刃20が形成されていない、いわば1コーナ仕様の切削インサート10においても本発明を適用することが可能であることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、溝入れ加工や突切り加工さらには横送り加工などの旋削加工用の切削工具あるいは該切削工具の切削インサートに適用して好適である。
【符号の説明】
【0042】
1…切削工具
10…切削インサート
11…インサート胴部
11t…上面
11u…下面
12…切り欠き部
15…インサート切れ刃部
20…切れ刃
21…コーナ切れ刃
22…横切れ刃
24…平坦面(被拘束面)
50…ホルダー
52…拘束用の突部
54…拘束面
70…工具本体
100…被削材
YZ…YZ仮想垂直面(仮想面)
X…長手方向
Y…幅方向
11…インサート胴部の幅
15…インサート切れ刃部の幅
Z…高さ方向
α…切込み角
β…一対の横切れ刃がなす角度
γ…幅方向から見た側面視において、高さ方向および幅方向の双方に平行な仮想面と被拘束面とがなす角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-09-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延在する切削インサートであって、
長手方向の端部に設けられた、湾曲したコーナ切れ刃と、
該コーナ切れ刃を挟むように、前記長手方向に垂直な幅方向の両側に配置された一対の横切れ刃と、
前記コーナ切れ刃の、前記長手方向および前記幅方向の両方に垂直な高さ方向の下部に設けられた被拘束面と、
を備え、
一対の前記横切れ刃は、直線状に形成されていて直角または鈍角をなし、
一対の前記横切れ刃が、当該切削インサートの前記幅方向の最大幅を規定し
前記被拘束面は、その幅が、前記高さ方向に沿って前記コーナ切れ刃から離れるにつれて長くなる、切削インサート。
【請求項2】
前記幅方向から見た側面視において、前記高さ方向および前記幅方向の双方に平行な仮想面と前記被拘束面とがなす角度は、0°以上かつ10°以下である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
一対の前記横切れ刃がなす角は、90°以上かつ160°以下である、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
一対の前記横切れ刃がなす角は90°である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
一対の前記横切れ刃がなす角は120°である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記長手方向に沿って延在するインサート胴部と、該インサート胴部の長手方向端部に形成された、前記コーナ切れ刃および前記横切れ刃を含むインサート切れ刃部と、を有する、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項7】
一対の前記インサート切れ刃部が、前記インサート胴部の長手方向の両端部に形成されている、請求項に記載の切削インサート。
【請求項8】
請求項1からのいずれか一項に記載の切削インサートと、該切削インサートを保持するホルダーと、を有する、切削工具。
【請求項9】
前記ホルダーに、前記切削インサートの前記被拘束面と当接して当該切削インサートの前記長手方向への動作を抑止する拘束面が形成されている、請求項に記載の切削工具。
【請求項10】
前記インサート胴部の上面と下面の少なくとも一部が、前記ホルダーに当接する被拘束面となる、請求項に記載の切削工具。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って延在する切削インサートであって、
長手方向の端部に設けられた、湾曲したコーナ切れ刃と、
該コーナ切れ刃を挟むように、前記長手方向に垂直な幅方向の両側に配置された一対の横切れ刃と、
前記コーナ切れ刃の、前記長手方向および前記幅方向の両方に垂直な高さ方向の下部に設けられた、平坦ではない被拘束面と、
を備え、
一対の前記横切れ刃は、一部が湾曲した部分以外は直線状に形成されていて直角または鈍角をなし、
一対の前記横切れ刃が、当該切削インサートの前記幅方向の最大幅を規定し、
前記被拘束面は、その幅が、前記高さ方向に沿って前記コーナ切れ刃から離れるにつれて長くなる、切削インサート。
【請求項2】
前記幅方向から見た側面視において、前記高さ方向および前記幅方向の双方に平行な仮想面と前記被拘束面とがなす角度は、0°以上かつ10°以下である、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
一対の前記横切れ刃がなす角は、90°以上かつ160°以下である、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
一対の前記横切れ刃がなす角は90°である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項5】
一対の前記横切れ刃がなす角は120°である、請求項3に記載の切削インサート。
【請求項6】
前記長手方向に沿って延在するインサート胴部と、該インサート胴部の長手方向端部に形成された、前記コーナ切れ刃および前記横切れ刃を含むインサート切れ刃部と、を有する、請求項に記載の切削インサート。
【請求項7】
一対の前記インサート切れ刃部が、前記インサート胴部の長手方向の両端部に形成されている、請求項6に記載の切削インサート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の切削インサートと、該切削インサートを保持するホルダーと、を有する、切削工具。
【請求項9】
前記ホルダーに、前記切削インサートの前記被拘束面と当接して当該切削インサートの前記長手方向への動作を抑止する、平坦ではない拘束面が形成されている、請求項8に記載の切削工具。
【請求項10】
前記インサート胴部の上面と下面の少なくとも一部が、前記ホルダーに当接する被拘束面となる、請求項9に記載の切削工具。