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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172143
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】レーダ装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/40 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01S7/40 104
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089681
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】志水 聖
(72)【発明者】
【氏名】新井 知広
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 友宏
(72)【発明者】
【氏名】伊佐治 修
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC13
5J070AD05
5J070AD08
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK07
(57)【要約】
【課題】マルチパスと故障の判別が可能なレーダ装置を、提供する。
【解決手段】レーダ装置の送信アンテナ及び受信アンテナは、仮想アンテナの群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない異配線長組が少なくとも1組含まれ、且つ特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属す所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置される。制御ユニットは、温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外反射物が虚像であると診断し、範囲外反射物の数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の送信アンテナ(TX)及び複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
少なくとも一方が不等間隔に配置され、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない前記仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ前記特有組及び前記異配線長組の少なくとも一方に属する前記仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-1組の前記所属組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【請求項2】
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない前記仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ前記特有組及び前記異配線長組の少なくとも一方に属する前記仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-1組の前記所属組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【請求項3】
複数の送信アンテナ(TX)及び複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
少なくとも一方が不等間隔に配置され、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-2組の前記特有組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【請求項4】
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-2組の前記特有組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【請求項5】
前記診断部は、少なくとも前記送信回路間の位相についての前記誤差について、前記診断を実行する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記収容ユニットは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを外部に対して覆うレドーム(7a)を有し、
前記診断部は、前記仮想アンテナの組同士の位相差について、前記比較結果以外の情報に基づく前記位相差も許容差分範囲外である前記仮想アンテナの組数が上限組数に収まる場合に、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れた要因が前記故障であるとの診断を中止し、前記要因が前記レドームへの付着物によるものであると診断する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記診断部は、前記付着物の付着及び前記故障に関する通知を出力する請求項6に記載のレーダ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーダ装置の異常判定方法が開示されている。レーダ装置は、車両のバンパの内側に設けられ、バンパの内側から外側へ送信波を送信する送信処理部と、送信波が車両の周囲の対象物によって反射した物体反射波と、送信波がバンパによって反射したバンパ反射波と、送信波による送受リークを受信し、物体反射波を用いて対象物を検出する受信処理部と、バンパ反射波および送受リークを含む第一受信波の第一受信レベルを検出し、第一受信レベルと閾値とを比較し、第一受信レベルが閾値よりも大きい場合にバンパに異常が発生したと判定するバンパ判定部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017‐215236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、レーダ装置において、特許文献1におけるバンパの異常や送受リーク以外の異常も発生し得る。具体的には、レーダ装置において、マルチパスやレーダ装置の故障といった異常が発生する虞がある。特許文献1では、こうした異常を判別する方法は開示されていない。
【0005】
本開示の課題は、マルチパスと故障の判別が可能なレーダ装置を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
本開示の第一態様は、複数の送信アンテナ(TX)及び複数の受信アンテナ(RX)と、
送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
送信アンテナ、受信アンテナ、送信回路、受信回路及び制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、
少なくとも一方が不等間隔に配置され、
受信アンテナ間における受信信号の位相差に応じて複数の受信アンテナについて送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属する仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-1組の所属組における仮想アンテナ同士の受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる送信回路間及び受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の反射物について取得する誤差取得部(64)と、
収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外反射物が虚像であると診断し、範囲外反射物の数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置である。
【0008】
本開示の第二態様は、等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
送信アンテナ、受信アンテナ、送信回路、受信回路及び制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、
受信アンテナ間における受信信号の位相差に応じて複数の受信アンテナについて送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属する仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-1組の所属組における仮想アンテナ同士の受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる送信回路間及び受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の反射物について取得する誤差取得部(64)と、
収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外反射物が虚像であると診断し、範囲外反射物の数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置である。
【0009】
本開示の第三態様は、複数の送信アンテナ(TX)及び複数の受信アンテナ(RX)と、
送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
送信アンテナ、受信アンテナ、送信回路、受信回路及び制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、
少なくとも一方が不等間隔に配置され、
受信アンテナ間における受信信号の位相差に応じて複数の受信アンテナについて送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-2組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる送信回路間及び受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の反射物について取得する誤差取得部(64)と、
収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外反射物が虚像であると診断し、範囲外反射物の数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置である。
【0010】
本開示の第四態様は、等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
送信アンテナ、受信アンテナ、送信回路、受信回路及び制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
Ns及びNrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の送信アンテナ及び複数の受信アンテナは、
受信アンテナ間における受信信号の位相差に応じて複数の受信アンテナについて送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路及び受信回路の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路及び受信回路の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-2組の特有組における仮想アンテナ同士の受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる送信回路間及び受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の反射物について取得する誤差取得部(64)と、
収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外反射物が虚像であると診断し、範囲外反射物の数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置である。
【0011】
これらの態様によると、温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外反射物が虚像であると診断し、範囲外反射物の数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断することができる。したがって、マルチパスと故障の判別が、可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態におけるレーダ装置の基本構成を示す概略図である。
図2】第一実施形態における送信回路と送信アンテナ、受信回路と受信アンテナの組み合わせ例を示す模式図である。
図3】第一実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図4】第一実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図5】第一実施形態による制御ユニットの機能構成を示すブロック図である。
図6】第一実施形態による制御フローを示すフローチャートである。
図7図6の制御フローの続きを示すフローチャートである。
図8図7の制御フローの続きを示すフローチャートである。
図9】配線長差と位相誤差の関係の一例を示すグラフである。
図10】温度とパラメータKとの関係の一例を示すグラフである。
図11】補償処理に利用する仮想アンテナの組の一例を示す表である。
図12】送信回路間の位相誤差と温度との関係を示すグラフである。
図13】受信回路間の位相誤差と温度との関係を示すグラフである。
図14】マルチパスによる位相誤差について説明するための図である。
図15】送受信環境の異常による位相誤差について説明するための図である。
図16】実像ピークの場合に各仮想アンテナにて検出される位相角について説明するためのグラフである。
図17】虚像ピークの場合に各仮想アンテナにて検出される位相角について説明するためのグラフである。
図18】検出されたピークが全て実像の場合における送信回路間の位相誤差を例示するグラフである。
図19】検出されたピークの一部が虚像の場合における送信回路間の位相誤差を例示するグラフである。
図20】送受信環境の異常がある場合における送信回路間の位相誤差を例示するグラフである。
図21】故障が生じた場合における取得手段に応じた位相差を例示するグラフである。
図22】付着物がある場合における取得手段に応じた位相差を例示するグラフである。
図23】第二実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図24】第二実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図25】第三実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図26】第三実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図27】補償処理に利用する仮想アンテナの組の一例を示す表である。
図28】第四実施形態における送信回路と送信アンテナ、受信回路と受信アンテナの組み合わせ例を示す模式図である。
図29】第四実施形態における送信アンテナ及び受信アンテナの配置例を示す模式図である。
図30】第四実施形態において想定される仮想アンテナを示す模式図である。
図31】第四実施形態において想定される仮想アンテナ同士の配線長の相対関係を示すグラフである。
図32】第五実施形態において補償処理に利用する仮想アンテナの組の一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態を図面に基づき複数説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことで、重複する説明を省略する場合がある。また、各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。さらに、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合わせることができる。
【0014】
(第一実施形態)
本開示の第一実施形態に関して、図1図22を用いて説明する。レーダ装置1は、例えば車両等の移動体に搭載される。レーダ装置1は、送信信号を送信して、物体で反射された送信信号を受信信号として受信し、送信信号を反射した物体であるターゲットまでの距離、ターゲットとの相対速度及びターゲットの方位等を、ターゲット情報として検出する。
【0015】
レーダ装置1から出力されたターゲット情報は、例えばCAN(Control Area Network(登録商標))、およびEthernet(登録商標)などの車載ネットワークを介して車載ECU(Electronic control unit)に入力される。車載ECUは、取得した各ターゲットのターゲット情報に基づいて、車両の自動運転や高度運転支援のための各種処理を実行する。
【0016】
ターゲット情報に基づく処理としては、例えば衝突回避処理、警告処理等がある。衝突回避処理は、各ターゲットのターゲット情報に基づいて、ブレーキシステムやステアリングシステム等を制御することにより、ターゲットとの衝突を回避するための車両制御を行う処理である。警告処理は、各ターゲットのターゲット情報に基づいて、ターゲットとの衝突可能性を運転者に警告する処理である。
【0017】
本実施形態のレーダ装置1は、図1の基本構成に示すように、発振器2、複数の送信回路3、複数の送信アンテナTX、複数の受信アンテナRX、複数の受信回路4、温度センサ5、制御ユニット6、及び収容ユニット7を備えている。レーダ装置1は、複数の送信アンテナTXから送信信号を送信することにより、受信アンテナRXの本数を実本数以上に擬似的に増加させる、所謂MIMO(Multiple-Input-Multiple-Output)方式のレーダである。
【0018】
発振器2は、制御ユニット6からの制御信号を取得し、当該制御信号に応じて変調された変調信号を生成する。変調信号は、例えば、周波数が時間変化する所謂チャープ信号である。変調信号は、送信回路3及び受信回路4の各チャネルに分配されて出力される。以下において、発振器2から送信回路3へと出力される変調信号を送信信号とする。又、発振器2から受信回路4へと出力される変調信号をローカル信号とする。
【0019】
送信回路3及び受信回路4は、それぞれMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)等の半導体集積回路装置を主体に構成されている。送信回路3は、送信アンテナTXと接続され、送信アンテナTXに対して送信信号を出力する。1つのレーダ装置1に搭載される送信回路3の個数をNs個とすると、Nsは2以上の整数である。送信回路3は、接続された送信アンテナTXと同数の増幅器30を備えている。増幅器30は、発振器2から出力された送信信号を増幅して、それぞれ対応する送信アンテナTXに対して出力する。
【0020】
送信アンテナTXは、発振器2から供給された送信信号としての電気信号を、電波信号へと変換して外界へと送信する。送信アンテナTXは、少なくとも1つ以上のアンテナ素子を含んで構成されている。例えば、送信アンテナTXは、平板形状の複数のアンテナ素子を備えるパッチアンテナである。アンテナ素子は、地板が一方の面に設けられた誘導体基板における地板とは反対側の面に、地板と対向するように配置されている。複数のアンテナ素子は、電気信号を供給する給電線により、例えば直列に接続されている。
【0021】
受信アンテナRXは、外界における反射物としてのターゲットにて反射された送信信号を含む電波信号を、受信信号として受信する。受信アンテナRXは、対応する受信回路4に接続されている。送信アンテナTX及び受信アンテナRXの配置については後述する。
【0022】
受信アンテナRXは、電波信号としての受信信号を、電気信号へと変換して対応する受信回路4に出力する。受信アンテナRXは、例えば送信アンテナTXと同様に、少なくとも1つ以上のアンテナ素子が給電線により直列に接続された、パッチアンテナとされる。
【0023】
受信回路4は、受信アンテナRXと接続され、受信アンテナRXにて受信された受信信号を取得する。1つのレーダ装置1に搭載される受信回路4の個数をNr個とすると、Nrは2以上の整数である。受信回路4は、接続された受信アンテナRXと同数の増幅器40及び信号混合部41を備えている。
【0024】
増幅器40は、受信アンテナにて受信された受信信号を増幅し、信号混合部41へと出力する。信号混合部41は、発振器2からのローカル信号と受信信号とが混合されたビート信号を生成する。生成されるビート信号は、受信信号とローカル信号との周波数差分を表す干渉信号となる。ビート信号は、図示しないローパスフィルタによって受信信号とローカル信号との周波数差分から外れる高域成分をフィルタリングされた状態で、受信信号に関連する信号データとして、制御ユニット6へと出力される。
【0025】
温度センサ5は、レーダ装置1内における温度を検出する。温度センサ5は、例えばサーミスタを備え、サーミスタの抵抗値に応じた温度情報を出力する。温度センサ5は、各送信回路3及び受信回路4の温度情報を検出し、制御ユニット6へと出力する。
【0026】
収容ユニット7は、送信アンテナTX、受信アンテナRX、発振器2、送信回路3、受信回路4、温度センサ5、及び制御ユニット6を収容する収容体である。収容ユニット7は、レドーム7a及びケース体7bを備えている。レドーム7aは、ミリ波帯の電波を透過させる透過材を主体として形成されている。レドーム7aは、アンテナTX,RXを覆うようにケース体7bに取り付けられている。レドーム7aは、アンテナTX,RXを保護しつつ電波の透過によりアンテナTX,RXでの信号の送受信を可能とする。ケース体7bは、レドーム7aとともに上述のレーダ装置1の構成要素を収容する収容空間を区画形成している。
【0027】
制御ユニット6は、少なくとも一つの専用コンピュータを含んで構成されている制御部である。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、例えば、レーダ装置1の制御に特化したECU(Electronic Control Unit)であってもよい。
【0028】
制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、メモリ6aとプロセッサ6bとを、少なくとも一つずつ有している。メモリ6aは、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体、及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。ここで記憶とは、センサシステムの起動オフによってもデータが保持される蓄積であってもよいし、センサシステムの起動オフによりデータが消去される一時的な格納であってもよい。プロセッサ6bは、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、RISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU、DFP(Data Flow Processor)、及びGSP(Graph Streaming Processor)等のうち、少なくとも一種類をコアとして含んでいてもよい。又は、プロセッサ6bは、デジタル回路及びアナログ回路のうち、少なくとも一方であってもよい。ここでデジタル回路とは、例えばASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを記憶したメモリ6aを、有していてもよい。
【0029】
制御ユニット6は、複数の受信回路4から出力された複数のビート信号を処理することで、レーダ装置1に対する反射物の角度を算出する測角処理を実行する。レーダ装置1は、MIMO方式にて受信アンテナRXの本数を擬似的に実本数以上に確保することで、比較的高い角度分解能を確保している。加えて、制御ユニット6は、異なる送信回路3間、異なる受信回路4間にて生じる信号の位相差及び振幅差を補償する補償処理を実行することで、比較的高い測角精度を確保している。
【0030】
上述の補償処理のために、各送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、規定の配置にて実装されている。送信アンテナTX及び受信アンテナRXの配置について、図2図4に示す具体例を参照しつつ以下説明する。
【0031】
複数の送信アンテナTX及び複数の受信アンテナRXにより、複数の受信アンテナRXに対して、受信アンテナRX間における受信信号の位相差に応じた複数の仮想アンテナVが、送信アンテナTXごとに想定されることになる。各仮想アンテナVの仮想位置は、対応する送信アンテナTXの、他の送信アンテナTXに対する相対位置と、対応する受信アンテナRXの、他の受信アンテナRXに対する相対位置と、によって規定される。
【0032】
送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、送信アンテナTXごとに想定される仮想アンテナV群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路3及び受信回路4の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナVの組である特有組の数が、少なくともNs+Nr-2組となるように、配置されている。
【0033】
一例として、送信アンテナTXが4本、受信アンテナRXが6本実装されたレーダ装置1を想定する。さらにこの例では、送信回路3の個数はNs=2、受信回路4の個数はNr=2であるとする。この場合、図2に示すように、1つの送信回路3におけるチャネル数は少なくとも2、1つの受信回路4におけるチャネル数は少なくとも3となる。以下において、送信回路3の一方を第一送信回路3_1、他方を第二送信回路3_2とする。又、受信回路4の一方を第一受信回路4_1、他方を第二受信回路4_2とする。本実施形態において、複数の回路チップC上に、それぞれ各回路が実装されている。具体的には、第一送信回路3_1と第一受信回路4_1とが同一の第一回路チップC1に実装されている。そして、第二送信回路3_2と第二受信回路4_2とが、同一の第二回路チップC2に実装されているものとする。
【0034】
さらに本実施形態のレーダ装置1において、少なくとも1つの送信アンテナTXが、他の送信アンテナTXと配線長が異なる。図2に示す例では、第一送信回路3_1に接続された送信アンテナTX1_2の配線Wt2が、他の送信アンテナTXの配線Wt1よりも配線長が長いものとする。又、受信アンテナRXの各配線Wrの配線長は、いずれも実質同じであるとする。さらに送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、後述する所属組における仮想アンテナ同士の配線長差分が許容差分範囲に達する配線長となるように、配置されている。
【0035】
以下においては、4本の送信アンテナTX及び6本の受信アンテナRXについて、それぞれ異なる符号を付して区別する場合がある。具体的には、第一送信回路3_1と接続された2本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX1_1,TX1_2、第二送信回路3_2と接続された2本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX2_1,TX2_2とする。そして第一受信回路4_1と接続された3本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX1_3、第二受信回路4_2と接続された3本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX2_1,RX2_2,RX2_3とする。
【0036】
図3に示す例では、送信アンテナTX1_1,TX1_2,TX2_1,TX2_2は、基準方向としてのX方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2dにて配置されている。さらに、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1,RX2_2,RX2_3,RX1_3は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。
【0037】
配線長の異なるアンテナが存在する場合、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、送信アンテナTXごとに想定される仮想アンテナV群の間で仮想位置が重複し且つ送信回路3及び受信回路4の組み合わせが一致しない仮想アンテナの組の集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない仮想アンテナVの組である特有組の数が、少なくともNs+Nr-2組、すなわち2組となるように、配置される。本実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXはそれぞれ等間隔に、一次元的に配置されている。ここで一次元的に配置されているとは、1つの基準方向に沿って並ぶように配置されていることを意味する。
【0038】
仮想アンテナVは、送信アンテナTX1_1,TX1_2,TX2_1,TX2_2ごとに、それぞれ受信アンテナRXの個数分、すなわち6本が想定される。したがって、合計で24本の仮想アンテナVが、想定されることになる。
【0039】
ここで、送信アンテナTX1_1に対して想定される複数の仮想アンテナVを、一方側から他方側に、仮想アンテナV1,V2,V3,V4,V5,V6とする。送信アンテナTX1_2に対して想定される複数の仮想アンテナVを、一方側から他方側に、仮想アンテナV7,V8,V9,V10,V11,V12とする。送信アンテナTX2_1に対して想定される仮想アンテナV群を、一方側から他方側に、仮想アンテナV13,V14,V15,V16,V17,V18とする。送信アンテナTX2_2に対して想定される仮想アンテナV群を、一方側から他方側に、仮想アンテナV19,V20,V21,V22,V23,V24とする。
【0040】
隣接する送信アンテナTX同士は間隔2dで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される複数の仮想アンテナVは、隣接する送信アンテナTXに対して想定される複数の仮想アンテナVから、相対的に2dずれた仮想位置となる。受信アンテナRXは間隔dで配置されるため、図4に示すように、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が、16組存在することになる。尚、図4では、見易さのため、送信アンテナTXごとの複数の仮想アンテナVの仮想位置を、紙面の上下方向にずらして記載している。実際には、複数の仮想アンテナVは、基準方向(X方向)に延びる仮想線VL上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。すなわち、図4において紙面の左右方向位置が同じ仮想アンテナV同士が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。以下において、仮想位置の重複する具体的な仮想アンテナVの組を、個別の仮想アンテナVごとに付与した符号を利用して(Vn,Vm)と表記する(n,mは自然数)。
【0041】
具体的には、(V3,V7)、(V4,V8)、(V5,V9)、(V5,V13)、(V6,V10)、(V6,V14)、(V9,V13)、(V10,V14)、(V11,V15)、(V11,V19)、(V12,V16)、(V12,V20)、(V15,V16)、(V16,V20)、(V17,V21)、(V18,V22)が、それぞれ仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0042】
以上の組のうち、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが仮想アンテナV同士で一致しない組の集合としての仮想アンテナV群は、(V6,V10)及び(V18,V22)を除いた14組にて構成されることになる。この仮想アンテナV群の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない組の数は6組となり、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしていることになる。6組の一例としては、(V3,V7)、(V9,V13)、(V11,V15)、(V11,V19)、(V12,V16)、(V17,V21)の組が想定できる。
【0043】
さらに、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、仮想位置が重複し配線長が一致しない仮想アンテナVの組である異配線長組が少なくとも1組含まれるように、配置されている。そして、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、上述した特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属する仮想アンテナVの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように、配置されている。
【0044】
上述した6組の一例には、異配線長組が含まれている。すなわち、この6組のうち、(V17,V21)を除く5組が、異配線長組であり、少なくとも1組との条件を満たしている。したがって、所属組の総数が6組となり、少なくともNs+Nr-1組との条件を、満たしていることになる。
【0045】
尚、補償処理に想定される仮想アンテナVの組は、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しないのであれば、上述の組以外が想定されてもよい。例えば、(VV4,V8)及び(V5,V9)は、(V3,V7)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複するが、その他の組とは重複しない。したがって、6組のうちの1組として(V4,V8)又は(V5,V9)を想定することは、(V3,V7)を想定することと等価である。
【0046】
尚、制御ユニット6は、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しない仮想アンテナVの組が、少なくともNs+Nr-2組確保されていれば、それらの組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複する組を、補償処理に利用する組として追加的に想定してもよい。
【0047】
以上の補償処理を含むレーダ装置1の制御のために、プロセッサ6bは、メモリ6aに記憶された、制御プログラムに含まれる複数の命令を実行する。これにより制御ユニット6は、レーダ装置1を制御するための機能部を、構築する。具体的には、制御ユニット6は、図5に示すように、信号生成部60、AD変換部61、フーリエ変換部62、抽出部63、補償部64、温度検出部65、診断部66及び角度取得部67を、機能部として構築する。
【0048】
こうしたプロセッサ6bの機能により、制御ユニット6がレーダ装置1を制御するレーダ制御方法は、図6~8に示す制御フローに従って実行される。本制御フローは、車両の起動中に繰り返し実行される。尚、本制御フローにおける各「S」は、制御プログラムに含まれた複数命令によって実行される複数ステップを、それぞれ意味している。
【0049】
まず図6のS10にて、信号生成部60が、発振器2から送信信号を出力させる。続くS20では、AD変換部61が、送信アンテナTXから外界に送信された送信信号がターゲットにて反射されて受信アンテナRXにて受信された受信信号に応じたビート信号を、受信回路4から取得する。S30にて、AD変換部61は、ビート信号を所定の時間間隔でサンプリングするA/D変換処理によりデジタル信号へと変換する。続くS40では、フーリエ変換部62が、A/D変換されたビート信号のチャープ毎にFFT(Fast Fourier Transform)処理を実行する。これにより、フーリエ変換部62は、ターゲットまでの距離に対応する周波数の位置にピークを示す周波数スペクトル(距離スペクトル)をチャープ毎に取得する。距離スペクトルは、距離分解能に応じた距離ビンごとの信号強度を示すデータとされる。
【0050】
そして、フーリエ変換部62は、距離スペクトルに対してFFT処理を実行する。すなわち、フーリエ変換部62は、複数のチャープに対する1回目のFFT処理で得られた距離ビンでの位相を時系列で並べた波形に対して、2回目のFFT処理を行う。これにより、ターゲットとの相対速度に対応する位置にピークを示す周波数スペクトル(速度スペクトル)が、速度ビン毎に得られる。以上の二次元FFTにより、フーリエ変換部62は、ターゲットまでの距離及びターゲットの相対速度に応じた位置にピークを示す二次元情報(RVマップ)を、取得する。こうして取得されたピークについての情報が、「反射物情報」の一例である。
【0051】
次に、S50において、抽出部63が、RVマップからピークを抽出する。続くS60では、抽出部63が、抽出したピークの強度を取得する。そして、S70では、抽出部63が、抽出したピークが有効であるか否かを判定する。例えば、抽出部63は、ピークの強度が許容強度範囲内である場合に、当該ピークが有効であると判定する。ここで、許容強度範囲は、強度が所定の閾値以上又は閾値より大きい範囲である。有効なピークが存在すると判定されると、本フローはS80へと移行する。
【0052】
S80では、補償部64が、各仮想チャネルにおける有効なピークの位相に基づいて、送信回路3間、受信回路4間、及び仮想アンテナVの配線長差分に応じた位相誤差を取得する。ここで、仮想アンテナVの配線長は、当該仮想アンテナVに対応する送信アンテナTXから送信回路3までの配線長と、対応する受信アンテナRXから受信回路4までの配線長とを合計した配線長を意味する。ここで配線Wt2のみが配線Wt1より長く、受信アンテナRXの配線Wrは全て実質等長のため、送信アンテナTX1_2について想定される仮想アンテナVの配線長は、送信アンテナTX1_2以外の送信アンテナTXについて想定される仮想アンテナVの配線長より長くなる。
【0053】
一般的に、仮想アンテナVごとの配線長差による位相誤差は、図9に示すように、基準配線長Lo(例えば最も短い配線長)に対する配線長差に応じて線形に増加する。すなわち、配線長差に対する位相誤差は、配線長差にパラメータKを乗算した値となる。したがって、図9に示すように、パラメータKは、配線長差に対する位相誤差のグラフを想定した場合に、当該グラフの傾きに相当する。すなわち、本実施形態における送信アンテナTX1_2について想定される仮想アンテナVの配線長LAとすると、配線長差LA-LoからパラメータKが算出可能となる。この場合、基準配線長Loは、送信アンテナTX1_2以外の送信アンテナTXについて想定される仮想アンテナVの、常温での配線長となる。
【0054】
尚、パラメータKは、配線の線膨張係数と配線の温度とを乗算した値に対応するパラメータである。物体の線膨張係数は温度によらないため、パラメータKは、温度に応じて変化する温度パラメータである。図10に示すように、パラメータKは、温度が増加するにつれて線形に増加する。
【0055】
位相の補償処理では、補償部64は、所属組のNs+Nr-1組以上の仮想アンテナVの組ごとに、ビート信号におけるピークの位相差分による線型方程式を定義する。この線型方程式では、送信回路3間及び受信回路4間の相対位相誤差、そして配線長差分に応じた相対位相誤差が、未知数として定義される。補償部64は、この線型方程式の解を、相対位相誤差として取得する。ビート信号は、受信信号に関連する信号であるため、ビート信号におけるピークの位相差分は、仮想アンテナV同士の受信信号の比較結果の一例である。
【0056】
相対位相誤差の取得に関して、以下に詳記する。以下の説明において、仮想アンテナVnに対応するビート信号のピークにおける位相をθVn(nは自然数)と表記することとする。又、送信アンテナTXa_bと受信アンテナRXc_dとの組に対して想定される仮想アンテナVにおける配線長差を、Labcdと表記する(a,b,c,dは自然数)。以下における説明では、簡単のため、所属組としては、図11に示すように、(V3,V7)、(V9,V13)及び(V11,V15)の3組を利用するものとする。配線長差Labcdに起因する位相誤差をeabcdとおくと、図11に示す例において、(V3,V7)に関するピークの位相差分θV3-θV7は数式(1)、(V9,V13)に関するピークの位相差分θV9-θV13は数式(2)、(V11,V15)に関するピークの位相差分θV11-θV15は数式(3)に示す関係にて定義できる。
【数1】
【数2】
【数3】
【0057】
尚、以上の数式において、Θ,Θ,Θは、それぞれターゲット起因の位相誤差である。そして、etx1は、第一送信回路3_1にて生じる信号の位相誤差、etx2は、第二送信回路3_2にて生じる信号の位相誤差である。erx1は、第一受信回路4_1にて生じる信号の位相誤差、erx2は、第二受信回路4_2にて生じる信号の位相誤差である。
【0058】
ここで、位相補償においては、送信回路3間の相対位相誤差、及び受信回路4間の相対位相誤差を考慮すればよい。したがって、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差を考慮することとすると、etx1,erx1=0とすることができる。ここで、位相誤差eabcdを、Labcd・Kに置き換えると、上記の数式(1)~(3)は、下記の数式(4)~(6)のように変形できる。
【数4】
【数5】
【数6】
【0059】
これを、行列形式に変換すると、各組の位相差分と、相対位相誤差とは、以下の数式(7)に表される関係を満たす。
【数7】
【0060】
ここで、数式(7)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の位相差分ベクトルY3である。数式(7)の右辺の第一項は、係数行列A3であり、第二項は位相誤差ベクトルX3である。数式(7)のうち位相差分ベクトルY3は、各ビート信号におけるピークの位相から算出可能である。係数行列A3は、仮想アンテナVの各組の送信回路3、受信回路4、及び配線長差の組み合わせによって規定される定数行列である。したがって、数式(7)は、etx2,erx2,Kを未知数とした連立方程式として解くことが可能である。すなわち、補償部64は、数式(7)の解としてのetx2,erx2,Kを、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差、配線長差に応じた相対位相誤差として、取得する。補償部64は、「誤差取得部」の一例であり、相対位相誤差は、「誤差情報」の一例である。
【0061】
続くS90では、補償部64が、各仮想アンテナVにおける有効なピークの振幅に基づいて、送信回路3間及び受信回路4間の振幅誤差、配線長差分に応じた振幅誤差を取得する。
【0062】
振幅の補償処理では、補償部64は、位相補償処理と同様に、所属組のNs+Nr-1組以上の仮想アンテナVの組ごとに、ビート信号のピークの振幅差分による線型方程式を、送信回路3間及び受信回路4間の振幅誤差を未知数として定義する。補償部64は、この線型方程式の解を、相対振幅誤差として取得する。ビート信号におけるピークの振幅差分は、仮想アンテナV同士の受信信号の比較結果の一例である。
【0063】
基準配線長Loに対する配線長差による振幅誤差は、位相誤差と同様に、基準配線長に対する配線長差に応じて線形に増加する。配線長差に応じた振幅誤差の増加量は、温度に応じて変化する。すなわち、配線長差に起因する振幅誤差は、配線長差にパラメータαを乗算した値となる。
【0064】
以下における説明では、上述の位相補償処理と同様の仮想アンテナVの組を、振幅補償処理においても利用するものとする。以下の説明において、仮想アンテナVnに対応するビート信号のピークにおける振幅をAVn(nは自然数)と表記することとする。配線長差Labcdに起因する振幅誤差をGabcdとおくと、(V3,V7)に関するピークの振幅差分AV3-AV7は数式(8)、(V9,V13)に関するピークの振幅差分AV9-AV13は数式(9)、(V11,V15)に関するピークの振幅差分AV11-AV15は数式(10)に示す関係にて定義できる。
【数8】
【数9】
【数10】
【0065】
ここで、振幅誤差Gabcdを、Labcd・αに置き換えると、上記の数式(8)~(10)は、下記の数式(11)~(13)のように変形できる。
【数11】
【数12】
【数13】
【0066】
ここで、数式(11)~(13)を行列形式に変換すると、各組の振幅差分と、相対振幅誤差とは、以下の数式(14)に表される関係を満たす。
【数14】
【0067】
ここで、数式(14)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の振幅差分ベクトルY4である。数式(14)の右辺の第一項は、係数行列A4であり、第二項は振幅誤差ベクトルX2である。振幅差分ベクトルY4は、各ビート信号におけるピークの振幅から算出可能である。係数行列A4は、仮想アンテナVの各組の送信回路3、受信回路4及び配線長の組み合わせによって規定される定数行列である。すなわち、補償部64は、数式(14)の解としてのGtx2,Grx2,αを、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対振幅誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対振幅誤差、配線長による相対振幅誤差として、取得する。S90の処理の後、本フローは図7のS160へと進む。
【0068】
一方で、S70にて有効なピークが存在しないと判定されると、本フローはS100へと移行する。S100では、補償部64が、温度センサ5から、各送信回路3及び各受信回路4の温度を取得する。そして、S110では、補償部64が、温度に応じた送信回路3間の位相誤差及び振幅誤差についての補正テーブルを、メモリ6aから読み出す。
【0069】
次に、S120では、補償部64が、取得した温度と補正テーブルとの照合により、送信回路3間及び受信回路4間の相対位相誤差を取得する。そして、S130では、補償部64が、取得した温度と補正テーブルとの照合により、送信回路3間及び受信回路4間の相対振幅誤差を取得する。S130の処理の後、S140では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の相対位相誤差を、補償する。さらに、S150では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の相対振幅誤差を、補償する。その後、本フローは図8のS320へと進む。
【0070】
図7に進み、S160では、温度検出部65が、温度センサ5から、温度情報を取得する。温度検出部65は、「温度取得部」の一例である。続くS170では、診断部66が、温度情報に応じた位相誤差の許容範囲である許容誤差範囲を取得する。例えば、診断部66は、送信位相誤差及び受信位相誤差のうち、送信位相誤差について、許容誤差範囲を取得する。許容誤差範囲は、マルチパスではない反射波を不具合のないレーダ装置1にて受信する場合に生じ得る送信位相誤差として許容される誤差範囲である。許容誤差範囲は、例えば下限閾値以上又は超過、且つ上限閾値以下又は未満となる送信位相誤差の範囲である。
【0071】
温度情報と送信回路3間の相対位相誤差との間には、図12に示すように相関関係が成立する。同様に、温度情報と受信回路4間の相対位相誤差との間には、図13に示すように相関関係が成立する。したがって、診断部66は、温度情報に応じて回路3,4間に生じ得る位相誤差の範囲を、許容誤差範囲として規定可能である。例えば、診断部66は、関係式又はテーブル等の形式により予めメモリ6a等の記憶媒体に記憶されたこれらの相関関係に基づき、許容誤差範囲を規定する。相関関係の関係式としては、例えば図12,13に示すような相関データから推定された回帰式が、記憶されればよい。
【0072】
許容誤差範囲は、正常な送受信環境下において経路が一致するピーク、すなわち実像ピークについて想定される位相誤差の範囲として規定されている。この場合、図16に示すように、仮想位置が重複する仮想アンテナV同士で、同一ピークの位相差は比較的小さくなる。マルチパスの場合には、経路が長くなる分位相が変化するため、図17に示すように、仮想アンテナVの組におけるピークの位相差が大きくなり、位相誤差が許容誤差範囲から外れることになる。
【0073】
そして、S180では、診断部66が、複数のピークの中で、算出した送信位相誤差が許容誤差範囲外となるピークである範囲外ピークが有るか否かを判定する。範囲外ピークがない場合、当該ピークとして検出された反射物は、実像Irであると推定できる。一方で、範囲外ピークが有る場合、当該ピークとして検出された反射物は、マルチパスによる虚像Ivの可能性があると推定できる。ピークは、それぞれ信号が反射された反射物に対応するものであるため、ピークの数は、反射物の数に相当する。すなわち、範囲外ピークは、「範囲外反射物」の一例である。
【0074】
すなわち、図14に示すように、実像Irの反射物の場合、送信アンテナTXからターゲットまでの送信信号の経路と、反射物にて反射されてから受信アンテナRXにて受信されるまでの反射信号の経路とが、実質一致する。したがって、このピークに基づき算出された位相誤差は、許容誤差範囲内に収まることになる。一方で、マルチパスが生じた場合、送信アンテナTXからターゲットまでの送信信号の経路と、反射物にて反射されてから受信アンテナRXにて受信されるまでの反射信号の経路とが、一致しない。この場合、マルチパスによる虚像Ivのピークは、反射前と反射後との信号の経路の差分に応じて位相が変化することになる。
【0075】
S180にて範囲外ピークが無い、すなわち図18に示すように全てのピークが許容誤差範囲(グラフ中の実線にて示した範囲)内に収まっていると判定されると、本フローはS190へと移行する。S190では、診断部66が、全ピークについて実像Irであると推定する。一方で、S180にて範囲外ピークが有ると判定されると、本フローはS200へと移行する。
【0076】
S200では、診断部66が、範囲外ピークの数が許容上限数を外れるか否かを判定する。ここで、許容上限数は、正常な送受信環境下において許容される虚像ピークの数である。正常な送受信環境下では、図19に示すように、実質的にマルチパスに由来するピーク(虚像ピーク)のみが範囲外ピークとなる。しかし、異常な送受信環境下においては、実像ピークであっても、範囲外ピークとなり得る。
【0077】
ここで、異常な送受信環境とは、例えば送信回路3及び受信回路4の少なくとも一方の故障、及びレドーム7aへの付着物による信号の阻害のうち少なくとも一方が生じている環境を含んでいる。故障の場合、回路3,4にて処理される信号がこの故障の影響により、位相がずれ得る。又、付着物が付着した場合、当該付着物によりアンテナTX,RXが覆われることで受信信号の信号強度が低下する。これにより、SN比が不足し、信号の位相のばらつきが大きくなり得る。これらの要因により、異常な送受信環境下では、図15に示すように、実像ピークについても範囲外ピークとなり得る。この場合、図20に示すように、範囲外ピークの数が正常な送受信環境下よりも多くなる。したがって、診断部66は、範囲外ピークの数が許容上限数を上回るか否かを判定することで、送受信環境が正常か異常かを判断することが可能となる。
【0078】
S210では、診断部66が、前サイクルまでにカウントされていた故障カウンタ及び付着物カウンタ(後述)をリセットする。一方で、範囲外ピークの数が許容上限数を上回ると判定されると、本フローはS220へと移行する。
【0079】
S220では、診断部66が、仮想位置の重複する仮想アンテナV同士の位相差について、位相補償処理において取得された位相差と、位相補償処理以外の手法にて取得された位相差と、のそれぞれが、許容差分範囲外となるか否かを判定する。位相補償処理において取得された位相差は、同一のピークについての、仮想位置の重複する各仮想アンテナVにおいて取得される受信信号から算出される位相同士の差分である。許容差分範囲内は、正常な送受信環境下において許容される位相差の範囲であり、位相差に関する下限閾値以上又は超過且つ上限閾値以下又は未満の範囲である。又、補償処理以外の手法は、例えば組み込み自己診断(BIST: Built-In Self-Test)機能により算出された位相差である。位相補償処理以外の手法にて取得された位相差は、例えば、外部に対する信号の送受信を実行しない、テスト信号等のレーダ装置1における内部信号に応じて取得される、仮想アンテナVに応じた回路3,4の各チャネルに対応して取得された位相差である。
【0080】
ここで、送受信環境の異常が回路3,4の故障によるものであった場合、補償処理以外の手法にて求めた位相差も、許容差分範囲外となる。一方で、送受信環境の異常が付着物によるものであった場合、補償処理以外の手法にて求めた位相差は、許容差分範囲内となる。したがって、図21に示すように、補償処理において取得された位相差と、補償処理以外の手法にて求めた位相差と、のそれぞれが許容差分範囲(グラフ中の実線にて示した範囲)外となる仮想アンテナVの組がある場合、送受信環境の異常が回路3,4の故障によるものであると推定できる。一方で、図22に示すように、補償処理において取得された位相差と、補償処理以外の手法にて取得された位相差と、のそれぞれが許容差分範囲外となる仮想アンテナVの組がない場合、送受信環境の異常が付着物によるものであると推定できる。尚、診断部66は、補償処理において取得された位相差と、補償処理以外の手法にて取得された位相差と、のそれぞれが許容差分範囲外となる仮想アンテナVの組があったとしても、その組数が上限組数に収まる場合には、送受信環境の異常が付着物によるものであると推定してもよい。換言すれば、上限組数は、0組であってもよいし、1組異常であってもよい。
【0081】
S220にて、BISTによる位相差が許容差分範囲外となると判定されると、本フローはS230へと進み、診断部66が、故障診断のためのカウンタである故障カウンタをカウントアップする。一方で、BISTによる位相誤差について、許容差分範囲内となると判定されると、本フローはS240へと進む。S240では、診断部66が、レドーム7aへの付着物の付着診断のためのカウンタである付着物カウンタをカウントアップする。
【0082】
図8に進み、S250では、診断部66が、付着物カウンタが閾値以上となったか否かを判定する。付着物カウンタが閾値以上になったと判定されると、本フローはS260へと進む。S260では、診断部66が、付着物通知を出力する。診断部66は、例えば車両に搭載された他のECUに対して、付着物通知を出力すればよい。又は、診断部66は、車両の外部のセンタに対して付着物通知を出力してもよい。
【0083】
一方で、付着物カウンタが閾値未満であると判定されると、本フローはS270へと移行する。S270では、診断部66が、故障カウンタが閾値以上となったか否かを判定する。付着物カウンタが閾値以上になったと判定されると、本フローはS280へと進む。S280では、診断部66が、故障通知を出力する。診断部66は、例えば車両に搭載された他のECUに対して、故障通知を出力すればよい。又は、診断部66は、車両の外部のセンタに対して故障通知を出力してもよい。
【0084】
一方で、故障カウンタが閾値未満であると判定されると、本フローはS290へと移行する。S290では、診断部66が、範囲外ピークについて虚像Ivによるもの、すなわちマルチパスによるものであると推定する。
【0085】
S300では、補償部64が、実像Irと推定されたピークに対して位相補償を実行する。例えば、補償部64は、取得した相対位相誤差を、後述の相対角度取得の際に利用するための補償データとしてメモリ6aに保存する。さらに、S310では、補償部64が、送信回路3間及び受信回路4間の相対振幅誤差を補償データとしてメモリ6aに保存することで、補償する。
【0086】
図8に進みS320では、角度取得部67が、実像Irと推定され補償されたピークの位相情報に基づき、反射物の相対角度を取得する。具体的には、角度取得部67は、補償後の各仮想アンテナVの受信信号に基づくビート信号から抽出される複数のピークに対してFFT処理を実行することで、仮想アンテナV間の位相差を取得する。仮想アンテナV間の位相差は、ターゲットの相対角度に関連するため、角度取得部67は、取得した位相差を相対角度へと変換することで、相対角度を取得する。角度取得部67は、このときに、補償データを利用することで、送信回路3間及び受信回路4間の位相差を補償したうえで、相対角度を取得する。
【0087】
この第一態様によると、温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる誤差が取得された反射物である範囲外ピークの数が、許容上限数に収まる場合に、範囲外ピークが虚像Ivであると診断し、範囲外ピークの数が許容上限数を外れる場合に、送信回路及び受信回路の少なくとも一方が故障していると診断することができる。したがって、マルチパスと故障の判別が、可能となる。
【0088】
(第二実施形態)
図23,24に示すように第二実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二実施形態において、送信アンテナTXは、二次元的に配置されている。すなわち、送信アンテナTXは、2つの基準方向について、それぞれ等間隔となるように配置されている。
【0089】
第二実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXの本数は、それぞれ第一実施形態と同数とする。又、送信回路3及び受信回路4の個数も、第一実施形態と同数とする。
【0090】
図23に示す例では、送信アンテナTX1_1,TX2_1は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔2dにて配置されている。さらに、送信アンテナTX1_2,TX1_2は、X方向に直交するY方向において一方側から他方側に、この順番で間隔sにて配置されている。又、送信アンテナTX2_1,TX2_2は、Y方向において一方側から他方側に、この順番で間隔sにて配置されている。すなわち、送信アンテナTX1_2,TX2_2は、間隔2dを空けて、送信アンテナTX1_1,TX2_1と平行に配置されている。
【0091】
さらに、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1,RX2_2,RX2_3,RX1_3は、X方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。各アンテナTX,RXの本数が第一実施形態と同様であるため、第二実施形態においても、合計で24本の仮想アンテナVが、図24に示すように、想定されることになる。
【0092】
X方向に隣接する送信アンテナTX同士は間隔2dで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列は、X方向に隣接する送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列から、相対的に2dずれた仮想位置となる。さらに、Y方向に隣接する送信アンテナTX同士は間隔sで配置されるため、特定の送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列は、Y方向に隣接する送信アンテナTXに対して想定される仮想アンテナVの列から、相対的にsずれた仮想位置となる。
【0093】
尚、図24においても、図4と同様に、送信アンテナTXごとの複数の仮想アンテナVの仮想位置を、紙面の上下方向にずらして記載している。実際には、送信アンテナTX1_1,TX2_1に対して想定される複数の仮想アンテナVは、X方向に延びる仮想線VL1上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。又、送信アンテナTX1_2,TX2_2に対して想定される複数の仮想アンテナVは、X方向に延びる仮想線VL2上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。そして、仮想線VL1上の仮想アンテナVの列と、仮想線VL2上の仮想アンテナVの列との間は、Y方向に間隔sだけ離れている。
【0094】
したがって、図24に示すように、送信アンテナTX1_1に対して想定される複数の仮想アンテナVと、送信アンテナTX2_1に対して想定される複数の仮想アンテナVとの間で、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が想定できる。具体的には、(V3,V13)、(V4,V14)、(V5,V15)、(V6,V16)が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0095】
同様に、送信アンテナTX1_2に対して想定される複数の仮想アンテナVと、送信アンテナTX2_2に対して想定される複数の仮想アンテナVとの間で、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が想定できる。具体的には、(V9,V19)、(V10,V20)、(V11,V21)、(V12,V22)が、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0096】
以上の組は、いずれも送信回路3及び受信回路4の組み合わせが仮想アンテナV同士で重複しない組の集合を構成する。この集合の中で、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが他の組と重複しない組の数は3組となり、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしている。
【0097】
3組の一例としては、(V3,V13)、(V5,V15)、(V6,V16)の組が想定できる。さらに、3組の別の一例としては、(V9,V19)、(V11,V21)、(V12,V22)の組が想定できる。
【0098】
尚、(V4,V14)、(V9,V19)、(V10,V20)は、(V3,V13)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複するが、その他の組とは重複しない。したがって、3組のうちの1組として(V4,V14)又は(V9,V19)又は(V10,V20)を想定することは、(V3,V13)を想定することと等価である。同様に、3組のうちの1組として(V11,V21)を想定することは、(V5,V15)を想定することと等価であり、(V12,V22)を想定することは、(V6,V16)を想定することと等価である。
【0099】
さらに、以上の特有組の中で、(V9,V19)、(V11,V21)、(V12,V22)の3組は、配線長が異なる異配線長組でもある。したがって、異配線長組が1組以上という条件も満たされている。
【0100】
以上により、特有組及び異配線長組の少なくとも一方に属する所属組は、少なくとも3組存在することになり、少なくともNs+Nr-1組という条件を満たしている。3組の所属組としては、例えば(V9,V19)、(V11,V21)、(V12,V22)が想定できる。尚、所属組として、(V9,V19)、(V11,V21)、(V12,V22)のうち1組又は2組を、上述した等価の関係となる組と入れ替えてもよい。
【0101】
(第三実施形態)
図25図27に示すように第三実施形態は、第一実施形態の変形例である。第三実施形態のレーダ装置1において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXの本数、送信回路3及び受信回路4の個数は、第一実施形態と同じである。さらに、送信アンテナTXと送信回路3の組み合わせ、受信アンテナRXと受信回路4の組み合わせは、図2に示すものと同じであるとする。
【0102】
本実施形態では、送信アンテナTXが、不等間隔に配置されている。図25に示す例では、送信アンテナTX1_1,TX1_2,TX2_1,TX2_2は、基準方向としてのX方向において一方側から他方側に、この順番で配置されている。送信アンテナTX1_1及び送信アンテナTX1_2は間隔6dを空けて配置されている。送信アンテナTX1_2及び送信アンテナTX2_1は間隔3dを空けて配置されている。そして、送信アンテナTX2_1及び送信アンテナTX2_2は間隔6dを空けて配置されている。
【0103】
さらに、受信アンテナRX1_1,RX1_2,RX2_1,RX2_2,RX2_3,RX1_3は、基準方向において一方側から他方側に、この順番で間隔dにて配置されている。
【0104】
仮想アンテナVは、送信アンテナTX1_1,TX1_2,TX2_1,TX2_2ごとに、それぞれ受信アンテナRXの個数分、すなわち6本が想定される。したがって、合計で24本の仮想アンテナVが、想定されることになる。
【0105】
ここで、送信アンテナTX1_1に対して想定される複数の仮想アンテナVを、一方側から他方側に、仮想アンテナV1,V2,V3,V4,V5,V6とする。送信アンテナTX1_2に対して想定される複数の仮想アンテナVを、一方側から他方側に、仮想アンテナV7,V8,V9,V10,V11,V12とする。送信アンテナTX2_1に対して想定される仮想アンテナV群を、一方側から他方側に、仮想アンテナV13,V14,V15,V16,V17,V18とする。送信アンテナTX2_2に対して想定される仮想アンテナV群を、一方側から他方側に、仮想アンテナV19,V20,V21,V22,V23,V24とする。
【0106】
送信アンテナTX1_1,TX1_2同士は間隔6dで配置されるため、送信アンテナTX1_1に対して想定される仮想アンテナV群は、送信アンテナTX1_2に対して想定される仮想アンテナV群から、相対的に6dずれた仮想位置となる。又、送信アンテナTX1_2,TX2_1同士は間隔3dで配置されるため、送信アンテナTX1_2に対して想定される仮想アンテナV群は、送信アンテナTX2_1に対して想定される仮想アンテナV群から、相対的に3dずれた仮想位置となる。さらに、送信アンテナTX2_1,TX2_2同士は間隔6dで配置されるため、送信アンテナTX2_1に対して想定される仮想アンテナV群は、送信アンテナTX2_2に対して想定される仮想アンテナV群から、相対的に6dずれた仮想位置となる。
【0107】
したがって、こうしたアンテナTX,RXの配置では、図26に示すように、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組が、3組存在することになる。尚、図26では、見易さのため、送信アンテナTXごとの複数の仮想アンテナVの仮想位置を、紙面の上下方向にずらして記載している。実際には、複数の仮想アンテナVは、基準方向(X方向)に延びる仮想線VL上に、それぞれの仮想位置が想定されることになる。具体的には、(V10,V13)、(V11,V14)、(V12,V15)が、それぞれ仮想位置の重複する仮想アンテナVの組となる。
【0108】
図26及び図27に示すように、以上の3組は、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが仮想アンテナV同士で一致しない組の集合である。さらに、この3組は、送信回路3及び受信回路4の組み合わせが互いに重複しない組である。したがって、このアンテナ配置において特有組の数は3組となり、少なくともNs+Nr-2組という条件を満たしている。
【0109】
さらに、この3組は、それぞれ異配線長組となっている。すなわち、仮想アンテナV10,V11,V12の配線長は、仮想アンテナV13,V14,V15の配線長より長くなる。したがって、このアンテナ配置において異配線長組の数は3組となり、少なくとも1組という条件を満たしている。さらに、以上により、このアンテナ配置において所属組は3組となり、少なくともNs+Nr-1組という条件を満たしている。
【0110】
(第四実施形態)
図28図31に示すように第四実施形態は、第一実施形態の変形例である。第二実施形態において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、二次元的に配置され、送信アンテナTXが、不等間隔に配置されている。
【0111】
一例として、送信アンテナTXが12本、受信アンテナRXが16本実装されたレーダ装置1を想定する。さらにこの例では、送信回路3の個数はNs=4、受信回路4の個数はNr=4であるとする。この場合、図28に示すように、1つの送信回路3におけるチャネル数は少なくとも3、1つの受信回路4におけるチャネル数は少なくとも4となる。以下において、4つの送信回路3を、第一送信回路3_1、第二送信回路3_2、第三送信回路3_3、第四送信回路3_4として区別する場合がある。又、4つの受信回路4を、第一受信回路4_1、第二受信回路4_2、第三受信回路4_3、第四受信回路4_4として区別する場合がある。
【0112】
本実施形態においても、複数の回路チップC上に、それぞれ各回路が実装されている。具体的には、第一送信回路3_1と第一受信回路4_1とが同一の第一回路チップC1に実装されている。そして、第二送信回路3_2と第二受信回路4_2とが、同一の第二回路チップC2に実装されているものとする。加えて、第三送信回路3_3と第三受信回路4_3とが同一の第三回路チップC3に実装されている。そして、第四送信回路3_4と第四受信回路4_4とが、同一の第四回路チップC4に実装されているものとする。尚、送信アンテナTXと、対応する送信回路3との間の各配線Wtの配線長と、受信アンテナRXと、対応する受信回路4との間の各配線Wrの配線長とは、想定される各仮想アンテナVの配線長が、図31のグラフに示される相対関係となるように、規定されている。すなわち、各送信回路3から各送信アンテナTXまでの配線長及び各受信アンテナRX及び各受信回路4までの配線長の少なくとも一方は、対応する仮想アンテナVの配線長が図31に示す相対関係となるように、規定されている。
【0113】
以下においては、12本の送信アンテナTX及び16本の受信アンテナRXについて、それぞれ異なる符号を付して区別する場合がある。具体的には、第一送信回路3_1と接続された3本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX4,TX5,TX6、第二送信回路3_2と接続された3本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX1,TX2,TX3とする。そして、第三送信回路3_3と接続された3本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX7,TX8,TX9、第四送信回路3_4と接続された3本の送信アンテナTXを、送信アンテナTX10,TX11,TX12とする。
【0114】
又、第一受信回路4_1と接続された4本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX5,RX6,RX7,RX8、第二受信回路4_2と接続された4本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX1,RX2,RX3,RX4とする。そして、第三受信回路4_3と接続された4本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX9,RX10,RX11,RX12、第四受信回路4_4と接続された4本の受信アンテナRXを、受信アンテナRX13,RX14,RX15,RX16とする。
【0115】
以上の送信アンテナTX及び受信アンテナRXは、二次元的に配置されている。図29に示すように、複数の送信アンテナTXがX方向に並ぶ4列が、Y方向に離隔して配置されている。このX方向に並ぶ4列のうち、原点側から1番目、2番目、及び4番目の列では、送信アンテナTXが2本ずつ配置されている。さらにX方向に並ぶ4列のうち、原点側から3番目の列では、送信アンテナTXが6本配置されている。ここで、X方向の1目盛の間隔をd、Y方向の1目盛の間隔をsとおく。送信アンテナTX12,TX10,TX9は、間隔dにて等間隔に配置されている。又、送信アンテナTX5,TX4,TX3も、間隔dにて等間隔に配置されている。一方で、送信アンテナTX9と送信アンテナTX5の間は、間隔20dにて配置されている。すなわち、この3番目の列では、送信アンテナTXはX方向において不等間隔に配置されている。
【0116】
さらに、複数の受信アンテナRXがX方向に並ぶ2列が、Y方向に離隔して配置されている。このX方向に並ぶ2列では、それぞれ受信アンテナTXが8本ずつ配置されている。各列において、これらの受信アンテナRXは、X方向に等間隔に配置されている。さらにX方向に並ぶ2列のうち、原点側から1番目の列は、Y方向について送信アンテナTXにおける原点側から1番目の列と同じ位置に並ぶように配置されている。又、X方向に並ぶ2列のうち、原点側から2番目の列は、Y方向について送信アンテナTXにおける原点側から4番目の列と同じ位置に並ぶように配置されている。
【0117】
仮想アンテナVは、12本の送信アンテナTXごとに、それぞれ受信アンテナRXの個数分、すなわち16本が想定される。したがって、合計で192本の仮想アンテナVが、想定されることになる。具体的には、192本の仮想アンテナVが、図30に示すような配置にて想定される。
【0118】
以下において、特定の送信アンテナTXaに対して想定される16本の仮想アンテナVのうち、特定の受信アンテナRXb(a,bは自然数)に対応する仮想アンテナVを、Vc(c=(a-1)×16+b)と表記する。尚、図30においては、煩雑になるのを防ぐため、「V」を省略している。
【0119】
図30に示すように、仮想位置の重複する仮想アンテナVの組は、24組存在する。この中で、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しない特有組は、13組存在する。例えば、(V2,V85)、(V9,V88)、(V10,V93)、(V12,V97)、(V16,V86)、(V60,V129)、(V64,V133)、(V76,V145)、(V80,V149)、(V95,V97)、(V98,V165)、(V105,V168)、(V106,V173)が、特有組として想定できる。後述の補償部64は、これらの組から少なくとも6組の各仮想アンテナVにて取得できる受信信号に基づいて、補償処理を実行する。
【0120】
尚、補償処理に想定される仮想アンテナVの組は、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しないのであれば、上述の組以外が想定されてもよい。例えば、(VV3,V86)及び(V4,V87)は、(V2,V85)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複するが、その他の組とは重複しない。したがって、13組のうちの1組として(V3,V86)又は(V4,V87)を想定することは、(V2,V85)を想定することと等価である。
【0121】
ここで、Ns=4,Nr=4であるため、制御ユニット6は、S80及びS90の処理において、所属組の中から少なくとも7組でのビート信号から、送信回路3間の位相誤差及び振幅誤差、受信回路4間の位相誤差及び振幅誤差、及び配線長差分に応じた位相誤差及び振幅誤差を、さらに算出する。
【0122】
尚、以上のように比較的アンテナTX,RXの本数が多い場合、アンテナTX,RXの配置は、遺伝的アルゴリズムによって決定することができる。例えば、遺伝的アルゴリズムにより生成された現世代を評価する特性としては、オーバーラップ効率、ランク、配線効率、FOV、分離角度が挙げられる。オーバーラップ効率は、フルランク数を仮想位置の重複によるチャネル減少数で除したパラメータであり、大きいことが望ましい。ランクは予め決められたパラメータである。配線効率は、同一回路に入力されるアンテナ座標の分散に応じたパラメータであり、小さいことが望ましい。FOVは、アンテナ同士の間隔に応じたパラメータであり、小さいことが望ましい。分離角度は、開口長に応じたパラメータであり、大きいことが望ましい。
(第五実施形態)
【0123】
第五実施形態は、第一実施形態の変形例である。第五実施形態に示すように、全ての送信アンテナTX及び受信アンテナRXの配線Wt,Wrは、等長であってもよい。
【0124】
等長配線の場合の相対位相誤差の取得に関して、以下に詳記する。以下の説明において、仮想アンテナVnに対応するビート信号のピークにおける位相をθVn(nは自然数)と表記することとする。以下における説明では、簡単のため、他の組と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複しない組としては、図32に示すように、(V9,V13)及び(V11,V15)の2組のみを利用するものとする。さらに、(V9,V13)と送信回路3及び受信回路4の組み合わせが重複する組み合わせとして、(V10,V14)の1組を付加的に利用するものとする。
【0125】
この場合、(V9,V13)に関するピークの位相差分θV9-θV13は数式(15)、(V10,V14)に関するピークの位相差分θV10-θV14は数式(16)、(V11,V15)に関するピークの位相差分θV11-θV15は数式(17)に示す関係にて定義できる。
【数15】
【数16】
【数17】
【0126】
尚、以上の数式において、Θ,Θ,Θは、それぞれターゲット起因の位相誤差である。そして、etx1は、第一送信回路3_1にて生じる信号の位相誤差、etx2は、第二送信回路3_2にて生じる信号の位相誤差である。erx1は、第一受信回路4_1にて生じる信号の位相誤差、erx2は、第二受信回路4_2にて生じる信号の位相誤差である。
【0127】
ここで、位相補償においては、送信回路3間の相対位相誤差、及び受信回路4間の相対位相誤差を考慮すればよい。したがって、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差を考慮することとすると、etx1,erx1=0とすることができる。したがって、数式(15)~(17)は、以下の数式(18)~(20)に変形可能である。
【数18】
【数19】
【数20】
【0128】
ここで、数式(18)~(20)を行列形式に変換すると、各組の位相差分と、相対位相誤差とは、以下の数式(21)に表される関係を満たす。
【数21】
【0129】
ここで、数式(21)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の位相差分ベクトルY1である。数式(21)の右辺の第一項は、係数行列A1であり、第二項は位相誤差ベクトルX1である。数式(21)のうち位相差分ベクトルY1は、各ビート信号におけるピークの位相から算出可能である。係数行列A1は、仮想アンテナVの各組の送信回路3及び受信回路4の組み合わせによって規定される定数行列である。したがって、数式(21)は、etx2,erx2を未知数とした連立方程式として解くことが可能である。すなわち、補償部は、数式(21)の解としてのetx2,erx2を、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対位相誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対位相誤差として、取得する。
【0130】
振幅の補償処理では、補償部64は、位相補償処理と同様に、特有組ごとに、ビート信号のピークの振幅差分による線型方程式を、送信回路3間及び受信回路4間の振幅誤差を未知数として定義する。補償部64は、この線型方程式の解を、相対振幅誤差として取得する。ビート信号におけるピークの振幅差分は、仮想アンテナV同士の受信信号の比較結果の一例である。
【0131】
以下における説明では、上述の位相補償処理と同様の仮想アンテナVの組を、振幅補償処理においても利用するものとする。以下の説明において、仮想アンテナVnに対応するビート信号のピークにおける振幅をAVn(nは自然数)と表記することとする。この場合、(V9,V13)に関するピークの振幅差分AV9-AV13は数式(22)、(V10,V14)に関するピークの振幅差分AV10-AV14は数式(23)、(V11,V15)に関するピークの振幅差分AV11-AV15は数式(24)に示す関係にて定義できる。
【数22】
【数23】
【数24】
【0132】
尚、以上の数式において、G,G,Gは、それぞれターゲット起因の振幅誤差である。そして、Gtx1は、第一送信回路3_1にて生じる信号の振幅誤差、Gtx2は、第二送信回路3_2にて生じる信号の振幅誤差である。Grx1は、第一受信回路4_1にて生じる信号の振幅誤差、Grx2は、第二受信回路4_2にて生じる信号の振幅誤差である。
【0133】
ここで、位相補償と同様に、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対振幅誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対振幅誤差を考慮することとすると、Gtx1,Grx1=0とすることができる。したがって、数式(22)~(24)は、以下の数式(25)~(27)に変形可能である。
【数25】
【数26】
【数27】
【0134】
ここで、数式(25)~(27)を行列形式に変換すると、各組の振幅差分と、相対振幅誤差とは、以下の数式(28)に表される関係を満たす。
【数28】
【0135】
ここで、数式(28)の左辺の項は、重複する仮想アンテナV同士の振幅差分ベクトルY2である。数式(28)の右辺の第一項は、係数行列A2であり、第二項は振幅誤差ベクトルX2である。振幅差分ベクトルY2は、各ビート信号におけるピークの振幅から算出可能である。係数行列A1は、仮想アンテナVの各組の送信回路3及び受信回路4の組み合わせによって規定される定数行列である。すなわち、補償部64は、数式(28)の解としてのGtx2,Grx2を、第一送信回路3_1に対する第二送信回路3_2の相対振幅誤差、第一受信回路4_1に対する第二受信回路4_2の相対振幅誤差として、取得する。
【0136】
(他の実施形態)
以上、複数の実施形態について説明したが、本開示は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0137】
変形例において、診断部66は、付着物カウンタが閾値以上であると判定した場合、すなわち付着物が付着していると診断した場合に、S240の通知処理に代えて又は加えて、付着物に対する対応処理を実行してもよい。具体的には、診断部66は、レーダ装置1に設けられた図示しないヒータを作動させる処理を実行してもよい。付着物が霜であった場合には、ヒータの作動によりその霜が除去され得る。又、診断部66は、付着物の影響を受けているアンテナTX,RXを特定して当該アンテナTX,RXに関連する仮想アンテナVにおける受信信号をターゲット情報の取得に利用することを禁止する、禁止処理を実行してもよい。診断部66は、まずヒータを作動させ、その後に付着物が除去されなかった場合において禁止処理を実行してもよい。
【0138】
変形例において、診断部66は、異なる送信回路3間及び受信回路4間の少なくとも一方における相対振幅誤差について、温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れるピークの数に応じて、ピークが虚像によるものか故障によるものかを診断してもよい。
【0139】
変形例において、温度検出部65は、S160にて位相情報に応じた温度情報を取得してもよい。詳記すると、S160の温度検出部65は、S80にて算出されたパラメータKに基づいて、温度情報を検出する。上述のようにパラメータKは、温度に応じて変化するパラメータである。すなわち、温度検出部65は、図9に示すような、パラメータKの値と温度との対応関係から、温度情報を取得することが可能である。この対応関係は、例えばメモリ6a等の記憶媒体に予め記憶されている。対応関係は、例えば関数式又はテーブル等の形式で、記憶されている。又、温度検出部は、相対振幅誤差に応じた温度情報を取得してもよい。相対振幅誤差の算出におけるパラメータαも、パラメータKと同様、温度に対応する値であるため、温度検出部65は、パラメータαと温度との相関関係から温度情報を取得できる。
【0140】
尚、位相情報に応じた温度情報は、配線に関連する温度であることから、配線の実温度に比較的近い温度となる。すなわち、センサ温度情報と位相温度情報は、温度検出箇所の違いにより、基本的に非一致となる。本実施形態において、位相温度情報は、基本的にセンサ温度情報よりも低い温度となる。例えばレーダ装置1の外部温度が室温相当であり、正常な温度センサ5によるセンサ温度情報が60℃程度であった場合、位相温度情報はそれよりも低い温度、例えば40℃程度になり得る。
【0141】
第四実施形態の変形例において、送信アンテナTX及び受信アンテナRXの両方が、不等間隔にて配置されていてもよい。
【0142】
変形例において、制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両に搭載された複数種類のセンサを統括的に制御する、センサ統括ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を統合する、統合ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御における運転タスクを判断する、判断ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を監視する、監視ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の運転制御を評価する、評価ECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の走行経路をナビゲートする、ナビゲーションECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の自己状態量を推定する、ロケータECUであってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、車両の走行アクチュエータを制御する、アクチュエータECUであってもよい。制御ユニットを構成する専用コンピュータは、車両における情報提示を制御する、HCU(HMI(Human Machine Interface) Control Unit)であってもよい。制御ユニット6を構成する専用コンピュータは、例えば車両との間で通信可能な外部センタ又はモバイル端末等を構築する、車両以外のコンピュータであってもよい。
【0143】
変形例においてレーダ装置1の適用される移動体は、例えば自律走行又はリモート走行により荷物搬送若しくは情報収集等の可能な自律装置(autonomous robot)であってもよい。自律装置(autonomous robot)としては、自律走行車(autonomous vehicle)などを含む。ここまでの説明形態の他に上述の実施形態及び変形例は、移動体に搭載可能に構成されてプロセッサ6b及びメモリ6aを少なくとも一つずつ有する制御装置として、処理回路(例えば処理ECU等)又は半導体装置(例えば半導体チップ等)の形態で実施されてもよい。
【0144】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0145】
(技術的思想1)
複数の送信アンテナ(TX)及び複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
少なくとも一方が不等間隔に配置され、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない前記仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ前記特有組及び前記異配線長組の少なくとも一方に属する前記仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-1組の前記所属組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【0146】
(技術的思想2)
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記仮想位置が重複し且つ配線長が一致しない前記仮想アンテナの組である異配線長組が少なくとも1組含まれ、
且つ前記特有組及び前記異配線長組の少なくとも一方に属する前記仮想アンテナの組である所属組の総数が、少なくともNs+Nr-1組となるように配置され、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-1組の前記所属組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【0147】
(技術的思想3)
複数の送信アンテナ(TX)及び複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
少なくとも一方が不等間隔に配置され、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-2組の前記特有組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【0148】
(技術的思想4)
等間隔に配置された複数の送信アンテナ(TX)及び等間隔に配置された複数の受信アンテナ(RX)と、
前記送信アンテナと接続され、送信信号を出力するNs個の送信回路(3)と、
前記受信アンテナと接続され、受信信号を取得するNr個の受信回路(4)と、
前記受信信号を処理する制御ユニット(6)と、
前記送信アンテナ、前記受信アンテナ、前記送信回路、前記受信回路及び前記制御ユニットを収容する収容ユニット(7)と、
を備え、
前記Ns及び前記Nrはそれぞれ2以上の整数であって、
複数の前記送信アンテナ及び複数の前記受信アンテナは、
前記受信アンテナ間における前記受信信号の位相差に応じて複数の前記受信アンテナについて前記送信アンテナごとに想定される仮想アンテナ(V)の群の間で仮想位置が重複し且つ前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが一致しない前記仮想アンテナの組の集合の中で、前記送信回路及び前記受信回路の組み合わせが他の組と重複しない前記仮想アンテナの組である特有組が、少なくともNs+Nr-2組含まれ、
前記制御ユニットは、
少なくともNs+Nr-2組の前記特有組における前記仮想アンテナ同士の前記受信信号における同一の反射物に関する反射物情報の比較結果に基づき、異なる前記送信回路間及び前記受信回路間の少なくとも一方における、位相及び振幅の少なくとも一方についての誤差を、複数の前記反射物について取得する誤差取得部(64)と、
前記収容ユニットの内部温度に関連する温度情報を取得する温度取得部(65)と、
前記温度情報に応じて許容される許容誤差範囲を外れる前記誤差が取得された前記反射物である範囲外反射物の数が、許容上限数に収まる場合に、前記範囲外反射物が虚像であると診断し、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れる場合に、前記送信回路及び前記受信回路の少なくとも一方が故障していると診断する診断部(66)と、
を有するレーダ装置。
【0149】
(技術的思想5)
前記診断部は、少なくとも前記送信回路間の位相についての前記誤差について、前記診断を実行する技術的思想1から技術的思想4のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【0150】
(技術的思想6)
前記収容ユニットは、前記送信アンテナ及び前記受信アンテナを外部に対して覆うレドーム(7a)を有し、
前記診断部は、前記仮想アンテナの組同士の位相差について、前記比較結果以外の情報に基づく前記位相差も許容差分範囲外である前記仮想アンテナの組数が上限組数に収まる場合に、前記範囲外反射物の数が前記許容上限数を外れた要因が前記故障であるとの診断を中止し、前記要因が前記レドームへの付着物によるものであると診断する技術的思想1から技術的思想5のいずれか1項に記載のレーダ装置。
【0151】
(技術的思想7)
前記診断部は、前記付着物の付着及び前記故障に関する通知を出力する技術的思想6に記載のレーダ装置。
【符号の説明】
【0152】
1:レーダ装置、3:送信回路、4:受信回路、6:制御ユニット、6a:メモリ、6b:プロセッサ、7:収容ユニット、7a:レドーム、64:補償部(誤差取得部)、65:温度検出部(温度取得部)、66:診断部、TX:送信アンテナ、RX:受信アンテナ、V:仮想アンテナ
図1
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