(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172146
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】被処理水の生物学的浄化方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C02F 3/34 20230101AFI20241205BHJP
C02F 3/04 20230101ALI20241205BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20241205BHJP
【FI】
C02F3/34 Z
C02F3/04
C02F3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089685
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】504117958
【氏名又は名称】独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱井 昂弥
(72)【発明者】
【氏名】正木 悠聖
【テーマコード(参考)】
4D003
4D040
【Fターム(参考)】
4D003AA02
4D003BA06
4D003BA07
4D003DA03
4D003EA01
4D003EA21
4D003EA22
4D003FA06
4D040DD05
4D040DD11
4D040DD31
(57)【要約】
【課題】被処理水から鉄イオンを除去する際に発生する流路の詰まりを抑制する生物学的浄化方法を提供する。
【解決手段】鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化方法であって、鉄酸化細菌を含む反応槽中に前記被処理水を通水すること、および、前記鉄酸化細菌の作用により、前記被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化し、鉄イオン(III)を含んでなる析出物を形成することによって、前記被処理水に含有される鉄イオンを除去することを含み、ここで、前記反応槽中の穀物殻または木材を含む固形粒状物、および中和剤の粒状物を含む充填物層を、前記被処理水が通過するように前記通水を行うことを含む、生物学的浄化方法が開示される。前記充填物層に含まれる前記穀物殻または木材を含む固形粒状物に対する前記中和剤の粒状物の質量比は1以上40以下であってよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化方法であって、
鉄酸化細菌を含む反応槽中に前記被処理水を通水すること、および、
前記鉄酸化細菌の作用により、前記被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化し、鉄イオン(III)を含んでなる析出物を形成することによって、前記被処理水に含有される鉄イオンを除去すること
を含み、
ここで、前記反応槽中の穀物殻または木材を含む固形粒状物、および中和剤の粒状物を含む充填物層を、前記被処理水が通過するように前記通水を行うことを含む、
生物学的浄化方法。
【請求項2】
前記充填物層に含まれる前記穀物殻または木材を含む固形粒状物に対する前記中和剤の粒状物の質量比が、1以上40以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中和剤の粒状物が、少なくとも1種のアルカリ土類金属含有化合物を含む材料から形成されている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記穀物殻または木材を含む固形粒状物がもみ殻を含み、および/または、前記中和剤の粒状物が石灰石もしくはコンクリート廃材を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
鉄イオンを含有する被処理水の生物学的システムであって、
前記被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する作用を有する鉄酸化細菌を含む反応槽、
前記被処理水を前記反応槽内へ供給するための供給系、および
前記鉄酸化細菌の作用で鉄イオン(III)を含んでなる析出物を形成することによって鉄イオンが除去された処理後水を、前記反応槽から排出する排出系
を含み、
ここで、前記反応槽は、穀物殻または木材を含む固形粒状物および中和剤の粒状物を含む充填物層を備え、前記被処理水が前記充填物層を通過するように構成されている、
生物学的システム。
【請求項6】
前記穀物殻または木材を含む固形粒状物がもみ殻を含み、および/または、前記中和剤の粒状物が石灰石もしくはコンクリート廃材を含む、請求項5に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化方法および生物学的浄化システムに関する。特に、本発明は、坑廃水等の被処理水に含有される鉄イオンを鉄酸化細菌の作用で除去する生物学的浄化方法および生物学的浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などの各種排水には、一般的に、Fe、Zn、Cu、Pb、Cd、As等の種々の重金属イオンが含まれており、これらの重金属イオンの中には人体や環境に有害な影響を及ぼすものが多数存在する。このため、これらの重金属イオンを含有する水を排出する際には、各国ごとに定められた排水基準を満足させるための処理が必要となる。
【0003】
被処理水から鉄イオンを除去する方法として、例えば、鉄酸化細菌の作用を用いるものが知られている。特許文献1には、鉄酸化細菌の作用により、坑廃水中の鉄(II)イオン(2価鉄イオン)を鉄(III)イオン(3価鉄イオン)に酸化すると同時に、酸化鉄化合物として析出させる鉄酸化・脱鉄工程を有する坑廃水の浄化方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉄イオンを除去する際にpHが低下すると除去しにくくなることから、処理容器内で石灰石などの中和剤を用いてpHを上昇させる場合がある。しかしながら、石灰石などの中和剤を用いると水酸化アルミニウムなどが付着し処理容器内の流路に詰まりが生じて、被処理水の流れが阻害され、処理速度・効率が低下してしまうという問題があった。また、被処理水の流路の詰まりを防止し、処理速度を維持するために石灰石などの中和剤を定期的に撹拌するなどのメンテナンスが必要になるが、処理現場における作業負荷が大きくなってしまうという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、被処理水から鉄イオンを除去する際に発生する処理容器内の流路の詰まりを抑制する生物学的浄化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
鋭意研究した結果、本発明者は、鉄酸化細菌を含む反応槽中に鉄イオンを含有する坑廃水等の被処理水を通水し、前記鉄酸化細菌の作用により鉄イオンを酸化し析出物を形成することで鉄イオンを除去するに際し、石灰石などの中和剤の粒状物に穀物殻または木材を含む固形粒状物を混合させることによって、流路の詰まりを抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、以下のとおりである。
鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化方法であって、
鉄酸化細菌を含む反応槽中に前記被処理水を通水すること、および、
前記鉄酸化細菌の作用により、前記被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化し、鉄イオン(III)を含んでなる析出物を形成することによって、前記被処理水に含有される鉄イオンを除去すること
を含み、
ここで、前記反応槽中の穀物殻または木材を含む固形粒状物、および中和剤の粒状物を含む充填物層を、前記被処理水が通過するように前記通水を行うことを含む、
生物学的浄化方法。
【0009】
また、上記目的を達成するための本発明の他の一態様は、以下のとおりである。
鉄イオンを含有する被処理水の生物学的システムであって、
前記被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化する作用を有する鉄酸化細菌を含む反応槽、
前記被処理水を前記反応槽内へ供給するための供給系、および
前記鉄酸化細菌の作用で鉄イオン(III)を含んでなる析出物を形成することによって鉄イオンが除去された処理後水を、前記反応槽から排出する排出系
を含み、
ここで、前記反応槽は、穀物殻または木材を含む固形粒状物、および中和剤の粒状物を含む充填物層を備え、前記被処理水が前記充填物層を通過するように構成されている、
生物学的システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明に従う被処理水の生物学的浄化方法およびシステムによれば、鉄酸化細菌を含む反応槽中に、鉄イオンを含有する被処理水を通水し、鉄酸化細菌の作用により、被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化して被処理水に含有される鉄イオンを除去するにあたり、反応槽中の穀物殻または木材を含む固形粒状物および中和剤の粒状物を含む充填物層を被処理水が通過するように通水を行うよう構成することによって、混合された穀物殻または木材を含む固形粒状物や中和剤の粒状物の表面に水酸化アルミニウムなどが付着することを防止し、充填物層における流路の詰まりを抑制することが可能になる。
さらに、中和剤などによって被処理水のpHが適正な範囲に安定して調整されると、穀物殻または木材を含む固形粒状物の表面が鉄酸化細菌の足場となって被処理水中の鉄イオンがシュベルトマナイトとして析出されやすくなるという好ましい効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る生物学的浄化処理装置の概略図である。
【
図2】
図2(a)は、後述の実施例及び比較例にて、反応槽中の充填層に充填されたもみ殻と石灰石の質量比を所定の比率に設定した際の、処理開始からの経過日数(横軸)に対する処理後水中の溶解性鉄濃度(縦軸)の推移を表すグラフである。
図2(b)は、
図2(a)の縦軸の下方部を縦方向に拡張して、充填層のもみ殻と石灰石の質量比による相違をより明瞭化したグラフである。
【
図3】
図3は、後述の実施例及び比較例にて、反応槽中の充填層に充填されたもみ殻と石灰石の質量比を所定の比率に設定した際の、処理開始からの経過日数(横軸)に対する、反応槽における充填物層中の被処理水(中間処理水)のpH(縦軸)の推移を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜、
図1を参照しながら、本発明を実施するための一実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態の記載によって限定されるものではない。なお、本発明に係る鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化システムは、本発明に係る被処理水の生物学的浄化方法を実現するための構成要素を含むシステムであり、両者は実質的に共通する技術的事項を備えるため、以降では、主に生物学的浄化方法の観点から説明を行う。
【0013】
本実施形態に係る鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化方法は、鉄酸化細菌を含む反応槽中に被処理水を通水すること、および、鉄酸化細菌の作用により被処理水中の鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化し、鉄イオン(III)を含んでなる析出物を形成することによって被処理水に含有される鉄イオンを除去することを含む。ここで、本実施形態に係る鉄イオンを含有する被処理水の生物学的浄化方法は、反応槽中の穀物殻または木材を含む固形粒状物および中和剤の粒状物を含む充填物層を、被処理水が通過するように通水を行うことを特徴とする。
【0014】
本明細書において「被処理水」と言及するとき、これは、生物学的浄化剤による浄化処理、すなわち鉄イオンを含む重金属イオンの除去処理を施す前の水(処理原水)、または反応槽中で生物学的処理に供されている最中の水を意味する。「被処理水」は、鉄イオンを含む重金属イオンを含有するものである限りは、特に限定されない。ここで言及される「鉄イオン」には、鉄(II)イオン(2価鉄イオン/第1鉄イオンとも称する)および鉄(III)イオン(3価鉄イオン/第2鉄イオンとも称する)が包含されるが、鉄酸化細菌による酸化作用に供されるのは鉄(II)イオンである。
被処理水の例として、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の排水や、工業用排水などを挙げることができる。被処理水は、通常、硫酸イオンも含有し得る。例えば、我が国(日本国)の金属鉱山の坑廃水は、一般的に、鉄(Fe)イオンの他に、Zn、Cu、Pb、Cd、As等の重金属イオンを含有し、さらに硫酸イオン(SO4
2-)も50~3000mg/L程度含有している。被処理水のpHは、特に限定されないが、通常、約2.5~8.0、約2.5~7.5、約3.0~7.0、約3.0~6.5、約3.3~6.0、約3.3~5.5、または約3.5~5.0のpHであってよい。被処理水のpHのこれらの上限および下限は、任意に組み合わせられてよい。
【0015】
また、本明細書における「処理後水」は、本発明に従う生物学的浄化方法による鉄イオンの除去処理(以下、単に「除鉄処理」と称することがある)が行われた後の水を意味する。
なお、本生物学的浄化方法は、被処理水からの除鉄処理のみを目的とするものであり、鉄イオン以外の重金属イオンを除去することは直接の目的としていない。除鉄処理に続いて、鉄イオン以外の重金属イオンを含有する処理後水を被処理水とした二次的な生物学的浄化方法、例えば、嫌気状態が維持された処理容器に収容された硫酸還元菌を担持する穀物殻を含有する生物学的浄化剤によって、硫酸還元菌の作用により鉄イオン以外の重金属イオンを沈殿させ除去することもできる。
【0016】
本実施形態による被処理水の生物学的浄化方法は、鉄酸化細菌の作用によって坑廃水等の被処理水から鉄(II)イオン(2価鉄イオン)を除去する。鉄酸化細菌は、別途培養した当該菌を系外から反応槽中に添加してもよいが、反応槽に供給される坑廃水等の被処理水中にも通常含まれている。そのため、系外から鉄酸化細菌を添加することは必要とされない場合が多い。また、鉄酸化細菌は、鉄イオンの酸化によって得られるエネルギーを利用して炭酸固定して増殖する化学合成独立栄養細菌であるから、栄養源を別途供給する必要がない。
鉄酸化細菌の種類は、特に限定されないが、例えばAcidithiobachillus属、Leptothrix属、Galloonella属、Ferrovum属、Thiobacillus属等が挙げられる。
【0017】
坑廃水等の被処理水中の鉄(II)イオンの濃度は、特に限定されないが、例えば、下限が10mg/L以上、15mg/L以上、20mg/L以上、または25mg/L以上であってよく、上限が1000mg/L以下、700mg/L以下、500mg/L以下、300mg/L以下、200mg/L以下、100mg/L以下、70mg/L以下、または50mg/L以下であってよい。被処理水中の鉄(II)イオンの濃度のこれらの上限および下限は、任意に組み合わせられてよい。
【0018】
鉄酸化細菌は、以下の反応を促進させる作用を有する。
Fe2++H++1/4O2 → Fe3++1/2H2O
すなわち、鉄酸化細菌の作用により、坑廃水等の被処理水中の鉄(II)イオンは鉄(III)イオンに酸化され、反応槽外に除去可能な形態の鉄イオン(III)を含む析出物が形成される。
【0019】
本実施形態による被処理水の生物学的浄化方法では、坑廃水等の被処理水の通水は、反応槽内に被処理水を連続的に導入すると共に、所定時間滞留した被処理水を容器から自然下降流として連続的に排出する連続通水工程とすることができる。これによって、被処理水からの鉄(II)イオン(2価鉄イオン)の除去を連続的に行うことができる。このような連続通水工程を採用する場合でも、操作上の都合により、例えば定期的又は不定期の装置の点検、整備、修理などを目的として、一時的に連続通水を中断しバッチ処理を行なうことも許容されうる。
【0020】
坑廃水等の被処理水の連続通水の場合における通水速度(反応槽への被処理水の供給・排出流量)は、鉄(II)イオン(2価鉄イオン)の除去を十分に行うことができる程度の所定時間に渡って、被処理水が反応槽内に所定時間滞留すればよく、特に限定されない。坑廃水等の被処理水の連続通水の場合におけるその流量は、反応スケールや被処理水の種類等によるため特に限定されないが、例えば、下限が50mL/分以上、80mL/分以上、100mL/分以上、300mL/分以上、または500mL/分以上であってよく、上限が100000mL/分以下、50000mL/分以下、10000mL/分以下、5000mL/分以下、3000mL/分以下、2000mL/分以下、1500mL/分以下、1000mL/分以下、または800mL/分以下であってよい。被処理水の連続通水流量のこれらの上限および下限は、任意に組み合わせられてよい。
【0021】
本実施形態による被処理水の生物学的浄化方法において、反応槽内での被処理水の温度は、0℃以上40℃未満の範囲内であってよく、3℃以上37度以下であることが好ましい。このような温度範囲において、鉄酸化細菌の活性が良好に保持され得る。
【0022】
本実施形態の被処理水の生物学的浄化方法において使用される反応槽(処理容器)は、当該処理の実施が可能であり、被処理水が重力に従って処理容器内を自然下降する間に鉄酸化細菌による鉄(II)イオンの酸化反応を進行させることが可能である限り、形状、材質、容量など特に限定されない。反応槽は、通常、本体と、頂部の蓋体と、底部とから構成されていてよい。反応槽の頂部の蓋体は、開封・封止が可能なように構成されていてよい。反応槽の底部は、封止栓を含んでいてよい。本体と頂部の蓋体と底部とから構成されている場合の反応槽の材質は、特に限定されないが、例えば、過半部において樹脂製であってよく、一部の部材に金属、セラミックス、岩石、粘土等を含んでいてよい。反応槽本体と頂部の蓋体と底部とから構成されている場合の反応槽の本体の形状は、特に限定されないが、縦長または扁平な、略直方体、略立方体、略球状、略円柱状(略円筒状)、またはこれらの組み合わせ等であってよい。また、反応槽は、人工池、人口湿地、大型タンク等とすることもできる。実験室外にて実使用される場合の反応槽の容積は、限定されないが、例えば1m3~1×105m3、10m3~5×104m3または20m3~1×104m3程度であってよい。
【0023】
反応槽には、被処理水の導入口と、処理後水の排出口とが設けられる。反応槽が本体と頂部の蓋体と底部とから構成されている場合、被処理水の導入口は、蓋体または蓋体の近傍に配置されてよく、反応槽からの排出口は、底部または底部の近傍に配置されてよい。
被処理水が地下水である場合には、反応槽を地下に埋設された透過性の反応壁とし、被処理水の供給系および処理後水の排出系の流路および供給・排出エネルギーのために地下水流を利用することもできる。
【0024】
本実施形態の被処理水の生物学的浄化方法において、反応槽は、穀物殻または木材を含む固形粒状物、および中和剤の粒状物を含む充填物層を備えることで、通水により被処理水がこの充填物層を通過するように構成されている。充填物層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1m以上10m以下、0.1m以上5m以下、0.1m以上2m以下、0.1m以上1m以下、0.1m以上0.8m以下、0.1m以上0.5m以下、0.2m以上10m以下、0.2m以上5m以下、0.2m以上2m以下、0.2m以上1m以下、0.2m以上0.8m以下、または0.2m以上0.5m以下であってよい。また、上述の被処理水の連続通水の場合における充填物層内での通水の液空間速度は、特に限定されないが、0.1H-1以上100H-1以下、0.1H-1以上20H-1以下、0.1H-1以上10H-1以下、0.1H-1以上5H-1以下、0.1H-1以上3H-1以下、0.3H-1以上100H-1以下、0.3H-1以上20H-1以下、0.3H-1以上10H-1以下、0.3H-1以上5H-1以下、0.3H-1以上3H-1以下、0.5H-1以上100H-1以下、0.5H-1以上20H-1以下、0.5H-1以上10H-1以下、0.5H-1以上5H-1以下、または0.5H-1以上3H-1以下であってよい。
【0025】
被処理水の通水の際、反応槽内の充填物層が外気に露出することを防止するため、及び被処理水の自然下降に伴う充填物層における適切な液性での鉄(II)イオンの酸化反応を促進するため、充填物層の上方に所定の厚みを有する被処理水の水封層を設けることが好ましい。水封層の厚みは、特に限定されないが、例えば0.02m以上2.0m以下、0.02m以上1.0m以下、0.03m以上0.5m以下、または0.04m以上0.2m以下であってよい。
また、反応槽内には、その下部にて充填物層を支持すると共に、反応槽内の固形分の流出防止および排水系の詰まり防止のための手段として、砕石層を設けることが好ましい。
【0026】
本実施形態の被処理水の生物学的浄化方法において、反応槽の充填物層は、穀物殻または木材を含む固形粒状物および中和剤の粒状物を含む。反応槽の充填物層に含まれる穀物殻または木材を含む固形粒状物としては、穀物殻または木材を含む材料の1種または任意の2種以上の混合物が用いられ得る。
【0027】
穀物殻または木材を含む固形粒状物としては、入手の容易性及び低コストのため、ならびに、個々の粒子が不定形であることに因り被処理水が進行する際の十分な空隙が与えられるため、穀物殻が好ましい。使用され得る穀物殻としては、特に限定されないが、以下の穀物の殻が例示される:稲、小麦、大麦、ライ麦、エン麦、粟、ヒエ、キビ等のイネ科に属する禾穀類、大豆、小豆、緑豆、インゲン豆・落花生、エンドウ等の豆科の菽穀類、タデ科のソバ、アカザ科のキヌア、ヒユ科のセンニコクなど。また、木材としては木質系材料であれば特に限定されず、例えばウッドチップ(木材チップ)などを用いることもできる。
【0028】
穀物殻または木材を含む固形粒状物として使用され得る穀物殻のこれらの例の中でも、消費量が多く(すなわち入手が容易であり)、安価であることから、稲の穀物殻であるもみ殻が好ましい。もみ殻(籾殻)は、通常、扁平楕円体の形状を有し、長軸の平均長は約3mm~10mm、または約4mm~9mmであり得る。もみ殻がこのような長軸の平均長を有することによって、中和剤の粒状物との均一な混合が促進され、それにより過剰な中和反応が抑制されると共に、鉄化合物の析出が進行した際にも被処理水の流路が十分に確保される。ここでのもみ殻の長軸の平均長は、通常の丈尺を用いて、任意に選択された10個の粒状物の長軸の長さを測定し、その平均値を算出することによって求めることができる。
他方、固形粒状物であるウッドチップ(木材チップ)としては、例えば、スギ、マツなどの針葉樹のチップを用いることができる。廃棄物のウッドチップを再利用することも好ましい。ウッドチップのサイズは、特に限定されないが、その各粒子片の最長サイズの平均長(任意に選択された10個の平均長)は、もみ殻について上述したものと同様であってよい。
【0029】
反応槽の充填物層に含まれる中和剤の粒状物は、中和機能を与えるものである限りは特に限定されないが、例えば、少なくとも1種のアルカリ土類金属含有化合物を含む材料から形成されていてよい。アルカリ土類金属含有化合物としては、例えば、カルシウムおよびマグネシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩および珪酸塩、炭酸カルシウムを主成分とする石灰石、珪酸カルシウム系鉱物もしくは人工材料、ドロマイト、トバモライト、ゾノトライト、ロックウール、ガラスウール、ニッケルスラグウール、セメント、セメントクリンカー、コンクリート、モルタル、製鉄スラグ、非鉄スラグ、フライアッシュ、ゼオライトおよびこれらの廃材が挙げられる。これらの中和剤の粒状物は、1種または任意の2種以上の混合物として用いられ得る。
【0030】
中和剤の粒状物として使用され得るアルカリ土類金属含有化合物のこれらの例の中でも、入手容易性、取り扱い容易性、および十分な中和性能を与える観点から、石灰石および/またはコンクリート廃材が好ましく使用され得る。石灰石は、炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とした天然鉱物であり、少量の酸化マグネシウム(MgO)、シリカ(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉄(Fe2O3)などを含んでいてよい。コンクリート廃材は、通常、粗骨材、細骨材およびセメントを含んで形成されている。
本実施形態において使用される場合の石灰石やコンクリート廃材の平均サイズは、特に限定されないが、約5mm~60mm、約10mm~50mm、または約20mm~40mmであってよい。石灰石および/またはコンクリート廃材がこのような平均サイズを有することによって、穀物殻または木材を含む固形粒状物との均一な混合が促進され、それにより中和機能が適切に奏されると共に、鉄化合物の析出が進行した際にも被処理水の流路が十分に確保される。
【0031】
本実施形態の被処理水の生物学的浄化方法において、反応槽の充填物層に含まれる穀物殻または木材を含む固形粒状物に対する中和剤の粒状物の質量比は、通常1以上40以下であり、好ましくは1.5以上40以下、2以上40以下、3以上40以下、4以上40以下、5以上40以下、10以上40以下、1以上30以下、1.5以上30以下、2以上30以下、3以上30以下、4以上30以下、5以上30以下、10以上30以下、1以上25以下、1.5以上25以下、2以上25以下、3以上25以下、4以上25以下、5以上25以下、10以上25以下、1以上20以下、1.5以上20以下、2以上20以下、3以上20以下、4以上20以下、5以上20以下、10以上20以下、1以上15以下、1.5以上15以下、2以上15以下、3以上15以下、4以上15以下、5以上15以下、10以上15以下であってよい。反応槽の充填物層に含まれる穀物殻または木材を含む固形粒状物に対する中和剤の粒状物の質量比の特に好ましい下限は、3以上、4以上または5以上であってよい。反応槽の充填物層に含まれる穀物殻または木材を含む固形粒状物に対する中和剤の粒状物の質量比の特に好ましい上限は、30以下、25以下または20以下であってよい。
反応槽の充填物層に含まれる穀物殻または木材を含む固形粒状物に対する中和剤の粒状物の質量比が1以上40以下、好ましくは上記範囲のいずれか、例えば2以上30以下であることによって、通水にあたり、過剰な中和反応が抑制され、長期間に渡って(例えば50日以上、100日以上、150日以上、または200日以上の期間に渡って)反応槽中の被処理水の液性を望ましい範囲、特にはシュベルトマナイトの析出率が高い液性の範囲に安定して保持することが可能になると共に、被処理水が進行する際の十分な空隙が与えられ、鉄化合物の析出が進行した際にも被処理水の流路が十分に確保され得る。
【0032】
鉄酸化細菌の作用によって形成される鉄イオン(III)を含む析出物として、被処理水の液性によって、主に以下の2種類が生成されることが分かっている。被処理水の液性がより高いpH域、特にpHが約5~7では、生成が望ましくないフェリハイドライト(Ferrihydrite)の析出率が高くなる一方、被処理水の液性がより低いpH域、特にpHが約3~4では、生成が望まれるシュベルトマナイト(Schwertmannite)の析出率が高くなる。フェリハイドライトは、密度が低く含水量が高いため、被処理水中で沈降し難く、また脱水も困難であるうえに、嵩高いため被処理水の処理槽への供給を阻害する可能性もあるという不利な特性を有する。それに対して、シュベルトマナイトは、密度が高く含水量が低いため被処理水中で沈降し易く、また除去処理が比較的容易であるうえに、ヒ素、リン、セレン等のオキシ酸を収着することに加えて、金属交換またはイオン交換によりこれらの有害な金属又はイオンを除去することが可能であるという有利な特性を有し、潜在的・将来的な利用価値が高い。本実施形態による生物学的浄化方法においては、穀物殻または木材を含む固形粒状物の表面が鉄酸化細菌の足場となって被処理水中の鉄イオンがシュベルトマナイトとして析出されやすくなるから、反応槽中での被処理水の液性を約3~4のpHに安定して保持することによって、シュベルトマナイトを選択的に生成・析出させることが可能になる。
【0033】
本実施形態に係る被処理水の生物学的浄化方法/浄化システムを実施するための装置の非限定的な一例が
図1に示されている。
図1における各参照符号として、1は反応槽(処理容器)、2は反応槽の上側蓋部、3は反応槽の底部封止栓、4は反応槽内の水封層、5は反応槽内にて砕石層の上方に配置された充填物層、6は反応槽内にて充填物層の下方に配置されて、充填物層を支持する砕石層、7は被処理水の移送系と反応槽との間に高低差がある場合に配設される被処理水導入用ポンプ、8は被処理水を反応槽へ移送するための移送管、9は反応槽における処理後水を排出するための排出管、そして100は生物学的浄化処理装置の全体を指す。
【0034】
図1において、反応槽1は、略角柱(直方体もしくは立方体)状または略円筒状に形成された透明樹脂製の本体部と、本体上部(頂部)に取外しまたは開閉が可能なように任意選択で配設された上側蓋部2と、本体下部(底部)に取外しまたは開閉が可能なように配設された底部封止栓3とを備えている。反応槽1の周壁部の材質は、透明樹脂製以外に、容器の全体または一部において、半透明もしくは非透明の樹脂、金属、セラミックス、岩石、粘土等を含んでいてもよい。自然利用型パッシブトリートメントシステムにおいては、反応槽1は、人工池、人口湿地、大型タンク等で代替され得る。
【0035】
また、
図1において、反応槽1内には、底部にて排出口の上方を覆うように砕石層6が形成され、その上方に、砕石層に支持される形で充填物層5が配置されている。砕石層6は、容器内の固形分の流出を防止し、それによって排水系の詰まりを防止する機能を有する。砕石層6の砕石は、そのような機能を奏する限り特に限定されず、市販のいずれのものを用いてもよい。
【0036】
反応槽1内の充填物層5は、適当な質量比で混合された穀物殻または木材を含む固形粒状物5aおよび中和剤の粒状物5bから構成されている。穀物殻または木材を含む固形粒状物5aとしては、入手の容易性及び低コストのため、および、個々の粒子が不定形であることに因り被処理水が進行する際の十分な空隙が与えられるため、上述された種々の穀物殻が好ましい。その中でも、入手容易性およびコストの観点から稲の穀物殻であるもみ殻が好ましい。また、中和剤の粒状物5bとしては、上述された少なくとも1種のアルカリ土類金属含有化合物を含む材料から形成されていてよい。その中でも、入手容易性、取り扱い容易性、および十分な中和性能を与える観点から、石灰石および/またはコンクリート廃材が好ましい。
【0037】
反応槽1の充填物層5に含まれる穀物殻または木材を含む固形粒状物5aに対する中和剤の粒状物5bの質量比は、通常1以上40以下であり、好ましくは上記の所定範囲のいずれかに保持される。これによって、鉄イオンを含有する被処理水を通水する際に、適切な程度で中和反応が進行し、長期間に渡って反応槽1中の被処理水の液性を望ましい範囲、特にはシュベルトマナイトの析出率が高い液性の範囲に安定して保持することが可能になり、加えて、主に固形粒状物5a(好ましくはもみ殻等)の作用によって被処理水が進行する際の十分な空隙が与えられ、穀物殻または木材を含む固形粒状物5aや中和剤の粒状物5bの上で鉄化合物の析出が進行した際にも被処理水の流路が十分に確保され得る。
【0038】
反応槽1の充填物層5は、その全体において単一の質量比で混合された穀物殻または木材を含む固形粒状物5aおよび中和剤の粒状物5bから構成されていてよい。代替的に、反応槽1の充填物層5は、異なる質量比で混合された穀物殻または木材を含む固形粒状物5aおよび中和剤の粒状物5bの複数層(例えば2層または3層)から構成されていてもよい。例えば、反応槽1の充填物層5は、より上層側において穀物殻または木材を含む固形粒状物5aに対する中和剤の粒状物5bの質量比がより高く、より下層側において穀物殻または木材を含む固形粒状物5aに対する中和剤の粒状物5bの質量比がより低い複数層(例えば2層または3層)から構成されていてもよいし、その逆もあり得る。例えば、反応槽1の充填物層5が異なる質量比で混合された穀物殻または木材を含む固形粒状物5aおよび中和剤の粒状物5bの2層、3層または4層以上で構成されており、このとき前者に対する後者の比率が上層から下層に向かって順に低くなるように設定されていてよい。より上層側において穀物殻または木材を含む固形粒状物5aに対する中和剤の粒状物5bの質量比がより高く、より下層側において穀物殻または木材を含む固形粒状物5aに対する中和剤の粒状物5bの質量比がより低い複数層(例えば2層または3層)から充填物層5が構成されていることにより、過度な中和反応が抑制されると共に被処理水の通路がより広く確保され得るため、このような形態は好ましい。
【0039】
図1に概略図として示された生物学的浄化のための装置において、鉄イオンを含有する被処理水は、供給源から矢印Aの方向に沿い、被処理水導入用ポンプ7から付与された揚力を利用し、導入管8を通り、上側蓋部2を経由して、導入口から連続的に反応槽1内に導入される。被処理水は、反応槽1の水封層4中、次いで充填物層5中を重力に従って下降し、鉄酸化細菌による上記式の酸化反応を伴う生物学的処理が徐々に進行する。被処理水が充填物層5中で鉄酸化細菌による生物学的処理を受けて、砕石層6を経由し反応槽1の底部に達した後、処理後水が底部封止栓3の排出口を通って排出管9から排出される。
【0040】
反応槽1中の被処理水のpHは鉄化合物の析出が進むにつれて低下する傾向があるが、この装置では、穀物殻または木材を含む固形粒状物5aと適当な質量比で混合された中和剤の粒状物5bによる中和反応により、鉄化合物の析出がある程度進行した後でさえも、反応槽1中の被処理水をシュベルトマナイト析出率が高い液性範囲に長期間安定して保持することができ、ひいては望ましくないフェリハイドライトの析出を抑制することができる。これによって、相当の長期間に渡って運転を停止することなく生物学的処理を継続的に実施することができるため、本実施形態の生物学的浄化方法は、いわゆるパッシブトリートメントに好適に使用され得る。
【0041】
析出・生成されたシュベルトマナイトの過半は、高分子凝集剤等の凝集剤を使用する必要なしに自然に沈降または凝集し、反応槽1の底部から回収することができる。シュベルトマナイトの一部は、穀物殻または木材を含む固形粒状物5aや中和剤の粒状物5bの上で析出して、これに付着し得るが、整備・点検等のためのプロセス操作中断の際にこれらの粒状物を取り出し、別途、水中にて振とうするなどの物理的作用を加えて析出物を回収することができる。回収されたシュベルトマナイトは、脱水、乾燥されてよく、さらに所定形状に成形されてもよい。
【0042】
本実施形態の生物学的浄化方法によって除鉄処理された、鉄イオン以外の重金属イオンを含有する処理後水は、特に限定されないが、続いて、嫌気状態が維持された処理容器に収容された硫酸還元菌を担持する穀物殻を含有する生物学的浄化剤による二次的な生物学的浄化処理に供され得る。そこでは、硫酸還元菌の作用により鉄イオン以外の重金属イオンが沈殿によって除去され得る。
【実施例0043】
以降では、実施例により本発明を更に説明するが、本発明をこれらの実施例に限定する意図はない。以下の実施例は例示的なものとして理解されるべきである。
【0044】
反応槽を含む処理装置の用意
上方に被処理水の導入口を有する蓋体および底部に封止栓を有する処理後水の排出口が設けられた反応槽を用意した。反応槽として、周壁部が透明である塩化ビニル樹脂製のもの(株式会社宮田工業所から入手)を用いた。反応槽の形状は、縦0.25m、横0.25m、高さ0.4mの略直方体であった。封止栓を有する排出口に排出管(排出チューブ)を取り付けて連結することにより、当該排出チューブから処理後水を排出することができる。本実験に使用する被処理水として、約30~40mg/L(経時的に変動)の濃度のFeイオンを含有するpH約3.5~4.0(経時的に変動)の酸性坑廃水である処理原水を用いた。
【0045】
反応槽の底部には、0.03m厚の砕石層(株式会社日栄薬品工業から入手される粒径5~13mmの市販品)を敷設した。反応槽の砕石層の上には、これに支持される形で、固形粒状物としての穀物殻であるもみ殻と中和剤の粒状物である石灰石との混合物からなる充填物層を設けた。もみ殻は農家から調達したものを用い、石灰石は粒径20~40mmの市販品(株式会社日栄薬品工業製)を用いた。反応槽には、容器底部の排出口以外に、本体側部の複数の箇所にも採取分析用の取出口を設けた。
【0046】
実験例1
反応槽に固形粒状物としての穀物殻であるもみ殻と中和剤の粒状物である石灰石を含み、もみ殻と石灰石の質量比が1:4であって、厚み0.2mの充填物層を設けた。充填物層の空隙率は0.53であった(空隙が占める体積割合53体積%)。ポンプを利用して、この反応槽の導入口から上記被処理水を113mL/分の流量で連続的に通水させ、反応槽内を自然下降させた。反応槽中での被処理水の水理学的滞留時間(HRT)は1.0時間となるように調整された。被処理水は、反応槽の充填物層を下降する間に、石灰石による中和反応を受けつつ鉄酸化細菌の作用により酸化される。鉄酸化細菌の作用による除鉄処理を受けた処理後水は、砕石層を経由し反応槽の底部に達した後、排出口を通って排出管から排出された。
【0047】
被処理水の通水による処理の開始から100日経過後までの数日ごとに、処理後水中の鉄(II)イオンおよび鉄(III)イオンを含む溶解性鉄濃度(単位mg/L)を測定した。測定された処理後水中の溶解性鉄濃度(単位mg/L)の推移を
図2(a)および(b)に示す。
図2(b)は、
図2(a)の溶解性鉄濃度を示す縦軸の下方部を縦方向に拡張することで、より明瞭化したグラフである。
図2(a)および(b)には、比較のため、反応槽に通水される前の被処理水中の溶解性鉄濃度の推移も併せて示す。溶解性鉄濃度の測定は、フェナントロリン法(JIS K0102 57.1に従う)によって行った。
また、被処理水の通水による処理開始から100日経過後までの数日ごとに、反応槽における充填物層の上端から10cmの位置の取水口から採取した中間処理水のpHを測定した。測定された中間処理水のpHの推移を
図3に示す。pHの測定は、東亜ディーケーケー株式会社製のガラス電極を用いて室温にて行った。
【0048】
実験例2
もみ殻と石灰石との質量比が1:20の混合物からなる充填物層を設け、充填物層の厚みを0.25mとし、充填物層の空隙率を0.44(空隙が占める体積割合44体積%)とした以外は、実験例1と同様に被処理水の処理を行った。測定された処理後水中の溶解性鉄濃度(単位mg/L)の推移を
図2(a)および(b)に示す。また、測定された中間処理水のpHの推移を
図3に示す。
【0049】
詰まり抑制効果の確認
実験例1および実験例2の各々において、被処理水の通水による処理開始後、一日ごとに、目視にて反応槽内の透水性の低下を経過観察し、充填層の詰まりによって反応槽内の水位が設定した基準水位より10cm以上高くなった時点で反応槽に対する初回のメンテナンス(通水の一時的停止/反応槽の保守作業)を行った。実験例1の初回メンテナンスまでの経過日数は46日であったのに対し、実験例2の初回メンテナンスまでの経過日数は19日であった。このような比較結果は、もみ殻に対する石灰石の質量比がより小さい実験例1の方が、充填層に詰まりが生じるまでの日数が長かった、すなわち、石灰石に対してもみ殻の量が多い実験例1の方が詰まりが生じ難かったことを示すものであり、石灰石に対するもみ殻の混合によって充填物層における詰まりを効果的に抑制できることが確認された。
【0050】
図2(a)および(b)から把握されるように、もみ殻と石灰石との質量比を1:4以上とした実験例1、実験例2によれば、通水開始の直後、少なくとも数日後には、処理後水にて溶解性鉄(鉄イオン)の殆どが除去されていた。また、もみ殻と石灰石との質量比が1:4~1:20の範囲においては、石灰石の質量割合が高いほど概してより大幅な除鉄の効果が得られた。
【0051】
また、
図3から把握されるように、もみ殻と石灰石との質量比を1:4~1:20の範囲とした実験例1、実験例2において、殆ど全ての測定点でシュベルトマナイト形成のために最適とされる3~4の範囲のpHに保持されていた。
【0052】
シュベルトマナイト形成の分析
実験例1にて、通水開始から1週間後に反応槽の底部から採取した含水析出物(鉄化合物を含む析出物)を脱水、凍結乾燥させた後、X線蛍光分析(XRF)にて分析した。得られた鉄化合物の元素組成の分析結果と、シュベルトマナイトの元素組成の理論値とを併せて以下の表1に示す。
【0053】
【0054】
シュベルトマナイトは、IMAによれば、化学式Fe16O16(OH)9.6(SO4)3.2・10H2Oによって表される化合物として知られている。表1に示されたX線蛍光分析(XRF)の結果から、実験例1にて析出・乾燥により得られた析出物の組成は、シュベルトマナイトと同様にFe、O及びSの各元素を含んでおり、またシュベルトマナイトと近いFe/Sのmol比を有していたことが把握された。