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特開2024-172155肝細胞オルガノイド及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172155
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】肝細胞オルガノイド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241205BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C12N5/071
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】39
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089697
(22)【出願日】2023-05-31
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構「肝炎等克服実用化研究事業 肝炎等克服緊急対策研究事業」、「革新的オルガノイド技術を用いた肝線維化・発がん機構の解明と肝星細胞活性化制御をめざした治療法の創成」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】朝比奈 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 晴
(72)【発明者】
【氏名】三好 正人
(72)【発明者】
【氏名】志水 太郎
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065AB06
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB08
4B065BB13
4B065BB19
4B065BB23
4B065BB40
4B065BC41
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】本発明は、iPS細胞などの幹細胞に由来する、肝細胞の形質を保持しつつ、かつ長期培養が可能な肝細胞オルガノイド及びこれを含む肝細胞株を製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地において、幹細胞に由来する細胞を培養する工程を含む、肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株の製造方法を提供する。また、本発明は、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地において、幹細胞に由来する細胞を培養する工程を含む、肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株の製造方法。
【請求項2】
核内レセプターアゴニストが、FXRアゴニストである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
FXRアゴニストが、胆汁酸である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
胆汁酸が、タウロオベチコール酸である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
Wnt/βカテニン経路活性化剤が、Wnt3aである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地が、Wnt3aでないWnt/βカテニン経路活性化剤を含む、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
Wnt3aでないWnt/βカテニン経路活性化剤が、R-spondinである、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
R-spondinが、R-spondin1、R-spondin2、R-spondin3及びR-spondin4からなる群から選ばれる、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における、CHIR99021の濃度が、当該培地に対して、10μM以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地が、ALK阻害剤、ROCK阻害剤又は増殖因子を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
ALK阻害剤が、A83-01である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
ROCK阻害剤が、Y-27632である、請求項10に記載の製造方法。
【請求項13】
増殖因子が、EGF、HGF、FGF7、FGF10及びTGFαからなる群から選ばれる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項14】
幹細胞に由来する細胞が、二次元培養において幹細胞から分化誘導された細胞である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
幹細胞に由来する細胞が、胚体内胚葉系譜又は肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
胚体内胚葉系譜又は肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞が、胚体内胚葉系譜及び肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞である、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
幹細胞に由来する細胞が、肝細胞系譜である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
幹細胞に由来する細胞を培養する工程が、三次元培養をする工程である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
三次元培養が、幹細胞に由来する細胞をゲルに包埋する工程を含む、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
ゲルが、EHSゲルである、請求項19に記載の製造方法。
【請求項21】
幹細胞がiPS細胞である、請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
幹細胞がヒトの幹細胞である、請求項21に記載の製造方法。
【請求項23】
肝細胞株がオルガノイドを含み、肝細胞株に含まれるオルガノイドのうち、ブドウの房状のオルガノイドの数が10%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項24】
肝細胞オルガノイドの製造方法であって、請求項1に記載の製造方法により製造された肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株から、ブドウの房状のオルガノイドを特定する工程を含む、製造方法。
【請求項25】
特定されたブドウの房状のオルガノイドを単離する工程を含む、請求項24に記載の製造方法。
【請求項26】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイド。
【請求項27】
180日以上培養することができる、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項28】
がん細胞に由来しない、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項29】
肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、30%以下である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項30】
肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項31】
肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.003倍以上である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項32】
肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項33】
肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の30倍以下である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項34】
細胆管構造又は微少繊毛を有する、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項35】
電子顕微鏡観察において、細胆管構造又は微少繊毛が観察される、請求項34に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項36】
肝細胞株に含まれる、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項37】
肝細胞株がオルガノイドを含み、肝細胞株に含まれるオルガノイドのうち、ブドウの房状のオルガノイドの数が10%以上である、請求項36に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項38】
幹細胞がiPS細胞である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。
【請求項39】
幹細胞がヒトの幹細胞である、請求項26に記載の肝細胞オルガノイド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝細胞オルガノイド及びその製造方法並びに肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株及びその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、iPS細胞などの幹細胞に由来する、肝細胞の形質を保持しつつ、かつ長期培養が可能な、肝細胞オルガノイド及びそれを製造する方法、並びに肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト肝病態のin vitroにおける解明には、肝細胞の形質を保持しつつ、かつ長期培養が可能なヒト肝細胞株が必要であるが、これまでその条件を満たす細胞株は存在しなかった。肝疾患研究において、従来は肝癌細胞株が多く用いられてきたが、癌由来であり正常細胞とは異なる形質を有するという問題点があった。これを克服する候補としてヒトiPS細胞から誘導した肝細胞系譜細胞が挙げられるが、ヒトiPS細胞から従来法で誘導した二次元培養における肝細胞様細胞は、ヒト初代肝細胞と同様に増殖性に乏しく、長期培養ができず、長期培養を行うにはiPS細胞由来肝前駆細胞(iPS-derived hepatic progenitor cell:iPS-HSC)などのより分化段階の未熟な肝前駆細胞として培養をする必要があるところ、肝前駆細胞は胆管細胞の形質も有するなど生理的な成熟肝細胞として許容される形質を有していないという問題点があった。そのため疾患モデルとしての活用や長期的な病態の再現、及び薬物スクリーニングへの実用化は困難であった。また、より分化段階の未熟な肝細胞系譜細胞であるヒトiPS細胞由来肝前駆細胞は、継代培養は可能ではあるが、胆管細胞の形質も有するなど、生理的な成熟肝細胞として許容される形質を有していないという問題点があった。
【0003】
ヒトiPS細胞から肝細胞様細胞(iPS-derived hepatocyte-like cell: iPS-Hep)への分化誘導が可能となり、薬物スクリーニング、疾患モデルや肝移植の代替細胞資源としての応用が期待されているが、遺伝子発現や機能がヒト初代肝細胞(PHH)と比べて未成熟であることや、PHHと同様に増殖性に乏しく、長期培養ができないことなどが問題点であった。前者については、近年、FXR下流遺伝子の活性化(非特許文献1)や甲状腺ホルモン(非特許文献2)がiPS-Hepの成熟に重要であることが報告されている。既存の誘導法ではHepatocyte markerに加えて腸管上皮細胞マーカーなどの他細胞系譜遺伝子の発現上昇を伴うが、FXRの過剰発現とアゴニストによる下流遺伝子の活性化が他細胞系譜マーカーの発現を低下させ、肝細胞形質を向上させていた。また甲状腺ホルモンに関連するTHRBがiPS-HepにおいてCYP3A4などの薬物代謝活性を上昇させることが示された。平面培養によるiPS-Hepの短期的な誘導としてはFetal hepatocyteからMature hepatocyteへと近づきつつあるが、一方で肝細胞形質を保ったまま増殖維持培養できる培養系の報告は限られている。近年、三次元培養による培養体、すなわちオルガノイドを形成することによりこの問題を克服しようとする研究が試みられてきたが、既存のiPS細胞由来肝細胞様細胞オルガノイドでは、胆管細胞の形質が強く、肝細胞形質を維持したまま長期培養することが困難であることや(非特許文献3)、ヒト肝臓組織を用いたオルガノイドとしては、入手が容易ではない胎児肝細胞に由来するオルガノイドであるなど(非特許文献4)、実用化には至っていない。また、ヒトiPS細胞から肝臓オルガノイドを作製したとする報告もあるが(非特許文献5)、自己組織化に依存しており、肝星細胞やクッパー細胞など他の構成細胞も含まれる多細胞の培養体であるなどの問題点があり、ヒト肝細胞単一の細胞種から構築され、長期の維持が可能なオルガノイド培養法はこれまで確立されていなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nell et al. J Hepatol 2022 Nov;77(5):1386-1398.
【非特許文献2】Ma et al. Cell Stem Cell 2022 May 5;29(5):795-809.
【非特許文献3】Mun et al. J Hepatol 2019 Nov;71(5):970-985.
【非特許文献4】Hu et al. Cell 2018 Nov 29;175(6):1591-1606.
【非特許文献5】Ouchi et al. Cell Metab. 2019 Aug 6;30(2):374-384.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明は、iPS細胞などの幹細胞に由来する、肝細胞の形質を保持しつつ、かつ長期培養が可能な肝細胞オルガノイド及びこれを含む肝細胞株を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは、FXRなどのアゴニストとして作用し、脂肪吸収などのほか、肝再生にも寄与することが知られている胆汁酸などに着目した。前述の通りiPS-Hepの平面培養では胆汁酸-FXRシグナルが肝細胞としての成熟に寄与することが示されているが、本発明者らはiPS-Hepの三次元オルガノイド培養での胆汁酸などの効果を検証した。
【0007】
この検証の結果、本発明者らは、ヒトiPS細胞から、より成熟した肝細胞の形質を保持しつつ、かつ長期培養が可能な肝細胞オルガノイドを含むヒト肝細胞株の製造方法を発明し、ヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイドを開発した。具体的には、まず、ヒトiPS細胞から胚体内胚葉系譜、肝芽細胞系譜を介して二次元培養系で肝細胞系譜に分化誘導した。本発明では、これに引き続きEHSゲルに包埋して三次元培養を行った。肝再生に関与する諸因子を種々の条件検討から探索した結果、強力なFXRアトニストであるタウロオベチコール酸(Tauro-obeticolic acid)などを添加し、かつcanonical Wnt agonistとして組換体(recombinant)Wnt3aなどを添加することが有益であることを見出し、ヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイドを含むヒト肝細胞株の新規製造法を確立した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[態様1]
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地において、幹細胞に由来する細胞を培養する工程を含む、肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株の製造方法。
[態様2]
核内レセプターアゴニストが、FXRアゴニストである、態様1に記載の製造方法。
[態様3]
FXRアゴニストが、胆汁酸である、態様2に記載の製造方法。
[態様4]
胆汁酸が、タウロオベチコール酸である、態様3に記載の製造方法。
[態様5]
Wnt/βカテニン経路活性化剤が、Wnt3aである、態様1に記載の製造方法。
[態様6]
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地が、Wnt3aでないWnt/βカテニン経路活性化剤を含む、態様5に記載の製造方法。
[態様7]
Wnt3aでないWnt/βカテニン経路活性化剤が、R-spondinである、態様6に記載の製造方法。
[態様8]
R-spondinが、R-spondin1、R-spondin2、R-spondin3及びR-spondin4からなる群から選ばれる、態様7に記載の製造方法。
[態様9]
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における、CHIR99021の濃度が、当該培地に対して、10μM以下である、態様1に記載の製造方法。
[態様10]
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地が、ALK阻害剤、ROCK阻害剤又は増殖因子を含む、態様1に記載の製造方法。
[態様11]
ALK阻害剤が、A83-01である、態様10に記載の製造方法。
[態様12]
ROCK阻害剤が、Y-27632である、態様10に記載の製造方法。
[態様13]
増殖因子が、EGF、HGF、FGF7、FGF10及びTGFαからなる群から選ばれる、態様10に記載の製造方法。
[態様14]
幹細胞に由来する細胞が、二次元培養において幹細胞から分化誘導された細胞である、態様1に記載の製造方法。
[態様15]
幹細胞に由来する細胞が、胚体内胚葉系譜又は肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞である、態様1に記載の製造方法。
[態様16]
胚体内胚葉系譜又は肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞が、胚体内胚葉系譜及び肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞である、態様15に記載の製造方法。
[態様17]
幹細胞に由来する細胞が、肝細胞系譜である、態様1に記載の製造方法。
[態様18]
幹細胞に由来する細胞を培養する工程が、三次元培養をする工程である、態様1に記載の製造方法。
[態様19]
三次元培養が、幹細胞に由来する細胞をゲルに包埋する工程を含む、態様18に記載の製造方法。
[態様20]
ゲルが、EHSゲルである、態様19に記載の製造方法。
[態様21]
幹細胞がiPS細胞である、態様20に記載の製造方法。
[態様22]
幹細胞がヒトの幹細胞である、態様21に記載の製造方法。
[態様23]
肝細胞株がオルガノイドを含み、肝細胞株に含まれるオルガノイドのうち、ブドウの房状のオルガノイドの数が10%以上である、態様1に記載の製造方法。
[態様24]
肝細胞オルガノイドの製造方法であって、態様1に記載の製造方法により製造された肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株から、ブドウの房状のオルガノイドを特定する工程を含む、製造方法。
[態様25]
特定されたブドウの房状のオルガノイドを単離する工程を含む、態様24に記載の製造方法。
[態様26]
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイド。
[態様27]
180日以上培養することができる、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様28]
がん細胞に由来しない、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様29]
肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、30%以下である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様30]
肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様31]
肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.003倍以上である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様32]
肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様33]
肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の30倍以下である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様34]
細胆管構造又は微少繊毛を有する、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様35]
電子顕微鏡観察において、細胆管構造又は微少繊毛が観察される、態様34に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様36]
肝細胞株に含まれる、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様37]
肝細胞株がオルガノイドを含み、肝細胞株に含まれるオルガノイドのうち、ブドウの房状のオルガノイドの数が10%以上である、態様36に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様38]
幹細胞がiPS細胞である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
[態様39]
幹細胞がヒトの幹細胞である、態様26に記載の肝細胞オルガノイド。
【発明の効果】
【0009】
より具体的な態様の本発明の方法により製造したヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイドは、6か月間以上の長期継代培養が可能で、かつ成熟肝細胞に特徴的とされるアルブミン遺伝子の発現を、従来の二次元培養で製造されたヒトiPS細胞由来肝細胞様細胞に比し5倍以上高発現した状態で維持が可能であった。また、RNAシークエンスでは、従来法の二次元培養で製造されたヒトiPS細胞由来肝細胞様細胞や胎児肝細胞由来オルガノイド培養法に用いられる培養条件で製造されたものに比して、より具体的な態様の本発明の方法により製造したヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイドは、アルブミン遺伝子に加えてトランスフェリンや補体を含む多数の肝細胞関連遺伝子群が高発現する一方、EpCAMやCK19などの、より未熟な前駆細胞関連遺伝子群が低下しており、より成熟した肝細胞の形質を保持していることが確認された。さらに、より具体的な態様の本発明によるヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイドは、アルブミン分泌能、LDL取り込み能、及びグリコーゲン貯蔵能を有し、機能的にも肝細胞の形質を保持していることが確認され、また、電子顕微鏡観察においても肝細胞に特徴的な細胆管構造や微少繊毛を有するなど形態的にも肝細胞に特徴的な微細構造を認めた。
【0010】
より成熟した肝細胞の形質を保持すること、長期培養を可能とすることは、肝細胞においては相互に排他的な条件であるとされ、これまで世界的にも困難とされてきた。しかし、より具体的な態様の本発明の方法で製造されたヒトiPS細胞由来肝細胞オルガノイドは、既存の細胞株やオルガノイド等に比して、より成熟した肝細胞の形質を有しつつ、この形質が6か月以上の期間を経ても保持され続けていることから、従来困難とされてきた排他的な二つの条件をともに初めて満たしており、本発明は、革新的な発明である。ヒトiPS細胞は、ヒトの正常な染色体と生理的形質を保持しているのみならず、あらゆる個人から樹立可能であり、様々な遺伝的背景を有する細胞株が入手可能であること、細胞株としての品質管理が標準化されつつあること、ゲノム編集により疾患関連遺伝子変異の再現が可能であることなど、多くの利点がある。ヒトiPS細胞を起点とした本肝細胞オルガノイド製造法は、ヒトにおける肝病態のin vitroでの解明を可能とするin vitro肝疾患解析モデルへの実用化や新規薬物スクリーニングへの実用化が可能であるなど産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、ヒトiPS細胞(iPSC)を胚体内胚葉系譜、肝芽細胞系譜を介して平面培養で肝細胞に分化誘導し(2D-iPS-Hep)、続いてEHSゲルに包埋して三次元培養(3D培養)を行う工程を示す概念図である。DE:胚体内胚葉。HLC:肝細胞様細胞。iHO:iPS-Hepオルガノイド。
図1B図1Bは、タウロオベチコール酸(Tauro-obeticolic acid)と組換体Wnt3a(recombinant Wnt3a)を添加して行う培養条件で誘導されたiPS-Hep Organoid(iHO)においては、胆汁酸なしやFO培養条件とは異なり、ブドウの房状の特徴的な形態を持つGrape-like organoidが誘導され、最長6ヶ月間の長期培養が可能であることを示す図である。
図1C図1Cは、タウロオベチコール酸(Tauro-obeticolic acid)と組換体Wnt3a(recombinant Wnt3a)を添加して行う培養条件で誘導されたiPS-Hep Organoid(iHO)においては、胆汁酸なしやFO培養条件とは異なり、ブドウの房状の特徴的な形態を持つGrape-like organoidが誘導されることを示す、Passage 0のPhase contrastの図である。
図1D図1Dは、タウロオベチコール酸(Tauro-obeticolic acid)と組換体Wnt3a(recombinant Wnt3a)を添加して行う培養条件で誘導されたiPS-Hep Organoid(iHO)においては、全体としてのオルガノイド形成数が高い傾向にあったことを示す図である。なお、woBAは、Without Bile acidsの略である。
図1E図1Eは、iHOが継代後も肝細胞マーカー遺伝子の高発現を維持することを示すグラフである。iHOは成熟肝細胞に特徴的とされるアルブミン遺伝子(ALB)の発現を、従来の二次元培養で製造されたヒトiPS-Hepに比べて、5倍以上高発現した状態で維持が可能であった。Hepatocyte:肝細胞。Fetal hepatocyte:胎児肝細胞。Progenitor:前駆細胞。
図2A図2Aは、iHOが特徴的なGrape-like organoidの形態を呈することを示す写真である。GFPで蛍光標識した細胞株を用いて誘導したオルガノイドなどを共焦点顕微鏡でWhole mount観察を行うと、三次元でもGrape-likeな形態が観察された。
図2B図2Bは、iHOが特徴的なGrape-like organoidの形態を呈することを示す写真である。走査型電子顕微鏡観察において特徴的な形態が確認できた。
図2C図2Cは、iHOが特徴的なGrape-like organoidの形態を呈することを示す免疫染色の写真である。GFPで蛍光標識した細胞株を用いて誘導したオルガノイドなどを共焦点顕微鏡でWhole mount観察を行うと、三次元でもGrape-likeな形態が観察された。
図2D図2Dは、iHOが肝細胞マーカーを発現することを示す免疫染色の写真である。免疫染色では肝細胞マーカーであるALBが強く発現する。なお、HNF4αの発現は、肝細胞や胆管細胞のマーカーである。
図2E図2Eは、iHOが一部にAFPとKi-67を共発現することを示す免疫染色の写真である。免疫染色では肝細胞マーカーであるAFPなどが強く発現するほか、一部にはKi-67の発現も見られ、増殖性と肝細胞形質を保ったオルガノイド培養系であることが蛋白レベルでも示唆された。
図2F図2Fは、Grape-like organoidがALBを強発現するのに対して、混在するCystic organoidがALBを発現していないことを示す免疫染色の写真である。iHOにはGrape-like以外の形態を呈するRound organoidやCystic organoidも実際には混在していたが、それらは免疫染色でALBの発現は低いため、肝細胞形質が相対的に弱いことがわかった。
図2G図2Gは、Grape-like organoidが胆管細胞マーカーを発現しないのに対して、混在するCystic organoid及びRound organoidが胆管細胞マーカーを強発現することを示す免疫染色の写真である。iHOにはGrape-like以外の形態を呈するRound organoidやCystic organoidも実際には混在していたが、EPCAMやKRT19などの前駆細胞や胆管細胞マーカーの発現レベルが高いため、肝細胞形質が相対的に弱いことがわかった。
図3A図3Aは、タウロオベチコール酸(Tauro-obeticolic acid)と組換体Wnt3a(recombinant Wnt3a)を添加して行う培養条件で誘導されたiPS-Hep Organoid(iHO)が、肝細胞の特徴とされる豊富なミトコンドリアやグリコーゲンを有し、毛細胆汁(Bile canaliculi)、微絨毛(Microvilli)に類似する微小構造を有することを示す写真である。iHOを透過型電子顕微鏡で観察すると、細胞表面に微絨毛を有し、一部にタイトジャンクションに裏打ちされた管腔様構造が見られ、肝細胞に特徴的な毛細胆汁(bile canaliculi)様の構造と示唆された(図3A左)。肝細胞と同様、細胞内にミトコンドリアや粗面小胞体を豊富に持ち、またグリコーゲン顆粒を有していた(図3A右)。Mit:ミトコンドリア。RER:粗面小胞体。Gly:グリコーゲン。TJ:タイトジャンクション(密着結合)。MV:微絨毛。Bile canaliculi:毛細胆汁。
図3B図3Bは、iHOが機能的に肝細胞(Hepatocyte)に類似することを示すグラフである。iHOはアルブミン産生能を有していた。
図3C図3Cは、iHOが機能的に肝細胞(Hepatocyte)に類似することを示す写真である。iHOは、肝細胞特有の機能であるグリコーゲン貯蔵能を有していた。
図3D図3Dは、iHOが機能的に肝細胞(Hepatocyte)に類似することを示す写真である。iHOは、肝細胞特有の機能であるLDL取り込み能を有していた。
図4A図4Aは、iHOが胎児肝細胞(FLC)に類似する発現プロファイルを持つことを示すRNA-seqの結果を示す。iHOの遺伝子発現プロファイルを調べるためにRNA-seqを行った。胆汁酸なしの培養条件や平面培養との比較検討のほか、タウロオベチコール酸以外にタウロコール酸との比較も行った。また経時的な変化を確認するため、Passsage1と3でも比較を行った。主成分解析ではiHOは既存培養系やPHH(ヒト初代肝細胞)とは異なる発現プロファイルを持ち、胎児肝細胞(Fetal liver cell)(FLC)と類似する発現プロファイルを有することが示された。
図4B図4Bは、iHOがFLC、PHHに類似したmRNA発現プロファイルを持つことを示す階層的クラスタリング(分散の大きい1000遺伝子)の結果である。階層的クラスタリングにおいても、他の培養条件や2D-iPS-Hepと比較して相対的にFLC(胎児肝細胞)やPHH(ヒト初代肝細胞)と類似していることが示唆された。
図4C図4Cは、胆汁酸なしと比べてiHOが肝細胞関連遺伝子を高発現していることを示すグラフである。胆汁酸なしの培養条件との比較で発現変動遺伝子を抽出し、エンリッチメント解析を行うと、肝細胞及び胎児肝細胞に関連したgene setの発現上昇が見られた。
図4D図4Dは、胆汁酸なしと比べてiHOが肝細胞関連遺伝子を高発現していることを示すグラフである。胆汁酸なしの培養条件との比較で発現変動遺伝子を抽出し、エンリッチメント解析を行うと、肝細胞および胎児肝細胞に関連したgene setの発現上昇が見られた。
図4E図4Eは、胆汁酸なしと比べてiHOが肝細胞関連遺伝子を高発現していることを示すグラフである。GOなどの機能用語では凝固線溶系、補体又は脂質代謝に関連するgene setの発現上昇が見られた(iHO VS woBA P3)。
図4F図4Fは、iHOが肝細胞マーカーを強く発現し、既存培養系と比べて胆管細胞・他細胞系譜マーカーの発現が低いことを示すRNA-seqの結果である。肝細胞、胎児肝細胞、前駆細胞又は胆管細胞に関連する遺伝子を具体的に抽出しヒートマップを作成すると、iHOは肝細胞(Hepatocyte)マーカーの発現が高い一方、他の培養系と比べて前駆細胞、胆管細胞マーカー及び腸管上皮細胞マーカーの発現が低かった。Hepatocyte:肝細胞。Fetal Hepatocyte:胎児肝細胞。Duct Non Liver:肝臓以外の胆管や腸上皮細胞。
図5A図5Aは、iHOでは肝細胞形質の強い分画(Hepatocyte-like分画)が誘導され、もう一方の胆管細胞様(Cholangiocyte-like)分画では胆管細胞マーカーや腸管上皮細胞マーカーを発現することを示すシングルセル(Single cell)RNA-seqの結果である。シングルセルRNA-seq解析では、iHOは、ALBなどの肝細胞系譜遺伝子を高発現する肝細胞様(Hepatocyte-like)分画と、KRT19などの胆管細胞系譜遺伝子を高発現する胆管細胞様(Cholangiocyte-like)分画の二分画を有していた。
図5B図5Bは、iHOでは肝細胞様分画(Hepatocyte-like分画)が誘導され、もう一方の胆管細胞様分画(Cholangiocyte-like分画)では胆管細胞マーカーや腸管上皮細胞マーカーを発現することを示すシングルセル(Single cell)RNA-seqの結果である。肝細胞様分画ではALBのほか、AHSG、TF、C3などの肝細胞(Hepatocyte)マーカー遺伝子が高発現し、AFP、DLK1、GPC3などの胎児肝細胞関連遺伝子の発現も高いのが特徴的であった。一方、胆管細胞様分画ではKRT19、KRT7、EPCAMなどの胆管細胞系譜遺伝子に加えて、CDX2、ISX、DPP4などの腸管上皮細胞系譜遺伝子も高発現していた。
図5C図5Cは、肝細胞様分画(Hepatocyte-like分画)又はiHOが肝細胞関連遺伝子と増殖関連遺伝子を共発現する分画を有することを示すシングルセル(Single cell)RNA-seqの結果である。肝細胞様分画には増殖関連遺伝子であるMKI67やPCNAを高発現する亜分画が存在し、増殖性と肝細胞形質とを併せ持つ細胞の存在がシングルセルレベルでも示唆された。
図5D図5Dは、iHOがヒト胎児肝細胞(Human fetal hepatocyte)に類似した分画を有することを示す、シングルセル(Single cell)RNA-seqの結果を用いた解析結果である。既報の11~19週ヒト胎児肝臓のシングルセルデータ(Cao et al. Science, 2020)と統合するとiHOの一部は胎児肝細胞(Fetal hepatocyte)と重なることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
製造方法:
本発明は、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地において、幹細胞に由来する細胞を培養する工程を含む、肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株の製造方法を提供する。
【0013】
核内レセプターアゴニストとしては、例えば、FXRアゴニストなどが挙げられる。FXRアゴニストは、ファルネソイドX受容体(FXR)に対して特異的なリガンドであり、FXRに結合することによってリガンド依存性FXR転写活性を特異的に刺激する作用を有する分子である。具体的には、胆汁酸、INT-767、LY-2562175、Px-104、LJN-452などが挙げられる。胆汁酸は、胆汁に広範に認められるコレステロールの排泄形態であり、ステロイド骨格を有したコラン酸骨格を持つ有機化合物の総称である。胆汁酸としては、例えば、一次胆汁酸、抱合胆汁酸、二次胆汁酸などが挙げられる。一次胆汁酸としては、例えば、コール酸、グリココール酸、タウロコール酸、ケノデオキシコール酸、ヒオコール酸、5α-シプリノールなどが挙げられる。抱合胆汁酸としては、例えば、グリココール酸、タウロコール酸などが挙げられる。二次胆汁酸としては、例えば、デオキシコール酸、リトコール酸、ヒオデオキシコール酸、ウルソデオキシコール酸などが挙げられる。胆汁酸としては、オベチコール酸、タウロオベチコール酸、ケノデオキシコール酸などが挙げられる。
【0014】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における核内レセプターアゴニストの含有量は、当該培地に対して、好ましくは、0.3~100μMであり、より好ましくは、1~30μMであり、更に好ましくは、3~10μMである。
【0015】
Wnt/βカテニン経路活性化剤は、Wntが細胞に作用することにより活性化される細胞内シグナル伝達機構であるWntシグナル経路において、β-カテニンを介して遺伝子発現を制御するβ-カテニン経路を活性化する分子であり、例えばR-spondin1、R-spondin2、R-spondin3、R-spondin4、Wnt3a、CHIR99021、各種GSK3b阻害剤等が挙げられる。Wnt3aなどのWnt/βカテニン経路活性化剤は、アファミン(Afamin)などの別のタンパク質などとの複合体であってもよい。Wnt3aとアファミン(Afamin)との複合体は、Wnt3a-AFMなどと呼ばれる。したがって、Wnt3aとしては、例えば、Wnt3aのほか、Wnt3a-AFMなどが挙げられる。Wnt/βカテニン経路活性化剤としては、例えば、Wnt3aなどが挙げられるが、その場合においては、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地は、Wnt3aでないWnt/βカテニン経路活性化剤を含んでもよい。Wnt3aでないWnt/βカテニン経路活性化剤としては、例えば、R-spondinなどが挙げられる。R-spondinとしては、例えば、R-spondin1、R-spondin2、R-spondin3、R-spondin4などが挙げられる。
【0016】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地におけるWnt/βカテニン経路活性化剤の含有量は、当該培地に対して、好ましくは、10~3000 ng/mlであり、より好ましくは、30~1000 ng/mlであり、更に好ましくは、100~300 ng/mlである。
【0017】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における、CHIR99021の濃度は、好ましくは、当該培地に対して、10μM以下であり、より好ましくは、3μM以下であり、更に好ましくは、1μM以下であり、更に好ましくは、0.3μM以下であり、更に好ましくは、0.1μM以下である。核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地は、好ましくは、CHIR99021を実質的に含まず、より好ましくは、CHIR99021を含まない。核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地がCHIR99021を実質的に含まないこととしては、例えば、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地においてCHIR99021が検出されないことが挙げられる。なお、CHIR99021は、GSK-3酵素の阻害剤であり、C22H18Cl2N8の化学式で表される。
【0018】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地は、ALK阻害剤、ROCK阻害剤又は増殖因子を含んでもよく、好ましくは、ALK阻害剤、ROCK阻害剤及び増殖因子からなる群から選ばれる2以上を含み、より好ましくは、ALK阻害剤、ROCK阻害剤及び増殖因子を含む。ここで、ALK阻害剤、ROCK阻害剤及び増殖因子からなる群から選ばれる2以上を含むことは、例えば、ALK阻害剤及びROCK阻害剤を含むこと、ALK阻害剤及び増殖因子を含むこと、ROCK阻害剤及び増殖因子を含むこと、又はALK阻害剤、ROCK阻害剤及び増殖因子を含むことを意味する。
【0019】
ALK阻害剤は、ALK(Activin receptor-Like Kinase)ファミリーの機能を阻害する分子であり、例えば、ALK4、ALK5又はALK7の阻害剤などである。ALK阻害剤としては、例えば、Lefty-1(NCBIアクセッション番号として、マウス:NP_034224.1、ヒト:NP_066277.1が例示される。)、SB431542、SB202190(以上、R.K.Lindemann et al., Mol. Cancer, 2003, 2:20)、SB505124(GlaxoSmithKline)、NPC30345、SD093、SD908、SD208(Scios)、LY2109761、LY364947、LY580276(Lilly Research Laboratories)、A83-01(3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド、WO2009146408)、ALK5阻害剤II(2-[3-[6-メチルピリジン-2-イル]-1H-ピラゾル-4-イル]-1,5-ナフチリジン)、TGFβRIキナーゼ阻害剤VIII(6-[2-tert-ブチル-5-[6-メチル-ピリジン-2-イル]-1H-イミダゾル-4-イル]-キノキサリン)及びこれらの誘導体などが挙げられる。なお、A83-01は、C25H19N5Sの化学式で表される。A83-01は、形質転換増殖因子βキナーゼ1型受容体の阻害剤として使用されている。A83-01は、Smad2/3のリン酸化を阻止するTGFβキナーゼ/アクチビン受容体様キナーゼ(ALK5)の阻害剤であり、TGFβにより誘発された増殖を阻害する。A83-01は、Smad2のリン酸化をブロックし、そしてTGF-βにより誘発された上皮間葉転換を阻害する。また、A83-01は、TGFβI型受容体ALK-5、アクチビンIB型受容体ALK-4、およびノーダルI型受容体ALK-7により誘発された転写活性も阻害する。
【0020】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地におけるALK阻害剤の含有量は、当該培地に対して、好ましくは、0.1~100μMであり、より好ましくは、0.3~30μMであり、更に好ましくは、1~10μMである。
【0021】
ROCK阻害剤は、Rho-キナーゼ(ROCK)の機能を阻害する分子であり、例えば、Y-27632(例、Ishizaki et al.,Mol.Pharmacol.57,976-983(2000); Narumiya et al.,Methods Enzymol.325, 273-284 (2000)参照)、Fasudil/HA1077(例、Uenata et al.,Nature 389:990-994(1997)参照)、H-1152(例、Sasaki et al., Pharmacol. Ther. 93: 225-232(2002)参照)、Wf-536(例、Nakajima et al.,Cancer Chemother Pharmacol. 52(4):319-324(2003)参照)及びそれらの誘導体などが挙げられる。なお、Y-27632は、(R)-(+)-トランス-N-(4-ピリジル)-4-(1-アミノエチル)-シクロヘキサンカルボキサミド.2HClなどとも呼ばれ、C14H21N3O.2HClの化学式で表される。Y-27632は、細胞透過性を有するATP拮抗的に作用する強力なROCK特異的阻害剤であり、ミオシンのリン酸化や平滑筋収縮において、Ca2+受容体アゴニストの強力な阻害剤として働き、細胞展開を阻害しRho-Aによる肝星細胞でのストレスファイバー形成を抑制する。また、Y-27632は、再潅流後の炎症性サイトカインの増加を減少させ、急性腎不全の発症を防ぐ。
【0022】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地におけるROCK阻害剤の含有量は、当該培地に対して、好ましくは、0.3~100μMであり、より好ましくは、1~30μMであり、更に好ましくは、3~10μMである。
【0023】
増殖因子は、細胞分裂の促進増殖作用を有する分子であり、具体的には上皮細胞増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、FGF4、FGF7、FGF10等の線維芽細胞増殖因子(FGF)のほか、TGFαなどが挙げられる。
【0024】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における増殖因子の含有量は、当該培地に対して、好ましくは、1~1000 ng/mlであり、より好ましくは、3~300 ng/mlであり、更に好ましくは、10~100 ng/mlである。
【0025】
核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における培地は、例えば、10~15%FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液であってもよく、これらの培養液にHEPES、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノール、B27サプリメント、N-アセチルシステイン、ニコチンアミド、Gastrinなどを適宜含めたものであってもよい。また、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における培地は、例えば、霊長類ES/iPS細胞用培養液(リプロセル社)、無血清培地(mTESR、Stemcell Technology社)、iPS/ES細胞増殖用培地/再生医療用培地(StemFit(登録商標)AK02N、Ajinomoto Healthy Supply Co., Inc.)、iPS細胞培養用フィーダーフリー培地(Essential 8、Gibco)、Cellartis DEF-CS(Takara Bio Inc.)などの市販の培養液であってもよく、無血清培地であってもよい(例:Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci USA. 106:15720-15725)。
【0026】
幹細胞に由来する細胞としては、例えば、二次元培養において幹細胞から分化誘導された細胞のほか、三次元培養において幹細胞から分化誘導された細胞などが挙げられるが、幹細胞に由来する細胞は、好ましくは、二次元培養において幹細胞から分化誘導された細胞である。幹細胞に由来する細胞としては、例えば、胚体内胚葉系譜又は肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞などが挙げられるが、幹細胞に由来する細胞は、好ましくは、胚体内胚葉系譜及び肝芽細胞系譜を介して分化誘導された細胞である。幹細胞に由来する細胞は、好ましくは、肝細胞系譜である。
【0027】
幹細胞に由来する細胞を培養する工程は、好ましくは、三次元培養をする工程である。三次元培養は、例えば、幹細胞に由来する細胞をゲルに包埋する工程を含む。ゲルとしては、例えば、EHSゲルなどが挙げられる。
【0028】
幹細胞としては、例えば、iPS細胞などが挙げられる。幹細胞は、好ましくは、哺乳類動物の幹細胞であり、より好ましくは、ヒトの幹細胞である。
【0029】
本発明の製造方法により製造される、肝細胞株は、好ましくは、肝細胞株がオルガノイドを含み、肝細胞株に含まれるオルガノイドのうち、ブドウの房状のオルガノイドの数が、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上、又は99.99%以上である。ここで、ブドウの房状のオルガノイドは、円形のオルガノイドと区別される。
【0030】
前記の本発明の製造方法により製造された肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株に含まれるブドウの房状のオルガノイドは、肝細胞オルガノイドの形質を有する。したがって、本発明は、肝細胞オルガノイドの製造方法であって、前記の製造方法により製造された肝細胞オルガノイドを含む肝細胞株から、ブドウの房状のオルガノイドを特定する工程を含む、製造方法を提供する。
【0031】
本発明が提供する肝細胞オルガノイドの製造方法は、例えば、特定されたブドウの房状のオルガノイドを単離する工程を含んでもよい。すなわち、本発明が提供する肝細胞オルガノイドの製造方法により製造される肝細胞オルガノイドは、他のオルガノイドや細胞から単離されたものであってもよいが、他のオルガノイドや細胞を含む液体に含まれるものなど、他のオルガノイドや細胞から単離されずに他のオルガノイドや細胞と一体となったものであってもよい。
【0032】
肝細胞オルガノイド:
本発明は、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドを提供する。幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、30日以上培養することができる肝細胞オルガノイドであり、より好ましくは、60日以上培養することができる肝細胞オルガノイドであり、更に好ましくは、180日以上培養することができる肝細胞オルガノイドである。本発明が提供する肝細胞オルガノイドは、より具体的には、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、幹細胞より分化誘導した後、21日以上、好ましくは、30日以上、より好ましくは、60日以上、更に好ましくは、180日以上、肝細胞株としての性質を保って培養することができる肝細胞オルガノイドである。
【0033】
ここで、所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、肝細胞オルガノイドとして培養することができる期間が当該所定の時間以上である肝細胞オルガノイドであり、当該所定の時間には、幹細胞として培養する期間や、幹細胞からの分化誘導を開始してから肝細胞オルガノイドとなるまでの期間は含まない。したがって、所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、例えば、幹細胞に由来する細胞であって肝細胞系譜である細胞の培養を開始してから当該所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドであり、例えば、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における培養を開始してから当該所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドである。もっとも、このことは、本発明が提供する、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドが、核内レセプターアゴニスト又はWnt/βカテニン経路活性化剤を含む培地における培養によって製造されるものに限定されることを意味するものではない。なお、所定の時間の開始時点が特定されなくても、所定の肝細胞オルガノイドを任意の開始時点から所定の時間以上培養することができたことをもって、当該所定の肝細胞オルガノイドは、所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドといってよい。もっとも、このことは、所定の肝細胞オルガノイドを入手した時点などの任意の開始時点から所定の時間以上培養することができないことのみをもって、当該所定の肝細胞オルガノイドが所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドでないといえることを意味するものではなく、例えば、入手した所定の肝細胞オルガノイドが所定の時間以上培養することができる肝細胞オルガノイドであるかどうかを判断するにあたっては、当該所定の肝細胞オルガノイドを入手した時点の前における当該所定の肝細胞オルガノイドの培養の期間も加味しうるものとする。
【0034】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、がん細胞に由来しない。
【0035】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、30%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、20%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、10%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、5%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、3%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、1%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、0.5%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、0.3%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、0.1%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、0.05%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、0.03%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、0.01%以下であり、更に好ましくは、肝星細胞及びクッパー細胞を実質的に含まず、更に好ましくは、肝星細胞及びクッパー細胞が検出されず、更に好ましくは、肝星細胞及びクッパー細胞を含まない。なお、ここで、肝星細胞及びクッパー細胞が、細胞の数として、所定の数値%以下であることは、肝星細胞及びクッパー細胞のそれぞれが、細胞の数として、所定の数値%以下であることを意味するのではなく、肝星細胞の数とクッパー細胞の数の合計が所定の数値%以下であることを意味する。また、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、30%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、20%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、10%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、5%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、3%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、1%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、0.5%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、0.3%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、0.1%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、0.05%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、0.03%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、肝星細胞が、細胞の数として、0.01%以下であり、更に好ましくは、肝星細胞を実質的に含まず、更に好ましくは、肝星細胞が検出されず、更に好ましくは、肝星細胞を含まない。更に、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、30%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、20%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、10%以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、5%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、3%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、1%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、0.5%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、0.3%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、0.1%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、0.05%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、0.03%以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドを構成する細胞のうち、クッパー細胞が、細胞の数として、0.01%以下であり、更に好ましくは、クッパー細胞を実質的に含まず、更に好ましくは、クッパー細胞が検出されず、更に好ましくは、クッパー細胞を含まない。
【0036】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.3倍以上であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の1倍以上であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の3倍以上である。肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるアルブミン遺伝子の発現量と肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の比較は、例えば、ΔCT法により行われる。
【0037】
なお、本明細書において、所定の遺伝子が複数の遺伝子の総称である場合には、当該複数の遺伝子のうち少なくとも一つの遺伝子の発現量が、特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上であると言うことができれば、当該複数の遺伝子のうちの他の遺伝子の発現量が、特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上でなかったとしても、所定の遺伝子の発現量は、特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上であると言いうるものとする。すなわち、所定の遺伝子が複数の遺伝子の総称である場合には、当該複数の遺伝子のうち少なくとも一つの遺伝子の発現量が、特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上でないことのみをもってしても、所定の遺伝子の発現量が、特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上でないとは言いえないものとする。特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上の場合ではなく、特定の遺伝子の発現量の所定の数値倍以下の場合についても同様とする。
【0038】
なお、本明細書において、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であることとしては、例えば、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の転写産物の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の転写産物の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であることのほか、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の転写産物の翻訳産物の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の転写産物の翻訳産物の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であることが挙げられる。したがって、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の転写産物の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の転写産物の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であれば、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の転写産物の翻訳産物の発現量にかかわらず、それのみをもって、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であると言ってよいものとする。また、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の転写産物の翻訳産物の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の転写産物の翻訳産物の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であれば、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の転写産物の発現量にかかわらず、それのみをもって、肝細胞オルガノイドにおける所定の遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおける別の遺伝子の発現量の所定の数値倍以上又は所定の数値倍以下であると言ってよいものとする。
【0039】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.003倍以上であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.01倍以上であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.03倍以上であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上である。肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるHNF4α遺伝子の発現量と肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の比較は、例えば、ΔCT法により行われる。
【0040】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.1倍以上であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の0.3倍以上であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の1倍以上であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の5倍以上である。肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるAFP遺伝子の発現量と肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の比較は、例えば、ΔCT法により行われる。
【0041】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の30倍以下であり、より好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の10倍以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の5倍以下であり、更に好ましくは、肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量が、肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の2倍以下である。肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量は、例えば、RT-PCRにより測定される。肝細胞オルガノイドにおけるEPCAM遺伝子の発現量と肝細胞オルガノイドにおけるGAPDH遺伝子の発現量の比較は、例えば、ΔCT法により行われる。
【0042】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドは、好ましくは、細胆管構造又は微少繊毛を有する。幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドが細胆管構造又は微少繊毛を有することとしては、例えば、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドに対する電子顕微鏡観察において、細胆管構造又は微少繊毛が観察されることが挙げられる。
【0043】
本発明の肝細胞オルガノイドは、単離されたものであってもよいが、肝細胞株に含まれるものであってもよい。肝細胞オルガノイドが肝細胞株に含まれる場合、例えば、肝細胞株がオルガノイドを含み、肝細胞株に含まれるオルガノイドのうち、ブドウの房状のオルガノイドの数が、例えば、10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.9%以上、又は99.99%以上である。ここで、ブドウの房状のオルガノイドは、円形のオルガノイドと区別される。
【0044】
幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドにおいて、幹細胞は、好ましくは、iPS細胞である。また、幹細胞に由来する肝細胞オルガノイドであって、21日以上培養することができる肝細胞オルガノイドにおいて、幹細胞は、好ましくは、哺乳類動物の幹細胞であり、より好ましくは、ヒトの幹細胞である。
【実施例0045】
細胞株:
ヒトiPS細胞株(P11025、RIKEN-2F、PB001)を、Cellartis(登録商標)DEF-CS(商標)500培養システム(タカラバイオ)によって、製造元のプロトコルに従って、空気中5% CO2の37℃インキュベーターで維持及び培養した。ヒトiPS細胞株P11025は、エピソームベクターによって形質導入されたOct3/4、Sox2、Klf4、及びc-Myc(OKSM)の過剰発現によって再プログラミングされた男性線維芽細胞から確立された。ヒトiPS細胞株RIKEN2Fは、日本人男性の臍帯線維芽細胞から確立され、OKSMのレトロウイルス発現によって再プログラミングされた。ヒトiPS細胞株PB001は、末梢血細胞から樹立され、OKSMを発現するセンダイウイルスベクターを使用して再プログラミングされ、tdTOMATOを発現するレンチウイルスベクターによって形質導入された。P11025はタカラバイオから購入した。RIKEN2FとPB001は、それぞれ、Y. Nakamura博士とMasaki H.博士から寄贈された。2F-GFPは、piggyBacトランスポゾンシステムを使用したGFPの過剰発現によってRIKEN2Fから確立された。
【0046】
ヒト2D iPSC由来の肝細胞様細胞培養:
Cellartis(登録商標)胚体内胚葉分化キット及びCellartis(登録商標)肝細胞分化キット(タカラバイオ)を製造元のプロトコルに従って使用して、iPSCを肝細胞に分化させた。肝分化中、iPSCは21日目以降に肝細胞様細胞に分化したため、36日目の分化細胞としてiPSC由来肝細胞(iPS-Heps)を使用した。
iPSCは、いくつかの変更を加えたAngらのプロトコルを使用して、肝細胞にも分化させた。簡単に説明すると、マトリゲルでコーティングしたディッシュにiPSCを約2x104細胞/cm2で播種した(0日目)。胚体内胚葉への分化(1日目から2日目)のために、1xインスリン-セリン-トランスフェリン(ITS)、1x脂質濃縮物(LC)、1xペニシリン/ストレプトマイシン(PS)、0.1%ポリビニルアルコール(PVA)、100ng/mLアクチビンA(ナカライテスク)、2μM CHIR99021(1日目)、250nM LDN193189(2日目)、及び50μM PI-103を添加したIMDM/F12(1:1)で、iPSCを培養した。肝系統への分化(3日目から6日目)のために、10%ノックアウト血清(KOSR)、1xLC、1xPS、0.1% PVA、塩基性FGF 10 ng/mL(3日目)、10 ng/mL アクチビンA(4日目から6日目)、30 ng/mL BMP4、1μM A83-01(3日目)、2μM 全トランス型レチノイン酸(3日目)、1μM フォルスコリン(4日目から6日目)、1μM C59(4日目から5日目)、1μM CHIR99021(6日目)を添加したIMDM/F12(1:1)で細胞を培養した。肝細胞に分化するために、次の6日間(7日目から12日目)、1x ITS、1x Glutamax(商標)、1x非必須アミノ酸(NEAA)、1xLC、1xPS、10ng/mL BMP4、10ng/mL オンコスタチンM、10μM フォルスコリン、10μM DAPT、10μM デキサメタゾン、200μg/mL アスコルビン酸-2リン酸(AAP)、及び1μM SB431252又はSB505124(7日目から8日目)を添加したIMDM/F12(1:1)で細胞を培養した。さらに分化させるために、10% KOSR、1xITS、1xGlutamax(商標)、1xNEAA、1xLC、1xPS、10μM フォルスコリン、10μM DAPT、10μM デキサメタゾン、200μg/mL AAP(13日目から18日目)を添加したIMDM/F12(1:1)で細胞を培養した。18日後、iPSCはiPS-Hepsに分化した。
【0047】
ヒトiPSC由来肝細胞オルガノイド培養:
分化したiPSC由来の肝細胞をコラゲナーゼとTrypLE select(Thermofisher)で解離し、PBSで2回洗浄し、マトリゲル(Matrigel)と混合し、24ウェルプレートごとに播種した。マトリゲル固化後、培地を各ウェルに添加した。ヒト胎児肝細胞オルガノイド培地(FO)は、以前に説明した。iPS由来の肝細胞オルガノイド培地(iHO培地)は、HEPES、グルタマックス(Glutamax)、ペニシリン-ストレプトマイシン、B27、1.25mM N-アセチルシステイン(Sigma)、10mM ニコチンアミド(Sigma)、15% RSPO条件培地(自家製;R-spondin1を含む。)、300ng/mL マウスWnt3a(R&D)、10ng/mLガストリン(Gastrin)、2μM A83-01、10μM Y-27632、50ng/mL EGF、50ng/mL HGF、100ng/mL FGF7、100ng/mL FGF10、20ng/mL TGFα、及び10μM タウロオベチコール酸を添加したAdDMEM/F12(Thermofisher)で構成された。培地は2~3日ごとに交換した(1週間に3回)。通常、iHOは2週間の培養後に継代された。継代の比率は1:3であった。
【0048】
RNA単離とqRT-PCR分析:
製造元のプロトコルに従って、RNeasyミニおよびマイクロキット(Qiagen)を使用して、全RNAを抽出した。PrimeScript(商標)IV 1st Strand cDNA Synthesis Mix(タカラバイオ)を使用してファーストストランド(First-strand)cDNAを合成し、PCRのテンプレートとして使用した。QuantiTect SYBR Green PCR Kit(Qiagen)を使用して、定量的RT-PCR分析を実施した。すべてのデータはGAPDHに対して正規化された。GAPDH mRNAの定量化のために、TaqMan(商標)GAPDH Control Reagents(ヒト)(Thermo Fisher Scientific)を使用して発現レベルを定量化した。
【0049】
RNA-seq及び分析:
RNeasy Micro kitとDNase I処理を使用して、全RNAサンプルを抽出した。RNAサンプルの品質チェックは、RNA Integrity Number(RIN)の測定によって確認された。シーケンシングライブラリは、製造元のプロトコルに従って、Dynabeads mRNA Purification Kit及びRNA Directional Library Prep Setによって調製された。配列データは、DNBSEQ-G400を使用して取得された。自らのRNA-seqデータとGEOからの公開データ(胎児肝細胞としてGSM3067802、GSM3067803、成体肝細胞としてGSM3090157、GSM3090158)を組み合わせて、肝表現型を比較した。トランスクリプトレベルのカウントとTPMは、gencode v38トランスクリプトームリファレンス(transcriptome reference)を使用して、サーモンパッケージ(salmon package)によって定量化された(Nat Methods. 2017 Apr;14(4):417-419.参照)。tximportパッケージを使用して、遺伝子レベルの差次的発現分析のためにそれらを遺伝子レベルに集約した。
【0050】
シングルセルRNAシーケンス及び解析:
マトリゲル(Matrigel)に埋め込まれたオルガノイド(iHO条件下及び継代1)を氷冷PBSで洗浄し、トリプシン/EDTA(0.05%)を10~20分間使用して、単一細胞に解離させた。トリパンブルー染色により、細胞生存率は80%以上であることが確認された。生存可能な5000細胞について、製造元のプロトコルに従って、scRNA-seqライブラリー調製を行い、10x Genomics Chroniumプラットフォームでシーケンスした。得られたライブラリーは、DNBSEQ(MGI)で配列決定された。配列決定された読み取り(Sequenced reads)は、逆多重化とバーコード及び読み取りデータのfastqファイルへの変換から始まり、Cell Ranger遺伝子発現パイプラインmkfastq及びcountを使用して処理された。生の読み取りはGRCh38ゲノムにアラインされ、フィルター処理され、遺伝子バーコードマトリックスが作成された。細胞及び遺伝子のフィルタリング、データのスケーリング、クラスタリング、並びに視覚化は、Seurat v3ツールキット(https://github.com/satijalab/seurat)で実行された。固有の特徴数が200未満の細胞、又はミトコンドリア数が25%を超える細胞を除去した。データは、デフォルトのグローバルスケーリングメソッドを使用して正規化された。
【0051】
免疫蛍光:
オルガノイドの免疫染色は、以前の方法と同様に実行された。簡単に説明すると、オルガノイドを4%パラホルムアルデヒド(PFA)で約2時間固定し、PBSで洗浄し、30%ショ糖緩衝液に一晩浸し、OCTコンパウンドに包埋した。オルガノイドの切片を10μmで切断し、PBSで洗浄し、0.05% Tween20/PBS(PBS-T)で透過処理し、Blocking One(ナカライテスク)で少なくとも2時間ブロッキングした。続いて、切片を一次抗体と一晩インキュベートし、PBS-Tで洗浄し、二次抗体と1時間インキュベートした。染色切片を洗浄し、DAPIを含むVECTASHIELD封入剤(VECTOR Laboratories)を使用して封入した。画像はKEYENCE BZ-X710とFLUOVIEW FV3000を使用してスキャン及びキャプチャされた。
【0052】
全組織オルガノイド(whole-mount organoid)の免疫染色:
全組織オルガノイドの免疫染色は、全組織免疫染色についての以前に報告されたプロトコルに従って実行された。オルガノイドを4% PFAで一晩固定し、1% Triton X-100/PBSで少なくとも6時間透過処理した。オルガノイドを一次抗体とともに2日間インキュベートし、0.1% Triton X-100/0.2% BSA/PBSで2回洗浄した後、二次抗体とともに一晩インキュベートした。その後、オルガノイドを3回洗浄し、フルクトース-グリセロール透明化溶液(60%(体積/体積)グリセロール及び2.5 Mフルクトース)において室温で20分間インキュベートした。FV3000を使用して共焦点画像をキャプチャし、FV3000ソフトウェア(OLYMPUS)を使用してオルガノイド画像のZスタックを分析及びアセンブルした。
【0053】
実施例1 胆汁酸がiPS-Hepの三次元での増殖と肝細胞形質を誘導する:
ヒトiPS細胞を胚体内胚葉系譜、肝芽細胞系譜を介し平面培養で肝細胞に分化誘導し(2D-iPS-Hep)、続いてEHSゲルに包埋し3D培養を行った(図1A)。既報のヒト胎児肝細胞オルガノイド(Fetal-Hep Organoid: FO)の培地組成をもとに、肝再生に関与する諸因子を種々の条件検討から探索した結果、強力なFXRアゴニスト(FXR agonist)であるタウロオベチコール酸(Tauro-obeticolic acid)を添加し、かつ古典的Wntアゴニスト(canonical Wnt agonist)として組換体Wnt3a(recombinant Wnt3a)を添加することを見出した。この培養条件で誘導されたiPS-Hep Organoid(iHO)は胆汁酸なしやFO培養条件とは異なり、ブドウの房状の特徴的な形態を持つGrape-like organoidが誘導され(図1B及び図1C)、全体としてのオルガノイド形成数も高い傾向にあった(図1D)。iHOは成熟肝細胞に特徴的とされるアルブミン遺伝子の発現を、従来の二次元培養で製造されたヒトiPS-Hepに比べて、5倍以上高発現した状態で維持が可能であった(図1E)。iHOは増殖維持培養が可能であり、約2週間で1:2の継代培養を続け、最長で半年間の培養が可能であった。その間もiHOはGrape-like organoidの形態を保ちつつ増殖していた。GFPで蛍光標識した細胞株を用いて誘導したオルガノイドなどを共焦点顕微鏡でWhole mount観察を行うと、三次元でもブドウ状(Grape-like)な形態が観察された(図2A及び図2C)。走査型電子顕微鏡観察においても特徴的な形態が確認できた(図2B)。また免疫染色では肝細胞マーカーであるALB、AFPなどが強く発現するほか、一部にはKi-67の発現も見られ、増殖性と肝細胞形質を保ったオルガノイド培養系であることが蛋白レベルでも示唆された(図2D及び図2E)。一方でiHOにはGrape-like以外の形態を呈するRound organoidやCystic organoidも実際には混在していた。しかしそれらは免疫染色でALBの発現は低く、EPCAMやKRT19などの前駆細胞、胆管細胞マーカーの発現レベルが高いため、肝細胞形質が相対的に弱いことがわかった(図2F及び図2G)。以上からiHOを特徴づける肝細胞形質の強いオルガノイドはブドウ状(Grape-like)な形態を呈することが示唆された。
【0054】
実施例2 iHOは肝細胞に類似する微小構造や機能を持つ:
iHOを透過型電子顕微鏡で観察すると、細胞表面に微絨毛を有し、一部にタイトジャンクションに裏打ちされた管腔様構造が見られ、肝細胞に特徴的なbile canaliculi様の構造と示唆された(図3A左)。肝細胞と同様、細胞内にミトコンドリアや粗面小胞体を豊富に持ち、またグリコーゲン顆粒を有していた(図3A右)。またiHOはアルブミン産生能の他にも、肝細胞特有の機能であるLDL取り込み能、グリコーゲン貯蔵能を有していた(図3B図3D)。
【0055】
実施例3 iHOはRNA-seq解析でFetal liver cellに類似した発現プロファイルを持つ:
iHOの遺伝子発現プロファイルを調べるためにRNA-seqを行った。胆汁酸なしの培養条件や平面培養との比較検討のほか、タウロオベチコール酸以外にタウロコール酸との比較も行った。また経時的な変化を確認するため、Passsage1と3でも比較を行った。主成分解析ではiHOは既存培養系や、PHHとは異なる発現プロファイルを持ち、Fetal liver cell(FLC)と類似する発現プロファイルを有することが示された(図4A)。階層的クラスタリングでも他の培養条件や2D-iPS-Hepと比較して相対的にFLCやPHHと類似していることが示唆された(図4B)。胆汁酸なしの培養条件との比較で発現変動遺伝子を抽出し、エンリッチメント解析を行うと、肝細胞および胎児肝細胞に関連したgene setの発現上昇が見られた(図4C及び図4D)。またGOなどの機能用語では凝固線溶系、補体、脂質代謝に関連するgene setの発現上昇が見られた(図4E)。肝細胞、胎児肝細胞、前駆細胞、胆管細胞に関連する遺伝子を具体的に抽出しヒートマップを作成すると、iHOはHepatocyteマーカーの発現が高い一方、他の培養系と比べて前駆細胞、胆管細胞マーカー、腸管上皮細胞マーカーの発現が低かった(図4F)。PHHとの違いとしてはCYP3A4などのCYP発現が低く、AFP、DLK1などの胎児肝細胞マーカーが高いことがわかった。iHOは胎児肝細胞に近い発現プロファイルを持ち、PHHに対しても2D-iPS-Hepと比べて相対的に類似した発現プロファイルを持つことが示された。
【0056】
実施例4 シングルセル解析でiHOは肝細胞様分画と胆管細胞様分画を持つ:
シングルセルRNA-seq解析でiHOはALBなどの肝細胞系譜遺伝子を高発現する肝細胞様(Hepatocyte-like)分画とKRT19などの胆管細胞系譜遺伝子を高発現する胆管細胞様(Cholangiocyte-like)分画の二分画を有していた(図5A)。肝細胞様分画ではALBのほか、AHSG、TF、C3などのHepatocyteマーカー遺伝子を高発現し、AFP、DLK1、GPC3などの胎児肝細胞関連遺伝子の発現も高いのが特徴的であった(図5B)。一方、胆管細胞様分画ではKRT19、KRT7、EPCAMなどの胆管細胞系譜遺伝子に加えて、CDX2、ISX、DPP4などの腸管上皮細胞系譜遺伝子も高発現していた(図5B)。二次元培養のiPSC由来肝細胞では他臓器である腸管上皮細胞系譜遺伝子を共発現してしまうことがこれまでに報告され、三次元培養を行ったiHOにおいても、その特徴は胆管細胞様分画に残されていたが、肝細胞様分画ではほぼ消失していると考えられた。また肝細胞様分画には増殖関連遺伝子であるMKI67やPCNAを高発現する亜分画が存在し(図5C)、増殖性と肝細胞形質とを併せ持つ細胞の存在がシングルセルレベルでも示唆された。また既報のヒト胎児肝臓のシングルセルデータ(Cao et al. Science, 2020)と統合するとiHOの一部は胎児肝細胞(Fetal hepatocyte)と重なることが示された(図5D)。免疫染色などの結果を総合し、iHOの中でも特にブドウ状オルガノイド(Grape-like organoid)はそのほぼ全てが肝細胞様分画の細胞群により構成されることが示唆され、肝細胞(Hepatocyte)単一のオルガノイド(organoid)と見なしうると考えられた。

図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図5C
図5D