(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172157
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】地震動検知装置、地震動検知方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01V 1/28 20060101AFI20241205BHJP
G01V 1/01 20240101ALI20241205BHJP
【FI】
G01V1/28
G01V1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089699
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】片上 智史
(72)【発明者】
【氏名】岩田 直泰
【テーマコード(参考)】
2G105
【Fターム(参考)】
2G105AA03
2G105BB01
2G105DD01
2G105EE01
2G105MM02
(57)【要約】
【課題】発生した地震による地震波に含まれるS波の到来時刻をより正確に検知することができる地震動検知装置、地震動検知方法、およびプログラムを提供することである。
【解決手段】震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得する振動波形取得部と、前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知するP波到来時刻検知部と、前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換する振動波形変換部と、前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知するS波到来時刻検知部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得する振動波形取得部と、
前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知するP波到来時刻検知部と、
前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換する振動波形変換部と、
前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知するS波到来時刻検知部と、
を備える地震動検知装置。
【請求項2】
前記P波到来時刻検知部は、前記第1の振動波形に基づいて逐次算出した、第1の短時間移動平均と、第1の長時間移動平均と比が、第1の閾値を超えた時刻を前記P波の到来時刻として検知し、
前記S波到来時刻検知部は、前記第2の振動波形に基づいて逐次算出した、第2の短時間移動平均と、第2の長時間移動平均と比が、第2の閾値を超えた時刻を前記S波の到来時刻として検知する、
請求項1に記載の地震動検知装置。
【請求項3】
前記振動波形変換部は、到来した前記P波の振動を表す波形を前記第1の振動波形に付加することによって、前記第1の振動波形を前記第2の振動波形に変換する、
請求項2に記載の地震動検知装置。
【請求項4】
前記振動波形変換部は、
前記P波の到来時刻から第1の時間までの期間の全ての前記第1の振動波形の中から、到来した前記P波の代表値を選択し、
選択した前記代表値に基づく前記P波の振動を表す波形を前記第1の振動波形に付加することによって、前記第1の振動波形を前記第2の振動波形に変換する、
請求項3に記載の地震動検知装置。
【請求項5】
前記振動波形変換部は、
前記P波の到来時刻から前記第1の時間までの期間に含まれる全ての振動データの中から、所定のパーセンタイル値の振動データを前記代表値として選択し、
選択した前記代表値に対して所定の値の範囲のランダムノイズを乗算することによって、少なくとも前記第2の長時間移動平均の算出を行う第1の期間分の前記P波の振動を表す波形を生成し、
前記第1の振動波形に含まれる前記第1の期間分の前記振動データを、生成した前記P波の振動を表す波形が表す振動データに置き換えることによって、前記第1の振動波形を前記第2の振動波形に変換する、
請求項4に記載の地震動検知装置。
【請求項6】
前記P波の到来時刻と、前記S波の到来時刻とのそれぞれを通知する地震波到来通知部、をさらに備える、
請求項5に記載の地震動検知装置。
【請求項7】
地震動検知装置のコンピュータが、
震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得し、
前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知し、
前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換し、
前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知する、
地震動検知方法。
【請求項8】
地震動検知装置のコンピュータに、
震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得させ、
前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知させ、
前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換させ、
前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動検知装置、地震動検知方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
地震による被害の軽減を図るためには、発生した地震による地震波をリアルタイムに検知し、地震による地震動が到来する時刻を算出することが必要である。このため、従来から、地震による地震波の情報に基づいて、地震動が到来する時刻をリアルタイムに算出する手法が提案されている。この手法では、地震波におけるSTA(Short Term Average:短時間移動平均)と、LTA(Long Term Average:長時間移動平均)との比(=STA/LTA)に基づいて、ある地点に地震動が到来した時刻を算出するものである。この手法は、地震動が到来した時刻を算出する際の計算量が少ないことから、発生した地震に対する警報を早期に発令するための早期地震検知システムなど、地震に関連する数多くのリアルタイムシステムに利用いられている。
【0003】
ところで、発生した地震による地震波には、地震波の進行方向に振動することによって地面の上下動(いわゆる、縦揺れ)の主な要因となる最初に到達する地震波であるP波(Primary wave)と、地震波の進行方向に対して垂直に振動することによって地面の水平動(いわゆる、横揺れ)の主な要因となる二番目に到達する地震波であるS波(Secondary wave)とがある。P波は、地殻内での伝播速度がS波よりも早いため、ある地点にS波よりも早く到来する。一方、S波は、地殻内での伝播速度がP波よりも遅いため、同じある地点にはP波よりも遅く到来するものの、P波よりも揺れが強い場合が多く、大きな被害を及ぼす可能性が高い。なお、地震の警報を出力する際、より伝播速度の速いP波の情報を活用することが、警報の早期性という観点において適切である。この際、P波とS波をリアルタイムに識別する必要がある。すなわち、S波が到来しているにもかかわらず、P波中であると認識して警報の判断を行うと、過大に警報を出力してしまうこととなり、適切ではない。例えば、マグニチュードを推定する際、P波中であるのか、S波中であるのかで、マグニチュードを推定する式を変えるが、P波中かS波中かの識別を誤ると、P波の地震動を用いてマグニチュードを推定する式に対し、より揺れの大きなS波の地震動を用いると、マグニチュードを過大に推定し、不適切な警報出力が行われることとなる。
【0004】
ここで、発生した地震によるS波のリアルタイム検知は、P波のリアルタイム検知よりも難易度が高い。これは、P波のリアルタイム検知では、地震が発生していない通常状態における地面の震動の特徴(振動波形の振幅や周波数特性など)と、発生した地震のP波による地面の震動の特徴とに基づいて検知をすることができるのに対して、S波のリアルタイム検知では、P波による地面の震動の特徴に含まれているS波による地面の震動の特徴を検知する必要があるからである。つまり、P波のリアルタイム検知では、通常状態の振動の特徴は、ほとんど地面が震動していないことを表しているため、P波の振動の特徴との差が大きいのに対して、S波のリアルタイム検知では、P波とS波とはともに地震波であるため、検知されているP波の振動の特徴とS波の振動の特徴との差が小さく、P波に紛れているS波の振動の特徴を切り分けることが難しいからである。
【0005】
これに関して、例えば、特許文献1には、STAとLTAとの比(=STA/LTA)を用いて地震動が到来する時刻をリアルタイムに算出する手法を利用して、S波の地震動が到来する時刻を予測する予測方法が提案されている。特許文献1に提案されている予測方法では、予め、過去に発生した複数の地震のデータから、各々の地震の計測地点におけるP波の観測波形から算出したSTA/LTAの最大値と計測地点におけるP波の継続時間との関係式を求めておき、地震発生時に、予測の対象となる現地の地震計がP波の到来を検知した後、連続的に当該P波を計測するとともにSTA/LTAを算出して、順次得られるSTA/LTAの最大値と関係式とからP波の継続時間を更新し、P波の継続時間とP波の検知時刻を用いてS波の到来時刻を予測している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に提案されている予測方法は、あくまで過去に発生した地震の情報からS波が到来する時刻を予測する手法である。言い換えれば、特許文献1に提案されている予測方法は、現在検知している地震波に基づいてS波が到来する時刻を予測するものではない。このため、特許文献1に提案されている予測方法では、予め求めておいたSTA/LTAの最大値と計測地点におけるP波の継続時間との関係式に含まれる誤差が、予測するS波の到来時刻に影響を及ぼしてしまう。つまり、特許文献1に提案されている予測方法では、予め求めておいた関係式に起因する誤差が、予測するS波の到来時刻に含まれてしまい、S波の到来時刻を正確に予測することが行えない場合がある。
【0008】
本発明は、上記の課題認識に基づいてなされたものであり、発生した地震による地震波に含まれるS波の到来時刻をより正確に検知することができる地震動検知装置、地震動検知方法、およびプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る地震動検知装置、地震動検知方法、およびプログラムは、以下の構成を採用した。
(1):この発明の一態様に係る地震動検知装置は、震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得する振動波形取得部と、前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知するP波到来時刻検知部と、前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換する振動波形変換部と、前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知するS波到来時刻検知部と、を備える地震動検知装置である。
【0010】
(2):上記(1)の態様において、前記P波到来時刻検知部は、前記第1の振動波形に基づいて逐次算出した、第1の短時間移動平均と、第1の長時間移動平均と比が、第1の閾値を超えた時刻を前記P波の到来時刻として検知し、前記S波到来時刻検知部は、前記第2の振動波形に基づいて逐次算出した、第2の短時間移動平均と、第2の長時間移動平均と比が、第2の閾値を超えた時刻を前記S波の到来時刻として検知するものである。
【0011】
(3):上記(2)の態様において、前記振動波形変換部は、到来した前記P波の振動を表す波形を前記第1の振動波形に付加することによって、前記第1の振動波形を前記第2の振動波形に変換するものである。
【0012】
(4):上記(3)の態様において、前記振動波形変換部は、前記P波の到来時刻から第1の時間までの期間の全ての前記第1の振動波形の中から、到来した前記P波の代表値を選択し、選択した前記代表値に基づく前記P波の振動を表す波形を前記第1の振動波形に付加することによって、前記第1の振動波形を前記第2の振動波形に変換するものである。
【0013】
(5):上記(4)の態様において、前記振動波形変換部は、前記P波の到来時刻から前記第1の時間までの期間に含まれる全ての振動データの中から、所定のパーセンタイル値の振動データを前記代表値として選択し、選択した前記代表値に対して所定の値の範囲のランダムノイズを乗算することによって、少なくとも前記第2の長時間移動平均の算出を行う第1の期間分の前記P波の振動を表す波形を生成し、前記第1の振動波形に含まれる前記第1の期間分の前記振動データを、生成した前記P波の振動を表す波形が表す振動データに置き換えることによって、前記第1の振動波形を前記第2の振動波形に変換するものである。
【0014】
(6):上記(5)の態様において、前記P波の到来時刻と、前記S波の到来時刻とのそれぞれを通知する地震波到来通知部、をさらに備えるものである。
【0015】
(7):この発明の一態様に係る地震動検知方法は、地震動検知装置のコンピュータが、震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得し、前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知し、前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換し、前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知する、地震動検知方法である。
【0016】
(8):この発明の一態様に係るプログラムは、地震動検知装置のコンピュータに、震動を検知する検知器により逐次出力された前記震動を表す時系列の第1の振動波形を逐次取得させ、前記第1の振動波形に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知させ、前記P波の到来時刻に基づいて、前記第1の振動波形を第2の振動波形に変換させ、前記第2の振動波形に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知させる、プログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、発生した地震による地震波に含まれるS波の到来時刻をより正確に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る地震動検知装置の構成の一例、および地震動検知装置の使用環境の一例を示す図である。
【
図2】地震動検知装置において地震波の到来時刻を検知する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図3】地震動検知装置において地震波の到来時刻を検知する処理の一例(その1)を示す図である。
【
図4】地震動検知装置において地震波の到来時刻を検知する処理の一例(その2)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し、本発明の地震動検知装置、地震動検知方法、およびプログラムの実施形態について説明する。
【0020】
[地震動検知装置の構成]
図1は、実施形態に係る地震動検知装置の構成の一例、および地震動検知装置の使用環境の一例を示す図である。
図1には、例えば、地震計Sと、地震動検知装置100とが別々の構成要素である場合の構成、つまり、システムとしての構成を示しているが、地震計Sと、地震動検知装置100とは、一体の構成であってもよい。
【0021】
地震計Sは、例えば、設置された地点における震動を検知する。地震による震動を表す地震波には、地震波の進行方向に振動することによって地面の上下動(いわゆる、縦揺れ)の主な要因となる最初に到達する地震波であるP波(Primary wave)と、地震波の進行方向に対して垂直に振動することによって地面の水平動(いわゆる、横揺れ)の主な要因となる二番目に到達する地震波であるS波(Secondary wave)とがある。このため、地震計Sは、P波とS波とのそれぞれを検知するための三軸の振動センサを備える。地震計Sが備える振動センサ(以下、単に「地震計S」という)は、地震の発生の有無にかかわらず、所定のサンプリング周期で、つまり、時間間隔ごとに、設置された地点における震動を検知する。地震計Sは、検知した震動を表す波形(振動波形)の情報を逐次(リアルタイムに)、地震動検知装置100に出力する。つまり、地震計Sは、地震動検知装置100においてはノイズ(バックグラウンドノイズ)として扱われる、地震が発生していない通常状態において検知した地面の震動を表す振動波形の情報も、リアルタイムに地震動検知装置100に出力する。例えば、地震計Sが100[Hz]のサンプリング周波数で震動を検知する場合、地震計Sが振動波形の情報を出力する所定の時間間隔は、10[ミリ秒]間隔である。地震計Sが出力する振動波形の情報は、例えば、検知した震動の大きさ(速度や加速度)を表すデータ(以下、「振動データ」という)に、この振動データを検知した時刻の情報が対応付けられている。
【0022】
地震計Sは、既存の地震計と同様の構成である。従って、地震計Sの構成や、震動を検知する方法、出力する振動波形の情報におけるデータの構造などに関する詳細な説明は省略する。
【0023】
地震計Sは、「震動を検知する検知器」の一例である。
【0024】
地震動検知装置100は、例えば、地震計Sが設置された地点や、地震計Sの近傍に設置され、地震計Sがリアルタイムに検知して出力された振動波形の情報に基づいて、地震の発生の有無を検知する。地震動検知装置100は、地震計Sにより出力された振動波形の情報を、地震による地震波の情報として、地震動の到来時刻を検知する。地震動検知装置100は、地震動の到来を検知したことを、例えば、地震警報装置や早期地震検知システムなど(以下、地震警報装置と早期地震検知システムとを区別せずに、「早期地震検知システム」という)に通知する。これにより、地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムでは、地震動検知装置100からの地震動の到来の通知に基づいて、地震動の影響が及ぶ地域に対して、地震警報を早期に発令することができる。
【0025】
地震動検知装置100は、例えば、振動波形取得部110と、記憶部120と、P波到来時刻検知部130と、振動波形変換部140と、S波到来時刻検知部150と、地震波到来通知部160と、を備える。
【0026】
上記の地震動検知装置100が備える構成要素のうち、記憶部120を除く構成要素は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。これらの構成要素の機能のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。これらの構成要素の機能のうち一部または全部は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め地震動検知装置100が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が地震動検知装置100に備えるドライブ装置に装着されることで地震動検知装置100が備える記憶装置にインストールされてもよい。地震動検知装置100は、例えば、パーソナルコンピュータなどのコンピュータ装置や記憶装置に実現されてもよい。
【0027】
振動波形取得部110は、地震計Sにより出力された振動波形の情報を逐次取得する。振動波形取得部110は、取得した振動波形の情報を、P波到来時刻検知部130と振動波形変換部140とのそれぞれに逐次出力する。振動波形取得部110は、取得した振動波形の情報を、記憶部120に逐次記憶させ、P波到来時刻検知部130や振動波形変換部140が、記憶部120に記憶された振動波形の情報を読み出すことによって、取得した振動波形の情報をP波到来時刻検知部130と振動波形変換部140とのそれぞれに出力する構成であってもよい。この場合、振動波形取得部110は、例えば、取得した振動波形の情報を記憶部120の記憶容量まで記憶させた後、最も古い振動波形の情報に新たに取得した振動波形の情報を上書きすることによって、記憶部120の記憶容量にかかわらずに常に最新の振動波形の情報から所定期間分(例えば、地震の発生を早期に検知するために必要な期間分)の振動波形の情報を記憶しておく構成にすることが考えられる。
【0028】
記憶部120は、地震動検知装置100が備えるそれぞれの構成要素が処理を行う際に用いるデータや情報を記憶する。記憶部120は、例えば、HDDやフラッシュメモリなどの記憶装置である。
図1においては、記憶部120が地震動検知装置100に備えられた構成を示しているが、記憶部120は、地震動検知装置100に接続されている外部の記憶装置であってもよい。
【0029】
P波到来時刻検知部130は、振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報に基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知する。P波到来時刻検知部130におけるP波の到来時刻の検知は、振動波形取得部110により出力された振動波形の情報に含まれる振動データに対してSTA(Short Term Average:短時間移動平均)と、LTA(Long Term Average:長時間移動平均)とのそれぞれを逐次算出し、算出したSTAとLTAとの比(=STA/LTA)を逐次算出することによって行う。
【0030】
より具体的には、P波到来時刻検知部130は、下式(1)によって、地震計Sによって振動データが検知された時刻kにおけるP波のSTAp(k)を逐次算出し、下式(2)によって、時刻kにおけるP波のLTAp(k)を逐次算出する。
【0031】
【0032】
【0033】
上式(1)および上式(2)において、xiは、振動波形取得部110によりリアルタイムに出力された、時系列の振動データ(以下、「時系列振動データ」という)である。上式(1)および上式(2)において、kは、地震計Sによって時系列振動データxiのそれぞれが検知された時刻である。上式(1)におけるαは、P波のSTAp(k)を算出するための短時間の時間の長さであり、上式(2)におけるβは、P波のLTAp(k)を算出するための長時間の時間の長さである。例えば、短時間αは、0.5[秒]であり、長時間βは、10.0[秒]である。短時間αと長時間βとのそれぞれは、地震動検知装置100に対して、予めパラメータとして設定されている。短時間αと長時間βとのそれぞれは、地震計Sが震動を検知する時間間隔の単位、つまり、サンプリング時間の単位であり、有効なSTAp(k)とLTAp(k)とのそれぞれを求めることができる時間であれば、いかなる時間の長さであってもよい。
【0034】
P波到来時刻検知部130におけるSTAp(k)とLTAp(k)とのそれぞれの算出は、上式(1)および上式(2)による算出に限定されるものではなく、例えば、漸化式などによって算出してもよい。
【0035】
そして、P波到来時刻検知部130は、下式(3)のように、それぞれの時刻kにおけるSTApとLTApとの比(=STAp/LTAp)を逐次算出し、算出したSTApとLTApとの比が、所定の第1の閾値th1を超えた場合に、P波の到来を検知する。つまり、P波到来時刻検知部130は、地震が発生していない通常状態のときの地面の震動(バックグラウンドノイズ)によって求められたLTApの値に対するSTApの値の増加量が第1の閾値th1を超えた場合に、P波が到来したと判定する。第1の閾値th1は、P波が到来したか否かを判定するために、地震動検知装置100に対して、予めパラメータとして設定されている。
【0036】
【0037】
P波到来時刻検知部130は、STApとLTApとの比が第1の閾値th1を超えた時刻k、つまり、上式(3)を最初に満たした時刻kを、P波の到来時刻(以下、「P波到来時刻γ」という)として決定(検知)する。P波到来時刻検知部130は、決定(検知)したP波到来時刻γの情報を、振動波形変換部140と地震波到来通知部160とのそれぞれに出力する。
【0038】
P波到来時刻検知部130は、P波の到来時刻を検知する既存の検知装置や検知部と同様の構成であってもよい。つまり、P波到来時刻検知部130は、振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報に基づいて、発生した地震によるP波到来時刻γを検知する構成のものであれば、いかなる構成のものであってもよい。
【0039】
時系列振動データxiは、「第1の振動波形」の一例である。STApは、「第1の短時間移動平均」の一例であり、LTApは、「第1の長時間移動平均」の一例である。P波到来時刻γは、「P波の到来時刻」の一例である。
【0040】
振動波形変換部140は、P波到来時刻検知部130により出力されたP波到来時刻γに基づいて、振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報を、S波到来時刻検知部150が、発生した地震によるS波の到来時刻を検知するために用いる振動波形の情報に変換する。振動波形変換部140は、変換後の振動波形の情報を、S波到来時刻検知部150に逐次出力する。
【0041】
振動波形変換部140がS波到来時刻検知部150に逐次出力する変換後の振動波形の情報には、P波到来時刻γからδまでの時間の振動波形の情報が含まれる。このため、振動波形取得部110が振動波形の情報を記憶部120に記憶させる構成である場合には、振動波形変換部140は、P波到来時刻検知部130によりP波到来時刻γが出力され、γ+δまで経過した後、記憶部120に記憶された振動波形の情報を読み出し、読み出した振動波形の情報に対して変換の処理を行う。一方、振動波形取得部110が振動波形の情報を逐次出力する構成である場合、つまり、振動波形の情報を記憶部120に記憶させる構成ではない場合には、振動波形変換部140は、振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報を、所定期間分(例えば、地震の発生を早期に検知するために必要な期間分)、記憶部120に記憶させる。この場合、振動波形変換部140は、振動波形取得部110が振動波形の情報を記憶部120に記憶させる構成である場合と同様に、記憶部120の記憶容量にかかわらずに常に最新の振動波形の情報から所定期間分の振動波形の情報を記憶しておく構成にすることが考えられる。そして、振動波形変換部140は、P波到来時刻検知部130によりP波到来時刻γが出力された後、自身で記憶部120に記憶させた振動波形の情報を読み出して変換の処理を行う。
【0042】
振動波形変換部140における振動波形の情報の変換では、振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報に対して、到来したP波の振動を表す(つまり、P波の振動の大きさ(速度や加速度)を表す)意図的なノイズを付加することによって、P波到来時刻検知部130によってP波が到来したと判定された振動波形の情報をノイズとして扱うことができるようにする。言い換えれば、P波の振動波形の成分をノイズとして見なすことができるようにする。到来したP波の振動を表す意図的なノイズは、「P波の振動を表す波形」の一例である。
【0043】
より具体的には、振動波形変換部140は、まず、P波到来時刻γから時刻γ+δまでの期間の時系列振動データxiに基づいて、P波の代表値qを算出(選択)する。このとき、振動波形変換部140は、例えば、下式(4)によって、P波到来時刻γから時刻γ+δまでの期間の全ての時系列振動データxiの中から、所定の割合(パーセンタイル値)に位置する振動データの値を、P波の代表値qとして算出(選択)する。
【0044】
【0045】
上式(4)では、所定の割合を90%とした、90%のパーセンタイル値を、P波の代表値qとして算出(選択)している。ここで、時間δの長さは、例えば、P波の代表値qの時系列振動データxiを算出(選択)するためのパラメータとして、地震動検知装置100に対して予め設定されている。時間δの長さは、例えば、地震計SがP波に続いてS波を検知することが想定される時間よりも短い時間である。例えば、時間δは、1.0[秒]や、2.0[秒]である。90%のパーセンタイル値のP波の代表値q(以下、「90パーセンタイル値q」ともいう)は、P波到来時刻γから時刻γ+δまでの期間の全ての時系列振動データxiを、値が小さい方から昇順に並べ、最小値を0%とし、最大値を100%としたときに、90%の所に位置する大きい方の時系列振動データxiの値である。言い換えれば、90パーセンタイル値qは、P波到来時刻γから時刻γ+δまでの期間の全ての時系列振動データxiを、値が大きい方から降順に並べ、最大値を0%とし、最小値を100%としたときに、10(=100-90)%の所に位置する大きい方の時系列振動データxiの値である。
【0046】
振動波形変換部140がP波の代表値qの算出(選択)する90パーセンタイル値qは、あくまで一例であり、振動波形変換部140は、90%以外のパーセンタイル値に位置する振動データの値(時系列振動データxiの値)を、P波の代表値qとして算出(選択)してもよい。さらに、振動波形変換部140が算出(選択)するP波の代表値qは、上式(4)に示したようなパーセンタイル値に限定されるものではなく、パーセンタイル値に代えて、例えば、P波到来時刻γから時刻γ+δまでの期間の全ての時系列振動データxiの値のうち、最大値や、平均値、中央値などであってもよい。
【0047】
時間δは、「第1の時間」の一例であり、P波の代表値qや90パーセンタイル値qは、「代表値」の一例である。
【0048】
続いて、振動波形変換部140は、算出(選択)した90パーセンタイル値qに対して、値が0~1の間のランダムノイズNを乗算することによって、P波の振動データを保持した状態でランダムノイズNを有する、少なくとも時刻γ+δ-ηから時刻γ+δまでの期間分のノイズ波形を生成する。ここで、時間ηの長さは、S波到来時刻検知部150が、ランダムノイズNを有するP波の振動データを、地震が発生していない通常状態のときの地面の震動(バックグラウンドノイズ)に相当するものとして扱う(見なす)ためのS波のLTAを少なくとも算出することができる長さの長時間である。例えば、時間ηは、長時間βと同じ時間(例えば、10.0[秒])である。以下の説明においては、「時間η」を「長時間η」ともいう。
【0049】
時刻γ+δ-ηから時刻γ+δまでの期間、つまり、時間ηや長時間ηの期間は、「第1の期間」の一例である。
【0050】
そして、振動波形変換部140は、下式(5)のように、時刻γ+δ-ηから時刻γ+δまでの期間の時系列振動データxiを、生成したノイズ波形が表す振動データに置き換えることにより、時系列振動データxiを、S波到来時刻検知部150がS波の到来時刻を検知するために用いる振動波形の情報である時系列の振動データ(以下、「時系列振動データy」という)に変換する。
【0051】
【0052】
振動波形変換部140は、変換後の振動波形の情報(時系列振動データy)を、S波到来時刻検知部150に逐次出力する。振動波形変換部140は、時系列振動データyを記憶部120に記憶させ、S波到来時刻検知部150が、記憶部120に記憶された時系列振動データyを読み出すことによって、変換後の振動波形の情報をS波到来時刻検知部150に出力する構成であってもよい。この場合、振動波形変換部140は、振動波形取得部110が振動波形の情報を記憶部120に記憶させる構成である場合や、振動波形変換部140自身で振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報を記憶部120に記憶させる構成である場合と同様に、記憶部120の記憶容量にかかわらずに常に最新の振動波形の情報から所定期間分の振動波形の情報を記憶しておく構成にすることが考えられる。ただし、この場合には、振動波形取得部110により逐次出力された振動波形の情報、つまり、変換前の振動波形の情報と、変換後の振動波形の情報とのそれぞれを記憶部120に記憶させる構成となるため、記憶部120の記憶容量を二つの記憶領域に分けて、変換前の振動波形の情報と、変換後の振動波形の情報とのそれぞれを、異なる記憶領域に対応する振動波形の情報を記憶しておく構成にすることが考えられる。
【0053】
時系列振動データyは、「第2の振動波形」の一例である。
【0054】
S波到来時刻検知部150は、振動波形変換部140により逐次出力された変換後の振動波形の情報(時系列振動データy)に基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知する。S波到来時刻検知部150におけるS波の到来時刻の検知は、P波到来時刻検知部130と同様に、振動波形変換部140によって変換された振動波形の情報に含まれる振動データに対してSTAと、LTAとのそれぞれを逐次算出し、算出したSTAとLTAとの比(=STA/LTA)を逐次算出することによって行う。
【0055】
より具体的には、S波到来時刻検知部150は、下式(6)によって、地震計Sによって振動データが検知された時刻kにおけるS波のSTAs(k)を逐次算出し、下式(7)によって、時刻kにおけるS波のLTAs(k)を逐次算出する。
【0056】
【0057】
【0058】
上式(6)および上式(7)において、yiは、振動波形変換部140によりリアルタイムに出力された時系列振動データyである。上式(6)および上式(7)においても、kは、時系列振動データyに対応付けられている、変換前の時系列振動データxi(つまり、時系列振動データyの元となる時系列振動データxi)のそれぞれが地震計Sによって検知された時刻である。上式(6)におけるζは、S波のSTAs(k)を算出するための短時間の時間の長さであり、上式(7)におけるηは、S波のLTAs(k)を算出するための長時間の時間の長さである。短時間ζは、P波のSTAp(k)を算出するための短時間αと同じ短時間(例えば、0.5[秒])であってもよいし、異なる短時間であってもよい。長時間ηは、P波のLTAp(k)を算出するための長時間βと同じ長時間(例えば、10.0[秒])であってもよいし、異なる長時間であってもよい。短時間ζと長時間ηとのそれぞれも、短時間αと長時間βとのそれぞれと同様に、地震動検知装置100に対して、予めパラメータとして設定されている。短時間ζと長時間ηとのそれぞれも、短時間αと長時間βとのそれぞれと同様に、地震計Sが震動を検知する時間間隔の単位(サンプリング時間の単位)であり、有効なSTAs(k)とLTAs(k)とのそれぞれを求めることができる時間であれば、いかなる時間の長さであってもよい。
【0059】
S波到来時刻検知部150におけるSTAs(k)とLTAs(k)とのそれぞれの算出も、上式(6)および上式(7)による算出に限定されるものではなく、P波到来時刻検知部130におけるSTAp(k)とLTAp(k)とのそれぞれの算出と同様に、例えば、漸化式などによって算出してもよい。
【0060】
そして、S波到来時刻検知部150は、下式(8)のように、それぞれの時刻kにおけるSTAsとLTAsとの比(=STAs/LTAs)を逐次算出し、算出したSTAsとLTAsとの比が、所定の第2の閾値th2を超えた場合に、S波の到来を検知する。つまり、S波到来時刻検知部150は、P波が到来したと判定された振動波形の情報(P波の振動データ)を地震が発生していない通常状態のときの地面の震動(バックグラウンドノイズ)に相当するものとして扱うことによって求められたLTAsの値に対するSTAsの値の増加量が第2の閾値th2を超えた場合に、S波が到来したと判定する。第2の閾値th2は、S波が到来したか否かを判定するために、地震動検知装置100に対して、予めパラメータとして設定されている。
【0061】
【0062】
S波到来時刻検知部150は、STAsとLTAsとの比が第2の閾値th2を超えた時刻k、つまり、上式(8)を最初に満たした時刻kを、S波の到来時刻(以下、「S波到来時刻ψ」という)として決定(検知)する。S波到来時刻検知部150は、決定(検知)したS波到来時刻ψの情報を、地震波到来通知部160に出力する。
【0063】
S波到来時刻検知部150は、振動波形変換部140により逐次出力された変換後の振動波形の情報(時系列振動データy)に基づいて、発生した地震によるS波到来時刻ψを検知する構成のものであれば、例えば、P波到来時刻検知部130や、既存の検知装置、検知部と同様の構成であってもよい。
【0064】
時系列振動データyiは、「第2の振動波形」の一例である。STAsは、「第2の短時間移動平均」の一例であり、LTAsは、「第2の長時間移動平均」の一例である。S波到来時刻ψは、「S波の到来時刻」の一例である。
【0065】
地震波到来通知部160は、P波到来時刻検知部130により出力されたP波到来時刻γと、S波到来時刻検知部150により出力されたS波到来時刻ψとのそれぞれに応じて、地震動(P波あるいはS波)の到来を検知したことを通知するための地震波到来情報を出力する。地震波到来通知部160は、地震波到来情報を、例えば、地震動検知装置100に接続されている早期地震検知システムなどに出力する。このとき、地震波到来通知部160は、早期地震検知システムなどがネットワークによって地震動検知装置100に接続されている場合には、このネットワークを介して地震波到来情報を送信する。ネットワークは、例えば、インターネット、WAN(Wide Area Network)、LAN(Local Area Network)、プロバイダ装置、無線基地局などを含む。
【0066】
地震波到来情報には、少なくとも地震計Sに地震動(P波あるいはS波)が到来した時刻を表す情報が含まれている。地震波到来情報には、例えば、検知した地震動の大きさ(速度や加速度)を表す情報が含まれてもよい。これにより、地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムなどは、地震動の影響が及ぶ地域に対して、地震警報を早期に発令することができる。
【0067】
[地震動検知装置における地震動の到来時刻の検知処理]
次に、地震動検知装置100による地震動の到来時刻の検知処理の一例について説明する。
図2は、地震動検知装置100において地震波(地震動)の到来時刻を検知する処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図3および
図4は、地震動検知装置100において地震波(地震動)の到来時刻を検知する処理の一例を示す図である。
図3および
図4には、地震動検知装置100が地震波(地震動)の到来時刻を検知する処理を行うそれぞれの段階における地震波の一例を示している。以下の説明においては、
図2に示す地震動検知装置100の処理において、
図3および
図4に示すそれぞれの地震波の一例を適宜参照して説明する。
【0068】
地震動検知装置100において地震波の到来時刻を検知する場合、まず、振動波形取得部110は、地震計Sにより出力された振動波形の情報(振動データ)を逐次取得する(ステップS100)。振動波形取得部110は、取得した振動波形の情報(振動データ)を、P波到来時刻検知部130と振動波形変換部140とのそれぞれに逐次出力する。
図3の(a)には、振動波形取得部110が地震計Sから取得した時系列振動データx
iの一例を示している。
図3の(a)に示した時系列振動データx
iでは、地震計Sが検知した三軸のそれぞれの方向への振動の速度[メートル/秒:m/s]を合わせて、絶対値で示している。
図3の(a)においては、説明を容易にするため、ある時刻を基準の時刻k=0[秒]とし、時刻k=0[秒]~120[秒]までの間の時系列振動データx
iを取得した状態を示しているが、上述したように、地震計Sは、振動データを逐次(リアルタイムに)出力するため、振動波形取得部110が取得した時系列振動データx
iは、現時点までのものである。
図3の(b)には、
図3の(a)に示した時刻kの期間のうち、時刻k=40[秒]~90[秒]までの期間の時系列振動データx
iの一例を示している。つまり、
図3の(b)は、
図3の(a)における時刻kの期間を拡大して示している。振動波形取得部110は、取得した時系列振動データx
iを、P波到来時刻検知部130と振動波形変換部140とのそれぞれに逐次出力する。
【0069】
P波到来時刻検知部130は、振動波形取得部110により逐次出力された時系列振動データxiに基づいて、発生した地震によるP波の到来時刻を検知する。このため、P波到来時刻検知部130は、まず、それぞれの時刻kの時系列振動データxiから、上式(1)によってP波のSTAp(k)を算出し、上式(2)によってP波のLTAp(k)を算出する(ステップS102)。
【0070】
続いて、P波到来時刻検知部130は、算出したSTA
pとLTA
pとの比(=STA
p/LTA
p)を逐次算出して第1の閾値th1と比較し、STA
p/LTA
pが第1の閾値th1を最初に超えた時刻k(上式(3)を最初に満たした時刻k)を、P波到来時刻γとして決定(検知)する(ステップS104)。
図3の(c)には、第1の閾値th1=4.5とした場合において、時刻k=26[秒]のときにSTA
p/LTA
pが第1の閾値th1を超えたことにより、このときの時刻kをP波到来時刻γとして決定(検知)した一例を示している。P波到来時刻検知部130は、決定(検知)したP波到来時刻γの情報(
図3の(c)では、26[秒]を表す情報)を、振動波形変換部140と地震波到来通知部160とのそれぞれに出力する。
【0071】
地震波到来通知部160は、P波到来時刻検知部130からP波到来時刻γが出力されたことに応じて、P波の地震動の到来を検知したことを通知する(ステップS106)。このとき、地震波到来通知部160は、P波の地震動の到来を通知する地震波到来情報を、例えば、地震動検知装置100に接続されている早期地震検知システムなどに出力する。これにより、地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムなどは、P波の地震動の影響が及ぶ地域に対して、地震警報を早期に発令することができる。
【0072】
一方、振動波形変換部140は、P波到来時刻検知部130からP波到来時刻γが出力されたことに応じて、振動波形取得部110により逐次出力された時系列振動データx
iを、S波の到来時刻を検知するために用いる時系列振動データy
iに変換する。このため、振動波形変換部140は、まず、上式(4)によって、P波の代表値q(90パーセンタイル値q)の時系列振動データx
iを算出(選択)する(ステップS108)。
図4の(a)には、P波到来時刻γから時刻k=γ+δ(時間δ=2[秒])までの期間の全ての時系列振動データx
iの中から90パーセンタイル値qの時系列振動データx
iを算出(選択)する一例を示している。
【0073】
続いて、振動波形変換部140は、算出(選択)した90パーセンタイル値qに対して、上式(5)のようにランダムノイズNを乗算(付加)し、時系列振動データx
iを時系列振動データy
iに変換する(ステップS110)。
図4の(b)には、時刻k=40[秒]~γ+δ(時間δ=2[秒])までの期間の時系列振動データx
iに付加して変換した時系列振動データy
iの一例を示している。振動波形変換部140は、変換後の時系列振動データy
iを、S波到来時刻検知部150に逐次出力する。
【0074】
ここで、
図2に示した地震動検知装置100の処理のフローチャートでは、ステップS106の処理におけるP波の地震動の到来の通知と、ステップS108およびステップS110の処理における時系列振動データy
iの変換とを、この順番で行っている場合の一例を示しているが、ステップS106の処理と、ステップS108およびステップS110の処理とは、この順番に限らず、例えば、同時であってもよい。
【0075】
S波到来時刻検知部150は、振動波形変換部140により逐次出力された変換後の時系列振動データyiに基づいて、発生した地震によるS波の到来時刻を検知する。このため、S波到来時刻検知部150は、まず、それぞれの時刻kの時系列振動データyiから、上式(6)によってS波のSTAs(k)を算出し、上式(7)によってS波のLTAs(k)を算出する(ステップS112)。
【0076】
続いて、S波到来時刻検知部150は、算出したSTA
sとLTA
sとの比(=STA
s/LTA
s)を逐次算出して第2の閾値th2と比較し、STA
s/LTA
sが第2の閾値th2を最初に超えた時刻k(上式(8)を最初に満たした時刻k)を、S波到来時刻ψとして決定(検知)する(ステップS114)。
図4の(c)には、第2の閾値th2=3.5とした場合において、時刻k=38[秒]のときにSTA
s/LTA
sが第2の閾値th2を超えたことにより、このときの時刻kをS波到来時刻ψとして決定(検知)した一例を示している。S波到来時刻検知部150は、決定(検知)したS波到来時刻ψの情報(
図4の(c)では、38[秒]を表す情報)を、地震波到来通知部160に出力する。
【0077】
地震波到来通知部160は、S波到来時刻検知部150からS波到来時刻ψが出力されたことに応じて、S波の地震動の到来を検知したことを通知する(ステップS116)。このとき、地震波到来通知部160は、S波の地震動の到来を通知する地震波到来情報を、例えば、地震動検知装置100に接続されている早期地震検知システムなどに出力する。
【0078】
このような構成および処理によって地震動検知装置100は、地震計Sによりリアルタイムに出力された振動波形の情報に対して、従来から採用されているSTAとLTAとの比(=STA/LTA)を用いてP波の到来時刻を決定(検知)する。さらに、地震動検知装置100は、P波の到来時刻を決定(検知)した後、P波が到来したと判定された振動波形の情報をノイズとして扱う(P波の振動波形の成分をノイズとして見なす)ことができるように、振動波形の情報に対して意図的なノイズを付加し、従来から採用されているSTAとLTAとの比(=STA/LTA)を用いてS波の到来時刻を決定(検知)する。これにより、地震動検知装置100では、発生した地震による地震波に含まれるP波の到来時刻に加えて、S波の到来時刻もリアルタイムに検知することができる。しかも、地震動検知装置100においてS波の到来時刻を決定(検知)する方法は、従来から採用されており、より正確に到来時刻を検知する方法として確立されている方法である。このため、地震動検知装置100では、発生した地震による地震波に含まれるS波の到来時刻を、より正確に検知することができる。
【0079】
そして、地震動検知装置100では、P波の到来時刻と、S波の到来時刻とのそれぞれを決定(検知)したことを通知するため、地震波到来情報を、例えば、地震動検知装置100に接続されている早期地震検知システムなどに出力する。しかも、地震動検知装置100では、P波の到来時刻と、S波の到来時刻とのそれぞれをリアルタイムに正確に検知することができるため、地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムは、P波とS波とを正確に区別した状態で、P波に対応するマグニチュードの推定式と、S波に対応するマグニチュードの推定式とのそれぞれの推定式を用いて、より正確に地震のマグニチュードを推定することができる。言い換えれば、地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムでは、P波の振動に紛れているS波の振動を含めて地震のマグニチュードを推定してしまったことによって起こり得る、誤報を発してしまう可能性を低減させることができる。さらに、地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムは、P波の到来時刻と、S波の到来時刻との差に基づいて、発生した地震の震源距離や震源位置などを早期に、より正確に推定することができ、発令する地震警報の信頼性や精度の向上を図ることができる。
【0080】
上記に述べたとおり、実施形態の地震動検知装置100によれば、地震計Sによりリアルタイムに出力された振動波形の情報に基づいてP波の到来時刻を決定(検知)した後、振動波形の情報に対して意図的なノイズを付加することによって、P波が到来したと判定された振動波形の情報をノイズとして扱って、S波の到来時刻も、リアルタイムに、より正確に検知する。これにより、実施形態の地震動検知装置100を採用した早期地震検知システムでは、発令する地震警報の信頼性や精度の向上を図ることができる。
【0081】
上述した実施形態では、
図3および
図4において、地震計Sにより出力された振動波形の情報(振動データ)の一例として、時系列振動データx
iや時系列振動データy
iが、三軸のそれぞれの方向への振動の速度[m/s]を合わせて絶対値で示したものを説明した。しかしながら、地震計Sが検知して出力する振動波形の情報は、上述した振動の速度を絶対値で示したものに限定されるものではなく、時系列の振動波形を表す情報であれば、いかなる情報(振動データ)であってもよい。この場合における地震動検知装置100による地震動の到来時刻の検知処理は、上述した実施形態の地震動検知装置100による地震動の到来時刻の検知処理と等価なものになるようにすればよい。従って、振動波形の情報が時系列の振動の速度を絶対値で示した振動データ以外である場合の地震動検知装置100による地震動の到来時刻の検知処理に関する詳細な説明は省略する。
【0082】
上述した実施形態では、地震計Sが三軸のそれぞれの方向の振動を検知するものの、地震動検知装置100では、それぞれの方向の振動データを区別せずに地震動の到来時刻の検知処理を行う場合について説明した。しかし、地震動検知装置100は、それぞれの方向の振動データを区別して(つまり、地面の上下動(縦揺れ)と水平動(横揺れ)とを区別して)、それぞれの地震動の到来時刻の検知処理を行ってもよい。つまり、地震動検知装置100は、振動波形取得部110により取得された振動波形の情報に含まれるP波の振動波形の情報に基づいてP波の到来時刻を検知し、振動波形取得部110により取得された振動波形の情報に含まれるS波の振動波形の情報に基づいてS波の到来時刻を検知してもよい。この場合、振動波形取得部110は、地震計Sにより出力された振動波形の情報をそれぞれの方向ごとに逐次取得する。そして、P波到来時刻検知部130は、P波の振動波形の情報に基づいてP波の到来時刻を検知する。その後、振動波形変換部140は、P波の振動波形の情報をS波の振動波形の情報に切り替え、P波到来時刻検知部130により出力されたP波到来時刻γに基づいて、S波の振動波形の情報に含まれるP波の代表値qを算出(選択)し、S波の振動波形の情報に対してランダムノイズNを乗算することによって振動波形の情報を変換する。そして、S波到来時刻検知部150は、変換後のS波の振動波形の情報に基づいてS波の到来時刻を検知する。このような場合の地震動検知装置100の構成、および地震動の到来時刻の検知処理は、上述した地震動検知装置100の構成や地震動の到来時刻の検知処理と等価なものになるようにすればよく、上述した説明に基づいて容易に考えることができる。従って、この場合の地震動検知装置100の構成や地震動の到来時刻の検知処理に関する詳細な説明は省略する。
【0083】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形および置換を加えることができる。
【符号の説明】
【0084】
100・・・地震動検知装置
110・・・振動波形取得部
120・・・記憶部
130・・・P波到来時刻検知部
140・・・振動波形変換部
150・・・S波到来時刻検知部
160・・・地震波到来通知部
S・・・地震計