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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172164
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】紡機における繊維束集束装置
(51)【国際特許分類】
   D01H 5/72 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
D01H5/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089708
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】芦崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】河合 基宏
(72)【発明者】
【氏名】林 久秋
【テーマコード(参考)】
4L056
【Fターム(参考)】
4L056AA01
4L056CA06
4L056CA16
4L056CA22
4L056FA17
(57)【要約】
【課題】最終送出ローラ対から送出された後に繊維束がフリーの状態になっている距離を短くできる紡機における繊維束集束装置を提供すること。
【解決手段】繊維束集束装置における吸引パイプ15の上流端部31は、最終送出ローラ対のニップ点での共通接線Lよりもフロントボトムローラ13a側に位置し、かつ気流を吸引スリット27に導入する導入面31cと、導入面31cと交差するとともに吸引パイプ15の内面よりも外面側に位置し、かつ、気流の流路を導入面31cでの流路より拡張する流路拡張面31bと、を備える。導入面31cに沿う第1仮想線D1と共通接線Lとがなす第1角度は、流路拡張面31bに沿う第2仮想線D2と共通接線Lとがなす第2角度θ2よりも小さい。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボトムローラ及びトップローラを備える最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた吸引パイプと、
前記吸引スリットを被覆するように前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトと、を備え、
前記吸引スリットへ流れる気流によって前記繊維束を前記通気搬送ベルトに吸着しつつ集束して、前記繊維束を前記通気搬送ベルトによって搬送方向に搬送する紡機における繊維束集束装置であって、
前記吸引スリットにおける前記搬送方向での上流端部は、
前記吸引パイプにおける前記ボトムローラに対向する曲面部に設けられるとともに、
前記最終送出ローラ対のニップ点での共通接線よりも前記ボトムローラ側に位置し、かつ前記気流を前記吸引スリットに導入する導入面と、
前記導入面と交差するとともに前記吸引パイプの内面よりも外面側に位置し、かつ、前記気流の流路を前記導入面での流路より拡張する流路拡張面と、を備え、
前記導入面に沿う第1仮想線と前記共通接線との間の第1角度の大きさは、前記流路拡張面に沿う第2仮想線と前記共通接線との間の第2角度よりも小さいことを特徴とする紡機における繊維束集束装置。
【請求項2】
前記導入面は、前記上流端部を形成する傾斜面である請求項1に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項3】
前記傾斜面は、平坦面である請求項2に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項4】
前記導入面は、共通接線方向に延びる請求項1又は請求項2に記載の紡機における繊維束集束装置。
【請求項5】
前記上流端部は、前記流路拡張面に対し直交し、かつ前記吸引パイプの内面から前記流路拡張面に向けて延びる交差面を備える請求項1又は請求項2に記載の紡機における繊維束集束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡機における繊維束集束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されるように、繊維束集束装置は、精紡機におけるドラフト装置の最終送出ローラ対の下流側に配置されている。繊維束集束装置は、吸引パイプと、通気搬送ベルトと、を備える。
【0003】
吸引パイプには、吸引スリットが形成されている。また、吸引パイプは、接続管を介して吸引ダクトに接続されている。通気搬送ベルトの一部は、吸引パイプに巻き掛けられている。通気搬送ベルトは、例えば、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。
【0004】
精紡機が運転されると、吸引ダクトによる吸引が接続管を介して吸引パイプに及ぶ。すると、吸引スリットにて発生する吸引力が通気搬送ベルトを介して繊維束に及ぶ。これにより、繊維束は、通気搬送ベルトにおける、吸引スリットと対応する位置に吸着されつつ、集束されるとともに、通気搬送ベルトによって搬送される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-87419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
繊維束は、最終送出ローラ対から送出されてから吸引パイプ上の通気搬送ベルトに吸着されるまでの間は、ローラ対などに拘束されないフリーの状態となるため、繊維が乱れやすい。この繊維の乱れを抑制するため、最終送出ローラ対から送出された後は、繊維束がフリーの状態となっている距離を短くするのが好ましい。
【0007】
繊維束は、最終送出ローラ対のニップ点での共通接線に沿って送出される。このため、吸引スリットの上流端部を、共通接線よりもボトムローラ側に拡張して、吸引スリットにて発生する吸引力を高めることで、繊維束を通気搬送ベルトに速やかに吸着させて、繊維束がフリーの状態となる距離を短くすることが考えられる。
【0008】
しかし、吸引スリットの上流端部を共通接線よりもボトムローラ側に拡張させると、上流端部に沿って流れた気流が、吸引パイプの内面に沿って渦流になりやすい。すると、渦流の発生によって、上流端部に沿って流れ込む気流の流速が遅くなってしまう。上流端部付近での気流の流速が遅くなると、繊維束が通気搬送ベルトに吸着されるタイミングが遅れるため、吸引スリットの上流端部を拡張したにも関わらず、繊維束がフリーの状態になっている距離は短くならない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するための紡機における繊維束集束装置は、ボトムローラ及びトップローラを備える最終送出ローラ対の下流側に設けられ、吸引スリットを備えた吸引パイプと、前記吸引スリットを被覆するように前記吸引パイプに巻き掛けられた状態で回転されて繊維束を搬送する通気搬送ベルトと、を備え、前記吸引スリットへ流れる気流によって前記繊維束を前記通気搬送ベルトに吸着しつつ集束して、前記繊維束を前記通気搬送ベルトによって搬送方向に搬送する紡機における繊維束集束装置であって、前記吸引スリットにおける前記搬送方向での上流端部は、前記吸引パイプにおける前記ボトムローラに対向する曲面部に設けられるとともに、前記最終送出ローラ対のニップ点での共通接線よりも前記ボトムローラ側に位置し、かつ前記気流を前記吸引スリットに導入する導入面と、前記導入面と交差するとともに前記吸引パイプの内面よりも外面側に位置し、かつ、前記気流の流路を前記導入面での流路より拡張する流路拡張面と、を備え、前記導入面に沿う第1仮想線と前記共通接線との間の第1角度の大きさは、前記流路拡張面に沿う第2仮想線と前記共通接線との間の第2角度よりも小さいことを要旨とする。
【0010】
これによれば、導入面は、共通接線を超えてボトムローラ側に位置するため、導入面が、共通接線を超えてトップローラ側に位置する場合と比べると、吸引スリットへ流れる気流の量を増大できる。また、流路拡張面により、導入面に沿って流れた後の気流の流路が拡張される。このため、導入面に沿って流れた後の気流は、流路拡張面により共通接線方向に対し交差するように流れる。すると、吸引パイプの内面と、気流との間にて、渦流の発生する領域が小さくなる。その結果、吸引パイプの内部に渦流が発生しても、その渦流を原因とした気流の流速の低下を抑制できる。このため、共通接線よりボトムローラ側に上流端部を設けても、繊維束は、通気搬送ベルトに速やかに吸着されるため、繊維束がフリーの状態になっている距離を短くできる。
【0011】
紡機における繊維束集束装置について、前記導入面は、前記上流端部を形成する傾斜面であってもよい。
これによれば、気流は、傾斜面に沿って吸入スリットへ流れる。このため、傾斜面により、気流を吸引スリットへ効率良く導入できる。
【0012】
紡機における繊維束集束装置について、前記傾斜面は、平坦面であってもよい。
これによれば、気流を効率良く吸引スリットへ導入できる。
紡機における繊維束集束装置について、前記導入面は、共通接線方向に延びてもよい。
【0013】
これによれば、気流の流れる方向と共通接線方向が一致するため、繊維束をより速やかに通気搬送ベルトに吸着できる。
紡機における繊維束集束装置について、前記上流端部は、前記流路拡張面に対し直交し、かつ前記吸引パイプの内面から前記流路拡張面に向けて延びる交差面を備えてもよい。
【0014】
これによれば、吸引パイプに流路拡張面を形成する際、吸引パイプの内面を加工して形成する。このとき、交差面を形成しながら流路拡張面を形成できるため、流路拡張面を容易に形成できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、最終送出ローラ対から送出された後に繊維束がフリーの状態になっている距離を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、繊維束集束装置の一部破断概略側面図である。
図2図2は、吸引パイプを示す斜視図である。
図3図3は、吸引スリットを示す拡大図である。
図4図4は、上流端部を示す部分拡大断面図である。
図5図5は、ニップ点及び上流端部を模式的に示す図である。
図6図6は、上流端部を示す拡大断面図である。
図7図7は、比較例でのニップ点及び上流端部を模式的に示す図である。
図8図8は、別例の上流端部を示す拡大断面図である。
図9図9は、その他の別例の上流端部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、紡機における繊維束集束装置を、精紡機における繊維束集束装置に具体化した一実施形態を図1図7にしたがって説明する。
<精紡機の全体>
図1に示すように、精紡機は、繊維束集束装置11と、ドラフト装置12と、を備える。ドラフト装置12は、ボトムローラとしてのフロントボトムローラ13aとトップローラとしてのフロントトップローラ13bとを含む最終送出ローラ対13を備える。フロントボトムローラ13aには、ギヤ部13cが形成されている。ドラフト装置12によってドラフトされた繊維束Fは、最終送出ローラ対13によって繊維束集束装置11に向けて送出される。
【0018】
<繊維束集束装置>
繊維束集束装置11は、吸引パイプ15と、通気搬送ベルト16と、送出部14と、ガイド部17と、を備える。
【0019】
<送出部>
送出部14は、ボトムニップローラ18aと、トップニップローラ19と、を備える。ボトムニップローラ18aは、回転軸18と一体回転可能に設けられるとともに、その回転軸18は、最終送出ローラ対13のフロントボトムローラ13aと平行かつ近接して配設されている。また、回転軸18にはギヤ22が回転軸18と一体回転可能に設けられている。ギヤ部13c及びギヤ22は、中間ギヤ25に噛み合っている。フロントボトムローラ13aの回転力は、ギヤ部13c、中間ギヤ25及びギヤ22を介して回転軸18に伝達される。これにより、ボトムニップローラ18aが回転する。
【0020】
トップニップローラ19は、ボトムニップローラ18aに対して、通気搬送ベルト16を介して押圧している。トップニップローラ19は、支持部材20を介して、図示しないウエイティングアームに支持されている。
【0021】
<吸引パイプ>
精紡機は、機台の長手方向に延びるように配設された図示しない吸引ダクトを備える。吸引パイプ15は吸引ダクトと平行に延びる状態で、接続管26を介して吸引ダクトに接続されている。吸引パイプ15は、ドラフト装置12の最終送出ローラ対13の下流側に設けられるとともに、吸引パイプ15には吸引スリット27が形成されている。
【0022】
吸引パイプ15は、吸引スリット27の形成された案内面28を備える。通気搬送ベルト16は、吸引スリット27を被覆するように、通気搬送ベルト16の一部が吸引パイプ15に巻き掛けられるとともに、一部がガイド部17に巻き掛けられた状態で回転する。通気搬送ベルト16の回転によって、通気搬送ベルト16に吸着された繊維束Fは、搬送方向Vに搬送される。通気搬送ベルト16は、例えば、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。
【0023】
吸引パイプ15は、最終送出ローラ対13のニップ点P1に対して繊維束Fの搬送方向Vの下流側に設けられている。また、吸引パイプ15は、送出部14のニップ点P2に対して繊維束Fの搬送方向Vの上流側に設けられている。
【0024】
図1及び図2に示すように、吸引パイプ15は、当該吸引パイプ15の外面に案内面28を備える。案内面28は、搬送方向Vに沿って緩やかに湾曲するように、搬送方向Vに幅を持つ円弧面である。案内面28は、最終送出ローラ対13のニップ点P1と、送出部14のニップ点P2とを繋ぐように、両方のニップ点P1,P2の間で延びる面である。よって、最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fは、通気搬送ベルト16を介した案内面28によって、最終送出ローラ対13のニップ点P1から送出部14のニップ点P2に向かうように案内される。
【0025】
吸引パイプ15において、上記案内面28を形成する案内面形成部15aは、繊維束Fの搬送方向Vに沿って緩やかに湾曲する板状である。吸引パイプ15は、案内面形成部15aに対向する底部15bを備える。底部15bにおける搬送方向Vへの寸法は、案内面形成部15aにおける搬送方向Vへの寸法より小さい。
【0026】
吸引パイプ15は、搬送方向Vにおける案内面形成部15aの下流端と底部15bの下流端とを繋ぐ第1湾曲部15cを備える。第1湾曲部15cは、ボトムニップローラ18aの周面に沿って円弧状に湾曲する。第1湾曲部15cは、ボトムニップローラ18aの周面に対向する。
【0027】
吸引パイプ15は、搬送方向Vにおける案内面形成部15aの上流端に連続する曲面部15fを備えるとともに、当該曲面部15fと底部15bの上流端とを繋ぐ第2湾曲部15dを備える。第2湾曲部15dは、フロントボトムローラ13aの周面に沿って円弧状に湾曲する。第2湾曲部15dは、フロントボトムローラ13aの周面に対向する。
【0028】
曲面部15fは、最終送出ローラ対13のニップ点P1に対して繊維束Fの搬送方向Vの下流側に配設されている。また、曲面部15fは、搬送方向Vにおいて、最終送出ローラ対13のフロントボトムローラ13aの周面に対向する。
【0029】
<吸引スリット>
図2及び図3に示すように、吸引スリット27の幅方向は、吸引パイプ15の長手方向と一致する。吸引スリット27は、幅方向へ直線状に延びる上流端部31と、上流端部31の幅方向の両端のうちの一端から延びるガイド縁部29と、上流端部31の他端から延びる側縁部30と、ガイド縁部29と側縁部30とに繋がる下流端部32と、を備える。
【0030】
ガイド縁部29は、繊維束Fを集束するための縁部である。ガイド縁部29は、上流端部31に連続する拡幅部29aと、拡幅部29aに連続し、かつスリット幅を狭めるように斜めに延びる下流部29bと、を備える。
【0031】
ここで、吸引パイプ15の長手方向に直交する方向を直交方向Xとする。最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fは、直交方向Xに沿って案内面28における曲面部15f付近を走行する。また、ガイド縁部29の下流部29bは、直交方向Xに対して傾いている。そして、直交方向Xに沿って案内面28を走行した繊維束Fは、拡幅部29a及び下流部29bに沿って走行するようにガイド縁部29にガイドされる。
【0032】
側縁部30は、上流端部31から直線状に延びる直線部30dと、この直線部30dに連続する下流部30cと、を備える。直線部30dは、直交方向Xと平行に直線状に延びる。下流部30cは、直交方向Xに対して傾いている。
【0033】
吸引スリット27のスリット幅は、搬送方向Vの上流から下流に向けて、拡幅部29a及び直線部30dによって徐々に拡幅し、その後、下流部29b及び直線部30dによって徐々に狭くなった後、ガイド縁部29の下流部29b及び側縁部30の下流部30cによってほぼ一定となる。
【0034】
なお、吸引スリット27のガイド縁部29の拡幅部29aと下流部29bの長さの比や、側縁部30の直線部30dと下流部30cの長さの比、あるいは直線部30dの側縁部30全体に対する長さの比は、ガイド縁部29の傾きとの関係あるいは紡出すべき糸に対する要求品質等によって適宜設定される。
【0035】
<上流端部>
上流端部31は、吸引スリット27を吸引パイプ15に形成した後、吸引パイプ15をエンドミルによって加工することにより形成される。具体的には、上流端部31にエンドミルを接触させながら、エンドミルを吸引スリット27の幅方向に移動させることで形成される。
【0036】
図4に示すように、吸引スリット27の上流端部31は、曲面部15fに設けられている。上流端部31は、交差面31aと、流路拡張面31bと、導入面31cと、弧状面31fと、を備える。交差面31a、流路拡張面31b、導入面31c及び弧状面31fは、吸引パイプ15の長手方向において上流端部31の全体に亘って延びる。
【0037】
導入面31cは、吸引パイプ15の外面に対し、弧状面31fを介して滑らかに繋がっている。導入面31cは、繊維束Fの搬送方向Vに沿って上流から下流に向かうに従い下り傾斜する平坦な傾斜面である。
【0038】
図5及び図6に示すように、導入面31cを通過する仮想線であって、直交方向Xに延びる仮想線を第1仮想線D1とする。第1仮想線D1は、ニップ点P1での共通接線Lよりもフロントボトムローラ13a側に位置している。具体的には、第1仮想線D1は、共通接線Lよりも吸引パイプ15の底部15b側に位置している。ここで、共通接線Lの延びる方向を共通接線方向Rとすると、第1仮想線D1の延びる方向は、共通接線方向Rと一致する。そして、導入面31cは、共通接線Lよりもフロントボトムローラ13a側に位置しているため、第1仮想線D1は、共通接線Lよりもフロントボトムローラ13a側に離れて位置している。
【0039】
第1仮想線D1と共通接線Lとの間の角度を第1角度θ1とする。なお、本実施形態では、第1角度θ1が0度であるため、図5及び図6には、第1角度θ1は図示されていない。第1角度θ1を大きくしていくと、導入面31cが吸引パイプ15の内面に至るため、流路拡張面31b及び交差面31aを形成できなくなる。このため、第1角度θ1の最大値は、交差面31a及び流路拡張面31bを形成できる角度で設定される。
【0040】
また、第1角度θ1を小さくしていくと、第1角度θ1の最小値の0度で第1仮想線D1と共通接線Lが平行になる。第1角度θ1が0度になると、導入面31cに沿って気流の流れる方向と、共通接線方向Rとが一致する。すると、ニップ点P1から送出された繊維束Fの搬送方向Vに沿って気流を流すことができるため、好ましい。したがって、本実施形態では、第1角度θ1は0度である。
【0041】
流路拡張面31bは、導入面31cに対し斜めに交差する平坦面である。また、流路拡張面31bは、吸引パイプ15の内面よりも外面側に形成されている。導入面31cは、共通接線Lよりもフロントボトムローラ13a側に位置するため、導入面31cに繋がる流路拡張面31bも、共通接線Lよりフロントボトムローラ13a側に位置している。そして、流路拡張面31bは、導入面31cとの境界を起点にして共通接線Lから離れるように延びている。
【0042】
流路拡張面31bを通過する仮想線であって、直交方向Xに延びる仮想線を第2仮想線D2とする。第2仮想線D2の延びる方向は、共通接線方向Rに交差する。第2仮想線D2と共通接線Lとの間の角度を第2角度θ2とする。第2角度θ2の大きさは、第1角度θ1の大きさより大きい。言い換えると、第1角度θ1の大きさは、第2角度θ2の大きさよりも小さい。
【0043】
第2角度θ2を小さくしていくと、交差面31aを形成できなくなるため、第2角度θ2の最小値は、交差面31aを形成できる角度までである。第2角度θ2を大きくしていくと、交差面31aが吸引パイプ15の外面側に近付くため、流路拡張面31bと交差面31aとの間に、吸引パイプ15の外面側に凹む部分が形成される。すると、その凹む部分に渦流が発生しやすくなるため、好ましくない。したがって、第2角度θ2は、交差面31aと流路拡張面31bとが直交するように設定されるのが好ましい。
【0044】
交差面31aは、吸引パイプ15の内面に交差する面である。交差面31aは、流路拡張面31bに直交する平坦面である。したがって、交差面31aは、流路拡張面31bに対し直交し、かつ吸引パイプ15の内面から流路拡張面31bに向けて延びる。そして、吸引パイプ15の曲面部15fでの内面には、交差面31a及び流路拡張面31bによって段差が形成されている。
【0045】
<実施形態の作用>
精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置12でドラフトされた後、最終送出ローラ対13から繊維束集束装置11に向けて送出される。このとき、図5に示すように、繊維束Fは、最終送出ローラ対13から共通接線Lに沿って送出される。そして、繊維束Fは、最終送出ローラ対13のニップ点P1から送出部14のニップ点P2に向かうように、吸引パイプ15によって吸引されて、通気搬送ベルト16に吸着する。その後、繊維束Fは、通気搬送ベルト16を介して案内面28によって案内されるとともに、通気搬送ベルト16によって搬送方向Vへ搬送される。
【0046】
<比較例>
ここで、比較例の上流端部71について説明する。
図7の矢印Yに示すように、吸引ダクトの吸引作用によって、吸引スリット27の上流端部71へ流れる気流が発生する。比較例の上流端部71は、吸引パイプ15の外面から内面に至るまで延びる平面71aを備える。上流端部71の平面71aは、共通接線Lを超えてフロントボトムローラ13a側に位置しているが、流路拡張面31b及び交差面31aを備えていない。このため、比較例の上流端部71では、平面71aに沿って流れた後の気流は、そのまま共通接線方向Rへ流れる。すると、吸引パイプ15の内面と、気流との間の領域Wには、渦流が発生する。この渦流を原因として、比較例では、吸引パイプ15の内面付近で、気流の流速が低下してしまっている。そして、比較例において、最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fは、共通接線Lよりもフロントトップローラ13b側で通気搬送ベルト16に吸着される。
【0047】
次に、実施形態の上流端部31による作用を比較例と比較しながら説明する。
図6の矢印Yに示すように、吸引ダクトの吸引作用によって、吸引スリット27の上流端部31へ流れる気流が発生する。上流端部31の導入面31cは、共通接線Lを超えてフロントボトムローラ13a側に位置するため、導入面31cが、共通接線Lを超えてフロントトップローラ13b側に位置する場合と比べると、吸引スリット27へ流れる気流の量を増大できる。
【0048】
また、流路拡張面31bにより、導入面31cに沿って流れた後の気流の流路が拡張される。このため、導入面31cに沿って流れた後の気流は、流路拡張面31bによって、共通接線Lから離れるように流れる。つまり、導入面31cに沿って流れた後の気流の流路が拡張される。そして、流路の拡張された気流と、吸引パイプ15の内面との間にて渦流が発生するが、その渦流の発生する領域Wは、比較例に比べて小さくなる。その結果、吸引パイプ15の内部に渦流が発生しても、その渦流を原因とした気流の流速の低下を抑制できる。このため、最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fは、共通接線Lと第2仮想線D2との交差点付近で通気搬送ベルト16に吸着される。その結果、比較例のように、共通接線Lよりフロントトップローラ13b側で通気搬送ベルト16に吸着される場合と比べると、最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fを速やかに通気搬送ベルト16に吸着させることができる。その結果、最終送出ローラ対13から送出された後、繊維束Fがフリーの状態になっている距離を短くできる。
【0049】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)共通接線Lよりもフロントボトムローラ13a側に位置する導入面31cにより、吸引スリット27へ流れる気流の量を増大できる。また、流路拡張面31bにより、吸引パイプ15の内面に沿って発生する渦流の領域Wを小さくできる。その結果、上流端部31によって、吸引スリット27に吸引される気流の量を増大させつつ、渦流を原因とした流速の低下も抑制できるため、繊維束Fを通気搬送ベルト16に速やかに吸着させることができる。よって、最終送出ローラ対13から送出されてから、通気搬送ベルト16に吸着されるまでの間で、繊維束Fがフリーとなる状態を短くできるため、繊維束Fの繊維が乱れることを抑制できる。
【0050】
(2)導入面31cによって、共通接線方向Rに流れる気流を、そのまま吸引スリット27に吸入されるように導入できる。導入面31cを形成しない場合と比べると、吸引スリット27へ流れる気流の量を増大できる。その結果、導入面31cを形成しない場合よりも速やかに、繊維束Fを通気搬送ベルト16に吸着させることができるとともに、繊維束Fを集束させやすくなる。また、流路拡張面31bによって、渦流の発生する領域Wを小さくできる。これらにより、繊維束Fを速やかに吸着させつつ、集束できる吸引力を、消費電力を増大させずに発生させることができる。
【0051】
(3)上流端部31により、最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fを、通気搬送ベルト16に速やかに吸着させることができる。これにより、繊維束Fから製造される糸品質を安定させることができる。
【0052】
(4)最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fを、通気搬送ベルト16に速やかに吸着させるために、吸引パイプ15をフロントボトムローラ13aに近付けることが考えられる。しかし、フロントボトムローラ13aに繊維束Fが巻き付いたときの詰まりを抑制するため、吸引パイプ15をフロントボトムローラ13aに近付けるのは限界がある。しかし、上流端部31に導入面31c及び流路拡張面31bを形成することにより、吸引パイプ15をフロントボトムローラ13aに近付けることなく、最終送出ローラ対13から送出された繊維束Fを、通気搬送ベルト16に速やかに吸着させることができる。
【0053】
(5)導入面31cは、流路拡張面31bに交差する傾斜面である。このため、導入面31cにより、気流を吸引スリット27へ効率良く導入できる。
(6)導入面31cは、平坦な傾斜面である。例えば、導入面31cが湾曲するような傾斜面である場合と比べると、気流を効率良く吸引スリット27へ導入できる。
【0054】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○吸引スリット27の上流端部31の形状は、吸引パイプ15の長手方向へ直線状に延びる形状に限らず、例えば、直交方向Xに対し斜めに延びる形状であってもよい。
【0055】
○通気搬送ベルト16を織布や編み地で形成する代わりに、ゴム製や弾性を有する樹脂製のベルトに多数の孔を開けて形成してもよい。
図8に示すように、導入面31cは、曲面部15fを厚さ方向に貫通した貫通孔33を画定する内面によって形成されていてもよい。
【0056】
図9に示すように、共通接線Lと第1仮想線D1とがなす第1角度θ1は、第2角度θ2より小さければ、0度より大きくてもよい。
○第2角度θ2の大きさは、第1角度θ1より大きくなれば適宜変更してもよい。
【0057】
○上流端部31において、吸引パイプ15の内面に交差する交差面31aは無くてもよい。この場合、流路拡張面31bは、吸引パイプ15の内面に沿うように形成される。
○流路拡張面31bと交差面31aとは、交差していれば、直交していなくてもよい。
【符号の説明】
【0058】
θ1…第1角度、θ2…第2角度、D1…第1仮想線、D2…第2仮想線、F…繊維束、L…共通接線、P1…ニップ点、R…共通接線方向、11…繊維束集束装置、13…最終送出ローラ対、13a…フロントボトムローラ、13b…フロントトップローラ、15…吸引パイプ、15f…曲面部、16…通気搬送ベルト、27…吸引スリット、31…上流端部、31a…交差面、31b…流路拡張面、31c…導入面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9