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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172177
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電気掃除機及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A47L 9/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A47L9/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089728
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】石田 剛
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 直輝
(72)【発明者】
【氏名】平野 真
(72)【発明者】
【氏名】板垣 慶太
【テーマコード(参考)】
3B006
【Fターム(参考)】
3B006GA00
3B006GA02
(57)【要約】
【課題】電気掃除機等の外装部品の硬度及び光沢度を向上する。
【解決手段】再生ポリプロピレン樹脂を少なくとも外郭部材として有する電気掃除機であって、外郭部材は、100℃以上160℃未満に加熱された金型に対して、溶融した再生ポリプロピレン樹脂を充填し、その後冷却するヒートアンドクール成形で形成された樹脂成形体を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生ポリプロピレン樹脂を少なくとも外郭部材として有する電気掃除機であって、
前記外郭部材は、100℃以上160℃未満に加熱された金型に対して、溶融した前記再生ポリプロピレン樹脂を充填し、その後冷却するヒートアンドクール成形で形成された樹脂成形体を含むことを特徴とする電気掃除機。
【請求項2】
再生ポリプロピレン樹脂を少なくとも外郭部材として有する電気掃除機の製造方法であって、
前記外郭部材は、100℃以上160℃未満に加熱された金型に対して、溶融した前記再生ポリプロピレン樹脂を充填し、その後冷却するヒートアンドクール成形で形成されることを特徴とする電気掃除機の製造方法。
【請求項3】
前記電気掃除機を充電のために設置することができる充電台を更に備え、
前記充電台は、前記ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含む外郭部材を含む、請求項1記載の電気掃除機。
【請求項4】
前記樹脂成形体は、ガラス繊維を含むフィラーを含む、請求項1または3に記載の電気掃除機。
【請求項5】
再生樹脂を少なくとも外郭部材として有する電気掃除機であって、
前記外郭部材は、表面が傷つきにくい部位に適用される第一の外郭部材と、表面が傷つきやすい部位に適用される第二の外郭部材と、を有し、
前記第一の外郭部材は、前記再生樹脂を一般成形した樹脂成形体によって形成され、
前記第二の外郭部材は、前記再生樹脂をヒートアンドクール成形した樹脂成形体によって形成されることを特徴とする電気掃除機。
【請求項6】
請求項5に記載の電気掃除機であって、
前記再生樹脂は、再生ポリプロピレンであることを特徴とする電気掃除機。
【請求項7】
請求項5または6に記載の電気掃除機であって、
前記第二の外郭部材は、前記再生樹脂を溶融した状態で、100℃以上160℃未満の金型に充填し、ヒートアンドクール成形することを特徴とする電気掃除機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気掃除機及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化や海洋プラスチック問題・ごみ処理問題などに対する取り組みの一つとして、バージン樹脂材の使用量を削減し、リサイクルされた再生樹脂材を使用する資源循環が注目されている。家電メーカーにおいても、再生樹脂材を活用した製品を市場に普及させることで、資源循環の実現をめざす取り組みが行われている。
【0003】
一般に、消費者は再生樹脂材を含む再生材に対して、劣化や汚いなどのイメージを持っていることが多く、再生材活用製品についても、品質面においてマイナスの印象を持たれやすい。再生材品質に関する課題を解決し、消費者の持つマイナスイメージを払拭していくことは、再生材活用製品の市場を創生し、資源循環を確立するには必要不可欠となっている。
【0004】
掃除機分野においても、近年、再生樹脂材の利用が進められているが、製品の外装部品として用いる場合、硬度や意匠性が求められる。
【0005】
特許文献1には、塩化ビニル系樹脂とメチルメタクリレート系樹脂が配合されたアロイ樹脂をヒートアンドクール成形して、表面の光沢度が65%以上であり、鉛筆硬度がH以上である、成形品を製造する方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、電気掃除機の上ケースの意匠面の質感向上のために塗装を施した成形部品はリサイクルすることができない等の課題を考慮し、電気掃除機の上ケースを複数の上ケース部品で構成し、上ケース部品は、外観意匠を主とした第1の上ケースと、機能や構造を主とした第2の上ケースを有し、第2の上ケースは、成形材料にリサイクル可能な材料、又は、リサイクル材料を適用したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-53912号公報
【特許文献2】特開2014-144167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気掃除機は、軽量化や環境配慮のトレンドにより、本体部品に軽量材料である再生ポリプロピレン樹脂の適用が推進されている。しかしながら、再生ポリプロピレン樹脂は、ポリプロピレン樹脂のバージン材と比較して、光沢度が低いという課題がある。また、ポリプロピレン樹脂は、バージン材であっても再生材であっても、外装部品に用いると、転倒、衝突などによって表面にきずが生じやすく、耐擦傷性、耐衝撃性等の課題がある。
【0009】
また、再生材には、ごみなどの不純物が含まれているため、外から見えない部品に利用されることが多い。外から見える部品である外装部品にも再生材を利用することが容易になれば、部品に占める再生材の割合を増加させることができる。
【0010】
特許文献1は、アロイ樹脂に関するものであり、ポリプロピレン樹脂を対象とするものではない。
【0011】
特許文献2は、電気掃除機の上ケースを複数の上ケース部品で構成し、外観意匠と機能や構造とについて分担した構成を有するものである。
【0012】
本開示の目的は、電気掃除機等の外装部品の硬度及び光沢度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示の電気掃除機は、再生ポリプロピレン樹脂を少なくとも外郭部材として有するものであって、外郭部材は、100℃以上160℃未満に加熱された金型に対して、溶融した再生ポリプロピレン樹脂を充填し、その後冷却するヒートアンドクール成形で形成された樹脂成形体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、電気掃除機等の外装部品の硬度及び光沢度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】電気掃除機の一例を示す斜視図である。
図2図1の電気掃除機の一部を示す斜視図である。
図3図2の掃除機本体の分解斜視図である。
図4】延長管の一例を示す斜視図である。
図5】吸口の一例を示す斜視図である。
図6】電気掃除機の一例を示す斜視図である。
図7】収納台の一例を示す斜視図である。
図8図7の収納台の分解斜視図である。
図9】付属品である隙間用吸口の一例を示す斜視図である。
図10】電気掃除機の一例を示す斜視図である。
図11図10の電気掃除機の一部を示す分解斜視図である。
図12】射出成形機の一例を示す断面図である。
図13】ポリプロピレン樹脂成形体の成形条件に対するマルテンス硬さ及び表面弾性率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、樹脂材料にヒートアンドクール成形処理を施すことにより、樹脂成形体の硬度及び光沢度を向上する技術に関する。特に、以下に説明するように、ポリプロピレン樹脂のリサイクル材を用いた樹脂成形体については、顕著な効果が得られる。また、ポリプロピレン樹脂は、比較的密度が小さく、軽量化が求められる電気掃除機等の家電製品に好適である。
【0017】
なお、本明細書及び図面においては、ヒートアンドクール成形処理を「H&C」とも呼ぶ。また、ポリプロピレン樹脂を「PP樹脂」、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂を「ABS樹脂」と呼ぶ。
【0018】
以下、本開示の実施形態について図面を用いて説明する。
【0019】
図1は、電気掃除機の一例を示す斜視図である。
【0020】
本図においては、スティックタイプの電気掃除機100および付属品をスタンド式充電台に取り付けた状態を示している。電気掃除機100は、掃除機本体102(掃除機本体)と、ヘッド104(吸込口)と、を備えている。掃除機本体102には、電動送風機(図示していない)が収容されている。
【0021】
図2は、図1の電気掃除機の一部を示す斜視図である。
【0022】
図2に示すように、掃除機本体102は、ダストケース105(集塵部)、蓄電池106、本体部110、電動送風機111を備えて構成されている。
【0023】
本体部110は、延長管300(図1参照)や標準吸口400(図1参照)などが接続され、塵埃を含む空気が導入される導入部110aが形成されている。この導入部110aは、掃除機本体102の外郭(外表面)を構成し、再生ポリプロピレン樹脂(以下、再生PP樹脂と略記する)によって形成されている。また、導入部110aには、付属品としての隙間用吸口410(図1参照)、ほうき型吸口420(図1参照)、小型吸口430(図1参照)、延長ホース440(図1参照)、延長管300(図1参照)、標準吸口400(図1参照)を接続することができる。
【0024】
図3は、図2の掃除機本体の分解斜視図である。
【0025】
図3に示すように、掃除機本体102の本体部110は、複数の部品が組み合わされて構成されている。すなわち、本体部110は、導入部110aの内部およびハンドル部112の内側を構成するベース部110dと、ベース部110dの上面側に設けられる上面カバー112bと、ベース部110dの左側面に設けられる左側面カバー112cと、ベース部110dの右側面に設けられる右側面カバー112dと、を有している。
【0026】
ベース部110dは、電動送風機111の上部に位置して前後方向に延びる平面部110d1と、平面部110d1から前方に延びる筒状の流路部110d2と、平面部110d1と流路部110d2との境界から後方に向けて斜め上方に延びる前傾斜部110d3と、平面部110d1の後端から前方に向けて斜め上方に延びて前傾斜部110d3と接続される後傾斜部110d4と、備えて構成されている。前傾斜部110d3および後傾斜部110d4は、上側が開放するように凹状に形成されている。また、前傾斜部110d3には、操作スイッチ112a用の基板151が設けられている。
【0027】
導入部110aは、ベース部110dとは別部品で構成されている。また、導入部110aは、外郭(外表面)を構成するものであり、流路部110d2の先端の周囲を覆うように設けられている。
【0028】
連通部110bは、ベース部110dとは別部品で構成されている。また、連通部110bは、外郭(外表面)を構成するものであり、モータ収容ケース111aの前端の開口を覆うように設けられている。
【0029】
これらの導入部110a、連通部110bおよびベース部110dは、再生PP樹脂によって樹脂成型によって構成されている。このように再生PPを使用することで、環境負荷を小さくすることができる。なお、再生PPとは、純粋なポリプロピレン樹脂ではなく、使用済み製品や製造工程から出る廃棄物を回収し、新しい製品の材料や原料として利用できるようにしたものである。図3では、再生PP樹脂である、導入部110a、連通部110bおよびベース部110dに小さいドットの模様を付して示している。
【0030】
上面カバー112bは、前傾斜部110d3および後傾斜部110d4の上面側に設けられるハンドル側上面部112b1と、流路部110d2の上面側に設けられる流路側上面部112b2と、が一部品によって構成されている。
【0031】
左側面カバー112cは、流路部110d2の左側面に設けられる矩形状の流路側面部112c1と、平面部110d1に沿って前後方向に長く設けられるハンドル側面部112c2と、が一部品によって構成されている。
【0032】
右側面カバー112dは、流路部110d2の右側面に設けられる矩形状の流路側面部112d1と、平面部110d1に沿って前後方向に長く設けられるハンドル側面部112d2と、が一部品によって構成されている。
【0033】
これら上面カバー112b、左側面カバー112cおよび右側面カバー112dは、本開示に係る樹脂成形体で形成されていることが望ましい。
【0034】
図3では、本開示に係る樹脂成形体である、上面カバー112b、左側面カバー112cおよび右側面カバー112dに、通常の再生PPの場合よりも大きいドットの模様を付して示している。
【0035】
モータ収容ケース111aは、熱を発生し易い電動送風機140が収容されているため、燃えにくい材料にする必要がある。このため、モータ収容ケース111aは、難燃性のポリカーボネート樹脂(以下、難燃性PCと略記する)によって形成されている。なお、難燃性PCは、通常のポリカーボネート樹脂(PC)よりもさらに燃えにくい材料である。また、モータ収容ケース111aは、硬度の必要な外観の部位ではあるが、再生材ではなく、かつ、難燃性のPC樹脂としている。また、図3では、ドットの模様を付さない面として示している。なお、難燃性の樹脂であれば、難燃性PCに限られず、難燃性を付与した再生樹脂であってもよい。
【0036】
電池収容ケース106aは、熱を発生し易い電池セル(不図示)が収容されているため、燃えにくい材料にする必要がある。このため、電池収容ケース106aは、モータ収容ケース111aと同様に、難燃性のポリカーボネート樹脂(以下、難燃性PCと略記する)によって形成されている。なお、難燃性PCは、通常のポリカーボネート樹脂(PC)よりもさらに燃えにくい材料である。また、電池収容ケース106aは、硬度の必要な外観の部位ではあるが、再生材ではなく、かつ、難燃性のPC樹脂としている。また、図3では、ドットの模様を付さない形で示している。なお、難燃性の樹脂であれば、難燃性PCに限られず、難燃性を付与した再生樹脂であってもよい。
【0037】
なお、モータ収容ケース111aには、排気カバー115が設けられているが、この排気カバー115は難燃性を要しないので通常の(純粋な)ABS樹脂(再生材ではないABS樹脂、アクリロトリル・ブタンジエン・スチレン樹脂)が使用される。なお、排気カバー115を難燃性PCにしないのは、すでに電動送風機140が難燃性PC樹脂のモータ収容ケース111aによって覆われているからである。また、排気カバー115は、通常の純粋なABS樹脂に限定されるものではなく、再生ABS樹脂やそのほかの再生樹脂によって形成してもよい。これにより、環境負荷を低減できる。
【0038】
また、図3に示す部品を組み立てた後の状態が図2になる。図2に示すように、掃除機本体102は、本体部110の前端に再生PPの導入部110aが外観に現れるように配置される。また、ハンドル部112の内側の平面部110d1と手で握る部分である前傾斜部110d3と後傾斜部110d4とに再生PPを使用し、外観が現れるように配置される。なお、平面部110d1、前傾斜部110d3および後傾斜部110d4は、他の部位に比べて硬度が必要でない部位であるため、再生PPとして、成形時間の短縮を図っている。
【0039】
ところで、スティックタイプの電気掃除機100では、使い勝手を向上させるために軽量化することが求められる傾向にある。このことから、再生材の使用率を高めつつ軽量化を図るために、すべての部品を軽量な再生PPにしようとすると、外観上見える部分は硬度が低下し、使用時にユーザが電気掃除機100を、他の物や使用者の体にぶつけたりすることで、表面に傷が生じる可能性が高くなる。逆に、すべての部品を本開示に係る樹脂成形体にすると、部品の成形時間が長くなる。そこで、表面に傷がつきやすい部位である、ハンドル部112の上面カバー112b、本体部110の左右の側面にあたる左側面カバー112cと右側面カバー112dを、再生PPではなく、本開示に係る樹脂成形体によって形成したものである。これによって、従来は再生PPを用いることができず、再生PCなどの再生PPに比べて表面硬度は高いものの、重い材料を適用していた、表面に傷のつきやすい部位において、本開示に係る樹脂成形体を適用することで、比較的軽量な再生PPを適用しつつ、表面の耐傷つき性を確保することで、電気掃除機全体の軽量化を図り、かつ、環境負荷を低減することができる。
【0040】
また、光沢のある意匠性に優れたものをユーザに提供することも重要であり、ポリプロピレン樹脂のリサイクル材よりも本開示に係る樹脂成形体を使った方が好ましい。本開示に係る樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂のリサイクル材よりも光沢がよく、見た目(美観)に優れている。このことから、上面カバー112b、左側面カバー112cおよび右側面カバー112dを、本開示に係る樹脂成形体によって形成したものである。
【0041】
また、掃除機本体102では、転倒したときや障害物に当たったときに表面に傷がつきにくい部位である、導入部110a、連通部110b、ベース部110dを再生PPによって形成して、部品の成形時間短縮を図ったものである。なお、表面に傷がつきにくい部位である導入部110a、連通部110b、ベース部110d等を、本開示に係る樹脂成形体としてもよい。その場合、任意の部分を本開示に係る樹脂成形体とすることができ、硬度向上によって、表面に傷がつきにくくなるだけでなく、光沢がよくする部分を切り替えることができ、意匠性を向上できる。
【0042】
図4は、延長管の斜視図である。
【0043】
図4に示すように、延長管300は、電気掃除機100をスティック状態で使用する際に使用するものであり、直線状に延びる管状部301と、掃除機本体102(図2参照)の導入部110a(図2参照)に接続される雄型の接続部302と、標準吸口400(図1参照)に接続される雌型の接続部303と、を有している。なお、本実施形態の延長管300は、伸縮しない構成であるが、伸縮する構成であってもよい。
【0044】
また、接続部302には、掃除機本体1と電気的に接続するための凸状端子部302aが形成されている。また、接続部303には、標準吸口400(図1参照)と電気的に接続するための凹状端子部303aが形成されている。また、接続部303には、標準吸口400(図1参照)や各種の付属品を取り外す際に操作される操作部材303bが設けられている。
【0045】
また、延長管300は、凸状端子部302aと凹状端子部303aとを接続する電線305を備え、電線305が管状部301の外側を軸方向に沿って配設されている。また、延長管300は、電線305を覆うように電線カバー304が設けられている。この電線カバー304は、本開示に係る樹脂成形体によって形成されている。なお、図4では、本開示に係る樹脂成形体の部分を大きいドットの模様を付して示している。また、その他の管状部301、接続部302,303は、再生材ではないABS樹脂によって形成されている。なお、再生樹脂によって形成されていてもよい。これによって、さらに環境負荷を低減できる。
【0046】
このように、電線カバー304を本開示に係る樹脂成形体によって形成したのは、硬度を高めることを目的するというものではなく、意匠性を高めることを目的としている。例えば、延長管300の電線カバー304は、電気掃除機100を充電台200に収納したときにユーザに向けて配置されるものであり、見た目の質感が重要になる。そこで、延長管300の外観の一部となる電線カバー304を本開示に係る樹脂成形体によって形成することで、PP樹脂のリサイクル材よりも光沢や発色がよくなり、塗装などの二次加工を特に行うことなく意匠性を向上させることができる。
【0047】
図5は、吸口の斜視図である。
【0048】
図5に示すように、標準吸口400は、吸口本体401と、延長管300の接続部303(図4参照)と接続される雄状の接続部402と、吸口本体401と接続部303とを回動自在に連結する軸部403と、吸口本体401の上面を覆う吸口カバー404と、を備えて構成されている。
【0049】
吸口本体401は、図示しない電動ブラシ、電動ブラシを回転駆動させるモータなどを備えている。吸口カバー404は、吸口本体401の上面全体を覆う矩形状のものであり、吸口のうちで最も目立つ部分である。この吸口カバー404は、使用時にユーザに目につく部位であり、また充電台200の収納時にユーザに向いた状態で配置されるものであり、見た目の質感が重量になる。そこで、吸口カバー404を本開示に係る樹脂成形体によって形成することで、一般成形によるPP樹脂のリサイクル材よりも光沢や発色がよくなり、塗装などの二次加工を行うことなく意匠性を向上させることができる。
【0050】
図6は、電気掃除機を示す斜視図である。なお、図6は、図3図5と同様に、本開示に係る樹脂成形体の部位には大きいドットの模様を付し、再生PPの部位には小さいドットの模様を付し、難燃性PCの部位にはドットの模様を付さない形(ダストケース105、管状部301、接続部302、吸口本体401、接続部402を除く。)で示している。
【0051】
図6に示すように、電気掃除機100が転倒等したときに表面が傷つきやすい部位である上面カバー112b、左側面カバー112c、右側面カバー112dを再生PCによって形成する。これらは転倒したとき等に、一番傷つきやすいハンドル部112の出っ張った部分である。このような位置に本開示に係る樹脂成形体を使用することで、電気掃除機100の表面の傷つきを抑制することが可能になる。また、電気掃除機100が転倒等したときに表面が傷つきにくい部位である平面部110d1、前傾斜部110d3、後傾斜部110d4を再生PPによって形成することで、成形時間の短縮を図ることができる。
【0052】
また、導入部110aおよび連通部110bは、表面が傷つきやすい部位ではないので、一般成形による再生PPによって形成されている。例えば、電気掃除機100の外観部品を、光沢仕上げ成形品であって、樹脂色を黒色とした場合、一般成形による再生PPは、本開示に係る樹脂成形体よりも光沢が低い黒色となり、本開示に係る樹脂成形体は光沢が高い黒色となる。これは、本開示に係る樹脂成形体では、鏡面加工仕上げ用の金型の表面状態をより正確に転写できるため、より凹凸の少ない鏡面状態に近い状態で成形できるからである。また、電気掃除機100の外観部品を、微細な凹凸を施しマット調外観にするシボ加工仕上げであって、樹脂色を黒色とした場合、一般成形による再生PPは、本開示に係る樹脂成形体よりも光沢が高い黒色となり、本開示に係る樹脂成形体は光沢が低い黒色となる。これは、本開示に係る樹脂成形体では、シボ加工仕上げ用の金型の表面の微細な凹凸まで正確に転写できるため、より成形品表面の陰影がはっきりとあらわれるように成形できるからである。このように、全体を黒色に統一したとしても、部位ごとに光沢の違いがあることによって、メリハリがついて意匠性をさらに高めることができる。
【0053】
なお、表面が傷つきにくい部位についても、本開示に係る樹脂成形体によって成形することもできる。この場合は、電気掃除機全体において、本開示に係る樹脂成形体を可能な限り多用することで、全体として、表面の耐傷つき性を高めることができるとともに、統一感のあるデザインとすることができ、意匠性を高めることができる。
【0054】
図7は、収納台を示す斜視図である。図8は、図7の収納台の分解斜視図である。
【0055】
図7および図8に示すように、充電台200は、ベース部材201、スタンド部材202、支柱203、ホルダ部材204を備えて構成されている。
【0056】
図8に示すように、ベース部材201は、載置面201aと、延出部201bと、を有する。載置面201aは、略矩形状の板形状の部分である。延出部201bは、略円錐台形状である。延出部201bは、載置面201aに対して、略垂直となるように設けられる。延出部201bの中心軸は、載置面201aの左右方向略中央、かつ前後方向の略3/4程度のところに、位置するように設けられる。
【0057】
延出部201bの先端には、スタンド部材202を取り付けることが可能なベース突起形状部201cが設けられている。また、ベース部材201は、内部におもり(図示せず)が設けられ、充電台200に電気掃除機100(図1参照)を装着したときに充電台200が倒れにくくなっている。ベース突起形状部201cの前方へは同幅でスロープ形状部201dが形成されており、スティック状態の電気掃除機100を収納する際に標準吸口400(図1参照)を前方へガイドする役割を果たす。延出部201bの左右には複数の付属品収納部201eが設けられている。
【0058】
スタンド部材202は、略筒状となっており、下端部にベース部材201のベース突起形状部201cと嵌合する凹形状部202aが形成されている。また、スタンド部材202の上端部は、支柱203を取り付けることが可能なスタンド突起形状部202bが形成されている。
【0059】
支柱203は、円筒状に形成され、下端部にスタンド部材202のスタンド突起形状部202bと嵌合する凹形状部203aが形成されている。また、支柱203の上端部は、ホルダ部材204を取り付けることが可能な支柱突起形状部203bが形成されている。
【0060】
ホルダ部材204には、掃除機本体102に装着されている蓄電池106を充電するためのACアダプタ(不図示)の出力プラグ(不図示)が取り付けられるようになっている。掃除機本体102を充電台200にセットすると出力プラグ(不図示)が電気掃除機100の入力ジャック110c(図2参照)に接続され充電されるようになっている。
【0061】
また、ホルダ部材204の下面には、支柱突起形状部203bと嵌合する突起形状部204aが形成されている。また、ホルダ部材204の前面には、カップ部204bとガイド部204cが形成されている。カップ部204bは、掃除機本体102に取り付けられたダストケース105の周囲を覆うように設けられており、掃除機本体102を収納する際に取り付けやすくなる。カップ部204bの中心軸は、ダストケース105の中心軸と同軸上にあるため、安定してダストケース105をカップ部204bに保持することができる。
【0062】
ガイド部204cは、掃除機本体102を出力プラグ(不図示)に案内するとともに、掃除機本体102の倒れ込みを防止する部材であり、前面の中央に後方に窪んで形成されている。掃除機本体102がガイド部204cとカップ部204bに案内され、掃除機本体102の入力ジャック110c(図2参照)が充電台200の出力プラグ(不図示)と嵌合し、ACアダプタ(不図示)と電気掃除機100とが電気的に接続される。
【0063】
また、ベース部材201は、再生ABSによって形成されている。充電台200では、重量物が上側に位置するので、ベース部材201に荷重がかかり、傾いたときに充電台200が倒れないようにする必要がある。ABS樹脂は、PP樹脂よりも荷重に対して強い材料であるので、本実施形態では、ベース部材201を再生ABS樹脂によって形成したものである。このように、再生ABS樹脂を使用することで、環境負荷を低減することができる。なお、ベース部材201は、本開示に係る樹脂成形体によって形成することもできる。特にフィラーを添加した樹脂成形体であれば、荷重に対して強化しつつ、充電台200全体をPP樹脂で構成することができ、軽量化やリサイクルの際の材料選別におけるコスト低減につながる。
【0064】
また、スタンド部材202、支柱203およびホルダ部材204は、再生PPによって形成されている。充電台200は、目立たせたくない部品であり、比較的大型のものであるので、目立つと圧迫感をユーザに与えるおそれがある。例えば、目立たないようにするために、黒色の再生材(再生PP)を使用する。再生PPは、再生PCよりも発色が劣るので、スタンド部材202、支柱203およびホルダ部材204を目立たなくさせることができる。
【0065】
図9は、付属品である隙間用吸口の一例を示す斜視図である。
【0066】
図9に示すように、隙間用吸口410は、ノズル本体部411と、ノズル本体部411に対して進退自在に設けられるノズル部412と、を有している。なお、図9は、ノズル部412がノズル本体部411に収納された状態を図示している。また、ノズル本体部411には、掃除機本体1または延長管300に接続される接続部411aが形成されている。
【0067】
また、隙間用吸口410は、強度を要する部品ではないので、全体が再生PPによって形成されている。なお、図1に示す付属品としてのほうき型吸口420は、ほうき部分を除く部位が再生PPによって形成されている。なお、図1に示す小型吸口430は、ブラシを備えたものであり、通常の(純粋の)ABS樹脂(再生材ではない)によって形成されている。また、図1に示す延長ホース440は、通常の(純粋の)ABS樹脂によって形成されている。
【0068】
PP樹脂は、一般に流通量多く、環境負荷の低いリサイクル材の物量を確保しやすい材料である。また、PP樹脂は、比較的に軽い樹脂であり、掃除機の軽量化につながることから部品などに多用されている。本開示に係る樹脂成形体を電気掃除機に適用することで、PP樹脂の適用範囲拡大につながり、電気掃除機全体の軽量化につながる。さらに、家電製品をリサイクルする際には、分解の工程において、原料の種類ごとに分別し、回収したものからリサイクル材が製造される。その際に、同一種類の原料の部品を多くすることによって、分別の手間を軽減し、また、異種の原料がリサイクル材に混ざり込む可能性を低減することで、再度製品として材料(資源)を循環させる際に、大きなコスト削減につながる。以上のような理由からも、本開示に係る樹脂成形体によって、電気掃除機部品を形成することによって、電気掃除機における同一種類の樹脂材料の割合を高めることができ、資源循環におけるコストを低減し、資源循環拡大に大きく貢献することができる。
【0069】
図10は、電気掃除機の一例を示す斜視図である。
【0070】
本図においては、キャニスター式掃除機600の全体を示している。キャニスター式掃除機600は、本体602と、ヘッド604と、を備えている。
【0071】
図11は、図10の電気掃除機の一部を示す分解斜視図である。
【0072】
図11においては、本体602を構成する上ケース606、下ケース608及び車輪610を示している。上ケース606、下ケース608、車輪610等は、電気掃除機の外装部品である。外装部品は、本開示に係る樹脂成形体で形成されていることが望ましい。
【0073】
なお、本明細書において、外郭部材とは、電気掃除機等の外表面を構成する部材をいう。外郭部材のうち、表面が傷つきにくい部位に適用されるものを第一の外郭部材と呼び、表面が傷つきやすい部位に適用されるものを第二の外郭部材と呼ぶことにする。表面が傷つきにくい部位とは、例えば直径100mmの木製、金属製若しくは樹脂製の球状若しくは円柱状の物体が衝突し得ない面をいう。一方、表面が傷つきやすい部位とは、外側に凸の部位、又は外側に凹であっても、例えば直径100mmの木製、金属製若しくは樹脂製の球状若しくは円柱状の物体が衝突し得る面をいう。
【0074】
図12は、射出成形機の一例を示す断面図である。
【0075】
本図に示す射出成形機500は、シリンダ10と、モータ20と、スクリュー30と、ヒータ40と、ホッパ50と、を備えている。スクリュー30は、螺旋状のねじ山32を有している。成形材料である樹脂ペレットは、ホッパ50から供給される。
【0076】
シリンダ10の先端部(ノズル)は、固定側金型60が接続されている。固定側金型60には、スプルー62、電熱ヒータ66及び冷却媒体用流路68が設けられている。可動側金型70には、電熱ヒータ76及び冷却媒体用流路78が設けられている。冷却媒体としては、水、油、ブライン等を用いることができる。
【0077】
モータ20の動力によりスクリュー30が回転することにより、シリンダ10に樹脂ペレットが供給される。樹脂ペレットは、シリンダ10のノズルに移動する過程でヒータ40の熱により溶融する。そして、溶融した樹脂は、固定側金型60に可動側金型70が密着した状態で固定側金型60のスプルー62に射出される。スプルー62を通過した樹脂は、固定側金型60のキャビティと可動側金型70のコアとの間に形成される空間で冷却され、成形品64となる。
【0078】
ヒートアンドクール成形においては、スプルー62を通過した樹脂は、電熱ヒータ66、76により所定の温度に加熱された固定側金型60のキャビティと可動側金型70のコアとの間に形成される空間に充填される。その後、電熱ヒータ66、76の通電を停止し、冷却媒体用流路68、78に冷却媒体を流すことにより、固定側金型60のキャビティと可動側金型70が冷却されるとともに、樹脂が冷却されて凝固し、成形品64となる。
【0079】
なお、本図に示す射出成形機の金型においては、ヒートアンドクール成形処理における加熱を電熱ヒータにより行っているが、本開示に係る射出成形機は、これに限定されるものではなく、加熱媒体用流路に高温水、水蒸気、油等を流すことにより加熱を行ってもよい。この場合、冷却媒体用流路を加熱媒体用流路として兼用することもできる。
【0080】
以下、樹脂成形体の光沢度及び硬度に関する実験結果について説明する。
【0081】
実験に用いた材料は、ABS樹脂のバージン材がLOTTEAD製 グレード:HG0760であり、PP樹脂のバージン材がサンアロマー製、グレード:PM854Xである。一方、ABS樹脂のリサイクル材(再生樹脂材)は、ABS樹脂の含有率が99%以上(顔料は含む。)である。また、PP樹脂のリサイクル材は、PP樹脂の含有率が99%以上(顔料は含む。)である。
【0082】
表1は、JIS Z8741に準拠して測定した光沢度の測定結果を示したものである。
【0083】
【表1】
【0084】
本表においては、ABS樹脂及びPP樹脂のバージン材及びリサイクル材について測定した結果を示している。
【0085】
一般に、光沢度は、リサイクル材に比べ、バージン材の方が高くなるが、ヒートアンドクール成形処理を施したリサイクル材は、バージン材と同程度の光沢度を有する。
【0086】
具体的には、ABS樹脂の場合、バージン材においては、一般成形の場合に光沢度が90%であるのに対し、金型加熱温度100℃でヒートアンドクール成形処理を施したとしても、光沢度は92%であり、ヒートアンドクール成形処理による光沢度向上効果は低い。一方、ABS樹脂のリサイクル材においては、一般成形の場合に光沢度が75%であるのに対し、金型加熱温度100℃でヒートアンドクール成形処理を施した場合、光沢度は87%であり、ヒートアンドクール成形処理による光沢度向上効果は高い。
【0087】
また、PP樹脂の場合、バージン材においては、一般成形の場合に光沢度が70%であるのに対し、ヒートアンドクール成形処理を施した場合、金型加熱温度100℃で光沢度は80%であり、金型加熱温度140℃では光沢度は90%に達している。ゆえに、ヒートアンドクール成形処理による光沢度向上効果は非常に高い。一方、PP樹脂のリサイクル材においては、一般成形の場合に光沢度が57%であるのに対し、金型加熱温度100℃でヒートアンドクール成形処理を施した場合、光沢度は78%であり、ヒートアンドクール成形処理による光沢度向上効果は非常に高い。PP樹脂の場合、リサイクル材に対する金型加熱温度100℃のヒートアンドクール成形処理により、バージン材を超える光沢度が得られることがわかる。
【0088】
以上の結果から、ABS樹脂及びPP樹脂の場合、ヒートアンドクール成形処理により光沢度が高くなることがわかる。また、本表に示す範囲では、金型加熱温度が高いほど光沢度向上効果が高いことがわかる。よって、ABS樹脂及びPP樹脂の場合、光沢度の面では、バージン材の代わりにリサイクル材を外装部品等に適用することができることがわかる。特に、PP樹脂の場合、ヒートアンドクール成形処理の効果が顕著である。
【0089】
表2は、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度の測定結果を示したものである。
【0090】
【表2】
【0091】
本表においては、ABS樹脂及びPP樹脂のバージン材及びリサイクル材について測定した結果を示している。いずれも、フィラーを含まない場合である。
【0092】
本表に示すとおり、ABS樹脂の場合、バージン材及びリサイクル材のいずれにおいても、一般成形の場合であっても、ヒートアンドクール成形処理を施した場合であっても、鉛筆硬度はBである。
【0093】
一方、PP樹脂の場合、バージン材及びリサイクル材ともに、一般成形の場合、鉛筆硬度が4Bである。これに対して、ヒートアンドクール成形処理を施した場合、バージン材では金型加熱温度80~120℃で鉛筆硬度は2Bであり、金型加熱温度140℃では鉛筆硬度はBである。また、ヒートアンドクール成形処理を施した場合、リサイクル材では金型加熱温度80℃で鉛筆硬度は3Bであり、金型加熱温度100~120℃で鉛筆硬度は2Bであり、金型加熱温度140℃では鉛筆硬度はBである。
【0094】
以上の結果から、ABS樹脂の場合、一般成形品であっても高い硬度を有するため、ヒートアンドクール成形処理によって鉛筆硬度が更に向上するわけではないことがわかる。一方、PP樹脂の場合は、ヒートアンドクール成形処理により鉛筆硬度は著しく向上する。特に、金型加熱温度を140℃にすれば、リサイクル材であっても鉛筆硬度がBに達するため望ましい。
【0095】
よって、鉛筆硬度に関しては、PP樹脂のリサイクル材は、ヒートアンドクール成形処理を施すことが非常に効果的であり、硬度が必要な外装部品等に好適である。
【0096】
なお、ABS樹脂の場合には、鉛筆硬度が成形条件の影響を受けない理由は、ABS樹脂が非結晶性樹脂であるためと考えられる。これに対して、PP樹脂は、結晶性樹脂であるため、成形条件の影響を受け、ヒートアンドクール成形処理が効果的であると考えられる。
【0097】
表3は、PP樹脂のリサイクル材について、ISO14577-1に準拠して微小硬度計により測定したマルテンス硬さ及び表面弾性率の結果を示したものである。
【0098】
【表3】
【0099】
本表に示すように、マルテンス硬さ及び表面弾性率はともに、一般成形に比べ、ヒートアンドクール成形の方が高くなっている。特に、マルテンス硬さは、金型加熱温度が140℃の場合、一般成形の約2倍となっている。表面弾性率も、金型加熱温度が140℃の場合、一般成形の約1.7倍となっている。
【0100】
本表の結果からも、ヒートアンドクール成形処理によりPP樹脂のリサイクル材の硬度向上効果が得られることがわかる。
【0101】
表1~3に示す結果から、PP樹脂のリサイクル材であっても、ヒートアンドクール成形処理により光沢度及び硬度が高くなるため、PP樹脂のリサイクル材の含有率が高い樹脂材料を用いても、外装部品として好適なPP樹脂成形体を得ることができる。
【0102】
これにより、意匠性の面から光沢度を高め、十分な硬度を有し、かつ、環境に配慮した電気掃除機等の製品を提供することができる。
【0103】
図13は、PP樹脂成形体の成形条件に対するマルテンス硬さ及び表面弾性率を示すグラフである。横軸にヒートアンドクール成形工程における金型加熱温度、左の縦軸にマルテンス硬さ、右の縦軸に表面弾性率をとっている。
【0104】
本図に示すように、横軸左端のヒートアンドクール成形処理を行わない場合(H&Cなし、すなわち一般成形)に比べ、金型加熱温度80~120℃の範囲でヒートアンドクール成形処理を行った場合の方が、マルテンス硬さ及び表面弾性率が高くなっている。また、金型加熱温度が高い方がマルテンス硬さ及び表面弾性率が高くなっている。
【0105】
さらに、PP樹脂成形体の内部構造を調べるため、顕微レーザーラマン分光分析による結晶化度の測定を行った。
【0106】
その結果、PP樹脂成形体の表面付近の深さ約80μmの範囲において、一般成形の場合、表面付近にコア層に比べて結晶化度が低い領域(スキン層)が深さ20~30μm程度まで存在することがわかった。これに対して、ヒートアンドクール成形の場合、深さ約80μmの範囲で結晶化度が同程度であることがわかった。
【0107】
これは、ヒートアンドクール成形の場合、金型を加熱し高温度とすることで、PP樹脂が急速に冷却、凝固することなく、PP樹脂が十分に溶融し流動し、その後凝固することにより、表面付近においても結晶化が進行しやすいためと考えられる。これに対して、一般成形の場合、金型の内部に射出されたPP樹脂は急速に冷却されるため、表面付近においては分子状態の変化が小さく、結晶化の進行が抑制されると考えられる。
【0108】
上記、JIS K5600-5-4:1999に準拠して測定した鉛筆硬度の測定結果および顕微レーザーラマン分光分析による結晶化度の測定結果から、ヒートアンドクール成形処理を行ったPP樹脂のリサイクル材の厚さ方向断面における鉛筆硬度分布は、3B以上B以下となることがわかった。特に、金型温度100~140℃の範囲では鉛筆硬度分布が2B以上B以下となることがわかった。
【0109】
また、本発明で扱ったPP樹脂のリサイクル材は、融点が約160℃であることから、160℃での成形品は成形不良を起こしてしまったことから、金型温度160℃未満での成形が好ましい。
【0110】
したがって、ヒートアンドクール成形処理を行うことで、表面近傍にて、一般成形の場合よりも、結晶化度や鉛筆硬度が高くなることが表面硬度の向上に寄与していると考えられる。
【0111】
また、PP樹脂にフィラーを混合して成形を行う実験を行った。
【0112】
その結果、一般成形の場合、樹脂成形体の表面にフィラーの浮きが観察されるのに対し、ヒートアンドクール成形の場合、フィラーの浮きが顕著に抑制されることがわかった。
【0113】
したがって、樹脂にフィラーを混合する場合であっても、ヒートアンドクール成形処理を行えば、外観を維持するとともに、樹脂の物性の強化を行うことができる。例えば、ガラス繊維を添加することにより、耐衝撃性及び曲げ強度を向上することができる。
【0114】
なお、PP樹脂は、光沢度及び硬度が得られるだけでなく、外装部品の軽量化にも寄与する。
【0115】
以下、本開示に係る望ましい実施形態についてまとめて説明する。
【0116】
電気掃除機は、電動送風機を収容する掃除機本体と、吸込口と、掃除機本体と吸込口とを接続する延長管と、を備え、掃除機本体、吸込口及び延長管の少なくとも一つは、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含む外装部品を含む。
【0117】
電気掃除機は、電気掃除機を充電のために設置することができる充電台を更に備え、充電台は、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含む外装部品を含む。
【0118】
樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂を含む。
【0119】
樹脂成形体は、再生ポリプロピレン樹脂を90%以上含む。
【0120】
樹脂成形体は、ガラス繊維を含むフィラーを含む。
【0121】
掃除機本体を構成する外装部品は、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含み、樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂を含む。
【0122】
掃除機本体を構成する外装部品は、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含み、樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂と、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂又はポリカーボネート樹脂と、を含む。
【0123】
なお、上記の樹脂成形体は、掃除機本体だけでなく、吸込口、延長管等の外装部品に適用してもよい。
【0124】
掃除機本体を構成する外装部品は、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体と、もう一つの樹脂成形体と、を含み、樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂を含み、もう一つの樹脂成形体は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂又はポリカーボネート樹脂を含む。
【0125】
なお、上記の樹脂成形体及びもう一つの樹脂成形体は、掃除機本体だけでなく、吸込口、延長管等の外装部品に適用してもよい。
【0126】
電気掃除機は、電動送風機を収容する掃除機本体と、吸込口と、を備え、掃除機本体は、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含む外装部品を含み、樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂を含み、ISO14577-1に準拠して測定したマルテンス硬さが64N/mm以上である。
【0127】
電気掃除機は、電動送風機を収容する掃除機本体と、吸込口と、を備え、掃除機本体は、ヒートアンドクール成形により形成された樹脂成形体を含む外装部品を含み、樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂を含み、ISO14577-1に準拠して測定した表面弾性率が1700N/mm以上である。
【0128】
樹脂成形体は、ポリプロピレン樹脂を含み、JIS Z8741に準拠して測定した光沢度が70以上である。
【0129】
なお、上記のマルテンス硬さ、表面弾性率又は光沢度を有する樹脂成形体は、掃除機本体だけでなく、吸込口、延長管等の外装部品に適用してもよい。
【0130】
樹脂成形体は、ヒートアンドクール成形により形成されたものであって、ポリプロピレン樹脂を含み、ISO14577-1に準拠して測定したマルテンス硬さが64N/mm以上である。このような樹脂成形体を用いて、外装部品を作製することができる。
【0131】
なお、上記の実施形態は、電気掃除機を例として説明しているが、本開示に係る樹脂成形体及びこれを用いた外装部品は、電気掃除機以外の家電製品、例えば、洗濯機(洗濯乾燥機を含む。)の操作パネル等、電子レンジのドア(取っ手を含む。)等、空気清浄機、IHクッキングヒータ、空気調和機、冷蔵庫等にも適用することができる。
【符号の説明】
【0132】
10:シリンダ、20:モータ、30:スクリュー、32:ねじ山、40:ヒータ、50:ホッパ、60:固定側金型、62:スプルー、64:成形品、66、76:電熱ヒータ、68、78:冷却媒体用流路、70:可動側金型、100:電気掃除機、102:掃除機本体、104:ヘッド、112:ハンドル部、600:キャニスター式掃除機、602:本体、604:ヘッド、606:上ケース、608:下ケース、610:車輪、500:射出成形機。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13