(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172180
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】機械式時計
(51)【国際特許分類】
G04C 3/06 20060101AFI20241205BHJP
G04B 17/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G04C3/06 Z
G04B17/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089733
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白井 琢矢
(72)【発明者】
【氏名】田京 祐
(72)【発明者】
【氏名】仁井田 優作
(57)【要約】
【課題】歩度精度を維持すると共に耐久性の高い機械式時計1を提供する。
【解決手段】機械式時計1は、正逆回転運動するテン輪31と、テン輪31の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石41と、永久磁石41の正逆回転運動により逆起電圧が生じるコイル43と、逆起電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路45と、コイル43の端子を短絡させることで永久磁石41に、制動力を作用させることにより、テン輪31を制動する制動回路80と、検出信号DEの検出タイミングに応じて、歩度調整を行う制動力を作用させる制動期間tuを開始させ、制動期間tu内において、制動力が断続的に作用されるように制動回路80を制御する制御回路44と、を有し、回転検出回路45は、制動期間tuのうち制動力の非作用期間である検出可能期間Tcにおいて検出信号DEを検出可能である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正逆回転運動するテン輪と、
前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石と、
前記永久磁石の正逆回転運動により逆起電圧が生じるコイルと、
前記逆起電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、
前記コイルの端子を短絡させることで前記永久磁石に、制動力を作用させることにより、前記テン輪を制動する制動回路と、
前記検出信号の検出タイミングに応じて、歩度調整を行う前記制動力を作用させる制動期間を開始させ、前記制動期間内において、前記制動力が断続的に作用されるように前記制動回路を制御する制御回路と、
を有し、
前記回転検出回路は、前記制動期間のうち前記制動力の非作用期間である検出可能期間において前記検出信号を検出可能である、
機械式時計。
【請求項2】
前記制動期間は、前記検出タイミングから所定の非制動期間を経過した後の期間である、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項3】
前記制動期間と前記非制動期間とは前記検出タイミング毎に交互に開始される、
請求項2に記載の機械式時計。
【請求項4】
前記制動期間の終期は、次の前記検出信号の検出タイミングに応じて決定される、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項5】
前記制御回路は、基準信号源の基準信号の出力タイミングに対する前記検出タイミングに基づいて、前記制動期間における非検出期間の比率を制御する、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項6】
前記制御回路は、前記制動期間における前記非検出期間の比率に応じて前記非制動期間の長さを設定する、
請求項5に記載の機械式時計。
【請求項7】
前記制動回路は、複数の制動ランクのうち現在の制動ランクに対応する前記制動力を作用させることが可能に構成されており、
前記制御回路は、
基準信号源の基準信号の出力タイミングに応じた所定の基準タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングに応じて、前記制動ランクを切り替え可能に構成されており、
前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時と今回の前記検出信号の検出時とで、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、前記制動ランクの変動幅が大きくなるよう前記制動ランクを制御する、
請求項1に記載の機械式時計。
【請求項8】
基準信号源の基準信号の出力間隔を互いに異なる複数の出力間隔のいずれかに設定するための設定情報を記憶する記憶部を有し、
前記制御回路は、前記設定情報に基づいて予め設定された出力間隔で出力される前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出タイミングに基づいて前記制動回路を制御する、
請求項1に記載の機械式時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械式時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、テンプを備える機械式時計において、電磁的なブレーキを作用させることで歩度を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、機械式時計においては、テン輪の回転に伴ってコイルに生じる逆起電圧を検出することで、回転検出を行い、検出結果に応じて電磁ブレーキによる歩度調整を行うとよい。しかしながら、電磁ブレーキを作用させている間においては、コイルの端子が短絡していることより、コイルに生じる電圧を検出することができない。そのため、テン輪の回転が早くなったり遅くなったりした場合において、コイルに生じる電圧を検出するタイミングにおいて電磁ブレーキが作用していることとなり、適切に電圧検出することができない可能性がある。それにより、機械式時計が備える制御回路において歩度ズレを検知できず、制動制御を正常に行うことができなくなってしまう。その結果、歩度精度が低下してしまう可能性がある。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてされたものであって、その目的は、歩度精度を維持する機械式時計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)正逆回転運動するテン輪と、前記テン輪の正逆回転運動に伴い正逆回転運動する永久磁石と、前記永久磁石の正逆回転運動により逆起電圧が生じるコイルと、前記逆起電圧に基づいて検出信号を検出する回転検出回路と、前記コイルの端子を短絡させることで前記永久磁石に、制動力を作用させることにより、前記テン輪を制動する制動回路と、前記検出信号の検出タイミングに応じて、歩度調整を行う前記制動力を作用させる制動期間を開始させ、前記制動期間内において、前記制動力が断続的に作用されるように前記制動回路を制御する制御回路と、を有し、前記回転検出回路は、前記制動期間のうち前記制動力の非作用期間である検出可能期間において前記検出信号を検出可能である、機械式時計。
【0007】
(2)(1)において、前記制動期間は、前記検出タイミングから所定の非制動期間を経過した後の期間である、機械式時計。
【0008】
(3)(2)において、前記制動期間と前記非制動期間とは前記検出タイミング毎に交互に開始される、機械式時計。
【0009】
(4)(1)~(3)のいずれかにおいて、前記制動期間の終期は、次の前記検出信号の検出タイミングに応じて決定される、機械式時計。
【0010】
(5)(1)において、前記制御回路は、基準信号源の基準信号の出力タイミングに対する前記検出タイミングに基づいて、前記制動期間における非検出期間の比率を制御する、機械式時計。
【0011】
(6)(5)において、前記制御回路は、前記制動期間における前記非検出期間の比率に応じて前記非制動期間の長さを設定する、機械式時計。
【0012】
(7)(1)~(6)のいずれかにおいて、前記制動回路は、複数の制動ランクのうち現在の制動ランクに対応する前記制動力を作用させることが可能に構成されており、前記制御回路は、基準信号源の基準信号の出力タイミングに応じた所定の基準タイミングに対する前記検出信号の検出タイミングに応じて、前記制動ランクを切り替え可能に構成されており、前記回転検出回路による前回の前記検出信号の検出時と今回の前記検出信号の検出時とで、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、前記基準タイミングに対する前記検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、前記制動ランクの変動幅が大きくなるよう前記制動ランクを制御する、機械式時計。
【0013】
(8)(1)~(7)のいずれかにおいて、基準信号源の基準信号の出力間隔を互いに異なる複数の出力間隔のいずれかに設定するための設定情報を記憶する記憶部を有し、前記制御回路は、前記設定情報に基づいて予め設定された出力間隔で出力される前記基準信号の出力タイミングに対する前記検出タイミングに基づいて前記制動回路を制御する、機械式時計。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明の(1)~(8)の側面によれば、歩度精度を維持する機械式時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
【
図3】本実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。
【
図4】本実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。
【
図5】本実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。
【
図6A】機械式時計が有する回路の一例を示す回路図である。
【
図6B】機械式時計が有する回路の他の例を示す回路図である。
【
図7】本実施形態の永久磁石の回転に伴いコイルで検出される逆起電圧を示している。
【
図8】本実施形態における電磁ブレーキDBの一例を示す図である。
【
図9】本実施形態における制動ランクについて説明する図である。
【
図10】本実施形態において、外乱が生じた場合に作用する電磁ブレーキを説明する図である。
【
図11】本実施形態の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【
図12】本実施形態の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【
図13】本実施形態の第1変形例の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【
図14】本実施形態の第2変形例の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【
図15】本実施形態の第3変形例における非制動ランクについて説明する図である。
【
図16】本実施形態の第3変形例の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について図面に基づき詳細に説明する。
【0017】
[全体構成の概要]
まず、
図1~
図6Bを参照して、本実施形態に係る機械式時計1の全体構成の概要について説明する。
図1は、本実施形態の地板及びそれに組み込まれる各部材を示す斜視図である。
図2は、本実施形態における動力を伝達する機構及びその周辺を示す斜視図である。
図3は、本実施形態における調速機構及びその周辺の部材を地板から分解した様子を示す分解斜視図である。
図4は、本実施形態の軟磁性コアとその周辺を示す平面図、及びその一部を拡大して示す拡大平面図である。
図5は、本実施形態に係る機械式時計の全体構成を示すブロック図である。なお、
図1~
図3は、機械式時計1の裏側から見た様子を示している。なお、裏側とは、機械式時計1の厚み方向のうち外装ケースの裏蓋が配置される側である。
【0018】
機械式時計1は、動力ゼンマイ11を動力源とし、脱進機構20及び調速機構30によって動力ゼンマイ11の動きを制御すると共に、指針を駆動させる時計である。機械式時計1は、指針を駆動する各機構が組み込まれる地板10を外装ケースに収容して成る。なお、本実施形態においては外装ケースの図示は省略する。また、外装ケースの側面に配置される竜頭の図示も省略する。竜頭は、
図1に示す巻き真2の端部に取り付けられている。
【0019】
[全体構成の概要:駆動機構の構成]
機械式時計1が備える駆動機構の概要について説明する。本実施形態において、動力源である動力ゼンマイ11、輪列12、指針軸13を含む機構を「駆動機構」と称する。なお、
図2においては、指針のうち秒針131のみを図示している。
図2に示す駆動機構は一例であり、これに限られるものではなく、図示する歯車以外の歯車等を備えていてもよい。
【0020】
動力ゼンマイ11は、金属製の帯状体からなり、外周に複数の歯が形成される香箱110に収容されている。香箱110は、円盤形状であって、動力ゼンマイ11を収容する空洞が内部に形成されている。動力ゼンマイ11は、その内端が香箱110の中心に設けられる回転軸である香箱真(不図示)に固定されており、その外端が香箱110の内側面に固定されている。ユーザの操作により竜頭が回転させられると、巻き真2が回転する。巻き真2の回転に伴って、動力ゼンマイ11が巻き上げられる。巻き上げられた動力ゼンマイ11は、その弾性力によりほどかれる。この際の動力ゼンマイ11の動作に伴って香箱110が回転することとなる。
【0021】
輪列12は、少なくとも、二番車122、三番車123、四番車124を含む。二番車122は、一番車として機能する香箱110に形成される複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、香箱110の回転を三番車123に伝達する。二番車122の回転軸は、分針(不図示)の指針軸である。三番車123は、二番車122の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、二番車122の回転を四番車124に伝達する。四番車124は、三番車123の複数の歯に噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯とを含み、三番車123の回転を脱進機構20に伝達する。
図2に示すように、四番車124の回転軸は、秒針131の指針軸13である。
【0022】
[全体構成の概要:脱進機構20及び調速機構30の構成、並びにそれらの動作の概要]
次に、脱進機構20及び調速機構30について説明する。動力ゼンマイ11からの動力は、輪列12を通じて、脱進機構20及び調速機構30に伝達される。脱進機構20は、ガンギ車21と、アンクル22とを含んで構成される。調速機構30は、テン輪31と、ヒゲゼンマイ32とを含んで構成される。なお、調速機構30はテンプと呼ばれることもある。
【0023】
ガンギ車21は、アンクル22と噛み合うことでアンクル22から調速機構30の刻むリズムを受け取り、規則正しい往復運動に変換する部品である。ガンギ車21は、四番車124の複数の歯と噛み合うカナと、回転軸と、複数の歯を含む。
図2に示すように、ガンギ車21の複数の歯は、輪列12の各歯車の歯よりも周方向に間隔を広く空けて形成されている。
【0024】
アンクル22は、
図4に示すアンクル真221を回転軸として正逆回転運動を行う。アンクル22は、アンクル真221からテン輪31の中心(テン真311)に向けて延びており、テン真311と共に回転する振り石(不図示)に衝突する竿部222を有する。なお、振り石はテン真311に固定されている。
【0025】
また、アンクル22は、ガンギ車21の複数の歯に衝突する入爪223aが取り付けられる第1腕部223と、第1腕部223の反対方向に延びると共にガンギ車21の複数の歯に衝突する出爪224aが取り付けられる第2腕部224とを有する。なお、入爪223aと出爪224aは、例えば、サファイア等の石であるとよい。
【0026】
テン輪31は、テン真311を回転中心として、輪列12により伝達された動力により正逆回転運動をする。なお、以下の説明において、正逆回転運動のうち正方向運動を「正方向の回転」と呼び、逆方向運動を「逆方向の回転」と呼ぶこともある。
【0027】
図3に示すように、テン輪31は、その外形が円形であって、部分的に切り欠きを有しているとよい。ただし、
図3に示すテン輪31の形状は一例であり、径の異なる箇所を部分的に有してよい。テン真311は、
図3に示す支持部材33により支持されている。
【0028】
ヒゲゼンマイ32は、テン輪31を正逆回転運動させるように伸縮運動(弾性変形)をする。ヒゲゼンマイ32は、渦巻き状であり、その内端はテン真311に対して固定されており、その外端はヒゲ持受34に対して固定されている。なお、ヒゲ持受34は、支持部材33と共に地板10に対して固定されている。また、ヒゲ持受34は、
図3に示すように、支持部材33とワク部材35とに挟まれて設けられている。
【0029】
ガンギ車21は、四番車124の回転に伴って回転する。ガンギ車21が回転すると、アンクル22の入爪223aに衝突し、アンクル22はアンクル真221を中心に回転する。回転したアンクル22の竿部222はテン真311に固定される振り石に衝突し、それにより、テン輪31が回転する。テン輪31が回転すると、アンクル22の出爪224aがガンギ車21に衝突して、ガンギ車21を停止させる。テン輪31がヒゲゼンマイ32の復元力により逆方向に回転すると、アンクル22の入爪223aが解除され、ガンギ車21が再び回転する。なお、後述のように、テン輪31は2秒間で1往復の動作をするよう設計されていることより、ガンギ車21は、1秒に1ステップの動作を行うこととなる。
【0030】
本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率の低い樹脂材料を採用した。これにより、金属材料で構成した場合と比較して、テン輪31の低速振動化を実現することができる。仮に金属ヒゲゼンマイで低速振動化を実現しようとすると、加工困難なレベルまでヒゲゼンマイ32の断面積を小さくするか、扱いが困難なレベルまでヒゲゼンマイ長を長くしなければならない。
【0031】
本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の材料としてヤング率が約5[GPa]の樹脂を用いた。具体的には、ヒゲゼンマイ32の材料としてポリエステルを用いた。なお、樹脂材料からなるヒゲゼンマイ32は、例えば、レーザ加工により製作されるものであるとよい。なお、一般的な金属製のヒゲゼンマイのヤング率は200[GPa]程度である。ここで示したヤング率は一例であり、ヒゲゼンマイ32のヤング率は20[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の10分の1以下であるとよい。さらに好ましくは、ヒゲゼンマイ32のヤング率は10[GPa]以下であるとよい。すなわち、ヒゲゼンマイ32のヤング率は、金属製のヒゲゼンマイのヤング率の20分の1以下であるとよい。また、ヤング率は20[GPa]以下であればよく、ヒゲゼンマイ3は紙や木材といった材料でも構わない。
【0032】
また、本実施形態においては、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31及び永久磁石41の回転角度[deg]を0°とした。なお、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置とは、言い換えると、ヒゲゼンマイ32が自然長である位置である。また、ヒゲゼンマイ32の弾性変形の中立位置にある状態におけるテン輪31に、動力ゼンマイ11からの動力が供給されることとした。すなわち、テン輪31及び永久磁石41は、回転角度が0°の位置において動力ゼンマイ11からの動力が供給される動力供給位置にある。また、後述のように、本実施形態において、永久磁石41は、回転角度0°の位置において、磁気的な釣り合いの位置にある。
【0033】
また、本実施形態においては、テン輪31が回転角度340°から-340°の範囲で駆動するよう設計した。このため、永久磁石41も回転角度340°から-340°の範囲で駆動する。ただし、これは一例であり、テン輪31の移動範囲は、回転角度270°から-270°の範囲以上であるとよい。このようにテン輪31の移動範囲をある程度大きくすることにより、テン輪31の低速振動化を実現できる。
【0034】
以上説明したように、調速機構30は、ヒゲゼンマイ32の伸縮運動によって、一定の周期でテン輪31を繰り返し正逆回転運動(往復運動)させる。脱進機構20は、テン輪31に対して往復運動するための力を与え続ける。このような構成及び動作により、秒針131等の指針が駆動することとなる。
【0035】
[全体構成の概要:歩度調整手段40の構成]
次に、歩度調整手段40の構成について説明する。本実施形態に係る機械式時計1は、駆動機構、脱進機構20、調速機構30に加えて、歩度調整手段40を含んでいる。
【0036】
歩度調整手段40は、永久磁石41と、軟磁性コア42(ステータと呼ばれることもある)と、コイル43と、各種回路(
図5参照)とを含んで構成される。歩度調整手段40は、永久磁石41の正逆回転運動に基づいて検出される検出信号と、基準信号源である水晶振動子70の基準振動数とに基づいて歩度調整を行うものである。なお、本実施形態においては、高い周波数精度を実現するために基準信号源として水晶振動子70を用いたが、これに限らず、例えば、コンデンサと抵抗とで構成されるCR発振器を用いてもよい。
【0037】
永久磁石41は、二極磁化された円盤状の回転体であり、径方向にN極、S極に着磁されている。すなわち、永久磁石41は、N極部411と、S極部412とを含む磁石である。
【0038】
永久磁石41は、テン輪31の回転軸であるテン真311に取り付けられており、テン輪31(テン真311)の正逆回転運動に伴い正逆回転運動を行うように設けられている。すなわち、永久磁石41は、その回転角度がテン輪31の回転角度と同じとなるように、テン輪31と共に正逆回転運動する。なお、永久磁石41は、テン真311に対して圧入または接着等により固定されているとよい。
【0039】
永久磁石41は、磁化容易軸がランダムな方向に向いている等方性磁石であるとよい。なお、永久磁石41は、テン真311に取り付けられた状態で、ヘルムホルツコイル等により磁界が与えられることにより着磁されるとよい。このような着磁方法を採用することにより、永久磁石41の着磁方向を正確に合わせ込むことができる。
【0040】
軟磁性コア42は、軟磁性材から成り、
図4に示すように、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第1端部421aを含む第1磁性部421と、永久磁石41の外周に沿うように設けられる第2端部422aを含む第2磁性部422とを有しており、コイル43と共に磁気回路を構成する。第1端部421aと第2端部422aは、共に半円弧状の内周面を有する形状であり、永久磁石41を介して互いに対向して配置されている。
【0041】
本実施形態においては、永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32が弾性変形の中立位置にある状態において、N極部411が第2磁性部422側に配置されており、S極部412が第1磁性部421側に配置されている(
図4の拡大図参照)。なお、N極部411とS極部412の配置は逆であってもよいが、その場合、コイル43の巻き方向を本実施形態と反対にする必要がある。
【0042】
また、軟磁性コア42は、
図3に示すように、固定具であるパイプ33a及びネジ33bにより、支持部材33に対して固定されている。このような構成により、軟磁性コア42は、支持部材33と共に地板10に組付けられている。
【0043】
なお、地板10に組付けられる構成部品のうち、軟磁性コア42を除く永久磁石41に近い位置にある支持部材33やヒゲ持受34、ワク部材35、ヒゲゼンマイ32、テン輪31といった構成部品は、調速機構30の正逆回転運動や後述するコイル43によって生じる逆起電圧に影響しないよう非磁性材であることが望ましい。
【0044】
また、軟磁性コア42は、
図4に示すように、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離する第1分離部である第1溶接部423と、第1端部421aと第2端部422aとの磁気的な結合を分離すると共に永久磁石41を介して第1溶接部423と対向して配置される第2分離部である第2溶接部424とを含んでいる。なお、第1溶接部423及び第2溶接部424は、第1端部421aと第2端部422aとを物理的に分離する間隙内に形成されるものであるとよい。
【0045】
永久磁石41は、着磁方向が第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向と直交する位置する状態において磁気的な釣り合いの位置となっている。本実施形態において、永久磁石41の磁気的な釣り合いの位置を、回転角度0°とする。なお、第1溶接部423と第2溶接部424との対向方向とは、
図4に示すように、第1溶接部423と第2溶接部424とを結ぶ直線が延びる方向である。
図4に示すように、本実施形態においては、軟磁性コア42の第1端部421a及び第2端部422aの内周面にノッチを形成した。具体的には、第1端部421aにノッチn11とノッチn12を形成した。また、第2端部422aに、永久磁石41を介してノッチn11と対向してノッチn21を形成し、永久磁石41を介してノッチn12と対向してノッチn22を形成した。このようにノッチが形成されることにより、永久磁石41が軟磁性コア42に受ける磁気的影響が低減される。
【0046】
本実施形態においては、
図4に示すように、軟磁性コア42の第1端部421aと第2端部422aが第1溶接部423及び第2溶接部424を介して一体となっている例を示したが、これに限られない。例えば、第1溶接部423及び第2溶接部424を有しておらず、第1端部421aと第2端部422aとは間隙を介して磁気的な結合が分離されるものであってもよい。また、磁気的な結合を完全に分離するものに限られない。例えば、第1端部421aと第2端部422aとは、分離部である狭窄部を介して物理的に繋がっていてもよい。
【0047】
また、
図5に示すように、歩度調整手段40は、制御回路44、回転検出回路45、調速パルス出力回路46、分周回路47、発振回路48、記憶部49、制動回路80を含んでいる。
図5においては、上述した永久磁石41、軟磁性コア42、コイル43の図示を省略している。なお、
図5に示す歩度調整手段40の構成は一例である。歩度調整手段40は、
図5に示す各回路を独立して備えている必要はなく、以下で説明する各機能を実現可能なものであればよい。
【0048】
制御回路44は、歩度調整手段40に含まれる各回路の動作を制御する回路である。特に、制御回路44は、後述のように、少なくとも制動回路80を制御することにより永久磁石41を制動する制動力を制御する制動制御を行う。
【0049】
発振回路48は、水晶振動子70の振動数に基づいて所定の発振信号を出力する。なお、水晶振動子70の振動数は32768[Hz]である。分周回路47は、発振回路48から出力された発振信号を分周する。分周回路47は、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約1000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成する。ただし、これに限られず、基準信号OSは、2000[ms]毎や3000[ms]毎に出力されるものであってもよい。すなわち、基準信号OSは、正秒毎に出力されるものであればよい。また、これに限られず、基準信号OSは調速機構30の周期に対応するものであればよい。記憶部49は、歩度調整のための種々の情報を記憶するとよい。例えば、記憶部49は、基準信号OSの出力間隔に関する情報を記憶するとよい。
【0050】
回転検出回路45は、永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電圧波形に基づいて検出信号を検出する。本実施形態において、所定の閾値Vth以上の逆起電圧が発生することで回転検出回路45により検出される信号を検出信号DEと定義する。なお、本実施形態においては、後述の
図8等に示すように、所定の閾値Vthを0.5[V]とする。なお、衝撃等の外的な要因やその他ノイズにより瞬間的に逆起電圧が閾値Vth以上となってしまう場合がある。このようなノイズ等に起因する誤検出を回避するため、例えば、回転検出のタイミングを検出信号DEが2回以上の所定回数検出されたタイミングとしてもよい。ただし、これに限られず、回転検出の間隔、検出信号DEが連続的に検出された回数、検出信号の検出の蓄積回数等に基づいて適宜決定されるものであってもよい。また、閾値Vthの値は0.5[V]に限られるものではない。また、機械式時計1の状態に応じて閾値Vthを可変としてもよい。例えば、動力ゼンマイ11の巻き上げ状態に応じて閾値Vthを可変としてもよい。具体的には、動力ゼンマイ11のトルクが弱まった状態においては、予め設定される複数の閾値Vthのうち低い閾値が選択されるとよい。
【0051】
調速パルス出力回路46は、分周回路47により生成された基準信号と、回転検出回路45が検出した検出信号DEとに基づいて、調速パルスを出力する。具体的には、回転検出回路45が検出した検出信号DE号の検出タイミングと、約1000[ms]の基準信号の出力タイミングとを比較し、それらのタイミングにズレが生じている場合、調速パルス出力回路46は、検出信号DEが検出される周期を1000[ms](=1秒)に近づけるように調速パルスを出力する。なお、以下の説明において、基準信号OSの出力タイミングから検出信号DEの検出タイミングを引くことにより算出される期間差tが0以上の場合、「進み」であり、期間差tが0未満の場合、「遅れ」であるとする。すなわち、期間差tが0以上の場合、検出信号DEは基準信号OSに対して進んでいることを意味し、期間差tが0未満の場合、検出信号DEは基準信号OSに対して遅れていることを意味する。
【0052】
調速パルスの出力は、コイル43を通電することにより行われる。そのため、調速パルス出力回路46は、検出信号DEが検出される周期が基準信号よりも早い場合、永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電し、検出信号DEが検出される周期が基準信号よりも遅い場合、永久磁石41の動きを早める方向にトルクが働くようにコイル43を通電するとよい。永久磁石41の動きを遅らせる方向にトルクが働くようにコイル43を通電した際に出力される調速パルスは、永久磁石41の動きを制動する制動力となる。
【0053】
調速パルス出力回路46は、出力期間(パルス幅)が互いに異なる複数の調速パルスを出力可能に構成されるとよい。また、調速パルス出力回路46は、出力電圧が互いに異なる複数の調速パルスを出力可能に構成されるとよい。
【0054】
制動回路80は、永久磁石41を制動する電磁ブレーキを作用させる回路である。電磁ブレーキとは、コイル43の第1端子O1と第2端子O2とを短絡させて閉ループ状態にし、永久磁石41の回転に伴ってコイル43に発生する磁束の変化を妨げる向きに磁界が生じるような誘起起電力によって得られる制動力のことをいう。本実施形態においては、電磁ブレーキを制御することで、歩度調整を行っている。なお、電磁ブレーキによる歩度調整の詳細については後述する。
【0055】
[全体構成の概要:発電機としての調速機構30]
機械式時計1は、電磁誘導の原理を用いた発電機能を有する。本実施形態においては、調速機構30が発電機の一部として機能する。具体的には、テン輪31の正逆回転運動に伴い永久磁石41が正逆回転運動をし、永久磁石41の運動による磁界の変化に基づいてコイル43に生じる電流により発電を行う。このような動作原理により取り出した電力を用いて電源回路60を起動させる。電源回路60が起動することで、制御回路44が駆動可能となる。このような構成を採用するため、本実施形態においては、電池等の電源を別途設けることなく、制御回路44を駆動させることができる。
【0056】
整流回路50は、調速機構30のテン輪の正逆回転運動のうち正方向運動及び逆方向運動に伴う永久磁石41の運動によりコイル43に生じる電流を整流する。電源回路60は、例えばコンデンサを含む回路であり、整流回路50により整流された電流に基づいて制御回路44を駆動させるための電力を蓄電する。
【0057】
[全体構成の概要:回路構成]
次に、
図6A及び
図6Bを参照して、本実施形態の機械式時計が有する回路構成について説明する。
図6Aは、機械式時計が有する回路の一例を示す回路図である。
図6Bは、機械式時計が有する回路の他の例を示す回路図である。
【0058】
本実施形態においては、ダイオードDを1つ含む整流回路50を用いて、永久磁石41の運動によりコイル43に生じた逆起電圧に応じた電流を半波整流する構成を採用している。整流回路50は、コイル43に生じた逆起電圧の負の電圧部分を消去し、直流に変換する回路である。
【0059】
コイル43の第1端子O1及び第2端子O2に対しては、トランジスタTP1及びTP2がそれぞれ接続されている。トランジスタTP1及びTP2に対してはコイル43に生じた逆起電圧が入力されて、それに基づいて回転検出回路45が検出信号を検出する。すなわち、所定のタイミングでトランジスタTP1及びTP2をONとすることで、それらトランジスタに対応する第1端子O1及び第2端子O1で発生する誘起電圧を電圧信号である検出信号として取り出すことができる。具体的には、正の逆起電圧の検出時はトランジスタTP1をOFF、トランジスタTP2をONにするとよい。一方、負の逆起電圧の検出時はトランジスタTP1をON、トランジスタTP2をOFFにするとよい。
【0060】
また、トランジスタP11、P12がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタP21、P22がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタP11、P12、P21、P22は調速パルス出力回路46からの調速パルスによりON/OFF制御がされる。発電時において、トランジスタP11、P12、P21、P22のゲート端子をOFFとする。その状態において、トランジスタTP1、TP2と、ダイオードDにより整流回路50が構成される。また、この際、制動回路80が制動力を生じさせない状態とするとよい。すなわち、後述のトランジスタDB1、DB2をOFFにするとよい。永久磁石41が正逆回転運動を行うことにより、コイル43に電流が流れ、コンデンサCが蓄電される。コンデンサCにある程度の蓄電がなされると、電源回路60が起動する。そして、電源回路60が起動することにより、制御回路44が起動し、制御回路44による歩度調整手段40に含まれる各回路の制御が行われることとなる。
【0061】
さらに、トランジスタDB1がコイル43の第1端子O1に接続されており、トランジスタDB2がコイル43の第2端子O2に接続されている。トランジスタDB1及びトランジスタDB2は、
図5に示す制動回路80を構成する。制動回路80は、第1端子O1、第2端子O2を短絡させることで、永久磁石41の振動数を低下させる制動力を生じさせる回路である。なお、
図5においては、制動回路80を歩度調整手段40の一部に含まれる構成であるとして示すが、これに限られるものではない。
【0062】
本実施形態においては、
図6Aに示すように、ダイオードDを1つ含む整流回路50を用いて半波整流を行う構成を採用するため、回路構成を簡易にすると共に、電圧降下を生じにくくすることができる。なお、
図6Aに示す回路は一例であり、
図6Bに示すように整流回路50として、逆方向の逆起電圧も整流できる倍電圧整流回路を採用してもよい。
図6Bにおいては、2つのダイオードD1、D2と、2つのコンデンサC1、C2を含む倍電圧整流回路の例を示している。倍電圧整流回路においては、全波整流回路と比較してダイオードの個数を少なくできる。すなわち、電圧降下を生じにくくすることができる。
【0063】
なお、
図5、
図6A、及び
図6Bを参照して説明した調速パルス出力回路46は必須ではない。すなわち、歩度調整は、制動回路80による電磁ブレーキDBのみによって実現されるものであってもよい。また、
図6Aの半端整流回路及び
図6Bの倍電圧整流回路においては、逆起電圧のうち絶対値の大きい正の逆起電圧で発電可能に構成されているとよい。大きな発電量が得られるためである。ただし、これに限らず、絶対値の小さい負の逆起電圧で発電可能であっても構わない。また、第1端子O1と第2端子O2のいずれで逆起電圧を検出するかを切り替え可能であってもよい。
【0064】
[永久磁石41の回転角度と逆起電圧の関係]
次に、
図7を参照して、永久磁石41の回転角度と逆起電圧の関係の詳細について説明する。
図7は、本実施形態の永久磁石の回転に伴いコイルで検出される逆起電圧を示している。なお、永久磁石41の回転角度と逆起電圧の関係は、テン輪31の回転角度と逆起電圧の関係と同様である。
【0065】
ここでは、永久磁石41の回転角度が0°の位置から正方向に回転運動を行い、ヒゲゼンマイ32の弾性力により逆方向に回転運動を行い、さらにヒゲゼンマイ32の弾性力により正方向に回転運動を行うまでにおいて、コイル43で検出される逆起電圧について説明する。
【0066】
また、永久磁石41のN極部411が軟磁性コア42の第1端部421aに近づく方向に移動する際の磁界の変化によりコイル43に生じる逆起電圧を「正」の逆起電圧とする。一方、N極部411が軟磁性コア42の第1端部421aから遠ざかる方向に移動する際の磁界変化によりコイル43に生じる逆起電圧を「負」の逆起電圧とする。
【0067】
本実施形態においては、永久磁石41は、回転角度が0°において、磁気的な釣り合いの位置にある。そのため、回転角度0°においては、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。永久磁石41は、回転角度0°において、動力ゼンマイ11からの動力が供給される。すなわち、回転角度0°の直後のタイミングで永久磁石41の角速度は最大となる。また、永久磁石41が回転角度0°から180°に正方向に回転する間に、N極部411は第1端部421aに近づく方向に移動する。このように、本実施形態において、永久磁石41は、動力供給位置から正方向に180°回転するまで間にコイル43に検出される逆起電圧が同極性となるように配置されている。
【0068】
そのため、永久磁石41が回転角度0°から180°に回転する間に、永久磁石41の角速度は最大となり、コイル43に生じる正の逆起電圧はピークとなる。
【0069】
永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0070】
永久磁石41が回転角度180°から正方向に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度180°から340°に回転する間に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。この際の永久磁石41の角速度は、回転角度0°から180°に移動するまでの角速度よりも小さい。そのため、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出ることとなる。
【0071】
また、永久磁石41の角速度は、往復運動の折り返し位置である回転角度340°において0となる。そのため、回転角度340°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0072】
回転角度340°に達した永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32の弾性力により、逆方向の回転を始める。永久磁石41が回転角度340°から180°に回転する際に、N極部411が第1端部421aに近づく方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度340°から180°に回転する間に、コイル43には正の逆起電圧が生じる。
【0073】
また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0074】
さらに、永久磁石41は、回転角度180°から0°に回転する。永久磁石41が回転角度180°から0°に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度180°から0°に回転する際に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。
【0075】
また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度0°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0076】
回転角度0°に達した永久磁石41には、動力ゼンマイ11からの動力が供給される。すなわち、回転角度0°の直後に永久磁石41の角速度は最大となる。また、永久磁石41が回転角度0°から-180°に回転する間に、N極部411が第1端部421aに近づく方向に移動する。このように、本実施形態において、永久磁石41は、動力供給位置から逆方向に-180°回転するまで間にコイル43に検出される逆起電圧が同極性となるように配置されている。
【0077】
そのため、永久磁石41が回転角度0°から-180°に回転する間に、永久磁石41の角速度は最大となり、コイル43に生じる正の逆起電圧はピークとなる。
【0078】
永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度-180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0079】
永久磁石41が回転角度-180°から逆方向に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度-180°から-340°に回転する間に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。この際の永久磁石41の角速度は、回転角度0°から-180°に移動するまでの角速度よりも低い。そのため、負の逆起電圧のピークの絶対値は、正の逆起電圧のピークの絶対値よりも小さく出ることとなる。
【0080】
また、永久磁石の角速度は、往復運動の折り返し位置である回転角度-340°において0となる。そのため、回転角度-340°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0081】
回転角度-340°に達した永久磁石41は、ヒゲゼンマイ32の弾性力により、正方向の回転を始める。永久磁石41が回転角度-340°から-180°に回転する際に、N極部411が第1端部421aに近づく方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度-340°から-180°に回転する間に、コイル43には正の逆起電圧が生じる。
【0082】
また、永久磁石41が磁気的な釣り合いの位置である回転角度-180°において、コイル43に生じる逆起電圧は0となる。
【0083】
さらに、永久磁石41は、回転角度-180°から0°に回転する。永久磁石41が回転角度-180°から0°に回転する際に、N極部411が第1端部421aから遠ざかる方向に移動する。そのため、永久磁石41が回転角度-180°から0°に回転する際に、コイル43には負の逆起電圧が生じる。
【0084】
以上のような動作を繰り返し、
図7に示す波形の逆起電圧がコイル43に生じることとなる。
図7に示すように、逆起電圧のピークは、正の逆起電圧と負の逆起電圧とで異なっている。すなわち、正の逆起電圧の絶対値の最大値は、負の逆起電圧の絶対値の最大値よりも大きい。また、永久磁石41の正方向の運動と、逆方向の運動とで、検出される逆起電圧の波形は同形状となっている。
【0085】
[電磁ブレーキDBの詳細]
次に、
図8~
図10を参照して、本実施形態における電磁ブレーキDBの詳細について説明する。
図8は、本実施形態における電磁ブレーキDBの一例を示す図である。
図9は、本実施形態における制動ランクについて説明する図である。
図10は、本実施形態において、外乱が生じた場合に作用する電磁ブレーキを説明する図である。
【0086】
歩度調整手段40は、検出信号DEの検出タイミングに基づいて、電磁ブレーキDBの作用を開始させて歩度調整を行う。上述のように、電磁ブレーキDBが作用している期間においては、コイル43が短絡していることより逆起電圧は検出されない。そのため、逆起電圧のピークが現れるタイミングが電磁ブレーキDBの作用している期間と重なった場合、検出信号DEは検出されない。例えば、機械式時計1に外部衝撃や強い磁場が加わるなどして、テン輪31の回転が大幅に進んだり、大幅に遅れたりすることで逆起電圧の波形が乱れた場合、検出信号DEを検出できない可能性がある。検出信号DEを検出できないと、制動制御を正常に行うことができなくなってしまう。その結果、歩度精度が低下してしまう。
【0087】
そこで、本実施形態においては、制御回路44が、検出信号DEの検出タイミングに応じて開始される制動期間tu内において、永久磁石41に対して制動力が断続的に作用されるよう制動回路80を制御する構成を採用した。
【0088】
図8においては、検出信号DEの検出タイミングから非制動期間tsを経過した後、制動期間tuが開始される例を示している。
【0089】
非制動期間tsは、電磁ブレーキDBが作用されない期間である。非制動期間tsは、検出信号DEの検出タイミングに応じて開始されるとよい。非制動期間tsの長さは予め設定されているとよい。
【0090】
非制動期間tsは、電磁ブレーキDBが作用されない期間であり、発電可能な期間である。そのため、非制動期間tsの少なくとも一部は、テン輪31が回転角度0°から180°に向けて回転する間、又は0°から-180°に向けて回転する間に含まれる期間であるとよい。この間はテン輪31が動力ゼンマイ11からの動力を受けた直後であることよりテン輪31の回転速度が速く、発電しやすい期間であるためである。
【0091】
本実施形態において、制動期間tuは、非検出期間と検出可能期間とを交互に含む期間である。
図9においては、制動期間tuが、複数の非検出期間Tbと、複数の検出可能期間Tcとを交互に含む例を示している。
【0092】
非検出期間Tbは、電磁ブレーキDBが作用している期間である。非検出期間Tbにおいては、コイル43が短絡していることより、検出信号DEは検出されない。
【0093】
検出可能期間Tcは、電磁ブレーキDBが作用していない非作用期間である。検出可能期間Tcにおいては、コイル43に生じる逆起電圧を検出可能であるため、検出信号DEの検出が可能である。
【0094】
図10においては、機械式時計1に外部衝撃(
図10中に示す「外乱」)等が生じることにより、逆起電圧の波形が乱れた場合の例を示している。具体的には、外乱により、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングが早まった例を示している。
【0095】
仮に、電磁ブレーキDBが連続的に作用されるものである場合、
図10に示す2回目の検出信号DEは検出されない可能性がある。その場合、3回目の検出信号DEが検出されるまで、適切な制動制御を行うことができない状態となる。また、制御回路44は3回目の検出信号DEの検出タイミングと3回目の基準信号OSから期間差tを算出することとなるため、過度に遅れていると判断され、その後の制動制御が正常に行われなくなる。その結果、さらに歩度ズレが大きくなり、歩度精度が低下してしまう。
【0096】
本実施形態においては、電磁ブレーキDBが断続的に作用されるものであるため、逆起電圧のピークが現れるタイミングが制動期間tuと重なった場合においても、検出可能期間Tcにおいて検出信号DEを検出することができる。
【0097】
なお、制動期間tuは、検出信号DEの検出タイミングに応じて開始され、その次の検出信号DEの検出タイミングに応じて終了するとよい。すなわち、制動期間tuの始期及び終期は、検出信号DEの検出タイミングに応じて決定されるとよい。なお、制動期間tuの終期は予め設定されていてもよい。それにより、長期間に亘って検出信号DEを検出できない状態においても、制動期間tuを強制的に終了させ、非制動期間tsに切り替えることができる。
【0098】
さらに、本実施形態においては、制御回路44が、検出信号DEの検出タイミングに基づいて、電磁ブレーキDBの制動ランクを選択するとよい。そのため、制動回路80は、大きさの異なる複数の制動力を作用させることが可能に構成されているとよい。
【0099】
制動ランクは、デューティ比に応じたランクである。本実施形態において、デューティ比とは、所定の区間Taにおける電磁ブレーキDBが作用される作用期間(非検出期間Tb)の割合である。デューティ比は0%~100%の範囲の比率であって、制動ランクに応じて予め設定されているとよい。例えば、制動ランク0~15におけるデューティ比がそれぞれ1/16~15/16であるとよい。
【0100】
図9においては、所定の区間Taにおける非検出期間Tbの割合が75%(12/16)である電磁ブレーキDBのランクを制動ランク12、所定の区間Taにおける非検出期間Tbの割合が25%(4/16)である電磁ブレーキDBのランクを制動ランク4として示している。区間Taは、電磁ブレーキDBが作用される周期に対応する区間である。区間Taは、0.5[ms]程度であるとよい。すなわち、制御回路44は、基準信号OSの出力間隔(1秒間)において、2000回弱の電磁ブレーキDBが連続的に作用されるチョッパー制御を行うとよい。そのため、電磁ブレーキDBは、
図8、
図9に示すように、断続的に出力される単パルスであるチョッパーパルスで表すことができる。
【0101】
また、同じ制動ランクにおいて、所定の区間Taは可変であってもよい。
図9の下段に示す制動ランク4は、
図9の中段に示す制動ランク4と制動力の大きさは同じであって、区間Taの長さが2倍となっている。この場合、例えば、互いに長さの異なる区間Ta毎に独立した制動ランクを設定してもよい。
【0102】
図9の中段に示す電磁ブレーキDBにおいては、
図9の下段に示す電磁ブレーキDBと比べて検出可能期間Tcの頻度が高いことより、逆起電圧のピーク幅が比較的短い場合において、検出信号DEの検出を逃しにくい。
図9の下段に示す電磁ブレーキDBにおいては、
図9の下段に示す電磁ブレーキDBと比べて検出可能期間Tcが長いことより、逆起電圧のピーク幅が比較的長い場合において、検出信号DEの検出を逃しにくい。
【0103】
なお、区間Taにおける非検出期間Tbのタイミングは
図9に示す例に限られない。非検出期間Tbは、少なくとも区間Taの一部の期間であればよく、例えば、非検出期間Tbの終期が区間Taの終期と一致するように区間Taにおける非検出期間Tbが設定されてもよい。
【0104】
基準信号OSに対して検出信号DEが進んでいる場合、制動ランクを上げるとよい。すなわち、歩度の進みが生じている場合、制御回路44は、次回作用される電磁ブレーキDBの制動力が大きくなるように制動回路80を制御するとよい。
【0105】
一方、基準信号OSに対して検出信号DEが遅れている場合、制動ランクを下げるとよい。すなわち、歩度の遅れが生じている場合、制御回路44は、次回作用される電磁ブレーキDBの制動力が小さくなるように制動回路80を制御するとよい。
【0106】
なお、基準信号OSは所定の幅を有してもよい。基準信号OSが出力される期間内において検出信号DEが検出された場合(後述の期間差tが0の場合)、制御回路44により、歩度に進みも遅れもないと判定されるとよい。
【0107】
[フローチャート]
次に、
図11及び
図12を参照して、本実施形態の制動制御の処理フローを説明する。
図11及び
図12は、本実施形態の制動制御の一例を示すフローチャートである。
【0108】
本実施形態においては、
図11に示すように、永久磁石41の運動により発電が行われることにより電源回路60が起動し(ST1のY)、初回の検出信号DEが検出された後(ST2のY)、電磁ブレーキDBの制御が開始される。
【0109】
図12に示すように、本実施形態においては、初回の検出信号DEが検出された後、非制動期間tsとなる(ST3)。非制動期間tsが経過した後、現在の制動ランクに対応する非検出期間Tbと、現在の制動ランクに対応する検出可能期間Tcとが、次の検出信号DEが検出されるまで交互に繰り返される(ST4~ST6)。すなわち、現在の制動ランクに応じて電磁ブレーキDBが断続的に作用される。
【0110】
制動期間tuのうち検出可能期間Tcにおいて検出信号DEが検出された場合(ST6のY)、制御回路44により、検出信号DEと基準信号OSの期間差t(基準信号OSのタイミング-検出信号DEのタイミング)が算出される(ST7)。期間差tが0以上である場合、すなわち、歩度に進みが生じている場合(ST8のY)、現在の制動ランクを1つ上げる(ST9)。一方、期間差tが0未満である場合、すなわち、歩度に遅れが生じている場合(ST8のN)、現在の制動ランクを1つ下げる(ST10)。その後、再び非制動期間tsとなり(ST3)、非制動期間tsが経過した後、ST9又はST10において変更後の現在の制動ランクに応じて電磁ブレーキDBが断続的に作用される(ST4~ST6)。
【0111】
なお、現在の制動ランクが最大ランクである場合、ST9においてランクの変動を行わず、現在の制動ランクを継続するとよい。同様に、現在の制動ランクが最小ランクでる場合、ST10においてランクの変動を行わず、現在の制動ランクを継続するとよい。
【0112】
以上説明した本実施形態においては、歩度ズレが生じた場合においても検出信号DEの検出を逃すことを回避できる。すなわち、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングがズレた場合においても逆起電圧のピークを検出することができる。特に、外部衝撃等が生じることで逆起電圧の波形が大きく乱れた場合においても検出信号DEを検出することができ、正常な制動制御を継続することできる。その結果、歩度精度を維持することができる。さらに、制動期間tuが、コイル43が短絡していない検出可能期間Tcを含むことより、その間に発電を行うことが可能である。そのため、電磁ブレーキDBが連続的に作用される場合と比較して発電量を向上することができる。すなわち、本実施形態においては、歩度精度の維持と、発電量の向上とを両立することができる。さらに、電磁ブレーキDBを断続的に作用されることより、連続的に作用させる場合と比較して消費電力を抑制することができる。
【0113】
[第1変形例]
次に、
図13を参照して、本実施形態の第1変形例の制動制御の処理フローを説明する。
図13は、本実施形態の第1変形例の制動制御の一例を示すフローチャートである。なお、
図12で示した処理と同様の処理については同じ符号を用いてその説明の詳細については省略する。また、第1変形例においては、本実施形態と同様に
図11に示す処理が行われた後、ST3における非制動期間tsが開始される。
【0114】
上記本実施形態においては、検出信号DEが検出される毎に制動ランクを上下させる例を説明したが、第1変形例においては、同じ制動ランクを所定回数連続した後、制動ランクを上下させる例について説明する。
【0115】
第1変形例においては、ST7で算出した期間差tが±30[ms]の範囲にある場合(ST18のN)、同じ制動ランクが4回以上連続したか否かを判定する(ST19)。同じ制動ランクが4回以上連続していない場合(ST19のN)、制動ランクを上下させず、再び非制動期間tsを開始する(ST3)。同じ制動ランクが4回以上連続した場合であって(ST19のY)、期間差tが0以上である場合、すなわち、歩度に進みが生じている場合(ST8のY)、現在の制動ランクを1つ上げる(ST9)。同じ制動ランクが4回以上連続した場合であって(ST19のY)、期間差tが0未満である場合、すなわち、歩度に遅れが生じている場合(ST8のN)、現在の制動ランクを1つ下げる(ST10)。
【0116】
また、ST7で算出した期間差tが30[ms]より大きい、又は-30[ms]より小さい場合(ST18のY)、同じ制動ランクが2回以上連続したか否かを判定する(ST20)。同じ制動ランクが2回以上連続していない場合(ST20のN)、制動ランクを上下させず、再び非制動期間tsを開始する(ST3)。同じ制動ランクが2回以上連続した場合であって(ST20のY)、期間差tが0以上である場合、すなわち、歩度に進みが生じている場合(ST8のY)、現在の制動ランクを1つ上げる(ST9)。同じ制動ランクが2回以上連続した場合であって(ST20のY)、期間差tが0未満である場合、すなわち、歩度に遅れが生じている場合(ST8のN)、現在の制動ランクを1つ下げる(ST10)。
【0117】
第1変形例においては、制動ランクの変動の頻度を抑えることができる。また、歩度の進み又は遅れの大きさに応じて、制動ランクの変動の頻度を変えることができる。具体的には、歩度の進み又は遅れが大きい場合、制動ランクの変動の頻度を高くして、より適切なランクの電磁ブレーキDBを作用させることが可能となる。
【0118】
[第2変形例]
次に、
図14を参照して、本実施形態の第2変形例の制動制御の処理フローを説明する。
図14は、本実施形態の第2変形例の制動制御の一例を示すフローチャートである。なお、
図12で示した処理と同様の処理については同じ符号を用いてその説明の詳細については省略する。また、第2変形例においては、本実施形態と同様に
図11に示す処理が行われた後、ST3における非制動期間tsが開始される。
【0119】
第2変形例においては、制御回路44は、基準信号源の基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングに応じて、高制動モードと低制動モードとで制動モードを切り替え可能に構成されている。高制動モードにおける現在の制動ランクは、低制動モードにおける現在の制動ランクよりも高い制動ランクに設定されているとよい。すなわち、高制動モードは、常時、低制動モードの制動ランクよりも高い制動ランクに設定されるモードであるとよい。
【0120】
第2変形例においては、制御回路44は、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいるか遅れているか、及び今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいるか遅れているかに応じて、高制動モード及び低制動モードにおける現在の制動ランクを設定するとよい。
【0121】
具体的には、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでおり、今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいる場合、高制動モードにおける現在の制動ランクを1上げるとよい。また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れており、今回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいる場合、低制動モードにおける現在の制動ランクを1上げるとよい。
【0122】
また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでおり、今回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れている場合、高制動モードにおける現在の制動ランクを1下げるとよい。また、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れており、今回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れている場合、低制動モードにおける現在の制動ランクを1下げるとよい。
【0123】
そして、制御回路44は、回転検出回路45による前回の検出信号DEの検出時と今回の検出信号DEの検出時とで、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングの進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合よりも、基準信号OSの出力タイミングに対する検出信号DEの検出タイミングの進み又は遅れが異なる場合の方が、制動ランクの変動幅が大きくなるよう制動ランクを制御するとよい。例えば、前回と今回とで進み又は遅れのいずれか一方が連続する場合においては制動ランクを1又は2ランク変動させ、前回と今回とで進み又は遅れが異なる場合においては制動ランクを3ランク以上変動させるとよい。
【0124】
図14に示すように、第2変形例においては、ST7で算出した期間差tが0以上である場合、すなわち、歩度に進みが生じている場合(ST8のY)、以下の制御を行う。
【0125】
前回の歩度ズレの検出時における期間差tが負であったか否か、すなわち、前回の歩度ズレの検出時において歩度が遅れていたか否かを判定する(ST29)。
【0126】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が遅れていた場合(ST29のY)、低制動モードの制動ランクを上げると、高制動モードにおける現在の制動ランクと同じになるか否かを判定する(ST30)。同じになると判定された場合(ST30のY)、ランクを変更することなく、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST32)。一方、同じにならないと判定された場合(ST30のN)、低制動モードにおける制動ランクを1上げると共に(ST31)、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST32)。
【0127】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が進んでいた場合(ST29のN)、高制動モードの制動ランクを上げると、高制動モードの制動ランクが最大ランクを超えるか否かを判定する(ST33)。越えると判定された場合(ST33のY)、ランクを変更することなく、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST32)。一方、超えないと判定された場合(ST33のN)、高制動モードにおける制動ランクを1上げると共に(ST34)、ランクを上げた後の高制動モードにおける現在の制動ランクで、電磁ブレーキDBを作用させる(ST32)。
【0128】
ST8において、期間差tが負であると判定された場合(ST8のN)、前回の歩度ズレの検出時における期間差tが正か否か、すなわち、前回の歩度ズレの検出時において歩度が進んでいたか否かを判定する(ST35)。
【0129】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が進んでいた場合(ST35のY)、高制動モードの制動ランクを下げると、低制動モードにおける現在の制動ランクと同じになるか否かを判定する(ST36)。同じになると判定された場合(ST36のY)、ランクを変更することなく、高制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST38)。一方、同じにならないと判定された場合(ST36のN)、高制動モードにおける制動ランクを1下げると共に(ST37)、低制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST38)。
【0130】
前回の歩度ズレの検出時における歩度が遅れていた場合(ST35のN)、低制動モードの制動ランクを下げると、低制動モードの制動ランクが最小ランクを下回るか否かを判定する(ST39)。下回ると判定された場合(ST39のY)、ランクを変更することなく、低制動モードにおける現在の制動ランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST38)。一方、下回ると判定された場合(ST39のN)、高制動モードにおけるランクを1下げると共に(ST40)、低制動モードにおける現在のランクに対応する電磁ブレーキDBを作用させる(ST38)。
【0131】
第2変形例においては、歩度ズレの推移に応じて制動ランクを制御することで、迅速かつ精度良く歩度調整を行うことができる。特に、外部衝撃が生じた場合など、短期間で歩度が大きくズレてしまった場合においても、迅速かつ精度良く歩度調整を行うことができる。
【0132】
[第3変形例]
次に、
図15及び
図16を参照して、本実施形態の第3変形例について説明する。
図15は、本実施形態の第3変形例における非制動ランクについて説明する図である。
図16は、本実施形態の第3変形例の制動制御の一例を示すフローチャートである。なお、
図12で示した処理と同様の処理については同じ符号を用いてその説明の詳細については省略する。
【0133】
第3変形例においては、本実施形態と同様に
図11に示す処理が行われた後、
図16に示すST103における非制動期間tsが開始される。第3変形例においては、非制動期間tsの長さが、現在の非制動ランクに対応して変動する例を説明する。
【0134】
第3変形例においては、非制動ランクが高いほど非制動期間tsが短く、非制動ランクが低いほど非制動期間tsを長くした。すなわち、非制動ランクが高いほど、制動期間tuの始期が早くなるため制動力が大きくなる。一方、非制動ランクが低いほど、制動期間tuの始期が遅くなるため、発電量を向上することができる。
【0135】
図15においては、非制動ランクを0~4で切り替え可能な例を示している。例えば、非制動ランク4において非制動期間tsは0[ms]であり、非制動ランク3において非制動期間tsは20[ms]であり、非制動ランク2において非制動期間tsは40[ms]であり、非制動ランク1において非制動期間tsは60[ms]であり、非制動ランク0において非制動期間tsは80[ms]であるとよい。なお、非制動ランクの数や、非制動期間tsの長さは一例であって、これに限られるものではない。
【0136】
非制動ランク4において、検出信号DEの検出タイミングと同時に制動期間tuが開始される。非制動ランク0~3においては、検出信号DEの検出タイミングから非制動期間tsを経過した後、制動期間tuが開始される。
【0137】
図16に示すように、第3変形例においては、初回の検出信号DEが検出された後、現在の非制動ランクに対応する非制動期間tsとなる(ST103)。非制動期間tsが経過した後、現在の制動ランクに対応する非検出期間Tbと、現在の制動ランクに対応する検出可能期間Tcとが、次の検出信号DEが検出されるまで交互に繰り返される(ST4~ST6)。すなわち、現在の制動ランクに応じて電磁ブレーキDBが断続的に作用される。
【0138】
そして、ST7で算出した期間差tが0以上である場合、すなわち、歩度に進みが生じている場合(ST8のY)、現在の制動ランクを1つ上げる(ST9)。一方、期間差tが0未満である場合、すなわち、歩度に遅れが生じている場合(ST8のN)、現在の制動ランクを1つ下げる(ST10)。
【0139】
さらに、第3変形例においては、ST6において検出した検出信号DEの検出回数が10回に達したか否かを判定する(ST111)。第3変形例においては、歩度調整手段40が検出信号DEの検出回数をカウントするカウンタを有しているとよい。
【0140】
検出信号DEの検出回数が10回未満である場合(ST111のN)、すなわち、カウンタのカウント数が10未満である場合、現在の非制動ランクに対応する非制動期間tsを開始する(ST103)。
【0141】
検出信号の検出回数が10回に達している場合(ST111のY)、すなわち、カウンタのカウント数が10である場合、制動ランクが最大である期間があったか否かを判定する(ST112)。制動ランクが最大である期間があった場合(ST112のY)、現在の非制動ランクを1上げる(ST113)。すなわち、制動力を小さくする。
【0142】
一方、制動ランクが最大である期間がなかった場合(ST112のN)、現在の非制動ランクを1下げる(ST114)。すなわち、制動力を大きくする。
【0143】
また、非制動ランクを切り替えた後、カウンタをリセットして(ST115)、現在の非制動ランクに対応する非制動期間tsを開始する(ST103)。
【0144】
第3変形例においては、非制動期間tsの長さを変動させることで、制動ランクを切り替えるだけの場合と比較して、制動力の調整をより細かく行うことができる。また、非制動期間tsを長くすることで発電量を向上することができ、非制動期間tsを短くすることで制動力を大きくすることができる。
【0145】
なお、
図15においては、検出回数が10回に達する毎に非制動ランクを変動させる例について示したが、これに限られず、制動ランクの変動と同様に、検出信号DEを検出する度に変動させても構わない。
【0146】
また、
図15においては、検出回数が10回に達するまでの間に制動ランクが最大である期間があったか否かによって非制動ランクを変動させる例を説明したが、これに限られず、非制動期間tsの長さは、少なくとも制動期間tuにおける非検出期間Tbの比率(制動ランク)に応じて設定されるとよい。すなわち、非制動ランクは制動ランクに応じて変動されるものであればよい。例えば、ある期間における制動ランクの平均が所定値よりも大きいか否かによって、非制動ランクを上下させてもよい。
【0147】
また、第3変形例においては、検出信号DEを検出した後に、検出信号DEを検出しないマスク期間を設けてもよい。これにより、非制動期間tsの長さが短い設定の状態において、逆起電圧における1回のピークにより検出信号DEを複数回検出してしまうことを回避できる。マスク期間は、予め設定された長さであってもよいし、逆起電圧が閾値Vthより小さくなったことを判定した後に終了する期間であってもよい。
【0148】
[その他の変形例]
上記本実施形態及び各変形例においては制動ランクを1ずつ上下させる例を説明したが、これに限られず、歩度の進み具合又は遅れ具合に応じたランク数を上下させることとしてもよい。例えば、歩度の進み具合が大きい場合、現在の制動ランクを2以上上げるとよい。また、歩度の遅れ具合が大きい場合、現在の制動ランクを2以上下げるとよい。第3変形例における非制動ランクについても同様に、2以上変動可能としてもよい。
【0149】
また、上記本実施形態及び各変形例においては、検出信号DEが1回検出された後に制動ランクを変動させる例を説明したが、これに限られず、検出信号DEが複数回検出された後に制動ランクを変動させることとしてもよい。例えば、
図10におけるST6において、検出信号DEの検出が複数回行われた際に、ST7へ進むこととしてもよい。この場合、例えば期間差tの蓄積量に基づいて制動ランクを変動させてもよい。
【0150】
また、
図6Aで示したコンデンサCにおける電圧に応じて制御可能な制動ランクの範囲を異ならせてもよい。例えば、コンデンサCにおける電圧が0.6V以上の場合、制動ランクを0~15の間で変動可能とし、コンデンサCにおける電圧が0.6V未満の場合、制動ランクを0~10の間で変動可能とするとよい。これにより、コンデンサCにおける電圧が十分に高い状態において、本実施形態で説明したように外部衝撃が生じた場合においても精度良く歩度調整を行うことができる。一方、コンデンサCにおける電圧が不足している状態において、制動ランクを比較的低く設定することで発電量の確保を重視した制御を行うことができる。なお、この場合、電源回路60は、コンデンサCにおける電圧を測定可能に構成されると共に、測定した電圧を制御回路44に対して入力可能に構成されているとよい。
【0151】
また、テン輪31の正方向の回転時と負方向の回転時とで制動ランクの設定を独立して行ってもよい。機械式時計1の組み立て時における製造ばらつき等によってテン輪31の回転角度が正方向と逆方向とで異なってしまう場合があるためである。正方向と逆方向とで回転角度が異なると、正方向と逆方向とで制動の効き量が異なったり、検出信号DEが検出されるタイミングが異なったりしてしまう。それにより、適切な制動制御が実行されない場合がある。そのため、正方向と逆方向とで独立した制動制御を行うことで、歩度精度をより向上させることができる。
【0152】
また、
図10においては、1ステップ(1秒)基準で基準信号OSを設定した例を示したが、これに限られない。すなわち、2ステップ(2秒)や3ステップ(3秒)基準で基準信号OSを出力することとしてもよい。この場合、水晶振動子70に基づく発振信号を分周することで約2000[ms]毎や約3000[ms]毎に出力される基準信号OSを生成するとよい。
【0153】
また、基準信号OSの出力間隔は、製品仕様(調速機構30や輪列の組み合わせ)に応じて、予め選択可能であってもよい。その場合、記憶部49は、基準信号OSの出力間隔を互いに異なる複数の出力間隔のうちいずれかに設定するための設定情報を記憶するとよい。例えば、ある機種の機械式時計1においては基準信号OSの出力間隔を約1000[ms]に予め設定し、別の機種の機械式時計1においては基準信号OSの出力間隔を約2000[ms]に予め設定するとよい。そして、制御回路44は、予め設定された出力間隔で出力される基準信号OSの出力タイミングに対する検出タイミングDEに基づいて制動回路80を制御するとよい。
【符号の説明】
【0154】
1 機械式時計、2 巻き真、10 地板、10a 位置決めピン、10b 開口、11 動力ゼンマイ、12 輪列、122 二番車、123 三番車、124 四番車、13 指針軸、131 秒針、20 脱進機構、21 ガンギ車、22 アンクル、221
アンクル真、222 竿部、223 第1腕部、224 第2腕部、30 調速機構、31 テン輪、311 テン真、32 ヒゲゼンマイ、33 支持部材、33a パイプ、33b ネジ、34 ヒゲ持受、35 ワク部材、40 歩度調整手段、41 永久磁石、42 軟磁性コア、421 第1磁性部、421a 第1端部、422 第2磁性部、422a 第2端部、43 コイル、44 制御回路、45 回転検出回路、46 調速パルス出力回路、47 分周回路、48 発振回路、49 記憶部、50 整流回路、60 電源回路、70 水晶振動子、80 制動回路、n11,n12,n21,n22 ノッチ。