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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172195
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】冷却材及びヒートポンプ用冷媒
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20241205BHJP
   F25B 30/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C09K5/06 J
F25B30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089750
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147304
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 知哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148493
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 浩二
(72)【発明者】
【氏名】崎川 伸基
(72)【発明者】
【氏名】矢井 ひかり
(57)【要約】
【課題】大きな空間を占めることなく機器を効率よく冷却することができる冷却材及びヒートポンプ用冷媒を提供する。
【解決手段】冷却材は、下限臨界溶液温度より低い温度において親水性を有し前記下限臨界溶液温度より高い温度において疎水性を有する感温性高分子と、前記感温性高分子を湿潤させる極性溶媒と、を含み、前記下限臨界溶液温度を越える温度上昇が起こった場合に吸熱反応を伴う体積相転移を起こす感温性ゲルを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下限臨界溶液温度より低い温度において親水性を有し前記下限臨界溶液温度より高い温度において疎水性を有する感温性高分子と、前記感温性高分子を湿潤させる極性溶媒と、を含み、前記下限臨界溶液温度を越える温度上昇が起こった場合に吸熱反応を伴う体積相転移を起こす感温性ゲル
を備える冷却材。
【請求項2】
前記感温性ゲルは、前記温度上昇が起こった場合に収縮して前記極性溶媒の一部を放出する
請求項1に記載の冷却材。
【請求項3】
前記感温性ゲルを覆い、前記極性溶媒を透過させない不透層を備える
請求項1又は2に記載の冷却材。
【請求項4】
前記不透層は、ポリ塩化ビニリデン、シリコーンゲル、ポリエチレン及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項3に記載の冷却材。
【請求項5】
前記下限臨界溶液温度は、第1の下限臨界溶液温度であり、
前記感温性高分子は、第1の感温性高分子であり、
前記極性溶媒は、第1の極性溶媒であり、
前記体積相転移は、第1の体積相転移であり、
前記感温性ゲルは、第1の感温性ゲルであり、
前記第1の下限臨界溶液温度と異なる第2の下限臨界溶液温度より低い温度において親水性を有し前記第2の下限臨界溶液温度より高い温度において疎水性を有する第2の感温性高分子と、前記第2の感温性高分子を湿潤させる第2の極性溶媒と、を含み、前記第1の感温性ゲルに接触し、前記第2の下限臨界溶液温度を超える温度変化が起こった場合に第2の体積相転移を起こす第2の感温性ゲルを備える
請求項1又は2に記載の冷却材。
【請求項6】
前記冷却材は、糸状の形状を有し、
前記第1の感温性ゲルは、芯であり、
前記第2の感温性ゲルは、前芯を被覆する鞘であり、
前記第2の下限臨界溶液温度は、前記第1の下限臨界溶液温度より低い
請求項5に記載の冷却材。
【請求項7】
前記鞘を被覆し、前記第1の極性溶媒及び前記第2の極性溶媒を透過させない不透層を備える
請求項6に記載の冷却材。
【請求項8】
前記不透層は、ポリ塩化ビニリデン、シリコーンゲル、ポリエチレン及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項7に記載の冷却材。
【請求項9】
前記第2の下限臨界溶液温度は、前記第1の下限臨界溶液温度より高い
請求項5に記載の冷却材。
【請求項10】
前記第2の感温性ゲルは、前記第1の感温性ゲルを包む
請求項9に記載の冷却材。
【請求項11】
前記第1の下限臨界溶液温度より低い温度において、前記第2の感温性ゲルの体積は、前記第1の感温性ゲルの体積より大きい
請求項9に記載の冷却材。
【請求項12】
前記第1の下限臨界溶液温度より低い温度において、前記第2の感温性ゲル中の前記第2の感温性高分子の濃度は、前記第1の感温性ゲル中の前記第1の感温性高分子の濃度より低い
請求項9に記載の冷却材。
【請求項13】
前記感温性高分子は、
(1)セルロース誘導体、ポリビニルエーテル、ポリビニルエーテルの誘導体、ポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド)の誘導体、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)の誘導体、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(N-ビニルピロリドン)の誘導体、ポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)の誘導体、ポリビニルアルキルエーテル、ポリビニルアルキルエーテルの誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体の誘導体、ポリ(オキシエチレンビニルエーテル)及びポリ(オキシエチレンビニルエーテル)の誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子;
(2)前記群より選択される少なくとも2種の高分子の共重合体;並びに
(3)前記少なくとも1種の高分子及び前記少なくとも2種の高分子の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子の架橋体
からなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項1又は2に記載の冷却材。
【請求項14】
前記感温性ゲルは、
(1)ポリエチレングリコール、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、キトサン及びセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子;
(2)前記群より選択される少なくとも2種の高分子の共重合体;並びに
(3)前記少なくとも1種の高分子及び前記少なくとも2種の高分子の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子の架橋体
からなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項1又は2に記載の冷却材。
【請求項15】
前記極性溶媒は、水及びイオン液体からなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項1又は2に記載の冷却材。
【請求項16】
前記冷却材は、平板状、糸状、網目状、球状、錐状、棒状、ひも状、コイル状、屏風状、粒状若しくは粉砕物状の形状、又は板状若しくは布状の外形形状を有し複数の孔が形成された形状を有する
請求項1又は2に記載の冷却材。
【請求項17】
請求項3に記載の冷却材と、
前記冷却材が混入される液体冷媒と、
を備えるヒートポンプ用冷媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷却材及びヒートポンプ用冷媒に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の冷却の方式は、空冷式、水冷式及び相変化冷却式に大別される。
【0003】
空冷式による電子機器の冷却においては、ファンにより気流が生成される。また、電子機器内の発熱源から当該気流により流される空気に熱が伝えられる。これにより、発熱源から熱が奪われて発熱源が冷却される。
【0004】
液冷式による電子機器の冷却においては、ポンプにより循環する液流が生成される。また、電子機器内の発熱源から当該液流により流される液体に熱が伝えられる。これにより、発熱源から熱が奪われて発熱源が冷却される。
【0005】
相変化冷却式による電子機器の冷却においては、電子機器内の発熱源から液体に熱が伝えられて液体が気体に変化する。これにより、液体が気体に変化するのに必要な潜熱が発熱源から奪われて発熱源が冷却される。液体から変化した気体は、発熱源から離れた位置において冷却されて液体に変化する。気体から変化した液体は、発熱源の周りに戻る。相変化冷却式による電子機器の冷却は、ポンプを必要としないポンプレス技術として注目されている。
【0006】
特許文献1は、冷却装置を開示する。当該冷却装置においては、冷媒液が、冷媒液に浸漬された発熱素子の発熱を潜熱として奪うことによって蒸発し、冷媒蒸気となり、気化熱の形で熱を保持する。冷媒蒸気は、筐体壁を介して又は筐体壁及び放熱部材を介して外部に気化熱を放出する。気化熱を放出した冷媒蒸気は、凝縮し、再び冷媒液となる。凝縮した冷媒液は、筐体壁を伝わって又は直接的に落下してプールされている冷媒液に戻る。これにより、冷媒は、発熱素子を相変化冷却可能である(段落0012,0015及び0024)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-140247号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
空冷式による電子機器の冷却には、ファン等の追加の設備が必要である。液冷式による電子機器の冷却には、ポンプ等の追加の設備が必要である。相変化冷却式による電子機器の冷却は、発熱源から離れた位置において気体を液体に変化させ、気体から変化した液体を発熱源の周りに戻すための空間を必要とする。例えば、特許文献1に開示された冷却装置は、発熱素子の上方において冷媒蒸気を凝縮させて冷媒液に変化させ、冷媒蒸気から変化した冷媒液を落下させて発熱素子の周りに戻すための空間を必要とする。
【0009】
したがって、空冷式、水冷式及び相変化冷却式による電子機器の冷却においては、冷却のための要素が大きな空間を占める。この問題は、電子機器以外の機器の冷却においても生じる。
【0010】
本開示の一態様は、この問題に鑑みてなされた。本開示の一態様は、大きな空間を占めることなく機器を効率よく冷却することができる冷却材及びヒートポンプ用冷媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の第1の態様の冷却材は、下限臨界溶液温度より低い温度において親水性を有し前記下限臨界溶液温度より高い温度において疎水性を有する感温性高分子と、前記感温性高分子を湿潤させる極性溶媒と、を含み、前記下限臨界溶液温度を越える温度上昇が起こった場合に吸熱反応を伴う体積相転移を起こす感温性ゲルを備える。
【0012】
本開示の第2の態様のヒートポンプ用冷媒は、本開示の第1の態様の冷却材と、前記冷却材が混入される液体冷媒と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の冷却材の、下限臨界溶液温度(LCST)より低い温度における微構造を模式的に図示する図である。
図2】第1実施形態の冷却材の、下限臨界溶液温度より高い温度における微構造を模式的に図示する図である。
図3】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図4】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図5】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図6】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図7】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図8】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図9】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図10】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図11】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図12】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図13】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。
図14】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する平面図である。
図15】第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する平面図である。
図16】第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却される回路基板を模式的に図示する斜視図である。
図17】第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却されるコンデンサを模式的に図示する斜視図である。
図18】第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却されるコンデンサを模式的に図示する分解斜視図である。
図19】第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却される筒状発熱体を模式的に図示する斜視図である。
図20】第2実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却される発熱体を模式的に図示する断面図である。
図21】第2実施形態の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
図22】第2実施形態の第1変形例の冷却材及び当該冷却材により冷却される発熱体を模式的に図示する断面図である。
図23】第3実施形態の冷却材を模式的に図示する断面図である。
図24】第4実施形態の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
図25】第1の放出極性溶媒が第1の感温性ゲルと第2の感温性ゲルとの間に溜まった状態を模式的に図示する図である。
図26】第4実施形態の第1変形例の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
図27】参考例の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
図28】第5実施形態のヒートポンプ用冷媒を備えるヒートポンプを模式的に図示する断面図である。
図29】第5実施形態のヒートポンプ用冷媒に備えられる冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
1 第1実施形態
1.1 冷却材の微構造
図1は、第1実施形態の冷却材の、下限臨界溶液温度(LCST)より低い温度における微構造を模式的に図示する図である。図2は、第1実施形態の冷却材の、LCSTより高い温度における微構造を模式的に図示する図である。
【0016】
図1及び図2に図示される第1実施形態の冷却材1は、発熱体の表面に接触し、接触する表面から熱を吸収して表面の温度を下げる又は表面の温度が上がることを抑制する。
【0017】
図1及び図2に図示されるように、冷却材1は、感温性ゲル11を備える。
【0018】
感温性ゲル11は、ゲル状の性状を有する固体である。このため、感温性ゲル11からなる冷却材1は、発熱体の表面に貼り付けることができる。冷却材1は、水平方向を向く表面等の、ゲル状の性状を有しない固体からなる冷却材を安定して貼り付けることが困難な表面にも貼り付けることができる。表面に貼り付けられた感温性ゲル11は、貼り付けられた表面に接触し、発熱体に熱結合される。
【0019】
図1及び図2に図示されるように、感温性ゲル11は、感温性高分子21及び極性溶媒22を含む。
【0020】
感温性ゲル11の温度がLCSTを超えて上昇した場合は、感温性高分子21の状態が、感温性高分子21に含まれる親水性部分が感温性高分子21に含まれる疎水性部分より優勢である親水性優勢の状態から、感温性高分子21に含まれる疎水性部分が感温性高分子21に含まれる親水性部分より優勢である疎水性優勢の状態に変化する。このため、感温性高分子21は、親水性から疎水性に変化する。
【0021】
このため、感温性ゲル11は、LCSTを越える温度上昇が起こった場合に、吸熱反応を伴う疎水性水和を起こし、起こした疎水性水和をきっかけとして吸熱反応を伴う体積相転移を起こす。このため、感温性ゲル11は、LCSTを越える温度上昇が起こった場合に、体積相転移を起こすのに必要な熱、すなわち、体積相転移に伴う吸熱反応の反応熱を発熱体の表面から吸収する。
【0022】
また、LCSTを越える温度上昇が起こった場合には、疎水性水和をきっかけとして、感温性高分子21により形成されたネットワーク中に侵入していた極性溶媒22の流動性が高くなる。また、感温性高分子21のミクロな凝縮の連鎖が感温性高分子21のマクロの凝縮を引き起こす。このため、ネットワークを形成する感温性高分子21以外の成分である極性溶媒22の一部は、ネットワークから押し出される。このため、感温性ゲル11は、LCSTを超える温度上昇が起こった場合に、収縮して、感温性ゲル11を湿潤させていた極性溶媒22の一部(以下では、「放出極性溶媒」ともいう)31を放出する。これにより、感温性ゲル11は、放出極性溶媒31を放出するのに必要な熱を発熱体の表面から吸収する。
【0023】
放出極性溶媒31は、液体で放出される極性溶媒及び気体で放出される極性溶媒を含む。放出極性溶媒31が気体で放出される極性溶媒を含むのは、温度上昇に伴って放出極性溶媒31が放出されるため、放出極性溶媒31が放出される際に放出極性溶媒31が加熱されるためである。放出極性溶媒31が気体で放出される極性溶媒を含むことにより、感温性ゲル11は、放出極性溶媒31の全部又は一部を蒸発させるのに必要な潜熱を発熱体の表面から吸収する。液体で放出される極性溶媒の全部又は一部が蒸発する場合もある。液体で放出される極性溶媒の全部又は一部が蒸発した場合は、液体で放出される極性溶媒の全部又は一部を蒸発させるのに必要な潜熱を発熱体の表面から吸収することができる。
【0024】
感温性ゲル11は、体積相転移に伴う吸熱反応の反応熱だけでなく、放出極性溶媒31を放出するのに必要な熱及び放出極性溶媒31の全部又は一部を蒸発させるのに必要な潜熱を発熱体の表面から吸収する。このように感温性ゲル11が互いに異なる性質を有する複数種の熱を発熱体の表面から吸収することにより、表面の温度を効果的に下げる又は表面の温度が上がることを効果的に抑制することができる。これにより、感温性ゲル11は、ファン、ポンプ等を必要とせず、大きな空間を占めることなく発熱体を効率よく冷却することができる。
【0025】
放出極性溶媒31の一部は、感温性ゲル11の、発熱体と接触する面から放出されうる。しかし、放出極性溶媒31の多くは、感温性ゲル11の、発熱体と接触する面がある側と反対の側にある反対面から放出される。なぜならば、感温性ゲル11が発熱体から吸収した熱は、発熱体と接触する面から反対面に向かって伝わるため、感温性ゲル11の、親水性から疎水性に変化している位置も、発熱体と接触する面から反対面に向かって移動し、放出極性溶媒31も、発熱体と接触する面から反対面に向かって絞り出されるからである。
【0026】
感温性ゲル11は、金属の熱容量より大きい熱容量を有する。このため、断熱された閉鎖空間において感温性ゲル11が熱を吸収した場合の感温性ゲル11の温度の上昇は、断熱された閉鎖空間において金属が熱を吸収した場合の金属の温度の上昇より緩やかである。このため、断熱された閉鎖空間において発熱体の温度の上昇が継続している場合は、感温性ゲル11は、金属よりも効果的に発熱体を冷却することができる。
【0027】
1.2 感温性高分子
感温性高分子21は、温度応答性を有する刺激応答性高分子である。感温性高分子21は、LCSTより低い温度において親水性を有し、LCSTより高い温度において疎水性を有する。LCSTは、発熱体が冷却材1により冷却されずに発熱した場合に発熱体が達する温度より低い。このため、発熱体が発熱した場合は、LCSTを超える温度上昇が起こる。
【0028】
感温性高分子21は、ネットワークを形成する。ネットワークは、分子鎖を架橋又は結合により固定することにより形成されてもよいし、分子鎖を絡み合わせることにより形成されてもよい。ネットワークは、感温成分を含む。感温成分は、分子又はユニットである。
【0029】
感温性高分子21は、例えば、
(1)セルロース誘導体、ポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド)の誘導体、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)、ポリ(N-ビニルアルキルアミド)の誘導体、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ(N-ビニルピロリドン)の誘導体、ポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)の誘導体、ポリビニルエーテル、ポリビニルエーテルの誘導体、ポリビニルアルキルエーテル、ポリビニルアルキルエーテルの誘導体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドの共重合体の誘導体、ポリ(オキシエチレンビニルエーテル)及びポリ(オキシエチレンビニルエーテル)の誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子;
(2)前記群より選択される少なくとも2種の高分子の共重合体;並びに
(3)前記少なくとも1種の高分子及び前記少なくとも2種の高分子の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子の架橋体
からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0030】
セルロース誘導体は、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0031】
ポリ(N-アルキル(メタ)アクリルアミド)は、例えば、ポリ(N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ノルマルプロピル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-メチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-エチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-ノルマルブチル(メタ)アクリルアミド)、ポリ(N-イソブチル(メタ)アクリルアミド)及びポリ(N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0032】
ポリ(N-ビニルアルキルアミド)は、例えば、ポリ(N-ビニルイソプロピルアミド)、ポリ(N-ビニルノルマルプロピルアミド)、ポリ(N-ビニルノルマルブチルアミド)、ポリ(N-ビニルイソブチルアミド)及びポリ(N-ビニル-t-ブチルアミド)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0033】
ポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン)は、例えば、ポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)、ポリ(2-イソプロピル-2-オキサゾリン)及びポリ(2-ノルマルプロピル-2-オキサゾリン)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0034】
ポリビニルアルキルエーテルは、例えば、ポリビニルメチルエーテル及びポリビニルエチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0035】
ここで、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。
【0036】
感温性高分子21のLCSTは、感温性高分子21の種類によって変化する。例えば、感温性高分子21がポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)である場合は、感温性高分子21のLCSTは、32℃である。感温性高分子21がヒドロキシプロピルセルロース(HPC)である場合は、感温性高分子21のLCSTは、45℃~46℃である。感温性高分子21がポリ(N-シクロプロピルアクリルアミド)(PNCPAM)である場合は、感温性高分子21のLCSTは、49℃である。感温性高分子21がポリ(2-エチル-2-オキサゾリン)(PEtOx)である場合は、感温性高分子21のLCSTは、62℃~65℃である。
【0037】
感温性高分子21は、疎水基及び親水基を有する分子構造を有し、両親媒性を有する。感温性高分子21のLCSTは、当該疎水基及び当該親水基の両方又は片方を置換することによって、変化させることができる。
【0038】
感温性高分子21のLCSTは、pH、イオン量等の実使用環境の影響を受ける。このため、感温性高分子21は、実使用環境を考慮して設計される。
【0039】
1.3 極性溶媒
極性溶媒22は、感温性高分子21により形成されるネットワーク内に侵入して感温性高分子21を湿潤させる。
【0040】
極性溶媒22は、例えば、水及び難燃性を有する極性溶媒からなる群より選択される少なくとも1種を含む。難燃性を有する極性溶媒は、例えば、イオン液体を含む。イオン液体は、例えば、イミダゾリウム塩を含む。イミダゾリウム塩は、例えば、化学式(1)により表されるイミダゾリウム塩及び化学式(2)により表されるイミダゾリウム塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む。化学式(1)において、R,R及びRは、炭素原子数が1以上12以下のアルキル基であり、Xは、ハロゲンである。化学式(2)において、Rは、炭素原子数が1以上6以下のアルキル基であり、Rは、化学式(3)により表される基であり、Xは、Cl、Br,BF,BPh,PF,NO,[(CFSON]又は[(CN)N]である。化学式(3)において、Aは、直接結合、フェニレン基又は化学式(4)で表される基である。
【0041】
【化1】
【0042】
【化2】
【0043】
【化3】
【0044】
【化4】
【0045】
1.4 親水性高分子
感温性ゲル11が、親水性高分子を含んでもよい。感温性ゲル11が親水性高分子を含む場合は、感温性ゲル11の極性溶媒との親和性を高くすることができる。
【0046】
親水性高分子は、例えば、
(1)ポリエチレングリコール(PEG)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸塩、アルギン酸、アルギン酸塩、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、キトサン及びセルロース誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子;
(2)前記群より選択される少なくとも2種の高分子の共重合体;並びに
(3)前記少なくとも1種の高分子及び前記少なくとも2種の高分子の共重合体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子の架橋体
からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0047】
セルロース誘導体は、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0048】
ここで、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」を意味する。
【0049】
感温性ゲル11が親水性高分子を含む場合は、感温性高分子21及び親水性高分子をランダム共重合することにより、体積相転移を緩やかな相転移にすることができることが多い。また、感温性高分子21及び親水性高分子に相互侵入高分子網目(IPN)構造を付与することにより、感温性高分子21のLCSTを概ね維持することができることが多い。
【0050】
1.5 感温性ゲルの作製
感温性ゲル11が作製される場合は、例えば、感温性高分子21の架橋前前駆体及び極性溶媒22を含む溶液が調製され、調製された溶液に対して架橋前前駆体を架橋させる処理等のゲル化処理が行われる。
【0051】
1.6 冷却材の形状
図3から図13までは、第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する斜視図である。図14及び図15は、第1実施形態の冷却材の形状の例を模式的に図示する平面図である。
【0052】
冷却材1は、どのような形状を有してもよい。冷却材1には、冷却材1の用途に適した形状が付与される。
【0053】
例えば、冷却材1が、図3に図示される円板状の形状、図4に図示される矩形板状の形状等を有してもよい。冷却材1が、円板状の形状及び矩形板状の形状以外の平板状の形状を有してもよい。冷却材1が平板状の形状を有する場合は、冷却材1の、発熱体と接触する面の面積を大きくすることができる。このため、冷却材1が平板状の形状を有する場合は、大きな面積を有する表面を有する発熱体を効率よく冷却することができる。このため、開放空間において広い範囲を冷却することが望まれる場合は、望ましくは、冷却材1に平板状の形状が付与される。
【0054】
又は、冷却材1が、図5に図示される、板状又は布状の外形形状を有し複数の孔が形成された形状を有してもよい。冷却材1が当該形状を有する場合は、冷却材1に備えられる感温性ゲル11の量が少ないときであっても広い範囲を冷却することができる。
【0055】
又は、冷却材1が、図6に図示される糸状又はひも状の形状を有してもよい。冷却材1が糸状又はひも状の形状を有する場合は、冷却材1を発熱体の表面に巻き付けること、冷却材1を発熱体の内部に充填すること等により、冷却材1を発熱体に接触させることができる。冷却材1が糸状又はひも状の形状を有する場合は、冷却材1の全体が繋がっているため、冷却材1の一端を引き寄せることにより、冷却材1の全体を引き寄せることができる。このため、冷却材1が糸状又はひも状の形状を有する場合は、冷却材1が劣化したときに冷却材1を容易に交換することができる。
【0056】
又は、冷却材1が、図7に図示される網目状の形状を有してもよい。冷却材1が網目状の形状を有する場合も、大きな面積を有する表面を有する発熱体を効率よく冷却することができる。冷却材1は、網目状の形状を有する場合は、織り合わされた複数の糸からなる布状の織物であってもよい。当該糸が下述する芯鞘構造を有する場合は、冷却材1は、下述する芯鞘構造の効果と同様の効果を有する。複数の糸は、1種の糸であってもよいし、2種以上の糸であってもよい。2種以上の糸が、互いに異なるLCSTを有してもよい。2種以上の糸が互いに異なるLCSTを有する場合は、冷却材1は、互いに異なるふたつ以上のLCSTの各々を超える温度上昇が起こった場合に、吸熱反応を伴う体積相転移を起こして収縮する。このため、冷却速度が遅くなるが、冷却能力を長い時間に渡って持続することができる。冷却材1が、網目状の形状を有する複数の冷却材の積層体であってもよい。冷却材1が当該積層体である場合は、冷却速度を速くすることができる。
【0057】
又は、冷却材1が、図8に図示される球状の形状を有してもよい。
【0058】
又は、冷却材1が、図9に図示される円錐状の形状等を有してもよい。冷却材1が、円錐状の形状以外の錐状の形状を有してもよい。
【0059】
又は、冷却材1が、図10に図示される丸棒状の形状、図11に図示される四角棒状の形状等を有してもよい。冷却材1が、丸棒状の形状及び四角棒状の形状以外の棒状の形状を有してもよい。
【0060】
又は、冷却材1が、図12に図示されるコイル状の形状を有してもよい。冷却材1がコイル状の形状を有する場合は、糸状の形状を有する冷却材を巻き付けることにより、冷却材1を形成することができる。
【0061】
又は、冷却材1が、図13に図示される屏風状の形状を有してもよい。
【0062】
又は、冷却材1が、図14に図示される粒状の形状、図15に図示される粉砕物状の形状を有してもよい。冷却材1が粉砕物状の形状を有する場合は、平板状の形状を有する冷却材を粉砕して固形物を得ることにより、冷却材1を形成することができる。冷却材1が粉砕物状の形状を有する場合は、冷却材1は、不規則な形状を有し、例えば、ブロック状の形状、フレーク状の形状等を有する。冷却材1が粒状の形状又は粉砕物状の形状を有する場合は、冷却材1を発熱体の内部に充填すること等により、冷却材1を発熱体に接触させることができる。このため、管、電子部品の内部等の閉鎖空間において狭い範囲を冷却することが望まれる場合は、望ましくは、冷却材1に粒状の形状又は粉砕物状の形状が付与される。
【0063】
冷却材1が閉鎖空間において発熱体を冷却する場合は、望ましくは、冷却材1及び発熱体に当たる空気流を生成するファンが設置される。これにより、冷却材1は、発熱体を効率よく冷却することができる。冷却材1が開放空間において発熱体を冷却する場合は、冷却材1は、発熱体を効率よく冷却することができる。
【0064】
1.7 冷却材の使用例
図16は、第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却される回路基板を模式的に図示する斜視図である。
【0065】
図16に図示される回路基板41は、平板状の形状を有する発熱体である。このため、回路基板41は、第1の主面41a及び第2の主面41bを有する。第1の主面41a及び第2の主面41bは、互いに反対の側にある。
【0066】
図16に図示される冷却材1は、平板状の形状を有し、回路基板41の第2の主面41bに貼り付けられる。これにより、冷却材1は、第2の主面41bに接触し、回路基板41を冷却する。第2の主面41bに貼り付けられる冷却材1に代えて、又は第2の主面41bに貼り付けられる冷却材1に加えて、第1の主面41aに貼り付けられる冷却材が設けられてもよい。
【0067】
図17は、第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却されるコンデンサを模式的に図示する斜視図である。図18は、第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却されるコンデンサを模式的に図示する分解斜視図である。
【0068】
図17及び図18に図示されるコンデンサ42は、円柱状の形状を有する発熱体である。このため、コンデンサ42は、外周面42a及び天面42bを有する。
【0069】
図17及び図18に図示される冷却材1は、第1の部分51及び第2の部分52を備える。第1の部分51は、シート状の形状を有し、可撓性を有し、コンデンサ42の外周面42aに巻きつけられ、外周面42aに貼り付けられる。これにより、第1の部分51は、外周面42aに接触し、コンデンサ42を冷却する。第2の部分52は、シート状の形状を有し、コンデンサ42の天面42bに貼り付けられる。これにより、第2の部分52は、天面42bに接触し、コンデンサ42を冷却する。
【0070】
図17及び図18は、冷却材1が、コンデンサ42の外周面42a及び天面42bの全体に接触してコンデンサ42を冷却する状態を図示する。しかし、冷却材1が、コンデンサ42の外周面42a及び天面42bの一部のみに接触してコンデンサ42を冷却してもよい。
【0071】
冷却材1が、円柱状の形状を有するコンデンサ42以外の電子部品を冷却してもよい。
【0072】
図19は、第1実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却される筒状発熱体を模式的に図示する斜視図である。
【0073】
図19に図示される筒状発熱体43は、筒状の形状を有する。このため、筒状発熱体43の内部には、筒内空間43sが形成される。
【0074】
図19に図示される冷却材1は、糸状の形状を有する。冷却材1は、筒状発熱体43の筒内空間43sに充填される。冷却材1が糸状の形状を有する場合は、冷却材1を新たな冷却材に交換する必要を生じたときに、冷却材1の一端を引っ張ることにより、冷却材1の全体を筒内空間43sから容易に取り出すことができる。このため、冷却材1を新たな冷却材に容易に交換することができる。冷却材1が筒内空間43sに充填される場合は、冷却材1が粒状又は粉砕物状の形状を有してもよい。冷却材1が、筒状発熱体43以外の発熱体又は発熱体に接触する物体に形成された空間に充填されてもよい。例えば、冷却材1が、箱型の発熱体、浅い方形状の発熱体、発熱体に接触する容器の筐体等に形成された孔に充填されてもよい。
【0075】
感温性ゲル11が発熱体に貼り付けられる場合は、接着剤、テープ、ネジ、ワイヤー等の固定部材により感温性ゲル11が発熱体に固定される。接着剤、テープ等の、感温性ゲル11と発熱体との間に配置される固定部材により感温性ゲル11が発熱体に固定される場合は、望ましくは、感温性ゲル11の、発熱体と対向する対向面に当該固定部材が点在させられる。これにより、当該対向面の全体に当該固定部材が配置された場合と比較して、当該固定部材により冷却が阻害されることを抑制することができる。又は、感温性ゲル11が発熱体に貼り付けられる場合は、シランカップリング等の化学結合により感温性ゲル11が発熱体に固定される。
【0076】
冷却材1は、感温性高分子21の燃焼温度より低い温度において使用される。例えば、冷却材1は、感温性高分子21が200℃以上の燃焼温度を有するセルロース誘導体である場合は、概ね、150℃以下において使用される。
【0077】
2 第2実施形態
以下では、第2実施形態が第1実施形態と異なる点が説明される。説明されない点については、第1実施形態において採用される構成と同様の構成が第2実施形態においても採用される。
【0078】
図20は、第2実施形態の冷却材及び当該冷却材により冷却される発熱体を模式的に図示する断面図である。
【0079】
図20に図示される第2実施形態の冷却材2は、感温性ゲル11及び不透層12を備える。
【0080】
不透層12は、感温性ゲル11を覆う。不透層12は、感温性ゲル11の表面の全体を覆い、感温性ゲル11の表面の全体に接触する。不透層12は、疎水性又は防水性を有する。このため、不透層12は、極性溶媒22を透過させない。これらにより、感温性ゲル11は、不透層12に囲まれる空間内に収容される。また、感温性ゲル11により放出される放出極性溶媒31が当該空間内から当該空間外に漏出することを抑制することができる。放出極性溶媒31は、当該空間内に閉じ込められ、感温性ゲル11と不透層12との間に保持される。保持された放出極性溶媒31は、LCSTを超える温度低下が起こった場合に、感温性ゲル11により吸収される。これにより、冷却材2を繰り返し冷却に使用することができる。
【0081】
不透層12は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、シリコーンゲル、ポリエチレン及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種からなる。
【0082】
不透層12が粘着性を有する場合は、不透層12をその粘着性を利用して発熱体61に貼り付けることにより、冷却材2を発熱体61に貼り付けることができる。このため、不透層12が粘着性を有する場合は、冷却材2を発熱体61に固定する、接着剤等の固定部材は不要である。
【0083】
図21は、第2実施形態の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
【0084】
図21に示されるように、発熱体61の温度T1が感温性ゲル11のLCST(Ta)より低い場合は、感温性ゲル11が、極性溶媒22を放出せずに保持し、体積Vaを有する。このため、感温性ゲル11と不透層12との間には極性溶媒22が存在しない。
【0085】
発熱体61の温度T1が感温性ゲル11のLCST(Ta)より高くなった場合は、感温性ゲル11に備えられる感温性高分子21が、親水性から疎水性に変化する。このため、感温性ゲル11は、収縮して体積Vaより小さい体積Va’を有するようになる。感温性ゲル11は、その際に、放出極性溶媒31を放出する。放出極性溶媒31は、感温性ゲル11と不透層12との間に溜まり、体積wを有する。
【0086】
発熱体61の温度T1が再び感温性ゲル11のLCST(Ta)より低くなった場合は、感温性ゲル11が、膨潤して再び体積Vaを有するようになる。感温性ゲル11は、その際に、溜まった放出極性溶媒31を吸収する。このため、感温性ゲル11と不透層12との間には、放出極性溶媒31が存在しなくなる。
【0087】
図22は、第2実施形態の第1変形例の冷却材及び当該冷却材により冷却される発熱体を模式的に図示する断面図である。
【0088】
第2実施形態の第1変形例においては、図22に図示されるように、不透層12は、感温性ゲル11を覆う。不透層12は、感温性ゲル11の表面の一部を覆い、感温性ゲル11の表面の一部に接触する。発熱体61は、感温性ゲル11の表面の残余部を覆い、感温性ゲル11の表面の残余部に接触する。これにより、感温性ゲル11が、不透層12及び発熱体61に囲まれる空間内に収容される。また、感温性ゲル11により放出される放出極性溶媒31が当該空間内から当該空間外に漏出することを抑制することができる。放出極性溶媒31は、当該空間内に閉じ込められ、感温性ゲル11と不透層12との間又は感温性ゲル11と発熱体61との間に保持される。保持された放出極性溶媒31は、LCSTを超える温度低下が起こった場合に感温性ゲル11により吸収される。これにより、冷却材2を繰り返し冷却に使用することができる。
【0089】
3 第3実施形態
以下では、第3実施形態が第1実施形態と異なる点が説明される。説明されない点については、第1実施形態において採用される構成と同様の構成が第3実施形態においても採用される。
【0090】
図23は、第3実施形態の冷却材を模式的に図示する断面図である。
【0091】
図23に図示される第3実施形態の冷却材3は、糸状の形状を有する。
【0092】
図23に図示されるように、冷却材3は、第1の感温性ゲル71、第2の感温性ゲル72及び不透層12を備える。
【0093】
第1の感温性ゲル71は、第1実施形態の冷却材1に備えられる感温性ゲル11と同じく、第1の感温性高分子及び第1の極性溶媒を含む。第1の感温性高分子は、第1のLCSTより低い温度において親水性を有し、第1のLCSTより高い温度において疎水性を有する。第1の極性溶媒は、第1の感温性高分子を湿潤させる。第1の感温性ゲル71は、第1のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、吸熱反応を伴う第1の体積相転移を起こす。第1の感温性ゲル71は、第1のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、収縮して第1の極性溶媒の一部(以下では、「第1の放出極性溶媒」ともいう)を放出する。
【0094】
第2の感温性ゲル72は、第1実施形態の冷却材1に備えられる感温性ゲル11と同じく、第2の感温性高分子及び第2の極性溶媒を含む。第2の感温性高分子は、第2のLCSTより低い温度において親水性を有し、第2のLCSTより高い温度において疎水性を有する。第2の極性溶媒は、第2の感温性高分子を湿潤させる。第2の感温性ゲル72は、第2のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、吸熱反応を伴う第2の体積相転移を起こす。第2の感温性ゲル72は、第2のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、収縮して第2の極性溶媒の一部(以下では、「第2の放出極性溶媒」ともいう)を放出する。
【0095】
第1の感温性ゲル71の第1のLCST及び第2の感温性ゲル72の第2のLCSTは、互いに異なる。第1のLCST及び第2のLCSTを互いに異ならせることは、第1の感温性ゲル71及びび第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の感温性高分子及び第2の感温性高分子を互いに異なる種類の高分子にするより行われてもよいし、そうでなくてもよい。このため、第1の感温性高分子及び第2の感温性高分子は、同種の高分子を同種の架橋剤により架橋することにより得られる高分子であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0096】
第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72は、互いに接触する。
【0097】
冷却材3は、芯鞘構造を有する。第1の感温性ゲル71は、芯を構成する。第2の感温性ゲル72は、芯を被覆する鞘を構成する。このため、第1の感温性ゲル71は、糸状の形状を有する。第2の感温性ゲル72は、第1の感温性ゲル71の外周面を覆い、第1の感温性ゲル71の外周面に接触する。
【0098】
不透層12は、鞘を被覆する。このため、不透層12は、第2の感温性ゲル72の外周面を覆い、第2の感温性ゲル72の外周面に接触する。不透層12は、疎水性又は防水性を有する。このため、不透層12は、第1の感温性ゲル71及びび第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒を透過させない。これらにより、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72が、不透層12に囲まれる空間内に収容される。また、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72によりそれぞれ放出される第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒が当該空間内から当該空間外に漏出することを抑制することができる。これにより、冷却材3を繰り返し冷却に使用することができる。
【0099】
不透層12は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、シリコーンゲル、ポリエチレン及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種からなる。
【0100】
第2の感温性ゲル72の第2のLCSTは、第1の感温性ゲル71の第1のLCSTより低い。第2のLCSTを第1のLCSTより低くすることは、第1の感温性ゲル71の第1の感温性高分子に強い親水性を付与して第1のLCSTを高くし、第2の感温性ゲル72の第2の感温性高分子に弱い親水性を付与して第2のLCSTを低くすることにより行われる。第1のLCSTの調整は、第1の感温性ゲル71の選択による第1の感温性ゲル71そのもののLCSTの調整、イオン濃度の調整、pHの調整等により行うことができる。第2のLCSTの調整も、第2の感温性ゲル72の選択による第2の感温性ゲル72そのもののLCSTの調整、イオン濃度の調整、pHの調整等により行うことができる。
【0101】
第2の感温性ゲル72の第2のLCST(Tb)を超える温度上昇が起こった場合は、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第2の感温性高分子の親水性から疎水性への変化は、第1の感温性ゲル71に備えられる第1の感温性高分子の親水性から疎水性への変化の前に起こる。これにより、第2の感温性ゲル72が、第1の感温性ゲル71により放出される第1の放出極性溶媒を透過させない壁となる。これにより、第1の放出極性溶媒が冷却材3の外部に漏出することを抑制することができる。第2の感温性高分子が親水性から疎水性に変化する際には、第2の感温性ゲル72は、第2の放出極性溶媒を放出する。第2の放出極性溶媒は、第2の感温性ゲル72の内周面から放出される極性溶媒及び第2の感温性ゲル72の外周面から放出される極性溶媒を含む。前者の極性溶媒は、第1の感温性ゲル71に吸収される。このため、第2の感温性ゲル72が親水性から疎水性に変化する際には、第1の感温性ゲル71が膨らむ。後者の極性溶媒は、第2の感温性ゲル72の外周面と不透層12の内周面との間に溜まる。
【0102】
第2の感温性ゲル72の第2のLCSTを越える温度上昇が起こった後に第1の感温性ゲル71の第1のLCSTを越える温度上昇が起こった場合は、第1の感温性ゲル71に備えられる第1の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第1の感温性高分子が親水性から疎水性に変化する際には、第1の感温性ゲル71は、第1の放出極性溶媒を放出する。放出される第1の放出極性溶媒は、第1の感温性ゲル71の外周面から放出される。放出される第1の放出極性溶媒は、第1の感温性ゲル71の外周面と第2の感温性ゲル72の内周面との間に溜まる。
【0103】
これらにより、冷却材3は、冷却材3の熱容量に応じた熱を発熱体から吸収するだけでなく、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72がそれぞれ起こす第1の体積相転移及び第2の体積相転移に伴う吸熱反応に必要な熱を発熱体の表面から吸収し、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72が第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒をそれぞれ放出するのに必要な熱を発熱体の表面から吸収する。
【0104】
第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72によりそれぞれ放出された第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒は、不透層12を透過しない。このため、第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒は、冷却材3の内部に残り、冷却材3の外部に漏出しない。冷却材3の内部に残った第1の極性放出溶媒及び第2の放出極性溶媒は、第2の感温性ゲル72の第2のLCSTを越える温度低下が起こった場合に第2の感温性ゲル72により吸収され、第1の感温性ゲル71の第1のLCSTを越える温度低下が起こった場合に第1の感温性ゲル71により吸収される。これにより、冷却材3が、第1の感温性ゲル71及びび第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒を喪失しなくなる。これにより、冷却材3を繰り返し使用することができる。
【0105】
不透層12が省略されてもよい。不透層12が省略された場合は、第2の感温性ゲル72の外周面から放出される第2の放出極性溶媒が、気体で放出される極性溶媒を含む。これにより、冷却材3は、気体で放出される極性溶媒を蒸発させるのに必要な熱を発熱体の表面から吸収する。
【0106】
4 第4実施形態
以下では、第4実施形態が第1実施形態と異なる点が説明される。説明されない点については、第1実施形態において採用される構成と同様の構成が第4実施形態においても採用される。
【0107】
図24は、第4実施形態の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
【0108】
図24に図示される第4実施形態の冷却材4は、第1の感温性ゲル71、第2の感温性ゲル72及び不透層12を備える。
【0109】
第1の感温性ゲル71は、第1実施形態の冷却材1に備えられる感温性ゲル11と同じく、第1の感温性高分子及び第1の極性溶媒を含む。第1の感温性高分子は、第1のLCSTより低い温度において親水性を有し、第1のLCSTより高い温度において疎水性を有する。第1の極性溶媒は、第1の感温性高分子を湿潤させる。第1の感温性ゲル71は、第1のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、吸熱反応を伴う第1の体積相転移を起こす。第1の感温性ゲル71は、第1のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、収縮して第1の極性溶媒の一部(以下では、「第1の放出極性溶媒」ともいう)を放出する。
【0110】
第2の感温性ゲル72は、第1実施形態の冷却材1に備えられる感温性ゲル11と同じく、第2の感温性高分子及び第2の極性溶媒を含む。第2の感温性高分子は、第2のLCSTより低い温度において親水性を有し、第2のLCSTより高い温度において疎水性を有する。第2の極性溶媒は、第2の感温性高分子を湿潤させる。第2の感温性ゲル72は、第2のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、吸熱反応を伴う第2の体積相転移を起こす。第2の感温性ゲル72は、第2のLCSTを越える温度上昇が起こった場合に、収縮して第2の極性溶媒の一部(以下では、「第2の放出極性溶媒」ともいう)を放出する。
【0111】
第1の感温性ゲル71の第1のLCST及び第2の感温性ゲル72の第2のLCSTは、互いに異なる。第1のLCST及び第2のLCSTを互いに異ならせることは、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の感温性高分子及び第2の感温性高分子を互いに異なる種類の高分子にするより行われてもよいし、そうでなくてもよい。このため、第1の感温性高分子及び第2の感温性高分子は、同種の高分子を同種の架橋剤により架橋することにより得られる高分子であってもよいし、そうでなくてもよい。
【0112】
第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72は、互いに接触する。
【0113】
第2の感温性ゲル72は、第1の感温性ゲル71を包む。第2の感温性ゲル72は、第1の感温性ゲル71の表面の全体を覆う。第2の感温性ゲル72が、第1の感温性ゲル71を包まず、第1の感温性ゲル71の表面の一部のみに接触していてもよい。
【0114】
不透層12は、第2の感温性ゲル72を包む。不透層12は、第2の感温性ゲル72の表面の全体を覆い、第2の感温性ゲル72の表面の全体に接触する。不透層12は、疎水性又は防水性を有する。このため、不透層12は、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒を透過させない。これらにより、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72が、不透層12に囲まれる空間内に収容される。また、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72によりそれぞれ放出される第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒が、当該空間内から当該空間外に漏出することを抑制することができる。これにより、冷却材4を繰り返し冷却に使用することができる。
【0115】
不透層12は、例えば、ポリ塩化ビニリデン、シリコーンゲル、ポリエチレン及びポリウレタンからなる群より選択される少なくとも1種からなる。
【0116】
第2の感温性ゲル72の第2のLCST(Tb)は、第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より高い。第2のLCST(Tb)を第1のLCSTより高くすることは、第1の感温性ゲル71に備えられる第1の感温性高分子に弱い親水性を付与して第1のLCST(Ta)を低くし、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子に強い親水性を付与して第2のLCST(Tb)を高くすることにより行われる。第1のLCSTの調整は、第1の感温性ゲル71の選択による第1の感温性ゲル71そのもののLCSTの調整、イオン濃度の調整、pHの調整等により行うことができる。第2のLCSTの調整も、第2の感温性ゲル72の選択による第2の感温性ゲル72そのもののLCSTの調整、イオン濃度の調整、pHの調整等により行うことができる。
【0117】
第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低い温度における、第1の感温性ゲル71の体積Va、第1の感温性ゲル71中の第1の感温性高分子の濃度Da、第2の感温性ゲル72の体積Vb、及び第2の感温性ゲル72中の第2の感温性高分子の濃度Dbは、第1のLCST(Ta)を超える温度上昇が起こった場合に第1の感温性ゲル71により放出される第1の放出極性溶媒を第2の感温性ゲル72が吸収することができるように決められる。例えば、第1のLCST(Ta)より低い温度において、第2の感温性ゲル72の体積Vbが、第1の感温性ゲル71の体積Va以上となり、第2の感温性高分子の濃度Dbが、第1の感温性高分子の濃度Daと同じになるようにされる。
【0118】
図24に図示されるように、発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低い場合は、内側にある第1の感温性ゲル71が、第1の極性溶媒を放出せずに保持し、体積Vaを有する。また、外側にある第2の感温性ゲル72が、第2の極性溶媒を放出せずに保持し、体積Vbを有する。このため、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間、及び第2の感温性ゲル72と不透層12との間には、第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒は存在しない。
【0119】
発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より高くなった場合は、第1の感温性ゲル71に備えられる第1の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第1の感温性高分子の親水性から疎水性への変化は、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子の親水性から疎水性への変化の前に起こる。第1の感温性ゲル71は、その際に、第1の放出極性溶媒を放出する。また、第2の感温性ゲル72は、その際に、第1の放出極性溶媒を吸収する。このため、第1の感温性ゲル71は、収縮して体積Vaより小さい体積Va’を有するようになる。また、第2の感温性ゲル72は、膨張して体積Vbより大きい体積Vb’を有するようになる。第1の放出極性溶媒は、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間に溜まることはない。
【0120】
発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より高くなった後に発熱体61の温度T1が第2の感温性ゲル72の第2のLCST(Tb)より高くなった場合は、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第2の感温性ゲル72は、その際に、第2の放出極性溶媒を放出する。このため、第2の感温性ゲル72は、収縮して体積Vb’より小さい体積Vb’’を有するようになる。第2の放出極性溶媒は、第2の感温性ゲル72と不透層12との間に溜まり、体積wを有する。
【0121】
発熱体61の温度T1が再び第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低くなった場合は、第1の感温性ゲル71が、膨潤して再び体積Vaを有するようになる。また、第2の感温性ゲル72が、膨潤して再び体積Vbを有するようになる。第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72は、その際に、溜まった第2の放出極性溶媒を吸収する。このため、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間、及び第2の感温性ゲル72と不透層12との間には、第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒が存在しなくなる。
【0122】
これらにより、冷却材4は、冷却材4の熱容量に応じた熱を発熱体から吸収するだけでなく、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72がそれぞれ起こす第1の体積相転移及び第2の体積相転移に伴う吸熱反応に必要な熱を発熱体の表面から吸収し、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72が第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒をそれぞれ放出するのに必要な熱を発熱体の表面から吸収する。
【0123】
また、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72によりそれぞれ放出された第1の放出極性溶媒81及び第2の放出極性溶媒82は、不透層12を透過しない。このため、第1の放出極性溶媒81及び第2の放出極性溶媒82は、冷却材4の内部に残り、冷却材4の外部に漏出しない。残った第1の放出極性溶媒81及び第2の放出極性溶媒82は、第2のLCSTを越える温度低下が起こった場合に第2の感温性ゲル72に吸収され、第1のLCSTを越える温度低下が起こった場合に第1の感温性ゲル71に吸収される。これにより、冷却材4が、第1の感温性ゲル71及びび第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒を喪失しなくなる。これにより、冷却材4を繰り返し使用することができる。
【0124】
図25は、第1の感温性ゲルにより放出された第1の放出極性溶媒が第1の感温性ゲルと第2の感温性ゲルとの間に溜まった状態を模式的に図示する図である。
【0125】
図25に図示されるように第1の感温性ゲル71により放出された第1の放出極性溶媒81が第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間に溜まった場合は、溜まった第1の放出極性溶媒81により第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72が互いに隔てられる。このため、冷却材4による発熱体の冷却効果が低下する可能性がある。
【0126】
第1実施形態の冷却材1に備えられる感温性ゲルは、ひとつの感温性ゲル11である。このため、第1実施形態の冷却材1においては、ひとつのLCSTの付近の狭い温度範囲において、感温性ゲルの性状が急に変化し、急な吸熱が起こる。このため、発熱体を急に冷却することができる。
【0127】
これに対して、第4実施形態の冷却材4に備えられる感温性ゲルは、互いに異なる複数のLCSTをそれぞれ有する複数の感温性ゲルの組み合わせである。このため、第4実施形態の冷却材4においては、複数の感温性ゲルの間で極性溶媒等の内容物の授受が生じる。また、複数のLCSTに渡る広い温度範囲において、感温性ゲルの性状が緩やかに変化し、緩やかな吸熱が起こる。このため、発熱体を緩やかに冷却することができる。このため、発熱体の緩やかな変化に対応することができる。この特徴は、冷却材に備えられる複数の感温性ゲルのLCSTの数が増えるほどより顕著になる。なぜならば、複数のLCSTの数が増えるほど、感温性ゲルの性状の変化が多段階になり、吸熱が多段階になるからである。
【0128】
図26は、第4実施形態の第1変形例の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
【0129】
第4実施形態の第1変形例においては、第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)を超える温度上昇が起こった場合に第1の感温性ゲル71により放出される第1の放出極性溶媒を第2の感温性ゲル72が吸収することができるように、第1のLCST(Ta)より低い温度において、第2の感温性ゲル72の体積Vbが、第1の感温性ゲル71の体積Vaと同じにされ、第2の感温性高分子の濃度Dbが、第1の感温性高分子の濃度Daより低くされる。第2の感温性高分子の濃度Dbを第1の感温性高分子の濃度Daより低くすることにより第1の感温性ゲル71により放出される第1の放出極性溶媒を第2の感温性ゲル72が吸収することができるのは、第2の感温性ゲル72における分子間隔が、第1の感温性ゲル71における分子間隔より広くなり、第2の感温性ゲル72が保持することができる極性溶媒の量が、第1の感温性ゲル71が保持することができる極性溶媒の量より多くなるためである。
【0130】
第1変形例においては、図26に図示されるように、発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低い場合は、内側にある第1の感温性ゲル71が、第1の極性溶媒を放出せずに保持し、体積Vaを有する。また、外側にある第2の感温性ゲル72が、第2の極性溶媒を放出せずに保持し、体積Vbを有する。このため、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間、及び第2の感温性ゲル72と不透層12との間には、第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒は存在しない。
【0131】
発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より高くなった場合は、第1の感温性ゲル71に備えられる第1の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第1の感温性高分子の親水性から疎水性への変化は、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子の親水性から疎水性への変化の前に起こる。第1の感温性ゲル71は、その際に、第1の放出極性溶媒を放出する。また、第2の感温性ゲル72は、その際に、第1の放出極性溶媒を吸収する。このため、第1の感温性ゲル71は、収縮して体積Vaより小さい体積Va’を有するようになる。また、第2の感温性ゲル72は、膨張して体積Vbより大きい体積Vb’を有するようになる。第1の放出極性溶媒は、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間に溜まることはない。
【0132】
発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より高くなった後に発熱体61の温度T1が第2の感温性ゲル72の第2のLCST(Tb)より高くなった場合は、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第2の感温性ゲル72は、その際に、第2の放出極性溶媒を放出する。このため、第2の感温性ゲル72は、収縮して体積Vb’より小さい体積Vb’’を有するようになる。第2の放出極性溶媒は、第2の感温性ゲル72と不透層12との間に溜まり、体積wを有する。
【0133】
発熱体61の温度T1が再び第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低くなった場合は、第1の感温性ゲル71が、膨潤して再び体積Vaを有するようになる。また、第2の感温性ゲル72が、膨潤して再び体積Vbを有するようになる。第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72は、その際に、溜まった第2の放出極性溶媒を吸収する。このため、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間、及び第2の感温性ゲル72と不透層12との間には、第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒が存在しなくなる。
【0134】
これらにより、冷却材4は、冷却材4の熱容量に応じた熱を発熱体から吸収するだけでなく、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72がそれぞれ起こす第1の体積相転移及び第2の体積相転移に伴う吸熱反応に必要な熱を発熱体の表面から吸収し、第1の感温性ゲル71及び第2の感温性ゲル72が第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒82をそれぞれ放出するのに必要な熱を発熱体の表面から吸収する。
【0135】
また、第2の感温性ゲル72により放出された第2の放出極性溶媒82は、不透層12を透過しない。このため、第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒82は、冷却材4の内部に残り、冷却材4の外部に漏出しない。残った第1の放出極性溶媒及び第2の放出極性溶媒82は、第2のLCSTを越える温度低下が起こった場合に第2の感温性ゲル72により吸収され、第1のLCSTを越える温度低下が起こった場合に第1の感温性ゲル71により吸収される。これにより、冷却材4が、第1の感温性ゲル71及びび第2の感温性ゲル72にそれぞれ備えられる第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒を喪失しなくなる。これにより、冷却材4を繰り返し使用することができる。
【0136】
図27は、参考例の冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
【0137】
参考例においては、第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低い温度において、第2の感温性ゲル72の体積Vbが、第1の感温性ゲル71の体積Vaより小さくされ、第2の感温性高分子の濃度Dbが、第1の感温性高分子の濃度Daより低くされる。
【0138】
参考例においては、図27に図示されるように、発熱体61の温度T1が第1の感温性ゲル71の第1のLCST(Ta)より低い場合は、内側にある第1の感温性ゲル71が、第1の極性溶媒を放出せずに保持し、体積Vaを有する。また、外側にある第2の感温性ゲル72が、第2の極性溶媒を放出せずに保持し、体積Vbを有する。このため、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間、及び第2の感温性ゲル72と不透層12との間には、第1の極性溶媒及び第2の極性溶媒は存在しない。
【0139】
発熱体61の温度T1が第1のLCST(Ta)より高くなった場合は、第1の感温性ゲル71に備えられる第1の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第1の感温性ゲル71は、その際に、第1の放出極性溶媒を放出する。また、第2の感温性ゲル72は、その際に、第1の放出極性溶媒の一部を吸収する。このため、第1の感温性ゲル71は、収縮して体積Vaより小さい体積Va’を有するようになる。また、第2の感温性ゲル72は、膨張して体積Vbより大きい体積Vb’を有するようになる。しかし、第2の感温性ゲル72は、第1の放出極性溶媒81の全部を吸収することができない。このため、第1の放出極性溶媒81の一部は、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間に溜まる。
【0140】
発熱体61の温度T1が第1のLCST(Ta)より高くなった後に発熱体61の温度T1が第2のLCST(Tb)より高くなった場合は、第2の感温性ゲル72に備えられる第2の感温性高分子が、親水性から疎水性に変化する。第2の感温性ゲル72は、その際に、第2の放出極性溶媒を放出する。このため、第2の感温性ゲル72は、収縮して体積Vb’より小さい体積Vb’’を有するようになる。第2の放出極性溶媒は、第2の感温性ゲル72と不透層12との間に溜まり、体積wを有する。このとき、第1の感温性ゲル71と第2の感温性ゲル72との間には、第1の放出極性溶媒81が溜まったままである。溜まったままの第1の放出極性溶媒81は、熱の移動を阻害して冷却材4が発熱体を冷却する能力を低くする可能性がある。
【0141】
続いて、冷却材4の製造方法の例を説明する。
【0142】
冷却材4が作製される際には、第1の感温性高分子の架橋前前駆体及び第1の極性溶媒を含む第1の溶液が調製される。
【0143】
続いて、調製された第1の溶液に対して当該架橋前前駆体を架橋させる処理等のゲル化処理が行われる。これにより、第1の感温性高分子及び第1の極性溶媒を含む第1の感温性ゲル71が作製される。
【0144】
続いて、第2の感温性高分子の架橋前前駆体及び第2の極性溶媒を含む第2の溶液が調製される。
【0145】
続いて、調製された第2の溶液が、作製された第1の感温性ゲル71の表面に塗布される。
【0146】
続いて、塗布された第2の溶液に対して当該架橋前前駆体を架橋させる処理等のゲル化処理が行われる。これにより、第2の感温性高分子及び第2の極性溶媒を含む第2の感温性ゲル72が作製される。
【0147】
一の感温性高分子及び一の極性溶媒を含む感温性ゲルの表面に、他の感温性高分子の架橋前前駆体及び他の極性溶媒を含むポリマー溶液を塗布し、塗布したポリマー溶液に対してゲル化処理を行って他の感温性高分子及び他の極性溶媒を含む感温性ゲルを作製する処理を繰り返すことにより、3層以上の層を備える多層構造を有する冷却材を作製することもできる。当該処理が繰り返される場合は、当該処理を繰り返す回数を変化させることにより、感温性ゲルの容積、厚さ等を調整することもできる。
【0148】
感温性ゲルの表面に溶液を塗布することに代えて、感温性ゲルを溶液に浸漬することが行われてもよい。感温性ゲルが溶液に浸漬される場合は、感温性ゲルが溶液に浸漬される時間を変化させることにより、感温性ゲルの容積、厚さ等を調整することもできる。
【0149】
冷却材4が、3種類以上の感温性ゲルを備えてもよい。この場合は、望ましくは、外側の感温性ゲルの体積が、内側の感温性ゲルの体積より大きくされる。外側の感温性ゲルの体積が、内側の感温性ゲルの体積と同じであるか、又は内側の感温性ゲルの体積より小さい場合は、望ましくは、外側の感温性ゲルの濃度が、内側の感温性ゲルの濃度より低くされ、外側の感温性ゲルが含むことができる極性溶媒の量が、内側の感温性ゲルが含むことができる極性溶媒の量より多くされる。
【0150】
5 第5実施形態
以下では、第5実施形態が第1実施形態と異なる点が説明される。説明されない点については、第1実施形態において採用される構成と同様の構成が第5実施形態においても採用される。
【0151】
図28は、第5実施形態のヒートポンプ用冷媒を備えるヒートポンプを模式的に図示する断面図である。
【0152】
図28に図示されるヒートポンプ91は、第5実施形態のヒートポンプ用冷媒101を循環経路102に沿って循環方向Dに循環させる。循環させられるヒートポンプ用冷媒101の温度は、循環経路102の第1の区間111において高くなり、循環経路102の第2の区間112において低くなる。
【0153】
図28に図示されるように、ヒートポンプ用冷媒101は、第2実施形態の冷却材2及び液体冷媒121を備える。ヒートポンプ用冷媒101が、第2実施形態の冷却材2に代えて、第4実施形態の冷却材4を備えてもよい。
【0154】
冷却材2は、粒子状の形状を有する。冷却材2は、液体冷媒121に混入される。冷却材2は、液体冷媒121内に分散され、液体冷媒121とともに循環経路102に沿って循環方向Dに循環させられる。このため、冷却材2の温度は、循環経路102の第1の区間111において高くなり、循環経路102の第2の区間112において低くなる。
【0155】
図29は、第5実施形態のヒートポンプ用冷媒に備えられる冷却材の状態の温度変化を模式的に図示する図である。
【0156】
図29に図示されるように、冷却材2は、第1の区間111まで運ばれて高い温度を有するようになった場合は、吸熱反応を伴う体積相転移を起こす。その際には、感温性ゲル11に含まれる極性溶媒22が動きやすくなる。このため、感温性ゲル11は、放出極性溶媒31を放出して収縮する。放出極性溶媒31は、不透層12の内側に留まる。放出極性溶媒31の全部又は一部は、蒸発する。このときのエンタルピーHの変化ΔHは、正である(ΔH>0)。また、このときのエントロピーSの変化ΔSは、正である(ΔS>0)。また、温度をTとした場合、感温性ゲル11及び放出極性溶媒31により構成される系のこのときのギブズの自由エネルギーGの変化ΔG=ΔH-TΔSは、当該系がさらされる冷媒内の環境温度が十分に高いという条件下において、負である(ΔG<0)。
【0157】
一方、冷却材1は、第2の区間112まで運ばれて低い温度を有するようになった場合は、発熱反応を伴う体積相転移を起こす。その際には、蒸発していた放出極性溶媒31の全部又は一部が凝縮する。また、感温性ゲル11は、留まっている放出極性溶媒31を吸収して膨潤する。このときのエンタルピーHの変化ΔHは、負である(ΔH<0)。また、このときのエントロピーSの変化ΔSは、負である(ΔS<0)。また、感温性ゲル11及び放出極性溶媒31により構成される系のこのときのギブズの自由エネルギーGの変化ΔG=ΔH-TΔSは、当該系がさらされる冷媒内の環境温度が十分に低いという条件下において、負である(ΔG<0)。
【0158】
このため、冷却材1は、第1の区間111まで運ばれて高い温度を有するようになった場合は、吸熱反応を伴う体積相転移を起こして反応熱を吸収し、エントロピーSを増加させて熱を吸収し、放出極性溶媒31の全部又は一部を蒸発させて潜熱を吸収する。
【0159】
一方、冷却材1は、第2の区間112まで運ばれて低い温度を有するようになった場合は、発熱反応を伴う体積相転移を起こして反応熱を放出し、エントロピーSを減少させて熱を放出し、蒸発していた放出極性溶媒31を凝縮させて潜熱を放出する。
【0160】
これらにより、冷却材2及び液体冷媒121からなるヒートポンプ用冷媒101は、液体冷媒121のみからなるヒートポンプ用冷媒の熱を運搬する能力より高い熱を運搬する能力を有する。これにより、ヒートポンプ用冷媒101の使用量を減らすことができる。
【0161】
本開示は、上記実施の形態に限定されるものではなく、上記実施の形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0162】
1,2,3,4 冷却材、11 感温性ゲル、12 不透層、21 感温性高分子、22 極性溶媒、31 放出極性溶媒、41 回路基板、41a 第1の主面、41b 第2の主面、42 コンデンサ、42a 外周面、42b 天面、43 筒状発熱体、43s 筒内空間、51 第1の部分、52 第2の部分、61 発熱体、71 第1の感温性ゲル、72 第2の感温性ゲル、81 第1の放出極性溶媒、82 第2の放出極性溶媒、91 ヒートポンプ、101 ヒートポンプ用冷媒、102 循環経路、111 第1の区間、112 第2の区間、121 液体冷媒、D 循環方向。
図1
図2
図3
図4
図5
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図11
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