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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172199
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】シャフトの製造方法およびシャフト
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/12 20060101AFI20241205BHJP
   F16C 3/02 20060101ALI20241205BHJP
   B21K 1/10 20060101ALI20241205BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B21K1/12
F16C3/02
B21K1/10
B21J5/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089756
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小寺 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 涼太
(72)【発明者】
【氏名】西澤 弘輔
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】小野 一樹
【テーマコード(参考)】
3J033
4E087
【Fターム(参考)】
3J033AA01
3J033AB03
3J033AC01
3J033BA01
3J033BA20
4E087BA18
4E087CA17
4E087EC38
4E087HA35
4E087HB02
(57)【要約】
【課題】応力集中を発生しにくくすることが可能な技術の提供。
【解決手段】回転軸を中心に回転する筒状のシャフトに対して、前記回転軸側から径方向外側に延びて前記シャフトを貫通する下孔であって、径方向内側における形状が円柱形状であり、かつ、径方向外側における形状が径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状である前記下孔を形成する工程と、四角錐形状の雄型の先端側を径方向内側に向けて前記円錐形状の部分に押し当てる工程と、を含む製造方法において、前記雄型の四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角の最小値は、前記円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きくなるように構成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を中心に回転する筒状のシャフトに対して、前記回転軸側から径方向外側に延びて前記シャフトを貫通する下孔であって、径方向内側における形状が円柱形状であり、かつ、径方向外側における形状が径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状である前記下孔を形成する工程と、
四角錐形状の雄型の先端側を径方向内側に向けて前記円錐形状の部分に押し当てる工程と、を含み、
前記雄型の四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角の最小値は、前記円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きい、
シャフトの製造方法。
【請求項2】
前記雄型は、径方向内側において前記円錐形状の部分が残存するように前記円錐形状の部分に押し当てられる、
請求項1に記載のシャフトの製造方法。
【請求項3】
前記雄型は、少なくとも、径方向外側における前記下孔の開口部の形状が四角形となるまで前記円錐形状の部分に押し当てられる、
請求項1または請求項2に記載のシャフトの製造方法。
【請求項4】
前記底面に平行な方向における前記雄型の断面は正方形であり、
前記雄型は、径方向から見た場合に前記正方形の辺が前記回転軸に対して45°傾斜した状態で前記円錐形状の部分に押し当てられる、
請求項3に記載のシャフトの製造方法。
【請求項5】
回転軸を中心に回転する筒状のシャフトであって、
前記回転軸側から径方向外側に延びて前記シャフトを貫通し、
径方向内側に存在する円柱形状部と、
径方向外側に存在し、内壁の一部が径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状であり、内壁の残部が径方向内側に四角錐の先端側が向けられた四角錐形状である複合径状部と、
を有する孔が形成されており、
前記四角錐形状の部分における四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角の最小値は、前記円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角より大きい、
シャフト。
【請求項6】
前記円錐形状の部分の径方向内側の端部は、前記四角錐形状の部分の径方向内側の端部より前記回転軸に近い、
請求項5に記載のシャフト。
【請求項7】
径方向外側における前記孔の開口部の形状は四角形である、
請求項5または請求項6に記載のシャフト。
【請求項8】
前記四角形は正方形であり、径方向から見た場合に前記正方形の辺は前記回転軸に対して45°傾斜している、
請求項7に記載のシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフトの製造方法およびシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転するシャフトに作用する応力の集中を緩和する技術が知られている。例えば、特許文献1には、シャフトの径方向において、開口端から径方向内側に向かって所定長さまで外形形状を維持したまま延在している外側孔部と、外側孔部よりも孔径が小さい筒状の内側孔部と、外側孔部から前記内側孔部に向かって縮径される縮径部とを有する孔が形成されたシャフトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6528902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外側孔部と縮径部とを形成する方法として、従来の技術においては、プレス加工が開示されている。しかし、外形形状を維持したまま延在している外側孔部をプレス加工によって形成すると、プレス加工に伴って材料が流れて盛り上がるなどして応力集中し易い形状が形成される可能性があった。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、応力集中を発生しにくくすることが可能な技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、シャフトの製造方法は、回転軸を中心に回転する筒状のシャフトに対して、前記回転軸側から径方向外側に延びて前記シャフトを貫通する下孔であって、径方向内側における形状が円柱形状であり、かつ、径方向外側における形状が径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状である前記下孔を形成する工程と、四角錐形状の雄型の先端側を径方向内側に向けて前記円錐形状の部分に押し当てる工程と、を含み、前記雄型の四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角の最小値は、前記円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きいように構成される。
【0007】
すなわち、シャフトの製造方法において、雄型の四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角の最小値は、円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きい。従って、雄型が円錐形状の部分に押し当てられた場合に、円錐形状を構成している下孔の内壁の径が広がる力が作用する。このため、押し込み方向に垂直な方向の断面形状が一定の大きさである雄型によって、外形形状を維持したまま延在している外側孔部を形成する構成と比較して、雄型を押し当てる際に回転軸側に押し込まれる材料が相対的に少なくなる。この結果、応力集中を発生しにくくすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1Aはシャフトを示す図、図1Bはシャフトの断面図、図1Cはシャフトに形成された孔を示す図である。
図2図2Aは円柱状の孔が形成されたシャフトの断面図、図2Bはシャフトに作用する応力を説明するための図、図2Cは孔に発生し得る亀裂を説明するための図である。
図3】シャフトの製造方法を示すフローチャートである。
図4図4A図4Bは下孔の形成工程を説明するための断面図、図4C図4Dは雄型による転写を説明するための断面図、図4Eは転写後の孔を説明するための断面図である。
図5図5Aは下孔を形成するための雄型、図5Bは四角錐形状を転写するための雄型を示す図である。
図6図6Aは四角錐の側面の傾斜角を説明するための図、図6Bは転写後の孔を説明するための断面図である。
図7図7Aは円錐形状部と四角錐形状部とを抜き出して示す斜視図、図7Bは孔10に作用する応力を説明するための図である。
図8図8A図8Bは雄型による材料の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)シャフトの構成:
(2)シャフトの製造方法:
(3)他の実施形態:
【0010】
(1)シャフトの構成:
発明の一実施形態に係るシャフトは、車両に搭載されるエンジンやモータなどの動力源からの動力が伝達され、回転軸Axを中心に回転する部品である。図1Aは発明の一実施形態に係るシャフト1を示す図であり、図1Bはシャフト1の断面図、図1Cはシャフト1に形成された孔を示す図である。図1Aは、シャフト1を回転軸Axに垂直な方向から見た状態で示しており、回転軸Axが一点鎖線で示されている。図1Bは、図1AのA-A断面図であり、図1Cはシャフト1に形成された孔を拡大して示す図である。
【0011】
なお、本明細書で説明する各図面においては、説明の便宜のために形状や角度、大きさ等が強調して表現されている場合があり、同一の構成を異なる図面で説明する際に図面が互いに整合していない場合もあり得る。また、図1Cに示す破線は、後述する円錐形状の部分と四角錐形状の部分との境界を模式的に示している。
【0012】
本明細書においては、シャフト1の回転軸Axに対して垂直な方向を径方向と呼ぶ。また、当該径方向に沿った方向を示す際に、径方向に沿った回転軸Ax側を示す場合にはこれを径方向内側、径方向に沿った回転軸Axと逆側を示す場合にはこれを径方向外側と呼ぶ。
【0013】
シャフト1は、図1Bに示すように、回転軸Axに垂直な方向の断面において、断面形状が回転軸Axを中心とした円形である中空部分1aが形成されておいる。また、当該断面において、径方向外側におけるシャフト1の外面も円形である。従って、シャフト1は、回転軸Axを中心に回転する筒状の部材である。なお、図1Aにおいて、シャフト1の回転軸Axの両端側には、他の部品と連結するための構成等が設けられているが、これらの構成を除いて、シャフト1は筒状である。
【0014】
シャフト1には、回転軸Ax側から径方向外側に延びてシャフトを貫通する孔10が形成されている。径方向外側における孔10の開口部は、図1Cに示すように正方形である。なお、実際のシャフト1に形成される正方形は、頂点が存在せず角が丸い状態の正方形であるが、当該形状は、応力集中を避けるための形状である。すなわち、正方形のように辺が直角に交わることによって頂点が形成されていると、頂点部分で応力集中が発生し、クラック等の原因になるため、開口部に形成される正方形においては曲率が急激に変化しないように角が丸い状態となっている。このような曲率の急激な変化を防止するための形状は各部位で導入され得る。従って、後述する四角錐等においても側面同士が交わる部分は曲面であって良い。なお、以後において、曲率の急激な変化を防止するための形状が図面において明示されない場合もあるが、発明の実施形態において、曲率の急激な変化を防止するための形状を排除するものではない。
【0015】
シャフト1の内部に形成された中空部分1aには、図示しない供給部から潤滑油が供給される。従って、シャフト1が回転すると、遠心力によって中空部分1a内に存在する潤滑油が孔10からシャフト1の外部に吐出され、シャフト1の外面やシャフト1の周辺の部材等の潤滑対象に潤滑油が供給される。このように、孔10は、潤滑対象に潤滑油を供給することができればよく、シャフト1の大きさや回転数、潤滑油の粘度、必要とされる潤滑油の量等に応じて孔10の数、大きさ、位置が調整されてよい。
【0016】
但し、孔10の大きさおよび形状は、潤滑油の量および回転よって生じる応力集中の程度に影響を与えるため、必要とされる潤滑油の量および応力への耐性に応じて孔10の大きさおよび形状が調整されることが好ましい。具体的には、シャフト1の回転によって生じる遠心力で孔10から潤滑油を吐出させる構成においては、回転速度が大きくなるほど遠心力が大きくなり、気道が発生しやすくなる。
【0017】
図2Aは、円筒状のシャフトSを回転軸に垂直な方向に切断した断面の一部を示している。この例において、シャフトSに円柱状の孔Hが形成されている。図2Aにおいては、このシャフトSにおいて回転速度を大きくした場合に生じ得る気道を模式的に示している。一般に、シャフトSの回転速度が小さい場合、孔Hに潤滑油が充満した状態で当該孔Hを移動し、孔Hの開口部から吐出される。しかし、シャフトSの回転速度が大きくなると潤滑油は孔Hの内壁側に張り付きやすくなる。図2Aにおいては、潤滑油Oが孔Hの内壁に張り付いて薄い膜状になった結果、気道が形成され、孔Hの開口部からシャフトSの中空部分Aまで気道が貫通している状態を示している(中空部分A内の潤滑油は図示省略)。
【0018】
このように気道が発生すると、孔Hを潤滑油Oが充満した状態で移動する場合よりも潤滑油Oが孔H内を移動する量が減るため、適正な量の潤滑油OがシャフトSから吐出されない状態となり得る。このような気道の発生を防止するためには、孔Hの直径Dを小さくすることが有効である。
【0019】
図2Bは、比較的、直径Dが小さい孔Hを形成したシャフトSを示す図である。図2Bにおいては、シャフトSを回転させた場合に最大応力が生じる方向を矢印によって示している。最大応力が生じる方向は、図2Bに示すように回転軸に対して45°傾いた方向である。従って、応力による亀裂が発生する場合には、これらの矢印に垂直な方向に発生することが多い。
【0020】
図2Cは、亀裂Cが発生した場合の例を模式的に示す図である。図2Cにおいては、孔Hとその周囲を拡大して示している。また、最大応力の方向D1と最大応力の方向に垂直な方向D2とを二点鎖線によって示している。回転するシャフトSにおいては、最も大きい遠心力が作用するシャフトSの外面において、亀裂Cが発生しやすく、かつ、亀裂Cは、最大応力の方向に垂直な方向D2に沿って発生しやすい。
【0021】
そして、シャフトSに形成された孔Hのような構造においては、孔Hの開口部の曲率が大きいほど応力集中が発生し易い。すなわち、孔Hの開口部の曲率半径が小さくなるほど開口部の曲率が大きくなり、応力集中が発生しやすくなる。従って、図2Aで説明したように、気道の発生を防止するためには、孔Hの直径Dが小さい方がよい一方で、図2B,2Cで説明したように、応力集中を避けるためには孔Hの直径Dが大きい方がよい。
【0022】
気道の発生防止と、孔Hの開口部における応力集中の回避を両立するためには、例えば、特許文献1のように、孔Hの開口部側の外側孔部において径を大きくし、回転軸側の内側孔部の径を小さくする構成を採用し得る。しかし、特許文献1においては、外側孔部と内側孔部との間の縮径部において曲率が大きく変化するため、縮径部や縮径部と外側孔部との境界、縮径部と内側孔部との境界において応力集中が発生しやすくなる。また、プレス加工によって縮径部および外側孔部を形成する構成においては、材料が流れて盛り上がるなどして応力集中し易い形状が形成される可能性があった。
【0023】
そこで、本実施形態にかかるシャフト1においては、気道の発生防止と、応力集中の回避と、を両立させるための形状が孔10において採用されている。以下、このような孔10を有するシャフト1の製造方法を説明する。
【0024】
(2)シャフトの製造方法:
図3は、シャフト1の製造方法を示すフローチャートである。シャフト1を製造する際には、まずシャフト1の本体が形成される(ステップS100)。シャフト1の本体は、図1Aに示すシャフト1において孔10が形成されていない状態の部品を指す。シャフト1の本体の形成は、各種の切削加工など、公知の種々の手法で実現可能である。例えば、円柱状の部材に回転軸Axを含む孔を開けて中空部分1aを形成し、当該部材の外面を切削することによって図1Aに示すシャフト1の本体を形成可能である。
【0025】
次に、シャフト1の本体に下孔が形成される(ステップS110)。本実施形態において、下孔は、回転軸Ax側から径方向外側に延びてシャフト1を貫通する孔である。また、下孔は、径方向内側における形状が円柱形状であり、かつ、径方向外側における形状が径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状である。下孔を形成するための手法は、種々の手法を採用可能である。ここでは、円柱径状の孔が形成され、その後、円錐形状の部分が形成される例を説明する。
【0026】
図4A,4Bは下孔の形成工程を説明するための図である。これらの図は、図1AのA-A断面と同様の方向にシャフト1の本体を切断した状態で示している。下孔を形成する際には、図1Aに示すように、シャフト1の本体に対して切削加工等が行われ、回転軸Ax側から径方向外側に延びてシャフト1の本体を貫通する円柱径状の孔11が形成される。次に、孔11に対して円錐形状の雄型が押し当てられて、孔11に円錐形状が転写される。この結果、シャフト1の本体には、径方向内側における形状が円柱形状であり、かつ、径方向外側における形状が径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状である、漏斗状の下孔12が形成される。
【0027】
なお、雄型は、孔11に対して円錐形状を転写することが可能であれば良く、形状は限定されない。図5Aは、円錐形状を転写するための雄型Pcの例を示す図である。当該雄型Pcは、ベースBcの一面から円錐形状の部分が突出する形状であり、当該円錐形状の部分が孔11に押し当てられる。本明細書では円錐の頂点Vcと底面Sbcとの間に形成される面、すなわち、母線によって形成される面を円錐面Scと呼ぶ。なお、図5Aに示す雄型Pcは、円錐台形状を有しているが、円錐台の円錐面Scを延長すれば円錐形状となり、雄型Pcの形状としては円錐台、円錐のいずれであっても良いため、ここでは両者を区別しない。
【0028】
本実施形態においては、頂点Vc側、すなわち、先端側が回転軸Ax側に向けられた状態で雄型Pcの円錐面Scが孔11に押し当てられる。本実施形態においては、頂点Vcを通り、底面Sbcに垂直な線Lcが径方向に平行であり、かつ、孔11の円柱形状の部分の軸に一致するように雄型Pcの位置および向きが調整される。その後、雄型Pcが径方向内側に向けて移動され、雄型Pcの円錐面Scが孔11に押し当てられる。この結果、円錐面Scによって孔11が押し広げられることによって下孔12が形成される。なお、円錐面Scが円錐の底面Sbcに対して垂直な線Lcに対して傾斜する傾斜角αは種々の値とすることができ、例えば、5°~15°の値を採用可能である。
【0029】
次に、下孔12に四角錐形状が転写される(ステップS120)。本実施形態において、当該転写は、四角錐形状の部分を有する雄型Pqを用いて行われる。図5Bは、四角錐形状を転写するための雄型Pqの例を示す図である。当該雄型Pqは、ベースBqの一面から四角錐形状の部分が突出する形状であり、当該四角錐形状の部分が下孔12に押し当てられる。本明細書では四角錐の頂点Vqと底面Sbqとの間に形成される4つの面を側面Sqと呼ぶ。なお、図5Bに示す雄型Pq、四角錐台形状を有しているが、四角錐台の側面Sqを延長すれば四角錐形状となり、雄型Pqの形状としては四角錐台、四角錐のいずれであっても良いため、ここでは両者を区別しない。
【0030】
本実施形態においては、頂点Vq側、すなわち、先端側が回転軸Ax側に向けられた状態とされる。さらに、本実施形態においては、頂点Vqを通り、底面Sbqに垂直な線Lqが径方向に平行であり、かつ、孔11の円柱形状の部分の軸に一致するように雄型Pqの位置および向きが調整される。図4Cは、図4A,4Bと同様の断面において雄型Pqの先端側が回転軸Ax側に向けられた状態を示している。
【0031】
雄型Pqが図4Cの状態にセットされた後、径方向内側に向けて雄型Pqが移動され、雄型Pqの側面Sqが下孔12の円錐形状の部分に押し当てられる。この結果、下孔12の直径が広がるように変形し、四角錐の形状が下孔12に転写される。図4Dは、雄型Pqによる押し当てが行われている状態を示す図であり、図4Eは、転写によって四角錐形状の部分を有する孔10が形成されたシャフト1の断面を示している。
【0032】
なお、雄型Pqは、下孔12に対して四角錐形状を転写することが可能であれば良く、種々の形状であって良いが、本実施形態においては、下孔12の円錐形状に応じて雄型Pqの四角錐形状が決定される。具体的には、雄型Pqの四角錐の側面Sqが四角錐の底面Sbqに垂直な線Lqに対して傾斜する角度である傾斜角の最小値βは、円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きい。
【0033】
本実施形態において、この状況は雄型Pc,Pqの形状が調整されることによって実現される。四角錐において、底面Sbqに垂直な線Lqに対して側面Sqが傾斜する角度は、側面Sqの位置によって異なる。例えば、図6Aに示す四角錐において、側面の中央線Lmと底面に垂直な線Lvとによって定義される傾斜角は、側面の端部である稜線Lrと底面に垂直な線Lvとによって定義される傾斜角より小さい。
【0034】
本実施形態における雄型Pqは、四角錐の底面Sbqが正方形であり、底面Sbqの中心を通り、かつ底面Sbqに垂直な線Lqが四角錐の頂点Vqを通る。この四角錐において傾斜角の最小値は、図6Aに示す側面の中央線Lmと底面に垂直な線Lvとによって定義される傾斜角である。図5Bに示す雄型Pqにおいて当該傾斜角の最小値が傾斜角βである。本実施形態においては、当該傾斜角βが円錐形状を転写するための雄型Pcにおける円錐面Scの傾斜角αより大きくなっている。
【0035】
このため、雄型Pqが下孔12に押し当てられると、四角錐の側面Sqが下孔12の円錐形状の部分の径を大きくするように押し広げる。雄型Pqにおいては、このように下孔12の円錐形状の部分の径を大きくするように押し広げることができればよく、種々の形状が採用されてよい。傾斜角βは傾斜角αより大きいという条件を満たせば、種々の値とすることができ、例えば、10°~25°の値を採用可能である。なお、2つの線が交差する角度で定義される傾斜角は、交差角が90°である場合を除き、鋭角の部分と鈍角の部分とが形成されるが、本明細書では鋭角の部分の角度を傾斜角とする。
【0036】
図6Bは、図4Eにおける孔10の周辺を拡大した図である。図6Bに示すように、孔10の径方向内側には、孔11の円柱形状の部分が残存している。ここでは、当該部分を円柱形状部Prpと呼ぶ。円柱形状部Prpよりも径方向外側においては、円柱形状部Prpに隣接して下孔12における円錐形状の部分が残存している。ここでは、当該部分を円錐形状部Pcpと呼ぶ。円錐形状部Pcpは、円錐形状の雄型Pcによって形成された部分であるため、径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる円錐形状である。
【0037】
さらに、円錐形状部Pcpよりも径方向外側においては、円錐形状部Pcpに隣接して四角錐形状の部分が形成されている。ここでは、当該部分を四角錐形状部Pqpと呼ぶ。四角錐形状部Pqpは、四角錐形状の雄型Pqによって形成された部分であるため、径方向外側に向けて広がる四角錐形状である。なお、円錐形状部Pcpと四角錐形状部Pqpとを合わせて複合形状部Phpと呼ぶ。
【0038】
円錐形状部Pcpと四角錐形状部Pqpとは、雄型Pcの線Lc、雄型Pqの線Lqが円柱形状部Prpの軸Lxである径方向に一致する状態で径方向内側に移動されて転写された形状である。従って、孔10に形成された円錐形状部Pcpにおいて円錐面が円錐の底面に垂直な線である軸Lxに対して傾斜する傾斜角はγであり、四角錐形状部Pqpにおいて四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線である軸Lxに対して傾斜する傾斜角はδである。傾斜角γはαに等しく、傾斜角δの最小値はβである。このため、孔10においても、四角錐形状部Pqpにおける四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角の最小値は、円錐形状部Pcpにおける円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きい。
【0039】
本実施形態においては、雄型Pqの押し当て後にも、径方向内側において円錐形状部Pcpが残存するように、雄型Pqの径方向内側への押し込み量が調整されている。すなわち、本実施形態においては、径方向の最も外側に四角錐形状部Pqpが存在し、径方向の最も内側に円柱形状部Prpが存在し、四角錐形状部Pqpと円柱形状部Prpとの間に円錐形状部Pcpが存在する。
【0040】
雄型Pqの径方向内側への移動量が過大になると、径方向において、雄型Pqの四角錐形状が、円錐形状部Pcpの全域に転写され、円錐形状部Pcpが存在しない状態になり得る。しかし、本実施形態においては、円錐形状部Pcpが存在しない状態にならず、円錐形状部Pcpが残存するように、雄型Pqの径方向内側への押し込み量が決められている。具体的には、雄型Pqによって転写される四角錐形状の径方向内側の端部よりも、下孔12に存在する円錐形状の径方向内側の端部の方が、回転軸Axに近い状態になるように雄型Pqの押し込み量が制限されている。すなわち、雄型Pqによって転写される四角錐形状の部分の径方向の長さは、転写前に下孔12に存在する円錐形状の部分の径方向の長さより短い。この結果、図6Bに示すように、円錐形状部Pcpの径方向内側の端部Ecは、四角錐形状部Pqpの径方向内側の端部Eqより、回転軸Axに近い形状となっている。なお、この円錐形状部Pcpと四角錐形状部Pqpとの位置関係は、孔10の内壁の全周に渡って充足される。従って、径方向内側においては、雄型Pqによる加工後に円錐形状部Pcpが残存している。
【0041】
この構成によれば、図6Bに示されるように、径方向内側から径方向外側にかけて孔10の内壁が軸Lxに対して傾斜する傾斜角は、0°、γ、δの順に大きくなる。傾斜角がγからδに変化する位置と孔10の開口部との距離は一定値ではない(つまり、端部Eqの位置は、孔10の切断方向によって異なり得る)が、孔10の内壁の任意の位置において、軸Lxに対して傾斜する傾斜角は、径方向内側から径方向外側にかけて0°、γ、δの順に大きくなる。このため、径方向内側において孔10の直径を小さい状態とし、径方向外側に向けて徐々に孔10の直径を大きくすることが可能である。この構成によれば、円柱形状部Prpの存在により、孔10の径が過度に大きくなることを防止し、気道が発生する可能性を低減することができる。一方、径方向内側から径方向外側に向けて傾斜角が段階的に大きくなることにより、孔10の開口部においては、円柱形状部Prpよりも直径を大きくすることができ、開口部に作用する応力集中を緩和することができる。
【0042】
さらに、径方向内側から径方向外側に向けて傾斜角が2段階で大きくなるため、傾斜角がより急激に変化する構成と比較して、内壁の曲率変化(例えば、端部Ec,Eqにおける曲率変化)が過度に大きくならないようにすることができる。このため、孔10の内壁において応力集中を発生しにくくすることができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、雄型Pqが四角錐台形状であり、雄型Pq自体は頂点Vqを有しておらず、側面Sqを延長した先に仮想的な頂点Vqを定義することができる。このような雄型Pqにおいては、雄型Pqの先端が、円錐形状部Pcpと干渉する位置まで押し込まれないように構成される。図6Bにおいては、円錐形状部Pcpに押し込まれた雄型Pqを破線によって示している。本実施形態において、雄型Pqの先端Pqtが円錐形状部Pcpに接する位置まで雄型Pqが押し込まれると、雄型Pqの先端Pqtが円錐形状部Pcpの内壁を径方向内側に向けて流してしまう。そこで、本実施形態においては、雄型Pqの先端Pqtが円錐形状部Pcpに接しない範囲で押し込まれるように、雄型Pqの径方向への押し込み量が決められている。以上の構成によれば、雄型Pqの先端によって円錐形状部Pcpの内壁が径方向内側に向けて流されることを防止することができ、応力集中の原因を発生させないように孔10を形成することができる。
【0044】
さらに、本実施形態において雄型Pqは、少なくとも、径方向外側における下孔12の開口部の形状が四角形となるまで円錐形状部Pcpに押し当てられる。すなわち、径方向内側においては円錐形状部Pcpが残存する一方で、径方向外側における下孔12の開口部では円錐形状部Pcpの円形の部分は残存せず、開口部が四角形になるまで、雄型Pqは径方向内側に向けて押し込まれる。
【0045】
図7Aは、円錐形状部Pcpと四角錐形状部Pqpとを抜き出して示す斜視図である。四角錐の底面Sbqに平行な方向における雄型Pqの断面は正方形であり、本実施形態においては、少なくとも、当該正方形の辺の長さDqが円錐形状部Pcpの開口部の直径Dcよりも大きくなるまで雄型Pqが径方向内側に向けて挿入される。この結果、孔10の開口部において、円錐形状部Pcpの形状である円形の部分は残存せず、開口部の形状は略正方形になる。
【0046】
この構成によれば、回転軸Axを中心にシャフト1を回転させた場合の捻りによって孔10の開口部に生じる応力を平面によって受け止めることができる。図7Bは、図1Cと同様に孔10を径方向外側から内側を見た状態で示す図である。なお、図7Bに示す破線Lbは四角錐形状部Pqpと円錐形状部Pcpとの境界線である。図7Bにおいては、図2Bと同様に、捻りによって最大応力が発生する方向を矢印によって示している。さらに、図7Bにおいては、当該最大応力によって亀裂が発生しやすい方向を一点鎖線によって示している。
【0047】
応力は、孔10の開口部に亀裂を生じさせる力として作用するが、図2Cに示すように、開口部が円形であると、開口部が曲面となり、平面である本実施形態と比較して曲率が大きくなる。当該開口部を構成する曲面の曲率が大きいほど応力集中が生じやすいため、亀裂が発生しやすくなる。しかし。本実施形態において、開口部は四角形であり、当該開口部は四角錐形状の雄型Pqによって形成されるため、平面である。このため、曲率は最も小さい値となり、応力集中が発生しにくくなる。従って、本実施形態によれば、応力集中の原因を発生させないように孔10を形成することができる。
【0048】
さらに、本実施形態において、底面Sbqに平行な方向における雄型Pqの断面は正方形であり、当該正方形の辺が回転軸Axに対して45°傾斜した状態で円錐形状の部分に押し当てられる。この結果、図7Bに示すように、孔10の開口部に形成される正方形の辺は、回転軸Axに対して45°傾斜した状態になる。このため、回転軸Axに対して45°傾斜した方向に作用する最大応力によって発生しやすい亀裂の方向(一点鎖線)に対して、90°傾斜した方向に正方形の辺が向くように、孔10を形成することができる。この結果、最大応力による亀裂に対して最も強度が高い方向に開口部の面を向けることができ、回転軸Axに対する角度が45°以外である構成と比較して、応力による亀裂を発生しにくくすることができる。
【0049】
さらに、本実施形態にかかる下孔12においては、雄型Pqによる転写が行われる前に、予め円錐形状部Pcpが形成されている。さらに、四角錐形状部Pqpは、円錐形状部Pcpを形成する雄型Pcよりも傾斜角が大きい雄型Pqによって形成される。このため、孔10の直径を広げるようにしながら、円錐形状部Pcpを形成することができ、径方向内側に向けて材料が流れにくい状態で孔10を形成することができる。
【0050】
図8A図8Bは、雄型によって材料が流れる方向を示す図であり、下孔12の形状による差異を説明するための図である。図8Aは、径方向内側の円柱形状の部分と径方向外側の円錐形状の部分とを有する下孔12(図4B参照)に対して、雄型Pqを押し当てた場合の材料の流れを示すシミュレーション結果である。一方、図8Bは、円錐形状の部分が形成されず、図4Aに示す孔10のような円柱形状の下孔に対して雄型Pqを押し当てた場合の材料の流れを示すシミュレーション結果である。
【0051】
図8A図8Bの双方において、孔の内壁は周囲よりも薄いグレーで表現されている。また、矢印は、雄型Pqの押し当て前後において孔の内壁を構成する材料が流れた方向を示している。図8Aおよび図8Bの双方において部位Zを比較すると、図8Aにおいては、孔の深さ方向に垂直な方向に材料が流れており、孔の直径を広げるようにして雄型Pqの四角錐形状が転写されることが分かる。一方、図8Bにおいては、雄型Pqが押し込まれる方向、すなわち、回転軸側に向けて材料が流れており、孔の内壁を奥側に押し込みながら雄型Pqの四角錐形状が転写されることがわかる。
【0052】
すなわち、下孔に円錐形状部が形成されない状態で雄型Pqの四角錐形状が転写された場合、孔の深さ方向に材料が流れて盛り上がり、シワのような形状が発生することがわかる。また、下孔に円錐形状部が形成された状態で雄型Pqの四角錐形状が転写された場合、孔の深さ方向に材料が流れにくく、シワのような形状は発生しにくいことがわかる。以上のように、本実施形態によれば、下孔12の内壁における材料の盛り上がりが発生しにくい状態で孔10を形成することができるため、応力集中を発生しにくくすることが可能である。
【0053】
(3)他の実施形態:
以上の実施形態は、本発明を実施するための一例であり、他にも種々の実施形態を採用可能である。シャフト1、雄型Pq,Pc、中空部分1a等の形状や大きさ等は一例であり、各部品の形状や大きさ等は上述の実施形態に示す例に限定されない。例えば、四角錐の底面Sbqに平行な方向における雄型Pqの断面は正方形に限定されず、例えば、菱形や平行四辺形等であっても良い。さらに、孔10の開口部に形成される矩形の辺が回転軸Axに対して傾斜する角度は45°に限定されない。例えば、矩形の辺が、回転軸Axに対して、30°~60°の範囲から選択された角度だけ傾斜した状態であっても良い。
【0054】
シャフトは、回転軸を中心に回転する筒状の物体であればよい。すなわち、シャフトは中空部分を有することで筒状を成しており、回転軸周りに回転させる物体であればよい。シャフト内部の中空部分の形状は限定されず、シャフト全体において、一部に中空ではない部分が存在しても良い。シャフトの適用対象は限定されず、例えば、車両に搭載されるエンジンやモータなどの動力源からの動力を変速して駆動輪に連結された車軸に伝達する変速機用のシャフトとして用いられる例が挙げられる。変速機用のシャフトとしては、例えば、動力源からの動力が入力されるインプットシャフトや、インプットシャフトからの動力が伝達される各種シャフト(インターミディエイトシャフトなど)、変速機が備える遊星歯車のプラネタリキャリヤに支持されるピニオンシャフトなどを挙げることができる。
【0055】
下孔は、径方向に沿って延びることでシャフトの中空部分とシャフトの外部とを繋ぐように貫通する孔であれば良い。下孔の数や大きさ等は限定されず、シャフトの用途、大きさ、形状、回転数、トルク、孔から噴射した潤滑油で潤滑される対象の物体の大きさ、形状等に応じて数や大きさ等が調整されて良い。
【0056】
下孔の径方向内側に存在する円柱径状の部分においては、孔の形状が円柱形状であれば良い。すなわち、下孔の軸に垂直な方向の断面の形状が円形であり、かつ、下孔の軸に沿った方向の所定距離にわたって円の径が一定である部分が円柱形状として形成されていれば良い。なお、円柱形状の部分における径は、他の部分、すなわち、円錐形状の部分の径より小さい。この構成により、回転中に潤滑油が孔を充満しやすくなり、潤滑油が存在しない部分(気道)を発生しにくくすることができる。
【0057】
下孔の径方向内側に存在する円錐形状の部分は、径方向外側に向けて円錐の径が大きくなる形状であれば良い。すなわち、円錐の先端側(頂点側)が回転軸側を向く円錐形状となるように、下孔の内壁が形成されていれば良い。円錐の径は、円錐の底面に垂直な方向の断面に形成される円の直径である。また、孔の形状としての円錐形状には、円錐台形状も含まれる。すなわち、下孔の内壁が形成する円錐台を円錐の先端側に延長すれば、当該形状は円錐形状であるため、孔の形状としての円錐形状と円錐台形状とは実質的に同一である。同様に、孔の形状としての四角錐形状と四角錐台形状とは実質的に同一である。
【0058】
円柱形状の部分と、円錐形状の部分と、を有する下孔を形成する手法としては、上述の実施形態のように円柱形状の孔を形成した後に円錐形状の雄型を押しつける構成以外にも、種々の手法を採用可能である。例えば、円柱形状の部分が形成された後に、切削加工によって円錐形状の部分が形成されるなどの構成を採用可能である。むろん、円柱形状の部分と、円錐形状の部分とが1工程で形成されても良い。
【0059】
また、下孔には、少なくとも1つの円柱形状の部分と少なくとも1つの円錐形状の部分とが形成されていれば良い。従って、例えば、径方向外側において、円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角が異なる複数の円錐形状の部分が形成されていても良い。すなわち、径方向外側に向けて段階的または連続的に傾斜角が大きくなるように複数の円錐形状が連続して形成されていても良い。
【0060】
雄型は四角錐形状の部分を有していれば良い。すなわち、下孔に挿入することで下孔の円錐形状の部分に四角錐の部分が押し当てられるような形状の雄型が構成されていれば良い。従って、雄型において、下孔に押し当てられない部分の形状は任意である。四角錐の先端側は四角錐の頂点側である。従って、雄型の細い部分が下孔に挿入され、雄型が回転軸側に移動されることによって雄型が円錐形状の部分に押し当てられれば良い。雄型を押し当てる工程においては、雄型と下孔とが接触する部分において、雄型の形状を円錐形状の部分に転写することができればよい。この限りにおいて、雄型と下孔との接触面に生じる圧力は、シャフトの材料および大きさ、雄型の材料、形状および大きさ、下孔の形状および大きさ等に基づいて調整されてよい。
【0061】
雄型の四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する角度である傾斜角の最小値は、円錐形状の部分における円錐面が円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角より大きければよい。すなわち、下孔における円錐形状の部分に雄型が押し当てられた場合に、雄型が下孔における円錐形状の部分の径を押し広げるように雄型と円錐形状の部分との形状が設定されていれば良い。
【0062】
四角錐の側面は、四角錐の頂点と底面との間に形成される面である。従って、側面は、4つの平面である。但し、四角錐は、円錐形状の部分の径が径方向外側に向けて広がるように形成されていれば良く、この意味で厳密に四角錐でなくてもよい。例えば、上述の実施形態において、四角錐の底面が形成する正方形の頂点は曲線である。他にも、四角錐の側面が平面ではなく僅かに湾曲した曲面である構成等も想定されて良い。
【0063】
四角錐の底面に垂直な線は、例えば、四角錐の底面に直交し、四角錐の頂点を通る直線である。四角錐の側面と角錐の底面に垂直な線との傾斜角が0°ではない場合、鋭角の角度Dgで交差すると同時に鈍角の角度(180-Dg)で交差するが、ここでは鋭角の角度が傾斜角であると見なされる。鋭角の角度が傾斜角となる点は、円錐面と円錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角においても同様である。なお、傾斜角は一定でも良いし段階的または連続的に変化しても良い。
【0064】
また、四角錐形状の部分は、少なくとも1つ形成されていれば良い。従って、例えば、径方向外側において、四角錐の側面が四角錐の底面に垂直な線に対して傾斜する傾斜角が異なる複数の四角錐形状の部分が形成されていても良い。すなわち、径方向外側に向けて段階的または連続的に傾斜角が大きくなるように複数の四角錐形状が連続して形成されていても良い。
【符号の説明】
【0065】
1…シャフト、1a…中空部分、10…孔、11…孔、12…下孔、A…中空部分、Ax…回転軸、Bc、Bq…ベース、C…亀裂、H…孔、Pc…雄型、Pcp…円錐形状部、Php…複合形状部、Pq…雄型、Pqp…四角錐形状部、Prp…円柱形状部、S…シャフト、Sbc、Sbq…底面、Sc…円錐面、Sq…側面、Vc、Vq…頂点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8