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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172202
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】CO2排出量予測方法
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/08 20120101AFI20241205BHJP
【FI】
G06Q50/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089761
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝二 理智
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC07
5L050CC07
(57)【要約】
【課題】建物のCO2排出量を、小さな手間やコストで予測する。
【解決手段】建物について、燃料及び電力の少なくとも何れかに由来して排出されるCO2の排出量を予測するCO2排出量予測方法であって、前記建物の建物諸元及び工事情報を含む建物情報を取得する建物情報取得ステップと、前記建物諸元のうちの第一諸元を用いて当該建物の建物型式を特定する建物型式特定ステップと、を有し、実績データに基づいて予め構築されたCO2排出量の予測式を用いて、前記工事情報のうちの請負金に関する情報と、前記建物諸元のうちの第二諸元と、前記建物型式と、に基づいてCO2排出量を予測する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物について、燃料及び電力の少なくとも何れかに由来して排出されるCO2の排出量を予測するCO2排出量予測方法であって、
前記建物の建物諸元及び工事情報を含む建物情報を取得する建物情報取得ステップと、
前記建物諸元のうちの第一諸元を用いて当該建物の建物型式を特定する建物型式特定ステップと、
を有し、
実績データに基づいて予め構築されたCO2排出量の予測式を用いて、前記工事情報のうちの請負金に関する情報と、前記建物諸元のうちの第二諸元と、前記建物型式と、に基づいてCO2排出量を予測する、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載のCO2排出量予測方法であって、
前記CO2排出量は、A×前記請負金+B×前記第二諸元+C×前記建物型式に応じた数値+燃料及び電力の少なくとも何れかに由来する定数項によって算出される、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項3】
請求項2に記載のCO2排出量予測方法であって、
燃料由来の前記CO2排出量を算出する予測式と、電力由来の前記CO2排出量を算出する予測式とでは、前記A及び前記B及び前記C及び前記定数項の少なくとも何れかが異なる、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のCO2排出量予測方法であって、
前記建物情報取得ステップと、前記建物型式特定ステップとの間に、
前記建物情報が前記予測式の適用範囲内であることを確認する予測式適用範囲内確認ステップを更に有する、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項5】
請求項1~3の何れか1項に記載のCO2排出量予測方法であって、
前記建物の建設時に排出されるCO2の排出量を予測する、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れか1項に記載のCO2排出量予測方法であって、
前記建物の運用時に排出されるCO2の排出量を予測する、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項7】
請求項1~3の何れか1項に記載のCO2排出量予測方法であって、
前記建物諸元は、少なくとも、延床面積、地上階数、地下階数、建物用途、に関する情報を含む、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【請求項8】
請求項7に記載のCO2排出量予測方法であって、
前記第一諸元は、前記延床面積、前記地上階数、前記建物用途に関する情報であり、
前記第二諸元は、前記地下階数に関する情報である、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CO2排出量予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境問題に対する関心が高まっており、建設業界においても二酸化炭素(CO2)の排出量削減が要求されている。そのような中で、建物の建設時や運用時におけるCO2の排出量を予測する技術が注目されている。例えば、特許文献1には、建物に用いられる建設資材の二酸化炭素排出量を積み上げて算定することによって、建物の総二酸化炭素排出量を精度よく予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-91900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の二酸化炭素(CO2)排出量予測は、建物の計画数量毎に排出原単位(例えばコンクリート1立米あたりの施工に係る排出量)を乗じて積み上げる等の方法が一般的であった。この計画数量については、設計図面から乗算したり、BIMを用いて積算したりすることによって算出するが、算出対象範囲が多岐にわたり、また設計変更が生じた場合に計算をやり直す必要が生じる等、手間やコストが大きかった。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、建物のCO2排出量を、小さな手間やコストで予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための主たる発明は、建物について、燃料及び電力の少なくとも何れかに由来して排出されるCO2の排出量を予測するCO2排出量予測方法であって、前記建物の建物諸元及び工事情報を含む建物情報を取得する建物情報取得ステップと、前記建物諸元のうちの第一諸元を用いて当該建物の建物型式を特定する建物型式特定ステップと、を有し、実績データに基づいて予め構築されたCO2排出量の予測式を用いて、前記工事情報のうちの請負金に関する情報と、前記建物諸元のうちの第二諸元と、前記建物型式と、に基づいてCO2排出量を予測する、ことを特徴とするCO2排出量予測方法である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、建物のCO2排出量を、小さな手間やコストで予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】建物の建設現場におけるCO2排出量の要目の一例について表した表である。
図2】従来のCO2排出量予測方法の一例について説明する図である。
図3】本実施形態におけるCO2排出量予測方法のフロー図である。
図4】建物情報取得ステップにて取得される情報の一例について説明する図である。
図5】予測式適用範囲内確認ステップで確認する情報の例について説明する図である。
図6】建物型式の特定方法について説明する図である。
図7】CO2排出量を算出するために用いられるCO2排出量の予測式について説明する図である。
図8】CO2排出量の予測式に適用される係数A~C及び定数項Dの例について説明する表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
建物について、燃料及び電力の少なくとも何れかに由来して排出されるCO2の排出量を予測するCO2排出量予測方法であって、前記建物の建物諸元及び工事情報を含む建物情報を取得する建物情報取得ステップと、前記建物諸元のうちの第一諸元を用いて当該建物の建物型式を特定する建物型式特定ステップと、を有し、実績データに基づいて予め構築されたCO2排出量の予測式を用いて、前記工事情報のうちの請負金に関する情報と、前記建物諸元のうちの第二諸元と、前記建物型式と、に基づいてCO2排出量を予測する、ことを特徴とするCO2排出量予測方法。
【0011】
このようなCO2排出量予測方法によれば、所定の基本情報のみで大きな手間やコストをかけることなくCO2排出量を算出することが可能となる。例えば、従来行われていたような、計画数量を逐一集計して積算する等の手間がかからず、CO2排出量予測にかかるコストを低減することができる。また、計画変更が生じた場合に、工事数量を再度集計・積算し直す等の作業が不要であり、必要な建物情報を建物タイプとして統合的に評価することによって予測を簡便化することができるため、計画変更にも弾力的に対応しやすくなる。
【0012】
かかるCO2排出量予測方法であって、前記CO2排出量は、A×前記請負金+B×前記第二諸元+C×前記建物型式に応じた数値+燃料及び電力の少なくとも何れかに由来する定数項によって算出される、ことが望ましい。
【0013】
このようなCO2排出量予測方法によれば、一旦、予測式を構築してしまえば、建物に関する「請負金」と、「第二諸元(地下階数)」と、「建物型式」のデータがあれば、CO2排出量を容易に算出することができる。したがって、従来の方法と比較して、CO2排出量を算出するために必要なデータの種類が限定され、より手間やコストがかかり難い。
【0014】
かかるCO2排出量予測方法であって、燃料由来の前記CO2排出量を算出する予測式と、電力由来の前記CO2排出量を算出する予測式とでは、前記A及び前記B及び前記C及び前記定数項の少なくとも何れかが異なる、ことが望ましい。
【0015】
このようなCO2排出量予測方法によれば、燃料由来の場合と電力由来の場合とで係数A~C及び定数項が異なっていることにより、燃料由来と電力由来とで、「請負金」や「地下階数」や「建物型式」のデータがCO2排出量を算出する際に及ぼす影響の違いが可視化されやすくなる。したがって、計画段階において、建物の種類や型式に応じて燃料由来のCO2排出量と電力由来のCO2排出量とがどのように異なる可能性があるのか予想しやすくなる。
【0016】
かかるCO2排出量予測方法であって、前記建物情報取得ステップと、前記建物型式特定ステップとの間に、前記建物情報が前記予測式の適用範囲内であることを確認する予測式適用範囲内確認ステップを更に有する、ことが望ましい。
【0017】
このようなCO2排出量予測方法によれば、過去の実績データから大きく外れた建物情報がCO2排出量の予測式に適用されてしまうことが抑制されるため、当該予測式に基づいて、正確なCO2排出量を算出しやすくなる。
【0018】
かかるCO2排出量予測方法であって、前記建物の建設時に排出されるCO2の排出量を予測する、ことが望ましい。
【0019】
このようなCO2排出量予測方法によれば、予測式に所定の建物情報を適用するだけで、建設時に排出されるCO2の排出量を算出することができる。そして、計画変更が生じた場合であっても、変更後の情報を予測式に適用するだけで、CO2排出量を簡単に算出し直すことができる。特に、建物の建設初期において計画が完全に定まっていないような場合に計画変更が生じたとしても、手間やコストが過度に大きくなり難い。したがって、建物の建設時に排出されるCO2を算出するのに好適である。
【0020】
かかるCO2排出量予測方法であって、前記建物の運用時に排出されるCO2の排出量を予測する、ことが望ましい。
【0021】
このようなCO2排出量予測方法によれば、予測式に所定の建物情報を適用するだけで、運用時に排出されるCO2の排出量を算出することができる。また、建物のタイプを統合的に評価することで、空調の熱源や照明・コンセント等の使用状況について実態に即したCO2排出量予測を行うことが可能となる。したがって、建物の運用時におけるCO2排出量を大きな手間やコストをかけることなく予測することができる。
【0022】
かかるCO2排出量予測方法であって、前記建物諸元は、少なくとも、延床面積、地上階数、地下階数、建物用途、に関する情報を含む、ことが望ましい。
【0023】
このようなCO2排出量予測方法によれば、いずれも容易に取得・確認することが可能な情報に基づいて、CO2排出量を算出できる。したがって、大きな手間をかけずにCO2排出量を予測することができる。
【0024】
かかるCO2排出量予測方法であって、前記第一諸元は、前記延床面積、前記地上階数、前記建物用途に関する情報であり、前記第二諸元は、前記地下階数に関する情報である、ことが望ましい。
【0025】
このようなCO2排出量予測方法によれば、建物の建設中や運用中に大きく変更される可能性の低い情報に基づいて、CO2排出量を算出できる。したがって、CO2排出量を安定的して予測することができる。
【0026】
===実施形態===
<従来のCO2排出量予測について>
はじめに、建物のCO2排出量予測の概要について簡単に説明する。以下では、建物の建設現場において、燃料由来及び/または電力由来のCO2排出量を予測する場合を例に挙げて説明する。
【0027】
図1は、建物の建設現場におけるCO2排出量の要目の一例について表した表である。建物の建設現場において、燃料に由来して排出されるCO2(スコープ1)としては、主に、揚重,掘削,輸送等に消費される軽油や、暖房に消費される灯油の使用量に基づいて発生するCO2がある。また、電力に由来して発生するCO2(スコープ2)としては、主に、照明、仮設エレベータ、タワークレーン等を稼働させるための電力の使用量に基づいて発生するCO2がある。そして、これらの要目ごとに発生するCO2を算出して積み上げていくことによって、建物全体としての燃料由来(スコープ1)及び/または電力由来(スコープ2)のCO2排出量を予測することができる。なお、図1に示されるCO2排出量の要目は、一例を示したものであり、図1に示されている以外の対象について考慮しても良い。
【0028】
図2は、従来のCO2排出量予測方法の一例について説明する図である。一般に、建物のCO2排出量を予測する際には、先ず、工事別の工事数量を積算する。例えば、建物を建設する際の土木工事や躯体工事等を行うために必要な機械設備や歩掛について、工事ごとに機械設備の台数や稼働日数を計画して算出する。次に、算出した機械設備等を稼働するために使用する予定の燃料や電力量を算出する。そして、算出された燃料や電力を使用した場合に排出されるCO2の量を算出する。このようにしてCO2排出量を工事ごとに算出し、全ての工事について積み上げていくことによって、建物全体についてのCO2排出量を予測することができる。また、図2のような方法以外にも、工事数量に所定の係数(排出係数)を乗じることで、簡易的にCO2排出量を算出する方法等もある。
【0029】
しかしながら、従来のCO2排出量予測方法では、何れの場合も、工事数量(計画数量)を積算する必要が生じていた。具体的には、建物の設計図面から工事数量を算出したり、BIM(Building Information Modeling)を利用したりすることにより、工事数量をなるべく正確に積算する必要があった。このような方法では、積算対象となる範囲が多岐にわたるため、工事数量の集計や積算に多大な手間とコストがかかっていた。また、設計変更等によって工事数量に変更が生じた場合には、その都度、工事数量の積算をやり直す必要があるため、費用対効果が悪かった。さらに、従来の方法では、排出係数等として公的な値を用いてCO2の排出量を算出することが一般的であったため、施工事業者の施工能力等が反映され難く、施工事業者ごとにばらつきが生じやすかった。
【0030】
<本実施形態のCO2排出量予測>
これに対して本実施形態に係るCO2排出量予測方法では、従来と比較して手間や時間をかけずに建物のCO2排出量を予測することが可能となる。図3は、本実施形態におけるCO2排出量予測方法のフロー図である。本実施形態では、同図3に示されるS001~S004の4段階のステップを経ることによって、燃料及び電力の少なくとも何れかに由来して排出されるCO2の排出量を簡単かつ低コストで予測する。以下、CO2の排出量を予測する方法について、具体的に説明する。
【0031】
先ず、建物に関する所定の情報を取得する建物情報取得ステップが行われる(S001)。図4は、建物情報取得ステップにて取得される情報の一例について説明する図である。建物情報取得ステップでは、建設予定の建物に関する「建物情報」として「建物諸元」及び「工事情報」を取得する。「建物諸元」は、少なくとも建物の「延床面積」,「地上階数」,「地下階数」,「建物用途」に関する情報を含む。建物用途は、その建物がどのような用途に使用されるかを表す情報であり、例えば、病院,事務所,学校等の用途に区分される(後述する図6参照)。さらに「建物諸元」には、建物の「構造種別」やその他の情報を含んでいても良い。また、「工事情報」は、少なくとも建物工事の「請負金」に関する情報を含み、さらに、「工期」やその他の情報を含んでいても良い。
【0032】
次いで、S001で取得された建物情報のうちの各情報が、実績データに基づいて予め構築されたCO2排出量の予測式(後述する図7参照)の適用範囲内であることを確認する予測式適用範囲内確認ステップが行われる(S002)。図5は、予測式適用範囲内確認ステップで確認する情報の例について説明する図である。詳細については後述するが、本実施形態では、過去の実績データに基づいて、CO2排出量の予測式を構築し、当該予測式にS001で取得された各種情報を当てはめることでCO2の排出量を予測する。したがって、建設予定の建物に関する建物情報が、過去の実績値から大きく外れていた場合CO2排出量を正確に算出できなくなるおそれがある。
【0033】
そこで、建物情報に含まれる各種情報が、各々CO2排出量の予測式(後述する図7参照)の適用範囲内に含まれており、当該予測式に適用可能であることを確認する。図5では、建物情報(建物諸元)のうち「延床面積」が、予測式の適用範囲内に含まれているか否かについて確認する場合の例を示している。この場合、建設予定の建物の「延床面積」が、CO2排出量の予測式を構築する際に使用された複数件の建物の建物情報(実績値)のうち、延床面積が最も小さい案件(適用範囲下限)よりも大きく、延床面積が最も大きい案件(適用範囲上限)よりも小さくなっていることを確認する。なお、適用範囲の上限及び下限は、過去の実績値そのものではなく、過去の実績に基づいて決定された値であっても良い。例えば、過去の実績値のうちの最大値よりも大きな値を適用範囲上限と設定しても良いし、過去の実績値のうちの最小値よりも小さな値を適用範囲下限と設定しても良い。
【0034】
このような作業を、建物情報として取得された各種情報(建物諸元、工事情報)の各々について行い、本実施形態に係るCO2排出量の予測式に適用できることを確認する。仮に、建物情報のうちの何れかが本実施形態に係るCO2排出量の予測式の適用範囲外であった場合には、図2で説明した従来の方法に従う等により、CO2排出量の予測を行う。
【0035】
次いで、S001で取得した建物諸元のうちの所定の情報を用いて、建設予定の建物の建物型式を特定する建物型式特定ステップが行われる(S003)。図6は、建物型式の特定方法について説明する図である。建物形式特定ステップでは、予め、複数種類の建物の実績データに基づいて図6に示されるような散布図を作成しておく。同図6の散布図は、建物用途ごとに、延床面積と地上階数との関係を表したものである。
【0036】
図6の場合、建物用途を9種類(物販飲食,物流,ホテル,住宅,事務所,工場,学校,病院,その他)に分類し、各々の用途に属する建物毎に、延床面積及び地上階数(建物諸元のうちの「第一諸元」に相当)の平均値をそれぞれ求め、当該延床面積及び地上階数を正規化して散布図を作成している。例えば、建物用途が「物流」に属する建物について実績データが20件あった場合、それら20件について、延床面積の平均値と、地上階数の平均値とをそれぞれ算出する。この作業を、全ての建物用途について行い、上述した9種類の建物用途ごとに、延床面積の平均値と、地上階数の平均値とを求める。
【0037】
そして、9種類の建物用途のうち、延床面積の平均値が最も大きいものが「10」となり、最も小さいものが「0」となるように正規化する。図6の例では、「物流」に属する建物の延床面積の平均値が最も大きく、「その他」に属する建物の延床面積の平均値が最も小さくなっている。この場合、「物流」に属する建物の延床面積が「10(平均値が最大)」となるように、また、「その他」に属する建物の延床面積が「0(平均値が最小)」となるように正規化する。同様に、9種類の建物用途のうち、地上階数の平均値が最も大きいものが「10」となり、最も小さいものが「0」となるように正規化する。図6の例では、「住宅」に属する建物の地上階数が「10(平均値が最大)」となり、「工場」に属する建物の地上階数が「0(平均値が最小)」となるように正規化されている。このようにして、9種類の建物用途について、正規化した延床面積と正規化した地上階数との関係を表す散布図を得る。但し、建物用途の分類は上述した9種類よりも多くても良いし、少なくても良い。
【0038】
次に、当該散布図を4つの領域に分類し、各領域について建物型式(タイプ)を定義する。本実施形態では、正規化した地上階数≧5、且つ、正規化した延床面積<5の領域をタイプ1とする。すなわち、タイプ1の建物型式は、図6の左上の領域に区分され、比較的面積が狭く、高層の建物を表すものとなる。図6では、「住宅」,「ホテル」,「事務所」の用途を有する建物がタイプ1の建物型式に含まれている。
【0039】
同様に、正規化した地上階数<5、且つ、正規化した延床面積<5の領域をタイプ2とする。タイプ2の建物型式は、図6の左下の領域に区分され、比較的面積が狭く、低層の建物を表すものとなる。図6では、「病院」,「学校」,「工場」,「その他」の用途を有する建物がタイプ2の建物型式に含まれている。また、正規化した地上階数<5、且つ、正規化した延床面積≧5の領域をタイプ3とする。タイプ3の建物型式は、図6の右下の領域に区分され、比較的面積が広く、低層の建物を表すものとなる。図6では、「物流」,「物販飲食」の用途を有する建物がタイプ3の建物型式に含まれている。
【0040】
また、正規化した地上階数≧5、且つ、正規化した延床面積≧5の領域をタイプ4とする。タイプ4の建物型式は、図6の右上の領域に区分され、比較的面積が広く、高層の建物を表すものとなる。このような建物型式は、タワー型の大型商業施設等、特殊な用途を有する建物であり、用途に応じて特別にデザインされることが多く、汎用性が低い。そのため、図6では何れの用途の建物もタイプ4の建物型式には含まれていない。以下では、タイプ4の建物型式については考慮しないものとする。
【0041】
図6に示されるような散布図が作成されたら、S001で取得され建物情報の建物諸元うち、「延床面積」及び「地上階数」を正規化した値を散布図にプロットし、建設予定の建物がいずれのタイプの建物型式に該当しているかを特定する。例えば、建設予定の建物について、正規化した延床面積が3、正規化した地上階数が4である場合、当該建設予定の建物の建物型式はタイプ2と特定される。
【0042】
なお、「延床面積」や「地上階数」を正規化した値は、以下のようにして求めることができる。例えば、建設予定の建物の延床面積がSn、実績データにおける延床面積の最大値がS1(上述の例では、「物流」に属する建物の延床面積の平均値)、実績データにおける延床面積の最小値がS2(上述の例では、「その他」に属する建物の延床面積の平均値)である場合、建設予定の建物の正規化した延床面積=Sn/(S1-S2)×(10-0)で表される。
【0043】
次いで、S001で取得された各種建物情報、及びS003で特定された建物型式を、CO2排出量の予測式に適用して、CO2排出量を算出するCO2排出量算出ステップが行われる(S004)。図7は、CO2排出量を算出するために用いられるCO2排出量の予測式について説明する図である。
【0044】
図7に示される予測式は、工事情報のうちの「請負金(億円)」と、建物諸元のうちの「地下階数」(第二諸元に相当)と、「建物型式」とをパラメータ(説明変数)として、CO2の予測排出量を算出する。具体的には、図7のようにA×「請負金」+B×「地下階数」+C×「建物型式」+Dの値がCO2の排出量として算出される。ここで、A,B,Cは各パラメータに乗じる係数であり、Dは定数項である。本実施形態において、係数A,B,C、及び定数項Dは、燃料由来のCO2排出量、及び、電力由来由来のCO2排出量の各々について求められる。すなわち、CO2排出量の予測式は、燃料由来のCO2排出量と電力由来由来のCO2排出量との2種類について構築される
【0045】
係数A,B,C、及び定数項Dは、過去の実績データを用いて求められる。例えば、過去に建設された或る「住宅」について、請負金がX1(億円)、地下階数がY1(階)、建物型式がタイプ1、CO2排出量の実績値(燃料由来又は電力由来)がE1(トン)、という情報が既知の実績データとしてあるものとする。当該実績データに対して、E′=A×X1+B×Y1+C×タイプ1+Dの式によって理論値E′を算出し、実績値E1と比較する。そして、このような比較を複数のサンプル(実績データ)について行い、実績値E1と理論値E′の差の二乗が最小となるようなA,B,C,Dを決定する。
【0046】
なお、係数Cは建物型式毎に定められる係数であり、本実施形態では3種類の建物型式ごとに3種類の係数が定義される。例えば、C=(C1×タイプ1)+(C2×タイプ2)+(C3×タイプ3)とした場合、建設予定の建物がタイプ1である場合は、タイプ1=1、タイプ2=0、タイプ3=0と考え、C=(C1×1)+(C2×0)+(C3×0)=C1とする。同様に、建設予定の建物がタイプ2である場合は、C=(C1×0)+(C2×1)+(C3×0)=C2とし、建設予定の建物がタイプ3である場合は、C=(C1×0)+(C2×0)+(C3×1)=C3とする。
【0047】
このように過去の実績データを当てはめて理論値と実績値との差の二乗が最小になるような係数A,B,C(C1,C2,C3)、及び定数項Dを求め、図7に示される予測式(重回帰式)を構築する。そして、構築された予測式を用いることで、CO2の排出量を予測することができる。
【0048】
図8は、CO2排出量の予測式に適用される係数A~C及び定数項Dの例について説明する表である。同図8において、燃料由来のCO2排出量を算出する予測式の係数が、A=a1、B=b1、C=c11(タイプ1),c12(タイプ2),c13(タイプ3)、D=d1である場合、例えば、建設予定の建物が「住宅」であり、請負金がXj、地下階数がYj、建物型式がタイプ1であるとすると、燃料由来のCO2の排出量の予測値Ejは、Ej=a1×Xj+b1×Yj-c11×1+d1と算出される。
【0049】
同様に、同図8において、電力由来のCO2排出量を算出する予測式の係数が、A=a2、B=b2、C=c21(タイプ1),c22(タイプ2),c23(タイプ3)、D=d2である場合、例えば、建設予定の建物が「病院」であり、請負金がXb、地下階数がYb、建物型式がタイプ2であるとすると、電力由来のCO2の排出量の予測値Ebは、Eb=a2×Xb+b2×Yb+c22×1+d2と算出される。
【0050】
このように、本実施形態のCO2排出量予測方法を用いることによって、所定の基本情報のみで大きな手間やコストをかけることなくCO2排出量を算出することが可能となる。すなわち、建物諸元として延床面積,地上階数,地下階数,建物用途や、工事情報として請負金に関する情報に基づいて、実績に基づいたCO2の排出量を予測することができる。したがって、従来行われていたような、建築工事に関する工事数量(計画数量)を逐一集計して積算する等の手間がかからず、CO2排出量算出にかかるコストを大きく低減することができる。また、工事の施工中に計画変更等が生じるような場合であっても、変更した値を予測式に適用することで簡単にCO2排出量を算出し直すことができる。つまり、計画変更に応じて工事数量を再度集計・積算し直す等の作業が不要であり、計画変更にも弾力的に対応することができる。
【0051】
さらに、病院や工場等の用途を「建物型式(タイプ1~3)」として評価することにより、CO2予測を簡便化すると共に正確性をより高めることができる。すなわち、「延床面積」や「地上階数」についての情報を、項目ごとに単に係数掛けするのではなく、建物タイプとして統合することによって、建物タイプ毎に生じる差が反映されやすくなり、より正確にCO2排出量を予測することが可能となる。そして、必要な建物情報を建物タイプとして統合的に評価することで、予測の簡便化が図られ、計画変更にもより弾力的に対応しやすくなる。
【0052】
また、当該建物の建設を担当する業者の過去の実績値に基づいて予測式が構築されるため、その業者の施工能力を反映したCO2排出量が算出されるようになるため、実態に即したCO2排出量予測を行うことができる。
【0053】
また、図7で説明したように、本実施形態のCO2排出量予測式は、所定の係数(A~C)に建物情報の各パラメータを乗じた値と、定数項とによって構成されている。すなわち、一旦、予測式を構築してしまえば、工事情報として「請負金」と、建物諸元(第二諸元)として「地下階数」と、建築用途として「建物型式」のデータがあれば、CO2排出量を容易に算出可能である。したがって、従来の方法と比較して、CO2排出量を算出するために必要なデータの種類が限定され、データ自体が少ないため、より手間やコストがかかり難い。
【0054】
また、燃料由来のCO2排出量を予測する式と、電力由来のCO2排出量を予測する式とでは、係数A~C及び定数項Dの値がそれぞれ別個に求められる。そのため、図8で示したように、燃料由来のCO2排出量の予測式に適用される係数A~C及び定数項Dと、電力由来のCO2排出量の予測式に適用される係数A~C及び定数項Dとが異なっている可能性が高い。このような構成であれば、燃料由来と電力由来とで、「請負金」や「地下階数」や「建物型式」のデータがCO2排出量を算出する際に及ぼす影響の違いが分かりやすくなり、建物の種類や型式によって、建設時に消費される燃料や電力量の違いがより明確になる。例えばCO2排出量を小さくするために、建物のどの部分をどのように計画すれば良いのかが可視化しやすくなる。
【0055】
また、本実施形態に係る予測式(図7参照)では、建物の建設時に排出されるCO2の排出量を予測することができる。上述したように、従来、建物建設時のCO2排出量を予測する方法として、計画数量毎に排出単位を乗じてCO2排出量を積み上げていく方法が一般的であった。例えば、躯体コンクリート量毎にコンクリート一立米当たりの施工に係るCO2排出量を乗じるため、設計図やBIMを用いて、計画数量について詳細に集計する作業が必要となり、膨大な手間やコストがかかっていた。特に、建設初期においては計画が完全に定まっていない可能性が高く、計画変更が生じた場合に大きな影響が出るおそれがあった。これに対して、本実施形態では、予測式に所定の建物情報を適用するだけで、建設時に排出されるCO2の排出量を大きな手間やコストをかけることなく算出することができる。そして、計画変更が生じた場合であっても、変更後の情報を予測式に適用するだけで、CO2排出量を簡単に算出し直すことができる。したがって、建物の建設時に排出されるCO2を算出するのに好適である。
【0056】
なお、CO2排出量予測に用いられる情報としては、建物情報中の第一諸元として「延床面積」、「地上階数」、「建物用途」があり、建物情報中の第二諸元として「地下階数」がある。これらの情報は、いずれも容易に取得・確認が可能であり、また、建物の建設中に大きく変更される可能性も低い。したがって、本実施形態では大きな手間をかけることなく、安定してCO2排出量を予測することができる。
【0057】
===その他の実施形態について===
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0058】
上述の実施形態では、CO2排出量予測式を用いて、建物を建設する際に排出されるCO2の量を予測する方法について説明したが、当該CO2排出量予測式を用いて、建物を運用する際に排出されるCO2の量を予測することも可能である。すなわち、建物の運用実績に基づいて、図7に相当する予測式を構築し、図3で説明した各ステップ(S001~S004)を実施することにより、建物の運用時に排出されるCO2の排出量を予測することができる。
【0059】
例えば、建物型式が上下方向に長い「ホテル(タイプ1)」と、平面方向に広い「物販飲食(タイプ3)」とでは、空調の熱源や照明・コンセントの使用状況やエレベータの稼働状況などが大きく異なる。したがって、上述の実施形態と同様に、建物のタイプを統合的に評価することで、実体に即したCO2排出量予測を行うことが可能となる。このように、本実施形態に係るCO2排出量予測式を用いることで、建物運用時におけるCO2排出量を大きな手間やコストをかけることなく予測することができる。
【符号の説明】
【0060】
S001 建物情報取得ステップ、
S002 予測式適用範囲内確認ステップ、
S003 建物型式特定ステップ、
S004 CO2排出量算出ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8