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特開2024-172204賦活化剤、培地、培養方法、および培養肉の製造方法
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  • 特開-賦活化剤、培地、培養方法、および培養肉の製造方法 図1
  • 特開-賦活化剤、培地、培養方法、および培養肉の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172204
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】賦活化剤、培地、培養方法、および培養肉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20241205BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20241205BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241205BHJP
【FI】
C12N5/071
A23L13/00 Z
A23L5/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089763
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠山 絹華
(72)【発明者】
【氏名】白馬 弘文
(72)【発明者】
【氏名】米田 圭三
(72)【発明者】
【氏名】田畑 泰彦
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
4B065
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LG33
4B035LG34
4B035LG41
4B035LP59
4B042AC10
4B042AD36
4B042AK12
4B042AK13
4B042AK14
4B042AP30
4B065AA90X
4B065AA91X
4B065AA93X
4B065BB12
4B065BB25
4B065BB26
4B065BB27
4B065BB40
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC11
4B065BD16
4B065CA24
4B065CA41
(57)【要約】
【課題】 課題の一つは、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞を賦活化することができる賦活化剤を提供することである。課題の一つは、培養肉を製造するうえで有用な賦活化剤を提供することである。課題の一つは、培地や培養方法、培養肉の製造方法を提供することである。
【解決手段】 解決手段は、植物由来ポリアミン含有抽出物を有効成分として含む賦活化剤である。賦活化剤は、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の賦活化剤であることができる。賦活化剤は、培養肉を製造するために使用されることができる。賦活化剤は、培地添加剤として使用されることができる。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来ポリアミン含有抽出物を有効成分として含む、
幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の賦活化剤。
【請求項2】
前記植物由来ポリアミン含有抽出物が、大豆種子、大豆胚芽、大豆胚、大豆芽、小麦種子、小麦胚芽、小麦胚、小麦芽、豆乳、およびオカラからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料から抽出されたものである、請求項1に記載の賦活化剤。
【請求項3】
前記植物由来ポリアミン含有抽出物が、大豆胚芽および小麦胚芽の少なくとも一方から抽出されたものである、請求項1に記載の賦活化剤。
【請求項4】
前記植物由来ポリアミン含有抽出物が、pH6.0以下の水溶液で抽出する工程を含む方法で得られたものである、請求項1に記載の賦活化剤。
【請求項5】
培地添加用である、請求項1に記載の賦活化剤。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の賦活化剤を含む培地。
【請求項7】
請求項6に記載の培地で、前記群から選ばれた少なくとも一種の細胞を培養することを含む、培養方法。
【請求項8】
請求項6に記載の培地で、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の細胞を培養することを含む、培養肉の製造方法。
【請求項9】
植物由来ポリアミン含有抽出物を有効成分として含む、
培養肉を製造するために使用される賦活化剤。
【請求項10】
請求項9に記載の賦活化剤を含む培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、賦活化剤と、培地と、培養方法と、培養肉の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
人工増加による食料危機を解決する技術として、または、家畜からの温室効果ガスの排出(とりわけウシのゲップによる温室効果ガスの排出)を回避または低減する技術として培養肉が注目されている(特許文献1~4参照)。培養肉として、たとえば培養ミンチ肉や培養ステーキ肉が知られている。培養ミンチ肉は、典型的には、バラバラな方向に向いた筋細胞の集合体である。いっぽう、培養ステーキ肉は、典型的には筋組織を含む。つまり、培養ミンチ肉よりも培養ステーキ肉は、本物の肉に近い構造を有する。なお、培養肉とは異なるものの、培養フォアグラ、たとえば肝臓由来細胞の培養を経て製造される培養フォアグラも知られている(特許文献5および6参照)。
【0003】
ところで、大豆胚芽から抽出した、ポリアミンを含有する抽出物を添加した培地で、正常ヒト皮膚繊維芽細胞やヒト毛乳頭細胞を培養することによって、これらを賦活化できたことが特許文献7に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/132478号
【特許文献2】特開2020-141573号公報
【特許文献3】特許7201972号公報
【特許文献4】特表2023-512686号公報
【特許文献5】特表2020-523015号公報
【特許文献6】国際公開第2020/096004号
【特許文献7】特許5018171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献7には、大豆胚芽から抽出した、ポリアミンを含有する抽出物で、正常ヒト皮膚線維芽細胞やヒト毛乳頭細胞を賦活化できたことが記載されているものの、これらとは異なる細胞をも賦活化できるかどうかまでは明らかではない。しかも、正常ヒト皮膚線維芽細胞もヒト毛乳頭細胞も、培養肉の製造に使用されるものではないことから、その抽出物が、培養肉の製造に役立つかも明らかではない。
【0006】
本発明は、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種を賦活化することができる賦活化剤を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、培養肉を製造するうえで有用な賦活化剤を提供することも目的とする。
【0008】
本発明は、培地や培養方法、培養肉の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、植物由来ポリアミン含有抽出物の細胞賦活化作用について研究をすすめた結果、植物由来ポリアミン含有抽出物が、筋芽細胞や脂肪細胞などへの分化能を有することが知られている脂肪由来間葉系幹細胞の脱水素酵素活性を向上できることを見出した。これに加えて、植物由来ポリアミン含有抽出物が、前骨芽細胞の脱水素酵素活性を向上できることも本発明者は見出した。
【0010】
このような知見に基づき完成された本発明は、次の通りである。
[1]
植物由来ポリアミン含有抽出物を有効成分として含む、
幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の賦活化剤。
[2]
前記植物由来ポリアミン含有抽出物が、大豆種子、大豆胚芽、大豆胚、大豆芽、小麦種子、小麦胚芽、小麦胚、小麦芽、豆乳、およびオカラからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料から抽出されたものである、[1]に記載の賦活化剤。
[3]
前記植物由来ポリアミン含有抽出物が、大豆胚芽および小麦胚芽の少なくとも一方から抽出されたものである、[1]または[2]に記載の賦活化剤。
[4]
前記植物由来ポリアミン含有抽出物が、pH6.0以下の水溶液で抽出する工程を含む方法で得られたものである、[1]~[3]のいずれかに記載の賦活化剤。
[5]
培地添加用である、[1]~[4]のいずれかに記載の賦活化剤。
[6]
[1]~[5]のいずれかに記載の賦活化剤を含む培地。
[7]
[6]に記載の培地で、前記群から選ばれた少なくとも一種の細胞を培養することを含む、培養方法。
[8]
[6]に記載の培地で、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の細胞を培養することを含む、培養肉の製造方法。
[9]
植物由来ポリアミン含有抽出物を有効成分として含む、
培養肉を製造するために使用される賦活化剤。
[10]
[9]に記載の賦活化剤を含む培地。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】マウス頭蓋冠由来骨芽細胞たるMC3T3-E1を用いた実施例1で測定した脱水素酵素活性を活性化率として示す図である。
図2】ヒト脂肪由来間葉系幹細胞たるhADSCを用いた実施例2で測定した脱水素酵素活性を活性化率として示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
<1.賦活化剤>
本実施形態の賦活化剤は植物由来ポリアミン含有抽出物を含む。これにより、本実施形態の賦活化剤は細胞の代謝活性、たとえば、脱水素酵素活性を向上することができる。したがって、本実施形態の賦活化剤は、培養肉や培養フォアグラといった培養製品を製造する際に、細胞の代謝活性を向上させることができる。それ故、本実施形態の賦活化剤は、培養肉や培養フォアグラといった培養製品を製造するうえで有用である。しかも、本実施形態の賦活化剤に含まれる植物由来ポリアミン含有抽出物が植物由来であるという意味で、本実施形態の賦活化剤は安全性に優れている。つまり、高い安全性を期待できる。したがって、本実施形態の賦活化剤は、とりわけ食用の培養製品(たとえば、食用の培養肉や、食用の培養フォアグラ)を製造するうえで有用である。
【0014】
本明細書において、「賦活化」とは、細胞(たとえば、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞など)の何らかの代謝活性の向上を意味する。「何らかの代謝活性」は、たとえば、脱水素酵素活性であり得る。これについて説明する。脱水素酵素は、細胞がエネルギーを獲得するうえで重要な酸化還元反応、たとえば、呼吸を構成する酸化還元反応に関わる。これによれば、細胞のエネルギー獲得能力は、脱水素酵素活性に反映されると考えることができる。したがって、「何らかの代謝活性」は脱水素酵素活性であってもよい。
【0015】
<1.1.植物由来ポリアミン含有抽出物>
植物由来ポリアミン含有抽出物は、ポリアミンを含有する植物抽出物である。植物由来ポリアミン含有抽出物は、植物および/または植物加工物から抽出されることができる。
【0016】
植物として、たとえば双子葉植物、単子葉植物、草本性植物、木本性植物、ウリ科植物、ナス科植物、イネ科植物、アブラナ科植物、マメ科植物、アオイ科植物、キク科植物、アカザ科植物、マメ科植物を挙げることができる。なかでも、イネ科植物、マメ科植物が好ましい。
【0017】
イネ科植物として、たとえば、小麦、オオムギ、イネ、トウモロコシ、ソルガム、サトウキビ、シバ、オートむぎ、ライムギ、アワを挙げることができる。なかでも、国民一人・一年当たり供給純食料が多く、すなわち、国民一人当たり年間消費量が多く、しかも、安価に入手可能であるという理由で小麦が好ましい。
【0018】
マメ科植物として、たとえば、大豆、アルファルファ、アズキ、インゲンマメ、ササゲを挙げることができる。なかでも、国民一人・一年当たり供給純食料が多く、すなわち、国民一人当たり年間消費量が多く、しかも、安価に入手可能であるという理由で大豆が好ましい。
【0019】
イネ科植物やマメ科植物以外の植物として、たとえば、サツマイモ、トマト、キュウリ、カボチャ、メロン、スイカ、タバコ、シロイヌナズナ、ピーマン、ナス、サトイモ、ホウレンソウ、ニンジン、イチゴ、ジャガイモ、ナタネ、ユーカリ、ポプラ、ケナフ、杜仲、シュガービート、キャッサバ、サゴヤシ、アカザ、ユリ、ラン、カーネーション、バラ、キク、ペチュニア、トレニア、キンギョソウ、シクラメン、カスミソウ、ゼラニウム、ヒマワリ、ワタ、エノキダケ、ホンシメジ、マツタケ、シイタケ、キノコ類、チョウセンニンジン、アガリクス、ウコン、オタネニンジン、柑橘類、バナナ、キウイを挙げることができる。
【0020】
抽出物(すなわち植物由来ポリアミン含有抽出物)を得るための植物の部位として、たとえば、花、蕾、子房、果実、葉、子葉、茎、芽、根、種子、乾燥種子、胚、胚芽などを挙げることができる。なかでも、果実、葉、茎、芽、種子、乾燥種子、胚芽、胚が好ましく、種子、乾燥種子、胚芽、胚がより好ましく、胚芽(たとえば、大豆胚芽、小麦胚芽、コメ胚芽、オオムギ胚芽、トウモロコシ胚芽、マイロ胚芽、ヒマワリ胚芽)がさらに好ましい。なお、植物のからだ全体から抽出物を得てもよいことはもちろんである。
【0021】
植物としては、上述の通り大豆が好ましい。すなわち、植物由来ポリアミン含有抽出物が大豆由来ポリアミン含有抽出物であることが好ましい。大豆由来ポリアミン含有抽出物は、未加工の大豆(たとえば大豆胚芽)から得られたものでもよいし、大豆に何らかの手を加えた製品、すなわち加工物から得られたものでもよい。加工物として、たとえば、必要に応じて発酵させた大豆エキス(たとえば、大豆胚芽エキス、大豆胚エキス)、納豆、豆乳、オカラを挙げることができる。
【0022】
植物としては、上述の通り小麦も好ましい。すなわち、植物由来ポリアミン含有抽出物が小麦由来ポリアミン含有抽出物であることが好ましい。小麦由来ポリアミン含有抽出物は、未加工の小麦(たとえば小麦胚芽)から得られたものでもよいし、小麦に何らかの手を加えた製品、すなわち加工物から得られたものでもよい。加工物として、たとえば、必要に応じて発酵させた小麦エキス(たとえば小麦胚芽エキス、小麦胚エキス)、小麦粉を挙げることができる。
【0023】
なお、植物が、大豆や小麦以外に由来する場合でももちろん、植物由来ポリアミン含有抽出物が加工物から得られたものでもよい。そのような加工物として、たとえば、緑茶、紅茶、ウーロン茶、果汁などを挙げることができる。
【0024】
原料が安価であり、しかも大量に入手可能であり、そのうえポリアミンを豊富に含むという理由で、植物由来ポリアミン含有抽出物が、大豆種子、大豆胚芽、大豆胚、大豆芽、小麦種子、小麦胚芽、小麦胚、小麦芽、豆乳、およびオカラからなる群から選ばれた少なくとも1種の材料から抽出されたものであることが好ましい。なかでも、植物由来ポリアミン含有抽出物が、大豆胚芽および小麦胚芽の少なくとも一方から抽出されたものであることがより好ましく、大豆胚芽から抽出されたものであることがさらに好ましい。
【0025】
植物由来ポリアミン含有抽出物は、pH6.0以下の水溶液(以下、「酸性水溶液」と言うことがある。)で抽出されることができる。酸性水溶液で抽出することによって、エタノールやメタノールといった有機溶媒で抽出する場合に比べて、ポリアミンの回収率を高めることができる。しかも、酸性水溶液で抽出することによって、有機溶媒で抽出する場合に比べて、抽出のための有機溶媒の残留を回避できる。したがって、植物由来ポリアミン含有抽出物の安全性を高めることができる。そのうえ、pH6.0以下であることによって、ポリアミンの回収率をいっそう高めることができるとともに、酸性水溶液中でのポリアミンの安定性を向上できる。
【0026】
抽出の手順として、たとえば、植物および/または植物加工物を必要に応じて砕いたうえで、酸性水溶液で植物由来ポリアミン含有抽出物を抽出する、という手順を挙げることができる。より具体的な手順として、たとえば、植物および/または植物加工物に酸性水溶液を加え、必要に応じてポリフェノール吸着剤をさらに加え、植物および/または植物加工物を必要に応じて砕き、酸性水溶液中で植物由来ポリアミン含有抽出物を抽出する、という手順を挙げることができる。
【0027】
酸性水溶液のpHは5.0以下が好ましく、4.0以下が好ましく、3.0以下がさらに好ましく、2.0以下がさらに好ましい。いっぽう、酸性水溶液のpHはたとえば1.0以上であることができる。
【0028】
酸性水溶液として、たとえば、鉱酸を水に溶かした水溶液、有機酸を水に溶かした水溶液、鉱酸および有機酸の両者を水に溶かした水溶液、酸性水を挙げることができる。たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、過塩素酸などの鉱酸を水に溶かした水溶液や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸などの有機酸を水に溶かした水溶液を挙げることができる。なかでも、0.01N~6Nの塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸、スルホサリチル酸、クエン酸、乳酸や、0.1%~10%の過塩素酸が好ましく、0.0625N~1Nの塩酸、0.25%~5%の過塩素酸がより好ましい。
【0029】
植物および/または植物加工物を砕くために、たとえば、ミキサー、ブレンダー、ホモジナイザー、乳鉢、超音波破砕機などを使用することができる。植物および/または植物加工物を砕くことによって、植物および/または植物加工物を、たとえば、スラリー状、細粒状、顆粒状または粉末状にしたうえで抽出をおこなうことができる。なお、植物および/または植物加工物を砕く操作は、酸性水溶液中でおこなってもよい。すなわち、酸性水溶液に浸漬したうえで植物および/または植物加工物を砕いてもよい。
【0030】
抽出時間は、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。いっぽう、抽出時間は、48時間以下であってもよく、24時間以下であってもよく、12時間以下であってもよく、6時間以下であってもよく、3時間以下であってもよい。抽出温度、すなわち、抽出中の酸性水溶液の温度は、たとえば、10℃以上であってもよく、15℃以上であってもよく、20℃以上であってもよい。いっぽう、抽出温度は、40℃以下であってもよく、35℃以下であってもよく、30℃以下であってもよい。なお、抽出中に、攪拌をおこなってもよい。
【0031】
抽出は、ポリフェノール吸着剤の存在下でおこなってもよい。抽出をポリフェノール吸着剤の存在下でおこなうことによってポリフェノール類を除去することができる。ポリフェノール吸着剤として、たとえば、PVPP(ポリビニルポリピロリドン)、PVP(ポリビニルピロリドン)、PEG(ポリエチレングリコール)を挙げることができる。なかでもPVPPが好ましい。ポリフェノール吸着剤の市販品として、ISP社のポリクラール(登録商標)を例示できる。ポリフェノール吸着剤は、たとえば0.1%(w/v)~30%(w/v)、好ましくは0.5%(w/v)~20%(w/v)、より好ましくは1%(w/v)~10%(w/v)となるように酸性水溶液に加えることができる。なお、以下では、「%(w/v)」を「w/v%」と言うことがある。
【0032】
抽出後、必要に応じて、遠心分離および/またはろ過をおこない、抽出液を回収する。
【0033】
抽出液のpHを必要に応じて調整する。抽出液のpHを調整するために、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液といった塩基性水溶液を加えることができる。pH調整後の抽出液のpHは、中性または中性付近であることが好ましく、たとえば6.0以上であってもよく、6.2以上であってもよく、6.5以上であってもよく、6.7以上であってもよい。pH調整後の抽出液のpHは、たとえば8.0以下であってもよく、7.8以下であってもよく、7.5以下であってもよく、7.3以下であってもよい。
【0034】
抽出液を必要に応じて乾燥する。このような手順によって、植物由来ポリアミン含有抽出物を得ることができる。
【0035】
植物由来ポリアミン含有抽出物はポリアミンを含有する。ポリアミンとして、たとえば、プトレシン、スペルミジン、スペルミンを挙げることができる。植物由来ポリアミン含有抽出物は、ポリアミンを一種、または二種以上含有することができる。植物由来ポリアミン含有抽出物は、プトレシン、スペルミジン、およびスペルミンを含有することが好ましい。もちろん、植物由来ポリアミン含有抽出物はこれら以外のポリアミンを含有していてもよい。なお、植物由来ポリアミン含有抽出物が大豆胚芽抽出物である場合、プトレシンや、スペルミジン、スペルミンを含有することが知られている(特許第5018171号公報参照)。植物由来ポリアミン含有抽出物が小麦胚芽抽出物である場合も、プトレシンや、スペルミジン、スペルミンを含有することが知られている(特許第5018171号公報参照)。
【0036】
植物由来ポリアミン含有抽出物は、1kDa未満の画分を含むことができる。「1kDa未満の画分」とは、1kDa cut offの限外ろ過膜、すなわち、Nominal Molecular Weight Limit(NMWO)が1kDaである限外ろ過膜を通り抜ける成分を意味する。1kDa cut offの限外ろ過膜を有する製品として、たとえば、1kDa cut offの限外ろ過チューブ(Microsep Advance with 1K Omega,MCP001C41,Pall)を挙げることができる。
【0037】
1kDa未満の画分に含まれ得る物質として、ポリアミン(たとえば、プトレシン、スペルミジン、スペルミン)や、ポリアミン以外の水溶性物質を挙げることができる。
【0038】
1kDa未満の画分が、細胞の代謝活性(たとえば脱水素酵素活性)の向上作用を発揮する可能性がある。つまり、1kDa未満の画分が有効成分を含む可能性がある。
【0039】
有効成分は、121℃で15分間の熱処理によって細胞の代謝活性(たとえば脱水素酵素活性)の向上作用を失わないかもしれない。すなわち、有効成分は、121℃で15分間の熱処理によって失活しないかもしれない。
【0040】
有効成分は、エタノールに不溶であるかもしれない。
【0041】
本実施形態の賦活化剤における植物由来ポリアミン含有抽出物の含有量は、賦活化剤の性状(たとえば液状、粉末状)に応じて適宜設定できる。植物由来ポリアミン含有抽出物の含有量は、1質量%以上であってもよく、3質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、97質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0042】
本実施形態の賦活化剤は、一種または二種以上の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分として、たとえば、賦形剤、担体、希釈剤などを挙げることができる。
【0043】
本実施形態の賦活化剤は液状であってもよく、粉末状であってもよい。
【0044】
<1.2.用途>
本実施形態の賦活化剤は、培養肉や培養フォアグラといった培養製品を製造するために好適に使用できる。培養肉は、動物細胞を培養する工程を含む方法によって製造される肉である。本明細書において、培養肉は、筋繊維または筋管細胞の少なくとも一方を含む培養製品を意味する。培養肉は、肉本来の構造を忠実に有していてもよく、忠実に有していなくてもよい。培養肉は、筋繊維束を含むことがより好ましい。培養肉は、たとえば、ミンチ状であってもよく、切り身状(これは、ステーキ状とも言い得る。)であってもよい。培養肉は、食用であってもよく、非食用(たとえばドラッグスクリーニング用、医学研究用)であってもよい。いっぽう、本明細書において、培養フォアグラは肝細胞を含む培養製品を意味する。培養フォアグラはもちろん、肝臓本来の構造を忠実に有している必要はない。培養フォアグラはペースト状が好ましい。
【0045】
培養肉や培養フォアグラといった培養製品を製造する際の細胞培養として、たとえば、二次元細胞培養、三次元細胞培養を挙げることができる。三次元細胞培養として、たとえば、一以上の組織や、一以上の組織が完成する前の三次元状の細胞集団の培養などを挙げることができる。組織として、たとえば、筋組織、脂肪組織、神経組織を挙げることができる。本実施形態の賦活化剤は、二次元細胞培養で使用されてもよく、三次元細胞培養で使用されてもよく、両者で使用されてもよい。なお、培養製品を製造する際に、バイオ3Dプリンター、スキャフォールドなどを用いてもよい。
【0046】
動物細胞の動物として、たとえば脊椎動物、無脊椎動物を挙げることができる。なかでも、脊椎動物の肉の商業的価値が、無脊椎動物よりも一般に高い傾向があることを踏まえると脊椎動物が好ましい。
【0047】
脊椎動物として、たとえば円口類、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類を挙げることができる。なかでも、魚類、鳥類、哺乳類の肉の商業的価値が、これら以外よりも一般に高い傾向があることを踏まえると、魚類、鳥類、哺乳類が好ましい。
【0048】
魚類として、ニホンウナギ、オオウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギといったウナギ、クロマグロ、ミナミマグロ、キハダ、ビンナガといったマグロ、シロサケ、ベニザケ、ギンザケ、カラフトマス、サクラマス、ビワマス、マスノスケといったサーモンを挙げることができる。また潜在的な商業的価値を踏まえると、トラフグ、マフグ、ゴマフグといったフグ、及びクエを挙げることもできる。
【0049】
鳥類として、ガチョウ、マガモ、アヒル、アイガモといったカモ科、にわとり、ヤマドリといったキジ科を挙げることができる。培養フォアグラの潜在的な商業的価値を踏まえると、カモ科が好ましく、ガチョウがより好ましい。
【0050】
哺乳類として、たとえば単孔目、有袋目、食虫目、翼手目、霊長目(たとえばメガネザル、ヒト)、貧歯目、げっし目(たとえばハツカネズミ、ナンキンネズミといったマウス)、鯨目、長鼻目、食肉目、奇蹄目(たとえばウマ、ロバ)、偶蹄目(たとえばウシ、ブタ、ヒツジ)を挙げることができる。なかでも、培養肉、とりわけ食用の培養肉の潜在的な商業的価値を踏まえると、偶蹄目が好ましく、ウシ、ブタ、ヒツジがより好ましく、ウシがさらに好ましい。いっぽう、ドラッグスクリーニングや医学研究における培養肉の利用価値を踏まえると、霊長目が好ましく、ヒトがより好ましい。
【0051】
無脊椎動物として、たとえば節足動物、軟体動物を挙げることができる。節足動物の一例として甲殻類を挙げることができる。潜在的な商業的価値を踏まえると甲殻類が好ましい。甲殻類として、タラバガニ、ズワイガニ、毛ガニといったカニ、ロブスター、バナメイ、車海老といった海老を挙げることができる。
【0052】
本実施形態の賦活化剤は、幹細胞や、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞などの賦活化剤として好適に使用できる。とりわけ、本実施形態の賦活化剤が、培養肉を製造するために使用される場合、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞および脂肪細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の賦活化剤として使用されることが好ましい。つまり、本実施形態の賦活化剤が、この群から選ばれた少なくとも一種を賦活化するために使用されることが好ましい。とりわけ、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、および筋細胞からなる群から選ばれた少なくとも一種の賦活化剤として使用されることが好ましい。
【0053】
幹細胞として、たとえば、多能性幹細胞、組織幹細胞を挙げることができる。多能性幹細胞として、たとえば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)を挙げることができる。組織幹細胞として、たとえば、神経幹細胞、間葉系幹細胞(MSC)、骨格筋幹細胞、脂肪幹細胞、血管内皮前駆細胞、血管周皮細胞を挙げることができる。
【0054】
組織幹細胞は、たとえば、動物から取り出した細胞そのものであってもよく、動物から取り出した後に培養(たとえば初代培養や継代培養)を経た細胞(これは細胞株であり得る。)であってもよい。組織幹細胞は、iPS細胞やES細胞などのような多能性幹細胞から分化誘導で作製された細胞であってもよい。
【0055】
間葉系幹細胞(MSC)は、たとえば、筋芽細胞、脂肪細胞に分化することができる能力(すなわち分化能)を有することができる。間葉系幹細胞は、これら以外の細胞、たとえば、骨芽細胞、軟骨芽細胞などに分化することができる能力(すなわち分化能)を有していてもよい。
【0056】
間葉系幹細胞(MSC)が、動物から取り出した細胞そのもの、または、動物から取り出した後に培養を経た細胞である場合、間葉系幹細胞は、たとえば、脂肪組織、骨髄、歯髄、臍帯、胎盤羊膜、羊水に由来してもよい。なお、比較的容易に入手できるという意味で、脂肪組織由来の間葉系幹細胞が好ましい。
【0057】
骨格筋幹細胞としてサテライト細胞を挙げることができる。サテライト細胞は、骨格筋に内在する単核細胞である。サテライト細胞は骨格筋の再生を担っている。サテライト細胞は、骨格筋が損傷を受けると、活性化され、増殖を開始し、筋芽細胞に分化し、増殖を繰り返しながら損傷部位へ遊走し、筋繊維と細胞融合する。このように、サテライト細胞は少なくとも筋芽細胞に分化することができる能力(すなわち分化能)を有する。
【0058】
筋芽細胞は、筋細胞に分化することができる能力(すなわち分化能)を有する。筋芽細胞は、ならんだ状態で融合する(以下、「細胞融合」と言うことがある。)ことができる。いっぽう、筋管細胞は、細胞融合を始めた初期の筋細胞であることができ、したがって多核細胞であることができる。筋細胞は筋繊維である。筋細胞は多核であることができる。
【0059】
前骨芽細胞(preosteoblast)は、典型的には、間葉系幹細胞から骨芽細胞への分化の過程で生じる細胞である。この分化において、間葉系幹細胞は、典型的には、骨前駆細胞(osteoprogenitor cell)、前骨芽細胞(preosteoblast)、骨芽細胞(osteoblast)の順に分化していく。そして、成熟した骨芽細胞が、最終的に骨細胞(osteocyte)へと変化することができる。
【0060】
血管細胞は、血管を構成する何らかの細胞である。血管細胞として、たとえば血管内皮細胞、血管平滑筋細胞を挙げることができる。なかでも血管内皮細胞が好ましい。血液細胞として、たとえば赤芽球、赤血球、骨髄芽球、骨髄球、リンパ芽球、白血球、巨核芽球、巨核球、血小板を挙げることができる。
【0061】
上述の細胞(すなわち、幹細胞や、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞など)は、動物から取り出した細胞そのものであってもよく、動物から取り出した後に培養(たとえば初代培養や継代培養)を経た細胞(これは細胞株であり得る。)であってもよい。上述の細胞は、ES細胞やiPS細胞などから分化誘導で作製された細胞であってもよい。
【0062】
上述の細胞(すなわち、幹細胞や、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞など)のなかで、後述の実施例で賦活化が実証されているという意味で、間葉系幹細胞(MSC)が好ましく、脂肪組織由来の間葉系幹細胞がより好ましい。
【0063】
本実施形態の賦活化剤は培地に添加されることができる。すなわち、本実施形態の賦活化剤は、培地(具体的には、培養用の培地)添加用の賦活化剤、すなわち培地添加剤として使用されることができる。
【0064】
<2.培地>
本実施形態の培地は、上述の賦活化剤を含有する。したがって、本実施形態の培地は、上述の賦活化剤が添加された培地であることができる。
【0065】
本実施形態の培地は、培養肉や培養フォアグラを製造するために好適に使用できる。本実施形態の培地は、上述の細胞(すなわち、幹細胞や、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞など)を培養するために好適に使用できる。
【0066】
本実施形態の賦活化剤が添加される培地として、たとえば、Alpha-MEM、D-MEM(たとえば、Poweredby10(株式会社グライコテクニカ))、Plusoid-M(株式会社グライコテクニカ)、G031101(株式会社グライコテクニカ)、M061101(株式会社グライコテクニカ)などを挙げることができる。培地には、必要に応じて、血清や抗生物質、細胞増殖因子などが添加されていてもよい。血清の一例としてウシ胎児血清(FCS)を挙げることができる。本実施形態の培地は血清、たとえばウシ胎児血清を含有しなくてもよい。つまり、本実施形態の培地は無血清培地であってもよい。
【0067】
培地中のポリアミン濃度(具体的には、植物由来ポリアミン含有抽出物由来のポリアミンの濃度)は適宜設定できる。培地中のポリアミン濃度は、たとえ0.1μM以上であってもよく、0.5μM以上であってもよく、1.0μM以上であってもよく、5.0μM以上であってもよく、10μM以上であってもよい。培地中のポリアミン濃度は、5000μM以下であってもよく、3000μM以下であってもよく、1000μM以下であってもよく、500μM以下であってもよく、200μM以下であってもよく、100μM以下であってもよく、50μM以下であってもよい。
【0068】
<3.培養方法>
本実施形態の培養方法は、上述の培地で、上述の細胞(すなわち、幹細胞や、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、肝芽細胞、肝細胞、骨前駆細胞、前骨芽細胞、骨芽細胞、骨細胞、血管細胞、血液細胞など)を培養することを含む。上述の培地で、上述の細胞を培養する方法として、たとえば、上述の培地で上述の細胞を播種したうえで37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートする方法、上述の培地で培地交換したうえで37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートする方法を挙げることができる。なお、上述の細胞を培養する際に、これら以外の細胞が、培養される細胞の中に含まれていてもよい。
【0069】
<4.培養肉の製造方法>
本実施形態の培養肉の製造方法は、上述の培地で、幹細胞、筋芽細胞、筋管細胞、筋細胞、脂肪前駆細胞、脂肪細胞、血管細胞、および血液細胞からなる群を培養することを含む。上述の培地で、これらの細胞を培養する方法として、たとえば、上述の培地でこれらの細胞を播種したうえで37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートする方法、上述の培地で培地交換したうえで37℃、5%CO雰囲気下でインキュベートする方法を挙げることができる。なお、これらの細胞を培養する際に、これら以外の細胞が、培養される細胞の中に含まれていてもよい。
【実施例0070】
以下、本発明を実施例でさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0071】
<大豆胚芽抽出物の調製>
大豆胚芽抽出物は、特許第5018171号公報の発明の詳細な説明の欄に記載された実施例3の方法で得た。具体的には、100gの大豆胚芽(フォーユー社製)に、500mLの5%過塩素酸水溶液を加えて室温下で1時間放置した。その後、ポリフェノール吸着剤であるポリクラールVT(ISP社製)を16g添加し、ブレンダーミキサーで大豆胚芽を十分に破砕後、室温下で30分間放置して酸性条件下で抽出した。破砕物を2℃・22,000×gで20分間遠心分離して液体画分を採取し、30%の水酸化ナトリウム溶液で中性となるように中和した。中和後の液体画分について、電気透析装置(アシライザー、アストム社製)により脱塩をおこなったうえで凍結乾燥した。このようにして得られた粉末、すなわち大豆胚芽抽出物の粉末を種々の評価に用いた。
なお、大豆胚芽抽出物中のプトレシンや、スペルミジン、スペルミンの量も求めた。これらの量を求めるために、100gの大豆胚芽(フォーユー社製)に希釈内部標準液(1,7-diaminoheptane、内部標準量=1200nmol)、および500mLの5%過塩素酸水溶液を加えて室温下で1時間放置した。その後、ポリフェノール吸着剤であるポリクラールVT(ISP社製)を16g添加し、ブレンダーミキサーで大豆胚芽を十分に破砕後、室温下で30分間放置して酸性条件下で抽出した。破砕物を2℃・22,000×gで20分間遠心分離して液体画分を採取し、30%の水酸化ナトリウム溶液で中性となるように中和した。中和後の液体画分を用いて、特許第5018171号公報の発明の詳細な説明の欄に記載された方法でプトレシンや、スペルミジン、スペルミンの量を求めた。プトレシン、スペルミジン、およびスペルミンについて大豆胚芽抽出物中には、プトレシンが23.5mg、スペルミジンが24.0mg、スペルミンが9.6mg含まれており、これらは合計で57.1mgであった。
【0072】
<実施例1_大豆胚芽抽出物のMC3T3-E1の賦活化作用>
<1.1.使用した細胞や試薬など>
細胞:マウス頭蓋冠由来骨芽細胞 MC3T3-E1(10cmディッシュ、60%コンフル)
培地:MEM Alpha basic (1x) (gibco)(断り書きがない限り、10%FCS、および1%Penicillin-Streptmycin(以下、「P-S」と言う。)含有)
細胞賦活化測定試薬:生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社製)
【0073】
<1.2.前培養>
MC3T3-E1の培養上清をアスピレート除去してPBS5mLで2回洗浄後、トリプシン-EDTA溶液を2mL添加して37℃で3~5分間インキュベートした。培地を等量添加したのち細胞を50mL遠心チューブへ合一し、遠心により細胞を回収した。上清除去後、1%FCSおよび1%P-S含有培地適量で懸濁し、細胞計数を行った。細胞計数結果をもとに、1%FCSおよび1%P-S含有培地で4×10cells/mL細胞懸濁液を調製し、48ウェルプレートへ250μLずつ播種(1×10cells/well)し、COインキュベーター(37℃、5.0%)内で一晩培養した。
【0074】
<1.3.試料添加および培養>
1.2で用意した細胞培養液に、大豆胚芽抽出物を終濃度0.01w/v%、0.05w/v%、0.1w/v%、0.2w/v%となるように添加(各条件n=3)し、COインキュベーター(37℃、5.0%)内で3日間培養した。大豆胚芽抽出物を添加しない条件をコントロールとした。なお、大豆胚芽抽出物を終濃度0.01w/v%、0.05w/v%、0.1w/v%、0.2w/v%になるように添加した培地におけるポリアミン濃度は1.4μM、7.0μM、14μM、28μMである。
【0075】
<1.4.脱水素酵素の活性測定>
3日間培養したプレートを取り出して顕微鏡観察したのち、空ウェル3ウェルへ、1%FCSおよび1%P-S含有培地を250μLずつ添加した(Blank)。各ウェルへ生細胞数測定試薬SFを20μLずつ添加し、COインキュベーター(37℃、5.0%)内で2時間インキュベート後、450nmと600nmとの吸光度を測定した。
【0076】
<1.5.データの整理_活性化率の算出>
細胞賦活化作用、すなわち活性化率を以下の式で算出した。
活性化率=(As-Ab)/(Ac-Ab)×100
この式において、Ab、Ac、およびAsは、次を表す。
Ab: Blankの吸光度差(すなわちAbs450-Abs600)
Ac: コントロールの吸光度差
As: 各種サンプルの吸光度差
ここで、「吸光度差」は、波長450nmの吸光度と波長600nmの吸光度との差(すなわち、波長450nmの吸光度-波長600nmの吸光度)を意味する。
コントロールの活性化率を100%として、大豆胚芽抽出物が添加された条件の活性化率を図1に示す。
【0077】
<1.6.コメント>
図1に示すように、大豆胚芽抽出物によって、前骨芽細胞たるMC3T3-E1の脱水素酵素活性を向上することができた。
【0078】
<実施例2_大豆胚芽抽出物のhADSCの賦活化作用>
<2.1.使用した細胞や試薬など>
細胞:ヒト脂肪由来間葉系幹細胞 hADSC(継代数:P13、10cmディッシュ、70%コンフル)
培地:MEM Alpha basic (1x)(gibco)(断り書きがない限り、10%FCS、および1%P-S含有)
細胞賦活化測定試薬:生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク株式会社製)
【0079】
<2.2.前培養>
hADSCの培養上清をアスピレート除去してPBS5mLで2回洗浄後、トリプシン-EDTA溶液を2mL添加して細胞をディッシュ底面からはがした。培地を等量添加したのち細胞を50mL遠心チューブへ合一し、遠心により細胞を回収した。上清除去後、1%FCSおよび1%P-S含有培地適量で懸濁し、細胞計数を行った。細胞計数結果をもとに、1%FCSおよび1%P-S含有培地で4×10cells/mL細胞懸濁液を調製し、48ウェルプレートへ250μLずつ播種(1×10cells/well)し、COインキュベーター(37℃、5.0%)内で一晩培養した。
【0080】
<2.3.試料添加および培養>
2.2.で前培養したプレートをCOインキュベーターから取り出し、大豆胚芽抽出物を終濃度0.01w/v%、0.05w/v%、0.1w/v%、0.2w/v%となるように添加(各条件n=3)し、COインキュベーター(37℃、5.0%)内で7日間培養した。大豆胚芽抽出物を添加しない条件をコントロールとした。
【0081】
<2.4.脱水素酵素の活性測定>
7日間培養したプレートを取り出して顕微鏡観察したのち、空ウェル3ウェルへ、1%FCSおよび1%P-S含有培地を250μLずつ添加した(Blank)。各ウェルへ生細胞数測定試薬SFを20μLずつ添加し、COインキュベーター(37℃、5.0%)内で3時間インキュベート後、450nmと600nmとの吸光度を測定した。
【0082】
<2.5.データの整理_活性化率の算出>
細胞賦活化作用、すなわち活性化率を実施例1に記載の方法(すなわち、1.5.に記載の方法)で算出した。コントロールの活性化率を100%として、大豆胚芽抽出物が添加された条件の活性化率を図2に示す。
【0083】
<2.6.コメント>
図2に示すように、大豆胚芽抽出物によって、ヒト脂肪由来間葉系幹細胞たるhADSCの脱水素酵素活性を向上することができた。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、賦活化剤や、培地、培養方法、培養肉の製造方法を提供できるため、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2