(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172213
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】監視事象判定回路および監視システム
(51)【国際特許分類】
G08B 17/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G08B17/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089778
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000111074
【氏名又は名称】ニッタン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】伊集 亮人
(72)【発明者】
【氏名】増川 忍
(72)【発明者】
【氏名】國司 一宏
(72)【発明者】
【氏名】宮田 将択
(72)【発明者】
【氏名】影森 琢真
【テーマコード(参考)】
5G405
【Fターム(参考)】
5G405AA03
5G405AA06
5G405BA01
5G405CA09
5G405CA18
5G405CA36
(57)【要約】
【課題】突入電流による誤検知を防止することができる監視事象判定回路を提供する。
【解決手段】端末器線の電圧を監視して所定の判定閾値内にある場合に端末器が作動状態にあると判定する端末器作動検出回路と、端末器線を介して端末器へ電源を供給する電源回路と、電源を供給する際のインピーダンスを切り替え可能なインピーダンス切替え回路と、インピーダンス切替え回路を制御する制御回路とを備え、端末器は監視対象が発生もしくは変化したことを検出した場合にスイッチング回路を作動状態にし、制御回路は端末器線の電圧が所定の判定閾値内にあると判断した場合にインピーダンス切替え回路のインピーダンス値を下げ、端末器線の電圧が所定の判定閾値外にあると判断した場合にインピーダンス値を上げ、端末器作動検出回路が作動状態を検出している時間が所定時間以上継続した場合に監視対象の事象が発生したと判断するようにした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の端末器が接続され監視区域内に敷設されている端末器線に接続された監視事象判定回路であって、
前記端末器線の電圧を監視して、所定の判定閾値内にある場合に前記端末器が作動状態にあると判定する端末器作動検出回路と、
前記端末器線を介して前記端末器へ電源を供給する電源回路と、
前記電源回路から前記端末器線へ電源を供給する二種類の異なるインピーダンスを有する回路と、
前記電源回路から前記端末器線へ電源を供給する際のインピーダンスを切り替え可能なインピーダンス切替え回路と、
前記インピーダンス切替え回路を制御する制御回路と、を備え、
前記端末器は、静電容量を有する電源回路およびスイッチング回路を備え、監視対象が発生もしくは変化したことを検出した場合に、前記スイッチング回路を作動状態にして前記端末器線に電流を流すように構成されており、
前記制御回路は、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値内にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を下げ、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値外にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を上げ、前記端末器作動検出回路が前記作動状態を検出している時間が所定時間以上継続した場合に監視対象の事象が発生したと判断するように構成されていることを特徴とする監視事象判定回路。
【請求項2】
前記端末器線の電圧に基づいて前記端末器線の断線状態を監視する断線監視回路と復旧回路とを備え、
前記制御回路は、断線検出後の断線復旧時に、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値内にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を下げ、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値外にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を上げるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の監視事象判定回路。
【請求項3】
前記インピーダンス切替え回路は、第1のインピーダンス回路と、前記第1のインピーダンス回路のインピーダンスよりも高い第2のインピーダンス回路と、前記第1のインピーダンス回路と前記第2のインピーダンス回路とを切り替える切替えスイッチと、該切替えスイッチを切替える切替え制御回路と、を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載の監視事象判定回路。
【請求項4】
監視区域内に敷設された複数の端末器線と、
前記端末器線にそれぞれ接続された静電容量を有する電源回路および監視対象が発生もしくは変化したことを検出した場合に前記端末器線に電流を流すスイッチング回路を作動状態にする機能を有した複数の端末器と、
前記複数の端末器線が接続された複数の中継器および/または受信機と、を備えた監視システムであって、
請求項1~3のいずれかに記載の監視事象判定回路が前記中継器または前記受信機の地区回路として設けられていることを特徴とする監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視対象の事象が発生しているか判定する監視事象判定回路および監視システムに関し、例えば火災感知器および火災感知器からの検出信号を受信して関連装置の作動制御を行う火災受信機を備えた火災感知システムに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
火災感知システムは、一般に、監視室等に配設された火災受信機(以下、単に受信機と記す)から、ビルのフロア等の各監視エリアへ感知器回線がそれぞれ敷設され、各感知器回線に複数の火災感知器が接続され、感知器回線の終端には終端器が接続されている。火災感知器は、火災を検知するとスイッチング回路がオンして感知器回線に流れる電流を増加させる。従って、回線電流が検出信号となり、受信機は感知器回線に流れる電流を電圧に変換することにより、火災発生の有無を判定することができる。また、受信機は、感知器回線に流れる電流を監視することにより、感知器回線の断線を検出することができる。なお、感知器回線には、火災検出信号を中継する中継器が設けられることがある。
【0003】
また、火災感知システムにおいては、一般に、感知器回線を介して火災感知器(以下、単に感知器と記す)および終端器へ電源や作動電流を供給する電源供給回路が、火災受信機や中継器に設けられている。
この電源供給回路が感知器回線へ供給する電流の値は、火災感知器が火災を検知してスイッチング回路がオンした際に受信機が火災発生を判定することができ、かつ感知器内のスイッチング回路を構成する素子(電気的接点や半導体素子)が破損しないような充分に安全な値に設定される。
【0004】
一方、感知器には、ノイズや負荷変動によって感知器内の内部電源電圧に変化が生じ、誤動作や動作停止をしないようするため、動作安定用のコンデンサーが搭載されている。
そのため、システム(受信機)の電源投入時、或いは感知器回線が断線状態より復帰した際には、各感知器内のコンデンサーを充電する電流が必要であり、感知器回線に接続されている感知器の数に比例してその電流量も増加する。しかも、従来の火災感知システムにおいては、接続可能な感知器の数が最大20個程度であったが、近年の火災感知システムでは数が増加し、最大40~60個となることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-186544号公報
【特許文献2】特開2020-162244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように感知器に設けられているコンデンサーの静電容量により、システム(受信機)の電源投入時、或いは感知器回線が断線状態より復帰した際に、各感知器内のコンデンサーを充電するために、比較的大きな突入電流が流れ、感知器回線の電圧が低下することで、受信機が誤って火災発生と判断するおそれがある。
そこで、感知器に内蔵されているコンデンサーへの突入電流による誤検知を防止するため、コンデンサーの充電電流を制限する電流制限部を設けた火災感知器に関する発明が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
しかし、特許文献1の発明においては、各感知器に電流制限部を設ける必要があるため、そのような電流制限部を持たない既存の感知器を監視エリアに一旦設置して感知器回線に接続してしまうと、電源投入時や断線復帰時における突入電流による誤検知を防止することはできず、更に、各感知器のコストアップにより、システム全体の大きなコストアップを招くという課題がある。
【0008】
また、各感知器回線に設けられている中継器に電流制限回路を設けるようにした発明も提案されている(特許文献2参照)。
しかし、特許文献2の発明は、中継器に過電流検出回路を設けて、短絡等により過電流が流れた場合に電流制限回路によって電流を制限するものであり、本出願の発明とは課題が異なる。また、感知器回線の短絡時であっても、断線の復旧時の電流増であっても、同様に電流を制限してしまうため、各感知器のコンデンサーの充電が遅くなり、感知器の動作が安定しない時間が増大してしまうという課題がある。
【0009】
本発明は上記のような背景の下になされたもので、その目的とするところは、電源投入時や回線の断線復帰時における突入電流による誤検知を防止することができる監視事象判定回路(火災判定回路)および監視システム(火災感知システム)を提供することにある。
本発明の他の目的は、回線に接続される感知器等の端末器の数が多くなっても、端末器の作動電流の増加を抑制し消費電流を低減することができる監視事象判定回路(火災判定回路)および監視システム(火災感知システム)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、
複数の端末器が接続され監視区域内に敷設されている端末器線に接続された監視事象判定回路において、
前記端末器線の電圧を監視して、所定の判定閾値内にある場合に前記端末器が作動状態にあると判定する端末器作動検出回路と、
前記端末器線を介して前記端末器へ電源を供給する電源回路と、
前記電源回路から前記端末器線へ電源を供給する二種類の異なるインピーダンスを有する回路と、
前記電源回路から前記端末器線へ電源を供給する際のインピーダンスを切り替え可能なインピーダンス切替え回路と、
前記インピーダンス切替え回路を制御する制御回路と、を備え、
前記端末器は、静電容量を有する電源回路およびスイッチング回路を備え、監視対象が発生もしくは変化したことを検出した場合に、前記スイッチング回路を作動状態にして前記端末器線に電流を流すように構成されており、
前記制御回路は、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値内にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を下げ、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値外にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を上げ、前記端末器作動検出回路が前記作動状態を検出している時間が所定時間以上継続した場合に監視対象の事象が発生したと判断するように構成したものである。
【0011】
上記のような構成を有する監視事象判定回路によれば、端末器線(感知器回線)の電圧に応じて端末器線へ電源を供給する際のインピーダンスを切り替えるため、電源投入時における突入電流による誤検知を防止することができる。また、電源投入後の通常監視時には、高インピーダンスで端末器線へ電源を供給するため、端末器(感知器)の作動電流の増加を抑制し消費電流を低減することができる。
【0012】
ここで、望ましくは、前記端末器線の電圧に基づいて前記端末器線の断線状態を監視する断線監視回路と復旧回路とを備え、
前記制御回路は、断線検出後の断線復旧時に、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値内にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を下げ、前記端末器線の電圧が所定の判定閾値外にあると判断した場合に前記インピーダンス切替え回路のインピーダンス値を上げるように構成する。
このような構成によれば、端末器線(感知器回線)の断線復帰時における突入電流による誤検知を防止することができる。また、断線復帰後は高インピーダンスで端末器線へ電源を供給するため、端末器(感知器)の作動電流の増加を抑制し消費電流を低減することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記インピーダンス切替え回路は、第1のインピーダンス回路と、前記第1のインピーダンス回路のインピーダンスよりも高い第2のインピーダンス回路と、前記第1のインピーダンス回路と前記第2のインピーダンス回路とを切り替える切替えスイッチと、該切替えスイッチを切替える切替え制御回路と、を備えるように構成する。
かかる構成によれば、端末器線(感知器回線)へ電源を供給する際のインピーダンスを高低2段階に切り替えるため、電源供給回路の構成を簡単にすることができる。
【0014】
本出願の他の発明は、監視区域内に敷設された複数の端末器線と、
前記端末器線にそれぞれ接続された静電容量を有する電源回路および監視対象が発生もしくは変化したことを検出した場合に前記端末器線に電流を流すスイッチング回路を作動状態にする機能を有した複数の端末器と、
前記複数の端末器線が接続された複数の中継器および/または受信機と、を備えた監視システムにおいて、
上述したような構成を有する監視事象判定回路が前記中継器または前記受信機の地区回路として設けられているように構成したものである。
【0015】
上記構成によれば、端末器線(感知器回線)に中継器が設けられている場合あるいは中継器が設けられていない場合に、電源投入時や断線復帰時における突入電流による誤検知を防止することができる監視システム(火災感知システム)を実現することできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の監視事象判定回路(火災判定回路)および監視システム(火災感知システム)によれば、電源投入時や端末器線(感知器回線)の断線復帰時における突入電流による誤検知を防止することができる。また、端末器線に接続される感知器等の端末器の数が多くなっても、端末器の作動電流の増加を抑制し消費電流を低減することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を火災感知システムに適用した場合の一実施形態の概略構成を示すもので、(A)は中継器を用いたシステムの構成例を示すプロック図、(B)は中継器を用いないシステムの構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1の火災感知システムを構成する端末器および中継器(または受信機の地区回路)の回路構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図1の火災感知システムにおける回線断線状態からの復帰時の端末器線(感知器回線)の電圧の変化の様子を示すタイムチャートである。
【
図4】中継器(または地区回路)による監視処理の具体的な手順の一例を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態の火災感知システムにおける火災検出時の動作を示すタイムチャートである。
【
図6】本発明の実施形態の火災感知システムにおける回線断線状態からの復帰時の動作を示すタイムチャートである。
【
図7】本発明の第2の実施例における回線断線状態からの復帰時の動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を火災感知システムに適用した場合の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1(A),(B)には、本発明が適用される火災感知システムの実施形態の概略構成がそれぞれ示されている。
図1に示すシステムのうち、(A)は中継器を用いたシステムの構成例を、(B)中継器を用いないシステムの構成例を示す。
【0019】
図1(A)に示すように、中継器を用いた実施形態の火災感知システムは、建造物内部の部屋やフロアのような複数の監視エリアごと敷設された感知器回線と呼ばれる配線(以下、端末器線と称する)11、端末器線11に接続され各監視エリアにおける火災発生の検知を行う複数の火災感知器(以下、端末器と称する)12、端末器12からの信号を受信する火災受信機(以下、受信機と称する)13、端末器線11の終端に接続された終端器14を備える。
【0020】
また、
図1(A)の実施形態の火災感知システムにおいては、端末器線11ごとに中継器15が設けられ、これらの中継器15は伝送線16を介して受信機13に接続されており、中継器15は端末器線11を介して端末器12の状態を判定し、監視エリアごとに火災の発生の判断を行い、伝送線16を介して火災発生信号を受信機13へ送信するように構成されている。
なお、端末器12は、熱感知器や煙感知器、炎感知器、複合型感知器などどのような方式の感知器であっても良い。
【0021】
図1(B)に示すように、中継器を用いない実施形態の火災感知システムは、監視エリアごとに複数の端末器12が接続された端末器線11が敷設され、各監視エリアに配設された端末器線11の始端は受信機13に接続されている。受信機13には、各端末器線11に対応する地区回路30が設けられており、各地区回路30に、端末器線11の始端が接続され、地区回路30は端末器線11を介して端末器12の状態を判定し、監視エリアごとに火災の発生の判断を行う。
図示しないが、いずれの実施形態においても、受信機13には、防火戸やダンパーなどの防排煙機器、地区ごとに設けられているベルやスピーカなどの警報器などが接続されることがある。受信機13は、火災の発生を検知すると、自ら警報音を発するとともに、防火戸、ダンパーなどを制御駆動したり、地区ベルを鳴動させたりする機能を備えている。
【0022】
また、
図1(A)に示すシステムでは、中継器15より端末器線11を介して端末器12へ電源が供給され、
図1(B)に示すシステムでは、受信機13より端末器線11を介して端末器12へ電源が供給されるように構成されている。そのため、
図1(A)に示すシステムでは中継器15に、
図1(B)に示すシステムでは受信機13の地区回路30に、端末器12へ電源を供給する電源供給回路がそれぞれ設けられている。
【0023】
図2には、端末器12および中継器15の具体的な回路構成例が示されている。なお、図示しないが、
図1(A)に示すシステムでは、受信機13に中継器15から信号を受信する信号受信回路が設けられている。また、
図1(B)に示すシステムでは、
図2に示す中継器15と同様な機能回路が地区回路30に設けられる。
【0024】
図2に示すように、端末器12は、端末器線11の電圧が変動しても内部電源が低下して誤作動や動作停止しないようにする動作安定のためのコンデンサーを有する電源回路21と、煙や熱、炎を検知するセンサを備えた火災検出回路22、スイッチング回路23、制御回路24を備えている。通常監視時に、火災検出回路22が所定のセンサにより火災現象(煙、熱、炎)を検出すると、制御回路24がスイッチング回路23を作動させ、端末器線11のインピーダンスを下げる。すると、端末器線11に流れる電流が増加し、電圧が降下される。この電圧降下を、中継器15または受信機13の地区回路30が検知して端末器12が作動したと判断する。従って、端末器線11に流れる電流が火災検出信号となる。
【0025】
中継器15(または受信機の地区回路30)は、端末器線11の断線を監視する断線監視回路31、端末器線11の電圧に基づいて端末器12の作動状態の判定を行う作動検出回路32、復旧回路33、端末器12へ電源電圧を供給する電源回路34、内部回路を制御する制御回路35、上位装置(受信機または受信機制御回路)との間で通信を行う通信回路36を備える。復旧回路33は、受信機から送信される復旧信号を受信または受信機に設けられている復旧ボタンが操作されると、端末器線11をオープンにして、端末器12の電源を遮断させることで、端末器12を通常の監視状態に復旧(火災検知の自己保持状態の解除、並びに表示灯による火災検出時の表示状態の解除)する機能を有する。
【0026】
また、本実施形態のシステムを構成する中継器15(または地区回路30)においては、電源回路34と端末器線11との間に、電流制限手段としての低インピーダンス回路37A及び高インピーダンス回路37Bと、これらの回路を切り替えるため切替えスイッチ38と、切替えスイッチ38を切り替える制御信号を生成する切替え制御回路39が設けられている。
なお、低インピーダンス回路37Aと高インピーダンス回路37Bは、例えば並列形態の一対の抵抗素子またはリアクタンスによって構成することができる。オペアンプを有するように構成されていても良い。
【0027】
端末器線11の断線時やシステムの電源の立ち上げ前は、各端末器12の電源回路21内のコンデンサーは放電状態にあり、断線からの復帰直後や電源立ち上げ直後(復旧動作、立ち上げ直後も含む)には、中継器15または受信機13の地区回路30より各端末器12のコンデンサーに一気に電流が流れ込む(突入電流)。そのため、端末器線11の電圧が低下し、火災により端末器のスイッチング回路23が動作したのと同様の状態となり、中継器15または受信機13は火災発生と誤判断するおそれがある。
そこで、本実施形態においては、中継器15または受信機13の地区回路30にインピーダンス回路37A、37Bを設けて、断線からの復帰直後や立ち上げ直後は低インピーダンス回路37Aに切り替えて、分圧比を変更することで、突入電流による端末器線11の電圧降下を小さくして誤検出を防止するようにしている。
【0028】
以下、インピーダンス回路37Aと37Bの切替え制御について詳しく説明する。
中継器15または受信機13の地区回路30は、端末器線11の電圧監視を行っている。通常監視時においては、端末器線11の電圧が所定値(火災判定閾値)を所定時間下回ると、火災発生と判断する。そこで、電源立ち上げの場合には、電源立ち上げ直後から通常監視を始めるまでは低インピーダンス回路37Aに設定して突入電流による誤検知を回避するようにしておき、端末器(感知器)12の電源回路21内のコンデンサーが十分充電されてから、通常監視を始めるシーケンスとすれば良い。ただし、通常監視時に低インピーダンスのままであると、消費電流が増大してしまうので、通常監視時は、高インピーダンス回路37Bで端末器線11へ電流を供給しつつ端末器線11の電圧の監視を行い、火災発生を検出したら低インピーダンス回路37Aに切り替えるようにしても良い。
【0029】
制御が難しいのは、端末器線11の断線状態からの復帰時である。例えば端末器12が差圧式やバイメタル式の熱感知器である場合、電源消失時(端末器線断線時)においても、スイッチング回路23は動作可能な構成が一般的に採用されているので、端末器線11の断線時に火災を検出したものの、断線のため火災信号を送出できない状態が想定される。そして、この時点では、端末器線11の内部コンデンサーは放電されているため、断線が解消されて正常状態に復帰すると、内部コンデンサーへの充電が行なわれ、それによって端末器線11の電圧が一時的に低下する。そのため、断線復帰時に火災が発生していると、端末器線11の電圧低下が、感知器の作動による電圧低下なのか、各端末器12の内部コンデンサーへの充電による電圧低下なのかの判断が難しい。
【0030】
また、通常監視時において断線の発生も端末器12の作動もしていない場合、終端器14や端末器12に僅かに電流が流れているため、端末器線11の電圧は、電源回路34が供給する電圧より若干低い値を示す。一方、断線が発生すると、終端器14や端末器12に電流が流れなくなるため、端末器線11の電圧は、電源回路34が供給する電圧とほぼ等しい値を示す。つまり、端末器線11の電圧は、非断線状態の通常監視時より若干上昇することとなる。
【0031】
また、断線中は、端末器12の電源回路21内のコンデンサーが内部回路の電力消費により放電する。従って、断線から復帰した場合、復帰直後から、端末器線11に接続されている全端末器12のコンデンサーヘ電流が流れ込み始めるため、端末器線11には大きい電流が流れ、端末器線11の電圧は、短い時間ではあるが火災判定閾値を下回るまで降下することがある。この時、中継器15または受信機13の地区回路30は、端末器線11の電圧が火災判定閾値を下回ったため、火災と誤って判断してしまうおそれがある。
【0032】
図3には、断線からの復帰時の端末器線11の電圧(回線電圧)VLの変化の様子が示されている。
図3において、実線は断線復帰時に低インピーダンスであった場合、破線は断線からの復帰時に高インピーダンスであった場合の端末器線の電圧変化である。また、Vjthは、火災判定閾値である。
図3に示すように、高インピーダンス(破線)の場合、接続されている全ての端末器のコンデンサーに電流が流れ込むため、端末器線の電圧VLは、一旦大きく降下しその後徐々に充電され上昇して行く。この際、供給電流量が少ないため、火災判定閾値を下回っている時間が長くなり、所定時間以上続くと、誤って火災と判断してしまうことになる。
一方、低インピーダンス(実線)の場合、端末器線の電圧VLは、一旦降下しその後上昇して行くが、火災判定閾値を下回ることがないので、火災と判断することはない。また、供給電流量が多いため、端末器内のコンデンサーの充電に要する時間は短くなり、端末器線の電圧は短時間で上昇して行く。ただし、通常監視時に低インピーダンスのままだと、消費電流が増えてしまう。
【0033】
そこで、本実施形態のシステムにおいては、断線状態からの復帰時に端末器線11の電圧が火災判定閾値を下回った場合、低インピーダンス回路37Aに切り替え、その後においても継続して火災発生を検出していたら実火災と判断する。
また、断線状態からの復帰時に低インピーダンス回路37Aに切り替え、その後、端末器線11の電圧が火災判定閾値を下回わらなかったら、端末器12のコンデンサーへの突入電流による影響と考え、電流を減らすために再度高インピーダンス回路37Bに切り替える。このような動作を繰り返すように、切替え制御回路39が切替えスイッチ38の制御を行う。
【0034】
次に、
図2に示す中継器15(または地区回路30)における処理の具体的な手順の一例について、
図4のフローチャートを用いて説明する。
図4の処理を開始すると、制御回路35は、先ず監視タイミングか否か判定する(ステップS1)。ここで、監視タイミングでない(No)と判定すると処理を終了し、監視タイミングである(Yes)と判定すると、ステップS2へ進み、前回監視時における端末器(感知器)12の状態は作動(火災検知)か否か判定する。そして、作動でない(No)と判定するとステップS4へジャンプし、作動である(Yes)と判定すると、ステップS3へ進み、切換えスイッチ38を低インピーダンス回路37A側に切り替えてステップS4へ進む。
【0035】
ステップS4では、作動検出回路32により端末器線11の電圧が所定の火災判定閾値Vjthを下回っているか否か判定する。ここで、火災判定閾値Vjthを下回っている(Yes)と判定すると、ステップS5へ進み、制御回路35内に用意されている作動継続カウンタをインクリメント、正常継続カウンタをクリア、状態フラグを「作動」にセットする。そして、ステップS6へ進んで、作動継続カウンタ(タイマ)の値が所定の作動確定時間以上になっているか否か判定する。ここで、作動確定時間以上になっている(Yes)と判定するとステップS7へ進み、端末器(感知器)12の状態は作動状態であると確定する。また、ステップS6で作動確定時間以上でない(No)と判定するとステップS7をジャンプしてステップS11へ進む。
【0036】
一方、上記ステップS4で、火災判定閾値を下回っていない(No)と判定すると、ステップS8へ進み、制御回路35内に用意されている正常継続カウンタをインクリメント、作動継続カウンタをクリア、状態フラグを「正常」にセットする。そして、ステップS9へ進んで、正常継続カウンタ(タイマ)の値が所定の正常確定時間以上になっているか否か判定する。ここで、正常確定時間以上になっている(Yes)と判定するとステップS10へ進み、端末器(感知器)12の状態は正常状態であると確定する。また、ステップS9で正常確定時間以上でない(No)と判定するとステップS10をジャンプしてステップS11へ進む。
【0037】
ステップS11では、切替えスイッチ38を高インピーダンス回路37B側に切り替えて一連の処理を終了する。
なお、上記ステップS1~S11の処理は、タイマ割込みで、所定の時間(例えば100ミリ秒)ごとに繰り返し実行するようにしても良い。
【0038】
次に、中継器15(または受信機13)が、
図4のフローチャートに従った処理を実行した場合における動作例を、
図5および
図6のタイムチャートを用いて説明する。このうち、
図5は端末器(感知器)12が火災を検知し作動した火災発報時のタイムチャート、
図6は端末器線11が断線状態から復帰した時のタイムチャートである。なお、
図5および
図6において、最上段の下向きの矢印は、監視タイミング(端末器線の電圧値のサンプリングタイミング)であり、サンプリング周期は例えば100msである。
【0039】
図5に示すように、正常時(T1)においては端末器線11の電圧VLは火災判定閾値Vjthよりも充分に高いレベルにあり、インピーダンス回路は切替えスイッチ38によって高インピーダンス回路37B側に切り替えられている。この状態で火災が発生して端末器(感知器)が作動すると、端末器線11の電圧VLが火災判定閾値Vjthよりも低いレベルに低下する(タイミングt1)。
すると、中継器15(または受信機13)がそれを検知して、切替えスイッチ38を低インピーダンス回路37A側に切り替える(タイミングt2)。
【0040】
これにより、端末器線11へ供給される電流が増加し、端末器線11の電圧VLが上昇するものの、火災判定閾値Vjthを下回っている状態が所定時間以上継続したと作動検出回路32が判断すると、中継器15(または受信機13)は火災発生と判断して警報信号を送出する(タイミングt3)。
また、中継器15(または受信機13)は、切替えスイッチ38によってインピーダンス回路を高インピーダンス回路37B側に切り替える。そのため、端末器線11へ供給される電流が減少し、消費電流を低減させることができる。
【0041】
一方、端末器線11の断線復帰の際は、
図6に示すように、先ずインピーダンス回路は切替えスイッチ38によって高インピーダンス回路37B側に切り替えられており、端末器線11の電圧VLは火災判定閾値Vjthよりも充分に高いレベルにある。そして、タイミングt11で端末器線11が断線状態から復帰したとすると、中継器15(または受信機13)から端末器(感知器)12の内部コンデンサーへ突入電流が流れることで、端末器線11の電圧VLが火災判定閾値Vjthよりも低いレベルに低下する。
すると、中継器15(または受信機13)がそれを検知して、切替えスイッチ38を低インピーダンス回路37A側に切り替える(タイミングt12)。
【0042】
これにより、端末器線11へ供給される電流が増加し、端末器線11の電圧VLが上昇する。このとき、電圧VLが火災判定閾値Vjthを下回っている状態が所定時間以上継続すれば、中継器15(または受信機13)は火災発生と判断するが、所定時間経過する前に電圧VLが火災判定閾値Vjthを上回っていれば、中継器15(または受信機13)は、火災が発生していないと判断して切替えスイッチ38によってインピーダンス回路を高インピーダンス回路37B側に切り替える(タイミングt13)。これにより、断線復帰時における端末器12への突入電流による火災の誤検知を防止することができる。
【0043】
その後、端末器線11の電圧VLが火災判定閾値Vjthを下回っているか判定し、Vjthを下回っていれば、切替えスイッチ38を低インピーダンス回路37A側に切り替える。そして、上記動作を繰り返すうちに、端末器(感知器)12の内部コンデンーが充電されるため、端末器線11の電圧VLは次第に上昇し、端末器線11の電圧VLが火災判定閾値Vjthを下回らなくなり、高インピーダンス回路37B側に切り替わった状態を維持し、消費電流を低減させることができる。なお、電源投入時の動作も上記と同様である。
【0044】
(第2実施例)
第2実施例は、
図4のフローを改変し、
図7のような動作タイミングに従って動作するようにしたものである。このようにすることにより、低インピーダンスの時間が長くなり、各端末器内のコンデンサーへの充電が早く完了するため、端末器の動作をより安定させることができるというメリットがある。
すなわち、
図6では、監視タイミングにて高→低に切り換え、電圧確認の後すぐに低→高に切り替えているため、低インピーダンスの時間が短いが、
図7では、監視タイミングにて、高→低の後、タイマ等で低の時間を長くとるようにすることで、充電電流を増やすことができ充電が早く完了する。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでなく、適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、インピーダンス回路として、低インピーダンス回路37Aと高インピーダンス回路37Bの2つを設けているが、3つ以上のインピーダンス回路を設けて、例えば1つの端末器線11に接続されている端末器(感知器)12の数に応じてインピーダンスを選択できるように構成しても良い。
【0046】
また、上記実施形態では、電源回路34と低インピーダンス回路37A、高インピーダンス回路37Bと切替えスイッチ38を別々の機能回路として示しているが、これらを一体の電源供給回路として構成しても良い。
さらに、前記実施形態では、本発明を、火災感知器を備えた火災感知システムに適用した場合について説明したが、本発明は、端末器として有毒ガスを検知するガス感知器や人感センサを備えた監視システムにも利用することが可能である。
【符号の説明】
【0047】
11 端末器線(感知器回線)
12 端末器(感知器)
13 火災受信機(受信機)
14 終端器
15 中継器
16 共通伝送線
21 電源回路
22 火災検出回路
23 スイッチング回路
24 制御回路
30 地区回路
31 断線監視回路
32 作動検出回路(端末器作動検出回路)
33 復旧回路
34 電源回路
35 制御回路
36 通信回路
37A 低インピーダンス回路
37B 高インピーダンス回路
38 切替えスイッチ
39 切替え制御回路