IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン電子株式会社の特許一覧

特開2024-172217振子及び振子を用いたサーボ加速度計
<>
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図1
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図2
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図3
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図4
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図5
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図6
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図7
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図8
  • 特開-振子及び振子を用いたサーボ加速度計 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172217
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】振子及び振子を用いたサーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/13 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01P15/13 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089782
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(72)【発明者】
【氏名】新井 克美
(72)【発明者】
【氏名】小野坂 純一
(57)【要約】
【課題】
加工コストの高いウェットエッチングの工程を減らして、寸法安定性の高い振子を提供することである。
【解決手段】
本発明の振子は、ヒンジ10cを構成する第1の石英ガラス構造体41と、錘部10aを構成する第2の石英ガラス構造体42と、を備え、前記第1の石英ガラス構造体41と前記第2の石英ガラス構造体42の境界面に金属材料の接合層を有することを特徴とする。前記第1の石英ガラス構造体41の両面に、前記接合層を介して、前記第2の石英ガラス構造体42を備えてもよい。振子を備えたことをサーボ加速度計としてもよい。
【選択図】図4


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンジを構成する第1の石英ガラス構造体と、
錘部を構成する第2の石英ガラス構造体と、を備え、
前記第1の石英ガラス構造体と前記第2の石英ガラス構造体の境界面に金属材料の接合層を有することを特徴とする振子。
【請求項2】
前記第1の石英ガラス構造体の両面に、前記接合層を介して、前記第2の石英ガラス構造体を備えたことを特徴とする請求項1に記載の振子。
【請求項3】
前記接合層が設けられた側と反対側の前記第2の石英ガラス構造体上に配線を形成し、前記配線と前記接合層と、が接触しないことを特徴とする請求項1に記載の振子。
【請求項4】
前記接合層が設けられた側と反対側の前記第2の石英ガラス構造体上に配線を形成し、
前記接合層は、前記第2の石英ガラス構造体上の前記配線に対して、電流が流れない厚みであることを特徴とする請求項1に記載の振子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の振子を備えたことを特徴とするサーボ加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
振子の構造に関し、振子を用いた力平衡サーボ加速度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
力平衡サーボ加速度計は、磁気回路の上側ステータと下側ステータとの間に金属膜を形成した振子を備えている。加速度で生じた振子の変位を検出し、電圧に変換・増幅してコイルに印加する。コイルに生じるローレンツ力(復元力)により,振子の変位をゼロに制御する。このときの復元力は、慣性力となるので、加速度をコイル電流から検知可能に構成されている。
【0003】
サーボ加速度計に用いられる振子は、寸法安定性の優れた石英ガラスが好んで用いられる。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-96509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、振子に寸法安定性の優れた石英ガラスが開示されている。しかしながら、石英ガラスを振子の形状に加工するためには、ウェットエッチングによる微細加工が必要であり、加工コストの高いウェットエッチングの工程を多く用いる必要がある。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、ウェットエッチングの工程を削減して作成可能な石英ガラスを用いた振子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決する為に、本発明における振子は、ヒンジを構成する第1の石英ガラス構造体と、錘部を構成する第2の石英ガラス構造体と、を備え、
前記第1の石英ガラス構造体と前記第2の石英ガラス構造体の境界面に金属材料の接合層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上述のような構成とすることで、加工コストの高いウェットエッチングの工程を減らして、寸法安定性の高い振子を提供することができる。更に、本発明の振子を組み込むことで、高精度に測定ができるサーボ加速度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】サーボ加速度計の分解斜視図。
図2】サーボ加速度計の断面図。
図3】サーボ加速度計の振子の斜視図
図4】本発明の一実施形態に係る振子の断面図。
図5】本発明の一実施形態に係る振子の接合の工程図。
図6】本発明の一実施形態に係る振子の接合後の金属層の斜視図。
図7】本発明の一実施形態に係る振子の接合層の錘部及び固定部に対する配置図。
図8】本発明の一実施形態に係る振子の接合層の錘部及び固定部に対する配置図。
図9】本発明の一実施形態に係る振子の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
図1は、サーボ加速度計の分解斜視図である。図2は、サーボ加速度計の断面図である。図3はサーボ加速度計に用いられる振子10の斜視図である。
【0012】
図3において、舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aは、ヒンジ10cを介して円筒状の枠体である支持部10bに連結されて支持される。これら錘部10a、支持部10b、ヒンジ10cは、後述する接合層44を介して、複数の石英ガラス構造体40により一体に形成される。支持部10b、錘部10aに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、入力加速度により加速度検知軸30方向に変位する。
【0013】
支持部10bは、一対の円筒ヨーク13,14に挟みこまれている。円筒ヨーク13,14の一端側は、円形状のヨーク15、16によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bに接している。円筒ヨーク13と14の外周にはシールバンド20が接着剤により固定される。
【0014】
円筒ヨーク13,14の内部には、それぞれ円盤状のヨーク17、18、及び円柱状の永久磁石19、20が収容されている。そして、円筒ヨーク13,14と、円盤状のヨーク17、18、及び円柱状の永久磁石19、20の中心軸は一致している。
【0015】
永久磁石19、20には、板厚方向に着磁されたネオジム、サマリウムコバルト磁石が用いられ、ヨーク13、14、15、16、17、18は、例えば軟磁性材料によって形成される。永久磁石19、20とヨーク15、16、永久磁石17、18とヨーク17、18は、それぞれ接着材により固定され、ヨーク13、14とヨーク15,16はレーザ溶着によって接合固定される。
【0016】
円筒ヨーク13,14の開放端内周面とヨーク17、18の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。これら磁気空隙内にそれぞれ位置するようにトルカコイル11が巻回されたコイルボビン12が、錘部10aの両板面にそれぞれ取り付けられる。
【0017】
このような構成を有するサーボ型加速度計においては、錘部10aの上面及び下面は、金膜の静電容量電極が形成されて2つのコンデンサ板として機能する。静電容量電極10dに対向して形成されたヨーク13、14の電極面13e,14eは共通電位とされ、錘部10aの両板面の静電容量電極10dの検出信号は、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された配線10eと、それに接続されている金ワイヤ等の導線22、および端子23を介して、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、一対のトルカコイル11に静電容量差に基づいた電流が、別の端子と配線10eを経由して流れる。
【0018】
振子の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部は変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知する事が出来る。
【0019】
この発明のサーボ加速度計に用いられる振子の断面模式図を図4に示す。ヒンジ10cを構成する石英ガラス構造体41は、接合層44を介して、錘部10aや支持部10bとなる石英ガラス構造体42、43と接合している。図4に示す振子は、図5のように作成できる。図5(a)に示す様に、石英ガラス構造体40を機械加工やウェットエッチング等を用いて所望の形状に加工する。そして、研磨などを用いて接合面を鏡面状態にする。この形状加工と鏡面化処理の順番は、逆順や同時加工でも構わない。次に、接合面上に金属材料を成膜して金属層45を形成する。図5(b)に示す様に、各構造体を重ね合わせて、所望の振子形状となる様に固定する。接合力を均一にするため、石英ガラス構造体に形成された金属層45は、厚み方向で対称配置であり、平面方向では同一形状とする。金属材料が十分な吸収を行うレーザ、例えば、YAGレーザ46を接合面に照射して、金属層45を融解接合させる。石英ガラスはレーザを透過するため、振子内部の金属層45を選択的・局所的に加工できる。そして形成された金属層45の一部は石英ガラス側へ拡散する。この金属層45と拡散層を合わせたものが接合層44である。
【0020】
サーボ加速度計に用いられる従来の振子では、板形状の石英ガラスに選択的なエッチングを施すことで、図3に示す様なヒンジ10c(段差)や貫通穴を製作している。本発明では、振子を構成する構造体を個別に製作し、張り合わせて接合する事で振子形状を完成させる。つまり、ウェットエッチングの工程を削減して作成可能な石英ガラスの振子を提供する事が出来る。
【0021】
<実施例1>
図6(a)は接合後の金属層45を示した斜視図であり、図7はヒンジ表面に形成された配線10eと接合層44の関係を示した断面模式図である。なお、図6に示す金属層45は、対称・同一形状となる各金属層45のうち、一層分を抜き出して示している。配線10eと接合層44の絶縁性を確保するため、配線10eに接触する接合層44a(金属層45a)は、他の接合層44b(金属層45b)と分離されて形成される。これら接合層の中間に接合層が存在しない領域44cが存在する事で、配線10eは接合層44を介して短絡せず、導線22、および端子23を介して、静電容量電極10cの検出信号やトルカ電流を正常に送れる。
【0022】
本実施例における振子10の製作方法を説明する。高純度の石英ガラス材料、例えば直接法を用いて製作された合成石英ガラスのインゴットから、石英ガラス構造体40の母材となる薄板を切り出す。高純度材料を母材とする理由は、寸法安定性が高く、加工バラつきが少ない為、高い寸法精度を得られるためである。
【0023】
次に接合面を理想的な鏡面に近づけるため、酸化セリウム等からなる研磨砥粒を用いて薄板石英ガラスの表面を研磨する。少なくとも、表面荒さはRa1nm未満であり平面度は金属層45の厚みよりも十分に小さい必要がある。接合面の表面荒さと平面度が小さいほど、接合面同士が接する面積(接合面積)が増加し強度が上昇する。加えて、接合面同士の接触状態も均一になるので、面内の接合力も均一になり、接合で生じるひずみは抑制される。つまり、振子の強度と寸法精度に寄与する。
【0024】
薄板石英ガラスを所望の石英ガラス構造体の形状に加工する。加工方法は、超硬材料を用いた精密切削加工、砥粒を吹き付けて対象を削るブラスト加工、フッ化水素酸等を用いて選択的除去を行うウェットエッチング、Deep RIE等を用いて選択的除去を行うドライエッチングが挙げられる。これらの加工方法は、石英ガラス構造体に必要となる形状と寸法精度に応じて選択する。
【0025】
物理蒸着法や化学蒸着法、化学めっき、電気めっき等を用いて、石英ガラス構造体の接合面全体に厚み2μm程度の鉄(Fe)の金属層を成膜する。次に金属膜上面にフォトレジストを塗布し、感光と現像、硬化処理を行い、マスクとなるフォトレジストパターンを金属層上面に形成する。このマスクパターンは金属層45aと金属層45bとなる箇所を保護し、その他の不要な金属層の上面は保護しない。次にイオンミリング法を用いて、マスクパターンが形成された面を加工する。イオンミリング法は、真空中で数kVに加速したArイオンを試料に衝突させて、イオンが試料から原子や分子を弾き飛ばすスパッタリング現象を利用して、試料を削る加工方法である。マスクパターンで保護されない金属層は除去され、図6(a)に示す様な分割された金属層のパターンが形成される。なお、ウェットエッチングや他のドライエッチング法を用いて不要部分を除去しても良い。この様な選択的除去を行い金属層のパターン形状を製作する以外にも、メタルマスクやフォトレジストマスクを用いた選択的成膜を行う事でも、金属層のパターン形状を形成する事が可能である。
【0026】
接合面同士の相対的な形状誤差や金属層のパターンずれにより、ヒンジ根本に存在する石英ガラス構造体の境界部分は微小な段差や隙間が生じる。そのため、加速度計に加速度が印加された状態、すなわち、錘部10aの変位によりヒンジに曲げ応力が発生した状態では、その根本にある接合層44aには応力集中によるき裂進展が生じ易い。従って、金属層44aには引張強度や破壊靭性に優れている材料が適している。
【0027】
レーザ接合において、レーザに対する金属層の吸収率が高いほど、接合に要する総エネルギーは低下し、石英ガラス構造体に与える熱ひずみは少なくなる。鉄の引張強度は196MPa、吸収率は64.6%(波長1.06μm)程度であり、石英ガラスの引張強度48MPa、吸収率6.6%と比較すると接合層として使用出来る。鉄以外の材料では、引張強度とレーザ吸収率が石英ガラスよりも高い金属材料、例えば一般的な商用合金であれば、接合層に適用できる。その中でも、鉄鋼材やチタン合金は強度とレーザ吸収率に優れるため、より適している。
【0028】
金属層が形成された石英ガラス構造体を、所望の振子形状となる様に張り合わせ固定する。その後に、石英ガラス構造体を透過させたYAGレーザ(波長1.06 μm、パルス幅7.5ms)を金属層に照射して融解・拡散させる。金属層の一部が石英ガラスに拡散し、石英ガラス構造体同士が接合され、振子形状が形成される。YAGとは、イットリウム(Yittrium)、アルミニウム(Aluminum)、ガーネット(Garnet)の頭文字を取った個体レーザを指す。COレーザ(波長10.6μm)と比較すると、YAGレーザは金属に対する光エネルギーの吸収性に優れるため、石英ガラス構造体に熱ひずみを与えにくい。また、レーザ光の波長が1.06 μmと短く浸透性(集光性)に優れているため、石英ガラス構造体の内部にある金属層を加工することが出来る。その他には、超短パルス(ピコ秒、フェムト秒)レーザによる加工も可能である。一般的なレーザと比較すると、パルス持続時間がきわめて短く、光エネルギーが微小な領域に閉じ込められるため、より精密で熱ひずみが少ない接合が可能となる。ただし、単位時間あたりの加工量(加工面積)は低下する。つまり、求める寸法精度と加工速度によってレーザを選択する。
【0029】
図3に示す静電容量電極10d、配線10eを含めた金膜パターンに対応する開口部を持つメタルマスクを用意する。振子表面にメタルマスクを設置し、振子とメタルマスク表面に対して、真空蒸着法により金膜を成膜する。マスク開口部を通過した金原子だけが振子表面に堆積する事で、所望の金膜パターンを形成する。更に、もう一方の振子表面に対しても同様に成膜を行うことで、振子に配線10eや静電容量電極10d等が完成する。なお、真空蒸着法以外の物理蒸着法や化学蒸着法、化学めっき、電気めっき等を用いても良い。
【0030】
振子の支持部まで引き出された配線10eと端子23に対して、ワイヤボンディング装置を用いてAuワイヤを接続する。これにより、静電容量電極10dの検出信号が図示しないサーボアンプへ流れ、トルカ電流が振子10の配線10eを介してトルカコイル11へ流れる事が出来る。
【0031】
<実施例2>
石英ガラス構造体40に成膜する金属層45の厚みを薄くすることで、金属層45を石英ガラス側へ全て拡散させる。そのため、接合後には純粋な金属材料としての接合層44は存在せず、振子表面の配線10eは接合層44により短絡しない。図6(b)は実施例2における石英ガラスに全て拡散した金属層45cの形状を示す。
【0032】
本実施例における振子10の製作方法を説明する。実施例1と同様に、所望の形状と鏡面状態の接合面を持つ石英ガラス構造体40を製作する。物理蒸着法や化学蒸着法、化学めっき、電気めっき等を用いて、石英ガラス構造体の接合面に厚み0.2μm程度の鉄の金属層を成膜する。次に実施例1と同様に金属層のパターニングを行う。ただし接合面となる領域では、分割されたパターン形状にはならない。金属層45cが形成された石英ガラス構造体を、所望の振子形状となる様に張り合わせ固定する。その後に、石英ガラス構造体を透過させたYAGレーザまたはピコ秒レーザ、フェムト秒レーザを金属層に照射して、全ての金属層を拡散させる。金属層が薄い為、全てを拡散させる事が容易であり、石英ガラス構造体に生じる熱ひずみは小さい。実施例1と比較すると、金属層を分割しないため接合面における接合力は均一になり、石英ガラス構造体に与えるひずみは減少する。ただし、ヒンジ根本の境界部分は石英ガラスであるため振子の強度は低下する。このように、振子に求める強度と寸法精度により、金属層の厚みを適切に設定する。
【0033】
実施例1と同様に配線を振子表面に形成する。そして、振子の支持部まで引き出された配線と端子に対して、ワイヤボンディング装置を用いてAuワイヤを接続する。これにより、静電容量電極10dの検出信号が図示しないサーボアンプへ流れ、トルカ電流が振子10の配線10eを介してトルカコイル11へ流れる事が出来る。
【0034】
<実施例3>
図6(c)は、実施例3における接合後の金属層45bを示した斜視図である。実施例1と同様に、材質は鉄で接合前の膜厚は2μmである。一方で、金属層のパターン形状は接合面に対して分割されたパターン形状では無い。本実施例では、配線10eと接触する金属層45aは存在しない。実施例1の様に接合層が分割されていないため、ヒンジ10c上面に配線10eを形成すると、ヒンジ10c根本の金属層45で短絡が生じてしまう。実施例1、2であれば、図7のように導線22を配線してもよいが、本実施例では、図8に示す様にヒンジ表面と支持部表面を経由せずに、導線22を錘部10a表面に直接的に接続する必要がある。もしくは、図8の導線22の代わりに、外部コイルによる電磁誘導を用いた無線給電や無線信号検出等を用いてもよい。本実施例における振子の製作方法は実施例1または実施例2と同様である。
【0035】
本実施例は、実施例2と同様に金属層を分割しないため接合面における接合力は均一になり、石英ガラス構造体に与える接合ひずみは減少する。ただし、導線22を錘部10aに直接的に接続した場合、導線22は機械的バネとなり、錘部10aの変位に対して機械的ノイズとなる。つまり、加速度および錘部の変位に対応するトルカ電流にノイズが生じるため、加速度計の精度が低下する。一方、無線給電や無線信号検出を用いた場合には、導線22による機械的ノイズは生じない。このように、給電方法等の制約と求める加速度計の精度によって、金属層の厚みと形状を適切に設定する。
【0036】
<実施例4>
接合層44は、ヒンジ10cに向かって膜厚が減少するように膜厚の分布を持たせる。例えば、接合層44は錘部10a中心部の膜厚が厚くなるようにし、接合層と配線を絶縁する部分、例えば、ヒンジ10cに向かって膜厚を減少させる。これにより、ヒンジ周辺では、十分な拡散を施して接合層44の電気抵抗率を高め、それ以外の部分においては、高強度の金属層45を意図的に残す事で接合面の強度を確保する事が出来る。
【0037】
本実施例における振子10の製作方法を説明する。実施例1と同様に、所望の形状と鏡面状態の接合面を持つ石英ガラス構造体40を製作する。金属層の成膜は真空蒸着法、もしくはスパッタ法を用いる。石英ガラス構造体と蒸発源やスパッタ源との間に、スリット型のマスク板を配置し、このマスク板のスリット幅や、石英ガラス構造体40とマスク板との距離を調整することにより、構造体に堆積する金属原子の数を調整(規制)し、金属層45に任意の膜厚勾配を与えられる。これにより厚み0.2~2μmの膜厚勾配を持つ鉄の金属層45を石英ガラス構造体の接合面上に形成する。この時、接合した後にヒンジとなる箇所とその周辺の接合面には、厚み0.2μmの金属層45を形成し、錘部10aの中心部やヒンジ10cの反対側の接合面には厚み2μmの金属層を形成する。その中間の領域では、金属層45による段差が生じない様に、膜厚勾配0.2~2μmとなる金属層を形成する。その後の工程は実施例1、または実施2と同様である。
【0038】
<実施例5>
図9は本実施例における振子10の断面模式図である。ヒンジ10cと振子10の片側部分を一体的形成して、その反対側となる石英ガラス構造体40を接合層44により一体化させても、エッチングの工程を削減して振子を作成することができる。本実施例における振子の製作方法は実施例1~4と同様である。
【符号の説明】
【0039】
10 振子
10a 錘部
10b 支持部
10c ヒンジ
10d 静電容量電極
10e ヒンジ上面に形成される配線
30 加速度検知軸
40 振子を構成する石英ガラス構造体
41 ヒンジを構成する石英ガラス構造体
42 錘部を構成する石英ガラス構造体
43 支持部を構成する石英ガラス構造体
44 接合層
44a 配線と接触する接合層
44b 配線と接触しない接合層
44c 接合層が存在しない領域
45 金属層
45a 配線と接触する金属層
45b 配線と接触しない金属層
45c 石英ガラスに拡散した金属層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9