(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172218
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】サーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
G01P 15/13 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01P15/13 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089783
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(57)【要約】 (修正有)
【課題】石英ガラスと金パッドの密着力は低い。密着力を高めるために、密着層を形成することが考えられるが、密着層は酸化する可能性がある。
【解決手段】以上の課題を解決する為に本発明では、振子に生じた慣性力と、コイルボビンに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力による復元力が平衡するサーボ加速度計であって、前記ポールピースに対して設けられたヨークを有し、前記振子は支持部10bと一体に設けられており、前記支持部10bは、金属材料の取り付けパッド40を介して前記ヨークに固定され、前記支持部10bと、前記金属材料の取り付けパッド40と、の間に設けられた密着層50は、前記取り付けパッド40によって覆われていることを特徴とする加速度計を提供する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振子に生じた慣性力と、
コイルボビンに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力による復元力が平衡するサーボ加速度計であって、
前記ポールピースに対して設けられたヨークを有し、
前記振子は支持部と一体に設けられており、
前記支持部は、金属材料の取り付けパッドを介して前記ヨークに固定され、
前記支持部と、前記金属材料の取り付けパッドの間に設けられた密着層は、前記取り付けパッドによって覆われていることを特徴とする加速度計。
【請求項2】
前記取り付けパッドと前記密着層の厚みの合計は、
前記密着層の底面を基準にした前記支持部の表面の凸形状の高さと、
前記取り付けパッドが接する前記ヨーク表面部分を基準にした前記ヨーク表面の凸形状の高さの和よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項3】
前記取り付けパッドと前記ヨークが接する面が、
前記取り付けパッドの密着層の面よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項4】
前記取り付けパッドが、金、銀、白金、パラジウムのいずれか1種類を含む金属材料であることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項5】
前記取り付けパッドは、前記振子の一方面側に設けられた第1の取り付けパッドと、前記振子の他方面側に設けられた第2の取り付けパッドを有し、
前記第1の取り付けパッド及び前記第2の取り付けパッドは金の金属結合層であり、
前記第1の取り付けパッドと前記第2の取り付けパッドの厚みの合計が、
前記密着層の底面を基準にした前記支持部の表面の凸形状の高さと、
前記取り付けパッドが接する前記ヨークの表面部分を基準にした前記ヨークの表面の凸形状の高さの和よりも大きく、
前記第1の取り付けパッドと前記第2の取り付けパッドが接する面が、
前記第1の取り付けパッドの密着層の面よりも小さく、
前記第2の取り付けパッドの密着層の面よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項6】
前記取り付けパッドが金で構成され、
前記取り付けパッドの厚みが前記ヨークの表面粗さの最大値よりも厚く、
前記取り付けパッドと前記密着層の間に金属層を有し、
前記取り付けパッドと前記密着層と前記金属層の厚みの合計は、
前記密着層の底面を基準にした前記支持部の表面の凸形状の高さと、
前記取り付けパッドが接する前記ヨーク表面部分を基準にした前記ヨーク表面の凸形状の高さの和よりも大きく、
前記取り付けパッドが、前記支持部の表面に設けられた前記密着層と前記金属層を覆い、
前記取り付けパッドは前記ヨークと接しており、
前記支持部は前記取り付けパッドを介して前記ヨークに固定されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項7】
前記振子が石英ガラスであり、前記ヨークがインバー合金である、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のサーボ加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
振子を用いた力平衡サーボ加速度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
力平衡サーボ加速度計は、磁気回路の上側ステータと下側ステータとの間に金属膜を形成した振子を備えている。加速度で生じた振子の変位を検出し、電圧に変換・増幅してコイルに印加する。コイルに生じるローレンツ力(復元力)により,振子の変位をゼロに制御する。このときの復元力は、慣性力となるので、加速度をコイル電流から検知可能に構成されている。
【0003】
特許文献1の振子とヨークにおいて、振子の表面に形成された金パッドを介して、振子はヨーク表面に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表昭61-502416号公報
【特許文献2】特許4257437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では振子の材料には石英ガラスを用いているが、特許文献2にあるように石英ガラスと金の密着力は低い。密着力を高めるために、密着層を形成することが考えられるが、密着層は酸化する可能性がある。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は振子と金パッドの固定部では中間に金パッドで覆った密着層を形成する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決する為に本発明では、振子に生じた慣性力と、コイルボビンに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力による復元力が平衡するサーボ加速度計であって、前記ポールピースに対して設けられたヨークを有し、前記振子は支持部と一体に設けられており、前記支持部は、金属材料の取り付けパッドを介して前記ヨークに固定され、前記支持部と、前記金属材料の取り付けパッドの間に設けられた密着層は、前記取り付けパッドによって覆われていることを特徴とする加速度計を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上述のような構成で、密着層の酸化を防止することで石英ガラスと金パッドの密着力が高いサーボ加速度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図6】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドの断面図
【
図7】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドと密着層を示した断面図
【
図8】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドの断面図
【
図9】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドの工程図
【
図10】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドの断面図
【
図11】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドの断面図
【
図12】本発明の一実施形態に係る取り付けパッドの断面図の拡大図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0011】
図1は、サーボ加速度計の分解斜視図である。
図2は、サーボ加速度計の断面図である。図に示す様にサーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置である。これら部品群の中心軸は一致しており、その軸と平行な軸をZ軸と定義する。Z軸に直交する軸がX軸、Y軸であり、それぞれの軸同士も直交する。それぞれの軸方向は図に示す通りである。
図3はサーボ加速度計に用いられる振子10の斜視図である。
図3(a)はZ軸マイナス方向から見た振子の平面を示す。同様に
図3(a)はZ軸プラス方向の振子の平面を示す。
【0012】
図3において、舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aは、ヒンジ10cを介して円筒状の枠体である支持部10bに連結されて支持される。支持部10b、錘部10aに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、入力加速度により加速度検知軸30方向に変位する。取り付けパッド40~45は金属材料であり、支持部10b表面に備えられている。その形状と位置は、支持部10bの厚み中心で面対称である。
【0013】
振子10は、一対のヨーク13,14に挟みこまれている。振子10は取り付けパッド40~45を介してヨーク13、14に固定される。固定には、取り付けパッドとヨークの静止摩擦力を利用する方法や、取り付けパッドとヨークの接触面における金属結合や拡散結合を利用する方法が挙げられる。
【0014】
ヨーク13,14の一端側は、円形状のヨーク15、16によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bに接している。ヨーク13と14の外周にはシールバンド20が接着剤により固定される。ヨーク13,14の内部には、それぞれポールピース17、18、及び円柱状の永久磁石19、20が収容されている。
【0015】
永久磁石19、20には、板厚方向に着磁されたネオジム、サマリウムコバルト磁石が用いられ、ヨーク13、14、15、16、17、18は、例えば軟磁性材料によって形成される。永久磁石19、20とヨーク15、16、永久磁石17、18とポールピース17、18は、それぞれ接着材により固定され、ヨーク13、14とヨーク15,16はレーザ溶着によって接合固定される。
【0016】
ヨーク13,14の開放端内周面とポールピース17、18の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。これら磁気空隙内にそれぞれ位置するようにトルカコイル11が巻回されたコイルボビン12が、錘部10aの両板面にそれぞれ取り付けられる。このような構成を有するサーボ型加速度計においては、錘部10aの上面及び下面は、金膜の静電容量電極が形成されて2つのコンデンサ板として機能する。静電容量電極10dに対向して形成されたヨーク13、14の電極面13e,14eは共通電位とされ、錘部10aの両板面の静電容量電極10dの検出信号は、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された配線10eと、それに接続されている金ワイヤ等の導線22、および端子23を介して、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、一対のトルカコイル11に静電容量差に基づいた電流が、別の端子と配線10eを経由して流れる。
【0017】
振子10の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部10aは変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知することが出来る。
【0018】
図4は、本発明における理想的な振子の変位を模式図として示す。
図4(a)は
図3に示すAA線で振子とヨークを切断し、振子10と電極面13e、14e(ヨーク13、14)の位置関係を断面模式図として示す。AA線は、振子の中心とYZ平面と平行な面を通る。同様に、
図4(b)はBB線で切断した断面模式図であり、BB線はXZ面と平行な面を通る。支持部10bは、Y軸方向には取り付けパッド42、45を介してヨーク13、14に固定されている。ヨーク13、14が振子へ与える力13a、14aは取り付けパッド表面に対して垂直方向であり、それぞれ等しい。同様に、X軸方向では支持部10bは取り付けパッド40と43、取り付けパッド41と42でヨーク13、14に固定される。振子10が慣性力を受けると、ヒンジ10cの中心を回転中心軸として錘部10aはヨーク側へ傾く。振子10が慣性力を受けない場合には各電極は平行であり、電極間の距離は等しい(振子10はヨーク13、14の中間に位置する)。振子10の厚み中心面31(XY面に平行な面)と、振子10の平面の中心面32(YZ平面に平行な面)に対して、振子とヨークの形状は面対称である。
【0019】
加速度計に温度変化が生じると、熱膨張や熱収縮により振子の寸法は変化する。また、ヨークに固定された振子は温度変化によりヨークから応力を受けて変形する。なぜなら、ヨークと振子の材料が異なる(温度変化による寸法変化値が異なる)ため、ヨークとの寸法変化の差が振子にひずみを与えるからである。温度変化により生じる応力は、ヨークと振子の固定部である取り付けパッドと密着層にも生じる。ヨークと取り付けパッドの位置がずれることや、取り付けパッドと支持部が剥離することで、加速度計を故障させる可能性がある。これを軽減するには、低い線膨張係数を持つ材料を使用する必要がある。本発明では、前記振子が石英ガラスであり、前記ヨークがインバー合金で構成されていることを特徴とする。石英ガラスとインバー合金の線膨張係数は、10-6/Kのオーダーであり、一般の商用金属材料と比較して1/10以下である。
【0020】
支持部10bや密着層50、取り付けパッド40~45、ヨーク13、14の表面は、加工のばらつきによる寸法誤差や、加工ひずみの影響、組立で生じるひずみなどによって、その表面に様々な凹凸形状が発生する。支持部10bとヨーク13、14の固定部分や対向面同士では、これらの凹凸形状同士が接触する場合があるため、支持部は様々な方向と大きさの応力をヨークから受けてしまう。更に、振子とヨークは膨張率が異なるので、温度変化による寸法変化でも振子は応力を受ける。これらの応力のつり合いにより支持部10bは理想状態から変形し、支持部10bに固定されているヒンジ10cと錘部10aは、支持部10bの変形に応じてヨーク13、14に対して傾きが生じてしまう。振子の変位は電極間の静電容量により検出するので、この傾きは加速度を受けて生じる変位と合成されて静電容量として検出される。すなわち、支持部10bの変形は出力信号の誤差の原因となる。
【0021】
図5は振子10の変形の一例を
図4と同様に断面模式図として示す。支持部の変形は、取り付けパッド42、45部分がZ軸マイナス方向に、取り付けパッド41、44部分がZ軸プラス方向に、取り付けパッド40、43部分がZ軸マイナス方向に変形したとする。また、これらの変形寸法量は全て異なるとする。これら支持部10bの変形により、支持部10bに固定されたヒンジ10cと錘部10aもヨーク13、14に対して位置がずれる。取り付けパッド42、45部分がZ軸マイナス方向にずれると、取り付けパッド40、41、43、44が支点となって、錘部10aとヒンジ10cが接続されている部分の支持部10bは、逆向きとなるZ軸プラス側にずれる。取り付けパッド40、41、43、44部分の変形は、これらの位置関係に従って、錘部10aとヒンジ10cが接続されている部分の支持部10bを傾かせる。このように、電極面10dとヨークの電極面13e、14eの位置関係は、理想的な振子の厚み中心面32と振子の平面中心面33に対して非対称になる。ヨーク13、14に対する錘部10aの傾きが大きくなると、錘部10aはヨークに挟まって動くことができなくなり、加速度計に動作不良が生じる。
【0022】
慣性力を受けて錘部10aが動くと、振子の電極10dとヨークの電極13e、14eの隙間における粘性空気の流動及び圧縮により、振子の電極面10dに対して抵抗力が発生する。この抵抗力は各電極の位置関係と振子の動きによって決定される。振子の厚み中心面32と振子の平面中心面33に対して、振子とヨークの形状が非対称になると、変位に対する抵抗力の重心位置、すなわち抵抗力の合力の有効中心が、本来は錘部10aの中心付近にある正常な位置からずれてしまう。トルカコイル11が巻きつけられ、正常な重心位置にあるトルカボビン12により生じた復元力は、接続された錘部10aにモーメントを与えて、変位した錘部10aは中立点に戻る。しかし、抵抗力と復元力の重心位置にズレが発生すると、錘部10aには不要な回転モーメントが発生する。これと平衡するために連続的な復元力を錘部10aに与えることになるので、不要な回転モーメントは出力信号の誤差となる。
図5(b)に示す錘部10aの状態では、振子の電極10dとヨークの電極の間隔13e、14eにX軸Z軸方向(図中の上下左右)で偏りが生じている。加えて、振子の変位方向33は振子の平面の中心面32から傾く。このため、錘部が変位すると抵抗力の偏差によるY軸周りの回転モーメントを受ける。ヨークに対する支持部10bの固定により、支持部10bは様々な方向と大きさの応力を受けるため、実際の支持部の変形は前述の事例から更に複雑化し、生じる誤差の予測や補正処理が困難になる。このため、高精度の加速度計には、支持部に与える応力の偏りを可能な限り軽減する事が必要である。
【0023】
<実施例1>
図6は支持部10bと取り付けパッド40、43、密着層50、ヨーク13、14の断面図を示す。それぞれの形状と位置関係は振子の厚み中心面31で面対称である。支持部10bの表面に設けられた取り付けパッド40、43が支持部10bの表面に設けられた密着層50を覆う。これにより、密着層50の酸化を防止することで石英ガラスと取り付けパッドの密着力が高いサーボ加速度計を提供することができる。
【0024】
図7は
図5に示す取り付けパッド40と密着層50の断面図と構成部分を示す。加速度計の外部から衝撃が加えられると、取り付けパッド40とヨーク14の接する面40aの面積は小さいため、高いせん断応力が発生し易い。それに近接する密着層50の領域も同様である。密着層50と支持部10bが接する面50aが、取り付けパッド40とヨーク14の接する面40aよりも広いと、高いせん断応力が生じる領域を強度が高い密着層の領域に収めることが出来る。すなわち、取り付けパッドとヨークの界面の剥離を防げる。本発明は、前記取り付けパッドと前記ヨークが接する面が、前記取り付けパッドの密着層の面よりも小さい、ことを特徴とする。酸化し易い密着層の端部は、取り付けパッドの端部40bにより覆うことで保護する。この構成にすることで、取り付けパッド40は、支持部10bに対する良好な密着力とヨーク14に対する固定力を得られる。
【0025】
振子10とヨーク13の固定では、取り付けパッドとヨークは接触している必要がある。また、高い固定力を得るため、その接触面積は大きい事が好ましい。
図8に示す様な振子10またはヨークの突起が存在すると、パッドは接触することが出来ない。本発明は、前記取り付けパッドと前記密着層の厚みの合計は、前記密着層の底面を基準にした前記支持部の表面の凸形状の高さと、前記取り付けパッドが接する前記ヨーク表面部分を基準にした前記ヨーク表面の凸形状の高さの和よりも大きい、ことを特徴とする。
【0026】
取り付けパッド40~45や密着層50、静電容量電極10d、配線10eは、薄膜構造体として、成膜と構造体形状の加工により製作することができる。成膜方法は、物理蒸着法や化学蒸着法、電気めっき法、化学めっき法が挙げられる。構造体形状の加工では、成膜工程で意図した部分だけに薄膜を形成する方法、すなわち選択的成膜法を行う場合と、成膜した後に意図した部分を除去する方法、選択的除去法が挙げられる。選択的成膜法では、開口部を持つメタルマスクやフォトレジストパターン、マスキングテープ等(以下、マスク部品)を振子10表面に予め形成・固定する事で、開口部に露出した振子10表面だけに薄膜構造体を成膜する。選択的除去法では、成膜した薄膜の表面にマスク部品を形成・固定することで、薄膜構造体として残す部分を保護する。次に、保護していない導電性薄膜の部分を物理的エネルギーや、エッチング液等で除去する。マスク部品を除去すると薄膜構造体は形成される。
【0027】
図9は密着層が取り付けパッドに覆われた構造の作製方法の一例を示す。フォトリソグラフィ技術により、所望の開口と逆テーパ形状となるフォトレジストパターン60を支持部10bの表面に形成する。次に開口部の底面に露出した支持部10bの表面へ、物理蒸着法を用いて密着層50を形成する。
図9(a)に示す様に、物理蒸着法では、高いエネルギーをもった材料原子を母材表面へ入射させて堆積させる。一般的に、材料原子の入射角度は支持部10bに対して垂直方向であるが、加工条件によってばらつきを持つ。そのため、材料原子は支持部10bに対して様々な角度で入射する。フォトレジストパターン60近くの支持部10b表面では、原子の入射はフォトレジストパターン60に遮られるため、堆積の頻度は低下する。このため、フォトレジストパターン60近くの密着層50の厚みは低下する。一方で、フォトレジストパターン60から遠い開口部中心の底面(支持部10bの表面)では、材料原子の入射角度は限定されないため、その周辺における堆積頻度は一定となり、密着層の厚みは均一となる。支持部10bからフォトレジストパターン60を除去すると密着層50は完成する。次に、前述のレジストパターン60に比べて開口部が若干小さいフォトレジストパターン60を再び形成する。開口部を小さくすることで、取り付けパッド40の厚みが均一となる面(取り付けパッドとヨークが接する面40a)は、密着層50と支持部10bが接する面50aよりも小さくすることができる。次に、
図9(b)に示すように、物理蒸着法を用いて取り付けパッド40となる材料原子を堆積する。密着層50の端部を覆うように、取り付けパッド40の厚みは密着層50よりも十分に厚くする。再びレジストパターン60を除去すると、取り付けパッド40は完成する。この様に、各原子の入射角度やレジストパターン形状、密着層50や取り付けパッド40の厚みを調整すれば、所望の取り付けパッドや密着層の形状を得ることができる。
【0028】
取り付けパッドとヨークの固定では、取り付けパッドとヨークは圧力を受けて、取り付けパッドの表面では塑性変形が生じる。このとき、取り付けパッドは各部品の表面に存在する凸凹の隙間を埋めて接触面積を増加させ、固定力を増加させる。取り付けパッドに高い展延性を持つ材料を選択すると、固定で必要となる圧力は低下するので、支持部10bの変形は少なくなり、出力信号の誤差も少なくなる。加えて、加速度計の耐環境性を得るために、取り付けパッドの材料には高い化学的安定も必要である。本発明は、前記取り付けパッドが、金、銀、白金、パラジウムのいずれか1種類を含む金属材料であることを特徴とする。これらは貴金属材料であり、一般的な合金と比較すると展延性と化学的安定性が高い。このうち、金は最も展延性が高く、良好な化学的安定性を持つため、取り付けパッドの材料として最適である。
【0029】
本発明は、前記密着層がクロム、チタンで構成されていることを特徴とする。先に述べた成膜方法により作製されるチタンやクロムの密着層は、振子材料である石英ガラスの界面に、化学に安定で高強度の混合層を形成することができる。例えばチタンの場合、石英ガラスの酸素原子や珪素原子と結合して、界面に非晶質Si-Ti混合層や非晶質Si-O-Ti混合層を形成する。これらは準安定状態で高強度のため、チタンと石英ガラスは強い密着力を得ることができる。取り付けパッドの金属材料、金や銀、白金、パラジウムについても、チタンとクロムは良好な混合層を生成することが可能である。
【0030】
振子10とヨーク13、14の固定では、ヨーク13、14で支持部10bを挟み込み押さえ込む(荷重をかける)ことで、取り付けパッド40~45とヨーク13、14の接触面で生じた静止摩擦力を利用する。もしくは、より強い圧力や熱を加えて、取り付けパッドとヨークの接触する界面で生じる金属結合や拡散を利用する。また、プラズマ洗浄による接触面の活性化により結合を促進しても良い。金属結合層や拡散層により、取り付けパッドとヨークは接合されるため、静止摩擦力を利用する方法とは異なり、固定力を得るために振子へ常時荷重をかける必要はない。ただし接合で生じる支持部10bの変形を小さくするため、支持部10bへ加える圧力は均一にし、熱量は小さくすることが好ましい。
【0031】
<実施例2>
実施例1における静止摩擦力を利用した支持部10bとヨーク13、14の固定では、固定力を向上させるために垂直抗力(ヨークにより押さえつける力)を増加させる必要がある。つまり、支持部10bが受ける力が増加するため、意図しない振子10の変形も増加する可能性がある。加速度計では、錘部10aの動きから加速度を検出するため、意図しない変形はセンサ精度の低下をまねく。金属結合や拡散を用いた固定(接合)では、金属結合や拡散が生じにくいため、高い接合力を得るためには高い加工エネルギーを必要とする。実施例1では、ヨーク13、14の表面にインバー合金(Fe-36%Ni)の酸化被膜が存在するため、ヨーク13、14の表面は化学的に安定している。接合をおこなうためには、振子10とヨーク13、14を強い力で挟み込み、ヨーク表面の酸化被膜を破壊して内部の新生面と、取り付けパッド40~45表面を密着させて化学反応を発生させる必要がある。金属結合を発生させる場合、異種原子間の結合力は、結晶構造の差異等により同種金属間の結合力よりも弱く、また必ずしも接触のみで強い結合を得るとは限らない。拡散を発生させる場合、取り付けパッド表面の金属材料とヨーク(インバー合金)の界面で生じた金属間化合物を形成させるためには、熱エネルギーを加える必要がある。これは熱ひずみとして支持部10bに残留し、支持部10bを変形させ加速度計のセンサ精度を低下させる原因となる。
【0032】
本実施例における支持部10bとヨーク14の固定方法を
図10に示す。実施例1と異なり、取り付けパッド40と密着層50は、支持部10bとヨーク14の両方に存在する。それぞれの取り付けパッドの材料には金を用いる。金は酸化被膜を持たないため、表面に付着した異物を取り除くだけで活性化する。そのため、活性化した金同士の接触で容易に金属結合が生じる。また実施例1に比べて接触面は金同士になるため、少ない圧力で取り付けパッドは変形し、接触面の凹凸を埋めて接触面積は拡大する。取り付けパッドの表面とヨーク表面の表面粗さは小さいほど良い。表面荒さが小さいほど接触面積(金属結合が生じる面積)は増加し、支持部10bとヨーク14の接合強度の向上に寄与する。このような構成にすることで、加圧や熱で金属結合や拡散が生じ易く、より高い固定力を得やすい。すなわち本実施例は、前記取り付けパッドは、前記振子の一方面側に設けられた第1の取り付けパッドと、前記振子の他方面側に設けられた第2の取り付けパッドを有し、前記第1の取り付けパッド及び前記第2の取り付けパッドは金の金属結合層であり、前記第1の取り付けパッドと前記第2の取り付けパッドの厚みの合計が、前記密着層の底面を基準にした前記支持部の表面の凸形状の高さと、前記取り付けパッドが接する前記ヨークの表面部分を基準にした前記ヨークの表面の凸形状の高さの和よりも大きく、前記第1の取り付けパッドと前記第2の取り付けパッドが接する面が、前記第1の取り付けパッドの密着層の面よりも小さく、前記第2の取り付けパッドの密着層の面よりも小さい、事を特徴とする。
【0033】
取り付けパッド40の製作方法を説明する。取り付けパッド40の成膜方法は実施例1に示す通りである。一般的な成膜による薄膜構造体(取り付けパッド)の作製では、薄膜構造体の表面形状は下地の表面形状を基本的に転写する。ただし、堆積した材料の結晶粒界の粗密や異物の混入で、薄膜構造体の表面粗さは下地の表面粗さから粗くなる可能性がある。このため、表面粗さが小さい取り付けパッドを得るためには、下地となるヨークの表面粗さを小さくする必要があり、異物が混入しない清浄な環境と結晶粒界を制御した最適な条件で成膜する必要がある。もしくは、成膜後に表面を高精度に研磨加工するか、ガスクラスターイオンビームなどで表面の凸部を選択的に除去して平滑化することでも代替することは可能である。
【0034】
支持部10bとヨーク14の固定方法を説明する。まず、プラズマ洗浄により取り付けパッド40の表面を活性化した後に、2つの取り付けパッド40を貼り合わせる。100MPa程度の圧力を常温下でかけて、取り付けパッドの界面に金属結合を発生させる。金の耐力は90MPa程度のため、100MPaの圧力が生じると金に塑性変形が生じる。2つの取り付けパッドの接触面では、塑性変形により凹凸形状が潰れあい接触面同士は密着する。取り付けパッド表面ごとの金原子間の距離が縮まることで引力が作用し、両原子間の引力と斥力はつり合い、安定的に存在する事ができる。そして、両原子間で電子が共有(2つの原子の電子軌道が重なり、新しい電子軌道を形成)されて金属接合は完了する。これにより、2つの取り付けパッド40の界面の強度はせん断応力15~20MPaを得られる。常温で固定するため、振子に熱ひずみは残留しない。固定のための垂直抗力も不要となる。このため、固定で生じる支持部10bの変形を抑制し、センサ精度の低下を防ぐことが可能である。なお、実施例1の構成で同様の固定を行うと、1MPa未満のせん断応力しか得ることが出来ない。
【0035】
<実施例3>
実施例1では、
図8に示す様にヨーク表面の凸形状と支持部表面の凸形状よりも、取り付けパッド40の厚みは厚くする必要がある。しかしながら、取り付けパッド40の材料に最適な金は高価であり、厚みが増すと加速度計の製造コストは増す。本実施例は、金の使用量が少ないために、安価で製造することが出来る加速度計を提供する。
図11に本実施の取り付けパッドの断面図を示す。
図12には、
図11に示す取り付けパッドの表面とヨーク表面を拡大した模式図を示す。
図11に示す様に、本実施の取り付けパッド40は金の代替となる金属層61により必要となる厚み(高さ)を確保する。金属層61には安価で高い展延性をもつ金属材料が適している。例えばアルミや銅が挙げられるが、金と比較すると酸化し易い。そのため、酸化による劣化部分を起点にして金属層の剥離が生じ易い。または劣化部分が金属層から脱離して、加速度計内部の異物となり、誤動作の原因となる場合もある。この問題に対して、本実施例の金の取り付けパッドは、金属層と密着層を覆うことで、金パッドの界面剥離や加速度計の誤動作を防止することができる。
【0036】
製造コストの低減のために、金の厚みは薄いことが求められる。しかし、
図12に示すように取り付けパッド40が薄すぎると、ヨーク14表面にある微小な突起形状が取り付けパッド40へと突き刺さり、金属層61まで達して取り付けパッド40を破ってしまう。支持部10bとヨーク14の固定で生じる圧力により、取り付けパッド40の変形は破断を起点としても生じるため、破断部分から取り付けパッド40は剥離してしまう。これを防ぐためには、ヨーク14表面の微細な突起よりも取り付けパッド40の厚みを厚くする必要がある。すなわち、前記取り付けパッドが金で構成され、前記取り付けパッドの厚みが前記ヨークの表面粗さの最大値(JIS B 0601で定義される線粗さの最大高さRy)よりも厚く、前記取り付けパッドと前記密着層の間に金属層を有し、前記取り付けパッドと前記密着層と前記金属層の厚みの合計は、前記密着層の底面を基準にした前記支持部の表面の凸形状の高さと、前記取り付けパッドが接する前記ヨーク表面部分を基準にした前記ヨーク表面の凸形状の高さの和よりも大きく、前記取り付けパッドが、前記支持部の表面に設けられた前記密着層と前記金属層を覆い、前記取り付けパッドは前記ヨークと接しており、前記支持部は前記取り付けパッドを介して前記ヨークに固定されている、ことを特徴とする。
【0037】
本実施における取り付けパッド40と金属層61、密着層50の製作方法は実施例1と同様である。
【符号の説明】
【0038】
10 振子
10a 錘部
10b 支持部
10c ヒンジ
10d 静電容量電極
10e ヒンジ上面に形成される配線
30 加速度検知軸
31 理想的な振子の厚み中心面
32 理想的な振子の平面の中心面
33 振子の変位方向
40 支持部のX軸プラス側に設置され表面がZ軸マイナスに向いている取り付けパッド
40a 取り付けパッドとヨークの接する面
40b 取り付けパッドの端部
40c 取り付けパッドとなる原子
41 支持部のX軸マイナス側に設置され表面がZ軸マイナスに向いている取り付けパッド
42 支持部のX軸中心かつY軸マイナス側に設置され表面がZ軸マイナスに向いている取り付けパッド
43 支持部のX軸プラス側に設置され表面がZ軸プラスに向いている取り付けパッド
44 支持部のX軸マイナス側に設置され表面がZ軸プラスに向いている取り付けパッド
45 支持部のX軸中心かつY軸マイナス側に設置され表面がZ軸プラスに向いている取り付けパッド
50 密着層
50a 密着層とヨークが接する面
50b 密着層となる原子