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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172219
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】サーボ加速度計
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/13 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
G01P15/13 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089784
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 茂高
(57)【要約】
【課題】特許文献1のような加速度計では、加速度計の製作プロセスにより振子の支持部に反りが発生する。支持部の反りは加速度計の動作不良や測定精度の低下を発生させる。
【解決手段】本発明のサーボ加速度計は、振子10に生じた慣性力と、コイルボビン12に巻き付けられたトルカコイル11に流れる電流及びポールピース17、18を通る磁場で生じるローレンツ力による復元力が平衡し、前記振子10は支持部10bと一体に設けられ、前記支持部10bの表面に配線10eが形成され、前記支持部は前記ヨーク13、14に固定されているサーボ加速度であって、前記支持部10bの表面または前記配線10eの表面に、前記支持部の反りを低減する方向に外力を与える反り低減層50を有することを特徴とする。
【選択図】図7


【特許請求の範囲】
【請求項1】
振子に生じた慣性力と、
コイルボビンに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力による復元力が平衡し、
前記振子は支持部と一体に設けられ、
前記支持部の表面に配線が形成され、
前記支持部は前記ヨークに固定されているサーボ加速度計であって、
前記支持部の表面または前記配線の表面に、前記支持部の反りを低減する方向に外力を与える反り低減層を有することを特徴とするサーボ加速度計。
【請求項2】
前記反り低減層は、前記支持部の表面または前記配線の表面の第1の位置に形成された第1の反り低減層と、前記支持部の表面または前記配線の表面の第1の位置とは異なる第2の位置に形成された第2の反り低減層を含み、
前記支持部の表面に前記第1の反り低減層が設けられ、
前記第2の反り低減層が前記支持部の厚みの中心を基準とした前記第1の反り低減層と面対称の位置に設けることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項3】
前記支持部が取り付けパッドを介して前記ヨークに固定され、
前記取り付けパッドが前記反り低減層の表面に形成され、
前記取り付けパッドが、金、銀、白金、パラジウムの少なくともいずれか1種類を含む金属材料であることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項4】
前記反り低減層は前記支持部の円周方向に配置されることを特徴とする請求項1に記載のサーボ加速度計。
【請求項5】
前記支持部が石英ガラスで構成され、
反り低減層がインバー合金で構成され、
前記配線は、前記支持部の表面の第1の位置に形成された第1の配線と、前記支持部の表面の第1の位置とは異なる第2の位置に形成された第2の配線を含み、
前記反り低減層は、前記第1の配線の表面に形成された第3の反り低減層と、前記第2の配線の表面に形成された第4の反り軽減層を含み、前記第3の反り低減層と、前記第4の反り低減層が、電気的に短絡していることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のサーボ加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
振子を用いた力平衡サーボ加速度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
力平衡サーボ加速度計は、磁気回路の上側ステータと下側ステータとの間に金属膜を形成した振子を備えている。加速度で生じた振子の変位を検出し、電圧に変換・増幅してコイルに印加する。コイルに生じるローレンツ力(復元力)により,振子の変位をゼロに制御する。このときの復元力は、慣性力となるので、加速度をコイル電流から検知可能に構成されている。特許文献1の振子は支持部と一体で設けられ、支持部を介してヨークに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表昭61-502416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のような加速度計では、加速度計の製作プロセスにより振子の支持部に反りが発生する。支持部の反りは加速度計の動作不良や測定精度の低下を発生させる。本発明のサーボ加速度計では支持部の反りを低減できるサーボ加速度計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のサーボ加速度計は、振子に生じた慣性力と、コイルボビンに巻き付けられたトルカコイルに流れる電流及びポールピースを通る磁場で生じるローレンツ力による復元力が平衡し、前記振子は支持部と一体に設けられ、前記支持部の表面に配線が形成され、前記支持部は前記ヨークに固定されているサーボ加速度計であって、前記支持部の表面または前記配線の表面に、前記支持部の反りを低減する方向に外力を与える反り低減層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
上述のような構成で、支持部の反りを低減した加速度計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】サーボ加速度計の分解斜視図
図2】サーボ加速度計の断面図
図3】サーボ加速度計の振子の平面図
図4】理想的な振子の断面模式図
図5】変形した支持部を持つ振子の側面模式図
図6】変形した支持部を持つ振子の断面模式図
図7】本発明の一実施形態に係る支持部の断面模式図
図8】本発明の一実施形態に係る振子の模式図
図9】本発明の一実施形態に係る振子の模式図
図10】本発明の一実施形態に係る振子の模式図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0009】
図1は、サーボ加速度計の分解斜視図である。図2は、サーボ加速度計の断面図である。図に示す様にサーボ加速度計は円板や円筒形状の部品を重ねた装置である。これら部品群の中心軸は一致しており、その軸と平行な軸をZ軸と定義する。Z軸に直交する軸がX軸、Y軸であり、それぞれの軸同士も直交する。それぞれの軸方向は図に示す通りである。図3にサーボ加速度計に用いられる振子10を示す。図3(a)はZ軸マイナス方向から見た振子の平面を示す。同様に図3(a)はZ軸プラス方向の振子の平面を示す。
【0010】
図3において、舌片形状の振子の錘部10aは、円筒状の枠体である支持部10bの枠内に位置する。錘部10aは、ヒンジ10cを介して円筒状の枠体である支持部10bに連結されて支持される。支持部10b、錘部10aに対して薄肉のヒンジ10cが弾性変形し、入力加速度により加速度検知軸30方向に変位する。取り付けパッド40~45は金属材料であり、支持部10b表面に備えられている。その形状と位置は、支持部10bの厚み中心で面対称である。
【0011】
振子10は、一対のヨーク13,14に挟みこまれている。振子10は取り付けパッド40~45を介してヨーク13、14に固定される。固定には、取り付けパッドとヨークの静止摩擦力を利用する方法や、取り付けパッドとヨークの接触面における金属結合や拡散結合を利用する方法が挙げられる。
【0012】
ヨーク13,14の一端側は、円形状のヨーク15、16によって閉塞され、他の一端側である開放端面側が支持部10bに接している。ヨーク13と14の外周にはシールバンド20が接着剤により固定される。ヨーク13,14の内部には、それぞれポールピース17、18、及び円柱状の永久磁石19、20が収容されている。
【0013】
永久磁石19、20には、板厚方向に着磁されたネオジム、サマリウムコバルト磁石が用いられ、ヨーク13、14、15、16、17、18は、例えば軟磁性材料によって形成される。永久磁石19、20とヨーク15、16、永久磁石17、18とポールピース17、18は、それぞれ接着材により固定され、ヨーク13、14とヨーク15,16はレーザ溶着によって接合固定される。
【0014】
ヨーク13,14の開放端内周面とポールピース17、18の外周面との間に環状の磁気空隙がそれぞれ形成される。これら磁気空隙内にそれぞれ位置するようにトルカコイル11が巻回されたコイルボビン12が、錘部10aの両板面にそれぞれ取り付けられる。このような構成を有するサーボ型加速度計においては、錘部10aの上面及び下面は、金膜の静電容量電極が形成されて2つのコンデンサ板として機能する。静電容量電極10dに対向して形成されたヨーク13、14の電極面13e,14eは共通電位とされ、錘部10aの両板面の静電容量電極10dの検出信号は、ヒンジ10cと支持部10bの表面に形成された配線10eと、それに接続されている導線22、および端子23を介して、図示しないサーボアンプにより差動増幅される。そして、一対のトルカコイル11に静電容量差に基づいた電流が、別の端子と配線10eを経由して流れる。
【0015】
振子10の平面に垂直となる方向(加速度検知軸30)に加速度が印加されると、加速度を受けた錘部10aは変位するが、トルカ電流と磁気空隙内の磁界で生じるローレンツ力により変位は中立点へ戻り、加速度で生じる力とローレンツ力は平衡する。この時、トルカ電流の大きさは、加速度検知軸に沿った加速度の大きさに直接的に対応するため、加速度を検知することが出来る。
【0016】
図4は、本発明における理想的な振子の変位を模式図として示す。図4(a)は図3に示すAA線で振子とヨークを切断し、振子10と電極面13e、14e(ヨーク13、14)の位置関係を断面模式図として示す。AA線は、振子の中心とYZ平面と平行な面を通る。同様に、図4(b)はBB線で切断した断面模式図であり、BB線はXZ面と平行な面を通る。支持部10bは、Y軸方向には取り付けパッド42、45を介してヨーク13、14に固定されている。ヨーク13、14が振子へ与える力13a、14aは取り付けパッド表面に対して垂直方向であり、それぞれ等しい。同様に、X軸方向では支持部10bは取り付けパッド40と43、取り付けパッド41と42でヨーク13、14に固定される。振子10が慣性力を受けると、ヒンジ10cの中心を回転中心軸として錘部10aはヨーク側へ傾く。振子10が慣性力を受けない場合には各電極は平行であり、電極間の距離は等しい(振子10はヨーク13、14の中間に位置する)。振子10の厚み中心面31(XY面に平行な面)と、振子10の平面の中心面32(YZ平面に平行な面)に対して、振子とヨークの形状は面対称である。
【0017】
図5(a)に図3(a)AA側から見た支持部10bの側面模式図を示す。図3に示す振子は理想形状であるため、支持部の形状に反りは無くY軸に平行している。支持部の反りの例として、ヒンジが固定された部分がZ軸マイナス側に向けて反っている支持部を図5(b)に示す。図6には、支持部の変形で生じる錘部の変位を断面模式図として図4と同様に示す。支持部10bの変形により、錘部10aとヒンジ10cが接続されている部分の支持部10bは、逆向きとなるZ軸プラス側にずれる。電極面10dとヨークの電極面13e、14eの位置関係は、理想的な振子の厚み中心面32と振子の平面中心面33に対して非対称になる。ヨーク13、14に対する錘部10aの傾きが大きくなると、錘部10aはヨークに挟まって動くことができなくなり、加速度計に動作不良が生じる。
【0018】
慣性力を受けて錘部10aが動くと、振子の電極10dとヨークの電極13e、14eの隙間における粘性空気の流動及び圧縮により、振子の電極面10dに対して抵抗力が発生する。この抵抗力は各電極の位置関係と振子の動きによって決定される。振子の厚み中心面32と振子の平面中心面33に対して、振子とヨークの形状が非対称になると、変位に対する抵抗力の重心位置、すなわち抵抗力の合力の有効中心が、本来は錘部10aの中心付近にある正常な位置からずれてしまう。トルカコイル11が巻きつけられ、正常な重心位置にあるトルカボビン12により生じた復元力は、接続された錘部10aにモーメントを与えて、変位した錘部10aは中立点に戻る。しかし、抵抗力と復元力の重心位置にズレが発生すると、錘部10aには不要な回転モーメントが発生する。これと平衡するために連続的な復元力を錘部10aに与えることになるので、不要な回転モーメントは出力信号の誤差となる。
【0019】
支持部10bは製作プロセスによりひずみを受ける。母材から支持部10bを切り出す工程では、切削加工や研磨、レーザ加工などにより支持部10bへ衝撃や圧力、熱が加えられる。そして支持部に塑性変形による反りが発生する。支持部表面に配線を形成する手段としては、配線となる薄膜材料を堆積させる物理蒸着法が挙げられる。真空下で配線材料を蒸発させ、気体となった配線材料を支持部10bの表面に堆積する方法である。配線と支持部の密着性を向上させるために、支持部を加熱した状態で加工が行われるが、室温に戻すとき支持部と配線は収縮する。その割合は材料の膨張率により異なるため、支持部と配線の材料が異なると寸法変化の差で支持部は反る。また、加速度計の組立において、支持部に意図しない外力が加えられて反りが発生する場合がある。
【0020】
このように、支持部10bは様々な方向と大きさの外力を受けるため、実際の支持部の変形は前述の事例から更に複雑化し、生じる誤差の予測や補正処理が困難になる。このため、高精度の加速度計には、支持部における反りを可能な限り低減することが必要である。
【0021】
<実施例1>
本実施例は、支持部の反りの軽減方法について説明する。薄膜構造体である反り低減層を支持部表面に形成して、支持部の反りを低減する方向に外力を与えることで、反りを軽減することが出来る。
【0022】
薄膜構造体は成膜と構造体形状の加工により製作することができる。成膜方法は、物理蒸着法や化学蒸着法、電気めっき法、化学めっき法が挙げられる。構造体形状の加工では、成膜工程で意図した部分だけに薄膜を形成する方法、すなわち選択的成膜法を行う場合と、成膜した後に意図した部分を除去する方法、選択的除去法が挙げられる。選択的成膜法では、開口部を持つメタルマスクやフォトレジストパターン、マスキングテープ等(以下、マスク部品)を振子10表面に予め形成・固定することで、開口部に露出した振子10表面だけに薄膜構造体を成膜する。選択的除去法では、成膜した薄膜の表面にマスク部品を形成・固定することで、薄膜構造体として残す部分を保護する。次に、保護していない導電性薄膜の部分を物理的エネルギーや、エッチング液等で除去する。マスク部品を除去すると薄膜構造体は形成される。
【0023】
支持部に形成された薄膜には内部応力が働いている。支持部と薄膜の線膨張係数の差と、薄膜形成で生じる温度変化によって、支持部と薄膜の寸法変化に差が生じる。この差は界面で歪みとなり、薄膜には内部応力が発生する。支持部と配線はそれぞれ異なる結晶格子間隔を持つが、境界面では配線は格子常数を支持部に合わせる傾向がある。そして配線の厚みが増して境界面から離れるに従い、配線の格子常数は物質固有の値に近づく。このために境界面では薄膜に歪みが生じて、それに伴う内部応力が発生する。これらの歪みによって、薄膜の内部応力に対応した外力が支持部表面に与えられる。
【0024】
薄膜との界面である支持部の表面が受ける外力には、引張り方向と圧縮方向の2種類がある。引張方向の外力は、支持部の表面を拡げようとする力であり、圧縮方向の外力は支持部の表面を収縮させようとする力である。反り低減層の内部応力は、支持部と薄膜の境界面で支持部に引張方向や圧縮方向の外力を与える。
【0025】
実施形態の一つとして、図7に支持部の反りを低減する方法を示す。図7(a)は反りを持つ支持部の断面を模式図として示す。図7(b)~(c)には、図7(a)の支持部に薄膜構造体である反り低減層50を成膜した支持部を示す。反り低減層50により支持部へ与えられる外力の向きを矢印で示す。反りを低減する方法の一つは、反りの凹部側の表面に、支持部に対して引張方向の外力を与える反り低減層50を成膜する。反り低減層50は密着した支持部の表面を外側に引っ張るため、反りの凹部は逆向きに曲げられて反りが平坦になる。もう一つは、反りの凸部側の表面に、圧縮方向の外力を与える応力低減層を成膜する。同様の理由で反りが低減される。
【0026】
支持部の表面に引張方向の外力を与える方法の一つとして、反り調整層に線膨張係数が支持部よりも小さい材料を用いることが挙げられる。支持部を加熱した状態で成膜を行うと、加工後の冷却で応力調整層は支持部よりも収縮する寸法が相対的に小さいため、応力調整層は支持部の表面の収縮の抵抗となる。その歪みによって支持部の表面は引張方向に外力を受ける。圧縮方向へ外力を与える方法の一つは、引張方向とは逆となり、反り調整層の線膨張係数を支持部の材料より大きくすることで可能である。
【0027】
反り低減層50は支持部の表面に形成された配線の表面にも形成される。支持部と配線の上面に形成されることで、支持部本来の反りと配線により付加された反りを後加工により低減することが可能となる。つまり、前記支持部の表面または前記配線の表面に、前記支持部の反りを低減する方向に外力を与える反り低減層を有する。
【0028】
特許文献1では支持部を石英ガラスで構成し、配線を金で構成している。主要な導電性材料と比較して金はヤング率が低く化学的に安定している。そのため、内部応力により支持部に与える外力は他の導電性材料と比較して小さい。また化学変化による内部応力の変化が少ない。一方、石英ガラスは脆性材料であり化学的に安定している。このため、商用合金材料と比較すると、加工により塑性変形が生じにくいため反りが発生しにくい。つまり、前記支持部を構成する材料が石英ガラスであり、前記配線を構成する材料が金であると、支持部の反りは小さくなる。
【0029】
石英ガラスの線膨張係数は0.5×10-6/K程度であり、金は14.3×10-6/K程度である。金配線の成膜では、成膜後の冷却で生じる体積の収縮により、石英ガラスの支持部に対して金配線は収縮する。即ち、支持部表面に圧縮方向へ外力を与える。金配線の成膜で生じる反りを低減するためには、金の配線の表面に圧縮方向とは逆方向となる引張方向の外力を与えることで可能となる。具体的には、成膜時の冷却により金配線に対して収縮しない材料を用いる。つまり、前記支持部を構成する材料が石英ガラスであり、前記配線を構成する材料が金であり、前記配線の表面に形成された前記応力調整層の線膨張係数が前記配線よりも小さく、支持部の表面に引張方向の外力を与えれば、支持部の反りは小さくなる。
【0030】
<実施例2>
本実施例は、支持部の複雑な反りを軽減した加速度計について説明する。加速度計の製作プロセスにより、支持部は様々な変形が生じるため、支持部の反りは場所ごとに一様ではない。本実施例では、支持部の場所ごとの反りを測定し、場所ごとに異なる反りに対して、応力調整層が与える外力を場所ごとに調整することで、複雑な支持部の反りを軽減する。
【0031】
図8に実施形態の一つを示す。図8(a)にZ軸マイナス方向から見た振子の平面を示す。CからC´にかけて支持部の円周方向に切り出した支持部と、ヨークの模式図を図8(b)に示す。支持部の両面には金属材料からなる反り低減層50が形成されている。反り低減層50は支持部の表面へ意図した方向の外力を与える様に成膜される。これにより、支持部の反りが矯正される。
【0032】
支持部に与える外力の強さは、支持部と接している反り低減層50の厚みが大きいほど増加する。反り低減層50の体積が大きいほど、膨張や収縮に由来する体積の変化量が多くなるためである。つまり、反り低減層50の厚みにより支持部表面に与えられる外力を調整できる。
【0033】
反り低減層50が支持部の表面に与える外力を把握する方法としては、支持部を模した基材へ反り低減層50を成膜し、基材に生じる反りを測定し、基材の剛性と反りの関係から与えられた外力を算出することで可能である。反り低減層50の厚みと与える外力の関係を把握すれば、所望の外力を支持部の表面に生じさせる手段を得られる。ただし、成膜プロセスにおいて、加工のバラつきが発生するため、意図した外力から誤差が生じる場合がある。
【0034】
支持部の表面に与える外力の調整方法として、反り低減層50の一部を後加工により除去することで外力を減少させることができる。スプリング(ばね)の変形と荷重(力)の関係のように、物体の寸法変化に伴って外部に与える外力は物体の剛性と寸法変化量に比例する。支持部と反り低減層50の関係においても同様であり、体積の減少により反り低減層50の剛性が低下すると、支持部に与える外力が低下する。つまり、反り低減層50の体積減少に従って、支持部の反りが元に戻っていく。
【0035】
反り低減層50の体積を減らす手段としては、超短パルスレーザによる加工が挙げられる。レーザ加工において、パルス幅が1ピコ秒を下回ると、熱的影響が無い、もしくは非常に小さい加工が可能となる。加工面以外の反り低減層50の本体や、その底面にある支持部に対して熱を与えることなく、反り低減層50の表層を削ることが可能である。つまり、反り低減層50の厚みの調整によって、支持部の反りが増加することは無い。
【0036】
支持部に与える外力の調整方法として、反り低減層50の表面に更に反り低減層50を積層する方法も挙げられる。これは、一層目の反り低減層50では所望の外力に到達しなかった場合に、外力を増加させる目的で行われる。この他には、支持部の平面部分の両面へ反り低減層50を成膜する方法も挙げられる。成膜した反り低減層50が応力を支持部へ与え過ぎた場合、裏面側に反り低減層を再び成膜することで、一層目の反り低減層で生じた反りを修正することができる。つまり、前記反り低減層は、前記支持部の表面または前記配線の表面の第1の位置に形成された第1の反り低減層と、前記支持部の表面または前記配線の表面の第1の位置とは異なる第2の位置に形成された2の反り低減層を含み、前記支持部の表面に前記第1の反り低減層が設けられ、前記第2の反り低減層が前記支持部の厚みの中心を基準とした前記第1の反り低減層と面対称の位置に設ける。
【0037】
反り低減層50の物性を変化させることで、支持部に与える応力を変化させることも可能である。例えば、反り低減層50を形成する際に発生する結晶構造のひずみを解消する方法や、結晶構造を変化させた際に生じる膨張や収縮によっても、支持部が受ける応力は変化する。ただし、これらの処理には反り低減層50に熱を加える必要があるため、反り低減層50と支持部の膨張率の差により反りが発生することになる。これらの調整方法では、この熱影響を踏まえて加工をする必要がある。
【0038】
支持部は、反り低減層50の表面に形成された金属材料の取り付けパッドを介してヨークに固定されている。取り付けパッドとヨークを静止摩擦力で固定する工程では、取り付けパッドとヨークの接触面は固定のための圧力を受ける。ヨークとの接触面である取り付けパッドの表面に塑性変形が生じるので、ヨーク表面の凸凹の隙間を埋める。これにより、接触面の凹凸に起因する支持部へ与えられる外力のバラつきを低減する。すなわち、取り付けパッドを介して固定することで、固定による支持部の反りを低減することが可能である。つまり、前記取り付けパッドが反り低減層の表面に形成されることを特徴とする。
【0039】
ヨークや反り低減層50の凹凸を埋める為に、取り付けパッドには支持部や反り低減層50と比較して高い展延性を持つ(変形し易い)材料が望ましい。取り付けパッドの材料としては、金、銀、白金、パラジウムのいずれか1種類を含む金属材料が挙げられる。これらは貴金属材料であり、一般的な合金と比較すると展延性と化学的安定性が高い。このうち、金は最も展延性が高く、良好な化学的安定性を持つため、取り付けパッドの材料として最適である。
【0040】
図9に実施形態の一つを示す。本実施形態は、支持部の反りと製造コストが少ない加速度計を提供する。図9(a)にZ軸マイナス方向から見た振子の平面を示す。DからD´にかけて支持部の円周方向に切り出した支持部と、ヨークの模式図を図9(b)に示す。取り付けパッドは反り低減層50を介さずに支持部表面にありヨーク表面と接している。接しているヨーク部分が支持部側に突出して取り付けパッドを固定しているため、固定部分の周辺に支持部の反りが存在していても、反りによって支持部へ突出した部分がヨークへ接触しない。もし接触が生じると、支持部の表裏面に不均一な外力が与えられるので、それに従って支持部に新たな反りが生じてしまう。
【0041】
平面は同一直線にない3点で定義できる。即ち、平坦であるべき支持部が固定される箇所は3カ所が最適である。固定箇所が3カ所より少なければ支持部が固定されない。3カ所より固定部分が多いと、3点で定義された平面に対して、余分な固定部分はその平面上には存在しない。つまり、余分な固定部分は支持部に対して不要な外力を与えることになり、支持部に新たな反りが生じる。
【0042】
支持部を3点で固定する方法について説明する。支持部はヨーク13、14により挟み込まれて、取り付けパッドとヨークの静止摩擦力で固定される。取り付けパッドとヨーク13の接触面と、取り付けパッドとヨーク14の接触面は、支持部の厚みの中心を基準として面対称である。面対称ではない場合、支持部が受ける外力の作用点が面対称ではないため、支持部に曲げモーメントが与えられ、支持部に反りが発生する。面対称である取り付けパッド2個を1組として、ヨーク13、14により支持部が固定される箇所は取り付けパッド3組となる。このような構成で支持部は3点で固定される。
【0043】
取り付けパッドを固定しているヨーク部分が高い平面度を持っていれば、取り付けパッド底面の支持部3カ所の平面度は、ヨーク固定部の平面度に近くなる。つまり、支持部の反りは取り付けパッド付近で矯正されるため、支持部の反りを低減する効果を得られる。
ヨークによる3点固定によりE領域以外の反りは矯正できるが、ヒンジが固定されるE領域の反りの低減は不十分である。この領域に残った支持部の反りは、図6に示すとおりに、支持部に固定されたヒンジと錘部の不要な位置ずれを発生させる。また、支持部の両面に配線10eは成膜されているため、加工条件のバラつきや配線形状のバラつき、配線形状の表裏での違いによって、支持部の表裏面が受ける外力は差が生じ支持部を反させる。このように、支持部のE領域では反りが大きくなる傾向にあり、ヒンジや錘部の位置ずれに対して大きな影響を与える。E領域に反り低減層50を形成することで、反り低減層50の面積が少なく、効果的に支持部の反りを矯正することが出来る。
【0044】
<実施例3>
本実施例は、支持部の反りと製造コストが少ない加速度計について説明する。図10に実施形態の一つを示す。図10(a)にZ軸方向から見た支持部の平面の一部を示す。図10(b)はFF断面からみた支持部の断面模式図である。反り低減層50は支持部の円周方向に伸びた形状を持っている。図3に示す様に、支持部10bは円環形状であり、円周方向に長い構造体である。支持部の幅寸法(支持部の中心方向)に比べて、支持部の長さ寸法(円周方向)は大きいので、反りの寸法も大きくなる。すなわち、反りの矯正が最も必要となるのは長手となる円周方向であり、反り低減層50は支持部の円周方向に応力を生じさせる必要がある。そのため、反り低減層50は支持部と同様に円周方向に伸びている。これにより、支持部の反りを効果的に低減することが可能である。
【0045】
反り低減層50の幅寸法や線数は、支持部の反りが生じている場所によって異なる。幅が広く、または本数が多くなると、反り低減層50の体積が増加するため、支持部に対して円周方向へ与える応力が増加する。ただし、円周方向と直交する支持部中心方向に加える応力も増えるため、その影響による反りを考慮して設計する必要がある。一方、反り低減層50の膜厚は一定である。支持部に与える応力の調整は、反り低減層50の幅寸法や本数で行うため、実施例2とは異なり、反り低減層50の厚みは一定とすることが可能である。即ち、加工条件が同じ成膜により、反り低減層を一括で加工することが出来る。つまり、前記反り低減層は前記支持部の円周方向に配置されることで、製造コストが少ない加速度計を提供できる。
【0046】
<実施例4>
本実施例は、温度変化により生じる支持部の反りが少ない加速度計について説明する。加速度計に温度変化が生じると、熱膨張や熱収縮により反り低減層50と支持部の寸法は変化する。反り低減層50と支持部の膨張率が異なると、寸法変化の差が支持部にひずみを与えて反りを生じさせる。これを低減するには、支持部とそれに接する材料は可能な限り、低い線膨張係数を持つ材料を使用する必要がある。石英ガラスとインバー合金の線膨張係数は、10-6/Kのオーダーであり、一般の商用金属材料と比較して1/10以下である。
【0047】
インバー合金は導電性材料であるため、隣接する配線10eの短絡を防ぐために、配線10e上面の反り低減層50は他の配線上の反り低減層50と接しない。もしくは、反り低減層50と配線10eの中間に絶縁層を備えることで絶縁性を確保しても良い。つまり、前記支持部が石英ガラスで構成され、反り低減層がインバー合金で構成され、前記配線は、前記支持部の表面の第1の位置に形成された第1の配線と、前記支持部の表面の第1の位置とは異なる第2の位置に形成された第2の配線を含み、前記反り低減層は、前記第1の配線の表面に形成された第3の反り低減層と、前記第2の配線の表面に形成された第4の反り軽減層を含み、前記第3の反り低減層と、前記第4の反り低減層が、電気的に短絡している。なお、上述した各実施例においては、取り付けパッド41は、支持部のX軸マイナス側に設置され表面がZ軸マイナスに向いている。取り付けパッド42は、支持部のX軸中心かつY軸マイナス側に設置され表面がZ軸マイナスに向いている。取り付けパッド43は、支持部のX軸プラス側に設置され表面がZ軸プラスに向いている。取り付けパッド44は、支持部のX軸マイナス側に設置され表面がZ軸プラスに向いている。取り付けパッド45は、支持部のX軸中心かつY軸マイナス側に設置され表面がZ軸プラスに向いている。
【符号の説明】
【0048】
10 振子
10a 錘部
10b 支持部
10c ヒンジ
10d 静電容量電極
10e ヒンジと支持部表面に形成される配線
13、14 ヨーク
13a、14a ヨークが支持部へ与える力
13e、14e ヨークの電極面
14 ヨーク
30 加速度検知軸
31 理想的な振子の厚み中心面
32 理想的な振子の平面の中心面
33 振子の変位方向
40 支持部のX軸プラス側に設置され表面がZ軸マイナスに向いている取り付けパッド
40a 取り付けパッドとヨークの接する面
40b 取り付けパッドの端部
40c 取り付けパッドとなる原子
50 反り低減層
51 支持部の円周方向
52 支持部の中心方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10