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特開2024-172225積層セラミックコンデンサ用積層体、及び積層セラミックコンデンサ
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  • 特開-積層セラミックコンデンサ用積層体、及び積層セラミックコンデンサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172225
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ用積層体、及び積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H01G4/30 201A
H01G4/30 515
H01G4/30 516
H01G4/30 201D
H01G4/30 201L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089799
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100213997
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智一
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC04
5E001AC09
5E001AC10
5E001AD04
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AH01
5E001AH05
5E001AH07
5E001AH09
5E001AJ02
5E082AB03
5E082EE04
5E082EE05
5E082EE23
5E082EE35
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082PP10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、耐シートアタック性に優れる積層セラミックコンデンサ用積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、誘電体11と、前記誘電体11の表面上に設けられた内部電極12と、を含む積層セラミックコンデンサ10用積層体であって、前記誘電体11が、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料及び重合体Aを含み、前記内部電極12が、導電性材料及び重合体Bを含み、前記重合体Aの重量平均分子量が、前記重合体Bの重量平均分子量よりも大きい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体層と、前記誘電体層の表面上に設けられた内部電極層と、を含む、積層セラミックコンデンサ用積層体であって、
前記誘電体層が、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料及び重合体Aを含み、
前記内部電極層が、導電性材料及び重合体Bを含み、
前記重合体Aの重量平均分子量が、前記重合体Bの重量平均分子量よりも大きい、積層セラミックコンデンサ用積層体。
【請求項2】
前記重合体Aが、酸基を有する水溶性重合体である、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用積層体。
【請求項3】
前記重合体Aの重量平均分子量が、250,000以上2,000,000以下である、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用積層体。
【請求項4】
前記重合体Bが、ヒドロキシル基を有する、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用積層体。
【請求項5】
前記重合体Bの重量平均分子量が、10,000以上200,000以下である、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用積層体。
【請求項6】
前記誘電体層が、粒子状の重合体Cを更に含む、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ用積層体。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の積層セラミックコンデンサ用積層体を焼結してなる、積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサ用積層体、及び積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデジタル機器等の電子機器の小型化及び高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサ等を含む電子部品についても小型化及び高容量化が望まれている。積層セラミックコンデンサは、複数の誘電体層と複数の内部電極層とを交互に積層した構造を有し、これらの誘電体層及び内部電極層を薄膜化することにより、小型化及び高容量化を図ることができる。
【0003】
積層セラミックコンデンサは、例えば、次のように製造され得る。まず、チタン酸バリウム(BaTiO)等の粉末状の誘電体材料及びバインダー樹脂を含有するセラミックグリーンシート等の誘電体層の表面上に、粉末状の導電性材料、バインダー樹脂、及び有機溶剤等を含む内部電極層用ペースト(導電性ペースト)を所望の電極パターンとなるように印刷等して塗布し、塗布膜を乾燥し、乾燥膜(内部電極層)を形成して積層体を得る。次に、内部電極層と誘電体層とが交互に重なるように、上記積層体を更に積み重ねた後、加熱圧着して一体化し、圧着体を形成する。この圧着体を切断し、酸化性雰囲気又は不活性雰囲気中にて脱有機バインダー処理を行った後、焼結を行い、焼結チップを得る。次いで、焼結チップの両端部に外部電極用ペーストを塗布し、焼結後、外部電極表面にニッケルメッキ等を施して、積層セラミックコンデンサを得ることができる(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/107501号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した通り、積層セラミックコンデンサを製造する際には、誘電体層の表面上に導電性ペーストを塗布し、塗布膜を乾燥し、乾燥膜(内部電極層)を形成して積層体を得るが、この際に、導電性ペースト中の有機溶剤が誘電体層中のバインダー樹脂を溶解する現象、所謂、シートアタックが生じる場合があることが知られている。積層体においてシートアタックが生じると、誘電体層が低密度化し、得られる積層セラミックコンデンサの性能が低下し得るため、耐シートアタック性に優れる積層体の開発が望まれている。
【0006】
そこで、本発明は、耐シートアタック性に優れる積層セラミックコンデンサ用積層体を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記積層セラミックコンデンサ用積層体を焼結してなる積層セラミックコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、誘電体層と、誘電体層の表面上に設けられた内部電極層と、を含む、積層セラミックコンデンサ用積層体であって、誘電体層が、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料及び重合体Aを含み、内部電極層が、導電性材料及び重合体Bを含み、重合体Aの重量平均分子量と、重合体Bの重量平均分子量とが所定の関係性を有する、積層セラミックコンデンサ用積層体であれば、上記課題を解決できることを新たに見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[1]誘電体層と、前記誘電体層の表面上に設けられた内部電極層と、を含む、積層セラミックコンデンサ用積層体であって、前記誘電体層が、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料及び重合体Aを含み、前記内部電極層が、導電性材料及び重合体Bを含み、前記重合体Aの重量平均分子量が、前記重合体Bの重量平均分子量よりも大きい、積層セラミックコンデンサ用積層体である。
上記のような積層セラミックコンデンサ用積層体は、耐シートアタック性に優れている。
本明細書において、重合体A及び重合体Bの「重量平均分子量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定できる。
【0009】
[2]上記[1]の積層セラミックコンデンサ用積層体において、前記重合体Aは、酸基を有する水溶性重合体であることが好ましい。
誘電体層中に含まれる誘電体材料等は誘電体層から脱落(以下、「粉落ち」と称する場合がある。)し得る恐れがあるところ、重合体Aが酸基を有する水溶性重合体であれば、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層セラミックコンデンサ用積層体の耐粉落ち性を向上できる。また、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
【0010】
[3]上記[1]又は[2]の積層セラミックコンデンサ用積層体において、前記重合体Aの重量平均分子量は、250,000以上2,000,000以下であることが好ましい。
重合体Aの重量平均分子量が上記下限以上であれば、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層セラミックコンデンサ用積層体の耐粉落ち性を向上できる。
一方、重合体Aの重量平均分子量が上記上限以下であれば、誘電体層が柔軟になり、その結果、積層セラミックコンデンサ用積層体の柔軟性を向上できる。
【0011】
[4]上記[1]~[3]の何れかの積層セラミックコンデンサ用積層体において、前記重合体Bは、ヒドロキシル基を有することが好ましい。
重合体Bがヒドロキシル基を有すれば、重合体Aを有する誘電体層との濡れ性が良好となり、その結果、均一な内部電極層を形成でき、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
【0012】
[5]上記[1]~[4]の何れかの積層セラミックコンデンサ用積層体において、前記重合体Bの重量平均分子量は、10,000以上200,000以下であることが好ましい。
重合体Bの重量平均分子量が上記下限以上であれば、内部電極層の形成が容易になり、その結果、積層セラミックコンデンサ用積層体の生産性を向上できる。
一方、重合体Bの重量平均分子量が上記上限以下であれば、積層セラミックコンデンサ用積層体の耐シートアタック性を向上できる。
【0013】
[6]上記[1]~[5]の何れかの積層セラミックコンデンサ用積層体において、前記誘電体層は、粒子状の重合体Cを更に含むことが好ましい。
誘電体層が粒子状の重合体Cを更に含めば、積層セラミックコンデンサ用積層体の耐シートアタック性を向上できる。また、誘電体層が柔軟になり、その結果、積層セラミックコンデンサ用積層体の柔軟性を向上できる。更に、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層セラミックコンデンサ用積層体の耐粉落ち性を向上できる。
本明細書において、重合体Cが「粒子状」であるとは、少なくとも積層セラミックコンデンサ用積層体の誘電体層中において粒子形状を有する重合体である。また、重合体Cが有する粒子形状は、例えば、SEMによる断面観察により確認できる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、[7]本発明は、上記[1]~[6]の何れかの積層セラミックコンデンサ用積層体を焼結してなる、積層セラミックコンデンサである。
上記積層セラミックコンデンサは、耐シートアタック性に優れる積層セラミックコンデンサ用積層体を焼結してなるものであるため、性能の低下が効果的に抑制されている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐シートアタック性に優れる積層セラミックコンデンサ用積層体を提供できる。
また、本発明によれば、上記積層セラミックコンデンサ用積層体を焼結してなる積層セラミックコンデンサを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の積層セラミックコンデンサ用積層体(以下、単に「積層体」と称する場合がある。)は、積層セラミックコンデンサの製造に用いることができる。また、本発明の積層セラミックコンデンサは、本発明の積層体を焼結してなるものである。
【0018】
(積層セラミックコンデンサ用積層体)
本発明の積層セラミックコンデンサ用積層体は、誘電体層と、誘電体層の表面上に設けられた内部電極層と、を含み、誘電体層が、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料及び重合体Aを含み、内部電極層が、導電性材料及び重合体Bを含む。そして、本発明の積層体は、重合体Aの重量平均分子量(以下、「MwA」と称する場合がある。)が、重合体Bの重量平均分子量(以下、「MwB」と称する場合がある。)よりも大きい(MwA>MwB)ものである。
上記のような積層体は、耐シートアタック性に優れている。この理由については必ずしも明らかとはなっていないが、後述の実施例及び比較例によれば、積層体が「MwA>MwB」を満たすときに、積層体が耐シートアタック性に優れていることは明らかである。
なお、本発明の積層体は、任意に、上記誘電体層及び内部電極層以外の層(以下、「その他の層」と称する場合がある。)を更に備えていてもよい。その他の層としては、例えば、離型基材等が挙げられる。
【0019】
<誘電体層>
誘電体層は、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料及び重合体Aを含み、任意に、粒子状の重合体C(以下、単に「重合体C」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。また、誘電体層は、任意に、上記誘電体材料、重合体A及び重合体C以外の成分(以下、「その他の成分A」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。
【0020】
<<誘電体材料>>
誘電体層において、誘電体材料はペロブスカイト構造を有する。ここで、「ペロブスカイト構造」とは、一般式ABOで表される構造を意味し、「誘電体材料がペロブスカイト構造を有する」とは、誘電体材料の少なくとも一部において、一般式ABOで表される構造が存在することを意味する。
なお、誘電体層は、任意に、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料以外の誘電体材料を更に含んでいてもよい。
【0021】
ペロブスカイト構造を有する誘電体材料としては、ペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料が好ましい。当該セラミック材料として、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)、ジルコン酸カルシウム(CaZrO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等が挙げられる。これらの中でも、ペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料としては、チタン酸バリウムが好ましい。
【0022】
誘電体材料の平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることが更に好ましく、0.08μm以上であることが更により好ましく、1μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましく、0.3μm以下であることが更により好ましく、0.2μm以下であることがより一層好ましい。
誘電体材料の平均粒子径が上記下限以上であれば、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できる。
一方、誘電体材料の平均粒子径が上記上限以下であれば、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
本明細書において、誘電体材料の平均粒子径は、レーザー回折法により測定して得られた粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%なる粒子径を意味する。
【0023】
誘電体層中における誘電体材料の含有割合は、誘電体層中の全成分を100質量%とした場合に、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0024】
<<重合体A>>
誘電体層において、重合体Aは、結着材として機能し得る成分である。
【0025】
重合体Aは、「MwA>MwB」を満たすものであれば特に限定されないが、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できること、及び、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できることから、酸基を有する水溶性重合体であることが好ましい。
ここで、水溶性重合体が有する酸基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。これらの中でも、カルボン酸基が好ましい。
なお、酸基を有する水溶性重合体は、酸基を有する単量体(以下、「酸基含有単量体」と称する場合がある。)を用いて得られた重合体でも、所定の官能基を有する単量体を含む単量体組成物を用いて重合体を得た後に、該官能基を酸基に変性又は変換した重合体であってもよい。
【0026】
以下、酸基を有する単量体を用いて得られた水溶性重合体(以下、「水溶性重合体A」と称する場合がある。)を例示して、誘電体層に含まれる重合体Aを説明するが、重合体Aはこれに限定されるものではない。
【0027】
水溶性重合体Aは、エチレン性不飽和酸単量体単位を含有し、任意に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含有し得る。なお、水溶性重合体Aは、任意に、エチレン性不飽和酸単量体単位及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位以外の単量体単位(以下、「その他の単量体単位A」と称する場合がある。)を含有していてもよい。
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味する。
【0028】
[エチレン性不飽和酸単量体単位]
エチレン性不飽和酸単量体単位を形成し得るエチレン性不飽和酸単量体としては、例えば、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、リン酸基含有エチレン性不飽和単量体等が挙げられる。これらの中でも、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できること、及び、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できることから、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体、スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体が好ましく、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体がより好ましい。即ち、水溶性重合体Aは、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体単位及びスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体単位の少なくとも一方を含有することが好ましく、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体単位を含有することがより好ましい。
【0029】
カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体単位を形成し得るカルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸及びその誘導体や、エチレン性不飽和ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。
エチレン性不飽和モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸等が挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸モノエステルが挙げられる。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸等が挙げられる。
また、カルボン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、加水分解によりカルボン酸基を生成する酸無水物等も使用できる。
これらの中でも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。即ち、水溶性重合体Aは、エチレン性不飽和モノカルボン酸単位を含有することが好ましく、メタクリル酸単位を含有することがより好ましい。
【0030】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体単位を形成し得るスルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。
なお、本明細書において「(メタ)アリル」とは、アリル及び/又はメタリルを意味する。
【0031】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体単位を形成し得るリン酸基含有エチレン性不飽和単量体としては、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチル、ビニルホスホン酸等が挙げられる。
なお、本明細書において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルを意味する。
【0032】
水溶性重合体Aにおけるエチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合は、水溶性重合体A中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることが更に好ましく、25質量%以上であることが更により好ましく、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが更に好ましく、50質量%以下であることが更により好ましく、35質量%以下であることが一層好ましい。
エチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合が、水溶性重合体A中に含まれる全単量体単位を100質量%とした場合に、上記下限以上であれば、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できる。また、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
一方、エチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合が、水溶性重合体A中に含まれる全単量体単位を100質量%とした場合に、上記上限以下であれば、積層体の耐ブロッキング性を向上できる。
本明細書において、重合体中の各種の繰り返し単位(単量体単位)の含有割合は、H-NMR等の核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定できる。
【0033】
[(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位]
誘電体層において、水溶性重合体Aは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含有することが好ましい。水溶性重合体Aが(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含有すれば、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体により形成され得る単量体単位である。
なお、本明細書において、上記したエチレン性不飽和酸単量体単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位には含まれない。
【0034】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレートが好ましい。即ち、水溶性重合体Aが、エチルアクリレート単位及びn-ブチルアクリレート単位の少なくとも一方を含有することが好ましい。そして、水溶性重合体Aは、エチルアクリレート単位及びn-ブチルアクリレート単位を含有することがより好ましい。
【0035】
水溶性重合体Aにおける(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合(2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含有する場合にはその合計)は、水溶性重合体A中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以上であることが更により好ましく、65質量%以上であることが一層好ましく、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが更に好ましく、75質量%以下であることが更により好ましい。
【0036】
[その他の単量体単位A]
その他の単量体単位Aは、その他の単量体Aにより形成され得る単量体単位である。その他の単量体Aは、上述した、エチレン性不飽和酸単量体及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではない。その他の単量体Aとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド単量体;アリルグリシジルエーテル、アリル(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の分子中に2以上のエチレン性不飽和結合(C=C)を有する多官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体等の架橋性単量体(架橋可能な単量体);エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ブトキシ-ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-アリルエーテル等のアルコキシポリアルキレングリコールアリルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有単量体;等が挙げられる。これらのその他の単量体Aは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
水溶性重合体Aにおけるその他の単量体単位Aの含有割合は、水溶性重合体A中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であること、即ち、水溶性重合体Aはその他の単量体単位Aを含有しないことが更により好ましい。
【0038】
[重合体Aの特性]
重合体Aは、重量平均分子量が、250,000以上であることが好ましく、500,000以上であることがより好ましく、2,000,000以下であることが好ましく、1,200,000以下であることがより好ましい。
重合体Aの重量平均分子量が上記下限以上であれば、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できる。
一方、重合体Aの重量平均分子量が上記上限以下であれば、誘電体層が柔軟になり、その結果、積層体の柔軟性を向上できる。
【0039】
重合体Aは、特に限定されないが、以下の手順で算出された評価液の曇り度(以下、単に「曇り度」と称する場合がある。)が60%以上であることが好ましく、65%以上であることがより好ましい。
重合体Aの曇り度が上記下限以上であれば、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
曇り度の算出手順は、まず、重合体Aの水溶液の濃度及びpHを調整して、濃度10%、pH6.5の水溶液を準備し、水溶液を25℃において1時間撹拌し、評価液とする。この評価液を光路長30mmのセルに移し、ヘーズメータを用い、散乱光及び全光線透過光を測定し、下記式(1)に従って評価液の曇り度を算出する。
曇り度(%)=散乱光/全光線透過光×100 (1)
なお、重合体Aの曇り度は、重合体Aを形成し得る単量体の種類及び割合によって適宜調整できる。
【0040】
重合体Aは、ガラス転移温度が、0℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましく、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましい。
重合体Aのガラス転移温度が上記下限以上であれば、積層体の耐ブロッキング性を向上できる。
一方、重合体Aのガラス転移温度が上記上限以下であれば、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
本明細書において、重合体のガラス転移温度は、実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0041】
[重合体Aの含有量]
重合体Aの含有量は、誘電体材料を100質量部とした場合に、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることが更に好ましく、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
重合体Aの含有量が、誘電体材料100質量部に対して、上記下限以上であれば、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できる。
一方、重合体Aの含有割合が、誘電体材料100質量部に対して、上記上限以下であれば、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。また、積層体の耐ブロッキング性を向上できる。
【0042】
[重合体Aの調製方法]
重合体Aは、例えば、上述した各単量体と任意の重合溶媒とを既知の方法で混合して得た単量体組成物を、任意の重合方法で重合させることで得ることができる。
ここで、重合体Aの重合方法としては、限定されることなく、例えば、水溶液重合法等の溶液重合法、スラリー重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等のいずれの方法を用いてもよい。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合等の付加重合を用いることができる。そして、重合に使用される重合開始剤、重合促進剤、乳化剤、分散剤、連鎖移動剤等の添加剤は、一般に用いられるものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とすることができる。
中でも、溶媒の除去操作が不要であり、溶媒の安全性が高いことから、重合溶媒として水を使用した水溶液重合法が好ましい。
【0043】
なお、重合溶媒として水を使用し、上述した単量体組成物を水中で重合して重合体Aを含む水溶液を調製する場合には、重合後に水溶液のpHを7以上9以下に調整することが好ましい。
【0044】
ここで、重合体Aの調製に用いられ得る重合開始剤としては、特に制限されることなく、既知の重合開始剤、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウムが挙げられる。中でも、過硫酸カリウムを用いることが好ましい。重合開始剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、重合促進剤としては、特に制限されることなく、既知の還元性の重合促進剤、例えば、テトラメチルエチレンジアミンを使用することができる。重合促進剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
<<重合体C>>
本発明の積層体は、粒子状の重合体Cを更に含むことが好ましい。
誘電体層が重合体Cを更に含めば、積層体の耐シートアタック性を向上できる。また、誘電体層が柔軟になり、その結果、積層体の柔軟性を向上できる。更に、誘電体層中の誘電体材料等の粉落ちを効果的に抑制し、その結果、積層体の耐粉落ち性を向上できる。
【0047】
重合体Cは、結着材として機能し得る成分であり、誘電体層に接着性を付与すると共に、誘電体層中に含まれている材料(例えば、誘電体材料)が、当該誘電体層から脱離しないように保持する成分である。ここで、重合体Cは、誘電体層中で、粒子形状を有している。
重合体Cは、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できることから、非水溶性の重合体であることが好ましい。
【0048】
重合体Cとしては、特に限定されることなく、例えば、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体等の任意の重合体を用いることができる。
【0049】
[共役ジエン系重合体]
共役ジエン系重合体とは、共役ジエン単量体単位を含有する重合体である。共役ジエン系重合体は、任意に、芳香族ビニル単量体単位、エチレン性不飽和酸単量体単位、シアノ基含有単量体単位を含有していてもよい。また、共役ジエン系重合体は、共役ジエン単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、エチレン性不飽和酸単量体単位及びシアノ基含有単量体単位以外の単量体単位(以下、「その他の単量体単位C1」と称する場合がある。)を含有していてもよい。
【0050】
ここで、共役ジエン系重合体としては、例えば、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)等の芳香族ビニル単量体単位及び共役ジエン単量体単位を含む共重合体、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム、アクリルゴム(NBR)(シアノ基含有単量体単位及び共役ジエン単量体単位を含む共重合体)、並びに、それらの水素化物等が挙げられる。
【0051】
-共役ジエン単量体単位-
共役ジエン単量体単位は、共役ジエン単量体により形成され得る単量体単位である。共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換及び側鎖共役ヘキサジエン類等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン及び2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)が好ましく、1,3-ブタジエンがより好ましい。
【0052】
共役ジエン系重合体における共役ジエン単量体単位の含有割合は、共役ジエン系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましい。
【0053】
-芳香族ビニル単量体単位-
芳香族ビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体により形成され得る単量体単位である。芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、芳香族ビニル単量体としてはスチレンが好ましい。
【0054】
共役ジエン系重合体における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、共役ジエン系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、45質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以下であることが好ましく、65質量%以下であることがより好ましい。
【0055】
-エチレン性不飽和酸単量体単位-
エチレン性不飽和酸単量体単位は、エチレン性不飽和酸単量体により形成され得る単量体単位である。共役ジエン系重合体の調製に用いられ得るエチレン性不飽和酸単量体としては、例えば、上述した「エチレン性不飽和酸単量体単位」の項で説明したものと同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エチレン性不飽和酸単量体単位としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸がより好ましい。
【0056】
共役ジエン系重合体におけるエチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合は、共役ジエン系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0057】
-シアノ基含有単量体単位-
シアノ基含有単量体単位は、シアノ基含有単量体により形成され得る単量体単位である。シアノ基含有単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、シアノ基含有単量体としては、アクリロニトリルが好ましい。
【0058】
共役ジエン系重合体におけるシアノ基含有単量体単位は、共役ジエン系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
-その他の単量体単位C1-
その他の単量体単位C1は、その他の単量体C1により形成され得る単量体単位である。その他の単量体C1は、上述した共役ジエン系重合体を形成し得る単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではない。その他の単量体C1としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;アリルグリシジルエーテル、アリル(メタ)アクリレート等の架橋性単量体(架橋可能な単量体);エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレー卜、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のオクチル(メタ)アクリレート、等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体;等が挙げられる。これらのその他の単量体C1は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
共役ジエン系重合体におけるその他の単量体単位C1の含有割合は、共役ジエン系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であること、即ち、共役ジエン系重合体はその他の単量体単位C1を含有しないことが更により好ましい。
【0061】
なお、共役ジエン系重合体の調製に(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を用いる場合は、当該(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合は、共役ジエン系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、50質量%未満である。
【0062】
[アクリル系重合体]
アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を含有する重合体である。アクリル系重合体は、任意に、芳香族ビニル単量体単位、エチレン性不飽和酸単量体単位、及びシアノ基含有単量体単位を含有していてもよい。また、アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位、芳香族ビニル単量体単位、エチレン性不飽和酸単量体単位、及びシアノ基含有単量体単位以外の単量体単位(以下、「その他の単量体単位C2」と称する場合がある。)を含有していてもよい。
なお、アクリル系重合体は、通常、アクリル系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を50質量%以上含む重合体であり、上述した共役ジエン系重合体とは異なる。
【0063】
-(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位-
(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体により形成され得る単量体単位である。アクリル系重合体の調製に用いられ得る(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、上述した「(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位」の項で説明したものと同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位の含有割合は、アクリル系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、50質量%以上であり、55質量%以上であることが好ましく、98質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましい。
【0065】
-芳香族ビニル単量体単位-
芳香族ビニル単量体単位は、芳香族ビニル単量体により形成され得る単量体単位である。アクリル系重合体の調製に用いられ得る芳香族ビニル単量体としては、上述した「芳香族ビニル単量体単位」の項で説明したものと同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
アクリル系重合体における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、アクリル系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
-エチレン性不飽和酸単量体単位-
エチレン性不飽和酸単量体単位は、エチレン性不飽和酸単量体により形成され得る単量体単位である。アクリル系重合体の調製に用いられ得るエチレン性不飽和酸単量体単位はとしては、例えば、上述した「エチレン性不飽和酸単量体単位」の項で説明したものと同様の単量体を挙げることができる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、エチレン性不飽和酸単量体単位としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、ビニルスルホン酸が好ましい。
【0068】
アクリル系重合体におけるエチレン性不飽和酸単量体単位の含有割合は、アクリル系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
-シアノ基含有単量体単位-
シアノ基含有単量体単位は、シアノ基含有単量体により形成され得る単量体単位である。アクリル系重合体の調製に用いられ得るシアノ基含有単量体としては、上述した「シアノ基含有単量体単位」の項で説明したものと同様の単量体を挙げることができる。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
アクリル系重合体におけるシアノ基含有単量体単位の含有割合は、アクリル系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
[その他の単量体単位C2]
その他の単量体単位C2は、その他の単量体C2により形成され得る単量体単位である。その他の単量体C2は、上述したアクリル系重合体を形成し得る単量体と共重合可能な単量体であれば特に限定されるものではない。その他の単量体C2としては、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有単量体;アリルグリシジルエーテル、アリル(メタ)アクリレート等の架橋性単量体(架橋可能な単量体);エチレン、プロピレン等のオレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン原子含有単量体;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビエルエーテル等のビニルエーテル類;メチルビニルケトン、エチルビニルケトン、ブチルビニルケトン、ヘキシルビニルケトン、イソプロペニルビニルケトン等のビニルケトン類;N-ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール等の複素環含有ビニル化合物;アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等のアミノ基含有単量体;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
アクリル系重合体におけるその他の単量体単位C2の含有割合は、アクリル系重合体中に含まれる全繰り返し単位(全単量体単位)を100質量%とした場合に、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0質量%であること、即ち、アクリル系重合体はその他の単量体単位C2を含有しないことが更により好ましい。
【0073】
[重合体Cの平均粒子径]
重合体Cの平均粒子径は、0.01μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましく、1.0μm以下であることが好ましく、0.8μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることが更に好ましい。
重合体Cの平均粒子径が上記下限以上であれば、誘電体層中に誘電体材料を均一に分散させることが可能になり、その結果、誘電体層を高密度化することができ、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できる。
一方、重合体Cの平均粒子径が上記上限以下であれば、積層体の耐ブロッキング性を向上できる。
本明細書において、重合体Cの平均粒子径は、実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0074】
[重合体Cの含有量]
重合体Cの含有量は、誘電体材料を100質量部とした場合に、0.1質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましい。
【0075】
[重合体Aに対する重合体Cの質量比]
重合体Aに対する重合体Cの質量比(重合体C/重合体A)は、例えば0.1以上であり、0.5以上でもよく、1.5以上でもよく、例えば5以下であり、4以下でもよく、2.5以下でもよい。
【0076】
[重合体Cの調製方法]
重合体Cの重合方法は、特に限定されることなく、例えば、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等のいずれの方法を用いてもよい。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合等の付加重合を用いることができる。そして、重合に使用され得る重合溶媒や、乳化剤、分散剤、重合開始剤、連鎖移動剤等の添加剤は、一般的なものを使用することができ、その使用量も、一般に使用される量とすることができる。
【0077】
<<その他の成分A>>
誘電体層は、その他の成分Aを含んでいてもよい。その他の成分Aとしては、例えば、重合体A及び状重合体Cを重合する際に用いる上記添加剤等が挙げられる。
【0078】
<内部電極層>
内部電極層は、導電性材料及び重合体Bを含み、任意に、誘電体材料を含んでいてもよい。また、内部電極層は、導電性材料、重合体B、及び誘電体材料以外の成分(以下、「その他の成分B」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。
なお、内部電極層は、通常、所定の電極パターンを有している。
【0079】
<<導電性材料>>
導電性材料は、特に限定されず、例えば、Ni、Pd、Pt、Au、Ag、Cu、及びこれらの合金から選択される1種以上の粉末を用いることができる。これらの中でも、導電性、耐食性及びコストの観点から、Ni、又はその合金の粉末が好ましい。Ni合金としては、例えば、Mn、Cr、Co、Al、Fe、Cu、Zn、Ag、Au、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも1種の元素とNiとの合金を用いることができる。Ni合金におけるNiの含有量は、通常50質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましい。また、Ni粉末は、脱バインダー処理の際、重合体Bの部分的な熱分解による急激なガス発生を抑制するために、数百ppm程度のS(硫黄)を含んでもよい。
【0080】
導電性材料の平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。
導電性材料の平均粒子径が上記範囲内であれば、内部電極層の平滑性及び密度を向上できる。
本明細書において、導電性材料の平均粒子径は、特に断らない限りBET法に基づいて得られた比表面積から算出した粒径である。例えば、Ni粉末の平均粒子径は、以下の式(2)により算出できる。
平均粒子径=6/S.A×ρ・・・(2)
(ρ=8.9(Niの真密度)、S.A=Ni粉末のBET比表面積)
【0081】
内部電極層中における導電性材料の含有割合は、内部電極層中の全成分を100質量%とした場合に、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましい。
【0082】
<<重合体B>>
内部電極層において、重合体Bは、結着材として機能し得る成分である。
【0083】
重合体Bは、「MwA>MwB」を満たすものであれば特に限定されないが、重合体Aを有する誘電体層との濡れ性が良好となり、その結果、均一な内部電極層を形成でき、得られる積層セラミックコンデンサの性能を向上できることから、重合体Bはヒドロキシル基を有することが好ましい。
ここで、ヒドロキシル基を有する重合体Bを得る方法としては、例えば、以下の(1)又は(2)の方法:
(1)ヒドロキシル基含有単量体を含む単量体組成物から、ヒドロキシル基を有する重合体Bを調製する方法
(2)一般式:R-CO-O-CH=CH(式中、Rは任意の構造であるが、炭素数1以上19以下のアルキル基であることが好ましい。)で表されるカルボン酸ビニルエステル単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体をケン化することで、カルボン酸ビニルエステル単量体単位の「R-CO-O-」の全部又は一部をヒドロキシル基に変換して、ビニルアルコール単位を含有し、任意に、カルボン酸ビニルエステル単量体単位を含有する重合体Bを調製する方法
が挙げられる。
【0084】
上記(1)の方法で用いるヒドロキシル基含有単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH=CR-COO-(C2qO)-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、Rは水素又はメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネート等のジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテル等のアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテル等の、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノール等の多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテル等のアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド;等が挙げられる。これらは、単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0085】
上記(2)の方法で用いるカルボン酸ビニルエステル単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニルが挙げられる。これらは、単独で、又は、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、酢酸ビニルが好ましい。
【0086】
ここで、上記(2)の方法で水溶性重合体を調製する場合、得られた水溶性重合体のヒドロキシル基の一部をアセタール化してもよい。このような水溶性重合体としては、例えば、水溶性重合体が有するヒドロキシル基をブチルアルデヒドによってアセタール化したポリビニルブチラール等が挙げられる。なお、ポリビニルアセタールとしては、例えば、積水化学工業社製のエスレックBL-2H等を用いることができる。
【0087】
なお、ヒドロキシル基を有する重合体Bとしては、上記(1)又は(2)の方法で得られる重合体の他に、植物等に由来するセルロース、又はセルロース誘導体を用いることができる。セルロース誘導体としては、特に限定されず、例えば、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等が挙げられる。これらの中でも、エチルセルロースが好ましい。なお、エチルセルロースとしては、例えば、ダウ・ケミカル社製のEthocel(登録商標)STD-200等を用いることができる。
【0088】
[重合体Bの重量平均分子量]
重合体Bは、重量平均分子量が、10,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、200,000以下であることが好ましく、150,000以下であることがより好ましい。
重合体Bの重量平均分子量が上記下限以上であれば、内部電極層の形成が容易になり、その結果、積層体の生産性を向上できる。
一方、重合体Bの重量平均分子量が上記上限以下であれば、積層体の耐シートアタック性を向上できる。
【0089】
[重合体Bの含有量]
重合体Bの含有量は、導電性材料を100質量部とした場合に、例えば0.1質量部以上でもあり、1質量部以上でもよく、2質量部以上でもよく、例えば15質量部以下であり、10質量部以下でもよく、5質量部以下でもよい。
【0090】
<<誘電体材料>>
内部電極層に含まれ得る誘電体材料としては、上述した「誘電体層」の「誘電体材料」の項で説明したものと同様の誘電体材料を挙げることができる。これらの中でも、内部電極層に含まれ得る誘電体材料としては、ペロブスカイト構造を主相とするセラミック材料が好ましく、チタン酸バリウムが特に好ましい。
【0091】
ここで、内部電極層に含まれ得る誘電体材料としては、誘電体層と内部電極層との界面での収縮率の差等によるクラックの発生を効果的に予防できることから、誘電体層に含まれる誘電体材料と同一組成のものを用いることが好ましい。例えば、誘電体層に含まれる誘電体材料が、チタン酸バリウム(BaTiO)である場合、内部電極層に含まれ得る誘電体材料はチタン酸バリウム(BaTiO)であることが好ましい。
【0092】
誘電体材料の含有量は、導電性材料を100質量部とした場合に、例えば5質量部以上であり、10質量部以上でもよく、20質量部以上でもよく、例えば50質量部以下であり、40質量部以下でもよく、30質量部以下でもよい。
【0093】
<<その他の成分B>>
内部電極層は、その他の成分Bを含んでいてもよい。その他の成分Bとしては、例えば、重合体Bを重合する際に用いる添加剤等が挙げられる。重合体Bを重合する際に用いる添加剤としては、例えば、界面活性剤等が挙げられる。
【0094】
<離型基材>
本発明の積層体は、誘電体層の内部電極層が設けられている面とは反対側の表面上に離型基材を備えていてもよい。即ち、本発明の積層体は、離型基材と、誘電体層と、内部電極層とがこの順に積層されてなるものでもよい。
【0095】
ここで、離型基材は、可撓性を有する樹脂からなるものであることが好ましい。離型基材が可撓性を有する樹脂からなることで、積層体をロール状に巻回した状態で保存し、必要に応じて供給できる。
離型基材としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル等の樹脂を含む基材が挙げられる。
【0096】
離型基材は、誘電体層が形成される側の面に、離型性を向上するための表面処理が施されていることが好ましい。表面処理としては、特に限定されず、例えば、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、ワックス系離型剤等の離型剤を用いた表面処理が挙げられる。
【0097】
離型基材の厚みは特に限定されるものではないが、通常、20μm以上100μm以下である。
【0098】
<積層セラミックコンデンサ用積層体におけるMwA及びMwBの関係>
本発明の積層体において、MwBに対するMwAの比(MwA/MwB)は、2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、15以上であることが更に好ましく、50以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、35以下であることが更に好ましい。
MwBに対するMwAの比(MwA/MwB)が上記下限以上であれば、積層体の耐シートアタック性を向上できる。
一方、MwBに対するMwAの比(MwA/MwB)が上記上限以下であれば、積層体の柔軟性を向上できる。
【0099】
本発明の積層体において、MwAとMwBとの差(MwA-MwB)は、10,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることが更に好ましく、2,000,000以下であることが好ましく、1,500,000以下であることがより好ましく、1,000,000以下であることが更に好ましい。
MwAとMwBとの差(MwA-MwB)が上記下限以上であれば、積層体の耐シートアタック性を向上できる。
一方、MwAとMwBとの差(MwA-MwB)が上記上限以下であれば、積層体の柔軟性を向上できる。
【0100】
<積層セラミックコンデンサ用積層体の作製方法>
積層体は、特に限定されないが、例えば、誘電体層形成用スラリー組成物を離型基材上に塗布し、塗布膜を乾燥させて誘電体層を形成する、誘電体層形成工程と、得られた誘電体層上に導電性ペーストを、通常、所望の電極パターンとなるように塗布し、塗布膜を乾燥して内部電極層を形成する、内部電極層形成工程とを含む方法により作製できる。
なお、上記積層体の作製方法は、任意に、得られた誘電体層及び内部電極層を離型基材から剥離させる、剥離工程を更に含んでいてもよい。
【0101】
<<誘電体層形成工程>>
誘電体層形成工程では、誘電体層形成用スラリー組成物(以下、単に「スラリー組成物」と称する場合がある。)を離型基材上に塗布し、塗布膜を乾燥させて誘電体層を形成する。
【0102】
スラリー組成物は、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料、重合体A、及び溶媒を含み、任意に、重合体C、その他の成分Aを含み得る。即ち、スラリー組成物を離型基材上に塗布して得られた塗布膜は、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料、重合体A、及び溶媒を含み、任意に、重合体C、その他の成分Aを含み得る。
【0103】
ここで、スラリー組成物に含まれる溶媒は水を含む。溶媒に含まれる水の含有量は、環境負荷低減の観点から、全溶媒成分を100質量部とした場合に、50質量部以上であることが好ましく、80質量部以上であることがより好ましく、90質量部以上であることが更に好ましい。そして、溶媒に含まれる水の含有量は、安全性及び入手容易性の観点から、全溶媒成分を100質量部とした場合に、100質量部であること、即ち、溶媒は全て水であることが特に好ましい。
【0104】
スラリー組成物の固形分濃度は、例えば20質量%以上であり、40質量%以上でもよく、50質量%以上でもよく、例えば90質量%以下であり、80質量%以下でもよい。
【0105】
なお、スラリー組成物は、ペロブスカイト構造を有する誘電体材料、重合体A、及び溶媒、並びに、任意の、重合体C、及びその他の成分Aを、既知の方法で混合することにより調製できる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックス、自転公転ミキサー等の混合機を用いて上記各成分を混合することにより、スラリー組成物を調製できる。
【0106】
スラリー組成物を離型基材上への塗布方法としては、特に限定されず、例えば、アプリケーターや、グラビアコーター及びコンマコーター(登録商標)に代表される各種ロールコーター等を用いる公知の塗布方法が挙げられる。
【0107】
離型基材上に形成した塗布膜の乾燥方法としては、特に限定されず、例えば、熱風乾燥機を用いる公知の乾燥方法が挙げられる。なお、乾燥条件は、塗布膜中の溶媒の含有量、塗布膜の厚さ等に応じて適宜設定できるが、乾燥温度は、通常、80℃以上150℃以下であり、乾燥時間は、通常、3分以上60分以下である。
【0108】
<<内部電極層形成工程>>
内部電極層形成工程では、誘電体層形成工程で得られた誘電体層上に導電性ペーストを、通常、所望の電極パターンとなるように塗布し、塗布膜を乾燥して内部電極層を形成する。
【0109】
導電性ペーストは、導電性材料、重合体B、及び有機溶剤を含み、任意に、誘電体材料、その他の成分Bを含み得る。即ち、導電性ペーストを誘電体層上に塗布して得られた塗布膜は、導電性材料、重合体B、及び有機溶剤を含み、任意に、誘電体材料、その他の成分Bを含み得る。
【0110】
ここで、導電性ペーストに含まれる有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤を用いることができる。
【0111】
導電性ペーストの固形分濃度は、例えば20質量%以上であり、40質量%以上でもよく、50質量%以上でもよく、例えば90質量%以下であり、80質量%以下でもよい。
【0112】
なお、導電性ペーストは、導電性材料、重合体B、及び有機溶剤、並びに、任意の、誘電体材料、その他の成分Bを、既知の方法で混合することにより調製できる。
【0113】
(積層セラミックコンデンサ)
本発明の積層セラミックコンデンサは、上述した本発明の積層体を焼結してなるもの(焼結物)である。
本発明の積層セラミックコンデンサは、耐シートアタック性に優れる積層体を焼結してなるものであるため、性能の低下が効果的に抑制されている。
なお、以下では、図1を参照して、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を説明するが、本発明の積層セラミックコンデンサはこれに限定されるものではない。
【0114】
図1は、本発明の積層セラミックコンデンサの一例を示す概略断面図である。図1に示す積層セラミックコンデンサ10は、交互に積層された、層状の誘電体11と、層状の内部電極12とを備えており、誘電体11及び内部電極12の外側に一対の外部電極13を備えている。そして、積層方向に沿って誘電体11を挟んで隣り合う一対の内部電極12のうちの一方は、積層セラミックコンデンサ10の内部において一対の外部電極13のうちの一方に電気的に接続されており、積層方向に沿って誘電体11を挟んで隣り合う一対の内部電極12のうちの他方は、積層セラミックコンデンサ10の内部において一対の外部電極13のうちの他方に電気的に接続されている。これにより、一対の外部電極13間は、複数のコンデンサ要素が電気的に並列に接続された構造となっている。なお、本発明の積層体を重ね合わせた際に形成され得る誘電体層同士の境界面は、焼結により誘電体層同士が一体化して消滅し得るため、図1には示されていない。
【0115】
積層セラミックコンデンサは、特に限定されず、従来公知の方法により製造できる。例えば、積層セラミックコンデンサは、任意に、誘電体層及び内部電極層を離型基材から剥離させた後に、誘電体層と内部電極層とが交互になるように本発明の積層体を重ね合わせ、これを加熱圧着し、誘電体層及び内部電極層に含まれる結着材成分(重合体A~C等)等を熱分解して除去し(脱脂処理)、更にこれを焼結し、そして、焼結して得られたセラミック焼結物の端面に外部電極を形成することにより製造できる。
【0116】
脱脂処理は、通常、窒素雰囲気中において、300℃以上500℃以下の温度で行う。脱脂処理の時間は、通常、1時間以上5時間以下である。
なお、脱脂処理後の誘電体層及び内部電極層の結着材成分(重合体A~C等)の含有量は、通常、合計で50ppm以下である。
【0117】
脱脂処理された積層体の焼結は、通常、酸素分圧10-9~10-12MPaのH-N-HOガス等の還元性雰囲気中において、1000℃以上1500℃以下の温度で行う。積層体の焼結時間は、通常、1時間以上30時間以下である。
【0118】
外部電極は、焼結して得られたセラミック焼結物の端面に外部電極用材料を塗布し、これを焼き付けることにより形成できる。これにより、例えば、図1に示す積層セラミックコンデンサを得ることができる。
外部電極用材料としては、例えば、ガラスフリットを含有するCuペースト等が挙げられる。焼き付けは、通常、窒素雰囲気中において、500℃以上1500℃以下の温度で行う。なお、外部電極の表面には、NiやSn等のめっきを施すこともできる。
【実施例0119】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該単量体の比率(仕込み比)と一致する。
また、重合体A及び重合体Bの重量平均分子量、重合体Aのガラス転移温度、重合体Cの平均粒子径、耐シートアタック性、柔軟性、耐ブロッキング性、耐粉落ち性は、以下の手順で測定及び評価した。
【0120】
<重合体A及び重合体Bの重量平均分子量>
重合体A及び重合体Bの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。
具体的には、まず、溶離液約5mLに、重合体の固形分濃度が約0.5g/Lとなるように加えて、室温で緩やかに溶解させた。目視で重合体の溶解を確認後、0.45μmフィルターにて穏やかに濾過を行い、測定用試料を調製し、得られた測定用試料を測定に用いた。そして、標準物質で検量線を作成することにより、標準物質換算値としての重量平均分子量を算出した。なお、測定条件は、以下のとおりである。
<<測定条件>>
・カラム:昭和電工社製、製品名Shodex OHpak(SB-G,SB-807HQ,SB-806MHQ)
・溶離液:0.1Mトリス緩衝液(0.1M塩化カリウム添加)
・流速:0.5mL/分
・試料濃度:0.05g/L(固形分濃度)
・注入量:200μL
・カラム温度:40℃
・検出器:示差屈折率検出器RI(東ソー社製、製品名「RI-8020」)
・標準物質:単分散プルラン(昭和電工社製)
【0121】
<重合体Aのガラス転移温度>
重合体Aの水溶液を、50%湿度、25℃の環境下で3日間乾燥させて、厚み1.0mmのフィルムを得た。このフィルムを、真空乾燥機を用いて60℃で10時間乾燥させた。その後、乾燥させたフィルムをサンプルとして、JISK7121に準じて、測定温度-100℃~180℃、昇温速度5℃/分の条件下で、示差走査熱量分析計(DSC6220SII、ナノテクノロジー社製)を用いてガラス転移温度(℃)を測定した。
【0122】
<重合体Cの平均粒子径>
重合体Cの平均粒子径は、レーザー回折法にて以下のように測定した。
まず、実施例で調製した重合体C(粒子状)の分散液を固形分濃度0.1質量%に調整して測定用試料を準備した。そして、レーザー回折式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、製品名「LS-230」)を用いて測定された粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径D50を平均粒子径とした。
【0123】
<耐シートアタック性>
実施例及び比較例で作製した誘電体層付き離型基材を幅1cm×長さ10cmに切り出し、離型基材と誘電体層との接着強度n1を測定した。次に、実施例及び比較例で作製した積層体を幅1cm×長さ10cmに切り出し、離型基材と、誘電体層及び内部電極層との接着強度n2を測定した。下記式(3)に従って接着強度の変化(Δn)を算出した。
Δn(%)=n2/n1×100 (3)
上記Δnを用いて、以下の基準により、積層体の耐シートアタック性を評価した。Δnが大きい程、積層体が耐シートアタック性に優れることを意味する。
A:Δnが80%以上
B:Δnが60%以上80%以下
C:Δnが60%未満
【0124】
<柔軟性>
実施例及び比較例で作製した積層体の中央部を直径2mmのガラス芯棒で押さえ、これを中心とする180°の折り曲げ試験を行い、以下の基準で柔軟性を評価した。
A:全くクラックが認められなかった。
B:積層体へのクラックの発生は確認できなかった。
C:積層体へのクラックの発生が確認された。
【0125】
<耐ブロッキング性>
実施例及び比較例で作製した積層体から離型基材を剥がし、残った誘電体層及び内部電極層を幅5cm×長さ5cmに正方形に切って試験片とした。ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備し、PETフィルムと試験片とを、PETフィルムと内部電極層とが向かい合うように重ね合わせ、40℃、10kg/cmの加圧下で24時間放置した。24時間放置後のPETフィルムへの試験片の接着状態(ブロッキング状態)を目視で確認し、下記基準で耐ブロッキング性を評価した。
A:試験片がPETフィルムにブロッキングしない
B:試験片がPETフィルムにブロッキングするが、剥がれる
C:試験片がPETフィルムにブロッキングし、剥がれない
【0126】
<耐粉落ち性>
実施例及び比較例で作製した積層体を幅5cm×長さ5cmに切り出した試験片を5検体用意した。そして、当該試験片1検体ごとに以下の操作及び測定を実施した。
まず、試験片1検体について、初期の積層体重量(P0)を測定した。次いで、カッターナイフを用いて、当該試験片に幅1mm、11本の切り込みを入れ、切り込み時に出た粉を軽く払い落した。そして、切り込み後の積層体重量(P1)を測定した。下記式(4)に従って積層体(誘電体層及び内部電極層)の粉落ち量を算出した。
積層体の粉落ち量(質量%)={(P0-P1)/P0}×100 (4)
上記操作及び測定を5回繰り返し、5検体の積層体の粉落ち量の平均値を求めた。そして、以下の基準により、積層体の耐粉落ち性を評価した。積層体の粉落ち量が少ないほど、積層体の耐粉落ち性に優れることを示す。
A:積層体の粉落ち量の平均値が5.0質量%未満
B:積層体の粉落ち量の平均値が5.0質量%以上10.0質量%未満
C:積層体の粉落ち量の平均値が10.0質量%以上
【0127】
(実施例1)
<重合体Aの水溶液の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、単量体組成物として、メタクリル酸(エチレン性不飽和酸単量体)30部、エチルアクリレート((メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体)55部、及びn-ブチルアクリレート((メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体)15部、並びに、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、イオン交換水150部、及び重合開始剤として過硫酸カリウム1部を入れ、十分に撹拌した後、60℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、さらに水酸化ナトリウム水溶液を添加してpHを4に調整し、重合体A(水溶性)の水溶液を得た。得られた重合体Aの水溶液を用いて、重合体Aの重量平均分子量及び重合体Aのガラス転移温度を測定した。結果を表1に示す。
【0128】
<重合体Cの分散液の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、単量体組成物として、1,3-ブタジエン33部、イタコン酸3.8部及びスチレン63.2部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部、並びに重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、重合体を含む混合物を得た。
上記重合体を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整した後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。その後、30℃以下まで冷却し、粒子状の重合体C(スチレン-ブタジエン共重合体)を含む分散液を得た。なお、分散液の固形分濃度は40%であった。得られた分散液を用いて、重合体Cの平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。
【0129】
<誘電体層形成用スラリー組成物の調製>
誘電体材料として平均粒子径(d50)が0.1μmであるチタン酸バリウム(堺化学工業(株)製「BT-01」)100部、上記で調製した重合体Aの水溶液12.5部(重合体Aを5部含有)、及び、溶媒として水25部を、混合用ビーズである粒径0.1mmのジルコニアビーズ(ニッカトー(株)製)100部と共に、ビーズミル(アイメックス(株)製「RMB-01」)を用いて、500rpmで20時間撹拌した。その後、水32部を更に加え、500rpmで10時間撹拌した。ジルコニアビーズを濾別し、チタン酸バリウムの分散液を調製した。
上記チタン酸バリウムの分散液142.5部(チタン酸バリウムを100部含有)に、上記で調製した重合体Cの分散液を25部(重合体を10部含有)加え、これらを自転公転ミキサーを用いて、1000rpmで3分間撹拌して、スラリー組成物(固形分濃度60%)を調製した。
【0130】
<導電性ペーストの調製>
導電性材料としてのNi粉末(体積平均粒子径:0.3μm)100部、誘電体材料としてのチタン酸バリウム(堺化学工業(株)製「BT-01」)25部、重合体Bとしてのポリビニルブチラール(積水化学工業社製、BL-2H)2部、及び有機溶剤としてのターピネオール65部、を混合して導電性ペースト(固形分濃度66%)を調製した。
【0131】
<積層体の作製>
上記で得られた誘電体層形成用スラリー組成物を、幅100mm×長さ100mmの離型処理したフィルム(リンテック社製、PET38AL-5)に、乾燥後の誘電体層の厚みが約1.0μmになるようにグラビアコーターで塗布し、大気下にて100℃で5分間乾燥させ、離型基材上に誘電体層を作製した。得られた誘電体層付き離型基材を用いて、離型基材と誘電体層との接着強度n1を測定した。
【0132】
次いで、上記で得られた導電性ペーストを、上記で得られた誘電体層付き離型基材の誘電体層上に、厚みが約1.0μmになるようにスクリーン印刷(スクリーン:SUS#500)により塗布し、大気下にて100℃で5分間乾燥させ、誘電体層上に内部電極層を形成した(セラミックグリーンシート法)。即ち、離型基材と、誘電体層と、内部電極層とがこの順に積層されてなる積層体を作製した。得られた積層体を用いて、離型基材と、誘電体層及び内部電極層との接着強度n2を測定し、耐シートアタック性を評価した。また、得られた積層体を用いて、柔軟性、耐ブロッキング性、及び耐粉落ち性を評価した。
【0133】
(実施例2)
重合体Aの水溶液の調製において、重合時の加温温度を60℃から80℃に変更したこと、及び、誘電体層形成用スラリー組成物の調製において、誘電体層形成用スラリー組成物の固形分濃度が62%になるように各成分の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0134】
(実施例3)
重合体Aの水溶液の調製において、重合時の加温温度を60℃から40℃に変更したこと、及び、誘電体層形成用スラリー組成物の調製において、誘電体層形成用スラリー組成物の固形分濃度が55%になるように各成分の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0135】
(実施例4)
導電性ペーストの調製において、重合体Bとしてのポリビニルブチラールをエチルセルロース(ダウ・ケミカル社製、Ethocel(登録商標)STD-200)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0136】
(実施例5)
誘電体層形成用スラリー組成物の調製において、重合体Cを添加せず、誘電体層形成用スラリー組成物の固形分濃度が60%になるように各成分の量を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0137】
(比較例1)
重合体Aの水溶液の調製において、重合時の加温温度を60℃から90℃に変更したこと以外は、実施例4と同様にして、各種操作、測定、及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0138】
なお、以下に示す表1中、
「MAA」は、メタクリル酸単位を示し、
「EA」は、エチルアクリレート単位を示し、
「BA」は、n-ブチルアクリレート単位を示し、
「SBR」は、スチレン-ブタジエン共重合体を示し、
「PVB」は、ポリビニルブチラールを示す。
【0139】
【表1】
【0140】
表1からも明らかな通り、実施例の積層体は、耐シートアタック性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明によれば、耐シートアタック性に優れる積層セラミックコンデンサ用積層体を提供できる。
また、本発明によれば、上記積層セラミックコンデンサ用積層体を焼結してなる積層セラミックコンデンサを提供できる。
【符号の説明】
【0142】
10:積層セラミックコンデンサ
11:誘電体
12:内部電極
13:外部電極
図1