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特開2024-172231ガス処理装置における吸着素子のサンプリング方法
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  • 特開-ガス処理装置における吸着素子のサンプリング方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172231
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ガス処理装置における吸着素子のサンプリング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20241205BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20241205BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20241205BHJP
   G01N 1/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N1/22 L
B01D53/04
B01J20/20 A
G01N1/08 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089809
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】板山 繁
(72)【発明者】
【氏名】坂口 瞬
【テーマコード(参考)】
2G052
4D012
4G066
【Fターム(参考)】
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052BA28
2G052GA09
2G052GA28
2G052JA04
2G052JA07
4D012BA03
4D012CA11
4D012CB16
4D012CD01
4D012CG04
4D012CG05
4G066AA05B
4G066BA16
4G066BA23
4G066BA25
4G066BA26
4G066CA04
4G066DA02
(57)【要約】
【課題】VOCガス処理装置において、被処理ガスの処理性能の低下の要因が吸着素子にあるか分析調査するために、短時間で容易にサンプリングができる方法を提供する。
【解決手段】
本発明のサンプリング方法は、被処理ガスが含有する揮発性有機溶剤を吸着素子にて吸着除去するガス処理装置において、当該吸着素子の劣化状況及び付着物質状況を判断するため、前記吸着素子を固定する金網を工具で一部切り抜く工程と、円筒状のくり抜き治具を、前記吸着素子に含まれる積層された吸着材の外側から内側に向かって差し込み、前記吸着素子から前記吸着材の一部を抜き取る工程と、を含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理ガスが含有する揮発性有機溶剤を吸着素子にて吸着除去するガス処理装置において、当該吸着素子の劣化状況及び付着物質状況を判断するためのサンプリング方法であって、
前記吸着素子を固定する金網を工具で一部切り抜く工程と、
円筒状のくり抜き治具を、前記吸着素子に含まれる積層された吸着材の外側から内側に向かって差し込み、前記吸着素子から前記吸着材の一部を抜き取る工程と、を含むことを特徴とするサンプリング方法。
【請求項2】
前記抜き取った吸着材を、積層の順序を固定したまま前記くり抜き治具より押し出す工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のサンプリング方法。
【請求項3】
前記吸着材の一部を抜き取る工程では、前記吸着材を積層の順序を固定して採取することを特徴とする請求項1に記載のサンプリング方法。
【請求項4】
前記吸着材は繊維状活性炭であることを特徴とする請求項1に記載のサンプリング方法。
【請求項5】
前記吸着素子の前記吸着材を抜き取った跡に、同寸法以上の吸着材を積層して補充する工程と、
切り抜いた前記金網を復旧する工程と、を含む請求項1に記載のサンプリング方法。
【請求項6】
前記吸着材の一部を抜き取る工程は、前記吸着素子を前記ガス処理装置より取り外す工程の後に行うことを特徴とする請求項1に記載のサンプリング方法。
【請求項7】
前記吸着材の一部を抜き取る工程は、前記吸着素子を前記ガス処理装置に搭載したままで行うことを特徴とする請求項1に記載のサンプリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出ガスから揮発性有機化合物(VOC)を吸着素子にて吸着除去し、当該被処理ガスを清浄化するガス処理装置の吸着素子のサンプリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各工場や研究施設等から排出されるガス(後述:被処理ガス)に含有される有機物質には有害な性質を有する種類もあり、被処理ガスを大気中にそのまま排出することができない場合がある。近年、有害大気汚染物質に対する排出濃度規制が強化されてきており、被処理ガス中に含まれる有害物質の濃度を低減することが望まれている。
非処理ガスに含まれる有害な物質が揮発性有機化合物(後述:VOC)の場合は、吸着素子に被処理ガスを流入させて、被処理ガスに含まれるVOCを吸着除去させる方法が用いられる。
【0003】
被処理ガスに含まれるVOCを吸着除去する上述の方法を用い、被処理ガスに含まれるVOCを吸着除去する装置として、VOCガス処理装置が使用されている。VOCガス処理装置を用いて被処理ガスに含まれるVOCを吸着除去することによって被処理ガスを清浄化処理することができる。
【0004】
上述の処理方法を用いたVOCガス処理装置に使用される吸着素子には、主として活性炭素繊維(Activated Carbon Fiber)、後述:ACF)が用いられている。
【0005】
ACFは20Å以下のミクロポアのみが繊維表面に形成されている細孔構造であるので、特定の分子サイズの有機物質を優先的に吸着しやすいことが知られている(例えば非特許文献1)。
【0006】
その他ACFの吸着性能において、影響する細孔構造の状態、吸着材の吸着量、付着物の定量定性は各種分析方法で把握できることが知られている。(例えば非特許文献2)
【0007】
上述の吸着素子のACFが支持材に円筒状に固定され、垂直方向に配設したガス処理装置が特公昭64-11326広報(特許文献1)に開示されている。
【0008】
従来、前記VOCガス処理装置は、吸着材で被処理ガスの有機溶剤を吸着する1対の吸着槽と、各吸着槽に対する被処理ガス供給手段と脱着用ガス供給手段とを設け、吸着槽に被処理ガスを供給する吸着工程と脱着用ガスを供給する脱着工程とに切り替える手段を設けて構成されている(特許文献2)。
【0009】
また、特許文献3、特許文献4、特許文献5にも、同様な吸脱着装置が提案されている。これらは、いずれも、ACFを格納している芯材に蒸気を噴出し、ACFに吸着されたVOCを脱着させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公平01-11326号公報
【特許文献2】特開2009-273975号公報
【特許文献3】特公昭64-11326号公報
【特許文献4】実公平7-2028号公報
【特許文献5】実公平7-2029号公報
【特許文献6】実公平7-2030号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】「活性炭素繊維 KF」SEN-1 GAKKAISHI(繊維と工業)
【非特許文献2】「繊維樹活性炭試験方法」日本産業規格 JIS K 1477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
吸着素子は多孔性構造を有しているため、被処理ガスに含まれる組成によっては重合物、粉塵、その他化合物によるに細孔閉塞等が多孔性構造に影響を及ぼし、吸着処理性能が低下する可能性がある。また長期的に吸着処理及び再生処理を繰り返し行う場合でも当該重合物、粉塵、その他化合物が細孔に蓄積していき、または細孔内で化学変化し難脱着性成分に変化することで徐々に細孔を閉塞させ吸着処理性能が低下する可能性もある。
【0013】
その他、被処理ガスの処理性能低下の要因として、装置のシール等の機械的な劣化や破損、また運転条件等の変化による装置起因によるものもある。
【0014】
VOCガス処理装置における被処理ガス中のVOC除去性能に低下がみられた場合、吸着素子の劣化によるものか、装置起因によるものなのか判断する必要であり、吸着素子にあると考えた場合、この吸着素子を交換する必要があるが、吸着素子のコスト及び交換により発生するコストが大きいため、事前に性能低下要因が吸着素子によるものであるか確認を行う必要がある。
【0015】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みなされ、その目的は、繊維状活性炭を吸着素子に含むVOCガス処理装置において、被処理ガスの処理性能の低下の要因が吸着素子にあるか分析調査するために、短時間で容易にサンプリングができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意研究した結果、本発明を完成するに到った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0017】
1.被処理ガスが含有する揮発性有機溶剤を吸着素子にて吸着除去するガス処理装置において、当該吸着素子の劣化状況及び付着物質状況を判断するためのサンプリング方法であって、前記吸着素子を固定する金網を工具で一部切り抜く工程と、円筒状のくり抜き治具を、前記吸着素子に含まれる積層された吸着材の外側から内側に向かって差し込み、前記吸着素子から前記吸着材の一部を抜き取る工程と、を含むことを特徴とするサンプリング方法。
本発明によると、吸着素子に含まれる吸着材の一部を容易にサンプリングでき、そのサンプルを表面積測定方法等の物性の測定を行うことにより、性能低下の要因が吸着素子由来のものであるか判断可能となり、調査の手間と時間を低減することができる
2.前記抜き取った吸着材を、積層の順序を固定したまま前記くり抜き治具より押し出す工程を含むことを特徴とする上記1に記載のサンプリング方法。
本発明によると、積層順序を固定したまま押し出すことで、被処理ガスが吸着素子を通流する方向に沿った各枚の吸着材の劣化状況及び付着物の物性が把握できる。
3.前記吸着材の一部を抜き取る工程では、前記吸着材を積層の順序を固定して採取することを特徴とする上記1または2に記載のサンプリング方法。
本発明によると、積層された吸着材を順序を固定して採取することで、被処理ガスが吸着素子を通流する方向に沿った各枚の吸着材の劣化状況及び付着物の物性が把握できる。
4.前記吸着材は繊維状活性炭であることを特徴とする上記1~3のいずれか1に記載のサンプリング方法。
5.前記吸着素子の前記吸着材を抜き取った跡に、同寸法以上の吸着材を積層して補充する工程と、切り抜いた前記金網を復旧する工程と、を含むことを特徴とする上記1~4のいずれか1に記載のサンプリング方法。
本発明によると、吸着素子を再度使用できる。
6.前記吸着材の一部を抜き取る工程は、前記吸着素子を前記ガス処理装置より取り外す工程の後に行うことを特徴とする上記1~5のいずれか1に記載のサンプリング方法。
7.前記吸着材の一部を抜き取る工程は、前記吸着素子を前記ガス処理装置に搭載したままで行うことを特徴とする上記1~5のいずれか1に記載のサンプリング方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のサンプリング方法によればVOCガス処理装置において、吸着素子に含まれる吸着材の一部を容易にサンプリングでき、そのサンプルを表面積測定方法等の物性の測定を行うことにより、劣化判断を簡素にでき、調査の手間と時間を低減することができる。本発明のサンプリング方法により、VOCガス処理装置の性能低下の要因が吸着素子由来のものであるか判断することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態のガス処理システムの構成の一例を示す図である。
図2】本発明の実施の形態の吸着素子の構成の一例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態の吸着素子の金網切り取りの状態を示す図である。
図4】本発明の実施の形態の吸着素子のサンプリング方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する構成、部分、材料等については、同じ符号を付し、一度説明したものは適宜省略する。
【0021】
図1は、本実施の形態のVOCガス処理システムの一例を示す構成図である。図1に示すように、VOCガス処理システム10は、吸着素子100に被処理ガスを通気接触させ、被処理ガスに含有する有機物質を吸着除去して被処理ガスを清浄化し、VOCが吸着された吸着素子100に加熱ガスを通気接触させ再生する機構を持つシステムである。ガス処理システムは、吸着処理を行う工程と吸着素子の再生処理を行う工程を一定時間で交互に繰り返す。
【0022】
図2は、本実施の形態のVOCガス処理システムに配設する吸着素子の一例を示す構成図である。円筒状の金網状の支持体101に吸着材である活性炭素繊維(ACF)102が一定の厚みになるまで螺旋状に巻かれている。またACF102の厚みや形状の変化の防止の為に、ACF102の外周に金網103を巻いて針金104で固定をしている。
【0023】
図3及び図4は、本実施の形態の吸着素子のサンプリング方法の一例を示す図である。ACF102の外周に巻かれている金網104の一部を切り開き、ACF102を露出させ、円筒状のくり抜き治具301をACF102に押し当て、積層状になっているACF102の外側から内側に向かって差し込み、ACFの一部を抜き取り採取する。採取した後、代わりに用意した交換用のACF302をACF102のくり抜かれた跡(穴)に支持体101の方向に向けて詰めて、切り開いた金網201を針金等で修復する。
【0024】
以上において説明した本実施形態のサンプリング方法を実現することができる。
【実施例0025】
上記実施の形態にて説明した本発明に係る吸着素子のサンプリング方法の詳細を、さら
に以下の実施例を用いて説明する。しかし、本発明は以下実施例に限定されるものでない。なお、実施例でサンプリングした吸着素子の特性の評価は下記の方法により測定した。
【0026】
(全酸性基量)
表面酸性基量はBoehm滴定法により測定した。
活性炭試料約1gに対し0.01molの水酸化ナトリウム水溶液を60ml加え、25℃で約2時間浸透させた。活性炭試料と溶液を濾紙で通過分離した濾液を25ml採取した。濾液に指示薬としてフェノールフタレインを適量加え、撹拌しながら0.01mlの塩酸を滴下して、中和した時点での残留塩基量を滴定し、以下の式で全酸性基量を算出した。
全酸性基量(meq/g)=(D×50×K)/(W×25)
D:吸着塩基性量(ml)
K:塩酸濃度(mol/l)
W:活性炭素試料
【0027】
(BET比表面積)
BET比表面積は、液体窒素の沸点(-195.8℃)雰囲気下、相対圧力0.0~0.15の範囲で上昇させたときの試料への窒素吸着量を数点測定し、BETプロットにより料単位質量あたりの表面積(m/g)を求めた。
【0028】
(細孔容積)
細孔容積は、相対圧0.95における窒素ガスの気体吸着法により測定した。
【0029】
(平均細孔径)
平均細孔径は、以下の式で求めた。
dp=40000Vp/S(ただし、dp:平均細孔径(Å))
Vp:細孔容積(cc/g)
S:BET比表面積(m/g)
【0030】
本実施例のサンプリング方法として、上記実施の形態にて説明した図1~4に示すガス処理システム、吸着素子、サンプリング方法で実施した。
[実施例]
【0031】
吸着素子をVOCガス処理装置よりサンプリングする場合において、当該処理装置の吸着槽に点検口があるとより良い。点検口がある場合、当該装置より吸着素子を取り外すことなくサンプリングすることが可能となり作業効率が大きく向上する。
【0032】
吸着素子の周囲の金網の一部を工具で図4記載のように100mmの長さに切断し、内側の吸着素子に触れることができるまで開放する。その後、露出した吸着素子に直径30~50mm、厚み0.8~1mmの円筒状の金属管を吸着素子円筒中心部に向けて押し当て吸着材をくり抜く。そこで、吸着材のくり抜き径は特に限定はしないが、くり抜き径を大きくすると吸着材の評価が容易となるが、吸着材のサンプリング回数が限られてしまい、くり抜き径を小さくするとサンプリングが困難となるため30~50mmとするのが良い。また、吸着材をくり抜く金属管の厚みは特に限定はしないが、金属管の厚みが極端に大きい、若しくは小さいとサンプリングが困難となるため、0.8~1mmとするのが良い。
【0033】
吸着素子に金属管を用いて押し当てた後はゆっくりと引き抜いてサンプリングを行う。その際に、吸着素子内部に残ったサンプルについてはピンセットなどを使用して吸着素子内部まで全てを取り出す。
【0034】
取り出した吸着材は順序不動とするため、針金などを通して針金の前後を折リ曲げ、吸着材の向きを把握する為、針金の前後に吸着素子の内側であるか外側であるかマーキングを行う。
【0035】
吸着材をくり抜かれた吸着素子の穴についてはコーキングなどを行って埋める必要がなく、くり抜いた径で切り出した新品の吸着材を用意し、同枚数以上を詰めて埋め戻すことで吸着素子をサンプリングの影響なく再利用することが可能となる。
【0036】
新品の吸着材を詰めて埋め戻した後に吸着材が飛び出さないように50mm以上の四角に切り取った新品の吸着材を外側に当てて、金網を閉じ、針金を使用して閉じた金網が開かないように固定を行う。
【0037】
上記開示した実施の形態、各変形例、および実施例はすべて例示であり制限的なものではない。また、実施の形態、各変形例、および実施例を適宜組み合わせた形態も本発明の範疇に含まれる。つまり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって有効であり、特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内のすべての変更・修正・置き換え等を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のサンプリング方法によれば、VOCガス処理装置の吸着素子を容易にサンプリングできるため、繊維状活性炭を吸着素子に含むVOCガス処理装置において、被処理ガスの処理性能の低下の要因が吸着素子にあるかを分析調査するために短時間で容易に判断することが可能になる。
【符号の説明】
【0039】
10 :VOCガス処理システム
11 :被処理ガス
12 :送風機
13 :吸着槽
14 :脱着ガス
15 :処理ガス
100:吸着素子
101:金網状の支持体
102:ACF(吸着材)
103:金網
104:針金
200:金網切り開き図
201:切り開いた金網
300:サンプリング
301:くり抜き治具
302:交換用のACF
図1
図2
図3
図4