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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017225
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】検査システムおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 7/586 20170101AFI20240201BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20240201BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240201BHJP
【FI】
G06T7/586
G01N21/88 J
G06T7/00 610Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119728
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006932
【氏名又は名称】リコーエレメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 寛史
【テーマコード(参考)】
2G051
5L096
【Fターム(参考)】
2G051AB01
2G051AB02
2G051BB20
2G051BC04
2G051CA04
2G051CB01
2G051EA08
2G051EA12
2G051EA14
2G051EA16
2G051ED04
5L096AA03
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA04
5L096CA17
5L096DA02
5L096EA16
5L096FA08
5L096FA17
5L096FA34
5L096FA67
5L096FA69
5L096GA02
5L096GA05
5L096GA07
5L096GA55
5L096GA59
5L096HA01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】検査システムにおいて、少ない計算コストで特徴量を算出する方法を提供する。
【解決手段】検査システムは、検査対象物に対して複数種類の照明方法によって光を照射する照明部である照明装置120と、前記照明部による複数種類の照明方法の切り替えに合わせて撮像を行う撮像部である時間相関カメラ110から、少なくとも、第1データと、第2データと、を含む複数のデータを取得する取得部104及び画素ごとの所定の特徴量を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた処理を行い、そのときに、前記第1データと前記第2データとを用いた行列による演算を行うことにより、前記着目画素の前記特徴量を算出する算出部105を含むPC100と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物に対して複数種類の照明方法によって光を照射する照明部と、
前記照明部による複数種類の照明方法の切り替えに合わせて撮像を行う撮像部から、少なくとも、第1データと、第2データと、を含む複数のデータを取得する取得部と、
画素ごとの所定の特徴量を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた処理を行い、そのときに、前記第1データと前記第2データとを用いた行列による演算を行うことにより、前記着目画素の前記特徴量を算出する算出部と、
を備える検査システム。
【請求項2】
前記照明部は、前記検査対象物に対して周期的に空間的に強度が変化する光を照射し、
前記取得部は、前記撮像部である時間相関カメラから、複素時間相関画像データのうち、前記第1データとして、実数部を表す第1画素値を取得し、前記第2データとして、虚数部を表す第2画素値を取得し、
前記算出部は、前記画素ごとの前記特徴量として位相勾配を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた一次微分フィルタ処理を行い、そのときに、振幅画素値と位相画素値の積を表す行列であって前記第1画素値と前記第2画素値とを用いた行列による演算を行うことにより、前記着目画素の位相勾配を算出する、請求項1に記載の検査システム。
【請求項3】
前記照明部は、前記検査対象物に対して周期的に空間的に強度が変化する光を照射し、
前記取得部は、前記撮像部である時間相関カメラから、複素時間相関画像データのうち、前記第1データとして、実数部を表す第1画素値を取得し、前記第2データとして、虚数部を表す第2画素値を取得し、
前記算出部は、前記画素ごとの前記特徴量として位相ラプラシアンを算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いたラプラシアンフィルタ処理を行い、そのときに、振幅画素値と位相画素値の積を表す行列であって前記第1画素値と前記第2画素値とを用いた行列による演算を行うことにより、前記着目画素の位相ラプラシアンを算出する、請求項1に記載の検査システム。
【請求項4】
前記算出部は、前記位相勾配に基づいて、それぞれの前記画素について位相曲面の接平面を接続することで位相画像を算出する、請求項2に記載の検査システム。
【請求項5】
検査対象物に対して複数種類の照明方法によって光を照射する照明部を備える検査システムによる検査方法であって、
前記照明部による複数種類の照明方法の切り替えに合わせて撮像を行う撮像部から、少なくとも、第1データと、第2データと、を含む複数のデータを取得する取得ステップと、
画素ごとの所定の特徴量を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた処理を行い、そのときに、前記第1データと前記第2データとを用いた行列による演算を行うことにより、前記着目画素の前記特徴量を算出する算出ステップと、
を含む検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、検査システムおよび検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、検査対象物に対して周期的に空間的に強度が変化する光を照射し、検査対象物の表面からの反射光を撮像して撮像画像を取得し、撮像画像の輝度変化等に基づいて検査対象物の異常を検出する技術が提案されている。
【0003】
例えば、位相シフト法の場合、時間相関カメラから取得した複素時間相関画像データに基づいて、複素画像(位相画像や振幅画像)を算出した後に、位相勾配や位相ラプラシアンなどの特徴量を算出し、特徴量に基づいて検査対象物の異常を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6433268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術では、位相勾配や位相ラプラシアンなどの特徴量を算出するのに、複素時間相関画像データに基づいて複素画像を算出する必要があり、計算コストの点などで改善の余地がある。
【0006】
そこで、本実施形態の課題は、少ない計算コストで特徴量を算出することができる検査システムおよび検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の検査システムは、検査対象物に対して複数種類の照明方法によって光を照射する照明部と、前記照明部による複数種類の照明方法の切り替えに合わせて撮像を行う撮像部から、少なくとも、第1データと、第2データと、を含む複数のデータを取得する取得部と、画素ごとの所定の特徴量を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた処理を行い、そのときに、前記第1データと前記第2データとを用いた行列による演算を行うことにより、前記着目画素の前記特徴量を算出する算出部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の検査システムの構成例を示した図である。
図2図2は、実施形態の時間相関カメラの構成を示したブロック図である。
図3図3は、実施形態の時間相関カメラで時系列順に蓄積されたフレームを表した概念図である。
図4図4は、実施形態の照明装置が照射する縞パターンの一例を示した図である。
図5図5は、実施形態の時間相関カメラによる、検査対象物の異常の第1の検出例を示した図である。
図6図6は、図5に示される異常が検査対象物にある場合に、当該異常に応じて変化する、光の振幅の例を表した図である。
図7図7は、実施形態の時間相関カメラによる、検査対象物の異常の第2の検出例を示した図である。
図8図8は、実施形態の時間相関カメラによる、検査対象物の異常の第3の検出例を示した図である。
図9図9は、実施形態の照明制御部が照明装置に出力する縞パターンの例を示した図である。
図10図10は、実施形態のスクリーンを介した後の縞パターンを表した波の形状の例を示した図である。
図11図11は、一次元の場合の中心差分の説明図である。
図12図12は、二次元の場合の中心差分の例の説明図である。
図13図13は、従来技術の位相中心差分の計算の説明図である。
図14図14は、実施形態の位相勾配の計算の説明図である。
図15図15は、従来技術の位相ラプラシアンの計算の説明図である。
図16図16は、実施形態の位相ラプラシアンの計算の説明図である。
図17図17は、実施形態の撮像画像の例を示す図である。
図18図18は、実施形態の位相勾配画像の例を示す図である。
図19図19は、従来技術と実施形態の位相画像の例を示す図である。
図20図20は、実施形態の位相ラプラシアン画像の例を示す図である。
図21図21は、実施形態における勾配接続の説明図である。
図22図22は、実施形態の位相畳み込み算出の説明図である。
図23図23は、実施形態における位相とガウシアン平坦化位相の差の説明図である。
図24図24は、図23の手法で算出した画像の例を示す図である。
図25図25は、実施形態における位相勾配算出処理を示すフローチャートである。
図26図26は、実施形態における位相ラプラシアン算出処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の検査システムおよび検査方法の実施形態について説明する。なお、以下の実施形態では、位相シフト法を使う場合について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0010】
実施形態の概要を説明すると、まず、図1図10を用いて、位相シフト法における従来からの強度画像、振幅画像、位相画像の生成などについて説明する。その後で、図11図26を用いて、少ない計算コストで特徴量(位相勾配、位相ラプラシアン)を算出する技術について説明する。
【0011】
実施形態の検査システムは、検査対象物を検査するために様々な構成を備えている。図1は、本実施形態の検査システムの構成例を示した図である。図1に示されるように、本実施形態の検査システムは、PC100と、時間相関カメラ110(撮像部)と、照明装置120と、スクリーン130と、アーム140と、を備えている。
【0012】
アーム140は、検査対象物150(以下、「被検体」ともいう。)を固定するために用いられ、PC100からの制御に応じて、時間相関カメラ110が撮影可能な検査対象物150の表面の位置と向きを変化させる。
【0013】
照明装置120は、検査対象物150に対して周期的に空間的に強度が変化する光を照射する。具体的には、照明装置120は、PC100からの縞パターンにしたがって、照射する光の強度を領域単位で制御する。また、照明装置120は、周期的な時間の遷移にしたがって当該領域単位の光の強度を制御できる。換言すれば、照明装置120は、光の強度の周期的な時間変化及び空間変化を与えることができる。なお、具体的な光の強度の制御手法については後述する。
【0014】
スクリーン130は、照明装置120から出力された光を拡散させた上で、検査対象物150に対して面的に光を照射する。本実施形態のスクリーン130は、照明装置120から入力された周期的な時間変化及び空間変化が与えられた光を、面的に検査対象物150に照射する。なお、照明装置120とスクリーン130との間には、集光用のフレネルレンズ等の光学系部品(図示されず)が設けられてもよい。
【0015】
なお、本実施形態は、照明装置120とスクリーン130とを組み合わせて、光強度の周期的な時間変化及び空間変化を与える面的な照射部を構成する例について説明するが、このような組み合わせに制限するものではなく、例えば、LEDを面的に配置して照明部を構成してもよい。また、市販のモニターやテレビなどの一般的なディスプレイによって照明部を構成してもよい。
【0016】
時間相関カメラ110は、光学系210と、イメージセンサ220と、データバッファ230と、制御部240と、参照信号出力部250と、を備えている。図2は、本実施形態の時間相関カメラ110の構成を示したブロック図である。時間相関カメラ110は、照明部による複数種類の照明方法の切り替えに合わせて撮像を行う撮像部の例である。
【0017】
なお、本実施形態では、位相シフト法を前提にしているので、照明部が検査対象物に対して周期的に空間的に強度が変化する光を照射し、時間相関カメラ110が検査対象物を撮像する。
【0018】
一方、位相シフト法以外であれば、照明部が検査対象物に対して複数種類の照明方法によって光を照射し、撮像部は照明部による複数種類の照明方法の切り替えに合わせて検査対象物の撮像を行う。具体的には、例えば、照明部として2つのLED照明を用意して検査対象物に対して異なる位置(角度)に設置する。そして、片方のLED照明を点灯させたときにカメラで撮像した画素値をC1とし、他方のLED照明を点灯させたときにカメラで撮像した画素値をC2とすることが考えられる。
【0019】
また、別の手法として、例えば、各相対位置(k=0,1,2,…,n)で撮像した画素値をn+1次元のベクトルとして扱い、これを本出願人が出願した特開2021-174074号公報の請求項3における第2ベクトルとし、同公報の方法に従って第2ベクトルを粗視化(簡略化)することで得られる第1ベクトルとのなす角Φを用いて、(sinΦ,cosΦ)を(C1,C2)とすることが考えられる。
【0020】
本実施形態の説明に戻って、光学系210は、撮影レンズ等を含み、時間相関カメラ110の外部の被写体(検査対象物を含む)からの光束を透過し、その光束により形成される被写体の光学像を結像させる。
【0021】
イメージセンサ220は、照明装置120によって照射された光が検査対象物150の表面で反射することで発生した反射光を含む光を、光学系210を介して撮像する。具体的には、イメージセンサ220は、光学系210を介して入射された光の強弱を光強度信号として画素毎に高速に出力可能なセンサである。
【0022】
本実施形態の光強度信号は、検査システムの照明装置120が被写体(検査対象物を含む)に対して光を照射し、当該被写体からの反射光を、イメージセンサ220が受け取ったものである。
【0023】
イメージセンサ220は、例えば従来のものと比べて高速に読み出し可能なセンサであり、行方向(x方向)、列方向(y方向)の2種類の方向に画素が配列された2次元平面状に構成されたものとする。そして、イメージセンサ220の各画素を、画素P(1,1),……,P(i,j),……,P(X,Y)とする(なお、本実施形態の画像サイズをX×Yとする。)。なお、イメージセンサ220の読み出し速度を制限するものではなく、従来と同様であってもよい。
【0024】
イメージセンサ220は、光学系210によって透過された、被写体(検査対象物を含む)からの光束を受光して光電変換することで、被写体から反射された光の強弱を示した光強度信号(撮影信号)で構成される、2次元平面状のフレームを生成し、制御部240に出力する。本実施形態のイメージセンサ220は、読み出し可能な単位時間毎に、当該フレームを出力する。
【0025】
本実施形態の制御部240は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成され、ROMに格納された検査プログラムを実行することで、転送部241と、読出部242と、強度画像用重畳部243と、第1の乗算器244と、第1の相関画像用重畳部245と、第2の乗算器246と、第2の相関画像用重畳部247と、画像出力部248と、を実現する。なお、CPU等で実現することに制限するものではなく、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)などで実現してもよい。
【0026】
転送部241は、イメージセンサ220から出力された、光強度信号で構成されたフレームを、データバッファ230に、時系列順に蓄積する。
【0027】
データバッファ230は、イメージセンサ220から出力された、光強度信号で構成されたフレームを、時系列順に蓄積する。
【0028】
図3は、本実施形態の時間相関カメラ110で時系列順に蓄積されたフレームを表した概念図である。図3に示されるように、本実施形態のデータバッファ230には、時刻t(t=t0,t1,t2,……,tn)毎の複数の光強度信号G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)の組み合わせで構成された複数のフレームFk(k=1,2,……,n)が、時系列順に蓄積される。なお、時刻tで作成される一枚のフレームは、光強度信号G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)で構成される。
【0029】
本実施形態の光強度信号(撮像信号)G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)には、フレーム画像Fk(k=1,2,……,n)を構成する各画素P(1,1),……,P(i,j),……,P(X,Y)が対応づけられている。
【0030】
イメージセンサ220から出力されるフレームは、光強度信号のみで構成されており、換言すればモノクロの画像データとも考えることができる。なお、本実施形態は、解像度、感度、及びコスト等を考慮して、イメージセンサ220がモノクロの画像データを生成する例について説明するが、イメージセンサ220としてモノクロ用のイメージセンサに制限するものではなく、カラー用のイメージセンサを用いてもよい。
【0031】
図2に戻り、本実施形態の読出部242は、データバッファ230から、光強度信号G(1,1,t),……,G(i,j,t),……,G(X,Y,t)をフレーム単位で、時系列順に読み出して、第1の乗算器244と、第2の乗算器246と、強度画像用重畳部243と、に出力する。
【0032】
本実施形態の時間相関カメラ110は、読出部242の出力先毎に画像データを生成する。換言すれば、時間相関カメラ110は、3種類の画像データを作成する。
【0033】
本実施形態の時間相関カメラ110は、3種類の画像データとして、強度画像データと、2種類の時間相関画像データと、を生成する。なお、本実施形態は、3種類の画像データを生成することに制限するものではなく、強度画像データを生成しない場合や、1種類又は3種類以上の時間相関画像データを生成する場合も考えられる。
【0034】
本実施形態のイメージセンサ220は、上述したように単位時間毎に、光強度信号で構成されたフレームを出力している。しかしながら、通常の画像データを生成するためには、撮影に必要な露光時間分の光強度信号が必要になる。そこで、本実施形態では、強度画像用重畳部243が、撮影に必要な露光時間分の複数のフレームを重畳して、強度画像データを生成する。なお、強度画像データの各画素値(光の強度を表す値)G(x,y)は、以下に示す式(1)から導き出すことができる。なお、露光時間は、t0とtnの時間差とする。
【0035】
【数1】
【0036】
これにより、従来のカメラの撮影と同様に、被写体(検査対象物を含む)が撮影された強度画像データが生成される。そして、強度画像用重畳部243は、生成した強度画像データを、画像出力部248に出力する。
【0037】
時間相関画像データは、時間遷移に応じた光の強弱の変化を示す画像データである。つまり、本実施形態では、時系列順のフレーム毎に、当該フレームに含まれる光強度信号に対して、時間遷移を示した参照信号を乗算し、参照信号と光強度信号と乗算結果である時間相関値で構成された、時間相関値フレームを生成し、複数の時間相関値フレームを重畳することで、時間相関画像データを生成する。
【0038】
ところで、時間相関画像データを用いて、検査対象物の異常を検出するためには、イメージセンサ220に入力される光強度信号を、参照信号に同期させて変化させる必要がある。このために、照明装置120が、上述したように、スクリーン130を介して周期的に時間変化および縞の空間的な移動を与えるような、面的な光の照射を行うこととした。
【0039】
本実施形態では、2種類の時間相関画像データを生成する。参照信号は、時間遷移を表した信号であればよいが、本実施形態では、複素正弦波e-jωt(後述するcos(ωt)、sin(ωt))を用いる。なお、角周波数ω、時刻tとする。参照信号を表す複素正弦波e-jωtが、上述した露光時間(換言すれば強度画像データ、時間相関画像を生成するために必要な時間)の一周期と相関をとるように、角周波数ωが設定されるものとする。換言すれば、照明装置120およびスクリーン130等の照明部によって形成された面的かつ動的な光は、検査対象物150の表面(反射面)の各位置で第一の周期(時間周期)での時間的な照射強度の変化を与えるとともに、表面に沿った少なくとも一方向に沿った第二の周期(空間周期)での空間的な照射強度の増減分布を与える。この面的な光は、表面で反射される際に、当該表面のスペック(法線ベクトルの分布等)に応じて複素変調される。時間相関カメラ110は、表面で複素変調された光を受光し、第一の周期の参照信号を用いて直交検波(直交復調)することにより、複素信号としての時間相関画像データを得る。このような複素時間相関画像データに基づく変復調により、表面の法線ベクトルの分布に対応した特徴を検出することができる。
【0040】
複素正弦波e-jωtは、e-jωt=cos(ωt)-j・sin(ωt)と表すこともできる。したがって、時間相関画像データの各画素値C(x,y)は、以下に示す式(2)から導き出すことができる。
【0041】
【数2】
【0042】
本実施形態では、式(2)において、実数部を表す画素値C1(x,y)(第1画素値)と、虚数部を表す画素値C2(x,y)(第2画素値)と、に分けて2種類の時間相関画像データを生成する。
【0043】
このため、参照信号出力部250は、第1の乗算器244と、第2の乗算器246と、に対してそれぞれ異なる参照信号を生成し、出力する。本実施形態の参照信号出力部250は、複素正弦波e-jωtの実数部に対応する第1の参照信号cosωtを第1の乗算器244に出力し、複素正弦波e-jωtの虚数部に対応する第2の参照信号sinωtを第2の乗算器246に出力する。このように本実施形態の参照信号出力部250は、互いにヒルベルト変換対をなす正弦波および余弦波の時間関数として表される2種類の参照信号を出力する例について説明するが、参照信号は時間関数のような時間遷移に応じて変化する参照信号であればよい。
【0044】
そして、第1の乗算器244は、読出部242から入力されたフレーム単位で、当該フレームの光強度信号毎に、参照信号出力部250から入力された複素正弦波e-jωtの実数部cosωtを乗算する。
【0045】
第1の相関画像用重畳部245は、撮影に必要な露光時間分の複数のフレームについて、第1の乗算器244の乗算結果を画素毎に重畳する処理を行う。これにより、第1の時間相関画像データの各画素値C1(x,y)が、以下の式(3)から導出される。
【0046】
【数3】
【0047】
そして、第2の乗算器246は、読出部242から入力されたフレームの光強度信号に対して、参照信号出力部250から入力された複素正弦波e-jωtの虚数部sinωtを乗算する。
【0048】
第2の相関画像用重畳部247は、撮影に必要な露光時間分の複数のフレームについて、第2の乗算器246の乗算結果を画素毎に重畳する処理を行う。これにより、第2の時間相関画像データの各画素値C2(x、y)が、以下の式(4)から導出される。
【0049】
【数4】
【0050】
上述した処理を行うことで、2種類の時間相関画像データ、換言すれば2自由度を有する時間相関画像データを生成できる。
【0051】
また、本実施形態は、参照信号の種類を制限するものでない。例えば、本実施形態では、複素正弦波e-jωtの実部と虚部の2種類の時間相関画像データを作成するが、光の振幅と、光の位相と、による2種類の画像データを生成してもよい。
【0052】
なお、本実施形態の時間相関カメラ110は、時間相関画像データとして、複数系統分作成可能とする。これにより、例えば複数種類の幅の縞が組み合わされた光が照射された際に、上述した実部と虚部とによる2種類の時間相関画像データを、縞の幅毎に作成可能とする。このために、時間相関カメラ110は、2個の乗算器と2個の相関画像用重畳部とからなる組み合わせを、複数系統分備えるとともに、参照信号出力部250は、系統毎に適した角周波数ωによる参照信号を出力可能とする。
【0053】
そして、画像出力部248が、2種類の時間相関画像データと、強度画像データと、をPC100に出力する。これにより、PC100が、2種類の時間相関画像データと、強度画像データと、を用いて、検査対象物の異常を検出する。そのためには、被写体に対して光を照射する必要がある。
【0054】
本実施形態の照明装置120は、高速に移動する縞パターンを照射する。図4は、本実施形態の照明装置120が照射する縞パターンの一例を示した図である。図4に示す例では、縞パターンをx方向にスクロール(移動)させている例とする。白い領域が縞に対応した明領域、黒い領域が縞と縞との間に対応した間隔領域(暗領域)である。
【0055】
本実施形態では、時間相関カメラ110が強度画像データ及び時間相関画像データを撮影する露光時間で、照明装置120が照射する縞パターンが一周期分移動させる。これにより、照明装置120は、光の強度の縞パターンの空間的な移動により光の強度の周期的な時間変化を与える。本実施形態では、図4の縞パターンが一周期分移動する時間を、露光時間と対応させることで、時間相関画像データの各画素には、少なくとも、縞パターン一周期分の光の強度信号に関する情報が埋め込まれる。
【0056】
図4に示されるように、本実施形態では、照明装置120が矩形波に基づく縞パターンを照射する例について説明するが、矩形波以外を用いてもよい。本実施形態では、照明装置120がスクリーン130を介して照射されることで、矩形波の明暗の境界領域をぼかすことができる。
【0057】
本実施形態では、照明装置120が照射する縞パターンをA(1+cos(ωt+kx))と表す。すなわち、縞パターンには、複数の縞が反復的に(周期的に)含まれる。なお、検査対象物に照射される光の強度は0~2Aの間で調整可能とし、光の位相kxとする。kは、縞の波数である。xは、位相が変化する方向である。
【0058】
そして、フレームの各画素の光強度信号f(x,y,t)の基本周波数成分は、以下の式(5)として表すことができる。式(5)で示されるように、x方向で縞の明暗が変化する。
【0059】
f(x,y,t)=A(1+cos(ωt+kx))
=A+A/2{ej(ωt+kx)+e-j(ωt+kx)}……(5)
【0060】
式(5)で示されるように、照明装置120が照射する縞パターンの強度信号は、複素数として扱うことができる。
【0061】
そして、イメージセンサ220には、当該照明装置120からの光が被写体(検査対象物を含む)から反射して入力される。
【0062】
したがって、イメージセンサ220に入力される光強度信号G(x,y,t)を、照明装置120が照射された際のフレームの各画素の光強度信号f(x,y,t)とできる。そこで、強度画像データを導出するための式(1)に式(5)を代入すると、式(6)を導出できる。なお、位相kxとする。
【0063】
【数5】
【0064】
式(6)から、強度画像データの各画素には、露光時間Tに、照明装置120が出力している光の強度の中間値Aを乗じた値が入力されていることが確認できる。さらに、時間相関画像データを導出するための式(2)に式(5)を代入すると、式(7)を導出できる。なお、AT/2を振幅とし、kxを位相とする。
【0065】
【数6】
【0066】
これにより、式(7)で示された複素数で示された時間相関画像データは、上述した2種類の時間相関画像データと置き換えることができる。つまり、上述した実部と虚部とで構成される時間相関画像データには、検査体に照射された光強度変化における位相変化と振幅変化とが含まれている。換言すれば、本実施形態のPC100は、2種類の時間相関画像データに基づいて、照明装置120から照射された光の位相変化と、光の振幅変化と、を検出できる。そこで、本実施形態のPC100が、時間相関画像データ及び強度画像データに基づいて、画素毎に入る光の振幅を表した振幅画像データと、画素毎に入る光の位相変化を表した位相画像データと、を生成する。
【0067】
さらに、PC100は、生成した振幅画像データと位相画像データとに基づいて、検査対象物の異常を検出する。
【0068】
ところで、検査対象物の表面形状に凹凸に基づく異常が生じている場合、検査対象物の表面の法線ベクトルの分布には異常に対応した変化が生じている。また、検査対象物の表面に光を吸収するような異常が生じている場合、反射した光の強度に変化が生じる。法線ベクトルの分布の変化は、光の位相変化及び振幅変化のうち少なくともいずれか一つとして検出される。そこで、本実施形態では、時間相関画像データ及び強度画像データを用いて、法線ベクトルの分布の変化に対応した、光の位相変化及び振幅変化のうち少なくともいずれか一つを検出する。これにより、表面形状の異常を検出可能となる。次に、検査対象物の異常、法線ベクトル、及び光の位相変化又は振幅変化の関係について説明する。
【0069】
図5は、実施形態の時間相関カメラ110による、検査対象物の異常の第1の検出例を示した図である。図5に示される例では、検査対象物500に突形状の異常501がある状況とする。当該状況においては、異常501の点502の近傍領域においては、法線ベクトル521、522、523が異なる方向を向いていることを確認できる。そして、当該法線ベクトル521、522、523が異なる方向を向いていることで、異常501から反射した光に拡散(例えば、光511、512、513)が生じ、時間相関カメラ110のイメージセンサ220の任意の画素531に入る縞パターンの幅503が広くなる。
【0070】
図6は、図5に示される異常501が検査対象物500にある場合に、当該異常に応じて変化する、光の振幅の例を表した図である。図6に示される例では、光の振幅を実部(Re)と、虚部(Im)に分けて2次元平面上に表している。図6では、図5の光511、512、513に対応する光の振幅611、612、613として示している。そして、光の振幅611、612、613は互いに打ち消し合い、イメージセンサ220の当該任意の画素531には、振幅621の光が入射する。
【0071】
したがって、図6に示される状況で、検査対象物500の異常501が撮像された領域で振幅が小さいことが確認できる。換言すれば、振幅変化を示した振幅画像データで、周囲と比べて暗くなっている領域がある場合に、当該領域で光同士の振幅の打ち消し合いが生じていると推測できるため、当該領域に対応する検査対象物500の位置で異常501が生じていると判断できる。
【0072】
本実施形態の検査システムは、図5の異常501のように傾きが急峻に変化しているものに限らず、緩やかに変化する異常も検出できる。図7は、実施形態の時間相関カメラ110による、検査対象物の異常の第2の検出例を示した図である。図7に示される例では、正常な場合は検査対象物の表面が平面(換言すれば法線が平行)となるが、検査対象物700に緩やかな勾配701が生じた状況とする。このような状況においては、勾配701上の法線ベクトル721、722、723も同様に緩やかに変化する。したがって、イメージセンサ220に入力する光711、712、713も少しずつずれていく。図7に示される例では、緩やかな勾配701のために光の振幅の打ち消し合いは生じないため、図5図6で表したような光の振幅はほとんど変化しない。しかしながら、本来スクリーン130から投影された光が、そのままイメージセンサに平行に入るはずが、緩やかな勾配701のために、スクリーン130から投影された光が平行の状態でイメージセンサに入らないために、光に位相変化が生じる。したがって、光の位相変化について、周囲等との違いを検出することで、図7に示したような緩やかな勾配701による異常を検出できる。
【0073】
また、検査対象物の表面形状(換言すれば、検査対象物の法線ベクトルの分布)以外にも異常が生じる場合がある。図8は、実施形態の時間相関カメラ110による、検査対象物の異常の第3の検出例を示した図である。図8に示される例では、検査対象物800に汚れ801が付着しているため、照明装置120から照射された光が吸収あるいは拡散反射し、時間相関カメラ110の、汚れ801を撮影している任意の画素領域では光がほとんど強度変化しない例を表している。換言すれば、汚れ801を撮影している任意の画素領域では、光強度は位相打ち消しを起こし振動成分がキャンセルされ、ほとんど直流的な明るさになる例を示している。
【0074】
このような場合、汚れ801を撮影している画素領域においては、光の振幅がほとんどないため、振幅画像データを表示した際に、周囲と比べて暗くなる領域が生じる。したがって、当該領域に対応する検査対象物800の位置に、汚れ801等の異常があることを推定できる。
【0075】
このように、本実施形態では、時間相関画像データに基づいて、光の振幅の変化と、光の位相の変化と、を検出することで、検査対象物に異常があることを推定できる。
【0076】
図1に戻り、PC100について説明する。PC100は、検出システム全体の制御を行う。PC100は、アーム制御部101と、照明制御部102と、処理部103と、を備える。
【0077】
アーム制御部101は、検査対象物150の時間相関カメラ110による撮像対象となる表面を変更するために、アーム140を制御する。本実施形態では、PC100において、検査対象物の撮影対象となる表面を複数設定しておく。そして、時間相関カメラ110が検査対象物150の撮影が終了する毎に、アーム制御部101が、当該設定にしたがって、時間相関カメラ110が設定された表面を撮影できるように、アーム140が検査対象物150を移動させる。なお、本実施形態は撮影が終了する毎にアームを移動させ、撮影が開始する前に停止させることを繰り返すことに制限するものではなく、継続的にアーム140を駆動させてもよい。
【0078】
照明制御部102は、検査対象物150を検査するために照明装置120が照射する縞パターンを出力する。本実施形態の照明制御部102は、少なくとも3枚以上の縞パターンを、照明装置120に受け渡し、当該縞パターンを露光時間中に切り替えて表示するように照明装置120に指示する。
【0079】
図9は、照明制御部102が照明装置120に出力する縞パターンの例を示した図である。図9(B)に示す矩形波にしたがって、図9(A)に示す黒領域と白領域とが設定された縞パターンが出力されるように、照明制御部102が制御を行う。
【0080】
本実施形態で照射する縞パターン毎の縞の間隔は、検出対象となる異常(欠陥)の大きさに応じて設定されるものとしてここでは詳しい説明を省略する。
【0081】
また、縞パターンを出力するための矩形波の角周波数ωは、参照信号の角周波数ωと同じ値とする。
【0082】
図9に示されるように、照明制御部102が出力する縞パターンは、矩形波として示すことができるが、スクリーン130を介することで、縞パターンの境界領域をぼかす、すなわち、縞パターンにおける明領域(縞の領域)と暗領域(間隔の領域)との境界での光の強度変化を緩やかにする(鈍らせる)ことで、正弦波に近似させることができる。図10は、スクリーン130を介した後の縞パターンを表した波の形状の例を示した図である。図10に示されるように波の形状が、正弦波に近づくことで、計測精度を向上させることができる。また、縞に明度が多段階に変化するグレー領域を追加したり、グラデーションを与えたりしてもよい。また、カラーの縞を含む縞パターンを用いてもよい。
【0083】
図1に戻り、処理部103は、時間相関カメラ110から入力された強度画像データと、時間相関画像データと、により、検査対象物150の検査対象面の法線ベクトルの分布と対応した特徴であって、周囲との違いによって異常を検出する特徴を算出するための処理を行う。なお、本実施形態は、検査を行うために、複素数で示した時間相関画像データ(複素時間相関画像データと称す)の代わりに、複素数相関画像データの実部と虚部とで分けた2種類の時間相関画像データを、時間相関カメラ110から受け取る。
【0084】
なお、図1に示すように、処理部103は、取得部104、算出部105、検出部106を備えるが、それらは図11以降の説明に用い、図10までの説明では処理部103を用いる。
【0085】
処理部103は、時間相関カメラ110から入力された強度画像データと、時間相関画像データと、に基づいて、振幅画像データと、位相画像データと、を生成する。
【0086】
振幅画像データは、画素毎に入る光の振幅を表した画像データとする。位相画像データは、画素毎に入る光の位相を表した画像データとする。
【0087】
本実施形態は振幅画像データの算出手法を制限するものではないが、例えば、処理部103は、2種類の時間相関画像データの画素値C1(x,y)及びC2(x,y)から、式(8)を用いて、振幅画像データの各画素値F(x,y)を導き出せる。
【0088】
【数7】
【0089】
そして、本実施形態では、振幅画像データの画素値(振幅)と、強度画像データの画素値と、に基づいて、異常が生じている領域があるか否かを判定できる。例えば、強度画像データの画素値(AT)を2で除算した値と、振幅画像データの振幅(打ち消し合いが生じない場合にはAT/2となる)と、がある程度一致する領域は異常が生じていないと推測できる。一方、一致していない領域については、振幅の打ち消しが生じていると推測できる。なお、具体的な手法については後述する。
【0090】
同様に、処理部103は、画素値C1(x,y)及びC2(x,y)から、式(9)を用いて、位相画像データの各画素値P(x,y)を導き出せる。
【0091】
【数8】
【0092】
[少ない計算コストで特徴量を算出する技術]
次に、少ない計算コストで特徴量(位相勾配、位相ラプラシアンなど)を算出する技術に関する処理部103の処理などについて説明する。なお、検査対象物150としては、例えば、塗装やメッキなどの光沢面を有する物体が考えられるが、これに限定されない。
【0093】
取得部104は、PC100の内部や外部の各構成から各種情報を取得する。取得部104は、例えば、時間相関カメラ110またはそれと等価な動作をする撮像システムから、少なくとも、第1データと、第2データと、を含む複数のデータを取得する。
【0094】
算出部105は、画素ごとの所定の特徴量を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた処理を行い、そのときに、第1データと第2データとを用いた行列による演算を行うことにより、着目画素の特徴量を算出する。
【0095】
例えば、取得部104は、時間相関カメラ110から、複素時間相関画像データのうち、第1データとして、実数部を表す第1画素値(C1)を取得し、第2データとして、虚数部を表す第2画素値(C2)を取得する。
【0096】
そして、算出部105は、画素ごとの特徴量として位相勾配を算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いた一次微分フィルタ処理を行い、そのときに、振幅画素値と位相画素値の積を表す行列であって第1画素値と第2画素値とを用いた行列による演算を行うことにより、着目画素の位相勾配を算出する(詳細は図14を用いて後述)。
【0097】
また、例えば、取得部104は、時間相関カメラ110から、複素時間相関画像データのうち、第1データとして、実数部を表す第1画素値(C1)を取得し、第2データとして、虚数部を表す第2画素値(C2)を取得する。
【0098】
そして、算出部105は、画素ごとの特徴量として位相ラプラシアンを算出する場合に、着目画素と周囲画素について要素和が0の畳み込み行列を用いたラプラシアンフィルタ処理を行い、そのときに、振幅画素値と位相画素値の積を表す行列であって第1画素値と第2画素値とを用いた行列による演算を行うことにより、着目画素の位相ラプラシアンを算出する(詳細は図16を用いて後述)。
【0099】
また、算出部105は、位相勾配に基づいて、それぞれの画素について位相曲面の接平面を接続することで位相画像を算出する(詳細は図21を用いて後述)。
【0100】
また、検出部106は、算出部105によって算出された位相勾配や位相ラプラシアンなどに基づいて、検査対象物150の異常を検出する。
【0101】
図11は、一次元の場合の中心差分の説明図である。(a)は、1階中心差分を算出する式である。(b)は、2階中心差分を算出する式である。(c)は、n階中心差分を算出する式である。一般に、中心差分は、どの階数においても係数の和が0になる。また、対称性から、より高精度な差分を算出する場合も同様である。
【0102】
図12は、二次元の場合の中心差分の例の説明図である。(a)は、ソーベル(Sobel)フィルタ(横方向)を示す図である。(b)は、ソーベル(Sobel)フィルタ(縦方向)を示す図である。(c)は、ラプラシアン(laplacian)フィルタを示す図である。
【0103】
このような、画像処理でよく用いられるソーベルフィルタ(1階差分にガウシアンフィルタを掛けたもの)やラプラシアンフィルタなどの畳み込み行列についても、要素和は常に0になる。なお、図12に示したものは1次精度の例であるが、より高次精度についても同様である。
【0104】
また、図11図12はそれぞれ1次元と2次元の例であるが、3次元以上の多次元の場合でも同様に係数行列の要素和は0になる。
【0105】
図13は、従来技術の位相中心差分の計算の説明図である。ここでは、3×3の画素についての計算を行う。また、上述のように中間的に得られる相関画素値(C1(第1画素値),C2(第2画素値))をベクトル場として用いる。また、サンプリング数をNと表す。
【0106】
各画素値は、照明変調に合わせて式(10)(式(11))に示すように時間依存する。そして、時間依存部を取り除くと、相関画素値としての式(12)、式(13)が得られる。さらにこれらを変形すると、振幅画像(式(14))と位相画像(式(15))が得られる。なお、位相画像は不連続になる(図19(a))。
【0107】
そして、n階位相中心差分、1階位相中心差分、2階位相中心差分は、それぞれ、式(16)、式(17)、式(18)のように算出することができる。
【0108】
図14は、実施形態の位相勾配の計算の説明図である。この例では、位相勾配を、図12(a)のソーベルフィルタ(x方向の1階差分+y方向ガウシアンフィルタ)で計算する。図13の式(12)、式(13)を用いて、Cを式(19)のように定義する。そうすると、振幅画素値(A)と位相画素値(Φ)を用いて、右辺のように表現できる。また、Cの逆行列を式(20)のように定義する。また、中心画素(P)についての位相のx方向の微分値に関するcosとsinの値は、式(21)で計算できる。
【0109】
そして、充分な分解能で撮像画像データが取得されている場合、ベクトル場の連続性から、式(21a)に示すように隣接画素の振幅値はほぼ同じと仮定できるため、Akは全てキャンセルされて式(22)が成り立つ。これは、上述のように係数行列の要素和が0になることによる。なお、図13の式(14)で求めた振幅Aを用いてあらかじめ各画素のCをΦのみに依存する回転行列として計算しておくこともできる。その場合にも式(22)は成り立つ。
【0110】
したがって、x方向の位相勾配は式(23)で表される。また、y方向についても同様に位相勾配を算出できる。これを、すべての画素について行うことで、位相勾配画像(2成分)を得ることができる。また、位相勾配を用いて各点で位相曲面の接平面を構成して逐次接続していくことで位相アンラッピングを気にすることなく連続な位相画像を得ることができる。
【0111】
なお、上述したように、より高階の差分や、より高精度の差分についても、全く同様の手法が成立する。また、3次元以上の多次元についても同様である。
【0112】
図15は、従来技術の位相ラプラシアンの計算の説明図である。すでに説明した式と同じ式には同じ式番号を付与し、重複する説明を適宜省略する。Ns(サンプリング数)≧3として、位相シフト法を実行する場合を考える。サンプリング定理にしたがって、時刻:tにおける画素:Pkでの画素値:Ik(t)は厳密に式(10)で補間される。I は、l枚目の縞パターン投影後に撮像された被検体画像の画素:Pkでの画素値を表す。そして、求めるべき位相ラプラシアンの画素:P5での差分近似値は式(24)、式(25)で表される。
【0113】
図16は、実施形態の位相ラプラシアンの計算の説明図である。図15の式(12)、式(13)を用いて、Cを式(19)のように定義する。そうすると、振幅画素値(A)と位相画素値(Φ)を用いて、右辺のように表現できる。また、Cの逆行列を式(20a)のように定義する。また、中心画素(P)についての位相の微分値に関するcosとsinの値は、式(26)で計算できる。
【0114】
そして、充分な分解能で撮像画像データが取得されている場合、ベクトル場の連続性から、式(26a)に示すように隣接画素の振幅値はほぼ同じと仮定できるため、Akは全てキャンセルされて式(27)が成り立つ。これは、上述のように係数行列の要素和が0になることによる。なお、図15の式(14)で求めた振幅Aを用いてあらかじめ各画素のCをΦのみに依存する回転行列として計算しておくこともできる。その場合にも式(27)は成り立つ。
【0115】
したがって、位相ラプラシアンは式(28)で表される。これを、すべての画素について行うことで、位相ラプラシアン画像を得ることができる。
【0116】
図17は、実施形態の撮像画像の例を示す図である。検査対象物150として、光沢のある塗装片をサンプルとして使用した。投影パターンは、図4に示すものを使用した。そして、その投影パターンを、モニターを照明として映像出力し、少しずつずらしながら24回撮像した。なお、縞の移動ピッチは白黒1セットからなる1周期に対して1/24である。
【0117】
そして、24枚の(a)撮像画像から、(b)に示すようにサンプル部位を切り取り、24枚を1セットとして位相シフト法を適用する。
【0118】
図18は、実施形態の位相勾配画像の例を示す図である。位相勾配は、図14の式(22)、式(23)にしたがって3×3のソーベルフィルタで計算した。位相シフト法で算出される位相は表面形状と関係し、位相勾配は表面の傾きと関係する。わずかながら、(a)のx方向の位相勾配画像と(b)のy方向の位相勾配画像で、欠陥部位に違いが見られる。この違いは、検査対象物150の表面の当該位置での欠陥の傾きの違いに起因しており、例えば傷の方向の分類などに役立つ情報である。これは方向の情報がつぶれてしまっている位相ラプラシアンには無い特性である。
【0119】
図19は、従来技術と実施形態の位相画像の例を示す図である。(a)に示す画像は、従来技術で計算した位相画像である。arctan(図13の式(15))の不連続性によって、位相も不連続になっている。
【0120】
(b)に示す画像は、図18の位相勾配を用いて画像左上の原点(0,0)から勾配を接続していくことで導出された位相画像である。強い欠陥がない部位は概ね良好に位相が接続されている。また、欠陥が強い部分では勾配値が大きくベクトル場の連続性が悪い(画像分解能が足りない)ため縦横のラインが生じているが、欠陥部位がその強さに応じて強調されるため、異常検出などの各種判定に使用できる。
【0121】
図20は、実施形態の位相ラプラシアン画像の例を示す図である。位相ラプラシアンは、図16の式(27)、式(28)にしたがって計算した。複素画像を経由することなく、従来技術と同等の高精度な位相ラプラシアン画像が得られていることがわかる。
【0122】
図21は、実施形態における勾配接続の説明図である。位相勾配は(b)における(fx,fy)に相当する。位相勾配が計算できている状況であれば、位相画像上の1点から(b)dfによって次々に値を求めていけば画像上の全ての点で位相画素値が得られる。
【0123】
ここまでで、畳み込みフィルタの成分和=0が成立しているため中心差分ではAは全てキャンセルされて図14の式(22)や図16の式(27)が成り立つ、ということを説明した。ただし、各画素での方向ベクトルを先に算出することで、図14の式(22)や図16の式(27)の近似を理由としなくても、中心差分以外の畳み込み演算についても計算できる。この点に関し、振幅値で相関画素値を割ることで方向ベクトルを先に算出しても良いことについて、以下に説明する。
【0124】
さらに具体的には、ここまでで畳み込みフィルタの成分和が0になる作用素として中心差分作用素を強調したが、中心差分作用素でない重要な例として「元の位相値とガウシアンフィルタで平滑化された位相値の差」の画像の導出について説明する。
【0125】
図22は、実施形態の位相畳み込み算出の説明図である。式(10)~式(15)については、図15と同様である。そして、式(29)のように、各画素での方向ベクトルを先に算出することで、図14の式(22)や図16の式(27)の近似を理由としなくても、中心差分以外の畳み込み演算についても計算できる。位相とガウシアン平坦化位相の差を求める式は、式(30)に示す通りである。
【0126】
この方法で、上述の位相勾配、位相ラプラシアンなどの中心差分を計算でき、また、中心差分に限らず畳み込みフィルタのカーネル行列の成分和が0であれば同様に計算できる。
【0127】
図23は、実施形態における位相とガウシアン平坦化位相の差の説明図である。画像処理で異常部を検出する場合、「元画像」と「元画像をガウシアンフィルタや移動平均フィルタなどで平坦化したもの」の差を用いることはよくある。(a)は、ガウシアンフィルタのカーネル行列である。(b)は、ガウシアンフィルタとの差のカーネル行列である。したがって、式(32)~式(34)に示すように、位相とガウシアン平坦化位相の差を計算できる。
【0128】
図24は、図23の手法で算出した画像の例を示す図である。図20の位相ラプラシアン画像と似た画像になっているが、それよりも異常部が強調されているのがわかる。
【0129】
図25は、実施形態における位相勾配算出処理を示すフローチャートである。併せて、図13図14も参照する。ステップS11において、取得部104は、C 、C を取得する。
【0130】
次に、ステップS12において、算出部105は、Cを作成する。
次に、ステップS13において、算出部105は、(C-1を算出する。
【0131】
次に、ステップS14において、算出部105は、式(22)(図14)の左辺の2つの値を算出する。
次に、ステップS15において、算出部105は、式(23)(図14)の左辺の値を算出する。
【0132】
次に、ステップS16、17において、算出部105は、x方向についての位相勾配を求めたステップS14、S15と同様の処理で、y方向についての位相勾配を求める。
【0133】
図26は、実施形態における位相ラプラシアン算出処理を示すフローチャートである。併せて、図15図16も参照する。ステップS21において、取得部104は、C 、C を取得する。
【0134】
次に、ステップS22において、算出部105は、Cを作成する。
次に、ステップS23において、算出部105は、(C-1を算出する。
【0135】
次に、ステップS24において、算出部105は、式(27)(図16)の左辺の2つの値を算出する。
次に、ステップS25において、算出部105は、式(28)(図16)の左辺の値を算出する。
【0136】
このように、本実施形態によれば、位相勾配や位相ラプラシアンなどの特徴量を算出するのに、複素時間相関画像データに基づいて複素画像を算出する必要がなく、少ない計算コストで済むなどの利点がある。
【0137】
また、例えば、位相の計算を経ずに位相値の中心差分値を直接計算できるため、位相アンラッピングで生じる特異点を回避できる(図19)。
【0138】
また、本手法によって計算される位相中心差分値データ(2次元の場合は画像)を用いることで、ベクトル場中の僅かな方向の乱れを高精度に検知することができる。
【0139】
また、位相勾配(gradient)を算出し、接平面を逐次接続していくことで位相値を算出することができる。これにより、位相値が0あるいは2π付近で生じる特異点による不安定性を回避して安定的に位相を算出できる。
【0140】
なお、本手法で想定するような離散化ベクトル場は、例えば、本出願人が出願した特開2021-174074号公報に記載の方法で導出したものでもよいし、あるいは、他の方法(例えば、光切断法、白色干渉法、サンプリングモアレ法、位相シフト法、位相シフトデジタルホログラフィなど)で計測した3D表面形状データ(2変数関数あるいは3変数陰関数)から算出した勾配ベクトルなどでもよい。
【0141】
また、上述の実施形態では、主に2次元(画像)を例にとって式展開等を行っているが、本発明は、観測やシミュレーションで得られる3次元以上のデータに対しても容易に適用できる。
【0142】
上述した実施形態のPC100で実行される検査プログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0143】
また、上述した実施形態のPC100で実行される検査プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、上述した実施形態のPC100で実行される検査プログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0144】
本発明の実施形態や実施例を説明したが、これらの実施形態や実施例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態や実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態や実施例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0145】
例えば、実施形態における画像枚数などの各数値について、状況に応じて適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0146】
100…PC、101…アーム制御部、102…照明制御部、103…処理部、104…取得部、105…算出部、106…検出部、110…時間相関カメラ、120…照明装置(照明部)、130…スクリーン(照明部)、140…アーム、150…検査対象物。
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