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  • 特開-合成皮革および製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172254
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】合成皮革および製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06N 3/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
D06N3/00
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089839
(22)【出願日】2023-05-31
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】510206039
【氏名又は名称】スミノエ テイジン テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】川村 明弘
(72)【発明者】
【氏名】上田 和宏
【テーマコード(参考)】
4F055
【Fターム(参考)】
4F055AA01
4F055BA12
4F055CA15
4F055DA02
4F055EA31
4F055FA08
4F055FA24
4F055FA27
4F055GA32
(57)【要約】
【課題】ポリ塩化ビニル系合成皮革において耐摩耗性を損なうことなく柔軟性および触感を向上する。
【解決手段】樹脂層2と、生地を含む基布層4と、樹脂層2と基布層4とを接着する接着層3と、を含み、樹脂層2が、ポリ塩化ビニル樹脂を含む本体部5と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部6と、を有し、本体部5が、一面側において接着層3と接し、他面側において表面部6と接する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、
前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部と、を有し、
前記本体部が、一面側において前記接着層と接し、他面側において前記表面部と接する合成皮革。
【請求項2】
前記生地の目付が150g/m以上300g/m以下である請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記生地が起毛されている請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項4】
樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、
前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部と、を有する合成皮革の製造方法であって、
前記本体部を形成する工程と、
前記本体部の一面側に前記接着層を形成する工程と、
前記接着層に前記基布層を接着する工程と、
前記本体部の他面側に前記表面部を形成する工程と、を含む製造方法。
【請求項5】
外周面に凹凸を有し内側が陰圧である支持体の前記外周面に前記表面部を吸着して前記樹脂層を賦形する工程をさらに含む請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成皮革および合成皮革の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成皮革は自動車の座席等に広く用いられている。典型的な合成皮革は生地を含む基布層と樹脂材料を含む樹脂層とを含むものであり、樹脂層を構成する樹脂材料としてはポリ塩化ビニル樹脂およびポリウレタン樹脂が代表的である。ポリ塩化ビニル樹脂を用いる場合について、ポリウレタン樹脂を用いる場合と比較すると、原料コストの違いに起因してコスト面で有利である一方で耐摩耗性等の機械物性に劣る点が問題となる。従来のポリ塩化ビニル系合成皮革では、ポリウレタン系合成皮革に比べて厚い樹脂層を設けることで機械物性の不利を補うことが一般的であるが、機械物性、重量、柔軟性、触感、風合いなどの諸性能の全てを満足することが難しい場合があった。
【0003】
以上の課題に鑑み、ポリ塩化ビニル系合成皮革において樹脂層の一部を発泡層とする技術が種々検討されている。たとえば特開2020-180191号公報(特許文献1)は、ポリ塩化ビニル系樹脂および熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む発泡樹脂層、ならびに当該発泡樹脂層を含む合成皮革を開示している。特許文献1の技術によれば、軽量でありかつ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供できる。また、特開2017-210703号公報(特許文献2)は、塩化ビニル樹脂および可塑剤を含む発泡樹脂層とポリウレタンを含む樹脂層とを備える合成皮革を開示している。特許文献2の技術によれば、耐摩耗性に優れ、かつ皺が発生しにくい合成皮革を提供できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-180191号公報
【特許文献2】特開2017-210703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1および特許文献2の技術では、発泡樹脂層を設けることを前提としてその構成を改良したに留まり、その改善効果は限定的だった。特に、柔軟性および触感について、ポリウレタン系合成皮革に匹敵しうる水準には達していなかった。
【0006】
このように、ポリ塩化ビニル系合成皮革において耐摩耗性を損なうことなく柔軟性および触感を向上することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る合成皮革は、樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部と、を有し、前記本体部が、一面側において前記接着層と接し、他面側において前記表面部と接することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る製造方法は、樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部と、を有する合成皮革の製造方法であって、前記本体部を形成する工程と、前記本体部の一面側に前記接着層を形成する工程と、前記接着層に前記基布層を接着する工程と、前記本体部の他面側に前記表面部を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
これらの構成では、従来のポリ塩化ビニル系合成皮革において発泡樹脂層等を設けて耐摩耗性を確保していたことに替えて、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部を設けることによって耐摩耗性を確保しているので、樹脂層の厚さを薄くしやすい。これによって、耐摩耗性を損なうことなく合成皮革の柔軟性および触感を向上できる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る合成皮革は、一態様として、前記生地の目付が150g/m以上300g/m以下であることが好ましい。
【0012】
この構成では、従来のポリ塩化ビニル系合成皮革において基布層に一般的に用いられる生地に比べて厚い生地を用いている。これによって、合成皮革の触感が向上しやすい。
【0013】
本発明に係る合成皮革は、一態様として、前記生地が起毛されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、合成皮革のクッション性を高めやすい。
【0015】
本発明に係る製造方法は、一態様として、外周面に凹凸を有し内側が陰圧である支持体の前記外周面に前記表面部を吸着して前記樹脂層を賦形する工程をさらに含むことが好ましい。
【0016】
この構成によれば、樹脂層を賦形する際に生地目が現れにくく、意図通りの加飾を加えやすい。
【0017】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る合成皮革の構造を示す断面模式図である。
図2】実施形態に係る製造方法に供される賦形装置およびその使用方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る合成皮革および製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る合成皮革および製造方法を、合成皮革1およびその製造方法に適用した例について説明する。
【0020】
〔合成皮革の構成〕
本実施形態に係る合成皮革1は樹脂層2、接着層3、および基布層4を含み、樹脂層2は本体部5および表面部6を有する(図1)。本体部5は、一面側において接着層3と接し、他面側において表面部6と接している。合成皮革1は、たとえば自動車の座席に使用されるものであり、樹脂層2の表面には凹凸による加飾が施されている。なお、図1は合成皮革1の層構造を模式的に示すものであり、図1における各部の厚さの比率は正確ではない。また、図1では樹脂層2の表面の凹凸を図示していない。
【0021】
樹脂層2のうち、本体部5はポリ塩化ビニル樹脂を含む。好適には、本体部5は主成分としてポリ塩化樹脂を含む。ここで主成分とは、本体部5を構成する材料のうち最も大きい重量比率を占める材料を言う。本体部5は、合成皮革の分野において一般的に表皮層とも呼ばれる。本体部5に含まれるポリ塩化ビニル樹脂は、たとえば重合度1300以上2500以下のものでありうる。
【0022】
樹脂層2のうち、表面部6は表面処理層と呼ばれる部分であり、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む。好適には、表面部6はポリカーボネート樹脂またはシリコーン樹脂を主成分とする。ここで主成分とは、表面部6を構成する材料のうち最も大きい重量比率を占める材料を言う。表面部6は、合成皮革の分野において一般的に表面処理層とも呼ばれる。
【0023】
表面部6に含まれるポリカーボネート樹脂は特に限定されない。したがって表面部6の形成に、たとえばStahl社、大日精化工業株式会社、およびセイコー化成株式会社等が販売する市販のポリカーボネート樹脂含有表面処理剤を用いることができる。表面部6におけるポリカーボネート樹脂の含有量は、たとえば10g/m以上30g/m以下であるが、これに限定されない。
【0024】
表面部6に含まれるシリコーン樹脂は特に限定されない。したがって表面部6の形成に、たとえば日信化学工業株式会社、Stahl社、およびセイコー化成株式会社等が販売する市販のシリコーン樹脂含有表面処理剤を用いることができる。すなわち、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部6(表面処理層)は、一例として、市販のポリカーボネート樹脂含有表面処理剤および市販のシリコーン樹脂含有表面処理剤を塗布する等の方法で形成されうる。
【0025】
樹脂層2の重量は特に限定されないが、たとえば160g/m以上300g/m以下でありうる。このうち表面部6は、たとえば10g/m以上30g/m以下であり、本体部5はその残部でありうる。
【0026】
接着層3は、合成皮革の分野で一般的に使用される接着剤を含みうる。かかる接着剤としては、たとえばポリ塩化ビニル樹脂を含む接着剤が例示される。この場合において、ポリ塩化ビニル樹脂は、たとえば重合度1000以上1700以下のものでありうる。また、接着層3の重量は特に限定されないが、たとえば65g/m以上180g/m以下でありうる。
【0027】
基布層4は生地を含む。かかる生地は、たとえば、織物、シングルジャージ、ダブルジャージ、トリコット、ラッセル、ダブルラッセル、不織布などでありうるが、これらに限定されない。
【0028】
基布層4に含まれる生地は、目付が150g/m以上300g/m以下であることが好ましい。生地の目付が150g/m以上であると、合成皮革1の触感(クッション性など)が良好になりやすい。また、生地の目付が300g/m以下であると、合成皮革1の剛軟度が自動車の座席への使用に適した範囲になりやすい。
【0029】
基布層4に含まれる生地は、起毛されていることが好ましい。この場合は、合成皮革のクッション性を高めやすい点で好適である。また、基布層4に含まれる生地の色は限定されないが、樹脂層2(本体部5)と同色または同系色とすると、ミシン孔等において基布層4が目立ちにくいため、好適である。
【0030】
〔合成皮革の製造方法〕
次に、本実施形態に係る合成皮革1の製造方法について説明する。本実施形態に係る製造方法では、合成皮革1の製造工程が第一段階、第二段階、および第三段階の三段階に分けて実施される。
【0031】
第一段階では、本体部5、接着層3、および基布層4からなる第一半製品が製造される。第一半製品の製造は、離型紙の上に本体部5、接着層3、および基布層4を順次重ねていき、最後に離型紙を取り除く、という手順で行われる。
【0032】
まず、本体部5を形成する工程が実施される。具体的には、離型紙の供給源(たとえばロール状である。)から送り出された離型紙に対して、ポリ塩化ビニル樹脂の塗布および乾燥が行われて、離型紙の上に本体部5が形成される。次に、本体部5の一面側に接着層3を形成する工程が実施される。具体的には、離型紙の上に形成された本体部5に対して、接着剤が塗布される。続いて、接着層3に基布層4を接着する工程が実施される。具体的には、離型紙の上に形成された本体部5および接着層3の上に、基布層4を貼り合わせる。ここまでの工程で、離型紙を伴う第一半製品が得られる。最後に、第一半製品の本体部5から離型紙が剥離されて、離型紙と第一半製品とが別々に回収される。離型紙および第一半製品が回収される態様は限定されないが、次工程での使いやすさを考慮すると、ロール状に巻き取られる態様で回収されることが好ましい。
【0033】
第二段階では、第一半製品の本体部5に表面処理を施して表面部6を形成し、樹脂層2(表面部6および本体部5)、接着層3、ならびに基布層4からなる第二半製品を製造する。すなわち、本体部5の他面側に表面部を形成する工程が実施される。具体的には、第一半製品の供給源(たとえばロール状である。)から送り出された第一半製品に対して、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面処理剤の塗布および乾燥が行われて、本体部5の上に表面部6が形成される。
【0034】
第三段階では、第二半製品の樹脂層2に凹凸パターンを形成して加飾を施す。すなわち、樹脂層2を賦形する工程が実施される。この工程に供される賦形装置10は、第二半製品20を加熱するヒータ11と、セラミックス製のロール12(支持体の一例である。)と、ロール12の内側を陰圧にする減圧装置(不図示)と、を有する(図2)。なお、図2は賦形装置10の構成を模式的に示すものであり、各部の寸法の比率は正確ではない。
【0035】
ロール12はセラミックス製であって空気が通過する空隙を有しているため、陰圧によってロール12の外側から内側に空気が吸引される。ロール12の外周面には、樹脂層2に転写されるパターンに対応する凹凸13が形成されている。
【0036】
第二半製品20は、ヒータ11によって加熱された後にロール12に導入される。この加熱は、樹脂層2の塩化ビニル樹脂を軟化させて賦形を受けやすくするためのものである。ロール12において、減圧装置による陰圧を駆動力として、ロール12の外周面に第二半製品20の樹脂層2が吸着される。このとき、ロール12の外周面の凹凸13が樹脂層2に転写されて、樹脂層2が賦形される。
【0037】
陰圧を駆動力として樹脂層2を賦形することにより、基布層4の生地目が樹脂層2の表面に現れにくく、意図通りの加飾を加えやすい。なお、基布層4の生地目が樹脂層2の表面に現れる問題は、樹脂層2が薄い場合(樹脂層2の重量が小さい場合)に生じやすい。一方、基布層4の生地目が樹脂層2の表面に現れる問題を避けるべくロールと樹脂層2との当接力を小さくすると、意図した加飾が得られないおそれがある。そのため、樹脂層2が薄い場合は、基布層4の生地目が表出せず、かつ十分な加飾を加えることができる賦形条件を決定することが難しい。樹脂層2の賦形方法として陰圧を駆動力とする方法を採用すると、ロールに合成皮革1を押し付ける方法を採用する場合に比べて、生地目の表出を回避することと十分な加飾を加えることとを両立しやすい。したがって、樹脂層2の重量が比較的小さい場合は、樹脂層2の賦形方法として、ロールに合成皮革1を押し付ける方法に比べて陰圧を駆動力とする方法が特に有利に働く。本実施形態に係る合成皮革1では樹脂層2の重量を160g/m以上300g/mとすることが好ましいが、この目付の好適範囲は従来のポリ塩化ビニル系合成皮革における典型的な樹脂層の重量に比べて小さい領域にある。すなわち本実施形態に係る合成皮革1の好ましい態様における樹脂層2の重量は従来のポリ塩化ビニル系合成皮革における樹脂層の重量に比べて小さいので、陰圧を駆動力とする方法で樹脂層2を賦形することが有利である。
【0038】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る合成皮革および製造方法のその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0039】
上記の実施形態では、樹脂層2、接着層3、および基布層4を含む合成皮革1を例として説明した。しかし本発明に係る合成皮革おいて、樹脂層と基布層とが接着層によって接着されている限りにおいてその他の層の存在は排除されない。同様に、樹脂層についても、ポリ塩化ビニル樹脂を含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面部と、を有する限りにおいてその他の部分の存在は排除されない。
【0040】
上記の実施形態では、セラミックス製のロール12を用いて樹脂層2を賦形する構成を例として説明した。しかし本発明に係る製造方法において、樹脂層を賦形する工程の有無は任意である。また、樹脂層を賦形する方法は、上記の構成に限定されない。たとえば、型押しが施された離型紙上に本体部を形成して離型紙の凹凸を本体部に転写する方法や、セラミックス以外の材料(鉄など)により形成されているロールに本体部を押し付けて当該ロールの凹凸を転写する方法などを採用できる。なお、離型紙の凹凸を本体部に転写する場合は、上記の実施形態に係る製造方法の第三段階を省略しうる。
【0041】
これらの方法のうち、ロールを用いる場合(材料は問わない。)は、自身が利用可能な設備において所望の柄に対応する凹凸を有するロールを設置すれば、樹脂層2に所望の柄の賦形を施すことができる。これに対し、離型紙を用いる場合は、自身が利用可能な設備において離型紙を製造していない限り、樹脂層2に賦形できる柄は市販されている離型紙から選択できる範囲に限られる。合成皮革1を製造する事業者が離型紙を製造していることは一般的ではないため、ロールを用いる場合方が離型紙を用いる場合に比べて賦形の自由度が高く、デザインの変更を行いやすいという利点がある。したがって、陰圧を駆動力とする方法で樹脂層2を賦形することは、本実施形態に係る合成皮革1の好ましい態様において、意図通りの加飾を加えることと加飾の自由度とを両立できる点で特に有利である。
【0042】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0043】
以下では実施例を示して本発明をさらに説明する。ただし以下の実施例は本発明を限定しない。
【0044】
〔試験片の製造〕
実施例および比較例の各例の合成樹脂の製造方法を説明する。なお、特記していない事項は上記の実施形態に従う。
【0045】
(実施例1)
樹脂層の目付を300g/mとし、基布層の目付を250g/mとした。表面部を、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した(表1では「PC,Si」と記載)。基布層の生地は起毛されていない黒色のものを用いた。樹脂層の賦形は、セラミックス製のロールに吸着する方法(表1では「吸着」と記載)で行った。
【0046】
(実施例2)
樹脂層の目付を300g/mとし、基布層の目付を150g/mとした。表面部を、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されていない白色のものを用いた。樹脂層の賦形は、離型紙の凹凸を本体部に転写する方法(表1では「離型紙」と記載)で行った。
【0047】
(実施例3)
樹脂層の目付を300g/mとし、基布層の目付を150g/mとした。表面部を、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されていない白色のものを用いた。樹脂層の賦形は、鉄製のロールの凹凸を本体部に転写する方法(表1では「鉄」と記載)で行い、合成皮革を鉄製のロールに押し付ける際の押し付け力を、樹脂層の表面に基布層の生地目が現れない範囲で調整した。
【0048】
(実施例4)
樹脂層の目付を300g/mとし、基布層の目付を300g/mとした。表面部を、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されている黒色のものを用いた。樹脂層の賦形は、セラミックス製のロールに吸着する方法で行った。
【0049】
(比較例1)
従来のポリ塩化ビニル系合成皮革の一例である。樹脂層の目付を600g/mとし、基布層の目付を150g/mとした。なお樹脂層は表皮部および本体部の他に発泡ポリ塩化ビニル樹脂製の中間層を有する構成とし、当該中間層が接着層に接する構成とした。表面部を、ポリウレタン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した(表1では「PU」と記載)。基布層の生地は起毛されていない白色のものを用いた。樹脂層の賦形は、離型紙の凹凸を本体部に転写する方法で行った。
【0050】
(比較例2)
樹脂層の賦形を、鉄製のロールの凹凸を本体部に転写する方法で行った他は比較例1と同様の方法で比較例2に係る合成皮革を得た。なお、合成皮革を鉄製のロールに押し付ける際の押し付け力を、樹脂層の表面に基布層の生地目が現れない範囲で調整した。
【0051】
(比較例3)
従来のポリ塩化ビニル系合成皮革について、中間層を設けない例である。樹脂層の目付を300g/mとし、基布層の目付を150g/mとした。表面部を、ポリウレタン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されていない白色のものを用いた。樹脂層の賦形は、セラミックス製のロールに吸着する方法で行った。
【0052】
(比較例4)
従来のポリ塩化ビニル系合成皮革について、表面処理方法を変更した例である。樹脂層の目付を600g/mとし、基布層の目付を150g/mとした。表面部を、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されていない白色のものを用いた。樹脂層の賦形は、セラミックス製のロールに吸着する方法で行った。
【0053】
(比較例5)
従来のポリウレタン系合成皮革の一例である。本体部がポリウレタン樹脂を含む構成として、樹脂層の目付を150g/mとし、基布層の目付を300g/mとした。表面部を、ポリウレタン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されている黒色のものを用いた。樹脂層の賦形は、離型紙の凹凸を本体部に転写する方法で行った。
【0054】
(比較例6)
従来のポリウレタン系合成皮革の一例である。本体部がポリウレタン樹脂を含む構成として、樹脂層の目付を100g/mとし、基布層の目付を200g/mとした。表面部を、ポリウレタン樹脂を含む表面処理剤を用いて形成した。基布層の生地は起毛されていない黒色のものを用いた。樹脂層の賦形は、離型紙の凹凸を本体部に転写する方法で行った。
【0055】
〔試験片の評価〕
(曲げ硬さ試験)
実施例および比較例の各例について、官能評価による曲げ硬さ試験を行った。各例について22cm×17cmの試験片を作成し、表面部6を上にして机上に置き、さらにその上に試験者の手を載せた。親指を広げるとともに他の四本の指を閉じた状態で、指先を試験片に接触させたまま掌を試験片から離し、次いで試験片を握った。掌および指に感じる抵抗感に基づいて、試験片の曲げ硬さを評価した。比較例6(従来のポリウレタン系合成皮革)を最高位の「A」評価の基準とするとともに、比較例2(従来のポリ塩化ビニル系合成皮革)を最低位の「E」評価の基準として、試験片の曲げ硬さを試験者の主観によりA~Eの五段階から選択した。
【0056】
(滑り性試験)
実施例および比較例の各例について、官能評価による滑り性試験を行った。各例について22cm×17cmの試験片を作成し、表面部6を上にして台秤の上に置き、試験者の人差指、中指、および薬指の指先(第一関節より先)を試験片に接触させた。三本の指で試験片を押して台秤の読みを300gに保ちながら、指先を前後に動かした。このときに指先に感じる抵抗感に基づいて、試験片の滑り性を評価した。比較例6(従来のポリウレタン系合成皮革)を最高位の「A」評価の基準とするとともに、比較例2(従来のポリ塩化ビニル系合成皮革)を最低位の「E」評価の基準として、試験片の滑り性を試験者の主観によりA~Eの五段階から選択した。
【0057】
(押込性試験)
実施例および比較例の各例について、官能評価による押込性試験を行った。各例について22cm×17cmの試験片を作成し、表面部6を上にして机上に置き、試験者の人差指で試験片を押した。このときに指先に感じる反発感に基づいて、試験片の押込性を評価した。比較例5(従来のポリウレタン系合成皮革で基布層4の生地に起毛があるもの)を最高位の「A」評価の基準とするとともに、比較例1(従来のポリ塩化ビニル系合成皮革)を最低位の「E」評価の基準として、試験片の押込性を試験者の主観によりA~Eの五段階から選択した。
【0058】
(目視試験)
実施例および比較例の各例を目視で観察し、表面における柄の状態を確認した。各例の柄の状態を、以下のAまたはEの二段階で評価した。
A:試験片から30cm以上離れて観察した場合であっても柄を視認できる。
E:試験片から30cm以内に近づいて初めて柄を視認できる。
【0059】
(剛軟度試験)
実施例および比較例の各例について、JIS L 1096:2020(剛軟度試験A法(45°カンチレバー法))に基づいて曲げ試験を行った。各例の試験結果の数値を表1に記載している。
【0060】
(耐摩耗試験)
実施例および比較例の各例について、JASO M403-88(摩擦強さB法)に準拠する耐摩耗試験を行った。ただし、荷重を3kg重に変更した。試験片の表面に破損が見られるまでの摩耗回数を各例の試験結果としたが、摩耗回数が28000回に到達した時点で破損が見られない試験片は、その時点で試験終了とした。各例の試験結果の数値を表1に記載している。
【0061】
(KES試験)
実施例および比較例の各例について、KES-FB2-Aを用いて曲げ硬さ試験および曲げ回復性試験を行った。各例の試験結果の数値を表1に記載している。
【0062】
〔結果〕
実施例および比較例の各例の評価を表1に示す。表1に示すように、実施例1~4において、従来のポリ塩化ビニル系合成皮革である比較例1および2に比べて、耐摩耗性が高く、かつ柔軟性および触感に優れた合成皮革が得られた。実施例1~4は、耐摩耗性および滑り性において、ポリウレタン系合成皮革である比較例5および6に匹敵する。また、起毛されている生地を用いた実施例4では、比較例5および6に匹敵する押込性が見られた。
【0063】
表1:実施例および比較例
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、たとえば自動車の座席に使用できる。
【符号の説明】
【0065】
1 :合成皮革
2 :樹脂層
3 :接着層
4 :基布層
5 :本体部
6 :表面部
10 :賦形装置
11 :ヒータ
12 :ロール
13 :凹凸
20 :第二半製品
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2024-03-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、
前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分として含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂またはシリコーン樹脂を主成分とする表面部と、を有し、
前記本体部が、一面側において前記接着層と接し、他面側において前記表面部と接する合成皮革。
【請求項2】
前記生地の目付が150g/m以上300g/m以下である請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記生地が起毛されている請求項1または2に記載の合成皮革。
【請求項4】
樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、
前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分として含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂またはシリコーン樹脂を主成分とする表面部と、を有する合成皮革の製造方法であって、
前記本体部を形成する工程と、
前記本体部の一面側に前記接着層を形成する工程と、
前記接着層に前記基布層を接着する工程と、
前記本体部の他面側に前記表面部を形成する工程と、を含む製造方法。
【請求項5】
外周面に凹凸を有し内側が陰圧である支持体の前記外周面に前記表面部を吸着して前記樹脂層を賦形する工程をさらに含む請求項4に記載の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明に係る合成皮革は、樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分として含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂またはシリコーン樹脂を主成分とする表面部と、を有し、前記本体部が、一面側において前記接着層と接し、他面側において前記表面部と接することを特徴とする。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
本発明に係る製造方法は、樹脂層と、生地を含む基布層と、前記樹脂層と前記基布層とを接着する接着層と、を含み、前記樹脂層が、ポリ塩化ビニル樹脂を主成分として含む本体部と、ポリカーボネート樹脂およびシリコーン樹脂を含み、ポリカーボネート樹脂またはシリコーン樹脂を主成分とする表面部と、を有する合成皮革の製造方法であって、前記本体部を形成する工程と、前記本体部の一面側に前記接着層を形成する工程と、前記接着層に前記基布層を接着する工程と、前記本体部の他面側に前記表面部を形成する工程と、を含むことを特徴とする。