(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172271
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】量子ビーム減衰装置
(51)【国際特許分類】
G21K 3/00 20060101AFI20241205BHJP
G02B 26/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G21K3/00 W
G02B26/02 B
G21K3/00 Y
G02B26/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089867
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上山 道明
(72)【発明者】
【氏名】木村 英彦
【テーマコード(参考)】
2H141
【Fターム(参考)】
2H141MA02
2H141MB07
2H141MD12
2H141MD20
2H141MD23
(57)【要約】
【課題】量子ビームの伝播路を通り当該伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能な減衰板によって量子ビームを減衰させる量子ビーム減衰装置において、減衰板の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係の非線形性を低減する。
【解決手段】減衰板10は、回転軸Rを基準に第1部分10aと第2部分10bとに観念上分けられる。第1部分10aの第1面12aは平面となっている。一方、第2面14aは、第1部分10aの板厚t
aが、回転軸Rから第1位置20aに向かうにつれ徐々に増大し、第1位置20aから一端16aに向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面となっている。第2部分10bの第2面14bは平面となっている。一方、第1面12bは、第2部分10bの板厚t
bが、回転軸Rから第2位置20bに向かうにつれ徐々に増大し、第2位置20bから他端16bに向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面となっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面及び前記第1面の裏側面である第2面を有する板状であり、量子ビームの伝播路を通り前記伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能である、量子ビームを減衰させる減衰板、
を備え、
前記減衰板は、前記回転軸よりも前記回転軸に垂直な方向における前記減衰板の一端側の部分である第1部分と、前記回転軸よりも前記回転軸に垂直な方向における前記減衰板の他端側の部分である第2部分とを有し、
前記第1部分の前記第1面は平面であり、前記第1部分の前記第2面は、前記第1部分の板厚が、前記回転軸に垂直な方向に沿って、前記回転軸から、前記回転軸と前記一端との間の位置である第1位置に向かうにつれ徐々に増大し、前記第1位置から前記一端に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面であり、
前記第2部分の前記第2面は平面であり、前記第2部分の前記第1面は、前記第2部分の板厚が、前記回転軸に垂直な方向に沿って、前記回転軸から、前記回転軸と前記他端との間の位置である第2位置に向かうにつれ徐々に増大し、前記第2位置から前記他端に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面である、
ことを特徴とする量子ビーム減衰装置。
【請求項2】
前記第1位置は、前記回転軸と前記一端との間の中間位置よりも前記回転軸側にあり、
前記第2位置は、前記回転軸と前記他端との間の中間位置よりも前記回転軸側にある、
ことを特徴とする請求項1に記載の量子ビーム減衰装置。
【請求項3】
前記第1部分の側面形状と前記第2部分の側面形状は、前記回転軸を中心とした点対称の関係にある、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の量子ビーム減衰装置。
【請求項4】
前記回転軸方向から見た前記減衰板の側面視において、前記回転軸を原点とし、前記伝播路をx軸とし、前記第1部分の前記第1面に沿った軸をy軸とした場合、前記第1部分の前記第2面の形状は、下記(式1)で表現可能である、
ことを特徴とする請求項3に記載の量子ビーム減衰装置。
【数1】
ここで、μは前記減衰板の減衰係数であり、Aは第1部分又は第2部分における最大減衰率である。
【請求項5】
前記量子ビームはX線であり、
前記減衰板は、樹脂、ガラス、又は金属で形成される、
ことを特徴とする請求項1に記載の量子ビーム減衰装置。
【請求項6】
第1面及び前記第1面の裏側面である第2面を有する板状である減衰板であって、量子ビームの伝播路を通り、前記伝播路に垂直な前記減衰板の端辺を回転軸として回転可能である、量子ビームを減衰させる減衰板、
を備え、
前記第1面は平面であり、前記第2面は、前記減衰板の板厚が、前記回転軸に垂直な方向に沿って、前記回転軸から、前記回転軸と前記端辺に対向する前記減衰板の端である対向端との間の位置である中途位置に向かうにつれ徐々に増大し、前記中途位置から前記対向端に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面である、
ことを特徴とする量子ビーム減衰装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ビーム減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザビームを減衰させるレーザビーム減衰装置が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、円板形状のディスクであって、周方向に向かって徐々に濃度が濃くなるように光学減衰塗膜が塗布されたディスクを有するレーザビーム減衰装置が開示されている。非特許文献1に記載のレーザビーム減衰装置では、レーザビームの伝播路はディスクの回転軸と平行であり、ディスクの回転角度を適宜設定してディスクの所望の位置にレーザビームを透過させることで、所望の減衰量分レーザビームを減衰させることができる。
【0004】
また、非特許文献2には、減衰板としてのアクリル平板がレーザビームの伝播路に設置され、アクリル平板が伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能なレーザビーム減衰装置が開示されている。非特許文献2に記載のレーザビーム減衰装置では、アクリル平板の回転角度を変更することで、アクリル平板内におけるレーザビームの透過距離が変更される。これにより、レーザビームの減衰量を変更可能となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】可変NDフィルタ用回転マウント,Newport Japan,https://www.newport-japan.jp/product/show/846
【非特許文献2】VA-S シングル式バリアブルアッテネータ,Advanced Optics Vacuum,http://www.aov.co.jp/lc/e_opt/03.php
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、量子ビームの伝播路を通り当該伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能な減衰板によって量子ビームを減衰させる量子ビーム減衰装置を考える。なお、量子ビームとは、レーザビーム、放射ビーム、X線ビーム、電子ビーム、ミュオンビーム、中性子ビーム、用紙ビーム、イオンビーム、重粒子ビーム、又は、原子核ビームなどを含む、量子性を持つ粒子や波の集団が同一方向に流れるビームを意味する。このような量子ビーム減衰装置によれば、減衰板の回転角度を変更することで、減衰板内における量子ビームの透過距離が変更され、量子ビームの減衰量を変更することができる。
【0007】
ここで、上記のような量子ビーム減衰装置において、減衰板を平板とした場合、減衰板の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係が非線形性になるという問題が生じる。
図11及び
図12を参照しつつ、当該問題を説明する。
【0008】
図11は、上記のような量子ビーム減衰装置に設けられた、平板である減衰板AT
Pの側面図である。減衰板AT
Pは、量子ビームの伝播路BP
Pを通り、伝播路BP
Pに垂直な回転軸R
Pを中心に、矢印AR
Pの方向に回転可能となっている。ランベルトの法則により、減衰板AT
Pの透過前の量子ビームの強度である透過前ビーム強度I
0と、減衰板AT
Pの透過後の量子ビームのビーム強度である透過後ビーム強度Iとの関係は、以下の式(2)で表される。
【数1】
式(2)において、μは減衰板AT
Pの減衰係数であり、dは減衰板AT
P内における量子ビームの透過距離(
図11参照)を表す。
【0009】
一方、減衰板AT
Pが伝播路BP
Pに対して垂直に立設した場合を減衰板AT
Pの回転角度の基準(θ=0)とした場合、回転角度θ(
図11参照)と、減衰板AT
P内における量子ビームの透過距離dとの関係は、式(3)で表される。
【数2】
式(3)において、t
pは、減衰板AT
Pの板厚である。
【0010】
式(2)と式(3)から、減衰板AT
Pが平板である場合、透過前ビーム強度I
0と透過後ビーム強度Iとの関係は、式(4)で表される。
【数3】
【0011】
図12は、式(4)で表される、減衰板AT
Pが平板である場合の、減衰板AT
Pの回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係を示すグラフである。
図12に示すように、減衰板AT
Pが平板の場合、減衰板AT
Pの回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係が非線形となってしまう。具体的には、回転角度θが小さいときには、回転角度θの変化量に対する透過後ビーム強度Iの変化量が小さく、回転角度θが大きいときには、回転角度θの変化量に対する透過後ビーム強度Iの変化量がかなり大きくなってしまう。これにより、所望の透過後ビーム強度Iを得るための減衰板AT
Pの回転角度θを設定することが困難となり、量子ビーム減衰装置の使い勝手が悪いという問題が生じていた。
【0012】
本発明の目的は、量子ビームの伝播路を通り当該伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能な減衰板によって量子ビームを減衰させる量子ビーム減衰装置において、減衰板の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係の非線形性を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、第1面及び前記第1面の裏側面である第2面を有する板状であり、量子ビームの伝播路を通り前記伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能である、量子ビームを減衰させる減衰板、を備え、前記減衰板は、前記回転軸よりも前記回転軸に垂直な方向における前記減衰板の一端側の部分である第1部分と、前記回転軸よりも前記回転軸に垂直な方向における前記減衰板の他端側の部分である第2部分とを有し、前記第1部分の前記第1面は平面であり、前記第1部分の前記第2面は、前記第1部分の板厚が、前記回転軸に垂直な方向に沿って、前記回転軸から、前記回転軸と前記一端との間の位置である第1位置に向かうにつれ徐々に増大し、前記第1位置から前記一端に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面であり、前記第2部分の前記第2面は平面であり、前記第2部分の前記第1面は、前記第2部分の板厚が、前記回転軸に垂直な方向に沿って、前記回転軸から、前記回転軸と前記他端との間の位置である第2位置に向かうにつれ徐々に増大し、前記第2位置から前記他端に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面である、ことを特徴とする量子ビーム減衰装置である。
【0014】
望ましくは、前記第1位置は、前記回転軸と前記一端との間の中間位置よりも前記回転軸側にあり、前記第2位置は、前記回転軸と前記他端との間の中間位置よりも前記回転軸側にある、ことを特徴とする。
【0015】
望ましくは、前記第1部分の側面形状と前記第2部分の側面形状は、前記回転軸を中心とした点対称の関係にある、ことを特徴とする。
【0016】
望ましくは、前記回転軸方向から見た前記減衰板の側面視において、前記回転軸を原点とし、前記伝播路をx軸とし、前記第1部分の前記第1面に沿った軸をy軸とした場合、前記第1部分の前記第2面の形状は、下記(式1)で表現可能である、ことを特徴とする。
【数4】
ここで、μは前記減衰板の減衰係数であり、Aは第1部分又は第2部分における最大減衰率である。
【0017】
望ましくは、前記量子ビームはX線であり、前記減衰板は、樹脂、ガラス、又は金属で形成される、ことを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、第1面及び前記第1面の裏側面である第2面を有する板状である減衰板であって、量子ビームの伝播路を通り、前記伝播路に垂直な前記減衰板の端辺を回転軸として回転可能である、量子ビームを減衰させる減衰板、を備え、前記第1面は平面であり、前記第2面は、前記減衰板の板厚が、前記回転軸に垂直な方向に沿って、前記回転軸から、前記回転軸と前記端辺に対向する前記減衰板の端である対向端との間の位置である中途位置に向かうにつれ徐々に増大し、前記中途位置から前記対向端に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面である、ことを特徴とする量子ビーム減衰装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、量子ビームの伝播路を通り当該伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能な減衰板によって量子ビームを減衰させる量子ビーム減衰装置において、減衰板の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係の非線形性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態に係る量子ビーム減衰装置に設けられた減衰板の斜視図である。
【
図3】xy座標空間における、第1部分の第1面の側面形状を表す曲線を示す図である。
【
図4】理想形状の演算式に用いるパラメータを示す図である。
【
図5】理想形状の減衰板の回転角度と透過後ビーム強度との関係を示すグラフである。
【
図6A】減衰係数及び最大減衰率が第1の組み合わせである場合における減衰板の理想形状を示す曲線を示す図である。
【
図6B】減衰係数及び最大減衰率が第2の組み合わせである場合における減衰板の理想形状を示す曲線を示す図である。
【
図6C】減衰係数及び最大減衰率が第3の組み合わせである場合における減衰板の理想形状を示す曲線を示す図である。
【
図6D】減衰係数及び最大減衰率が第4の組み合わせである場合における減衰板の理想形状を示す曲線を示す図である。
【
図7】側面視における、第1の変形例に係る減衰板の形状を表す曲線を示す図である。
【
図8】第1の変形例に係る減衰板の回転角度と透過後ビーム強度との関係を示すグラフである。
【
図10】第2の変形例に係る減衰板の側面図である。
【
図11】量子ビームの伝播路を通り当該伝播路に垂直な回転軸を中心に回転可能な減衰板によって量子ビームを減衰させる量子ビーム減衰装置に設けられた、平板である減衰板の側面図である。
【
図12】減衰板が平板である場合の、減衰板の回転角度と透過後ビーム強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本実施形態に係る量子ビーム減衰装置に設けられた減衰板10の斜視図である。量子ビーム減衰装置は、例えば、箱状の装置であり、量子ビームを装置内に入射するための入射孔と、量子ビームが出射される出射孔とを備え、入射孔と出射孔を結ぶ直線上に減衰板10が設けられるような装置であってよい。しかしながら、量子ビーム減衰装置としては上記の装置に限られず、量子ビームが減衰板10を透過する限りにおいてどのような装置であってもよい。
【0022】
減衰板10は、量子ビームのビーム強度を減衰可能な材質で形成される。すなわち、減衰板10は、量子ビーム減衰させる機能を発揮するものである。例えば、本実施形態に係る量子ビーム減衰装置がX線ビームを減衰させるX線ビーム減衰装置である場合、減衰板10は、樹脂、ガラス、又は金属で形成される。
【0023】
減衰板10は、第1面12、及び、第1面12の裏側面である第2面14を有する板状の形状を有している。また、減衰板10は、量子ビームの伝播路BPを通り、伝播路BPに垂直な回転軸Rを中心に、矢印AR方向に回転可能に設けられる。詳しくは後述するように、減衰板10の回転角度を変更することにより、減衰板10内における量子ビームの透過距離が変更され、これにより減衰板10の透過後の量子ビームのビーム強度である透過後ビーム強度を調整することができる。
【0024】
なお、本明細書の図面において、量子ビームの伝播路BPと平行な方向をx軸方向とし、伝播路BP及び回転軸Rに垂直な方向をy軸方向とし、回転軸Rに平行な方向をz軸方向としている。
【0025】
減衰板10は、回転軸Rよりも回転軸Rに垂直な方向(
図1が示す状態ではy軸方向)における減衰板10の一端16a側の部分である第1部分10aと、回転軸Rよりも回転軸Rに垂直な方向における減衰板10の他端16b側の部分である第2部分10bとに観念上分けられる。
【0026】
図2は、減衰板10の側面図(z軸方向から見た図)である。減衰板10の第1面12は、第1部分10aの第1面12a及び第2部分10bの第1面12bから構成される。減衰板10の第2面14は、第1部分10aの第2面14a及び第2部分10bの第2面14bから構成される。
【0027】
第1部分10aの第1面12aは、平面となっている。一方、第1部分10aの第2面14aは、第1部分10aの板厚t
aが、回転軸Rに垂直な方向(
図2が示す状態ではy軸方向)に沿って、回転軸Rから、回転軸Rと一端16aとの間の位置である第1位置20aに向かうにつれ徐々に増大し、第1位置20aから一端16aに向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面となっている。
【0028】
第2部分10bの第2面14bは、平面となっている。一方、第2部分10bの第1面12bは、第2部分10bの板厚t
bが、回転軸Rに垂直な方向(
図2が示す状態ではy軸方向)に沿って、回転軸Rから、回転軸Rと他端16bとの間の位置である第2位置20bに向かうにつれ徐々に増大し、第2位置20bから他端16bに向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面となっている。
【0029】
詳しくは後述するように、減衰板10が上述のような形状を有していることで、少なくとも減衰板10が平板である場合に比して、減衰板10の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係の非線形性を低減することができる。
【0030】
図2に示すように、第1部分10aの板厚t
aが最大となる第1位置20aは、回転軸Rと一端16aとの間の中間位置よりも回転軸R側にあるとよい。同様に、第2部分10bの板厚t
bが最大となる第2位置20bは、回転軸Rと他端16bとの間の中間位置よりも回転軸R側にあるとよい。
【0031】
回転軸Rと垂直な方向に沿った、回転軸Rから第1位置20aまでの距離と、回転軸Rから第2位置20bまでの距離とが同一であってよい。また、第1位置20aにおける第1部分10aの板厚taと、第2位置20bにおける第2部分10bの板厚tbとが同一であってよい。特に、第1部分10aの側面形状と、第2部分10bの側面形状とは、回転軸Rを中心とした点対称の関係にあるとよい。
【0032】
図3において、回転軸R方向(具体的にはZ軸負方向側)から見た減衰板10の側面視において、回転軸Rを原点とし、量子ビームの伝播路BPをx軸とし(量子ビームの進行方向はx軸の負方向)、第1部分10aの第1面12aに沿った軸をy軸としたxy座標空間が示されている。このようなxy座標空間において、減衰板10の側面視における第1部分10aの第2面14aの形状(曲線)を、x、yを含む式で表現することができる。特に、ランベルトの法則から、減衰板10の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係が線形となるような、xy座標空間における、第2面14aの形状を表す曲線を示す式を求めることができる。本明細書では、減衰板10の回転角度と減衰後の量子ビーム強度との関係を線形とすることができる減衰板10の形状を理想形状と呼ぶ。
【0033】
以下、理想形状としての第2面14aの形状を表す式の演算方法を説明するが、以下の説明において登場する各パラメータが
図4に示されている。
図4は、減衰板10の側面図であり、減衰板10の回転角度θは、減衰板10が伝播路BPに対して垂直に立設した場合を減衰板10の回転角度θの基準(θ=0)とした回転角度である。また、以下の説明においては、減衰板10の第1部分10aのみに着目し、第1部分10a内における量子ビームの透過距離をrで表すこととする。したがって、ランベルトの法則は、式(5)で表される。
【数5】
式(5)において、μは減衰板10の減衰係数である。
【0034】
まず、減衰板10の回転角度θと減衰後の量子ビーム強度との関係が線形であるという条件から、減衰板10の透過前の量子ビームの強度である透過前ビーム強度I
0と、減衰板10の透過後の量子ビームのビーム強度である透過後ビーム強度Iとの関係は、式(6)で表される。
【数6】
【0035】
式(5)及び式(6)から、式(7)が導かれる。
【数7】
式(7)を整理して、式(8)が得られる。
【数8】
【0036】
ここで、θ=π/2であるときに、透過後ビーム強度Iが最小になるとすると、透過前ビーム強度I
0と透過後ビーム強度Iとの関係は、式(9)のようにも表すことができる。
【数9】
式(9)においてAは、透過後ビーム強度Iが最小となる場合における、透過前ビーム強度I
0に対する透過後ビーム強度Iの割合である、第1部分10aの最大減衰率を表す。
【0037】
式(6)において、式(9)及びθ=π/2から、式(6)のαは式(10)で表される。
【数10】
式(10)を式(8)に代入して整理すると式(11)が得られる。
【数11】
【0038】
図3に示されるxy座標空間における極座標の変数r(原点O(すなわち回転軸R)からの距離)は式(12)で表され、減衰板10の回転角度θは式(13)で表される。
【数12】
【数13】
式(12)及び式(13)を式(11)に代入して整理すると、式(14)が得られる。
【数14】
【0039】
式(14)で表される曲線が、xy座標空間における、第1部分10aの第2面14aの理想形状を表す曲線である。第1部分10aと第2部分10bとが回転軸Rを中心とした点対称の形状にあるならば、xy座標空間における、第2部分10bの第1面12bの理想形状も、同様に式14で表すことができる。
【0040】
第1部分10aの第2面14a及び第2部分10bの第1面12bの形状が、式(14)で表されるような理想形状である場合、減衰板10の回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係は、
図5に示されるように線形となる。なお、
図5において、減衰板10が平板である場合の減衰板10の回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係が破線で示されている。
【0041】
式(14)において、減衰係数μは減衰板10の材質などによって変動し、最大減衰率Aも適宜設定することができる。式(14)から明らかな通り、減衰係数μ又は最大減衰率Aが変化すると、第1部分10aの第2面14aの理想形状も変化することになる。つまり、式(14)によって表される理想形状は1つの形状を表すものではない。
【0042】
図6A~
図6Dは、減衰係数μ及び最大減衰率Aの組み合わせに応じた、減衰板10の第1部分10aの第2面14a(又は第2部分10bの第1面12b)の互いに異なる理想形状を表す曲線を示す図である。
図6A~
図6Dにおいても、
図3と同様に、回転軸R方向から見た減衰板10の側面視において、回転軸Rを原点とし、量子ビームの伝播路BPをx軸とし、第1部分10aの第1面12aに沿った軸をy軸としたxy座標空間において、減衰板10の側面視における第1部分10aの第2面14aの形状が式(14)が示す曲線で表現されている。
【0043】
図6Aは、減衰係数μが0.36(例えば減衰板10がアクリルで形成された場合)であり、最大減衰率Aが0.01である場合の第2面14aの理想形状を表す曲線を示す図である。最大減衰率Aが0.01の場合、透過後ビーム強度が透過前信号強度の1/100になることを意味する。なお、ここでは、減衰板10の半分である第1部分10aのみを考慮しているので、最大減衰率Aが0.01の場合、第1部分10aと第2部分10bとを合わせると、減衰板10全体としての最大減衰率は、0.01×0.01=0.0001となる(つまり透過後ビーム強度が透過前信号強度の1/10000になる)。
【0044】
図6Bは、減衰係数μが0.36であり、最大減衰率Aが0.1である場合の第2面14aの理想形状を表す曲線を示す図である。
図6Cは、減衰係数μが0.89(例えば減衰板10がテフロン(登録商標)で形成された場合)であり、最大減衰率Aが0.01である場合の第2面14aの理想形状を表す曲線を示す図である。
図6Dは、減衰係数μが0.89であり、最大減衰率Aが0.1である場合の第2面14aの理想形状を表す曲線を示す図である。
【0045】
図6A~
図6Dに示される通り、式(14)が表現する形状は、減衰係数μ及び最大減衰率Aに応じて変化し得る。
【0046】
図7は、第1の変形例に係る第1部分10aの第2面14aの形状を表す曲線を示す図である。
図7においても、
図3と同様に、回転軸R方向から見た減衰板10の側面視において、回転軸Rを原点とし、量子ビームの伝播路BPをx軸とし、第1部分10aの第1面12aに沿った軸をy軸としたxy座標空間において、変形例に係る減衰板10の側面視における第1部分10aの第2面14aの形状が曲線で表現されている。第1の変形例に係る減衰板10も、基本実施形態と同様に、減衰板10は第2部分10bを有していてよく、第1部分10aの形状と第2部分10bの形状は、回転軸Rを中心として点対称の関係にある。すなわち、第1の変形例は、基本実施形態に比して、第1部分10aの第2面14aの形状、及び、第2部分10bの第1面12bの形状が異なる。
【0047】
図7に示す第1の変形例においては、第1部分10aの第2面14aの形状は、式(15)に示すように、シンプルな極方程式で表現される。
【数15】
ただし、式(15)における定数aは、減衰板10の回転角度θ=π/2の時の最大減衰率が0.1(減衰板10全体だと0.1×0.1=0.01)となるように、式(16)に示す値としている。
【数16】
【0048】
なお、
図7に示すように、第1の変形例においても、第1部分10aの第1面12aは、平面となっており、第1部分10aの第2面14aは、第1部分10aの板厚t
aが、回転軸Rに垂直な方向に沿って、回転軸Rから、回転軸Rと一端16aとの間の位置である第1位置20aに向かうにつれ徐々に増大し、第1位置20aから一端16aに向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面となっている。
【0049】
図8は、第1の変形例に係る減衰板10の回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係を示すグラフである。
図8においては、第1の変形例に係る減衰板10の回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係が実線で示され、減衰板が平板である場合の減衰板10の回転角度と透過後ビーム強度Iとの関係が破線で示され、減衰板10が理想形状である場合の減衰板10の回転角度と透過後ビーム強度Iとの関係が一点鎖線で示されている。
図8に示す通り、式(15)に示すようなシンプルな極方程式で第1部分10aの第2面14aの形状が表わされる減衰板10であっても、少なくとも減衰板が平板である場合に比して、減衰板10の回転角度θと透過後ビーム強度Iとの関係の非線形性を低減することができる。
【0050】
図9は、第2の変形例に係る減衰板30の斜視図であり、
図10は、第2の変形例にかかる減衰板30の側面図である。基本実施形態及び第1の変形例に係る減衰板10では、回転軸Rよりも一端16a側の部分である第1部分10aと、回転軸Rよりも他端16b側の部分である第2部分10bとを有していたが、第2の変形例に係る減衰板30は、いわば、基本実施形態及び第1の変形例に係る減衰板10の第1部分10a又は第2部分10bの一方のみの形状となっている。
【0051】
具体的には、減衰板30は、第1面32、及び、第1面32の裏側面である第2面34を有する板状である。減衰板30は、量子ビームの伝播路BPを通り、伝播路BPに垂直な減衰板30の端辺36(減衰板30の回転角度θによらず常に伝播路BPに垂直となる辺)を回転軸Rとして矢印ARの方向に回転可能となっている。そして、第1面32は平面であり、第2面34は、減衰板30の板厚tが、回転軸R(すなわち端辺36)に垂直な方向に沿って、回転軸Rから、回転軸Rと、端辺36に対向する減衰板30の端である対向端38との間の位置である中途位置40(
図10参照)に向かうにつれ徐々に増大し、中途位置40から対向端38に向かうにつれ徐々に減少していくような膨出曲面となっている。
【0052】
第2の変形例に係る減衰板30の理想形状としては、
図3又は
図6A~
図6Dに示される形状、すなわち、上述の式(14)で示される形状であってよい。第2の変形例に係る減衰板30においては、
図3を参照した説明において用いた変数rが、減衰板30全体における量子ビームの透過距離を表すことになる。すなわち、第2の変形例に係る減衰板30の形状であっても、基本実施形態及び第1の変形例に係る減衰板10とは最大減衰率は異なるものの、
図5に示すのと同様に、減衰板30の回転角度θと透過後ビーム強度との関係を線形とすることができる。
【0053】
また、第2の変形例に係る減衰板30は、
図7に示す形状であってもよい。これによれば、
図8に示すのと同様に、少なくとも減衰板が平板である場合に比して、減衰板30の回転角度θと透過後ビーム強度との関係の非線形性を低減することができる。
【0054】
以上、本発明に係る実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10,30 減衰板、10a 第1部分、10b 第2部分、12,12a,12b,32 第1面、14,14a,14b,34 第2面、16a 一端、16b 他端、20a,40 第1位置、20b 第2位置、36 端辺、38 対向端、R 回転軸、BP 伝播路。