(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172297
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】磁気共鳴イメージング装置及び増幅装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20241205BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20241205BHJP
G01R 33/36 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61B5/055 350
G01N24/00 580Y
G01R33/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089913
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】酒光 葵
(72)【発明者】
【氏名】林 昂佑
(72)【発明者】
【氏名】村上 満幸
(72)【発明者】
【氏名】山木 裕文
(72)【発明者】
【氏名】小野 正彦
【テーマコード(参考)】
4C096
【Fターム(参考)】
4C096AB42
4C096AD10
4C096CC31
4C096CC32
4C096CC37
(57)【要約】 (修正有)
【課題】磁気共鳴イメージング装置の高周波増幅器とRFコイルとの間に大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制する。
【解決手段】磁気共鳴イメージング装置は、被検体にRF信号を照射するRFコイルと、RF信号を増幅し、増幅されたRF信号を、負荷に供給する増幅装置と、を備える。増幅装置は、並列に設けられた2つの増幅回路と、2つの増幅回路のうちの増幅回路の出力端と負荷との間に設けられたインピーダンス変換回路と、を有する並列要素回路を複数備える。インピーダンス変換回路は、複数の並列要素回路において、一方の増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成され、複数の並列要素回路の間において、増幅回路の出力端からインピーダンス変換回路を介して負荷側を見たインピーダンスが異なるように構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体にラーモア周波数のRF(Radio Frequency)信号を照射するRFコイルと、
前記RF信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、前記RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置と、を備え、
前記増幅装置は、
並列に設けられた2つの増幅回路と、
前記2つの増幅回路のうちの少なくとも1つの増幅回路の出力端と前記負荷との間に設けられたインピーダンス変換回路と、
を有する並列要素回路を複数備え、
前記インピーダンス変換回路は、
前記複数の並列要素回路のそれぞれにおいて、一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成されると共に、
前記複数の並列要素回路の間において、前記2つの増幅回路のうちの少なくとも1つの増幅回路の出力端から前記インピーダンス変換回路を介して前記負荷側を見たインピーダンスが異なるように構成される、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項2】
前記増幅装置は、
前記増幅回路をn(nは正の偶数)個、前記並列要素回路をn/2個、有して構成され、
前記増幅装置への入力信号を、前記増幅回路のそれぞれの入力にn分配する分配器と、
前記n個の増幅回路から出力される出力信号を合成し、合成された信号を前記RF信号として前記RFコイルに供給する合成器と、
前記分配器と前記n個の増幅回路の入力端との間にそれぞれ設けられるn個の、位相調整回路としての入力側伝送路と、
前記合成器と前記n個の増幅回路の出力端との間にそれぞれ設けられるn個の、前記インピーダンス変換回路としての出力側伝送路と、
をさらに備え、
前記n個の入力側伝送路のそれぞれは、前記n個の増幅回路のうち、k(kは1からnまでの自然数)番目の増幅回路に対しては、(n―k)/2n波長に対応する伝送路長を有する伝送路として構成され、
前記n個の出力側伝送路のそれぞれは、前記k番目の増幅回路に対しては、(k―1)/2n波長に対応する伝送路長を有する伝送路として構成され、
前記入力側伝送路と前記出力側伝送路は、前記n個の増幅回路のそれぞれにおいて、前記入力側伝送路の伝送路長と前記出力側伝送路の伝送路長との和が、(n―1)/2n波長に対応する長さとなるように構成される、
請求項1に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項3】
前記並列要素回路のそれぞれにおいて、前記増幅回路の出力端と前記合成器との間の伝送路は、前記他方の増幅回路の出力端から前記負荷側を見たインピーダンスが前記一方の増幅回路の出力端から前記負荷側を見たインピーダンスに対して180度の位相差を生じさせる波長を有する、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項4】
前記n個の増幅回路は、それぞれの増幅回路の出力端から前記負荷を見たインピーダンスに対する位相と発熱量との関係に基づいて、前記n個の増幅回路の熱が分散されるように前記増幅装置内に配置される、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項5】
前記並列要素回路のそれぞれにおいて、前記一方の増幅回路と前記他方の増幅回路とが、前記増幅装置内で互いに隣り合わないように配置される、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項6】
前記n個の増幅回路は、それぞれの増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と逆極性のリアクタンスの極性を有する他の増幅回路と、前記増幅装置内で隣り合うように配置される、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項7】
前記分配器と前記n個の増幅回路との間に設けられるn個の可変移相器と、
前記n個の増幅回路のそれぞれにおいて、1つの増幅回路から出力される出力信号が入力される前記合成器の入力端における第1位相と、他の増幅回路から出力される出力信号が入力される前記合成器の入力端における第2位相とが同一の位相となるように、前記n個の可変移相器とをフィードバック制御する位相制御回路と、をさらに備える、
請求項2に記載の磁気共鳴イメージング装置。
【請求項8】
被検体にラーモア周波数のRF信号を照射するRFコイルと、
前記RF信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、前記RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置と、を備え、
前記増幅装置は、
並列に設けられた2つの増幅回路と、
前記2つの増幅回路のうちのいずれか1つの増幅回路の出力端と前記負荷との間に設けられたインピーダンス変換回路と、
を有する並列要素回路を複数備え、
前記インピーダンス変換回路は、
前記複数の並列要素回路のそれぞれにおいて、
一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成されると共に、
前記一方の増幅回路と前記他方の増幅回路は、前記増幅装置内で交互に配置される、
磁気共鳴イメージング装置。
【請求項9】
被検体に照射するラーモア周波数のRF信号を増幅し、増幅された前記RF信号を、RFコイル及び前記被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置であって、
並列に設けられた2つの増幅回路と、
前記2つの増幅回路のうちの少なくとも1つの増幅回路の出力端と前記負荷との間に設けられたインピーダンス変換回路と、
を有する並列要素回路を複数備え、
前記インピーダンス変換回路は、
前記複数の並列要素回路のそれぞれにおいて、一方の増幅回路の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅器の出力端から前記負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成されると共に、
前記複数の並列要素回路の間において、前記増幅回路の出力端から前記インピーダンス変換回路を介して前記負荷側を見たインピーダンスが異なるように構成される、
増幅装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、磁気共鳴イメージング装置及び増幅装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気共鳴イメージング装置は、静磁場中に置かれた被検体の原子核スピンをラーモア周波数の高周波(RF:Radio Frequency)信号で励起し、励起に伴って被検体から発生する磁気共鳴(MR:Magnetic Resonance)信号を再構成して画像を生成する撮像装置である。
【0003】
被検体への高周波信号の照射は、例えば、WB(Whole Body)コイルと呼ばれる円筒状のRFコイルで囲まれた空間内に被検体を置き、高周波増幅器で増幅された大電力の高周波信号をRFコイルに印加することによって行われる。
【0004】
このような環境では、高周波増幅器の負荷は、RFコイルだけでなく、被検体も含まれる。つまり、RFコイルの内側に置かれる被検体の体格や、姿勢、RFコイルに対する被検体の相対的な位置関係、或いは、被検体の体動等、RFコイル以外の要因によって、高周波増幅器の負荷は変動することになる。例えば、RFコイル以外の被検体に関連する要因により、高周波増幅器の負荷が、抵抗性負荷だけでなく、誘導性負荷になったり、容量性負荷になったりと、様々な変動を示すことが知られている。
【0005】
従来、このような負荷変動の影響を抑制するため、高周波増幅器の出力端とRFコイルの間に、大電力用アイソレータが設けられている。しかしながら、大電力用アイソレータは、物理的なサイズが大きく、高価格でもある。また、大電力用アイソレータは、その最大出力に制限があり、このため、高周波増幅器の出力特性に影響を与えることになっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の1つは、磁気共鳴イメージング装置の高周波増幅器とRFコイルとの間に大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できるようにすることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限らない。後述する各実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、被検体にラーモア周波数のRF信号を照射するRFコイルと、RF信号を増幅し、増幅されたRF信号を、RFコイル及び被検体を少なくとも含んで構成される負荷に供給する増幅装置と、を備える。増幅装置は、並列に設けられた2つの増幅回路と、2つの増幅回路のうちの少なくとも1つの増幅回路の出力端と負荷との間に設けられたインピーダンス変換回路と、を有する並列要素回路を複数備える。インピーダンス変換回路は、複数の並列要素回路のそれぞれにおいて、一方の増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成されると共に、複数の並列要素回路の間において、増幅回路の出力端からインピーダンス変換回路を介して負荷側を見たインピーダンスが異なるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置の全体構成例を示す構成図。
【
図2】実施形態の磁気共鳴イメージング装置と増幅装置との関係を示すブロック図。
【
図3】第1の実施形態に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図4】比較例(1)に係る増幅装置の構成とその課題を説明する第1の図。
【
図5】比較例(2)に係る増幅装置の構成とその課題を説明する第2の図。
【
図6】負荷が容量性の場合における増幅装置の作用効果を説明する図。
【
図7】負荷が誘導性の場合における増幅装置の作用効果を説明する図。
【
図8】負荷の位相に基づいた増幅回路のドレイン電流について説明する図。
【
図9】スミスチャートにおいて負荷の位相と発熱の関係を説明する図。
【
図10】増幅回路が熱分散するための増幅装置内での配置を説明する図。
【
図11】第1の実施形態の変形例に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図12】複数の増幅回路の増幅装置内での第1の配置例の図。
【
図13】複数の増幅回路の増幅装置内での第2の配置例の図。
【
図14】第2の実施形態に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図15】増幅回路が熱分散するための増幅装置内での配置を説明する図。
【
図16】第2の実施形態に係る複数の増幅回路の増幅装置内での配置例の図。
【
図17】第3の実施形態に係る増幅装置の構成例を示すブロック図。
【
図18】第4の実施形態に係る増幅装置の入力側伝送路及び出力側伝送路をLC回路で実現した回路例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置と増幅装置を、添付図面に基づいて説明する。
【0011】
(磁気共鳴イメージング装置)
図1は、実施形態に係る磁気共鳴イメージング装置1の全体構成例を示すブロック図である。実施形態の磁気共鳴イメージング装置1は、磁石架台100、制御キャビネット300、コンソール400、寝台500等を備えて構成される。
【0012】
磁石架台100は、静磁場磁石10、傾斜磁場コイル11、RFコイル12等を有しており、これらの構成品は円筒状の筐体に収納されている。寝台500は、寝台本体50と天板51を有している。また、磁気共鳴イメージング装置1は、被検体(例えば、患者)Pに近接して配設されるローカルコイル20を有している。
【0013】
制御キャビネット300は、傾斜磁場電源31(X軸用31x、Y軸用31y、Z軸用31z)、RF受信器32、RF送信器33、及びシーケンスコントローラ34を備えている。
【0014】
磁石架台100の静磁場磁石10は、概略円筒形状をなしており、被検体Pの撮像領域であるボア(すなわち、静磁場磁石10の円筒内部の空間)内に静磁場を発生させる。静磁場磁石10は超電導コイルを内蔵し、液体ヘリウムによって超電導コイルが極低温に冷却されている。静磁場磁石10は、励磁モードにおいて静磁場用電源(図示を省略)から供給される電流を超電導コイルに印加することで静磁場を発生し、その後、永久電流モードに移行すると、静磁場用電源は切り離される。一旦永久電流モードに移行すると、静磁場磁石10は長時間、例えば1年以上に亘って、大きな静磁場を発生し続ける。なお、静磁場磁石10を永久磁石として構成しても良い。
【0015】
傾斜磁場コイル11も概略円筒形状をなし、静磁場磁石10の内側に固定されている。この傾斜磁場コイル11は、傾斜磁場電源(31x、31y、31z)から供給される電流によりX軸,Y軸,Z軸の方向に傾斜磁場を被検体Pに印加する。
【0016】
寝台500の寝台本体50は天板51を上下方向に移動可能であり、撮像前に天板51に載った被検体Pを所定の高さまで移動させる。その後、撮影時には天板51を水平方向に移動させて被検体Pをボア内に移動させる。
【0017】
RFコイル12はWB(Whole Body)コイル、或いは、バードケージコイルとも呼ばれる。RFコイル12は、傾斜磁場コイル11の内側に被検体Pを取り囲むように概略円筒形状に固定されている。RFコイル12は、RF送信器33から伝送されるRFパルスを被検体Pに向けて送信する一方、水素原子核の励起によって被検体Pから放出される磁気共鳴信号を受信する。
【0018】
ローカルコイル20は、被検体Pから放出される磁気共鳴信号を被検体Pに近い位置で受信する。ローカルコイル20は、例えば、複数の要素コイルから構成される。ローカルコイル20は、被検体Pの撮像部位に応じて、頭部用、胸部用、脊椎用、下肢用、或いは全身用等種々のタイプがあるが、
図1では胸部用のローカルコイル20を例示している。
【0019】
RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、RFコイル12にRFパルスを送信する。RF送信器33は、後述する増幅装置を含んでいる。一方、RF受信器32は、RFコイル12やローカルコイル20によって受信された磁気共鳴信号を検出し、検出した磁気共鳴信号をデジタル化して得られる生データをシーケンスコントローラ34に送る。
【0020】
シーケンスコントローラ34は、コンソール400による制御のもと、傾斜磁場電源31、RF送信器33及びRF受信器32をそれぞれ駆動することによって被検体Pのスキャンを行う。そして、シーケンスコントローラ34は、スキャンを行ってRF受信器32から生データを受信すると、その生データをコンソール400に送る。
【0021】
シーケンスコントローラ34は、処理回路(図示を省略)を具備している。この処理回路は、後述するコンソール400の処理回路40と同様に、例えば所定のプログラムを実行するプロセッサや、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアで構成される。
コンソール400は、処理回路40、記憶回路41、ディスプレイ42、及び入力デバイス43を有するコンピュータとして構成されている。
【0022】
記憶回路41は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)の他、HDD(Hard Disk Drive)や光ディスク装置等の外部記憶装置を含む記憶媒体である。記憶回路41は、各種の情報やデータを記憶する他、処理回路40が具備するプロセッサが実行する各種のプログラムを記憶する。
【0023】
入力デバイス43は、例えば、マウス、キーボード、トラックボール、タッチパネル等であり、各種の情報やデータを操作者が入力するための種々のデバイスを含む。ディスプレイ42は、液晶ディスプレイパネル、プラズマディスプレイパネル、有機ELパネル等の表示デバイスである。
【0024】
処理回路40は、例えば、CPUや、専用又は汎用のプロセッサを備える回路である。プロセッサは、記憶回路41に記憶した各種のプログラムを実行することによって、後述する各種の機能を実現する。処理回路40は、FPGAやASIC等のハードウェアで構成してもよい。これらのハードウェアによっても後述する各種の機能を実現することができる。また、処理回路40は、プロセッサとプログラムによるソフトウェア処理と、ハードウェア処理とを組み合わせて、各種の機能を実現することもできる。
【0025】
これらの各構成品によって、コンソール400は、磁気共鳴イメージング装置1全体を制御する。具体的には、検査技師等の操作者による、マウスやキーボード等(入力デバイス43)の操作によって撮像条件その他の各種情報や指示を受け付ける。そして、処理回路40は、入力された撮像条件に基づいてシーケンスコントローラ34にスキャンを実行させる一方、シーケンスコントローラ34から送信された生データに基づいて画像を再構成する。再構成された画像はディスプレイ42に表示され、或いは記憶回路41に保存される。
【0026】
(増幅装置の第1の実施形態)
図2は、実施形態の磁気共鳴イメージング装置1と増幅装置60との関係を示すブロック図である。前述したように、RF送信器33は、シーケンスコントローラ34からの指示に基づいて、RFコイル12にRFパルスを出力する。
【0027】
RF送信器33は、
図2に示したように、RF送信波生成装置35と増幅装置60とを少なくとも備えて構成されている。RF送信波生成装置35から指示されるパルスシーケンスの各種パラメータに基づいて、ラーモア周波数帯のRFパルス列を、RF送信波として生成する。
【0028】
増幅装置60は、生成されたRF送信波を所定の大電力に増幅し、RFコイル12に出力する。RFコイル12は、例えば、円筒形状のWBコイルであり、RFコイル12の内部空間には、撮像対象である被検体Pが置かれている。したがって、増幅装置60の負荷80は、RFコイル12だけでなく被検体Pの一部(または、全部)も含まれる。このため、RFコイル12と増幅装置60との間で負荷整合をとったとしても、RFコイル12の内部空間に被検体Pが載置されることにより、実効上の負荷が変化するため、負荷不整合の状態が起こり得る。
【0029】
また、実効上の負荷は、被検体Pに関連する要因、例えば、被検体Pの体格や、姿勢、RFコイル12に対する被検体Pの相対的な位置関係、或いは、被検体Pの体動等によって変動し得る。したがって、増幅装置60の負荷は、抵抗性負荷(例えば、50オーム)だけでなく、リアクタンス成分を持ちうる。この場合、リアクタンス成分の大きさや極性も被検体Pに関連する要因で変化することになり、リアクタンス成分の極性が正の場合は誘導性負荷となり、リアクタンス成分の極性が負の場合は容量性負荷となる。
【0030】
図3は、第1の実施形態に係る増幅装置60の構成例を示す図である。増幅装置60は、分配器61、8分の3波長に対応する伝送路長を有する入力側伝送路64A(以下、第1の3λ/8伝送路64Aと呼ぶ)、4分の1波長に対応する伝送路長を有する入力側伝送路64B(以下、第1のλ/4伝送路64Bと呼ぶ)、8分の1波長に対応する伝送路長を有する入力側伝送路64C(以下、第1のλ/8伝送路64Cと呼ぶ)、第1増幅回路62A、第2増幅回路62B、第3増幅回路62C、第4増幅回路62D、8分の1波長に対応する伝送路長を有する出力側伝送路65B(以下、第2のλ/8伝送路65Bと呼ぶ)、4分の1波長に対応する伝送路長を有する出力側伝送路65C(以下、第2のλ/4伝送路65Cと呼ぶ)、8分の3波長に対応する伝送路長を有する出力側伝送路65D(以下、第2の3λ/8伝送路65Dと呼ぶ)、及び、合成器63を備えて構成されている。
【0031】
分配器61は、RF送信波生成装置35から出力される入力信号RFinを、第1入力信号、第2入力信号、第3入力信号、及び第4入力信号に分配する。
【0032】
第1増幅回路62Aは第1入力信号を増幅する。分配器61と第1増幅回路62Aの入力端との間には第1の3λ/8伝送路64Aが設けられている。
【0033】
第2増幅回路62Bは第2入力信号を増幅する。分配器61と第2増幅回路62Bの入力端との間には第1のλ/4伝送路64Bが設けられている。第2増幅回路62Bの出力端と合成器63との間には第2のλ/8伝送路65Bが設けられている。
【0034】
第3増幅回路62Cは第3入力信号を増幅する。分配器61と第3増幅回路62Cの入力端との間には第1のλ/8伝送路64Cが設けられている。第3増幅回路62Cの出力端と合成器63との間には第2のλ/4伝送路65Cが設けられている。
【0035】
第4増幅回路62Dは第4入力信号を増幅する。第4増幅回路62Dの出力端と合成器63との間には第2の3λ/8伝送路65Dが設けられている。
【0036】
合成器63は、第1増幅回路62Aから出力される第1出力信号、第2増幅回路62Bから出力される第2出力信号、第3増幅回路62Cから出力される第3出力信号、及び第4増幅回路62Dから出力される第4出力信号、を合成し、合成された信号を負荷80に出力する。後述するように、第2のλ/8伝送路65B、第2のλ/4伝送路65C、及び第2の3λ/8伝送路65Dは、インピーダンス変換回路として機能する。
【0037】
入力信号を分配器61で4系統に分配し、第1増幅回路62A、第2増幅回路62B、第3増幅回路62C、及び第4増幅回路62Dの4つの増幅回路で増幅した後に合成することにより、1つの増幅回路では得られない大電力の高周波信号を負荷80に供給できるようにしている。
【0038】
一方、第1の3λ/8伝送路64A、第1のλ/4伝送路64B、第1のλ/8伝送路64C、第2のλ/8伝送路65B、第2のλ/4伝送路65C、及び第2の3λ/8伝送路65Dは、負荷変動による影響を抑制するために設けられており、実施形態の増幅装置60の特徴的な構成である。このように構成された増幅装置60の作用効果を説明する前に、
図4及び
図5を用いて、比較例に係る増幅装置の構成と、その課題を説明する。
【0039】
図4(a)は、比較例(1)に係る増幅装置の構成を示すブロック図である。
図4は、入力信号を分配器で2系統に分配した例であるが、
図3を対比してわかるように、比較例(1)の増幅装置は、実施形態に係る増幅装置60に備えられている入力側伝送路64A乃至64Cと、出力側伝送路65B乃至65Dとを有していない。
【0040】
前述したように、磁気共鳴イメージング装置1では、撮像対象である被検体Pに関連する要因により、増幅装置の負荷は、抵抗性負荷だけでなく、誘導性負荷や容量性負荷に変化し得る。このような負荷変動により負荷不整合の状態が発生し、その結果、負荷から増幅装置の各増幅回路の出力端に向かう反射信号が発生する。
【0041】
一方、負荷不整合、或いは、反射信号の影響により、増幅回路の出力特性が変化することが知られている。特に、増幅回路の出力端から負荷側を見たときのインピーダンスが、誘導性か容量性かによって、増幅回路の出力特性が変化することが知られている。
【0042】
図4(b)及び
図4(c)は、負荷不整合の状態による増幅回路の出力特性の変化を模式的に示したものである。
図4(b)は、負荷80が誘導性の場合における増幅回路の入出力特性を示した図である。負荷80が誘導性の場合は、抵抗性負荷のときに比べて、増幅回路の利得が増加する傾向を示す。
【0043】
一方、
図4(c)は、負荷80が容量性の場合における増幅回路の入出力特性を示した図である。負荷80が容量性の場合は、抵抗性負荷のときに比べて、増幅回路の利得が低下する傾向を示す。このように、負荷80が誘導性であるのか、容量性であるのかによって、増幅回路の利得の変化の方向(すなわち、増加方向か低下方向か)が逆になることが知られている。
【0044】
このように、負荷80が変動することによって増幅回路の利得が変化する、或いは、増幅回路の出力電力が変化すると、意図した値の電力を負荷80に供給することができないため、不都合である。
【0045】
図5は、このような不都合を回避するために、負荷80と合成器の間にアイソレータを設けた、比較例(2)に係る増幅装置の構成を示すブロック図である。この比較例(2)の増幅装置では、負荷80が変動して負荷不整合の状態が発生しても反射信号がアイソレータで吸収されるため、反射信号は各増幅回路の出力端まで到達しない。このため、上述した不都合は発生しない。
【0046】
しかしながら、比較例(2)の増幅装置では、前述したように、大電力用アイソレータは、物理的なサイズが大きく、高価格でもある。また、大電力用アイソレータは、その最大出力に制限があり、このため、増幅回路の出力特性に影響を与える可能性もある。
【0047】
そこで、実施形態に係る増幅装置60では、入力側伝送路64A乃至64Cと、出力側伝送路65B乃至65Dとを設けることにより、大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できるようにしている。以下、この作用効果について、
図6及び
図7を用いて説明する。
【0048】
図6は、負荷80が容量性の場合における増幅装置60の作用効果を説明する図である。
図6(a)は、
図3に示した実施形態に係る増幅装置60の構成のうち、第1増幅回路62A及び第3増幅回路62Cで構成される並列要素回路のみを抽出して示している。並列要素回路とは、並列に設けられた2つの増幅回路の組み合わせである。
【0049】
図6(a)に示すように、負荷80が容量性の場合、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスは、負荷80のインピーダンスと実質的に同じとなり、容量性となる。
【0050】
図6(b)は、第1増幅回路62Aの入出力特性を示す図である。第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスが容量性の場合、第1増幅回路62Aの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して低下する傾向となる。
【0051】
一方、第3増幅回路62Cの出力端と合成器63との間には、インピーダンス変換回路としての第2のλ/4伝送路65Cが設けられている。このため、負荷80が容量性(すなわち、負荷80のリアクタンス成分の極性が負)の場合、第3増幅回路62Cの出力端から負荷側を見たインピーダンスは誘導性(すなわち、負荷80のリアクタンス成分の極性が正)になる。
【0052】
より具体的には、第2のλ/4伝送路65Cは、第2のλ/4伝送路65Cと合成器63の間の点から負荷側を見たインピーダンスと、第2のλ/4伝送路65Cと第3増幅回路62Cの間の点から負荷側を見たインピーダンスとを異ならせる機能を有している。言い換えると、第2のλ/4伝送路65Cを第3増幅回路62Cと合成器63との間に設けたことにより、第3増幅回路62Cの出力端から負荷側を見たインピーダンスのリアクタンス成分の極性と、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスのリアクタンス成分の極性とを互いに逆極性にすることが可能となる。
【0053】
すなわち、第2のλ/4伝送路65Cは、第3増幅回路62Cの出力端から負荷側を見たインピーダンスが、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスに対して180度の位相差を生じさせる効果をもつ。
【0054】
なお、第1増幅回路62Aと分配器61との間に設けられている第1の3λ/8伝送路64Aと、第3増幅回路62Cと分配器61との間に設けられている第1のλ/8伝送路64Cとは、分配器61によって分割された2つの高周波信号の位相が、合成器63の2つの入力端において同一位相とするための位相調整回路として機能する。
【0055】
図6(c)は、第3増幅回路62Cの入出力特性を示す図である。第3増幅回路62Cの出力端から負荷側を見たインピーダンスが誘導性の場合、第3増幅回路62Cの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して増加する傾向となる。
【0056】
図6(d)は、第1増幅回路62Aの出力と第3増幅回路62Cの出力の合成出力(すなわち、合成器63の出力)の特性を例示する図である。合成器63の出力では、第1増幅回路62Aの利得の低下が、第3増幅回路62Cの利得の増加で補完されることになる。この結果、増幅装置60が、あたかも抵抗性負荷に電力を供給しているような振る舞いを示すようになる。
【0057】
図7は、
図6とは逆に、負荷80が誘導性の場合における増幅装置60の作用効果を説明する図である。
図7(a)に示す増幅装置60の構成は、
図6(a)に示した構成と同じである。
【0058】
図7(a)に示すように、負荷80が誘導性の場合、第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスは、負荷80のインピーダンスと実質的に同じとなり、誘導性となる。
【0059】
図7(b)は、第1増幅回路62Aの入出力特性を示す図である。第1増幅回路62Aの出力端から負荷側を見たインピーダンスが誘導性の場合、
図6(b)とは逆に、第1増幅回路62Aの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して増加する傾向となる。
【0060】
一方、第3増幅回路62Cの出力端と合成器63との間には、インピーダンス変換回路としての第2のλ/4伝送路65Cが設けられている。このため、負荷80が誘導性(すなわち、負荷80のリアクタンス成分の極性が正)の場合、第3増幅回路62Cの出力端から負荷側を見たインピーダンスは容量性(すなわち、負荷80のリアクタンス成分の極性が負)になる。
【0061】
図7(c)は、第3増幅回路62Cの入出力特性を示す図である。第3増幅回路62Cの出力端から負荷側を見たインピーダンスが容量性の場合、第3増幅回路62Cの利得は、負荷80が抵抗性の場合に対して低下する傾向となる。
【0062】
図7(d)は、第1増幅回路62Aの出力と第3増幅回路62Cの出力の合成出力(すなわち、合成器63の出力)の特性を例示する図である。合成器63の出力では、第3増幅回路62Cの利得の低下が、第1増幅回路62Aの利得の増加で補完されることになる。この結果、増幅装置60が、あたかも抵抗性負荷に電力を供給しているような振る舞いを示すようになる。
【0063】
上述したように、第1の実施形態の第1増幅回路62Aと第3増幅回路62Cで構成される並列要素回路では、第3増幅回路62Cと合成器63との間に、第2のλ/4伝送路65Cが、インピーダンス変換回路として設けられている。この結果、負荷80が誘導性や容量性に変動した場合であっても、負荷80があたかも抵抗性負荷であるように振舞わせることが可能となり、増幅装置60の利得変動を抑制し、安定した入出力特性を提供することが可能となる。
【0064】
第1の実施形態に係る増幅装置60の第2増幅回路62B及び第4増幅回路62Dで構成される他の並列要素回路についても、
図6及び
図7を用いて説明した並列要素回路の作用効果と同様の作用効果がある。すなわち、並列要素回路は、2つの増幅回路のうちの少なくとも1つの増幅回路の出力端と負荷との間にインピーダンス変換回路を備える。インピーダンス変換回路により、一方の増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成される。
【0065】
言い換えると、増幅回路の出力端と合成器との間の伝送路は、他方の増幅回路の出力端から負荷側を見たインピーダンスが一方の増幅回路の出力端から負荷側を見たインピーダンスに対して180度の位相差を生じさせる波長に対応する伝送路長を有する。増幅装置60は、第1増幅回路62A及び第3増幅回路62Cと、第2増幅回路62B及び第4増幅回路62Dとの2つの並列要素回路を備えている。そのため、2つの並列要素回路のそれぞれにおいて、増幅装置60の利得変動を抑制し、全体としても安定した入出力特性を提供することが可能となる。
【0066】
なお、
図3に示されるように、第1増幅回路62A、第2増幅回路62B、第3増幅回路62C、及び第4増幅回路62Dでは、それぞれの増幅回路の出力端からインピーダンス変換回路を介して負荷側を見たインピーダンスが異なっている。つまり、各並列要素回路を構成する2つの増幅回路のうちの少なくとも1つの増幅回路の出力端からインピーダンス変換回路を介して負荷側を見たインピーダンスが、複数(第1の実施形態では2つ)の並列要素回路の間において、異なるように構成される。増幅装置60は、このような複数の並列要素回路によって構成されることで、増幅回路の熱分散(すなわち、放熱)が可能となる。以下、
図8及び
図9を用いて、増幅装置60内における複数の増幅回路の配置と増幅回路の熱分散の作用効果を説明する。
【0067】
図8は、負荷80の位相に基づいた増幅回路のドレイン電流について説明する図である。なお、ここで、「負荷80の位相」とは、増幅回路の出力端から負荷80側を見たときの複素インピーダンスの位相(又は複素反射係数の位相)のことである。
図8は、比較例(1)に係る増幅装置において、負荷80の位相を0°、45°、90°、135°、180°、-135°、-90°、-45°に変化させた場合の増幅回路のドレイン電流を模式的に示している。
図8に示すように、負荷80の位相が-90°(容量性側)に近いほど増幅回路のドレイン電流は大きくなり、負荷80の位相が90°(誘導性側)に近いほど増幅回路のドレイン電流は小さくなる傾向がある。そのため、ドレイン電流が大きい場合(容量性側)に増幅回路の発熱が大きくなり、ドレイン電流が小さい場合(誘導性側)に増幅回路の発熱が小さくなる傾向がある。
【0068】
図9は、スミスチャートにおいて負荷80の位相と発熱の関係を説明する図である。
図9は、それぞれの増幅回路の出力端から負荷80を見たインピーダンスに対する位相(すなわち、負荷80の位相)が0°、45°、90°、135°、180°、-135°、-90°、-45°である場合の発熱の温度をハッチングの濃淡で模式的に示している。
【0069】
図9に示すように、負荷80の位相が-90°(容量性側)に近いほど増幅回路の発熱は大きくなり、負荷80の位相が90°(誘導性側)に近いほど増幅回路の発熱は小さくなる。すなわち、負荷80の位相が容量性側と誘導性側では発熱量に偏りがある。以下、
図10、
図12、
図13、
図15、及び
図16において、増幅装置を構成する増幅回路の発熱の温度を、
図9のハッチングの濃淡を用いて表す。
【0070】
図10は、複数の増幅回路が熱分散するための増幅装置内での配置を説明する図である。
図10(A)は、負荷80の位相が-90°と90°の2つの並列要素回路で構成される増幅装置の配置例と、
図10(B)は、負荷80の位相が-90°と90°の並列要素回路と0°と180°の並列要素回路とで構成される第1の実施形態に係る増幅装置60の配置例を示している。
【0071】
図10(A)の配置例では、増幅装置内で負荷80の位相が容量性側と誘導性側で偏りがあるため、増幅装置内で発熱量の偏りが生じている。一方、
図10(B)の配置例では、負荷80の位相が-90°、0°、90°、180°となるように配置されているため、増幅装置内で増幅回路の熱が分散されることになる。つまり、第1の実施形態に係る増幅装置60は、それぞれの増幅回路の出力端から負荷80を見たインピーダンスに対する位相を分散するように、増幅装置内で増幅回路を配置することで、安定した入出力特性を保ちつつ、増幅装置内における発熱量の偏りを軽減することができる。
【0072】
(増幅装置の第1の実施形態の変形例)
図11は、第1の実施形態の変形例に係る増幅装置60の構成例を示すブロック図である。第1の実施形態に係る増幅装置60は、2つの並列要素回路を構成する全4つ増幅回路(すなわち、各並列要素回路を構成する増幅回路は2つ)で構成されている。これに対して、
図11に示すように、第1の実施形態の変形例に係る増幅装置60は、増幅回路をn(nは正の偶数)個、並列要素回路をn/2個、有して構成される。第1の実施形態の変形例に係る増幅装置60は、例えば、3つ以上の並列要素回路から構成されてもよい。
【0073】
分配器61は、RF送信波生成装置35から出力される入力信号RFinを、n個の入力信号に分配する。分配器61でn分配された入力信号は、n個の増幅回路のそれぞれに入力される。
【0074】
分配器61とn個の増幅回路の入力端との間にn個の入力側伝送路164(
図11では164A、164B、及び164C)がそれぞれ設けられる。入力側伝送路は位相調整回路として機能する。n個の入力側伝送路164のそれぞれは、n個の増幅回路のうち、k(kは1からnまでの自然数)番目の増幅回路に対しては、(n―k)/2n波長に対応する伝送路長を有する伝送路として構成される。なお、k=n番目の経路に関しては入力側伝送路を実質的に設けない(付加しない)構成としている。
【0075】
合成器63とn個の増幅回路の出力端との間にn個の出力側伝送路165(
図11では165B、165C、及び165D)がそれぞれ設けられる。出力側伝送路はインピーダンス変換回路として機能する。n個の出力側伝送路のそれぞれは、k番目の増幅回路に対しては、(k―1)/2n波長に対応する伝送路長を有する伝送路として構成される。なお、k=1番目の経路に関しては、出力側伝送路を実質的に設けない(付加しない)構成としている。
【0076】
なお、入力側伝送路と出力側伝送路は、n個の増幅回路のそれぞれにおいて、入力側伝送路の伝送路長と出力側伝送路の伝送路長との和が、(n―1)/2n波長に対応する長さとなるように構成される。
【0077】
例えば、
図11では、分配器61と第1増幅回路162A、第2増幅回路162B、及び第(n―1)増幅回路162Cの入力端との間には、λ(n―1)/2n、λ(n―2)/2n、及びλ/2nの入力側伝送路164A、164B、及び164Cがそれぞれ設けられている。第2増幅回路162B、第(n―1)増幅回路162C、及び第n増幅回路162Dの出力端と合成器63との間には、λ/2n、λ(n―2)/2n、及びλ(n―1)/2nの出力側伝送路165B、165C、及び165Dが設けられている。
【0078】
合成器63は、n個の増幅回路から出力される出力信号を合成し、合成された信号をRF信号としてRFコイルに供給する。つまり、入力信号を分配器61でn系統に分配し、n個の増幅回路で増幅した後に合成する。以下、第1の実施形態の変形例の増幅回路の熱分散の作用効果について説明する。
【0079】
図12は、実施形態1の変形例に係る増幅装置60の増幅装置内での第1の配置例の図である。
図12の増幅装置60は、複数の増幅回路の一例としてnが8個の増幅回路362A~362Hと、入力側伝送路364A~364Gと、出力側伝送路365B~365Hとで構成される。
図12は、負荷80の位相が-90°と90°の並列要素回路、0°と180°の並列要素回路、-45°と135°の並列要素回路、及び45°と-135°の並列要素回路で構成される増幅装置60の配置例を示している。
【0080】
図12の配置例では、増幅装置内において、負荷80の位相が-90°、-45°、0°、45°、90°、135°、180°、-135°となる8個の増幅回路362A~362Hを、例えば、一列となるように順に配置している。この配置例では、例えば、増幅回路362Aと増幅回路362Bとが隣り合って配置され、増幅回路362Bと増幅回路362Cとが隣り合って配置される。言い換えると、360°をn個で分割し、それぞれの増幅回路に等間隔でn個に分割された位相が位相順に配置されている。
図9のスミスチャートで示されるような、それぞれの増幅回路の出力端から負荷80を見たインピーダンスに対する位相と発熱量との関係に基づいて、n個の増幅回路を増幅装置内に配置することによって、増幅装置内における発熱量の偏りが軽減される。つまり、n個の増幅回路の熱が分散されることになる。
【0081】
図13は、
図12の増幅装置60における別の配置例である。
図13の配置例では、増幅装置内において、負荷80の位相が90°、-45°、0°、45°、-90°、135°、180°、-135°となる8個の増幅回路362A~362Hを、例えば、一列となるように順に配置している。この配置例では、例えば、増幅回路362Eと増幅回路362Bとが隣り合って配置され、増幅回路362Bと増幅回路362Cとが隣り合って配置される。このように、360°をn個で分割し、それぞれの増幅回路に等間隔でn個に分割された位相がその位相順に並んでいなくてもよい。例えば、増幅装置60は、n個の増幅回路を、それぞれの増幅回路の出力端から負荷を見たリアクタンスの極性と逆極性のリアクタンスの極性を有する他の増幅回路と、増幅装置内で隣り合うように配置してもよい。
【0082】
また、例えば、増幅装置60は、並列要素回路のそれぞれにおいて、2つの増幅回路のうち、一方の増幅回路と他方の増幅回路とが、増幅装置内で互いに隣り合わないように配置してもよい。具体的には、負荷80の位相が-90°と90°、0°と180°、-45°と135°、及び45°と-135°のそれぞれの並列要素回路が、並列要素回路を構成する2つの増幅回路間で隣り合わない配置でもよい。
【0083】
第1の実施形態の変形例に係る増幅装置60は、上述した第1の実施形態の効果を維持しつつ、増幅装置60の出力電力を増加させることができる。
【0084】
(増幅装置の第2の実施形態)
図14は、第2の実施形態に係る増幅装置60の構成例を示すブロック図である。第2の実施形態に係る増幅装置60は、第1の実施形態の変形例に係る増幅装置60と同様に、増幅回路をn(nは正の偶数)個、並列要素回路をn/2個、有して構成される。一方で、第2の実施形態に係る増幅装置60は、第1の実施形態の変形例と異なり、複数の並列要素回路の間において、各並列要素回路を構成する2の増幅回路の出力端からインピーダンス変換回路を介して負荷側を見たインピーダンスが異なるように構成されていない。
【0085】
より具体的には、
図14に示すように、第2の実施形態に係る増幅装置60は、分配器61、n/2個の第1の4分の1波長の入力側伝送路264(以下、第1のλ/4伝送路264と呼ぶ)、第1乃至第n/2の増幅回路262A、第(n/2+1)乃至第nの増幅回路262B、n/2個の第2の4分の1波長の伝送路265(以下、第2のλ/4伝送路265と呼ぶ)、及び、合成器63を備えて構成されている。
【0086】
分配器61は、RF送信波生成装置35から出力される入力信号RFinを、n個の入力信号に分配する。分配器61でn分配された入力信号は、n個の増幅回路のそれぞれに入力される。
【0087】
分配器61とn/2個の第1乃至第n/2の増幅回路262Aの入力端との間に第1の4分の1波長の入力側伝送路264がそれぞれ設けられる。入力側伝送路は位相調整回路として機能する。また、合成器63とn/2個の第(n/2+1)乃至第nの増幅回路262Bの出力端との間に第2の4分の1波長の出力側伝送路265がそれぞれ設けられる。出力側伝送路はインピーダンス変換回路として機能する。第1の4分の1波長の入力側伝送路264と第2の4分の1波長の出力側伝送路265とは、負荷変動による影響を抑制するために設けられており、実施形態の増幅装置60の特徴的な構成である。
【0088】
ここで、並列要素回路は、1つの入力側伝送路264を有する増幅回路262Aと1つの出力側伝送路265を有する増幅回路262Bとの組み合わせである。すなわち、並列要素回路を構成する2つの増幅回路のうち、1つの増幅回路の出力端と負荷80との間にインピーダンス変換回路が設けられている。このインピーダンス変換回路により、一方の増幅回路の出力端から負荷80を見たリアクタンスの極性と、他方の増幅回路の出力端から負荷80を見たリアクタンスの極性が互いに逆極性となるように構成されている。
【0089】
合成器63は、n個の増幅回路から出力される出力信号を合成し、合成された信号をRF信号としてRFコイルに供給する。つまり、入力信号を分配器61でn系統に分配し、n個の増幅回路で増幅した後に合成する。
【0090】
このような構成により、複数の並列要素回路のそれぞれにおいて、増幅装置60の利得変動を抑制し、全体としても安定した入出力特性を提供することが可能となる。また、増幅装置60の出力電力を増加させることができる。以下、複数の増幅回路の増幅装置内での配置による熱分散について、
図15及び
図16を用いて説明する。
【0091】
図15は、複数の増幅回路が熱分散するための増幅装置内での配置を説明する図である。
図15は、負荷80の位相が-90°と90°の4つの並列要素回路で構成される増幅装置において、負荷80の位相が-90°、-90°、-90°、-90°、90°、90°、90°、90°となるように増幅装置内で4個の増幅回路362Aと4個の増幅回路362Bとがそれぞれ配置されている例である。このように、増幅装置内で容量性側と誘導性側で偏りがある配置であると、増幅装置内で発熱量の偏りが生じ、特に、発熱が大きい容量性側(例えば、
図15の点線枠S内)では、増幅回路で熱が拡散されにくくなる。
【0092】
一方、
図16は、
図15と同じ負荷80の位相が-90°と90°の4つの並列要素回路で構成される増幅装置において、負荷80の位相が-90°、90°、-90°、90°、-90°、90°、-90°、90°となるように増幅装置内で4個の増幅回路362Aと4個の増幅回路362Bとが交互に配置されている例である。このように、第2の実施形態に係る増幅装置60は、複数の増幅回路262A,262Bのうち、発熱が大きい容量性側の増幅回路262Aと、発熱が小さい誘導性側の増幅回路262Bとを、それぞれ増幅装置内で交互に配置することで、増幅装置内における発熱量の偏りを軽減することができる。
【0093】
(増幅装置の第3の実施形態)
図17は、第3の実施形態に係る増幅装置60の構成例を示すブロック図である。第3の実施形態に係る増幅装置60は、第1の実施形態の変形例に係る構成に加えて、n(nは正の偶数)個の可変移相器、及び位相制御回路を少なくとも備えて構成されている。なお、
図17ではn個の増幅回路のうち、4つの増幅回路のみを示しているが、増幅回路の数を限定するものではない。第3の実施形態に係る増幅装置60は、例えば、第1の実施形態の変形例に係る構成に加えて、分配器66、n個の可変移相器67(
図17では67A乃至67D)と、位相制御回路69、n個のカプラ68(
図17では68A乃至68D)を備えて構成される。
【0094】
n個の第1乃至第nの可変移相器67は、分配器61とn個の第1乃至第nの入力側伝送路164(
図17では164A乃至164D)との間にそれぞれ設けられる。そしてn個の第1乃至第nの可変移相器67は、分配器61から第1乃至第nの増幅回路162(
図17では162A乃至162D)を経由して合成器63へ至る経路における高周波信号の位相を調整する。
【0095】
位相制御回路は、第1乃至第nのn個の増幅回路のうち1つの増幅回路の出力信号(第1出力信号)が入力される合成器の63の入力端(第1の入力端)における第1位相と、第1出力信号を出力する1つの増幅回路の他の(n-1)個の増幅回路の出力信号(第2出力信号)が入力される合成器63の入力端(第2の入力端)における第2位相とが同一の位相となるように、それぞれの可変移相器67をフィードバック制御する。
【0096】
より具体的には、位相制御回路69は、位相検出器を内蔵しており、それぞれの増幅回路に対して位相検出器で検出される位相が同一となるように、第1乃至第nのn個の可変移相器67のそれぞれの移相量を制御することで、合成器63に入力されるn個の高周波信号の位相を同一にすることができる。
【0097】
このような位相制御により、第1乃至第nの増幅回路62のそれぞれの通過位相が熱等の要因で変化した場合でも、合成器63に入力されるn個の高周波信号の位相を同一にすることが可能となり、合成出力を最大値に維持することができる。
【0098】
(増幅装置の第4の実施形態)
第1の実施形態、第1の実施形態の変形例、第2の実施形態、及び第3の実施形態では、入力側伝送路及び出力側伝送路は、所定の波長に相当する長さの線路で構成されている。これに対して、第4の実施形態は、入力側伝送路64、164、264、及び出力側伝送路65、165、265を、
図18(a)で示すキャパシタCとインダクタLで構成されたπ型(C-L-C)のLC回路で構成する。また、LC回路は、
図18(b)に示すように、2つのインダクタLの間にキャパシタCが配置されたπ型(L-C-L)のLC回路であってもよい。また、LC回路は、
図18(c)に示すように、T型(L-C-L)のLC回路、
図18(d)に示すように、T型(C-L-C)のLC回路であってもよい。これらのLC回路によっても、所定の波長に相当する位相シフトが可能であり、所定の波長に相当する長さの線路で構成された入力側伝送路及び出力側伝送路と同様の効果を得ることができる。
【0099】
以上説明してきたように、実施形態の磁気共鳴イメージング装置は、磁気共鳴イメージング装置の高周波増幅器とRFコイルとの間に大電力用アイソレータを設けることなく、負荷変動の影響を抑制できる。
【0100】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0101】
1…磁気共鳴イメージング装置 12…RFコイル 33…RF送信器 60…増幅装置 61…分配器 62(62A、62B、62C、62D)、162(162A、162B、162C、162D)、262(262A、262B)、362(362A、362B、362C、362D、362E、362F、362G、362H)…増幅回路 63…合成器 64(64A、64B、64C)、164(164A、164B、164C)、264、364(364A、364B、364C、364D、364E、364F、364G)…入力側伝送路 65(65B、65C、65D)、165(165B、165C、165D)、265、365(365B、365C、365D、365E、365F、365G、365H)…出力側伝送路 66…分配器 67…可変移相器 69…位相制御回路 80…負荷