(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172298
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電動機制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 6/08 20160101AFI20241205BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20241205BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20241205BHJP
B60L 50/61 20190101ALI20241205BHJP
B60L 50/70 20190101ALI20241205BHJP
【FI】
H02P6/08
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L50/61
B60L50/70
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089914
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(72)【発明者】
【氏名】野嵜 正浩
(72)【発明者】
【氏名】藤本 和樹
【テーマコード(参考)】
5H125
5H560
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC07
5H125AC08
5H125AC12
5H125BA00
5H125BB00
5H125BB05
5H125BC05
5H125BD02
5H125BD17
5H125CA01
5H125EE08
5H125EE42
5H125EE47
5H560AA08
5H560DA12
5H560DB11
5H560DC12
5H560EB01
5H560SS01
5H560SS07
(57)【要約】
【課題】回転検出器を取り付けることなく、電動機をフリー回転から負荷投入した際に、電源に必要な電力を要求する。
【解決手段】回転検出器が設けられていない電動機20を制御する電動機制御装置1は、トルク指令及び電動機運転指令を与える指令部11と、電動機20を駆動するのに必要な直流電力を供給する電源15と、直流電力を交流電力に変換し、電動機20を駆動するインバータ13と、電動機運転指令がオンになったときに、電源15への電源運転指令及びインバータ13へのインバータ運転指令を同時にオンにし、トルク目標をゼロとしてインバータ13を運転させて、電動機20の回転速度を推測し、回転速度及びトルク指令に基づいて電源15に対する電源出力指令を求める制御部12と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転検出器が設けられていない電動機を制御する電動機制御装置であって、
トルク指令及び電動機運転指令を与える指令部と、
前記電動機を駆動するのに必要な直流電力を供給する電源と、
前記直流電力を交流電力に変換し、前記電動機を駆動するインバータと、
前記電動機運転指令がオンになったときに、前記電源への電源運転指令及び前記インバータへのインバータ運転指令を同時にオンにし、トルク目標をゼロとして前記インバータを運転させて、前記電動機の回転速度を推測し、該回転速度及び前記トルク指令に基づいて前記電源に対する電源出力指令を求める制御部と、
を備える、電動機制御装置。
【請求項2】
前記電源は、
機械エネルギーを発生する内燃機関と、
前記機械エネルギーを交流電力に変換する発電機と、
前記交流電力を直流電力に変換するコンバータと、
を備える、請求項1に記載の電動機制御装置。
【請求項3】
前記電源は、
直流電力を発生する燃料電池と、
前記直流電力を調整するDC/DCコンバータと、
を備える、請求項1に記載の電動機制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力を供給する独立した電源を持ち、電源から供給された電力で電動機を駆動する電動機制御装置において、電源へ要求する電力は電動機の負荷に応じて変化する。
【0003】
例えば特許文献1には、車速を検知して、車速と比例する電動機の回転数を得て負荷の推定を行う装置が開示されている。
【0004】
一方で、電動機のメンテナンス性を高めたり、電動機を小さくしても大きな出力を得られるようにしたりする観点から、電動機の回転速度を検出する回転検出器(速度センサ)が設けられていない、いわゆる速度センサレス電動機制御装置が知られている(例えば特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-084651号公報
【特許文献2】特開2001-211689号公報
【特許文献3】特開2001-211697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では、電動機と機械的に接続された部分に回転検出器が必要となるため、メンテナンス性が劣る。
【0007】
また、特許文献2及び3に開示された技術では、電動機の制御を行っていないフリー回転時(惰性走行)には回転速度を検出できないため、応答の遅い電源を用いた場合、フリー回転から負荷投入した時(加速走行)の過渡的な状態において、電源が瞬間的に過負荷状態となる。
【0008】
さらに、特許文献2及び3に開示された技術を用いる場合、負荷投入時の過負荷状態を防ぐために、電源に十分な余裕を持たせた電力を要求する必要があるが、電源が内燃機関や燃料電池である場合には、燃費が悪化する。また、電源が内燃機関である場合には、過剰に回転数を上げるため、騒音・振動が発生する。
【0009】
かかる事情に鑑みてなされた本発明の目的は、回転検出器を取り付けることなく、電動機をフリー回転から負荷投入した際に、電源に必要な電力を要求することが可能な電動機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、一実施形態に係る電動機制御装置は、回転検出器が設けられていない電動機を制御する電動機制御装置であって、トルク指令及び電動機運転指令を与える指令部と、前記電動機を駆動するのに必要な直流電力を供給する電源と、前記直流電力を交流電力に変換し、前記電動機を駆動するインバータと、前記電動機運転指令がオンになったときに、前記電源への電源運転指令及び前記インバータへのインバータ運転指令を同時にオンにし、トルク目標をゼロとして前記インバータを運転させて、前記電動機の回転速度を推測し、該回転速度及び前記トルク指令に基づいて前記電源に対する電源出力指令を求める制御部と、を備える。
【0011】
さらに、一実施形態において、前記電源は、機械エネルギーを発生する内燃機関と、前記機械エネルギーを交流電力に変換する発電機と、前記交流電力を直流電力に変換するコンバータと、を備える。
【0012】
さらに、一実施形態において、前記電源は、直流電力を発生する燃料電池と、前記直流電力を調整するDC/DCコンバータと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転検出器を取り付けることなく、電動機をフリー回転から負荷投入した際に、電動機が要求する電力を推測し、電源に必要な電力を要求することが可能となる。さらに、電源が過負荷となることを防ぎつつ、省エネルギーを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の第1の構成例を示す図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の第2の構成例を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の第3の構成例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の動作例を示すタイムチャートである。
【
図5】従来の電動機制御装置の動作例を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動機制御装置の構成例を示す図である。
図1に示す電動機制御装置1は、指令部11と、制御部12と、インバータ13と、電流検出部14と、電源15と、を備える。
【0017】
電動機20は、電動機制御装置1と電気的に接続される。電動機制御装置1は、回転検出器(速度センサ)が設けられていない電動機20を制御する装置であり、鉄道車両に搭載される。
【0018】
指令部11は、マスターコントローラー(主幹制御器)から入力した電動機運転指令及びトルク指令を、制御部12に出力する。
【0019】
電流検出部14は、インバータ13の出力する電流値(すなわち、電動機20に流れる電流値)を検出する。
【0020】
制御部12は、電動機20が如何なる状態であっても、制御開始時に電動機20を駆動する初期投入電力を推測して、電源15を制御する。制御部12は、指令部11から電動機運転指令及びトルク指令を入力し、電流検出部14から電流値を入力する。
【0021】
制御部12は、電動機運転指令がオンになると、電源運転指令及びインバータ運転指令を同時にオンにし、電源運転指令を電源15に出力し、インバータ運転指令をインバータ13に出力する。インバータ運転指令がオンになると、電動機20に電流が流れる。また、制御部12は、トルク指令に基づいて電源出力指令を求め、電源出力指令を電源15に出力する。また、制御部12は、電流検出部14により検出された電流値に基づいて電力変換指令を求め、電力変換指令をインバータ13に出力する。例えば、特許文献2及び3に記載の手法を用いて、電流ベクトルに基づいて、インバータ13に対する電圧指令を求める。
【0022】
電源15は、制御部12から入力した電源出力指令に基づいて、電動機20を駆動するのに必要な直流電力をインバータ13へ供給する。
【0023】
インバータ13は、制御部12からインバータ運転指令及び電力変換指令を入力する。インバータ13は、インバータ運転指令がオンになると、電力変換指令に基づいて電源15から供給された直流電力を交流電力に変換し、電動機20を駆動する。
【0024】
図2は、電源15の具体的な第1の構成例を示す図である。
図2に示す電源15aは、内燃機関151と、発電機152と、コンバータ153と、を備える。
【0025】
内燃機関151は、機械エネルギー(力学的エネルギー)を発生する。
【0026】
発電機152は、内燃機関151と機械的に接続され、内燃機関151が発生した機械エネルギーを交流電力に変換する。
【0027】
コンバータ153は、発電機152が発生した交流電力を直流電力に変換し、インバータ13に直流電力を供給する。
【0028】
制御部12は、電源運転指令として内燃機関運転指令を内燃機関151に出力する。
【0029】
図3は、電源15の具体的な第2の構成例を示す図である。
図3に示す電源15bは、燃料電池154と、DC/DCコンバータ155と、を備える。
【0030】
燃料電池154は、水素を燃料とし、酸素との電気化学反応により、直流電力を発生する。
【0031】
DC/DCコンバータ155は、燃料電池154が発生した直流電力を調整し、インバータ13に直流電力を供給する。
【0032】
制御部12は、電源運転指令として燃料電池運転指令を燃料電池154に出力する。
【0033】
<動作>
次に、本発明を代表して
図2に示した電動機制御装置2の動作について説明する。
【0034】
図4は、電動機制御装置2の動作例を示すタイムチャートである。
図5は、従来方法の動作例を示すタイムチャートである。
図4及び
図5における横軸は時間軸であり、説明の便宜上、時刻0から4を等間隔で示している。
【0035】
図4及び
図5は、上から順に、
・電源15aに要求する電力(電源出力指令)、及びインバータ13が出力する電力(インバータ出力)、
・インバータ13のトルク目標(インバータトルク目標)、及びインバータ13の出力トルク(インバータトルク)
・内燃機関151の回転速度(内燃機関回転速度)、及びインバータ13によって駆動される電動機20の回転速度(電動機回転速度)
・インバータ運転指令、内燃機関運転指令、及び電動機運転指令の操作
を示す。
【0036】
図4について時系列に説明する。時刻0では電動機20の制御が行われず、電動機20はフリー回転している。制御部12は、指令部11から入力した電動機運転指令がオンになったときに(時刻1)、電源15aへの内燃機関運転指令をオンにするとともに、インバータ13へのインバータ運転指令をオンにする。
【0037】
制御部12は、トルク目標をゼロとしてインバータ13を運転させることにより、電動機20の現在の回転速度nを推測する(時刻1)。例えば、電動機20が誘導電動機である場合には、下記の参考文献の4章に記載されているように、二次磁束(二次鎖交磁束ベクトルΨ2ν)の回転軌跡から回転速度n(速度ωm)を算出する。電動機20が同期電動機である場合には、無負荷誘起電圧の波形から回転速度nを推定する。
[参考文献]上園恵一、高木正志、佐野孝、「車両用速度センサレスベクトル制御」、東洋電機技報、第104号、pp.9-14、1999-11
【0038】
そして、制御部12は、推測した電動機回転速度nと、指令部11から与えられたトルク指令(インバータ13の最終トルク目標値T)とに基づいて、電源15aに要求する電力Pを次式により演算し、電源出力指令を電源15aに出力する(時刻1以降)。PはTとnの積に比例する。
P=2π・T・n/60
P:インバータ出力[W]
T:インバータトルク[Nm]
n:電動機回転速度[r/min]
【0039】
図6は、電動機のトルク特性を示す図である。横軸は電動機回転速度nであり、縦軸はインバータトルクT及びインバータ出力Pである。定トルク領域では、インバータ出力Pは電動機回転速度nに比例する。
【0040】
従来の速度センサレス電動機制御装置は、フリー回転時に電動機の回転速度が分からないため、電源出力指令は、インバータが想定される最大電力P
MAX(
図6参照)を出力できるように高い値が設定される(時刻1)。そして、内燃機関の回転速度が十分に上昇するまで待ってから、インバータ運転指令をオンにする(時刻2)。一方、電動機制御装置2は、電動機20の回転速度N
1を予め推定してインバータ出力P
1(
図6参照)を求めることができるため、電源出力指令として、実際に必要な電力値を設定することができる(時刻1)。
【0041】
電源15aは、制御部12から与えられた電源出力指令を基に、内燃機関151の回転速度を上昇させる。その際、電源15aは、内燃機関151の特性から、電源出力指令を満たす、燃料消費量の少ない内燃機関151の回転数Mを決定し、運転する。
【0042】
制御部12は、電源15aから、内燃機関151の回転数がMに到達した時に通知を受ける(時刻2’)。あるいは、制御部12は、発電機152に搭載された回転センサにより内燃機関151の回転速度を取得してもよいし、電動機20の回転速度nの推定と同様にして内燃機関151の回転速度を推定してもよい。そして、制御部12は、内燃機関151の回転速度が、電源15aにより決定された回転数Mに到達した後に、インバータ13のトルク目標をゼロから最終目標値に変更する。インバータ13のトルクは最終目標値に向かって傾斜をもって上昇する(時刻2’~時刻3)。また、時刻2’以降では、インバータ出力の上昇に伴い電源出力指令が緩やかに上昇するため、それに合わせて内燃機関回転速度も緩やかに上昇する。
【0043】
制御部12は、電動機20の回転速度の上昇に伴って上昇するインバータ13の出力に対応する電源出力指令を、電源15aに与える(時刻3以降)。
【0044】
電動機制御装置3においても、電動機制御装置2と同様に、制御部12は、電源15bに要求する電力を演算し、電源15bへ電源出力指令を出力する。
【0045】
電動機制御装置1によれば、電動機20及びその動力伝達先に、回転検出器を取り付けることなく、電動機20をフリー回転から負荷投入した際に、電動機20が要求する電力を推測し、電源15に必要な電力を要求することができる。すなわち、従来のように電源に十分な余裕を持たせた電力を要求する必要がなくなる。
【0046】
電動機制御装置2によれば、電動機20が要求する電力を推測することにより、電動機20をフリー回転から負荷投入した際に、予め内燃機関151の回転数を上げておくことができる(時刻1~時刻2’)。
【0047】
また、電動機制御装置2によれば、電動機20が要求する電力を推測することにより、予め電動機20が要求する電力を得ることで、内燃機関151の特性を基に、要求される電力を得られる燃料消費量が最小限で済む回転数で運転することができる。
【0048】
また、電動機制御装置2によれば、電動機20が要求する電力を推測することにより、内燃機関151の回転数を低くすることができるため、内燃機関151の加速時間(時刻1~時刻2’)を短縮でき、電動機20の加速までの待機時間(時刻1~時刻2’)を短縮することができる。
【0049】
電動機制御装置3によれば、電動機20が要求する電力を推測することにより、電動機20をフリー回転から負荷投入した際に、予め燃料電池154に供給する水素を増加させて水素と酸素の化学反応を促進させることができる。
【0050】
また、電動機制御装置3によれば、電動機20が要求する電力を推測することにより、要求される電力に到達する反応時間を短縮でき、電動機20の加速までの待機時間を短縮することができる。
【0051】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態の構成図に記載の複数の構成ブロックを統合したり、1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0052】
1,2,3 電動機制御装置
11 指令部
12 制御部
13 インバータ
14 電流検出部
15,15a,15b 電源
20 電動機
151 内燃機関
152 発電機
153 コンバータ
154 燃料電池
155 DC/DCコンバータ