(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172303
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】衛生洗浄装置及びトイレ装置
(51)【国際特許分類】
E03D 9/08 20060101AFI20241205BHJP
A47K 13/24 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
E03D9/08 B
A47K13/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089923
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004026
【氏名又は名称】弁理士法人iX
(72)【発明者】
【氏名】田部井 仁美
(72)【発明者】
【氏名】矢岡 寿成
【テーマコード(参考)】
2D037
2D038
【Fターム(参考)】
2D037AA02
2D037AD13
2D037AD14
2D038JA05
2D038JC01
2D038JF00
2D038JF06
(57)【要約】
【課題】照光部の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部とボウル部における菌の増殖を抑制できる衛生洗浄装置及びトイレ装置を提供する。
【解決手段】汚物を受けるボウル部を有する大便器の上に設置される衛生洗浄装置であって、使用者の局部に向けて洗浄水を吐出する吐水口を有し、進出及び後退する局部洗浄ノズルと、局部洗浄ノズルを後退させた状態で局部洗浄ノズルを収納可能なノズル収納部を有するケーシングと、除菌作用を有する光である除菌光を照射する照光部と、を備え、照光部から、ノズル収納部と、ボウル部と、に対して、同時に除菌光の照射を行うことを特徴とする衛生洗浄装置。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を受けるボウル部を有する大便器の上に設置される衛生洗浄装置であって、
使用者の局部に向けて洗浄水を吐出する吐水口を有し、進出及び後退する局部洗浄ノズルと、
前記局部洗浄ノズルを後退させた状態で前記局部洗浄ノズルを収納可能なノズル収納部を有するケーシングと、
除菌作用を有する光である除菌光を照射する照光部と、
を備え、
前記照光部から、前記ノズル収納部と、前記ボウル部と、に対して、同時に、前記除菌光の照射を行うことを特徴とする衛生洗浄装置。
【請求項2】
前記除菌光が照射された前記ノズル収納部の内面の放射照度の平均値は、前記除菌光が照射された前記ボウル部の表面の放射照度の平均値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の衛生洗浄装置。
【請求項3】
前記照光部は、前記ケーシングの内部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の衛生洗浄装置。
【請求項4】
前記ボウル部は、肛門洗浄位置を基準として、前記肛門洗浄位置よりも後方に位置するボウル後部と、前記肛門洗浄位置よりも前方に位置するボウル前部と、を有し、
前記除菌光が照射された前記ボウル後部の表面の放射照度の平均値は、前記除菌光が照射された前記ボウル前部の表面の放射照度の平均値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載の衛生洗浄装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の衛生洗浄装置と、
前記大便器と、
を備えた、トイレ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の形態は、一般的に、衛生洗浄装置及びトイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トイレ装置において、ケーシングの内部にあるノズル収納部と、ケーシングの外部にあるボウル部では、菌の増殖が原因で可視汚れが発生しやすいことが知られている。このようなトイレ装置において、例えば、菌が増殖しやすい部分に対して紫外線などの除菌光の照射を行うことで菌の増殖を抑制し、可視汚れの発生を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1)。菌は、単位面積あたりの菌数が所定値を超えると、可視汚れとなる。また、一般的に、紫外線照射による菌の増殖抑制の強度は、放射照度と照射時間の積である積算放射照度によって表現される。紫外線照射を開始した時点での単位面積あたりの菌数を初期菌数とすると、初期菌数から可視汚れとなる菌数にならないように、紫外線照射により菌の増殖を抑制することで可視汚れの発生を抑制できる。
【0003】
従来技術では、紫外線でノズル収納部の内側が殺菌されるが、ボウル部の表面が殺菌できなったという課題に対して、特許文献1では、紫外線を照射する照光部をケーシング内部とボウル部に移動させることで、共通の照光部によりノズル収納部とボウル部の両方に紫外線を照射可能としている。このように、特許文献1では、照光部の共通化により、照射対象となるノズル収納部とボウル部のそれぞれに照光部を設ける場合に比べ、コスト減を実現できている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたトイレ装置では、共通の照光部を利用するが故に、ノズル収納部とボウル部に順番に紫外線を照射する必要があり、照射シーケンスの完了までに時間がかかるという問題がある。菌は、分裂により増殖するため、時間に対して2乗倍で増殖する。つまり、照射が遅くなれば、殺さなければならない菌数(初期菌数)は、経過時間に対して2乗倍で増殖することとなる。一般的に、光照射による菌の増殖抑制の効果は、積算放射照度に対して、減少する菌数の桁数で表現される。例えば、殺菌線の照射による菌の増殖抑制の効果は、5mJ/cm2で3桁減である。可視汚れになることを抑制するために維持すべき菌数は所定値以下であることから、初期菌数が多くなれば、菌数を所定値以下にするために必要な積算放射照度も大きくなる。菌が付着してから極力早いタイミングで光の照射を始めることで、より少ない積算放射照度で菌数を所定値以下まで減少させ(あるいは、菌数を所定値以下に保つことができ)、可視汚れになることを抑制することができる。
【0006】
本発明の形態は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、照光部の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部とボウル部における菌の増殖を抑制できる衛生洗浄装置及びトイレ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、汚物を受けるボウル部を有する大便器の上に設置される衛生洗浄装置であって、使用者の局部に向けて洗浄水を吐出する吐水口を有し、進出及び後退する局部洗浄ノズルと、前記局部洗浄ノズルを後退させた状態で前記局部洗浄ノズルを収納可能なノズル収納部を有するケーシングと、除菌作用を有する光である除菌光を照射する照光部と、を備え、前記照光部から、前記ノズル収納部と、前記ボウル部と、に対して、同時に、前記除菌光の照射を行うことを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0008】
この衛生洗浄装置によれば、ノズル収納部とボウル部に対して、共通の照光部から除菌光の照射を行うことで、コストの増加を防ぐことができる。また、ノズル収納部とボウル部に対して、同時に除菌光の照射を行うことで、ノズル収納部とボウル部に付着した初期菌数が極力少ない状態で、除菌光の照射を開始することができる。そのため、菌の増殖を抑制するために必要な積算放射照度を小さくすることができる。放射照度を同一とした場合、順番に照射するよりも同時に照射を開始した方が、短時間の照射で所定の積算放射照度に達することができ、菌の増殖を抑制することが可能となる。したがって、照光部の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部とボウル部における菌の増殖を抑制できる。これにより、汚れの発生を抑制し、衛生性の高い衛生洗浄装置を提供できる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記除菌光が照射された前記ノズル収納部の内面の放射照度の平均値は、前記除菌光が照射された前記ボウル部の表面の放射照度の平均値よりも大きいことを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0010】
除菌光の照射対象のうち、ノズル収納部はケーシングの内部にあり、ボウル部はケーシングの外部にある。ボウル部は、使用者によるトイレ装置(大便器)の使用毎に洗浄される。一方、例えば、男子の立ち小便時においては、局部洗浄ノズルが使用されないため、局部洗浄ノズルやノズル収納部が洗浄されない。つまり、ボウル部では、トイレ装置が使用されるたびに洗浄により菌が洗い流されるため、菌数が低下しやすい。これに対し、ノズル収納部では、トイレ装置が使用されても洗浄されない場合があるため、菌数が低下しにくい。そのため、ボウル部に比べノズル収納部の方が、菌数が多くなることがある。菌数が増加すれば、菌の増殖を抑制するために必要な積算放射照度は、大きくなる。そのため、除菌光が照射されたノズル収納部の内面の放射照度の平均値を、除菌光が照射されたボウル部の表面の放射照度の平均値よりも大きくすることで、菌数がボウル部よりも多くなりやすいノズル収納部における除菌の強度を、ボウル部における除菌の強度よりも強くすることができる。したがって、ノズル収納部とボウル部における菌の増殖を効率よく抑制できる。これにより、ノズル収納部とボウル部における汚れの発生を効率よく抑制できる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、前記照光部は、前記ケーシングの内部に設けられることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0012】
ボウル部と比較し、ノズル収納部は洗浄回数が少なく、菌数が多くなる可能性がある。菌数が増加すると、菌の増殖を抑制するために必要な積算放射照度は、大きくなる。一般的に、レーザー以外の光源は、距離が近いほど光源から放射している放射照度が大きくなる。ケーシングの内部に照光部を設けることにより、ノズル収納部に対して、ボウル部よりも大きな放射照度で除菌光を照射することが可能となる。そのため、ケーシングの内部に照光部を設けることで、共通の照光部から、菌数がボウル部よりも多くなりやすいノズル収納部と、ボウル部と、に同時に除菌光を照射したとしても、ノズル収納部において菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、ボウル部において菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、の差を小さくできるため、除菌光の照射時間を短くすることができる。
【0013】
第4の発明は、第1の発明において、前記ボウル部は、肛門洗浄位置を基準として、前記肛門洗浄位置よりも後方に位置するボウル後部と、前記肛門洗浄位置よりも前方に位置するボウル前部と、を有し、前記除菌光が照射された前記ボウル後部の表面の放射照度の平均値は、前記除菌光が照射された前記ボウル前部の表面の放射照度の平均値よりも大きいことを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0014】
前述したように、菌数が多くなれば、菌数を所定値以下にするために必要な積算放射照度も大きくなる。肛門洗浄位置は、使用者が便座に着座した際の、一般的な肛門の位置にあたる。便座に着座した使用者は、前傾姿勢になって排便を行う。そうすると、大便に含まれる有機物は、肛門洗浄位置よりも後方に位置するボウル後部に付着する可能性が高い。すなわち、ボウル前部に比べて、ボウル後部の方が、菌の餌となる有機物が付着しやすく、菌が増殖しやすい環境となるため、初期菌数が多くなる。よって、除菌光が照射されたボウル前部の表面の放射照度の平均値よりも、除菌光が照射されたボウル後部の表面の放射照度の平均値を大きくすることで、初期菌数がボウル前部よりも多くなりやすいボウル後部における除菌の強度を、ボウル前部における除菌の強度よりも強くすることができる。したがって、ボウル後部及びボウル前部における菌の増殖を効率よく抑制できる。これにより、共通の照光部から、初期菌数がボウル前部よりも多くなりやすいボウル後部と、ボウル前部と、に同時に除菌光を照射したとしても、ボウル後部において菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、ボウル前部において菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、の差を小さくできるため、除菌光の照射時間を短くすることができ、ボウル部における汚れの発生を効率よく抑制できる。
【0015】
第5の発明は、第1~第4の発明いずれか1つに記載の衛生洗浄装置と、前記大便器と、を備えた、トイレ装置である。
【0016】
このトイレ装置によれば、ノズル収納部とボウル部に対して、共通の照光部から除菌光の照射を行うことで、コストの増加を防ぐことができる。また、ノズル収納部とボウル部に対して、同時に除菌光の照射を行うことで、順番に菌光の照射を行う場合に比べて、短時間の照射で菌の増殖を抑制することが可能となる。したがって、照光部の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部とボウル部における菌の増殖を抑制できる。これにより、汚れの発生を抑制し、衛生性の高いトイレ装置を提供できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の態様によれば、照光部の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部とボウル部における菌の増殖を抑制できる衛生洗浄装置及びトイレ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係るトイレ装置を示す斜視図である。
【
図2】実施形態に係る衛生洗浄装置の要部構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3(a)及び
図3(b)は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺を表す断面図である。
【
図4】
図4(a)及び
図4(b)は、実施形態に係るトイレ装置を表す断面図である。
【
図5】
図5(a)及び
図5(b)は、実施形態に係るトイレ装置の大便器を表す斜視図及び平面図である。
【
図6】実施形態に係るトイレ装置の一例を表す断面図である。
【
図7】実施形態に係るトイレ装置の一例を表す断面図である。
【
図8】
図8(a)及び
図8(b)は、実施形態に係るトイレ装置のボウル前部とボウル後部の説明図である。
【
図9】実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺の一例を表す断面図である。
【
図10】実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺の一例を表す断面図である。
【
図11】
図11(a)及び
図11(b)は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺の一例を表す断面図及び正面図である。
【
図12】実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄のノズル周辺の一例を示す断面図である。
【
図13】実施形態に係るトイレ装置のノズル蓋周辺の一例を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係るトイレ装置を示す斜視図である。
図1に表したように、トイレ装置1は、大便器800と、その上に設置された衛生洗浄装置100と、を備える。大便器800は、いわゆる腰掛大便器である。大便器800は、汚物を受けるボウル部801を有する。大便器800については、後述する。
【0020】
衛生洗浄装置100は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0021】
なお、本願明細書においては、便蓋300を背にして便座200に着座した使用者からみた上方、下方、前方、後方、右側方、及び左側方を、それぞれ「上方」、「下方」、「前方」、「後方」、「右側方」、及び「左側方」とする。
【0022】
ケーシング400の内部には、便座200に座った使用者の「おしり」などの洗浄を実現する身体洗浄機能部などが内蔵されている。また、例えばケーシング400の内部には、使用者の便座200への着座を検知する着座検知センサ404(
図2参照)が設けられている。着座検知センサ404が便座200に座った使用者を検知している場合において、使用者が例えばリモコンなどの操作部500を操作すると、局部洗浄ノズル(以下、説明の便宜上、単に「ノズル」と称する)473を大便器800のボウル部801内に進出させたり、ボウル部801内から後退させたりすることができる。なお、
図1に表した衛生洗浄装置100では、ノズル473がボウル部801内に進出した状態を表している。
【0023】
ノズル473の先端部には、ひとつまたは複数の吐水口474が設けられている。吐水口474は、使用者の局部に向けて洗浄水を吐出する。ノズル473は、その先端部に設けられた吐水口474から水を噴射して、便座200に座った使用者の「おしり」などの局部を洗浄することができる。
【0024】
図2は、実施形態に係る衛生洗浄装置の要部構成を示すブロック図である。
図2では、水路系と電気系の要部構成を併せて表している。
【0025】
図2に表したように、衛生洗浄装置100は、導水部20を有する。導水部20は、水道や貯水タンクなどの給水源10からノズル473に至る管路20aを有する。導水部20は、管路20aにより、給水源10から供給された水をノズル473に導く。管路20aは、例えば以下に説明する電磁弁431、熱交換器ユニット440、流路切替部472などの各部と、これらの各部を接続する複数の配管と、によって形成される。
【0026】
導水部20の上流側には、電磁弁431が設けられている。電磁弁431は、開閉可能な電磁バルブであり、ケーシング400の内部に設けられた制御部405からの指令に基づいて水の供給を制御する。換言すれば、電磁弁431は、管路20aを開閉する。電磁弁431を開状態にすることにより、給水源10から供給された水が、管路20aに流れる。
【0027】
電磁弁431の下流には、調圧弁432が設けられている。調圧弁432は、給水圧が高い場合に、管路20a内の圧力を所定の圧力範囲に調整する。調圧弁432の下流には、逆止弁433が設けられている。逆止弁433は、管路20a内の圧力が低下した場合などに、逆止弁433よりも上流側への水の逆流を抑制する。
【0028】
逆止弁433の下流には、熱交換器ユニット440(加熱部)が設けられている。熱交換器ユニット440は、ヒータを有し、給水源10から供給された水を加熱して例えば規定の温度まで昇温する。すなわち、熱交換器ユニット440は、温水を生成する。
【0029】
熱交換器ユニット440は、例えばセラミックヒータなどを用いた瞬間加熱式(瞬間式)の熱交換器である。瞬間加熱式の熱交換器は、貯湯タンクを用いた貯湯加熱式の熱交換器と比較すると、短い時間で水を規定の温度まで昇温させることができる。なお、熱交換器ユニット440は、瞬間加熱式の熱交換器には限定されず、貯湯加熱式の熱交換器であってもよい。また、加熱部は、熱交換器に限ることなく、例えばマイクロ波加熱を利用するものなど、他の加熱方式を用いたものでもよい。
【0030】
熱交換器ユニット440は、制御部405と接続されている。制御部405は、例えば、使用者による操作部500の操作に応じて熱交換器ユニット440を制御することにより、操作部500で設定された温度に水を昇温する。
【0031】
熱交換器ユニット440の下流には、流量センサ442が設けられている。流量センサ442は、熱交換器ユニット440から吐出された水の流量を検知する。すなわち、流量センサ442は、管路20a内を流れる水の流量を検知する。流量センサ442は、制御部405に接続されている。流量センサ442は、流量の検知結果を制御部405に入力する。
【0032】
流量センサ442の下流には、電解槽ユニット450が設けられている。電解槽ユニット450は、内部を流れる水道水を電気分解することにより、水道水から次亜塩素酸を含む液(機能水)を生成する。電解槽ユニット450は、制御部405に接続されている。電解槽ユニット450は、制御部405による制御に基づいて、除菌水(機能水)の生成を行う。
【0033】
電解槽ユニット450において生成される機能水は、例えば銀イオンや銅イオンなどの金属イオンを含む溶液であってもよい。また、電解槽ユニット450において生成される機能水は、電解塩素やオゾンなどを含む溶液であってもよい。あるいは、電解槽ユニット450において生成される機能水は、酸性水やアルカリ水であってもよい。
【0034】
電解槽ユニット450の下流には、バキュームブレーカ(VB)452が設けられている。バキュームブレーカ452は、例えば水を流すための流路と、流路内に空気を取り込むための吸気口と、吸気口を開閉する弁機構と、を有する。弁機構は、例えば流路に水が流れているときに吸気口を塞ぎ、水の流れの停止とともに吸気口を開放して流路内に空気を取り込む。すなわち、バキュームブレーカ452は、導水部20に水の流れがないときに、管路20a内に空気を取り込む。弁機構には、例えばフロート弁が用いられる。
【0035】
バキュームブレーカ452は、上記のように管路20a内に空気を取り込むことにより、例えば管路20aのバキュームブレーカ452よりも下流の部分の水抜きを促進させる。バキュームブレーカ452は、例えばノズル473の水抜きを促進する。このように、バキュームブレーカ452は、ノズル473内の水を抜いてノズル473内に空気を取り込むことにより、例えばノズル473内の洗浄水やボウル部801内に溜まった汚水などが、給水源10(上水)側に逆流してしまうことを抑制する。
【0036】
バキュームブレーカ452の下流には、圧力変調部454が設けられている。圧力変調部454は、導水部20の管路20a内の水の流れに脈動または加速を与え、ノズル473やノズル洗浄部478の吐水部478aから吐水される水に脈動を与える。すなわち、圧力変調部454は、管路20a内を流れる水の流動状態を変動させる。圧力変調部454は、制御部405に接続されている。圧力変調部454は、制御部405による制御に基づいて、水の流動状態を変動させる。圧力変調部454は、管路20a内の水の圧力を変動させる。
【0037】
圧力変調部454の下流には、流量調整部471が設けられている。流量調整部471は、水勢(流量)の調整を行う。流量調整部471の下流には、流路切替部472が設けられている。流路切替部472は、ノズル473やノズル洗浄部478への給水の開閉や切替を行う。流量調整部471及び流路切替部472は、1つのユニットとして設けられてもよい。流量調整部471及び流路切替部472は、制御部405に接続されている。流量調整部471及び流路切替部472の動作は、制御部405によって制御される。
【0038】
流路切替部472の下流には、ノズル473、ノズル洗浄部478、及び噴霧ノズル479が設けられている。ノズル473は、ノズルモータ476からの駆動力を受け、大便器800のボウル部801内に進出したり、ボウル部801内から後退したりする。ノズルモータ476は、ノズル駆動部を構成するもので、制御部405からの指令に基づいてノズル473を進出または後退させる。
【0039】
ノズル洗浄部478は、吐水部478aから除菌水(機能水)を噴射することにより、ノズル473の外周面473c(胴体)を洗浄及び除菌する。なお、ノズル洗浄部478は、吐水部478aから水を噴射することにより、ノズル473の外周面473cを洗浄してもよい。噴霧ノズル479は、水や機能水をミスト状にしてボウル部801に噴霧する。この例では、人体を洗浄するためのノズル473とは別に噴霧ノズル479を設けている。これに限ることなく、ミスト状の液体をボウル部801に噴霧するための吐水口をノズル473に設けてもよい。
【0040】
また、流路切替部472の下流には、おしり洗浄流路21と、やわらか洗浄流路22と、ビデ洗浄流路23と、が設けられている。おしり洗浄流路21及びやわらか洗浄流路22は、導水部20を介して給水源10から供給された水や電解槽ユニット450において生成された機能水をおしり洗浄吐水口474bへ導く。ビデ洗浄流路23は、導水部20を介して給水源10から供給された水や電解槽ユニット450において生成された機能水をビデ洗浄吐水口474aへ導く。
【0041】
また、流路切替部472の下流には、表面洗浄流路24と、噴霧用流路25と、が設けられている。表面洗浄流路24は、導水部20を介して給水源10から供給された水や電解槽ユニット450において生成された機能水をノズル洗浄部478へ導く。噴霧用流路25は、導水部20を介して給水源10から供給される水や電解槽ユニット450において生成された機能水を噴霧ノズル479に導く。
【0042】
制御部405は、流路切替部472を制御することにより、おしり洗浄流路21、やわらか洗浄流路22、ビデ洗浄流路23、表面洗浄流路24と、及び噴霧用流路25の各流路の開閉を切り替える。このように、流路切替部472は、ビデ洗浄吐水口474a、おしり洗浄吐水口474b、ノズル洗浄部478、及び噴霧ノズル479などの複数の吐水口のそれぞれについて、管路20aに連通させた状態と、管路20aに連通させない状態と、を切り替える。
【0043】
制御部405は、電源回路401から電力を供給され、人体検知センサ403や、着座検知センサ404や、流量センサ442や、操作部500などからの信号に基づいて、電磁弁431や、熱交換器ユニット440や、電解槽ユニット450や、圧力変調部454や、流量調整部471や、流路切替部472や、ノズルモータ476などの動作を制御する。
【0044】
また、制御部405は、例えば人体検知センサ403や着座検知センサ404の検知情報に基づいて、照光部600を制御する。照光部600は、ノズル473の周辺(後述のノズル収納部480など)とボウル部801に除菌作用を有する光である除菌光を同時に照射する。照光部600については後述する。
【0045】
人体検知センサ403は、便座200に近づいた使用者(人体)を検知する。換言すれば、人体検知センサ403は、衛生洗浄装置100の近傍にいる使用者を検知する。制御部405は、例えば人体検知センサ403による使用者の検知に応答して、便蓋300を自動的に開く。
【0046】
また、ケーシング400には、便座200に座った使用者の「おしり」などに向けて温風を吹き付けて乾燥させる「温風乾燥機能」や「脱臭ユニット」や「室内暖房ユニット」などの各種の機構(付加機能部)が適宜設けられていてもよい。ただし、本発明においては、これらの付加機能部は必ずしも設けられなくてもよい。
【0047】
図3(a)及び
図3(b)は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺を表す断面図である。
図3(a)は、ノズル473が後退してノズル収納部480に収納された状態を示す断面図である。
図3(b)は、ノズル473が進出した状態を示す断面図である。
【0048】
図3(a)に表したように、ケーシング400は、ノズル収納部480を有する。ノズル収納部480は、ノズル473を後退させた状態において、ノズル473の全体を収納可能である。すなわち、ノズル収納部480は、ケーシング400の内部のうち、ノズル473が収納される部分である。
【0049】
ノズル収納部480は、ノズル473の下方に位置する底部481aと、ノズル473(底部481a)の左右両側に位置する側壁部481bと、ノズル収納部480の前端に設けられた開口482と、を有する。この例では、底部481aは、ケーシング400の底面を構成するケースプレート400aの一部である。この例では、側壁部481bは、ケーシング400の側面を構成するケースプレート400aまたはケースカバー400bの一部である。左右方向において、ケーシング400の側面とノズル473との間に他の部品が設けられる場合には(つまり、ノズル473の側方を覆う他の部品が設けられる場合には)、この部品の側面が、側壁部481bに相当する。底部481aと側壁部481bとによりノズル収納部480の内壁481が構成されている。ノズル収納部480の上方は、ケーシング400の上面を構成するケースカバー400bにより覆われている。つまり、この例では、ケースカバー400bは、内壁481の上面部を構成している。上下方向において、ケースカバー400bとノズル473との間に他の部品が設けられる場合には(つまり、ノズル473の上方を覆う他の部品が設けられる場合には)、この部品が、内壁481の上面部に相当する。ノズル収納部480には、ノズル473を進退可能に支持するノズル支持部484が設けられている。
【0050】
底部481aは、大便器800のボウル部801内に向けて傾斜している。これにより、ノズル洗浄部478、ビデ洗浄吐水口474a、及びおしり洗浄吐水口474bから吐出される除菌水は、底部481aから大便器800のボウル部801内に流れ落ちる。
【0051】
ノズル支持部484は、ノズル473の下方においてノズル473を支持する。ノズル支持部484は、後方から前方に向かう方向において、下方に傾斜している。ノズル473は、ノズル支持部484に対して摺動しながら、進出及び後退する。ノズル収納部480には、例えばノズル473を収納する筒状の部材が設けられてもよい。この場合、筒状の部材のうち、ノズル473の下方に位置する部分が底部481aに相当し、ノズル473の側方に位置する部分が側壁部481bに相当し、ノズル473の上方に位置する部分が上面部に相当する。
【0052】
ノズル洗浄部478は、ノズル473をケーシング400の内部に後退させた状態で、ノズル473の先端に設けられている。ノズル洗浄部478は、ノズル473の外周面473cに向けて除菌水及び水を吐出する吐水穴が形成された吐水部478aを有する。ノズル収納部480の前端には、開口482が設けられている。開口482は、ケーシング400の前面の下側に設けられている。ノズル洗浄部478は、開口482の後方に位置する。ノズル洗浄部478は、例えばノズル473が進退する際に、吐水部478aから除菌水や水を噴射することにより、ノズル473の外周面473c(胴体)を洗浄する。
【0053】
ノズル473は、使用されていない状態では、
図3(a)に表すように、ノズル収納部480に収納されている。ノズル473によって局部洗浄が行われる場合には、
図3(b)に表すように、ノズル収納部480に対してノズル473が前下方に摺動する。例えば、ノズル473が所定の位置に到達するまでの間に、ノズル洗浄部478からの吐水によってノズル473が洗浄される。
【0054】
ノズル473が所定の位置に到達すると、ビデ洗浄吐水口474aまたはおしり洗浄吐水口474bから使用者の局部に向けて水が吐出され、洗浄が行われる。局部洗浄が完了すると、ノズル473は、ノズル収納部480に向けて後上方に摺動する。例えば、ノズル473がノズル収納部480に収納されるまでの間に、吐水部478aからの吐水によって、ノズル473が洗浄される。ノズル473は、所定の位置まで後退し、ノズル収納部480に収納される。
【0055】
このとき、吐水部478aからの吐水(除菌水)は、ノズル収納部480の内部を流れ、そのほとんどが開口482から大便器800のボウル部801内に流れ落ちる。しかし、例えば、ノズル収納部480の形状や除菌水の表面張力などにより、ノズル収納部480の内壁481に除菌水が残留する場合がある。このように残留した水では、時間経過とともに除菌成分の濃度減衰が進行する。そうすると、ノズル収納部480の内部は、菌やカビが発生しやすい環境となってしまう。
【0056】
図4(a)及び
図4(b)は、実施形態に係るトイレ装置を表す断面図である。
図5(a)及び
図5(b)は、実施形態に係るトイレ装置の大便器を表す斜視図及び平面図である。
図4(a)及び
図4(b)は、
図5(b)に示したA1-A2線の位置における断面図である。
【0057】
図4(a)に示すように、大便器800は、汚物を受ける凹状のボウル部801と、水とともに汚物を排出する排水部802と、を有する。ボウル部801は、受け部804と、受け部804の上に設けられたリム部805を有する。リム部805は、大便器800の上縁部を形成する環状部分である。リム部805は、上面806を有する。上面806は、閉じられた便座200の裏面204と向き合う面である。ボウル部801は、
図4(b)において網掛けで示した部分に該当する。ボウル部801内には、溜水801wが溜められている。
【0058】
図5(a)は、大便器800を表す斜視図であり、
図5(b)は、大便器800を表す平面図である。大便器800は、リム部805に設けられた吐水口811を有する。吐水口811は、汚物(例えば使用者の排泄物等)をボウル部801内から排出するための洗浄水を、ボウル部801内に吐出する。
【0059】
例えば、使用者が、操作部(リモコン)500等に設けられたスイッチによって便器洗浄の操作を行うと、または、使用者が便座200から立ち上がると、吐水口811からボウル部801内に洗浄水を供給する便器洗浄が実行される。これにより、ボウル部801内の汚物が排水部802に排出され、ボウル部801の表面が洗浄される。このように、ボウル部801は汚物と接触するため、ボウル部801には汚物に含まれる有機物が付着しやすい。そのため、ボウル部801は、有機物を餌として菌が増殖することで汚れが発生しやすい箇所である。
【0060】
菌の増殖を抑制する手段としては、前述した除菌水の他に、イオンやオゾンなどを用いた手段もある。イオンやオゾンなどは、気流により汚れ抑制対象部位に効果を発現させることを狙う手段であるが、気流は効果範囲を制御しにくく、制御しきれなかった気流がケース内部の電子部品等の腐食や樹脂材料の劣化などによる機能停止などの不具合を引き起こす可能性がある。一方、光は、汚れ抑制対象部位に限定して照射が可能である。樹脂材料の劣化については、波長・照射対象材に合わせて照射量を適切に管理することで、不具合となることを避けることができる。
【0061】
従来技術では、紫外線でノズル収納部の内側が殺菌されるが、ボウル部の内側の表面が殺菌できなったという課題に対して、特許文献1では、紫外線を照射する照光部をノズル収納部とボウル部に移動させることで、共通の照光部によりノズル収納部とボウル部の両方に紫外線を照射可能としている。このように、特許文献1では、共通の照光部600を利用することで、照光部増設によるコストを削減している。
【0062】
しかし、特許文献1では、ノズル収納部とボウル部に順番に共通の照光部を利用して紫外線を照射するが故に、照射シーケンスの完了までに時間がかかるという問題がある。菌は、分裂により増殖するため、時間に対して2乗倍で増殖する。つまり、照射が遅くなれば、殺さなければならない菌数(初期菌数)は、経過時間に対して2乗倍で増殖することとなる。可視汚れになることを抑制するために維持すべき菌数は所定値以下であることから、初期菌数が多くなれば、菌数を所定値以下にするために必要な積算放射照度も大きくなる。菌が付着してから極力早いタイミングで光の照射を始めることで、より少ない積算放射照度で菌数を所定値以下まで減少させ(あるいは、菌数を所定値以下に保つことができ)、可視汚れになることを抑制することができる。
【0063】
そこで、本実施形態では、共通の照光部600から、ノズル収納部470と、ボウル部801と、に対して、同時に除菌光の照射を行う。
【0064】
図6は、実施形態に係るトイレ装置の一例を表す断面図である。
図6は、
図5(b)に示したA1-A2線の位置における断面図である。
図6に表したように、衛生洗浄装置100は、除菌作用を有する光である除菌光を照射する照光部600を備える。除菌作用とは、例えば、菌の増殖を抑制する作用である。
【0065】
除菌光の照射により、対象に付着した菌の少なくとも一部を死滅または不活性化させて、菌の増殖を抑制(除菌)できる。除菌光の波長は、250nm~480nmである。除菌光は、例えば、紫外線を含むことが好ましい。本発明者らの検討の結果、250nm~300nm付近の波長を有する光を照射することで、菌・カビ等のDNAを書き換えて増殖できないように不活性化できることが分かっている。また、300~480nm付近の波長を有する光を照射することで、菌・カビ等が体内に持つ水分に光が作用し、活性酸素を生成することで、その活性酸素により菌を死滅または不活性化できることが分かっている。なお、本発明者らは、水道水に対して365nmの波長を有する光を照射することにより、水道水中に過酸化水素が生成されることを確認している。これは、ラジカル生成における過程のなかで、水中に過酸化水素が生成されることを意味する。また、本発明者らは、水中の菌に対して300nm~480nmの波長の光を照射することにより水中の菌を除菌できることを確認している。この例では、照光部600は、便蓋300の裏面に設けられている。
【0066】
照光部600は、例えば、少なくとも1つの発光部(発光体)を有する。照光部600に含まれる発光部は、1つでもよいし、複数でもよい。発光部は、例えば、LED(Light Emitting Diode)である。発光部は、LEDに限ることなく、例えば、LD(Laser Diode)やOLED(Organic Light Emitting Diode)などでもよい。また、発光素子に代えて、冷陰極管や熱陰極管を用いてもよい。発光部は、例えば、基板を介して
図2に示した制御部405に接続されており、制御部405の制御に基づいて点灯及び消灯する。制御部405は、発光部の点灯及び消灯を制御することで、照光部600の作動を制御する。また、制御部405は、例えば、発光部に印加する電圧を調整することで、発光部の全光束を制御してもよい。
【0067】
図6では、照光部600は、ノズル収納部480と、ボウル部801に向けて除菌作用を有する除菌光を照射している。除菌光の照射により、ノズル収納部480とボウル部801における菌の増殖が抑制される。また、これにより、ノズル収納部480とボウル部801における汚れの発生が抑制される。照光部600は、ノズル収納部480の少なくとも一部と、ボウル部801の少なくとも一部と、に除菌光を照射する。照光部600は、ノズル収納部480の全体に除菌光を照射してもよい。照光部600は、ボウル部801の全体に除菌光を照射してもよい。
【0068】
例えば、発光部を殺菌灯とした場合(つまり、除菌光が殺菌線の場合)、トイレ装置1に存在する可能性のある菌の増殖の抑制に必要な最低積算放射照度は、5mJ/cm2である。殺菌線は、波長が260nm付近の紫外線である。発光部からノズル収納部480とボウル部801に対して、5mJ/cm2以上の積算放射照度の除菌光が照射されれば、菌の増殖を抑制し、汚れの発生を抑制可能である。
【0069】
図6に表すように、ノズル収納部480とボウル部801に対して、共通の照光部600から除菌光の照射を行うことで、コストの増加を防ぐことができる。また、ノズル収納部480とボウル部801に対して、同時に除菌光の照射を行うことで、ノズル収納部480とボウル部801に付着した菌数が極力少ない状態で、除菌光の照射を開始することができる。そのため、菌の増殖を抑制するために必要な積算放射照度を小さくすることができる。放射照度を同一とした場合、順番に照射するよりも同時に照射を開始した方が、短時間の照射で所定の積算放射照度に達することができ、菌の増殖を抑制することが可能となる。したがって、照光部600の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部480とボウル部801における菌の増殖を抑制できる。これにより、汚れの発生を抑制し、衛生性の高い衛生洗浄装置100(トイレ装置1)を提供できる。
【0070】
前述したように、除菌光が殺菌線の場合、菌の増殖抑制に必要な積算放射照度は、5mJ/cm2以上である。積算放射照度は、放射照度と照射時間の積であるため、例えば1.4時間かけて菌の増殖を抑制する場合には、1μW/cm2以上の放射照度が求められる。放射照度の測定は、例えば、除菌光の波長が250~300nmの範囲内であれば紫外線積算光量計C9536/H9535(浜松ホトニクス株式会社)、除菌光の波長が300~410nmの範囲であれば紫外線積算光量計C9536/H9958(浜松ホトニクス株式会社)、除菌光の波長が350~450nmの範囲であればACCU-CALTM50-LED UV照度計(Dymax Corporation)を用いて測定することができる。放射照度は、例えば、JIS Z 8000-7:2022に準拠した方法で測定できる。
【0071】
さらに、除菌光が照射されたノズル収納部480の内面の放射照度の平均値は、除菌光が照射されたボウル部801の表面の放射照度の平均値よりも大きいことが好ましい。
【0072】
ノズル収納部480の内面とは、ノズル収納部480の内壁481の表面である。ノズル収納部480の開口482に開閉可能なノズル蓋483(
図9参照)が設けられている場合、ノズル蓋483は、ノズル収納部480の一部を構成する。この場合、ノズル蓋483の裏面(後方側の面)も、ノズル収納部480の内面に含まれる。ボウル部801の表面とは、前述したように、
図4(b)において網掛けで示した部分の表面を指す。
【0073】
放射照度の平均値とは、算出対象面(ノズル収納部480の内面、または、ボウル部801の表面)を一定の区画面積(例えば、1mm×1mm区画)に分けたとき、1区画面積当たりに照射される放射照度の値を測定・算出し、測定した放射照度の合計を区画数で除した値である。一定の区画面積当たりの照度の測定には、例えば、紫外線積算光量計C9536/H9958(浜松ホトニクス株式会社)のような測定器を用いてもよい。
【0074】
除菌光の照射対象のうち、ノズル収納部480はケーシング400の内部にあり、ボウル部801はケーシング400の外部にある。ボウル部801は、使用者によるトイレ装置1(大便器800)の使用毎に洗浄される。一方、例えば、男子の立ち小便時においては、ノズル473が使用されないため、ノズル473やノズル収納部480が洗浄されない。つまり、ボウル部801では、トイレ装置1が使用されるたびに洗浄により菌が洗い流されるため、菌数が低下しやすい。これに対し、ノズル収納部480では、トイレ装置1が使用されても洗浄されない場合があるため、菌数が低下しにくい。そのため、ボウル部801に比べノズル収納部480の方が、菌数が多くなることがある。菌数が増加すれば、菌の増殖を抑制するために必要な積算放射照度は、大きくなる。そのため、除菌光が照射されたノズル収納部480の内面の放射照度の平均値を、除菌光が照射されたボウル部801の表面の放射照度の平均値よりも大きくすることで、菌数がボウル部801よりも多くなりやすいノズル収納部480における除菌の強度を、ボウル部801における除菌の強度よりも強くすることができる。したがって、ノズル収納部480とボウル部801における菌の増殖を効率よく抑制できる。これにより、ノズル収納部480とボウル部801における汚れの発生を効率よく抑制できる。
【0075】
除菌光が照射されたノズル収納部480の内面の放射照度の平均値は、例えば、4μW/cm2以上100mW/cm2以下とすることが好ましい。除菌光が照射されたボウル部801の表面の放射照度の平均値は、例えば、1μW/cm2以上25mW/cm2以下とすることが好ましい。
【0076】
図7は、実施形態に係るトイレ装置の一例を表す断面図である。
図7は、
図5(b)に示したA1-A2線の位置における断面図である。
図7に表すように、ノズル収納部480とボウル部801に除菌光を照射する共通の照光部600は、ケーシング400の内部に設けられているのが望ましい。
【0077】
前述したように、ボウル部801と比較し、ノズル収納部480は洗浄回数が少なく、菌数が多くなる可能性がある。菌数が増加すると、菌の増殖を抑制するために必要な積算放射照度は、大きくなる。一般的に、レーザー以外の光源は、距離が近いほど光源から放射している放射照度が大きくなる。ケーシング400の内部に照光部600を設けることにより、ノズル収納部480に対して、ボウル部801よりも大きな放射照度で除菌光を照射することが可能となる。そのため、ケーシング400の内部に照光部600を設けることで、共通の照光部600から、菌数がボウル部801よりも多くなりやすいノズル収納部480と、ボウル部801と、に同時に除菌光を照射したとしても、ノズル収納部480において菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、ボウル部801において菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、の差を小さくできるため、除菌光の照射時間を短くすることができる。
【0078】
ケーシング400の内部に照光部600を設け、ノズル収納部480とボウル部801を照射する場合、ノズル収納部480の前端に設けられた開口482を通過してボウル部801に除菌光を照射することが好ましい。開口482は、例えば、底部481aと、側壁部481bと、ケースカバー400bと、により囲まれた部分である。また、ケーシング400の内部に照光部600を設け、底部481aに設けられた開口を通過してボウル部801に除菌光を照射してもよい。このとき、底部481aに設けられた開口が透明材で満たされており、透明材を透過させてボウル部801に除菌光を照射してもよい。開口482を開閉可能なノズル蓋483が設けられている場合(
図9参照)、ケーシング400の内部に照光部600を設け、底部481aとノズル蓋483との隙間からボウル部801に除菌光を照射してもよい。
【0079】
さらに、除菌光が照射されたボウル後部801bの表面の放射照度の平均値は、除菌光が照射されたボウル前部801aの表面の放射照度の平均値よりも大きいことが望ましい。
【0080】
図8(a)及び
図8(b)は、実施形態に係るトイレ装置のボウル前部とボウル後部の説明図である。
図8(a)は、
図5(b)に示したA1-A2線の位置における断面図である。
図8(a)及び
図8(b)に表すように、ボウル部801は、肛門洗浄位置ОWを基準として、ボウル前部801aと、ボウル後部801bと、に分けられる。肛門洗浄位置ОWとは、ノズル473が最大の長さまで進出した状態で、おしり洗浄吐水口474bから吐出される水Wの吐出方向に沿う直線と、リム部805の上面806の延長面S1と、が交差する点である。肛門洗浄位置ОWは、使用者が便座200に着座した際の、一般的な肛門の位置にあたる。
図8(a)及び
図8(b)では、延長面S1と肛門洗浄位置ОWにおいて直交する鉛直面S2を示している。ボウル前部801aは、ボウル部801のうち、鉛直面S2(肛門洗浄位置ОW)よりも前方に位置する部分である。ボウル後部801bは、ボウル部801のうち、鉛直面S2(肛門洗浄位置ОW)よりも後方に位置する部分である。
【0081】
便座200に着座した使用者は、前傾姿勢になって排便を行う。そうすると、大便に含まれる有機物は、肛門洗浄位置ОWよりも後方に位置するボウル後部801bに付着する確率が高い。すなわち、ボウル前部801aに比べて、ボウル後部801bの方が、菌の餌となる有機物が付着しやすく、菌が増殖しやすい環境となるため、初期菌数が多くなる。上述したように、初期菌数が多くなれば、菌数を所定値以下にするために必要な積算放射照度も大きくなる。そこで、除菌光が照射されたボウル後部801bの表面の放射照度の平均値を、除菌光が照射されたボウル前部801aの表面の放射照度の平均値よりも大きくすることで、初期菌数がボウル前部801aよりも多くなりやすいボウル後部801bにおける除菌の強度を、ボウル前部801aにおける除菌の強度よりも強くすることができる。したがって、ボウル前部801a及びボウル後部801bにおける菌の増殖を効率よく抑制できる。これにより、共通の照光部600から、初期菌数がボウル前部801aよりも多くなりやすいボウル後部801bと、ボウル前部801aと、に同時に除菌光を照射したとしても、ボウル後部801bにおいて菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、ボウル前部801aにおいて菌数を所定値以下にするまでにかかる時間と、の差を小さくできるため、除菌光の照射時間を短くすることができ、ボウル部801における汚れの発生を効率よく抑制できる。
【0082】
なお、ノズル収納部480と照光部600の具体的構成は、適宜変更可能である。
【0083】
図9は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺の一例を表す断面図である。
図9に表したように、ノズル収納部480には、ノズル収納部480の開口482を開閉可能なノズル蓋483が設けられていてもよい。ノズル蓋483は、例えば、ノズル473の進出時に開状態になり、ノズル473の後退時に閉状態になる。また、照光部600は、ケーシング400の内部に設置され、ノズル473の前端よりも上方に設けられていてもよい。照光部600を、ケーシング400の内部において、ノズル473の前端よりも上方に設けることで、ノズル蓋483の裏面(後方側の面)にも除菌光を照射することが可能となり、ノズル収納部480とボウル部801に効率よく除菌光を照射することができる。
【0084】
図10は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺の一例を表す断面図である。
図10に表したように、ノズル収納部480には、ノズル収納部480の開口482を開閉可能なノズル蓋483が設けられていてもよい。また、照光部600は、ケーシング400の内部に設置され、ノズル473とノズル収納部480の底部481aとの間に設けられていてもよい。汚れの発生しやすい箇所は、例えば、水が残留しやすい箇所である。水が残留しやすい箇所としては、例えば、水滴が滑ってたまるノズル収納部480の底部481aや、表面張力で水がとどまりやすいノズル収納部480の端部481c、ノズル蓋483の裏面下部483aなどが挙げられる。ノズル473と底部481aの間に照光部600を設置することで、水が残留しやすく汚れの発生しやすい箇所に、効率的に除菌光を照射することができる。
【0085】
図11(a)及び
図11(b)は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄ノズル周辺の一例を表す断面図及び正面図である。
図11(b)では、ケースカバー400b及びノズル蓋483を取り外した状態を示している。
図11(a)及び
図11(b)に表すように、ノズル収納部480には、ノズル収納部480の開口482を開閉可能なノズル蓋483が設けられていてもよい。また、照光部600は、ノズル473の側方に設置されていてもよい。照光部600をノズル473の側方に設置することで、
図10に示した例と同様に、水が残留しやすく汚れの発生しやすい箇所に、効率的に除菌光を照射することができる。
【0086】
また、照光部600とボウル部801との間には、開口482などの隙間が設けられることが好ましい。隙間を設けることで、照光部600は、隙間を通過させてボウル部801に除菌光を照射することができる。
【0087】
図12は、実施形態に係るトイレ装置の局部洗浄のノズル周辺の一例を示す断面図である。
図12に表すように、ノズル473の先端部の下方には、底部481aが設けられていなくてもよい。つまり、ノズル収納部480の下方に位置する底部481aの少なくとも一部は、切り欠かれていてもよい。また、底部481aは、設けられていなくてもよい。ノズル473の先端部の下方に底部481aを設けないことで、ボウル部801のうちケーシング400の真下に位置する部分へも効率的に除菌光を照射できる。
【0088】
この例では、ケースプレート400aは、ノズルの下方に位置し、前後方向に延びる第1部分491と、第1部分491の前端から下方に延びる第2部分492と、を有する。第2部分492は、ノズル収納部480の内壁481の一部を構成する。照光部600から照射された除菌光の一部は、第2部分492に照射される。
【0089】
図13は、実施形態に係るトイレ装置のノズル蓋周辺の一例を表す説明図である。
図13に表したように、ノズル蓋483が閉状態で、ケーシング400内の照光部600からノズル収納部480とボウル部801に除菌光を照射することで、ノズル蓋483の近傍を使用者に視認可能な状態で光らせることができる。この場合、照光部600は、ボウル部801(リム部805よりも下方)に向けて菌の増殖を抑制するための除菌光を照射するとともに、リム部805よりも上方に向けて使用者に視認させるための光(例えば、除菌光)を照射する。使用者に視認させるための光は、例えば、ノズル蓋483の近傍から直接的にリム部805よりも上方に放出される。使用者に視認させるための光の光束(リム部805よりも上方に放出される光の光束)は、ボウル部801に向けて放出される光の光束(リム部805よりも下方に放出される光の光束)よりも小さい方がよい。使用者に視認させるための光の光束(リム部805よりも上方に放出される光の光束)は、0でもよい。
【0090】
照光部600から放出されるすべての光の光束の総和を全光束とし、光束の単位は〔W〕とする。「視認」とは、光が使用者の目に届くことである。また、ボウル部801の表面に照射される光の強さは、光束を面積で割った放射照度で表される。人間の目は、極微量の放射照度であっても感知することができる。そのため、視認に必要な放射照度は、菌の増殖を抑制するのに必要な放射照度よりも小さくてもよい。よって、視認させるためにノズル蓋483の近傍から直接的にリム部805よりも上方に放出される光の光束を、ボウル部801に向けて放出する光束よりも小さくすることで、使用者に視認させながら効率よく汚れを抑制することができる。
【0091】
ノズル蓋483の全体または一部に、透明または半透明な材料を用いることができる。その場合の材料としては、例えば、ポリプロピレンやポリカーボネート、アクリル、ABS(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PET(ポリエチレンテレフタレート)などが挙げられる。
【0092】
除菌光の照射は、任意のタイミングで行うことができる。除菌光の照射は、トイレ室に使用者がいない状態で行われてもよいし、トイレ室に使用者がいる状態で行われてもよい。また、除菌光の照射は、例えば、一日のうちで菌数を所定値以下にするのに必要な積算放射照度以上の除菌光が照射されるように行われればよく、連続的に行われてもよいし、断続的に行われてもよい。
【0093】
実施形態は、以下の構成を含んでもよい。
【0094】
(構成1)
汚物を受けるボウル部を有する大便器の上に設置される衛生洗浄装置であって、
使用者の局部に向けて洗浄水を吐出する吐水口を有し、進出及び後退する局部洗浄ノズルと、
前記局部洗浄ノズルを後退させた状態で前記局部洗浄ノズルを収納可能なノズル収納部を有するケーシングと、
除菌作用を有する光である除菌光を照射する照光部と、
を備え、
前記照光部から、前記ノズル収納部と、前記ボウル部と、に対して、同時に、前記除菌光の照射を行うことを特徴とする衛生洗浄装置。
【0095】
(構成2)
前記除菌光が照射された前記ノズル収納部の内面の放射照度の平均値は、前記除菌光が照射された前記ボウル部の表面の放射照度の平均値よりも大きいことを特徴とする構成1に記載の衛生洗浄装置。
【0096】
(構成3)
前記照光部は、前記ケーシングの内部に設けられることを特徴とする構成1または2に記載の衛生洗浄装置。
【0097】
(構成4)
前記ボウル部は、肛門洗浄位置を基準として、前記肛門洗浄位置よりも後方に位置するボウル後部と、前記肛門洗浄位置よりも前方に位置するボウル前部と、を有し、
前記除菌光が照射された前記ボウル後部の表面の放射照度の平均値は、前記除菌光が照射された前記ボウル前部の表面の放射照度の平均値よりも大きいことを特徴とする構成1~3のいずれか1つに記載の衛生洗浄装置。
【0098】
(構成5)
構成1~4のいずれか1つに記載の衛生洗浄装置と、
前記大便器と、
を備えた、トイレ装置。
【0099】
以上のように、実施形態によれば、照光部の増加によるコストの増加を防ぎつつ、短時間の除菌光の照射でノズル収納部とボウル部における菌の増殖を抑制できる衛生洗浄装置及びトイレ装置を提供できる。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、衛生洗浄装置及びトイレ装置が備える各要素の形状、寸法、材質、配置、設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0101】
1 トイレ装置
10 給水源
20 導水部
20a 管路
21 おしり洗浄流路
22 やわらか洗浄流路
23 ビデ洗浄流路
24 表面洗浄流路
25 噴霧用流路
100 衛生洗浄装置
200 便座
204 裏面
300 便蓋
400 ケーシング
400a ケースプレート
400b ケースカバー
401 電源回路
403 人体検知センサ
404 着座検知センサ
405 制御部
431 電磁弁
432 調圧弁
433 逆止弁
440 熱交換器ユニット
442 流量センサ
450 電解槽ユニット
452 バキュームブレーカ(VB)
454 圧力変調部
471 流量調整部
472 流路切替部
473 ノズル
473c 外周面
474 吐水口
474a ビデ洗浄吐水口
474b おしり洗浄吐水口
476 ノズルモータ
478 ノズル洗浄部
478a 吐水部
479 噴霧ノズル
480 ノズル収納部
481 内壁
481a 底部
481b 側壁部
481c 端部
482 開口
483 ノズル蓋
483a 裏面下部
484 ノズル支持部
491 第1部分
492 第2部分
500 操作部
600 照光部
800 大便器
801 ボウル部
801w 溜水
801a ボウル前部
801b ボウル後部
802 排水部
804 受け部
805 リム部
806 上面
811 吐水口
ОW 肛門洗浄位置
S1 延長面
S2 鉛直面