(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172316
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 9/19 20060101AFI20241205BHJP
H02K 9/02 20060101ALI20241205BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241205BHJP
B60K 11/02 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H02K9/19 Z
H02K9/02 B
H02M7/48 Z
B60K11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089951
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】前田 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】勝田 巧也
(72)【発明者】
【氏名】越田 崇文
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡
【テーマコード(参考)】
3D038
5H609
5H770
【Fターム(参考)】
3D038AB01
3D038AC23
5H609BB03
5H609BB16
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP17
5H609QQ04
5H609QQ05
5H609QQ09
5H609RR53
5H770BA02
5H770CA01
5H770CA02
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770HA07Z
5H770JA10X
5H770PA12
5H770PA17
5H770QA06
5H770QA21
5H770QA31
(57)【要約】
【課題】設置スペース及び圧力損失を低減して適切に冷却流体の流路を形成し、冷却対象を適切に冷却することができる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】第1収容室E1には、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRの少なくとも一方を冷却するための冷却流体が流れる冷却流体路39が設けられ、第2収容室E2には、回転電機及び動力伝達機構の潤滑及び冷却を行うための油が流れる油路40が設けられ、ケース9には、冷却流体と油との熱交換が行われる熱交換部Exが支持され、熱交換部Exに接続された冷却流体路39の一部である特定冷却流体路区間302と、熱交換部Exに接続された油路40の一部である特定油路区間402とが、区画壁98の内部に形成されている。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機と、
車輪に駆動連結される出力部材と、
前記回転電機と前記出力部材との間で駆動力を伝達する動力伝達機構と、
前記回転電機を駆動制御するためのインバータモジュールと、
車載バッテリに電気的に接続され、前記車載バッテリの電圧変換を行う電圧変換回路、外部電源から前記車載バッテリへの充電を行うための充電回路、及び、前記車載バッテリから外部への給電を行うための給電回路の少なくとも1つを備えた電源モジュールと、
前記インバータモジュール及び前記電源モジュールを収容する第1収容室と、前記回転電機及び前記動力伝達機構を収容する第2収容室と、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する区画壁と、を備えたケースと、を備え、
前記第1収容室には、前記インバータモジュール及び前記電源モジュールの少なくとも一方を冷却するための冷却流体が流れる冷却流体路が設けられ、
前記第2収容室には、前記回転電機及び前記動力伝達機構の潤滑及び冷却を行うための油が流れる油路が設けられ、
前記ケースには、前記冷却流体と前記油との熱交換が行われる熱交換部が支持され、
前記熱交換部に接続された前記冷却流体路の一部である特定冷却流体路区間と、前記熱交換部に接続された前記油路の一部である特定油路区間とが、前記区画壁の内部に形成されている、車両用駆動装置。
【請求項2】
前記熱交換部を備えた熱交換器が、前記第1収容室に配置されている、請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記インバータモジュール及び前記電源モジュールの少なくとも一方に接するように配置され、内部に前記冷却流体路の一部が形成された冷却流体路形成部材をさらに備え、
前記熱交換器が、前記区画壁に取り付けられており、
前記冷却流体路形成部材は、前記熱交換器に対して前記区画壁の側とは反対側に配置され、
前記特定冷却流体路区間は、前記熱交換器から流出した前記冷却流体が流れる前記冷却流体路の区間であり、
前記特定油路区間は、前記第2収容室と前記熱交換器との間で前記油が流れる前記油路の区間である、請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記熱交換器は、前記冷却流体の入口である冷却流体入口と、前記冷却流体の出口である冷却流体出口と、前記油の入口である油入口と、前記油の出口である油出口と、を備え、
前記冷却流体路形成部材における前記熱交換器の側を向く面に、前記冷却流体入口が接続される第1接続口が設けられ、
前記区画壁における前記第1収容室の側を向く面に、前記熱交換器が取り付けられる取付部と、前記冷却流体出口が接続される第2接続口と、前記油入口が接続される油路第1接続口と、前記油出口が接続される油路第2接続口と、が設けられている、請求項3に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-170077号公報には、車輪(803,804)の駆動力源となる回転電機(ロータ(20)、ステータ(30))と、この回転電機を駆動制御する駆動制御装置(131)と、駆動制御装置(131)を介して回転電機に接続される車載バッテリ(805)を外部電源(900)から供給される電力によって充電する充電器(136)と、回転電機、駆動制御装置(131)、充電器(136)を収容するケース(10)とを備えた車両用駆動装置(1)が開示されている(背景技術において括弧内の符号は参照する文献のもの。)。ケース(10)には、車両用駆動装置(1)が車両に搭載された車載姿勢での上下方向(Z)における下側に回転電機が収容される第1の収容室が形成され、上側に駆動制御装置(131)及び充電器(136)が収容される第2の収容室が形成されている。第1の収容室は、ケース(10)における円筒状の周壁部(10b)の内側に形成されている。第2の収容室は、周壁部(10b)の径方向外側において、周壁部(10b)の上下方向(Z)の上側に隣接した角筒状の角筒部(10e)の内側に、矩形箱状の空間として形成されている。角筒部(10e)は、壁部と底部(下底部)と上底部とを備え、底部は円筒状の周壁部(10b)と接している。角筒部(10e)の1つの壁部と、底部と、周壁部(10b)に沿って、冷却流体が流れる冷却流路が形成されており、この冷却流路によって冷却部(60)が形成されている。
【0003】
角筒部(10e)の当該1つの壁部には、冷却流路に冷却流体が流入する流入口(16)と、冷却流体が流出する流出口(17)とが配置されている。冷却流路は、流入口(16)から角筒部(10e)の当該壁部に沿って直線的に角筒部(10e)の底部へ延伸し、さらに当該底部に沿って直線的に延伸した後、周壁部(10b)に沿って周回するように延伸し、角筒部(10e)に達する直前で折り返して、周壁部(10b)、底部、壁部に沿って延伸して流出口(17)に至るように形成されている。冷却流体の流路において流入口(16)に近い側、即ち冷却流体の流路の上流側では駆動制御装置(131)との間で熱交換が行われ、中流域では回転電機との間で熱交換が行われ、流出口(17)に近い側、即ち冷却流体の流路の下流側では、充電器(136)との間で熱交換が行われる。回転電機を駆動する際に発熱する駆動制御装置(131)は上流側の冷たい冷却流体によって効率的に冷却される。外部電源(900)による車載バッテリ(805)の充電は車両が停車中に行われるため、駆動制御装置(131)及び回転電機との熱交換によって冷却流体の温度が上がりにくい。従って、充電器(136)が冷却流体の流路の下流側に配置されていても適切に冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の文献に開示された車両用駆動装置は、複数の冷却対象を効率的に冷却することができる冷却構造を備えている。しかし、ケースの周囲を折り返して概ね2周するように冷却流路が形成されているため、冷却流路の経路が長くなり、冷却流路に冷却流体を供給する際の圧力損失も大きくなり易い。また、車両用駆動装置において冷却流路が占める空間も大きくなるため空間効率の点でも改善の余地がある。
【0006】
上記背景に鑑みて、設置スペース及び圧力損失を低減して適切に冷却流体の流路を形成し、冷却対象を適切に冷却することができる車両用駆動装置の提供が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みた車両用駆動装置は、回転電機と、車輪に駆動連結される出力部材と、前記回転電機と前記出力部材との間で駆動力を伝達する動力伝達機構と、前記回転電機を駆動制御するためのインバータモジュールと、車載バッテリに電気的に接続され、前記車載バッテリの電圧変換を行う電圧変換回路、外部電源から前記車載バッテリへの充電を行うための充電回路、及び、前記車載バッテリから外部への給電を行うための給電回路の少なくとも1つを備えた電源モジュールと、前記インバータモジュール及び前記電源モジュールを収容する第1収容室と、前記回転電機及び前記動力伝達機構を収容する第2収容室と、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する区画壁と、を備えたケースと、を備え、前記第1収容室には、前記インバータモジュール及び前記電源モジュールの少なくとも一方を冷却するための冷却流体が流れる冷却流体路が設けられ、前記第2収容室には、前記回転電機及び前記動力伝達機構の潤滑及び冷却を行うための油が流れる油路が設けられ、前記ケースには、前記冷却流体と前記油との熱交換が行われる熱交換部が支持され、前記熱交換部に接続された前記冷却流体路の一部である特定冷却流体路区間と、前記熱交換部に接続された前記油路の一部である特定油路区間とが、前記区画壁の内部に形成されている。
【0008】
本構成によれば、特定冷却流体路区間と特定油路区間とが区画壁の内部に形成されている。このため、これらの少なくとも一方が、ケースの外部等のような区画壁以外の場所に配置されている場合に比べて、冷却流体路及び油路の経路の短縮を図って圧力損失の低減を図り易いと共に、車両用駆動装置の小型化を図り易い。即ち、本構成によれば、設置スペース及び圧力損失を低減して適切に冷却流体の流路を形成し、冷却対象を適切に冷却することができる。
【0009】
車両用駆動装置のさらなる特徴と利点は、図面を参照して説明する例示的且つ非限定的な実施形態についての以下の記載から明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図8】隔壁部を挟んだ第1収容室及び第2収容室の模式的な断面図
【
図9】冷却水モジュールとオイルクーラと区画壁との接続形態の一例を模式的に示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、車両用駆動装置の実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態の車両用駆動装置100は、体格が大型化することを抑制しつつ、車両用駆動装置100を中核として車両における熱マネジメントシステムを適切に構成している。例えば、欧州等におけるAセグメント車両、日本における軽自動車等の小型車両では、車両用駆動装置100をはじめとして、車載部品をできるだけ小型・軽量化して搭載効率を向上させることが求められる。例えば、車載部品同士を近接して配置するなどにより、配線や配管などの接続部品の長さを短くすることや、異なる装置を一体化して配線や配管を減らすことも好適である。
【0012】
また、車輪の駆動力源など、車両において発熱する装置を冷却する冷却水は、ラジエータによって廃熱されるが、一般的にラジエータは走行風によって廃熱を行うために車両の最も前方に配置されている。また、Aセグメント車などの小型車では、乗員が搭乗する車内空間を確保するために、多くの場合、前輪駆動され、車輪の駆動力源も車両の前方に配置される。また、冷房や暖房などを行う車載エアコンディショナが搭載される車両では、車載エアコンディショナ、並びに車載エアコンディショナにおいて用いる冷媒が流れる流路の多くの部分や、熱交換を行う機能部品も車両の前方に配置される。特に暖房に関しては、車輪の駆動力源として内燃機関が用いられた従来の車両では、内燃機関を熱源として利用することが容易であったが、電気自動車など内燃機関を持たないような車両では、そのような熱源がなく、暖房には専らヒートポンプ方式が採用され、内燃機関の廃熱を用いる方式に比べて、搭載部品も増加する傾向がある。これらの車載部品を車両の前方の限られた空間で適切に配管、配線することによって、車室などに利用できる空間を広くすることができる。本実施形態の車両用駆動装置100は、このように冷却水や冷媒を用いて熱マネジメントを行う機能部品を車両用駆動装置100と一体的に構成している。
【0013】
尚、冷却対象との間で熱交換を行って冷却対象を冷却する「冷却水」は、「油」などの他の液体やその他の気体であってもよく、これらを総称すると「冷却流体」ということができる。そして「冷却水」を含む「冷却流体」もいわゆる「冷媒」である。しかし、本明細書では、車載エアコンディショナにおいて冷房並びに暖房の双方の機能を実現するために熱を移動させる流体を「冷媒」と称し、「冷却水(冷却流体)」と「冷媒」とを区別して用いて説明する。当然ながら、当該「冷却水」と当該「冷媒」とが同じ種類の「流体」であることを妨げるものではない。
【0014】
以下、そのような車両用駆動装置100の好適な実施形態について説明するが、はじめに車輪Wを駆動するための駆動ユニットTAとしての機能について説明する。
【0015】
尚、本明細書において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が1つ又は2つ以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。尚、伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合装置、例えば、摩擦係合装置、噛み合い式係合装置等が含まれていても良い。ただし、遊星歯車機構の回転要素について「駆動連結」という場合には、当該遊星歯車機構の他の回転要素を介することなく駆動連結されている状態を指すものとする。また、本明細書において「一体的に回転」とは、分離可能か分離不可能かは問わず一体的に回転することをいう。即ち、一体的に回転する複数の部材は同一部材から一体的に形成されていてもよいし、別部材によって構成されて溶接やスプライン結合等によって一体化されていてもよい。また、本明細書において、2つの要素の配置に関して、「特定方向視で重複する」とは、その視線方向に平行な仮想直線を当該仮想直線と直交する各方向に移動させた場合に、当該仮想直線が2つの要素の両方に交わる領域が少なくとも一部に存在することを意味する。
【0016】
図1の模式的な分解斜視図、
図2のスケルトン図に示すように、車両用駆動装置100は、ロータ12を備えた回転電機MGと、車輪Wに駆動連結される出力部材と、回転電機MGと出力部材との間で駆動力を伝達する動力伝達機構GTとを備えている。後述するように、ロータ12の回転軸心Aに沿う方向を軸方向Lとして、動力伝達機構GTは、ロータ12に対して軸方向Lの一方側である軸方向第1側L1に配置されている。詳細は後述するが、回転電機MGは、車両の駆動力源であり、動力伝達機構GTは、減速機6と差動歯車機構5とを含む。具体的には、本実施形態の車両用駆動装置100は、ロータ12を備えた回転電機MGと、それぞれが車輪Wに駆動連結される一対の出力部材と、ロータ軸13の回転を減速する減速機6と、減速機6を介して差動入力要素(差動ケース50)に伝達される回転電機MGからの駆動力を一対の出力部材に分配する差動歯車機構5と、回転電機MG、減速機6、及び差動歯車機構5を収容する収容室(後述する第2収容室E2)を形成するケース9とを備えている。
【0017】
回転電機MG及び動力伝達機構GTは、車両用駆動装置100における「駆動ユニットTA」に相当する。また、出力部材の少なくとも一部が駆動ユニットTAに含まれていてもよい。ケース9は、回転電機MG及び動力伝達機構GTを含む駆動ユニットTAを少なくとも収容すると共に、後述するインバータモジュールINVと、電源モジュールPWRと、冷媒回路モジュール2とを支持する。尚、「支持」はケース9の外部を用いる場合に限らず、ケース9の内面に支持される形態も含む。つまり、インバータモジュールINVと、電源モジュールPWRと、冷媒回路モジュール2との内の少なくとも1つ以上がケース9に収容されていてもよい。
【0018】
一対の車輪Wは第1車輪W1及び第2車輪W2を含み、第1車輪W1は第1ドライブシャフトDS1に駆動連結され、第2車輪W2は第2ドライブシャフトDS2に駆動連結されている。本実施形態では、差動歯車機構5の出力ギヤである一対のサイドギヤ52は、第1サイドギヤ53と第2サイドギヤ54とを含む。第1サイドギヤ53は、連結軸Jを介して第1ドライブシャフトDS1に駆動連結され、第2サイドギヤ54は、第2ドライブシャフトDS2に駆動連結されている。例えば、第1サイドギヤ53と連結軸Jとはスプライン結合によって連結されており、第2サイドギヤ54と第2ドライブシャフトDS2ともスプライン結合によって連結されている。これらの連結部はスプライン係合部59である。出力部材は、例えばこれらのスプライン係合部59である。また、出力部材は、第1サイドギヤ53、第2サイドギヤ54、第1ドライブシャフトDS1、第2ドライブシャフトDS2、連結軸Jであってもよい。
【0019】
以下の説明では、上述したようにロータ12の回転軸心Aに沿う方向を「軸方向L」とする。そして、軸方向Lの一方側を「軸方向第1側L1」とし、軸方向Lの他方側を「軸方向第2側L2」とする。本実施形態では、回転電機MGと減速機6と差動歯車機構5とは、互いに同軸上に、軸方向第2側L2から軸方向第1側L1に向けて記載の順に配置されている。本実施形態の車両用駆動装置100は、1軸構成であり、回転電機MGと減速機6と差動歯車機構5とが配置された軸(回転軸心A)は、車両用駆動装置100の回転軸心Aであると共に、回転電機MG、減速機6、差動歯車機構5の回転軸心でもある。また、ロータ12の回転軸心Aに直交する方向を「径方向」とする。そして、径方向において、ロータ12の回転軸心A側を「径方向内側」とし、その反対側を「径方向外側」とする。また、車両用駆動装置100が車両に搭載された車両搭載状態において鉛直方向に沿う方向を「上下方向Z」とし、上方を「上下方向Zの上側Z1」、下方を「上下方向Zの下側Z2」とする。車両用駆動装置100が車両に水平に搭載されている場合、径方向の内の一方向と上下方向Zとは一致する。また、軸方向L及び上下方向Zに直交する方向を「前後方向H」とし、前後方向Hの一方側を「前後方向第1側H1」、他方側を「前後方向第2側H2」とする。本実施形態では、前後方向第1側H1が車両10のフロント側であり、前後方向第2側H2がリヤ側である。また、軸方向Lは、車両10の「幅方向」に相当する。
【0020】
図1に示すように、車両用駆動装置100は、さらに、インバータモジュールINVと、電源モジュールPWRと、冷媒回路モジュール2とを備えている。インバータモジュールINVは、回転電機MGを駆動制御する回路モジュールである。
図3に示すように、電源モジュールPWRは、車載バッテリBTに電気的に接続されて車載バッテリBTの電圧変換を行うコンバータ61(電圧変換回路)、車載バッテリBTに電気的に接続されて外部電源60から車載バッテリBTへの充電を行うための充電回路、及び、車載バッテリBTに電気的に接続されて車載バッテリBTから外部への給電を行うための給電回路の少なくとも1つを備えている。尚、本実施形態では、車載バッテリBTへの充電と車載バッテリBTからの給電の双方向の機能を有する充電給電回路62を備える形態を例示している。即ち、充電給電回路62は、充電回路及び給電回路の機能を有する。また、本実施形態では、
図5に示すように、インバータモジュールINVと電源モジュールPWRとを含む高圧回路ユニット4が形成されている。冷媒回路モジュール2は、エアコンディショナ用の冷媒を循環させる冷媒回路20(
図4参照)の少なくとも一部を構成している。
【0021】
また、本実施形態では、ケース9は、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWR(即ち高圧回路ユニット4)を収容する第1収容室E1と、回転電機MG及び動力伝達機構GT(即ち駆動ユニットTA)を収容する第2収容室E2とを備えている。
【0022】
図1に示すように、ケース9は、第1収容室E1及び第2収容室E2の中核となる収容部材であるケース本体90と、3つのカバー部材(第1カバー93、第2カバー94、第3カバー95)とを備えている。ケース本体90は、第1ケース部91と、第2ケース部92とを有する。第1ケース部91は、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRを収容する第1収容室E1が形成される部分である。第2ケース部92は、回転電機MG及び動力伝達機構GTを収容する第2収容室E2が形成される部分である。車輪Wを駆動する「駆動ユニットTA」という機能からは、必ずしも電源モジュールPWRが車両用駆動装置100に搭載されていなくてもよく、この場合、第1ケース部91は、インバータモジュールINVを収容するケースということもできる。
【0023】
本実施形態では、ケース9は、第1収容室E1と、第2収容室E2と、第1収容室E1と第2収容室E2とを区画する区画壁98とを備えて一体的に形成されている。即ち、本実施形態では、第1ケース部91と第2ケース部92と区画壁98とが同一部材によって一体的に形成されている形態を例示している。しかし、ケース9の構造はこれに限定されるものではない。ケース9は、区画壁98を備えることなく、第1ケース部91と第2ケース部92とが別部材によって構成され、ボルト等の締結部材や溶接等によって一体化される形態であってもよい。第1ケース部91と第2ケース部92とが別部材によって構成される場合、第1ケース部91と第2ケース部92との境界には少なくとも一方の部材の壁が存在することになる。ケース9が別部材を組み合わせて一体化される場合、当該境界における当該壁の一方又は双方を区画壁98と考えてもよい。
【0024】
第1ケース部91は、車両搭載状態で上下方向Zの上側Z1が開口した矩形箱状に形成されている。第1ケース部91は、第1開口部9aを囲むと共に、車両搭載状態で上下方向Zに沿って延在するように配置された周壁部96を備えている。第1開口部9aは、第1カバー93により閉塞される。第1開口部9aは、インバータモジュールINVを収容するケース9の開口部であり、第1カバー93は、この開口部を閉塞するカバーである。また、本実施形態では第1収容室E1と第2収容室E2とが、上下方向Zに並ぶように配置されている。
【0025】
第2ケース部92は、軸方向Lの両側が開口した筒状に形成されており、円筒状の筒状周壁部97を備えている。筒状周壁部97は、動力伝達機構GTを径方向外側から囲んでおり、ケース9の第2収容室E2を囲む部分に相当する。軸方向第2側L2に形成された開口部は、第2開口部9bであり、軸方向第1側L1に形成された開口部は、第3開口部9cである。第2開口部9bは、第2カバー94により閉塞され、第3開口部9cは、第3カバー95により閉塞されている。第2カバー94及び第3カバー95には、上述したドライブシャフト(第1ドライブシャフトDS1、第2ドライブシャフトDS2)が貫通する貫通孔が形成されている。
【0026】
回転電機MGは、一対の車輪Wの駆動力源として機能する。
図3に示すように、回転電機MGは、インバータ回路PMを介して、二次電池やキャパシタ等の蓄電装置により構成された直流電源である車載バッテリBTと電気的に接続されている。回転電機MGは、車載バッテリBTから電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、車輪Wの側から動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能とを有している。回転電機MGは、車載バッテリBTに蓄えられた電力により力行して駆動力を発生すると共に、一対の車輪Wの側から伝達される駆動力により発電して車載バッテリBTを充電する。車載バッテリBTは、定格電圧が48ボルトから400ボルト程度の高圧直流電源である。
【0027】
車載バッテリBTは、車輪Wの駆動力源となる回転電機MGに電力を供給するため、電力容量が大きく、体格も大きい。例えば、車室(キャビン)等の空間を確保するために、車両10のキャビン床下に配置されている。
【0028】
尚、本実施形態では、車載バッテリBTは、回転電機MGが発電した電力によって充電されるだけではなく、定格電圧が100ボルトから240ボルト程度の交流商用電源などの外部電源60から供給される電力によっても充電可能に構成されている。このため、車載バッテリBTは、充電給電回路62を介して外部電源60に接続可能に構成されている。
図3では、外部電源60と充電給電回路62とが、例えばコネクタ等を備えた外部接続ポートPTにより有線で接続されるような形態を例示している。しかし、そのような形態には限らず、例えば、外部接続ポートPTが電磁誘導等によって非接触で外部電源60から受電し、充電給電回路62を経て車載バッテリBTに電力が供給される形態であってもよい。尚、充電給電回路62を制御するために、充電給電制御部64が備えられている。
【0029】
近年、災害時等において電動車両やハイブリッド車両の車載バッテリBTを非常用電源として用いることが提唱されている。充電給電回路62は、車載バッテリBTをそのような非常用電源として利用することができるように充電回路の機能に加えて、給電回路の機能も有して構成されている。当然ながら、このような車載バッテリBTの利用を考慮しないような場合には、充電給電回路62は、充電回路の機能のみを有して構成されていてもよい。
【0030】
また、本実施形態では、車載バッテリBTは、定格電圧が12ボルトから24ボルト程度の低圧直流電源Bにも電力を供給する。低圧直流電源Bは、車両10のヘッドライト、パワーウィンドウ、パワーステアリング、車載エアコンディショナ、電動オイルポンプなどの補機の電力源、車両10内の種々の制御装置の電力源となる。従来、一般的な車両では、車両の駆動力源(例えば内燃機関)に連動するオルタネータにより発電される電力によって低圧直流電源Bが充電されていた。しかし、本実施形態では、低圧直流電源Bよりも高電圧で、蓄電量も多い車載バッテリBT(高圧直流電源)からの電力により低圧直流電源Bが充電されるように構成されている。これによりオルタネータを搭載しなくてもよく、また、オルタネータの駆動に伴う車両の駆動力源(本実施形態の場合は回転電機MG)の動力損失も抑制することができる。
【0031】
このように車載バッテリBTの電力により低圧直流電源Bを充電するために、車載バッテリBTの電圧変換を行うコンバータ61(電圧変換回路)が備えられている。上述したように、車載バッテリBTの定格電圧の方が、低圧直流電源の定格電圧よりも高いため、コンバータ61は、例えば降圧型のDC/DCコンバータによって構成されている。DC/DCコンバータは、チョッパ型、チャージポンプ型などの非絶縁型と、トランスを用いた絶縁型とがある。車載バッテリBTから電力を供給される回路と、低圧直流電源Bから電力を供給される回路とが、電気的に絶縁されている方が好ましい場合には、コンバータ61は、絶縁型であるとよい。絶縁型のDC/DCコンバータは、スイッチング素子を備えて構成されており、コンバータ61は、コンバータ制御部63により制御される。
【0032】
尚、車両には、一般的な家電製品等に電力を供給するためのAC電源ソケット(交流電源ソケット)を備えるものもある。そのようなAC電源ソケットは、定格電圧が100ボルトから200ボルトの交流を出力可能に構成されている。AC電源ソケットから供給される交流電力は、車載バッテリBTから不図示のインバータを用いて生成される。このようなインバータも電圧変換回路に相当し、当該インバータを有する場合には、当該インバータ及びこれを制御するインバータ制御部も、電源モジュールPWRに含むことができる。
【0033】
このように、電源モジュールPWRは、車載バッテリBTに電気的に接続され、車載バッテリBTの電圧変換を行うコンバータ61(電圧変換回路)及び外部電源60から車載バッテリBTへの充電を行うための充電回路、車載バッテリBTから外部への給電を行うための給電回路の少なくとも1つを備えている。本実施形態では、上述した充電給電制御部64、コンバータ制御部63も電源モジュールPWRに含む。
【0034】
図2に示すように、回転電機MGは、ケース9に固定されたステータ11と、ロータ軸13と一体的に回転するようにロータ軸13に連結されたロータ12とを備えている。回転電機MGは、インナーロータ型の回転電機であり、ステータ11の径方向内側にロータ12が配置されている。回転電機MGは回転界磁型の回転電機であり、ステータ11は、ステータコア11aと、ステータコア11aに巻き回されたステータコイル11bとを含む。また、ロータ12は、ロータコア12aと、ロータコア12aに固定された不図示の永久磁石とを含む。ロータ軸13は、ロータコア12aと同軸の筒状に形成されており、ロータ軸13の軸方向第1側L1における外周側には、減速機6を構成する遊星歯車機構のサンギヤSGがロータ軸13と一体的に回転するように配置されている。後述するように、サンギヤSGは、減速機6の入力要素である。
【0035】
図3に示すように、回転電機MGは、上位の制御装置である車両制御装置300からの指令に従って設定される回転電機MGの目標トルクに基づいて、回転電機制御部17により駆動制御される。回転電機制御部17は、複数のスイッチング素子により構成されたインバータ回路PMをスイッチング制御して、インバータ回路PMに直流と複数相(本実施形態では3相)の交流との間で電力を変換させる。回転電機制御部17の動作電圧は、3.3ボルト~5ボルト程度であり、インバータ回路PMの入出力電圧は、48ボルト~400ボルト程度であり、インバータ回路PMを構成するスイッチング素子のスイッチング制御信号の電圧は15ボルトから24ボルト程度である。このため、回転電機制御部17とインバータ回路PMとの間には、回転電機制御部17から出力されるスイッチング制御信号の電圧を増幅し、駆動力を高めてインバータ回路PMに供給するドライバ18が備えられている。
【0036】
インバータ回路PMは、複数のスイッチング素子を有して構成される。インバータ回路PMは、直流の正極側の上段側スイッチング素子と負極側の下段側スイッチング素子との直列回路により構成された交流1相分のアームを複数組(ここでは3組)備えている。それぞれのスイッチング素子には、負極から正極へ向かう方向(下段側から上段側へ向かう方向)を順方向としてフリーホイールダイオードが備えられている。スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)やSiC-MOSFET(Silicon Carbide - Metal Oxide Semiconductor FET)やSiC-SIT(SiC - Static Induction Transistor)、GaN-MOSFET(Gallium Nitride - MOSFET)などのパワー半導体素子を適用すると好適である。本実施形態では、インバータ回路PMは、フリーホイールダイオードと共にスイッチング素子が集積されたパワーモジュールとして構成されている。
【0037】
回転電機MGが駆動される際には、インバータ回路PMを構成するスイッチング素子に大電流が流れてスイッチング素子が発熱する。従って、複数のスイッチング素子を備えたインバータ回路PMの発熱量は大きなものとなる。このため、本実施形態では、
図5に示すように、スイッチング素子を冷却する冷却ユニット38が備えられている。冷却ユニット38には、冷却水が流通する冷却水路39が形成されている。尚、冷却は冷却対象部位と冷却水との間での直接の熱交換による形態に限らず、油やヒートシンク等の伝熱媒体を介して冷却水との間で熱交換される形態も含む。
【0038】
インバータモジュールINVは、インバータ回路PMを構成するスイッチング素子と、スイッチング素子を冷却する冷却ユニットと38とを少なくとも備えて構成されている。本実施形態では、
図3に示すように、インバータモジュールINVは、回転電機制御部17と、ドライバ18とをさらに備えている。即ち、本実施形態では、回転電機制御部17と、ドライバ18と、インバータ回路PMと、冷却ユニット38とを備えてインバータモジュールINVが構成されている。当然ながら、回転電機制御部17及びドライバ18を含まず、インバータ回路PMを構成するスイッチング素子と、冷却ユニットと38とによりインバータモジュールINVが構成されていてもよい。
【0039】
尚、
図3に示すように、インバータ回路PMの直流側、つまり、インバータ回路PMと車載バッテリBTとの間には、インバータ回路PMの直流側の電圧を平滑する直流リンクコンデンサ16(平滑コンデンサ)が備えられている。インバータモジュールINVは、直流リンクコンデンサ16を含んでいてもよい。
【0040】
回転電機制御部17は、ロータ12の回転位置(永久磁石の磁極位置)、ロータ12の回転速度、及び3相各相のステータコイル11bを流れる電流に基づいて、電流フィードバック制御を行ってインバータ回路PMを介して回転電機MGを駆動制御する。ロータ12の回転位置は、レゾルバや誘導性位置センサ(Inductive Position Sensor)などの回転センサ14によって検出される。ステータコイル11bを流れる電流は、電流センサ15によって検出される。電流センサ15は、
図5に示すように、例えばインバータ回路PMと回転電機MGのステータコイル11bとを接続するバスバーなどの動力線の近傍に設置された非接触型電流センサであると好適である。
【0041】
また、電源モジュールPWRは、コンバータ61(電圧変換回路)及び充電給電回路62を少なくとも備えて構成されている。本実施形態では、
図5に示すように、コンバータ61及び充電給電回路62が共通の基板を用いて構成されている。また、本実施形態では、電源モジュールPWRは、
図3に示すように、コンバータ61と、コンバータ制御部63と、充電給電回路62と、充電給電制御部64とを備えている。
【0042】
尚、本実施形態では、インバータモジュールINVに含まれる回転電機制御部17と、電源モジュールPWRに含まれるコンバータ制御部63及び充電給電制御部64とが、1つの同一の基板上に形成されて制御基板ECUが構成されている。制御基板ECUは、複数の制御部の機能が統合されている統合制御基板と称することもできる。
【0043】
本実施形態では、
図5に示すように、冷却ユニット38の上面である冷却ユニット第1面38aに、インバータ回路PM(スイッチング素子)と、直流リンクコンデンサ16と、コンバータ61と、充電給電回路62とが取り付けられている。脈動を生じる直流電圧を平滑する直流リンクコンデンサ16は、電流の出入りにより発熱する。また、コンバータ61はスイッチング素子を備えており、スイッチング動作の際に流れる電流によって当該スイッチング素子も発熱する。また、充電給電回路62にも外部電源60から供給されて車載バッテリBTを充電するための電流が流れるため、発熱する。冷却ユニット38は、冷却水が流通する冷却水路39を備えており、これらの発熱部材が冷却ユニット第1面38aに取り付けられることによって適切に冷却される。尚、最も発熱量が多く、高い温度となるのはインバータ回路PMである。
【0044】
冷却水路39は、インバータ回路PMを含むインバータモジュールINVを冷却する部分が下流側となり、電源モジュールPWRを冷却する部分が上流側となるように形成されてもよいし、インバータモジュールINVを冷却する部分が上流側となり、電源モジュールPWRを冷却する部分が下流側となるように形成されてもよい。
図4や
図8の模式的なブロック図や断面図では、インバータモジュールINVの側から電源モジュールPWRの側へ冷却水が流れるように冷却水路39が設けられているように見えるが、これは冷却ユニット38と冷却対象(インバータモジュールINV、電源モジュールPWR)との位置関係を限定するものではない。
【0045】
例えば、電源モジュールPWRの側からインバータモジュールINVの側に冷却水が流れるように、冷却ユニット38内に冷却水路39が形成されていると、発熱量が低い領域から発熱量の高い領域へ冷却水を流通させることで、発熱する冷却対象を冷却水の温度上昇を抑えた状態で適切に冷却することができる。また、回転電機MGが駆動されているとき、即ち車両10が走行中には、外部電源60から車載バッテリBTを充電することはほぼない。道路を走行中に道路に設置された給電装置から非接触で給電されるような形態はあり得るが、一般的には実用化されていない。従って、回転電機MGが駆動されているとき、充電給電回路62は停止していることが多い。また、低圧直流電源Bを充電する際に流れる電流は、車載バッテリBTを充電する際に充電給電回路62を流れる電流に比べて小さく、発熱量も小さい。このため、回転電機MGが駆動中に低圧直流電源Bを充電しても、充電給電回路62に比べてコンバータ61の発熱量は小さい。従って、このような順路で冷却水を流通させても、インバータ回路PMを適切に冷却することができる。
【0046】
インバータ回路PMの上下方向Zの上側Z1には、ドライバ18が配置されている。そして、回転電機制御部17と、コンバータ制御部63と、充電給電制御部64とに跨がって、制御基板ECUが配置されている。概ね、上下方向視において、インバータ回路PMとドライバ18と回転電機制御部17とが重複し、コンバータ61とコンバータ制御部63とが重複し、充電給電回路62と充電給電制御部64とが重複するように、制御基板ECUが配置される。本実施形態では、
図1及び
図5に示すように、電源モジュールPWRは、インバータモジュールINVに対して軸方向第1側L1に隣接して配置されている。制御基板ECUは、軸方向Lに沿って、回転電機制御部17と、コンバータ制御部63と、充電給電制御部64とに跨がって配置されている。そして、制御基板ECUは、
図1に示すように、インバータ回路PM(スイッチング素子)と冷媒回路モジュール2との上下方向Zの間に配置されている。
【0047】
図2に示すように、減速機6は、ロータ軸13と一体的に回転する入力要素と、ケース9に固定された固定要素と、差動入力要素(差動ケース50)と一体的に回転する出力要素と、遊星ギヤを備えた遊星歯車機構として構成されている。この遊星歯車機構は、1つのサンギヤSG、2つのリングギヤ(第1リングギヤRG1、第2リングギヤRG2)と、一体的に回転する2つの遊星ギヤ(第1遊星ギヤPG1、第2遊星ギヤPG2)と、2つの遊星ギヤを回転自在に支持するキャリヤCRとを備えた複合型の遊星歯車機構である。本実施形態では、第1遊星ギヤPG1は、第2遊星ギヤPG2よりも小径に形成されている。
【0048】
サンギヤSGは、ロータ12及びロータ軸13と一体的に回転する。第2リングギヤRG2は、ケース9に固定されている。第1リングギヤRG1は、第2リングギヤRG2に対して軸方向第1側L1に配置され、差動ケース50と一体的に回転するように差動ケース50に連結されている。第2遊星ギヤPG2は、サンギヤSG及び第2リングギヤRG2に噛み合い、第1遊星ギヤPG1は、第2遊星ギヤPG2と一体的に回転すると共に第1リングギヤRG1に噛み合っている。本実施形態では、サンギヤSGが入力要素であり、第2リングギヤRG2が固定要素であり、第1リングギヤRG1が出力要素である。キャリヤCRは、何れの回転要素及び固定要素にも連結されていない。
【0049】
差動歯車機構5は、傘歯車式の差動歯車機構であり、何れも傘歯車のピニオンギヤ51と、サイドギヤ52とを含む。ピニオンギヤ51は、差動ケース50に支持されると共に径方向に沿って延在するように配置されたピニオンシャフト55により回転自在に支持されている。ピニオンシャフト55は、差動ケース50と一体的に回転し、ピニオンギヤ51は、ピニオンシャフト55を中心として回転(自転)自在、かつ、差動ケース50の回転軸心Aを中心として回転(公転)自在に構成されている。複数のピニオンシャフト55は、差動ケース50の回転軸心Aを中心として放射状(例えば十字状)に配置され、複数のピニオンシャフト55のそれぞれに、ピニオンギヤ51が取り付けられている。差動ケース50は、ピニオンギヤ51、サイドギヤ52、ピニオンシャフト55を内部に収容している。
【0050】
サイドギヤ52は、第1サイドギヤ53と第2サイドギヤ54とを備えて軸方向Lに離間して一対配置されている。第1サイドギヤ53及び第2サイドギヤ54は、複数のピニオンギヤ51のそれぞれに噛み合うと共に、差動ケース50の回転軸心Aを中心として回転するように配置されている。
図2に示すように、第1サイドギヤ53は、減速機6及び中空筒状のロータ軸13の径方向内側を通って軸方向Lに沿って延在する連結軸Jに連結されている。連結軸Jは、軸方向第2側L2の車輪Wである第1車輪W1に駆動連結された第1ドライブシャフトDS1と一体的に回転するように連結されている。従って、第1サイドギヤ53は、連結軸Jを介して第1車輪W1に駆動連結されている。また、第2サイドギヤ54は、軸方向第1側L1の車輪Wである第2車輪W2に駆動連結された第2ドライブシャフトDS2と一体的に回転するように連結されている。
【0051】
車輪Wに駆動連結されて、車輪Wと一体的に回転する第1ドライブシャフトDS1、第2ドライブシャフトDS2、連結軸J、第1サイドギヤ53、第2サイドギヤ54は、何れも出力部材に相当する回転部材ということができる。第1サイドギヤ53及び第2サイドギヤ54は、差動歯車機構5であると共に出力部材ということもできる。尚、第1サイドギヤ53及び第2サイドギヤ54は、それぞれ、ピニオンギヤ51に噛み合うギヤ部と、連結軸Jや第2ドライブシャフトDS2に連結されるスプライン係合部59とを備えている。機能的に分けて考える場合、ギヤ部が差動歯車機構5に含まれる回転部材に相当し、スプライン係合部59が出力部材に相当する。
【0052】
このような車両用駆動装置100においては、回転電機MGや動力伝達機構GTが油によって潤滑(冷却を含む)されることが多く、本実施形態の車両用駆動装置100も油によって潤滑される。例えば、ケース9の下側Z2に形成された油溜まりに溜まった油がオイルポンプOP(
図4、
図6、
図8参照)や、動力伝達機構GTのギヤによる掻き上げにより、軸受等の潤滑対象箇所や、回転電機MGのステータコイル11b等の冷却対象箇所に供給される。
図4に示すオイル流路40は、オイルポンプOPから吐出される油が、回転電機MG(ステータコイル11bやロータ軸13の軸受等)及び動力伝達機構GT(各ギヤの軸受等)に供給される形態を例示している。当然ながら、冷却に用いられた油の温度は上昇するため、オイル流路40には油を冷却するためのオイルクーラOCも接続されている。オイルクーラOCは、冷却水と熱交換することによって油を冷却する。尚、オイル流路40は、ケース9の壁や回転部材の回転軸等に形成された流路や、ケース9内に配置されたパイプ等により形成された流路を含む。
【0053】
上述したように、インバータモジュールINVは、インバータ回路PMを構成するスイッチング素子を冷却する冷却ユニット38を備えている。このため、車両用駆動装置100は、冷却ユニット38とラジエータ37(車載ラジエータ)とを通る経路で冷却水を循環させる冷却水路39を備えて構成された冷却水回路30を有する冷却水回路モジュール3を有している。
図4に示すように、冷却水回路30には、ラジエータ37と、第1ウォーターポンプ36と、冷却ユニット38と、三方向弁35とが接続されている。冷却水回路モジュール3は、ケース9に形成される水路(冷却水路39)、及び冷却ユニット38を少なくとも含む。また、冷却水回路モジュール3は、さらに三方向弁35や第1ウォーターポンプ36を含んでいてもよい。ラジエータ37によって冷却(放熱)された冷却水は、第1ウォーターポンプ36によって冷却水回路30に送り出され、冷却ユニット38においてインバータモジュールINV及び電源モジュールPWRから熱を奪い、三方向弁35を経てラジエータ37に戻って廃熱される。
【0054】
図4に示すように、冷却水回路30には、上述したオイルクーラOCも接続されている。オイルクーラOCは、冷却水回路30を流れる冷却水と熱交換することによってオイル流路40を流れる油を冷却する。また、冷却水回路30には、水冷コンデンサ31(冷媒用の熱交換器)も接続されている。水冷コンデンサ31では、車載エアコンディショナの冷媒と冷却水との間で熱交換を行い、温度が高くなった冷媒を冷却する。
【0055】
冷却ユニット38、オイルクーラOC、水冷コンデンサ31を経て温度が上昇した冷却水は、三方向弁35を経てラジエータ37に戻って廃熱される。しかし、寒冷時などで廃熱の必要が無い場合や、逆に冷却水によって油の温度を上げたい場合、車載エアコンディショナによって急速暖房を行う場合、などでは、ラジエータ37による放熱は必要ない。三方向弁35は、このような場合にラジエータ37を経由することなく、冷却水を循環させるように、冷却水の流路を切り替える。
【0056】
上述したように、水冷コンデンサ31は、車載エアコンディショナの冷媒が流れる冷媒回路20に接続されている。冷媒回路20には、水冷コンデンサ31から第1バルブV1を経由してエバポレータ44を通りアキュムレータ41に至る経路(第1流路20a)と、水冷コンデンサ31から第2バルブV2を経由してアキュムレータ41に至る経路を経て、さらに、コンプレッサ42、キャビンコンデンサ43を経て第3バルブV3を経由して水冷コンデンサ31に戻る経路(第2流路20b)とが形成されている。
【0057】
エバポレータ44は、冷房の中核となる機能部品であり、冷媒を気化させることによって周囲から熱を奪い、冷気を車室内に放出させる。アキュムレータ41は、気体と液体とが混在した冷媒から液体を分離し、気体(冷媒ガス)のみをコンプレッサ42に供給する。コンプレッサ42は、比較的低温・低圧の冷媒ガスを圧縮して、高温・高圧にする。キャビンコンデンサ43は、ヒートポンプ方式による暖房の熱源であり、コンプレッサ42によって凝縮された熱を車室内に放出する。キャビンコンデンサ43を出た冷媒は、膨張弁である第3バルブV3を経由して水冷コンデンサ31に流れる。
【0058】
上述したコンプレッサ42、キャビンコンデンサ43、エバポレータ44は、車載エアコンディショナにおいて冷暖房時の温度や風量の調整、吹き出し口の選択を行うキャビン空調ユニット45に含まれる。
【0059】
また、本実施形態では、バッテリヒートシンク34も冷却水との熱交換によって車載バッテリBTを冷却し、温度が上昇した冷却水は、チラー32において冷媒と熱交換することによって冷却される。このため、冷媒が、水冷コンデンサ31から第4バルブV4及びチラー32を経由してアキュムレータ41に至る経路として第3流路20cが形成されている。
【0060】
チラー32には、チラー32から出た冷却水が、バッテリヒートシンク34、第2ウォーターポンプ33を経てチラー32に戻る第2冷却水回路30Bが接続されている。チラー32は、水冷コンデンサ31と同様に、冷却水と冷媒との間で熱交換を行い、冷却水から熱を奪って冷却水を冷却する。バッテリヒートシンク34との熱交換によって温度が上昇した冷却水はチラー32において冷却される。車載バッテリBTを冷却するための第2冷却水回路30B、及び第2冷却水回路30Bを流れる冷却水を冷却する第3流路20cを備えることにより、急速充電や高速走行時など、車載バッテリBTに流れる電流が増加して車載バッテリBTの温度が上昇するような場合にも、車載バッテリBTに対する入出力電流の制限を緩和し易くなる。
【0061】
上述したように、冷媒回路20には、水冷コンデンサ31(冷媒用の熱交換器)からエバポレータ44までの冷媒の流路を含む第1流路20aと、コンプレッサ42から水冷コンデンサ31までの冷媒の流路を含む第2流路20bと、チラー32を含む冷媒の流路を含む第3流路20cとが含まれる。第2流路20b及び第3流路20cに比べて第1流路20aを流れる冷媒は低温である。また、第2流路20bに比べて第3流路20cを流れる冷媒は低温である。
【0062】
冷媒回路20を構成する流路の一部は、ケース9の第1カバー93を利用して形成することもできる。例えば、
図1に示すように、冷媒回路20における冷媒の流量又は流路を制御する制御弁V(第1バルブV1、第2バルブV2、第3バルブV3、第4バルブV4)が、第1カバー93の第1カバー第1面93aに取り付けられている。本実施形態では、冷媒回路モジュール2は、第1カバー93に形成された冷媒回路20及び制御弁Vにより構成されている。尚、ここでは、第1カバー93において冷媒回路20が形成されている部分を冷媒マニホールド21と称する。
【0063】
冷媒回路モジュール2には、冷媒回路20における冷媒の流路を構成する機能部品としての水冷コンデンサ31、チラー32、アキュムレータ41が取り付けられている。冷媒回路モジュール2と、これらの機能部品とを合わせて、冷媒モジュール1が構成されている。尚、車載バッテリBTが冷却水を用いて冷却されない構成の場合、即ち、第3流路20cが形成されていない場合には、チラー32は備えられていなくてもよい。従って、冷媒回路モジュール2、水冷コンデンサ31、アキュムレータ41により、冷媒モジュール1が構成されていてもよい。尚、冷媒回路モジュール2は、車載エアコンディショナ用の冷媒を循環させる冷媒回路の少なくとも一部を構成していればよく、冷媒マニホールド21に加えて、制御弁Vの他、水冷コンデンサ31、チラー32、アキュムレータ41も冷媒回路モジュール2に含めてもよい。
【0064】
尚、冷媒路構成部材には、制御弁V及び機能部品を含み、機能部品には、水冷コンデンサ31、チラー32、アキュムレータ41を含む。また、本実施形態では、冷媒モジュール1には含まれないが、コンプレッサ42、キャビンコンデンサ43、エバポレータ44、バッテリヒートシンク34も、機能部品である。また、第2ウォーターポンプ33も機能部品であり、例えば
図4に示すように、第2ウォーターポンプ33も車両用駆動装置100に一体的に備えられる場合には、冷媒モジュール1に含むことができる。アキュムレータ41は、
図1に示すように、第1カバー93に取り付けられた場合には冷媒モジュール1に含まれるが、車両用駆動装置100とは別に配置されて、冷媒モジュール1には含まれない構成であってもよい。
【0065】
図6は、上述した車両用駆動装置100の好適な構成例を示す分解斜視図であり、
図1の模式的な分解斜視図に対応している。また、
図7は、車両用駆動装置100の好適な構成例を示す外観斜視図である。
図1では省略しているが、
図6及び
図7に示すように、車両用駆動装置100は、マウント部材70を介して車両の車体(例えば、クロスメンバ)に支持される。マウント部材70は、マウントブラケット71を介してケース9に連結される。
【0066】
ところで、
図4にも例示するように、本実施形態の車両用駆動装置100は、冷却水を用いて複数の冷却対象、具体的には、インバータモジュールINV、電源モジュールPWR、潤滑用の油を効率的に冷却できる構造を備えている。このためには、冷却水がそれぞれの冷却対象を介して循環するように冷却水の循環経路を設定する必要がある。この際、ケース9の外部に配管を配置してケース9内において冷却水が通る流路同士を接続することも考えられる。しかし、ケース9の外部に多くの配管があると、車両における搭載スペースが大きくなり、車両用駆動装置100の車両への搭載効率が低下する。また、配管の総延長が長くなることにもなり、圧力損失が増大して冷却水を循環させるポンプの負荷も大きくなる。本実施形態の車両用駆動装置100は、設置スペース及び圧力損失を低減して適切に冷却流体である冷却水の流路を形成し、冷却対象を適切に冷却することができるように構成されている。以下、
図8及び
図9も参照して説明する。
【0067】
図8は、区画壁98を挟んだ第1収容室E1及び第2収容室E2の模式的な断面図である。第1収容室E1には、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRの少なくとも一方に接するように冷却流体路形成部材としての冷却ユニット38が配置されている。冷却対象のインバータモジュールINV及び電源モジュールPWRは、
図5を参照して上述したように、冷却ユニット第1面38aに並んで配置されている。
図8におけるインバータモジュールINV及び電源モジュールPWRの配置は、模式的なものであり、構成を限定するものではない。また、本実施形態では、電源モジュールPWRの一部が上下方向Zにおける下側Z2にも配置されている形態を例示しているが、冷却ユニット38の上側Z1のみに配置されていてもよい。また、冷却ユニット38の下側Z2にインバータモジュールINVの一部が配置される形態であってもよい。
【0068】
即ち、冷却ユニット第1面38aに、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRが配置されている、又は、冷却ユニット第2面38b及び冷却ユニット第1面38aに、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRが配置されていると好適である。冷却流体路形成部材(冷却ユニット38)と共に、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRが同一の収容空間である第1収容室E1内に配置されることで、簡潔な冷却構造により、発熱部材であるインバータモジュールINV及び電源モジュールPWRを一箇所で適切に冷却することができる。例えば、ケース9の表面(内壁の表面)に形成された油路等によりインバータモジュールINV及び電源モジュールPWRを冷却する場合、ケース9の表面では油路が配策しきれなくなることが考えられ、冷却性能が低くなるおそれや、冷却性能を担保するために装置全体の規模が大きくなるおそれがある。しかし、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRを同一の第1収容室E1内に収容し、同様に第1収容室E1に配置された冷却ユニット38の冷却ユニット第1面38a及び冷却ユニット第2面38bの一方、又は双方に接するようにインバータモジュールINV及び電源モジュールPWRを配置することにより、車両用駆動装置100をより小型に構成することができる。
【0069】
冷却ユニット38の内部には、冷却水が流れる第1冷却水路301(第1冷却流体路)が形成されている。即ち、冷却ユニット38には、ケース9とは独立して冷却水が流れる第1冷却水路301が、冷却ユニット38の内部に形成されている。冷却流体路形成部材(冷却ユニット38)が、例えば、部材の表面に油路等が形成されたいわゆるヒートシンクのようなプレートではなく、ケース9とは独立した冷却水路が内部に形成された部材であることにより、冷却対象(ここではインバータモジュールINV及び電源モジュールPWR)を適切に冷却することができる。
【0070】
図6の分解斜視図にも示すように、第1収容室E1の壁面には、第1ウォーターポンプ36が接続される第1ウォーターポンプ接続口36hが形成されている。
図7の外観斜視図にも示すように、第1ウォーターポンプ36は、三方向弁35と共にケース9の外壁に取り付けられている。第1ウォーターポンプ36は、
図8に示すようにケース9の外部に配管等を設けることなく、ケース9の内部で冷却水路(第4冷却水路304)を介して冷却ユニット38の内部の第1冷却水路301に接続されている。
図8における符号“S”は例えばOリングなどのシール部材を示している。
【0071】
本実施形態では、第1収容室E1における冷却ユニット38の下側Z2に、接続部材としてのオイルクーラOCが配置されている。冷却ユニット38とオイルクーラOCとの接続形態等については後述する。
【0072】
上述したように、冷却ユニット38の内部には、冷却水が流れる第1冷却水路301(第1冷却流体路)が形成されている。また、ケース9の内部には、冷却流体が流れる第2冷却水路302(第2冷却流体路)が形成されている。そして、第1冷却水路301と第2冷却水路302とは、第1収容室E1の内部で接続されている。尚、本実施形態では、第2冷却水路302が区画壁98の内部に形成されている形態を例示しているが、第2冷却水路302はケース9の内部であれば区画壁98以外の場所に形成されていてもよい。
【0073】
また、
図8に示すように、第2冷却水路302は、冷却ユニット38から冷却水が排出される冷却水路39(出口流路)であるが、冷却ユニット38に冷却水を流入させる冷却水路39(入口流路)であってもよい。例えば、
図8に示す第4冷却水路304も、ケース9の壁(周壁部96又は筒状周壁部97)の内部に形成されて冷却水が流れる冷却水路39ということができる。従って、本実施形態では、符号“302”で示される冷却水路39、及び符号“304”で示される冷却水路39の双方が、「ケース9の壁の内部に形成される第2冷却流体路」ということができる。「第2冷却流体路」は、入口流路及び出口流路の双方であってもよいし、何れか一方であってもよい。
【0074】
尚、この例からも明らかなように、「冷却水路39(冷却流体路)などの流路がケース9の壁の内部に形成される」と称した場合、第2冷却水路302のように壁面に沿って流路が延伸するように形成される形態に限らず、第4冷却水路304や後述する第2オイル流路402のように壁を貫通することによって壁の内部に流路が形成される形態も含む。
【0075】
上述したように、第1冷却水路301と第2冷却水路302とが第1収容室E1の内部で接続されていることで、冷却水路の経路を短く形成し易く、冷却水路における圧力損失の低減を図り易い。また、第1冷却水路301と第2冷却水路302との接続作業の容易化も図り易い。
【0076】
また、
図8に示すように、第1冷却水路301の第1接続口311は、冷却ユニット第2面38bに設けられている。第2冷却水路302の第2接続口312は、区画壁第1面98aに設けられている。ここで、第1接続口311は、第1冷却水路301における他部材との接続口であり、第2接続口312は、第2冷却水路302における他部材との接続口である。また、冷却ユニット第2面38bは、冷却ユニット38における区画壁98の側である下側Z2を向く面であり、区画壁第1面98aは、区画壁98における冷却ユニット38の側である上側Z1を向く面である。冷却ユニット第2面38bと区画壁第1面98aとは対向しているため、ケース9に冷却流体路形成部材(冷却ユニット38)を組み付ける際における、第1冷却流体路(第1冷却水路301)と第2冷却流体路(第2冷却水路302)との接続作業の容易化を図り易い。
【0077】
尚、
図8に示すように本実施形態では、第1冷却水路301と第2冷却水路302とが直接接続されてはおらず、「接続部材」を介して接続されている形態を例示している。そして、本実施形態では、接続部材として、オイルクーラOCを例示している。しかし、第1冷却水路301と第2冷却水路302とは、接続部材を介することなく、直接接続されていてもよい。また、第1冷却水路301と第2冷却水路302とが接続部材を介して接続される場合、当該接続部材がオイルクーラOCでなくてもよい。例えば、接続部材はパイプ等であってもよい。
【0078】
上述したように、本実施形態では、冷却ユニット38と区画壁98との間に接続部材としてのオイルクーラOCが配置されている。
図9にも示すように、オイルクーラOCは、第1接続口311に接続される冷却水入口313(第3接続口)と、第2接続口312に接続される冷却水出口314(第4接続口)とを備えている。冷却水入口313は、オイルクーラOCがケース9に取り付けられた状態で上側Z1に突出した筒状に形成されている。筒状の冷却水入口313の外周部にはシール部材SとしてのOリングが取り付けられ、冷却ユニット第2面38bに設けられた開口部である第1接続口311に当該筒状の冷却水入口313が挿入されることによって、冷却ユニット38の冷却水路39である第1冷却水路301とオイルクーラOCの内部の冷却水路39である第3冷却水路303とが接続される。
【0079】
図8及び
図9に示すように、オイルクーラOCは、平板状の台座部Pを備えている。台座部Pには、オイルクーラOCがケース9(区画壁98)に取り付けられた状態で下側Z2に開口した開口部が形成されている。本実施形態では、冷却水出口314(第4接続口)としての開口部と、油入口411としての開口部と、油出口412としての開口部との3つの開口部が形成されている。冷却水出口314は、台座部Pと区画壁98との間に設けられたシール部材(図示省略)を介して、
図8及び
図9に示すように区画壁98に形成された第2接続口312と接続される。油入口411及び油出口412については後述するが、同様に、台座部Pと区画壁98との間に設けられたシール部材(図示省略)を介して、それぞれ油路第1接続口413及び油路第2接続口414と接続される。
【0080】
このようにオイルクーラOCには、冷却水入口313と、冷却水出口314と、油入口411と、油出口412とが設けられており、オイルクーラOCの内部には、冷却水路39の一部である第3冷却水路303と、オイル流路40の一部である第1オイル流路401が形成される。
図8では簡略化しているが、第3冷却水路303及び第1オイル流路401は互いに隣り合って延伸する長さを十分に確保できるように、つづらおりの状態で形成され、冷却水と油との間で適切に熱交換を行って油を冷却できるように構成されている。
【0081】
また、
図8に示すように、区画壁98には、冷却ユニット38が取り付けられる第1取付部981が設けられている。また、
図8及び
図9に示すように、区画壁第1面98aには、オイルクーラOCが取り付けられる第2取付部982も設けられている。冷却ユニット38は、第1取付部981に締結部材Fにより締結固定される。また、オイルクーラOCは、第2取付部982に締結部材Fにより締結固定される。第2取付部982にオイルクーラOCが取り付けられることで、第2接続口312と第4接続口(冷却水出口314)とが接続される。即ち、オイルクーラOCが第2取付部982に締結固定されることで、冷却水出口314と第2接続口312とが圧接され、液密性を確保して冷却水路39が接続される。同様に、油入口411と油路第1接続口413とも圧接され、油出口412と油路第2接続口414とも圧接されて、液密性を確保してオイル流路40が接続される。そして、第2取付部982にオイルクーラOCが取り付けられ、第1取付部981に冷却ユニット38が取り付けられた状態で、上述したように、第1接続口311と第3接続口(冷却水入口313)とが接続される。
【0082】
換言すれば、第1接続口311、第2接続口312、第3接続口(冷却水入口313)、及び、第4接続口(冷却水出口314)は、ケース9(区画壁98)に対して上記のように接続部材(例えばオイルクーラOC)及び冷却ユニット38が取り付けられ、第1接続口311、第2接続口312、冷却水入口313(第3接続口)、冷却水出口314(第4接続口)が接続されるように構成されている。このように、ケース9の区画壁98に対して接続部材(例えばオイルクーラOC)及び冷却流体路形成部材(冷却ユニット38)を組み付けるだけで、第1冷却流体路(第1冷却水路301)と第2冷却流体路(第2冷却水路302)とを接続することができる。従って、第1冷却流体路(第1冷却水路301)と第2冷却流体路(第2冷却水路302)との接続作業の容易化を図り易い。
【0083】
区画壁98に設けられた第2接続口312は、区画壁98の内部に形成された第2冷却水路302の一端側に開口した接続口であり、第2冷却水路302に連通している。第2冷却水路302の他端側は、ケース9の外部に向かって開口した外部接続口31hに連通している。図示は省略しているが、外部接続口31hには、水冷コンデンサ31など他の部材が直接接続されてもよいし、水冷コンデンサ31などの他の部材との間を接続する配管が接続されてもよい。
【0084】
図8に示すように、区画壁第2面98bの側に形成される第2収容室E2には、回転電機MG及び動力伝達機構GTの潤滑及び冷却を行うための油が流れる油路としてのオイル流路40が設けられている。また、オイル流路40の一部は、区画壁98及び接続部材(例えばオイルクーラOC)の内部にも形成されている。具体的には、オイルクーラOCの内部に、オイル流路40の一部としての第1オイル流路401が形成されている。また、区画壁98の内部には、第2オイル流路402が形成されている。尚、第2オイル流路402は、後述する「特定油路区間」に相当する。本実施形態のように、接続部材は、冷却水と油との熱交換が行われる熱交換器(オイルクーラOC)として機能するものであると好適である。冷却流体と油との熱交換を行う熱交換器(オイルクーラOC)を、第1冷却流体路(第1冷却水路301)と第2冷却流体路(第2冷却水路302)とを接続する接続部材として用いることで、熱交換器(オイルクーラOC)と接続部材とを別に設けた場合に比べて、車両用駆動装置100の小型化を図り易い。
【0085】
また、別の観点では、第1収容室E1には、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRの少なくとも一方を冷却するための冷却水(冷却流体)が流れる冷却水路39(冷却流体路)が設けられ、第2収容室E2には、回転電機MG及び動力伝達機構GTの潤滑及び冷却を行うための油が流れるオイル流路40(油路)が設けられているということができる。また、ケース9には、冷却水と油との熱交換が行われる熱交換部Exが支持されているということができる。熱交換部Exには、冷却水路39が接続されると共に、オイル流路40が接続されている。
図8に示すように、それぞれ冷却水路39の一部、及びオイル流路40の一部は、区画壁98の内部に形成されている。これら区画壁98の内部に形成された冷却水路39の一部を特定冷却流体路区間と称し、オイル流路40の一部を特定油路区間と称する。本実施形態では、第2冷却水路302が特定冷却流体路区間に相当し、第2オイル流路402が特定油路区間に相当する。
【0086】
尚、「特定冷却流体路区間」及び「特定油路区間」は、それぞれ熱交換部Exに接続されるものであるが、熱交換部Exとの距離が限定されるものではない。「特定冷却流体路区間」及び「特定油路区間」が形成される区画壁98と熱交換部Exとの離間距離に応じて、「特定冷却流体路区間」及び「特定油路区間」と、熱交換部Exとが離れていても、「特定冷却流体路区間」と熱交換部Exとが直接接続され、「特定油路区間」と熱交換部Exとが直接接続されていればよい。
【0087】
特定冷却流体路区間と特定油路区間とが区画壁98の内部に形成されていることで、これらの少なくとも一方が、ケース9の外部等のような区画壁98以外の場所に配置されている場合に比べて、冷却流体路(冷却水路39)及び油路(オイル流路40)の経路の短縮を図って圧力損失の低減を図り易いと共に、車両用駆動装置100の小型化を図り易い。
【0088】
上述したように、本実施形態では、熱交換部Exを備えた熱交換器としてのオイルクーラOCが、第1収容室E1に配置されている。これにより、熱源となる回転電機MGが配置された第2収容室E2に冷却流体路(冷却水路39)を配置することなく、冷却流体(例えば冷却水)の流路を形成することができる。或いは、熱源となる回転電機MGが配置された第2収容室E2に冷却流体路(冷却水路39)を配置する場合であっても、第2収容室E2に冷却流体路(冷却水路39)が配置される区間を短くし易い。従って、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRの少なくとも一方を冷却するための冷却流体の温度を低く保ちやすい。
【0089】
尚、熱交換部Exは、本実施形態のようにケース9とは別の部材として設けられたオイルクーラOCであってもよいが、例えばケース9の壁等を利用して、ケース9の内部に冷却水路39とオイル流路40とを近接して配置して熱交換を可能に構成した形態であってもよい。従って、「ケース9に熱交換部Exが支持されている」という構成には、本実施形態のように、ケース9の区画壁98にオイルクーラOCが支持されている形態に限らず、区画壁98の内部に熱交換部Exが形成されている形態、ケース9の外周壁(例えば周壁部96や筒状周壁部97)の内側にオイルクーラOC等が支持されている形態、ケース9の外周壁(例えば周壁部96や筒状周壁部97)に熱交換部Exが形成されている形態であってもよい。また、ケース9の外周壁(例えば周壁部96や筒状周壁部97)の外側にオイルクーラOC等が支持されている形態を妨げるものでもない。
【0090】
上述したように、本実施形態では、インバータモジュールINV及び電源モジュールPWRの少なくとも一方に接するように配置され、内部に冷却水路39の一部が形成された冷却ユニット38を備えている。また、上述したように、熱交換器としてのオイルクーラOCは、区画壁98に取り付けられている。
図8に示すように、冷却ユニット38は、オイルクーラOCに対して区画壁98の側とは反対側(上側Z1)に配置されている。このような構成において、オイルクーラOCから流出した冷却水が流れる冷却水路39の区間である第2冷却水路302は、上述した特定冷却流体路区間に相当する。また、第2収容室E2とオイルクーラOCとの間で油が流れるオイル流路40の区間である第2オイル流路402は、上述した特定油路区間に相当する。
【0091】
冷却流体路形成部材(冷却ユニット38)が熱交換器(オイルクーラOC)に対して区画壁98の側とは反対側(上側Z1)に配置され、熱交換器(オイルクーラOC)から流出した冷却流体が流れる特定冷却流体路区間(第2冷却水路302)が区画壁98に形成されているため、冷却流体の流れを円滑にし易い。即ち、冷却流体路が折り返す箇所を作らないように冷却流体の流路を形成できるため、冷却流体の流れを円滑にし易く、圧力損失も低減し易い。また、この構成によれば、熱交換器(オイルクーラOC)へ流入する油が流れる特定油路区間(第2オイル流路402)が区画壁98に形成されているため、第2収容室E2の側から熱交換器(第2オイル流路402)への油の流れも円滑にし易い。
【0092】
オイルクーラOCは、冷却水の入口である冷却水入口313(冷却流体入口)と、冷却水の出口である冷却水出口314(冷却流体出口)と、油の入口である油入口411と、油の出口である油出口412とを備えている。冷却水入口313が接続される第1接続口311は、冷却ユニット第2面38bに設けられている。区画壁第1面98aには、オイルクーラOCが取り付けられる取付部(第2取付部982)と、冷却水出口314が接続される第2接続口312と、油入口411が接続される油路第1接続口413と、油出口412が接続される油路第2接続口414とが設けられている。
【0093】
区画壁98に設けられた取付部(第2取付部982)に熱交換器(オイルクーラOC)を取り付けることにより、冷却流体出口(冷却水出口314)と第2接続口312との接続、油入口411と油路第1接続口413との接続、油出口412と油路第2接続口414との接続を容易に行うことができる。また、熱交換器(オイルクーラOC)と冷却流体路形成部材(冷却ユニット38)との組み付けにより、冷却流体入口(冷却水入口313)と第1接続口311との接続を容易に行うことができる。
【0094】
〔その他の実施形態〕
以下、その他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0095】
(1)上記においては、動力伝達機構GTとして、減速機6と差動歯車機構5とを備える形態を例示した。しかし、動力伝達機構GTは、このような構成に限らない。動力伝達機構GTは、例えば、減速機6を備えることなく、差動歯車機構5のみを備える形態であってもよい。また、動力伝達機構GTは、差動歯車機構5を備えることなく、減速機6のみを備え、1つの車輪Wに1つの回転電機MGからの動力を伝達する構成であってもよい。また、本実施形態では、減速機6として固定変速比の遊星歯車機構を例示したが、減速機6は複数段の変速比を有していてもよい。
【0096】
(2)
図5や
図6に示すように、直流リンクコンデンサ16が、冷却ユニット第1面38aに、インバータ回路PMと並んで配置されるような形態では、インバータモジュールINVに直流リンクコンデンサ16が含まれていてもよい。しかし、例えば、冷却ユニット第1面38aの裏面の側に直流リンクコンデンサ16が配置されるような場合には、インバータモジュールINVに直流リンクコンデンサ16が含まれていなくてもよい。
【符号の説明】
【0097】
9:ケース、10:車両、38:冷却ユニット(冷却流体路形成部材)、38b:冷却ユニット第2面(冷却流体路形成部材(冷却ユニット)における熱交換器(オイルクーラOC)の側を向く面)、39:冷却水路(冷却流体路)、40:オイル流路(潤滑及び冷却を行うための油が流れる油路)、52:サイドギヤ(出力部材)、53:第1サイドギヤ(出力部材)、54:第2サイドギヤ(出力部材)、60:外部電源、61:電圧変換回路、62:充電給電回路(充電回路、給電回路)、98:区画壁、98a:区画壁第1面(区画壁の第1収容室の側を向く面)、100:車両用駆動装置、300:車両制御装置、302:第2冷却水路(特定冷却流体路区間)、311:第1接続口、312:第2接続口、313:冷却水入口(冷却流体入口)、314:冷却水出口(冷却流体出口)、402:第2オイル流路(特定油路区間)、411:油入口、412:油出口、413:油路第1接続口、414:油路第2接続口、982:第2取付部(熱交換器(オイルクーラ)が取り付けられる取付部)、BT:車載バッテリ、DS1:第1ドライブシャフト(出力部材)、DS2:第2ドライブシャフト(出力部材)、E1:第1収容室、E2:第2収容室、GT:動力伝達機構、INV:インバータモジュール、MG:回転電機、OC:オイルクーラ(熱交換器)、PWR:電源モジュール、W:車輪、Z1:上側