(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172335
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】チップソー
(51)【国際特許分類】
B23D 61/06 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
B23D61/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089988
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】391014538
【氏名又は名称】株式会社津根ワグナー・カーバイト
(74)【代理人】
【識別番号】100095430
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 勲
(72)【発明者】
【氏名】津根 良彦
(57)【要約】
【課題】正回転と逆回転の両方でワークを切断することができ、切削用チップで成る刃先のメンテナンスも容易なチップソーを提供する。
【解決手段】回転中心Pkを軸に正回転及び逆回転させて使用される鋸板12と、鋸板12の外周縁部に間隔を空けて着脱可能に取り付けられた複数の歯部材14(1)とを備える。歯部材14(1)は、本体部16(1)と、本体部16(1)の先端側の両角部に一対に配設された第一及び第二の刃先18(1),20(1)とを有する。第一及び第二の刃先18(1),20(1)は、切削用チップにより形成される。歯部材14(1)は、鋸板26に取り付けられた状態で、第一及び第二の刃先18(1),20(1)が鋸板12の外側に突出し、第一の刃先18(1)が鋸板12の正回転方向側に配され、第二の刃先20(1)が鋸板12の逆回転方向側に配される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の形状安定性を有した硬質部材の切断に使用されるチップソーにおいて、
回転中心を軸に正回転及び逆回転させて使用される鋸板と、前記鋸板の外周縁部に間隔を空けて着脱可能に取り付けられた複数の歯部材とを備え、
前記歯部材は、本体部と、前記本体部の先端側の両角部に一対に配設された第一及び第二の刃先とを有し、前記第一及び第二の刃先は切削用チップにより形成されており、前記鋸板に取り付けられた状態で、前記第一及び第二の刃先が前記鋸板の外側に突出するとともに、前記第一の刃先が前記鋸板の正回転方向側に配され、前記第二の刃先が前記鋸板の逆回転方向側に配されることを特徴とするチップソー。
【請求項2】
複数の前記歯部材は、前記鋸板の表面側に取り付けられたもの、及び裏面側に取り付けられたものが、前記外周縁部の周方向に交互に配置される請求項1記載のチップソー。
【請求項3】
複数の前記歯部材は、前記本体部の、前記第一及び第二の刃先から離れた部位を前記鋸板にネジ締結することによって前記鋸板に取り付けられる請求項1又は2記載のチップソー。
【請求項4】
複数の前記歯部材は、前記鋸板に取り付けられた状態で、所定の支持機構によって各々支持されており、
前記支持機構は、前記本体部を前記鋸板の回転方向に揺動可能に軸支し、前記本体部を、逆回転方向側に傾いた一定の位置である第一の位置と、正回転方向側に傾いた一定の位置である第二の位置との間を移動可能にするものであり、
前記鋸板を正回転させてワークを切断している時、前記歯部材は、切削抵抗が作用することによって前記第一の位置に配置され、前記回転中心から最も離間する部位が前記第一の刃先となり、前記鋸板が逆回転させてワークを切断している時、前記歯部材は、切削抵抗が作用することによって前記第二の位置に配置され、前記回転中心から最も離間する部位が前記第二の刃先となる請求項1又は2記載のチップソー。
【請求項5】
前記支持機構は、前記鋸板の外周縁部を厚み方向に貫通する軸孔と、前記軸孔内に配置可能な太さで、前記軸孔内に配置された時に自己の両端部が外向きに突出する長さに形成された軸部材と、前記歯部材の前記本体部の一側面に形成された第一の凹部と、前記本体部を、前記第一凹部の凹み方向に貫通する第一のネジ穴と、補助固定板と、ネジ部材とで構成され、
前記補助固定板は、前記補助固定板の一側面に形成された第二の凹部と、前記補助固定板を、前記第二の凹部の凹み方向に貫通する第二のネジ穴とを有し、
組み立てた状態で、前記鋸板の2つの側面に前記本体部及び前記補助固定板が各々重なるように配置され、前記本体部及び補助固定板は、前記鋸板が重ならない位置で前記第一及び第二のネジ穴が連通し、中に前記ネジ部材を通すことによって相互に固定され、前記軸部材は、前記鋸板の前記軸孔内に配置され、前記軸孔の外に突出する両端部が前記第一の凹部と第二の凹部の内側に各々入り、前記本体部及び前記補助固定板によって回転可能に保持されて前記本体部の揺動中心となる請求項4記載のチップソー。
【請求項6】
前記第一の位置は、前記本体部が逆回転方向側に傾いた時に、前記本体部に又は補助固定板に又はその両方に跨るように形成された第一の係止面が前記鋸板の端面に係止される位置であり、
前記第二の位置は、前記本体部が正回転方向側に傾いた時に、前記本体部に又は補助固定板に又はその両方に跨るように形成された第二の係止面が前記鋸板の端面に係止される位置である請求項5記載のチップソー。
【請求項7】
前記歯部材及びこれを支持する前記支持機構は、前記鋸板に対して着脱可能な1つの構造体となり、前記支持機構の特定部位を前記鋸板にネジ締結することによって前記鋸板に取り付けられる請求項4記載のチップソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、硬質樹脂、硬質ゴム、木材等の一定の形状安定性を有した硬質部材の切断に使用されるチップソーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属や木材等を切断するチップソーは、一方向の回転により切断対象物を切断するもので、鋸刃のチップは決められた回転方向で鋸板に固定されている。
【0003】
また、丸鋸であるチップソーの切削用チップは、一般的に鋸板の歯部にろう付けや溶接によって固定されている。しかし、切削用チップをろう付けしたり溶接したりすると、特定の切削用チップが摩耗又は欠損した時、その切削用チップを鋸板から取り外して交換したり研削したりすることが難しいという問題がある。そのため、従来、切削用チップを着脱可能にしたチップソーが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示されているチップソーは、切削用チップに所定の嵌合溝を形成し、この嵌合溝を鋸板(鋸歯板)の歯形部に差込嵌合する構造にして着脱可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されたチップソーやその他従来のチップソーは、回転方向が決められているため、切断作業においては、切断後の戻り工程が必要であり、加工のサイクルタイム短縮の妨げとなっていた。
【0007】
本発明は、上記背景技術に基づいて成されたものであり、正回転と逆回転の両方でワークを切断することができ、切削用チップで成る刃先のメンテナンスも容易なチップソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一定の形状安定性を有した硬質部材の切断に使用されるチップソーであって、回転中心を軸に正回転及び逆回転させて使用される鋸板と、前記鋸板の外周縁部に間隔を空けて着脱可能に取り付けられた複数の歯部材とを備え、前記歯部材は、本体部と、前記本体部の先端側の両角部に一対に配設された第一及び第二の刃先とを有し、前記第一及び第二の刃先は切削用チップにより形成されており、前記鋸板に取り付けられた状態で、前記第一及び第二の刃先が前記鋸板の外側に突出するとともに、前記第一の刃先が前記鋸板の正回転方向側に配され、前記第二の刃先が前記鋸板の逆回転方向側に配されるチップソーである。複数の前記歯部材は、前記鋸板の表面側に取り付けられたもの、及び裏面側に取り付けられたものが、前記外周縁部の周方向に交互に配置される構成にすることが好ましい。
【0009】
複数の前記歯部材は、前記本体部の、前記第一及び第二の刃先から離れた部位を前記鋸板にネジ締結することによって前記鋸板に取り付けられる構成にすることが好ましい。
【0010】
また、複数の前記歯部材は、前記鋸板に取り付けられた状態で、所定の支持機構によって各々支持されており、前記支持機構は、前記本体部を前記鋸板の回転方向に揺動可能に軸支し、前記本体部を、逆回転方向側に傾いた一定の位置である第一の位置と、正回転方向側に傾いた一定の位置である第二の位置との間を移動可能にするものであり、前記鋸板を正回転させてワークを切断している時、前記歯部材は、切削抵抗が作用することによって前記第一の位置に配置され、前記回転中心から最も離間する部位が前記第一の刃先となり、前記鋸板が逆回転させてワークを切断している時、前記歯部材は、切削抵抗が作用することによって前記第二の位置に配置され、前記回転中心から最も離間する部位が前記第二の刃先となる構成にすることが好ましい。
【0011】
この場合、前記支持機構は、前記鋸板の外周縁部を厚み方向に貫通する軸孔と、前記軸孔内に配置可能な太さで、前記軸孔内に配置された時に自己の両端部が外向きに突出する長さに形成された軸部材と、前記歯部材の前記本体部の一側面に形成された第一の凹部と、前記本体部を、前記第一凹部の凹み方向に貫通する第一のネジ穴と、補助固定板と、ネジ部材とで構成され、前記補助固定板は、前記補助固定板の一側面に形成された第二の凹部と、前記補助固定板を、前記第二の凹部の凹み方向に貫通する第二のネジ穴とを有し、組み立てた状態で、前記鋸板の2つの側面に前記本体部及び前記補助固定板が各々重なるように配置され、前記本体部及び補助固定板は、前記鋸板が重ならない位置で前記第一及び第二のネジ穴が連通し、中に前記ネジ部材を通すことによって相互に固定され、前記軸部材は、前記鋸板の前記軸孔内に配置され、前記軸孔の外に突出する両端部が前記第一の凹部と第二の凹部の内側に各々入り、前記本体部及び前記補助固定板によって回転可能に保持されて前記本体部の揺動中心となる構成にすることが好ましい。
【0012】
そして、前記第一の位置は、前記本体部が逆回転方向側に傾いた時に、前記本体部に又は補助固定板に又はその両方に跨るように形成された第一の係止面が前記鋸板の端面に係止される位置であり、前記第二の位置は、前記本体部が正回転方向側に傾いた時に、前記本体部に又は補助固定板に又はその両方に跨るように形成された第二の係止面が前記鋸板の端面に係止される位置であることが好ましい。
【0013】
あるいは、前記歯部材及びこれを支持する前記支持機構は、前記鋸板に対して着脱可能な1つの構造体となり、前記支持機構の特定部位を前記鋸板にネジ締結することによって前記鋸板に取り付けられる構成にしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のチップソーは、鋸板を正回転させた時に第一の刃先でワークを切削し、鋸板を逆回転させた時に第二の刃先でワークを切削する。つまり、正回転と逆回転の両方でワークを切断できるので、様々な形態の切断工程において、作業効率を向上させることができる。しかも、各歯部材が鋸板に対して個別に着脱可できるので、切削用チップで成る刃先のメンテナンス(交換や研削)も容易である。
【0015】
さらに、歯部材を鋸板に対して揺動可能に取り付ける構成にすることによって、正回転させて第一の刃先でワークを切削している時、反対側の第二の刃先がワークに接触して摩耗するのを効果的に防止すことができ、逆回転させて第二の刃先でワークを切削している時、反対側の第一の刃先がワークに接触して摩耗するのを効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のチップソーの第一の実施形態を示す正面図(a)、背面図(b)である。
【
図2】第一の実施形態のチップソーの歯部材及びその周辺部を拡大した正面図(a)、歯部材を鋸板から取り外した状態を示す正面図(b)である。
【
図3】
図2(a)の中の中央に在る歯部材の取り付け構造を示すA1-A1断面図(a)及びこの部分を分解した図(b)、その隣に在る歯部材の取り付け構造を示すA2-A2断面図(c)及びこの部分を分解した図(d)である。
【
図4】本発明のチップソーの第二の実施形態を示す正面図(a)、背面図(b)である。
【
図5】第二の実施形態のチップソーの歯部材及びその周辺部を拡大した正面図(a)、中央に在る歯部材をさらに拡大した正面図(b)である。
【
図6】
図5(b)に示す歯部材が揺動して第一の位置に配置された状態を示す正面図(a)、第二の位置に配置された状態を示す正面図(b)である。
【
図7】
図5(a)の中の中央に在る歯部材の取り付け構造を示すB1-B1断面図(a)及びこの部分を分解した図(b)、その隣に在る歯部材の取り付け構造を示すB2-B2断面図(c)及びこの部分を分解した図(d)である。
【
図8】第一の実施形態のチップソーの、第一及び第二の刃先を形成する切削用チップ及びその周辺部を拡大した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第一の実施形態のチップソー10>
以下、本発明のチップソーの第一の実施形態について、
図1~
図3に基づいて説明する。この実施形態のチップソー10は、金属等の一定の形状安定性を有した硬質部材の切断に使用されるものである。
【0018】
チップソー10は、
図1(a)、(b)に示すように、回転中心Pkを軸に正回転(正面視で時計回り)及び逆回転(正面視で反時計回り)させて使用される円盤形の鋸板12と、鋸板12の外周縁部に間隔を空けて着脱可能に取り付けられた複数の歯部材とで構成される。歯部材は2種類あり、歯部材14(1)と歯部材14(2)とが周方向に交互に配置されている。
【0019】
歯部材14(1)は、
図2(a)に示すように、ほぼ五角形の板状部材から成り、本体部16(1)と第一及び第二の刃先18(1),20(1)とを有している。具体的には、先端側の両角部に第一及び第二の刃先18(1),20(1)が一対に形成された切削用チップ(超硬チップ)を略五角形の板状部材の先端部に固着することによって製作され、板状部材及び切削用チップの基端部が歯部材14(1)の本体部16(1)となる。また、本体部16(1)は、
図3(a)、(b)に示すように、第一及び第二の刃先18(1),20(1)から離れた基端部分16a(1)が厚み方向の段差によって肉厚が薄くなっており、その内側にネジ穴が形成されている。
【0020】
鋸板12の外周縁部には、片方の面12aを凹ませて凹部12c(1)が設けられ、凹部12c(1)の内側にネジ穴が形成されている。歯部材14(1)を鋸板12に取り付ける時は、本体部16(1)の基端部分16a(1)を鋸板12の凹部12c(1)の底面に当接させて互いのネジ穴同士を連通させ、ネジ部材22(1)を通して強く締め付けて固定する。歯部材14(1)を鋸板12に取り付けた状態で、
図2(a)に示すように、第一及び第二の刃先18(1),20(1)が鋸板12の外側に突出し、第一の刃先18(1)が鋸板12の正回転方向側に配され、第二の刃先20(1)が鋸板12の逆回転方向側に配される。また、歯部材14(1)は、ネジ部材22(1)を緩めることによって、鋸板12から容易に取り外すことができる。
【0021】
歯部材14(2)及びその周辺部は、
図2(a)及び
図3(c)、(d)に示すように、歯部材14(1)及びその周辺部と構造が同様であり、チップソー10に組み立てた状態で、鋸板12を対称面としてほぼ面対称な構造になる。
図2(a)及び
図3(c)、(d)の中の符号「**(2)」は、先に説明した符号「**(1)」に各々対応しており、各部材や各部分の働きも同様なので、詳しい説明は省略する。
【0022】
チップソー10は、鋸板12を正回転させた時に第一の刃先18(1),18(2)でワークを切削し、鋸板12を逆回転させた時に第二の刃先20(1),20(2)でワークを切削する。つまり、正回転と逆回転の両方でワークを切断できるので、様々な形態の切断工程において、作業効率を向上させることができる。しかも、歯部材14(1),14(2)が鋸板12に対して個別に着脱できるので、切削用チップで成る刃先18(1),18(2),20(1),20(2)のメンテナンス(交換や研削)も容易である。
【0023】
<第二の実施形態のチップソー24>
次に、本発明のチップソーの第二の実施形態について、
図4~
図8に基づいて説明する。この実施形態のチップソー24は、上記のチップソー10と同様に、金属等の一定の形状安定性を有した硬質部材の切断に使用されるものである。
【0024】
ここで、チップソー24の説明をする前に、上記実施形態のチップソー10の刃先摩耗について説明する。チップソー10は、第一の刃先18(1)で切断している時に、その切断に寄与しない第二の刃先20(1)がワークの切削溝の底面に接触して摩耗し、第二の刃先20(1)で切削している時に、その切断に寄与しない第一の刃先18(1)もがワークの切削溝の底面に接触して摩耗するという問題がある。
【0025】
一般的なチップソー(一方向の回転だけで使用されるチップソー)は、刃先に適切な先端逃げ角を設け、切断時に刃先の先端逃げ面がワークの切削溝の底面に接触するのを回避している。しかし、チップソー10の場合、
図8に示すように、第一の刃先18(1)の先端逃げ面18a(1)を適切な角度に設定しても、第二の刃先20(1)が先端逃げ面18a(1)を超えて突出するので、第一の刃先18(1)で切断している時に、第二の刃先20(1)がワークの切削溝の底面に接触して摩耗してしまう。同様に、第二の刃先20(1)の先端逃げ面20a(1)を適切な角度に設定しても、第一の刃先18(1)が先端逃げ面20a(1)を超えて突出するので、第二の刃先20(1)で切断している時に、第一の刃先18(1)がワークの切削溝の底面に接触して摩耗してしまう。
【0026】
チップソー10では、第一及び第二の刃先の間隔Dを小さくすることによって、各刃先の、反対側の刃先の先端逃げ面からの突出量を小さくし、無駄な摩擦が発生するのを極力抑えている。しかし、刃先全体の強度を考えると間隔Dを小さくするにも限界があるので、無駄な摩擦が発生するのを完全に抑えることは難しい。そのため、チップソー10の構成は、硬度が一定以上に高いワークを切断する場合には使用しにくいという一面がある。
【0027】
これに対して、以下に説明するチップソー24によれば、上記の刃先摩耗問題を容易に解決することができる。
【0028】
チップソー24は、
図4(a)、(b)に示すように、回転中心Pkを軸に正回転(正面視で時計回り)及び逆回転(正面視で反時計回り)させて使用される略円盤形の鋸板26と、鋸板26の外周縁部に間隔を空けて着脱可能に取り付けられた複数の歯部材とで構成される。歯部材は2種類あり、歯部材28(1)と歯部材28(2)とが周方向に交互に配置され、支持機構30(1),30(2)によって各々支持されている。
【0029】
まず、歯部材28(1)及びこれを支持する支持機構30(1)について説明する。歯部材28(1)は、
図5(a)、(b)に示すように、本体部32(1)と第一及び第二の刃先34(1),36(1)とを有している。そして、支持機構30(1)は、本体部32(1)を鋸板26の回転方向に揺動可能に軸支し、本体部32(1)を、逆回転方向側に傾いた一定の位置である第一の位置(
図6(a))と、正回転方向側に傾いた一定の位置である第二の位置(
図6(b))との間を移動可能にする。
【0030】
詳しく説明すると、歯部材28(1)は、
図7(a)、(b)に示すように、板状部材で成る本体部32(1)を有し、その先端側の両角部に2つの切削用チップ(超硬チップ)を一対に固着することによって第一及び第二の刃先34(1),36(1)が形成されている。また、本体部32(1)は、第一及び第二の刃先34(1),36(1)から少し離れた中央部分32a(1)が厚み方向の段差によって肉厚が少し薄くなっており、その内側に第一のネジ穴38(1)が形成されている。また、本体部32(1)の、中央部分32a(1)よりも基端側に位置する基端部分32b(1)は、厚み方向の段差によって肉厚がさらに薄くなっており、その内側に、片方の側面を凹ませた第一の凹部40(1)が形成されている。
【0031】
その他、歯部材28(1)を鋸板26に取り付けるための部材として、補助固定板42(1)、軸部材44(1)及びネジ部材46(1)が使用される。補助固定板42(1)は、厚肉部分42a(1)と薄肉部分42b(1)とを有し、厚肉部分42a(1)の内側に第二のねじ穴48(1)が形成され、薄肉部分42b(1)の内側に、片方の側面を凹ませた第二の凹部50(1)が形成されている。
【0032】
軸部材44(1)は、鋸板26の軸孔52内に配置される部材である。軸孔52は、鋸板26の外周縁部に設けた薄肉部分26cの内側に形成された透孔であり、軸部材44(1)は、軸孔52内に配置可能な太さの円盤状の部材で、軸孔52内に配置された時に自己の両端部が外向きに突出する長さに形成されている。
【0033】
歯部材28(1)を鋸板26に取り付けた状態で、鋸板26の薄肉部分26cの片方の側面に本体部32(1)の基端部分32b(1)に重なり、薄肉部分26cの反対側の側面に補助固定板42(1)の薄肉部分42b(1)が重なり、鋸板26の軸孔52(1)の両側に第一及び第二の凹部40(1),50(1)が配置される。そして、本体部32(1)の中央部分32a(1)と補助固定板42(1)の厚肉部分42a(1)とが互いに重なり、第一及び第二のネジ穴38(1),48(1)同士が連通する中にネジ部材46(1)を通し、ネジ部材46(1)を強く締め付けることによって、本体部32(1)と補助固定板42(1)とが相互に固定される。
【0034】
軸部材44(1)は、鋸板26の軸孔52(1)内に配置され、軸孔52(1)の外に突出する両端部が第一及び第二の凹部40(1),50(1)の内側に各々入り、本体部32(1)及び補助固定板42(1)によって回転可能に保持されて、本体部32(1)が揺動する時の揺動中心Pyとなる。
【0035】
そして、
図5(a)、(b)に示すように、第一及び第二の刃先34(1),36(1)が鋸板26の外側に突出し、第一の刃先34(1)が鋸板26の正回転方向側に配され、第二の刃先36(2)が鋸板26の逆回転方向側に配される。また、歯部材28(1)は、ネジ部材46(1)を緩めて各部材を分解することによって、鋸板26から容易に取り外すことができる。
【0036】
次に、歯部材28(1)の揺動限界位置である第一及び第二の位置について説明する。本体部32(1)と補助固定板42(1)とが一体に固定されると、本体部32(1)及び補助固定板42(1)に跨る係止面54(1)が形成される。本体部32(1)の場合、中央部分32a(1)の表面と基端部分32b(1)の表面とをほぼ直角に連結する面が係止面54(1)となり、補助固定板42(1)の場合、厚肉部分42a(1)の表面と薄肉部分42b(1)の表面とをほぼ直角に連結する面が係止面54(1)となる。
【0037】
係止面54(1)は、鋸板26の薄肉部分26cの端面56(1)と協働して、上記の第一の位置及び第二の位置を規定する。例えば、
図6(a)に示すように、本体部32(1)が逆回転方向側に傾くと、係止面54(1)の逆回転方向側の領域[第一の係止面]が端面56(1)に係止され、この位置が本体部32(1)の逆回転方向の揺動限界位置である第一の位置となる。また、
図6(b)に示すように、本体部32(1)が正回転方向側に傾いた時、係止面54(1)の正回転方向側の領域[第二の係止面]が端面56(1)に係止され、この位置が本体部32(1)の正回転方向の揺動限界位置である第二の位置となる。
【0038】
チップソー24でワークを切断している時の動作を説明すると、鋸板26を正回転させてワークを切断している時、歯部材28(1)は、切削抵抗が作用することによって第一の位置に配置され、回転中心Pkから最も離間する部位が第一の刃先34(1)となる。この時、第二の刃先36(1)は回転中心Pkの方向に大きく退避するので、上記の刃先摩耗問題は発生しない。また、鋸板26を逆回転させてワークを切断している時、歯部材28(1)は、切削抵抗が作用することによって第二の位置に配置され、回転中心Pkから最も離間する部位が第二の刃先36(1)となる。この時、第一の刃先34(1)は回転中心Pkの方向に大きく退避するので、上述した刃先摩耗問題は発生しない。
【0039】
ここで、支持機構30(1)を構成する部材や部位を整理すると、支持機構30(1)は、鋸板26に形成された軸孔52(1)と、軸部材44(1)と、歯部材28(1)の本体部32(1)に形成された第一の凹部40(1)及び第一のネジ穴38(1)と、補助固定板42(1)と、ネジ部材46(1)とで構成される。そして、第一及び第二の位置は、本体部32(1)及び補助固定板42(1)の係止面54(1)と鋸板26の端面56(1)との位置関係によって決定されることになる。
【0040】
歯部材28(2)及び支持機構30(2)は、
図5(a)及び
図7(c)、(d)に示すように、歯部材28(1)及び支持機構30(1)と構造が類似しており、チップソー24に組み立てた状態で、鋸板26を対称面としてほぼ面対称な構造になる。
図5(a)及び
図7(c)、(d)の中の符号「**(2)」は、先に説明した符号「**(1)」に各々対応しており、各部材や各部分の働きも同様なので、詳しい説明は省略する。
【0041】
以上のように、チップソー24によれば、上記のチップソー10と同様の作用効果を得ることができ、さらに、刃先摩耗問題も容易に解決することができる。
【0042】
<その他の実施形態や変形例等>
なお、本発明のチップソーは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、チップソー10では、歯部材14(1)の第一及び第二の刃先18(1),20(1)の間隔Dを小さくするため、第一及び第二の刃先18(1),20(1)を1個の切削用チップにより形成している。しかし、間隔Dをある程度大きくできる場合は、チップソー24の第一及び第二の刃先34(1),36(1)と同様に、本体部16(1)に2個の切削用チップを一対に固着することによって第一及び第二の刃先18(1),20(1)を形成してもよい。これは、歯部材14(2)も同様である。反対に、チップソー24の歯部材28(1)において、第一及び第二の刃先34(1),36(1)の間隔Dをもっと小さくする場合、チップソー10の第一及び第二の刃先18(1),20(1)と同様に、1個の切削用チップで第一及び第二の刃先34(1),34(1)を形成してもよい。これは、歯部材28(2)も同様である。
【0043】
チップソー10は、歯部材14(1)を鋸板12に取り付ける時、本体部16(1)を雄ネジ単体で(ネジ部材22(1))でネジ締結しているが、一対のボルト及びナットを用いてネジ締結する構造にしてもよい。これは、歯部材14(2)も同様である。また、チップソー24は、歯部材28(1)を鋸板12に取り付ける時、支持機構30(1)を雄ネジ単体(ネジ部材46(1))でネジ締結しているが、一対のボルト及びナットを用いてネジ締結する構造にしてもよい。これは、歯部材28(2)も同様である。
【0044】
チップソー24の支持機構30(1)は、歯部材28(1)の本体部32(1)の一部、所定の補助板部材42(1)、軸部材44(1)及びネジ部材46(1)を組み合わせたシンプルで優れた構成であるが、本発明の狙いとする作用効果が得られれば、これ以外の構成に変更することができる。例えば、歯部材の着脱をさらに容易にするため、歯部材及びこれを揺動可能に支持する支持機構を一体の構造体として形成し、支持機構の特定部位を鋸板に着脱可能に固定する構成にしてもよい。この場合も、支持機構の特定部位をネジ締結によって固定することが好ましい。ネジ締結は、取り付け時に歯部材を鋸板に強固に固定することができ、且つ、ネジ部材を緩めることによって歯部材を容易に取り外すことができるという利点がある。
【0045】
その他、本発明のチップソーの切断対象物は、金属、窯業系材料やコンクリート、硬質樹脂、硬質ゴム、木材等の一定の形状安定性を有した硬質部材であり、硬質部材であれば種類は特に特に限定されない。また、刃先を形成する切削用チップの材質や詳細な形状(厚み、先端傾き角、先端逃げ角、すくい角等)は特に限定されず、切削対象物の材質や形状に合わせて適宜設定することができる。
【符号の説明】
【0046】
10,24 チップソー
12,26 鋸板
14(1),14(2),28(1),28(2) 歯部材
16(1),16(2),32(1),32(2) 本体部
18(1),18(2),34(1),34(2) 第一の刃先
20(1),20(2),36(1),36(2) 第二の刃先
22(1),22(2) ネジ部材
30(1),30(2) 支持機構
38(1),38(2) 第一のねじ穴
40(1),40(2) 第一の凹部
42(1),42(2) 補助固定板
44(1),44(2) 軸部材
46(1),46(2) ネジ部材
48(1),48(2) 第二のねじ穴
50(1),50(2) 第二の凹部
52(1),52(2) 軸孔
54(1),54(2) 係止面(第一及び第二の係止面)
56(1),56(2) 端面
Pk 回転中心
Py 揺動中心