(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172343
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】延伸糸の染色特性判断方法
(51)【国際特許分類】
D02J 1/22 20060101AFI20241205BHJP
D01D 5/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
D02J1/22 G
D01D5/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089997
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇紘
(72)【発明者】
【氏名】林 靖史
(72)【発明者】
【氏名】橋本 欣三
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩
【テーマコード(参考)】
4L036
4L045
【Fターム(参考)】
4L036MA24
4L036MA37
4L036PA03
4L036PA09
4L036UA16
4L045AA05
4L045BA03
4L045BA51
4L045DA14
4L045DA41
4L045DA46
4L045DB01
4L045DB07
(57)【要約】
【課題】短時間で染色特性の判断を行うことを可能とする。
【解決手段】まず、測定装置5において、ヒータ64によって120℃~140℃で加熱されつつ、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との糸送り速度の差により、弛んでおらず且つ伸長されていない状態、又は、弾性範囲内の変形量で伸長された状態の延伸糸Ydの張力を、張力センサ63により測定する(張力測定ステップ)。そして、張力測定ステップで測定された張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性を判断する(判断ステップ)。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紡糸装置から紡出される糸を延伸する紡糸延伸装置で生成される延伸糸の染色特性判断方法であって、
120℃~140℃で加熱されつつ、弛んでおらず且つ伸長されていない状態の延伸糸の張力を測定する張力測定ステップと、
前記張力測定ステップで測定された張力に基づいて、延伸糸の染色特性を判断する判断ステップと、を備えており、
前記紡糸延伸装置は、
延伸前の糸を加熱する予備加熱ローラと、
前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る熱固定ローラと、を備える延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項2】
紡糸装置から紡出される糸を延伸する紡糸延伸装置で生成される延伸糸の染色特性判断方法であって、
120℃~140℃で加熱されつつ、弾性範囲内の変形量で伸長された状態の延伸糸の張力を測定する張力測定ステップと、
前記張力測定ステップで測定された張力に基づいて、延伸糸の染色特性を判断する判断ステップと、を備えており、
前記紡糸延伸装置は、
延伸前の糸を加熱する予備加熱ローラと、
前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る熱固定ローラと、を備える延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項3】
前記張力測定ステップにおいて、走行させた状態の延伸糸の張力を測定する請求項1又は2に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項4】
前記判断ステップにおいて、前記張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸の複数個所での張力の平均値から延伸糸の染色濃淡を判断する請求項3に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項5】
前記判断ステップにおいて、前記張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸の複数個所での張力のばらつきから染色ムラの生じやすさを判断する請求項3又は4に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項6】
前記張力測定ステップは、
糸を、弛んでおらず且つ伸長されていない状態で支持可能な支持機構と、
前記支持機構によって支持された糸を加熱するヒータと、
前記支持機構によって支持された糸の張力を測定する張力センサと、を備える測定装置で実行される請求項1に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項7】
前記張力測定ステップは、
糸を、弾性範囲内の変形量で伸長された状態で支持可能な支持機構と、
前記支持機構によって支持された糸を加熱するヒータと、
前記支持機構によって支持された糸の張力を測定する張力センサと、を備えた測定装置で実行される請求項2に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項8】
前記支持機構は、糸を掛け渡し可能な第1ローラ及び第2ローラを有しており、
前記ヒータは、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸を加熱し、
前記張力センサは、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸の張力を測定する請求項6又は7に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【請求項9】
前記張力測定ステップは、
糸を送る第1ローラ及び第2ローラと、
前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸を加熱するヒータと、
前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸の張力を測定する張力センサと、を備えた測定装置で実行される請求項3~5のいずれか1項に記載の延伸糸の染色特性判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸糸の染色特性判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
延伸処理が施された延伸糸(FDY:Fully Draw Yarn)の染色特性(例えば、染色濃淡や染色むらの生じやすさ等)は、分子の配向度や結晶化度に応じて変わる。糸の染色特性は、糸の商品価値に大きな影響を及ぼす。そのため、糸の染色特性を事前に判断するための試験が従来よりおこなわれている。特許文献1に開示されているように、かかる試験では、判断対象の糸を筒編みして得られた試料を実際に染色し、この試料の染色状態に基づいて染色特性の判断を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
延伸糸の製造装置において、延伸糸をボビンに巻き取ることで形成されたパッケージは、その全てについて上記の染色特性判断のための試験が行われる。すなわち、全てのパッケージについて、糸を実際に染色する工程を行うこととなる。したがって、染色特性判断のための試験の工数が膨大となる。よって、染色特性の判断に多大な時間を要するという問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、短時間で染色特性の判断を行うことが可能な延伸糸の染色特性判断方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明にかかる染色特性判断方法は、紡糸装置から紡出される糸を延伸する紡糸延伸装置で生成される延伸糸の染色特性判断方法であって、120℃~140℃で加熱されつつ、弛んでおらず且つ伸長されていない状態の延伸糸の張力を測定する張力測定ステップと、前記張力測定ステップで測定された張力に基づいて、延伸糸の染色特性を判断する判断ステップと、を備えており、前記紡糸延伸装置は、延伸前の糸を加熱する予備加熱ローラと、前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る熱固定ローラと、を備える。
【0007】
延伸糸における配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非晶部に比べて染まりにくい。また、配向非晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。したがって、本発明では、張力測定ステップにおいて加熱された状態で測定された張力が大きい延伸糸ほど、非配向非晶部に比べて配向非晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。すなわち、糸を実際に染色する工程を必要とすることなく、張力測定ステップで測定された延伸糸の張力に基づいて、延伸糸の染色特性の判断を行うことができる。よって、短時間で染色特性の判断を行うことが可能である。
【0008】
第2の発明にかかる染色特性判断方法は、紡糸装置から紡出される糸を延伸する紡糸延伸装置で生成される延伸糸の染色特性判断方法であって、120℃~140℃で加熱されつつ、弾性範囲内の変形量で伸長された状態の延伸糸の張力を測定する張力測定ステップと、前記張力測定ステップで測定された張力に基づいて、延伸糸の染色特性を判断する判断ステップと、を備えており、前記紡糸延伸装置は、延伸前の糸を加熱する予備加熱ローラと、前記予備加熱ローラよりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、前記予備加熱ローラよりも高温で前記糸を加熱し、且つ、前記予備加熱ローラによる糸送り速度よりも速い糸送り速度で前記糸を送る熱固定ローラと、を備える。
【0009】
延伸糸における配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非晶部に比べて染まりにくい。また、配向非晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。さらに、配向非晶部に加えて、延伸糸における分子配向が進み結晶化も進んだ配向結晶部も、非配向非晶部に比べて染まりにくい。また、配向結晶部は、伸長時に抵抗力が増す特性を有している。したがって、本発明では、張力測定ステップにおいて加熱されつつ伸長された状態で測定された張力が大きい延伸糸ほど、非配向非晶部に比べて配向非晶部及び配向結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。すなわち、糸を実際に染色する工程を必要とすることなく、張力測定ステップで測定された延伸糸の張力に基づいて、延伸糸の染色特性の判断を行うことができる。よって、短時間で染色特性の判断を行うことが可能である。
【0010】
第3の発明にかかる染色特性判断方法では、第1又は第2の発明において、前記張力測定ステップにおいて、走行させた状態の延伸糸の張力を測定する。
【0011】
本発明では、延伸糸の張力を延伸糸の長手方向の複数個所で測定できる。したがって、複数個所での張力の測定値に基づいて染色特性の判断を行うことができ、染色特性の判断精度を向上させることができる。
【0012】
第4の発明にかかる染色特性判断方法では、第3の発明において、前記判断ステップにおいて、前記張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸の複数個所での張力の平均値から延伸糸の染色濃淡を判断する。
【0013】
本発明では、1か所で測定した張力に基づいて判断する場合に比べて、延伸糸の染色濃淡に関する特性をより正確に判断できる。
【0014】
第5の発明にかかる染色特性判断方法では、第3又は第4の発明において、前記判断ステップにおいて、前記張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸の複数個所での張力のばらつきから染色ムラの生じやすさを判断する。
【0015】
延伸糸において、測定された張力が、その延伸糸の張力の平均値から大きく異なる部分では、染まりやすさが局所的に変化する、すなわち染色ムラが生じる、と判断できる。したがって、本発明では、走行させた状態で測定された延伸糸の複数個所での張力のばらつきから染色ムラの生じやすさを判断できる。
【0016】
第6の発明にかかる染色特性判断方法では、第1の発明において、前記張力測定ステップは、糸を、弛んでおらず且つ伸長されていない状態で支持可能な支持機構と、前記支持機構によって支持された糸を加熱するヒータと、前記支持機構によって支持された糸の張力を測定する張力センサと、を備える測定装置で実行される。
【0017】
本発明では、測定装置において、延伸糸を支持機構に支持させて、ヒータにより延伸糸を120℃~140℃で加熱し、張力センサにより延伸糸の張力を測定することで、張力測定ステップを実行できる。
【0018】
第7の発明にかかる染色特性判断方法では、第2の発明において、前記張力測定ステップは、糸を、弾性範囲内の変形量で伸長された状態で支持可能な支持機構と、前記支持機構によって支持された糸を加熱するヒータと、前記支持機構によって支持された糸の張力を測定する張力センサと、を備えた測定装置で実行される。
【0019】
本発明では、測定装置において、延伸糸を支持機構に支持させて、ヒータにより延伸糸を120℃~140℃で加熱し、張力センサにより延伸糸の張力を測定することで、張力測定ステップを実行できる。
【0020】
第8の発明にかかる染色特性判断方法では、第6又は第7の発明において、前記支持機構は、糸を掛け渡し可能な第1ローラ及び第2ローラを有しており、前記ヒータは、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸を加熱し、前記張力センサは、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸の張力を測定する。
【0021】
本発明では、第1ローラと第2ローラとのトルクや回転速度を調整することで、第1ローラと第2ローラとの間の糸を、弛んでおらず且つ伸長されていない状態や、弾性範囲内の変形量で伸長された状態とすることができる。したがって、測定装置において、延伸糸を第1ローラと第2ローラとに掛け渡し、ヒータにより延伸糸を120℃~140℃で加熱し、張力センサにより延伸糸の張力を測定することで、張力測定ステップを実行できる。
【0022】
第9の発明にかかる染色特性判断方法では、第3~第5の発明において、前記張力測定ステップは、糸を送る第1ローラ及び第2ローラと、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸を加熱するヒータと、前記第1ローラと前記第2ローラとの間に配置されており、前記第1ローラと前記第2ローラとに掛け渡された糸の張力を測定する張力センサと、を備えた測定装置で実行される。
【0023】
本発明では、測定装置において、延伸糸を第1ローラと第2ローラとに掛け渡し、ヒータにより延伸糸を120℃~140℃で加熱し、張力センサにより延伸糸の張力を測定することで、第1ローラ及び第2ローラにより走行された状態の延伸糸の張力を測定する張力測定ステップを実行できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】延伸糸の製造装置である紡糸引取機を示す概略図である。
【
図2】延伸糸の染色特性判断のための張力測定を行う測定装置を示す概略図である。
【
図3】
図2に示す測定装置の電気的構成を示すブロック図である。
【
図4】延伸糸の分子構造を説明するための図であり、(a)は非配向非晶部を示し、(b)は配向非晶部を示し、(c)は配向結晶部を示す。
【
図5】3種類の延伸糸の張力測定結果を示すグラフである。
【
図6】(a)、(b)、(c)は、3種類の延伸糸でそれぞれ作成された試料の染色画像である。
【
図7】9種類の延伸糸の張力測定結果及び染色特性の確認結果を示す表である。
【
図8】9種類の各延伸糸の張力の測定値の平均値と、色測定のL値及びb値との関係を示すグラフである。
【
図9】第1変形例にかかる染色特性判断方法において張力測定ステップを実行する紡糸引取機を示す。
【
図10】第2変形例にかかる染色特性判断方法において張力測定ステップを実行する紡糸引取機を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な一実施形態にかかる延伸糸の染色特性判断方法について説明する。
【0026】
まず、
図1を参照しつつ、延伸糸の製造について説明する。
図1は、延伸糸の製造装置である紡糸引取機を示す概略図である。なお、
図1の紙面垂直方向を前後方向とし、紙面左右方向を左右方向とする。前後方向及び左右方向の両方と直交する方向を、重力の作用する上下方向とする。
【0027】
図1に示すように、紡糸引取機1は、紡糸延伸装置3及び糸巻取装置4を主に備えている。紡糸引取機1は、紡糸装置2から紡出された複数の糸Yを、紡糸延伸装置3で延伸して延伸糸Ydを生成した後、糸巻取装置4で延伸糸Ydを巻き取って複数のパッケージPを形成する構成となっている。紡糸装置2は、ポリエステル等の溶融繊維材料を連続的に紡出することで複数の糸Yを生成する。紡糸装置2から紡出された複数の糸Yは、案内ローラ11を経て紡糸延伸装置3に送られる。紡糸延伸装置3で延伸された複数の糸Y(延伸糸Yd)は、案内ローラ12~14によって糸巻取装置4に送られる。
【0028】
紡糸延伸装置3は、複数の糸Yを加熱延伸する装置であり、紡糸装置2の下方に配置されている。紡糸延伸装置3は、保温箱20の内部に収容された複数のゴデットローラ31~35を有している。
【0029】
各ゴデットローラ31~35は、糸Yを加熱しつつ、保温箱20の糸導入口20aから糸導出口20bに向かう糸走行方向に糸Yを送るローラである。ゴデットローラ31~35は、糸走行方向の上流側からこの順で配置されている。複数の糸Yは、各ゴデットローラ31~35に対して360度未満の巻き掛け角度で巻き掛けられている。ゴデットローラ31~35は、モータ(不図示)によってそれぞれ所定の糸送り速度で回転駆動される。また、各ゴデットローラ31~35には、ローラ表面を加熱するローラ用ヒータ(不図示)が内蔵されている。
【0030】
ゴデットローラ31~35のうち、糸走行方向の上流側に位置する3つのゴデットローラ31~33は、延伸前の糸Yを加熱する予備加熱ローラである。ゴデットローラ31~33のローラ表面温度は、糸Yのガラス転移点以上の温度(例えば80~100℃程度)に設定されている。一方、ゴデットローラ31~35のうち、糸走行方向の下流側に位置する2つのゴデットローラ34、35は、延伸された複数の糸Yを熱固定するための熱固定ローラである。ゴデットローラ34、35のローラ表面温度は、ゴデットローラ31~33のローラ表面温度よりも高い温度(例えば130~150℃程度)に設定されている。すなわち、ゴデットローラ34、35は、ゴデットローラ31~33よりも高温で糸Yを加熱する。また、ゴデットローラ34、35は、ゴデットローラ31~33による糸送り速度よりも速い糸送り速度で糸を送る。
【0031】
糸導入口20aを介して保温箱20に導入された複数の糸Yは、まず、ゴデットローラ31~33によって送られる間に延伸可能な温度まで予熱される。予熱された複数の糸Yは、ゴデットローラ33とゴデットローラ34との間で延伸される。ゴデットローラ33は、予備加熱ローラである3つのゴデットローラ31~33のうち糸走行方向の最も下流側に位置するゴデットローラである。ゴデットローラ34は、熱固定ローラである2つのゴデットローラ34、35のうち糸走行方向の最も上流側に位置するゴデットローラである。その後、複数の糸Yは、ゴデットローラ34、35によって送られる間にさらに高温に加熱されて、延伸された状態が熱固定される。このようにして延伸された複数の糸Y(延伸糸Yd)は、糸導出口20bを介して保温箱20の外に導出される。
【0032】
糸巻取装置4は、複数の糸Y(延伸糸Yd)を巻き取る装置であり、紡糸延伸装置3の下方に配置されている。糸巻取装置4は、ボビンホルダ41、複数のトラバースガイド42、複数の支点ガイド43及びコンタクトローラ44を主に有している。
【0033】
ボビンホルダ41は、前後方向に延びる円筒形状を有し、モータ(不図示)によって回転駆動される。ボビンホルダ41には、その軸方向に複数のボビンBが並んだ状態で装着される。複数のトラバースガイド42及び複数の支点ガイド43は、複数のボビンBにそれぞれ対応して設けられている。各トラバースガイド42は、モータ(不図示)からの駆動力が付与されて前後方向に往復移動し、対応する支点ガイド43に掛けられた糸Yを綾振りする。
【0034】
糸巻取装置4は、ボビンホルダ41を回転させることによって、複数のボビンBに複数の糸Yを同時に巻き取り、複数のパッケージPを生産する。コンタクトローラ44は、複数のパッケージPの表面に接触して所定の接圧を付与し、パッケージPの形状を整える。
【0035】
次に、
図2及び
図3を参照しつつ、上述のようにして生成された延伸糸Ydの染色特性判断のための張力測定を行う測定装置5の構成について説明する。なお、
図2の紙面垂直方向を前後方向とし、紙面左右方向を左右方向とする。前後方向及び左右方向の両方と直交する方向を、重力の作用する上下方向とする。
【0036】
測定装置5は、加熱されつつ伸長された状態で走行する延伸糸Ydの張力を測定するためのものである。
図2及び
図3に示すように、測定装置5は、張力測定が行われる測定ユニット6と、測定結果が出力される出力ユニット7と、測定装置5全体の動作を制御する制御ユニット8と、を備えている。
【0037】
図2に示すように、測定ユニット6は、基台61と、基台61の前面61aに取り付けられた第1糸送りローラ対62、張力センサ63、ヒータ64及び第2糸送りローラ対65と、を主に備えている。第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65は、延伸糸Ydを掛け渡し可能である。すなわち、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65は、本発明の「支持機構」に相当する。また、第1糸送りローラ対62を構成する各ローラは、本発明の「第1ローラ」に相当する。第2糸送りローラ対65を構成する各ローラは、本発明の「第2ローラ」に相当する。
【0038】
第1糸送りローラ対62、張力センサ63、ヒータ64及び第2糸送りローラ対65は、延伸糸Ydの走行方向(以降、単に「糸走行方向」と称する)の上流側から下流側に向かってこの順に配置されている。つまり、張力センサ63及びヒータ64は、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に配置されている。
【0039】
第1糸送りローラ対62は、基台61の前面61aにおける上端部に配置されている。第1糸送りローラ対62は、モータ62a(
図3参照)からの駆動力が付与されて回転することで、延伸糸Ydを左方から右方に向かう方向に送る。モータ62aの動作は、制御ユニット8によって制御される。すなわち、第1糸送りローラ対62による糸送り速度は、制御ユニット8によって制御される。
【0040】
張力センサ63は、測定ローラ63a及びロードセル63b(
図3参照)を有している。測定ローラ63aは、第1糸送りローラ対62の右方に位置している。すなわち、測定ローラ63aは、糸走行方向において第1糸送りローラ対62の下流側に配置されている。測定ローラ63aには、第1糸送りローラ対62によって左方から右方に送られた延伸糸Ydが巻き掛けられる。測定ローラ63aよりも糸走行方向の下流側では、延伸糸Ydは上方から下方に向かって走行する。ロードセル63bは、延伸糸Ydから測定ローラ63aに作用した力を検出することで、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に掛け渡された(支持機構によって支持された)延伸糸Ydの張力を測定する。ロードセル63bが測定した延伸糸Ydの張力の測定値は、制御ユニット8に入力される。
【0041】
ヒータ64は、測定ローラ63aの下方には配置されている。ヒータ64は、上下方向に沿って延びている。ヒータ64の上下方向に沿う長さは、例えば1000mmである。糸走行方向において測定ローラ63aの下流側で上方から下方に向かって走行する延伸糸Ydは、ヒータ64を通過する。ヒータ64は、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に掛け渡された(支持機構によって支持された)延伸糸Ydを加熱される。ヒータ64の加熱温度は、制御ユニット8によって制御される。
【0042】
第2糸送りローラ対65は、ヒータ64の下方に配置されている。第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間の糸道に沿う長さは、例えば1250mmである。第2糸送りローラ対65は、モータ65a(
図3参照)からの駆動力が付与されて回転することで、上方から下方に向かって送られた延伸糸Ydを、左斜め上方に向かって送る。モータ65aの動作は、制御ユニット8によって制御される。すなわち、第2糸送りローラ対65による糸送り速度は、制御ユニット8によって制御される。
【0043】
出力ユニット7は、
図3に示すように、ディスプレイ70を含んでいる。ディスプレイ70には、制御ユニット8の制御により、測定ユニット6で行われた張力測定の結果が表示される。
【0044】
続いて、測定装置5において染色特性判断のための張力測定を行う際に、制御ユニット8で行われる制御について説明する。
【0045】
制御ユニット8は、第1糸送りローラ対62による糸送り速度と、第2糸送りローラ対65による糸送り速度と、を制御し、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間での延伸糸Ydの張り状態を制御する。本実施形態においては、制御ユニット8は、第2糸送りローラ対65による糸送り速度が、第1糸送りローラ対62による糸送り速度よりも速くなるように制御する。なお、制御ユニット8は、第2糸送りローラ対65による糸送り速度が、第1糸送りローラ対62による糸送り速度と同じとなるように制御してもよい。本実施形態においては、制御ユニット8は、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間で延伸糸Ydが伸長されるようにする。より詳細には、制御ユニット8は、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間で伸長される延伸糸Ydの変形量が、弾性範囲内となるようにする。すなわち、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65は、延伸糸Ydを、弾性範囲内の変形量で伸長された状態で支持可能である。
【0046】
制御ユニット8は、ヒータ64の加熱温度が120℃~140℃となるように制御する。より具体的には、制御ユニット8は、ヒータ64によって加熱された延伸糸Ydの温度が120℃~140℃となるように制御する。なお、ヒータ64の加熱温度は、延伸糸Ydを製造する際の熱固定温度(熱固定ローラであるゴデットローラ34、35のローラ表面温度(130~150℃程度))よりも低い温度に設定されている。したがって、ヒータ64による加熱により延伸糸Ydの分子構造に影響が及ぶのを避けることができる。また、ポリエステル製の糸Yは、通常130℃~135℃程度の高温高圧下で染色される。よって、ヒータ64の加熱温度を120℃~140℃とすることで、染色時の温度の延伸糸Ydの張力を測定できる。
【0047】
すなわち、測定装置5においては、張力センサ63により、120℃~140℃で加熱されつつ、変形量が弾性範囲となるように伸長された状態の延伸糸Ydの張力を測定できる。また、測定装置5においては、張力センサ63により、走行させた状態の延伸糸Ydの張力を測定する。つまり、張力センサ63により、延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力を測定できる。
【0048】
本染色特性判断方法においては、測定装置5において延伸糸Ydの張力を測定し(張力測定ステップ)、測定装置5で測定された延伸糸Ydの張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性を判断する(判断ステップ)。測定装置5において延伸糸Ydの張力を測定した結果は、出力ユニット7のディスプレイ70に表示される。具体的には、ディスプレイ70には、延伸糸Ydにおける複数個所での張力の測定値を示すグラフや、全ての測定箇所での張力の測定値の平均値等が、表示される。オペレータは、ディスプレイ70に表示された張力測定結果に基づいて、延伸糸Ydの染色特性を判断できる。なお、張力測定結果は、紙で出力されてもよい。また、張力測定結果は、ネットワークを介して測定装置5と接続された端末装置等に送信されてもよい。以下において、延伸糸Ydの張力の測定値に基づく延伸糸Ydの染色特性の判断手法について説明する。
【0049】
まず最初に、
図4を参照しつつ、延伸糸Ydの分子構造について説明する。延伸糸Ydの分子構造は、構造I(
図4(a)参照)、構造II(
図4(b)参照)及び構造III(
図4(c)参照)の3つに分類できる。
【0050】
構造Iは、
図4(a)に示すように、分子が配向も結晶化もしていない非配向非晶部である。非配向非晶部は、分子間のすき間が多く、染料が入りやすい。すなわち、非配向非晶部は、染まりやすい。
【0051】
構造IIは、
図4(b)に示すように、分子の配向が進んでいるが、結晶化には至っていない配向非晶部である。配向非晶部は、分子間のすき間がほぼないので、染料が入りにくい。すなわち、配向非晶部は、染まりにくい。また、配向非晶部は、加熱によって非配向の構造Iに戻ろうとする配向緩和が生じる。これにより、配向非晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有する。
【0052】
構造IIIは、
図4(c)に示すように、分子の配向が進んでおり、結晶化も進んだ配向結晶部である。配向結晶部は、分子間のすき間がほぼないので、染料が入りにくい。すなわち、配向結晶部は、染まりにくい。また、配向結晶部は分子構造が強固であるので、伸長時の抵抗力が増す特性を有する。
【0053】
上記の3つの分子構造(構造I、構造II、構造III)の特徴を鑑みることで、測定装置5で測定された延伸糸Ydの張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性の判断を行うことができる。
【0054】
すなわち、測定装置5においては、加熱されつつ伸長された状態の延伸糸Ydの張力が測定される。したがって、加熱時に収縮力が増す特性を有している配向非晶部の占める割合が高い延伸糸Ydほど、張力の測定値が大きくなる。また、伸長時の抵抗力が増す特性を有する配向結晶部の占める割合が高い延伸糸Ydほど、張力の測定値が大きくなる。すなわち、張力の測定値が大きい延伸糸Ydほど、非配向非結晶部に比べて配向非結晶部及び配向結晶部が占める割合が高いと判断できる。ここで、配向非結晶部及び配向結晶部は、非配向非結晶部に比べて染まりにくい。したがって、張力の測定値が大きい延伸糸Ydほど、染まりにくい特性を有していると判断できる。
【0055】
よって、測定装置5で測定された延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力の平均値から、延伸糸Ydの染色濃淡を判断できる。すなわち、延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力の測定値の平均値が大きい延伸糸Ydほど、染まりにくく、淡く染まると判断できる。
【0056】
また、測定装置5で測定された延伸糸Ydの長手方向の複数個所での張力のばらつきから、染色ムラの生じやすさを判断できる。すなわち、延伸糸Ydにおいて、測定された張力が、張力測定を行った全ての個所での張力の平均値から大きく異なる部分では、染まりやすさが局所的に変化する、すなわち染色ムラが生じやすいと判断できる。
【0057】
図5に、実際に、120℃~140℃で加熱されつつ、変形量が弾性範囲となるように伸長された状態で走行する3種類の延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の張力を測定した結果を示す。グラフG1は延伸糸Yd1に関するグラフであり、グラフG2は延伸糸Yd2に関するグラフであり、グラフG3は延伸糸Yd3に関するグラフである。グラフG1、G2、G3は、延伸糸の長手方向に関する位置と、その位置での張力と、の関係を示す。測定長さは、いずれも1000mである。
【0058】
グラフG1に示す延伸糸Yd1の張力の測定値の平均値は、81.1cNである。グラフG2に示す延伸糸Yd2の張力の測定値の平均値は、61.3cNである。グラフG3に示す延伸糸Yd3の張力の測定値の平均値は、49.4cNである。この結果から、張力の測定値の平均値が最も大きい延伸糸Yd1が、最も淡く染まると予測できる。また、延伸糸Yd1の次に張力の測定値の平均値が大きい延伸糸Yd2は、延伸糸Yd1に比べてやや濃く染まると予測できる。さらに、張力の測定値の平均値が最も小さい延伸糸Yd3が、最も濃く染まると予測できる。
【0059】
また、グラフG3は、グラフG1、G2に比べて、張力の測定値が大きくばらついている箇所がある。すなわち、グラフG3においては、張力の値が、延伸糸Yd3の張力の平均値から大きく異なっている箇所(例えば、
図5中破線で囲まれた箇所)がある。この部分では、染まりやすさが局所的に変化すると予測できる。
図5中破線で囲まれた箇所は、張力が平均値よりも大きく下回っているので、その他の箇所に比べて染まりやすくなっていると予測できる。よって、延伸糸Yd3は、延伸糸Yd1、Yd2に比べて染色ムラが生じやすいと予測できる。
【0060】
図6に、上述の延伸糸Yd1、Yd2、Yd3をそれぞれ編んで作成した試料S1、S2、S3を染色した結果を示す。
図6(a)は延伸糸Yd1で作成した試料S1の染色画像であり、
図6(b)は延伸糸Yd2で作成した試料S2の染色画像であり、
図6(c)は延伸糸Yd3で作成した試料S3の染色画像である。各染色画像は、試料S1、試料S2、試料S3の順で濃くなっている。すなわち、延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の順で濃く染まっている。したがって、延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の染色濃淡は、
図5に示す張力測定結果に基づく予測と一致していることが確認された。
【0061】
また、試料S1の染色画像及び試料S2の染色画像には、染色ムラは見受けられない。一方、試料S3の染色画像には、染色ムラ(例えば、
図6(c)中破線で囲まれた箇所)が見られる。すなわち、延伸糸Yd3は、延伸糸Yd1、Yd2に比べて染色ムラが生じやすい。よって、延伸糸Yd1、Yd2、Yd3の染色ムラの生じやすさは、
図5に示す張力測定結果に基づく予測と一致していることが確認された。
【0062】
さらに、
図7に示す表に、9種類の延伸糸Yd(サンプル1~9)の張力測定結果及び染色特性の確認結果を示す。張力測定は、上述と同様に、120℃~140℃で加熱されつつ、変形量が弾性範囲となるように伸長された状態で走行する延伸糸Yd(サンプル1~9)の張力を測定した。染色特性の確認は、上述と同様に、延伸糸Yd(サンプル1~9)をそれぞれ編んで作成した試料を染色し、目視及び色測定を行った。張力測定結果として、張力の測定値の平均値、相対標準偏差(変動係数)CV及び張力の測定値のチャート波形上でのばらつきの有無を示す。染色特性の確認結果としては、目視による染色ムラの有無、並びに、色測定でのL値及びb値を示す。なお、青色での染色を行ったので、色測定のa値に関しては関連しない。
【0063】
図7の表に示すように、サンプルの番号が大きい延伸糸ほど、張力の測定値の平均値が大きくなっている。色測定のL値は、サンプルの番号が大きい延伸糸ほど値が大きくなっている。ここで、L値は大きくなるほど明るい色であることを意味する。すなわち、サンプル番号が大きい延伸糸ほど(張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど)、明るい(淡い)という結果が得られた。また、色測定のb値は、いずれもマイナスの値であり、おおむねサンプル番号が大きい延伸糸ほど値が大きくなっている。ここで、b値は、マイナスの値である場合は、値が小さいほど青味が強いことを意味する。すなわち、おおむねサンプル番号が大きい延伸糸ほど(張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど)、青味が弱い(淡い)という結果が得られた。
【0064】
また、
図8に示すグラフに、サンプル1~9の各延伸糸Ydの張力の測定値の平均値と、L値及びb値との関係を示す。
図8のグラフからも、張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど、L値が大きい(淡い)ことが分かる。また、張力の測定値の平均値が大きい延伸糸ほど、b値が大きい(淡い)ことが分かる。
【0065】
さらに、
図7の表に示すように、相対標準偏差CVが比較的大きいサンプル1、2の延伸糸は、張力の測定値のチャート波形にばらつきがあり、濃い染色むらが生じている。また、相対標準偏差CVがサンプル1、2の延伸糸に次いで大きいサンプル3、4の延伸糸でも、染色むらが生じている。そして、相対標準偏差CVが比較的小さいサンプル5~9の延伸糸では、染色むらが生じていない。
【0066】
(実施形態の特徴)
以上のように、本実施形態の染色特性判断方法は、紡糸装置2から紡出される糸Yを延伸する紡糸延伸装置3で生成される延伸糸Ydの染色特性判断方法であって、測定装置5において、120℃~140℃で加熱されつつ、弾性範囲内の変形量で伸長された状態の延伸糸Ydの張力を測定する張力測定ステップと、張力測定ステップで測定された張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性を判断する判断ステップと、を備えている。紡糸延伸装置3は、延伸前の糸Yを加熱するゴデットローラ31~33と、ゴデットローラ31~33よりも糸走行方向の下流側に配置されるとともに、ゴデットローラ31~33よりも高温で糸Yを加熱し、且つ、ゴデットローラ31~33による糸送り速度よりも速い糸送り速度で糸Yを送るゴデットローラ34、35と、を備える。
【0067】
延伸糸における配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非晶部に比べて染まりにくい。また、配向非晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。さらに、配向非晶部に加えて、延伸糸Ydにおける分子配向が進み結晶化も進んだ配向結晶部も、非配向非晶部に比べて染まりにくい。また、配向結晶部は、伸長時に抵抗力が増す特性を有している。したがって、上述の構成によると、張力測定ステップにおいて加熱されつつ伸長された状態で測定された張力が大きい延伸糸Ydほど、非配向非晶部に比べて配向非晶部及び配向結晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。すなわち、糸を実際に染色する工程を必要とすることなく、張力測定ステップで測定された延伸糸Ydの張力に基づいて、延伸糸Ydの染色特性の判断を行うことができる。よって、短時間で染色特性の判断を行うことが可能である。
【0068】
さらに、本実施形態の染色特性判断方法では、張力測定ステップにおいて、走行させた状態の延伸糸Ydの張力を測定する。この構成によると、延伸糸Ydの張力を延伸糸Ydの長手方向の複数個所で測定できる。したがって、複数個所での張力の測定値に基づいて染色特性の判断を行うことができ、染色特性の判断精度を向上させることができる。
【0069】
加えて、本実施形態の染色特性判断方法では、判断ステップにおいて、張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸Ydの複数個所での張力の平均値から延伸糸Ydの染色濃淡を判断する。この構成によると、1か所で測定した張力に基づいて判断する場合に比べて、延伸糸の染色濃淡に関する特性をより正確に判断できる。
【0070】
加えて、本実施形態の染色特性判断方法では、判断ステップにおいて、張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸Ydの複数個所での張力のばらつきから染色ムラの生じやすさを判断する。延伸糸Ydにおいて、測定された張力が、その延伸糸Ydの張力の平均値から大きく異なる部分では、染まりやすさが局所的に変化する、すなわち染色ムラが生じる、と判断できる。よって、上述の構成によると、走行させた状態で測定された延伸糸Ydの複数個所での張力のばらつきから染色ムラの生じやすさを判断できる。
【0071】
また、本実施形態の染色特性判断方法では、張力測定ステップは、延伸糸Ydを、弾性範囲内の変形量で伸長された状態で支持可能な第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65と、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65によって支持された延伸糸Ydを加熱するヒータ64と、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65によって支持された延伸糸Ydの張力を測定する張力センサ63と、を備えた測定装置5で実行される。したがって、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65に延伸糸Ydを支持させて、ヒータ64により延伸糸Ydを120℃~140℃で加熱し、張力センサ63により延伸糸Ydの張力を測定することで、張力測定ステップを実行できる。
【0072】
さらに、本実施形態の染色特性判断方法では、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65は延伸糸Ydを掛け渡し可能である。ヒータ64は、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に配置されており、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に掛け渡された延伸糸Ydを加熱する。張力センサ63は、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に配置されており、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間に掛け渡された延伸糸Ydの張力を測定する。したがって、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65の各ローラ対を構成する駆動ローラのトルクや回転速度を調整することで、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65との間の延伸糸Ydを弾性範囲内の変形量で伸長された状態とすることができる。よって、測定装置5において、延伸糸Ydを第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65とに掛け渡し、ヒータ64により延伸糸Ydを120℃~140℃で加熱し、張力センサ63により延伸糸Ydの張力を測定することで、張力測定ステップを実行できる。
【0073】
さらに、本実施形態の染色特性判断方法では、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65は延伸糸Ydを送ることができる。したがって、測定装置5において、延伸糸Ydを第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65とに掛け渡し、ヒータ64により延伸糸Ydを120℃~140℃で加熱し、張力センサ63により延伸糸Ydの張力を測定することで、第1糸送りローラ対62と第2糸送りローラ対65とにより走行された状態の延伸糸Ydの張力を測定する張力測定ステップを実行できる。
【0074】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく請求の範囲によって示され、さらに請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0075】
上述の実施形態においては、張力測定ステップにおいて、120℃~140℃で加熱されつつ、弾性範囲内の変形量で伸長された状態の延伸糸Ydの張力を測定する場合について説明したが、これには限定されない。張力測定ステップにおいて、延伸糸Ydは、120℃~140℃で加熱されつつ、弛んでおらず且つ伸長されていない状態であってもよい。
【0076】
ここで、延伸糸Ydにおける配向が進んでいるが結晶化には至っていない配向非晶部は、配向も結晶化もしていない非配向非晶部に比べて染まりにくい。また、配向非晶部は、加熱時に収縮力が増す特性を有している。したがって、上述のように、張力測定ステップにおいて、張力を測定する延伸糸Ydを加熱はするが伸長はしない場合であっても、張力測定ステップにおいて測定された張力が大きい延伸糸Ydほど、非配向非晶部に比べて配向非晶部が占める割合が高く、染まりにくい特性を有していると判断できる。
【0077】
また、上述の実施形態においては、張力測定ステップにおいて、走行させた状態の延伸糸Ydの張力を測定する場合について説明したが、これには限定されない。張力測定ステップにおいて、静止状態の延伸糸Ydの張力を測定してもよい。
【0078】
さらに、上述の実施形態においては、判断ステップにおいて、張力測定ステップで走行させた状態で測定された延伸糸Ydの複数個所での張力の平均値から延伸糸Ydの染色濃淡を判断する場合について説明したが、これには限定されない。延伸糸Ydの染色濃淡は、1か所で測定された張力に基づいて判断してもよい。また、静止状態の延伸糸Ydの張力の測定を、複数個所で繰り返し、これらの張力測定の測定値を用いて染色濃淡の判断を行ってもよい。
【0079】
さらに、上述の実施形態においては、判断ステップにおいて、延伸糸Ydの染色濃淡の判断及び染色ムラの生じやすさの判断を行う場合について説明したが、これには限定されない。すなわち、判断ステップにおいては、延伸糸Ydの染色濃淡の判断及び染色ムラの生じやすさの判断の少なくとも一方のみが行われればよい。
【0080】
加えて、上述の実施形態においては、第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65を有する支持機構によって、延伸糸Ydを、弾性範囲内の変形量で伸長された状態で支持する場合について説明したが、支持機構の構成はこれには限定されない。例えば、支持機構が有する第1糸送りローラ対62及び第2糸送りローラ対65のうちの少なくとも一方を、延伸糸Ydを巻き掛け可能な単一のローラに置き換えてもよい。また支持機構は、延伸糸Ydを挟持可能な2つの挟持部を有しており、延伸糸Ydを挟持した状態の2つの挟持部の間の距離を広げることで、延伸糸Ydを伸長するものであってもよい。さらに、支持機構は、延伸糸Ydを、弛んでおらず且つ伸長されていない状態で支持するものであってもよい。
【0081】
さらに、上述の実施形態においては、
図1に示す紡糸延伸装置3で生成される延伸糸Ydの染色特性判断方法について説明したが、これには限定されない。本発明は、糸を加熱延伸する紡糸延伸装置で生成される延伸糸の染色特性判断に適用可能である。すなわち例えば、本発明は、特開2014-129624号公報の
図5に開示されているような紡糸延伸装置で生成された延伸糸の染色特性判断に適用することも可能である。
【0082】
また、
図2に示す測定ユニット6の構成は、これに限定されるものではない。すなわち、例えば、張力センサ63の測定ローラ63aは、糸走行方向においてヒータ64の下流側(ヒータ64と第2糸送りローラ対65との間)に位置してもよい。
【0083】
加えて、上述の実施形態においては、張力測定ステップは、延伸糸Ydを製造する紡糸引取機1とは別の測定装置5で実行される場合について説明したが、これには限定されない。すなわち例えば、延伸糸Ydを製造する紡糸引取機1で張力測定ステップを実行してもよい。このような場合、延伸糸Ydの製造過程で、その延伸糸Ydの染色特性を判断するための張力を取得できる。よって、染色特性の判断をいっそう短時間で行うことが可能となる。
【0084】
具体的には、
図9に示すように、上述の実施形態の第1変形例にかかる染色特性判断方法において張力測定ステップを実行する紡糸引取機1aは、ゴデットローラ34とゴデットローラ35との間に張力センサ51が設けられている。張力センサ51は、熱固定ローラであるゴデットローラ34、35によって加熱された状態の延伸糸Ydの張力を測定する。なお、ゴデットローラ34、35の糸送り速度は、ゴデットローラ34とゴデットローラ35との間の延伸糸Ydが、弛んでおらず且つ伸長されていない状態、又は、弾性範囲内の変形量で伸長された状態となるように設定される。すなわち、本変形例においては、ゴデットローラ34、35が本発明の「支持機構」及び「ヒータ」に相当する。また、紡糸引取機1aは、本発明の「測定装置」に相当する。
【0085】
また、
図10に示すように、上述の実施形態の第2変形例にかかる染色特性判断方法において張力測定ステップを実行する紡糸引取機1bは、案内ローラ13と案内ローラ14との間に張力センサ51及びヒータ52が設けられている。張力センサ51は、ヒータ52によって加熱された状態の延伸糸Ydの張力を測定する。なお、案内ローラ13、14の糸送り速度は、案内ローラ13と案内ローラ14との間の延伸糸Ydが、弛んでおらず且つ伸長されていない状態、又は、弾性範囲内の変形量で伸長された状態となるように設定される。すなわち、本変形例においては、案内ローラ13、14が本発明の「支持機構」に相当し、ヒータ52が本発明の「ヒータ」に相当する。また、紡糸引取機1bは、本発明の「測定装置」に相当する。
【符号の説明】
【0086】
1 紡糸引取機
2 紡糸装置
3 紡糸延伸装置
5 測定装置(測定装置)
31~33 ゴデットローラ(予備加熱ローラ)
34、35 ゴデットローラ(熱固定ローラ)
51 張力センサ
52 ヒータ
62 第1糸送りローラ対(支持機構、第1ローラ)
63 張力センサ
64 ヒータ
65 第2糸送りローラ対(支持機構、第2ローラ)
Yd 延伸糸