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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172352
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】溶接状態検出システム及び調整方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241205BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/21 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090008
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100183265
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 剣一
(72)【発明者】
【氏名】白石 竜朗
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和樹
(72)【発明者】
【氏名】船見 浩司
(72)【発明者】
【氏名】中井 出
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168CA03
4E168CB04
4E168DA03
4E168DA60
4E168EA03
4E168EA04
4E168EA15
4E168EA24
4E168EA26
4E168KB02
(57)【要約】
【課題】溶接光学系への影響を低減しつつ、溶接部からの戻り光を精度よく計測できる溶接状態検出システム及び溶接状態検出システムの調整方法を提供する。
【解決手段】本開示に係る溶接状態検出システムは、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、溶接状態を検出するシステムであって、レーザ光が光学部材で反射された第1反射光と加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光を受光する空間フィルタと、空間フィルタを透過した光の強度を測定する測定装置と、を備え、空間フィルタは、受光した戻り光のうち、第1反射光を減衰して透過する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、溶接状態を検出するシステムであって、
前記レーザ光が前記光学部材で反射された第1反射光と前記加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光を受光する空間フィルタと、
前記空間フィルタを透過した光の強度を測定する測定装置と、
を備え、
前記空間フィルタは、受光した前記戻り光のうち、前記第1反射光を減衰して透過する、
溶接状態検出システム。
【請求項2】
前記空間フィルタは、前記戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された集光レンズと、入射した光を通過させるピンホールを有するピンホールマスクと、を含み、
前記ピンホールの直径が調整可能である、
請求項1に記載の溶接状態検出システム。
【請求項3】
前記集光レンズと前記ピンホールマスクとは、
前記第1反射光が前記集光レンズを透過して前記ピンホールマスクに入射する第1ビームスポットが、前記第2反射光が前記集光レンズを透過して前記ピンホールマスクに入射する第2ビームスポットよりも大きくなるように配置され、
前記ピンホールの直径は、前記第1ビームスポットよりも小さい、
請求項2に記載の溶接状態検出システム。
【請求項4】
前記ピンホールは、前記第2反射光が前記集光レンズを透過して形成される集光スポットに位置するように配置されている、
請求項2又は3に記載の溶接状態検出システム。
【請求項5】
前記ピンホールの直径は、0mm以上、1mm以下の範囲で調整可能である、
請求項2又は3に記載の溶接状態検出システム。
【請求項6】
前記レーザ光は直線偏光光であって、
前記空間フィルタは、前記戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された位相差板と、偏光ビームスプリッタと、を含み、
前記位相差板は、入射した前記第1反射光の少なくとも一部を第1直線偏光光で出射し、
前記偏光ビームスプリッタは、前記位相差板から出射された前記第1直線偏光光を、前記空間フィルタを透過した光の伝搬径路と交差する方向に出射する、
請求項1に記載の溶接状態検出システム。
【請求項7】
前記光学部材は、レーザ光照射口を覆う保護ガラスを含み、
前記第1反射光は、前記レーザ光が前記保護ガラスで反射された光を含む、
請求項1又は2に記載の溶接状態検出システム。
【請求項8】
制御装置を更に備え、
前記制御装置は、
プロセッサと、
前記プロセッサにより実行される命令を記憶した記憶装置と、
を備え、
前記命令は、
所定のレーザ光の照射において、前記空間フィルタを透過した前記第1反射光の第1光強度と、前記空間フィルタを透過した前記戻り光の第2光強度とを取得することと、
取得された前記第1光強度と前記第2光強度とに基づき、調整基準値を算出することと、
前記空間フィルタを透過した光の強度が算出された前記調整基準値に一致するように、前記空間フィルタを調整することと、
を含む、
請求項1に記載の溶接状態検出システム。
【請求項9】
前記レーザ光を吸収するビームダンパと、
前記ビームダンパを駆動するビームダンパ駆動部と、
を更に備え、
前記命令において、前記第1光強度と前記第2光強度とを取得することは、
前記第1光強度を取得するときに、前記ビームダンパ駆動部によって、前記ビームダンパを、レーザ光照射口と前記加工面との間の前記レーザ光の伝搬径路に配置することと、
前記第2光強度を取得するときに、前記ビームダンパ駆動部によって、前記ビームダンパを、前記レーザ光の伝搬径路から外すことと、
を有する、
請求項8に記載の溶接状態検出システム。
【請求項10】
前記調整基準値は、取得された前記第2光強度と前記第1光強度との差分である、
請求項8又は9に記載の溶接状態検出システム。
【請求項11】
前記空間フィルタは、前記戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された集光レンズと、入射した光を通過させるピンホールを有するピンホールマスクと、を含み、
前記空間フィルタを調整することは、前記ピンホールの直径を調整することを含む、
請求項8又は9に記載の溶接状態検出システム。
【請求項12】
光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行う溶接装置と、
請求項1又は2に記載の前記溶接状態検出システムと、
を備える、
レーザ加工装置。
【請求項13】
光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、戻り光を測定する溶接状態検出システムを調整する方法であって、
所定のレーザ光の照射において、前記光学部材で反射された第1反射光が空間フィルタを透過した第1光強度と、前記第1反射光と前記加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光が前記空間フィルタを透過した第2光強度とを取得するステップと、
取得された前記第1光強度と前記第2光強度とに基づき、調整基準値を算出するステップと、
前記空間フィルタを透過した光の強度が算出された前記調整基準値に一致するように、前記空間フィルタを調整するステップと、
を含む、
溶接状態検出システムの調整方法。
【請求項14】
前記第1光強度と前記第2光強度とを取得するステップは、
前記第1光強度を取得するときに、レーザ光照射口と前記加工面との間の前記レーザ光の伝搬径路に、前記レーザ光を吸収するビームダンパを配置するステップと、
前記第2光強度を取得するときに、前記ビームダンパを、前記レーザ光の伝搬径路から外すステップと、
を含む、
請求項13に記載の溶接状態検出システムの調整方法。
【請求項15】
前記空間フィルタは、前記戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された集光レンズと、入射した光を通過させるピンホールを有するピンホールマスクと、を含み、
前記空間フィルタを調整するステップは、前記ピンホールの直径を調整することを含む、
請求項13又は14に記載の溶接状態検出システムの調整方法。
【請求項16】
請求項13又は14に記載の前記溶接状態検出システムの調整方法をプロセッサに実行させる、プログラム。
【請求項17】
請求項13又は14に記載の前記溶接状態検出システムの調整方法をプロセッサに実行させるプログラムを記憶する非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ光を用いて溶接を行うレーザ加工において、溶接状態検出システム及びその調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料を加工する技術としてレーザ溶接が知られている。レーザ溶接では、溶接光学系により、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物に照射して溶接を行う。従来、レーザ溶接中に、溶接部で発生したプラズマ光や熱放射光を含む溶接光や、溶接部で反射された光による戻り光を測定することによって溶接の品質評価を行っている。
【0003】
レーザ溶接中に、溶接光学系を構成するレンズ等の光学素子や保護ガラス等を含む光学部材の表面からも反射光が発生する。これらの反射光は、溶接部で反射された光とともに戻り光として検出される。これにより、溶接の品質評価するための戻り光計測信号にノイズが生じる。例えば、特許文献1は、溶接光学系の保護ガラスを、レーザ光の光軸に対して傾斜させて配置することで、保護ガラスによる反射光を減衰させるように構成された溶接状態検出装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-110845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の溶接状態検出装置では、溶接光学系の保護ガラスが、溶接用レーザ光の光軸に対して傾斜をもって配置されるため、溶接光学系に影響を与えている。溶接状態検出装置においては、溶接光学系への影響を低減しつつ、溶接部からの戻り光を精度よく計測し、溶接状態を検出することが求められている。
【0006】
そこで、本開示は、溶接光学系への影響を低減しつつ、溶接部からの戻り光を精度よく計測できる溶接状態検出システム及びその調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る溶接状態検出システムは、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、溶接状態を検出するシステムであって、レーザ光が光学部材で反射された第1反射光と加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光を受光する空間フィルタと、空間フィルタを透過した光の強度を測定する測定装置と、を備え、空間フィルタは、受光した戻り光のうち、第1反射光を減衰して透過する。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本開示の一態様に係る溶接状態検出システムの調整方法は、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、戻り光を測定する溶接状態検出システムを調整する方法であって、所定のレーザ光の照射において、光学部材で反射された第1反射光が空間フィルタを透過した第1光強度と、第1反射光と加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光が空間フィルタを透過した第2光強度とを取得するステップと、取得された第1光強度と第2光強度とに基づき、調整基準値を算出するステップと、空間フィルタを透過した光の強度が算出された調整基準値に一致するように、空間フィルタを調整するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、溶接光学系への影響を低減しつつ、溶接部からの戻り光を精度よく計測できる溶接状態検出システム及びその調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置の構成を示す概略平面図
図2図1のレーザ加工装置の溶接状態検出システムの構成の一例及び内部反射光の減衰を示す概略平面図
図3】本開示の溶接状態検出システムの制御装置の構成例を示すブロック図
図4】本開示の溶接状態検出システム調整プロセスを示すフローチャート
図5図4の調整プロセスの実行中に測定された光強度を示すグラフ
図6】本開示の実施の形態1の変形例に係る溶接状態検出システムの構成及び内部反射光の減衰を示す概略平面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の第1態様によれば、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、溶接状態を検出するシステムであって、レーザ光が光学部材で反射された第1反射光と加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光を受光する空間フィルタと、空間フィルタを透過した光の強度を測定する測定装置と、を備え、空間フィルタは、受光した戻り光のうち、第1反射光を減衰して透過する、溶接状態検出システムを提供する。
【0012】
この態様によれば、溶接光学系への影響を低減しつつ、溶接部からの戻り光を精度よく計測できる。
【0013】
本開示の第2態様によれば、空間フィルタは、戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された集光レンズと、入射した光を通過させるピンホールを有するピンホールマスクと、を含み、ピンホールの直径が調整可能である、第1態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0014】
本開示の第3態様によれば、集光レンズとピンホールマスクとは、第1反射光が集光レンズを透過してピンホールマスクに入射する第1ビームスポットが、第2反射光が集光レンズを透過してピンホールマスクに入射する第2ビームスポットよりも大きくなるように配置され、ピンホールの直径は、第1ビームスポットよりも小さい、第2態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0015】
本開示の第4態様によれば、ピンホールは、第2反射光が集光レンズを透過して形成される集光スポットに位置するように配置されている、第2又は第3態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0016】
本開示の第5態様によれば、ピンホールの直径は、0mm以上、1mm以下の範囲で調整可能である、第2又は第3態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0017】
本開示の第6態様によれば、レーザ光は直線偏光光であって、空間フィルタは、戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された位相差板と、偏光ビームスプリッタと、を含み、位相差板は、入射した第1反射光の少なくとも一部を第1直線偏光光で出射し、偏光ビームスプリッタは、位相差板から出射された第1直線偏光光を、空間フィルタを透過した光の伝搬径路と交差する方向に出射する、第1態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0018】
本開示の第7態様によれば、光学部材は、レーザ光照射口を覆う保護ガラスを含み、第1反射光は、レーザ光が保護ガラスで反射された光を含む、第1から第6態様のいずれか1つに記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0019】
本開示の第8態様によれば、制御装置を更に備え、制御装置は、プロセッサと、プロセッサにより実行される命令を記憶した記憶装置と、を備え、命令は、所定のレーザ光の照射において、空間フィルタを透過した第1反射光の第1光強度と、空間フィルタを透過した戻り光の第2光強度とを取得することと、取得された第1光強度と第2光強度とに基づき、調整基準値を算出することと、空間フィルタを透過した光の強度が算出された調整基準値に一致するように、空間フィルタを調整することと、を含む、第1態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0020】
本開示の第9態様によれば、レーザ光を吸収するビームダンパと、ビームダンパを駆動するビームダンパ駆動部と、を更に備え、命令において、第1光強度と第2光強度とを取得することは、第1光強度を取得するときに、ビームダンパ駆動部によって、ビームダンパを、レーザ光照射口と加工面との間のレーザ光の伝搬径路に配置することと、第2光強度を取得するときに、ビームダンパ駆動部によって、ビームダンパを、レーザ光の伝搬径路から外すことと、を有する、第8態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0021】
本開示の第10態様によれば、調整基準値は、取得された第2光強度と第1光強度との差分である、第8又は第9態様に記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0022】
本開示の第11態様によれば、空間フィルタは、戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された集光レンズと、入射した光を通過させるピンホールを有するピンホールマスクと、を含み、空間フィルタを調整することは、ピンホールの直径を調整することを含む、第8から第10態様のいずれか1つに記載の溶接状態検出システムを提供する。
【0023】
本開示の第12態様によれば、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行う溶接装置と、第1から第11態様のいずれか1つに記載の溶接状態検出システムと、を備える、レーザ加工装置を提供する。
【0024】
本開示の第13態様によれば、光学部材を透過してレーザ光を出射し、加工対象物の加工面に照射して溶接を行うレーザ加工において、戻り光を測定する溶接状態検出システムを調整する方法であって、所定のレーザ光の照射において、光学部材で反射された第1反射光が空間フィルタを透過した第1光強度と、第1反射光と加工面で反射された第2反射光とを含む戻り光が空間フィルタを透過した第2光強度とを取得するステップと、取得された第1光強度と第2光強度とに基づき、調整基準値を算出するステップと、空間フィルタを透過した光の強度が算出された調整基準値に一致するように、空間フィルタを調整するステップと、を含む、溶接状態検出システムの調整方法を提供する。
【0025】
本開示の第14態様によれば、第1光強度と第2光強度とを取得するステップは、第1光強度を取得するときに、レーザ光照射口と加工面との間のレーザ光の伝搬径路に、レーザ光を吸収するビームダンパを配置するステップと、第2光強度を取得するときに、ビームダンパを、レーザ光の伝搬径路から外すステップと、を含む、第13態様に記載の溶接状態検出システムの調整方法を提供する。
【0026】
本開示の第15態様によれば、空間フィルタは、戻り光の伝搬径路に沿って順に配置された集光レンズと、入射した光を通過させるピンホールを有するピンホールマスクと、を含み、空間フィルタを調整するステップは、ピンホールの直径を調整することを含む、第13又は第14態様に記載の溶接状態検出システムの調整方法を提供する。
【0027】
本開示の第16態様によれば、第13又は第14態様に記載の溶接状態検出システムの調整方法をプロセッサに実行させる、プログラムを提供する。
【0028】
本開示の第17態様によれば、第13又は第14態様に記載の溶接状態検出システムの調整方法をプロセッサに実行させるプログラムを記憶する非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【0029】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0030】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0031】
本開示の実施の形態に係るレーザ加工装置について、図1乃至図6を参照しながら説明する。添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供するものであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。なお、図面において実質的に同一の部材については、同一の符号を付している。
【0032】
(実施の形態1)
本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置及び溶接状態検出システムの構成、及び戻り光の検出における内部反射光の減衰について、図1から図3を参照して説明する。
【0033】
なお、本明細書において、「内部反射光」又は「第1反射光」とは、溶接用レーザ光が溶接光学系の様々な光学部材で反射されて、溶接状態検出システムに入射する光を指す。「溶接部反射光」又は「第2反射光」とは、溶接部からの戻り光の部分であって、溶接用レーザ光が加工対象物の溶接部で反射されて、溶接状態検出システムに入射する光を指す。また、以下の説明において、「戻り光」は、「内部反射光」又は「第1反射光」、及び「溶接部反射光」又は「第2反射光」を含む。
【0034】
(レーザ加工装置)
本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置の全体構成について、図1を参照しながら説明する。図1は、本開示の実施の形態1に係るレーザ加工装置1の構成を示す概略平面図である。レーザ加工装置1は、X-Y平面上に示されている。
【0035】
図1のレーザ加工装置1は、溶接装置10と、溶接状態検出システム20とを備えている。溶接装置10は、対象物16に対してレーザ光Lmを照射してレーザ溶接を行う。溶接中に対象物16からの溶接部反射光Lf1を溶接状態検出システム20に導入して測定することによって、溶接状態を把握し、溶接の品質管理を行うことができる。以下、溶接装置10と溶接状態検出システム20との構成及び動作について、詳細に説明する。
【0036】
(溶接装置)
溶接装置10は、レーザ発振器11と、コリメートレンズ12と、部分反射ミラー13と、集光レンズ14と、保護ガラス15とを備えている。溶接装置10は、所定の距離を設けて対象物16の上方に配置されている。所定の距離は、対象物16の表面におけるレーザ光Lmのスポット径が溶接する際の適切な大きさとなるように設定されている。
【0037】
レーザ発振器11は、レーザ光Lmを出力する。本開示は、レーザ発振器11の種類又は加工に用いられるレーザ光に限定されない。レーザ光の波長、パワー、強度分布などは、加工条件、加工材料によって適したものを選択することができる。本実施の形態では、出力波長が515nm付近のレーザ発振器を用いて溶接装置10を構成することができる。
【0038】
レーザ発振器11から-Y方向に出力されたレーザ光Lmは、コリメートレンズ12を通して平行な光ビームとなり、部分反射ミラー13を通して、集光レンズ14によって集光され、保護ガラス15を透過して、光軸Oa沿って対象物16に照射してレーザ溶接を行う。
【0039】
レーザ溶接中には、スパッタやヒュームと呼ばれる、溶けた金属が飛散して粒状に固まったものや微粒子などが発生する。スパッタやヒュームから溶接装置を保護するために、溶接装置10には、保護ガラス15等の保護光学部材が配置されている。図示のように、保護ガラス15は、集光レンズ14と対象物16との間に配置され、溶接中に対象物16の溶接部に発生するスパッタやヒュームが集光レンズ14に付着しないように、レーザ光照射口を覆うように設けられている。保護ガラス15は、例えば、対象物16の加工面16aから数百ミリメートル程度離れて配置される。
【0040】
溶接中に対象物16で反射された溶接部反射光Lf1は、図示+Y方向に沿って進み、保護ガラス15と集光レンズ14とを順に透過して部分反射ミラー13により反射され、図示+X方向に導かれ、溶接状態検出システム20(後段で説明する)に入射する。
【0041】
また、溶接中には、レーザ光Lmは、例えば、図1に示す集光レンズ14と保護ガラス15とを含む光学部材の表面においても反射され、反射光が発生する。これらの光学部材の表面で反射された光は、内部反射光Lf0として、溶接部反射光Lf1とともに戻り光Lfを構成し、部分反射ミラー13により溶接状態検出システム20に導かれる。溶接光学系の様々な光学部材で生じた反射光のうち、平板形状の保護ガラス15で生じた反射光が溶接状態検出システム20に入射する内部反射光Lf0の主要部分を占める場合が多い。以下、保護ガラス15で生じた反射光を、内部反射光Lf0の例として説明する。
【0042】
部分反射ミラー13は、本実施の形態では、コリメートレンズ12と集光レンズ14との間に、光軸Oaに対して所定の角度を成して配置される。部分反射ミラー13は、溶接中に、内部反射光Lf0と溶接部反射光Lf1とを含む戻り光Lfの少なくとも一部を溶接状態検出システム20に導き、光強度を測定することで溶接状態を検出するように用いられる。本開示は、部分反射ミラー13の構成に限定されない。部分反射ミラー13は、例えば、従来知られているハーフミラーの構成を採用することができ、本実施の形態では、波長515nm付近の光に対し、例えば、0.01%以上、1.00%以下の透過率の反射膜を備えることができる。
【0043】
また、上述した溶接装置10の構成は一例であって、本開示に限定されない。例えば、溶接装置10は、部分反射ミラー13と集光レンズ14との間に配置されるガルバノミラーを備えていてもよい。ガルバノミラーによって、レーザ光Lmを対象物16上で走査しながらレーザ溶接を行うことができる。更に、対象物16は、移動可能なステージ(図示せず)上に固定することができ、ステージにより移動されるとともに、レーザ光Lmの照射によってレーザ溶接を行うこともできる。
【0044】
なお、図1において、明瞭化のために、各光ビームLm,Lf0,Lf1を主光線のみで示している。また、部分反射ミラー13と対象物16との間に、レーザ照射光Lmと、内部反射光Lf0と、溶接部反射光Lf1との光ビームを分けて図示しているが、実際には、レーザ照射光Lmの光ビームと、反射光Lf0,Lf1の光ビームとは、同一の経路に沿って進む。
【0045】
図1に示すように、内部反射光Lf0と溶接部反射光Lf1とを含む戻り光Lfが溶接状態検出システム20に導入される。溶接状態を把握するためには、戻り光Lfのうち、溶接部反射光Lf1が利用され、内部反射光Lf0がノイズとなる。溶接状態検出システム20は、導入された内部反射光Lf0を減衰したうえで戻り光Lfの光強度を測定することによって、戻り光計測信号のSN比、すなわち、溶接部反射光Lf1対内部反射光Lf0の比(Lf1/Lf0)を向上させ、溶接部からの戻り光を精度よく計測することができる。続いて、図1に併せて、図2を参照して、溶接状態検出システム20の構成を説明する。
【0046】
(溶接状態検出システム)
図2は、図1のレーザ加工装置1の溶接状態検出システム20の構成の一例及び内部反射光の減衰を示す概略平面図である。なお、図2では、説明のために、溶接装置10の一部のみを示し、同様な構成要素を同一の符号で示している。
【0047】
溶接状態検出システム20は、図1及び図2に示すように、空間フィルタ30と、測定装置40と、制御装置50とを備えている。空間フィルタ30は、部分反射ミラー13で反射された戻り光Lfを受光し、受光した戻り光Lfのうち、内部反射光Lf0を減衰して透過することができる。測定装置40は、空間フィルタ30を透過した光の強度を測定し、制御装置50は、溶接状態検出システム20の調整及び溶接状態の検出を制御する。また、本実施の形態では、溶接状態検出システム20は、ビームダンパ21とビームダンパ駆動部22とを更に備えることができる。ビームダンパ21とビームダンパ駆動部22とは、溶接状態検出システム20の調整プロセスにおいて用いられる。溶接状態検出システム20の調整プロセス及びビームダンパ21とビームダンパ駆動部22との動作について、後段で詳述する。
【0048】
(空間フィルタ30の構成及び内部反射光の減衰)
図2に示すように、溶接状態検出システム20の空間フィルタ30は、図示+X方向に沿って順に配置された集光レンズ31と、ピンホールマスク35と、レンズ32,33とを含むことができる。溶接状態検出システム20に導入された戻り光Lfは、集光レンズ31によってピンホールマスク35に集光される。ピンホールマスク35には、入射した光の一部を透過させるように、ピンホール35aが形成されている。ピンホールマスク35に入射した戻り光Lfのうち、ピンホール35aを通過した光はレンズ32,33を経て、空間フィルタ30から出射し、測定装置40に伝送される。なお、レンズ32を透過した光を、レンズ33によって集光し、光ファイバ(図示せず)によって測定装置40に伝送してもよい。
【0049】
溶接装置10の集光レンズ14の集光面が溶接部反射光Lf1の反射面となる対象物16の加工面16aと一致した場合、溶接部反射光Lf1の光ビームは、対象物16の加工面16aで反射され、集光レンズ14を透過して、平行光ビームとなる。平行光ビームの溶接部反射光Lf1は、部分反射ミラー13において反射され、空間フィルタ30の集光レンズ31によって集光される。ピンホールマスク35は、溶接部反射光Lf1が集光レンズ31を透過して形成される集光スポットに位置するように配置することができる。このとき、溶接部反射光Lf1は、対象物16の加工面16aにおける照射レーザ光Lmの集光スポットと光学的に共役な位置にあるピンホール35aの位置に集光される。
【0050】
一方、内部反射光Lf0の反射面となる保護ガラス15の表面15aは、集光レンズ14と対象物16との間に位置し、集光レンズ14の集光面から離れている。そのため、内部反射光Lf0の光ビームは、集光レンズ14を透過して、拡散ビームで部分反射ミラー13に到達する。そして、拡散ビームの内部反射光Lf0は、部分反射ミラー13において反射され、空間フィルタ30の集光レンズ31によって集束されるが、溶接部反射光Lf1の集光スポットよりも大きいビームスポットでピンホールマスク35に到達する。
【0051】
ピンホールマスク35には、ピンホール調整手段(図示せず)が設けられており、ピンホール35aの直径は、ピンホールマスク35における内部反射光Lf0のビームスポットよりも小さくなるように調整することができる。好ましくは、ピンホール35aの直径は、ピンホール調整手段によって調整可能に構成されている。ピンホール35aの直径は、ピンホールマスク35における溶接部反射光Lf1の集光スポットよりも大きく、内部反射光Lf0のビームスポットよりも小さくなるように調整される。これによって、ピンホール35aの位置に集光された溶接部反射光Lf1を通過させるとともに、内部反射光Lf0の一部を遮光することができる。本実施の形態では、ピンホール35aの直径は、0mm以上、1mm以下の範囲で調整可能であり、ピンホール35aの直径を調整することによって、戻り光Lfに含まれる内部反射光Lf0の部分を大幅に減衰し、減衰した内部反射光Lf0aと溶接部反射光Lf1とを通過させることができる。このようにして、空間フィルタ30は、戻り光のうち、溶接部反射光Lf1を通過させる一方、内部反射光Lf0の一部を除去して減衰した内部反射光Lf0aを通過させることで、内部反射光によるノイズを低減する。これによって、戻り光計測信号のSN比が、Lf1/Lf0からLf1/Lf0aへと向上し、溶接部からの戻り光の部分である溶接部反射光Lf1を精度よく計測することができる。
【0052】
空間フィルタ30から出射した溶接部反射光Lf1、及び減衰した内部反射光Lf0aは、測定装置40に伝送される。
【0053】
(測定装置)
図1に戻って、測定装置40は、分光装置41と、光センサ42と、を備えることができる。
【0054】
レーザ加工装置1の溶接状態検出システム20は、溶接中に対象物16の溶接状態をモニタリングするため、反射光による戻り光Lfとともに、溶接部で発生したプラズマ光や熱放射光を測定装置40に導入して測定する場合がある。本実施の形態では、例えば、熱放射光の波長は1300nmであり、戻り光Lfの波長は515nmである。分光装置41は、例えば、ハーフミラー、回折格子等を備え、プラズマ光や熱放射光と、戻り光Lfとを、光の波長で分離することができる。
【0055】
光センサ42は、例えば、熱放射光と戻り光Lfとのそれぞれの波長に対する感度を有するセンサ素子を含むことができ、分光装置41で分光された熱放射光の光強度と戻り光Lfの光強度とをそれぞれ検出することができる。光センサ42は、例えば、フォトダイオード等で構成することができ、光電変換によって光強度に応じた電気信号Dを出力することができる。出力された電気信号Dは、制御装置50に送信される。なお、制御装置50への送信は、有線接続によって実現されてもよく、無線転送によって実現されてもよい。
【0056】
なお、上述した測定装置40の構成は一例であって、本開示に限定されない。
【0057】
(制御装置)
制御装置50は、レーザ溶接中に溶接状態検出システム20による溶接状態の検出を制御する。制御装置50は、例えば、測定装置40から光強度の信号を受信し、光強度の信号に基づいて溶接状態を検出することができる。また、本実施の形態では、制御装置50は、溶接状態の検出を実行する前に、溶接状態検出システム20の調整を行うことができる。これによって、レーザ溶接中に溶接部からの戻り光を精度よく計測でき、溶接状態を高精度に検出することができる。以下、図3を参照して、制御装置50の構成を説明する。
【0058】
図3は、溶接状態検出システム20の制御装置50の構成例を示すブロック図である。制御装置50は、プロセッサ51と、記憶装置52と、を備える。制御装置50は、プロセッサ51が記憶装置52に記憶された命令を実行することで所定の機能を実現する。制御装置50の機能は、ハードウェアのみで構成してもよいし、ハードウェアとソフトウェアとを組み合わせることにより実現してもよい。また、制御装置50は、1つ又は複数のプロセッサ51を備えていてもよい。
【0059】
プロセッサ51は、例えば、マイコン、CPU、MPU、GPU、DSU、FPGA、ASIC等で構成することができる。プロセッサ51は、所定の機能を実現するように設計された専用の電子回路で構成されてもよい。
【0060】
記憶装置52は、制御装置50の機能を実現するためのプログラム及びデータを記憶する記憶媒体である。記憶装置52は、例えば、ハードディスク(HDD)、SSD、RAM、DRAM、強誘電体メモリ、フラッシュメモリ、磁気ディスク、又はこれらの組み合わせによって実現できる。
【0061】
例えば、制御装置50は、測定装置40から取得した電気信号DをAD変化によりデジタル信号に変換し、波形データとして信号処理する。信号処理された波形データは、記憶装置52に記憶される。
【0062】
記憶装置52には、検出システム調整プログラム53と、溶接状態検出プログラム54とが格納されている。なお、制御装置50がネットワークに接続されている場合には、必要に応じてプログラム53,54をネットワークからダウンロードしてもよい。溶接状態検出システムの調整及びレーザ溶接中に溶接状態の検出は、プログラム53,54によりプロセッサ51に実行させることができる。
【0063】
検出システム調整プログラム53は、溶接状態検出システム20の調整を行うときに、記憶装置52から読み出され、プロセッサ51に溶接状態検出システム調整プロセスを実行させる。溶接状態検出システム調整プロセスについて、以下、図2から図3に併せて、図4及び図5を参照して説明する。なお、溶接状態検出プログラム54については、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0064】
(溶接状態検出システム調整プロセス)
図4は、本開示の溶接状態検出システム調整プロセスを示すフローチャートである。図5は、図4の調整プロセスの実行中に測定された光強度を示すグラフである。図2に示す溶接状態検出システム20の調整は、溶接装置10が設置された後、レーザ溶接を実施する前に実行される。
【0065】
(1)まず、S101では、レーザ光照射を開始する。このとき、レーザ光Lmの照射パワーは、対象物16が加工されない程度に設定することができる。これによって、空間フィルタの調整中に、対象物16がレーザ光Lmの照射により傷つけることを防止する。
【0066】
(2)次に、S102では、制御装置50が、空間フィルタ30を透過した内部反射光Lf0の強度I0を取得する。このとき、溶接部反射光Lf1の発生を防ぐため、ビームダンパ21を利用して、対象物16へのレーザ光照射を遮断することができる。
【0067】
図1及び図2に示すように、ビームダンパ21は、例えば、光の閉じ込め構造を有するビームトラップで構成することができ、ビームダンパ駆動部22によって移動することができる。内部反射光強度I0を測定するとき、制御装置50がビームダンパ駆動部22を作動し、ビームダンパ21を保護ガラス15と加工物16との間のレーザ光Lmの伝搬径路に配置することができる。これによって、レーザ光Lmが加工物16に到達することを抑制し、溶接部反射光Lf1の発生を防ぐことができる。なお、ビームダンパ21に照射したレーザ光Lmは吸収されて熱に変わり、ビームダンパ21から反射光が生じない。そのため、内部反射光強度I0を正確に測定することができる。測定された内部反射光強度I0は、図5に概念的に示している。
【0068】
(3)次に、S103では、制御装置50が、空間フィルタ30を透過した戻り光Lfの強度I1を取得する。戻り光Lfは、内部反射光Lf0と、加工物16の加工面16aで発生した溶接部反射光Lf1とを含む。このとき、制御装置50がビームダンパ駆動部22を作動し、ビームダンパ21を保護ガラス15と加工物16との間のレーザ光Lmの伝搬径路から外すことができる。測定された戻り光強度I1は、図5に概念的に示している。
【0069】
(4)次に、S104では、制御装置50により、調整基準値Isを算出する。図5に示すように、本実施の形態では、調整基準値Isは、戻り光強度I1と内部反射光強度I0との差分として算出することができる。すなわち、調整基準値Isは、以下の式(1)により算出することができる。
【0070】
【数1】
【0071】
なお、調整基準値Isは、用途に応じて、例えば、他の算出法又は補正量を用いて算出することも可能である。
【0072】
(5)次に、S105では、制御装置50により、空間フィルタ30の調整を行う。
【0073】
このとき、図2に示す溶接状態検出システム20においては、制御装置50が制御信号Eを送信してピンホール調整手段(図示せず)を作動し、ピンホールマスク35に入射した内部反射光Lf0の一部を遮光し、空間フィルタ30を透過した光の強度が調整基準値Isに一致するように、ピンホール35aの直径を調整する。
【0074】
なお、ここで、「調整基準値Isに一致する」とは、調整基準値Isに完全同一だけでなく、実際に、調整上の公差を考慮したものであって、例えば、空間フィルタ30を透過した光の強度が、公差±10%以内で調整基準値Isと一致してもよい。好ましくは、空間フィルタ30を透過した光の強度が、公差±5%以内で調整基準値Isと一致する。
【0075】
(6)次に、S106では、空間フィルタ30を透過した光の強度が調整基準値Isに一致すると判断されたときに、空間フィルタの調整が完了する。空間フィルタ30を透過した光の強度が調整基準値Isに一致しないと判断されたときには、S105に戻って、制御装置50により、再び空間フィルタ30の調整を行う。このように、空間フィルタ30を透過した光の強度が調整基準値Isに一致するまで、S105とS106とが繰り返し実行される。
【0076】
なお、上記溶接状態検出システム調整プロセスにおいて、S102及びS103におけるビームダンパ21の移動、及びS105における空間フィルタ30の調整は、自動的に行ってもよく、制御装置50の制御信号Eに基づいて手動で行ってもよい。
【0077】
このように、溶接状態検出システムの調整を行うことによって、溶接部からの戻り光を精度よく計測でき、溶接状態を高精度に検出することができる。また、このような溶接状態検出システムの調整は、レーザ溶接加工の実施毎に必ずしも行う必要がない。空間フィルタを調整した後の溶接状態検出システムは、溶接光学系の光学部材の配置に変更がない場合には、光学部材による内部反射光を減衰し、溶接部からの戻り光を精度よく計測する状態を維持することができる。ただし、保護ガラス等の保護光学部材は定期交換が必要な消耗部材である。保護ガラスの交換等により溶接装置の光学部材に変更があった場合に、レーザ溶接加工を実施する前に溶接状態検出システムの調整を実行することによって、変更後の溶接装置による溶接状態を高精度に検出することができる。
【0078】
以上、図2に示す集光レンズとピンホールマスクとによって構成された溶接状態検出システム20を説明したが、本開示の溶接状態検出システムは、他の構成を有することができる。以下、図6を参照して、本開示の実施の形態1の変形例に係る溶接状態検出システムの構成を説明する。
【0079】
(実施の形態1の変形例に係る溶接状態検出システムの構成)
図6は、本開示の実施の形態1の変形例に係る溶接状態検出システム20Aの構成及び内部反射光の減衰を示す概略平面図である。なお、図6では、説明のために、溶接装置10の一部のみを示し、同様な構成要素を同一の符号で示している。図6に示す溶接状態検出システム20Aは、空間フィルタ30Aと、測定装置40と、制御装置50とを備えている。溶接状態検出システム20Aの測定装置40及び制御装置50は、図2の溶接状態検出システム20と同様であって、詳細な説明を省略する。空間フィルタ30Aは、溶接状態検出システム20の空間フィルタ30と異なる構成を有し、以下に説明する。
【0080】
図6に示す溶接状態検出システム20Aが適用される溶接装置10Aのレーザ発振器(図示せず)は、直線偏光のレーザ光LmAを出射することができる。保護ガラス15の表面15aは、滑らかな光学面であるため、直線偏光のレーザ光LmAが保護ガラス15の表面15aで反射されて生じた内部反射光Lf0Aは、直線偏光光として部分反射ミラー13により溶接状態検出システム20Aに導かれる。一方、対象物16の加工面16aは、光の波面の乱れや散乱の多い非光学面である。したがって、直線偏光のレーザ光LmAが対象物16の加工面16aで反射されて生じた溶接部反射光Lf1Aは、ランダムな無偏光光として溶接状態検出システム20Aに入射する。
【0081】
図6に示すように、溶接状態検出システム20Aの空間フィルタ30Aは、図示+X方向に沿って順に配置された位相差板36と、偏光ビームスプリッタ37と、レンズ38とを含む。位相差板36は、入射した光の偏光状態(偏光面)を変化させる。例えば、直線偏光光として溶接状態検出システム20Aに入射した内部反射光Lf0Aは、位相差板36を透過することでその偏光面が回転され、直交する2つ偏光成分(S偏光光及びP偏光光)の比率が調整される。本実施の形態では、位相差板36は、例えば、1/2波長板で構成することができる。
【0082】
偏光ビームスプリッタ37は、溶接状態検出システム20Aに入射した戻り光LfAの伝搬径路に沿って、位相差板36の後段に配置される。偏光ビームスプリッタ37は、位相差板36を通過した直線偏光光のうち、例えば、P偏光光(又はS偏光光)を戻り光LfAの伝搬径路に沿って、図示+X方向に透過させる一方、S偏光光(又はP偏光光)を、戻り光LfAの伝搬径路と交差する図示-Y方向に向けて反射させる偏光分離膜を備えている。
【0083】
本実施の形態では、例えば、直線偏光光として溶接状態検出システム20Aに入射した内部反射光Lf0Aは、所定角度の位相差板36を透過することでその偏光面が回転される。位相差板36は、例えば、回転手段(図示せず)が設けられてもよく、回転手段によって位相差板36の角度を調整することができる。回転手段により位相差板36を適当の角度に回転することによって、内部反射光Lf0Aを偏光ビームスプリッタ37の偏光分離膜に対して、少なくとも一部がS偏光光(又はP偏光光)となるように出射することができる。出射された内部反射光Lf0AのS偏光成分(又はP偏光成分)は、偏光ビームスプリッタ37により反射され、戻り光LfAから除去される。
【0084】
一方、無偏光光として溶接状態検出システム20Aに入射した溶接部反射光Lf1Aは、その殆どが偏光ビームスプリッタ37を透過し、レンズ38によって集光され、空間フィルタ30Aから測定装置40に伝送される。なお、空間フィルタ30Aから出射した光を、光ファイバ(図示せず)によって測定装置40に伝送してもよい。
【0085】
このようにして、空間フィルタ30Aは、戻り光のうち、溶接部反射光Lf1Aの殆どを通過させ、内部反射光Lf0Aの少なくとも一部を除去することで、内部反射光Lf0Aによるノイズを低減し、溶接部反射光Lf1を精度よく計測することができる。
【0086】
なお、図6に示す溶接状態検出システム20Aにおいて、図4に示す溶接状態検出システム調整プロセスのS105では、制御装置50により、空間フィルタ30Aの調整を行うことができる。このとき、例えば、制御装置50が制御信号Eを送信して回転手段(図示せず)を作動し、内部反射光Lf0Aの少なくとも一部を、偏光ビームスプリッタ37の偏光分離膜により反射される偏光光で出射して、空間フィルタ30Aを透過した光の強度が調整基準値Isに一致するように、位相差板36を回転させる。
【0087】
このように、本開示の実施の形態に係る溶接状態検出システム及び溶接状態検出方法は、溶接光学系への影響を低減しつつ、内部反射光を減衰することで、内部反射光によるノイズを低減し、戻り光計測信号のSN比を向上させ、溶接部からの戻り光を精度よく計測することができる。これによって、溶接中に溶接状態を高精度に検出することができる。
【0088】
本開示による空間フィルタの代わりに、例えば、測定した戻り光の光強度に対して、データ処理で内部反射光によるノイズの除去が可能とも思われる。しかし、実際に、溶接中にレーザ光の出力パワーが常に変動するため、変動するレーザ光に追跡しながら、戻り光の測定値に対して内部反射光によるノイズを除去するための計算処理が非常に複雑であり、処理結果が実際の値と大きくかけ離れる場合も多い。それに対して、本開示は、空間フィルタを配置することによって、溶接中にレーザ光の出力パワーの変動に影響されることなく、シンプル且つ効果的に溶接部からの戻り光を精度よく計測することができる。
【0089】
なお、上記説明において、保護ガラスで発生した内部反射光を例として説明したが、本開示はこれに限定されない。本開示の溶接状態検出システム及び溶接状態検出方法は、溶接光学系の様々な光学部材で発生した内部反射光を減衰し、溶接部からの戻り光を精度よく計測するために適用可能である。
【0090】
以上のように、本開示における技術の例示としての実施の形態を説明するために、添付図面及び詳細な説明を提供した。したがって、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。したがって、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0091】
本開示は、添付図面を参照しながら好ましい実施の形態に関連して充分に記載されているが、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。そのような変更、及び異なる実施の形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態についても本開示の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本開示は、レーザ加工装置に適用可能である。本開示は、溶接状態の検出を行うレーザ加工に適用可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 レーザ加工装置
10,10A 溶接装置
11 レーザ発振器
12 コリメートレンズ
13 部分反射ミラー
14 集光レンズ
15 保護ガラス
16 対象物
20,20A 溶接状態検出システム
21 ビームダンパ
22 ビームダンパ駆動部
30,30A 空間フィルタ
31 集光レンズ
32,33 レンズ
35 ピンホールマスク
35a ピンホール
36 位相差板
37 偏光ビームスプリッタ
38 レンズ
40 測定装置
41 分光装置
42 光センサ
50 制御装置
51 プロセッサ
52 記憶装置
53 検出システム調整プログラム
54 溶接状態検出プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6