(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172353
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】マルチピースソリッドゴルフボール
(51)【国際特許分類】
A63B 37/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
A63B37/00 640
A63B37/00 618
A63B37/00 548
A63B37/00 542
A63B37/00 644
A63B37/00 632
A63B37/00 422
A63B37/00 426
A63B37/00 412
A63B37/00 336
A63B37/00 544
A63B37/00 418
A63B37/00 536
A63B37/00 332
A63B37/00 540
A63B37/00 538
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090009
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 英郎
(72)【発明者】
【氏名】木村 明
(57)【要約】
【課題】ドライバー(W#1)やアイアンでフルショットしたときに優位な飛距離が得られ、弾き感のある良好な打感、繰り返し打撃耐久性、ショートゲーム時のコントロール性に優れたゴルフボールを提供する。
【解決手段】コア、中間層及びカバーを具備し、コアはゴム組成物により形成され、中間層及びカバーは単層の樹脂組成物により形成され、コアの初速、中間層被覆球体の初速、中間層被覆球体にカバーを被覆した球体(ボール)の初速との関係が、(ボールの初速)<(中間層被覆球体の初速)、及び、0.60≦(中間層被覆球体の初速)-(コアの初速)≦0.90(m/s)を満たすと共に、コア及びボールの各球体に対して特定荷重を負荷したときのたわみ量をそれぞれC(mm)、B(mm)としたとき、C-Bの値が1.10mm以下、且つ、0.024≦(中間層の厚さ)/(ボールの直径)≦0.034を満たすマルチピースソリッドゴルフボール。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア、中間層及びカバーを具備するマルチピースソリッドゴルフボールであって、コアはゴム組成物により単層又は複数層に形成され、中間層及びカバーは、いずれも単層の樹脂組成物により形成されるものであり、コアの初速、コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の初速、中間層被覆球体にカバーを被覆した球体(ボール)の初速との関係が、下記の2つの式
(ボールの初速)<(中間層被覆球体の初速)
0.60≦(中間層被覆球体の初速)-(コアの初速)≦0.90(m/s)
を満たすと共に、コア及びボールの各球体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときのたわみ量(mm)をそれぞれC(mm)、B(mm)としたとき、C-Bの値が1.10mm以下であり、且つ、中間層の厚さとボールの直径との関係が、下記式
0.024≦(中間層の厚さ)/(ボールの直径)≦0.034
を満たすことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項2】
中間層の比重が1.05以上である請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項3】
中間層の樹脂組成物には、酸含量が16質量%以上である高酸アイオノマー樹脂が含まれる請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項4】
中間層には、無機粒状充填剤が含まれる請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項5】
カバーの比重と中間層の比重との差、中間層の比重とコアの比重との差、及び、コアの比重とカバーの比重との差が、いずれも0.15以内である請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項6】
上記ボールのたわみ量Bの値が、3.0mm以下である請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項7】
下記の式、
ボール表面硬度<中間層被覆球体の表面硬度>コア表面硬度
(但し、上記の各球体の表面硬度はショアC硬度を意味する。)
を満たす請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項8】
下記の式、
カバーの厚さ < 中間層の厚さ
(但し、中間層の厚さは1.02~1.45mmである。)
を満たす請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項9】
コアの直径が36.7~40.1mmであり、該コアの硬度分布において、コアの中心のショアC硬度をCc、コアの中心から外側に4mmのショアC硬度をCc+4、コアの中心と表面との中間位置MのショアC硬度をCm、コアの中間位置Mから内側に4mmのショアC硬度をCm-4、コアの中間位置Mから外側に4mmのショアC硬度をCm+4、コアの表面から内側に4mmのショアC硬度をCs-4、コアの表面のショアC硬度をCsとしたとき、下記の面積A~D
・面積A: 1/2×4×(Cc+4-Cc)
・面積B: 1/2×4×(Cm-Cm-4)
・面積C: 1/2×4×(Cm+4-Cm)
・面積D: 1/2×4×(Cs-Cs-4)
について、(面積C+面積D)-(面積A+面積B)≧2.0
を満たす請求項1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【請求項10】
下記の2つの式、
(面積C)-(面積A+面積B)≧2.0
(面積D)-(面積A+面積B)≧2.0
を満たす請求項9記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア、中間層及びカバーを具備する3層以上からなるマルチピースソリッドゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からボールを多層構造に設計する工夫が多くなされており、ヘッドスピードが速いプロや上級者のゴルファー向けのゴルフボールが多く開発されている。なかでも多いゴルフボールとしては、コア、中間層及びカバー(最外層)からなるスリーピースソリッドゴルフボールの開発である。具体的には、中間層やカバーの各層の材料硬度やコア表面硬度や中間層被覆球体の表面硬度を適正化した機能的なスリーピースソリッドゴルフボールの提案が多い、また、ボールの大部分の体積を占めるコア硬度分布に着目し、様々な態様のコア内部硬度を設計することにより高性能のゴルフボールを提供する技術がいくつか提案されている。
【0003】
このような技術文献としては、例えば、下記の特許文献1~7のスリーピースソリッドゴルフボールが挙げられる。
【0004】
しかしながら、上記提案のゴルフボールの中には、中間層被覆球体及びボールの各被覆球体の初速の関係について、あるいは、コアに特定荷重を負荷した時のたわみ量とボールに特定荷重を負荷した時のたわみ量との関係について開示されているものはあるものの、中間層被覆球体の初速とコアの初速との関係や中間層の比重についての着目が十分ではなく、更なる性能の高いゴルフボールを得るための改善の余地があった。また、ドライバー(W#1)のヘッドスピードが45m/s以上と速く、適度な硬さと弾き感を好むプロゴルファーにとっては、ドライバー(W#1)打撃での飛距離増大や、適度な硬さと弾き感がある飛びそうな打感を有し、且つ、アプローチでコントロールできる程度のスピンが掛かり、更には、高いヘッドスピード(HS)領域のユーザーが繰り返し使用しても十分な割れ耐久性を有するボールが望まれている。しかし、上記提案の従来技術のゴルフボールにおいては、これら全てを両立するボールは存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-97802号公報
【特許文献2】特開2011-120898号公報
【特許文献3】特開2016-112308号公報
【特許文献4】特開2017-183号公報
【特許文献5】特開2017-470号公報
【特許文献6】特開2018-183247号公報
【特許文献7】特開2019-198465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、主に、ヘッドスピードが速いプロや上級者が使用する際、ドライバー(W#1)及びアイアンショットでの打撃時の飛距離が優位となり、アプローチ時のコントロール性が良好となり、且つ、打感が良好であり、優れた繰り返し打撃耐久性を付与するゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、コア、中間層及びカバーを具備するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、コアの初速、コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の初速、中間層被覆球体にカバーを被覆した球体(ボール)の初速との関係が、下記の2つの式
(ボールの初速)<(中間層被覆球体の初速)
0.60≦(中間層被覆球体の初速)-(コアの初速)≦0.90(m/s)
を満たすと共に、コア及びボールの各球体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときのたわみ量(mm)をそれぞれC(mm)、B(mm)としたとき、C-Bの値が1.10mm以下であり、且つ、中間層の厚さとボールの直径との関係が、下記式
0.024≦(中間層の厚さ)/(ボールの直径)≦0.034
を満たすことにより、ドライバー(W#1)のヘッドスピード(HS)が45m/s以上と高いヘッドスピード領域において飛距離の増大を図ることができ、プロゴルファーが使用した時に適度な硬さと弾き感があり飛びそうな打感と感じられるような良好な打感を付与すると共に、アプローチショットではコントロールできる程度のスピンがかかり、ヘッドスピードの高いプロゴルファーが繰り返し使用しても十分な割れ耐久性を有することを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0008】
従って、本発明は、下記のマルチピースソリッドゴルフボールを提供する。
1.コア、中間層及びカバーを具備するマルチピースソリッドゴルフボールであって、コアはゴム組成物により単層又は複数層に形成され、中間層及びカバーは、いずれも単層の樹脂組成物により形成されるものであり、コアの初速、コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の初速、中間層被覆球体にカバーを被覆した球体(ボール)の初速との関係が、下記の2つの式
(ボールの初速)<(中間層被覆球体の初速)
0.60≦(中間層被覆球体の初速)-(コアの初速)≦0.90(m/s)
を満たすと共に、コア及びボールの各球体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときのたわみ量(mm)をそれぞれC(mm)、B(mm)としたとき、C-Bの値が1.10mm以下であり、且つ、中間層の厚さとボールの直径との関係が、下記式
0.024≦(中間層の厚さ)/(ボールの直径)≦0.034
を満たすことを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
2.中間層の比重が1.05以上である上記1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
3.中間層の樹脂組成物には、酸含量が16質量%以上である高酸アイオノマー樹脂が含まれる上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
4.中間層には、無機粒状充填剤が含まれる上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
5.カバーの比重と中間層の比重との差、中間層の比重とコアの比重との差、及び、コアの比重とカバーの比重との差が、いずれも0.15以内である上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
6.上記ボールのたわみ量Bの値が、3.0mm以下である上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
7.下記の式、
ボール表面硬度<中間層被覆球体の表面硬度>コア表面硬度
(但し、上記の各球体の表面硬度はショアC硬度を意味する。)
を満たす上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
8.下記の式、
カバーの厚さ < 中間層の厚さ
(但し、中間層の厚さは1.02~1.45mmである。)
を満たす上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
9.コアの直径が36.7~40.1mmであり、該コアの硬度分布において、コアの中心のショアC硬度をCc、コアの中心から外側に4mmのショアC硬度をCc+4、コアの中心と表面との中間位置MのショアC硬度をCm、コアの中間位置Mから内側に4mmのショアC硬度をCm-4、コアの中間位置Mから外側に4mmのショアC硬度をCm+4、コアの表面から内側に4mmのショアC硬度をCs-4、コアの表面のショアC硬度をCsとしたとき、下記の面積A~D
・面積A: 1/2×4×(Cc+4-Cc)
・面積B: 1/2×4×(Cm-Cm-4)
・面積C: 1/2×4×(Cm+4-Cm)
・面積D: 1/2×4×(Cs-Cs-4)
について、(面積C+面積D)-(面積A+面積B)≧2.0
を満たす上記1又は2記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
10.下記の2つの式、
(面積C)-(面積A+面積B)≧2.0
(面積D)-(面積A+面積B)≧2.0
を満たす上記9記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴルフボールによれば、主に、ヘッドスピードが速いプロや上級者のゴルファーにおいて、ドライバー(W#1)フルショット時に優位な飛距離が得られ、アプローチ時のスピン量も高くショットゲーム性にも優れる。そのうえ、本発明のゴルフボールは、弾き感のある良好な打感を有し、繰り返し打撃による耐久性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施態様であるゴルフボールの概略断面図である。
【
図2】コア硬度分布の面積A~Dを説明するために、実施例1のコア硬度分布データを用いて説明した概略図である。
【
図3】実施例1~3のコア硬度分布を示すグラフである。
【
図4】比較例1~5及び9のコア硬度分布を示すグラフである。
【
図5】比較例6~8及び10~12のコア硬度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、コア、中間層及びカバーを有するものであり、例えば、
図1にその一例を示す。
図1に示したゴルフボールGは、単層コア1と、該コア1を被覆する単層の中間層2と、該中間層を被覆する単層のカバー3を有している。このカバー3は、塗料層を除き、ゴルフボールの層構造での最外層に位置するものである。コアは、
図1に示すような単層のほか、複数層の形成することができる。なお、上記カバー(最外層)3の表面には、通常、空力特性の向上のためにディンプルDが多数形成される。また、カバー3の表面には、特に図示してはいないが、通常、塗料層が形成される。以下、上記の各層について詳述する。
【0012】
上記コアは、ゴム材を主材とするゴム組成物を加硫することにより得られる。コア材料がゴム組成物ではないとコアの反発性が低くなり、その結果としてボールが飛ばなくなることがある。このゴム組成物としては、通常、基材ゴムを主体とし、これに、共架橋剤、架橋開始剤、不活性充填剤、有機硫黄化合物等を配合させてゴム組成物を得るものである。
【0013】
基材ゴムとしては、ポリブタジエンを用いることが好ましい。ポリブタジエンの種類としては、市販品を用いることができ、例えば、BR01、BR51、BR730(JSR社製)などが挙げられる。また、基材ゴム中のポリブダジエンの割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上記基材ゴムには、上記ポリブタジエン以外にも他のゴム成分を本発明の効果を損なわない範囲で配合し得る。上記ポリブタジエン以外のゴム成分としては、上記ポリブタジエン以外のポリブタジエン、その他のジエンゴム、例えばスチレンブタジエンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム等を挙げることができる。
【0014】
共架橋剤は、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩である。不飽和カルボン酸として、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等を挙げることができ、特にアクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。不飽和カルボン酸の金属塩としては特に限定されるものではないが、例えば上記不飽和カルボン酸を所望の金属イオンで中和したものが挙げられる。具体的にはメタクリル酸、アクリル酸等の亜鉛塩やマグネシウム塩等が挙げられ、特にアクリル酸亜鉛が好適に用いられる。
【0015】
上記不飽和カルボン酸及び/又はその金属塩は、上記基材ゴム100質量部に対し、通常5質量部以上、好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上、上限として通常60質量部以下、好ましくは50質量部以下、更に好ましくは45質量部以下配合する。配合量が多すぎると、硬くなりすぎて耐え難い打感になる場合があり、配合量が少なすぎると、反発性が低下してしまう場合がある。
【0016】
架橋開始剤としては、有機過酸化物を使用することが好適である。具体的には市販品の有機過酸化物を用いることができ、例えば、パークミルD(日本油脂(株)製)、パーヘキサC-40、パーヘキサ3M(日本油脂(株)製)、Luperco 231XL(アトケム社製)等を好適に用いることができる。これらは1種を単独であるいは2種以上を併用してもよい。有機過酸化物の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、上限として、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2.5質量部以下配合する。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると好適な打感、耐久性及び反発性を得ることができない場合がある。
【0017】
充填材としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等を好適に用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。充填剤の配合量は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは3質量部以上とすることができる。また、配合量の上限は、上記基材ゴム100質量部に対し、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下とすることができる。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると適正な質量、及び好適な反発性を得ることができない場合がある。
【0018】
老化防止剤としては、例えば、ノクラックNS-6、同NS-30、同200、同MB(大内新興化学工業(株)製)等の市販品を採用することができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
老化防止剤の配合量については、特に制限はないが、基材ゴム100質量部に対し、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、上限として好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.7質量部以下、更に好ましくは0.5質量部以下である。配合量が多すぎたり、少なすぎたりすると、適正なコア硬度傾斜が得られずに好適な反発性、耐久性及びフルショット時の低スピン効果を得ることができない場合がある。
【0020】
更に、上記ゴム組成物には、優れた反発性を付与するために有機硫黄化合物を配合することができ、具体的には、チオフェノール、チオナフトール、ハロゲン化チオフェノール又はそれらの金属塩を配合することが推奨され、より具体的には、ペンタクロロチオフェノール、ペンタフルオロチオフェノール、ペンタブロモチオフェノール、パラクロロチオフェノール、ペンタクロロチオフェノール等の亜鉛塩、硫黄数が2~4のジフェニルポリスルフィド、ジベンジルポリスルフィド、ジベンゾイルポリスルフィド、ジベンゾチアゾイルポリスルフィド、ジチオベンゾイルポリスルフィド等が挙げられるが、特に、ペンタクロロチオフェノールの亜鉛塩、ジフェニルジスルフィドを好適に用いることができる。
【0021】
有機硫黄化合物は、上記基材ゴム100質量部に対し、5質量部以下、好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下、最も好ましくは2質量部以下配合する。また、この配合量の下限値は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上である。この配合量が多すぎると硬さが軟らかくなり過ぎてしまい、少な過ぎると反発性の向上が見込めない場合がある。
【0022】
上記ゴム組成物には水を配合することができる。この水については、特に制限はなく、蒸留水であっても水道水であってもよいが、特には、不純物を含まない蒸留水を使用することが好適に採用される。水の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上配合することが好ましく、より好ましくは0.2質量部以上であり、上限としては、好ましくは2質量部以下であり、より好ましくは1.5質量部以下である。
【0023】
コア材料に直接的に水または水を含む材料を配合することにより、コア配合中の有機過酸化物の分解を促進することができる。また、コア用ゴム組成物中の有機過酸化物は、温度によって分解効率が変化することが知られており、ある温度よりも高温になるほど分解効率が上がる。温度が高すぎると、分解したラジカル量が多くなりすぎてしまい、ラジカル同士で再結合や不活性化してしまうことになる。その結果、架橋に有効に働くラジカルが減ることになる。ここで、コア加硫の際に有機過酸化物が分解することで分解熱が発生するとき、コア表面付近は加硫モールドの温度とほぼ同程度を維持しているが、コア中心付近は外側から分解していった有機過酸化物の分解熱が蓄積されるため、モールド温度よりもかなり高温になる。コアに直接的に水または水を含む材料を配合した場合、水は有機過酸化物の分解を助長する働きがあるため、上述したようなラジカル反応をコア中心とコア表面において変化させることができる。即ち、コア中心付近では有機過酸化物の分解が更に助長され、ラジカルの不活性化がより促されることで有効ラジカル量が更に減少するため、コア中心とコア表面との架橋密度が大きく異なるコアを得ることができる。
【0024】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、100~200℃、好ましくは140~180℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させて製造することができる。
【0025】
本発明では、上記コアは単層もしくは複数層に形成されるが、単層に形成されることが好適である。複数層のゴム製コアに作製すると、これらのゴム層の界面の硬度差が大きい場合には繰り返し打撃した時に界面から剥離が生じ、フルショットした時にボールの初速ロスが発生する場合がある。
【0026】
コアの直径は、36.7mm以上であることが好ましく、より好ましくは37.2mm以上、さらに好ましくは37.6mm以上である。この直径の上限値は、好ましくは40.1mm以下、より好ましくは39.0mm以下、さらに好ましくは38.1mm以下である。コアの直径が小さすぎると、ボール初速が低くなり、あるいはボール全体のたわみ量が小さくなり、フルショット時のボールのスピン量が増えてしまい、狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、コアの直径が大きすぎると、フルショット時のスピン量が増えてしまい狙いの飛距離が得られなくなり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0027】
コアに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときのたわみ量(mm)は、特に制限はないが、好ましくは2.7mm以上、より好ましくは2.9mm以上、更に好ましくは3.1mm以上であり、上限値として、好ましくは4.0mm以下、より好ましくは3.8mm以下、さらに好ましくは3.7mm以下である。上記コアのたわみ量が小さすぎる、即ち、コアが硬すぎると、ボールのスピン量が増えすぎて飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記コアのたわみ量が大きすぎる、即ち、コアが軟らかすぎると、ボールの反発性が低くなりすぎて飛ばなくなったり、打感が軟らかくなりすぎ、あるいは繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0028】
次に、上記コアの硬度分布については説明する。なお、以下に説明するコアの硬度はショアC硬度を意味する。このショアC硬度は、ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計にて計測した硬度値である。
【0029】
上記コアの中心硬度(Cc)は、好ましくは53以上、より好ましくは55以上、さらに好ましくは57以上であり、その上限値は、好ましくは69以下、より好ましくは67以下、さらに好ましくは65以下である。この値が大きすぎると、打感が硬くなり、あるいはフルショットでスピン量が増えて狙いの飛距離が得られない場合がある。一方、上記の値が小さすぎると、反発性が低くなり飛ばなくなり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0030】
上記コアの中心から外側に4mmの位置硬度(Cc+4)は、特に制限されるものではないが、好ましくは55以上、より好ましくは57以上、更に好ましくは59以上とすることができ、また、その上限も特に制限はなく、好ましくは71以下、より好ましくは69以下、更に好ましくは67以下とすることができる。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0031】
上記コアの中間位置Mから内側に4mmの位置硬度(Cm-4)は、特に制限されるものではないが、好ましくは56以上、より好ましくは58以上、更に好ましくは60以上とすることができ、また、その上限も特に制限はなく、好ましくは72以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは68以下とすることができる。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0032】
上記コアの中間位置Mの断面硬度(Cm)は、特に制限されるものではないが、好ましくは58以上、より好ましくは60以上、更に好ましくは62以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、好ましくは72以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは68以下とすることができる。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの中心硬度(Cc)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0033】
上記コアの中間位置Mからコア表面に向けて外側(以下、単に「外側」という。)に4mmの位置硬度(Cm+4)は、特に制限されるものではないが、好ましくは68以上、より好ましくは70以上、更に好ましくは72以上とすることができ、また、その上限も特に制限はなく、好ましくは81以下、より好ましくは79以下、更に好ましくは77以下とすることができる。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、あるいは打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記の値が小さすぎると、反発性が低くなり飛ばなくなり、あるいはフルショット時のスピンが多くなり狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0034】
上記コアの表面から内側に4mmの位置硬度(Cs-4)は、特に制限されるものではないが、好ましくは71以上、より好ましくは73以上、更に好ましくは75以上とすることができ、また、その上限も特に制限はなく、好ましくは85以下、より好ましくは83以下、更に好ましくは81以下とすることができる。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの位置硬度(Cm+4)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0035】
上記コアの表面硬度(Cs)は、好ましくは80以上、より好ましくは82以上、さらに好ましくは84以上であり、その上限値は、好ましくは91以下、より好ましくは89以下、さらに好ましくは87以下である。これらの硬度を逸脱した場合、上記コアの位置硬度(Cm+4)で説明したのと同様の不利な結果を招くおそれがある。
【0036】
上記コアの表面硬度と中心硬度との差(Cs-Cc)は、特に制限されるものではないが、好ましくは18以上、より好ましくは19以上、更に好ましく20以上である。一方、その上限値は、特に制限はなく、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、更に好ましくは27以下とすることができる。この値が小さすぎると、フルショットした時にボールが低スピン化にならないことがある。一方、この値が大きすぎると、フルショットした時の実打初速が低くなりすぎたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0037】
また、上記コアの硬度分布については、(Cs-Cc)/(Cm-Cc)の値を適正化することが好ましい。(Cs-Cc)/(Cm-Cc)の値は、コアの中心から中間位置Mまでの硬度差に対する、コア表面から中心までの硬度差の指標値である。(Cs-Cc)/(Cm-Cc)の値は、好ましくは4.0以上、より好ましくは4.5以上、さらに好ましくは5.0以上であり、上限値として、好ましくは20.0以下、より好ましくは15.0以下、さらに好ましくは10.0以下である。この値が小さすぎると、フルショットした時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られないことがある。一方、この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0038】
上記コア硬度分布においては、下記の面積A~D
・面積A: 1/2×4×(Cc+4-Cc)
・面積B: 1/2×4×(Cm-Cm-4)
・面積C: 1/2×4×(Cm+4-Cm)
・面積D: 1/2×4×(Cs-Cs-4)
について、(面積C+面積D)-(面積A+面積B)の値が2.0以上であることが好ましく、より好ましくは6.0以上、さらに好ましくは20.0以上であり、上限値としては、好ましくは35.0以下、より好ましくは30.0以下、さらに好ましくは27.0以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。一方、この値が小さくなりすぎると、フルショットした時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0039】
また、(面積C)-(面積A+面積B)の値が2.0以上であることが好ましく、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは6.0以上であり、上限値としては、好ましくは20.0以下、より好ましくは16.0以下、さらに好ましくは13.0以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。一方、この値が小さくなりすぎると、フルショットした時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0040】
さらに、(面積D)-(面積A+面積B)の値が2.0以上であることが好ましく、より好ましくは4.0以上、さらに好ましくは6.0以上であり、上限値としては、好ましくは20.0以下、より好ましくは16.0以下、さらに好ましくは13.0以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。一方、この値が小さくなりすぎると、フルショットした時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0041】
なお、
図2には、実施例1のコア硬度分布データを用いて面積A~Dを説明した概略図を示す。このように面積A~Dは、各特定距離の差を底辺とし、各位置硬度の差を高さに持つ各三角形の面積である。
【0042】
コアの初速は、好ましくは75.8m/s以上、より好ましくは76.3m/s以上、さらに好ましくは76.7m/s以上であり、上限値としては、好ましくは78.0m/s以下、より好ましくは77.5m/s以下、さらに好ましくは77.0m/s以下である。この初速値が高すぎると、ボールの初速が速くなりすぎてしまい、ルール外となってしまうことがある。一方、コアの初速が低すぎると、フルショット時にボールの反発性が低くなり、あるいはスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。この場合における上記の初速の値は、R&Aと同型のCOR型初速計にて計測した数値である。具体的には、米国のHye Precision製のCOR型初速装置を用いる。条件としては、測定の際は、エアの圧力を4段階に変更して測定し、入射速度とCORとの関係式を構築し、この関係式から、入射速度43.83m/s時の初速を求めるものである。なお、上記のCOR型初速装置の測定環境については、23.9±1℃に調整された恒温槽で3時間以上温調したボールを使用し、計測するときは、23.9±2℃の室温下で計測される。
【0043】
次に、中間層について説明する。
中間層の材料硬度は、特に制限はないが、ショアC硬度で、好ましくは90以上、より好ましくは92以上、さらに好ましくは93以上であり、上限値として、好ましくは100以下、より好ましくは98以下、さらに好ましくは96以下である。ショアD硬度では、好ましくは64以上、より好ましくは66以上、さらに好ましくは68以上であり、上限値として、好ましくは75以下、より好ましくは72以下、さらに好ましくは70以下である。
【0044】
コアを中間層で被覆した球体(中間層被覆球体)の表面硬度は、ショアC硬度で、好ましくは95以上、より好ましくは96以上、さらに好ましくは97以上であり、上限値として、好ましくは100以下、より好ましくは99以下、さらに好ましくは98以下である。ショアD硬度では、好ましくは68以上、より好ましくは69以上、さらに好ましくは70以上であり、上限値として、好ましくは78以下、より好ましくは75以下、さらに好ましくは72以下である。
【0045】
これらの中間層の材料硬度及び表面硬度が上記範囲よりも軟らかすぎると、フルショット時のスピンが掛かりすぎたり、あるいはボール初速が低くなり、飛距離が出なくなることがある。一方、中間層の材料硬度及び表面硬度が上記範囲より硬すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなり、あるいはパターやショートアプローチ実施時の打感が硬くなりすぎることがある。
【0046】
中間層の厚さは、好ましくは1.02mm以上であり、より好ましくは1.11mm以上、さらに好ましくは1.20mm以上である。一方、中間層の厚さの上限値としては、好ましくは1.45mm以下、より好ましくは1.37mm以下、さらに好ましくは1.32mm以下である。また、中間層の厚さは、後述するカバーより厚くすることが好適である。中間層の厚さが、上記範囲を外れ、あるいはカバーより薄くなると、ドライバー(W#1)打撃時のボ-ルの低スピン効果が足りず飛距離が出なくなることがある。また、中間層が薄すぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性や低温時の耐久性が悪くなることがある。
【0047】
中間層厚さからカバー厚さを引いた値は、好ましくは0mmより大きく、より好ましくは0.20mm以上、さらに好ましくは0.32mm以上であり、上限値としては、好ましくは0.62mm以下、より好ましくは0.58mm以下、さらに0.55mm以下である。上記値が上記範囲を逸脱すると、フルショットでのボールのスピン量が増えたり、実打初速が低くなるなどして、狙いの飛距離が得られなくなることがある。上記値が小さすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0048】
本発明では、中間層の厚さ(mm)とボール直径(mm)との関係、即ち、(中間層の厚さ)/(ボール直径)の値は、0.024以上0.034以下である。この値の好ましい下限値は、0.026以上であり、より好ましくは0.028以上である。一方、上限値としては、好ましくは0.032以下、より好ましくは0.031以下である。この値が小さすぎると、フルショットした時の打感から適度な硬さと弾き感が両立できずにプロゴルファーにとって良い打感と感じられなくなる場合があり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。一方、この値が大きすぎると、弾き感が薄れて、プロゴルファーにとって良い打感と感じられなくなることがある。
【0049】
中間層の材料については、アイオノマー樹脂を主材料として採用することが好適である。
【0050】
アイオノマー樹脂材料としては、不飽和カルボン酸の含量(「酸含量」ともいう)が16質量%以上の高酸含量アイオノマー樹脂を含むことが好適である。
【0051】
また、高酸含量アイオノマー樹脂の含有率は、樹脂材料100質量%に対して、好ましくは20質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、上限として、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下である。上記の高酸含量アイオノマー樹脂の配合量が少なすぎると、フルショット時のボールのスピン量が多くなり、飛距離が出なくなることがある。一方、上記の高酸含量アイオノマー樹脂の配合量が多すぎると、繰り返し打撃耐久性が悪くなることがある。
【0052】
また、アイオノマー樹脂を主材料として採用する場合、亜鉛中和型アイオノマー樹脂とナトリウム中和型アイオノマー樹脂とを混合して主材として用いる態様が望ましい。その配合比率は、亜鉛中和型/ナトリウム中和型(質量比)で5/95~95/5、好ましくは10/90~90/10、更に好ましくは15/85~85/15である。この比率内にZn中和アイオノマーとNa中和アイオノマーを含めないと、反発が低くなりすぎて所望の飛びが得られなかったり、常温での繰り返し打撃時の割れ耐久性が悪くなったり、さらに低温(零下)での割れ耐久性が悪くなることがある。
【0053】
中間層材料には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、基材樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0054】
中間層材料については、後述するカバー材で好適に用いられるポリウレタンとの密着度を高めるために中間層表面を研磨することが好適である。更に、その研磨処理の後にプライマー(接着剤)を中間層表面に塗布するか、もしくは材料中に密着強化材を添加することが好ましい。
【0055】
中間層の材料には、無機粒状充填剤を含有することができる。この無機粒状充填剤は、特に制限されるものではないが、酸化亜鉛、硫酸バリウム、二酸化チタン等を適宜使用することができる。繰り返し打撃による割れ耐久性が優れる点から、好ましくは硫酸バリウム、特に好ましくは沈降性硫酸バリウムが好適に使用できる。
【0056】
上記無機粒状充填剤の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、0.01~100μmとすることが好ましく、より好ましくは0.1~10μmとすることができる。上記無機粒状充填剤の平均粒子径が小さすぎても、大きすぎても、材料調製時における分散性が悪化する場合がある。なお、上記の平均粒子径は、適当な分散材とともに水溶液に分散させ、粒度分布測定装置により測定される粒子径を意味する。
【0057】
上記無機粒状充填剤の配合量は、特に制限されるものではないが、中間層材料のベース樹脂100質量部に対して、好ましくは0質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは15質量部以上とすることができる。また、その上限も特に制限されるものではないが、50質量部以下、好ましくは40質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。無機粒状充填剤の配合量が少なすぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。一方、無機粒状充填剤の配合量が多すぎると、ボールの反発性が低くなり、あるいはフルショット時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が出なくなることがある。
【0058】
中間層の比重は、好ましくは1.05以上、より好ましくは1.07以上、さらに好ましくは1.09以上であり、上限値は、好ましくは1.25以下、より好ましくは1.20以下、さらに好ましくは1.15以下である。中間層の比重が小さすぎると、繰り返し打撃による割れ耐久性が悪くなることがある。一方、中間層の比重が大きすぎると、ボールの反発性が低くなり、あるいはフルショット時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が出なくなることがある。
【0059】
コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の初速は、好ましくは77.0m/s以上、より好ましくは77.3m/s以上、さらに好ましくは77.5m/s以上であり、上限値としては、好ましくは78.5m/s以下、より好ましくは78.2m/s以下、さらに好ましくは77.9m/sである。この初速値が高すぎると、ボールの初速が速くなりすぎてしまい、ルール外となってしまうことがある。一方、この初速が低すぎると、フルショット時にボールの反発性が低くなり、あるいはスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。この場合における初速については、上述したコアの初速の測定で使用する装置及び条件と同様である。
【0060】
次に、カバーについて説明する。
カバーの材料硬度は、特に制限はないが、ショアC硬度で、好ましくは50以上、より好ましくは57以上、さらに好ましくは63以上であり、上限値として、好ましくは80以下、より好ましくは74以下、さらに好ましくは70以下である。ショアD硬度では、好ましくは30以上、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上であり、上限値として、好ましくは53以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは47以下である。
【0061】
中間層被覆球体をカバーで被覆した球体(ボール)の表面硬度は、ショアC硬度で、好ましくは73以上、より好ましくは78以上、さらに好ましくは83以上であり、上限値として、好ましくは95以下、より好ましくは92以下、さらに好ましくは90以下である。ショアD硬度では、好ましくは50以上、より好ましくは53以上、さらに好ましくは56以上であり、上限値として、好ましくは70以下、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。
【0062】
これらのカバーの材料硬度及び表面硬度が上記範囲よりも軟らかすぎると、フルショット時のスピン量が増えすぎて飛距離が出なくなることがある。一方、カバーの材料硬度及び表面硬度が上記範囲より硬すぎると、アプローチでのスピンが掛からなくなり、あるいは耐擦過傷性が悪くなることがある。
【0063】
カバーの厚さは、好ましくは0.3mm以上であり、より好ましくは0.45mm以上、さらに好ましくは0.6mm以上である。一方、カバーの厚さの上限値としては、好ましくは1.2mm以下、より好ましくは0.9mm以下、さらに好ましくは0.8mm以下である。上記カバーが厚すぎると、フルショット時にボールの反発性が足りなくなったり、あるいはスピン量が多くなるなどして、その結果、飛距離が出なくなることがある。一方、上記カバーが薄すぎると、耐擦過傷性が悪くなり、あるいはアプローチでのスピンが掛からなくなりコントロール性が不足することがある。
【0064】
上記カバーの材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂を使用することができるが、ショートゲームでのスピンコントロール性と耐擦過傷性の観点から、熱可塑性ポリウレタンを主体とした樹脂材料を使用することが好適である。即ち、(I)熱可塑性ポリウレタン及び(II)ポリイソシアネート化合物を主成分とする樹脂配合物により形成することが好適である。
【0065】
上記の(I)成分と(II)成分とを合わせた合計質量が、カバーの樹脂組成物全量に対して、60%以上であることが推奨され、より好ましくは、70%以上である。上記(I)成分及び(II)成分については以下に詳述する。
【0066】
上記(I)熱可塑性ポリウレタンについて述べると、その熱可塑性ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、鎖延長剤およびポリイソシアネート化合物からなるハードセグメントとを含む。ここで、原料となる長鎖ポリオールとしては、従来から熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種類のものを使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらのうちでも、反発弾性率が高く低温特性に優れた熱可塑性ポリウレタンを合成できる点で、ポリエーテルポリオールが好ましい。
【0067】
鎖延長剤としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、例えば、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有する分子量400以下の低分子化合物であることが好ましい。鎖延長剤としては、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。鎖延長剤としては、これらのうちでも、炭素数2~12の脂肪族ジオールが好ましく、1,4-ブチレングリコールがより好ましい。
【0068】
ポリイソシアネート化合物としては、従来の熱可塑性ポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-(又は)2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。本発明においては生産時の安定性と発現される物性とのバランスとの観点から、芳香族ジイソシアネートである4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートが最も好ましい。
【0069】
具体的な(I)成分の熱可塑性ポリウレタンとし、市販品を用いることもでき、例えば、パンデックスT8295,同T8290,同T8260(いずれもディーアイシーコベストロポリマー社製)などが挙げられる。
【0070】
必須成分ではないが、上記(I)及び(II)成分に、別の成分である(III)成分として、上記熱可塑性ポリウレタン以外の熱可塑性エラストマーを配合することができる。この(III)成分を上記樹脂配合物に配合することにより、樹脂配合物の更なる流動性の向上や反発性、耐擦過傷性等、ゴルフボールカバー材として要求される諸物性を高めることができる。
【0071】
上記(I)、(II)及び(III)成分の組成比については、特に制限はないが、本発明の効果を十分に有効に発揮させるためには、質量比で(I):(II):(III)=100:2~50:0~50であることが好ましく、さらに好ましくは、(I):(II):(III)=100:2~30:8~50(質量比)とすることである。
【0072】
さらに、上記の樹脂配合物には、必要に応じて、上記の熱可塑性ポリウレタンを構成する成分以外の種々の添加剤を配合することができ、例えば顔料、分散剤、酸化防止剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤等を適宜配合することができる。
【0073】
カバーの比重については、特に制限されるものではないが、好ましくは1.00以上、より好ましくは1.03以上、さらに好ましくは1.06以上であり、上限としては、好ましくは1.20以下、より好ましくは1.17以下、さらに好ましくは1.14以下である。カバーの比重が上記範囲より小さいと、主材のウレタンカバーにアイオノマーなどの比重の小さい材料をブレンドする比率が高くなってしまうことになり、その結果として耐擦過傷性が悪くなることがある。一方、カバーの比重が大きすぎると、充填剤の添加量が多くなり、反発性が低くなりすぎて狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0074】
上述したコア,中間層及びカバー(最外層)の各層を積層して形成されたマルチピースソリッドゴルフボールの製造方法については、公知の射出成形法等の常法により行なうことができる。例えば、コアの周囲に中間層材料を射出成形用金型で射出して中間層被覆球体を得、最後に、最外層であるカバーの材料を射出成形することによりマルチピースのゴルフボールを得ることができる。また、半殻球状に成形した2枚のハーフカップを予め用意し、これでコアや中間層被覆球体を包み加熱加圧成形することによりゴルフボールを作製することもできる。
【0075】
ゴルフボールに対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときのたわみ量(mm)は、2.3mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.4mm以上、さらに好ましくは2.5mm以上である。一方、上記たわみ量の上限値としては、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.9mm以下、更に好ましくは2.8mm以下である。ゴルフボールのたわみ量が小さすぎる、即ち、硬すぎると、スピン量が増えすぎて飛ばなくなったり、打感が硬くなりすぎることがある。一方、上記のたわみ量が大きすぎる、即ち、上記球体が軟らかすぎると、ドライバー(W#1)等でフルショットした時の実打初速が低くなりすぎて飛ばなくなったり、打感が軟らかくなりすぎたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0076】
中間層被覆球体にカバーを被覆した球体(ボール)の初速は、好ましくは76.8m/s以上、より好ましくは77.0m/s以上、さらに好ましくは77.2m/s以上であり、上限値としては、好ましくは77.724m/s以下である。この初速値が高すぎると、ボールの初速が速くなりすぎてしまい、ルール外となってしまう。一方、この初速が低すぎると、フルショット時にボールが飛ばなくなることがある。この場合における初速については、上述したコア及び中間層被覆球体の初速の測定で使用する装置及び条件と同様である。
【0077】
〔各球体の表面硬度の関係について
中間層被覆球体の表面硬度とボールの表面硬度との関係については、下記の式、
ボール表面硬度<中間層被覆球体の表面硬度
(但し、上記の各球体の表面硬度はショアC硬度を意味する。)
であることが好ましい。上記の関係を満たさないと、フルショット時のボールのスピン量が増えて飛距離が出なくなったり、ショートゲーム時のコントロール性が悪くなることがある。中間層被覆球体の表面硬度からボールの表面硬度を引いた値は、ショアC硬度で、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上であり、上限値としては、好ましくは25以下、より好ましくは17以下、さらに好ましくは14以下である。上記値が小さすぎると、ショートゲームにおけるコントロール性が悪くなることがある。一方、上記値が大きすぎると、フルショット時のスピンが増えて狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0078】
中間層被覆球体の表面硬度からコアの表面硬度を引いた値は、ショアC硬度で、好ましくは1以上、より好ましくは6以上、さらに好ましくは10以上であり、上限値としては、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下である。上記値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなったり、実打初速が低くなり狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、上記値が小さすぎると、フルショットした時のボールのスピン量が多くなり、狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0079】
中間層被覆球体の表面硬度からコアの中心硬度を引いた値は、ショアC硬度で、好ましくは23以上、より好ましくは28以上、さらに好ましくは33以上であり、上限値としては、好ましくは52以下、より好ましくは47以下、さらに好ましくは42以下である。上記値が小さすぎると、フルショット時にボールのスピン量が増え、狙いの飛距離が出なくなることがある。一方、上記値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなり、または実打初速が低くなり狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0080】
〔各球体の初速関係について〕
コアの初速、コアに中間層を被覆した球体(中間層被覆球体)の初速、中間層被覆球体にカバーを被覆した球体(ボール)の初速との関係については、下記の2つの式
(ボールの初速)<(中間層被覆球体の初速)
0.60≦(中間層被覆球体の初速)-(コアの初速)≦0.90(m/s)
を満たすことを要する。これらの各層の初速関係を適正化することにより、フルショットした時のスピン量を抑えて所望の飛距離を得ることができ、且つ、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が良好になる。
【0081】
中間層被覆球体の初速からボール初速を引いた値は、0m/sより大きく、好ましくは0.10m/s以上、さらに好ましくは0.30m/s以上であり、上限値としては、好ましくは1.00m/s以下、より好ましくは0.70m/s以下、さらに好ましくは0.55m/s以下である。この値が大きすぎると、フルショット時にボールのスピン量が増たり、実打初速が低くなるなどして、狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、この値が小さすぎる場合、それがカバー起因の場合はカバーが硬くなりショートゲーム時にスピンが掛からなくなり、または繰り返し打撃耐久性が劣る。また、この値が小さいことが中間層に起因する場合はフルショットでボールのスピン量が増え、狙いの飛距離が得られなくなることがある。
【0082】
中間層被覆球体の初速からコアの初速を引いた値は、好ましくは0.60m/s以上、より好ましくは0.70m/s以上、さらに好ましくは0.75m/s以上であり、上限値としては、好ましく0.90m/s以下、より好ましくは0.89m/s以下、さらに好ましくは0.88m/s以下である。この値が大きすぎると、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなったり、飛距離が出なくなったり、打感が悪くなることがある。一方,
この値が小さすぎると、フルショットした時にスピン量が増えて狙いの飛距離が得られなくなったり、打感が悪くなることがある。
【0083】
〔コア、中間層及びカバーとの比重関係について〕
カバーの比重と中間層の比重との差、中間層の比重とコアの比重との差、及び、コアの比重とカバーの比重との差については、いずれも、通常、±0.15以内、好ましくは±0.10以内、より好ましくは±0.05以内とすることが推奨される。即ち、これらの比重差が、が大きすぎると、中間層材料及び/またはカバー材料が、これらの層と内側に位置する層と完全に同心円上に成型できず偏芯してしまった場合に、そのボールをパターで打ったときには左右へのぶれが大きくなってしまうことがある。
【0084】
〔コア直径とボールの直径について〕
コア直径とボール直径との関係、即ち、(コア直径)/(ボール直径)の値が、0.860以上であることが好ましく、より好ましくは0.870以上、さらに好ましくは0.880以上である。一方、上限値としては、好ましくは0.940以下、より好ましくは0.910以下、さらに好ましくは0.895以下である。この値が小さすぎると、ボール初速が低くなり、あるいはボール全体のたわみ量が小さくなりボールが硬くなってしまい、フルショット時のボールのスピン量が増え、狙いの飛距離が得られなくなることがある。一方、上記値が大きすぎると、フルショット時のボールのスピン量が増えて狙いの飛距離が得られなくなったり、あるいは繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0085】
〔コアとボールのたわみ量の差について〕
コア及びボールの各球体に対して、初期荷重98N(10kgf)から終荷重1,275N(130kgf)を負荷したときのたわみ量(mm)をそれぞれC(mm)、B(mm)としたとき、C-Bの値が0.64mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.74mm以上、さらに好ましくは0.84mm以上である。一方、上限値は、好ましくは1.10mm以下であり、より好ましくは1.04mm以下、さらに好ましくは1.00mm以下である。この値が大きすぎると、ドライバー(W#1)で打撃した時の実打初速が低くなり、狙いの飛距離が得られなくなったり、プロゴルファーにとって打感が悪く感じられたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。一方、この値が小さすぎると、プロゴルファーにとって打感が悪く感じられたり、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪くなることがある。
【0086】
カバーの外表面には多数のディンプルを形成することができる。カバー表面に配置されるディンプルについては、特に制限はないが、好ましくは250個以上、好ましくは300個以上、より好ましくは320個以上であり、上限として、好ましくは380個以下、より好ましくは350個以下、さらに好ましくは340個以下具備することができる。ディンプルの個数が上記範囲より多くなると、ボールの弾道が低くなり、飛距離が低下することがある。一方、ディンプル個数が少なくなると、ボールの弾道が高くなり、飛距離が伸びなくなる場合がある。
【0087】
ディンプルの形状については、円形、各種多角形、デュードロップ形、その他楕円形など1種類又は2種類以上を組み合わせて適宜使用することができる。例えば、円形ディンプルを使用する場合には、直径は2.5mm以上6.5mm以下程度、深さは0.08mm以上0.30mm以下とすることができる。
【0088】
ディンプルがゴルフボールの球面に占めるディンプル占有率、具体的には、ディンプルの縁に囲まれた平面の面縁で定義されるディンプル面積の合計が、ディンプルが存在しないと仮定したボール球面積に占める比率(SR値)については、空気力学特性を十分に発揮し得る点から70%以上90%以下であることが望ましい。また、各々のディンプルの縁に囲まれた平面下のディンプルの空間体積を、前記平面を底面とし、かつこの底面からのディンプルの最大深さを高さとする円柱体積で除した値V0は、ボールの弾道の適正化を図る点から0.35以上0.80以下とすることが好適である。更に、ディンプルの縁に囲まれた平面から下方に形成されるディンプル容積の合計がディンプルが存在しないと仮定したボール球容積に占めるVR値は、0.6%以上1.0%以下とすることが好ましい。上述した各数値の範囲を逸脱すると、良好な飛距離が得られない弾道となり、十分満足した飛距離を出せない場合がある。
【0089】
なお、本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径は42.672mm内径のリングを通過しない大きさであり、質量は好ましくは45.0~45.93gに形成することができる。
【実施例0090】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0091】
〔実施例1~3、比較例1~12〕
コアの形成
比較例3及び比較例5~10については、表1に示した各例のゴム組成物を調製した後、表1に示す各例の加硫条件により加硫成形することによりソリッドコアを作製した。
【0092】
実施例1~3及び比較例1,2,4,11,12については、上記と同様に、表1の配合に基づいてコアを作製する。
【0093】
【0094】
上記の配合についての詳細は下記のとおりである。
・ポリブタジエンA:商品名「BR 01」(ENEOSマテリアル社製)
・ポリブタジエンB:商品名「BR 730」(ENEOSマテリアル社製)
・ポリブタジエンC:商品名「BR T700」(ENEOSマテリアル社製)
・アクリル酸亜鉛:商品名「ZN-DA85S」(日本触媒社製)
・有機過酸化物A:ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・有機過酸化物B:1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカとの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・硫黄:商品名「サンミックスS-80N」(三新化学工業)、ゴム用粉末硫黄を80質量%含有する硫黄マスターバッチ
・水:純水(正起薬品工業社製)
・老化防止剤A:2,2-メチレンビス(4-メチル-6-ブチルフェノール)、商品名「ノクラックNS-6」(大内新興化学工業社製)
・老化防止剤B:2-メルカプトベンズイミダゾール、商品名「ノクラックMB」(大内新興化学工業社製)
・ステアリン酸亜鉛:商品名「ジンクステアレートGP」(日油社製)
・酸化亜鉛:商品名「酸化亜鉛3種」(堺化学工業社製)
・ペンタクロロチオフェノール亜鉛塩:富士フィルム和光純薬社製
【0095】
中間層及びカバー(最外層)の形成
次に、比較例3及び比較例5~10については、射出成形用金型を用いて、コア表面の周囲に、表2に示す中間層の樹脂材料No.2,No.3又はNo.4により射出成形し、中間層を形成した。次いで、別の射出成形用金型を用いて、上記の中間層被覆球体の周囲に、表2に示すカバー(最外層)の樹脂材料No.10により射出成形し、カバーを形成した。この際、カバー表面には、全ての実施例及び比較例に共通する所定の多数のディンプルを形成した。
【0096】
実施例1~3及び比較例1,2,4,11,12については、射出成形用金型を用いて、コア表面の周囲に、表2に示す中間層の樹脂材料No.1,No.2,No.4又はNo.5により射出成形し、中間層を形成する。次いで、別の射出成形用金型を用いて、上記の中間層被覆球体の周囲に、表2に示すカバー(最外層)の樹脂材料No.7,No.8,No.9又はNo.10により射出成形し、カバーを形成する。この際、カバー表面には、全ての実施例及び比較例に共通する所定の多数のディンプルを形成する。
【0097】
【0098】
上記表中の配合成分の詳細は下記のとおりである。
表中に記載した主な材料の商品名は以下の通りである。
「HPF1000」THE DOW CHEMICAL COMPANY社製 HPF(商標)1000
「ハイミラン1605」「ハイミラン1855」「ハイミラン1557」「ハイミラン1706」「AM7318」「AM7327」三井・ダウポリケミカル社製のアイオノマー
「硫酸バリウム」堺化学工業社製の「沈降性硫酸バリウム300」
「トリメチロールプロパン」(TMP)東京化成工業社製
「TPU(1)」ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、エーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン、材料硬度(ショアD)「47」
「TPU(2)」ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、エーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン、材料硬度(ショアD)「43」
【0099】
得られた各ゴルフボールにつき、コアの各位置における内部硬度、コアや各被覆球体の外径、各層の厚さ及び材料硬度、各被覆球体の表面硬度、各被覆球体の初速などの諸物性を下記の方法で評価し、表3及び表4に示す。
【0100】
コア硬度分布
コアの表面は球面であるが、その球面に硬度計の針をほぼ垂直になるようにセットし、ASTM D2240に従ってショアC硬度で表面硬度を計測する。コアの中心及び所定位置については、コアを半球状にカットして断面を平面にして、中心部分及び表3に示した所定位置に硬度計の針を垂直に押し当てて測定し、中心及び各位置の硬度をショアC硬度の値で示す。硬度の測定には、ショアC型硬度計を備えた高分子計器株式会社製の自動ゴム硬度計「P2」が用いられる。硬度の値は最大値を読み取る。測定は、全て、23±2℃の環境下でなされる。なお、表中の数値はショアC硬度の値である。
また、コアの硬度分布において、コアの中心のショアC硬度Cc、コアの中心から外側に4mmのショアC硬度Cc+4、コアの中心と表面との中間位置MのショアC硬度Cm、コアの中間位置Mから内側に4mmのショアC硬度Cm-4、コアの中間位置Mから外側に4mmのショアC硬度Cm+4、コアの表面から内側に4mmのショアC硬度Cs-4、コアの表面のショアC硬度Csについては、下記の面積A~D
・面積A: 1/2×4×(Cc+4-Cc)
・面積B: 1/2×4×(Cm-Cm-4)
・面積C: 1/2×4×(Cm+4-Cm)
・面積D: 1/2×4×(Cs-Cs-4)
を計算し、下記の5個の数式の値を求める。
(1)面積:A+B
(2)面積:C+D
(3)(面積:C+D)-(面積:A+B)
(4)(面積:C)-(面積:A+B)
(5)(面積:D)-(面積:A+B)
【0101】
コア硬度分布の面積A~Dの説明として、実施例1のコア硬度分布データを用いて面積A~Dを表した概略図を
図2に示す。
また、実施例1~3及び比較例1~12のコア硬度分布のグラフを
図3~5に示す。
【0102】
コア及び中間層被覆球体の各球体の外径
恒温槽にて23.9±1℃の温度で少なくとも3時間以上温度調節し、23.9±2℃の室内にて、任意の表面5箇所を測定し、その平均値を1個の各球体の測定値とし、測定個数10個での平均値を求める。
【0103】
ボールの直径
恒温槽にて23.9±1℃の温度で少なくとも3時間以上温度調節し、23.9±2℃の室内にて、任意のディンプルのない部分を15箇所測定し、その平均値を1個のボールの測定値とし、測定個数10個のボールの平均値を求める。
【0104】
コア、中間層被覆球体、及びボールのたわみ量
各対象被覆球体を硬板の上に置き、初期荷重98N(10kgf)を負荷した状態から終荷重1275N(130kgf)に負荷したときのたわみ量を計測する。なお、上記のたわみ量は、恒温槽にて23.9±1℃の温度で少なくとも3時間以上温度調節し、23.9±2℃の室内にて計測した測定値である。コア、各層の被覆球体またはボールを圧縮するヘッドの加圧速度は10mm/sとする。
【0105】
中間層及びカバーの材料硬度(ショアC硬度,ショアD硬度)
各層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、23±2℃の温度下にて2週間放置した。測定時には3枚のシートが重ね合わされる。ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計及びショアD硬度計にて、それぞれショアC硬度及びショアD硬度を計測する。硬度の測定には、ショアC型硬度計もしくはショアD型硬度計を取り付けた高分子計器株式会社製の自動ゴム硬度計「P2」が用いられる。硬度の値は最大値を読み取る。計測方法はASTM D2240規格に従う。
【0106】
中間層被覆球体、及びボールの各球体の表面硬度
各球体の表面に対して針を垂直になるように押し当てて計測する。なお、ボール(カバー)の表面硬度は、ボール表面においてディンプルが形成されていない陸部における測定値である。ASTM D2240規格に準拠したショアC硬度計及びショアD硬度計にて、それぞれショアC硬度及びショアD硬度を計測する。硬度の測定には、ショアC型硬度計もしくはショアD型硬度計を取り付けた高分子計器株式会社製の自動ゴム硬度計「P2」が用いられる。硬度の値は最大値を読み取る。計測方法はASTM D2240規格に従う。
【0107】
各球体の初速
R&Aと同型のHye Precision Products製のCOR型初速計を用いて、各球体の初速を計測する測定原理を以下に示す。
エアの圧力を35.5、36.5、39.5、40.5psiの4段階に変更して、ボールを、それぞれの空気圧により、4段階の入射速度で発射し、バリアに衝突させて、そのCOR(反発係数)を測定する。即ち、エアの圧力を4段階に変更して入射速度とCORとの相関式を作る。同様に入射速度と接触時間との相関式を作る。
そして、これらの相関式から、入射速度43.83m/s時のCOR(反発係数)及び接触時間(μs)を求め、下記の初速換算式に代入し、各球体の初速を算出する。
IV=136.8+136.3e+0.019tc
〔ここで、eは反発係数、tcは衝突速度143.8ft/s(43.83m/s)での接触時間(μs)である。〕
各球体の初速の計測において、使用したバレル内径については、実施例1~3及び比較例1~10のコアが39.88mm、比較例11,12のコアが38.23mm、全例の中間層被覆球体が41.53mm、全例のボールが43.18mmである。
【0108】
【0109】
【0110】
各ゴルフボールの飛び(W#1)、アプローチ時のコントロール性、打感及び繰り返し打撃による耐久性について下記の方法で評価する。その結果を表5に示す。
【0111】
飛び評価(W#1)
ゴルフ打撃ロボットにドライバー(W#1)のクラブをつけて、ヘッドスピード(HS)45m/sにて打撃した時のスピン量及び飛距離(トータル)をそれぞれ測定する。クラブは、ブリヂストンスポーツ社製の「JGR/ロフト角9.5°(2016年モデル)」を使用する。判定基準は、それぞれ下記のとおりである。
〔判定基準〕
トータル飛距離が230.0m以上 ・・・ ○
トータル飛距離が230.0m未満 ・・・ ×
【0112】
アプローチ時のスピン量の評価
ゴルフ打撃ロボットにサンドウエッジをつけてヘッドスピード(HS)15m/sにて打撃した時のスピンの量で判断する。スピン量は同様に打撃した直後のボールを初期条件計測装置により測定する。サンドウエッジは、ブリヂストンスポーツ社製の「TourStage TW-03(ロフト角57°)2002年モデル」を使用する。
〔判定基準〕
○ ・・・ スピン量4500rpm以上
× ・・・ スピン量4500rpm未満
【0113】
打感
ドライバー(W#1)のヘッドスピード(HS)45m/s以上のプロゴルファーがフルショットした打感を以下の基準で評価する。
〔判定基準〕
「弾き感」と「適度な硬さを有する」と評価したユーザーの数で評価する。
○ ・・・ 10人中7人以上が良い打感と評価
△ ・・・ 10人中4~6人が良い打感と評価
× ・・・ 良い打感と評価したユーザーが10人中3人以下
【0114】
繰り返し打撃による割れ耐久性
米国Automated Design Corporation製のADC Ball COR Durability Testerにより、ボールの耐久性を評価する。ゴルフボールを空気圧で発射させた後、平行に設置した2枚の金属板に連続的に衝突させ、ボールが割れるまでに要した発射回数の平均値をそのボールの割れ回数とし、比較例5の平均値を100としたときの指数で表示した。なお、上記の平均値とは、同種のボールを10個用意し、それぞれのボールを発射させて10個のボールがそれぞれ割れるまでに要した発射回数を平均化した値である。試験機のタイプは横型CORであり、金属板への入射速度は43m/sとした。
〔判定基準〕
○ ・・・ 指数110以上
× ・・・ 指数110未満
【0115】
【0116】
表5の結果に示されるように、比較例1~12のゴルフボールは、本発明品(実施例)に比べて以下の点で劣る。
比較例1は、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、繰り返し打撃した時の割れ耐久性が悪い。
比較例2は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きい。その結果、打感が良くない。
比較例3は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きい。その結果、打感が良くなかった。
比較例4は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きい。その結果、打感が良くない。
比較例5は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きいと共に、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、ドライバー(W#1)、ヘッドスピード(HS)45m/sで打撃した時の飛距離が劣るとともに、打感が良くなく、繰り返し打撃した時の割れ耐久性も悪くなった。
比較例6は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きいと共に、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、ドライバー(W#1)、ヘッドスピード(HS)45m/sで打撃した時の飛距離が劣るとともに、打感が良くなく、繰り返し打撃した時の割れ耐久性も悪くなった。
比較例7は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きいと共に、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、打感が良くないと共に、繰り返し打撃した時の割れ耐久性も悪くなった。
比較例8は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きいと共に、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、打感が良くないと共に、繰り返し打撃した時の割れ耐久性も悪くなった。
比較例9は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きいと共に、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、ドライバー(W#1)、ヘッドスピード(HS)45m/sで打撃した時の飛距離が劣るとともに、打感が良くなかった。
比較例10は、(コアのたわみ量-ボールのたわみ量)の値が1.10mmより大きいと共に、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、ドライバー(W#1)、ヘッドスピード(HS)45m/sで打撃した時の飛距離が劣るとともに、打感が良くなかった。
比較例11は、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.90m/sより大きい。その結果、ドライバー(W#1)、ヘッドスピード(HS)45m/sで打撃した時の飛距離が劣り、アプローチ時のスピン量が少なく、打感が良くないと共に、繰り返し打撃した時の割れ耐久性も悪い。
比較例12は、(中間層被覆球体の初速-コアの初速)の値が0.60m/sより小さいと共に、中間層被覆球体の初速よりもボール初速の方が速い。その結果、アプローチ時のスピン量が少なくなり、打感が良くない。