(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172361
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
B62D 7/14 20060101AFI20241205BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20241205BHJP
B62D 11/04 20060101ALI20241205BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20241205BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20241205BHJP
B62D 111/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
B62D7/14 A
B62D6/00 ZYW
B62D11/04 D
B62D113:00
B62D101:00
B62D111:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090024
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】見波 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】釜田 忍
(72)【発明者】
【氏名】曽我 有奈
(72)【発明者】
【氏名】柳田 英国
【テーマコード(参考)】
3D034
3D052
3D232
【Fターム(参考)】
3D034CA05
3D034CA10
3D034CC01
3D034CD06
3D034CD07
3D034CD13
3D034CE04
3D034CE13
3D052AA06
3D052BB02
3D052FF03
3D052GG03
3D052HH03
3D052JJ36
3D232CC04
3D232DA03
3D232DA23
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3D232EA06
3D232EB01
3D232EB16
3D232EB17
3D232EC37
3D232FF05
3D232GG15
(57)【要約】
【課題】車両の運動状態及びドライバの操作状態に応じて、後輪の転舵角及び後輪に搭載されるインホイールモータの駆動トルクを制御し、車両に発生するヨーレート及び横加速度を独立して制御することができる車両の制御装置及び制御方法を提供する。
【解決手段】車両の後輪を転舵するステアリング機構と、前記後輪を駆動するインホイールモータを備える車両の制御装置であって、運転者の操作状態を検出する操作状態検出手段と、前記車両の運動状態を検出する運動状態検出手段と、上記操作状態検出手段により検出された信号と、上記運動状態検出手段により検出された信号に基づいて上記ステアリング機構及び上記インホイールモータを制御する車輪制御手段とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の後輪を転舵するステアリング機構と、前記後輪を駆動するインホイールモータを備える車両の制御装置であって、
運転者の操作状態を検出する操作状態検出手段と、
前記車両の運動状態を検出する運動状態検出手段と、
前記操作状態検出手段により検出された信号と、前記運動状態検出手段により検出された信号に基づいて前記ステアリング機構及び前記インホイールモータを制御する車輪制御手段とを備えることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制御装置において、
前記車輪制御手段は、前記車両に発生させる目標ヨーレートと目標横加速度を算出することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両の制御装置において、
前記車輪制御手段は、前記目標ヨーレートに対応する前記後輪の駆動トルクと、前記目標横加速度に対応する前記後輪の転舵角を算出することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項4】
車両の後輪を転舵するステアリング機構と、前記後輪を駆動するインホイールモータを備える車両の制御方法であって、
運転者の操作状態を検出する操作状態検出工程と、
車両の運動状態を検出する運動状態検出工程と、
前記操作状態検出工程により検出された信号と、前記運動状態検出工程により検出された信号に基づいて前記ステアリング機構及び前記インホイールモータを制御する設定値を算出する制御設定値算出工程とを備えることを特徴とする車両の制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の車両の制御方法において、
前記制御設定値算出工程は、前記操作状態検出工程により検出された信号と、前記運動状態検出工程により検出された信号に基づいて、前記車両の運動状態が走行モードテーブル上の領域のいずれの位置に該当するか検索をする工程を備えることを特徴とする車両の制御方法。
【請求項6】
請求項5に記載の車両の制御方法において、
前記走行モードテーブルは、逆位相制御領域と同位相トルクベクタリング制御領域とを備えることを特徴とする車両の制御方法。
【請求項7】
請求項6に記載の車両の制御方法において、
前記制御設定値算出工程は、前記車両に発生させる目標ヨーレートと目標横加速度とを算出する工程を備えることを特徴とする車両の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ドライバの操舵に応じて前輪及び後輪の舵角を制御可能な車両においては、車両の運動状態を検出し、目標ヨーレートに応じて前輪及び後輪に補助舵角を与えるステアリング装置を備える車両が知られている。このような車両のステアリング装置は、種々の構造が知られているが、例えば、特許文献1に示すように、前輪操舵機構を駆動する前輪操舵アクチュエータと、後輪操舵機構を駆動する後輪操舵アクチュエータと、目標ヨーレートと目標横速度に基づいて、前輪操舵アクチュエータと後輪操舵アクチュエータを駆動制御する操舵制御手段と、を備えるステアリング装置において、前記前輪操舵アクチュエータが失陥しているか否かを検出する失陥判断手段と、前記前輪操舵アクチュエータが失陥したとき、この失陥前後のステアリングギア比の変化率に基づいて、前記目標ヨーレート特性を変更する目標ヨーレート特性変更手段と、変更された目標ヨーレート特性に基づいて、前記後輪操舵アクチュエータを駆動制御する失陥時操舵制御手段と、を備えることを特徴とするステアリング装置が知られている。
【0003】
このようなステアリング装置によれば、前輪操舵アクチュエータに何らかの欠陥が生じた場合であっても、前輪操舵アクチュエータ失陥前後のステアリングギア比の変化率に基づいて目標ヨーレート特性を変更し、変更した目標ヨーレート特性に基づいて後輪操舵アクチュエータが駆動制御されるため、車両挙動の安定性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、前輪及び後輪にステアリング装置を備える車両は、後輪が前輪の転舵方向と逆方向に転舵されている場合、旋回時に車両に発生するヨーレートを制御することができる。なお、本明細書において、このように後輪が前輪の転舵方向と逆方向に転舵されている状態を逆位相と定義する。
【0006】
一方で、旋回時に車両に発生する横加速度は、ヨーレートの値により一意的に決まるため、車両がドライバの意図とは異なった運動状態となり、走行時にドライバに違和感を与えるおそれがあった。
【0007】
また、後輪が前輪の転舵方向と同方向に転舵されている場合には、車両に発生する横加速度を制御することが可能となるが、この場合であっても、横加速度の値によってヨーレートが一意的に決まるため、上記と同様の課題があった。なお、本明細書において、このように後輪が前輪の転舵方向と同方向に転舵されている状態を同位相と定義する。
【0008】
また、従来、電気自動車の一形態として、車輪のホイール内部もしくはその近傍にモータを配置し、このモータにより車輪を直接駆動する、いわゆるインホイールモータ方式の車両が知られている。このようなインホイールモータ方式の車両においては、各車輪ごとに設けたモータを個別に回転制御することができる。したがって、各モータを個別に制御することにより、車両の運動状態に応じて、各車輪に付与する駆動トルクを適宜制御することができる。
【0009】
インホイールモータ方式の車両によれば、旋回時に旋回方向とは逆側の車輪の駆動トルクを大きくすることで、車両自体に旋回力を起こさせる、いわゆるトルクベクタリングが可能となる。すなわち、左右の車輪の駆動トルクの配分を制御することで、車両に発生するヨーレートの値を制御することができる。しかしながら、このようなインホイールモータ方式の車両であっても、旋回時に車両に発生する横加速度は、ヨーレートの値により一意的に決まるため、上記と同様の課題があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、車両の運動状態及びドライバの操作状態に応じて、後輪の転舵角及び後輪に搭載されるインホイールモータの駆動トルクを制御し、車両に発生するヨーレート及び横加速度を独立して制御することができる車両の制御装置及び制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明に係る車両の制御装置は、車両の後輪を転舵するステアリング機構と、前記後輪を駆動するインホイールモータを備える車両の制御装置であって、運転者の操作状態を検出する操作状態検出手段と、前記車両の運動状態を検出する運動状態検出手段と、上記操作状態検出手段により検出された信号と、上記運動状態検出手段により検出された信号に基づいて上記ステアリング機構及び上記インホイールモータを制御する車輪制御手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、上記課題を解決する本発明に係る車両の制御方法は、車両の後輪を転舵するステアリング機構と、前記後輪を駆動するインホイールモータを備える車両の制御方法であって、 運転者の操作状態を検出する操作状態検出工程と、車両の運動状態を検出する運動状態検出工程と、上記操作状態検出工程により検出された信号と、上記運動状態検出工程により検出された信号に基づいて上記ステアリング機構及び上記インホイールモータを制御する設定値を算出する制御設定値算出工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両の制御装置及び制御方法によれば、車両の運動状態及びドライバの操作状態に基づいて、後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクを適宜決定することができ、車両に発生するヨーレートと横加速度を独立して制御することができる。このため、本発明に係る車両の制御装置及び制御方法によれば、ドライバに違和感を与えることのない好適な車両制御をすることができる。また、バッテリー残量に応じて、目標ヨーレートを発生させるための後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの割合を適宜決定することができるため、バッテリー残量が少ない場合であっても、航続距離への影響を最小限に抑え、ドライバに違和感を与えることのない好適な車両制御をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両の制御装置を備える車両の概要図。
【
図2】本発明の実施形態に係る通常運転モードの走行モードテーブルの一例を示すグラフ。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る後輪の駆動トルク及び後輪の転舵角の制御例を示すフローチャート。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る制御設定値算出工程の制御例を示すフローチャート。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係る同位相トルクベクタリング制御工程の制御例を示すフローチャート。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係る目標ヨーレート設定の一例を示すグラフ。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係る目標横加速度設定の一例を示すグラフ。
【
図8】本発明の通常運転モードにおける後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御設定に関する一実施例を示す説明図
【
図9】本発明のダイアゴナル走行モードにおける後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御の実施例を示す説明図
【
図10】本発明の第2の実施形態に係る後輪の駆動トルク及び後輪の転舵角の制御例を示すフローチャート
【
図11】本発明の第2の実施形態に係る制御設定値算出工程の制御例を示すフローチャート
【
図12】本発明の第2の実施形態に係る同位相トルクベクタリング制御工程の制御例を示すフローチャート。
【
図13】本発明の第2の実施形態に係るバッテリー残量とヨーレート発生手段の関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る車両の制御装置及び制御方法の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る車両の制御装置を備える車両の概要図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に係る制御装置を備える車両Veは、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRを備える。また、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRは、図示しないサスペンション機構を介して、車体Boに支持される。
【0018】
左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RR並びに後述するこれらの各車輪に取り付けられる部品の重量は、サスペンション機構より下側に配置され、ばね下重量となる。また、車体Bo及び後述する車体Boに搭載される部品の重量は、サスペンション機構より上側に配置され、ばね上重量となる。
【0019】
左前輪FL及び右前輪FRは、車体Boに搭載されるオンボードモータ32と動力伝達可能に連結される。
【0020】
左後輪RL及び右後輪RRのホイール内部には、インホイールモータ33L、33Rがそれぞれ取り付けられる。左後輪RL及び右後輪RRは、インホイールモータ33L、33Rと動力伝達可能に連結される。
【0021】
このように、本実施形態に係る制御装置を備える車両Veには、前輪を駆動させるオンボードモータ32と、後輪を駆動させるインホイールモータ33L、33Rが組み合わされて搭載される。前輪を駆動させるためにオンボードモータ32を搭載することで、インホイールモータを前輪に取り付ける場合と比較して、ばね下荷重を軽くすることができるため、車両Veの操舵輪の路面追従性の悪化を防ぐことができる。また、後輪を駆動させるためにインホイールモータ33L、33Rを搭載することで、車両Veの後方の荷室や室内空間を広げることが可能となり、居住性を向上させることができる。
【0022】
インホイールモータ33L、33Rは、その回転をそれぞれ独立して制御することができる。したがって、左後輪RL及び右後輪RRに発生させる駆動トルクをそれぞれ独立して制御することができる。
【0023】
オンボードモータ32及びインホイールモータ33L、33Rは、車体Boに搭載される駆動力制御装置31を介して、図示しない蓄電装置から給電され、電気エネルギーを回転エネルギーに変換する。
【0024】
駆動力制御装置31は、制御手段であるマイクロプロセッサを有し、図示しない蓄電装置からの給電によって作動する。駆動力制御装置31は、後述する車輪制御手段10にて算出された設定値に基づいて、オンボードモータ32及びインホイールモータ33L、33Rの制御を行う。また、オンボードモータ32及びインホイールモータ33L、33Rは、左前輪FL、右前輪FR、左後輪RL及び右後輪RRの回転エネルギーを利用して回生制御することも可能である。各車輪の回転エネルギーは、オンボードモータ32及びインホイールモータ33L、33Rによって電気エネルギーに変換され、その際に生じる電力が駆動力制御装置31を介して蓄電装置に蓄電される。
【0025】
本実施形態において、オンボードモータ32、インホイールモータ33L、33R及び駆動力制御装置31は、動力発生機構を構成する。
【0026】
左前輪FL及び右前輪FRは、車体Boに搭載される前輪転舵アクチュエータ22と転舵可能に連結される。
【0027】
前輪転舵アクチュエータ22は、図示しない蓄電装置から給電され、車体Boに搭載されるステアリング制御装置21から出力される指令値に基づいて、左前輪FL及び右前輪FRの舵角を変更する。
【0028】
左後輪RL及び右後輪RRは、車体Boに搭載される後輪転舵アクチュエータ23と転舵可能に連結される。
【0029】
後輪転舵アクチュエータ23は、図示しない蓄電装置から給電され、ステアリング制御装置21から出力される指令値に基づいて、左後輪RL及び右後輪RRの舵角を変更する。
【0030】
ステアリング制御装置21は、制御手段であるマイクロプロセッサを有し、図示しない蓄電装置からの給電によって作動する。ステアリング制御装置21は、後述する車輪制御手段10にて算出された設定値に基づいて、前輪転舵アクチュエータ22及び後輪転舵アクチュエータ23の制御を行う。
【0031】
本実施形態において、前輪転舵アクチュエータ22、後輪転舵アクチュエータ23及びステアリング制御装置21は、ステアリング機構を構成する。ステアリング機構は、電気信号によって各車輪の舵角の制御を行う、いわゆるステアバイワイヤの機構を備える。なお、前輪転舵の制御方法はステアバイワイヤによるものに限らず、前輪転舵アクチュエータ22が運転者の操舵するステアリングホイールと機械的に接続される構成であっても構わない。この場合、ステアリング制御装置21は、後輪転舵アクチュエータ23のみ制御する。
【0032】
車体Boには、
図1に示すように、ドライバの操作状態を検出する操作状態検出手段40が搭載される。操作状態検出手段40は、例えば、ステアリングホイールに対するドライバの操舵角を検出するハンドル角センサと、アクセルペダルに対するドライバの踏み込み量を検出するストロークセンサ等を備える。操作状態検出手段40により検出された信号は、後述する車輪制御手段10に入力される。
【0033】
また、車体Boには、
図1に示すように、走行している車両Veの運動状態を検出する運動状態検出手段50が搭載される。運動状態検出手段50は、例えば、車両Veの車速を検出する車速センサ、車体Boに発生したヨーレートを検出するヨーレートセンサ、車体Boの左右方向における横加速度を検知する加速度センサ等を備える。運動状態検出手段50により検出された信号は、後述する車輪制御手段10に入力される。
【0034】
また、車体Boには、
図1に示すように、蓄電装置のバッテリー残量を検出する電源状態検出手段60が搭載される。電源状態検出手段60は、例えば、電圧センサ等の周知の方法によって、バッテリー残量を検出することができる。電源状態検出手段60により検出されたバッテリー残量は、後述する車輪制御手段10に入力される。
【0035】
また、車体Boには、
図1に示すように、後述する走行モードの切替えを行う切替スイッチ70が搭載される。切替スイッチ70は、ドライバの操作に応じて走行モードを切替える信号を出力し、出力された信号は、後述する車輪制御手段10に入力される。なお、本実施形態において、切替スイッチ70は、ドライバが直接操作するものに限らず、車両Veの運動状態に応じて走行モードを自動的に切り替える構成によるものであっても構わない。このように自動的に走行モードの切替えが可能な構成であれば、例えば、車両Veが自動運転により制御されている場合であっても、車両Veの運動状態に応じて適切な走行モードの切替えが行われる。
【0036】
車輪制御手段10は、制御手段であるマイクロプロセッサを有し、図示しない蓄電装置からの給電によって作動する。車輪制御手段10には、操作状態検出手段40、運動状態検出手段50、及び電源状態検出手段60により検出された信号が入力される。また、車輪制御手段10は、これらの入力された信号と、切替スイッチ70によって指定された車両Veの走行モードに応じて、車両Veの走行を制御するための設定値を算出する。車輪制御手段10により算出された設定値は、駆動力制御装置31及びステアリング制御装置21に出力される
【0037】
具体的には、車輪制御手段10は、走行モードに応じて要求される各車輪の駆動トルクの設定値を求め、算出した設定値を駆動力制御装置31へ出力する。また、車輪制御手段10は、走行モードに応じて要求される各車輪の転舵角の設定値を求め、算出した設定値をステアリング制御装置21に出力する。
【0038】
本実施形態において、車両Veは、通常運転モードとダイアゴナル走行モードの二通りの走行モードを備える。通常運転モードは、旋回時の車両Veの車速に応じて後輪の転舵方向を変化させることができ、同時にトルクベクタリングを行うことができる。また、ダイアゴナル走行モードは、車両Veの車速に関わらず、後輪の転舵方向を前輪の転舵方向と同位相とすることができ、車両Veの前後方向と進行方向とが一致しない状態で直進する、ダイアゴナル走行をすることができる。
【0039】
図2は、本発明の実施形態に係る通常運転モードの走行モードテーブルの一例を示すグラフである。本発明の走行モードテーブルは、一例として、逆位相制御領域と同位相トルクベクタリング制御領域の2つの走行モード領域を備える。
【0040】
通常運転モードでは、車両Veの走行速度が低速の場合には、
図2に示すように、逆位相制御領域における制御が行われる。逆位相制御領域では、後輪の転舵方向が前輪の転舵方向と逆位相となるようにステアリング制御装置21が制御(以下、逆位相制御という。)される。このような逆位相制御領域において車両Veが制御される場合には、旋回時の最小回転半径を低減できるため、小回り性を向上させることができる。
【0041】
また、通常運転モードでは、車両Veの走行速度が中高速の場合には、
図2に示すように、同位相トルクベクタリング制御領域における制御が行われる。同位相トルクベクタリング制御領域では、後輪の転舵方向が前輪の転舵方向と同位相となるようにステアリング制御装置21が制御され、同時に左後輪RLと右後輪RRの駆動トルク差によってトルクベクタリングを行うように駆動力制御装置31が制御(以下、同位相トルクベクタリング制御という。)される。このような同位相トルクベクタリング制御領域において車両Veが制御される場合には、旋回時に車両Veに発生するヨーレートをトルクベクタリングによって、横加速度を前後輪の転舵角によって、独立して制御することができる。このため、高速ランプでの走行やレーンチェンジあるいは緊急回避を行う場合であっても、車両運動の応答性と安定性が向上し、ドライバの違和感を低減した走行を実現することができる。
【0042】
また、走行モードがダイアゴナル走行モードの場合には、予め設定された車両Veの走行速度の範囲内において、同位相制御領域における制御が行われる。同位相制御領域では、後輪の転舵方向が前輪の転舵方向と同位相となるようにステアリング制御装置21が制御(以下、同位相制御という。)される。このようなダイアゴナル走行モードにおいて車両Veが制御される場合には、低速時のすり抜けや縦列駐車をする際に適した走行をすることができる。
【0043】
次に、本実施形態に係る左後輪RL及び右後輪RRの駆動トルク並びに左後輪RL及び右後輪RRの転舵角の制御方法について、以下の実施例をもとに説明を行う。
【0044】
[第1の実施形態]
図3は、第1の実施形態に係る後輪の駆動トルク及び後輪の転舵角の制御例を示すフローチャートである。
【0045】
ステップS1では、運動状態検出手段50により車両Veの車速、車体Boのヨーレート及び横加速度を検出する。本実施形態において、ステップS1における工程を運動状態検出工程と定義する。
【0046】
ステップS2では、操作状態検出手段40によりドライバのステアリングホイールの操舵角、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。本実施形態において、ステップS2における工程を操作状態検出工程と定義する。
【0047】
ステップS3では、切替スイッチ70よる走行モードの切替え状態が、通常運転モードであるか、あるいはダイアゴナル走行モードであるかを検出する。本実施形態において、ステップS3における工程を走行モード検出工程と定義する。
【0048】
ステップS1、S2及びS3のそれぞれで検出された信号は、車輪制御手段10に入力され、ステップS4に移行する。
【0049】
ステップS4では、車輪制御手段10において、上記工程で検出された車両Veの車速及びステアリングホイールの操舵角に基づいて、左後輪RL及び右後輪RRの転舵方向及び転舵角、並びに、左後輪RL及び右後輪RRの駆動トルクの設定値について算出が行われる。本実施形態において、ステップS4における工程を制御設定値算出工程と定義する。
【0050】
次に、第1の実施形態に係る制御設定値算出工程について説明を行う。
【0051】
図4は、第1の実施形態に係る制御設定値算出工程の制御例を示すフローチャートである。
【0052】
ステップS41では、走行モード検出工程にて検出された切替スイッチ70の切替え状態について判定する。走行モード検出工程により走行モードがダイアゴナル走行モードであると判定された場合にはステップS42に、走行モードが通常運転モードであると判定された場合にはステップS43に移行する。なお、ドライバによる切替スイッチ70の誤操作を考慮し、予め設定された車速を超えた場合には、走行モードを優先的に通常運転モードとするように設定しても構わない。
【0053】
ステップS42では、左後輪RL及び右後輪RRの転舵について同位相制御を行うための計算が行われる。ステップS42では、操作状態検出工程にて検出されたステアリングホイールの操舵角に応じて左後輪LR及び右後輪RRの転舵角が算出される。
【0054】
ステップS42で算出された左後輪LR及び右後輪RRの転舵角についての設定値は、後述するステップS5において車輪制御手段10からステアリング制御装置21に出力される。
【0055】
ステップS43では、運動状態検出工程により検出された車両Veの車速、及び、操作状態検出工程により検出されたステアリングホイールの操舵角の読み込みが行われる。
【0056】
ステップS44では、ステップS43で読み込んだ車両Veの車速及びステアリングホイールの操舵角から車両Veの運動状態を把握し、車両Veの状態が、
図2に示す走行モードテーブル上の領域のいずれの位置に該当するか検索を行う。
【0057】
逆位相制御領域では、ステアリングホイールの操舵角に対応する車速が一定の値(
図2における境界X)以下である場合には、左後輪LR及び右後輪RRの転舵について逆位相制御が行われる。
【0058】
同位相トルクベクタリング制御領域では、ステアリングホイールの操舵角に対応する車速が一定の値(
図2における境界X)以上であるときに、左後輪LR及び右後輪RRの転舵について同位相トルクベクタリング制御が行われる。
【0059】
なお、逆位相制御領域と同位相トルクベクタリング制御領域を分ける境界Xは、車速とステアリングホイールの操舵角との関係性を示すものであり、車両毎に適宜調整されると好適である。また、ステップS44が行われる車輪制御手段10には、複数の種類の走行モードテーブルが保存されていても構わず、走行時の路面状態やドライバの意志により、適宜、走行モードテーブルの種類を選択しても構わない。
【0060】
ステップS45では、ステップS44にて検索された車両Veの走行モード領域に基づいて、次に移行するステップが選択される。車両Veの走行モードが逆位相制御領域に該当すると判断された場合には、ステップS46へ移行する。また、車両Veの走行モードが同位相トルクベクタリング制御領域に該当すると判断された場合にはステップS47へ移行する。
【0061】
ステップS46では、左後輪LR及び右後輪RRの転舵について逆位相制御を行うための計算が行われる。ステップS46では、操作状態検出工程にて検出されたステアリングホイールの操舵角に応じて左後輪LR及び右後輪RRの転舵角が算出される。
【0062】
ステップS46で算出された左後輪LR及び右後輪RRの転舵角についての設定値は、後述するステップ5において車輪制御手段10からステアリング制御装置21に出力される。
【0063】
ステップS47では、車両Veの車速及びステアリングホイールの操舵角に応じて、同位相トルクベクタリング制御を行うための計算が行われる。ステップS47では、車両Veに発生するヨーレート及び横加速度の目標値が設定され、これらの目標値を実現するための左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差及び転舵角が算出される。本実施形態において、ステップS47における工程を同位相トルクベクタリング制御工程と定義する。
【0064】
次に、第1の実施形態に係る同位相トルクベクタリング制御工程について説明を行う。
【0065】
図5は、本発明の第1の実施形態に係る同位相トルクベクタリング制御工程の制御例を示すフローチャート、
図6は、本発明の第1の実施形態に係る目標ヨーレート設定の一例を示すグラフ、
図7は、本発明の第1の実施形態に係る目標横加速度設定の一例を示すグラフである。
【0066】
ステップS471では、運動状態検出工程にて検出した車両Veの車速と、操作状態検出工程にて検出したステアリングホイールの操舵角の値に基づいて目標ヨーレートを設定する。一例として、
図6に示すように、車両Veの車速が高速の場合には、ステアリングホイールの操舵角の値に対して目標ヨーレートの値を低く設定し、車両Veの車速が低速の場合には、ステアリングホイールの操舵角の値に対して目標ヨーレートの値を高く設定することができる。
【0067】
ステップS472では、ステップS471にて設定した目標ヨーレートを発生させるように、左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差を算出する。
【0068】
ステップS473では、運動状態検出工程にて検出した車両Veの車速と、操作状態検出工程にて検出したステアリングホイールの操舵角の値とに基づいて目標横加速度を設定する。一例として、
図7に示すように、車両Veの車速が高速の場合には、ステアリングホイールの操舵角の値に対して目標横加速度の値を高く設定し、車両Veの車速が低速の場合には、ステアリングホイールの操舵角の値に対して目標横加速度の値を低く設定することができる。
【0069】
ステップS474では、ステップS473にて設定した目標横加速度となるように、左後輪LR及び右後輪RRの転舵角を算出する。
【0070】
ステップS472で算出された左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差についての設定値は、後述するステップS6において車輪制御手段10から駆動力制御装置31に出力される。また、ステップS474で算出された左後輪LR及び右後輪RRの転舵角についての設定値は、後述するステップS5において車輪制御手段10からステアリング制御装置21に出力される。
【0071】
図3に示すステップS5では、ステップS4にて算出された左後輪LR及び右後輪RRの転舵角についての設定値がステアリング制御装置21に入力される。また、ステアリング制御装置21は、入力された設定値に基づいて前輪転舵アクチュエータ22及び後輪転舵アクチュエータ23に指令値を出力し、前輪転舵アクチュエータ22及び後輪転舵アクチュエータ23を作動させる。前輪転舵アクチュエータ22及び後輪転舵アクチュエータ23は、入力された指令値に基づいて左後輪LR及び右後輪RRの転舵を実行する。
【0072】
ステップS6では、ステップS4にて算出された左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルクについての設定値が駆動力制御装置31に入力される。また、駆動力制御装置31は、入力された設定値に基づいてインホイールモータ33L、33Rに指令値を出力し、インホイールモータ33L、33Rを作動させる。
【0073】
次に、第1の実施形態に係る制御方法によって制御される車両Veについて、具体的な実施例を挙げ、本発明の第1の実施形態に係る効果について説明を行う。
【0074】
図8は、本発明の通常運転モードにおける後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御設定に関する一実施例を示す説明図、
図9は、本発明のダイアゴナル走行モードにおける後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御の実施例を示す説明図である。なお、
図8及び
図9に示す状態AからKの枠内に示す図は、車両Veの運動状態を示す模式図であり紙面上側を車両Veの前方とする。また、状態AからKの枠内に示す矢印は、
図8に示すように、ヨーレート、横加速度及び駆動トルクを表し、矢印の大きさ及び太さは、それぞれの値の大きさを示すものとする。また、状態AからKの枠内に示す車両Veの車輪の角度は、各車輪の転舵角を示すものとする。
【0075】
図8に示す状態Aは、通常運転モードの逆位相制御領域において、ステアリングホイールの操舵角が小さい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。また、状態Bは、状態Aと同様の制御領域において、ステアリングホイールの操舵角が大きい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。
【0076】
状態A、Bに示すように、通常運転モードの逆位相制御領域においては、後輪の転舵方向は前輪の転舵方向と逆位相となり、ステアリングホイールの操舵角に応じて左後輪LR及び右後輪RRの転舵角が変化する。このとき左後輪LR及び右後輪RRの間には駆動トルク差を発生させずトルクベクタリングは行われない。
【0077】
状態A、Bに示すような、通常運転モードの逆位相制御領域における車両Veの制御方法によれば、旋回時の最小回転半径を低減できるため、小回り性を向上させることができる。
【0078】
図8に示す状態Cは、通常運転モードの逆位相制御領域と同位相トルクベクタリング制御領域との境界Xにおいて、ステアリングホイールの操舵角が小さい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。また、状態Dは、状態Cと同様の制御領域において、ステアリングホイールの操舵角が大きい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。
【0079】
状態C、Dに示すように、通常運転モードの逆位相制御領域と同位相トルクベクタリング制御領域との境界においては、左後輪LR及び右後輪RRの転舵は行われず、ステアリングホイールの操舵角に応じて左前輪FL及び右前輪FRの転舵角が変化する。このとき左後輪LR及び右後輪RRの間には駆動トルク差を発生させず、トルクベクタリングも行われない。
【0080】
図8に示す状態Eは、通常運転モードの同位相トルクベクタリング制御領域において、車両Veの車速が中低速かつステアリングホイールの操舵角が小さい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。また、状態Fは、状態Eと同様の制御領域及び同様の車速において、ステアリングホイールの操舵角が大きい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。
【0081】
状態E、Fに示すように、通常運転モードの同位相トルクベクタリング制御領域においては、後輪の転舵方向は前輪の転舵方向と同位相となる。また、状態E、Fに示すように、車両Veの車速が中低速の場合には、ステアリングホイールの操舵角の変化量に対する左後輪LR及び右後輪RRの転舵角の変化量が小さくなるように制御が行われる。また、ステアリングホイールの操舵角の変化量に対する左後輪LR及び右後輪RRの間の駆動トルク差の変化量が大きくなるように制御が行われ、当該駆動トルク差によってトルクベクタリングが行われる。
【0082】
状態E、Fに示すような、通常運転モードの同位相トルクベクタリング制御領域であって、中低速時における車両Veの制御方法によれば、ステアリングホイールの操舵角の変化量に対してヨーレートの変化量を大きくし、横加速度の変化量を小さくすることができる。
【0083】
図8に示す状態Gは、通常運転モードの同位相トルクベクタリング制御領域において、車両Veの車速が高速かつステアリングホイールの操舵角が小さい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。また、状態Hは、状態Gと同様の制御領域及び同様の車速において、ステアリングホイールの操舵角が大きい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。
【0084】
状態G、Hに示すように、通常運転モードの同位相トルクベクタリング制御領域においては、後輪の転舵方向は前輪の転舵方向と同位相となる。また、状態G、Hに示すように、車両Veの車速が高速の場合には、ステアリングホイールの操舵角の変化量に対する左後輪LR及び右後輪RRの転舵角の変化量が、中低速の場合と比較して大きくなるように制御が行われる。また、ステアリングホイールの操舵角の変化量に対する左後輪LR及び右後輪RRの間の駆動トルク差の変化量が、中低速の場合と比較して小さく発生するように制御がおこなわれ、当該駆動トルク差によってトルクベクタリングが行われる。
【0085】
状態G、Hに示すような、通常運転モードの同位相トルクベクタリング制御領域であって、高速時における車両Veの制御方法によれば、ステアリングホイールの操舵角の変化量に対してヨーレートの変化量を小さくし、横加速度の変化量を大きくすることができる。
【0086】
なお、
図8に示す通常運転モードにおける後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御設定は、本発明の実施例の一つを示すものであり、後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御設定はこれに限らない。例えば、本発明の他の実施例の一つとして、横加速度を変化させずに、ヨーレートのみを変化させるように後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御設定を行っても構わない。
【0087】
図9に示す状態Jは、ダイアゴナル走行モードの同位相制御領域において、車両Veの車速が低速かつステアリングホイールの操舵角が小さい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。また、状態Kは、状態Jと同様の制御領域において、車両Veの車速が高速かつステアリングホイールの操舵角が大きい場合の後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクの制御例を示す。
【0088】
状態J、Kに示すように、ダイアゴナル走行モードの同位相制御領域においては、後輪の転舵方向が前輪の転舵方向と同位相となり、ステアリングホイールの操舵角に応じて左後輪LR及び右後輪RRの転舵角が変化する。このとき左後輪LR及び右後輪RRの間には駆動トルク差を発生させずトルクベクタリングは行われない。
【0089】
状態J、Kに示すような、ダイアゴナル走行モードの同位相制御領域における車両Veの制御方法によれば、車両Veの車速に関らず、車両Veを旋回させることなく横方向や斜め方向への移動が可能となる。このため、車両Veは、すり抜けや縦列駐車をする際に適した走行をすることができる。
【0090】
このように、第1の実施形態に係る車両の制御方法によれば、後輪の転舵角及び後輪に搭載したインホイールモータの駆動トルクをそれぞれ制御することにより、車両のヨーレート及び横加速度を独立させて所定の値となるように制御することが可能である。
【0091】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態は、車両の運動状態、ドライバの操作状態及び切替えスイッチによる走行モードの選択に応じて、後輪の転舵角及び後輪の駆動トルクを適宜決定する車両の制御方法についての説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る車両の制御方法は、第1の実施形態に係る車両の制御方法とは異なる制御方法について説明を行う。
【0092】
インホイールモータは、一般的に、駆動のための消費電力が大きい。そのため、バッテリー残量が十分でない場合には、航続距離への影響を抑えるため、インホイールモータに供給される電力を制限する場合がある。このようにインホイールモータの出力が制限される場合には、第1の実施形態に係る車両の制御方法のようにインホイールモータによってトルクベクタリングを行う際、左右後輪の間に十分な駆動トルク差を生じさせることができず、目標ヨーレートに達することができないため、車両の運動性能に影響を与える可能性がある。
【0093】
第2の実施形態に係る発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、車両の運動状態及びドライバの操作状態と共に、バッテリー残量に基づいて、後輪の転舵角及び後輪に搭載されるインホイールモータの駆動トルクを制御し、ドライバに違和感を与えることのない好適な車両制御をすることができる車両の制御方法を提供することを目的とする。なお、上述した第1の実施形態と同一または類似する工程については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0094】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る後輪の駆動トルク及び後輪の転舵角の制御例を示すフローチャートである。
【0095】
ステップS1及びステップS2の工程は、第1の実施形態と同一である。
【0096】
ステップS2aでは、電源状態検出手段60により蓄電装置のバッテリー残量を検出する。本実施形態において、ステップS2aにおける工程をバッテリー残量検出工程と定義する。
【0097】
ステップS3の工程は、第1の実施形態と同一である。
【0098】
ステップS1、S2、S2a及びS3のそれぞれで検出された信号は、車輪制御手段10に入力され、ステップS4aに移行する。
【0099】
ステップS4aでは、車輪制御手段10において、上記工程で検出された車両Veの車速、ステアリングホイールの操舵角及びバッテリー残量に基づいて、左後輪RL及び右後輪RRの転舵方向及び転舵角、並びに、左後輪RL及び右後輪RRの駆動トルクの設定値について算出が行われる。本実施形態において、ステップS4aにおける工程は、第1の実施形態のステップS4における工程と同様に制御設定値算出工程と定義する。
【0100】
次に、第2の実施形態に係る制御設定値算出工程について説明を行う。
【0101】
図11は、本発明の第2の実施形態に係る制御設定値算出工程の制御例を示すフローチャートである。
【0102】
ステップS41からステップS46の工程は、第1の実施形態と同一である。
【0103】
ステップS47aでは、車両Veの車速及びステアリングホイールの操舵角に応じて、同位相トルクベクタリング制御を行うための計算が行われる。ステップS47aでは、車両Veに発生するヨーレート及び横加速度の目標値が設定され、これらの目標値を実現するための左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差及び転舵角が設定される。本実施形態において、ステップS47aにおける工程は、第1の実施形態のステップS47と同様に同位相トルクベクタリング制御工程と定義する。
【0104】
次に、第2の実施形態に係る同位相トルクベクタリング制御工程について説明を行う。
【0105】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る同位相トルクベクタリング制御工程の制御例を示すフローチャート、
図13は、本発明の第2の実施形態に係るバッテリー残量とヨーレート発生手段の関係の一例を示すグラフである。
【0106】
ステップS471からステップS474の工程は、第1の実施形態と同一である。
【0107】
ステップS475では、ステップ2aにて検出された蓄電装置のバッテリー残量に基づいて、ステップS471にて設定した目標ヨーレートを発生させるため、ステップS472にて算出した左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差、及び、ステップS474にて算出した左後輪LR及び右後輪RRの転舵角の出力の割合を設定する。
【0108】
具体的には、
図13に示すように、バッテリー残量が一定の値(
図13におけるY点)以上である場合には、左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差によるトルクベクタリングによる入力と、左後輪LR及び右後輪RRの転舵角の大きさによる入力とが任意の割合となり、目標ヨーレートを発生させるように設定される。一例として、
図13に示すように、バッテリー残量が少ないほど、トルクベクタリングによる入力に対して、転舵角の大きさによる入力の割合を大きくすると好適である。
【0109】
また、バッテリー残量が一定の値(
図13におけるY点)以下である場合には、左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差によるトルクベクタリングを行わず、左後輪LR及び右後輪RRの転舵角の大きさによる入力により車両Veの旋回が行われる。このような場合は、独立してヨーレートを制御することは制限され、車両Veには旋回時の横加速度に応じたヨーレートが生じる。
【0110】
ステップS475にて設定された左後輪LR及び右後輪RRの駆動トルク差、及び、左後輪LR及び右後輪RRの転舵角についての設定値は、ステップS5において車輪制御手段10からステアリング制御装置21に、ステップS6において車輪制御手段10から駆動力制御装置31に出力される。
【0111】
ステップS5からステップS6の工程は、第1の実施形態と同一である。
【0112】
このように、第2の実施形態に係る車両の制御方法によれば、バッテリー残量に応じて、後輪の転舵角による入力及び後輪のトルクベクタリングによる入力の割合を変化させて、車両のヨーレートが所定の値となるように制御することができる。このため、バッテリー残量が少ない場合であっても、航続距離への影響を最小限に抑え、ドライバの違和感を低減した走行を実現することが可能となる。
【0113】
なお、上述した実施形態においては、運動状態検出工程により検出された車両Veの車速と、操作状態検出工程により検出されたステアリングホイールの操舵角とに基づいて、車両Veの走行モードテーブル上の領域を検索し、逆位相制御または同位相トルクベクタリング制御を実行する選択を行ったが、走行モードテーブル上の領域を検索するための判断材料はこれに限らず、運動状態検出工程により検出されたアクセルペダルの踏み込み量等を用いても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0114】
Ve 車両、10 車輪制御手段、33L 33R インホイールモータ、40 操作状態検出手段、50 運動状態検出手段、60 電源状態検出手段、70 切替えスイッチ