IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 資生堂の特許一覧

特開2024-1723629-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法
<>
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図1
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図2
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図3
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図4
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図5
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図6
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図7
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図8
  • 特開-9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172362
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】9-HODEの量を測定することを含む、皮膚の光老化の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20241205BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20241205BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241205BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20241205BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 36/82 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 36/73 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 17/18 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 31/201 20060101ALI20241205BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20241205BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20241205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241205BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241205BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20241205BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
G01N33/50 D
C12Q1/02 ZNA
A23L33/105
A23L33/10
A61K45/00
A61K36/82
A61K36/73
A61P17/16
A61P17/18
A61P19/08
A61K31/201
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P43/00 105
G01N33/50 Q
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/6851 Z
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090025
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】土田 克彦
(72)【発明者】
【氏名】先山 奈津紀
(72)【発明者】
【氏名】海野 佑樹
【テーマコード(参考)】
2G045
4B018
4B063
4B065
4C083
4C084
4C088
4C206
【Fターム(参考)】
2G045AA40
2G045CB09
2G045DA02
2G045DA12
2G045DA13
2G045DA14
2G045DA36
4B018MD59
4B018MD61
4B018ME05
4B018ME10
4B018MF01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ61
4B063QQ70
4B063QQ79
4B063QR41
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR77
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX01
4B063QX02
4B065AA93X
4B065AC12
4B065CA46
4C083AA111
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE16
4C084AA17
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA961
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZC422
4C084ZC521
4C088AB45
4C088AB51
4C088AC05
4C088AC11
4C088BA08
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZA96
4C088ZC41
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA04
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA75
4C206NA14
4C206ZA96
(57)【要約】
【課題】皮膚の光老化の度合いや光老化発症の可能性を適切に評価し又は将来の予測を可能にする手法の開発を目的とする。
【解決手段】表皮中の生理活性脂質である9-HODEが光老化の指標となることを見出し、皮膚試料において9-HODE量を測定することを含む光老化を評価する方法を提供する。さらに、9-HODEの添加により変動するタンパク質量又は遺伝子発現量の変化を指標に、光老化調節剤をスクリーニング方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚中の9-HODEの量を測定することを特徴とする、皮膚の光老化を評価する方法。
【請求項2】
前記皮膚の光老化が、くすみ、しみ、慢性炎症、シワ、皮膚水分保持機能低下およびたるみからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
皮膚由来の9-HODEの産生量又は機能を調節する薬剤を選択することを特徴とする、光老化調節剤のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記皮膚の光老化が、くすみ、しみ、慢性炎症、シワ、皮膚水分保持機能低下、およびたるみからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
候補成分を含む培地で皮膚細胞を培養する工程、
培養後の皮膚細胞において9-HODE量を測定する工程、及び
測定された9-HODE量を、対照の9-HODE量と比較する工程
を含み、9-HODE量が増加又は低減した場合に、候補成分を光老化調節剤としてスクリーニングする、請求項3に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
前記9-HODEの産生量又は機能を調節する薬剤を選択することが、9-HODE添加によるIL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN、及びDCNからなる群から選ばれる少なくとも1のタンパク又は遺伝子の発現の増減を測定することである、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
候補成分及び9-HODEを含む培地で皮膚細胞を培養する工程、
培養後の皮膚細胞又は培養上清において、IL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN、及びDCNからなる群から選ばれる少なくとも1のタンパク量又は遺伝子の発現量を測定する工程、及び候補成分を含まない培地で培養した細胞又は培養上清のタンパク量又は遺伝子の発現量を、対照の候補成分を含む培地で培養した細胞又は培養上清のタンパク量又は遺伝子の発現量と比較する工程
を含み、候補成分を含む培地で培養した細胞又は培養上清のタンパク量又は遺伝子の発現量が増加又は低減した場合に、候補成分を光老化調節剤としてスクリーニングする、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
9-HODEの産生量又は機能を抑制する成分を含む、光老化抑制剤。
【請求項9】
9-HODEの機能を調節する成分が、GPR132(G2A)アンタゴニストである、請求項8に記載の光老化抑制剤。
【請求項10】
9-HODEの産生量又は機能を調節する成分が、チャ葉エキス、トルメンチラ根エキスである、請求項9記載の光老化抑制剤。
【請求項11】
9-HODEの産生量又は機能を調節する成分、または9-HODEを含むことを特徴とする骨密度改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リピドーム解析により、長年紫外線曝露を受けた高齢者の皮膚において存在量が高いことを示された生理活性脂質である9-HODE量を測定し、皮膚の光老化を評価する方法に関する。また、本発明の別の態様では、9-HODE量、又は9-HODEが結合する受容体の機能に基づき、光老化を調節可能な成分をスクリーニングする方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
光老化は、太陽光の作用により生じる老化のことをいい、光老化と加齢による自然老化とは質的に異なっているとされている。光老化の主な原因は紫外線であり、紫外線の作用により、くすみ、しみ、シワ、たるみなどの外観の変化を生じる。加齢による自然老化においてもこうした外観変化は生じるものの、紫外線による外観変化はより影響が大きい。これらの外観変化は、紫外線に曝露された皮膚において、メラニン産生促進、膠原線維や弾性線維の変化、炎症などが生じ複合的に皮膚性状に対し影響する。生涯で浴びる紫外線の約半分を18歳までに浴びるといわれており、日焼けなどの紫外線の影響は即座に生じる一方、光老化にかかわるくすみ、しみ、シワ、たるみなどは、すぐに生じるものではなく、時間を経て現出する。光老化は専ら、外観変化により評価されている一方、外観変化からは潜在的な光老化を正確に評価することは難しかった。
【0003】
一方、9-ヒドロキシオクタデカジエン酸は、リノール酸の代謝産物として知られており、いくつかの疾患や老化のバイオマーカーとして研究がされている。具体的に、老化関連の慢性炎症性障害の遅延及び/又は回避を可能にするライフスタイルを診断する方法におけるバイオマーカーとなることが知られている(特許文献1:特表2015-514203号公報)。また、接触活性化系に関連する疾患(特許文献2:特表2019-534446号公報)、あるいは難治性夜間頻尿・夜間多尿症のバイオマーカーとしても報告されている(特許文献3:特開2019-066239号公報)。また、9-HODE自体も生理活性を有することが報告されており、ペルオキシソーム増殖活性化受容体γ(PPARγ)を活性化し、かかる受容体誘導性の遺伝子の転写を高めることが報告されている(非特許文献1:Nat Struct Mol Biol. 2008 Sep;15(9):924-931)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2015-514203号公報
【特許文献2】特表2019-534446号公報
【特許文献3】特開2019-066239号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nat Struct Mol Biol. 2008 Sep;15(9):924-931
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光老化は様々なメカニズムを介して進行するものの、若年層から中年層ではその外観への影響が少ないため、光老化に対する予防の対策が不十分になることが多かった。そこで、外観に現れない光老化を評価することで、皮膚の光老化の度合いや光老化発症の可能性を適切に評価し又は将来の予測を可能にする手法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑み、様々な年代の皮膚についてリピドーム解析を行ったところ、紫外線曝露歴が長い人から取得された角層サンプルにおいてにおいてのみ、存在量が多い生理活性脂質が存在することを見出した。かかる生理活性脂質について、様々な解析を行ったところ、驚くべきことに、皮膚の光老化に関与する物質であることが分かり、かかる生理活性脂質量を測定することにより、光老化を評価できることを見出し、本発明に至った。
そこで本発明は以下に関する:
[1]皮膚中の9-HODEの量を測定することを特徴とする、皮膚の光老化を評価する方法。
[2]前記皮膚の光老化が、くすみ、しみ、慢性炎症、シワ、皮膚水分保持機能低下、及びたるみからなる群から選択される少なくとも一つである、項目1に記載の方法。
[3]皮膚由来の9-HODEの産生量又は機能を調節する薬剤を選択することを特徴とする、光老化調節剤のスクリーニング方法。
[4]前記皮膚の光老化が、くすみ、しみ、慢性炎症、シワ、皮膚水分保持機能低下、およびたるみからなる群から選択される少なくとも一つである、項目3に記載の方法。
[5]候補成分を含む培地で皮膚細胞を培養する工程、
培養後の皮膚細胞において9-HODE量を測定する工程、及び
測定された9-HODE量を、対照の9-HODE量と比較する工程
を含み、9-HODE量が増加又は低減した場合に、候補成分を光老化調節剤としてスクリーニングする、項目3又は4に記載のスクリーニング方法。
[6]前記9-HODEの産生量又は機能を調節する薬剤を選択することが、9-HODE添加によるIL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN(Versican)、及びDCN(Decorin)からなる群から選ばれる少なくとも1のタンパク又は遺伝子の発現の増減を測定することである、項目3又は4のいずれか一項に記載の方法。
[7]候補成分及び9-HODEを含む培地で皮膚細胞を培養する工程、
培養後の皮膚細胞又は培養上清において、IL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN、及びDCNからなる群から選ばれる少なくとも1のタンパク量又は遺伝子の発現量を測定する工程、及び候補成分を含まない培地で培養した細胞又は培養上清のタンパク量又は遺伝子の発現量を、対照の候補成分を含む培地で培養した細胞又は培養上清のタンパク量又は遺伝子の発現量と比較する工程
を含み、候補成分を含む培地で培養した細胞又は培養上清のタンパク量又は遺伝子の発現量が増加又は低減した場合に、候補成分を光老化調節剤としてスクリーニングする、項目6に記載のスクリーニング方法。
[8]9-HODEの産生量又は機能を抑制する成分を含む、光老化抑制剤。
[9]9-HODEの機能を調節する成分が、GPR132(G2A)アンタゴニストである、項目8に記載の光老化抑制剤。
[10]9-HODEの産生量又は機能を調節する成分が、チャ葉エキス、トルメンチラ根エキスである、項目8~9のいずれか一項に記載の光老化抑制剤。
[11]9-HODEの産生量又は機能を調節する成分、または9-HODEを含むことを特徴とする骨密度改善剤。
【発明の効果】
【0008】
皮膚の光老化の指標となる皮膚中の9-HODEを測定することで、光老化の評価が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、生活習慣に基づいて、各年代の被験者を紫外線スコア(生活習慣F)の低スコア群と高スコア群とに分け、そのしわの数を比較したグラフを示す。20歳代では、低スコア群と高スコア群とで相違がなかった(図1A)一方、50歳代では高スコア群において、低スコア群よりもしわの数が有意に多いことが示された(図1B)。
図2図2は、各年代の被験者を紫外線曝露時間スコア(曝露時間F)の低スコア群と高スコア群とに分け、非露光部(腕)と露光部(頬)の皮膚明度(L*)を各年代で比較したグラフを示す。20歳代では、非露光部(腕)と露光部(頬)のいずれにおいても、低スコア群と高スコア群とで相違がなかった(図2A)一方、50歳代では非露光部(腕)では低スコア群と高スコア群とで相違がなかったが、露光部(頬)では、高スコア群において低スコア群よりも皮膚明度(L*)が有意に低下することが示された(図2B)。
図3図3は、20代の被験者及び50代の被験者の露光部(頬)における角層水分量と、曝露時間Fとの間の関係を示すグラフである。
図4図4は、20代の被験者及び50代の被験者の非露光部(腕)と露光部(頬)において、曝露時間Fと、皮膚粘弾性との間の関係を示すグラフである。
図5図5(A)は、曝露時間Fにより分類された20歳代の低スコア群、20歳代の高スコア群、50歳代の低スコア群、50歳代の高スコア群の被験者の表皮の角層から抽出された9-HODEの量を示す。図5(B)は、生活習慣Fより分類された20歳代の低スコア群、20歳代の高スコア群、50歳代の低スコア群、50歳代の高スコア群の被験者の表皮の角層から抽出された9-HODEの量を示す。
図6図6は、培養ケラチノサイトに対し9-HODE添加後における(A)IL-8、(B)IL-6、(C)GM-CSF、(D)IL-1B、(E)IL-1A、(F)DKK1の発現変化を示すグラフである。
図7図7は、培養線維芽細胞に対し9-HODE添加後における(A)COL1A1、(B)COL3A1、(C)MMP-1、(D)MMP-3、(E)DCN、(F)VCAN、(G)IL-8、(H)IL-1Aの発現変化を示すグラフである。
図8図8は、培養ケラチノサイトに9-HODEを添加した際の遺伝子発現変化に対する各薬剤の効果を示すグラフである(DKK1(A)及びGM-CSF(B))。
図9図9は、培養線維芽細胞に9-HODEを添加した際の遺伝子発現変化に対する各薬剤の効果を示すグラフである(COL1A1(A)、COL3A1(B)、DCN(C)、及びVCAN(D))。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、皮膚の光老化の指標となる皮膚中の9-ヒドロキシオクタデカジエン酸(以下、9-HODEとする)の量を対象の皮膚において測定することを含む、皮膚の光老化の度合い又は発症可能性を評価する方法に関する。
【0011】
9-HODEは、以下の式:
【化1】
を有する脂肪酸である。9位の炭素が不斉炭素となり、S体:9-(S)-ヒドロキシ‐10(E),12(Z)-オクタデカジエン酸及びR体:9-(R)-ヒドロキシ‐10(E),12(Z)-オクタデカジエン酸の光学異性体が含まれる。光学異性体についてはキラルカラムなどを用いて分離して測定してもよいが、分離せずにまとめて測定されてもよい。9-HODEは、リノール酸が代謝物として知られており、リノール酸が酸化ストレス下におかれることで細胞内において生じると考えられている。
【0012】
9-HODEは、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)やペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターガンマ(PPARγ)への作用を介して、生理活性作用を有することが知られている。Gタンパク質共役型受容体として、特にGPR132(G2Aともいう)を介して作用することが知られている。表皮角化細胞に対しては、9-HODEは、炎症性サイトカインやメラノサイト刺激因子の産生を促進することができる。このような炎症性サイトカインやメラノサイト刺激因子としては、IL-8、IL-6、GM-CSF、IL-1A、IL-1B、DKK-1、IL-1Aがあげられる(図6)。したがって、9-HODEが蓄積することで、表皮の炎症が惹起される。表皮の炎症は、メラニン産生の増大をもたらしうるし、そもそも9-HODEがメラノサイトを活性化することから、メラニンの蓄積が生じ、シミや色素沈着に寄与する。9-HODEにより発現が促進されるDKK-1は骨組織に多く発現していることが知られており、Wntシグナルを阻害することで、骨形成を阻害することが知られており、発現を低下させることで、骨形成が促進されうる。
【0013】
線維芽細胞に対しては、9-HODEは、膠原線維の存在量を抑制する作用を有する。一例として、9-HODEにより、線維芽細胞におけるコラーゲン産生が低下する(図7(A)、(B))一方で、膠原線維の分解を促進するマトリクスメタロプロテイナーゼの発現を増大する(図7(C)、(D))。9-HODEの作用により、コラーゲンとしては、COL1A1、COL3A1などの発現が減少し、マトリクスメタロプロテイナーゼとしてMMP-1、MMP-3などの発現が増大する。また、9-HODEの作用により、プロテオグリカンであるデコリン(DCN)及びバーシカン(VCAN)の発現が減少する。さらに、9-HODEの作用により、炎症メディエーターであるIL-8及びIL-1Aの発現が増加する。このように、9-HOPEの作用により、炎症を促進し、膠原線維の量が減少し、またプロテオグリカンが減少することから、しわの形成に寄与する。
【0014】
光老化とは、太陽光の作用により生じる老化のことをいう。光老化は、加齢による老化と質的に異なっており、紫外線を浴びた時間と強さに比例するとされている。生涯で浴びる紫外線の約半分を18歳までに浴びるとされており、その影響が高齢となった際に現出する。光老化の主な原因は紫外線であり、紫外線の作用により、くすみ、しみ、シワ、たるみなどの外観の変化、及び慢性炎症、メラニン産生促進、膠原線維減少などの皮膚内部における変化が生じる。また、本発明者らにより、50歳代の被験者の露光部(頬)における角層水分量と、曝露時間Fとの間に相関性が見出されている(図3)。これにより、光老化による皮膚内部の変化として、皮膚水分保持機能の低下が挙げられることが示されている。前述の外観変化は、紫外線による皮膚内部における変化に起因して生じる。光老化による外観の変化は、若年~中年では少なく外観から光老化を評価することは難しい。また、光老化を、皮膚内部における慢性炎症、メラニン産生促進、及び膠原線維減少の変化を捉えることも試みられているが、これらの変化は必ずしも光老化を適切に評価するには十分ではない。本発明では、光老化の作用機序に影響を及ぼす9-HODE量を指標とすることで、光老化を評価することが可能となる。本発明により評価される光老化は、くすみ、しみ、慢性炎症、シワ、皮膚水分保持機能低下、及びたるみから選ばれる少なくとも1の症状、またはその組み合わせである。本発明による光老化の評価の結果、光老化の程度、すなわち進行度を決定することができる。光老化は、若年~中年では外観への影響が少なく、一定の年齢、例えば40歳以上になると、外観への影響が急に出てくることから、若年~中年において光老化を評価することで、将来における光老化の発症可能性を決定することができる。
【0015】
皮膚中の9-HODEの量を測定は、採取された皮膚試料において行われうる。皮膚試料は、表皮又は真皮の試料であり、より好ましくは表皮試料、特に角層試料である。表皮試料は、本技術分野に周知の方法により取得することができ、一例としてテープストリッピングによる表皮角層採取又はディスパーゼもしくは加温による表皮採取の手法により調製することができる。調製された表皮試料は、本技術分野に公知の脂質解析手法に供され、脂質を解析することができる。脂質解析手法としては、一例として表皮試料に含まれる脂質を脂溶性の溶媒で抽出し、抽出された脂質を分離処理に供して分析される。脂溶性の溶媒としては、アセトン、エタノール、メタノールなどを用いることができる。抽出された脂質は次にクロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動(CE)により分離して分析される。分離後に、NMRや質量分析法(MS)と組み合わされて脂質の分析が行うことができる。脂質を分離するクロマトグラフィーとしては、ガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC)、超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)を用いることができる。質量分液法と組み合わせたクロマトグラフィーとして、特にガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS、LC/MS/MS)、超臨界流体クロマトグラフィー質量分析法(SFC/MS)を使用することができる。
【0016】
リピドーム解析の結果、皮膚、特に角層試料中において、9-HODEが0.01~10pg/μg protein存在することが示された。9-HODEは、特に生活習慣に基づく生活習慣Fの高い高齢者群、並びに紫外線曝露時間を定量化した曝露時間Fの高い高齢者群において、9-HODEが有意に亢進していることが示された(図5)。したがって、9-HODEを指標とした場合の閾値については、当業者が適宜設定することができるが、一例として、表皮試料において、1.5pg/μg protein以上、好ましくは、2pg/μg protein以上の9-HODEを含む場合に、光老化が進行していると判断することができる。光老化の発症リスクは、9-HODE量と、測定した皮膚の部位を考慮することで推測することができる。
【0017】
生活習慣に基づく紫外線スコアは、紫外線忌避に関する生活習慣についての設問に対する回答から決定することができる。一例として、以下の設問:
1)日光に対する忌避
2)日焼け経験の有無
3)部活動・プライベート活動が屋外か否か
4)日焼け止めの使用の有無
5)帽子・日傘の着用の有無
のうちの少なくとも1つ、またはその組み合わせについて複数段階に分けて得た回答からスコアを算出することができる。一例として、2~10段階、例えば、3段階、4段階、または5段階に分けて得た回答からスコアを算出することができる。一例として、設問に対し、3段階の回答からスコアを算出することができる。
上述の設問に対し年代ごとに分けて回答を得ることもできる。年代の区分は、適宜選択することができるが、一例として、0~11歳(幼少~学童期)、12~17歳(思春期)、18~29歳(青年期)、30~44歳(中年期)、45歳~今まで、及び直近1年に区分することができる。
上述の少なくとも1つの紫外線忌避に関する生活習慣についての設問、またはその組み合わせ対する回答から決定された生活習慣に基づく紫外線スコアに基づいて、光老化、特に皮膚明度及び/又はしわに基づく光老化を評価することができる。かかる紫外線スコアを、生活習慣要因(生活習慣F)ということもできる。
【0018】
紫外線曝露時間スコアについては、年齢ごと区分し、屋外活動について、2~10段階、例えば、3段階、4段階、または5段階に分けて得た回答からスコアを算出することができる。一例として、0~11歳(幼少~学童期)、12~17歳(思春期)、18~29歳(青年期)、30~44歳(中年期)、45歳~今まで、及び直近1年に区分し、5段階に分けて得た回答からスコアを算出することができる。紫外線曝露時についての設問への回答から決定された紫外線曝露時間スコアに基づいて、光老化、特に皮膚明度及び/又はしわに基づく光老化を評価することができる。かかる暴露時間スコアを、暴露時間要因(暴露時間F)ということもできる。
【0019】
生活習慣に基づく紫外線スコア及び/又は紫外線曝露時間スコアに基づいて、光老化を評価することができる。生活習慣に基づく紫外線スコア(生活習慣F)及び紫外線曝露時間スコア(暴露時間F)それぞれに基づいて、各年代における被験者を高スコア群と低スコア群に分けることができる。高スコア群と低スコア群は適宜分類することができるが、一例として上位50%を高スコア群、下位50%を低スコア群と決定してもよい。
【0020】
本発明の更なる態様には、皮膚由来の9-HODEの産生量又は機能を調節する薬剤を選択することを特徴とする、光老化調節剤のスクリーニング方法に関する。9-HODEの産生量又は機能を調節する薬剤の選択は、9-HODE量を直接測定することにより行われてもよいし、9-HODEの受容体であるGPR132(G2A)活性を測定することにより行われてもよいし、または9-HODEの受容体の活性化の結果、発現増大される遺伝子の発現量又は翻訳されたタンパク質量を測定することにより、行われてもよい。
【0021】
9-HODEの受容体であるGRP132(G2A)は、リノール酸代謝物である、13-HODE、アラキドン酸代謝物である5-HETE、12-HETE、15-HETEなど、様々な脂肪酸と結合しうる。特定の脂肪酸と結合されたGRP132は、細胞種類に応じて、特定の遺伝子発現やタンパク質量を変化させるが、一例としてケラチノサイトでは、IL-6、IL-8及びGM-CSFなどのサイトカインの分泌を亢進する(Prostaglandins & Other Lipid Mediators, Volume 89, Issues 3-4, September 2009, Pages 66-72)。したがって、光老化調節剤のスクリーニング方法における指標として、IL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN、及びDCNからなる群から選ばれる少なくとも1の遺伝子の発現量又はタンパク質量を使用することができる。
【0022】
本発明にかかるスクリーニング方法は、より具体的に以下の工程:
候補成分を含む培地で皮膚細胞を培養する工程、
培養後の皮膚細胞において9-HODE量を測定する工程、及び
測定された9-HODE量を、対照の9-HODE量と比較する工程
を含み、9-HODE量が増加又は低減した場合に、候補成分を光老化調節剤として選択することができる。9-HODE量が対照の9-HODE量と比較して減少した場合に、候補成分を、光老化抑制剤として選択することができる。また、9-HODE量が対照の9-HODE量と比較して増大した場合に、候補成分を、光老化促進剤として選択することができる。
【0023】
別の態様では、本発明にかかるスクリーニング方法は、9-HODEと、その受容体であるGRP132(G2A)との相互作用に影響する候補成分を選択することができる。このようなスクリーニング方法では、スクリーニングの指標として、IL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN、DCNからなる群から選ばれる少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量を使用することができる。より具体的には、かかるスクリーニング方法は、例えば以下の工程:
候補成分及び9-HODEを含む培地で皮膚細胞を培養する工程、
培養後の皮膚細胞において、IL1A、IL1B、IL6、IL8、GM-CSF、DKK1、COL1A1、COL3A1、MMP1、MMP3、VCAN、DCNからなる群から選ばれる少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量を測定する工程、及び
測定された前記少なくとも1のタンパク量又はその遺伝子発現量を、対照の前記少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量と比較する工程
を含み、前記少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量が増加又は低減した場合に、候補成分を光老化調節剤としてスクリーニングすることができる。
前記少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量が対照の前記少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量と比較して減少した場合に、候補成分を、光老化抑制剤として選択することができる。また、前記少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量が対照の前記少なくとも1のタンパク質量又はその遺伝子発現量と比較して増大した場合に、候補成分を、光老化促進剤として選択することができる。
【0024】
対照は、候補成分を添加しない点を除き同一条件で実験を行って、測定を行った場合を指し、対照についての実験を平行して行ってもよいし、予め行って、対照における測定値に基づいて閾値を設定していてもよい。
【0025】
本発明のスクリーニング方法に用いる候補成分は、化粧品素材、食品素材、医薬品素材などの任意のライブラリーを使用することができる。かかるライブラリーとしては、化合物ライブラリー、エキスライブラリーなどを使用してもよい。各ライブラリーに含まれる化合物及びエキスは、市販の化合物及びエキスを使用してもよいし、合成された化合物及び調製されたエキスを使用してもよい。
【0026】
本発明の別の態様では、9-HODEの産生量又は機能を抑制する成分を含む、光老化抑制剤にも関する。光老化抑制剤は、しわ抑制又は改善剤、たるみ抑制又は改善剤、しみ抑制又は改善剤、くすみ抑制又は改善剤、皮膚水分保持機能維持又は改善剤ということもできる。さらに別の態様では、9-HODEの産生量又は機能を亢進する成分、又は9-HODEを含むことを特徴とする骨形成促進剤又は骨密度改善剤に関してもよい。かかる骨形成促進剤又は骨密度改善剤は、リウマチ、骨粗しょう症、骨折などの治療薬として使用することができる。投与経路は任意であってよいが、骨髄内、筋肉内、皮下、経口、経皮、静脈内投与など、一般に利用される方法で投与されうる。9-HODEが、DKK1の発現を抑制することで、かかる骨形成にかかわる作用が生じる。
【0027】
9-HODEの機能を調節する成分としては、GPR132(G2A)アンタゴニストが挙げられる。9-HODEの産生量又は機能を調節する成分は、本発明のスクリーニング方法により選択することができる。さらに別の態様では、9-HODEの産生量又は機能を調節する成分としては、チャ葉エキス、トルメンチラ根エキスがあげられる。
【0028】
チャ葉エキスは、南アジア、東アジア及び東南アジアに広く分布するチャノキ(Camellia sinensis (L.) Kuntze)の葉から溶媒抽出されたエキスであり、日本化粧品工業会が定めた化粧品の全成分表示に用いる表示名称及びINCI名(化粧品原料国際命名法)による国際的表示名称では、表示名/INCI名:チャ葉エキス/CAMELLIA SINENSIS LEAF EXTRACTで表される。溶媒として水、アルコール、又はそれらの混合溶媒を用いて抽出することにより調製することができる。アルコールとしては、エタノール、グリセロール、ブチレングリコール、プロピレングリコールを用いることができる。より好ましくは、水とエタノール又は水と1,3-ブチレングリコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。チャ葉エキスは、カテキン、カフェイン、テアニンなどの種々の生理活性物質を含み、抗酸化作用をはじめとする様々な生理作用を有する。チャ葉エキスは、0.00001%~30%の濃度で化粧品、医薬部外品又は医薬品に配合され、0.0001%~10%がより好ましい。
【0029】
トルメンチラ根エキスは、ヨーロッパに広く分布するトルメンチラ(Potentilla tormentilla Schrk)の根から溶媒抽出されたエキスであり、上記国際的表示名称の記載による表示名称/INCI名では、トルメンチラ根エキス/POTENTILLA ERECTA ROOT EXTRACTで表される。溶媒として水、アルコール、又はそれらの混合溶媒を用いて抽出することにより調製することができる。溶媒として水、アルコール、又はそれらの混合溶媒を用いて抽出することにより調製することができる。アルコールとしては、エタノール、グリセロール、ブチレングリコール、プロピレングリコールを用いることができる。より好ましくは、水とエタノール又は水と1,3-ブチレングリコールの任意の割合の混合液、例えば10:90~90:10の混合液、好ましく30:70~70:30、さらに好ましくは50:50の混合液により抽出されうる。トルメンチラ根エキスは、民間薬として、止瀉、止血薬、口腔病薬として用いられており、血管内皮増殖因子(VEGF-A)の生成抑制作用が知られている。トルメンチラ根エキスは、0.00001%~30%の濃度で化粧品、医薬部外品又は医薬品に配合され、0.0001%~10%がより好ましい。
【0030】
本発明の9-HODEの産生量又は機能を抑制する成分、または光老化抑制剤、シミ抑制剤、しわ抑制又は改善剤、たるみ抑制又は改善剤、しみ抑制又は改善剤、くすみ抑制又は改善剤、皮膚水分保持機能維持又は改善剤は互換的に用いることができ、それぞれ化粧料、医薬品又は医薬部外品に配合されてもよく、また、食品、例えばサプリメントなどの栄養補助食品に配合されてもよい。これらの薬剤は、経口、又は非経口、例えば経皮投与されてもよい。経皮投与される場合、皮膚外用剤に剤形することができる。皮膚外用剤は、皮膚に適用可能であれば特に限定されず、例えば、溶液状、乳化状、固形状、半固形状、粉末状、粉末分散状、水-油二層分離状、水-油-粉末三層分離状、軟膏状、ゲル状、エアゾール状、ムース状、スティック状等、任意の剤型が適用できる。皮膚外用剤に剤形される場合には、皮膚外用剤に通常用いられる基剤、及び賦形剤、例えば保存剤、乳化剤、pH調整剤などが用いられてもよい。化粧料に配合する場合、化粧水、乳液、美容液、クリーム、ローション、パック、エッセンス、ジェル等の顔用又は体用の化粧料や、ファンデーション、化粧下地、コンシーラー等のメーキャップ化粧料、さらには浴用剤などに配合することができる。本発明の成分を含む化粧品、医薬品及び医薬部外品を用いることにより、9-HODEの産生量又は機能の調節を介して、光老化を改善、軽減、予防、又は治療することができる。
【0031】
本発明の光老化抑制剤は、所望の効果、光老化の軽減又は抑制、あるいは光老化の進行又は発症の抑制効果を発揮させる観点で任意に濃度を選択することができる。皮膚外用剤として配合する観点からは、本発明に係るエキスは、0.0005%~0.5%で配合することができる。効果を十分に発揮させる観点から、好ましくは0.001%以上で配合でき、さらに好ましくは0.005%以上で配合することができる。強いにおいを避ける観点から、好ましくは0.1%以下で配合することができ、さらに好ましくは0.05%以下で配合することができる。
【0032】
本明細書において言及される全ての文献はその全体が引用により本明細書に取り込まれる。
【0033】
以下に説明する本発明の実施例は例示のみを目的とし、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載によってのみ限定される。本発明の趣旨を逸脱しないことを条件として、本発明の変更、例えば、本発明の構成要件の追加、削除及び置換を行うことができる。
【実施例0034】
実施例1:アンケート
(1)生活習慣に基づく紫外線スコア(生活習慣F)
喫煙歴のない20歳代の被験者105名と、50歳代の被験者88名について、下記の生活習慣に基づく過去の対策に関する設問について、3段階で回答を取得した:
1)日光に対する忌避
2)日焼け経験の有無
3)部活動・プライベート活動が屋外か否か
4)日焼け止めの使用の有無
5)帽子・日傘の着用の有無
紫外線に対する対策をとった場合を1点、対策を取らない場合を3点とし、その中間を2点とした。
回答の取得に際し、被験者の過去を、以下の年代に分けてそれぞれ回答を取得した:
1)0~11歳
2)12~17歳
3)18~29歳
4)30~44歳
5)45歳~今まで
6)直近1年間
各設問に対する回答された点数を合計し、生活習慣に基づく紫外線スコアを求めた。各年代における紫外線スコアの上位25名を高スコア群とし、紫外線スコアの下位25名を低スコア群とした。
【0035】
皮膚測定および角層採取は、恒温恒湿室(22℃、45%)で実施。皮膚測定および角層採取前に洗顔し、20分間恒温恒湿室で馴化した。
【0036】
被験者において、レプリカ剤 SILFLO(Monaderm)でシワレプリカを作製し、反射用レプリカ解析システムASA-03RXD(日本アッシュ)によりしわの数を計測し、生活習慣に基づく紫外線スコアの低スコア群と高スコア群とに分け、そのしわの数を、各年代で比較したところ、20歳代では、低スコア群と高スコア群とで相違がなかった(図1A)一方、50歳代では高スコア群において、低スコア群よりもしわの数が有意に多いことが示された(図1B)。この結果は、若年層では、光老化による外観変化が顕出しないことを示しており、生活習慣に関するアンケートにより、光老化を適切に評価できていることを示す。
【0037】
(2)紫外線曝露時間スコア(曝露時間F)
喫煙歴のない20歳代の被験者105名と、50歳代の被験者88名について、下記の年代における紫外線曝露時間に基づく設問について、5段階で回答を取得した:
1)0~11歳
2)12~17歳
3)18~29歳
4)30~44歳
5)45歳~今まで
6)直近1年間
紫外線に対する曝露時間が最も少ない場合を1点、曝露時間が最も高い場合を5点とし、その中間を2~4点とした。各設問に対する回答された点数を合計し、紫外線曝露時間スコアを求めた。各年代における紫外線曝露時間スコアの上位25名を高スコア群とし、紫外線曝露時間スコアの下位25名を低スコア群とした。
【0038】
被験者において、非露光部(上腕内側)と、露光部(頬)における皮膚明度(L*)を、CM-2600d(コニカミノルタオプティクス株式会社)により計測した。被験者を、紫外線曝露時間スコアの低スコア群と高スコア群とに分け、非露光部と露光部の皮膚明度(L*)を各年代で比較した。20歳代では、非露光部(腕)と露光部(頬)のいずれにおいても、低スコア群と高スコア群とで相違がなかった(図2A)一方、50歳代では非露光部(腕)では低スコア群と高スコア群とで相違がなかったが、露光部(頬)では、高スコア群において低スコア群よりも皮膚明度(L*)が有意に低下することが示された(図2B)。
【0039】
被験者において、露光部(頬)における角層水分量を、Corneometer(Courage + Khazaka electronic GmbH)により計測した。20歳代では、露光部(頬)について、曝露時間スコアと、角層水分量との間に相関は見られなかった一方、50歳代では露光部(頬)について、曝露時間スコアと、角層水分量との間に逆相関がみられた(Rs=-0.26*)(図3)。
【0040】
被験者において、露光部(頬)における皮膚粘弾性を、Cutometer MPA580(Courage & Khazaka Electronic GmbH)[プローブ径(2mm)]により計測した。20歳代では、曝露時間スコアと、皮膚粘弾性との間に相関は見られなかった一方、50歳代では曝露時間スコアと皮膚粘弾性との間に相関がみられた(Rs=0.24)、Rs=0.25(図4)。
【0041】
これらの結果は、非露光部では光老化が生じないこと、20歳代では、光老化による外観変化が顕出しない一方で、50歳代では光老化による外観変化が顕出し、紫外線曝露時間スコアにより、光老化を適切に評価できていることを示す。
【0042】
実施例2:生活習慣に基づく紫外線スコア及び紫外線曝露時間スコアで分類された被験者の皮膚における9-HODE解析
実施例1の被験者において、角質チェッカー(D-Squame)D100 [プロモツール]により頬部の角層試料を同じ個所から5枚分取得した。
最上層1枚分の角層試料を除き、残り4枚分の角層試料をメタノール3mLに浸漬し、10分間超音波処理をした。超音波処理した抽出液3mLを塩酸水(pH1~3)にて10倍希釈し、疎水性カラムにアプライ後、ヘキサンにて洗浄、ギ酸メチルにて精製・回収した。その後、窒素ガスで乾固後、30μLの70%メタノールに再溶解し、分析試料とした。下記の分析条件で9-HODE量を測定した。
機器:Nexera Liquid chromatograph (SHIMADZU)、LCMS-8040 (SHIMADZU)
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化法(ESI)
カラム:Waters XBridge C18 column (1.0 x 150 mm, 3.5 μm)
カラム温度:30℃
移動相:0.1% 酢酸水、アセトニトリル:水=4:1(v/v)
加えて、Micro BCA Protein Assay Kit(23235、Thermo Scientific)を用いてタンパク定量を行った。
9-HODEの存在量をタンパク質量に対して標準化して求めた。実施例1において、生活習慣に基づく紫外線スコアにより分類された20歳代の低スコア群(N=17)、20歳代の高スコア群(N=14)、50歳代の低スコア群(N=13)、50歳代の高スコア群(N=13)における被験者中の9-HODE量、並びに、紫外線曝露時間スコアにより分類された20歳代の低スコア群(N=23)、20歳代の高スコア群(N=22)、50歳代の低スコア群(N=22)、50歳代の高スコア群(N=21)における被験者中の9-HODE量をそれぞれ図5A及び図5Bに示した。
【0043】
実施例3:表皮角化細胞における9-HODEの影響
正常ヒトケラチノサイトを8x104cells/mLで24well plateに播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で一晩培養した。培養2日目に、9-HODE(Cayman Chemical)を終濃度10μMで添加し、6、24、48時間培養を行った。培養後に、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写反応を行った。逆転写後の核酸は、以下のTaqMan Gene Expression AssayとTaqPath qPCR Master Mix,CG(Thermo Fisher Scientific)、およびStepOne plus リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いてreal-time PCRを行い、mRNA発現量を評価した。結果を図6に示す。9-HODEを添加していないデータをCont.とする。
【表1】
【0044】
実施例4:培養線維芽細胞における9-HODEの影響
正常ヒト線維芽細胞を4x104cells/mLで24well plateに播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で一晩培養した。培養2日目に、9-HODE(Cayman Chemical)を終濃度10μMで添加し、6、24、48時間培養を行った。培養後に、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写反応を行った。逆転写後の核酸は、以下のTaqMan Gene Expression AssayとTaqPath qPCR Master Mix,CG(Thermo Fisher Scientific)、およびStepOne plus リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いてreal-time PCRを行い、mRNA発現量を評価した。結果を図7に示す。9-HODEを添加していないデータをCont.とする。
【表2】
【0045】
実施例5:9-HODEの影響に対するエキスの効果(表皮角化細胞)
正常ヒトケラチノサイトを8x104cells/mLで24well plateに播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で一晩培養した。培養2日目に、エキスを終濃度0.05、0.1%で、また9-HODE(Cayman Chemical)を終濃度10μMで添加し、24時間培養を行った。培養後に、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写反応を行った。逆転写後の核酸は、以下のプライマーセットとPlatinum SYBR Green qPCR SuperMix-UDG(Thermo Fisher Scientific)、およびStepOne plus リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いてreal-time PCRを行い、mRNA発現量を評価した。結果を図8に示す。9-HODEを添加していないデータをCont.とする。
【表3】
【0046】
実施例6:9-HODEの影響に対するエキスの効果(線維芽細胞)
正常ヒト線維芽細胞を4x104cells/mLで24well plateに播種し、37℃、5%CO2雰囲気下で一晩培養した。培養2日目に、エキスを終濃度0.05、0.1%で、9-HODE(Cayman Chemical)を終濃度10μMで添加し、48時間培養を行った。培養後に、RNeasy Mini Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、SuperScript VILO cDNA Synthesis Kit(Thermo Fisher Scientific)を用いて逆転写反応を行った。逆転写後の核酸は、以下のプライマーセットとPlatinum SYBR Green qPCR SuperMix-UDG(Thermo Fisher Scientific)、およびStepOne plus リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いてreal-time PCRを行い、mRNA発現量を評価した。結果を図9に示す。9-HODEを添加していないデータをCont.とする。
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2024172362000001.xml