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  • 特開-ノイズ抑制部材 図1
  • 特開-ノイズ抑制部材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172369
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ノイズ抑制部材
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241205BHJP
   H01F 1/20 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20241205BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 H
H01F1/20
B22F1/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090036
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】石原 太一
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
5E321
【Fターム(参考)】
4K018BA14
4K018BB01
4K018BB04
4K018BD05
4K018CA08
4K018HA08
4K018KA43
5E041AA02
5E041AA11
5E041BB03
5E041BD12
5E041CA06
5E041HB11
5E041NN06
5E041NN14
5E321BB32
5E321BB44
5E321BB53
5E321GG07
5E321GG11
(57)【要約】
【課題】扁平磁性粉の配合量が従来品よりも多く、優れた磁気特性を示すノイズ抑制部材の提供。
【解決手段】ノイズ抑制部材は、扁平磁性粉及びバインダを含有する複合組成物によって構成される。扁平磁性粉の含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で88.9-90質量%である。バインダは、水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンを含有している。水素化ニトリルゴムの含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で2-9質量%である。ポリオレフィンの含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で1-8質量%である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノイズ抑制部材であって、
扁平磁性粉及びバインダを含有する複合組成物によって構成され、
前記扁平磁性粉は、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si合金、及びFe-Cr合金の中から選ばれる、いずれか1種の合金粉末又は2種以上の合金粉末の混合物であり、
前記扁平磁性粉のメジアン径は、10-30μmであり、
前記扁平磁性粉の含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で88.9-90質量%であり、
前記バインダは、水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンを含有しており、
前記水素化ニトリルゴムの含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で2-9質量%であり、
前記ポリオレフィンの含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で1-8質量%である、
ノイズ抑制部材。
【請求項2】
請求項1に記載のノイズ抑制部材であって、
前記扁平磁性粉の含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で89.2-89.5質量%である、
ノイズ抑制部材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のノイズ抑制部材であって、
厚さ0.3-0.5mmのシート状に構成されている、
ノイズ抑制部材。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のノイズ抑制部材であって、
3-6GHzの周波数帯における複素透磁率μ’(実部)が1以上である、
ノイズ抑制部材。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載のノイズ抑制部材であって、
表面抵抗値が1×10Ω/□以上である、
ノイズ抑制部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ノイズ抑制部材に関する。
【背景技術】
【0002】
有機バインダと、有機バインダ内に分散された磁性扁平粉とを備える複合磁性シートが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。下記特許文献1によれば、下記特許文献1に記載の複合磁性シートを利用することにより、UHF帯を超える周波数、例えば、5GHzのノイズを抑制することができる、との説明がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許6405355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、複合磁性シートにおける磁性扁平粉の体積占有率は、40vol%以上50vol%以下、好ましくは、45vol%以上50vol%以下である、との説明がある。体積占有率を50vol%以下と規定する理由としては、体積占有率が50vol%より大きいと、複合磁性シートの膜質の劣化、可撓性の低下及びシートの表面抵抗率の減少等が起こるからである、と記載されている。
【0005】
しかし、本件発明者が更に検討を重ねた結果、特定のバインダを選択すれば、シート材としての物性や加工性を損ねることなく、50vol%を超える量の磁性粉を配合可能となることを見いだした。しかも、磁性粉の配合量が50vol%を超える範囲には、磁性粉の配合量が50vol%以下となる場合に比べ、特異的に磁気特性が改善される数値範囲が存在することを見いだした。以下に説明する技術は、上記知見に基づいて完成された技術である。
【0006】
本開示の一局面は、扁平磁性粉の配合量が従来品よりも多く、優れた磁気特性を示すノイズ抑制部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本開示の構成について説明する。
(1)本開示の一態様は、ノイズ抑制部材であって、扁平磁性粉及びバインダを含有する複合組成物によって構成される。扁平磁性粉は、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si合金、及びFe-Cr合金の中から選ばれる、いずれか1種の合金粉末又は2種以上の合金粉末の混合物である。扁平磁性粉のメジアン径は、10-30μmである。扁平磁性粉の含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で88.9-90質量%である。バインダは、水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンを含有している。水素化ニトリルゴムの含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で2-9質量%である。ポリオレフィンの含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で1-8質量%である。
【0008】
扁平磁性粉の含有率を88.9-90質量%の範囲内に調節すると、後述する実施形態において具体例を例示するように、ノイズ抑制部材の透磁率が特異的に改善される。また、水素化ニトリルゴムの含有率を2質量%以上とすることにより、製造工程上必要となるシートの引張強度を得ることができる。水素化ニトリルゴムの含有率を9質量%以下とすることにより、分出し工程及び圧延工程において強い反発が生じるのを抑制することができ、シートを適切な厚みに伸ばす事ができる。
【0009】
さらに、ポリオレフィンの含有率を1質量%以上とすることにより、分出し工程及び圧延工程において強い反発が生じるのを抑制することができ、シートを適切な厚みに伸ばす事ができる。ポリオレフィンの含有率を8質量%以下とすることにより、加熱圧延時にシートがロールに貼り付くのを抑制することができ、シートの生産を安定させることができる。
【0010】
このように構成されるノイズ抑制部材によれば、ノイズ抑制部材は、扁平磁性粉及びバインダを含有する複合組成物によって構成され、バインダには上述のような組成比で配合された水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンが含有されている。そのため、磁性粉の体積占有率を50vol%以下にすべきとされていた従来技術とは異なり、上記複合組成物中には、50vol%を超える量の磁性粉を配合することが可能となる。
【0011】
より具体的には、本開示において、扁平磁性粉としては、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si合金、及びFe-Cr合金の中から選ばれる、いずれか1種の合金粉末又は2種以上の合金粉末の混合物が用いられる。扁平磁性粉のメジアン径は、10-30μmである。扁平磁性粉の含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で88.9-90質量%とされる。
【0012】
この質量比88.9-90質量%は、本開示の場合、体積占有率に換算すると52.5-54.5vol%に相当する。すなわち、上記ノイズ抑制部材を構成する複合組成物中には、50vol%を超える磁性粉が含有されている。ただし、上述の通り、バインダには上述のような組成比で配合された水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンが含有されているので、上記複合組成物をシート状に加工する場合であっても、シート材としての物性や加工性が損なわれるのを抑制することができる。
【0013】
また、扁平磁性粉の含有率を上記88.9-90質量%の範囲内に調節すると、3GHzから6GHzにかけての高い周波数帯において高い透磁率を示すノイズ抑制部材を構成することができる。扁平磁性粉の含有率と透磁率との関係については、後述する実施形態において詳細に説明する。
【0014】
なお、本開示は、以下のような構成を備えていてもよい。
(2)本開示の一態様では、扁平磁性粉の含有率は、複合組成物100質量%中に対する質量比で89.2-89.5質量%であってもよい。
【0015】
このような構成を採用すれば、3GHzから6GHzにかけての高い周波数帯において、特に高い透磁率を示すノイズ抑制部材を構成することができる。
(3)本開示の一態様では、厚さ0.3-0.5mmのシート状に構成されていてもよい。
【0016】
(4)本開示の一態様では、3-6GHzの周波数帯における複素透磁率μ’(実部)が1以上であってもよい。
(5)本開示の一態様では、表面抵抗値が1×10Ω/□以上であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は扁平磁性粉の含有率と周波数6GHzにおけるノイズ抑制部材の複素透磁率μ’(実部)の測定値との関係を示すグラフである。
図2図2は0.1-6GHzの周波数帯におけるノイズ抑制部材の複素透磁率μ’(実部)及びμ”(虚部)の測定値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、上述のノイズ抑制部材について、例示的な実施形態を挙げて説明する。
[ノイズ抑制部材の製造例]
以下に説明する手順で、ノイズ抑制部材(試料1-試料7)を作製する。
【0019】
まず、水素化ニトリルゴム、ポリオレフィン、及び滑剤を、表1に示す質量比となるように秤量し、それらをニーダーで混練してバインダ組成物を調製する。続いて、扁平磁性粉を表1に示す質量比となるように秤量し、その扁平磁性粉と上記バインダ組成物をニーダーで混練する。扁平磁性粉及びバインダ組成物を混練する際には、各材料を事前に加熱して70-90℃の温度条件下で混練が行われる。
【0020】
扁平磁性粉は、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si合金、及びFe-Cr合金の中から選ばれる、いずれか1種の合金粉末又は2種以上の合金粉末の混合物である。扁平磁性粉のメジアン径は、10-30μmである。扁平磁性粉のアスペクト比は、10-40である。なお、本実施形態でいうアスペクト比は、扁平磁性粉の長径方向寸法を扁平磁性粉の厚み方向寸法で除した値である。
【0021】
続いて、ニーダーで混練された材料中には、ダマになっている部分が含まれているため、材料中に含まれる粒子が同程度の大きさとなるように、材料を粉砕する。続いて、40-60℃程度に加熱された分出しロールにて分出しを実施する。続いて、分出しされた材料を、40-60℃程度に加熱された圧延ロールで圧延して、厚み0.3-0.5mm程度のシート状に成形する。
【0022】
続いて、圧延されたシートを短冊状にカットして、150℃、5分の真空プレスをかける。この真空プレスによって、シートからの脱泡を促してシートの密度を向上させるとともに、材料中での架橋を促すことができる。
【0023】
【表1】
【0024】
[性能試験]
上記試料1-試料7について、以下のような性能試験を実施した。
上記試料1-試料7を測定対象として、複素透磁率を測定した。測定には、市販のRFインピーダンスアナライザ(アジレントテクノロジー社製、E4991A)を使用した。測定を行うに当たっては、試料から外径18mm×内径6mmのリング状測定サンプルを切り出して測定を行った。複素透磁率を測定する際の測定条件としては、測定周波数を0.1-6GHzとした。扁平磁性粉の含有率と周波数6GHzにおけるノイズ抑制部材の複素透磁率μ’(実部)の測定値との関係を、図1及び表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
図1及び表2に示す測定結果から、試料3-試料6は、複素透磁率μ’(実部)の値が1以上となり、ノイズ対策部材として有効であることが示唆された。特に、試料4,5は、複素透磁率μ’(実部)の値が2以上となり、優れたノイズ対策性能を備えることが示唆された。試料3-試料6は、扁平磁性粉の含有量が質量比88.9-90質量%となる試料であり、体積占有率に換算すると52.5-54.5vol%に相当する。
【0027】
すなわち、上記試料3-試料6を構成する複合組成物中には、50vol%を超える扁平磁性粉が含有されている。ただし、上述の通り、バインダには上述のような組成比で配合された水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンが含有されているので、上記複合組成物をシート状に加工する場合であっても、シート材としての物性や加工性が損なわれるのを抑制することができる。
【0028】
次に、上記試験において、最も複素透磁率μ’(実部)の値が高かった試料4について、0.1-6GHzの周波数帯におけるノイズ抑制部材の複素透磁率μ’(実部)及びμ”(虚部)の測定値を、図2に示す。図2からは、試料4の複素透磁率μ’(実部)は、3-6GHzの周波数帯において、1以上を保っており、6GHzまでのノイズ対策に対して有効であることが示唆された。
【0029】
次に、上記試料4について、JIS K 6911に準拠して、表面抵抗値を測定した。測定には、市販の表面抵抗計(三菱化学株式会社製、商品名:Hiresta-UP MCP-HT450)を使用した。測定の際には、プローブ(電極)を試料表面に押し当て、その表面を流れる電流値から表面抵抗値を測定した。試料4の表面抵抗値は、6×10Ω/□であった。
【0030】
[効果]
以上説明した通り、上記ノイズ抑制部材によれば、ノイズ抑制部材を構成する複合組成物中に、50vol%を超える量の磁性粉を配合することが可能となる。しかも、バインダには上述のような組成比で配合された水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンが含有されているので、上記複合組成物をシート状に加工する場合であっても、シート材としての物性や加工性が損なわれるのを抑制することができる。
【0031】
また、扁平磁性粉の含有率が上記88.9-90質量%の範囲内に調節されているので、3GHzから6GHzにかけての高い周波数帯において高い透磁率を示すノイズ抑制部材を構成することができる。
【0032】
[他の実施形態]
以上、ノイズ抑制部材について、例示的な実施形態を挙げて説明したが、上述の実施形態は本開示の一態様として例示されるものにすぎない。すなわち、本開示は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、本開示の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
【0033】
[本明細書が開示する技術思想]
[項目1]
ノイズ抑制部材であって、
扁平磁性粉及びバインダを含有する複合組成物によって構成され、
前記扁平磁性粉は、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si合金、及びFe-Cr合金の中から選ばれる、いずれか1種の合金粉末又は2種以上の合金粉末の混合物であり、
前記扁平磁性粉のメジアン径は、10-30μmであり、
前記扁平磁性粉の含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で88.9-90質量%であり、
前記バインダは、水素化ニトリルゴム及びポリオレフィンを含有しており、
前記水素化ニトリルゴムの含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で2-9質量%であり、
前記ポリオレフィンの含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で1-8質量%である、
ノイズ抑制部材。
【0034】
[項目2]
項目1に記載のノイズ抑制部材であって、
前記扁平磁性粉の含有率は、前記複合組成物100質量%中に対する質量比で89.2-89.5質量%である、
ノイズ抑制部材。
【0035】
[項目3]
項目1又は項目2に記載のノイズ抑制部材であって、
厚さ0.3-0.5mmのシート状に構成されている、
ノイズ抑制部材。
【0036】
[項目4]
項目1から項目3までのいずれか1項に記載のノイズ抑制部材であって、
3-6GHzの周波数帯における複素透磁率μ'(実部)が1以上である、
ノイズ抑制部材。
【0037】
[項目5]
項目1から項目4までのいずれか1項に記載のノイズ抑制部材であって、
表面抵抗値が1×10Ω/□以上である、
ノイズ抑制部材。
図1
図2