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  • 特開-車両の制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172370
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 23/06 20160101AFI20241205BHJP
【FI】
H02P23/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090039
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】本田 信之介
(72)【発明者】
【氏名】寺田 恭介
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505CC04
5H505EE48
5H505EE60
5H505HB01
5H505LL60
(57)【要約】
【課題】損失増加制御の開始又は終了に伴って電池の保護出力を一時的に超過することを抑制できるようにする。
【解決手段】車両の制御装置は、電池と、電池からの電力により作動する電動機を含むパワートレーンと、を備える車両を制御する。制御装置による電動機のトルク制御は、第1のトルク制御と、第1のトルク制御の実行時と比べて電動機の駆動効率が低下するように進角した電流位相角で電動機を駆動する第2のトルク制御(損失増加制御)と、を含む。第1のトルク制御から第2のトルク制御に遷移するために電流位相角を進角させる場合、制御装置は、電流位相角を基準値から目標進角値に向けて時間とともに変化させる。また、第2のトルク制御から第1のトルク制御に遷移するために電流位相角を遅角させる場合、制御装置は、電流位相角を目標進角値から基準値に向けて時間とともに変化させる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池と、前記電池からの電力により作動する電動機を含むパワートレーンと、を備える車両を制御する制御装置であって、
前記制御装置による前記電動機のトルク制御は、第1のトルク制御と、前記第1のトルク制御の実行時と比べて前記電動機の駆動効率が低下するように進角した電流位相角で前記電動機を駆動する第2のトルク制御と、を含み、
前記第1のトルク制御から前記第2のトルク制御に遷移するために前記電流位相角を進角させる場合、前記電流位相角を基準値から目標進角値に向けて時間とともに変化させ、
前記第2のトルク制御から前記第1のトルク制御に遷移するために前記電流位相角を遅角させる場合、前記電流位相角を前記目標進角値から前記基準値に向けて時間とともに変化させる
ことを特徴とする車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータ駆動システムを開示している。このモータ駆動システムは、交流モータでの電力損失を増加させて余剰電力を消費させる制御(損失増加制御)を実行可能に構成されている。電力損失の増加は、交流モータの駆動効率が低下するように電流位相角を進角させることによって行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-151336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような損失増加制御(本開示に係る「第2のトルク制御」に相当)への(又は、からの)トルク制御の遷移に伴い、電動機の要求トルクに対するトルク差(段差)が実トルクに発生する。その結果、電動機の実パワー(電池のパワー)に対しても、要求パワーに対するパワー差が生じてしまう。高出力領域においてこのような急なトルク差が発生すると、電池の保護出力(入出力制限Win、Wout)を一時的に超過するおそれがある。
【0005】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、損失増加制御の開始又は終了に伴って電池の保護出力を一時的に超過することを抑制できる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両の制御装置は、電池と、電池からの電力により作動する電動機を含むパワートレーンと、を備える車両を制御する。制御装置による電動機のトルク制御は、第1のトルク制御と、第1のトルク制御の実行時と比べて電動機の駆動効率が低下するように進角した電流位相角で電動機を駆動する第2のトルク制御と、を含む。第1のトルク制御から第2のトルク制御に遷移するために電流位相角を進角させる場合、制御装置は、電流位相角を基準値から目標進角値に向けて時間とともに変化させる。また、第2のトルク制御から第1のトルク制御に遷移するために電流位相角を遅角させる場合、制御装置は、電流位相角を目標進角値から基準値に向けて時間とともに変化させる。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、第1のトルク制御と第2のトルク制御との間でのトルク制御の切り替えの際に、電動機に指令される電流位相角を緩やかに変化させることで、電動機の実トルクの急な変化が抑制される。その結果、電池の保護出力を一時的に超過することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】比較例におけるトルク制御の切り替えに関連する動作を表したタイムチャート(A)と、実施の形態におけるトルク制御の切り替えに関連する動作を表したタイムチャート(B)である。
図3】実施の形態に係るトルク制御の切り替えに関する処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付図面とともに本開示の実施の形態を説明する。
【0010】
1.車両の構成
図1は、実施の形態に係る車両1の構成の一例を概略的に示す図である。車両1は、パワートレーン10と、電池12と、制御装置20と、センサ類22とを備える。車両1は、ハイブリッド電気自動車(HEV)又はバッテリ電気自動車(BEV)等の電動車両である。
【0011】
パワートレーン10は、電動機14と、電力制御ユニット(PCU)16とを含む。電動機14は、交流電動機であり、電池12からの電力により作動する。PCU16は、電動機14を駆動するためのインバータを含む電力変換装置である。PCU16は、制御装置20からの指令に基づき、電動機14を制御する。
【0012】
制御装置20は、車両1の制御に関する各種処理を実行する。各種処理は、後述される電動機14のトルク制御に関する処理を含む。制御装置20は、例えば、プロセッサと記憶装置とを含む電子制御ユニット(ECU)を含む。記憶装置は、プロセッサによる処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置に格納されているコンピュータプログラムをプロセッサが実行することにより、制御装置20による各種処理が実現される。また、各種処理は、専用の電子回路によるハードウェア処理で実現されてもよい。なお、制御装置20は、複数のECUを組み合わせて構成されていてもよい。
【0013】
制御装置20には、センサ類22からの信号が入力される。センサ類22は、例えば、システム電圧VH(PCU16のインバータの入力電圧)、電動機14に流れる電流(モータ電流)Im、電動機14の回転角(モータ回転角)θ、電池12の充放電電流(電池電流)Ib、電池12の端子電圧(電池電圧)Vb、電池12の温度Tb、車両1の速度(車速)、アクセルペダルの踏み込み量、及びブレーキペダルの踏み込み量をそれぞれ検出するセンサを含む。
【0014】
2.電動機のトルク制御
基本的には、制御装置20は、車両1のドライバによって要求される電動機14のトルクである要求トルク(トルク指令値)Treqを算出する。要求トルクTreqは、例えば、アクセルペダル及びブレーキペダルの踏み込み量と車速とに基づいて算出される。そして、制御装置20は、例えば、要求トルクTreq、電池電圧Vb、システム電圧VH、モータ電流Im、及びモータ回転角θに基づいて、電動機14が要求トルクTreqに従ったモータトルク(実トルク)Tmを出力するようにPCU16を制御する。より詳細には、モータトルクTmの制御は、要求トルクTreqに基づくモータ電流Imの制御によって行われる
【0015】
ただし、車両1の走行中には、上述のように算出される要求トルクTreqに相当するモータトルクTmが常にそのまま出力されるとは限らない。すなわち、モータトルクTm(回生トルク又は力行トルク)は、次のように制限され得る。すなわち、電池12の保護のために、電池12の充電に許容される電力には、例えば電池12の温度及びSOC(State Of Charge)に基づく上限値である保護出力(入出力制限Win)が定められている。同様に、電池12の放電に許容される電力にも、保護出力(出力制限Wout)が定められている。なお、電力の符号を電池12の放電時に正とし、充電時に負とすると、入力制限Winは負の値となり、出力制限Woutは正の値となる。
【0016】
本実施形態では、電動機14のトルク制御は、「第1のトルク制御」と、「第2のトルク制御」とを含む。第1のトルク制御は、通常時に用いられる「基本的なトルク制御(基本制御)」である。第2のトルク制御は、電動機14での電力損失を意図的に増大させるための消費動作を伴う「損失増加制御」である。
【0017】
モータトルクTmは、モータ電流Imの振幅及び位相角αに対して次のような特性を有する。すなわち、それぞれの電流振幅において、モータトルクTm(出力トルク)が最大となる(換言すると、電動機14の駆動効率が最大となる)電流位相角α0(後述の基準値に相当)が存在する。基本制御では、制御装置20は、同一の電流振幅に対してモータトルクTmが最大となる最適な電流位相角α0を選択するように、要求トルクTreqに応じてモータ電流指令を生成する。
【0018】
一方、損失増加制御は、電動機14からの回生可能な電力Pinを超えて過剰な発電電力Pgnが電動機14に発生した場合に実行される。損失増加制御では、基本制御(第1のトルク制御)の実行時と比べて電動機14の駆動効率が低下するように進角した電流位相角α1(後述の目標進角値に相当)で電動機14が駆動される。より具体的には、制御装置20は、電流位相角αを最適な電流位相角α0から当該電流位相角α1に変化させるように、要求トルクTreqに応じてモータ電流指令を生成する。なお、このような損失増加制御に関する詳細な説明は、例えば特許文献1に記載されているため、ここでは省略される。
【0019】
図2(A)は、比較例におけるトルク制御の切り替えに関連する動作を表したタイムチャートである。この比較例は、損失増加制御に関する課題を説明するために参照される。図2(A)は、高出力領域において要求トルクTreqが一定で推移するシーンを例示的に表している。この比較例では、時点t1において、損失増加制御の実行フラグがONに転じている。その結果、時点t1の到来に伴ってトルク制御が基本制御から損失増加制御に遷移する。換言すると、損失増加制御が開始される。
【0020】
比較例では、損失増加制御への遷移時の電流位相角αの進角に関し、電流位相角αの変化レートRは設定されていない。すなわち、時点t1の到来に伴い、電流位相角αの進角がステップ的に実行される。その結果、図2(A)に示すように、要求トルクTreqは時点t1の前後で一定であるのに対し、モータトルク(実トルク)Tmに段差が発生している。このように要求トルクTreqと実トルクTmとの間にトルク差ΔTが生じると、実トルクTmに応じた実パワーPm(図2(A)中の「出力」)に対しても、要求トルクTreqから算出される電動機14の要求パワーPreqに対するパワー差ΔPが発生してしまう。そして、高出力領域においてこのような急なトルク差ΔTが発生すると、図2(A)に示すように、時点t1の経過後に出力が電池12の保護出力(入力制限Win)を一時的に超過するおそれがある。
【0021】
また、図2(A)では、時点t2において損失増加制御の実行フラグがOFFに転じている。その結果、時点t2の到来に伴ってトルク制御が損失増加制御から基本制御に遷移する。換言すると、損失増加制御が終了する。比較例では、損失増加制御からの遷移時における最適な電流位相角α0への電流位相角αの遅角に関しても、電流位相角αの変化レートRは設定されていない。このため、時点t1の到来時と同様に、急なトルク差ΔTの発生に起因して、図2(B)に示すように時点t2の経過後に出力が電池12の保護出力(出力制限Wout)を一時的に超過するおそれがある。
【0022】
なお、ここでは、図2(A)を参照して、損失増加制御の実行フラグがONとなることに伴って入力制限Winを超過し、実行フラグがOFFになることに伴って出力制限Wouttを超過する例が説明されている。しかしながら、実行フラグのON/OFF時のトルク変動による保護出力の一時的な超過の方向は、実トルクTmが正又は負のどちらの方向にずれるかに依存して異なるものとなる。つまり、実トルクTmのずれ方向に応じて、上述の例とは逆に、実行フラグがONになることに伴って出力制限Woutを超過する可能性もあり、同様に、実行フラグがOFFになることに伴って入力制限Winを超過する可能性もある。
【0023】
上述の課題に鑑み、本実施形態では、制御装置20は、損失増加制御への遷移のために電流位相角αを進角させる場合、電流位相角αを基準値α0から目標進角値α1に向けて時間とともに変化させる。すなわち、電流位相角αの当該進角に関して、変化レートRが設定される。同様に、制御装置20は、損失増加制御からの遷移のために電流位相角αを遅角させる場合、電流位相角αを目標進角値α1から基準値α0に向けて時間とともに変化させる。すなわち、電流位相角αの当該遅角に関しても、変化レートRが設定される。
【0024】
図2(B)は、実施の形態におけるトルク制御の切り替えに関連する動作を表したタイムチャートである。図2(B)は、図2(A)と同じシーンにおいて、電流位相角αの変化レートRが上述のように設定された例に相当する。このように変化レートRが設定されると、図2(B)に示すように、時点t1の経過後に実トルクTmが緩やかに変化していく。このことは、時点t2の経過後においても同様である。その結果、図2(B)に示すように、制御の切り替えに伴って出力が保護出力(Win、Wout)を一時的に超過することを抑制できる。
【0025】
図3は、実施の形態に係るトルク制御の切り替えに関する処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、車両1の走行中に繰り返し実行される。付け加えると、当該処理は、損失増加制御がOFF状態にある時に開始される。
【0026】
ステップS100において、制御装置20は、損失増加制御の実行フラグがOFFからONに転じたか否かを判定する。当該実行フラグは、例えば、回生動作による電動機14での発電電力Pgnが回生可能電力Pinを上回る場合にONとなり、発電電力Pgnが回生可能電力Pin以下である場合にはOFFとなる。
【0027】
実行フラグがOFFのままである場合(ステップS100;No)、処理はエンドに進む。一方、実行フラグがOFFからONに転じた場合(ステップS100;Yes)、処理はステップS102に進む。
【0028】
ステップS102において、制御装置20は、電動機14の損失を増加させるために、目標進角値α1まで変化レートRで電流位相角αを進角させる処理を実行する。具体的には、電流位相角αの進角時に用いられる変化レートRは、例えば次のような手法で設定される。すなわち、例えば、回転角θを検出するセンサ(レゾルバ)の誤差によるトルク差ΔT(トルク段差)に起因して生じるパワー差ΔPが最大となるモータ動作点において電池12の充放電電力(電池電流Ibと電池電圧Vbとの積)が保護出力(Win、Wout)を超過しない変化レートRの最大値が変化レートRとして設定される。また、変化レートRは、保護出力(Win、Wout)とモータ電流指令とに基づいて定められてもよい。
【0029】
また、損失増加制御による損失の増加量は、例えば、上述の発電電力Pgnに応じて設定される。より詳細には、当該増加量は、上述の回生可能電力Pinに対する発電電力Pgnの余剰量(=Pgn-Pin)が大きいほど多くなるように設定される。そして、目標進角値α1は、当該増加量が多くなるほどより進角側の値となる。付け加えると、変化レートRが低いほど、実トルクTmの変化が緩やかとなり、その結果、出力が保護出力(例えば、入力制限Win)を超過しにくくなる傾向がある。その一方で、変化レートRが低くなることは、上述の増加量だけ損失が増加するまでに要する時間が長くなることを意味する。
【0030】
ステップS102に続くステップS104において、制御装置20は、損失増加制御を所定時間継続する。すなわち、電流位相角αが目標進角値α1で維持される。その後、処理はステップS106に進む。
【0031】
ステップS106において、制御装置20は、損失増加制御の実行フラグがONからOFFに転じたか否かを判定する。その結果、実行フラグがONのままである場合(ステップS106;No)、処理はステップS104に戻り、損失増加制御がさらに所定時間継続される。一方、実行フラグがONからOFFに転じた場合(ステップS106;Yes)、処理はステップS108に進む。
【0032】
ステップS108において、制御装置20は、電動機14の損失を減少させるために、基準値α0まで変化レートRで電流位相角αを遅角させる処理を実行する。具体的には、この遅角時に用いられる変化レートRは、例えば、ステップS102における進角時に用いられる変化レートRと同じように設定される。ステップS108の処理によって、電流位相角αが基準値α0まで遅角すると、処理はエンドに進む。
【符号の説明】
【0033】
1 車両、 10 パワートレーン、 12 電池、 14 電動機、 16 電力制御ユニット(PCU)、 20 制御装置、 22 センサ類
図1
図2
図3