IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DOWAテクノロジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-被処理水の処理方法 図1
  • 特開-被処理水の処理方法 図2
  • 特開-被処理水の処理方法 図3
  • 特開-被処理水の処理方法 図4
  • 特開-被処理水の処理方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172394
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】被処理水の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20230101AFI20241205BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20241205BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20241205BHJP
   B01J 43/00 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/46 500
B01D61/44 500
B01J43/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090090
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】507027162
【氏名又は名称】DOWAテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】荻野 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】中塚 清次
(72)【発明者】
【氏名】藤井 尚輝
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA41
4D006JA42A
4D006JA43A
4D006JA44A
4D006KA16
4D006KE12R
4D006KE15Q
4D006KE15R
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006MA15
4D006PA01
4D006PA04
4D006PB08
4D006PB70
4D061DA08
4D061DB18
4D061EA09
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB17
4D061EB19
4D061EB39
4D061GC14
4D061GC15
(57)【要約】
【課題】解離度合いの異なる酸を含み、重金属含有量の少ない被処理水から、両酸(強酸及び弱酸)を簡易な工程で効果的に分離して強酸を回収する。
【解決手段】酸Aと、酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下である被処理水に対して、酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層1a、3a、5aとカチオン交換層1b、3b、5bとを備えるバイポーラ膜1、3、5、及びアニオン交換膜2、4を備えた電気透析装置10により電気透析することで、アニオン交換膜2、4を透過した酸Aを含む強酸液を得る、被処理水の処理方法及びその関連技術を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下である被処理水に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析することで、前記アニオン交換膜を透過した酸Aを含む強酸液を得る、被処理水の処理方法。
【請求項2】
酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下であり、pHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水に対して、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜を備えた電気透析装置により電気透析し、前記被処理水に比べてpHが低く、前記酸A及び酸Bを含む酸液を得る第1電気透析工程と、
前記酸液に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析し、前記アニオン交換膜を透過した酸Aを含む強酸液を得る第2電気透析工程と
を有する、被処理水の処理方法。
【請求項3】
酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下であり、pHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水に対して、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、カチオン交換膜及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析する電気透析工程を有し、
前記電気透析工程の前期段階では、前記電気透析の開始前の被処理水に比べてpHが高い高pH液を得つつ、前記被処理水のpHを、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)に低下させ、
前記電気透析工程の後期段階では、前記pH(X)となった被処理水中の前記酸Aを前記アニオン交換膜を透過させて強酸液を得る、
被処理水の処理方法。
【請求項4】
前記電気透析装置は前記バイポーラ膜を複数備え、
2つの前記バイポーラ膜の間に前記アニオン交換膜が配置される、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項5】
前記電気透析装置は、前記バイポーラ膜と、前記アニオン交換膜と、前記カチオン交換膜とがこの順に繰り返し配置された膜構造を備え、
前記アニオン交換膜は、前記バイポーラ膜の前記カチオン交換層と対向し且つ前記カチオン交換膜と対向し、
前記カチオン交換膜は、前記バイポーラ膜の前記アニオン交換層と対向する、請求項3に記載の被処理水の処理方法。
【請求項6】
前記酸Aは硝酸、塩酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記酸Bはギ酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項7】
前記pKaから前記pKaを引いた値は4以上である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項8】
前記pH(X)から前記pKaを引いた値は0.4以上である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項9】
前記pKaから前記pH(X)を引いた値は0.4以上である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項10】
前記アニオン交換膜を酸Aが透過する量をQ1、前記アニオン交換膜を酸Bが透過する量をQ2としたとき、Q1がQ2の30倍以上である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項11】
前記強酸液における酸Aの濃度αは52g/L以上である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項12】
前記電気透析に供される前記被処理水における重金属の含有量は100ppm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【請求項13】
前記アニオン交換膜の電気抵抗は10Ωcm以上である、請求項3に記載の被処理水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気透析装置を用いた電気透析が、海水からの淡水の製造のためなどの脱塩処理として利用されることが知られている。
【0003】
特許文献1には、重金属を含有した状態(具体的数値としては実施例4の鉄(Fe)が12g/L、ニッケル(Ni)0.2g/L、クロム(Cr)2g/Lの場合が文献内の最小値として開示)の硝フッ酸廃液等の酸混合液を、第一電気透析装置へ供給し、酸混合液に含有される一方の酸、具体的にはフッ酸を第一電気透析装置の脱酸室を通過させ、他方の酸は第一電気透析装置の濃縮室側へ移動させることが記載されている(請求項1及び実施例4)。この工程を、特許文献1の工程1と称する。
【0004】
前記一方の酸を第一電気透析装置の脱酸室を通過させ、他方の酸、具体的には硝酸は第一電気透析装置の濃縮室3側へ移動させた後、脱酸室を通過する一方の酸(フッ酸)をアルカリで中和し重金属等を沈澱分離させることが特許文献1に記載されている(請求項1及び実施例)。この工程を、特許文献1の工程2と称する。
【0005】
その後、前記重金属等の沈殿分離で得られた濾液をバイポーラ膜、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜を備えた第二電気透析装置に供給して一方の酸を分離回収し、第二電気透析装置通過後の脱塩水を第一電気透析装置の濃縮室側(他方の酸、具体的には硝酸を収容している)へ供給し、或いは水を濃縮室側へ供給して第一電気透析装置の濃縮室から他方の酸を分離回収することが記載されている(請求項1)。この工程を、特許文献1の工程3と称する。
【0006】
解離度の異なる2種以上の酸が混合された混合酸であれば特許文献1に記載の発明を適用することができると特許文献1には記載されている([0075])。混合酸中の二種の酸をそれぞれ別々に回収することが可能となったと特許文献1には記載されている([0078])。
【0007】
なお上記第二電気透析装置で使用されたバイポーラ膜は、カチオン交換膜とアニオン交換膜が貼り合わされた複合膜であり、水をプロトンと水酸化物イオンに解離する機能を有している。これを備えた電気透析装置による電気透析により、中性塩から酸とアルカリを製造することなどが行われている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9-10557号公報
【特許文献2】特開2009-39694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
産業(例:銀粉の製造)においては広く硝酸廃液が発生する。昨今のSDGsに対する要望が高まっていることからすると、この廃液から硝酸を回収してリサイクルすることが望ましい。
【0010】
特許文献1には、混合酸中の二種の酸をそれぞれ別々に回収することが可能となったと記載されている。なお特許文献1の発明では、相当量(濃度の具体的な数値として数十g/dL)の重金属を含む酸混合液を処理対象としている。
【0011】
このため、工程1で脱酸室を通過した一方の酸(フッ酸)は多量の重金属を含んでおり、これを工程2でアルカリ沈殿させている。そして工程3で前記一方の酸を回収するとともに当該工程で発生した脱塩水を硝酸と混合している。重金属は環境負荷などの観点から排水基準が設けられており、前記工程2のごとく沈殿させるなどして回収する必要がある。
【0012】
このように、また特許文献1の発明は重金属含有量が非常に高い酸廃液を処理対象としており、そのため工程1~3という長い工程を要するが、産業上発生する、重金属含有量がそれほど高くない酸廃液の処理方法としては適切ではない。
【0013】
本発明(後掲の実施形態1に対応する発明)の一つの課題としては、解離度合いの異なる酸を含み、重金属含有量の少ない被処理水から、両酸(酸解離定数pKaの小さい方の酸を、相対的な比較の意味で強酸と、pKaの大きい方の酸を弱酸とも呼ぶこととする。以下同じ)を簡易な工程で効果的に分離して強酸を回収する方法を提供することを目的とする。
【0014】
本発明(後掲の実施形態2に対応する発明)の別の課題としては、上記の複数の酸を含み、pHが弱酸の酸解離定数pKa以上であり、重金属含有量の少ない被処理水について、強酸と弱酸を簡易な工程で効果的に分離して強酸を回収する方法を提供することを課題とする。
【0015】
本発明(後掲の実施形態3に対応する発明)の更に別の課題としては、上記の複数の酸を含み、pHが弱酸の酸解離定数pKa以上であり、重金属含有量の少ない被処理水について、更に簡易な工程で、強酸と弱酸を効果的に分離して強酸を回収する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下である被処理水に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析することで、前記アニオン交換膜を透過した酸Aを含む強酸液を得る、被処理水の処理方法。
【0017】
[2]
酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下であり、pHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水に対して、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜を備えた電気透析装置により電気透析し、前記被処理水に比べてpHが低く、前記酸A及び酸Bを含む酸液を得る第1電気透析工程と、
前記酸液に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析し、前記アニオン交換膜を透過した酸Aを含む強酸液を得る第2電気透析工程と
を有する、被処理水の処理方法。
【0018】
[3]
酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下であり、pHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水に対して、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、カチオン交換膜及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析する電気透析工程を有し、
前記電気透析工程の前期段階では、前記電気透析の開始前の被処理水に比べてpHが高い高pH液を得つつ、前記被処理水のpHを、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)に低下させ、
前記電気透析工程の後期段階では、前記pH(X)となった被処理水中の前記酸Aを前記アニオン交換膜を透過させて強酸液を得る、
被処理水の処理方法。
【0019】
[4]
前記電気透析装置は前記バイポーラ膜を複数備え、
2つの前記バイポーラ膜の間に前記アニオン交換膜が配置される、[1]~[3]のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【0020】
[5]
前記電気透析装置は、前記バイポーラ膜と、前記アニオン交換膜と、前記カチオン交換膜とがこの順に繰り返し配置された膜構造を備え、
前記アニオン交換膜は、前記バイポーラ膜の前記カチオン交換層と対向し且つ前記カチオン交換膜と対向し、
前記カチオン交換膜は、前記バイポーラ膜の前記アニオン交換層と対向する、[3]に記載の被処理水の処理方法。
【0021】
[6]、
前記酸Aは硝酸、塩酸及び硫酸からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記酸Bはギ酸及び酢酸からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]~[5]のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【0022】
[7]
前記pKaから前記pKaを引いた値は4以上である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の被処理水の処理方法。
【0023】
[8]
前記pH(X)から前記pKaを引いた値は0.4以上である、[1]~[7]のいずれか一つに記載の被処理水の処理方法。
【0024】
[9]
前記pKaから前記pH(X)を引いた値は0.4以上である、[1]~[8]のいずれか一つに記載の被処理水の処理方法。
【0025】
[10]
前記アニオン交換膜を酸Aが透過する量をQ1、前記アニオン交換膜を酸Bが透過する量をQ2としたとき、Q1がQ2の30倍以上である、[1]~[9]のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【0026】
[11]
前記強酸液における酸Aの濃度αは52g/L以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【0027】
[12]
前記電気透析に供される前記被処理水における重金属の含有量は100ppm以下である、[1]~[11]のいずれかに記載の被処理水の処理方法。
【0028】
[13]
前記アニオン交換膜の電気抵抗は10Ωcm以上である、[3]に記載の被処理水の処理方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明(後掲の実施形態1に対応する発明)によれば、解離度合いの異なる酸を含む被処理水から、両酸(強酸及び弱酸)を簡易な工程で効果的に分離して強酸を回収することができる。
【0030】
本発明(後掲の実施形態2に対応する発明)によれば、上記の複数の酸を含み、pHが所定値以上である被処理水について、強酸と弱酸を簡易な工程で効果的に分離して強酸を回収することができる。
【0031】
本発明(後掲の実施形態3に対応する発明)によれば、複数の酸を含み、pHが所定値以上である被処理水について、より簡易な工程で、強酸と弱酸を効果的に分離して強酸を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、実施形態1における電気透析装置及び電気透析の概要を示す図である。
図2図2は、実施形態1における図1の部分拡大図である。
図3図3は、実施形態2において第1電気透析工程にて用いられる電気透析装置及び電気透析の概要を示す図である。
図4図4は、実施形態2における図3の部分拡大図である。
図5図5は、実施形態3における電気透析装置及び電気透析の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態には限定されない。
【0034】
実施形態1の説明では、酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含む被処理水を処理対象とする場合について説明する。実施形態1は、本発明の基本的なメカニズムを利用したものであり、本発明は実施形態1には限定されない。
【0035】
実施形態2、3の説明では、酸Aと酸Bを含有し、pHが所定値以上である被処理水を処理対象とする場合について説明する。
【0036】
そして、実施形態2の説明では、被処理水に対する電気透析を2回行う場合を説明する。具体的には、1回目の電気透析では被処理水よりpHが低下した、酸A及びBを含む酸液を得て、2回目の電気透析では該酸液を強酸液と弱酸液とに分離する場合を説明する。
その一方、実施形態3の説明では、実施形態2での2回の電気透析を1回にまとめる場合を説明する。
【0037】
実施形態1の発明の構成の内容は、後掲の実施形態2、3の発明に援用可能である。そのため、後掲の実施形態2、3では、実施形態1の構成と同様の構成についての説明の記載を省略することもある。
【0038】
本明細書では、特記無い限り、「濃度」の単位はg/Lとする。「X~Y」はX以上且つY以下を表す(X及びYはX<Yを満たす数値である)。
【0039】
[実施形態1]
本実施形態1に係る被処理水の処理方法は、酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下である被処理水に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析する電気透析工程を有する。そして、この電気透析工程により、被処理水中の酸Aがアニオン交換膜を選択的に透過して強酸液が得られる。また、被処理水のうち、酸Bなどアニオン交換膜を透過しなかった残留液としての弱酸液が得られる。
【0040】
本実施形態1に係る被処理水は、酸Aと、酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含んでいれば限定は無い。本明細書における酸解離定数(pKa)は、25℃の水中での値とする。
【0041】
その一方、本実施形態1では、強酸(酸A)と弱酸(酸B)の分離にアニオン交換膜及びバイポーラ膜を使用する。本実施形態1が対象とする、電気透析工程前の被処理水における重金属の含有量は1000ppm以下であり、これらの膜を目詰まりさせにくい。前記重金属の含有量は好適には500ppm以下、より好適には100ppm以下、更に好適には50ppm、特に好ましくは10ppm以下である。また本発明において重金属とは、比重が4以上の金属を指すものとする。
【0042】
前記pKaから前記pKaを引いた値は通常0.8以上であり、4以上であることが好ましい。前記値(pKa-pKa)が大きければ、両者即ち酸Aと酸Bの解離の度合いに差がついたpH(後述するpH(X))を設定した電気透析を実施しやすく、これらを分離しやすくなる。なお、前記値は通常16以下である。また、被処理水が酸Aとして複数種類を含む場合、前記値(pKa-pKa)を求める際は、pKaとして最もpKaが高いものを基準とする。複数種のうち特定の酸を回収対象とする場合は、その酸のpKaを基準とする。酸Bが複数種類含まれる場合については、pKaが最も小さいものを基準とする。以上は、後述するpH(X)とpKaの差及びpKaとpH(X)の差についても同様とする。
【0043】
前記酸AとBは、例えば前記のごとく酸解離定数がある程度以上に離れた関係にあり、後述するpH(X)での電気透析により分離できる関係にあれば特に限定されるものではない。なお、代表的には本発明では酸Aとしては硝酸のようなpKaの小さい、具体的には例えばpKaが2.5以下の酸を想定している(通常酸Aの酸解離定数pKaは-5以上である)。酸Aは例えば硝酸(pKa=-1.8)、塩酸(pKa=-3.7)及び硫酸(pKa=1.96)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。酸Bについては、本発明では代表的にはギ酸のようなpKaの大きい、具体的には例えばpKaが3.3以上の酸を想定している(通常酸Bの酸解離定数pKaは12以下である)。酸Bは例えばギ酸(pKa=3.75)及び酢酸(pKa=4.8)からなる群より選ばれる少なくとも1種であってもよい。以降では(実施の形態2及び3の発明の説明を含む)、酸Aが硝酸、酸Bがギ酸の場合を例にとって実施の形態を説明する場合がある。
【0044】
また酸A及びBについて、これらは被処理水などの水中において、そのpHに従って所定の割合で解離してイオンとなっている。後述する通り本発明では酸Aの大部分が解離した状態(共役塩基となった状態)で電気透析をし、前記共役塩基がアニオン交換膜を透過した後プロトンが付与されて酸Aとなって回収することができる。本発明では、被処理水や強酸液等の各種液の成分として測定された物質について、それ自体が上記に例示した酸Aであれば酸Aであり、イオン(共役塩基)である場合には電荷が0になるようにプロトンを付与したものが酸Aに該当すれば、当該イオンは酸Aであるものとする。酸Bについても同様とする。
【0045】
本実施形態1に係る被処理水において、酸Aの濃度αは特に制限されないが、例えば20~95g/Lである。酸Bの濃度βも特に制限されないが、例えば2~30g/Lである。前記被処理水は他の成分を含んでいてもよく、当該成分の例としては、ホルムアルデヒド、アンモニア、水酸化ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミン、アルコール化合物が挙げられる。これらは本実施形態1における電気透析工程において、電荷の相違を利用して酸Aと容易に分離することができる。
【0046】
電気透析工程では、上記被処理水に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaの数値より大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaの数値より小さい数値のpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析する。被処理水のpHがpH(X)でない場合には、塩酸や水酸化ナトリウムなどを添加してpH(X)にしてから、電気透析を実施する。
【0047】
pH(X)を、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さくする理由は、酸Aでは酸解離させる(例えば硝酸をHとNO に解離する)一方で、酸Bでは酸解離させない(例えばギ酸はHCOOHのままにする)ためである。
【0048】
酸解離において異なる挙動を両者に確実に生じさせるべく、前記pH(X)から前記pKaを引いた値は0.4以上であることが好ましく(通常4未満である)、前記pKaから前記pH(X)を引いた値は0.4以上であることが好ましい(通常4未満である)。両規定を満たすことがより好ましい。
【0049】
上記のようにpH(X)を設定する理由及び本実施形態1の電気透析による酸A及びBの分離のメカニズムについて、以下、詳述する。
【0050】
図1は、実施形態1において採用可能な電気透析装置10及び電気透析の概要を示す平面図である。
図2は、実施形態1における図1の部分拡大図である。
【0051】
以降に記載のない内容、例えば電気透析装置10は、公知の電気透析装置を採用しても構わないし、バイポーラ膜は、公知のバイポーラ膜を採用しても構わない。例えば、特許文献2に記載のバイポーラ膜を採用しても構わない。アニオン交換膜についても、公知のものを採用することができる。
【0052】
図1に示すように、実施形態1において採用可能な電気透析装置10はアニオン交換膜2(左側)、4(右側)を備える。このアニオン交換膜2、4は、前記バイポーラ膜1(左端)、3(中央)のカチオン交換層1b、3bと対向する。
【0053】
図1に示すように、実施形態1における電気透析装置10は前記バイポーラ膜を複数備え、2つの前記バイポーラ膜の間に前記アニオン交換膜2、4が配置される(バイポーラ膜とアニオン交換膜が交互に繰り返し配置される)。
【0054】
図1に示すように、実施形態1における電気透析装置10では、前記アニオン交換膜と前記バイポーラ膜が交互に配置されている繰り返し構造の両端に前記バイポーラ膜1、5が配置される。そして、該両端のバイポーラ膜1、5を更に挟み込むように、電気透析装置10の陽極11と陰極12が配置される。
【0055】
図1で言うと、最も左側に陽極11が配置され、その右隣に左端バイポーラ膜1が配置され、その右隣に左側アニオン交換膜2が配置され、その右隣に中央バイポーラ膜3が配置され、その右隣に右側アニオン交換膜4が配置され、その右隣に右端バイポーラ膜5が配置され、最も右側に陰極12が配置される。
【0056】
図1で言うと、左端バイポーラ膜1と左側アニオン交換膜2との間には流路(1)が形成される。左側アニオン交換膜2と中央バイポーラ膜3との間には流路(2)が形成される。中央バイポーラ膜3と右側アニオン交換膜4との間には流路(3)が形成される。右側アニオン交換膜4と右端バイポーラ膜5との間には流路(4)が形成される。
【0057】
被処理水タンク6から被処理水が流路(2)及び(4)に供給される。流路(2)に着目すると、上記のようにpH(X)を設定することにより、流路(2)を流れる被処理水では、硝酸(酸A)はプロトンであるHとNO に酸解離する一方でギ酸(酸B)は酸解離せずHCOOHのままである(図2(a))。
【0058】
電気透析装置10の電源を入れた状態では、アニオン交換膜及びバイポーラ膜に対して略垂直に電流が流れ、被処理水中のNO が左側アニオン交換膜2を通過して図1左方の陽極11に向けて移動する(図2(b))。
【0059】
ここで、アニオン交換膜2、4としては従来公知のものを採用することができるが、これらの電気抵抗は2Ωcm以上であることが好ましく、10Ωcm以上であることがより好ましい(通常電気抵抗は60Ωcm以下である)。これにより、アニオンのみを通過させることがより選択的となり、NO とHCOOHとを明確に分離できる。
【0060】
但し、陽極11の手前には左端バイポーラ膜1が配置される。そのため、NO は陽極11に向けて移動しようとするものの、該左端バイポーラ膜1に弾かれ、流路(1)に留まる(図2(c))。
【0061】
その一方、該左端バイポーラ膜1のうちカチオン交換層1bと左側アニオン交換膜2とが対向しており、カチオン交換層1bからHが流路(1)に供給される。その結果、流路(1)に留まるNO とHとが結合し、硝酸となる。実施形態1ならば、硝酸塩ではなく硝酸そのものが得られる。これは、硝酸の金属塩から硝酸を得る工程を実施形態1では行う必要が無いことを意味する。流路(1)内の水分を強酸液タンク7へと回収すれば、被処理水から酸Aが選択的に移行してきた液(強酸液)が得られる。
【0062】
なお、ギ酸は流路(2)に留まったままである。しかもその状態は、酸解離せずHCOOHのままである。これは、流路(2)内の水分内にはギ酸塩ではなくギ酸そのものが含まれていることを意味する。流路(2)内の水分を被処理水タンク6へと回収すれば、電気透析前より酸Aの濃度が低下した液(弱酸液)が得られる。なお、処理すべき被処理水を被処理水タンク6内に一定量投入し、図1に示す流れにて被処理水(ないし処理中の水分)を循環させ続ければ、被処理水タンク6を通る液は酸Aの濃度が小さい液(弱酸液)へと変わっていく。そこで本明細書では、被処理水タンク6を弱酸液タンク6とも呼ぶ。
【0063】
図1で説明すると、被処理水タンク6から流路(2)と流路(4)とに被処理水が供給され、両流路を通過した後、再び被処理水タンク6に戻される。そして、流路(1)と流路(3)では硝酸が生成され、該硝酸は水分とともに強酸液タンク7に移動する。該水分は硝酸とともに強酸液タンク7から流路(1)と流路(3)に供給され、当該流路で新たに(流路(2)や(4)から移動してきてプロトンを与えられて)生成される硝酸を取り込んで再度強酸液タンク7に移動する。
【0064】
それと共に、流路(2)と流路(4)ではNO が減りギ酸の濃度が相対的に増加した水分が得られ、該水分は被処理水タンク6に移動する。該水分は被処理水タンク6から再度流路(2)と流路(4)に供給され、循環する。またNO が流路(1)と(3)に移行したことで、流路(2)と(4)を流れる被処理水のpHは高くなり、硝酸の解離する割合が高まって、これの流路(1)と(3)への移行が更に進行する。
【0065】
なお、流路(2)内の硝酸が酸解離して生じたHは、図1右方の陰極12に向けて移動する。そして、図1の中央バイポーラ膜3における左側に配置された中央アニオン交換層3aから供給されるOHと結合して水となる。
【0066】
陽極11と左端バイポーラ膜1(の左端アニオン交換層1a)との間は通常電極液(例えば水酸化ナトリウム水溶液)で満たされている。陰極12と右端バイポーラ膜5(の右端カチオン交換層5b)との間についても同様である。
【0067】
被処理水ないし処理中の水分の循環には公知のポンプを使えばよい。
【0068】
実施形態1によれば、特許文献1の工程2及び工程3のように多種の作業は不要となり、コストアップを回避できるうえ、一種の作業(上記電気透析工程)により強酸(酸A)を満足いくまで分離できる。つまり、実施形態1によれば、解離度合いの異なる酸を含む被処理水から、両酸(強酸及び弱酸)を効果的に分離して弱酸である酸Bの混入量の少ない強酸(酸A)を回収することができる。
【0069】
具体的に言うと、上記の電気透析工程により、酸Aの濃度αと酸Bの濃度βの比δ(α/β)が大きい強酸液と、前記電気透析工程前の前記被処理水に比べて前記比δが小さくなった弱酸液とが得られる。
【0070】
なお、これまでの説明の通り、被処理水タンク6に供給するのは基本的には被処理水であり、酸A単体を供給することはしない。つまり、被処理水に元々含まれていた酸A(例:硝酸)が、酸Bと分離された状態で強酸液中に回収される。
【0071】
また、これまでの説明の通り、被処理水タンク6に供給するのは基本的には被処理水であり、酸B単体を供給することはしない。つまり、被処理水に元々含まれていた酸B(例:ギ酸)が、酸Aと分離された状態で弱酸液中に回収される。
【0072】
本実施形態1で得られた強酸液における比δ(α/β)の値は10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。比δは通常300以下であり、また例えば200以下である。また、強酸液における酸Aの濃度αは52g/L以上であることが好ましい(通常180g/L以下である)。被処理水中の重金属の含有量は上記の通り少なく、本実施形態1の電気透析では金属が添加されることもないので、強酸液における重金属の含有量は少ない(具体的には通常1000ppm以下であり、好適には500ppm以下、より好適には100ppm以下、更に好適には50ppm、特に好ましくは10ppm以下である)。以上の比δ、濃度α及び重金属含有量の全ての規定を満たすことがより好ましい。なお、弱酸液における酸Bの濃度βは2g/L以上であってもよい(通常30g/L以下である)。
【0073】
また、本実施形態1によれば被処理水における酸AとBを効果的に分離できることから、電気透析工程でアニオン交換膜を酸Aが透過する量をQ1、アニオン交換膜を酸Bが透過する量をQ2としたとき、Q1はQ2の好ましくは30倍以上であり、より好ましくは40倍以上である(通常180倍以下である)。本明細書において、酸A等の各種膜の透過量は、電気透析前後における強酸液等の各液における濃度及び液量から求めることができる。
【0074】
なお、電気透析工程の諸条件には限定は無い。一例としては以下の通りである。
【0075】
電気透析で印加する電流の電圧:25~35V
電気透析で印加する電流:最大4.4A(目指す強酸液における酸A濃度αや酸A/B比率δにより適宜変更)
電流を印加する時間:目指す強酸液における酸A濃度αや酸A/B比率δにより適宜変更。また被処理水の量によって変動するが、被処理水の単位量あたりの時間として、一例として0.5~4時間/Lという範囲が挙げられる。
電気透析の実施温度(被処理水の温度):本実施形態で使用する、アニオン交換膜等の各種膜への影響を考慮して、室温、例えば2~40℃とすることができる。
【0076】
電気透析の終点は、目標とする強酸液における酸Aの濃度αにより調整することができる。電気透析が進行すると、強酸液の電気伝導度が上昇するので、これが電気透析の進行具合の指標になる。また酸Aが硝酸(比重:1.5)など水と明確に密度が区別できるもの(かつ被処理水の夾雑物が少ないもの)である場合には、電気透析が進むほど強酸液の比重が大きくなり酸Aの比重に近づいていくので、これを電気透析の進行具合の指標とすることが出来る。
【0077】
図1では、左端バイポーラ膜1、左側アニオン交換膜2という組み合わせ(別の表現では流路(1)と流路(2)の組み合わせ)を2組並べつつ右端バイポーラ膜5を設けた例を記載している。その一方、該組み合わせの組数には限定は無く、例えば該組数を10~200組としつつ右端バイポーラ膜5を設けても構わない。その場合、被処理水は流路(偶数)に供給され、酸Aは流路(奇数)にて生成される。つまり、被処理水タンク6(後の弱酸液タンク)は流路(偶数)と連結し、強酸液タンク7は流路(奇数)と連結する。
【0078】
なお流路(1)及び(3)は、電気透析開始時は、例えば純水を満たしておけばよく、電気透析の進行に伴い酸Aが流入してくる。また電気透析開始時に、別に実施形態1を実施して得られた強酸液と純水との混合液(強酸液:純水の混合比は例えば1:0.5~1:4とすることができる)を満たしておいてもよい。このようにすると電気透析装置10において陽極11及び陰極12の間で電流が流れやすく、電気透析の効率を高めることが出来る。
【0079】
[実施形態2]
本実施形態に係る被処理水の処理方法は、第1電気透析工程と第2電気透析工程とを有する。いずれの電気透析工程の実施にも、電気透析装置10は図1に示す構成の装置を採用してよい。同一装置を使用する場合は、第1電気透析工程の後で該装置を洗浄して第2電気透析工程を行ってもよい。第1電気透析工程と第2電気透析工程の内容は以下の通りである。
【0080】
第1電気透析工程では、酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下であり、pHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上(通常12以下)である被処理水に対して、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜を備えた電気透析装置10により電気透析し、前記被処理水に比べてpHが低く、前記酸A及び酸Bを含む酸液を得る。前記被処理水は、一般的にアルカリ物質を含有しており、被処理水のpHがpKa以上となっている。前記電気透析の実施により、前記酸液に加えて、前記被処理水に比べてpHが高いアルカリ液(前記アルカリ物質を主に含んでいる)が得られる。
【0081】
酸A及び酸Bは実施の形態1の発明の場合と同様であり、前記アルカリ物質の例としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。更に、被処理水は他の成分を含んでいてもよく、当該成分の例としては、ホルムアルデヒド、アルコール化合物が挙げられる。前記アルカリ物質について、これは水に溶けてアルカリ性を示す物質であり、被処理水中でそのpHに応じて所定の割合で解離している。第1電気透析工程でカチオン交換膜を使用する場合や後述の実施形態3では、アルカリ物質が解離したプラスイオンがカチオン交換膜を透過し、その後バイポーラ膜から水酸化物イオンを供給されてアルカリ物質が再生する(アルカリ物質が回収される)。本発明では、被処理水や強酸液等の各種液の成分として測定された物質Xについて、それ自体がアルカリ物質であればアルカリ物質であり、これがイオンである場合には電荷が0になるように水酸化物イオンを付与したものがアルカリ物質に該当すれば、当該イオンはアルカリ物質であるものとする。
【0082】
本実施形態2が対象とする、第1電気透析工程前の被処理水における重金属の含有量は実施の形態1の発明の場合と同様1000ppm以下であり、好適には500ppm以下、より好適には100ppm以下、更に好適には50ppm、特に好ましくは10ppm以下である。
【0083】
そして、第2電気透析工程では、第1電気透析工程で得られた酸液に対して、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)にて、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析し、前記酸液中の酸Aをアニオン交換膜を透過させて強酸液を得る。またこの結果、前記酸液から酸Aが排出されていった残留液としての弱酸液も得られる。
【0084】
実施形態2では、第1電気透析工程により、アルカリ物質と酸(酸Aと酸Bの混合物)との分離を行っている。得られた酸Aと酸Bの混合物に対して第2電気透析工程を行い、酸Aと酸Bとの分離を図っている。この酸Aと酸Bとの分離は、実施形態1とほぼ同内容であり、実施形態1の各種構成を適用できる。そのため、ここでは第1電気透析工程について主に説明する。
【0085】
図3は、実施形態2において第1電気透析工程にて用いられる電気透析装置10及び電気透析の概要を示す図である。図3図1と異なるのは、強酸液タンク7が酸液タンク8に変わった点である。図3はアニオン交換膜2及び4を備える構成を例示しているが、実施形態2では、カチオン交換膜2´及び4´を備える構成であってもよい。アニオン交換膜を備える構成の場合は、第1電気透析工程にて酸A及びBがアニオン交換膜を透過し(アルカリ物質は膜を透過せず残留し)、カチオン交換膜を備える構成の場合は、第1電気透析工程にてアルカリ物質がカチオン交換膜を透過する(酸A及びBは膜を透過せず残留する)。いずれの場合もアルカリ物質と酸の分離がなされ、酸液が得られる。なお被処理水は酸及びアルカリ物質の混合物であるので、基本的にそのpHはそれほど高くなく、アルカリ物質の大部分は解離している。
図4は、実施形態2における図3の部分拡大図である。
【0086】
第1電気透析工程において、被処理水タンク6から被処理水が流路(2)及び(4)に供給される。流路(2)に着目すると、上記のように被処理水のpHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上である(通常12以下である)ことから、流路(2)を流れる被処理水では、硝酸はプロトンであるHとNO に酸解離し、ギ酸もHとHCOOに酸解離する(図4(a))。
【0087】
電気透析装置10の電源を入れた状態では、被処理水中のNO 及びHCOOが左側アニオン交換膜2を通過して図3左方の陽極11に向けて移動する(図4(b))。
【0088】
但し、陽極11の手前にはバイポーラ膜が配置される。そのため、NO 及びHCOOは陽極11に向けて移動しようとするものの、左端バイポーラ膜1に弾かれ、流路(1)に留まる(図4(c))。
【0089】
その一方、該左端バイポーラ膜1のうち左端カチオン交換層1bと左側アニオン交換膜2とが対向しており、左端カチオン交換層1bからHが流路(1)に供給される。その結果、流路(1)に留まるNO 及びHCOOとHとが結合し、硝酸及びギ酸となる。実施形態2ならば、硝酸塩ではなく硝酸が得られ、ギ酸塩ではなくギ酸が得られる。これは、硝酸塩から硝酸を得る工程及びギ酸塩からギ酸を得る工程を、実施形態2では行う必要が無いことを意味する。流路(1)内の水分を酸液タンク8へと回収すれば、硝酸及びギ酸を主に含む酸液が得られる(図4(d))。当該液においては、アルカリ物質の濃度γと酸Aの濃度α及び前記酸Bの濃度βの合計との比ε(=γ/(α+β))が低い。
【0090】
なお、アルカリ物質は流路(2)に留まったままである。アルカリ物質のうち、荷電した物があれば、それは電流を流すと図3右方の陰極12に向けて移動するものの、図3の中央バイポーラ膜3により弾かれる。荷電していない物質は特に移動しない。
【0091】
流路(2)内の水分を被処理水タンク6へと回収すれば、アルカリ物質を主に含むアルカリ液が得られる。当該液においては、前記アルカリ物質の濃度γと酸Aの濃度α及び前記酸Bの濃度βの合計との比ε(=γ/(α+β))が高い。なお、処理すべき被処理水を被処理水タンク6内に一定量投入し、図3に示す流れにて被処理水を循環させ続ければ、被処理水タンク6内に比εが高い液(アルカリ液)が溜まっていく。つまり、被処理水タンク6はアルカリ液タンクへと役割が変わる。
【0092】
図3で説明すると、被処理水タンク6から流路(2)と流路(4)とに被処理水が供給され、両流路を通過した後、再び被処理水タンク6に戻される。そして、流路(1)と流路(3)では硝酸及びギ酸が生成され、該硝酸及び該ギ酸は水分とともに酸液タンク8に移動する。これらは当該タンク8から流路(1)と流路(3)に供給され、当該流路で新たに生成される硝酸及びギ酸を取り込んで再度酸液タンク8に移動する。つまり、被処理水を実施形態2の構成の電気透析装置10により電気透析することにより、酸液タンク8には比εの小さい液が貯留される。
【0093】
実施形態2の発明では、上記第1電気透析工程により得られた酸液に対し、第2電気透析工程を行う。第2電気透析工程の内容は、実施形態1の電気透析工程と同内容であるため説明は省略する。
【0094】
実施形態2によれば、上記の複数の酸を含み、pHが酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水から、酸Aを効果的に分離できる。
【0095】
具体的に言うと、上記の第1電気透析工程により、前記被処理水に比べてpHが低い(また比εが低い)酸液と、前記被処理水に比べてpHが高い(また比εが高い)アルカリ液とが得られる。そして、上記の第2電気透析工程により、アニオン交換膜を透過した酸Aを含む強酸液と、酸液から酸Aが排出された残留液としての、前記酸Bを含む弱酸液とが得られる。
【0096】
本実施形態2で得られた強酸液における比δ(α/β)の値は10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、100以上であることが特に好ましい。また比δは通常300以下であり、また例えば200以下である。また、強酸液における酸Aの濃度αは52g/L以上であることが好ましい(通常180g/L以下である)。被処理水中の重金属の含有量は上記の通り少なく、本実施形態2の電気透析では金属が添加されることもないので、強酸液における重金属の含有量は少ない(具体的には通常1000ppm以下であり、好適には500ppm以下、より好適には100ppm以下、更に好適には50ppm、特に好ましくは10ppm以下である)。以上の比δ、濃度α及び重金属含有量の全ての規定を満たすことがより好ましい。なお、弱酸液における酸Bの濃度βは2g/L以上であってもよい(通常30g/L以下である)。
【0097】
なお、これまでの説明の通り、新たに被処理水タンク6に追加するのは基本的には被処理水であり、実施形態2ではアルカリ物質単体を新たに追加はしていない。つまり、被処理水に元々含まれていたアルカリ物質が、アルカリ液中に濃縮される。
【0098】
[実施形態3]
本実施形態に係る被処理水の処理方法は、酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、重金属の含有量が1000ppm以下であり、pHが前記酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水に対して、アニオン交換層とカチオン交換層とを備えるバイポーラ膜、カチオン交換膜及びアニオン交換膜を備えた電気透析装置により電気透析する電気透析工程を有する。
【0099】
前記酸A及び酸Bは実施の形態1の発明の場合と同様である。また被処理水のpHは前記pKa以上と高く、これは通常被処理水がアルカリ物質を含んでいるためである。当該アルカリ物質の例としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、ヘキサメチレンテトラミンが挙げられる。更に、被処理水は他の成分を含んでいてもよく、当該成分の例としては、ホルムアルデヒド、アルコール化合物が挙げられる。
【0100】
本実施形態3が対象とする、電気透析工程前の被処理水における重金属の含有量は実施の形態1の発明の場合と同様1000ppm以下であり、好適には500ppm以下、より好適には100ppm以下、更に好適には50ppm、特に好ましくは10ppm以下である。
【0101】
前記電気透析工程の前期段階では、前記電気透析の開始前の被処理水に比べてpHが高い高pH液(アルカリ液)を得つつ、前記被処理水のpHを、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)に低下させる。
【0102】
前記電気透析工程の後期段階では、前記pH(X)となった被処理水中の酸Aを、アニオン交換膜を透過させて強酸液を得る。
【0103】
実施形態3では、実施形態2と同様、酸Aと、前記酸Aよりも酸解離定数が大きい酸Bとを含み、pHが所定値以上である(そして重金属含有量の少ない)被処理水を取り扱う。そして、被処理水を電気透析した際の処理中の水分のpHの経時的な変化を利用し、一つの電気透析装置により、実施形態2でいう第1電気透析工程の内容と第2電気透析工程の内容を1工程で実施する。第1電気透析工程の内容は電気透析工程の前期段階において実施し、第2電気透析工程の内容は電気透析工程の後期段階において実施する。一つの電気透析装置を用いる1工程プロセスのため、簡易な工程で、強酸、弱酸及びアルカリ物質を効果的に分離できる。実施形態3の発明について、本形態の説明の箇所に記載のない内容は、実施形態2の内容を援用可能である。
【0104】
図5は、実施形態3における電気透析装置10及び電気透析の概要を示す図である。
【0105】
実施形態3では、図1とは異なり、実施形態1における電気透析装置10の左側アニオン交換膜2と中央バイポーラ膜3との間に左側カチオン交換膜2´を備える。このカチオン交換膜2´は、中央バイポーラ膜3のアニオン交換層3aと対向する。中央バイポーラ膜3のカチオン交換層3bは右側アニオン交換膜4と対向する。
【0106】
図5で言うと、最も左側に陽極11が配置され、その右隣に左端バイポーラ膜1が配置され、その右隣に左側アニオン交換膜2が配置され、その右隣に左側カチオン交換膜2´が配置され、その右隣に中央バイポーラ膜3が配置され、その右隣に右側アニオン交換膜4が配置され、その右隣に右側カチオン交換膜4´が配置され、その右隣に右端バイポーラ膜5が配置され、最も右側に陰極12が配置される。
【0107】
つまり、実施形態3における電気透析装置10は複数の前記バイポーラ膜1、3、5と、アニオン交換膜2、4と、カチオン交換膜2´、4´とを備え、前記アニオン交換膜2、4は、前記バイポーラ膜1、3の前記カチオン交換層1b、3bと対向し且つ前記カチオン交換膜2´、4´と対向し、前記カチオン交換膜2´、4´は、前記バイポーラ膜3、5の前記アニオン交換層3a、5aと対向し、これらの膜の並びにおいて両端に前記バイポーラ膜1、5が配置される。
【0108】
図5で言うと、左端バイポーラ膜1と左側アニオン交換膜2との間には流路(1)が形成される。左側アニオン交換膜2と左側カチオン交換膜2´との間には流路(2)が形成される。左側カチオン交換膜2´と中央バイポーラ膜3との間には流路(2´)が形成される。中央バイポーラ膜3と右側アニオン交換膜4との間には流路(3)が形成される。右側アニオン交換膜4と右側カチオン交換膜4´との間には流路(4)が形成される。右側カチオン交換膜4´と右端バイポーラ膜5との間には流路(4´)が形成される。
【0109】
図5では、左端バイポーラ膜1、左側アニオン交換膜2、左側カチオン交換膜2´という組み合わせ(別の表現では流路(1)、流路(2)、流路(2´)の組み合わせ)を2組並べつつ右端バイポーラ膜5を設けた例を記載している。その一方、該組み合わせ(前記3種の膜が繰り返し配置される膜構造)の組数には限定は無く、例えば該組数を10~200組としつつ右端バイポーラ膜5を設けても構わない。その場合、被処理水は流路(偶数(´無し))に供給され、アルカリ液は流路(偶数(´有り))にて上記前期段階にて生成され、強酸液は流路(奇数)にて上記後期段階にて生成される。つまり、被処理水タンク6(後の弱酸液タンク)は流路(偶数)と連結し、アルカリ液タンク9は流路(偶数(´有り))と連結し、強酸液タンク7は流路(奇数)と連結する。
【0110】
電気透析工程の前期段階において、被処理水タンク6から被処理水が流路(2)及び(4)に供給される。以下、主に流路(2)に注目して説明する。被処理水が供給されたとき、上記のように被処理水のpHが酸Bの酸解離定数pKa以上である。また被処理水は酸及びアルカリ物質の混合物であるので、基本的にそのpHはそれほど高くなく(例えば10以下である)、アルカリ物質の大部分が解離している。そのため、流路(2)を流れる被処理水では、アルカリ物質がカチオン交換膜2´を透過して流路(2´)に移動する。一方酸成分はアニオン交換膜2を透過して流路(1)に移動すると考えられるが、メカニズムは不明であるものの、本前期段階ではアルカリ物質の移動が優先的に起こるのか、被処理水のpHが低下していく。その結果アルカリ物質の解離割合が上昇し、更にアルカリ物質の移動がおこる。
【0111】
このようにして、電気透析工程の前期段階において、被処理水のpHが、前記酸Aの酸解離定数pKaより大きく且つ前記酸Bの酸解離定数pKaより小さいpH(X)まで低下する。そして、電気透析工程の後期段階が開始する。
【0112】
前記電気透析工程の後期段階において上記のようにpH(X)を設定することにより、流路(2)を流れる被処理水では、硝酸はプロトンであるHとNO に酸解離する一方でギ酸は酸解離せずHCOOHのままである。以降の内容は、実施形態1の電気透析工程又は実施形態2の第2電気透析工程とほぼ同内容であるため、説明を省略する。なおこの段階でも、アルカリ物質のカチオン交換膜2´の透過はいくらかは起こっていると考えられる。
【0113】
図5で説明すると、被処理水タンク6から流路(2)と流路(4)とに被処理水が供給され、両流路を通過した後、再び被処理水タンク6に戻される。そして、電気透析工程の前期段階では、流路(2´)と流路(4´)へとアルカリ物質が移行し、該アルカリ物質はアルカリ液タンク9に移動する。
【0114】
上記流路(2´)と流路(4´)やアルカリ液タンク9へのアルカリ物質の取り込み(濃縮)が進むと、流路(2)と流路(4)を通過する被処理水のpHが上記pH(X)まで低下する。そして、電気透析工程の後期段階が始まる。
【0115】
電気透析工程の後期段階では、流路(2)と(4)からそれぞれ流路(1)と流路(3)へNO が移行し、当該流路中で、バイポーラ膜1,3のカチオン交換層1b、3bから供給されたプロトンと、移行してきたNO から硝酸が生成され、該硝酸は強酸液タンク7に移動する。つまり、被処理水を電気透析装置10により電気透析することにより、強酸液タンク7には硝酸を高濃度で含む強酸液が貯留される。
【0116】
それと共に、流路(2)と流路(4)ではNO が減りギ酸の濃度が相対的に増加した水分である弱酸液が得られ、該弱酸液は被処理水タンク6に移動する。
【0117】
実施形態3によれば、特許文献1の工程2及び工程3のように多種の作業は不要となり、コストアップを回避できるうえ、一種の作業(上記電気透析工程)により強酸である酸Aを十分に分離できる。つまり、実施形態3によれば、複数の酸を含み、pHが酸Bの酸解離定数pKa以上である被処理水から、簡易な工程で、強酸及び弱酸(並びにアルカリ物質)を効果的に分離して強酸を回収することができる。
【0118】
本実施形態3で得られた強酸液における比δ(α/β)の値は10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、80以上であることが特に好ましい。また比δは通常300以下であり、また例えば200以下である。また、強酸液における酸Aの濃度αは52g/L以上であることが好ましい(通常180g/L以下である)。被処理水中の重金属の含有量は上記の通り少なく、本実施形態3の電気透析では金属が添加されることもないので、強酸液における重金属の含有量は少ない(具体的には通常1000ppm以下であり、好適には500ppm以下、より好適には100ppm以下、更に好適には50ppm、特に好ましくは10ppm以下である)。以上の比δ、濃度α及び重金属含有量の全ての規定を満たすことがより好ましい。なお、弱酸液における酸Bの濃度βは2g/L以上であってもよい(通常30g/L以下である)。またアルカリ液における比ε(γ/(α+β))は例えば3~30である。
【0119】
ちなみに、強酸である酸Aが硝酸であり、弱酸である酸Bがギ酸であり、アルカリ物質がアンモニアであるという組み合わせが好ましい。アンモニアは分子サイズが小さく、カチオン交換膜を通過しやすい。つまり、アルカリ物質の流路間の移動が、他物質に比べて優先され、電気透析工程の前期段階から後期段階への速やかな移行がなされると考えられる。
【0120】
カチオン交換膜としては従来公知のものが採用できるが、これの抵抗が低いと、アンモニアが優先的に流路間を移動しやすくなる。そのため、カチオン交換膜の電気抵抗は8Ωcm以下が好ましい。下限値には限定は無いが、例えば1Ωcmである。
【0121】
アニオン交換膜としては従来公知のものが採用できるが、これの抵抗が高いと、アニオンが通過しにくく、結果としてアンモニアが優先的に流路間を移動しやすくなる。そのこともあり、アニオン交換膜の電気抵抗は10Ωcm以上が好ましい。上限値には限定は無いが、例えば60Ωcmである。
【0122】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【実施例0123】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は当該実施例に限定されるものではない。また、以下の比較例は従来からある例を意味しない。
【0124】
以下の実施例及び比較例において、各種測定は以下の通り行った。
・金属の含有量:ICP-OESを使用して測定した。
・pH:pHメーター・電極 HORIBA D-73を使用して、25℃にて測定した。
・EC(電気伝導率): ECメーター・電極 TOA DKK CM-31Pを使用して測定した。
・硝酸濃度:イオンクロマトグラフ 東ソーIC-8100EXを使用して測定した。
・ギ酸濃度:イオンクロマトグラフ 東ソーIC-8100EXを使用して測定した。
・アンモニア濃度:イオンクロマトグラフ 東ソーIC-8100EXを使用して測定した。
・HMT(ヘキサメチレンテトラミン)濃度:イオンクロマトグラフ 東ソーIC-8100EXを使用して測定した。
・Cl濃度:イオンクロマトグラフ 東ソーIC-8100EXを使用して測定した。
・電気抵抗:0.5mol/L食塩水に平衡させ、交流により25℃で測定した。
【0125】
[比較例1]
銀粉製造時に生じる硝酸廃液をDOW社製ナノフィルター(NF)でろ過して(HMTを分離)、得られたろ液を逆浸透膜(RO)膜で処理することで、ろ液から水分を分離して、得られた濃縮水を被処理水とした。被処理水の組成は以下の表1の通りである。被処理水中の重金属の含有量は100ppm以下だった。ECは電気伝導率を表す。25℃の水中における硝酸(酸A)のpKaは-1.8であり、ギ酸(酸B)のpKaは3.75である。なお、被処理水のpHは8~9の範囲である。
【0126】
【表1】
【0127】
この被処理水を図1に示す電気透析装置10により電気透析した。電気透析条件は以下のとおりである。
・電気透析装置10:アストム バイポーラー膜電気透析装置 アシライザーBPED EX-3B
・アニオン交換膜:アストムAHA(電気抵抗は4.1Ωcm
・バイポーラ膜:アストムBP1-EX
※アニオン交換膜は10枚、バイポーラ膜は11枚使用した。
・電圧:最大25V
・電流:最大4.4A
※電圧と電流の最大値を前記の通り決めておき、電圧をあげていって、電圧または電流の最大値に最初に達したところで電圧上昇を終了した。
・被処理水タンク6には初期状態で上記被処理水を1L添加
・強酸液タンク7には初期状態で純水を0.5L(被処理水の0.5倍量)添加
・電気透析中の各タンク及び電気透析装置10内を流れる液の温度:20~37℃
【0128】
以上の電気透析による、被処理水タンク6中の液のpH変化及び強酸液タンク7中の液の組成等の変化を下記表2に示す。なお、Naの量は未測定である。
【表2】
【0129】
電気透析開始から30分時点で、強酸液タンク7内の液において、硝酸とギ酸の比率δは約20であり高くなった。その一方、硝酸の濃度αの値は50g/Lとあまり高くなく、更に処理を継続して硝酸の濃度が90g/Lとなったときには、前記比率は約6に低下していた。すなわち、強酸液タンク7にはギ酸との分離が十分にできていない硝酸が得られた。
【0130】
[実施例1]
実施例1では実施形態1に対応する内容を行った。比較例1において電気透析時間60分で得られた、硝酸の濃度が十分に上がった酸液(硝酸濃度:91g/L、ギ酸濃度:15g/L、pH:0、重金属含有量:100ppm以下)に対して、更に、図1の電気透析装置10を用いて電気透析した。比較例1での電気透析時間60分で得られた酸液を初期状態では被処理水タンク6に投入したこと、強酸液タンクには純水を被処理水と等倍量添加したこと以外は、電気透析条件は比較例1と同様である。以上の電気透析による、被処理水タンク6中の液のpHの変化と、強酸液タンク7中の液の組成の変化を下記表3に示す。なお電気透析終了時の強酸液タンク7中の液の重金属の含有量は100ppm以下だった。また、前記液中のNaの量は未測定である。
【0131】
【表3】
【0132】
実施例1では、電気透析開始から30分時点でも60分時点でも、強酸液タンク7内の強酸液において、硝酸とギ酸の透過量の比率(Q1/Q2)は40以上であり高かった。
【0133】
[実施例2]
実施例2では実施形態2に対応する内容を行った。比較例1とは別の被処理水(硝酸及びギ酸を含み、pHは8~9の範囲だった)に対し、実施態様2で言うところの第1電気透析工程及び第2電気透析工程を行った。両電気透析工程は、比較例1及び実施例1で用いた一つの電気透析装置10を用いて行った。
【0134】
第1電気透析工程では、被処理水タンク6には初期状態で上記被処理水(重金属含有量:100ppm以下)を3.5L添加し、強酸液タンク7には初期状態で純水を3.5L添加した。
第1電気透析工程により、硝酸の濃度が87g/L、ギ酸の濃度が5.1g/Lの酸液を得た。そして電気透析装置10を洗浄した後、実施例1と同じ電気透析条件で、第2電気透析工程を行った(電気透析時間は270分とした)。以上の第2電気透析工程による、被処理水タンク6中の液の組成等及び強酸液タンク7中の液の組成等の変化を下記表4に示す。なお電気透析終了時の強酸液タンク7中の液の重金属の含有量は100ppm以下だった。また、各タンク中の液中のNaの量は未測定である。
【0135】
【表4】
【0136】
実施例2では、最終的に得られる、電気透析開始から270分時点の強酸液において、硝酸とギ酸の透過量の比率(Q1/Q2)は100以上を達成した。
【0137】
[実施例3]
実施例3では実施形態3に対応する内容を行った。アニオン交換膜とバイポーラ膜のアニオン交換層との間にカチオン交換膜(アストムCMB)を配置した以外は、実施例1で使用したのと同様の電気透析装置10を使用した。なおアニオン交換膜及びカチオン交換膜は10枚ずつ、バイポーラ膜は11枚使用した。
【0138】
電気透析条件は以下のとおりである。
・電圧:最大30V
・電流:最大4.4A
・被処理水タンク6には初期状態で被処理水(組成等は下記表5に記載)を20L添加
・強酸液タンク7には初期状態で処理済み酸液5L及び純水10L添加。前記処理済み酸液とは、初期状態で被処理水タンク6には被処理水20L添加、強酸液タンク7には純水15L添加、アルカリ液タンク9には純水15L添加し、実施例3で採用する電気透析条件(電気透析装置10、電圧、電流、電気透析中の各タンク及び電気透析装置10内を流れる液の温度、処理時間)と同様の条件で電気透析を実施して得た強酸液である。
・アルカリ液タンク9には初期状態で処理済みアルカリ液5L及び純水10L添加。前記処理済みアルカリ液とは、前記処理済み酸液を得るために実施した電気透析で得られたアルカリ液である。
・電気透析中の各タンク及び電気透析装置10内を流れる液の温度:20~37℃
・処理時間:20時間(被処理水1Lあたり1時間)
【0139】
処理済み酸液及び処理済みアルカリ液を使用した理由は、通電を容易化するためであり、前期段階を速やかに終わらせるためである。
以上の電気透析により得られた、各タンク中の液の組成等を下記表5に示す。なお電気透析を開始して1時間後の被処理水タンク中の液のpHは8.70で、4時間後のpHは4.0だった。電気透析終了時の強酸液タンク7中の液の重金属の含有量は100ppm以下だった。表5に示した各種の液中のNaの量は未測定である。
【0140】
【表5】
【0141】
[実施例4]
実施例4では実施形態3に対応する内容を行った。アニオン交換膜としてアストムAHO(電気抵抗は20Ωcm)を使用し、アニオン交換膜とバイポーラ膜のアニオン交換層との間にカチオン交換膜(アストムCMB)を配置した以外は、実施例1で使用したのと同様の電気透析装置10を使用した。なおアニオン交換膜及びカチオン交換膜は10枚ずつ、バイポーラ膜は11枚使用した。
【0142】
電気透析条件は以下のとおりである。
・電圧:最大30V
・電流:最大4.4A
・被処理水タンク6には初期状態で処理済み液500mL及び純水500mLを添加。前記処理済み液とは、初期状態で被処理水タンク6には被処理水1L添加、強酸液タンク7には純水1L添加、アルカリ液タンク9には純水1L添加し、実施例4で採用する電気透析条件(電気透析装置10、電圧、電流、電気透析中の各タンク及び電気透析装置10内を流れる液の温度、処理時間)と同様の条件で電気透析を実施して得た被処理水タンク6中の液である。
・強酸液タンク7には初期状態で処理済み酸液500mL及び純水500mLを添加。前記処理済み酸液とは、前記処理済み液を得るために実施した電気透析で得られた強酸液である。
・アルカリ液タンク9には初期状態で処理済みアルカリ液500mL及び純水500mLを添加。前記処理済みアルカリ液とは、前記処理済み液を得るために実施した電気透析で得られたアルカリ液である。
・電気透析中の各タンク及び電気透析装置10内を流れる液の温度:20~37℃
・処理時間:100分
【0143】
以上の電気透析による、電気透析前後の各タンク中の液の組成等を下記表6に示す。なお電気透析前の被処理水タンク内の液及び電気透析終了時の強酸液タンク7中の液の重金属の含有量はともに100ppm以下だった。また、これらの各種液中のNaの量は未測定である。
【表6】
【0144】
実施例3ではアニオン交換膜として電気抵抗が比較的低いAHAを使用した。そして実施例3の後期段階の終わりでは、強酸液タンク7内の強酸液において、硝酸の濃度αとギ酸の濃度βの比δ(=α/β)は約40であった。その一方、アニオン交換膜として電気抵抗が比較的高いAHOを使用した実施例4では、電気透析工程開始時から比δがほとんど変わることなく比δが100以上を維持して、硝酸を十分に選択的に強酸液タンクに移行させることができた。またアンモニアについても、強酸液中の低濃度値を維持して、十分に選択的にアルカリ液タンクに移行させることができた。なお本例の電気透析に用いた処理済み酸液は、上述の通り本例と同様の電気透析を、初期状態で被処理水タンク6には被処理水(比率δが1~10の範囲にある)1L添加、強酸液タンク7には純水1L添加の条件で実施して得られた強酸液と水の混合液であり、比率δが100を超える液である。
【符号の説明】
【0145】
1 左端バイポーラ膜
1a 左端アニオン交換層
1b 左端カチオン交換層
2 左側アニオン交換膜
2´ 左側カチオン交換膜
3 中央バイポーラ膜
3a 中央アニオン交換層
3b 中央カチオン交換層
4 右側アニオン交換膜
4´ 右側カチオン交換膜
5 右端バイポーラ膜
5a 右端アニオン交換層
5b 右端カチオン交換層
6 被処理水タンク(弱酸液タンク)
7 強酸液タンク
8 酸液タンク
9 アルカリ液タンク
10 電気透析装置
11 陽極
12 陰極
図1
図2
図3
図4
図5