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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172412
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 19/00 20060101AFI20241205BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20241205BHJP
   B60C 15/06 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B60C19/00 J
B60C19/00 G
B60C5/14 A
B60C5/14 Z
B60C15/06 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090117
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 翔
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131AA08
3D131AA09
3D131AA39
3D131BA01
3D131BA03
3D131BB01
3D131BC13
3D131BC31
3D131CB12
3D131HA36
3D131HA43
3D131HA44
3D131HA45
3D131LA20
3D131LA24
(57)【要約】
【課題】操縦安定性を高めつつ、電子部品の耐久性や通信機能を維持することができる空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】本発明は、空気入りタイヤであって、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4とを含む。ビード部4には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に延びるビードエーペックスゴム8と、ビードエーペックスゴム8に沿ってタイヤ半径方向に延びるビード補強層15と、少なくとも1つの電子部品20とが設けられている。ビード補強層15は、少なくとも1枚のスチールプライ16を含む。スチールプライ16は、一方側の端部と他方側の端部とが重ねられたスプライス部17を含む。電子部品20は、タイヤ半径方向において、スチールプライ16の配置領域内に位置し、かつ、タイヤ周方向において、スプライス部17から離れた場所に位置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部とを含み、
前記一対のビード部の少なくとも一方には、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に延びるビードエーペックスゴムと、前記ビードエーペックスゴムに沿ってタイヤ半径方向に延びるビード補強層と、少なくとも1つの電子部品とが設けられており、
前記ビード補強層は、複数のスチールコードがゴム被覆された少なくとも1枚のスチールプライを含み、
前記スチールプライは、タイヤ周方向の一方側の端部とタイヤ周方向の他方側の端部とが重ねられたスプライス部を含み、
前記電子部品は、タイヤ半径方向において、前記スチールプライの配置領域内に位置し、かつ、タイヤ周方向において、前記スプライス部から離れた場所に位置する、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記電子部品は、タイヤ回転軸を中心とした角度で、前記スプライス部から30~180°離れている、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ビード補強層は、前記ビードエーペックスゴムのタイヤ軸方向外側に位置し、前記電子部品は、前記ビード補強層のタイヤ軸方向内側に位置している、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びるトロイド状のカーカスと、
前記カーカスの内側で、前記一対のビード部の間を延びるトロイド状のインナーライナ層とを含み、
前記インナーライナ層は、タイヤ内腔面側に配されたブチル系ゴム層と、前記カーカス側に配され、かつ、前記カーカスに対する接着力が前記ブチル系ゴム層よりも高いゴムからなるインスレーションゴム層とを含み、
前記電子部品は、前記カーカスと前記インスレーションゴム層との間、前記インスレーションゴム層の内部、又は、タイヤ内腔面上のいずれかに設けられている、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記インスレーションゴム層の複素弾性率E*は、2.5~5.5MPaである、請求項4に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記電子部品から前記スチールプライのタイヤ半径方向の外端までのタイヤ半径方向の距離は、20mm以下である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記スチールプライは、プライ幅5cm当たり、前記スチールコードを30~50本備える、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記複数のスチールコードは、それぞれ、タイヤ周方向に対して10~30°の角度で配されている、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記電子部品は、長手方向を有し、
前記複数のスチールコードは、互いに同じ延在方向で配されており、
前記電子部品の前記長手方向と、前記複数のスチールコードの前記延在方向との間の角度は、10~45°である、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、タイヤ内部にRFIDチップが設けられた空気入りタイヤが提案されている。また、下記特許文献2には、ビード部にスチールコードを含むビード補強層が設けられた空気入りタイヤが提案されている。前記ビード補強層は、ビード部の剛性を上げ、タイヤの耐久性や操縦安定性を高めるのに役立つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011-195046号公報
【特許文献2】特開2022-158301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2に示されるようなビード補強層を有するタイヤにおいて、RFIDチップ等の電子部品が前記ビード補強層よりもタイヤ半径方向外側に設けられると、車両走行時のタイヤの変形によって、電子部品の耐久性が低下する傾向があった。一方、RFID等の電波を発する電子部品は、金属部材との位置関係によっては電波干渉が生じ、ひいては、外部リーダとの間で通信障害が生じるおそれがあった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、操縦安定性を高めつつ、電子部品の耐久性や通信機能を維持することができる空気入りタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、空気入りタイヤであって、トレッド部と、一対のサイドウォール部と、それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部とを含み、前記一対のビード部の少なくとも一方には、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に延びるビードエーペックスゴムと、前記ビードエーペックスゴムに沿ってタイヤ半径方向に延びるビード補強層と、少なくとも1つの電子部品とが設けられており、前記ビード補強層は、複数のスチールコードがゴム被覆された少なくとも1枚のスチールプライを含み、前記スチールプライは、タイヤ周方向の一方側の端部とタイヤ周方向の他方側の端部とが重ねられたスプライス部を含み、前記電子部品は、タイヤ半径方向において、前記スチールプライの配置領域内に位置し、かつ、タイヤ周方向において、前記スプライス部から離れた場所に位置する、空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことによって、操縦安定性を高めつつ、電子部品の耐久性や通信機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤの横断面図である。
図2図1のカーカス及びインナーライナ層の拡大断面図である。
図3図1のビード部の拡大図である。
図4図3のスチールプライの部分拡大斜視図である。
図5図3の電子部品の拡大斜視図である。
図6】ビード補強層の側面を示す概念図である。
図7】スチールプライの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、本発明の特徴を内包して記載されているが、本発明の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれている場合がある。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ」ということがある)の正規状態における横断面を示す断面図である。なお、図1は、円環状に延びるタイヤ1を、タイヤ回転軸を通り、かつ、タイヤ周方向と直交する仮想平面で切断したときの、タイヤ1の断面を示す図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用として好適に用いられる。
【0010】
前記正規状態とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。また、前記正規状態で測定できない構成(例えば、タイヤ1の内部材である。)の寸法は、タイヤ1を出来るだけ前記正規状態に近似させた状態にして、測定された値である。
【0011】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0012】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0013】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3と、一対のビード部4とを含む。それぞれのビード部4には、ビードコア5が埋設されている。また、タイヤ1は、カーカス6及びインナーライナ層10とを含んでいる。
【0014】
カーカス6は、一対のビード部4のビードコア5間をトロイド状に延びている。本実施形態のカーカス6は、例えば、2枚のカーカスプライ6A、6Bで構成されている。また、カーカス6は、本体部6aと折返し部6bとを含んでいる。本体部6aは、例えば、2つのビード部4の間を延びている。これにより、本体部6aは、少なくともトレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る。折返し部6bは、例えば、本体部6aに連なりビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。但し、本発明は、このような態様に限定されず、カーカス6は、公知の構成を適宜採用することができる。
【0015】
インナーライナ層10は、カーカス6の内側で、一対のビード部4の間をトロイド状に延びている。
【0016】
図2には、カーカス6及びインナーライナ層10の拡大断面図が示されている。図2においては、これら以外の部材は、省略されている。図2に示されるように、インナーライナ層10は、ブチル系ゴム層11と、インスレーションゴム層12とを含む。ブチル系ゴム層11は、タイヤ内腔面1iを形成するように配置されている。ブチル系ゴム層11は、極めて低い空気透過率を有し、タイヤ内圧を保持することができる。ブチル系ゴム層11は、例えば、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムを80%以上含有している。
【0017】
インスレーションゴム層12は、ブチル系ゴム層11よりもカーカス6側に配されている。インスレーションゴム層12は、カーカス6に対する接着力がブチル系ゴム層11よりも高いゴムからなる。インスレーションゴム層12は、例えば、天然ゴムやスチレン・ブタジエンゴムを含むエラストマー組成物からなるのが望ましい。インスレーションゴム層12の複素弾性率E*は、例えば、2.5~5.5MPaである。前記複素弾性率E*は、JIS-K6394の規定に準じて、次に示される条件で、粘弾性スペクトロメータを用いて測定された値である。
初期歪み:10%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
測定温度:30℃
【0018】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2において、カーカス6のタイヤ半径方向外側には、金属性のベルトコードを含むベルト層7が設けられている。ベルト層7は、例えば、2枚のベルトプライ7A、7Bを含む。2枚のベルトプライ7A、7Bのそれぞれには、タイヤ周方向に対して15~45°の角度で配列された複数のベルトコードが配されている。一方のベルトプライ7Aのベルトコードと、他方のベルトプライ7Bのベルトコードとは、タイヤ周方向に対して互いに逆向きに傾斜している。これにより、トレッド部2が効果的に補強される。
【0019】
図3には、図1のビード部4の拡大図が示されている。図3に示されるように、一対のビード部4の少なくとも一方には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側に延びるビードエーペックスゴム8と、ビードエーペックスゴム8に沿ってタイヤ半径方向に延びるビード補強層15と、少なくとも1つの電子部品20とが設けられている。
【0020】
ビードエーペックスゴム8は、例えば、ビードコア5から先細状に延びている。ビードエーペックスゴム8は、例えば、ゴム硬度が60以上の硬質のゴムからなる。ゴム硬度は、JIS-K6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定したデュロメータA硬さである。
【0021】
ビード補強層15は、複数のスチールコードがトッピングゴムによって被覆された少なくとも1枚のスチールプライを含む。本実施形態のビード補強層15は、1枚のスチールプライ16で構成されている。他の実施形態において、ビード補強層15は、複数のスチールプライ16で構成されるものでも良い。ビード補強層15は、図3で示される断面形状を維持して、タイヤ全周に亘って設けられている。ビード補強層15は、タイヤの耐久性を向上させるとともに、ビード部4の剛性を高めるため、ドライ路面での操縦安定性を向上させることができる。また、スチールプライ16は、タイヤ1の繰り返し変形によっても発熱し難く、転がり抵抗への影響が小さい点で望ましい。
【0022】
図4には、ビード補強層15を構成するスチールプライ16の部分拡大斜視図が示されている。図4に示されるように、スチールプライ16は、タイヤ周方向の一方側の端部16aとタイヤ周方向の他方側の端部16bとが重ねられたスプライス部17を含む。本実施形態のスプライス部17は、一定の幅でタイヤ半径方向に平行に延びているが、このような態様に限定されるものではない。なお、図1図3では、このスプライス部17を避けた位置での断面が示されている。
【0023】
図5には、電子部品20の拡大斜視図が示されている。図5に示されるように、電子部品20は、対応する外部リーダとの間で電波を送受信して情報のやり取りができる通信機能を備えたものである。電子部品20の具体例としては、例えば、REIDタグ、圧力センサ、温度センサ、加速度センサ及び磁気センサが挙げられる。本実施形態の電子部品20は、RFIDタグである。図5に示されるように、RFIDタグは、送受信回路、制御回路、メモリ等からなるICチップを備えた金属性の本体部20aと、アンテナ20bとから構成される小型軽量の電子部品である。RFIDタグは、質問電波を受信すると、これを電気エネルギーとして使用し、メモリ内の諸データを応答電波として発信する。このRFIDタグには、公知の構成が採用され、本明細書において詳細な説明は省略される。
【0024】
本実施形態の電子部品20は、例えば、カバーゴム21で被覆されている。カバーゴム21には、接着性に優れた公知のゴムが適宜採用される。カバーゴム21の長さLaは、例えば、45~70mmである。カバーゴム21の幅Waは、例えば、8~15mmである。カバーゴム21の厚さtaは、例えば、2~3mmである。電子部品20は、このカバーゴム21よりも小さい寸法で構成されている。
【0025】
図3に示されるように、電子部品20は、タイヤ半径方向において、スチールプライ16の配置領域内に位置している。すなわち、電子部品20は、スチールプライ16をタイヤ軸方向に平行に移動した仮想領域と重複するように配置されている。
【0026】
図6には、ビード補強層15の側面が概念的に示されている。本発明を理解し易いように、図6では、ビード補強層15にドットが施されており、スプライス部17にはドットが施されていない。図6に示されるように、本発明では、電子部品20は、タイヤ周方向において、スプライス部17から離れた場所に位置している。本発明では、上記の構成を採用したことによって、操縦安定性を高めつつ、電子部品の耐久性や通信機能を維持することができる。その理由は、以下の通りである。
【0027】
図3に示されるように、本発明のタイヤ1では、ビード部4にビード補強層15が設けられているため、操縦安定性を高めることができる。一方、電子部品20は、タイヤ半径方向において、スチールプライ16の配置領域内に位置しているため、電子部品20周辺でのビード部4の変形が抑制され、電子部品の耐久性が向上する。
【0028】
一方、図4に示されるように、ビード補強層15において、スチールプライ16の端部が重ねられたスプライス部17は、他の部分に比べて、スチールコード16cの量が約2倍となり、金属量が多く、電子部品20が外部リーダと通信する際に、電波干渉を生じさせやすい。これに対し、本発明では、図6に示されるように、電子部品20がタイヤ周方向においてスプライス部17から離れた場所に位置している。したがって、本発明では、上述の不具合を抑制でき、電子部品20の通信機能を維持することができる。
【0029】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。なお、以下で説明される構成は、本実施形態の具体的態様を示すものである。したがって、本発明は、以下で説明される構成を具えないものであっても、上述の効果を発揮し得るのは言うまでもない。また、上述の特徴を具えた本発明のタイヤに、以下で説明される各構成のいずれか1つが単独で適用されても、各構成に応じた性能の向上は期待できる。さらに、以下で説明される各構成のいくつかが複合して適用された場合、各構成に応じた複合的な性能の向上が期待できる。
【0030】
図3に示されるように、ビード補強層15は、カーカス6の本体部6aよりもタイヤ軸方向外側に配されている。また、ビード補強層15は、ビードエーペックスゴム8よりもタイヤ軸方向外側に配されている部分を含む。本実施形態のビード補強層15は、ビードエーペックスゴム8とカーカス6の折返し部6bとの間に挟まれた第1部分15aと、カーカス6の本体部6aと折返し部6bとの間に挟まれた第2部分15bとを含む。このようなビード補強層15は、ビードエーペックスゴム8が配されていない領域の剛性を補うことができ、ビード部4が確実に補強される。
【0031】
ビード補強層15は、ビードコア5から僅かに離間しているのが望ましい。これにより、リム組み時の衝撃がビード補強層15に伝達するのを抑制することができる。但し、本発明は、このような態様に限定するものではない。ビード補強層15のタイヤ半径方向の長さL1は、タイヤ1の全高さHa(図1に示す。)の20%~40%であるのが望ましい。図1に示されるように、前記全高さHaは、ビードベースラインBLからタイヤ1のタイヤ半径方向の外端までのタイヤ半径方向の距離に相当する。ビードベースラインBLは、リム径位置を通るタイヤ軸方向線を意味する。ビード補強層15の前記長さL1(図3に示す)がタイヤ周方向で変化する場合、上述の数値範囲は、前記長さL1の平均の値の範囲として適用される。以下、本明細書で説明される各種パラメータの数値範囲についても、同様である。
【0032】
図3に示されるように、ビード補強層15を構成するスチールプライ16は、例えば、プライ幅5cm当たり、前記スチールコードを30~50本(以下、エンズという。)備えている。前記スチールプライ16のエンズは、望ましくは35~45本である。このようなスチールプライ16は、タイヤ重量の過度な増加を抑制しつつ、ビード部4を確実に補強することができる。
【0033】
図7には、スチールプライ16のスチールコード16cの配置を概念的に示す平面図が示されている。図7では、スチールコード16cを被覆するトッピングゴム18に、ドットが施されている。図7に示されるように、スチールコード16cは、タイヤ周方向(図7では、矢印Rで示されている。)に対して、10~30°の角度θ1で配されている。これにより、ビード部4のタイヤ周方向の変形が抑制され、操縦安定性がより一層向上し得る。
【0034】
図3に示されるように、電子部品20は、ビード補強層15のタイヤ軸方向内側に位置している。これにより、ビード部4が変形したときの応力が電子部品20に作用し難くなり、電子部品20の耐久性が向上する。より望ましい態様では、電子部品20は、カーカス6の本体部6aよりもタイヤ軸方向内側に設けられている。本実施形態の電子部品20は、カーカス6の本体部6aとインナーライナ層10との間に設けられている。インナーライナ層10は、インスレーションゴム層12を含んでいる(図2参照)ため、より具体的には、本実施形態の電子部品20は、カーカス6とインスレーションゴム層12(図3では省略)との間に設けられている。但し、本発明は、このような態様に限定されるものではなく、電子部品20は、インスレーションゴム層12の内部や、タイヤ内腔面1i上に設けられているものでも良い。これにより、電子部品20の耐久性及び通信機能が確実に維持される。また、このような電子部品20の配置は、タイヤ製造時の不良率を低減するのにも役立つ。
【0035】
電子部品20は、例えば、ビード補強層15のタイヤ半径方向の中心位置よりもタイヤ半径方向外側に位置しているのが望ましい。これにより、電子部品20と、金属部品であるビードコア5やリムフランジ(図示省略)との距離が十分確保され、電子部品20の通信機能が確実に維持される。また、電子部品20からスチールプライ16のタイヤ半径方向の外端16oまでのタイヤ半径方向の距離L2は、20mm以下であるのが望ましい。これにより、電子部品20の耐久性を維持しつつ、上述の効果が得られる。なお、前記距離L2は、電子部品20の本体部20a(図5に示す)のタイヤ半径方向の外端から、スチールプライ16の前記外端16oまでの距離に相当する。
【0036】
図6に示されるように、電子部品20は、スプライス部17から離れた場所に位置することにより、電子部品20は、タイヤ回転軸Raを中心とした角度θ2で、スプライス部17から30~180°離れているのが望ましい。これにより、電子部品20の耐久性や通信機能をさらに確実に維持することができる。なお、スプライス部17がタイヤ半径方向に対して傾斜している場合、前記角度θ2は、スプライス部17のタイヤ半径方向の中心位置からタイヤ回転軸Raまで延びる仮想直線と、電子部品20の重心からタイヤ回転軸Raまで延びる仮想直線との間の角度で規定される。
【0037】
図5及び図7に示されるように、電子部品20は、長手方向を有している。また、図7に示されるように、電子部品20は、長手方向がタイヤ周方向に沿うように配置されている。一方、複数のスチールコード16cは、互いに同じ延在方向で配されている。望ましい態様として、本実施形態では、電子部品20の前記長手方向と、複数のスチールコード16cの前記延在方向との間の角度θ3は、10~45°であり、望ましくは25~35°である。
【0038】
前記角度θ3が小さいと、電子部品20が受信すべき電波がスチールコード16cに吸収され易くなり、電子部品20の通信機能が低下するおそれがある。一方、前記角度θ3が大きいと、ビード補強層15が撓むときに電子部品20に応力が作用し易くなり、電子部品20の耐久性を損ねる場合がある。本実施形態では、前記角度θ3が上述の範囲内とされることにより、電子部品20の通信機能と耐久性とをバランス良く確保することができる。
【0039】
電子部品20が曲がっている場合、電子部品20の長手方向は、電子部品20の両端を結んだ仮想直線によって規定される。また、前記延在方向は、電子部品20の周辺(例えば、電子部品20を中心とする半径5cmの仮想円内である。)における複数のスチールコード16cについての、各コードの向きの平均に相当する。これは、例えば、各コードのタイヤ周方向に対する角度の平均を算出して決定することができる。前記角度の平均は、例えば、対象となる各コードを微小領域に等分し、これらの微小領域のタイヤ周方向に対する角度の合計を、前記微小領域の個数で除することで求めることができる。
【0040】
以上、本発明の実施形態が詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例0041】
図1の基本構造を有するサイズ265/65R18の乗用車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、ビード補強層が配されていないタイヤが試作された。比較例2として、電子部品がタイヤ周方向においてスプライス部と同じ位置に配されたタイヤが試作された。比較例1及び2は、上述の事項を除き、実質的に実施例のタイヤと同じである。各テストタイヤについて、操縦安定性、電子部品の耐久性、及び、電子部品の通信機能についてテストされた。タイヤの共通仕様やテスト方法は、下記の通りである。
リム:18×7.5
タイヤ内圧:250kPa
テスト車両:3500cc、四輪駆動車
【0042】
<操縦安定性>
テストタイヤを装着したテスト車両でドライ路面を走行したときの操縦安定性が、運転者の官能により評価された。結果は、評点が大きい程、操縦安定性が優れていることを示す。
【0043】
<電子部品の耐久性>
ドラム試験機上で、一定荷重を負荷して一定速度でテストタイヤを走行させ、電子部品の通信機能が発揮されなくなるまでの走行距離が測定された。結果は、前記走行距離を指数化したものであり、数値が大きい程、電子部品の耐久性が優れていることを示す。
【0044】
<電子部品の通信機能>
静止したテストタイヤを用いて、外部リーダによって電子部品と電波のやり取りができる距離が測定された。結果は、前記距離を指数化したものであり、数値が大きい程、前記距離が大きく、電子部品の通信機能が優れた状態で維持されていることを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0045】
【表1】
【0046】
表1で示されるように、比較例2及び各実施例のタイヤは、ビード補強層を備えているため、比較例1と比較して、操縦安定性及び電子部品の耐久性が向上している。一方、比較例2は、電子部品とスプライス部とがタイヤ周方向において同じ位置に配されているため、電子部品の通信機能が大きく低下している。これに対し、各実施例は、前記通信機能が13~20ポイントと確実に維持されていることが読み取れる。すなわち、実施例のタイヤは、操縦安定性を高めつつ、電子部品の耐久性や通信機能を維持していることが確認できた。
【0047】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0048】
[本発明1]
空気入りタイヤであって、
トレッド部と、
一対のサイドウォール部と、
それぞれにビードコアが埋設された一対のビード部とを含み、
前記一対のビード部の少なくとも一方には、前記ビードコアからタイヤ半径方向外側に延びるビードエーペックスゴムと、前記ビードエーペックスゴムに沿ってタイヤ半径方向に延びるビード補強層と、少なくとも1つの電子部品とが設けられており、
前記ビード補強層は、複数のスチールコードがゴム被覆された少なくとも1枚のスチールプライを含み、
前記スチールプライは、タイヤ周方向の一方側の端部とタイヤ周方向の他方側の端部とが重ねられたスプライス部を含み、
前記電子部品は、タイヤ半径方向において、前記スチールプライの配置領域内に位置し、かつ、タイヤ周方向において、前記スプライス部から離れた場所に位置する、
空気入りタイヤ。
[本発明2]
前記電子部品は、タイヤ回転軸を中心とした角度で、前記スプライス部から30~180°離れている、本発明1に記載の空気入りタイヤ。
[本発明3]
前記ビード補強層は、前記ビードエーペックスゴムのタイヤ軸方向外側に位置し、前記電子部品は、前記ビード補強層のタイヤ軸方向内側に位置している、本発明1又は2に記載の空気入りタイヤ。
[本発明4]
前記一対のビード部の前記ビードコア間を延びるトロイド状のカーカスと、
前記カーカスの内側で、前記一対のビード部の間を延びるトロイド状のインナーライナ層とを含み、
前記インナーライナ層は、タイヤ内腔面側に配されたブチル系ゴム層と、前記カーカス側に配され、かつ、前記カーカスに対する接着力が前記ブチル系ゴム層よりも高いゴムからなるインスレーションゴム層とを含み、
前記電子部品は、前記カーカスと前記インスレーションゴム層との間、前記インスレーションゴム層の内部、又は、タイヤ内腔面上のいずれかに設けられている、本発明1ないし4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
[本発明5]
前記インスレーションゴム層の複素弾性率E*は、2.5~5.5MPaである、本発明4に記載の空気入りタイヤ。
[本発明6]
前記電子部品から前記スチールプライのタイヤ半径方向の外端までのタイヤ半径方向の距離は、20mm以下である、本発明1ないし5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
[本発明7]
前記スチールプライは、プライ幅5cm当たり、前記スチールコードを30~50本備える、本発明1ないし6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
[本発明8]
前記複数のスチールコードは、それぞれ、タイヤ周方向に対して10~30°の角度で配されている、本発明1ないし7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
[本発明9]
前記電子部品は、長手方向を有し、
前記複数のスチールコードは、互いに同じ延在方向で配されており、
前記電子部品の前記長手方向と、前記複数のスチールコードの前記延在方向との間の角度は、10~45°である、本発明1ないし8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【符号の説明】
【0049】
2 トレッド部
3 サイドウォール部
5 ビードコア
4 ビード部
8 ビードエーペックスゴム
15 ビード補強層
16 スチールプライ
16c スチールコード
17 スプライス部
20 電子部品
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7