(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172427
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】非水二次電池及び非水二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241205BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241205BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241205BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20241205BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090140
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM07
5H029CJ02
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029DJ15
5H029EJ04
5H029HJ04
5H029HJ07
5H050AA01
5H050AA19
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050DA02
5H050DA10
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】生産性と電池性能とを両立させる非水二次電池及び非水二次電池の製造方法を提供する。
【解決手段】非水二次電池は、正極シート、負極シート、及び非水電解液を有する。正極シートを構成する正極合材は、正極活物質と繊維状導電材と薄片状導電材とを含む。繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下である。薄片状導電材の平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下である。正極合材に含まれる繊維状導電材及び薄片状導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極シート、負極シート、及び非水電解液を有する非水二次電池であって、
前記正極シートを構成する正極合材は、正極活物質と繊維状導電材と薄片状導電材とを含み、
前記繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であり、
前記薄片状導電材の平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下であり、
前記正極合材に含まれる前記繊維状導電材及び前記薄片状導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下である
非水二次電池。
【請求項2】
前記正極合材に含まれる前記正極活物質の割合が50.7vol%以上64.7vol%以下である
請求項1に記載の非水二次電池。
【請求項3】
正極シート、負極シート、及び非水電解液を有する非水二次電池であって、
前記正極シートを構成する正極合材は、正極活物質と繊維状導電材と薄片状導電材とを含み、
前記繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であり、
前記薄片状導電材の平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下であり、
前記正極合材に含まれる前記繊維状導電材及び前記薄片状導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下であり、
前記正極活物質と前記繊維状導電材と前記薄片状導電材と正極結着材とを含む前記正極合材のペーストを、前記正極シートを構成する正極基材に塗工して乾燥させる
非水二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥後の前記正極合材に含まれる前記正極活物質の割合が50.7vol%以上64.7vol%以下である
請求項3に記載の非水二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥前の前記正極合材のペーストに含まれる前記正極活物質の割合が23.3vol%以上32.5vol%以下である
請求項3又は4に記載の非水二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水二次電池及び非水二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水二次電池は、正極シートと負極シートとがセパレータを介して積層された電極体と、電解液と、を備えている。正極シートは、正極基板に正極活物質を含む正極合材が塗工されている。特許文献1に記載の非水二次電池の正極合材には、カーボンナノチューブ等の繊維状炭素材料が導電材として含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、正極合材に繊維状炭素材料を含む非水二次電池においては、正極シートの製造時に繊維状炭素材料の再凝集によって繊維状炭素材料を含む正極合材のペーストの粘度が増加して、生産性が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する非水二次電池は、正極シート、負極シート、及び非水電解液を有する非水二次電池であって、前記正極シートを構成する正極合材は、正極活物質と繊維状導電材と薄片状導電材とを含み、前記繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であり、前記薄片状導電材の平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下であり、前記正極合材に含まれる前記繊維状導電材及び前記薄片状導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下である。
【0006】
上記構成によれば、繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であるので、繊維状導電材の再凝集による正極合材の増粘を抑制することができる。平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下である薄片状導電材を含ませることで繊維状導電材が正極表面にマイグレーションすることを抑制することができるとともに導電パスを確保することができる。正極合材に含まれる導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下であるので、導電材が多いことによる正極活物質の比率低下を抑制して容量を確保することができる。よって、生産性と電池性能とを両立させることができる。
【0007】
上記非水二次電池について、前記正極合材に含まれる前記正極活物質の割合が50.7vol%以上64.7vol%以下であることが好ましい。
上記構成によれば、正極合材に含まれる正極活物質の割合が50.7vol%以上64.7vol%以下であるので、正極活物質間の導電パスを確保することができる。
【0008】
上記課題を解決する非水二次電池の製造方法は、正極シート、負極シート、及び非水電解液を有する非水二次電池であって、前記正極シートを構成する正極合材は、正極活物質と繊維状導電材と薄片状導電材とを含み、前記繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であり、前記薄片状導電材の平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下であり、前記正極合材に含まれる前記繊維状導電材及び前記薄片状導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下であり、前記正極活物質と前記繊維状導電材と前記薄片状導電材と正極結着材とを含む前記正極合材のペーストを、前記正極シートを構成する正極基材に塗工して乾燥させる。
【0009】
上記方法によれば、繊維状導電材の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であるので、繊維状導電材の再凝集による正極合材の増粘を抑制することができる。平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下である薄片状導電材を含ませることで繊維状導電材が正極表面にマイグレーションすることを抑制することができるとともに導電パスを確保することができる。正極合材に含まれる導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下であるので、導電材が多いことによる正極活物質の比率低下を抑制して容量を確保することができる。よって、生産性と電池性能とを両立させることができる。
【0010】
上記非水二次電池の製造方法について、前記乾燥後の前記正極合材に含まれる前記正極活物質の割合が50.7vol%以上64.7vol%以下であることが好ましい。
上記方法によれば、正極合材に含まれる正極活物質の割合が50.7vol以上64.7vol%以下であるので、正極活物質間の導電パスを確保することができる。
【0011】
上記非水二次電池の製造方法について、前記乾燥前の前記正極合材のペーストに含まれる前記正極活物質の割合が23.3vol%以上32.5vol%以下であることが好ましい。
【0012】
上記方法によれば、乾燥前の正極合材のペーストに含まれる正極活物質の割合が23.3vol%以上32.5vol%以下である。このため、乾燥中に正極活物質間に薄片状導電材が引っ掛かり、薄片状導電材はマイグレーションせずに存在し、繊維状導電材のマイグレーションを抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生産性と電池性能とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】非水二次電池の一実施形態のセル電池の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】同実施形態の電極体の一部を展開した図である。
【
図3】同実施形態の正極合材のSEM画像の模式図である。
【
図4】同実施形態の平均繊維長と電極抵抗との関係を示すグラフである。
【
図8】非水二次電池の実施例及び比較例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[本実施形態]
以下、
図1~
図7を参照して、非水二次電池及び非水二次電池の製造方法の一実施形態について説明する。非水二次電池の一例としてリチウムイオン二次電池について説明する。
【0016】
[リチウムイオン二次電池10]
図1に示すように、リチウムイオン二次電池10は、複数のリチウムイオン二次電池10と組み合わされた状態で、樹脂製又は金属製のケースに封入されて電池パックを構成するセル電池である。電池パックは、ハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる。
【0017】
リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11と、蓋体12と、を備える。電池ケース11は、上側に開口部を有した直方体形状である。蓋体12は、電池ケース11の開口部を封止する。電池ケース11及び蓋体12は、アルミニウム、若しくはアルミニウム合金等の金属で構成される。リチウムイオン二次電池10は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。
【0018】
蓋体12には、2つの正極外部端子13A及び負極外部端子13Bが設けられる。正極外部端子13A及び負極外部端子13Bは、電力の充放電に用いられる。電池ケース11の内部には、電極体20が収容される。電池ケース11と電極体20との間には、外挿フィルム(図示略)が挿入されている。電極体20における正極側の端部である正極側集電部20Aは、正極側集電部材14Aを介して正極外部端子13Aに電気的に接続される。電極体20における負極側の端部である負極側集電部20Bは、負極側集電部材14Bを介して負極外部端子13Bに電気的に接続される。また、電池ケース11内には、図示しない注液孔から非水電解液が注入される。なお、正極外部端子13A及び負極外部端子13Bの形状は、
図1に示す形状に限定されず、任意の形状であってよい。
【0019】
[電極体20]
図2に示すように、電極体20は、長尺の正極シート21と負極シート24とがセパレータ27を介して積層した積層体を捲回した偏平な捲回体である。正極シート21、負極シート24、及びセパレータ27は、それぞれの長手となる方向が長手方向D1と一致するように積層される。捲回前の積層体は、正極シート21、セパレータ27、負極シート24、セパレータ27の順に積層される。
【0020】
[正極シート21]
正極シート21は、正極集電体22と、正極合材層23と、を備える。正極集電体22は、長尺状に形成された箔状の正極基材である。正極合材層23は、正極集電体22の相対する2つの面の各々に設けられる。正極集電体22は、幅方向D2の一端に、正極合材層23が形成されずに正極集電体22が露出した正極側未塗工部22Aを備える。
【0021】
正極集電体22は、アルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。正極集電体22は、正極における集電体として機能する。正極集電体22が備える正極側未塗工部22Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて正極側集電部20Aを構成する。
【0022】
正極合材層23は、液状体の正極合材ペーストの硬化体である。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、及び、正極結着材を含む。正極合材層23は、正極合材ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで形成される。したがって、正極合材層23は、正極活物質、正極導電材、及び、正極結着材を含む。
【0023】
正極活物質は、リチウムイオン二次電池10における電荷担体であるリチウムイオンを吸蔵及び放出可能なリチウム含有複合酸化物が用いられる。リチウム含有複合酸化物は、リチウムと、リチウム以外の他の金属元素とを含む酸化物である。リチウム以外の他の金属元素は、例えば、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、マグネシウム、モリブデン、ニオブ、チタン、タングステン、アルミニウム、リチウム含有複合酸化物にリン酸鉄として含有される鉄からなる群から選択される少なくとも一種である。
【0024】
例えば、リチウム含有複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、ニッケル、コバルト及びマンガンを含有する三元系リチウム含有複合酸化物であり、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiCoMnO2)である。例えば、リチウム含有複合酸化物は、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)である。
【0025】
正極溶媒は、有機溶媒の一例であるNMP(N-メチル-2-ピロリドン)溶液が用いられる。正極導電材は、繊維状導電材と薄片状導電材とを含む。繊維状導電材としては、例えば、カーボンナノチューブが用いられる。薄片状導電材としては、黒鉛やグラフェンが用いられる。正極結着材は、正極合材ペーストに含まれる樹脂成分の一例である。正極結着材は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンラバー(SBR)等が用いられる。
【0026】
なお、正極シート21は、正極側未塗工部22Aと正極合材層23との境界に、絶縁層を備えてもよい。絶縁層は、絶縁性を有した無機成分と、結着材として機能する樹脂成分とを含む。無機成分は、粉末状のベーマイト、チタニア、及びアルミナからなる群から選択される少なくとも1つである。樹脂成分は、PVDF、PVA、アクリルからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0027】
[負極シート24]
負極シート24は、負極集電体25と、負極合材層26と、を備える。負極集電体25は、長尺状に形成された箔状の負極基材である。負極合材層26は、負極集電体25の相対する2つの面の各々に設けられる。負極集電体25は、幅方向D2の一端であって、正極側未塗工部22Aと反対に位置する端部において、負極合材層26が形成されずに負極集電体25が露出した負極側未塗工部25Aを備える。
【0028】
負極集電体25は、銅又は銅を主成分とする合金から構成される金属箔が用いられる。負極集電体25は、負極における集電体として機能する。負極側未塗工部25Aは、捲回体の状態において、向かい合う面が互いに圧接されて負極側集電部20Bを構成する。
【0029】
負極合材層26は、液状体の負極合材ペーストの硬化体である。負極合材ペーストは、負極活物質、負極溶媒、負極増粘材、及び、負極結着材を含む。負極合材層26は、負極合材ペーストが乾燥されて負極溶媒が気化することで形成される。したがって、負極合材層26は、負極活物質、さらに、添加材として、負極増粘材及び負極結着材を含む。なお、負極合材層26は、導電材のような添加材をさらに含んでもよい。
【0030】
負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵及び放出可能な材料である。負極活物質は、例えば、黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、カーボンナノチューブ等の炭素材料等が用いられる。負極溶媒は、一例として、水である。負極増粘材は、一例として、ナトリウム塩を含む増粘材として、CMC(カルボキシメチルセルロース)を用いることができる。負極結着材は、正極結着材と同様のものを用いることができる。負極結着材は、一例としてナトリウム塩を含む結着材として、SAR(スチレンアクリル酸共重合体)を用いることができる。
【0031】
[セパレータ27]
セパレータ27は、正極シート21と負極シート24との接触を防ぐとともに、正極シート21及び負極シート24の間で非水電解液を保持する。非水電解液に電極体20を浸漬させると、セパレータ27の幅方向D2の端部から中央部に向けて非水電解液が浸透する。
【0032】
セパレータ27は、ポリプロピレン製等の不織布である。セパレータ27としては、例えば、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、及び、イオン導電性ポリマー電解質膜等を用いることができる。
【0033】
[非水電解液]
非水電解液は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等からなる群から選択された一種又は二種以上の材料を用いることができる。また、支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC4F9SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiI、LiBOB(リチウムビスオキサレートボレート)等から選択される一種又は二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0034】
本実施形態では、非水溶媒としてエチレンカーボネートを採用している。非水電解液には、被膜形成剤のリチウム塩としてのLiBOBが添加される。例えば、非水電解液におけるLiBOBの濃度が0.001以上0.1以下[mol/L]となるように、非水電解液にLiBOBを添加する。
【0035】
[製造方法]
次に、
図3~
図7を参照して、リチウムイオン二次電池10の製造方法について説明する。正極シート21の製造方法について説明する。
【0036】
リチウムイオン二次電池10の製造方法は、正極集電体22に正極合材ペーストを塗工する塗工工程と、正極合材ペーストを乾燥させる乾燥工程とを含む。正極合材ペーストは、正極活物質、正極溶媒、正極導電材、及び、正極結着材を含む。乾燥工程において正極合材ペーストが乾燥されて正極溶媒が気化することで正極合材層23が形成される。
【0037】
図3に示すように、正極シートを構成する正極合材層23は、正極活物質31と繊維状導電材32と薄片状導電材33とを含む。正極活物質31は、
図3中の大きな塊である。繊維状導電材32は、正極活物質31の表面に貼り付くとともに、正極活物質31同士の間を繋げている。薄片状導電材33は、複数の正極活物質31に接触している。
【0038】
正極合材層23に含まれる繊維状導電材32の平均繊維長は、0.5μm以上0.75μm以下である。繊維状導電材32のアスペクト比(繊維長/繊維径)は、31以上94以下であることが望ましい。アスペクト比が大きすぎると、繊維状導電材32が絡まりやすくなり、正極合材ペーストの粘度が増加するおそれがある。一方で、アスペクト比が小さすぎると、繊維状導電材32の径が太く短いため抵抗悪化のおそれがある。
【0039】
繊維状導電材32の平均繊維長は、以下のように求める。正極合材ペーストを遠心分離して、活物質は沈殿するので上澄み液を回収して、上澄み液を更に希釈する。希釈された上澄み液に含まれる繊維状導電材32を分散させて、繊維状導電材32のSEM画像を複数個所取得する。SEM画像に含まれる繊維状導電材32の1本ずつをなぞり、それらの長さを画像解析により数値化する。よって、繊維状導電材32が曲がっていて計測可能である。平均を算出するための母数は、なぞった繊維状導電材32の本数の平均である。なお、繊維状導電材32の原液から繊維長を求める場合には、繊維状導電材32の原液を希釈して原液に含まれる繊維状導電材32のSEM画像を複数箇所取得して、上記と同様に計測する。また、正極合材に含まれる繊維状導電材32から繊維長を求める場合には、正極合材をNMP等の溶媒によって溶解し、溶解した正極合材を遠心分離して、活物質は沈殿するので上澄み液を回収して、上澄み液を更に希釈する。希釈された上澄み液に含まれる繊維状導電材32を分散させて、繊維状導電材32のSEM画像を複数箇所取得して、上記と同様に計測する。遠心分離は、例えば、回転数が15000rpmであって、遠心力が21500gであって、処理時間が10minである。切れにくい繊維状導電材32であれば、繊維状導電材32の原液、正極合材ペースト、正極合材のいずれで計測しても、繊維状導電材32の平均繊維長は同じ結果となる。
【0040】
正極合材層23に含まれる薄片状導電材33の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、1.54μm以上4.45μm以下である。正極活物質31同士間の距離よりも長いため、正極活物質31同士間で引っ掛かることで導電パスを確保することができる。また、乾燥中に薄片状導電材33がマイグレーションせず、正極集電体22側の導電パスを確保するとともに繊維状導電材32のマイグレーションを抑制することができる。薄片状導電材33の長軸長さ及び短軸長さともに正極活物質31同士間の距離以上を確保することができていれば、効果を得ることができる。薄片状導電材33の厚みは、0.3μm以下であることが望ましい。正極シート21の導電材料を増やすことなく、少ない薄片状導電材33で正極活物質31同士間の導電パスを確保することができる。薄片状導電材33のアスペクト比(長軸/短軸)は、1~3であることが望ましい。アスペクト比が長すぎると、薄片状導電材33の本数が減るため、添加効果を得られなくなる。繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率は、1wt%以上5wt%以下が望ましい。薄片状導電材33の量が多いと相対的に繊維状導電材32の量が減って導電パスが不足するため上記混合比率が望ましい。
【0041】
薄片状導電材33の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、以下のように求める。正極合材ペーストを遠心分離して、活物質、薄片状導電材33、繊維状導電材32の順に沈殿するので、中間層の液を回収して、更に希釈する。希釈された中間層の液に含まれる薄片状導電材33を抽出して、スライドガラスに滴下して、マイクロスコープで薄片状導電材33を観察して、薄片状導電材33の長軸と短軸を計測する。平均を算出するための母数は、観察した薄片状導電材33の数の平均である。なお、薄片状導電材33の原液から長さを求める場合には、薄片状導電材33の原液を希釈して原液に含まれる薄片状導電材33を抽出して、上記と同様に計測する。また、正極合材に含まれる薄片状導電材33から長さを求める場合には、正極合材をNMP等の溶媒によって溶解し、溶解した正極合材を遠心分離して、活物質、薄片状導電材33、繊維状導電材32の順に沈殿するので、中間層の液を回収して、更に希釈する。希釈された中間層の液に含まれる薄片状導電材33を抽出して、上記と同様に計測する。遠心分離は、例えば、回転数が15000rpmであって、遠心力が21500gであって、処理時間が10minである。薄片状導電材33の原液、正極合材ペースト、正極合材のいずれから計測しても、薄片状導電材33の平均長軸長さ及び平均短軸長さは同じ結果となる。
【0042】
図4に示すように、繊維状導電材32の平均繊維長は、0.75μm以下になると、導電性能が低下して、電極抵抗が悪化する傾向がある。一方で、繊維状導電材32の平均繊維長を長くすると、正極合材ペーストの粘度が増加するというトレードオフの関係がある。なお、粘度が増加すると生産性が低下することになる。
【0043】
図5~
図7は、正極集電体22に正極合材ペーストを塗工した正極シート21のモデル図である。乾燥前の状態を示している。
図5は、繊維状導電材32の平均繊維長が0.9μm以上である正極シート21を示している。この繊維状導電材32を含む場合には、繊維状導電材32が正極活物質31同士を繋ぐので導電性を確保することができる。しかしながら、繊維状導電材32が再凝集することで正極合材ペーストの粘度が増加する。繊維状導電材32が正極活物質31同士間の距離よりも長いので、繊維状導電材32がマイグレーションによって正極合材ペーストの表面側へ移行しない。
【0044】
図6は、繊維状導電材32の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下である正極シート21を示している。この繊維状導電材32を含む場合には、繊維状導電材32の再凝集を抑制することができるので正極合材ペーストの粘度の増加を抑制することができる。しかしながら、繊維状導電材32が正極活物質31同士間の距離よりも短いので、繊維状導電材32がマイグレーションによって正極合材ペーストの表面側へ移行して、導電性が低下する。
【0045】
図7は、繊維状導電材32の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であるとともに薄片状導電材33を添加した正極シート21を示している。この繊維状導電材32を含む場合には、繊維状導電材32の再凝集を抑制することができるので正極合材ペーストの粘度の増加を抑制することができる。この繊維状導電材32及び薄片状導電材33を含む場合には、薄片状導電材33が繊維状導電材32と絡み合うため、繊維状導電材32がマイグレーションによって正極合材ペーストの表面側へ移行しない。薄片状導電材33を含む場合には、繊維状導電材32が正極活物質31同士を繋ぐので導電性を確保することができる。
図4の◇で示すように、薄片状導電材33を含む場合には、電極抵抗の悪化を改善することができる。
【0046】
乾燥前の正極合材ペーストに含まれる正極活物質31の割合が23.3vol%以上32.5vol%以下であることが望ましい。乾燥中に薄片状導電材33が正極活物質31同士間に引っ掛かり、薄片状導電材33はマイグレーションせずに存在してマイグレーションを抑制することができる。正極活物質31の粒子間距離は、正極活物質31の平均粒子径の影響を受けるため、正極活物質31の平均粒子径が2μm以上7μm以下であることが望ましい。乾燥前の正極合材ペーストに含まれる正極活物質31の体積割合は、乾燥前の正極合材ペーストに含まれる各材料の重量組成比率と各材料の密度から算出することができる。
【0047】
乾燥後の正極合材層23に含まれる正極活物質31の割合は、50.7vol%以上64.7vol%以下であることが望ましい。正極活物質31の割合が低すぎると、正極活物質31同士間の導電パスを確保することができずに抵抗が増加する。一方で、正極活物質31の割合が高すぎると、非水電解液の流れが悪くなり、拡散抵抗が悪化する。乾燥後の正極合材ペーストに含まれる正極活物質31の体積割合は、乾燥後の正極合材ペーストに含まれる各材料の重量組成比率と各材料の密度、正極合材層23の密度から算出することができる。
【0048】
乾燥後の正極合材層23に含まれる繊維状導電材32及び薄片状導電材33の割合は、0.3wt%以上1.0wt%以下であることが望ましい。正極合材層23に含まれる導電材が多いと、正極活物質31の比率が減って容量が低下して十分な導電パスが確保されるため薄片状導電材33を混合する必要がなくなる。一方で正極合材層23に含まれる導電材が少ないと、導電材が少なすぎて薄片状導電材33を入れても効果が得られなくなる。
【0049】
よって、平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下である繊維状導電材32及び平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下である薄片状導電材33を正極合材層23に含む。このため、繊維状導電材32の再凝集による正極合材ペーストの増粘を抑制することができる。繊維状導電材32が正極表面にマイグレーションすることを抑制することができるとともに導電パスを確保することができる。よって、生産性と電池性能を両立させることができる。
【0050】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)繊維状導電材32の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であるので、繊維状導電材32の再凝集による正極合材ペーストの増粘を抑制することができる。平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下である薄片状導電材33を含ませることで繊維状導電材32が正極表面にマイグレーションすることを抑制することができるとともに導電パスを確保することができる。正極合材層23に含まれる導電材の割合が0.3wt%以上1.0wt%以下であるので、導電材が多いことによる正極活物質31の比率低下を抑制して容量を確保することができる。よって、生産性と電池性能とを両立させることができる。
【0051】
(2)正極合材層23に含まれる正極活物質31の割合が50.7vol%以上64.7vol%以下であるので、正極活物質31同士間の導電パスを確保することができる。
(3)乾燥前の正極合材ペーストに含まれる正極活物質31の割合が23.3vol%以上32.5vol%以下である。このため、乾燥中に正極活物質31同士間に薄片状導電材33が引っ掛かり、薄片状導電材33はマイグレーションせずに存在し、繊維状導電材32のマイグレーションを抑制することができる。
【0052】
(他の実施形態)
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0053】
・上記実施形態では、繊維状導電材32としてカーボンナノチューブを用いた。しかしながら、繊維状導電材32としてカーボンナノファイバを用いてもよい。
・上記実施形態において、薄片状導電材33として黒鉛やグラフェンを用いた。しかしながら、薄片状導電材33は、薄片状の形状を有していれば、カーボンナノチューブの合成時や分散時に生成された凝集物であってもよい。
【0054】
・上記実施形態では、セパレータ27を介して正極シート21と負極シート24とを積層した積層体を捲回した捲回体を電極体20とした。しかしながら、複数の正極シート21及び複数の負極シート24を、セパレータ27を介して交互に積層した積層体を電極体としてもよい。
【0055】
・リチウムイオン二次電池10は、自動搬送機や荷役用の特殊自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車等の他、コンピュータ、その他の電子機器に搭載されるものであってもよく、これ以外のシステムを構成するものであってもよい。例えば、船舶、航空機等の移動体に設けられるものであってもよく、発電所から変電所等を介して二次電池が設置されたビルや家庭等に電力を供給する電力供給システムであってもよい。
【0056】
[実施例]
次に、
図8を参照して、リチウムイオン二次電池10の実施例及び比較例について説明する。なお、これらの実施例及び比較例は非水二次電池の製造方法を限定するものではない。
【0057】
以下では、
図8に示すように、繊維状導電材32の平均繊維長と、薄片状導電材33の平均長軸長さと、薄片状導電材33の平均短軸長さと、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率との組み合わせを変更した実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池10を準備した。なお、正極合材層23に含まれる導電材は0.65wt%である。そして、各実施例及び各比較例について、正極合材ペーストの増粘(初期粘度との比)と電極抵抗比率とを評価した。粘度は、レオメータで計測する。なお、粘度は、B型粘度計、E型粘度計で測定することも可能である。粘度の増加は、作成直後と作成から3日後との比較である。
【0058】
[比較例1]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.75[μm]として、薄片状導電材33を含まないとした。
【0059】
[比較例2]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.89[μm]として、薄片状導電材33を含まないとした。
【0060】
[比較例3]
繊維状導電材32の平均繊維長を1.60[μm]として、薄片状導電材33を含まないとした。
【0061】
[比較例4]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33を含まないとした。
【0062】
[比較例5]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを1.46[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを1.09[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を5.0[wt%]とした。
【0063】
[比較例6]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを2.53[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを2.02[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を0.5[wt%]とした。
【0064】
[比較例7]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを2.53[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを2.02[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を6.0[wt%]とした。
【0065】
[実施例1]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを2.53[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを2.02[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を1.0[wt%]とした。
【0066】
[実施例2]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを2.53[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを2.02[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を3.0[wt%]とした。
【0067】
[実施例3]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを1.85[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを1.54[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を5.0[wt%]とした。
【0068】
[実施例4]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.50[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを4.45[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを3.69[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を5.0[wt%]とした。
【0069】
[実施例5]
繊維状導電材32の平均繊維長を0.75[μm]として、薄片状導電材33の平均長軸長さを2.53[μm]として、薄片状導電材33の平均短軸長さを2.02[μm]として、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率を3.0[wt%]とした。
【0070】
[評価]
上記の各実施例及び各比較例について、正極合材ペーストの増粘(初期粘度との比)と電極抵抗比率とを評価した。
【0071】
繊維状導電材32の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であって、薄片状導電材33を含まない比較例1,4は、正極合材ペーストの増粘が1.2倍以下であるが、電極抵抗比率が1.0以上となる。
【0072】
繊維状導電材32の平均繊維長が0.75μmよりも長く、薄片状導電材33を含まない比較例2,3は、電極抵抗比率が1.0未満となるが、正極合材ペーストの増粘が1.2倍よりも大きくなる。
【0073】
薄片状導電材33の平均短軸長さが1.54μm未満である比較例5は、正極合材ペースト増粘が1.2倍以下であるが、電極抵抗比率が1.0以上となる。
繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率が1.0wt%未満である比較例6は、正極合材ペーストの増粘が1.2倍以下であるが、電極抵抗比率が1.0以上となる。
【0074】
繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率が5.0wt%よりも大きい比較例7は、正極合材ペーストの増粘が1.2倍以下であるが、電極抵抗比率が1.0以上となる。
【0075】
繊維状導電材32の平均繊維長が0.5μm以上0.75μm以下であって、薄片状導電材33の平均長軸長さ及び平均短軸長さが1.54μm以上4.45μm以下であって、繊維状導電材32に対する薄片状導電材33の混合比率が1.0wt%以上5.0wt%以上である実施例1~5は、正極合材ペーストの増粘が1.2倍以下であるとともに、電極抵抗比率が1.0以上となる。実施例1~5は、優れた結果が得られた。
【符号の説明】
【0076】
10…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…蓋体
13A…正極外部端子
13B…負極外部端子
14A…正極側集電部材
14B…負極側集電部材
20…電極体
20A…正極側集電部
20B…負極側集電部
21…正極シート
22…正極集電体
22A…正極側未塗工部
23…正極合材層
24…負極シート
25…負極集電体
25A…負極側未塗工部
26…負極合材層
27…セパレータ
31…正極活物質
32…繊維状導電材
33…薄片状導電材