(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017244
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20240201BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240201BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240201BHJP
H01B 3/47 20060101ALI20240201BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08L1/02
C08K3/36
C08L101/00
H01B3/47
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119759
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和 恭平
(72)【発明者】
【氏名】平 涼斉
【テーマコード(参考)】
4J002
4M109
5G305
【Fターム(参考)】
4J002AA002
4J002AB011
4J002BB002
4J002BB012
4J002BD122
4J002BH022
4J002CD002
4J002CE002
4J002CM042
4J002DJ016
4J002GQ00
4J002GQ01
4J002GQ05
4M109AA01
4M109EA02
4M109EB02
4M109EB13
4M109EB14
4M109EB16
4M109EC07
5G305AA02
5G305AA04
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5G305AB10
5G305AB27
5G305CA02
5G305CA15
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5G305CA38
5G305CA43
5G305CC02
5G305CC12
5G305DA16
5G305DA22
(57)【要約】
【課題】低比誘電率を維持しつつ、優れた熱寸法安定性を有する成形物が得られる樹脂組成物並びにこれを用いてなる絶縁材料、封止材及び電子材料を提供することを課題とする。
【解決手段】改質セルロース繊維、シリカ粒子及び樹脂を含む樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改質セルロース繊維、シリカ粒子及び樹脂を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率が4.0以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均粒子径が0.1μm以上10μm以下である、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記シリカ粒子のBET比表面積が、30m2/g以下である、請求項1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記シリカ粒子が中空シリカ粒子である、請求項1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記中空シリカ粒子の空孔率が、50体積%以上90体積%以下である、請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物における樹脂100質量部に対する前記改質セルロース繊維に含まれるグルコース単位の含有量が、0.1質量部以上20質量部以下である、請求項1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記シリカ粒子100質量部に対する前記改質セルロース繊維に含まれるグルコース単位の含有量が、0.1質量部以上40質量部以下である、請求項1~8のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記改質セルロース繊維中のグルコース単位の含有量が、1質量%以上80質量%以下である、請求項1~9のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記請求項1~10のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなる絶縁材料。
【請求項12】
前記請求項1~10のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなる封止材。
【請求項13】
前記請求項1~10のいずれかに記載の樹脂組成物を用いてなる電子材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物並びにこれを用いてなる絶縁材料、封止材及び電子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
5Gに代表される高速通信技術や自動運転等に用いられるレーダー等では数十GHzの高周波の使用が検討されている。このような、高周波の電波に対応する高周波回路においては、伝送損失や伝送遅延の低減のために、低比誘電率の絶縁材料が必要とされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、中空無機微粒子、及び前記ポリイミド樹脂が可溶な溶媒を含む、印刷配線板用絶縁性樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の樹脂組成物は、熱寸法安定性が不十分であり、絶縁材料や封止材に用いる際に課題があった。
本発明は、低比誘電率を維持しつつ、優れた熱寸法安定性を有する成形物が得られる樹脂組成物並びにこれを用いてなる絶縁材料、封止材及び電子材料を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、シリカ粒子及び樹脂を含む樹脂組成物に、更に改質セルロース繊維を配合することによって、低比誘電率を維持しつつ、熱寸法安定性を向上させることができることを見出した。
本発明は、以下の〔1〕~〔4〕に関する。
〔1〕改質セルロース繊維、シリカ粒子及び樹脂を含む樹脂組成物。
〔2〕前記〔1〕に記載の樹脂組成物を用いてなる絶縁材料。
〔3〕前記〔1〕に記載の樹脂組成物を用いてなる封止材。
〔4〕前記〔1〕に記載の樹脂組成物を用いてなる電子材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、低比誘電率を維持しつつ、優れた熱寸法安定性を有する成形物が得られる樹脂組成物並びにこれを用いてなる絶縁材料、封止材及び電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、改質セルロース繊維、シリカ粒子及び樹脂を含むことを特徴とする。
本発明の樹脂組成物によれば、低比誘電率を維持しつつ、優れた寸法安定性を有する成形物を得られる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
樹脂にシリカ粒子を配合することにより、樹脂組成物より得られる成形物の比誘電率を低くすることができる。しかしながら、シリカ粒子の配合のみでは、十分な熱寸法安定性を得ることができなかった。
そこで、樹脂組成物にセルロース繊維を配合することで、成形物の熱寸法安定性を向上させることを試みたが、一般的なセルロース繊維では、樹脂に対する十分な分散性を得ることができず、成形物の熱寸法安定性を向上させることができなかった。
本発明の樹脂組成物は、改質セルロース繊維を用いることにより、樹脂と改質セルロース繊維との相溶性が高いため、樹脂中にセルロース繊維を十分に分散させることができ、熱寸法安定性を向上させることができると考えられる。また、改質セルロース繊維は、改質されていることにより水酸基の含有量が調節されるため、成形物の比誘電率を低くすることができると考えられる。
【0009】
本発明の樹脂組成物は、取り扱い性の観点から、更に溶媒を含んでもよい。溶媒としては、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数4~6のエステル;炭素数5又は6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、1液型の樹脂組成物としてもよく、2液型の樹脂組成物としてもよい。
2液型の樹脂組成物とする場合、各液は、それぞれ1種以上の成分を含有しており、別個に包装された後、缶等の容器に入れられた状態で貯蔵保管されることが好ましく、内容物を成形時に混合することにより樹脂組成物を調製することができる。
例えば、樹脂組成物に含まれる樹脂が硬化性樹脂を含む場合、貯蔵安定性の観点から、改質セルロース繊維、シリカ粒子及び樹脂を含む液と、硬化剤又は硬化触媒を含む液との2液とすることが好ましい。
【0011】
本明細書において、成形物とは、樹脂組成物が硬化性樹脂を含む場合は、硬化性樹脂の硬化成形物を指し、また、熱可塑性樹脂を含む場合は、樹脂組成物の成形物を指す。
また、本明細書において、成形物とは、塗膜も含む概念である。
【0012】
<改質セルロース>
本発明において、改質セルロース繊維とは、修飾基を有するセルロース繊維である。修飾基は、該セルロース繊維の一部若しくは全てのヒドロキシ基か、又はグルコース単位のヒドロキシ基がアニオン性基に変換されたアニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に結合していることが好ましい。なお、本明細書におけるグルコース単位は、ヒドロキシメチル基がアニオン性基に変換されたグルコース単位も含む。
【0013】
(アニオン変性セルロース繊維)
アニオン変性セルロース繊維とは、アニオン性基、例えばカルボキシ基、(亜)リン酸基及びスルホン酸基からなる群より選択される1種以上の基を分子内に有するセルロース繊維である。セルロース繊維へのアニオン性基の導入は後述の方法により達成できる。入手容易性及び効果の観点から、アニオン性基としてカルボキシ基を有するアニオン変性セルロース繊維(「酸化セルロース繊維」と称する。)が好ましく、セルロース繊維を構成するグルコースユニットのC6位のヒドロキシメチル基(-CH2OH)が選択的にカルボキシ基に変換されたアニオン変性セルロース繊維(「TEMPO酸化セルロース繊維」と称する。)がより好ましい。なお、アニオン性基の対となるイオン(カウンターイオン)は、好ましくはプロトンである。
【0014】
アニオン変性セルロース繊維におけるアニオン性基含有量としては、安定な修飾基導入及び修飾基の導入により、解繊性を高める観点から、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、更に好ましくは1.0mmol/g以上である。また、製造容易性の観点から、好ましくは3mmol/g以下、より好ましくは2mmol/g以下、更に好ましくは1.8mmol/g以下である。なお、「アニオン性基含有量」とは、セルロース繊維を構成するグルコース中のアニオン性基の総量を意味し、具体的には後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0015】
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基が結合するとは、アニオン変性セルロース繊維が有するアニオン性基、好ましくはカルボキシ基に修飾基が結合することを意味する。修飾基とアニオン性基との結合様式としては、イオン結合及び/又は共有結合が挙げられる。共有結合としては、例えば、アミド結合、エステル結合、ウレタン結合が挙げられ、好ましくはアミド結合である。
【0016】
(修飾基)
修飾基としては、(a)炭化水素基及び(b)ポリマー基が挙げられる。これらの修飾基は1種又は2種以上が組み合わさって、アニオン変性セルロース繊維に結合してもよい。
(a)炭化水素基
炭化水素基としては、一価の炭化水素基、例えば、直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基、直鎖又は分岐鎖の鎖式不飽和炭化水素基、環式飽和炭化水素基、アリール基、アラルキル基及び複素環式芳香族炭化水素基が挙げられる。
炭化水素基の炭素数は、樹脂組成物の熱寸法安定性を高める観点から、1以上であり、好ましくは3以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上であり、同観点から、好ましくは30以下、より好ましくは22以下、更に好ましくは18以下である。炭化水素基は、後述する置換基を有していてもよく、炭化水素基の一部が窒化水素基に置換されていてもよい。
直鎖又は分岐鎖の鎖式飽和炭化水素基は、樹脂組成物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは直鎖の鎖式飽和炭化水素基である。鎖式飽和炭化水素基としては、例えば、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、ドコシル基、オクタコサニル基等が挙げられる。
鎖式不飽和炭化水素基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、イソプレニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、オクタデセニル基等が挙げられる。
環式飽和炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロオクタデシル基等が挙げられる。
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニル基、トリフェニル基、ターフェニル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基等が挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルペンチル基、フェニルヘキシル基、フェニルヘプチル基、フェニルオクチル基、及びこれらの基が後述する置換基で置換された基などが挙げられる。
複素環式芳香族炭化水素基としては、例えば、イミダゾール基、メチルイミダゾール基、エチルイミダゾール基、プロピルイミダゾール基、2-フェニルイミダゾール基、ベンゾイミダゾール基及びこれらの基が置換基で置換された基などが挙げられる。
【0017】
(b)ポリマー基
本発明におけるポリマー基とは、繰り返し構造を含有する官能基である。なお、本発明において、ポリマー基は、上記の(a)炭化水素基を除く。
ポリマー基の式量(分子量)は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは100以上、より好ましくは500以上、より好ましくは1,000以上、更に好ましくは1,500以上である。同様の観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは10,000以下、更に好ましくは7,000以下、更に好ましくは5,000以下、更に好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,500以下、更に好ましくは2,500以下である。
ポリマー基は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは、酸素原子を有する構造によって連結される繰り返し構造を有する官能基、より好ましくは、ポリオキシアルキレン構造、ポリシロキサン構造等の、酸素原子によって連結される繰り返し構造を有する官能基であり、より好ましくは、ポリオキシアルキレン構造を有し、更に好ましくはアルコキシポリオキシアルキレン基である。
ポリオキシアルキレン構造は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは炭素数が2以上8以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、より好ましくは炭素数が2以上4以下のオキシアルキレンから選ばれる1種又は2種以上のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキシド(EO)及びプロピレンオキシド(PO)から選ばれる1種又は2種のオキシアルキレンの(共)重合体構造、更に好ましくはエチレンオキシド及びプロピレンオキシドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造(EO/PO共重合体構造)である。
エチレンオキシド及びプロピレンオキシドがランダム又はブロック状に重合した共重合体構造としては、例えば、下記の式(1)で示される構造が挙げられる。
【0018】
【0019】
式(1)中、R1は水素原子、炭素数1以上6以下の炭化水素基、又は-CH2CH(CH3)NH2基を示す。EO及びPOはランダム又はブロック状に存在し、aはEOの平均付加モル数を示す正の数、bはPOの平均付加モル数を示す正の数である。また、式(1)中のZは、EO/PO共重合体の末端に存在するアミノ基とアニオン変性セルロースに導入されたアニオン性基との結合を示し、共有結合又はイオン結合を示す。
【0020】
R1は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは炭素数1以上6以下の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
aは、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは6以上、更に好ましくは11以上、更に好ましくは15以上、更に好ましくは20以上、更に好ましくは25以上、更に好ましくは30以上である。同様の観点から、aは、好ましくは100以下、より好ましくは70以下、更に好ましくは60以下、更に好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
bは、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは1以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。同様の観点から、bは、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、更に好ましくは25以下、更に好ましくは20以下、更に好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。
前記式におけるa+bはEOとPOの合計の平均付加モル数を示し、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、更に好ましくは8以上であり、同様の観点から、a+bは、好ましくは100以下、より好ましくは70以下である。
【0021】
EO/PO共重合体構造におけるPOの含有率(モル%)は、前記aとbに基づいて計算することが可能であり、具体的にはb×100/(a+b)より求めることができる。POの含有率は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは5モル%以上、更に好ましくは7モル%以上、更に好ましくは10モル%以上、更に好ましくは15モル%以上である。同様の観点から、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは85モル%以下、更に好ましくは75モル%以下、更に好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、更に好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下である。
【0022】
Zは、EO/PO共重合体の末端に存在するアミノ基とアニオン変性セルロースに導入されたアニオン性基との結合を示し、イオン結合又は共有結合を示す。
Zがイオン結合の場合、好ましくは、EO/PO共重合体側の基は-CH2CH(CH3)NH3+基又は-NH3+基であり、セルロース側の基は-COO-基である。
また、Zが共有結合の場合、好ましくはアミド結合である。
【0023】
(c)更なる置換基
なお、修飾基は、更に置換基を有するものであってもよい。置換基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec-ブトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基、ペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基等のアルコキシ基の炭素数が1以上6以下のアルコキシ-カルボニル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アセチル基、プロピオニル基等の炭素数1以上6以下のアシル基;アラルキル基;アラルキルオキシ基;炭素数1以上6以下のアルキルアミノ基;アルキル基の炭素数1以上6以下のジアルキルアミノ基;ヒドロキシ基が挙げられる。
【0024】
(改質セルロース繊維の製造方法)
改質セルロース繊維は、例えば、原料のセルロース繊維にアニオン性基を導入してアニオン変性セルロース繊維を製造し(工程1)、次いで、アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基に修飾基を結合させること(工程2)によって、製造することができる。
【0025】
〔工程1〕
≪原料のセルロース繊維≫
アニオン変性セルロース繊維の原料であるセルロース繊維としては、環境面から天然セルロースが好ましく、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
原料のセルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上であり、同様の観点から、好ましくは500μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維径は後述の実施例に記載の方法で求められる。
また、原料のセルロース繊維の平均繊維長は特に限定されないが、入手性及びコストの観点から、好ましくは5μm以上であり、同様の観点から、好ましくは5,000μm以下である。原料のセルロース繊維の平均繊維長は、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0026】
≪アニオン性基の導入方法≫
セルロース繊維にアニオン性基としてカルボキシ基を導入する方法としては、例えばセルロース繊維のヒドロキシ基を酸化してカルボキシ基に変換する方法や、セルロース繊維のヒドロキシ基に、カルボキシ基を有する化合物、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物及びそれらの誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種を反応させる方法が挙げられる。
セルロース繊維のヒドロキシ基を酸化処理する方法としては、例えば、特開2015-143336号公報又は特開2015-143337号公報に記載の、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシル(TEMPO)を触媒として、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤及び臭化ナトリウム等の臭化物を原料のセルロース繊維と反応させる方法が挙げられる。TEMPOを触媒としてセルロース繊維の酸化を行うことにより、セルロース繊維構成単位のグルコースのC6位の-CH2OH基が選択的にカルボキシ基(-COOH)に変換され、前述の酸化セルロース繊維を得ることができる。
セルロース繊維へアニオン性基として、スルホン酸基を導入する方法としては、セルロース繊維に硫酸を添加し加熱する方法等が挙げられる。
セルロース繊維へアニオン性基として、(亜)リン酸基を導入する方法としては、乾燥状態又は湿潤状態のセルロース繊維に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合する方法や、セルロース繊維の分散液に(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の水溶液を添加する方法等が挙げられる。これらの方法を採用した場合、一般的に、(亜)リン酸又は(亜)リン酸誘導体の粉末や水溶液を混合又は添加した後に、脱水処理及び加熱処理等を行う。
【0027】
〔工程2〕
アニオン変性セルロース繊維のアニオン性基への修飾基の導入は、アニオン性基に修飾基を導入するための化合物(「修飾用化合物」と称する。)とアニオン変性セルロース繊維とを反応させることで達成される。修飾基を導入する方法としては、(1)イオン結合を介して導入する場合は特開2015-143336号公報を参考にすることができ、(2)アミド結合を介して導入する場合は特開2015-143337号公報を参考にすることができる。
工程2の終了後、未反応の化合物等を除去するために、後処理を適宜行ってもよい。後処理の方法としては、例えば、ろ過、遠心分離、透析等を用いることができる。
【0028】
(微細化工程)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階においてセルロース繊維を微細化することにより、マイクロメータースケールのセルロース繊維をナノメータースケールに微細化することができる。微細化工程は、セルロース繊維を効率よく微細化する観点から、上記工程2の前、又は上記工程2の後に行うことが好ましく、上記工程2の後に行うことがより好ましい。また、セルロース繊維の平均繊維径をナノメートルサイズにまで小さくすることによって、樹脂中での分散性が向上するため、好ましい。
微細化処理は公知の微細化処理方法を採用することができる。例えば、平均繊維径がナノメートルサイズの改質セルロース繊維を得る場合は、マスコロイダー等の磨砕機を用いた処理方法や、媒体中で高圧ホモジナイザー等を用いた処理方法を実施すればよい。
媒体としては、例えば水、メタノール、エタノール、プロパノール、1-メトキシ-2-プロパノール(PGME)等の炭素数1~6のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の炭素数3~6のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等の炭素数4~6のエステル;炭素数5又は6の飽和炭化水素又は不飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素;炭素数2~5の低級アルキルエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒等が例示される。これらは、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。媒体の使用量は、改質セルロース繊維を分散できる有効量であればよく、改質セルロース繊維に対して、好ましくは1質量倍以上、好ましくは500質量倍以下である。
【0029】
(短繊維化処理)
改質セルロース繊維の製造方法のいずれかの段階において、セルロース繊維を短繊維化処理してもよい。
短繊維化処理は、対象のセルロース繊維を(i)アルカリ処理、(ii)酸処理、(iii)熱処理、紫外線処理、電子線処理、機械処理及び酵素処理からなる群から選ばれる1種以上の処理方法を施すことにより、行うことができる。
【0030】
(改質セルロース繊維の性質)
本発明における改質セルロース繊維の主な性質は以下の通りである。
〔結晶構造〕
改質セルロース繊維は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、セルロースI型結晶構造を有するものが好ましい。改質セルロース繊維の結晶化度は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上、更に好ましくは20%以上である。また、原料入手性の観点から、好ましくは90%以下、より好ましくは85%以下、更に好ましくは80%以下、更に好ましくは75%以下である。なお、本明細書において、セルロース繊維の結晶化度は、X線回折法による回折強度値から算出したセルロースI型結晶化度であり、後述の実施例に記載の方法に従って測定することができる。なお、セルロースI型とは天然セルロースの結晶形のことであり、セルロースI型結晶化度とは、セルロース繊維全体のうち結晶領域量の占める割合のことを意味する。セルロースI型結晶構造の有無は、X線回折測定において、2θ=22.6°にピークがあることで判定することができる。
【0031】
〔平均繊維径〕
改質セルロース繊維は、ナノメートルサイズになるように微細化処理を受けたものが好ましい。従って、改質セルロース繊維の平均繊維径は、取扱い性、入手性、及びコストの観点から、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、取扱い性、分散性及び樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは15nm以下、更に好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下である。
【0032】
〔平均繊維長〕
改質セルロース繊維の平均繊維長としては、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、一方、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性及び樹脂組成物の成形加工性を高める観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下、更に好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm未満、更に好ましくは140nm以下である。
【0033】
〔平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)〕
改質セルロース繊維の平均アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)としては、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、一方、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性及び樹脂組成物の成形性を高める観点から、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、更に好ましくは100以下、より更に好ましくは60以下である。
改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及び平均アスペクト比は、後述の実施例に記載の方法によって求められる。
【0034】
〔修飾基の結合量及び導入率〕
改質セルロース繊維における修飾基の結合量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは0.01mmol/g以上、より好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.2mmol/g以上であり、同様の観点から、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは1mmol/g以下、更に好ましくは0.5mmol/g以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に改質セルロース繊維に導入されている場合、修飾基の結合量は、前記範囲内であることが好ましい。
改質セルロース繊維における修飾基の導入率は、分散性の観点から、好ましくは10mol%以上、より好ましくは15mol%以上、更に好ましくは20mol%以上であり、改質セルロースの生産性向上の観点から、好ましくは90mol%以下、好ましくは40mol%以下、好ましくは30mol%以下である。修飾基として任意の2種以上の修飾基が同時に導入されている場合には、導入率の合計が上限の100mol%を超えない範囲において、前記範囲内となることが好ましい。
修飾基の結合量及び導入率は、修飾用化合物の種類や添加量、反応温度、反応時間、溶媒の種類等によって調整することができる。修飾基の結合量(mmol/g)及び導入率(mol%)とは、改質セルロース繊維において、アニオン性基に修飾基が導入された(結合した)量及び割合のことである。改質セルロース繊維における修飾基の結合量及び導入率は、例えば、アニオン性基がカルボキシ基の場合には、後述の実施例に記載の方法で算出される。
【0035】
〔グルコース単位〕
改質セルロース繊維中のグルコース単位の含有量は、熱寸法安定性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは30質量%以上であり、そして、比誘電率を低くする観点から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下、更に好ましくは70質量%以下、より更に好ましくは65質量%以下である。
【0036】
本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上、更に好ましくは3質量%以上であり、一方、ハンドリング性の観点から、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0037】
本発明の樹脂組成物における改質セルロース繊維に含まれるグルコース単位の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を低くする観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0038】
<シリカ粒子>
本発明の樹脂組成物は、シリカ粒子を含む。シリカ粒子を含むことにより、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を低くすることができ、また、熱寸法安定性を向上することができる。
シリカ粒子は、中空シリカ粒子及び溶融シリカ粒子のいずれかを用いてもよく、中空シリカ粒子及び溶融シリカ粒子を併用してもよい。シリカ粒子としては、好ましくは、中空シリカ粒子及び溶融シリカ粒子から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは中空シリカ粒子である。
【0039】
本発明において、シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率は、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を低くする観点から、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、更に好ましくは3.0以下、より更に好ましくは2.5以下、より更好ましくは2.3以下であり、そして、シリカ粒子の強度の観点から、好ましくは1.1以上、より好ましくは1.2以上、更に好ましくは1.3以上である。
シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率が4.0以下であることにより、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を十分に低くすることができる。
シリカ粒子が中空シリカ粒子の場合、中空シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率は、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下であり、更に好ましくは2.3以下である。また、中空シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率は、通常、1.1以上である。
シリカ粒子が溶融シリカ粒子の場合、溶融シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率は、好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下である。また、溶融シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける比誘電率は、通常、1.1以上である。
シリカ粒子の比誘電率は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0040】
本発明において、シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接は、樹脂組成物から得られる成形物の誘電正接を低くし、比誘電率を低くする観点から、好ましくは0.0060以下、より好ましくは0.0055以下、更に好ましくは0.0050以下、更に好ましくは0.0048以下、更に好ましくは0.0046以下、更に好ましくは0.0044以下であり、そして、シリカ粒子の強度の観点から、好ましくは0.0001以上、より好ましくは0.0005以上、更に好ましくは0.001以上である。
シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接が0.005以下であることで、樹脂組成物から得られる成形物の誘電正接を十分に低くし、比誘電率を低くすることができる。
シリカ粒子が中空シリカ粒子の場合、中空シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接は、0.0050以下、より好ましくは0.0048以下、更に好ましくは0.0046以下、より更に好ましくは0.0044以下である。また、中空シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接は、通常、0.0001以上である。
シリカ粒子が溶融シリカ粒子の場合、溶融シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接は、0.0060以下、より好ましくは0.0055以下、更に好ましくは0.0050以下であり、また、溶融シリカ粒子の測定周波数5.8GHzにおける誘電正接は、通常、0.0001以上である。
シリカ粒子の誘電正接は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0041】
シリカ粒子の平均粒子径は、樹脂組成物に配合した時の粘度を低くし、加工性を保つ観点から、体積平均粒子径で、好ましくは0.1μm以上、より好ましく0.3μm以上、更に好ましくは0.5μm以上、より更に好ましくは0.9μm以上であり、そして、樹脂組成物から得られる成形物の外観を向上させる観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下、より更に好ましくは2.5μm以下である。
また、シリカ粒子の平均粒子径の変動係数は、より多くのシリカ粒子を樹脂組成物に配合し、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を低減する観点から、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは75%以下、更に好ましくは50%以下である。
シリカ粒子の最大粒子径は、樹脂組成物から得られる成形物の外観を向上させる観点から、体積平均粒子径で、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは1.8μm以上、更に好ましくは2.0μm以上であり、そして、好ましくは8.0μm以下、より好ましくは7.0μm以下、更に好ましくは6.0μm以下である。
シリカ粒子の体積平均粒子径、変動係数、及び最大粒子径は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0042】
シリカ粒子が中空シリカ粒子の場合、中空シリカ粒子の平均粒子径は、0.9μm以上、より好ましく1.0μm以上、更に好ましくは1.2μm以上、より更に好ましくは1.5μm以上であり、そして、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、更に好ましくは3μm以下、より更に好ましくは2.5μm以下である。
また、中空シリカ粒子の平均粒子径の変動係数は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは75%以下、更に好ましくは50%以下である。
また、中空シリカ粒子の最大粒子径は、体積平均粒子径で、好ましくは1.5μm以上、より好ましくは1.8μm以上、更に好ましくは2.0μm以上であり、そして、好ましくは8.0μm以下、より好ましくは7.0μm以下、更に好ましくは6.0μm以下である。
【0043】
シリカ粒子が溶融シリカ粒子の場合、溶融シリカ粒子の平均粒子径は、0.1μm以上、より好ましく0.2μm以上であり、そして、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは1.0μm以下、更に好ましくは0.8μm以下、より更に好ましくは0.5μm以下である。
【0044】
シリカ粒子のBET比表面積は、シリカ粒子の比誘電率及び誘電正接を低くする観点、並びに樹脂に配合する際に表面処理剤の使用量を低減し樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率及び誘電正接を低くする観点から、好ましくは30m2/g以下、より好ましくは25m2/g以下、更に好ましくは20m2/g以下であり、そして、比誘電率を低くする観点から、好ましくは5m2/g以上、7m2/g以上、8.5m2/g以上である。
シリカ粒子のBET比表面積は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0045】
シリカ粒子中のアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量は、絶縁材料に好適に使用できる観点から、50質量ppm以下、好ましくは30質量ppm以下、より好ましくは20質量ppm以下、更に好ましくは15質量ppm以下であり、そして、シリカ粒子の生産性の観点から好ましくは1質量ppb以上、より好ましくは5質量ppb以上である。
シリカ粒子中のアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量は、US EPA METHOD 3051Aに記載の方法で測定することができる。シリカ粒子中のリチウム、ルビジウム、及びセシウムについても、US EPA METHOD 3051Aに記載の方法で測定することができる。
【0046】
本発明の樹脂組成物におけるシリカ粒子の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を低くする観点から、体積比として、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上、更に好ましくは20体積%以上であり、そして、好ましくは40体積%以下、より好ましくは35体積%以下、更に好ましくは30体積%以下である。
【0047】
(中空シリカ粒子)
中空シリカ粒子の空孔率は、中空シリカ粒子の比誘電率を低くする観点から、好ましくは50体積%以上、より好ましくは55体積%以上、更に好ましくは60体積%以上であり、中空シリカ粒子が十分な強度を有する観点から、好ましくは80体積%以下、より好ましくは77体積%以下、更に好ましくは74体積%以下である。
中空シリカ粒子の空孔率は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0048】
(中空シリカ粒子の製造方法)
本発明において、中空シリカ粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、カチオン界面活性剤Aを用いて疎水性液体の水性エマルションを作製する工程A、工程Aで得られた水性エマルションに、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bとを添加し、シラノール前駆体を加水分解して得られるシラノールを縮合反応に供し、中空シリカ粒子前駆体を生成する工程B、及び工程Bで得られた中空シリカ粒子前駆体を1000℃を超え1200℃以下で熱処理する工程Cを有する。
【0049】
本発明において、中空シリカ粒子が平均粒子径が小さく、アルカリ金属とアルカリ土類金属が低含有量であっても比誘電率及び誘電正接が低い理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の中空シリカ粒子の製造において、まず、疎水性液体の水性エマルションに、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bを添加することにより、疎水性液体の液滴の表面をシラノール前駆体で被覆する。その後、シラノール前駆体を加水分解して得られたシラノールを縮合することにより中空シリカ粒子前駆体が得られる。疎水性液体の水性エマルションを作製する際に、疎水性液体の液滴の粒子径を十分に小さくすることができるため、中空シリカ粒子前駆体の粒子径を所望の粒子径とすることができる。また、疎水性液体の水性エマルションを作製する際にカチオン界面活性剤Aを用い、更にシラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bを添加することで、カチオン界面活性剤ミセルと縮合したシラノールが複合体を形成し、中空シリカ粒子前駆体の外殻に取り込まれると考えられる。
中空シリカ粒子前駆体内部に取込まれた疎水性液体は、乾燥時又は焼成の初期段階で外殻に取込まれたカチオン界面活性剤とシリカの隙間を通して揮散するため、乾燥又は焼成時に疎水性液体の揮散によって中空シリカ粒子前駆体外殻に大きなサイズの孔が生成することはない。
中空シリカ粒子前駆体を1000℃を超え1200℃以下で熱処理を行う際に、まず初期段階で中空シリカ粒子前駆体の外殻に取り込まれているカチオン界面活性剤が分解・揮発することで、外殻に均一な数nmサイズの細孔を形成する。細孔サイズが数nmと非常に小さいために、フラックスとなるアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有していなくても、焼成後期の高温状態で容易に該細孔が消滅することで、中空シリカ粒子の外殻は均一で緻密となり、誘電正接が低くなると考えられる。また、中空シリカ粒子前駆体の外殻に大きな孔がなく緻密であるため、熱処理時における収縮を低減することができ、中空シリカ粒子の空孔率が高くなった結果、比誘電率が低くなると考えられる。
【0050】
〔工程A〕
工程Aでは、水を含む液Aに対して、カチオン界面活性剤A及び疎水性液体を混合・撹拌し、疎水性液体液滴が分散された、疎水性液体の水性エマルションを作製する。疎水性液体の水性エマルションの作製は、一般的な方法により行うことができる。
【0051】
液Aの含む水としては、例えば、蒸留水、脱イオン水、超純水等が挙げられる。また、液Aは、疎水性液体の乳化をより均一で安定に生成させるという観点から、水と相溶性のある有機溶媒を含有していてもよい。水と相溶性のある有機溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール類やアセトンが挙げられる。
液A中の水の含有量は、疎水性液体の液A中での溶解度を瞬時に低下させる観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、また、更に好ましくは100質量%である。
【0052】
≪カチオン界面活性剤A≫
カチオン界面活性剤Aは、後述の工程Bにおいて縮合したシラノールとの複合体を形成し易くさせる観点、及び後述の工程Cにおいて分解・揮発させる観点から、好ましくは第四級アンモニウムの塩であり、より好ましくはアルキルトリメチルアンモニウム塩、及びジアルキルジメチルアンモニウム塩から選ばれる少なくとも1種、更に好ましくは式(2)又は式(3)で示される第四級アンモニウムの塩からなる群から選択される少なくとも1種類である。
[R1R3
3N]+X- (2)
[R1R2R3
2N]+X- (3)
【0053】
式(2)及び式(3)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数4~22の直鎖状又は分岐状アルキル基を示し、R3は、炭素数1~3のアルキル基を示し、複数のR3はそれぞれ異なる基であってもよく、X-は一価陰イオンを示す。
炭素数4~22のアルキル基としては、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種ヘプチル基、各種オクチル基、各種ノニル基、各種デシル基、各種ドデシル基、各種テトラデシル基、各種ヘキサデシル基、各種オクタデシル基、各種エイコシル基等が挙げられる。
炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基が挙げられる。式(2)及び式(3)中、R3は、メチル基であることが好ましい。
【0054】
式(2)及び式(3)におけるX-は、焼成時に容易に分解・揮散する観点から、好ましくはハロゲンイオン、水酸化物イオン、硝酸化物イオン等の一価陰イオンから選ばれる少なくとも1種である。X-としては、より好ましくはハロゲン化物イオンであり、更に好ましくは塩化物イオンである。
【0055】
式(2)で表されるアルキルトリメチルアンモニウム塩としては、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド(ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド)、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ラウリルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ステアリルトリメチルアンモニウムブロミド、ベヘニルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0056】
式(3)で表されるジアルキルジメチルアンモニウム塩としては、ジブチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、ジヘキシルジメチルアンモニウムブロミド、ジオクチルジメチルアンモニウムブロミド、ジラウリルジメチルアンモニウムブロミド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0057】
第四級アンモニウムの塩は、工程Bにおいて縮合したシラノールとの複合体を形成し易くする観点、及び工程Cにおいて分解・揮発させ易くする観点から、好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、及びベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドであり、より好ましくはステアリルトリメチルアンモニウムクロリド及びベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドである。
【0058】
≪疎水性液体≫
疎水性液体は、好ましくは、水中で乳化滴(乳化油滴)を形成できるものである。また、分散媒として水を含む液Aを使用する点、及び、疎水性液体の利用効率の向上の点から、液体状態にある温度域が0~100℃であることが好ましく、20~90℃であることがより好ましい。
疎水性液体としては、具体的には、特開2016-121060号公報の段落〔0015〕~〔0023〕に記載のものが挙げられる。これらの中でも、炭素数6~18の炭化水素が好ましく、炭素数8~14の炭化水素がより好ましく、ドデカンがより好ましい。
【0059】
工程Aにおいて、水に対する疎水性液体の質量比[疎水性液体/水]は、得られる疎水性液体の液滴の粒子径を適度な範囲とする観点から、好ましくは0.3以上、より好ましくは0.35以上、更に好ましくは0.4以上であり、そして、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.7以下、更に好ましくは0.6以下、より更に好ましくは0.5以下である。
【0060】
工程Aにおいて、疎水性液体に対するカチオン界面活性剤Aの質量比[カチオン界面活性剤A/疎水性液体]は、疎水性液体を液Aに分散させる観点から、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.010以上、更に好ましくは0.020以上であり、そして、好ましくは0.050以下、より好ましくは0.040以下、更に好ましくは0.035以下である。
【0061】
工程Aにおいて、撹拌速度、温度等を適宜調整することにより、得られる疎水性液体を含む液滴の粒子径を適度な範囲とすることができる。工程Aは、15℃~80℃の温度で行われることが好ましい。
疎水性液体を含む液滴の体積平均粒子径は、中空シリカ粒子の平均粒子径を上記範囲とする観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.3μm以上、更に好ましくは0.4μm以上であり、そして、好ましくは2.5μm以下、より好ましくは2.0μm以下、更に好ましくは1.5μm以下である。
【0062】
〔工程B〕
工程Bでは、工程Aで得られた水性エマルションに、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bを添加し、疎水性液体の液滴の表面に存在させたシラノール前駆体をアルカリ性物質の存在下で加水分解してシラノールを得る。得られたシラノールが、アルカリ性物質の存在により縮合することで、疎水性液体の液滴の表面にシリカ及びカチオン界面活性剤Bを含む外殻部を有し、内部に疎水性液体を含む中空シリカ粒子前駆体を形成する。
水性エマルションへの、シラノール前駆体と、カチオン界面活性剤Bの添加は、水性エマルションに、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bを同時に又は別々に添加してもよく、シラノール前駆体とカチオン界面活性剤Bのいずれか一方に水性エマルションを添加した後に、残りの一方を添加してもよい。
【0063】
工程Bは、中空シリカ粒子前駆体の形成後、工程Cの前に、中空シリカ粒子前駆体を単離する工程、及び中空シリカ粒子前駆体を乾燥する工程を含んでいてもよい。中空シリカ粒子の単離は、例えば、濾過により行うことができる。また、中空シリカ粒子前駆体の乾燥は、中空シリカ粒子前駆体が含む疎水性液体の沸点が100℃より高ければ、例えば、100℃以上疎水性液体の沸点以下の温度に加熱することで行うことができる。中空シリカ粒子前駆体が含む疎水性液体の沸点が100℃以下である場合は、例えば、凍結乾燥等により中空シリカ粒子前駆体を乾燥することができる。
【0064】
≪シラノール前駆体≫
シラノール前駆体は、アルコキシシラン等の加水分解によりシラノール化合物を生成する化合物であり、好ましくはオルトケイ酸アルキルエステル及びピロケイ酸アルキルエステルから選ばれる。具体的には、下記式(4)~(8)で示される化合物、又はこれらの組合せを挙げることができる。
SiY4 (4)
R4SiY3 (5)
R4
2SiY2 (6)
R4
3SiY (7)
Y3Si-O-SiY3 (8)
【0065】
式(4)~(8)中、R4はそれぞれ独立して、ケイ素原子に直接炭素原子が結合している有機基を示し、Yは加水分解によりヒドロキシ基になる一価の加水分解性基を示す。
【0066】
式(4)~(8)において、それぞれ独立して、R4は炭化水素基であり、好ましくは炭素数1~22のアルキル基、フェニル基又はベンジル基、より好ましくは炭素数4~18のアルキル基、更に好ましくは炭素数8~16のアルキル基である。また、R4の炭化水素基は、水素原子の一部がフッ素原子に置換していてもよい。
式(4)~(8)において、Yは、好ましくは炭素数1~8のアルコキシ基又はフッ素を除くハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数2~4のアルコキシ基である。Yが炭素数1のアルコキシ基及びフッ素を除くハロゲン原子である場合、加水分解の反応速度が速すぎるため、中空シリカ粒子前駆体の外殻が緻密になりづらく、焼成時の収縮が大きくなるため、中空シリカ粒子の比誘電率、誘電正接が高くなる傾向がある。逆に炭素数5以上のアルコキシ基は加水分解速度が遅くなる。
【0067】
シラノール前駆体は、好ましくは式(4)及び式(8)で示される化合物から選ばれる。金属腐食性の酸の生成を抑制する観点、及び加水分解の反応性の観点から、シラノール前駆体は、好ましくはYが炭素数2~4のアルコキシ基である式(4)及び式(8)で示される化合物から選ばれ、より好ましくはYがエトキシ基である式(4)及び式(8)で示される化合物から選ばれる。シラノール前駆体は単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0068】
疎水性液体に対するシラノール前駆体の質量比[シラノール前駆体/疎水性液体]は、中空シリカ粒子の空孔率を適度な範囲とする観点から、好ましくは10以上、より好ましくは20以上、更に好ましくは25以上であり、そして、好ましくは90以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは75以下である。
【0069】
≪カチオン界面活性剤B≫
カチオン界面活性剤Bとしては、工程Aに示したカチオン界面活性剤Aと同様のカチオン界面活性剤Bを用いることができる。カチオン界面活性剤Bとしては、縮合したシラノールとの複合体を形成し易くする観点、及び工程Cにおいて分解・揮発させ易くする観点から、好ましくは第四級アンモニウムの塩であり、より好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリド(ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド)、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、及びベヘニルトリメチルアンモニウムクロリドであり、更に好ましくはラウリルトリメチルアンモニウムクロリドである。
本工程で用いるカチオン界面活性剤Bは、工程Aで用いたカチオン界面活性剤Aと同じでも異なっていてもよい。また、カチオン界面活性剤Bは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0070】
カチオン界面活性剤Bに対するシラノール前駆体の質量比[シラノール前駆体/カチオン界面活性剤B]は、中空シリカ粒子前駆体の分散性の観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上であり、そして、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
【0071】
≪アルカリ性物質≫
シラノール前駆体はアルカリ性物質によりシラノールへと加水分解され、更に脱水縮合されシリカとなる。
アルカリ性物質としては、具体的には、特開2016-121060号公報の段落〔0014〕に記載のものが挙げられる。これらの中でも、第四級アンモニウムの水酸化物塩が好ましい。第四級アンモニウムの水酸化物塩の具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)、テトラエタノールアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられ、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエタノールアンモニウムヒドロキシド、ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドであり、より好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド及びジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシドである。
【0072】
アルカリ性物質に対するシラノール前駆体の質量比[シラノール前駆体/アルカリ性物質]は、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは20以上であり、そして、シラノール前駆体の縮合反応を効率よく行う観点から、好ましくは100以下、より好ましくは80以下、更に好ましくは70以下である。
【0073】
アルカリ性物質は、上記第四級アンモニウムの水酸化物塩の他に、例えばアルカリ金属の塩、アルカリ土類金属の塩等を含んでいてもよいが、得られる中空シリカ粒子中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量を低減させるために、シラノール前駆体に対するアルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量が、シリカ(SiO2)換算で、好ましくは50質量ppm以下、より好ましくは30質量ppm以下、更に好ましくは10質量ppm以下である。
【0074】
アルカリ性物質は、カチオン界面活性剤Bと混合してシラノール前駆体に接触させることで、最大粒子径が小さく、適度な変動係数を有する中空シリカ粒子を得ることができる。アルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bとの混合物と、シラノール前駆体との接触は、シラノール前駆体を含む反応系にアルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bとの混合物を添加してもよく、アルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bとの混合物を含む反応系にシラノール前駆体を添加してもよいが、空孔率を高くするとともに、合成濃度を高くして生産性を上げる観点から、シラノール前駆体を含む反応系にアルカリ性物質とカチオン界面活性剤Bとの混合物を添加することが好ましい。
【0075】
工程Bを行う温度は、用いるシラノール前駆体及びアルカリ性物質の種類や量により適宜調整でき、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくは0℃以上100℃以下である。例えば、シラノール前駆体として、オルトケイ酸エチルエステルやピロケイ酸エチルエステルを用いる場合は、20℃以上45℃以下であることが好ましく、オルトケイ酸メチルエステルやピロケイ酸メチルエステルを用いる場合は、0℃以上20℃以下であることが好ましい。
【0076】
工程Bを行う時間は、中空シリカ粒子前駆体の外殻を緻密にする観点から、好ましくは30分間以上、より好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上であり、製造効率の観点から、好ましくは24時間以下、より好ましくは20時間以下、更に好ましくは16時間以下である。
【0077】
≪中空シリカ粒子前駆体≫
中空シリカ粒子前駆体は、シリカを含む外殻を備え、かつ外殻の内部に疎水性液体を含む複合シリカ粒子である。外殻には、カチオン界面活性剤を鋳型とした細孔が粒子中心方向に向かって放射方向に形成されている。
【0078】
〔工程C〕
工程Cでは、工程Bで得られた中空シリカ粒子前駆体を1000℃を超え1200℃以下で熱処理することで、中空シリカ粒子前駆体の外殻に存在するカチオン界面活性剤を分解・揮発させ、内部の疎水性液体を揮発させた後に、外殻に存在する細孔を焼成により塞ぎ、均一な外殻を有する中空シリカ粒子を得る。
【0079】
工程Cの熱処理温度は、中空シリカ粒子表面のシラノール基を低減する観点から、好ましくは1010℃以上、より好ましくは1030℃以上、更に好ましくは1050℃以上であり、中空シリカ粒子の凝集を避ける観点から、1200℃以下、好ましくは1190℃以下、より好ましくは1180℃以下、更に好ましくは1160℃以下である。
【0080】
工程Cの熱処理時間は、中空シリカ粒子表面のシラノール基を低減する観点から、好ましくは15分間以上、より好ましくは30分間以上、更に好ましくは45分間以上であり、中空シリカ粒子の凝集を避ける観点から、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下、更に好ましくは1.5時間以下である。
【0081】
(溶融シリカ粒子)
本発明において溶融シリカ粒子とはシリカ原料を高温で溶融させて得られた、無孔質状のシリカ粒子をいう。溶融シリカ粒子は、各種溶融シリカ粒子が使用できるが、中でも、球状溶融シリカ粒子が好ましい。市販品の溶融シリカ粒子としては、アドマテックス社製、商品名:SC-2050、SO-E2等が挙げられる。
【0082】
溶融シリカ粒子は、シランカップリング剤で表面処理されたものが好ましい。シランカップリング剤としては、アミノシラン系カップリング剤、エポキシシラン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、シラン系カップリング剤、オルガノシラザン化合物、チタネート系カップリング剤等が挙げられる。これらは1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
アミノシラン系カップリング剤としては、例えば、アミノプロピルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0083】
シランカップリング剤による溶融シリカ粒子の表面処理は、乾式法であっても、湿式法であってもよい。
乾式法による表面処理は、例えば、溶融シリカ粒子を混合機で常温にて撹拌分散させながら、シランカップリング剤を添加噴霧して5分以上15分以下撹拌することによって行なうことができる。なお、かかる撹拌の後、必要に応じて60℃以上80℃以下で加熱を行ってもよい。混合機としては、公知の混合機を使用することができ、例えば、Vブレンダー、リボンブレンダー、バブルコーンブレンダー等のブレンダー、ヘンシェルミキサー及びコンクリートミキサー等のミキサー、ボールミル、カッターミル等が挙げられる。
湿式法による表面処理は、例えば、溶媒に溶融シリカ粒子を加えたスラリーを撹拌しながら該スラリーにカップリング剤を更に添加し、撹拌後、濾過、洗浄、乾燥することによって行うことができる。
【0084】
シランカップリング剤の処理量は、例えば、溶融シリカ粒子100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上であり、そして、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0085】
<樹脂>
本発明において、樹脂組成物が含有する樹脂としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂のいずれも好適に用いることができる。硬化性樹脂としては、熱硬化性樹脂又は光硬化性樹脂のいずれも使用することができる。
具体的な樹脂の例としては、樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率を低くする観点から、ポリパラフェニレン樹脂、液晶ポリマー樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、シクロオレフィン樹脂、フッ素系樹脂等の比誘電率、誘電正接が低い樹脂やこれらの樹脂の誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、本発明における樹脂としては、好ましくは硬化性樹脂、より好ましくは熱硬化性樹脂、更に好ましくはフェノール樹脂硬化剤、酸無水物系、シアネートエステル系、エステル系の硬化剤及びイミダゾール系の硬化剤から選ばれる硬化剤を使用したエポキシ樹脂、より更に好ましくはイミダゾール系、シアネートエステル系、エステル系の硬化剤を使用したエポキシ樹脂である。
【0086】
本発明の樹脂組成物において、樹脂100質量部に対する改質セルロース繊維の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは5質量部以上であり、そして、樹脂組成物のハンドリング性向上を維持する観点から、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。
本発明の樹脂組成物における樹脂100質量部に対する改質セルロース繊維に含まれるグルコース単位の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上であり、一方、樹脂組成物のハンドリング性向上を維持する観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは7質量部以下である。
【0087】
本発明の樹脂組成物において、シリカ粒子100質量部に対する改質セルロース繊維の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは4質量部以上であり、そして、樹脂組成物のハンドリング性向上を維持する観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下、更に好ましくは30質量部以下である。
本発明の樹脂組成物において、シリカ粒子100質量部に対する改質セルロース繊維に含まれるグルコース単位の含有量は、樹脂組成物から得られる成形物の熱寸法安定性を高める観点から、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、そして、樹脂組成物のハンドリング性向上を維持する観点から、好ましくは40質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下である。
【0088】
<樹脂組成物から得られる成形物の物性>
本発明の樹脂組成物から得られる成形物は、高周波回路基板の絶縁材料として好適に使用できる観点から、測定周波数5.8GHzにおける比誘電率は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上であり、そして、好ましくは4.5以下、より好ましくは4.0以下、更に好ましくは3.5以下である。
樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0089】
本発明の樹脂組成物から得られる成形物は、熱寸法安定性を向上させる観点から、線熱膨張係数が好ましくは38ppm/℃以下であり、より好ましくは37ppm/℃以下であり、より好ましくは36ppm/℃以下である。
樹脂組成物から得られる成形物の線熱膨張係数は、実施例に記載の方法で求めることができる。
【0090】
[絶縁材料]
本発明の絶縁材料は、上記の樹脂組成物を用いてなり、上記の樹脂組成物から得られる形成物を含むことが好ましい。本発明の絶縁材料が上記の樹脂組成物を用いてなることで、伝送損失や伝送遅延を低減できる絶縁材料とすることができる。例えば、ビルドアップ絶縁フィルム、銅張積層板の絶縁層、プリプレグ、封止材、コネクターの絶縁部材、電線の被覆材等に用いることができる。
【0091】
[封止材]
本発明の封止材は、上記の樹脂組成物を用いてなり、上記の樹脂組成物から得られる形成物を含むことが好ましい。本発明の封止材が上記の樹脂組成物を用いてなることで、伝送損失や伝送遅延を低減できる封止材とすることができ、例えば、高速通信技術や自動運転等に用いられるレーダー等の高周波の電波に対応する高周波回路の電子部品の封止材として好適に用いることができる。
【0092】
[電子材料]
本発明の電子材料は、上記の樹脂組成物を用いてなり、上記の樹脂組成物から得られる形成物を含むことが好ましい。本発明の電子材料が上記の樹脂組成物を用いてなることで、伝送損失や伝送遅延を低減できる電子材料とすることができ、例えば、高速通信技術や自動運転等に用いられるレーダー等の高周波の電波に対応する高周波回路の電子材料として、好適に用いることができる。
【実施例0093】
以下、実施例等を示して本発明を具体的に説明する。なお、下記の実施例は、単なる本発明の例示であり、何ら限定を意味するものではない。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温」とは25℃を示す。
【0094】
[測定方法]
(シリカ粒子の平均粒子径の測定)
シリカ粒子の平均粒子径は、コールターカウンター法により、Multisizer 3(ベックマン・コールター社製、20μmアパチャーチューブを使用)を用いて測定した。
体積基準で平均粒子径及び粒子径の標準偏差を求め、変動係数は以下の式にて計算した。
(変動係数)(%)=(粒子径の標準偏差)/(平均粒子径)×100
また、最大粒子径は累積頻度分布99%となる粒子径とした。
【0095】
(シリカ粒子中のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量の測定)
100mgのシリカ粒子を白金るつぼに投入し、そこへ3mLの濃硝酸及び1mLの濃フッ化水素酸及び1mLの濃塩酸を添加し、加温して蒸発乾固した後、るつぼ内の残渣を塩酸にて希釈し、誘導結合プラズマ質量分析装置(アジレント・テクノロジー社製、商品名:Agilent 8900)にて測定した。
【0096】
(シリカ粒子の比誘電率及び誘電正接の測定)
シリカ粒子の比誘電率及び誘電正接は、ネットワーク・アナライザー(アジレント・テクノロジー社製、N5221A)に、関東電子応用開発社製の摂動法空洞共振器(CP-580)を接続した装置を使用し、空洞共振器摂動法(CP-MA 誘電率測定ソフトウェア、関東電子応用開発社製)にて、温度25℃、周波数5.8GHzで測定を行った。
テフロン(登録商標)チューブ(中興化成工業社製:PTFEチューブ、内径1.5mm、外径2.5mm)内部に、シリカ粒子が全て測定範囲内(底部から6.75mm~36.35mm)に入るように充填し、測定用サンプルを作製した。シリカ粒子の充填前後の質量測定よりシリカ粒子の充填質量を計算し、シリカ粒子の充填質量と比重よりテフロンチューブに充填したシリカ粒子の体積を求めた。
比誘電率及び誘電正接は、シリカ粒子が充填されていない空のテフロンチューブの測定値をブランクとして、シリカ粒子を充填したテフロンチューブの測定値との差から求めた。
【0097】
(シリカ粒子のBET比表面積の測定)
比表面積測定装置(島津製作所社製、フローソーブIII2305)を使用し、シリカ粒子のBET比表面積を測定した。試料は、200℃で15分加熱する前処理を行った。
【0098】
(中空シリカ粒子の空孔率の測定)
密度測定装置(Quantachrome社製:ULTRAPYCNMETER1200e)を用いて、窒素を測定ガスとして測定した密度により、下記式により算出した。シリカ粒子の真密度は2.2g/cm3とした。
空孔率(%)=[1-(中空シリカ粒子の真密度/シリカ粒子の真密度)]×100
【0099】
(樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率の測定)
樹脂組成物から得られる成形物の比誘電率は、幅2.5mm長さ4mm、厚み0.1mmの評価用サンプルを用いて、上記「シリカ粒子の比誘電率及び誘電正接の測定」と同様に空洞共振器摂動法にて周波数5.8GHzで測定を行った。
【0100】
(樹脂組成物から得られる成形物の線熱膨張係数の測定)
熱応力歪測定装置(日立ハイテクサイエンス社製、TMA7100)を用いて、幅5mm、長さ40mm、厚さ0.1mmの評価用サンプルを窒素雰囲気下1分間に5℃の割合で温度を上昇させて引張モードで荷重を49.8mNで計測した。
線熱膨張係数は50℃から100℃までの温度範囲での平均線熱膨張係数を算出して得た。
【0101】
(アニオン変性セルロース繊維、短繊維化アニオン変性セルロース繊維及び改質セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長及びアスペクト比(平均繊維長/平均繊維径))
測定対象のセルロース繊維のサイズによって、下記(1)及び(2)の測定方法のうちのいずれかを選択して測定した。
(1)改質セルロース繊維の測定
測定対象のセルロース繊維に脱イオン水又はN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を加えて、その含有率が0.0001質量%の分散液を作製した。該分散液をマイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM)(Digital instrument社製、Nanoscope II Tappingmode AFM;プローブはナノセンサーズ社製、Point Probe(NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロース繊維の繊維高さ(繊維のあるところとないところの高さの差)を測定した。その際、該セルロース繊維が確認できる顕微鏡画像において、セルロース繊維を100本抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出した。繊維方向の距離より、平均繊維長を算出した。また、算出した平均繊維径及び平均繊維長から、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を算出した。
(2)アニオン変性セルロース繊維、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の測定
測定対象のセルロース繊維に脱イオン水を加えて、その含有率が0.01質量%の分散液を作製した。該分散液を湿式分散タイプ画像解析粒度分布計(ジャスコインターナショナル社製、商品名:IF-3200)を用いて、フロントレンズ:2倍、テレセントリックズームレンズ:1倍、画像分解能:0.835μm/ピクセル、シリンジ内径:6515μm、スペーサー厚み:500μm、画像認識モード:ゴースト、閾値:8、分析サンプル量:1mL、サンプリング:15%の条件で測定した。そして、セルロース繊維を長方形と近似した際の短軸の長さを繊維径、長軸の長さを繊維長として、それぞれの値をセルロース繊維100本について測定し、平均値を算出した。また、算出した平均繊維径及び平均繊維長から、アスペクト比(平均繊維長/平均繊維径)を算出した。
【0102】
(アニオン変性セルロース繊維、短繊維化アニオン変性セルロース繊維及び改質セルロース繊維のアニオン性基(カルボキシ基)含有量)
乾燥質量0.5gの測定対象のセルロース繊維をビーカーにとり、脱イオン水又はメタノール/脱イオン水=2/1(体積比)の混合溶媒を加えて全体で55mLとし、ここに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mLを加えて分散液を調製した。測定対象のセルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を撹拌した。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5~3に調整し、自動滴定装置(東亜ディーケーケー社製、AUT-701)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を、待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定した。pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得た。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、測定対象のセルロース繊維のアニオン性基含有量を算出した。
アニオン性基含有量(mmol/g)=[水酸化ナトリウム水溶液滴定量(mL)×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)]/[測定対象のセルロース繊維の質量(0.5g)]
【0103】
(改質セルロース繊維の修飾基の結合量及び導入率)
修飾基の結合量を次のIR測定方法により求め、下記式によりその結合量及び導入率を算出した。IR測定は、具体的には、乾燥させた改質セルロース繊維の赤外吸収スペクトルを赤外吸収分光装置(IR)(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、Nicolet 6700)を用いATR法にて測定し、式A及びBにより、修飾基の結合量及び導入率を算出した。以下はアニオン性基がカルボキシ基の場合、即ち、酸化セルロース繊維(アニオン変性セルロース繊維)の場合を示す。以下の「1720cm-1のピーク強度」は、カルボニル基に由来するピーク強度である。なお、カルボキシ基以外のアニオン性基の場合は波数の値を適宜変更し、修飾基の結合量及び導入率を算出すればよい。
<式A>
修飾基の結合量(mmol/g)=a×(b-c)÷b
a:酸化セルロース繊維(アニオン変性セルロース繊維)のカルボキシ基含有量(mmol/g)
b:酸化セルロース繊維(アニオン変性セルロース繊維)の1720cm-1のピーク強度
c:改質セルロース繊維の1720cm-1のピーク強度
<式B>
修飾基の導入率(mol%)=100×f/g
f:修飾基の結合量(mmol/g)
g:酸化セルロース繊維(アニオン変性セルロース繊維)のカルボキシ基含有量(mmol/g)
【0104】
(樹脂組成物中の各成分の含有量)
樹脂組成物中の各成分の含有量は、樹脂組成物を作製時の各成分の配合量から算出した。また、樹脂組成物中の改質セルロース繊維の含有量は、配合したアニオン変性セルロース繊維とアミンの全てがイオン結合したものと仮定して算出した。また、樹脂100質量部に対する改質セルロース繊維中のグルコース単位の含有量は、樹脂組成物を作製時の短繊維化アニオン変性セルロース繊維の配合量、及び樹脂の配合量から算出した。また、樹脂100質量部に対する改質セルロース繊維の含有量は、樹脂組成物を作製時の短繊維化アニオン変性セルロース繊維の配合量、改質セルロース繊維の修飾基の導入率、及び樹脂の配合量から算出した。
【0105】
(アニオン変性セルロース繊維及び短繊維化アニオン変性セルロース繊維の結晶化度の確認)
アニオン変性セルロース繊維及び短繊維化アニオン変性セルロース繊維の結晶化度は、X線回折計(リガク社製、MiniFlexII)を用いて以下の条件で測定することにより確認した。
測定ペレット作製条件:錠剤成形機で10~20MPaの範囲で、対象のセルロース繊維に圧力を印加することで、面積320mm2×厚さ1mmの平滑なペレットを作製した。
X線回折分析条件:ステップ角0.01°、スキャンスピード10°/min、測定範囲:回折角2θ=5~40°
X線源:Cu/Kα-radiation、管電圧:15kV、管電流:30mA
ピーク分割条件:バックグラウンドノイズを除去した後、2θ=13-23°の間の誤差が5%以内に収まるようにガウス関数でフィッティングした。
アニオン変性セルロース繊維及び短繊維化アニオン変性セルロース繊維のセルロースI型結晶構造の結晶化度は、前述のピーク分割により得られたX線回折ピークの面積を用いて以下の式(A)に基づいて算出した。
セルロースI型結晶化度(%)=[Icr/(Icr+Iam)]×100 (A)
〔式中、Icrは、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22-23°)の回折ピークの面積、Iamはアモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折ピークの面積を示す。〕
【0106】
<中空シリカ粒子の作製>
脱イオン水342.2g、ドデカン(キシダ化学社製:1級n-ドデカン)150g、コータミン2285E(花王社製:ベヘニルトリメチルアンモニウムクロリド含有量58質量%)7.8gを混合撹拌しエマルションAを得た。得られたエマルションA中の液滴粒子の体積平均粒子径は0.5μmであった。
反応槽に脱イオン水13146.5g、エマルションAを36.8g、コータミン24P(花王社製:ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド含有量27.5質量%)25.1g、オルトケイ酸エチルエステル(旭化成ワッカーシリコーン社製:TEOS999)624.2gを入れ撹拌しながら40℃に加温した後、10分間撹拌し調製液Bを得た。次にAH212-CS(四日市合成社製:ジメチルビス(2-ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド含有量50質量)44.3gとコータミン24P 142.3gとを均一に混合し調製液Cを得た。調製液Bに調製液Cを定速で添加し、その後、40℃で3時間撹拌し、白濁液Dを得た。次いで、得られた白濁液Dを、5Cのろ紙(アドバンテック東洋社製)を用いて濾別し、水洗した後、110℃で乾燥することにより白色の中空シリカ粒子前駆体を得た。
得られた中空シリカ粒子前駆体を1100℃で1時間焼成することで、中空シリカ粒子を得た。得られた中空シリカ粒子の物性を表1に示す。
【0107】
【0108】
<アニオン変性セルロース繊維>
実施例及び比較例に用いたアニオン変性セルロース繊維の物性を表2に示す。かかるアニオン変性セルロース繊維は、下記のTEMPO酸化処理よって作製できる。
【0109】
【0110】
(アニオン変性セルロース繊維の作製(TEMPO酸化処理))
メカニカルスターラー及び撹拌翼を備えた2LのPP製ビーカーに、原料の天然セルロース繊維としての針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維10g、脱イオン水990gを投入し、25℃、100rpmで30分撹拌する。次いで、該パルプ繊維10gに対し、TEMPO0.13g、臭化ナトリウム1.3g、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液35.5gをこの順で添加する。次いで、自動滴定装置を用いてpHスタット滴定を行い、0.5M水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保持する。撹拌速度100rpmにて反応25℃で120分行う。次いで、撹拌しながら、更に0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2とする。次いで、吸引濾過で固形分を濾別する。その後、濾別固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μs/cm以下になるまで繰り返す。得られた固形分に対して脱水処理を行って、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の原料となるアニオン変性セルロース繊維を得る。
【0111】
<短繊維化アニオン変性セルロース繊維>
実施例及び比較例に用いた短繊維化アニオン変性セルロース繊維の物性を表3に示す。かかる短繊維化アニオン変性セルロース繊維は、上記のアニオン変性セルロース繊維を用いて、下記のアルカリ加水分解処理によって作製できる。
【0112】
【0113】
(短繊維化アニオン変性セルロース繊維の作製(アルカリ加水分解処理))
上記のアニオン変性セルロース繊維144.5gを1000gの脱イオン水に分散させ、これに35%過酸化水素水を1.4g(原料のアニオン変性セルロース繊維の固形分量100質量部に対して過酸化水素1質量部)加え、1M水酸化ナトリウム水溶液でpH12に調整する。次いで、2時間、80℃でアルカリ加水分解処理を行う(アニオン変性セルロース繊維の懸濁液の固形分含有率4.3質量%)。懸濁液を室温まで冷却後、0.01Mの塩酸を加えて、懸濁液のpHを2にする。吸引濾過で、懸濁液の固形分を濾別する。次いで、固形分を脱イオン水中に分散させ、吸引濾過で固形分を濾別する操作を、ろ液の伝導度が200μS/cm以下になるまで繰り返す。懸濁液中の固形分濃度が5質量%になるように該懸濁液に脱イオン水を添加し、95℃で12時間撹拌し、その後、室温まで冷却することにより、短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液を得た。得られた短繊維化アニオン変性セルロース繊維の水懸濁液から遠心分離し、改質セルロース繊維の原料となる、短繊維化アニオン変性セルロース繊維を得る。
【0114】
<改質セルロース繊維樹脂混合物の作製>
1-メトキシ-2-プロパノール(PGME、ダイセル社製)に上記の短繊維化アニオン変性セルロース繊維を添加し、固形分濃度が2.0質量%の分散液を得た。得られた分散液に、EO/POアミン(メトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)-2-プロピルアミン、HUNTSMAN社製、「ジェファーミンM2070」、Mw=2000、EO:PO=31:10)を、短繊維化アニオン変性セルロース繊維100質量部に対して67.6質量部添加し、25℃で1時間撹拌し、改質セルロース繊維の分散液を得た。
得られた分散液の一部を採取し、庫内の温度を50℃、圧力を減圧にした減圧乾燥器中に一晩静置し、改質セルロース繊維を得た。得られた改質セルロース繊維の物性について、表4に示す。
残りの改質セルロース繊維の分散液に、更にエポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、「jER828」、エポキシ当量=184~194、重量平均分子量=370)を、改質セルロース繊維中のグルコース単位5.0質量部に対して、エポキシ樹脂が100質量部となるように添加し、25℃で1時間撹拌後、高圧ホモジナイザー(吉田機械興業社製、ナノヴェイタL-ES)を用いて、150MPaで5回、分散処理を行った。その後、エバポレーターで、改質セルロース繊維分散液からPGMEを留去し、固形分濃度23%の改質セルロース繊維樹脂混合物を作製した。
【0115】
【0116】
<実施例1>
上記の改質セルロース繊維樹脂混合物に、上記の中空シリカ粒子を、混合物中の改質セルロース8.4質量部に対して31質量部を加え、自転公転式撹拌機(シンキー社製、あわとり練太郎)を用いて5分撹拌、2分脱泡した。得られた混合物に硬化剤(2-エチル-4-メチルイミダゾール、富士フイルム和光純薬社製)を、得られた混合物中のエポキシ樹脂100質量部に対して5.0質量部を加え、更に自転公転式撹拌機を用いて5分撹拌、2分脱泡して、実施例1の樹脂組成物を得た。
得られた樹脂組成物をバーコーターを用いて硬化後膜厚が0.1mmになるよう銅箔(古河電気工業社製、18μm厚)に塗工した。80℃で1時間乾燥し、溶媒を除去した後、150℃1時間で硬化させた。徐冷後、銅箔を剥離することで、改質セルロース繊維複合体塗膜を製造した。
得られた改質セルロース繊維複合体塗膜を用いて評価用サンプルを作製し、樹脂組成物から得られる形成物について、上記の通り評価を行った。評価結果を表5に示す。
【0117】
<実施例2、比較例1~4>
樹脂組成物の組成を表5に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして各樹脂組成物を得た。また、実施例1と同様にして、樹脂組成物から得られる形成物の評価用サンプルを作製し、上記の通り評価を行った。評価結果を表5に示す。
なお、表5に示す、実施例2及び比較例2で用いた「溶融シリカ粒子」は、アドマテックス社製の「SО-C2」である。溶融シリカ粒子の物性を表6に示す。
【0118】
【0119】
【0120】
表5より、改質セルロース繊維、シリカ粒子及び樹脂を含む、実施例1及び2の樹脂組成物は、比較例1~4と比較して、得られる成形物の、低比誘電率を維持しつつ、線熱膨張係数が低くなっていることが確認できる。
従って、本発明の樹脂組成物は、低比誘電率を維持しつつ、優れた熱寸法安定性を有する成形物が得られる。
本発明の樹脂組成物は、低比誘電率を維持しつつ、優れた熱寸法安定性を有する成形物を得ることが可能である。このため、高速通信技術や自動運転等に用いられるレーダー等の高周波の電波に対応する高周波回路の絶縁材料、封止材及び電子材料等に好適に用いることができる。