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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172451
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】絶縁通信回路及びフィールド機器
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H04L25/02 303B
H04L25/02 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090179
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】100195534
【弁理士】
【氏名又は名称】内海 一成
(72)【発明者】
【氏名】角田 宗幸
(72)【発明者】
【氏名】小林 陽介
(72)【発明者】
【氏名】高田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】林 伸樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 敏博
【テーマコード(参考)】
5K029
【Fターム(参考)】
5K029AA02
5K029AA13
5K029GG07
5K029JJ03
(57)【要約】
【課題】消費電流の増大を抑えつつ耐ノイズ性能を向上できる絶縁通信回路及びフィールド機器を提供する。
【解決手段】絶縁通信回路140は、入力信号を一次側から二次側に絶縁伝送する絶縁トランス4と、入力信号を受け付ける入力端子を有し、絶縁トランス4の一次側の第1端子に接続されている第1の論理回路2aと、固定レベル信号を受け付ける入力端子を有し、絶縁トランス4の一次側の第2端子に接続されている第2の論理回路2bとを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を一次側から二次側に絶縁伝送する絶縁トランスと、
前記入力信号を受け付ける入力端子と、前記入力信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第1端子に接続されている第1の論理回路と、
固定レベル信号を受け付ける入力端子と、前記固定レベル信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第2端子に接続されている第2の論理回路と
を備える、絶縁通信回路。
【請求項2】
前記第1の論理回路の出力端子と前記第1端子との間、及び、前記第2の論理回路の出力端子と前記第2端子との間のそれぞれに直列に接続されている抵抗を更に備える、請求項1に記載の絶縁通信回路。
【請求項3】
前記第1端子と前記第2端子との間を接続するコンデンサを更に備える、請求項2に記載の絶縁通信回路。
【請求項4】
前記第1の論理回路の出力端子と前記第1端子との間、及び、前記第2の論理回路の出力端子と前記第2端子との間のそれぞれに直列に接続されているフェライトビーズを更に備える、請求項2に記載の絶縁通信回路。
【請求項5】
接地点から前記第1の論理回路の出力端子に向けて順方向になるように接続されている第1のダイオードと、前記第1の論理回路の出力端子から電源に向けて順方向になるように接続されている第2のダイオードと、接地点から前記第2の論理回路の出力端子に向けて順方向になるように接続されている第3のダイオードと、前記第2の論理回路の出力端子から電源に向けて順方向になるように接続されている第4のダイオードとを更に備える、請求項1から4までのいずれか一項に記載の絶縁通信回路。
【請求項6】
前記絶縁トランスの二次側に接続されているコモンモードフィルタを更に備える、請求項1から4までのいずれか一項に記載の絶縁通信回路。
【請求項7】
前記入力信号を受け付ける入力端子と、前記入力信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第1端子に、前記第1の論理回路に並列に接続されている第3の論理回路と、
固定レベル信号を受け付ける入力端子と、前記固定レベル信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第2端子に、前記第2の論理回路に並列に接続されている第4の論理回路と
を更に備える、請求項1から4までのいずれか一項に記載の絶縁通信回路。
【請求項8】
アナログ測定データを出力する測定部と、
前記アナログ測定データをデジタルデータに変換するA/D変換部と、
前記デジタルデータをシリアルデータとして出力する演算部と、
前記シリアルデータを絶縁伝送する請求項1から4までのいずれか一項に記載の絶縁通信回路と、
絶縁伝送された前記シリアルデータを電流信号に変換して出力する出力部と
を備えるフィールド機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁通信回路及びフィールド機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、IrDA変調したデータをフォトカプラによって絶縁伝送し、絶縁伝送したデータを復調することによってデータを伝送するフィールド機器が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-157024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フォトカプラを用いることによって耐ノイズ性能が向上する。一方で、フォトカプラを用いることによって消費電流が増大する。
【0005】
本開示は、上述の点に鑑みてなされたものであり、消費電流の増大を抑えつつ耐ノイズ性能を向上できる絶縁通信回路及びフィールド機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)幾つかの実施形態に係る絶縁通信回路は、入力信号を一次側から二次側に絶縁伝送する絶縁トランスと、前記入力信号を受け付ける入力端子と、前記入力信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第1端子に接続されている第1の論理回路と、固定レベル信号を受け付ける入力端子と、前記固定レベル信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第2端子に接続されている第2の論理回路とを備える。
【0007】
絶縁通信回路は、第1及び第2の論理回路を備えることによって、絶縁トランスの一次側の両端のそれぞれに接続する配線のインピーダンスの差を小さくできる。その結果、絶縁通信におけるノイズ耐性が高められる。また、絶縁通信回路は、絶縁トランスを用いることによって、フォトカプラ等の多くの電力を消費する素子を用いずに絶縁通信を実現できる。その結果、絶縁通信回路は、消費電力の増大を抑制しつつノイズ耐性を向上できる。
【0008】
(2)上記(1)に記載の絶縁通信回路は、前記第1の論理回路の出力端子と前記第1端子との間、及び、前記第2の論理回路の出力端子と前記第2端子との間のそれぞれに直列に接続されている抵抗を更に備えてよい。絶縁通信回路は、抵抗を更に備えることによって、絶縁トランスの一次側の両端のそれぞれに接続する配線のインピーダンスの差を更に小さくできる。
【0009】
(3)上記(2)に記載の絶縁通信回路は、前記第1端子と前記第2端子との間を接続するコンデンサを更に備えてよい。絶縁通信回路は、コンデンサを更に備えることによって、抵抗とコンデンサとを組み合わせたローパスフィルタでディファレンシャルモードの高周波ノイズを減衰できる。その結果、絶縁通信におけるノイズ耐性が高められる。
【0010】
(4)上記(2)又は(3)に記載の絶縁通信回路は、前記第1の論理回路の出力端子と前記第1端子との間、及び、前記第2の論理回路の出力端子と前記第2端子との間のそれぞれに直列に接続されているフェライトビーズを更に備えてよい。ローパスフィルタにフェライトビーズが追加されることによって、絶縁通信回路が伝送すべき信号の帯域が制限されず、不要な高域ノイズがより一層強力に阻止される。その結果、絶縁通信回路のノイズ耐性が高められる。
【0011】
(5)上記(1)から(4)までのいずれか1つに記載の絶縁通信回路は、接地点から前記第1の論理回路の出力端子に向けて順方向になるように接続されている第1のダイオードと、前記第1の論理回路の出力端子から電源に向けて順方向になるように接続されている第2のダイオードと、接地点から前記第2の論理回路の出力端子に向けて順方向になるように接続されている第3のダイオードと、前記第2の論理回路の出力端子から電源に向けて順方向になるように接続されている第4のダイオードとを更に備えてよい。絶縁通信回路は、第1~第4のダイオードを備えることによって、コモンモードのノイズとしてインパルスの電圧が入力された場合に、絶縁トランスの二次側に伝達するディファレンシャルモードのノイズを抑制できる。その結果、絶縁通信におけるノイズ耐性が高められる。
【0012】
(6)上記(1)から(5)までのいずれか1つに記載の絶縁通信回路は、前記絶縁トランスの二次側に接続されているコモンモードフィルタを更に備えてよい。コモンモードフィルタは、絶縁トランスの浮遊容量を通じて一次側から二次側に伝達されるコモンモードノイズを低減する。その結果、絶縁通信回路のノイズ耐性が高められる。
【0013】
(7)上記(1)から(6)までのいずれか1つに記載の絶縁通信回路は、前記入力信号を受け付ける入力端子と、前記入力信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第1端子に、前記第1の論理回路に並列に接続されている第3の論理回路と、固定レベル信号を受け付ける入力端子と、前記固定レベル信号に応じた信号を出力する出力端子とを有し、前記出力端子が前記絶縁トランスの一次側の第2端子に、前記第2の論理回路に並列に接続されている第4の論理回路とを更に備えてよい。論理回路が並列に接続されることによって、出力インピーダンスが平均化される。つまり、第1端子及び第2端子それぞれに接続される論理回路の出力インピーダンスの差が更に低減される。その結果、絶縁通信回路のノイズ耐性が高められる。
【0014】
(8)幾つかの実施形態に係るフィールド機器は、アナログ測定データを出力する測定部と、前記アナログ測定データをデジタルデータに変換するA/D変換部と、前記デジタルデータをシリアルデータとして出力する演算部と、前記シリアルデータを絶縁伝送する上記(1)から(7)までのいずれか1つに記載の絶縁通信回路と、絶縁伝送された前記シリアルデータを電流信号に変換して出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0015】
本開示に係る絶縁通信回路及びフィールド機器によれば、消費電流の増大の抑制と、耐ノイズ性能の向上とが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】比較例に係る絶縁通信回路の回路図である。
図2】一実施形態に係るフィールド機器の構成例を示すブロック図である。
図3】一実施形態に係る絶縁通信回路の構成例を示す回路図である。
図4】バッファの構成例を示す回路図である。
図5】波形再生回路の構成例を示す回路図である。
図6】フェライトビーズを直列に接続した構成例を示す回路図である。
図7】二次側にコモンモードフィルタを接続した構成例を示す回路図である。
図8】複数のバッファを並列に接続した構成例を示す回路図である。
図9】固定入力をVcc1に接続した構成例を示す回路図である。
図10】バッファをインバータに置換した構成例を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示は、絶縁通信回路、及び、絶縁通信回路を備えるフィールド機器に関する。2線式フィールド機器等の製品において、センサ等の組み合わせ機器とのインタフェースとして絶縁通信回路が使用される。本開示に係る絶縁通信回路は、耐ノイズ性能の向上と消費電流の増大の抑制とを実現する。本開示に係る絶縁通信回路は、フィールド機器に限られず、低消費電力が求められる機器でも用いられる。
【0018】
(比較例)
図1に示されるように、比較例に係る絶縁通信部90は、絶縁トランス94と、絶縁トランス94の一次側に接続されている論理回路92並びにコンデンサ93a及び93bと、絶縁トランス94の二次側に接続されている波形再生回路96とを備える。絶縁トランス94は、一次側と二次側との間を電気的に絶縁する。絶縁トランス94の一次側は、GND1で表される接地点に接地されている。絶縁トランス94の二次側は、GND2で表される接地点に接地されている。
【0019】
論理回路92は、Vcc1で表される電圧の印加によって駆動する。論理回路92は、入力端子と出力端子とを有する。論理回路92は、入力端子において、INで表される入力信号を受け付ける。論理回路92は、入力端子に入力された信号を処理し、出力端子から出力する。入力信号は、L及びHの2つのレベルの一方を表す2値信号であるとする。論理回路92は、Lのレベルを表す信号が入力された場合にLのレベルを表す信号をコンデンサ93aに出力し、Hのレベルを表す信号が入力された場合にHのレベルを表す信号をコンデンサ93aに出力する。つまり、論理回路92は、入力信号のレベルを変えずに維持した信号を出力するバッファとして機能する。バッファは、入力端子の入力インピーダンスを高くするとともに出力端子の出力インピーダンスを低くするように機能する。
【0020】
コンデンサ93aは、論理回路92を介して入力された入力信号の微分器として作用する。具体的に、コンデンサ93aは、入力信号のレベルがHからLに遷移した場合、又は、入力信号のレベルがLからHに遷移した場合に生じる信号を絶縁トランス94に出力する。
【0021】
絶縁トランス94は、一次側の一端において配線L91を介してコンデンサ93aに接続され、一次側の他の一端において配線L92を介してコンデンサ93bに接続されている。コンデンサ93bは、GND1に接地されている。つまり、絶縁トランス94は、一次側の一端においてコンデンサ93aを介して論理回路92に接続され、他端においてコンデンサ93bを介してGND1で表される接地点に接続されている。絶縁トランス94は、入力信号のレベルが遷移した場合に生じた信号を一次側から二次側に伝送し、二次側の端子に接続される波形再生回路96に出力する。
【0022】
波形再生回路96は、Vcc2で表される電圧の印加によって駆動し、絶縁トランス94の二次側に伝送された、入力信号のレベルが遷移した場合に生じた信号に基づいて入力信号を再現した信号を生成し、OUTで表される出力信号として出力する。
【0023】
比較例に係る絶縁通信部90は、以下の3つの原因によってノイズの影響を受けやすくなっている。
【0024】
1つ目の原因として、絶縁トランス94の一次側と二次側との間に、分布定数的に浮遊容量が存在する。浮遊容量は、コンデンサ95として仮想的に表されるとする。ここで、原則として、絶縁トランス94の一次側の接地点であるGND1と二次側の接地点であるGND2とは交流的には同じ電位である。しかし、何らかの原因でGND1の電位とGND2の電位との間に交流的な差が生じることがある。GND2に対するGND1の電位差の発生によって、絶縁トランス94の一次側にコモンモードのノイズが入力される。コモンモードのノイズの入力は、絶縁トランス94の一次側の接地点であるGND1と二次側の接地点であるGND2との間に仮想的に接続されているノイズ源97による、絶縁トランス94の一次側へのスパイク状のノイズ電圧の印加として表される。絶縁トランス94の一次側に入力されたコモンモードのノイズは、浮遊容量を通じて二次側に伝達されて回路の誤動作を引き起こす。
【0025】
2つ目の原因として、絶縁トランス94の一次側の一端に接続される配線L91のインピーダンスと、他端に接続される配線L92のインピーダンスとが異なる。具体的に、配線L91のインピーダンスは、論理回路92の出力インピーダンスであり、数Ωから数十Ωである。配線L92のインピーダンスは、GND1で表される接地点にコンデンサ93bだけを介して接続されるためほぼゼロである。絶縁トランス94の一次側の両端に接続される配線のインピーダンスの違いによって、配線L91と配線L92とで異なるコモンモード電流が流れる。配線L91に流れるコモンモード電流と配線L92に流れるコモンモード電流との差分によって絶縁トランス94の一次側の巻線が励磁される。絶縁トランス94の一次側の巻線の励磁によって二次側の巻線に誘起される電圧がディファレンシャルモード電圧として二次側に伝達する。二次側に伝達したディファレンシャルモード電圧は、回路の誤動作を引き起こす。ディファレンシャルモード電圧は、絶縁トランス94の一次側と二次側との間に浮遊容量が存在するかにかかわらず二次側に伝達する。
【0026】
3つ目の原因として、絶縁トランス94の一次側に大きなコモンモードノイズが印加された場合に、論理回路92に接続される配線L91の電位は、論理回路92の中で用いられるスイッチ素子に寄生するボディダイオードの順方向電圧でクランプされて変動する。一方で、論理回路92に接続されずにGND1に接地されている配線L92の電位は、絶縁トランス94の一次側に大きなコモンモードノイズが印加された場合でも変動しない。その結果、絶縁トランス94の一次側の両端に電位差が生じる。絶縁トランス94の一次側の両端に電位差が生じることによって絶縁トランス94の一次側の巻線が励磁される。絶縁トランス94の一次側の巻線の励磁によって二次側の巻線に誘起される電圧がディファレンシャルモード電圧として二次側に伝達する。二次側に伝達したディファレンシャルモード電圧は、回路の誤動作を引き起こす。
【0027】
以上述べてきたように、絶縁トランス94を備える絶縁通信部90において、絶縁トランス94の一次側から二次側へのノイズの伝達が問題となる。つまり、耐ノイズ性能の向上が求められる。ノイズの伝達を抑制して耐ノイズ性能を向上するために、絶縁トランス94をフォトカプラ等の能動素子に置き換えることが考えられる。しかし、フォトカプラ等の能動素子は、伝送する信号を変調するために多くの電力を消費する。消費電力の増大を抑制しつつ耐ノイズ性能を高めることが求められる。
【0028】
そこで、本開示は、消費電力の増大を抑制しつつ耐ノイズ性能を向上できる絶縁通信回路、及び、絶縁通信回路を備えるフィールド機器100(図2参照)について説明する。
【0029】
(フィールド機器100及び絶縁通信部140の構成例)
図2に示されるように、フィールド機器100は、測定部110と、A/D変換部120と、演算部130と、絶縁通信部140と、出力部150とを備える。
【0030】
測定部110は、例えばセンサによって検出された測定対象の物理量に対応する測定信号をアナログ測定データとしてA/D変換部120に出力する。A/D変換部120は、アナログ測定データをデジタルデータに変換する。演算部130は、デジタルデータを演算してシリアルデータとして出力する。絶縁通信部140は、演算部130から出力されたシリアルデータを出力部150に絶縁伝送する。出力部150は、シリアルデータとして伝送されたデータを、4~20mAの電流信号に変換して出力信号として外部装置に出力する。
【0031】
演算部130は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサ又はFPGA(Field Programmable Gate Array)等の専用回路を含んで構成されてよい。演算部130は、フィールド機器100の種々の機能を実現するプログラムを実行するように構成されてよい。演算部130は、記憶部を備えてよい。記憶部は、演算部130の動作に用いられる各種情報、又は、演算部130の機能を実現するためのプログラム等を格納してよい。記憶部は、演算部130のワークメモリとして機能してよい。記憶部は、例えば半導体メモリ等で構成されてよい。記憶部は、演算部130と別体で構成されてもよい。
【0032】
図3に示されるように、絶縁通信部140は、論理回路2と、絶縁トランス4と、波形再生回路6とを備える。絶縁トランス4は、一次側の端子と二次側の端子とを備え、一次側と二次側との間を電気的に絶縁しつつ、一次側の端子に入力された信号を二次側の端子から出力するように構成される。絶縁トランス4は、一次側及び二次側のコイルの電磁誘導によって、一次側から二次側に信号を絶縁伝送する。絶縁トランス4は、一次側で配線L1及びL2を介して論理回路2に接続され、二次側で波形再生回路6に接続されている。絶縁トランス4の一次側は、GND1で表される接地点に接地されている。絶縁トランス4の二次側は、GND2で表される接地点に接地されている。絶縁通信部140は、絶縁通信回路とも称される。
【0033】
<論理回路2>
論理回路2は、第1バッファ2aと、第2バッファ2bとを備える。第1バッファ2a及び第2バッファ2bは、Vcc1で表される電源から印加される電圧によって駆動する。第1バッファ2a及び第2バッファ2bは、入力端子と出力端子とを有する。
【0034】
第1バッファ2aは、入力端子においてINで表される入力信号を受け付け、入力信号に応じた信号を出力端子から出力する。第1バッファ2aの出力端子は、配線L1を通じて絶縁トランス4の一端に接続されている。絶縁トランス4の端子のうち配線L1に接続されている端子は第1端子とも称される。第1バッファ2aの出力端子と絶縁トランス4の第1端子との間に、抵抗8aとコンデンサ3aとが直列に接続されている。
【0035】
第2バッファ2bは、入力端子においてGND1で表される接地点に接地され、接地電位を出力端子から出力する。つまり、第2バッファ2bは、固定されたレベルの信号の入力を受け付けて、固定されたレベルの信号に応じた信号を出力する。固定されたレベルの信号は、固定レベル信号とも称される。第2バッファ2bの出力端子は、配線L2を通じて絶縁トランス4の他端に接続されている。絶縁トランス4の端子のうち配線L2に接続されている端子は第2端子とも称される。第2バッファ2bの出力端子と絶縁トランス4の第2端子との間に、抵抗8bとコンデンサ3bとが直列に接続されている。また、配線L1と配線L2との間に、コンデンサ9が絶縁トランス4の一次側のコイルと並列に接続されている。
【0036】
論理回路2の第1バッファ2a又は第2バッファ2bは、例えば図4に示される回路として構成される。本実施形態において、第1バッファ2aと第2バッファ2bとは、同一の構成を有する。以下、第1バッファ2aと第2バッファ2bとは、区別される必要が無い場合、単にバッファと総称される。バッファは、図4に例示されている回路に限られず他の種々の回路として実現されてよい。バッファは、入力信号のレベルを変えずに維持した信号を出力するように機能する。また、バッファは、入力端子の入力インピーダンスを高くするとともに出力端子の出力インピーダンスを低くするように機能する。バッファは、後述するようにインバータに置き換えられてもよい。バッファ及びインバータは、単に論理回路とも称される。第1バッファ2aは第1の論理回路とも称される。第2バッファ2bは第2の論理回路とも称される。バッファ及びインバータは、入力信号を1倍に増幅して出力する増幅器とみなされてもよい。
【0037】
図4に例示されるように、第1バッファ2a及び第2バッファ2bを含むバッファは、INで表される入力端子と、入力端子から入力信号を受け付けるインバータ25と、スイッチ素子21及び22と、OUTで表される出力端子とを備える。スイッチ素子21は、pチャネルFET(Field Effect Transistor)である。スイッチ素子22は、nチャネルFETである。スイッチ素子21及び22のゲートはインバータ25の出力に接続されている。スイッチ素子21のドレインとスイッチ素子22のドレインとが互いに接続され、出力端子にも接続されている。スイッチ素子21のソースがVCC1に接続されている。スイッチ素子22のソースがGND1に接続されている。スイッチ素子21にボディダイオード23が寄生している。スイッチ素子22にボディダイオード24が寄生している。
【0038】
入力信号は、L及びHの2つのレベルの一方を表す2値信号であるとする。インバータ25は、入力信号を受け付けて、入力信号のレベルを反転させてスイッチ素子21及び22のゲートに入力する。スイッチ素子21及び22は、入力信号のレベルに応じて相補的にオン又はオフのいずれかの状態に遷移する。具体的に、入力信号のレベルがHである場合、スイッチ素子21がオンになり、スイッチ素子22がオフになることによって、バッファの出力信号の電圧がVCC1になる。つまり、バッファの出力信号のレベルがHになる。入力信号のレベルがLである場合、スイッチ素子21がオフになり、スイッチ素子22がオンになることによって、バッファの出力信号の電圧がGND1になる。つまり、バッファの出力信号のレベルがLになる。
【0039】
<コンデンサ3a及び3b>
コンデンサ3a及び3bは、論理回路2の出力端子と絶縁トランス4の端子との間を絶縁する。また、コンデンサ3aは、第1バッファ2aから出力される信号、すなわち入力信号の微分器として作用する。具体的に、コンデンサ3aは、入力信号のレベルがHからLに遷移した場合、又は、入力信号のレベルがLからHに遷移した場合に生じる信号を絶縁トランス94に出力する。入力信号のレベルが遷移した場合に生じる信号は、微分信号とも称される。
【0040】
<絶縁トランス4>
絶縁トランス4は、微分信号を一次側から二次側に伝送し、二次側の端子に接続される波形再生回路6に出力する。
【0041】
<波形再生回路6>
波形再生回路6は、Vcc2で表される電源から印加される電圧によって駆動する。波形再生回路6は、絶縁トランス4の一次側から二次側に伝送された微分信号の入力を受け付ける。波形再生回路6は、絶縁トランス4から入力された微分信号に基づいて入力信号を再現した信号を生成する。波形再生回路6は、入力信号を再現した信号を出力信号として出力する。
【0042】
図5に示されるように、波形再生回路6は、抵抗とコンデンサとトランジスタとフリップフロップ回路とを含んで構成されてよい。波形再生回路6は、入力信号のレベルがLからHに遷移した場合の微分信号が絶縁トランス4から入力された場合、フリップフロップ回路のSet端子に信号を入力してフリップフロップ回路の出力をHに設定するように構成される。波形再生回路6は、入力信号のレベルがHからLに遷移した場合の微分信号が絶縁トランス4から入力された場合、フリップフロップ回路のReset端子に信号を入力してフリップフロップ回路の出力をLに設定するように構成される。波形再生回路6は、フリップフロップ回路の仕様に合わせるように微分信号のレベル及びパルス幅を整形し、フリップフロップ回路のSet端子及びReset端子に信号を入力する。フリップフロップ回路は、H又はLのいずれかのレベルの信号を出力信号として出力する。
【0043】
<その他の構成>
絶縁通信部140は、図3に示されるように、抵抗8aとコンデンサ3aとの間の節点と、抵抗8bとコンデンサ3bとの間の節点との間に、絶縁トランス4と並列に接続されるコンデンサ9を更に備えてよい。コンデンサ9は、抵抗8aとともに配線L1を伝送する信号のローパスフィルタとして機能し、抵抗8bとともに配線L2を伝送する信号のローパスフィルタとして機能する。ローパスフィルタは、論理回路2の出力に含まれる高周波ノイズを減衰させたり除去したりするように機能する。
【0044】
絶縁通信部140は、第1バッファ2aの出力端子とGND1との間に接続されるダイオード10aと、第1バッファ2aの出力端子とVcc1との間に接続されるダイオード11aとを更に備えてよい。ダイオード10aは、GND1から第1バッファ2aの出力端子に向けて順方向になるように接続されている。ダイオード10aは、第1バッファ2aの出力端子の電位がGND1より低くなった場合にオンになる。ダイオード11aは、第1バッファ2aの出力端子からVcc1に向けて順方向になるように接続されている。ダイオード11aは、第1バッファ2aの出力端子の電位がVcc1より高くなった場合にオンになる。つまり、ダイオード10a及び11aは、第1バッファ2aの出力端子の電位がGND1からVcc1までの範囲から外れないように保護する機能を有する。ダイオード10aは第1のダイオードとも称される。ダイオード11aは第2のダイオードとも称される。
【0045】
絶縁通信部140は、第2バッファ2bの出力端子とGND1との間に接続されるダイオード10bと、第2バッファ2bの出力端子とVcc1との間に接続されるダイオード11bとを更に備えてよい。ダイオード10bは、GND1から第2バッファ2bの出力端子に向けて順方向になるように接続されている。ダイオード10bは、第2バッファ2bの出力端子の電位がGND1より低くなった場合にオンになる。ダイオード11bは、第2バッファ2bの出力端子からVcc1に向けて順方向になるように接続されている。ダイオード11bは、第2バッファ2bの出力端子の電位がVcc1より高くなった場合にオンになる。つまり、ダイオード10b及び11bは、第2バッファ2bの出力端子の電位がGND1からVcc1までの範囲から外れないように保護する機能を有する。ダイオード10bは第3のダイオードとも称される。ダイオード11bは第4のダイオードとも称される。
【0046】
ダイオード10a、10b、11a及び11bによる保護機能は、バッファに含まれるスイッチ素子21及び22に寄生するボディダイオード23及び24によって実現され得る。したがって、絶縁通信部140は、ダイオード10a、10b、11a及び11bを備えなくてもよい。ここで、スイッチ素子21及び22に寄生するボディダイオード23及び24が存在しない場合、又は、ボディダイオード23及び24が期待される特性を有しない場合があることから、本開示に係る絶縁通信部140は、ダイオード10a、10b、11a及び11bを独立した素子として備えるとする。
【0047】
(絶縁通信部140の動作例)
上述してきたように、絶縁通信部140は、入力信号を絶縁トランス4の一次側から二次側に伝送して出力信号として出力する。絶縁通信部140は、配線L1及びL2の2つの経路で絶縁トランス4の一次側の両端に信号を出力する。具体的に、配線L1の経路において、入力信号のレベルに応じて第1バッファ2aが出力する信号のレベルが制御される。一方で、配線L2の経路において、第2バッファ2bが出力する信号のレベルがGND1に固定される。
【0048】
原則として、絶縁トランス4の一次側の接地点であるGND1と二次側の接地点であるGND2とは交流的には同じ電位である。しかし、何らかの原因でGND1の電位とGND2の電位との間に交流的な差が生じることがある。GND2に対するGND1の電位差の発生によって、絶縁トランス4の一次側において配線L1及びL2にコモンモードのノイズが入力される。コモンモードのノイズの入力は、絶縁トランス4の一次側の接地点であるGND1と二次側の接地点であるGND2との間に仮想的に接続されているノイズ源7による、絶縁トランス4の一次側の配線L1及びL2へのスパイク状のノイズ電圧の印加として表される。
【0049】
絶縁トランス4の一次側の配線L1及びL2にコモンモードのノイズが入力されることによって、配線L1及びL2のそれぞれにコモンモードのノイズ電流が流れる。配線L1及びL2にノイズ電流が流れた場合、配線L1及びL2のそれぞれのインピーダンスに応じた電圧降下によって、配線L1と配線L2との間に電位差が生じることがある。配線L1と配線L2との間の電位差は、絶縁トランス4の一次側の両端の電位差である。絶縁トランス4の一次側の両端に電位差が生じた場合、一次側の両端の電位差の変化が二次側に伝達されることによって、二次側において回路の誤動作が引き起こされる。
【0050】
ここで、配線L1及びL2のそれぞれのインピーダンスは、第1バッファ2a及び第2バッファ2bのそれぞれの出力インピーダンスに基づいて定まる。第1バッファ2aの出力インピーダンスと第2バッファ2bの出力インピーダンスとは、第1バッファ2a及び第2バッファ2bが同一チップ上に形成されることによって、製造誤差があったとしてもほぼ等しい値になる。つまり、絶縁トランス4の両端のインピーダンスの差が小さくなる。
【0051】
一方で、比較例に係る絶縁通信部90において、配線L91に論理回路2が接続されている。配線L92にGND1が接続されている。その結果、絶縁トランス94の両端のインピーダンスの差が大きくなる。
【0052】
したがって、本開示に係る絶縁通信部140における絶縁トランス4の両端のインピーダンスの差は、比較例に係る絶縁通信部90における絶縁トランス94の両端のインピーダンスの差よりも小さくなる。そうすると、絶縁トランス4の一次側で配線L1及びL2にコモンモードノイズの電流が流れた場合に、インピーダンスの差が小さいことによって絶縁トランス4の一次側の両端の電位差が小さくなる。その結果、絶縁トランス4の二次側にコモンモードノイズに起因するノイズが伝送しにくくなり、絶縁トランス4の二次側でディファレンシャルモードのノイズが生じにくくなる。つまり、本開示に係る絶縁通信部140は、絶縁トランス4の両端に接続する配線L1及びL2のそれぞれにバッファを接続することによって、ノイズ耐性を高めることができる。
【0053】
また、本開示に係る絶縁通信部140は、フォトカプラ等の多くの電力を消費する素子を用いずに絶縁通信を実現できる。その結果、本開示に係る絶縁通信部140は、消費電力の増大を抑制しつつ、ノイズ耐性を向上できる。
【0054】
<抵抗8a及び8bの効果>
以上述べてきたように、本開示に係る絶縁通信部140は、抵抗8a及び8bの接続の有無にかかわらず、配線L1及びL2のそれぞれにバッファを接続することによって、消費電力の増大を抑制しつつノイズ耐性を向上できる。
【0055】
本開示に係る絶縁通信部140は、抵抗8a及び8bを更に備えてもよい。絶縁通信部140が抵抗8a及び8bを更に備える場合、配線L1のインピーダンスは、第1バッファ2aの出力インピーダンスと抵抗8aとの和である。配線L2のインピーダンスは、第2バッファ2bの出力インピーダンスと抵抗8bとの和である。抵抗8a及び8bの抵抗値によって、配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差の比率が更に小さくされる。
【0056】
例えば、第1バッファ2aの出力インピーダンスが5Ωであり、第2バッファ2bの出力インピーダンスが6Ωであるとする。抵抗8a及び8bが配線L1及びL2に接続されていない場合、配線L1のインピーダンスに対する配線L2のインピーダンスが20%大きい。ここで、抵抗8a及び8bの抵抗値が10Ωであるとする。この場合、第1バッファ2aの出力インピーダンスと抵抗8aとの和、すなわち配線L1のインピーダンスは15Ωである。第2バッファ2bの出力インピーダンスと抵抗8bとの和、すなわち配線L2のインピーダンスは16Ωである。そうすると、配線L1のインピーダンスに対する配線L2のインピーダンスが6.7%大きい。つまり、配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差が更に小さくされる。
【0057】
配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差の比率が更に小さくされることによって、絶縁トランス4の一次側で配線L1及びL2にコモンモードの電流が流れた場合に、配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差の比率が小さいことによって絶縁トランス4の一次側の両端の電位差が小さくなる。その結果、絶縁トランス4の二次側にコモンモードノイズに起因するノイズが伝送しにくくなり、絶縁トランス4の二次側でディファレンシャルモードのノイズが生じにくくなる。つまり、本開示に係る絶縁通信部140は、絶縁トランス4の両端に接続する配線L1及びL2のそれぞれにおいてバッファの出力に抵抗を直列に接続することによって、ノイズ耐性を更に高めることができる。
【0058】
抵抗8a及び8bの抵抗値は、互いに異なる値に設定されてもよい。例えば、第1バッファ2aの出力インピーダンスが5Ωであり、第2バッファ2bの出力インピーダンスが6Ωである場合に、抵抗8aの抵抗値が10Ωに設定され、抵抗8bの抵抗値が9Ωに設定されてよい。このようにすることで、配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差の絶対値が低減する。配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差の絶対値が低減することによって、絶縁トランス4の一次側で配線L1及びL2にコモンモードの電流が流れた場合に、絶縁トランス4の一次側の両端の電位差が小さくなる。その結果、絶縁トランス4の二次側にコモンモードノイズに起因するノイズが伝送しにくくなり、絶縁トランス4の二次側でディファレンシャルモードのノイズが生じにくくなる。
【0059】
<ダイオード10a、10b、11a及び11bの効果>
本開示に係る絶縁通信部140は、第1バッファ2aの出力端子に接続するダイオード10a及び11aと、第2バッファ2bの出力端子に接続するダイオード10b及び11bとを更に備えてよい。上述したように、ダイオード10a及び11aは、第1バッファ2aの出力端子の電位がGND1からVcc1までの範囲から外れないように保護する機能を有する。ダイオード10b及び11bは、第2バッファ2bの出力端子の電位がGND1からVcc1までの範囲から外れないように保護する機能を有する。
【0060】
以下、ダイオード10a、10b、11a及び11bの作用によってノイズ耐性が向上することが説明される。
【0061】
上述したように、絶縁トランス4の一次側にコモンモードのノイズが発生することがある。コモンモードのノイズは、仮想的に存在するノイズ源7によって絶縁トランス4の二次側の接地点であるGND2に対して一次側の接地点であるGND1に印加される正極性のインパルスの電圧として表されるとする。
【0062】
絶縁トランス4の一次側と二次側との間に、分布定数的に浮遊容量が存在する。浮遊容量は、コンデンサ5として仮想的に表されるとする。GND1に印加された正極性のインパルスの電圧によって、絶縁トランス4の一次側の配線L1から、絶縁トランス4の一次側と二次側との間の浮遊容量を表すコンデンサ5を通って、絶縁トランス4の二次側の接地点であるGND2に至る一巡経路に電流が流れる。また、絶縁トランス4の一次側の配線L2から、絶縁トランス4の一次側と二次側との間の浮遊容量を表すコンデンサ5を通って、絶縁トランス4の二次側の接地点であるGND2に至る一巡経路に電流が流れる。このとき、ダイオード10a及び10bが接続されていなければ、配線L1を通る一巡経路に流れる電流と配線L2を通る一巡経路に流れる電流とが異なることがある。配線L1を通る一巡経路に流れる電流と配線L2を通る一巡経路に流れる電流とが異なることによって、絶縁トランス4の一次側の両端に電位差が生じ、絶縁トランス4の二次側にディファレンシャルモードのノイズが伝達して回路の誤動作が引き起こされる。
【0063】
そこで、ダイオード10a及び10bが接続されている場合、正極性のインパルスの電圧が印加されたときにダイオード10a及び10bが導通することによって、第1バッファ2a及び第2バッファ2bの出力端子の電位は、ダイオード10a及び10bの順方向電圧VFによってクランプされて-VFになる。その結果、ダイオード10a及び10bによって、第1バッファ2aの出力端子の電位と、第2バッファ2bの出力端子の電位とが同じになる。
【0064】
第1バッファ2aの出力端子の電位と第2バッファ2bの出力端子の電位とが同じになることによって、配線L1からコンデンサ5を経由して二次側に流入するコモンモード電流と、配線L2からコンデンサ5を経由して二次側に流入するコモンモード電流とが等しくなる。その結果、絶縁トランス4の一次側のコイルの励磁電流が抑制される。絶縁トランス4の一次側のコイルの励磁電流が抑制されることによって、絶縁トランス4の二次側に伝達するディファレンシャルモードのノイズが抑制される。
【0065】
GND2に対してGND1に印加されるコモンモードのノイズが負極性のインパルスの電圧として表される場合においても、ダイオード11a及び11bが接続されていなければ、絶縁トランス4の二次側にディファレンシャルモードのノイズが伝達して回路の誤動作が引き起こされる。そこで、ダイオード11a及び11bが接続されている場合、負極性のインパルスの電圧が印加されたときにダイオード11a及び11bが導通することによって、第1バッファ2a及び第2バッファ2bの出力端子の電位は、ダイオード11a及び11bの順方向電圧VFによってクランプされてVcc1+VFになる。つまり、ダイオード11a及び11bによって、第1バッファ2aの出力端子の電位と、第2バッファ2bの出力端子の電位とが同じになる。その結果、コモンモードのノイズが正極性のインパルスの電圧として表される場合と同様に、絶縁トランス4の二次側に伝達するディファレンシャルモードのノイズが抑制される。
【0066】
<コンデンサ9の効果>
以上述べてきたように、本開示に係る絶縁通信部140は、コンデンサ9の接続の有無にかかわらず、消費電力の増大を抑制しつつノイズ耐性を向上できる。
【0067】
本開示に係る絶縁通信部140は、コンデンサ9を更に備えてもよい。絶縁通信部140がコンデンサ9を更に備える場合、配線L1において抵抗8aとコンデンサ9とを組み合わせたRC回路、及び、配線L2において抵抗8bとコンデンサ9とを組み合わせたRC回路がローパスフィルタとして機能する。配線L1及びL2に入力される高周波ノイズがローパスフィルタの機能によって低減される。高周波ノイズは、例えば、以下の場合に生じることがある。
【0068】
上述してきた、コモンモードのノイズが正極性のインパルスの電圧として表される場合の動作において、第1バッファ2aが出力する信号のレベルがHであった場合、すなわち第1バッファ2aの出力電圧がVcc1であった場合、正極性のインパルスの電圧がGND1に入力されることによって、第1バッファ2aの出力が-VFにクランプされる。そうすると、第1バッファ2aの出力電圧は、GND1に正極性のインパルスの電圧が入力されたときに、Vcc1+VFだけ変化する。一方で、第2バッファ2bが出力信号のレベルはLで固定されている。すなわち、第2バッファ2bの出力電圧はGND1に固定されている。ここで、正極性のインパルスの電圧がGND1に入力されることによって、第2バッファ2bの出力も-VFにクランプされる。そうすると、第2バッファ2bの出力電圧は、GND1に正極性のインパルスの電圧が入力されたときに、-VFだけ変化する。
【0069】
結果として、正極性のインパルスの電圧がGND1に入力されたときの、第1バッファ2aの出力電圧の変化量と、第2バッファ2bの出力電圧の変化量とが互いに異なる。したがって、GND1に正極性のインパルスの電圧が入力されてから第1バッファ2a及び第2バッファ2bの出力電圧が-VFにクランプされるまでの短時間において、絶縁トランス4の一次側の両端に電位差が生じてディファレンシャルモードのノイズとして二次側に伝達されてしまう。この現象は、第1バッファ2aの出力電圧と第2バッファ2bの出力電圧とが異なっている場合において、GND1に入力されるインパルスの極性にかかわらず生じる。
【0070】
ここで、GND1にインパルスの電圧が入力されてから第1バッファ2a及び第2バッファ2bの出力電圧がクランプされるまでの短時間に生じる電位差に応じたディファレンシャルモードのノイズは高周波ノイズである。そうすると、絶縁通信部140がコンデンサ9と抵抗8a及び8bのそれぞれとを組み合わせたローパスフィルタを配線L1及びL2に備えることによって、ディファレンシャルモードの高周波ノイズは、ローパスフィルタによって減衰される。
【0071】
ローパスフィルタの遮断周波数は、ディファレンシャルモードの高周波ノイズを適切に減衰させ、かつ、コンデンサ3aが微分器として機能するときの有効な通過帯域、すなわちコンデンサ3aがハイパスフィルタとして機能するときの有効な通過帯域を妨げないように設定される。一般的に、GND1に入力されるインパルスノイズの持続時間は、入力信号を構成するパルスの周波数よりも極めて短い。したがって、ローパスフィルタの遮断周波数は、上述した条件が満たされるように容易に設定される。
【0072】
(まとめ)
以上述べてきたように、本開示に係る絶縁通信部140は、絶縁トランス4の一次側に接続する配線L1及びL2のそれぞれにバッファを接続することによって、配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差を小さくできる。その結果、絶縁通信におけるノイズ耐性が高められる。
【0073】
また、本開示に係る絶縁通信部140は、フォトカプラ等の多くの電力を消費する素子を用いずに絶縁通信を実現できる結果、消費電力の増大を抑制しつつノイズ耐性を向上できる。
【0074】
本開示に係る絶縁通信部140は、2線式フィールド機器で用いられてよい。2線式フィールド機器は、伝送するデータに対応する、4mAから20mAまでの範囲の直流電流信号を出力する。2線式フィールド機器において、電流信号は、センサを含めた機器全体を駆動する電流を含む。したがって、2線式フィールド機器の消費電流は、電流信号以下に制限される必要がある。本開示に係る絶縁通信部140は、フォトカプラ等の大きい電流を必要とする素子を用いずに絶縁通信を実現できる結果、機器全体の駆動電流を電流信号以下に制限しやすい。
【0075】
なお、比較例として、絶縁トランス4をフォトカプラに置き換えた回路が考えられる。仮に、フォトカプラの消費電力を低減するために、フォトカプラで伝送する信号をIrDA(Infrared Data Association)等の規格に基づいて低デューティー比のパルス信号に変調する場合であっても、駆動回路又はLED(Light Emitting Diode)の応答速度の限界によって、伝送レートを高めるときにパルス信号のデューティー比の維持が難しく、結果として消費電力が増大する。したがって、本開示に係る絶縁通信部140は、フォトカプラ等の多くの電力を消費する素子を用いない点で、比較例に係る、フォトカプラを用いた回路よりも消費電力の増大を抑制できる。
【0076】
本開示に係る絶縁通信部140は、配線L1及びL2のそれぞれにローパスフィルタを備えることによって、インパルスノイズに起因するノイズを減衰できる結果、ノイズ耐性を向上できる。
【0077】
(他の実施形態)
以下、絶縁通信部140の他の実施形態が説明される。
【0078】
<フェライトビーズ12a及び12b>
図6に例示されるように、絶縁通信部140は、抵抗8aに対して直列に接続されているフェライトビーズ12aと、抵抗8bに対して直列に接続されているフェライトビーズ12bとを更に備えてよい。言い換えれば、抵抗8a及び8bのそれぞれとコンデンサ9とを組み合わせたローパスフィルタにおいて、フェライトビーズ12a及び12bが追加されてよい。ローパスフィルタにフェライトビーズ12a及び12bが追加されることによって、絶縁通信部140が伝送すべき信号の帯域が制限されず、不要な高域ノイズがより一層強力に阻止される。その結果、絶縁通信部140のノイズ耐性が高められる。
【0079】
<コモンモードフィルタ13>
図7に例示されるように、絶縁通信部140は、絶縁トランス4の二次側と波形再生回路6との間に接続されているコモンモードフィルタ13を更に備えてよい。コモンモードフィルタとして、例えば、コモンモードチョークコイルが用いられてよい。コモンモードフィルタ13は、絶縁トランス4の浮遊容量を通じて一次側から二次側に伝達されるコモンモードノイズを低減する。その結果、絶縁通信部140のノイズ耐性が高められる。
【0080】
<バッファの並列接続>
図8に例示されるように、論理回路2は、配線L1に信号を出力するバッファとして、第1バッファ2aに並列に接続されている第3バッファ2cを更に備えてよい。また、論理回路2は、配線L2に信号を出力するバッファとして、第2バッファ2bに並列に接続されている第4バッファ2dを更に備えてよい。第3バッファ2c及び第4バッファ2dは、第1バッファ2a及び第2バッファ2bと同様に構成されてよい。第3バッファ2cは第3の論理回路とも称される。第4バッファ2dは第4の論理回路とも称される。
【0081】
並列に接続されたバッファの出力インピーダンスが平均化されることによって、配線L1及びL2のそれぞれに接続されているバッファの出力インピーダンスのばらつきが小さくなる。つまり、配線L1のインピーダンスと配線L2のインピーダンスとの差が更に低減される。その結果、絶縁通信部140のノイズ耐性が高められる。
【0082】
<第2バッファ2bの入力のHレベルへの固定>
図9に例示されるように、第2バッファ2bの入力端子は、GND1の代わりに、Vcc1に接続されてもよい。第2バッファ2bの入力端子は、抵抗15を介してVcc1に接続されてもよい。この場合においても、絶縁通信部140は、低消費電力で絶縁通信を実現しつつノイズ耐性を向上できる。
【0083】
<バッファからインバータへの置換>
図3において論理回路2に含まれる第1バッファ2a及び第2バッファ2bのそれぞれは、図10に例示されるように第1インバータ2e及び第2インバータ2fに置き換えられてもよい。この場合においても、絶縁通信部140は、低消費電力で絶縁通信を実現しつつノイズ耐性を向上できる。第1インバータ2eは第1の論理回路とも称される。第2インバータ2fは第2の論理回路とも称される。
【0084】
以上、本開示に係る実施形態について、図面を参照して説明してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲においての種々の変更も含まれる。
【符号の説明】
【0085】
100 フィールド機器(110:測定部、120:A/D変換部、130:演算部、140:絶縁通信部、150:出力部)
2 論理回路(2a:第1バッファ、2b:第2バッファ、2c:第3バッファ、2d:第4バッファ、2e:第1インバータ、2f:第2インバータ、21、22:スイッチ素子、23、24:ボディダイオード、25:インバータ)
3a、3b コンデンサ
4 絶縁トランス
5 コンデンサ
6 波形再生回路
7 ノイズ源
8a、8b 抵抗
9 コンデンサ
10a、10b、11a、11b ダイオード
12a、12b:フェライトビーズ
13 コモンモードフィルタ
15 抵抗
L1、L2:配線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10