(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172467
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】決定方法、露光方法、物品製造方法、プログラム、情報処理装置、および露光装置
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20241205BHJP
H01L 21/68 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G03F7/20 501
H01L21/68 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090204
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】住吉 雄平
【テーマコード(参考)】
2H197
5F131
【Fターム(参考)】
2H197AA09
2H197BA04
2H197BA11
2H197CA05
2H197CA06
2H197CA08
2H197CB16
2H197CC16
2H197CD12
2H197CD13
2H197CD15
2H197CD17
2H197CD18
2H197CD35
2H197CD41
2H197CD43
2H197DB05
2H197HA03
2H197JA22
5F131AA02
5F131AA10
5F131CA01
5F131DA33
5F131DA42
5F131EA02
5F131EA22
5F131EA24
5F131FA17
5F131FA32
5F131FA33
(57)【要約】
【課題】走査露光装置において原版のパターン像を基板上に精度よく転写するために有利な技術を提供する。
【解決手段】基板の走査露光における原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとの相対駆動に用いられる駆動プロファイルを情報処理装置により決定する決定方法は、前記走査露光で前記原版から前記基板上に転写されるパターン像を推定し、前記パターン像と前記基板の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まり、且つ、前記パターン像の線幅に関する指標が許容範囲内に収まるように、前記相対駆動の駆動条件を調整する調整工程と、前記調整工程で調整された前記駆動条件に基づいて、前記駆動プロファイルを決定する決定工程と、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の走査露光における原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとの相対駆動に用いられる駆動プロファイルを情報処理装置により決定する決定方法であって、
前記走査露光で前記原版から前記基板上に転写されるパターン像を推定し、前記パターン像と前記基板の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まり、且つ、前記パターン像の線幅に関する指標が許容範囲内に収まるように、前記相対駆動の駆動条件を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整された前記駆動条件に基づいて、前記駆動プロファイルを決定する決定工程と、
を含むことを特徴とする決定方法。
【請求項2】
前記駆動条件は、前記原版ステージと前記基板ステージとの相対速度の制約条件、および、前記原版ステージと前記基板ステージとの相対加速度の制約条件のうち少なくとも1つを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項3】
前記指標は、前記パターン像の線幅、線幅均一性およびコントラストのうち少なくとの1つを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項4】
前記調整工程では、前記パターン像を推定する工程を、前記重ね合わせ誤差が前記規定範囲内に収まり、且つ、前記指標が前記許容範囲内に収まるまで、前記駆動条件を変えて繰り返し行うことにより、前記駆動条件を調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項5】
前記調整工程では、前記重ね合わせ誤差が前記規定範囲内に収まり、且つ、前記指標が前記許容範囲内に収まるように、前記駆動条件に加えて、前記基板上に照射されるスリット光の幅を調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項6】
前記調整工程では、前記重ね合わせ誤差が前記規定範囲内に収まり、且つ、前記指標が前記許容範囲内に収まるように、前記駆動条件に加えて、前記基板の照明モードを調整する、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項7】
前記下地パターンの形状を示す情報を取得する取得工程を更に含み、
前記調整工程は、前記取得工程で取得された前記情報に基づいて行われる、ことを特徴とする請求項1に記載の決定方法。
【請求項8】
基板の走査露光を行う露光方法であって、
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の決定方法を用いて駆動プロファイルを決定する工程と、
前記駆動プロファイルに基づいて、原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとを相対駆動することにより前記走査露光を行う工程と、
を含むことを特徴とする露光方法。
【請求項9】
請求項8に記載の露光方法を用いて基板の走査露光を行う露光工程と、
前記露光工程で露光された前記基板を加工する加工工程と、
前記加工工程で加工された前記基板から物品を製造する製造工程と、
を含むことを特徴とする物品製造方法。
【請求項10】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の決定方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項11】
基板の走査露光における原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとの相対駆動に用いられる駆動プロファイルを決定する情報処理装置であって、
前記走査露光で前記原版から前記基板上に転写されるパターン像を推定し、前記パターン像と前記基板の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まり、且つ、前記パターン像の線幅に関する指標が許容範囲内に収まるように、前記相対駆動の駆動条件を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整された前記駆動条件に基づいて、前記駆動プロファイルを決定する決定工程と、
を実行することを特徴とする情報処理装置。
【請求項12】
基板の走査露光を行う露光装置であって、
請求項11に記載の情報処理装置を含み、
前記情報処理装置により決定された駆動プロファイルに基づいて、原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとを相対駆動することにより前記走査露光を行う、ことを特徴とする露光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、決定方法、露光方法、物品製造方法、プログラム、情報処理装置、および露光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスなどの製造工程(リソグラフィ工程)で使用される装置の1つとして、ステップ・アンド・スキャン方式の露光装置(走査露光装置)が知られている。走査露光装置は、露光光(スリット光)に対して原版と基板とを相対的に駆動(走査)しながら基板を露光することによって原版のパターン像を基板上に転写する、いわゆる走査露光を行う。このような走査露光装置では、基板の下地パターンに対して原版のパターン像を精度よく重ね合わせることが求められている。特許文献1には、走査露光中における原版と基板との相対駆動を制御することによって、基板上に転写される原版のパターン像のディストーションを制御する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている技術では、原版と基板との速度比を、投影光学系の投影倍率に対応する速度比からずらしている。この場合、基板上に転写(投影)される原版のパターン像のコントラストが低下し、それに伴って、当該パターン像の線幅や線幅均一性なども低下しうる。したがって、走査露光装置では、基板上に転写されるパターン像の線幅等をも考慮して、原版のパターン像を基板上に精度よく転写することが望まれる。
【0005】
そこで、本発明は、走査露光装置において原版のパターン像を基板上に精度よく転写するために有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としての決定方法は、基板の走査露光における原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとの相対駆動に用いられる駆動プロファイルを情報処理装置により決定する決定方法であって、前記走査露光で前記原版から前記基板上に転写されるパターン像を推定し、前記パターン像と前記基板の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まり、且つ、前記パターン像の線幅に関する指標が許容範囲内に収まるように、前記相対駆動の駆動条件を調整する調整工程と、前記調整工程で調整された前記駆動条件に基づいて、前記駆動プロファイルを決定する決定工程と、を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される好ましい実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、走査露光装置において原版のパターン像を基板上に精度よく転写するために有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】基板上における光照射領域を説明するための図
【
図3】基板上に転写されるパターン像のディストーション制御を説明するための図
【
図4】相対位置ズレ量の各方向成分を説明するための図
【
図6】相対位置シフト量の分布を計算した例を示す図
【
図7】駆動プロファイルの決定方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
本明細書及び添付図面では、基板の表面(上面)に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、Z軸周りの回転をθ方向とする。X方向、Y方向、Z方向に関する制御及び駆動(移動)は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動(移動)を意味する。また、θ方向に関する制御又は駆動は、Z軸に平行な軸周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。
【0012】
本発明に係る一実施形態の露光装置10について説明する。
図1は、本実施形態の露光装置10の構成例を示す概略図である。本実施形態の露光装置10は、矩形状または円弧上の断面形状を有する露光光(スリット光)に対して原版4と基板7とを相対的に走査駆動することによって基板7の走査露光を行い、原版4のパターン像を基板上に転写する。このような露光装置10は、ステップ・アンド・スキャン方式の露光装置や走査露光装置(スキャナ)と呼ばれることがある。
【0013】
露光装置10は、照明光学系2と、原版ステージ3と、投影光学系5と、基板ステージ6と、制御部8とを備えうる。制御部8は、例えばCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサとメモリなどの記憶部とを含むコンピュータ(情報処理装置)によって構成される。そして、制御部8は、露光装置10の各部を統括的に制御することにより基板7の走査露光を制御する。
【0014】
光源1から射出された光は、引き回し光学系(不図示)を介して照明光学系2に入射する。光源1としては、ArFやKrfエキシマレーザなどが使用されうる。但し、光源1としては、レーザに限らず、超高圧水銀ランプなどが使用されてもよい。また、光源1は、露光装置10とは異なる外部ユニットとして構成されているが、露光装置10の一部として構成されていてもよい。
【0015】
照明光学系2は、光源1からの光を用いてスリット光(露光光)を生成し、当該スリット光で、原版ステージ3によって保持されている原版4を照明する。また、投影光学系5は、照明光学系2によって照明された原版4のパターン像を基板7上に投影する。
【0016】
原版ステージ3は、原版4を保持して移動可能に構成されており、走査露光において原版4を走査方向(Y方向)に駆動する。原版4には、基板上に転写すべき回路パターンが形成されている。また、基板ステージ6は、基板7(ウエハ)を保持して移動可能に構成されており、走査露光において基板7を走査方向(Y方向)に駆動する。原版4および基板7は、投影光学系5を介して光学的に共役な位置(投影光学系5の物体面および像面)に配置されている。なお、原版ステージ3および基板ステージ6の少なくとも一方は、原版4と基板7とを相対駆動する駆動機構を構成しうる。
【0017】
このように構成された露光装置10では、原版4(原版ステージ3)および基板7(基板ステージ6)は、走査露光において、投影光学系5の投影倍率に応じた速度比で相対的に走査方向(Y方向)に同期して駆動(走査)される。具体的には、原版4および基板7は、走査露光において、投影光学系5の物体面および像面におけるXY方向の共役点にそれぞれ配置されるように同期して駆動される。例えば、投影光学系5の投影倍率が4:1の場合、原版4と基板7との速度比が4:1になるように原版4および基板7を同期して駆動することにより、原版4のパターン像を基板7上に転写することができる。
【0018】
投影光学系5からの光が基板上に照射される領域41(光照射領域)は、例えば、
図2(a)に示すようにスリット状になっており、スリット状の光照射領域41では、原版4の一部の領域のパターン像しか投影されない。但し、原版4と基板7とを相対的に駆動(走査)することにより、基板7上で光照射領域41をY方向に走査(移動)し、基板7の露光対象領域42の全域を露光することができる。このように1回の走査露光によって露光される基板7の露光対象領域42は、ショット領域と呼ばれうる。基板7には、複数のショット領域が設けられており、当該複数のショット領域の各々に対して走査露光が行われる。また、スリット状の光照射領域41の走査方向(Y方向)の照度分布は、
図2(b)に示したように台形分布になっている。これは、走査露光に伴う基板上の照度ムラへの影響を軽減するためである。
【0019】
ここで、露光装置10では、走査露光中における原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)の相対駆動を制御することにより、基板上に転写されるパターン像のディストーション(歪み)を制御することができる。原版4および基板7は、基本的には投影光学系5の物体面および像面におけるXY方向の共役点にそれぞれ配置されるように同期駆動されるが、パターン像のディストーションを制御する場合には、あえてその関係を崩す。これについて
図3を例示して説明する。なお、以下では、基板上に転写される原版4のパターン像のディストーションを、単に「パターン像のディストーション」と表記することがある。
【0020】
図3は、基板上に転写されるパターン像のディストーション制御を説明するための図である。
図3の横軸は、ショット領域42内のY方向の位置(以下、Y位置と表記することがある)を示しており、縦軸は、相対位置シフト量およびディストーション量を示している。相対位置シフト量は、投影光学系5の物体面および像面におけるXY方向の共役点に対して原版4と基板7との相対位置をシフトさせる(ずらす)量を示しており、本実施形態では、基板7の位置のシフト量を示している。即ち、相対位置シフト量は、投影光学系5によって投影される原版4のパターン像を、本来結像されるべき基板上の場所(位置、箇所)からどれくらいシフトさせる(ずらす)のかを示している。相対位置シフト量は、X方向、Y方向およびθ方向の各々についての成分を含みうるが、
図3では、相対位置シフト量におけるY方向成分のみを示している。
図3の細線で示すように相対位置シフト量をショット領域42内で変化させたとする。この場合に発生するパターン像のディストーションは、相対位置シフト量を示す曲線に対するスリット幅での移動平均、より正確にはスリット幅方向(Y方向)の照度分布とのコンボリューション演算で表され、
図3の太線で示したようになる。スリット幅は、基板7上に照射されるスリット光(光照射領域41)における走査方向(Y方向)の長さであり、スリット幅方向(Y方向)の照度分布は、走査方向(Y方向)におけるスリット光(光照射領域41)の照度分布である。
図3に示す例では、スリット幅を6mmとしてディストーションを算出した。
【0021】
原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対位置シフト量は、X方向の相対位置シフト量を示すX方向成分、Y方向における相対位置シフト量を示すY方向成分、θ方向における相対位置シフト量を示すθ方向成分を含む。θ方向成分は、原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との回転ズレ量として理解されてもよい。このように、本実施形態において制御することができるパターン像のディストーションには、いくつかの種類が存在する。
図4にその例を示す。
図4(a)は、相対位置ズレ量のY方向成分を制御することによって得られるパターン像のディストーションの例を示している。
図4(b)は、相対位置ズレ量のX方向成分を制御することによって得られるパターン像のディストーションの例を示しており、
図4(c)は、相対位置ズレ量のθ方向成分を制御することによって得られるパターン像のディストーションの例を示している。実際にはこれらの成分の組み合わせにより、より自由度の高いパターン像のディストーションの制御(補正)を行うことが可能である。
【0022】
近年、半導体製造プロセスの高度化・複雑化により、プロセス要因で基板7の下地パターンに歪みが発生していることがあり、露光装置10には、このような基板7の下地パターンに対して原版4のパターン像を精度よく転写することが求められている。また、プロセス要因により、基板7の下地パターンにおける歪みの形状も年々複雑化している。例えば、
図5に示すように、基板7(ショット領域)の下地パターンの形状が、ショット領域内で歪みが何回も繰り返すような複雑な形状(歪みが周期的に変化する形状)となる場合がある。この場合、基板7の下地パターンの形状は、従来に比べて、より高周波成分を含んでいるのが特徴である。
【0023】
このような基板7の下地パターンに対して原版4のパターン像を精度よく転写するためには、基板7の下地パターンの形状(歪み)に応じて原版4のパターン像のディストーションを精度よく制御(補正)する必要がある。即ち、走査露光における原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対位置シフト量の分布(形状)を精度よく決定することが必要である。相対位置シフト量の分布は、走査露光における原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対駆動に用いられる駆動プロファイルを決定するために用いられる。なお、以下では、原版4のパターン像のディストーションの制御(補正)を「ディストーション補正」と表記することがある。
【0024】
前述したように、相対位置シフト量の分布とスリット光の照度分布とのコンボリューション(畳み込み)演算の結果が、原版4のパターン像に生成されるディストーション量になる。そのため、数学的にはその逆演算であるデコンボリューションを施すことにより、基板7の下地パターンの形状(歪み)から相対位置シフト量の分布を算出することが可能である。しかしながら、
図5に示すように高周波成分を含む基板7の下地パターンの形状に対してデコンボリューション演算を行うと、往々にして解の振幅が非常に大きくなる場合や、または、発散して解が求まらない場合などが頻繁に生じうる。したがって、単純なデコンボリューション演算ではなく、別の手法によって相対位置シフト量の分布を決定する必要がある。その手法については後述するが、そのように求めた相対位置シフト量の分布も、元の下地パターンの形状のように、折り返し点を多数含む複雑な形状になる。
【0025】
例えば、
図5に示す基板7の下地パターンの形状(歪み)に応じて原版4のパターン像のディストーション補正を行う場合において、相対位置シフト量の分布(形状)を計算した例を
図6に示す。
図6において太線で示された曲線が相対位置シフト量の分布を表しており、点線で示された曲線がディストーション量の分布を表している。ディストーション量は、相対位置シフト量とスリット光の照度分布とのコンボリューション演算を行うことによって得られた値であり、原版4のパターン像に生成すべきディストーションの量(変化量、補正量)として理解されてもよい。
図6を参照すると、相対位置シフト量の分布およびディストーション量の分布は、原版4のパターン像の目標形状である基板7の下地パターンの形状(歪み)と同様に、-15mmから+15mmまでの30mmの範囲内に6周期の波形を含むように構成される。即ち、相対位置シフト量の分布およびディストーション量の分布は、高周波成分を含んでいることが分かる。また、相対位置シフト量の分布とディストーション量の分布とで振幅が大きく乖離しており、点線で示されるディストーション量を原版4のパターン像に生成する場合、相対位置シフト量の分布の振幅を非常に大きくする必要があることが分かる。このように、高周波成分を含む基板7の下地パターンの形状に応じて原版4のパターン像のディストーション補正を行う場合、相対位置シフト量の分布が高周波成分を含むとともに、相対位置シフト量の振幅が非常に大きくなりうる。
【0026】
また、相対位置シフト量によって原版4のパターン像のディストーション補正を行う場合、光学性能への影響として、ディストーションだけでなく、原版4のパターン像のコントラストの変化や線幅の変化についても考慮する必要がある。ディストーション量は、相対位置シフト量の分布とスリット幅での移動平均もしくはスリット幅方向の照度分布関数とのコンボリューション演算で表される。それに対し、コントラストや線幅の変化は、相対位置シフト量の分布におけるスリット幅での移動標準偏差に関連付けられる。
【0027】
その理由を説明する。基板7のショット領域内のある一点に着目すると、その点での像は、スリット光が走査される過程で形成された各瞬間の像をスリット幅分だけ重ね合わせたものとなる。したがって、各瞬間の像の位置がばらついていると、重ね合わされた像は元の像に対してぼやけたものとなる。その結果、像のコントラストが低下し、それに伴って、線幅が変化する。各瞬間の像の位置ばらつきとは、即ち、スリット幅での移動標準偏差に他ならない。これが、コントラストや線幅の変化が、相対位置シフト量の分布におけるスリット幅での移動標準偏差に関連付けられる理由である。
【0028】
ここで、以下では、原版4のパターン像の線幅を「CD(Critical Dimension)」と表記することがある。また、以下では、相対位置シフト量の分布におけるスリット幅での移動標準偏差を「MSD(Moving Standard Deviation))と表記することがある。CDの変化はMSDの2乗に比例するため、MSDが大きいほどCDの変化も大きくなる。また、ショット領域内でのMSDの分布(ばらつき)が大きくなると、ショット領域内でのCDの変化の分布も大きくなり、ショット領域内のCD均一性(線幅均一性)が低下する。
【0029】
また、相対位置シフト量のX方向成分は、X軸に直行するラインパターンのCD変化要因になり、相対位置シフト量のY方向成分は、Y軸に直行するラインパターンのCD変化要因になる。さらに、相対位置シフト量のθ方向成分は、Y軸に直行するラインパターンのCD変化要因になるが、ショット領域内の位置によってCD変化量が異なる現れ方をする。即ち、回転中心に近いほどCD変化量が小さく、外側ほどCD変化量が大きくなる。このように、相対位置シフト量のどの成分を用いるかによっても影響を受けるパターンの方位やパターン位置が変わり、CDにおけるHV差や画面内の均一性の低下の要因になりうる。
【0030】
図6で示すように相対位置シフト量の分布が高周波成分を含む場合、従来のように低周波成分のみを含む場合に比べ、MSDおよびMSDのショット領域内ばらつきが大きくなり、その結果、CD変化およびCD均一性が低下する傾向がある。したがって、走査露光で原版4から基板7上に転写されるパターン像の線幅(CD)に関する指標が許容範囲内に収まるように、相対位置シフト量の分布(即ち、駆動プロファイル)を求めることが望まれる。なお、線幅(CD)に関する指標とは、基板7上に転写されるパターン像の線幅(CD)、線幅均一性(CD均一性)、およびコントラストのうち少なくとも1つを含みうる。以下では、線幅(CD)に関する指標を「CD指標」と表記することがある。
【0031】
ディストーション量およびCD指標については、走査露光を行うレイヤごとに許容される範囲が設定されうる。半導体デバイスは、通常数十層のレイヤの重ね合わせ露光を経て製作される。半導体デバイスが良好に機能するためには、各レイヤの重ね合わせ精度が重要である。そのため、原版4のパターン像を基板上に精度よく転写するためには、原版4のパターン像のディストーション補正残差、即ち、原版4のパターン像と基板7の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まるようにする必要がある。また、前述したように、原版4のパターン像を基板上に精度よく転写するためには、CD指標についても許容範囲内に収まるようにする必要がある。したがって、原版4のパターン像のディストーション補正残差(重ね合わせ誤差)が規定範囲内に収まり、且つ、CD指標が許容範囲内に収まるように、相対位置シフト量の分布(即ち、駆動プロファイル)を求める必要がある。
【0032】
以下、本実施形態における駆動プロファイルの決定方法について説明する。駆動プロファイルは、走査露光における原版4と基板7との相対駆動に用いられるプロファイルであり、相対位置シフト量の分布に基づいて決定されうる。駆動プロファイルは、位置プロファイル、速度プロファイル、加速度プロファイルのうち少なくとも1つを含みうる。位置プロファイルとは、走査露光における原版4と基板7との相対位置のプロファイルである。速度プロファイルとは、走査露光における原版4と基板7との相対位置のプロファイルであり、加速度プロファイルとは、走査露光における原版4と基板7との相対位置のプロファイルである。なお、以下では、相対位置シフト量のY方向成分を算出する例を説明するが、X方向成分およびθ方向成分についても同様の方法によって算出可能である。また、駆動プロファイルの決定方法を行う主体は、露光装置10に内蔵されたソフトウエアでも構わないし、露光装置10の外部で動作するソフトウエアでも構わない。
【0033】
図7は、本実施形態における駆動プロファイルの決定方法を示すフローチャートである。以下では、露光装置10の制御部8(情報処理装置)によって
図7のフローチャートが実行される例を説明するが、
図7のフローチャートは、露光装置10の外部に設けられた情報処理装置によって実行されてもよい。
【0034】
ステップS101で、制御部8は、基板7の下地パターンの形状(歪み)を示す情報(以下では、下地パターン情報と表記することがある)を取得する。下地パターン情報は、基板上に転写すべき原版4のパターン像の目標形状(目標ディストーション量)を示す情報として理解されてもよい。下地パターン情報は、例えば、基板7(ショット領域)の下地パターンにおける複数点での歪量を外部の計測装置で計測することによって得られるY座標と歪量との点列データセットである。基板7における複数のショット領域で下地パターンの形状(歪み)が同様である場合には、当該複数のショット領域について共通に用いる下地パターン情報を取得しうる。一方、基板7における複数のショット領域で下地パターンの形状(歪み)が異なる場合には、ショット領域ごとに下地パターン情報を取得しうる。
【0035】
ステップS102で、制御部8は、ディストーション補正残差(重ね合わせ誤差)の規定範囲(許容範囲)と、CD指標の許容範囲とを取得する。CD指標は、前述したように、基板7上に転写されるパターン像の線幅(CD)、線幅均一性(CD均一性)、およびコントラストのうち少なくとも1つを含みうる。また、ディストーション補正残差の規定範囲およびCD指標の許容範囲は、制御部8(情報処理装置)に接続された入力部を介してユーザによって入力されうる。
【0036】
ステップS103で、制御部8は、走査露光の露光条件を初期値に設定する。当該露光条件は、走査露光における原版4と基板7との相対駆動の駆動条件を含みうる。駆動条件は、相対位置シフト量の微分制約、および、相対位置シフト量の二次微分制約のうち少なくとも1つの条件を含みうる。相対位置シフト量の微分制約の条件は、原版4と基板7との相対速度の制約条件として理解されてもよく、相対位置シフト量の二次微分制約の条件は、原版4と基板7との相対加速度の制約条件として理解されてもよい。また、当該露光条件は、スリット幅、および、基板7の照明モードのうち少なくとも1つを更に含んでもよい。スリット幅は、前述したように、スリット光(光照射領域41)における走査方向(Y方向)の長さである。本実施形態では、上記の4つのパラメータを用いているが、計算結果に影響を与えるパラメータが他にある場合には、それらを含めてもよい。
【0037】
ここで、相対位置シフト量の微分制約について説明する。
図6を例にすると、太線で表される曲線が、相対位置シフト量をショット領域内のY位置(Y座標)の関数として表したものであり、この曲線の傾き(微分値)に対してある制約(上下限値)を設け、これを相対位置シフト量の微分制約としている。相対位置シフト量は、走査露光中の各瞬間において、投影光学系5の物体面および像面におけるXY方向の共役点に対して原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対位置をシフトさせる量として定義されうる。そのため、Y方向における相対位置シフト量の微分値は、Y位置(Y座標)に関する微分であるが、実際には原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対位置の時間微分とほぼ等価である。即ち、相対位置シフト量の微分制約は、間接的に、原版4と基板7とを相対駆動するための駆動プロファイルの速度に設けられた制約、具体的には、駆動プロファイルの平均速度からのズレに設けられた制約を意味している。同様に、相対位置シフト量の二次微分制約は、相対位置ズレ量に対するY位置(Y座標)の二階微分に上下限制約を設けたものである。相対位置シフト量の二次微分制約は、間接的に、原版4と基板7とを相対駆動するための駆動プロファイルの加速度に設けられた制約を意味している。
【0038】
このように相対位置シフト量に対して微分制約および二次微分制約を設けることで、原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対駆動における極端な動作を抑える効果がある。これらは、現実的な範囲内で原版4と基板7との相対駆動を行うための駆動プロファイルを探索するために必要な制約である。また、微分値を制限するため、MSDが小さくなり、CD指標の向上(例えば、CD均一性の低下の抑制効果)も期待できる。ただし、微分制約および二次微分制約を厳しくしすぎると、原版4のパターン像のディストーション量を変化させる能力(即ち、重ね合わせ誤差を低減する能力)が制限されるため、必要なディストーション量の解が得られなくなる可能性がある。そのため、微分制約および二次微分制約については適正な値で制約することが重要である。後述するように相対位置シフト量の計算を開始する際には、微分制約および二次微分制約について、適正な値が不明であるため、適当な初期値が設定されうる。
【0039】
次に、スリット幅について説明する。走査方向(Y方向)におけるスリット光(光照射領域41)の照度分布は、
図2(b)に示すように、典型的には台形分布をしている。スリット幅のパラメータとしては、台形分布の半値全幅aおよび斜面幅bの2種類がある。定性的には、スリット光の照度分布における半値全幅aを小さくすると、相対位置シフト量とその移動平均とが互いに近づき、またMSDも小さくなる。そのため、半値全幅aを小さくする方が、ディストーション補正残差(重ね合わせ誤差)の低減にもCD指標の向上(例えばCD均一性の低下抑制)にも有利である。しかしながら、スリット幅を小さくしすぎると、照度ムラの低下やスループットの低下など他の要因に影響を与える可能性がある。その観点から、スリット幅としては、極力、露光装置10で一般に用いられている標準的な値に近い値が望ましい。このスリット幅に関してもバランスが重要ではあるが、初期値として、例えば露光装置10の標準的な値に設定されうる。
【0040】
次に、照明モードについて説明する。照明モードとは、投影光学系5のNA(開口数)と有効光源との組み合わせで表される露光装置10のパラメータである。例えば、Conventional照明においては、NAおよび照明σの2つのパラメータがあり、また、Annular照明においては、NA、外側σおよび内側σの3つのパラメータがある。照明モードのパラメータを変えることによってもCD指標(例えばCD均一性)への影響を変えることができる。これは、CDの変化量はMSDの2乗に比例するが、その比例係数は照明モードによって異なるからである。よって、基板7の下地パターンとしての代表的なパターンに対するMSD-CD敏感度を予め複数の照明モードの各々でシミュレーション等により求めておくことで、CD指標(例えばCD均一性)に対して有利な照明モードを選択することが可能となる。
【0041】
ステップS104で、制御部8は、露光条件に基づいて相対位置シフト量の分布(形状)を計算し、それに従って走査露光を行ったときに基板上に転写されるパターン像(具体的には、パターン像の形状)を推定する。本ステップS104では、ステップS103で設定された露光条件、或いは、後述するステップS107で変更された露光条件に基づいて、相対位置シフト量の分布が計算される。次いで、ステップS105で、制御部8は、ステップS104で推定されたパターン像に基づいて、ディストーション補正残差およびCD指標を計算する。なお、ステップS104~S105の計算方法としては、具体的には下記で説明する手法を用いるが、計算過程の詳細については類似の手法が適宜応用可能であり、下記の手法に限定されるものではない。
【0042】
まず、求めるべき相対位置シフト量の分布(位置座標Yの関数)をf(y)とおき、以下の式(1)のようにFourier級数展開された形で表現する。
【0043】
【0044】
ここで、k=2π/Tである。「T」は、相対位置シフト量の分布に含まれる周波数成分の波の中で最も長い周期(mm)である。
図5に示すように原版4のパターン像の目標形状(即ち、基板7の下地パターンの形状)が周期構造を持っている場合、「T」は、当該目標形状の1周期と同じ値に設定すればよい。或いは、適当に大きい値(例えば、光照射領域41(露光フィールド)の2倍程度等)に設定するとよい。また、Fourier級数の最大次数Mは、「M≦T・fc/v」の式が満たされるように決定する。ここで、「fc」は、ステージの最大制御周波数(Hz)であり、vは、走査速度(mm/s)である。また、パターン像の目標形状を表すためのデータ数は(2M+1)以上が必要である。相対位置シフト量の分布をこのような形で表現することにより、関数f(y)の形状を求める問題は、Fourier級数の係数A0~An,B1~Bnを求める問題に帰着する。
【0045】
f(y)ついてのy微分f’(y)およびyの二次微分f”(y)は、以下の式(2)~(3)によってそれぞれ表すことができる。
【0046】
【0047】
【0048】
また、相対位置シフト量の分布の関数とスリット光の照度分布の関数とのコンボリューション演算結果dist(y)は、以下の式(4)によって表すことができる。
【0049】
【0050】
ここで、式(4)は、「sinc(x)=sin(x)/x」で定義される関数である。また、式(4)における「a」「b」は、
図2(b)で示すように、スリット光の照度分布(台形分布)における半値全幅a(mm)および斜面幅b(mm)をそれぞれ示している。これは、周波数空間においては、コンボリューション演算は掛け算に変換される性質を利用している。
【0051】
以上を踏まえ、最適化計算によってA0~An,B1~Bnを求める。最適化手法としては、線形計画法、2次計画法などが使用されうる。まず、パターン像の目標形状(目標データ)における各点のY座標を式(4)に代入して、A0~An,B1~Bnとパターン像のディストーション量の分布との関係式を求める。また、パターン像のディストーション量の分布とパターン像の目標形状との差分をとる。これにより、Y方向の各点についてディストーション補正残差(重ね合わせ誤差)を表現することができる。そして、ディストーション補正残差を用いて目的関数を構築する。線形計画法の場合には、ディストーション補正残差の最大値、または絶対値和、あるいは両者の線形結合を最小化すべき目的関数として設定することができる。2次計画法の場合には、ディストーション補正残差の2乗和を目的関数として設定することができる。
【0052】
また、原版4と基板7との相対駆動の駆動条件(制約条件)として、式(2)~(3)を用いることで、相対位置シフト量の微分(即ち速度)および二次微分(即ち加速度)が設定した上下限値を超えないように制限することができる。また、必要に応じて、式(1)を用いて、相対位置シフト量の分布(形状)自体の上下限を設定することもできる。また、MSDに相当する量を間接的に制約に加えることもできる。MSD自体は二次の量であるため、そのままの形では線形計画法に組み込むことができないが、各点のディストーション補正残差の平均値との差分の絶対値の平均(平均偏差)であれば定式化できる。平均偏差と標準偏差とは略対応関係があることが知られているため、それを制約化することで簡易的にMSDを抑えることができる。なお、2次計画法であれば、MSDの2乗に相当する量を定式化可能である。以上のように目的関数と制約関数とを設定し、線形計画法または2次計画法を用いることで、相対位置シフト量の分布を算出することができる。相対位置シフト量の分布を算出することができれば、当該相対位置シフト量の分布を用いて走査露光を行った場合に基板上に転写されるパターン像(の形状)を推定することができる。そのため、推定されたパターン像に基づいて、走査方向(Y方向)の各点におけるディストーション補正残差およびCD指標を算出することができる。
【0053】
ステップS106で、制御部8は、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まっており、且つ、CD指標が許容範囲内に収まっているかを判定する。ディストーション補正残差が規定範囲内に収まっており、且つ、CD指標が許容範囲内に収まっている場合にはステップS108に進む。一方、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まっていない、および/または、CD指標が許容範囲内に収まっていない場合にはステップS107に進む。
【0054】
ステップS107で、制御部8は、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まり、且つ、CD指標が許容範囲内に収まるように、走査露光の露光条件を変更する。制御部8は、露光条件として、相対位置シフト量の微分制約の条件(原版4と基板7との相対速度の制約条件)、相対位置シフト量の二次微分制約の条件(原版4と基板7との相対加速度の制約条件)の少なくとも1つを変更する。相対位置シフト量の微分制約の条件および二次微分制約の条件の少なくとも1つは、走査露光における原版4と基板7との相対駆動の駆動条件である。また、制御部8は、露光条件として、駆動条件に加えて、スリット幅および照明モードのうち少なくとも1つを変更してもよい。ステップS107で露光条件を変更したら、ステップS104~S106を再び実行する。
【0055】
微分制約の条件、二次微分制約の条件、スリット幅および照明モードの各々を個別に変更したときのディストーション補正残差およびCD指標の変化傾向を示す情報は、実験やシミュレーション等によって事前に取得されている。そのため、制御部8は、当該情報に基づいて、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まり、且つ、CD指標が許容範囲内に収まるように、走査露光の露光条件を変更(調整)することができる。
【0056】
例えば、ディストーション補正残差が規定範囲内であるがCD指標が許容範囲外であるならば、微分制約、二次微分制約の少なくとも1つを変更する(具体的には、現状より小さい値に設定する)。これにより、ディストーション補正残差とCD指標とのバランスをとるとともに、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まり且つCD指標が許容範囲内に収まるように露光条件を変更して、ステップS104~S105の再計算を実行することができる。また、例えば、ディストーション補正残差が規定範囲外でありCD指標も許容範囲外であるならば、スリット幅を変更する(具体的には、現状より小さい値に設定する)。これにより、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まりCD指標が許容範囲内に収まるように露光条件を変更して、ステップS104~S105の再計算を実行することができる。また、例えば、ディストーション補正残差が規定範囲内であるがCD指標が許容範囲外であり、且つ、照明モードを変更する余地がある場合には、MSD-CD敏感度のより小さい照明モードを選択する。
【0057】
このように計算パラメータとしての露光条件を変更して、ステップS104~S105で、相対位置ズレ量とディストーション補正残差およびCD指標を再び計算する。ステップS104~S107は、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まり且つCD指標が許容範囲内に収まるまで繰り返し実行される。即ち、ステップS104~S107は、走査露光で基板上に転写されるパターン像を推定し、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まり且つCD指標が許容範囲内に収まるように、走査露光の露光条件を調整する工程として理解されてもよい。ここで、本実施形態では、駆動条件(微分制約の条件および二次微分制約の条件の少なくとも1つ)は露光条件の必須の項目であるため、ステップS104~S107において駆動条件のみを調整してもよい。また、ステップS104~S107においてスリット幅および照明モードも露光条件として調整する場合には、駆動条件に加えて、スリット幅および照明モードの少なくとも1つを調整しうる。
【0058】
ステップS108で、制御部8は、ステップS104~S106で調整された露光条件(駆動条件)に基づいて、走査露光における原版4と基板7との相対駆動に用いられる駆動プロファイルを決定する。具体的には、ステップS108に進む場合、直前のステップS104において、ディストーション補正残差が規定範囲内に収まり、且つ、CD指標が許容範囲内に収まるように相対駆動シフト量の分布が算出されている。そのため、制御部8は、ステップS104で最終的に算出された相対位置シフト量の分布に基づいて、駆動プロファイルを決定することができる。
【0059】
ステップS109で、制御部8は、ステップS108で決定された駆動プロファイルに基づいて、原版4と基板7とを相対駆動する駆動機構(原版ステージ3および基板ステージ6の少なくとも一方)を制御するための制御信号を生成する。制御信号は、駆動機構に入力する入力信号として理解されてもよい。例えば、制御部8は、ステージの周波数特性を逆適用することによって制御信号を生成しうる。原版ステージ3および基板ステージ6は、それぞれ周波数特性を有している。周波数特性とは、ステージに対する駆動制御として様々な周波数の正弦波を入力したとき、実際のステージ駆動において振幅と位相とがどれだけ変化したかを表したものである。したがって、ステージを所望の通り駆動させたいときには、周波数特性を考慮することが重要である。特に高周波成分を含む駆動形状の場合に重要になる。本実施形態の場合、原版ステージ3と基板ステージ6が4:1の速度比で駆動する。そのため、両ステージの相対位置シフト量を制御するには、原版ステージ3を直線運動させながら、基板ステージ6の位置を制御することによって相対位置シフト量を制御する方が自然で容易である。この場合、高周波成分を含む制御信号を入力するのは基板ステージ6に対してのみである。そのため、以下では、基板ステージ6に対する制御信号について説明する。ただし、原版ステージ3を制御する場合も同様である。
【0060】
制御部8(計算ソフトウエア)は、露光装置10における計算対象としての基板ステージ6の周波数特性テーブルを保持している。周波数特性テーブルは、各周波数に対する振幅ゲインと位相シフトとの数値テーブルから成る。
図7のフローチャートにおける上記ステップにより、基板ステージ6を実際に駆動すべき駆動プロファイル(相対位置シフト量の分布)が算出されている。そこから、露光装置10(基板ステージ6)に入力する制御信号を算出するためには、周波数特性テーブルを逆適用すればよい。駆動プロファイル(相対位置シフト量の分布)は、Fourier級数展開の各周波数項の係数として得られているため、テーブルを逆適用するためには、単純に係数毎に振幅ゲインでの除算と位相変換とを行えばよい。
【0061】
以上により、ディストーション補正残差(重ね合わせ誤差)が規定範囲内に収まり、且つ、CD指標が許容範囲内に収まるように、走査露光における原版4と基板7との相対駆動に用いられる駆動プロファイル(相対位置シフト量)を決定することができる。そして、露光装置10において、制御部8は、当該駆動プロファイルに基づいて生成された制御信号に従って原版4と基板7とを相対駆動することにより、走査露光を制御する。これにより、ディストーション補正残差の低減とCD指標の改善とが両立するように、原版4のパターン像を基板上に精度よく転写することができる。即ち、CD指標を許容範囲内に収まるように、基板7の下地パターンの形状(歪み)に対応して、原版4のパターン像のディストーションを制御(補正)することが可能となる。
【0062】
ここで、本実施形態のディストーション補正を基板7上のあるレイヤに適用するには、まず、前の工程まで終了した基板に対して、抜き取り検査などを行い、ショット領域内の像ズレ(ショット領域の下地パターンの歪み)の測定を行う。もしくは、前の工程まで終了した基板に対して、ディストーション補正を行わない状態で当該レイヤのサンプル露光を行い、前のレイヤと当該レイヤとズレ(ディストーション)を測定する。サンプル露光に用いた基板は、リワークした後に本番の走査露光に用いる。どちらの場合も必要に応じて複数のショット領域に対して検査を行い、基板における複数のショット領域間で下地パターンの歪みに差がないか、ロット間で下地パターンの歪みに差がないかを確認しておくとよい。また、複数のショット領域でそれぞれ得られた下地パターンの歪みデータを平均することで計測誤差の影響を軽減しデータの信頼性を向上させることができる。
【0063】
こうして得られた下地パターンの歪みデータ(即ち、基板7に転写するパターン像の目標形状(目標データ))は、相対位置シフト量を算出するための情報処理装置(ソフトウエア)に入力される。当該情報処理装置(ソフトウエア)は、入力された下地パターンの歪みデータに基づいて、相対位置シフト量(即ち、駆動プロファイル)を決定し、原版4と基板7とを相対駆動する駆動機構を制御するための制御信号を生成する。このように生成された制御信号は、情報処理装置から露光装置10に送信される。露光装置10は、情報処理装置から得られた制御信号に従って原版4と基板7との相対駆動を制御することにより、基板7の当該レイヤに対して走査露光を行う。
【0064】
この場合において、当該レイヤの露光レシピに、ディストーション補正の目標データ(目標値)などの情報を含ませておくことで、算出された相対位置シフト量の指示値が当該レイヤの走査露光時に自動的に反映されるようにすることができる。相対位置シフト量を算出する情報処理装置(ソフトウエア)が露光装置10に内蔵されている場合に限らず、露光装置10の外部の別ツールである場合にも、露光装置10への入力をオンライン化することで自動反映が可能である。このように自動化することで、ディストーション補正の目標データがショット領域ごとに異なる場合にも、各ショット領域について、各ショット領域に対応した相対位置シフト量の分布(駆動プロファイル)が適用されうる。このように相対位置シフト量を算出する情報処理装置(ソフトウエア)と露光装置10とを一体的に運用することにより、ディストーション補正をシームレスに行うことが可能となる。
【0065】
また、当該レイヤの走査露光の後工程で、下地パターンの歪みが変化せず、次のレイヤにも同じ下地パターンの歪みの形状が引き継がれる場合には、当該次のレイヤに対しても同様の相対位置シフト量の分布を適用することができる。露光レシピとディストーション補正の目標データとを紐づけておくことで、そのような場合にも対応可能となる。
【0066】
以上、相対位置シフト量を制御することによるディストーション補正について説明してきた。本実施形態によれば、原版4(原版ステージ3)と基板7(基板ステージ6)との相対位置シフト量を変化させてディストーションを制御(補正)する際に、基板上に転写されるパターン像のCD指標を許容範囲に収めることができる。
【0067】
<物品の製造方法の実施形態>
本発明の実施形態にかかる物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、上記の露光装置(露光方法)を用いて基板の走査露光を行う露光工程と、露光工程で露光された基板を加工(現像)する加工工程と、加工工程で加工された基板から物品を製造する工程とを含む。露光工程は、基板上の感光剤に潜像パターンを形成する工程を含んでもよい。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0068】
<その他の実施形態>
本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0069】
<実施形態のまとめ>
本明細書の開示は、少なくとも以下の決定方法、露光方法、物品製造方法、プログラム、情報処理装置、および露光装置を含む。
(項目1)
基板の走査露光における原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとの相対駆動に用いられる駆動プロファイルを情報処理装置により決定する決定方法であって、
前記走査露光で前記原版から前記基板上に転写されるパターン像を推定し、前記パターン像と前記基板の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まり、且つ、前記パターン像の線幅に関する指標が許容範囲内に収まるように、前記相対駆動の駆動条件を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整された前記駆動条件に基づいて、前記駆動プロファイルを決定する決定工程と、
を含むことを特徴とする決定方法。
(項目2)
前記駆動条件は、前記原版ステージと前記基板ステージとの相対速度の制約条件、および、前記原版ステージと前記基板ステージとの相対加速度の制約条件のうち少なくとも1つを含む、ことを特徴とする項目1に記載の決定方法。
(項目3)
前記指標は、前記パターン像の線幅、線幅均一性およびコントラストのうち少なくとの1つを含む、ことを特徴とする項目1又は2に記載の決定方法。
(項目4)
前記調整工程では、前記パターン像を推定する工程を、前記重ね合わせ誤差が前記規定範囲内に収まり、且つ、前記指標が前記許容範囲内に収まるまで、前記駆動条件を変えて繰り返し行うことにより、前記駆動条件を調整する、ことを特徴とする項目1乃至3のいずれか1項目に記載の決定方法。
(項目5)
前記調整工程では、前記重ね合わせ誤差が前記規定範囲内に収まり、且つ、前記指標が前記許容範囲内に収まるように、前記駆動条件に加えて、前記基板上に照射されるスリット光の幅を調整する、ことを特徴とする項目1乃至4のいずれか1項目に記載の決定方法。
(項目6)
前記調整工程では、前記重ね合わせ誤差が前記規定範囲内に収まり、且つ、前記指標が前記許容範囲内に収まるように、前記駆動条件に加えて、前記基板の照明モードを調整する、ことを特徴とする項目1乃至5のいずれか1項目に記載の決定方法。
(項目7)
前記下地パターンの形状を示す情報を取得する取得工程を更に含み、
前記調整工程は、前記取得工程で取得された前記情報に基づいて行われる、ことを特徴とする項目1乃至6のいずれか1項目に記載の決定方法。
(項目8)
基板の走査露光を行う露光方法であって、
項目1乃至7のいずれか1項目に記載の決定方法を用いて駆動プロファイルを決定する工程と、
前記駆動プロファイルに基づいて、原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとを相対駆動することにより前記走査露光を行う工程と、
を含むことを特徴とする露光方法。
(項目9)
項目8に記載の露光方法を用いて基板の走査露光を行う露光工程と、
前記露光工程で露光された前記基板を加工する加工工程と、
前記加工工程で加工された前記基板から物品を製造する製造工程と、
を含むことを特徴とする物品製造方法。
(項目10)
項目1乃至7のいずれか1項目に記載の決定方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
(項目11)
基板の走査露光における原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとの相対駆動に用いられる駆動プロファイルを決定する情報処理装置であって、
前記走査露光で前記原版から前記基板上に転写されるパターン像を推定し、前記パターン像と前記基板の下地パターンとの重ね合わせ誤差が規定範囲内に収まり、且つ、前記パターン像の線幅に関する指標が許容範囲内に収まるように、前記相対駆動の駆動条件を調整する調整工程と、
前記調整工程で調整された前記駆動条件に基づいて、前記駆動プロファイルを決定する決定工程と、
を実行することを特徴とする情報処理装置。
(項目12)
基板の走査露光を行う露光装置であって、
項目11に記載の情報処理装置を含み、
前記情報処理装置により決定された駆動プロファイルに基づいて、原版を保持する原版ステージと前記基板を保持する基板ステージとを相対駆動することにより前記走査露光を行う、ことを特徴とする露光装置。
【0070】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0071】
2:照明光学系、3:原版ステージ、4:原版、5:投影光学系、6:基板ステージ、7:基板、8:制御部(情報処理装置)、10:露光装置