(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172475
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】異音診断システム
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20241205BHJP
G01M 17/007 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01M17/007 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090219
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】進藤 吉高
【テーマコード(参考)】
2G064
【Fターム(参考)】
2G064AA14
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB15
2G064CC29
2G064CC41
2G064CC46
2G064DD08
2G064DD14
(57)【要約】
【課題】未知の異音であってもその発生位置を特定する。
【解決手段】車室外の音源で発生する音の音圧に対する音源から車室内へ伝搬する音の音圧の割合として音源の位置毎に定められるボディ感度データのデータベースを記憶する記憶部と、車室内での音のデータとしての車室内音データと車室外での音のデータとしてのモニタデータとを取得する音取得部と、モニタデータを取得した取得位置に対応するボディ感度データを取得するボディ感度取得部と、ボディ感度データと車室内音データとを用いて異音発生源で発生していると推定される音のデータとしての音源推定データを算出する音源推定部と、モニタデータと音源推定データとが一致しているときには、取得位置の近傍に異音の発生源があると判定する判定部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両で発生する異音を診断する異音診断システムであって、
車室外の音源で発生する音の音圧に対する前記音源から車室内へ伝搬する音の音圧の割合として前記音源の位置毎に定められるボディ感度データのデータベースを記憶する記憶部と、
車室内での音のデータとしての車室内音データと車室外での音のデータとしてのモニタデータとを取得する音取得部と、
前記モニタデータを取得した取得位置に対応する前記ボディ感度データを取得するボディ感度取得部と、
前記ボディ感度データと前記車室内音データとを用いて異音発生源で発生していると推定される音のデータとしての音源推定データを算出する音源推定部と、
前記モニタデータと前記音源推定データとが一致しているときには、前記取得位置の近傍に前記異音の発生源があると判定する判定部と、
を備える異音診断システム。
【請求項2】
請求項1記載の異音診断システムであって、
前記モニタデータと前記音源推定データとが一致しているときには、前記取得位置を用いて前記異音の原因を診断する診断部
を備える異音診断システム。
【請求項3】
請求項1または2記載の異音診断システムであって、
前記モニタデータと前記音源推定データとが一致しているときには、前記判定部による判定結果をユーザに報知する報知部
を備える異音診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異音診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の異音診断システムとしては、車両において異音の発生位置を推定するものが提案されている(特に、特許文献1参照)。このシステムでは、車両の走行状態に紐付けられた既知の異音の発生位置のマップと特定の異音が発生する際の車両の走行状態とに基づいて、異音が発生する発生位置候補を抽出したうえで、車室内で音を集音し、集音した音の音圧の周波数部分に基づいて、所定の発生位置候補が実際の異音の発生位置である可能性があるか否かを判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の異音診断システムでは、既知の異音の発生位置のマップを用いていることから、未知の異音が発生しているときに、その未知の異音の発生位置を特定することが困難である。
【0005】
本開示の異音診断システムは、未知の異音であってもその発生位置を特定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の異音診断システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示の異音診断システムは、
車両で発生する異音を診断する異音診断システムであって、
車室外の音源で発生する音の音圧に対する前記音源から車室内へ伝搬する音の音圧の割合として前記音源の位置毎に定められるボディ感度データのデータベースを記憶する記憶部と、
車室内での音のデータとしての車室内音データと、車室外での音のデータとしてのモニタデータとを取得する音取得部と、
前記モニタデータを取得した取得位置に対応する前記ボディ感度データを取得するボディ感度取得部と、
前記ボディ感度データと前記車室内音データとを用いて異音発生源で発生していると推定される音のデータとしての音源推定データを算出する音源推定部と、
前記モニタデータと前記音源推定データとが一致しているときには、前記取得位置の近傍に前記異音の発生源があると判定する判定部と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
本開示の異音診断システムでは、車室外の音源で発生する音の音圧に対する音源から車室内へ伝搬した音の音圧の割合として音源の位置毎に定められるボディ感度データのデータベースを記憶している。車室内での音のデータとしての車室内音データと、車室外での音のデータとしてのモニタデータとを取得する。そして、モニタデータを取得した取得位置に対応するボディ感度データを取得する。更に、ボディ感度データと車室内音データとを用いて異音発生源で発生していると推定される音のデータとしての音源推定データを算出する。そして、モニタデータと音源推定データとが一致しているときには、取得位置の近傍に異音の発生源があると判定する。こうすれば、予め異音のデータを取得することなく、異音の発生源の位置を特定できる。この結果、未知の異音であってもその発生位置を特定できる。
【0009】
こうした本開示の異音診断システムにおいて、前記モニタデータと前記音源推定データとが一致しているときには、前記取得位置を用いて前記異音の原因を診断する診断部を備えていてもよい。こうすれば、より高い精度で異音の原因を特定できる。
【0010】
前記モニタデータと前記音源推定データとが一致しているときには、前記判定部による判定結果をユーザに報知する報知部を備えていてもよい。こうすれば、異音の発生位置を特定できたことをユーザに認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の異音診断システム1を示す概略構成図である。
【
図2】携帯端末10の表示部11(あるいは上記ウェブサイト)に表示される問診情報の入力画面(問診票)および入力例を示す説明図である。
【
図3】データベースDに格納されているボディ感度のデータの一例を示す説明図である。
【
図4】異音の発生位置の判定に際して、サーバ20で実行される判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本開示を実施するための形態について説明する。
【0013】
図1は、本開示の異音診断システム1を示す概略構成図である。同図に示す異音診断システム1は、動力発生源としてエンジンのみを搭載する車両や、動力発生源としてエンジンとモータとを搭載するハイブリッド車、動力発生源としてモータのみを搭載する電気自動車(燃料電池車両を含む)といった対象物としての車両Vで発生した異音の原因を診断するためのものであり、携帯端末10と、当該携帯端末10と通信により情報をやり取り可能なサーバ20とを含む。
【0014】
携帯端末10は、異音が発生した車両Vの所有者等(車両Vのユーザ)への応対や、車道あるいはテストベンチ上で車両Vを走行(作動)させて異音を再現する再現テストの実行に際して、車両販売店や整備工場等の作業者(異音診断システム1のユーザ)により利用させるものである。本実施形態において、携帯端末10は、CPUやGPUを含むSoC、ROM、RAM、補助記憶装置(フラッシュメモリ)M、表示部11、通信モジュール12、図示しないマイクロフォン等を含むスマートフォンであり、当該携帯端末10には、異音診断支援アプリケーション(プログラム)がインストールされている。そして、携帯端末10は、
図1に示すように、それぞれ異音診断支援アプリケーション(ソフトウェア)と、表示部11、通信モジュール12、SoC、ROM、RAM、マイクロフォンといったハードウェアとの協働により構築される、問診情報取得部13、音取得部14、車両状態取得部15、演算処理部16、抽出部17および表示制御部18を含む。
【0015】
携帯端末10の表示部11は、タッチパネル式の液晶パネルあるいは有機ELパネル等を含むものである。通信モジュール12は、近距離無線通信あるいはケーブル(ドングル)を介して車両Vの電子制御装置と各種情報をやり取りすると共に、例えばインターネット等のネットワークを介してサーバ20と各種情報をやり取りすることができる。問診情報取得部13は、異音診断支援アプリケーションと、表示部11,通信モジュール12、SoC、ROMおよびRAM等との協働により構築され、表示部11または通信モジュール12を介して、車両Vの所有者等から提供される異音発生時における車両Vの状態を示す情報(以下、「問診情報」という。)を取得する。問診情報は、車両Vの所有者等からの聞き取りを行なった車両販売店等の作業者により表示部11を介して携帯端末10に入力されてもよい。また、問診情報は、車両Vの所有者等が自身の携帯情報端末やパーソナルコンピュータ等から例えばサーバ20により提供される専用のウェブページに入力したものであってよい。この場合、携帯端末10は、作業者の操作に応じて、サーバ20から通信モジュール12を介して問診情報を取得する。
【0016】
図2に、携帯端末10の表示部11(あるいは上記ウェブサイト)に表示される問診情報の入力画面(問診票)および入力例を示す。問診情報は、
図2のその一部を示すように、車種情報、ご用命事項、発生日時、発生頻度、音の種類、車速等の車両Vの走行に際して変化する物理量、車両Vの運転状態、エンジン搭載車両における暖機影響、車両Vの運転中に運転者により選択される選択項目、車両Vの走行環境情報等を含む。車種情報は、車台番号あるいは車両識別番号といった車両Vの車種を特定するための情報である。ご用命事項は、車両Vの所有者等から提供された異音の発生状態の詳細な内容である。発生頻度は、常時、数回/日、1回/日、数回/週、1回/週、1回以下/月といった選択肢を含む予め用意されたドロップダウンリスト(一覧)から作業者または所有者等により選択される。
【0017】
音の種類は、それぞれ車両Vで発生する何れかの異音に対応した複数の擬音語(例えば、ガタガタ、カタカタ、ガラガラ、ガラガラ、カチン、キー、キーン等)を含むドロップダウンリストから車両Vの所有者等により実際に発生した異音に類似していると認識されたものが作業者または所有者等により選択される。物理量は、車速、エンジン回転数、モータ回転数、ブレーキランプスイッチのON/OFF時刻、操舵角、ハイブリッド車両や電気自動車の高電圧バッテリのSOC(例えば、満充電、通常、極低の何れか)等を含む。物理量は、作業者により車両Vの所有者等から聞き取られるか、当該所有者等により入力される。
【0018】
車両Vの運転状態は、始動、アイドリング、停車、発進、加速、定速走行、減速 (ブレーキOFF)、制動 (ブレーキON)、後退、旋回、ハイブリッド車両におけるモータ走行(エンジン駆動(充電)あり/なし)、ハイブリッド車両におけるハイブリッド走行(エンジンおよびモータによる駆動)といった選択肢を含むドロップダウンリストから作業者または所有者等により選択される。暖機影響は、冷間、温間、冷間および温間といった選択肢を含むドロップダウンリストから作業者または所有者等により選択される。選択項目は、シフトポジション(P,R,N,D,B,S(スポーツ)等の何れか)、走行モード(例えば、ノーマル、パワー、エコ、スノー、コンフォートの何れか)、補機の作動状態(エアコンやヘッドライトのON/OFF状態)等を含み、ドロップダウンリストから作業者または所有者等により選択される。走行環境情報は、段差路・荒い路面、平坦路、登坂路、降坂路といった路面状態や、晴れ、曇り、雨、雪といった天候等を含み、ドロップダウンリストから作業者または所有者等により選択される。なお 上記複数の項目のすべてが車両Vの所有者等から提供されるわけではなく、問診情報は、車両Vの所有者等のわかる範囲で提供されることは、いうまでもない。
【0019】
音取得部14は、異音診断支援アプリケーションと、SoC、ROM、RAM、車室内に取り付けられた車室内マイクロフォンおよび車室外に載置または固定されたマイクロフォン等との協働により構築され、再現テストが実行される際に車室内の音(音圧)および車室外の音の時間軸データを取得する。車両状態取得部15は、異音診断支援アプリケーションと、SoC、ROM、RAM、表示部11および通信モジュール12等との協働により構築され、再現テストが実行される際に音取得部14による音の時間軸データの取得に同期して車両Vの状態を示す情報(以下、「車両状態情報」)を取得する。車両状態情報は、上述の問診情報の項目に対応した複数の物理量(例えば、車速、エンジン回転数、モータ回転数、ブレーキランプスイッチのON/OFF時刻、操舵角、ハイブリッド車両や電気自動車の高電圧バッテリのSOC等)を含む。また、車両状態情報には、車両Vの電子制御装置や各種センサ等により算出または検出されて通信モジュール12を介して取得されるものと、作業者等が再現テストの開始前等に問診情報に基づいて表示部11から入力するものとが含まれる。演算処理部16は、異音診断支援アプリケーションと、SoC、ROMおよびRAM等との協働により構築され、音取得部14により取得された音の時間軸データの解析処理を実行する。抽出部17は、異音診断支援アプリケーションと、SoC、ROMおよびRAM等との協働により構築され、上述の問診情報等に基づいて演算処理部16の解析処理の結果の絞り込みを行なう。表示制御部18は、異音診断支援アプリケーションと、SoC、ROMおよびRAM等との協働により構築され、表示部11を制御する。
【0020】
異音診断システム1のサーバ20は、CPU、ROM、RAM、入出力装置等を含むコンピュータ(情報処理装置)であり、本実施形態では例えば上記車両Vを製造する自動車製造者により設置・管理される。サーバ20には、CPUやROM、RAMといったハードウェアと、予めインストールされた異音診断アプリケーション(プログラム)との協働により、車両Vでの異音の発生位置を診断する異音位置判定部21や車両Vで発生した異音を診断する異音診断部22が構築されている。異音位置判定部21は、携帯端末10により取得された問診情報や音の時間軸データ等に基づいて異音発生源の位置を特定する。異音位置判定部21の詳細については後述する。異音診断部22は、携帯端末10により取得された問診情報や音の時間軸データ、等に基づいて車両Vで発生した異音の原因や異音の発生源となった部品を診断するように教師あり学習(機械学習)により構築されたニューラルネットワーク(畳み込みニューラルネットワーク)を含むものである。異音診断部22の構築に用いられる教師データは、車両Vで発生することが判明している複数の異音毎に、異音が発生するタイミングを含む時間範囲について取得された音の時間軸データや上記問診情報の各項目の内容(値)等を含む。また、サーバ20では、車両Vでの新たな異音の発生が判明した場合、当該新たな異音について取得された音の時間軸データや上記問診情報の各項目の内容等を教師データとする異音診断部22の再学習が実行される。異音診断部22を構築するための技術としては、例えば、次の(1)-(5)の論文に記載されたもの、またはそれらの組み合わせを利用することができる。
【0021】
(1)“Unsupervised Filterbank Learning Using Convolutional Restricted Boltzmann Machine for Environmental Sound Classification”に記載された“CNN with filterbanks learned using convolutional RBM + fusion with GTSC and mel energies”および“CNN with filterbanks learned using convolutional RBM + fusion with GTSC”
(2)“LEARNING FROM BETWEEN-CLASS EXAMPLES FOR DEEP SOUND RECOGNITION”に記載された“EnvNet-v2 (tokozume2017a) + data augmentation + Between-Class learning”および“EnvNet-v2 (tokozume2017a) + Between-Class learning”
(3)“Novel Phase Encoded Mel Filterbank Energies for Environmental Sound Classification”に記載された“CNN working with phase encoded mel filterbank energies (PEFBEs), fusion with Mel energies”
(4)“Knowledge Transfer from Weakly Labeled Audio using Convolutional Neural Network for Sound Events and Scenes”に記載された“CNN pretrained on AudioSet”
(5)“Novel TEO-based Gammatone Features for Environmental Sound Classification”に記載された“Fusion of GTSC & TEO-GTSC with CNN”
【0022】
更に、サーバ20は、車種毎に、車室外の音源で発生する音の音圧に対する音源から車室内へ伝搬する音の音圧の割合として音源の位置毎に定められるボディ感度のデータを格納したデータベースDを記憶する記憶装置23を含む。
図3は、データベースDに格納されているボディ感度のデータの一例を示す説明図である。データベースDは、車室外の音源の位置毎に、周波数とボディ感度との関係を格納するものである。図中、実線は、音源がエンジンルームにある場合の周波数とボディ感度との関係である。破線は、音源がトランクルームにある場合の周波数とボディ感度との関係である。
【0023】
続いて、異音診断システム1による異音位置判定手順および異音診断手順について説明する。
【0024】
車両販売店や整備工場等の作業者は、車両Vの所有者等からの異音の解消を依頼されると、当該所有者等から問診情報を聞き取るか、あるいはサーバ20から問診情報を取得したうえで、異音の診断に必要な情報を取得するための再現テストを実行する。再現テストの実行に際して、作業者(ユーザ)は、携帯端末10の上記異音診断支援アプリケーションを起動させ、表示部11に表示される録音ボタンをタップする。更に、作業者は、表示部11に表示される入力画面に所有者等から提供された問診情報のうちの必要な情報を入力し、携帯端末10を対象車両の電子制御装置に接続する。上述のように、携帯端末10と対象車両の電子制御装置とは、近距離無線通信により接続されてもよく、ケーブル(ドングル)を介して接続されてもよい。そして、作業者が車両Vのスタートスイッチ(IGスイッチ)をオンすると、携帯端末10は、車両Vの車台番号あるいは車両識別番号といった車両情報を当該電子制御装置から取得する。ただし、車両情報は、作業者によって携帯端末10に入力されてもよい。
【0025】
更に、作業者は、車両Vの車室内の乗員の耳位置と想定されている位置またはその近傍にマイクロフォンを設置する。携帯端末10を例えばエンジンルームやドア、トランクルームなど車両Vの車室外の予め定められた音取得位置に載置または固定する。また、携帯端末10に外部マイクロフォンが接続された場合、当該外部マイクロフォンは、音取得位置に設置される。次いで、作業者は、表示部11に表示される録音開始ボタンをタップすると共に、車道や試験台上で車両Vを走行(作動)させ、当該車両Vの所有者等からの問診情報に基づいて異音が発生した走行状態を再現する。車両Vが走行(作動)する間、携帯端末10の音取得部14は、車室内のマイクロフォンおよび車室外のマイクロフォン(携帯端末10、または、携帯端末10に外部マイクロフォンが接続された場合、当該外部マイクロフォン)により集音される音の時間軸データを所定時間(微小時間)おきに取得する。車両状態取得部15は、音取得部14による音の時間軸データの取得に同期して車両Vの電子制御装置から所定時間(微小時間)おきに車両状態情報を取得する。音取得部14および車両状態取得部15は、車両Vの停車等に応じて表示部11に表示される録音停止ボタンが作業者によりタップされるまで、音の時間軸データおよび車両状態情報を取得する。音の時間軸データおよび車両状態情報の取得が完了すると、携帯端末10の演算処理部16および抽出部17により車室内の音の時間軸データおよび車室外の音の時間軸データの解析処理が実行される。演算処理部16は、音取得部14により取得されている車室内の音の時間軸データおよび車室外の音の時間軸データのそれぞれにSTFT(Short-Time Fourier Transform)を施し、車室内の音の時間と周波数と音圧との関係を示す第1スペクトログラム(第1音響スペクトログラム)と、車室外の音の時間と周波数と音圧との関係を示す第2スペクトログラム(第2音響スペクトログラム)とを取得し、音取得位置と共に第1、第2スペクトログラムをサーバ20に送信する。
【0026】
図4は、異音の発生位置の判定に際して、サーバ20で実行される判定処理の一例を示すフローチャートである。携帯端末10から音取得位置と第1、第2スペクトログラムとがサーバ20に送信されると、当該サーバ20の異音位置判定部21は、携帯端末10から与えられた第1、第2スペクトログラムに基づいて、第1スペクトログラムにおける周波数と音圧との関係である車室内音データと、第2スペクトログラムにおける周波数と音圧との関係であるモニタデータとを取得する(ステップS100)。
【0027】
続いて、音取得位置に基づいてボディ感度データを取得する(ステップS110)。ボディ感度データの取得は、記憶装置23に格納されているデータベースDから音取得位置に対応するボディ感度データを導出することで行なわれる。ボディ感度データを取得すると、ボディ感度データと前記車室内音データとを用いて異音発生源で発生していると推定される音のデータとしての音源推定データを取得する(ステップS120)。音源推定データは、周波数毎に、車室内音データをボディ感度データで除して算出される。音源推定データを取得すると、モニタデータと取得した音源推定データとが一致しているか否かを判定する(ステップS130)。モニタデータと音源推定データとが一致しているか否かは、周波数毎のモニタデータの音圧と音源推定データの音圧とを比較し、モニタデータの音圧と音源推定データの音圧とが一致している判断できる程度にモニタデータの音圧と音源推定データの音圧との差が小さいときに、モニタデータが音源推定データと一致していると判定する。
【0028】
ステップS130でモニタデータと取得した音源推定データとが一致していないときには、音取得位置の近傍に異音発生源はないと判定して(ステップS140)、判定結果を携帯端末10に送信して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。判定結果を受信した携帯端末10は、受信した判定結果を表示部11に表示する。こうすれば、取得位置が異音の発生位置ではないことを、ユーザに認識させることができる。この場合、ユーザは、車室外のマイクロフォン(携帯端末10、または、携帯端末10に外部マイクロフォンが接続された場合、当該外部マイクロフォン)と別の音取得位置に設置して、車室内の音の時間軸データ、車室外の音の時間軸データおよび車両状態情報を再度取得する。そして、得られた音の時間軸データ車室内の音の時間軸データおよび車室外の音の時間軸データのそれぞれにSTFTを施し、車室内の音の時間と周波数と音圧との関係を示す第1スペクトログラム(第1音響スペクトログラム)と、車室外の音の時間と周波数と音圧との関係を示す第2スペクトログラム(第2音響スペクトログラム)とを取得し、音取得位置と共に第1、第2スペクトログラムをサーバ20に送信する。サーバ20は、再度、
図4に例示した処理を実行して、音取得位置が異音の発生位置であるか否かを判定する。
【0029】
ステップS130でモニタデータと取得した音源推定データとが一致しているときには、音取得位置の近傍に異音発生源があると判定し(ステップS150)、判定結果と音取得位置と第2スペクトラムとを携帯端末10に送信して(ステップS160)、本ルーチンを終了する。判定結果を受信した携帯端末10は、受信した判定結果を表示部11に表示する。こうすれば、異音発生源が音取得位置の近傍にあること、即ち、異音の発生位置を特定できたことをユーザに認識させることができる。本実施形態では、異音診断の際に、携帯端末10で取得した車室内の音データおよび車室外の音データと、予め取得して記憶装置23に記憶しているボディ感度のデータベースDとを用いて、異音の発生位置を特定するから、作業者は、未知の異音であってもその発生位置を特定できる。
【0030】
こうして異音発生位置を特定すると、携帯端末10の表示部11に第2スペクトログラムを表示する。携帯端末10の表示部11にスペクトログラムが表示されると、作業者は、表示部11に表示される選択指示ボタンをタップしてスペクトログラムのうちの上記異音診断部22(サーバ20)により解析されるべき範囲(以下、「解析範囲」という。)を携帯端末10に抽出(選択)させるか、あるいは表示部11で自らの指先により解析範囲を選択(指定)し、サーバ20に送信する。サーバ20の異音診断部22は、異音発生源があると判定した音取得位置での第2スペクトログラムと、問診情報と、解析範囲とに基づいて、車両Vで発生した異音の原因を診断し、診断結果を携帯端末10に送信する。診断結果には、車両Vで発生した異音の原因、異音の発生源となった部品および記憶装置23から読み出した当該異音を解消するための対策等が含まれる。このように、予め異音の発生位置を特定したうえで、異音の原因を診断することにより、より高い精度で異音の原因を特定できる。
【0031】
以上説明した実施形態の異音診断システム1によれば、車室内での音のデータとしての車室内音データと車室外での音のデータとしてのモニタデータとを取得し、モニタデータを取得した取得位置に対応するボディ感度データを取得し、ボディ感度データと車室内音データとを用いて異音発生源で発生していると推定される音のデータとしての音源推定データを算出し、モニタデータと音源推定データとが一致しているときには、音取得位置の近傍に異音の発生源があると判定することにより、未知の異音であってもその発生位置を特定できる。
【0032】
また、モニタデータと音源推定データとが一致しているときには、音取得位置におけるモニタデータを用いて異音の原因を診断することにより、より高い精度で異音の原因を特定できる。
【0033】
更に、モニタデータと音源推定データとが一致しているときには、ユーザに判定結果を報知することにより、異音の発生位置を特定できたことをユーザに認識させることができる。
【0034】
本実施形態の異音診断システム1では、音取得位置の近傍に異音発生源があると判定したときには、音発生源があると判定した音取得位置におけるモニタデータを用いて異音の原因を診断している。しかし、音発生源があると判定した音取得位置を考慮することなく、車室外の音の時間軸データから取得するスペクトログラムに基づいて異音の原因を診断し、異音の原因となっている装置の設置位置と音取得位置とが一致したときに、異音の原因となっている装置を確定してもよい。こうすれば、より精度よく異音の原因を特定できる。
【0035】
本実施形態の異音診断システム1では、ステップS160で判定結果を携帯端末10に送信しているが、判定結果を携帯端末10に送信しなくてもよい。
【0036】
本実施形態の異音診断システム1では、サーバ20が
図4の判定処理ルーチンを実行している。しかし、
図4の判定処理ルーチンの一部またはすべての処理を携帯端末10に実行させてもよい。
【0037】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、異音診断システムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0039】
1 異音診断システム、10 携帯端末、11 表示部、12 通信モジュール、14 音取得部、16 演算処理部、17 抽出部、18 表示制御部、20 サーバ、21 異音位置判定部、22 異音診断部、23 記憶装置、V 車両。