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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172487
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】磁気コアおよび磁性部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20241205BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20241205BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20241205BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20241205BHJP
   B22F 1/052 20220101ALN20241205BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B22F1/052
C22C38/00 303S
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090240
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小枝 真仁
(72)【発明者】
【氏名】荒 健輔
(72)【発明者】
【氏名】森 智子
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018AA24
4K018BA04
4K018BA13
4K018BA14
4K018BB03
4K018BB04
4K018BB06
4K018BB07
4K018BC08
4K018BC11
4K018BC13
4K018BC28
4K018CA02
4K018CA09
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA04
5E041AA05
5E041AA07
5E041AA11
5E041BB03
5E041CA02
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】優れた直流重畳特性を有する磁気コア、および、磁性部品を提供すること。
【解決手段】軟磁性粉末を含む磁気コアである。磁気コアの断面における軟磁性粉末の平均面積率が、75%以上90%以下であり、軟磁性粉末の面積率分布における歪度が、絶対値で0.01以上である。軟磁性粉末の面積率分布は、磁気コアの断面を等間隔格子で区分けすることで区画される各正方形領域において、軟磁性粉末の面積率を算出することで、特定される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を含む磁気コアであり、
前記磁気コアの任意の断面における前記軟磁性粉末の面積率の平均が、75%以上90%以下であり、
前記断面における前記軟磁性粉末の最大粒子径をDMAXとして、前記断面を等間隔格子で区分けすることで区画される、面積が(2DMAX2である各正方形領域における前記軟磁性粉末の面積率を算出することにより特定される、前記断面における前記軟磁性粉末の面積率分布の歪度が、絶対値で0.01以上である磁気コア。
【請求項2】
前記面積率分布の前記歪度が、絶対値で0.05以上である請求項1に記載の磁気コア。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気コア、および、コイルを有する磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軟磁性粉末を含む磁気コア、および、当該磁気コアを有する磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、トランス、チョークコイルなどの磁性部品は、様々な電子機器の電源回路などに多用されている。磁性部品では、磁気特性を向上させるために、磁気コアに含まれる軟磁性粉末の充填率を高める試みがなされてきた。たとえば、特許文献1では、軟磁性粉末として、粒度が異なる2種類の金属磁性粉を用いることで、磁気コアにおける軟磁性粉末の充填率を高めることができ、透磁率などの磁気特性が向上することが開示されている。
【0003】
ただし、磁気コアにおける軟磁性粉末の充填率を高めると、磁性粒子同士の接触点が増加することで局所的な磁気飽和がおき、直流重畳特性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-192729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示における例示的な実施形態の目的は、優れた直流重畳特性を有する磁気コア、および、磁性部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示に係る磁気コアは、軟磁性粉末を含み、
前記磁気コアの任意の断面における前記軟磁性粉末の面積率の平均が、75%以上90%以下であり、
前記断面における前記軟磁性粉末の最大粒子径をDMAXとし、前記断面を等間隔格子で区分けすることで区画される、面積が(2DMAX2である各正方形領域における前記軟磁性粉末の面積率を算出することにより特定される、前記断面における前記軟磁性粉末の面積率分布の歪度が、絶対値で0.01以上である。
【0007】
磁気コアが、上記の特徴を有することで、高い透磁率と、優れた直流重畳特性とを両立させることができる。
【0008】
好ましくは、前記面積率分布の前記歪度が、絶対値で0.05以上である。
【0009】
本開示に係る磁性部品は、前記磁気コア、および、コイルを有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る磁気コアの断面を示す模式図である。
図2図2は、軟磁性粉末の粒度分布の一例である。
図3A図3Aは、軟磁性粉末の面積率の測定方法を示す模式図である。
図3B図3Bは、軟磁性粉末の面積率の測定方法を示す模式図である。
図4図4は、軟磁性粉末の面積率分布を例示したグラフである。
図5図5は、図1に示す磁気コアを含む磁性部品の一例を示す断面模式図である。
図6A図6Aは、軟磁性粉末の平均面積率(充填率)と直流重畳定格電流(Isat)との関係を示すグラフである。
図6B図6Bは、軟磁性粉末の平均面積率(充填率)と初透磁率(μi)との関係を示すグラフである。
図6C図6Cは、初透磁率と直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
図7図7は、初透磁率と直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
図8図8は、初透磁率と直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
図9図9は、歪度の絶対値と直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、実施形態に係る各構成要素、たとえば、数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり、変更したりしてもよい。
【0012】
本実施形態に係る磁気コア2は、軟磁性粉末1と樹脂3とを含む複合磁性体である。軟磁性粉末1は、軟磁性金属からなる金属粒子10を含む。図1に示すように、軟磁性粉末1の金属粒子10は、樹脂3中に分散しており、金属粒子10が樹脂3を介して結合することにより、磁気コア2が所定の形状を成している。磁気コア2の外形寸法および形状は特に限定されない。なお、磁気コア2は、軟磁性粉末1および樹脂3の他に、空隙および改質剤などを含んでいてもよい。
【0013】
金属粒子10の組成および構造は、特に限定されない。たとえば、金属粒子10は、結晶質構造、ナノ結晶構造、もしくは、非晶質構造を有していてもよい。結晶質構造を有する軟磁性金属としては、純鉄、純コバルト、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Al-Ni合金、Fe-Ni-Si-Co合金、Fe-Co合金、Fe-Co-V合金、Fe-Co-Si合金、もしくは、Fe-Co-Si-Al合金などが挙げられる。ナノ結晶構造または非晶質構造を有する軟磁性金属としては、Fe-Si-B合金、Fe-Si-B-C合金、Fe-Si-B-C―Cr合金、Fe-Nb-B合金、Fe-Nb-B-P合金、Fe-Nb-B-Si合金、Fe-Co-P-C合金、Fe-Co-B合金、Fe-Co-B-Si合金、Fe-Si-B-Nb-Cu合金、Fe-Si-B-Nb-P合金、Fe-Co-B-P-Si合金、Fe-Co-B-P-Si-Cr合金などが挙げられる。
【0014】
金属粒子10の組成は、たとえば、EDX装置(エネルギー分散型X線分析装置)もしくはEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いて分析することができる。また、3DAP(3次元アトムプローブ)を用いて金属粒子10の組成を分析してもよい。3DAPを用いる場合には、測定対象の金属粒子10の内部において小さな領域(例えばΦ20nm×100nmの領域)を設定して平均組成を測定することができ、磁気コア2に含まれる樹脂成分や粒子表面の酸化などの影響を除外して粒子本体の組成を特定することができる。
【0015】
また、金属粒子10の構造は、XRD(X線回折)や電子線回折などを用いて解析することができる。本実施形態において、「非晶質構造」とは、非晶質化度が85%以上の構造、もしくは、電子線回折で結晶起因のスポットが検出されない構造を意味する。非晶質構造には、概ね非晶質で構成される構造、もしくは、ヘテロアモルファスからなる構造などが含まれる。ヘテロアモルファスからなる構造の場合、非晶質中に存在する結晶の平均径(平均結晶子径)が、0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。また、本実施形態では、「ナノ結晶構造」とは、非晶質化度が85%未満であって、かつ、平均結晶子径が100nm以下(好ましくは3nm~50nm)である構造を意味し、「結晶質構造」とは、非晶質化度が85%未満であって、かつ、平均結晶子径が100nmを超過する構造を意味する。
【0016】
非晶質化度は、XRDにより金属粒子10の構造を解析する場合、結晶性散乱積分強度と非晶性散乱積分強度の合計に対する非晶性散乱積分強度の比で表すことができる。また、電子顕微鏡を用いて金属粒子10の内部における非晶質部分と結晶化部分とを特定し、金属粒子10に占める非晶質部分の面積の比率から非晶質化度を求めてもよい。
【0017】
金属粒子10の粒径は、特に限定されず、たとえば、金属粒子10が、1μm以上100μm以下の平均粒径を有していてもよい。金属粒子10の粒径は、磁気コア2の断面を画像解析することで計測でき、本実施形態で示す「粒径」は、磁気コア2の断面で観測される金属粒子10の円相当径を意味するものとする。各金属粒子10の円相当径は、磁気コア2の断面における各金属粒子10の面積をαとして、(4α/π)1/2で表される。軟磁性粉末1の粒度分布は、磁気コア2の断面で少なくとも100個の金属粒子10の円相当径を計測することで、特定することが好ましく、金属粒子10の平均粒径は、計測した円相当径の算術平均値を算出することで特定すればよい。
【0018】
また、金属粒子10の形状は、必ずしも限定されないが、金属粒子10の平均円形度が、0.80以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。各金属粒子10の円形度は、磁気コア2の断面における各金属粒子10の面積をα、各金属粒子10の周囲長をLとして、2(πα)1/2/Lで表される。平均円形度は、少なくとも100個の金属粒子10の円形度を測定することで算出することが好ましい。
【0019】
軟磁性粉末1では、粒子表面を覆うように絶縁被膜が形成してあることが好ましい。絶縁被膜は、軟磁性粉末1を構成する各金属粒子10に形成してあってもよいし、軟磁性粉末1が、絶縁被膜を有する金属粒子10と、絶縁被膜を有していない金属粒子10と、を含んでいてもよい。絶縁被膜の材質は特に限定されない。たとえば、絶縁被膜は、粒子表面の酸化による被膜(酸化被膜)、もしくは、BN、SiO2、MgO、Al23、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、または各種ガラスなどの無機材料を含む被膜とすることができ、酸化物ガラスの被膜を含むことが好ましい。
【0020】
酸化物ガラスとしては、たとえば、ケイ酸塩(SiO2)系ガラス、リン酸塩(P25)系ガラス、ビスマス酸塩(Bi23)系ガラス、および、ホウケイ酸塩(B23-SiO2)系ガラスなどが例示される。より具体的に、ケイ酸塩系ガラスとしては、SiO2(Si-O系ガラス)、ソーダガラス(Si-Na-Ca-O系ガラス)、Si-Ba-Mn-O系ガラス、Si-Mn-Ca-Na-O系ガラスなどが例示される。リン酸塩系ガラスとしては、P25(P-O系ガラス)、P-Zn-Al-O系ガラス、P-Zn-Al-R-O系ガラス(「R」は、アルカリ金属から選択される1種以上の元素)などが例示される。ビスマス酸塩系ガラスとしては、Bi-Zn-B-Si-O系ガラス、Bi-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示される。また、ホウケイ酸塩系ガラスとしては、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示される。
【0021】
絶縁被膜は、2種以上の被膜を積層した構造を有していてもよい。絶縁被膜の平均厚みは、1nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0022】
軟磁性粉末1は、1種の粉末で構成してあってもよいが、粒子組成、および/または、粒径が異なる2種以上の粒子群を含むことが好ましい。たとえば、図3Bに示すように、軟磁性粉末1が、金属粒子10として、大粒子10aと、大粒子10aよりも小さい粒径を有する小粒子10bと、を含むことが好ましい。
【0023】
軟磁性粉末1が、大粒子10aおよび小粒子10bを含む場合、大粒子10aの平均粒径が、5μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましい。一方、小粒子10bの平均粒径が、2μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2μm未満であることがより好ましい。また、大粒子10aが、結晶質構造、ナノ結晶構造、もしくは、非晶質構造を有していてもよく、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶構造もしくは非晶質構造を有することが好ましい。一方、小粒子10bが、純鉄、純コバルト、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、もしくは、Fe-Co合金などの飽和磁束密度の高い結晶質構造の軟磁性金属であることが好ましい。
【0024】
また、磁気コア2に含まれる大粒子10aおよび小粒子10bの含有率は、特に限定されない。たとえば、磁気コア2の断面において、金属粒子10の合計面積に対する大粒子10aの合計面積の比率が、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。金属粒子10の合計面積に対する小粒子10bの合計面積の比率が、5%以上50%以下であることが好ましく、5%~30%であることがより好ましい。
【0025】
軟磁性金属1は、金属粒子10として、上記の大粒子10aおよび小粒子10bと共に、中粒子10cを含んでいてもよい。中粒子10cの平均粒径は、特に限定されず、たとえば、3μm以上5μm以下であることが好ましい。中粒子10cは、結晶質構造、ナノ結晶構造、もしくは、非晶質構造を有していてもよく、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶構造もしくは非晶質構造を有することが好ましい。中粒子10cの含有率は特に限定されず、たとえば、金属粒子10の合計面積に対する中粒子10cの合計面積の比率が、5%~30%であることが好ましい。
【0026】
上記のように、軟磁性粉末1が2種以上の粒子群を含む場合、軟磁性粉末1が絶縁被膜を有していない粒子群を含んでいてもよいが、大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bが、それぞれ、絶縁被膜を有することが好ましい。この場合、各粒子群が、同じ材質の絶縁被膜を有していてもよいし、それぞれ異なる材質の絶縁被膜を有していてもよい。また、各粒子群の平均円形度は、特に限定されないが、大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bが、それぞれ、0.80以上の平均円形度を有することが好ましい。
【0027】
大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bは、EDX装置またはEPMAを用いた面分析により、磁気コア2の断面に含まれる金属粒子10を組成に基づいて類別することで、識別することができる。また、軟磁性粉末1の粒度分布に基づいて、大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bを識別してもよい。たとえば、図2が軟磁性粉末1の粒度分布の一例である。図2に示すような粒度分布を特定した場合、「最も大径側に位置するPeak1に属する粒子群(LP1からEP1までの範囲の粒子群)」を大粒子10a、「最も小径側に位置するPeak2に属する粒子群(EP2からLP2までの範囲の粒子群)」を小粒子10b、「Peak1とPeak2の間に位置するPeak3に属する粒子群(LP2からLP1までの範囲の粒子群)」を中粒子10cとして特定してもよい。
【0028】
樹脂3は、軟磁性粉末1を所定の分散状態で固定する絶縁性の結着材である。樹脂3の材質は、特に限定されず、たとえば、樹脂3が、熱可塑性樹脂を含んでいてもよいが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、またはシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0029】
磁気コア2における軟磁性粉末1の充填率は、磁気コア2の断面における軟磁性粉末1の面積率で表される。「軟磁性粉末1の面積率」とは、磁気コア2の断面の面積に対する、当該断面に含まれる金属粒子10の合計面積の比率を意味する。本実施形態では、磁気コア2の任意の断面を複数の解析領域に分割し、各解析領域における軟磁性粉末1の面積率を測定することで、磁気コア2における軟磁性粉末1の面積率分布を特定する。以下、図3Aおよび図3Bに基づいて、面積率分布の特定方法について詳述する。
【0030】
まず、磁気コア2の任意の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、当該断面に含まれる金属粒子10の円相当径を計測する。そして、計測した円相当径の最大値を、軟磁性粉末1の最大粒子径DMAX(単位:μm)として特定する。次に、図3Aに示すように、観察している任意の断面を等間隔格子Gにより区分けする。等間隔格子Gは、一定間隔で並ぶ縦線と横線の組合せからなる仮想の仕切りであり、図3Aでは等間隔格子Gを点線で示している。等間隔格子Gの格子幅は、最大粒子径DMAXの2倍の長さに設定する。つまり、磁気コア2の任意の断面を、等間隔格子Gにより、1辺の長さが2DMAXで、(2DMAX2の面積を有する正方形領域20に区分けする。等間隔格子Gによって区画される正方形領域20を、面積率の解析単位とする。なお、等間隔格子Gにおける縦線の数と横線の数とは、異なっていてもよいが、同程度であることが好ましい。
【0031】
図3Bが、1つの正方形領域20を例示した模式図である。磁気コア2の任意の断面を区分けした後、各正方形領域20において軟磁性粉末1の面積率xiを測定する。各正方形領域20における軟磁性粉末1の面積率xi(単位:%)は、各正方形領域20の面積をAi(すなわち、Ai=(2DMAX2)とし、各正方形領域20に含まれる金属粒子10の合計面積をαiとして、Aiに対するαiの比率(αi/Ai)で表される。面積率xiを測定する正方形領域20の数は、少なくとも30に設定し、100以上に設定することが好ましい。上記の方法で、各正方形領域20における軟磁性粉末1の面積率xiを測定することで、磁気コア2における軟磁性粉末1の面積率分布を特定することができる。なお、上記の解析は、画像解析ソフトを利用して実施すればよい。
【0032】
本実施形態の磁気コア2では、面積率xiの平均(以下、平均面積率xAと称する)が、75%以上90%以下である。この平均面積率xAは、磁気コア2における軟磁性粉末1の平均充填率に相当する。平均面積率xAは、αi/Aiの合計をサンプル数(すなわち正方形領域20の数)で割ることで算出してもよいし、αiの合計をAiの合計で割ることで算出してもよい。
【0033】
また、磁気コア2では、軟磁性粉末1の面積率分布の歪度Sk(単位なし)が、絶対値で0.01以上である(すなわち、|0.01|≦Sk)。ここで、歪度Skは、面積率分布の左右対称性を示す指標であり、面積率分布が正規分布からどの程度歪んでいるかを表す統計量を意味する。具体的に、面積率分布の歪度Skは、以下の式(1)により算出される。
【数1】


上記の式(1)において、xiは各正方形領域20における軟磁性粉末1の面積率、xAは軟磁性粉末1の平均面積率、σは面積率の標準偏差、nはサンプル数(すなわち正方形領域20の数)を意味する。
【0034】
図4は、軟磁性粉末1の面積率分布を例示したグラフであり、当該グラフにおける横軸が面積率(すなわち充填率)であり、縦軸が頻度である。横軸に沿ってグラフの右側を高充填側と称し、グラフの左側を低充填側と称することとする。図4のグラフでは、軟磁性粉末1の面積率分布として、3種類の分布曲線を示しており、各分布曲線における平均面積率xAは、いずれも、80%である。図4に示す3種類の分布曲線のうち、実線で示す分布曲線が正規分布である。正規分布は、極大点を中心として左右対称の形状を有しており、軟磁性粉末1の面積率分布が正規分布に従う場合には、歪度Skは0である。
【0035】
図4において一点鎖線で示す分布曲線が、歪度Skが負の値を示す面積率分布の一例である。歪度Skが負の値を示す場合には、面積率が、極大点を基準として、高充填側よりも低充填側に広く分布する。換言すると、面積率分布における低充填側の裾が、高充填側の裾よりも長くなれば、歪度Skが負の値を示す。75%≦xA≦90%を満たす磁気コア2おいて、歪度Skを-0.01以下に制御することで、-0.01<Sk<0.01の場合よりも、直流重畳特性を向上させることができる。
【0036】
一方、点線で示す分布曲線が、歪度Skが正の値を示す面積率分布の一例である。歪度Skが正の値を示す場合には、面積率が、極大点を基準として、低充填側よりも高充填側に広く分布する。換言すると、面積率分布における高充填側の裾が、低充填側の裾よりも長くなれば、歪度Skが正の値を示す。75%≦xA≦90%を満たす磁気コア2おいて、歪度Skを0.01以上に設定することで、歪度Skが0の場合よりも、透磁率を高くすることができる。磁気コアを設計する際には、所望の透磁率が得られるように軟磁性粉末の平均充填率を設定する。本実施形態の磁気コア2では、歪度Skを0.01以上に制御することで、-0.01<Sk<0.01の場合よりも、所望の透磁率を得るために必要な平均面積率xA(平均充填率)を低くすることができる。つまり、低い充填率で高い透磁率が得られるため、金属粒子10同士の接触を抑制でき、局所的な磁気飽和を抑制できる。その結果、直流重畳特性を向上させることができる。
【0037】
上記のとおり、歪度Skは、負の値であってもよく、正の値であってもよく、歪度Skの絶対値を0.01以上に制御することで、直流重畳特性を向上させることができる。直流重畳特性をさらに向上させる観点から、歪度Skの絶対値は0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましい。歪度Skの絶対値の上限は、必ずしも限定されないが、たとえば、歪度Skの絶対値は、10.00以下であることが好ましく、5.00以下であることがより好ましい。また、高透磁率と良好な直流重畳特性とをより好適に両立させる観点では、歪度Skが負の値(たとえば、-10.00以上-0.01以下)を示すことが好ましい。
【0038】
以下、本実施形態に係る磁気コア2の製造方法の一例について説明する。
【0039】
まず、軟磁性粉末1を準備する。軟磁性粉末1の製造方法は、特に限定されず、所望の粒子組成に応じて、適する製造方法を採用すればよい。たとえば、水アトマイズ法またはガスアトマイズ法などのアトマイズ法により軟磁性粉末を製造してもよい。もしくは、金属塩の蒸発、還元、熱分解のうち少なくとも1種以上を用いたCVD法により軟磁性粉末を製造してもよい。また、単ロール法などにより軟磁性金属薄帯を作製し、その軟磁性金属薄帯を粉砕することで軟磁性粉末を製造してもよい。その他にも、電解法、または、カルボニル法で軟磁性粉末を製造してもよい。
【0040】
非晶質構造またはナノ結晶構造の軟磁性粉末を製造する場合には、上記の粉末製造方法の中でも、ガスアトマイズ法もしくは単ロール法を採用することが好ましい。また、ナノ結晶構造の軟磁性粉末は、ガスアトマイズ法もしくは単ロール法で作製した非晶質構造の軟磁性粉末に対して、結晶構造を制御するための熱処理を施すことで、製造してもよい。
【0041】
2種以上の粒子群を含む軟磁性粉末1を製造する場合には、各粒子群の原料粉末を準備する。たとえば、大粒子10aおよび小粒子10bを含む軟磁性粉末1を製造する場合には、大粒子10aからなる大径粉と、小粒子10bからなる小径粉とを、それぞれ作製し、大径粉と小径粉とを所望の比率で混合すればよい。また、大粒子10a、中粒子10c、および小粒子10bを含む軟磁性粉末1を製造する場合には、大径粉、小径粉、および中粒子10cからなる中径粉を作製し、これらを所望の比率で混合すればおい。大径粉、中径粉、および小径粉の比率は、特に限定されない。たとえば、軟磁性粉末100wt%に対して、大径粉の比率が、50wt%以上90wt%以下であることが好ましく、60wt%以上80wt%以下であることがより好ましい。また、中径粉の比率、および、小径粉の比率が、それぞれ、5wt%以上30wt%以下であることが好ましい。
【0042】
軟磁性粉末1における粒子表面に絶縁被膜を形成する場合には、軟磁性粉末1に対して、被膜形成処理を施せばよい。被膜形成処理の方法は、特に限定されず、形成する絶縁被膜の種類に応じて、適する被膜形成処理を選択すればよい。被膜形成処理としては、たとえば、熱処理、リン酸塩処理、メカノケミカル法による表面処理、メカニカルアロイング、シランカップリング処理、もしくは、水熱合成などが例示される。なお、大径粉、中径粉、および小径粉などの2種以上の粉末を混合して軟磁性粉末1を製造する場合には、混合後の軟磁性粉末1に対して被膜形成処理を施してもよいし、混合前の各粉末に対して、個別に被膜形成処理を施してもよい。
【0043】
次に、軟磁性粉末1を用いて、磁気コア2の原料である顆粒を製造する。まず、熱硬化性樹脂および硬化剤などの樹脂原料を、アセトンまたはエタノールなどの有機溶媒に添加し、樹脂溶液を作製する。そして、軟磁性粉末1を樹脂溶液に加えて混練する。この際、軟磁性粉末1と樹脂溶液との混練には、ニーダー、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサーまたは二軸押出機などの各種混練機を用いればよく、混練物中に改質剤、防腐剤、分散剤、非磁性粉末などを添加してもよい。混練後、有機溶媒を揮発させることで、顆粒が得られる。
【0044】
上記の混練工程における軟磁性粉末1と樹脂原料との配合比は、特に限定されず、たとえば、硬化後の樹脂3の含有率が、軟磁性粉末100重量部に対して、1重量部以上5重量部以下となるように、軟磁性粉末1および樹脂原料を秤量することが好ましい。また、大径粉、中径粉、および小径粉などの2種以上の原料粉を使用する場合には、これら原料粉を事前に混合してから、得られた混合粉を樹脂溶液に添加してもよいし、原料粉を混合せずに樹脂溶液に添加し、混練工程で原料粉を混合させてもよい。
【0045】
顆粒の寸法および形状は、特に限定されないが、たとえば、顆粒は0.02mm以上0.5mm以下の粒形状を有することが好ましく、顆粒の平均径が、0.05mm以上0.2mm以下であることが好ましい。顆粒の寸法を上記の範囲に制御するために、混練工程後に篩分級を実施することが好ましい。篩分級の条件は、必ずしも限定されないが、たとえば、混練工程後の顆粒を、目開きが20μm~500μmの複数の篩を用いて分級することで、顆粒の粒度分布を0.02mm以上0.50mm以下の範囲に制御でき、かつ、粒度分布の尖度を向上させることができる。本実施形態では、篩分級後の顆粒を1次顆粒と称することとする。
【0046】
1次顆粒のみを原料として用いて磁気コアを製造すると、磁気コアにおける軟磁性粉末の面積率分布が正規分布に従い、面積率分布の歪度Skが0に近似する(具体的に、-0.01<Sk<0.01となる)。軟磁性粉末1の面積率分布の歪度は、顆粒の比重(単位g/cm3)の分布に基づいて制御することができる。各顆粒の比重は、各顆粒における軟磁性粉末の含有率と相関があり、比重が大きい顆粒では軟磁性粉末の含有率が高く、比重が小さい顆粒では軟磁性粉末の含有率が低い。たとえば、原料顆粒から比重が大きい顆粒を除去し、比重が小さい顆粒の割合を高めると、面積率分布の歪度を-0.01以下に制御することができる。一方、原料顆粒から比重が小さい顆粒を除去し、比重が大きい顆粒の割合を高めると、面積率分布の歪度を0.01以上に制御することができる。したがって、本実施形態では、面積率分布の歪度を所望の値に制御するために、篩分級後にさらに気流分級を施した2次顆粒を準備する。
【0047】
2次顆粒の製造条件は必ずしも限定されない。たとえば、目開きが20μm~100μmのメッシュサイズが細かい篩を用いて顆粒を分級し、寸法の小さい顆粒を抽出する。そして、抽出後の顆粒に対してさらに気流分級を実施することで、比重の大きい顆粒を除去し、比重の小さい2次顆粒を抽出する。このような比重の小さい2次顆粒を用いることで、歪度Skを-0.01以下に制御することができる。一方、歪度Skを0.01以上に制御するためには、比重の大きい2次顆粒を抽出すればよい。たとえば、目開きが200μm~500μmのメッシュサイズが荒い篩を用いて顆粒を分級する。そして、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施し、比重の大きい2次顆粒を抽出すればよい。
【0048】
面積率分布の歪度Skは、篩分級および気流分級の条件により制御することができる。また、上記のような分級工程後の2次顆粒と、気流分級を実施していない1次顆粒とを混合して用いることが好ましく、1次顆粒と2次顆粒との配合比により、歪度Skをより高い精度で制御することができる。
【0049】
次に、上記の2次顆粒、もしくは、1次顆粒と2次顆粒との混合顆粒を、金型に充填し、圧縮成形することで圧粉体を製造する。この際の成形圧は、特に限定されず、たとえば、9.8MPa以上1.2×103MPa以下(0.1t/cm2以上12t/cm2以下)に設定してもよい。磁気コア2における軟磁性粉末1の平均面積率xA(すなわち平均充填率)は、樹脂3の含有率(樹脂原料の配合比)により制御できるが、成形圧によっても制御可能である。樹脂3として熱硬化性樹脂を用いる場合は、成形後の圧粉体を100℃~200℃で1時間~5時間加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させる。以上の工程により、図1に示すような断面を有する磁気コア2が得られる。
【0050】
本実施形態に係る磁気コア2は、インダクタ、トランス、チョークコイルなどの各種磁性部品に適用することができる。たとえば、図5に示す磁性部品100が、磁気コア2を有する磁性部品の一例である。
【0051】
磁性部品100は、磁気コア2からなる素体と、コイル5とを有し、コイル5が磁気コア2の内部に埋設してある。コイル5は、導体が螺旋状に巻回された構造を有しており、導体の巻回数や巻回方式は特に限定されない。コイル5を構成する導体の形状および寸法は、特に限定されず、導体の表面は、絶縁被覆で覆われていることが好ましい。なお、コイル5は、図5に示す構造に限定されず、磁性部品100は、コイルとして、コイルパターンが印刷されたフレキシブル基板を有していてもよい。
【0052】
コイル5を構成する導体の端部5a,5bは、磁気コア2の端面に引き出されている。また、磁気コア2の端面には、一対の外部電極6,8が形成してあり、一対の外部電極6,8は、それぞれ、コイル5の端部5a,5bと電気的に接続してある。
【0053】
ここで、図5は、コイル軸に沿った磁性部品100の断面を示している。コイル軸とは、コイル5の内周面に沿って、当該内周面で囲まれた領域の中心を通る中心軸を意味する。なお、図5に示すX軸、Y軸、およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸がコイル軸と略平行である。磁性部品100における磁気コア2では、コイル軸と垂直な2つの主面のうち、Z軸上方に位置する主面を「上面2s1」と称し、Z軸下方に位置する主面を「下面2s2」と称することとする。また、Z軸方向における磁気コア2の高さをTとする。
【0054】
磁性部品100の断面で軟磁性粉末1の面積率分布を特定する場合、断面画像を取得する位置、すなわち、等間隔格子Gを用いて面積率を解析する領域の位置は、特に限定されない。たとえば、図5に示すように、磁気コア2をコイル軸に沿って切断した断面を解析することが好ましい。また、図5に示すように、コイル軸に沿う磁気コア2の断面を、中央部2α、および、外側部2βに区分けして、軟磁性粉末1の面積率を測定することが好ましい。
【0055】
具体的に、図5に示すような断面を、コイル軸に沿って3等分することで区画された3つの領域のうち、中央に位置する領域を「中央部2α」とし、当該中央部2αの外側に位置する領域を「外側部2β」とする。「コイル軸に沿って3等分する」とは、磁気コア2の上面2s1から深さ1/3Tの位置、および、下面2s2から深さ1/3Tの位置に、一点鎖線で示すようなコイル軸と直交する仮想線を引き、磁気コア2の断面を区分けすることを意味する。面積率の解析領域には、中央部2αの少なくとも一部が含まれていることが好ましい。また、中央部2α、および、外側部2βの両方で等間隔格子Gによる解析領域を設定し、中央部2αにおける解析結果と外側部2βにおける解析結果とを合わせて、面積率分布、平均面積率xA、および歪度Skを特定することがより好ましい。
【0056】
中央部2αと外側部2βとで、個別に軟磁性粉末1の面積率分布を特定した場合、中央部2αにおける面積率分布、および、外側部2βにおける面積率分布の少なくとも一方が|0.01|≦Skを満たすことが好ましく、中央部2αにおける面積率分布が|0.01|≦Skを満たすことがより好ましく、中央部2αにおける面積率分布および外側部2βにおける面積率分布の両方が|0.01|≦Skを満たすことがさらに好ましい。歪度Skの値は、中央部2αと外側部2βとで一致していてもよいし、異なっていてもよい。また、平均面積率xA(平均充填率)は、中央部2αと外側部2βとで一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0057】
なお、面積率分布の解析において、磁気コア2の断面は、コイル5の内周面で囲まれた中芯領域と、当該中芯領域以外の領域である外側領域と、に区分けしてもよい。この場合においても、中芯領域、および、外側領域の両方で等間隔格子Gによる解析領域を設定し、中芯領域における解析結果と外側領域における解析結果とを合わせて、面積率分布、平均面積率xA、および歪度Skを特定することが好ましい。また、中芯領域と外側領域とで、個別に軟磁性粉末1の面積率分布を特定した場合、中芯領域における面積率分布、および、外側領域における面積率分布の少なくとも一方が|0.01|≦Skを満たすことが好ましく、中芯領域における面積率分布が|0.01|≦Skを満たすことがより好ましく、中芯領域における面積率分布および外側領域における面積率分布の両方が|0.01|≦Skを満たすことがさらに好ましい。歪度Skの値は、中芯領域と外側領域とで一致していてもよいし、異なっていてもよい。また、平均面積率xA(平均充填率)は、中芯領域と外側領域とで一致していてもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
磁性部品100のように、コイル5が埋設してある磁気コア2の断面で、軟磁性粉末1の面積率分布を特定する場合には、コイル5が映り込んでいる正方形領域20は、解析対象外とする。
【0059】
図5に示す磁性部品100の用途は、特に限定されず、たとえば、磁性部品100は、電源回路に用いられるパワーインダクタとして好適に利用することができる。なお、磁気コア2を含む磁性部品は、図5に示すような様態に限定されない。たとえば、所定形状の磁気コア2の表面にワイヤを巻回して磁性部品を構成してもよい。
【0060】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の磁気コア2では、磁気コア2の断面における軟磁性粉末1の平均面積率xAが75%以上90%以下であり、軟磁性粉末1の面積率分布の歪度Skが絶対値で0.01以上である。
【0061】
磁気コア2が上記の特徴を有することで、従来の磁気コアよりも、直流重畳特性を向上させることができる。より具体的に、歪度Skを-0.01以下に設定することで、面積率分布が正規分布に従う磁気コア(-0.01<Sk<0.01を満たす磁気コア)よりも、直重畳定格電流を高くすることができ、優れた直流重畳特性が得られる。また、歪度Skを0.01以上に設定することで、面積率分布が正規分布に従う磁気コアよりも高い透磁率が得られ、所望の透磁率を得るために必要な充填率を低減することができる。その結果、従来よりも直流重畳特性を向上させることができる。
【0062】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【0063】
たとえば、複数の磁気コア2を組み合わせて、磁性部品を製造してもよい。また、磁気コア2の製造方法については、上記の実施形態で示す製造方法に限定されず、磁気コア2は、2段階圧縮により製造してもよい。2段階圧縮による製造方法では、たとえば、2次顆粒もしくは混合顆粒を仮圧縮して複数の予備成形体を作製した後、これら予備成形体を組み合わせて本圧縮することで磁気コア2が得られる。
【実施例0064】
以下、本開示をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0065】
(実験1)
試料A6~試料A15
表1に示す試料A6~試料A15に係る磁気コアを、それぞれ、以下に示す手順で製造した。
【0066】
まず、軟磁性粉末の原料粉として、大粒子および小粒子を準備した。具体的に、急冷ガスアトマイズ法により、非晶質構造を有する大粒子を製造した。当該大粒子の平均組成は、Feが57.5at%、Coが24.6at%、Bが11at%、Pが3at%、Siが3at%、Crが1at%であり、大粒子の平均粒径は25μmであった。また、当該大粒子に対してメカノケミカル法による被膜形成処理を施し、P-Zn-Na-Al-Oの組成を有する絶縁被膜を形成した。当該絶縁被膜の平均厚みは、20nmであった。一方、小粒子としては、1μmの平均粒径を有する結晶質構造のFe粉末を準備した。
【0067】
次に、樹脂原料として、エポキシ樹脂と、硬化剤であるイミド樹脂とを準備し、これら樹脂原料をアセトンに添加して樹脂溶液を得た。そして、樹脂溶液、大粒子、および、小粒子を混練し、得られた混練物を所定の条件で乾燥させアセトンを揮発させることで、顆粒を得た。当該混練工程では、大粒子と小粒子の合計100wt%に対して、大粒子の比率を80wt%、小粒子の比率を20wt%に設定した。また、硬化後の樹脂成分の含有率が軟磁性粉末100重量部に対して2.5重量部となるように、軟磁性粉末(大粒子および小粒子)と樹脂原料とを秤量した。
【0068】
次に、目開きが20μm~500μmの篩を用いて、混練工程後の顆粒を分級し、1次顆粒を得た。また、試料A6~試料A10では、目開きが20μm~100μmの篩を用いて混練工程後の顆粒を分級した。そして、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施し、比重の小さい2次顆粒を抽出した。試料A6~試料A10では、気流分級を実施していない1次顆粒と、気流分級後の2次顆粒とを、面積率分布の歪度Skが-0.50となるような比率で混合し、混合顆粒を得た。
【0069】
一方、試料A11~試料A15では、目開きが200μm~500μmの篩を用いて混練工程後の顆粒を分級した。そして、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施し、比重の大きい2次顆粒を抽出した。試料A11~試料A15では、気流分級を実施していない1次顆粒と、気流分級後の2次顆粒とを、面積率分布の歪度Skが0.50となるような比率で混合し、混合顆粒を得た。
【0070】
次に、混合顆粒を金型に充填し加圧することで、トロイダル形状の圧粉体を得た。この際の成形圧を、9.8MPa以上1.2×103MPa以下の範囲に設定し、この成形圧によって、各試料における軟磁性粉末の平均面積率xA(平均充填率)を表1に示す値に制御した。そして、上記の圧粉体を180℃で60分間、加熱処理することで、圧粉体中のエポキシ樹脂を硬化させ、トロイダル形状(外径11mm、内径6.5mm、厚み2.5mm)の磁気コアを得た。
【0071】
試料A1~試料A5
試料A1~試料A5では、試料A6~試料A15と同じ軟磁性粉末および樹脂原料を用いて、試料A6~試料A15と同じ条件で1次顆粒を製造した。ただし、試料A1~試料A5では、混合顆粒ではなく、気流分級を実施していない1次顆粒のみを用いて、磁気コアを製造した。つまり、試料A1~試料A5では、1次顆粒のみを金型に充填して、圧粉体を得た後、圧粉体中のエポキシ樹脂を硬化させることで、トロイダル形状(外径11mm、内径6.5mm、厚み2.5mm)の磁気コアを得た。試料A1~試料A5においても、試料A6~試料A15と同様に、成形圧を9.8MPa以上1.2×103MPa以下の範囲に設定し、この成形圧によって、平均面積率xA(平均充填率)を表1に示す値に制御した。
【0072】
実験1の各試料では、作製した磁気コアに対して、以下に示す評価を実施した。
【0073】
磁気コアの断面解析
磁気コアの任意の断面をSEMで観察し、画像解析ソフト(ナノシステム株式会社、Nano Hunter NS2K-Pro)を用いて軟磁性粉末の面積率分布を解析した。具体的に、まず、磁気コアの任意の断面に含まれる各金属粒子の円相当径を測定し、軟磁性粉末の最大粒子径DMAX(円相当径の最大値)を特定した。次に、磁気コアの任意の断面を、最大粒子径DMAXの2倍の格子幅を有する等間隔格子を用いて、100個の正方形領域に区分けした。そして、(2DMAX2の面積を有する各正方形領域に含まれる金属粒子の合計面積を計測することで、各正方形領域における軟磁性粉末の面積率xiを算出した。当該測定結果に基づいて、磁気コアにおける軟磁性粉末の平均面積率xA、および、面積率分布の歪度Skを算出した。
【0074】
1次顆粒を用いた試料A1~試料A5の磁気コアでは、軟磁性粉末の面積率分布が、正規分布に従い、面積率分布の歪度Skが0.00であった。一方、1次顆粒と、比重の小さい2次顆粒との混合顆粒を用いた試料A6~試料A10の磁気コアでは、軟磁性粉末の面積率分布の歪度Skが-0.50であった。また、1次顆粒と、比重の大きい2次顆粒との混合顆粒を用いた試料A11~試料A15の磁気コアでは、軟磁性粉末の面積率分布の歪度Skが0.50であった。
【0075】
磁気コアの特性評価
トロイダル形状の磁気コアに対して、ポリウレタンの絶縁被覆を有する銅線(UEW線)を巻回した。そして、周波数1MHzにおける磁気コアのインダクタンスL0を、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)を用いて測定し、当該インダクタンスL0に基づいて圧粉磁心の初透磁率μi(単位なし)を算出した。実験1では、初透磁率μiは、20以上を良好と判定した。
【0076】
また、UEW線を巻回した磁気コアに対して、直流電流を0Aから一定の上昇率で印加し、その際のインダクタンスの変化を計測した。そして、直流電流を印加した際のインダクタンスLが、0AにおけるインダクタンスL0に対して10%低下した際の直流電流の値(すなわち、L/L0=90%となった際の直流電流値)を、直流重畳定格電流Isat(単位:A)として特定した。
【0077】
実験1における各試料の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0078】
表1に示すように、軟磁性粉末の平均面積率xAが75%以上の試料(試料A2~試料A5、試料A7~試料A10、試料A12~試料A15)では、μiが20以上となり、高い透磁率を確保できた。直流重畳特性については、平均面積率xAの増加に伴い、直流重畳定格電流が低下していく傾向となるが、歪度Skが-0.50の実施例(試料A7~試料A10)、および、歪度Skが0.50の実施例(試料A12~試料A15)では、高い透磁率を確保しつつ、歪度Skが0.00の比較例(試料A2~試料A5)よりも、良好な直流重畳特性が得られることがわかった。以下、図6A図6Bに基づいて、直流重畳特性の向上効果について詳述する。
【0079】
図6Aは、磁気コアにおける軟磁性粉末の平均面積率xA(平均充填率)とIsatとの関係を示すグラフである。図6Aの横軸が平均面積率xA、縦軸がIsatであり、表1に示す試料A1~試料A15の評価結果をプロットしている。図6Aに示しように、歪度Skが-0.5の実施例では、比較例よりも高いIsatが得られ、直流重畳特性が向上した。
【0080】
一方、図6Bは、磁気コアにおける軟磁性粉末の平均面積率xA(平均充填率)と、μiとの関係を示すグラフである。図6Bの横軸が平均面積率xA、縦軸がμiであり、表1に示す試料A1~試料A15の評価結果をプロットしている。平均面積率xAが75%以上90%の範囲では、歪度Skが0.50の実施例におけるμiが、比較例よりも向上した。
【0081】
磁性部品で用いられる磁気コアの設計においては、まず、所望のインダクタンスを得るための透磁率を定め、当該透磁率を実現するために必要な軟磁性粉末の平均充填率を設定する。直流重畳特性は、設定した平均充填率の結果として現れる特性である。歪度Skが0.50の実施例では、比較例よりも高い透磁率が得られるため、所望の透磁率を得るための平均充填率を低減することができる。たとえば、歪度Skが0.00の比較例では、μi=30を得るために、軟磁性粉末の平均充填率を85%程度に設定する必要があるが、歪度Skが0.50の実施例では、約76%程度の平均充填率でμi=30を実現できる。このように、平均充填率を低減できることから、歪度Skが0.50の実施例では、所定の透磁率における直流重畳特性を比較例よりも向上させることができる。
【0082】
図6Cが、μiとIsatの関係を示すグラフであり、表1に示す各試料の評価結果をプロットしている。図6Cから明らかなように、歪度Skが0.00の比較例では、μi=30でのIsatが9.4A程度であるのに対して、歪度Skが0.50の実施例では、μi=30でのIsatが凡そ10.7Aであり、比較例よりも直流重畳特性を向上させることができる。なお、図6Cでは、プロットがグラフの右上に近づくほど磁気特性が良好であると判断できる。図6Cに示すグラフから、歪度Skが-0.50の実施例、および、歪度Skが0.50の実施例では、高い透磁率と優れた直流重畳特性とを両立できることがわかった。
【0083】
(実験2)
実験2では、歪度Skによる直流重畳特性の向上効果をより詳細に検討するために、表2および表3に示す磁気コアを製造した。なお、実験2では、表2および表3に示すように、所定の歪度Skそれぞれに対して、平均面積率が異なる4つの磁気コアを製造した。
【0084】
試料B1~試料B28
具体的に、表2に示す試料B1~試料B28では、実験1と同じ軟磁性粉末および樹脂原料を用いて、実験1と同じ条件で1次顆粒を製造した。また、目開きが20μm~100μmの篩を用いて混練工程後の顆粒を分級し、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施することで、比重の小さい2次顆粒を抽出した。
【0085】
表2に示す試料B1~試料B24では、いずれも、1次顆粒と比重の小さい2次顆粒とを混ぜ合わせた混合顆粒を用いて、トロイダル形状の磁気コアを製造した。その際に、軟磁性粉末の面積率分布における歪度Skが表2に示す値となるように、1次顆粒と2次顆粒との配合比を設定した。また、表2に示す試料B25~試料B28では、比重の小さい2次顆粒のみを用いてトロイダル形状の磁気コアを製造した。
【0086】
上記のとおり、試料B1~試料B28では、1次顆粒と2次顆粒との配合比を実験1の試料A6~試料A10とは異なる比率に設定したが、大粒子および小粒子の仕様、大粒子と小粒子の比率、軟磁性粉末と樹脂の比率、トロイダル形状の磁気コアの寸法などのその他の条件は、実験1と同様とした。なお、試料B1~B28においても、実験1と同様に、磁気コアを製造する際の成形圧により、平均面積率xA(平均充填率)を表2に示す値に制御した。
【0087】
試料C1~試料C28
表3に示す試料C1~試料C28では、実験1と同じ軟磁性粉末および樹脂原料を用いて、実験1と同じ条件で1次顆粒を製造した。また、目開きが200μm~500μmの篩を用いて混練工程後の顆粒を分級し、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施することで、比重の大きい2次顆粒を抽出した。
【0088】
試料C1~試料C24では、いずれも、1次顆粒と比重の大きい2次顆粒とを混ぜ合わせた混合顆粒を用いて、トロイダル形状の磁気コアを製造した。その際に、軟磁性粉末の面積率分布における歪度Skが表3に示す値となるように、1次顆粒と2次顆粒との配合比を設定した。また、表3に示す試料C25~試料C28では、比重の大きい2次顆粒のみを用いてトロイダル形状の磁気コアを製造した。
【0089】
上記のとおり、試料C1~試料C28では、1次顆粒と2次顆粒との配合比を実験1の試料A11~試料A15とは異なる比率に設定したが、大粒子および小粒子の仕様、大粒子と小粒子の比率、軟磁性粉末と樹脂の比率、トロイダル形状の磁気コアの寸法などのその他の条件は、実験1と同様とした。なお、試料C1~C28においても、実験1と同様に、磁気コアを製造する際の成形圧により、平均面積率xA(平均充填率)を表3に示す値に制御した。
【0090】
実験2の各試料においても、実験1と同じ方法で、平均面積率xA、歪度Sk、μi、およびIsatを測定した。各試料の評価結果を表2および表3に示す。表2は、歪度Skを-0.01以下に設定した実施例の評価結果を示しており、表3は、歪度Skを0.01以上に設定した実施例の評価結果を示している。また、図7は、μiとIsatの関係を示すグラフであって、表2に示す評価結果の一部(歪度Sk=0.00、-0.01、-0.05、-0.10、-0.50)をプロットした。図8は、μiとIsatの関係を示すグラフであって、表3に示す評価結果の一部(歪度Sk=0.00、0.01、0.05、0.10、0.50)をプロットした。
【0091】
また、実験2では、各歪度Skにおける4つの試料の評価結果から、各歪度Skでμiを30に設定した場合のIsatを算出した。具体的に、各歪度Skにおける4つの試料の評価結果を、図7および図8に示すような、μiとIsatの関係を示すグラフにプロットし、この4つのプロットに基づく近似直線を最小二乗法により求めた。そして、当該近似直線を用いて、μiを30に設定した場合のIsatを算出した。表2および表3に、近似直線の傾き(単位:A)と切片(単位:A)、および、μi=30でのIsat(単位:A)を示す。
【0092】
図9は、歪度の絶対値(|Sk|)と、μi=30でのIsatとの関係を示すグラフである。図9の横軸は歪度の絶対値を示す対数軸であり、縦軸がμi=30でのIsatを示す軸であり、表2に示す実施例(すなわちSk≦-0.01の実施例)の評価結果を、黒丸のマーカーと実線で示し、表3に示す実施例(すなわち0.01≦Skの実施例)の評価結果を、白抜きのマーカーと点線で示した。なお、図9に示す二点鎖線は、歪度Skが0.00でμiを30に設定した場合のIsatを示すラインであり、グラフ横軸とは無関係である。
【0093】
また、μiを30に設定した場合において、歪度Skが0.00である比較例のIsatを基準として、各歪度SkにおけるIsatの向上率(単位:%)を算出した。具体的に、歪度Skが0.00でμiを30に設定した場合のIsatを「ISTD」とし、各歪度Skでμiを30に設定した場合のIsatを「ISkew」として、各歪度SkにおけるIsatの向上率を、計算式「ISkew/ISTD(%)」に基づいて算出した。Isatの向上率は、5%以上を良好と判定し、10%以上を特に良好と判定した。
【0094】
【表2】
【表3】
【0095】
表2に示す評価結果から、磁気コアにおける軟磁性粉末の面積率分布の歪度Skを-0.01以下に設定することで、直流重畳特性が向上することがわかった。より具体的に、図7のグラフにおいて、歪度Skを-0.01以下に設定することで、μiとIsatの関係を示すプロットが、比較例のプロットよりもグラフ右上に向かって移動する傾向が確認できた。この結果から、歪度Skを-0.01以下に設定することで、高い透磁率を確保しつつ直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0096】
また、図9において黒塗りのマーカーと実線で示すグラフから、-0.50≦Sk≦-0.01の範囲では、歪度Skの低下に伴って、Isatがより向上する傾向が確認でき、-10.00≦Sk≦-0.50の範囲では、Isatが高止まりする傾向が確認できた。表2、図7および図9の結果から、Sk≦-0.01の場合、歪度Skは、-0.05以下であることが好ましく、-0.10以下であることがより好ましく、-0.50以下であることがさらに好ましいことが分かった。また、Sk≦-0.01の場合、歪度Skの下限は特に限定されず、たとえば、-10.00であってもよいことがわかった。
【0097】
表3に示す評価結果から、磁気コアにおける軟磁性粉末の面積率分布の歪度Skを0.01以上に設定することで、透磁率が向上することがわかった。また、図8のグラフにおいて、歪度Skを0.01以上に設定することで、μiとIsatの関係を示すプロットが、比較例のプロットよりもグラフ右上に向かって移動する傾向が確認できた。この結果から、歪度Skを0.01以上に設定することで、高い透磁率を確保しつつ直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0098】
また、図9において白抜きのマーカーと点線で示すグラフから、0.01≦Sk≦1.00の範囲では、歪度Skの上昇に伴って、Isatがより向上する傾向が確認でき、1.00≦Sk≦10.00の範囲においても、高いIsatが得られることが確認できた。表3、図8および図9の結果から、0.01≦SKの場合、歪度Skは、0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましいことが分かった。また、0.01≦Skの場合、歪度Skの上限は特に限定されず、たとえば、10.00であってもよいことがわかった。
【0099】
以上のとおり、実験2の評価結果から、軟磁性粉末の平均面積率を75%以上90%以下に設定した磁気コアにおいて、歪度Skの絶対値を0.01以上に制御することで、高い透磁率を確保しつつ、直流重畳特性の向上が図れることが立証できた。
【0100】
(実験3)
実験3では、大粒子の絶縁被膜に関する条件を変更して、表4に示す15種類の磁気コアを製造した。具体的に、試料D1~試料D3では、絶縁被膜を有していない大粒子を用いた。試料D4~試料D9では、大粒子における絶縁被膜の平均厚みを変更し、試料D10~試料D15では、大粒子における絶縁被膜の組成を変更した。軟磁性粉末に関するその他の仕様(大粒子の組成、大粒子の平均粒径、小粒子の仕様、および、大粒子と小粒子の比率など)は、実験1と同じであり、実験1と同様の条件で磁気コアを製造した。
【0101】
実験3では、大粒子の絶縁被膜に関する条件に応じて、それぞれ、歪度Skが0.00の比較例、歪度Skが-0.50の実施例、および、歪度Skが0.50の実施例の3種の磁気コアを製造した。各比較例では、1次顆粒のみを使用することで歪度Skを0.00に制御し、各実施例における歪度Skは、実験1と同様に、1次顆粒と2次顆粒の配合比により制御した。また、実験3では、対応する比較例および実施例が同程度の透磁率を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0102】
実験3の評価結果を、表4に示す。
【表4】
【0103】
試料D1~試料D3の評価結果から、絶縁被膜の有無に拘わらず、歪度Skに基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。また、試料D4~試料D15の評価結果から、絶縁被膜の組成や厚みを変えた場合であっても、歪度Skに基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0104】
(実験4)
試料E1~試料E15
試料E1~試料E15では、大粒子と小粒子とを表5に示す比率で混ぜ合わせて、磁気コアを製造した。試料E1~試料E15で使用した大粒子と小粒子の仕様(粒子組成、平均粒径、被膜組成、および被膜平均厚み)は、実験1と同じであり、大粒子と小粒子の比率以外の製造条件は、実験1と同様とした。
【0105】
試料F1~試料F12
試料F1~試料F12では、小粒子を表6に示す組成に変更して、磁気コアを製造した。試料F1~試料F12における小粒子の平均粒径は、いずれも、1μmであった。また、試料F1~試料F12では、いずれも、大粒子の比率を80wt%、小粒子の比率を20%に設定した。上記以外の実験条件は、実験1と同様とした。
【0106】
実験4では、変更した製造条件(大粒子と小粒子の比率(表5)、小粒子の組成(表6))に応じて、それぞれ、歪度Skが0.00の比較例、歪度Skが-0.50の実施例、および、歪度Skが0.50の実施例の3種の磁気コアを製造した。また、実験4では、対応する比較例および実施例が同程度の透磁率を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0107】
【表5】
【表6】
【0108】
表5に示す評価結果から、大粒子と小粒子の比率を変えた場合であっても、歪度Skに基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。また、透磁率を高める観点では、大粒子の比率を60wt%以上に設定することが好ましいことがわかった。
【0109】
表6に示す評価結果から、小粒子の組成を変えた場合であっても、歪度Skに基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0110】
(実験5)
実験5では、大粒子、中粒子、および、小粒子を含む軟磁性粉末を用いて、15種類の磁気コアを製造した。実験5の各試料で使用した大粒子および小粒子の仕様(粒子組成、平均粒径、被膜組成、および被膜平均厚み)は、実験1と同様とし、1次顆粒の製造時に大粒子および小粒子と共に、表7に示す組成を有する中粒子を添加した。試料G1~試料G15で使用した中粒子の平均粒径は、いずれも、5μmであった。また、試料G1~試料G15では、いずれも、大粒子の比率を80wt%、中粒子の比率を10wt%、および、小粒子の比率を10%に設定した。上記以外の実験条件は、実験1と同様とした。
【0111】
実験5では、軟磁性粉末の構成に応じて、それぞれ、歪度Skが0.00の比較例、歪度Skが-0.50の実施例、および、歪度Skが0.50の実施例の3種の磁気コアを製造した。また、実験5では、対応する比較例および実施例が同程度の透磁率を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0112】
【表7】
【0113】
表7に示す評価結果から、軟磁性粉末を3種の粒子群で構成した場合であっても、歪度Skに基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0114】
(実験6)
実験6では、大粒子の組成を変更して、表8~表10に示す磁気コアを製造した。表8の試料H1~試料H9では、非晶質構造を有する大粒子を用い、表9の試料I1~試料I9では、ナノ結晶構造を有する大粒子を用い、表10の試料J1~試料J12では、結晶質構造を有する大粒子を用いた。実験6の各実施例で使用した大粒子の平均粒径は、いずれも25μmであり、各試料における大粒子には、いずれも、平均厚みが20nmで実験1と同じ組成を有する絶縁被膜を形成した。
【0115】
実験6では、大粒子の組成に応じて、それぞれ、歪度Skが0.00の比較例、歪度Skが-0.50の実施例、および、歪度Skが0.50の実施例の3種の磁気コアを製造した。また、実験6では、対応する比較例および実施例が同程度の透磁率を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0116】
【表8】
【表9】
【表10】
【0117】
実験6の表8~表10に示す評価結果から、大粒子の組成に拘わらず、歪度Skに基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【符号の説明】
【0118】
2 … 磁気コア
1 … 軟磁性粉末
10 … 金属粒子
10a … 大粒子
10b … 小粒子
10c … 中粒子
3 … 樹脂
20 … 正方形領域
100 … 磁性部品
5 … コイル
5a,5b … 端部
6,8 … 外部電極
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9