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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172496
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】磁性部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/255 20060101AFI20241205BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20241205BHJP
   H01F 1/14 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01F27/255
H01F3/08
H01F1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090253
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小枝 真仁
(72)【発明者】
【氏名】荒 健輔
(72)【発明者】
【氏名】森 智子
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AA01
5E041AA02
5E041AA05
5E041AA07
5E041BC01
5E041BD12
5E041CA02
5E041HB17
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】優れた直流重畳特性を有する磁性部品を提供すること。
【解決手段】軟磁性粉末を含む磁気コアと、コイルとを有する磁性部品である。磁気コアの断面における軟磁性粉末の平均面積率が、75%以上90%以下である。磁気コアが、中芯部と、中芯部の外側に位置する外側部とを有し、中芯部における軟磁性粉末の面積率分布の歪度と、外側部における軟磁性粉末の面積率分布の歪度との差の絶対値が、0.01以上である。軟磁性粉末の面積率分布は、磁気コアの断面を等間隔格子で区分けすることで区画される各正方形領域において、軟磁性粉末の面積率を算出することで、特定される。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末を含む磁気コアと、コイルとを有し、
前記磁気コアの任意の断面における前記軟磁性粉末の面積率の平均が、75%以上90%以下であり、
前記断面における前記軟磁性粉末の最大粒子径をDMAXとし、前記断面を等間隔格子で区分けすることで区画される、面積が(2DMAX2である各正方形領域における前記軟磁性粉末の面積率を算出することにより特定される、前記断面における前記軟磁性粉末の面積率分布の歪度が、前記磁気コアの中芯部と外側部とで0.01以上の差(絶対値)を有する磁性部品。
【請求項2】
前記中芯部における前記軟磁性粉末の前記面積率分布の歪度と、前記外側部における前記軟磁性粉末の前記面積率分布の歪度との差の絶対値が、0.05以上である請求項1に記載の磁性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、軟磁性粉末を含む磁気コアと、コイルとを有する磁性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ、トランス、チョークコイルなどの磁性部品は、様々な電子機器の電源回路などに多用されている。磁性部品では、磁気特性を向上させるために、磁気コアに含まれる軟磁性粉末の充填率を高める試みがなされてきた。たとえば、特許文献1では、軟磁性粉末として、粒度が異なる2種類の金属磁性粉を用いることで、磁気コアにおける軟磁性粉末の充填率を高めることができ、透磁率などの磁気特性が向上することが開示されている。
【0003】
ただし、磁気コアにおける軟磁性粉末の充填率を高めると、磁性粒子同士の接触点が増加することで局所的な磁気飽和がおき、直流重畳特性が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-192729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示における例示的な実施形態の目的は、優れた直流重畳特性を有する磁性部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示に係る磁性部品は、
軟磁性粉末を含む磁気コアと、コイルとを有し、
前記磁気コアの任意の断面における前記軟磁性粉末の面積率の平均が、75%以上90%以下であり、
前記断面における前記軟磁性粉末の最大粒子径をDMAXとし、前記断面を等間隔格子で区分けすることで区画される、面積が(2DMAX2である各正方形領域における前記軟磁性粉末の面積率を算出することにより特定される、前記断面における前記軟磁性粉末の面積率分布の歪度が、前記磁気コアの中芯部と外側部とで0.01以上の差(絶対値)を有する。
【0007】
磁性部品が、上記の特徴を有することで、高い透磁率と、優れた直流重畳特性とを両立させることができる。
【0008】
好ましくは、前記中芯部における前記軟磁性粉末の前記面積率分布の歪度と、前記外側部における前記軟磁性粉末の前記面積率分布の歪度との差の絶対値が、0.05以上である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る磁性部品の断面を示す模式図である。
図2図2は、磁気コアの断面を示す模式図である。
図3図3は、軟磁性粉末の粒度分布の一例である。
図4A図4Aは、軟磁性粉末の面積率の測定方法を示す模式図である。
図4B図4Bは、軟磁性粉末の面積率の測定方法を示す模式図である。
図5図5は、軟磁性粉末の面積率分布を例示したグラフである。
図6図6は、磁性部品の製造方法の一例を示す模式図である。
図7A図7Aは、軟磁性粉末の平均面積率(充填率)と直流重畳定格電流(Isat)との関係を示すグラフである。
図7B図7Bは、軟磁性粉末の平均面積率(充填率)とインダクタンス(L)との関係を示すグラフである。
図7C図7Cは、インダクタンスと直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
図8図8は、インダクタンスと直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
図9図9は、インダクタンスと直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
図10図10は、歪度の差の絶対値と直流重畳定格電流との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下に説明する本開示の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、実施形態に係る各構成要素、たとえば、数値、形状、材料、製造工程などは、技術的に問題が生じない範囲内で改変したり、変更したりしてもよい。
【0011】
本実施形態に係る磁性部品100は、図1に示すように、磁気コア2と、コイル5と、一対の外部電極6と、を有する。図1に示すX軸、Y軸、およびZ軸は、相互に垂直であり、Z軸がコイル軸と平行である。すなわち、図1は、コイル軸に沿った磁性部品100の断面を示している。本実施形態において、コイル軸とは、コイル5の内周面に沿って、当該内周面で囲まれた領域の中心を通る中心線を意味する。
【0012】
磁気コア2は、磁性部品100における素体であり、X軸と略垂直な2つの端面2eと、Y軸と略垂直な2つの側面と、Z軸と略垂直な2つの主面とを有する。2つの主面のうち、Z軸上方に位置する主面を上面2s1と称し、Z軸下方に位置する主面を下面2s2と称することとする。磁気コア2の形状は特に限定されず、たとえば、立方体形状、直方体形状、円柱形状、楕円柱形状、もしくは、その他多面体形状を有していてもよい。また、磁気コア2の寸法は、特に限定されず、たとえば、X軸方向の長さが1mm~10mmであってもよく、Y軸方向の幅が1mm~10mmであってもよく、Z軸方向の高さTが1mm~10mmであってもよい。
【0013】
磁気コア2は、図1に示すように、中芯部2αと、外側部2βとを有する。中芯部2αは、コイル5の内周面で囲まれた領域であって、コイル5の内周側に位置する。図1では、一点鎖線で囲まれた領域が中芯部2αに該当し、中芯部2αのZ軸方向の高さは、コイル5のZ軸方向の高さと一致する。一方、外側部2βは、中芯部2α以外の領域であって、中芯部2αの外側に位置する。外側部2βは、コイル5のZ軸と直交する端面を覆う領域、および、コイル5の外周面側を覆う領域を含む。つまり、磁性部品100では、外側部2βが、中芯部2αおよびコイル5の外側を覆っている。
【0014】
磁気コア2の内部には、コイル5が埋設してあり、磁気コア2を構成する複合磁性体がコイル5の周囲を覆っている。また、磁気コア2の複合磁性体が、コイル5の導体間にも充填されていてもよい。コイル5は、胴体が螺旋状に巻回された構造を有しており、導体の巻回数および巻回方式は特に限定されず、導体が多層巻きされていてもよい。また、コイル5を構成する導体の材質、形状および寸法は、特に限定されず、導体の表面は、絶縁被覆で覆われていることが好ましい。なお、コイル5は、図1に示すような構造に限定されず、磁性部品100のコイルは、コイルパターンが印刷されたフレキシブル基板であってもよい。
【0015】
コイル5における導体の一方の端部5aは、磁気コア2の一方の端面2eに引き出されており、導体の他方の端部5bは、他方の端面2eに引き出されている。磁気コア2の端面には、それぞれ、外部電極6が形成してあり、一対の外部電極6は、それぞれ、コイル5の端部5a,5bと電気的に接続してある。外部電極6は、焼付電極層、樹脂電極層、または、メッキ電極層を含んでいてもよく、これら電極層から選択される2種以上を含む積層構造を有していてもよい。外部電極6の材質および厚みは、特に限定されない。
【0016】
磁性部品100における磁気コア2は、軟磁性粉末1と樹脂3とを含む複合磁性体である。軟磁性粉末1は、軟磁性金属からなる金属粒子10を含む。図2に示すように、軟磁性粉末1の金属粒子10は、樹脂3中に分散しており、金属粒子10が樹脂3を介して結合することにより、磁気コア2が所定の形状を成している。磁気コア2は、軟磁性粉末1および樹脂3の他に、空隙および改質剤などを含んでいてもよい。
【0017】
金属粒子10の組成および構造は、特に限定されない。たとえば、金属粒子10は、結晶質構造、ナノ結晶構造、もしくは、非晶質構造を有していてもよい。結晶質構造を有する軟磁性金属としては、純鉄、純コバルト、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、Fe-Si-Al合金、Fe-Si-Al-Ni合金、Fe-Ni-Si-Co合金、Fe-Co合金、Fe-Co-V合金、Fe-Co-Si合金、もしくは、Fe-Co-Si-Al合金などが挙げられる。ナノ結晶構造、または、非晶質構造を有する軟磁性金属としては、Fe-Si-B合金、Fe-Si-B-C合金、Fe-Si-B-C―Cr合金、Fe-Nb-B合金、Fe-Nb-B-P合金、Fe-Nb-B-Si合金、Fe-Co-P-C合金、Fe-Co-B合金、Fe-Co-B-Si合金、Fe-Si-B-Nb-Cu合金、Fe-Si-B-Nb-P合金、Fe-Co-B-P-Si合金、Fe-Co-B-P-Si-Cr合金などが挙げられる。
【0018】
金属粒子10の組成は、たとえば、EDX装置(エネルギー分散型X線分析装置)もしくはEPMA(電子プローブマイクロアナライザ)を用いて分析することができる。また、3DAP(3次元アトムプローブ)を用いて金属粒子10の組成を分析してもよい。3DAPを用いる場合には、測定対象の金属粒子10の内部において小さな領域(例えばΦ20nm×100nmの領域)を設定して平均組成を測定することができ、磁気コア2に含まれる樹脂成分や粒子表面の酸化などの影響を除外して粒子本体の組成を特定することができる。
【0019】
また、金属粒子10の構造は、XRD(X線回折)や電子線回折などを用いて解析することができる。本実施形態において、「非晶質構造」とは、非晶質化度が85%以上の構造、もしくは、電子線回折で結晶起因のスポットが検出されない構造を意味する。非晶質構造には、概ね非晶質で構成される構造、もしくは、ヘテロアモルファスからなる構造などが含まれる。ヘテロアモルファスからなる構造の場合、非晶質中に存在する結晶の平均径(平均結晶子径)が、0.1nm以上10nm以下であることが好ましい。また、本実施形態では、「ナノ結晶構造」とは、非晶質化度が85%未満であって、かつ、平均結晶子径が100nm以下(好ましくは3nm~50nm)である構造を意味し、「結晶質構造」とは、非晶質化度が85%未満であって、かつ、平均結晶子径が100nmを超過する構造を意味する。
【0020】
非晶質化度は、XRDにより金属粒子10の構造を解析する場合、結晶性散乱積分強度と非晶性散乱積分強度の合計に対する非晶性散乱積分強度の比で表すことができる。また、電子顕微鏡を用いて金属粒子10の内部における非晶質部分と結晶化部分とを特定し、金属粒子10に占める非晶質部分の面積の比率から非晶質化度を求めてもよい。
【0021】
金属粒子10の粒径は、特に限定されず、たとえば、金属粒子10が、1μm以上100μm以下の平均粒径を有していてもよい。金属粒子10の粒径は、磁気コア2の断面を画像解析することで計測でき、本実施形態で示す「粒径」は、磁気コア2の断面で観測される金属粒子10の円相当径を意味するものとする。各金属粒子10の円相当径は、磁気コア2の断面における各金属粒子10の面積をαとして、(4α/π)1/2で表される。軟磁性粉末1の粒度分布は、磁気コア2の断面で少なくとも100個の金属粒子10の円相当径を計測することで、特定することが好ましく、金属粒子10の平均粒径は、計測した円相当径の算術平均値を算出することで特定すればよい。
【0022】
また、金属粒子10の形状は、必ずしも限定されないが、金属粒子10の平均円形度が、0.80以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。各金属粒子10の円形度は、磁気コア2の断面における各金属粒子10の面積をα、各金属粒子10の周囲長をLとして、2(πα)1/2/Lで表される。平均円形度は、少なくとも100個の金属粒子10の円形度を測定することで算出することが好ましい。
【0023】
軟磁性粉末1では、粒子表面を覆うように絶縁被膜が形成してあることが好ましい。絶縁被膜は、軟磁性粉末1を構成する各金属粒子10に形成してあってもよいし、軟磁性粉末1が、絶縁被膜を有する金属粒子10と、絶縁被膜を有していない金属粒子10と、を含んでいてもよい。絶縁被膜の材質は特に限定されない。たとえば、絶縁被膜は、粒子表面の酸化による被膜(酸化被膜)、もしくは、BN、SiO2、MgO、Al23、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ビスマス酸塩、または各種ガラスなどの無機材料を含む被膜とすることができ、酸化物ガラスの被膜を含むことが好ましい。
【0024】
酸化物ガラスとしては、たとえば、ケイ酸塩(SiO2)系ガラス、リン酸塩(P25)系ガラス、ビスマス酸塩(Bi23)系ガラス、および、ホウケイ酸塩(B23-SiO2)系ガラスなどが例示される。より具体的に、ケイ酸塩系ガラスとしては、SiO2(Si-O系ガラス)、ソーダガラス(Si-Na-Ca-O系ガラス)、Si-Ba-Mn-O系ガラス、Si-Mn-Ca-Na-O系ガラスなどが例示される。リン酸塩系ガラスとしては、P25(P-O系ガラス)、P-Zn-Al-O系ガラス、P-Zn-Al-R-O系ガラス(「R」は、アルカリ金属から選択される1種以上の元素)などが例示される。ビスマス酸塩系ガラスとしては、Bi-Zn-B-Si-O系ガラス、Bi-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示される。また、ホウケイ酸塩系ガラスとしては、Ba-Zn-B-Si-Al-O系ガラスなどが例示される。
【0025】
絶縁被膜は、2種以上の被膜を積層した構造を有していてもよい。絶縁被膜の平均厚みは、1nm以上100nm以下であることが好ましく、5nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0026】
軟磁性粉末1は、1種の粉末で構成してあってもよいが、粒子組成、および/または、粒径が異なる2種以上の粒子群を含むことが好ましい。たとえば、図4Bに示すように、軟磁性粉末1が、金属粒子10として、大粒子10aと、大粒子10aよりも小さい粒径を有する小粒子10bと、を含むことが好ましい。
【0027】
軟磁性粉末1が、大粒子10aおよび小粒子10bを含む場合、大粒子10aの平均粒径が、5μm以上40μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましい。一方、小粒子10bの平均粒径が、2μm以下であることが好ましく、0.2μm以上2μm未満であることがより好ましい。また、大粒子10aが、結晶質構造、ナノ結晶構造、もしくは、非晶質構造を有していてもよく、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶構造もしくは非晶質構造を有することが好ましい。一方、小粒子10bが、純鉄、純コバルト、Fe-Ni合金、Fe-Si合金、もしくは、Fe-Co合金などの飽和磁束密度の高い結晶質構造の軟磁性金属であることが好ましい。
【0028】
また、磁気コア2に含まれる大粒子10aおよび小粒子10bの含有率は、特に限定されない。たとえば、磁気コア2の断面において、金属粒子10の合計面積に対する大粒子10aの合計面積の比率が、50%以上90%以下であることが好ましく、60%以上80%以下であることがより好ましい。金属粒子10の合計面積に対する小粒子10bの合計面積の比率が、5%以上50%以下であることが好ましく、5%~30%であることがより好ましい。
【0029】
軟磁性金属1は、金属粒子10として、上記の大粒子10aおよび小粒子10bと共に、中粒子10cを含んでいてもよい。中粒子10cの平均粒径は、特に限定されず、たとえば、3μm以上5μm以下であることが好ましい。中粒子10cは、結晶質構造、ナノ結晶構造、もしくは、非晶質構造を有していてもよく、保磁力を低くする観点から、ナノ結晶構造もしくは非晶質構造を有することが好ましい。中粒子10cの含有率は特に限定されず、たとえば、金属粒子10の合計面積に対する中粒子10cの合計面積の比率が、5%~30%であることが好ましい。
【0030】
上記のように、軟磁性粉末1が2種以上の粒子群を含む場合、軟磁性粉末1が絶縁被膜を有していない粒子群を含んでいてもよいが、少なくとも大粒子10aが絶縁被膜を有することが好ましく、大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bが、それぞれ、絶縁被膜を有することがより好ましい。2種以上の粒子群がそれぞれ絶縁被膜を有する場合、各粒子群が、同じ材質の絶縁被膜を有していてもよいし、それぞれ異なる材質の絶縁被膜を有していてもよい。また、各粒子群の平均円形度は、特に限定されないが、大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bが、それぞれ、0.80以上の平均円形度を有することが好ましい。
【0031】
大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bは、EDX装置またはEPMAを用いた面分析により、磁気コア2の断面に含まれる金属粒子10を組成に基づいて類別することで、識別することができる。また、軟磁性粉末1の粒度分布に基づいて、大粒子10a、中粒子10c、および、小粒子10bを識別してもよい。たとえば、図3が軟磁性粉末1の粒度分布の一例である。図3に示すような粒度分布を特定した場合、「最も大径側に位置するPeak1に属する粒子群(LP1からEP1までの範囲の粒子群)」を大粒子10a、「最も小径側に位置するPeak2に属する粒子群(EP2からLP2までの範囲の粒子群)」を小粒子10b、「Peak1とPeak2の間に位置するPeak3に属する粒子群(LP2からLP1までの範囲の粒子群)」を中粒子10cとして特定してもよい。
【0032】
樹脂3は、軟磁性粉末1を所定の分散状態で固定する絶縁性の結着材である。樹脂3の材質は、特に限定されず、たとえば、樹脂3が、熱可塑性樹脂を含んでいてもよいが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、またはシリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0033】
磁気コア2における軟磁性粉末1の充填率は、磁気コア2の断面における軟磁性粉末1の面積率で表される。「軟磁性粉末1の面積率」とは、磁気コア2の断面の面積に対する、当該断面に含まれる金属粒子10の合計面積の比率を意味する。本実施形態では、磁気コア2の断面を複数の解析領域に分割し、各解析領域における軟磁性粉末1の面積率を測定することで、磁気コア2における軟磁性粉末1の面積率分布を特定する。以下、図4Aおよび図4Bに基づいて、面積率分布の特定方法について詳述する。
【0034】
まず、コイル軸に沿う磁気コア2の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察し、当該断面に含まれる金属粒子10の円相当径を計測する。そして、計測した円相当径の最大値を、軟磁性粉末1の最大粒子径DMAX(単位:μm)として特定する。次に、図4Aに示すように、観察している断面を等間隔格子Gにより区分けする。等間隔格子Gは、一定間隔で並ぶ縦線と横線の組合せからなる仮想の仕切りであり、図4Aでは等間隔格子Gを点線で示している。等間隔格子Gの格子幅は、最大粒子径DMAXの2倍の長さに設定する。つまり、磁気コア2の断面を、等間隔格子Gにより、1辺の長さが2DMAXで、(2DMAX2の面積を有する正方形領域20に区分けする。等間隔格子Gによって区画される正方形領域20を、面積率の解析単位とする。なお、等間隔格子Gにおける縦線の数と横線の数とは、異なっていてもよいが、同程度であることが好ましい。
【0035】
図4Bが、1つの正方形領域20を例示した模式図である。磁気コア2の断面を区分けした後、各正方形領域20において軟磁性粉末1の面積率xiを測定する。各正方形領域20の面積をAi(すなわち、Ai=(2DMAX2)とし、各正方形領域20に含まれる金属粒子10の合計面積をαiとして、各正方形領域20における軟磁性粉末1の面積率xi(単位:%)は、Aiに対するαiの比率(αi/Ai)で表される。上記の方法で、各正方形領域20における軟磁性粉末1の面積率xiを測定することで、磁気コア2における軟磁性粉末1の面積率分布を特定することができる。なお、上記の解析は、画像解析ソフトを利用して実施すればよい。
【0036】
軟磁性粉末1の面積率分布は、中芯部2αおよび外側部2βのそれぞれで特定する。つまり、中芯部2αの断面、および、外側部2βの断面を、それぞれ、等間隔格子Gによる区分けして、中芯部2αにおける軟磁性粉末1の面積率分布、および、外側部2βにおける軟磁性粉末1の面積率分布を特定する。この際、中芯部2αおよび外側部2βでは、それぞれ、面積率xiを測定する正方形領域20の数を、少なくとも30に設定し、100以上に設定することが好ましい。なお、面積率分布の解析では、コイル5を避けて解析領域を設定することが好ましく、コイル5の一部が映り込んでいる正方形領域20は、解析対象外とする。
【0037】
以下の説明において、「中芯部2αにおける面積率分布」は、中芯部2αで測定した軟磁性粉末1の面積率xiの分布を意味し、「外側部2βにおける面積率分布」は、外側部2βで測定した軟磁性粉末1の面積率xiの分布を意味し、「磁気コア2における面積率分布」は、中芯部2αにおける軟磁性粉末1の面積率xiおよび外側部2βにおける軟磁性粉末1の面積率xiを、両方含む分布を意味するものとする。
【0038】
本実施形態の磁気コア2では、面積率xiの平均(以下、平均面積率xAと称する)が、75%以上90%以下である。この平均面積率xAは、磁気コア2における面積率分布の平均値であり、磁気コア2における軟磁性粉末1の平均充填率に相当する。平均面積率xAは、中芯部2αおよび外側部2βで測定したαi/Aiの合計をサンプル数(すなわち中芯部2αおよび外側部2βで設定した正方形領域20の総数)で割ることで算出してもよいし、中芯部2αおよび外側部2βで測定したαiの合計をAiの合計で割ることで算出してもよい。
【0039】
中芯部2αにおける面積率分布と、外側部2βにおける面積率分布とが、同程度の平均値を有していてもよいし、異なる平均値を有していてもよい。つまり、中芯部2αにおける軟磁性粉末1の平均面積率をxAαとし、外側部2βにおける軟磁性粉末1の平均面積率をxAβとすると、xAαとxAβの関係が、xAα=xAβであってもよく、xAα≠xAβであってもよい。平均面積率xAが75%以上90%以下の範囲であれば、xAαおよびxAβは特に限定されないが、xAαおよびxAβが、いずれも、75%以上90%以下であることが好ましい。なお、xAαおよびxAβを異なる値に設定する場合(つまり、xAα≠xAβの場合)には、外側部2βにおける平均面積率xAβよりも中芯部2αにおける平均面積率xAαを高く設定することが好ましい(つまり、xAβ<xAαであることが好ましい)。
【0040】
磁性部品100の磁気コア2では、中芯部2αと外側部2βとが、それぞれ、「歪度」が異なる面積率分布を有する。ここで、「歪度(単位なし)」とは、面積率分布の左右対称性を示す指標であり、面積率分布が正規分布からどの程度歪んでいるかを表す統計量を意味する。具体的に、磁気コア2における面積率分布の歪度は、以下の式(1)により算出される。
【0041】
【数1】


上記の式(1)において、xiは各正方形領域20における軟磁性粉末1の面積率、xAは軟磁性粉末1の平均面積率、σは面積率の標準偏差、nはサンプル数(すなわち正方形領域20の数)を意味する。中芯部2αにおける面積率分布の歪度、および、外側部2βにおける面積率分布の歪度も、上記の式(1)に基づいて算出すればよい。
【0042】
図5は、軟磁性粉末1の面積率分布を例示したグラフであり、当該グラフにおける横軸が面積率(すなわち充填率)であり、縦軸が頻度である。横軸に沿ってグラフの右側を高充填側と称し、グラフの左側を低充填側と称することとする。図5のグラフでは、軟磁性粉末1の面積率分布として、3種類の分布曲線を示しており、各分布曲線における平均面積率は、いずれも、80%である。図5に示す3種類の分布曲線のうち、実線で示す分布曲線が正規分布である。正規分布は、極大点を中心として左右対称の形状を有しており、軟磁性粉末1の面積率分布が正規分布に従う場合には、歪度は0である。
【0043】
図5において一点鎖線で示す分布曲線が、歪度が負の値を示す面積率分布の一例である。歪度が負の値を示す場合には、面積率が、極大点を基準として、高充填側よりも低充填側に広く分布する。換言すると、面積率分布における低充填側の裾が、高充填側の裾よりも長くなれば、歪度が負の値を示す。一方、図5において点線で示す分布曲線が、歪度が正の値を示す面積率分布の一例である。歪度が正の値を示す場合には、面積率が、極大点を基準として、低充填側よりも高充填側に広く分布する。換言すると、面積率分布における高充填側の裾が、低充填側の裾よりも長くなれば、歪度が正の値を示す。
【0044】
本実施形態では、中芯部2αにおける面積率分布の歪度を符号「Sα」を用いて表記し、外側部2βにおける面積率分布の歪度を符号「Sβ」を用いて表記することとする。また、磁気コア2における面積率分布の歪度、すなわち、中芯部2αにおける面積率xiおよび外側部2βにおける面積率xiを両方含む分布から特定される歪度を、符号「Sk」を用いて表記する。なお、磁気コア2における面積率分布の歪度Skを算出する際には、中芯部2αで計測する面積率xiのデータ数と、外側部2βで計測する面積率xiのデータ数とを、同じ数に設定することが好ましい。
【0045】
本実施形態の磁性部品100では、中芯部2αにおける面積率分布の歪度Sαと、外側部2βにおける面積率分布の歪度Sβとの差の絶対値が、0.01以上である。換言すると、磁気コア2が0.01≦|Sα-Sβ|を満たす。
【0046】
75%≦xA≦90%を満たす磁気コア2において、歪度の差(Sα-Sβ)を-0.01以下に設定することで、-0.01<(Sα-Sβ)<0.01の場合よりも、直流重畳定格電流(Isat)を高くすることができ、磁性部品100の直流重畳特性を向上させることができる。
【0047】
一方、75%≦xA≦90%を満たす磁気コア2において、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に設定した場合には、-0.01<(Sα-Sβ)<0.01の場合よりも、透磁率を高くすることができる。磁性部品を設計する際には、まず、所望のインダクタンスを定め、所望のインダクタンスが得られるように軟磁性粉末の平均充填率を設定する。本実施形態の磁性部品100では、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に制御することで、-0.01<(Sα-Sβ)<0.01の場合よりも、所望のインダクタンスを得るために必要な平均充填率(平均面積率xA)を低くすることができる。つまり、低い充填率で高いインダクタンスが得られるため、金属粒子10同士の接触を抑制でき、局所的な磁気飽和を抑制できる。その結果、磁性部品100の直流重畳特性を向上させることができる。
【0048】
上記のとおり、歪度の差(Sα-Sβ)は、負の値であってもよく、正の値であってもよく、歪度の差の絶対値(|Sα-Sβ|)を0.01以上に制御することで、直流重畳特性を向上させることができる。直流重畳特性をさらに向上させる観点から、|Sα-Sβ|は0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましい。|Sα-Sβ|の上限は、必ずしも限定されないが、たとえば、|Sα-Sβ|は、10.00以下であることが好ましく、5.00以下であることがより好ましい。また、高透磁率と良好な直流重畳特性とをより好適に両立させる観点では、歪度の差(Sα-Sβ)が負の値(たとえば、-10.00以上-0.01以下)を示すことが好ましい。
【0049】
|Sα-Sβ|を0.01以上に設定する場合、SαおよびSβのいずれか一方を0.00に設定してもよい。Sαの絶対値およびSβの絶対値は、いずれも、0.01以上に設定することが好ましく、0.01以上5.00以下に設定することがより好ましい。
【0050】
前述のとおり、Skは、中芯部2αにおける面積率xiおよび外側部2βにおける面積率xiを両方含む分布の歪度を意味する。磁気コア2が0.01≦|Sα-Sβ|を満たしていれば、Skは特に限定されない。たとえば、Skの絶対値が、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがより好ましい。Skが負の値を示す場合は、直流重畳特性がより向上する傾向となり、Skが正の値を示す場合は、インダクタンスがより向上する傾向となる。なお、Skの絶対値の上限は特に限定されず、たとえば、Skの絶対値が10.00以下であることが好ましく、5.00以下であることがより好ましい。
【0051】
以下、本実施形態に係る磁性部品100の製造方法の一例について説明する。
【0052】
まず、軟磁性粉末1を準備する。軟磁性粉末1の製造方法は、特に限定されず、所望の粒子組成に応じて、適する製造方法を採用すればよい。たとえば、水アトマイズ法またはガスアトマイズ法などのアトマイズ法により軟磁性粉末を製造してもよい。もしくは、金属塩の蒸発、還元、熱分解のうち少なくとも1種以上を用いたCVD法により軟磁性粉末を製造してもよい。また、単ロール法などにより軟磁性金属薄帯を作製し、その軟磁性金属薄帯を粉砕することで軟磁性粉末を製造してもよい。その他にも、電解法、または、カルボニル法で軟磁性粉末を製造してもよい。
【0053】
非晶質構造またはナノ結晶構造の軟磁性粉末を製造する場合には、上記の粉末製造方法の中でも、ガスアトマイズ法もしくは単ロール法を採用することが好ましい。また、ナノ結晶構造の軟磁性粉末は、ガスアトマイズ法もしくは単ロール法で作製した非晶質構造の軟磁性粉末に対して、結晶構造を制御するための熱処理を施すことで、製造してもよい。
【0054】
2種以上の粒子群を含む軟磁性粉末1を製造する場合には、各粒子群の原料粉末を準備する。たとえば、大粒子10aおよび小粒子10bを含む軟磁性粉末1を製造する場合には、大粒子10aからなる大径粉と、小粒子10bからなる小径粉とを、それぞれ作製し、大径粉と小径粉とを所望の比率で混合すればよい。また、大粒子10a、中粒子10c、および小粒子10bを含む軟磁性粉末1を製造する場合には、大径粉、小径粉、および中粒子10cからなる中径粉を作製し、これらを所望の比率で混合すればおい。大径粉、中径粉、および小径粉の比率は、特に限定されない。たとえば、軟磁性粉末100wt%に対して、大径粉の比率が、50wt%以上90wt%以下であることが好ましく、60wt%以上80wt%以下であることがより好ましい。また、中径粉の比率、および、小径粉の比率が、それぞれ、5wt%以上30wt%以下であることが好ましい。
【0055】
軟磁性粉末1における粒子表面に絶縁被膜を形成する場合には、軟磁性粉末1に対して、被膜形成処理を施せばよい。被膜形成処理の方法は、特に限定されず、形成する絶縁被膜の種類に応じて、適する被膜形成処理を選択すればよい。被膜形成処理としては、たとえば、熱処理、リン酸塩処理、メカノケミカル法による表面処理、メカニカルアロイング、シランカップリング処理、もしくは、水熱合成などが例示される。
【0056】
なお、大径粉、中径粉、および小径粉などの2種以上の粉末を混合して軟磁性粉末1を製造する場合には、混合後の軟磁性粉末1に対して被膜形成処理を施してもよいし、混合前の原料粉末に対して、被膜形成処理を施してもよい。
【0057】
次に、軟磁性粉末1を用いて、磁気コア2の原料である顆粒を製造する。まず、熱硬化性樹脂および硬化剤などの樹脂原料を、アセトンまたはエタノールなどの有機溶媒に添加し、樹脂溶液を作製する。そして、軟磁性粉末1を樹脂溶液に加えて混練する。この際、軟磁性粉末1と樹脂溶液との混練には、ニーダー、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサーまたは二軸押出機などの各種混練機を用いればよく、混練物中に改質剤、防腐剤、分散剤、非磁性粉末などを添加してもよい。混練後、有機溶媒を揮発させることで、顆粒が得られる。
【0058】
上記の混練工程における軟磁性粉末1と樹脂原料との配合比は、特に限定されず、たとえば、硬化後の樹脂3の含有率が、軟磁性粉末100重量部に対して、1重量部以上5重量部以下となるように、軟磁性粉末1および樹脂原料を秤量することが好ましい。また、大径粉、中径粉、および小径粉などの2種以上の原料粉末を使用する場合には、これら原料粉末を事前に混合してから、得られた混合粉を樹脂溶液に添加してもよいし、原料粉末を混合せずに樹脂溶液に添加し、混練工程で樹脂原料と共に原料粉末を混合させてもよい。
【0059】
顆粒の寸法および形状は、特に限定されないが、たとえば、顆粒は0.02mm以上0.50mm以下の粒形状を有することが好ましく、顆粒の平均径が、0.05mm以上0.20mm以下であることが好ましい。顆粒の寸法を上記の範囲に制御するために、混練工程後に篩分級を実施することが好ましい。篩分級の条件は、必ずしも限定されないが、たとえば、混練工程後の顆粒を、目開きが20μm~500μmの複数の篩を用いて分級することで、顆粒の粒度分布を0.02mm以上0.50mm以下の範囲に制御でき、かつ、粒度分布の尖度を向上させることができる。本実施形態では、篩分級後の顆粒を1次顆粒と称することとする。
【0060】
1次顆粒のみを原料として用いて成形体を製造すると、当該成形体における軟磁性粉末の面積率分布が正規分布に従い、面積率分布の歪度が0に近似する傾向となる。面積率分布の歪度は、顆粒の比重(単位g/cm3)の分布に基づいて制御することができる。各顆粒の比重は、各顆粒における軟磁性粉末の含有率と相関があり、比重が大きい顆粒では軟磁性粉末の含有率が高く、比重が小さい顆粒では軟磁性粉末の含有率が低い。たとえば、原料顆粒から比重が大きい顆粒を除去し、比重が小さい顆粒の割合を高めると、面積率分布の歪度を負の値に制御することができる。一方、原料顆粒から比重が小さい顆粒を除去し、比重が大きい顆粒の割合を高めると、面積率分布の歪度を正の値に制御することができる。したがって、本実施形態では、面積率分布の歪度を所望の値に制御するために、篩分級後にさらに気流分級を施した2次顆粒を準備する。
【0061】
2次顆粒の製造条件は必ずしも限定されない。面積率分布の歪度を負の値に制御するためには、比重が小さい2次顆粒を製造すればよい。たとえば、目開きが20μm~100μmのメッシュサイズが細かい篩を用いて、混練工程後の顆粒を分級し、20μm~100μmの粒度分布を有する顆粒を抽出する。そして、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施し、比重が大きい顆粒を除去することで、比重が小さい2次顆粒を抽出すればよい。
【0062】
一方で、面積率分布の歪度を正の値に制御するためには、比重が大きい2次顆粒を製造すればよい。たとえば、目開きが200μm~500μmのメッシュサイズが荒い篩を用いて、混練工程後の顆粒を分級し、200μm~500μmの粒度分布を有する顆粒を抽出する。そして、篩分級後の顆粒に対してさらに気流分級を実施し、比重が小さい顆粒を除去することで、比重が大きい2次顆粒を抽出すればよい。
【0063】
面積率分布の歪度は、篩分級および気流分級の条件により調整することができる。また、面積率分布の歪度をより高い精度で制御する観点では、1次顆粒と2次顆粒とを混合して用いることが好ましく、1次顆粒と2次顆粒との配合比により、面積率分布の歪度を調整することができる。
【0064】
また、本実施形態では、|Sα-Sβ|を0.01以上に設定するために、上述した1次顆粒と2次顆粒とを用いて、顆粒の比重分布が異なる中芯部用原料と、外側部用原料とを準備する。中芯部用原料および外側部用原料の製造では、SαおよびSβが所望の値となるように、分級条件、および、1次顆粒と2次顆粒の配合比を設定すればよい。
【0065】
たとえば、中芯部用原料と外側部用原料のいずれか一方を、1次顆粒のみで構成し、他方を1次顆粒と2次顆粒との混合顆粒で構成してもよい。もしくは、中芯部用原料と外側部用原料のいずれか一方を、1次顆粒と比重が小さい2次顆粒との混合顆粒で構成し、他方を、1次顆粒と比重が大きい2次顆粒との混合顆粒で構成してもよい。また、中芯部用原料と外側部用原料の両方で、同じ2次顆粒を使用してもよく、この場合は、中芯部用原料と外側部用原料とで、2次顆粒の配合比を変えることで、|Sα-Sβ|を0.01以上に設定してもよい。
【0066】
磁気コア2は、中芯部用原料と外側部用原料とを用いて、1段階圧縮により製造してもよいし、2段階圧縮により製造してもよい。たとえば、1段階圧縮で磁気コア2を製造する場合には、金型のキャビティ内にコイル5を設置すると共に、外側部用原料を外側部2βに対応する箇所に充填し、かつ、中芯部用原料を中芯部2αに対応する箇所に充填すればよい。その後、金型に充填した顆粒を圧縮することで、コイル5が埋設された圧粉体が得られる。この際の成形圧は、特に限定されず、たとえば、9.8MPa以上1.2×103MPa以下(0.1t/cm2以上12t/cm2以下)に設定してもよい。
【0067】
2段階圧縮により磁気コア2を製造する場合は、まず、予備成形体を製造する。たとえば、中芯部用原料を用いて少なくとも1つの第1予備成形体200αを製造し、外側部用原料を用いて少なくとも1つの第2予備成形体200βを製造すればよい。その後、図6に示すように、第1予備成形体200α、第2予備成形体200β、および、コイル5を組合せ、その組立体を本圧縮することで、コイル5が埋設された圧粉体が得られる。
【0068】
なお、図6では、1つの第1予備成形体200αをコイル5の内側に配置しているが、2つ以上の第1予備成形体200αを使用してもよい。また、第1予備成形体200αは、コイル5と同じ高さを有していてもよく、異なる高さを有していてもよい。図6では、コイル5のZ軸上方に配置する第2予備成形体200βと、コイル5のZ軸下方に配置する第2予備成形体200βを図示している。ただし、磁性部品100の構造や寸法に応じて、第2予備成形体200βの数は、3以上であってもよい。
【0069】
本圧縮における成形圧は、特に限定されず、たとえば、9.8MPa以上1.2×103MPa以下(0.1t/cm2以上12t/cm2以下)に設定してもよい。また、本圧縮における成形圧は、予備成形体を製造する際の成形圧(以下予備成形圧と称する)と同程度の圧力に設定してもよいし、異なる圧力に設定してもよい。本圧縮における成形圧が、予備成形圧よりも低いことが好ましく、予備成形圧の40%~80%程度低いことがより好ましい。
【0070】
磁気コア2における軟磁性粉末1の平均面積率xA(すなわち平均充填率)は、樹脂3の含有率(樹脂原料の配合比)により制御できるが、成形圧によっても制御可能である。樹脂3として熱硬化性樹脂を用いる場合は、成形後の圧粉体を100℃~200℃で1時間~5時間加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させる。なお、2段階圧縮により磁気コアを製造する場合は、予備成形体を硬化開始温度よりも低い温度で加熱してもよい。そして、本圧縮後に硬化開始温度よりも高い温度で本加熱することで、熱硬化性樹脂を完全硬化させてもよい。
【0071】
コイル5が埋設された磁気コア2を製造した後、磁気コア2の端面2eに外部電極6を形成することで、図1に示すような断面を有する磁性部品100が得られる。
【0072】
磁性部品100の用途は、特に限定されず、たとえば、磁性部品100は、電源回路に用いられるパワーインダクタとして好適に利用することができる。
【0073】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の磁性部品100は、軟磁性粉末1を含む磁気コア2と、コイル5とを有する。磁気コア2の断面における軟磁性粉末1の平均面積率xAが75%以上90%以下であり、磁気コア2が、コイル5の内周側に位置する中芯部2αと、中芯部2αの外側に位置する外側部2βとを有する。中芯部2αにおける軟磁性粉末1の面積率分布の歪度Sαと、外側部2βにおける軟磁性粉末1の面積率分布の歪度Sβとの差の絶対値が、0.01以上である(すなわち、0.01≦|Sα-Sβ|)。
【0074】
磁性部品100が上記の特徴を有することで、従来の磁性部品よりも、直流重畳特性を向上させることができる。より具体的に、歪度の差(Sα-Sβ)を-0.01以下に設定することで、従来よりも、直重畳定格電流を高くすることができ、優れた直流重畳特性が得られる。また、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に設定することで、従来よりも高いインダクタンスが得られ、所望のインダクタンスを得るために必要な充填率を低減することができる。その結果、従来よりも直流重畳特性を向上させることができる。
【0075】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【0076】
たとえば、本実施形態の磁性部品100では、コイル5が磁気コア2の内部に埋設されているが、E-I型やE-E型のような所定形状の磁気コア2の表面にワイヤを巻回することでコイル5を形成してもよい。
【実施例0077】
以下、本開示をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0078】
(実験1)
試料A6~試料A15
表1に示す試料A6~試料A15に係る磁性部品を、それぞれ、以下に示す手順で製造した。
【0079】
まず、軟磁性粉末の原料粉として、大粒子および小粒子を準備した。具体的に、急冷ガスアトマイズ法により、非晶質構造を有する大粒子を製造した。当該大粒子の平均組成は、Feが57.5at%、Coが24.6at%、Bが11at%、Pが3at%、Siが3at%、Crが1at%であり、大粒子の平均粒径は25μmであった。また、当該大粒子に対してメカノケミカル法による被膜形成処理を施し、P-Zn-Na-Al-Oの組成を有する絶縁被膜を形成した。当該絶縁被膜の平均厚みは、20nmであった。一方、小粒子としては、1μmの平均粒径を有する結晶質構造のFe粉末を準備した。
【0080】
次に、樹脂原料として、エポキシ樹脂と、硬化剤であるイミド樹脂とを準備し、これら樹脂原料をアセトンに添加して樹脂溶液を得た。そして、樹脂溶液、大粒子、および、小粒子を混練し、得られた混練物を所定の条件で乾燥させアセトンを揮発させることで、顆粒を得た。当該混練工程では、大粒子と小粒子の合計100wt%に対して、大粒子の比率を80wt%、小粒子の比率を20wt%に設定した。また、硬化後の樹脂成分の含有率が軟磁性粉末100重量部に対して2.5重量部となるように、軟磁性粉末(大粒子および小粒子)と樹脂原料とを秤量した。
【0081】
次に、目開きが20μm~500μmの篩を用いて、混練工程後の顆粒を分級し、1次顆粒を得た。試料A6~試料A15では、当該1次顆粒を、外側部用原料として用いた。
【0082】
また、試料A6~試料A10では、目開きが20μm~100μmの篩を用いて混練工程後の顆粒を分級し、さらに、篩分級後の顆粒に対して気流分級を実施し、比重の小さい2次顆粒を抽出した。試料A6~試料A10では、1次顆粒と、比重の小さい2次顆粒とを、面積率分布の歪度が-0.50となるような比率で混合し、この混合顆粒を、中芯部用原料として用いた。
【0083】
一方、試料A11~試料A15では、目開きが200μm~500μmの篩を用いて混練工程後の顆粒を分級し、さらに、篩分級後の顆粒に対して気流分級を実施し、比重の大きい2次顆粒を抽出した。試料A11~試料A15では、1次顆粒と、比重の大きい2次顆粒とを、面積率分布の歪度が0.50となるような比率で混合し、この混合顆粒を、中芯部用原料として用いた。
【0084】
次に、中芯部用原料を用いて第1予備成形体を製造し、外側部用原料を用いて第2予備成形体を製造した。そして、第1予備成形体、第2予備成形体、および、コイルを、図6に示すように組み合わせて、その組立体を圧縮することで、コイルが埋設された圧粉体を得た。本圧縮の際の成形圧は、9.8MPa以上1.2×103MPa以下の範囲に設定し、当該成形圧によって、各試料における軟磁性粉末の平均面積率xA(平均充填率)を表1に示す値に制御した。そして、上記の圧粉体を180℃で60分間、加熱処理することで、圧粉体中のエポキシ樹脂を硬化させた。
【0085】
その後、磁気コアの端面に、外部電極を形成した。以上の工程により各試料に係る磁性部品を製造した。各磁性部品における磁気コアは、長さ3mm、幅3mm、コイル軸方向の高さ1mmの直方体形状を有していた。
【0086】
試料A1~試料A5
試料A1~試料A5では、試料A6~試料A15と同じ軟磁性粉末および樹脂原料を用いて、試料A6~試料A15と同じ条件で1次顆粒を製造した。試料A1~試料A5では、混合顆粒を使用せずに、1次顆粒のみを用いて、磁気コアを製造した。つまり、試料A1~試料A5では、1次顆粒のみを金型に充填して、第1予備成形体および第2予備成形体を製造した。そして、1次顆粒のみからなる第1予備成形体および第2予備成形体を用いて、試料A6~試料A15と同様の方法で、磁性部品を製造した。
【0087】
試料A1~試料A5においても、試料A6~試料A15と同様に、本圧縮時の成形圧を9.8MPa以上1.2×103MPa以下の範囲に設定し、この成形圧によって、平均面積率xA(平均充填率)を表1に示す値に制御した。また、磁性部品における磁気コアは、長さ3mm、幅3mm、コイル軸方向の高さ1mmの直方体形状を有していた。
【0088】
実験1の各試料では、作製した磁気コアに対して、以下に示す評価を実施した。
【0089】
磁気コアの断面解析
磁気コアのコイル軸方向に沿う断面を鏡面研磨し、コイルの内側に位置する中芯部と、中芯部の外側に位置する外側部と、を特定した。そして、中芯部の断面、および、外側部の断面を、それぞれ、SEMで観察し、画像解析ソフト(ナノシステム株式会社、Nano Hunter NS2K-Pro)を用いて各領域における軟磁性粉末の面積率分布を解析した。具体的に、まず、コイル軸に沿う断面に含まれる各金属粒子の円相当径を測定し、軟磁性粉末の最大粒子径DMAX(円相当径の最大値)を特定した。次に、各領域(中芯部および外側部)の断面を、最大粒子径DMAXの2倍の格子幅を有する等間隔格子を用いて、100個の正方形領域に区分けした。そして、(2DMAX2の面積を有する各正方形領域に含まれる金属粒子の合計面積を計測することで、各正方形領域における軟磁性粉末の面積率xiを算出した。
【0090】
測定結果に基づいて、軟磁性粉末の平均面積率xA、中芯部における面積率分布の歪度Sα、外側部における面積率分布の歪度Sβ、および、歪度の差(Sα-Sβ)を算出した。実験1の各試料における解析結果を表1に示す。なお、平均面積率xA(表1に示す「平均」)は、中芯部における面積率xiおよび外側部における面積率xiを両方含む分布の算術平均値を意味する。
【0091】
1次顆粒のみを用いた試料A1~試料A5の磁気コアでは、中芯部および外側部の両方で、軟磁性粉末の面積率分布が、正規分布に従い、SαおよびSβがいずれも0.00であった。一方、試料A6~試料A10の磁気コアでは、混合顆粒を充填した中芯部において、Sαが-0.50となり、1次顆粒を充填した外側部において、Sβが0.00となり、歪度の差が-0.50となった。試料A11~試料15では、混合顆粒を充填した中芯部において、Sαが0.50となり、1次顆粒を充填した外側部において、Sβが0.00となり、歪度の差が0.50となった。
【0092】
磁性部品の特性評価
周波数1MHzにおける磁性部品のインダクタンスL0(単位:μH)を、LCRメータ(アジレント・テクノロジー社製4284A)を用いて測定した。当該インダクタンスL0は、4.0μH以上を良好と判定した。
【0093】
また、磁性部品に対して、直流電流を0Aから一定の上昇率で印加し、その際のインダクタンスの変化を計測した。そして、直流電流を印加した際のインダクタンスLが、0AにおけるインダクタンスL0に対して10%低下した際の直流電流の値(すなわち、L/L0=90%となった際の直流電流値)を、直流重畳定格電流Isat(単位:A)として特定した。実験1における各試料の評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、軟磁性粉末の平均面積率xAが75%以上の試料(試料A2~試料A5、試料A7~試料A10、試料A12~試料A15)では、インダクタンスが4.0μH以上となり、高いインダクタンスを確保できた。直流重畳特性については、平均面積率xAの増加に伴い、直流重畳定格電流が低下していく傾向となるが、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.50の実施例(試料A7~試料A10)、および、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例(試料A12~試料A15)では、高いインダクタンスを確保しつつ、歪度の差が0.00の比較例(試料A2~試料A5)よりも、良好な直流重畳特性が得られることがわかった。以下、図7A図7Bに基づいて、直流重畳特性の向上効果について詳述する。
【0096】
図7Aは、磁気コアにおける軟磁性粉末の平均面積率xA(平均充填率)とIsatとの関係を示すグラフである。図7Aの横軸が平均面積率xA、縦軸がIsatであり、表1に示す試料A1~試料A15の評価結果をプロットしている。図7Aに示しように、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.5の実施例では、比較例よりも高いIsatが得られ、直流重畳特性が向上した。
【0097】
一方、図7Bは、磁気コアにおける軟磁性粉末の平均面積率xA(平均充填率)と、インダクタンスとの関係を示すグラフである。図7Bの横軸が平均面積率xA、縦軸がインダクタンスであり、表1に示す試料A1~試料A15の評価結果をプロットしている。平均面積率xAが75%以上90%の範囲では、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例におけるインダクタンスが、比較例よりも向上した。
【0098】
磁性部品の設計においては、まず、所望のインダクタンスを定め、当該インダクタンスを実現するために必要な軟磁性粉末の平均充填率を設定する。直流重畳特性は、設定した平均充填率の結果として現れる特性である。歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例では、比較例よりも高いインダクタンスが得られるため、所望のインダクタンスを得るための平均充填率を低減することができる。たとえば、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00の比較例では、L0=5.5μHを得るために、軟磁性粉末の平均充填率を80%以上に設定する必要があるが、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例では、比較例よりも低い平均充填率でL0=5.5μHを実現できる。このように、平均充填率を低減できることから、歪度の差(Sα-Sβ)の実施例では、所定のインダクタンスにおける直流重畳特性を比較例よりも向上させることができる。
【0099】
図7Cが、インダクタンスとIsatの関係を示すグラフであり、表1に示す各試料の評価結果をプロットしている。図7Cから明らかなように、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00の比較例では、L0=5.5μHでのIsatが2.0A程度であるのに対して、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例では、L0=5.5μHでのIsatが凡そ2.2A以上であり、比較例よりも直流重畳特性を向上させることができる。なお、図7Cでは、プロットがグラフの右上に近づくほど磁気特性が良好であると判断できる。図7Cに示すグラフから、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.50の実施例、および、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例では、高いインダクタンスと優れた直流重畳特性とを両立できることがわかった。
【0100】
(実験2)
実験2では、歪度の差(Sα-Sβ)による直流重畳特性の向上効果をより詳細に検討するために、表2および表3に示す磁気コアを製造した。なお、実験2では、表2および表3に示すように、所定の(Sα-Sβ)それぞれに対して、平均面積率が異なる4つの磁性部品を製造した。
【0101】
実験2では、実験1と同じ軟磁性粉末および樹脂原料を用いて、実験1と同じ条件で1次顆粒を製造した。また、実験1と同様に、混練工程後の顆粒に対して、篩分級および気流分級を施し、比重の小さい2次顆粒と、比重の大きい2次顆粒とを製造した。
【0102】
試料B1~試料B36では、中芯部における歪度(Sα)、および、外側部(Sβ)が、それぞれ、表2に示す値となるように、1次顆粒と2次顆粒とを混合し、中芯部用原料および外側部用原料とを製造した。特に試料B5~試料B36では、歪度の差(Sα-Sβ)が負の値を示すように、各原料顆粒における1次顆粒と2次顆粒との混合比を設定した。
【0103】
試料C1~試料C32では、中芯部における歪度(Sα)、および、外側部(Sβ)が、それぞれ、表3に示す値となるように、1次顆粒と2次顆粒とを混合し、中芯部用原料および外側部用原料とを製造した。試料C1~試料C32では、歪度の差(Sα-Sβ)を正の値に設定した。
【0104】
実験2においても、実験1と同様の方法で、中芯部用原料および外側部用原料を用いて、2段階圧縮により、コイルが埋設された磁気コアを有する磁性部品を製造した。この際、成形圧を調整することで、平均面積率xAを表2および表3に示す値に設定した。
【0105】
実験2の各試料においても、実験1と同じ方法で、平均面積率xA、中芯部における面積率分布の歪度Sα、外側部における面積率分布の歪度Sβ、歪度の差(Sα-Sβ)、インダクタンス(L0)、およびIsatを測定した。各試料の評価結果を表2および表3に示す。表2は、歪度の差(Sα-Sβ)を-0.01以下に設定した実施例の評価結果を示しており、表3は、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に設定した実施例の評価結果を示している。また、図8は、インダクタンスとIsatの関係を示すグラフであって、表2に示す評価結果の一部((Sα-Sβ)=0.00、-0.01、-0.05、-0.10、-0.50)をプロットした。図9は、μiとIsatの関係を示すグラフであって、表3に示す評価結果の一部((Sα-Sβ)=0.00、0.01、0.05、0.10、0.50)をプロットした。
【0106】
また、実験2では、歪度の差が等しい4つの試料の評価結果から、インダクタンスを5.5μHに設定した場合のIsatを算出した。具体的に、各歪度の差における4つの試料の評価結果を、図8および図9に示すような、インダクタンスとIsatの関係を示すグラフにプロットし、この4つのプロットに基づく近似直線を最小二乗法により求めた。そして、当該近似直線を用いて、インダクタンスを5.5μHに設定した場合のIsatを算出した。表2および表3に、近似直線の傾き(単位:A)と切片(単位:A)、および、インダクタンスを5.5μHでのIsat(単位:A)を示す。
【0107】
図10は、歪度の差の絶対値(|Sα-Sβ|)と、L0=5.5μHでのIsatとの関係を示すグラフである。図10の横軸は歪度の差の絶対値を示す対数軸であり、縦軸がL0=5.5μHでのIsatを示す軸であり、表2に示す実施例(すなわち(Sα-Sβ)≦-0.01の実施例)の評価結果を、黒丸のマーカーと実線で示し、表3に示す実施例(すなわち0.01≦(Sα-Sβ)の実施例)の評価結果を、白抜きのマーカーと点線で示した。なお、図10に示す二点鎖線は、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00でインダクタンスを5.5μHに設定した場合のIsatを示すラインであり、グラフ横軸とは無関係である。
【0108】
また、インダクタンスを5.5μHに設定した場合において、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00である比較例のIsatを基準として、各歪度の差におけるIsatの向上率(単位:%)を算出した。具体的に、歪度の差が0.00でインダクタンスを5.5μHに設定した場合のIsatを「ISTD」とし、各歪度の差でインダクタンスを5.5μHに設定した場合のIsatを「Idiff」として、各歪度の差におけるIsatの向上率を、計算式「ISkew/ISTD(%)」に基づいて算出した。Isatの向上率は、5%以上を良好と判定し、10%以上を特に良好と判定した。
【0109】
【表2】
【表3】
【0110】
表2に示す評価結果から、歪度の差(Sα-Sβ)を-0.01以下に設定することで、直流重畳特性が向上することがわかった。より具体的に、図8のグラフにおいて、歪度の差(Sα-Sβ)を-0.01以下に設定することで、インダクタンスとIsatの関係を示すプロットが、比較例のプロットよりもグラフ右上に向かって移動する傾向が確認できた。この結果から、歪度の差(Sα-Sβ)を-0.01以下に設定することで、高いインダクタンスを確保しつつ直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0111】
また、図10において黒塗りのマーカーと実線で示すグラフから、-1.00≦(Sα-Sβ)≦-0.01の範囲では、歪度の差(Sα-Sβ)の低下に伴って、Isatがより向上する傾向が確認でき、-10.00≦(Sα-Sβ)≦-1.00の範囲では、Isatが高止まりする傾向が確認できた。表2、図8および図10の結果から、(Sα-Sβ)≦-0.01の場合、歪度の差は、-0.05以下であることが好ましく、-0.10以下であることがより好ましく、-0.50以下であることがさらに好ましいことが分かった。また、(Sα-Sβ)≦-0.01の場合、歪度の差の下限は特に限定されず、たとえば、-10.00であってもよいことがわかった。
【0112】
表3に示す評価結果から、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に設定することで、インダクタンスが向上することがわかった。また、図9のグラフにおいて、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に設定することで、インダクタンスとIsatの関係を示すプロットが、比較例のプロットよりもグラフ右上に向かって移動する傾向が確認できた。この結果から、歪度の差(Sα-Sβ)を0.01以上に設定することで、高いインダクタンスを確保しつつ直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0113】
また、図10において白抜きのマーカーと点線で示すグラフから、0.01≦(Sα-Sβ)≦1.00の範囲では、歪度の差の上昇に伴って、Isatがより向上する傾向が確認でき、1.00≦(Sα-Sβ)≦10.00の範囲においても、高いIsatが得られることが確認できた。表3、図9および図10の結果から、0.01≦(Sα-Sβ)の場合、歪度の差は、0.05以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、0.50以上であることがさらに好ましいことが分かった。また、0.01≦(Sα-Sβ)の場合、歪度の差の上限は特に限定されず、たとえば、10.00であってもよいことがわかった。
【0114】
以上のとおり、実験2の評価結果から、軟磁性粉末の平均面積率を75%以上90%以下に設定した磁気コアにおいて、歪度の差の絶対値を0.01以上に制御することで、高いインダクタンスを確保しつつ、直流重畳特性の向上が図れることが立証できた。
【0115】
(実験3)
実験3では、実験2と同様に、中芯部における歪度Sα、および、外側部における歪度Sβが、表4~表5に示す値となるように、1次顆粒と2次顆粒との混合比を調整し、各試料に係る磁性部品を製造した。歪度の差(Sα-Sβ)を「-0.50」に設定した実施例(試料D5~試料D20、試料A7~試料A10、試料B21~試料B24)の評価結果を表4に示す。また、歪度の差(Sα-Sβ)を「0.50」に設定した実施例(試料E5~試料E20、試料A12~試料A15、試料C17~試料C20)の評価結果を表5に示す。
【0116】
【表4】
【表5】
【0117】
実験3の実施例においても、実験2と同様に、歪度の差の絶対値を0.01以上に設定することで、高いインダクタンスと良好な直流重畳特性とを両立させることができた。
【0118】
(実験4)
実験4では、大粒子の絶縁被膜に関する条件を変更して、表6に示す15種類の磁性部品を製造した。具体的に、試料F1~試料F3では、絶縁被膜を有していない大粒子を用いた。試料F4~試料F9では、大粒子における絶縁被膜の平均厚みを変更し、試料F10~試料F15では、大粒子における絶縁被膜の組成を変更した。軟磁性粉末に関するその他の仕様(大粒子の組成、大粒子の平均粒径、小粒子の仕様、および、大粒子と小粒子の比率など)は、実験1と同じであり、実験1と同様の条件で磁性部品を製造した。
【0119】
実験4では、大粒子の絶縁被膜に関する条件に応じて、それぞれ、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00の比較例、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.50の実施例、および、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例の3種の磁性部品を製造した。各比較例および各実施例におけるSαおよびSβは、実験2と同様に、1次顆粒と2次顆粒の配合比により制御した。また、実験4では、対応する比較例および実施例が同程度(誤差が±0.2μHの範囲内)のインダクタンスL0を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0120】
実験4の評価結果を、表6に示す。
【表6】
【0121】
試料F1~試料F3の評価結果から、絶縁被膜の有無に拘わらず、歪度の差に基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。また、試料F4~試料F15の評価結果から、絶縁被膜の組成や厚みを変えた場合であっても、歪度の差に基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0122】
(実験5)
試料G1~試料G15
試料G1~試料G15では、大粒子と小粒子とを表7に示す比率で混ぜ合わせて、磁性部品を製造した。試料G1~試料G15で使用した大粒子と小粒子の仕様(粒子組成、平均粒径、被膜組成、および被膜平均厚み)は、実験1~2と同じであり、大粒子と小粒子の比率以外の製造条件は、実験1~2と同様とした。
【0123】
試料H1~試料H12
試料H1~試料H12では、小粒子を表8に示す組成に変更して、磁性部品を製造した。試料H1~試料H12における小粒子の平均粒径は、いずれも、1μmであった。また、試料H1~試料H12では、いずれも、大粒子の比率を80wt%、小粒子の比率を20%に設定した。上記以外の実験条件は、実験1~2と同様とした。
【0124】
実験5では、変更した製造条件(大粒子と小粒子の比率(表7)、小粒子の組成(表8))に応じて、それぞれ、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00の比較例、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.50の実施例、および、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例の3種の磁性部品を製造した。また、実験5では、対応する比較例および実施例が同程度のインダクタンスL0を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0125】
【表7】
【表8】
【0126】
表7に示す評価結果から、大粒子と小粒子の比率を変えた場合であっても、歪度の差に基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。また、インダクタンスを高める観点では、大粒子の比率を60wt%以上に設定することが好ましいことがわかった。
【0127】
表8に示す評価結果から、小粒子の組成を変えた場合であっても、歪度の差に基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0128】
(実験6)
実験6では、大粒子、中粒子、および、小粒子を含む軟磁性粉末を用いて、15種類の磁性部品を製造した。実験6の各試料で使用した大粒子および小粒子の仕様(粒子組成、平均粒径、被膜組成、および被膜平均厚み)は、実験1~実験2と同様とし、顆粒の製造時に大粒子および小粒子と共に、表9に示す組成を有する中粒子を添加した。試料I1~試料I15で使用した中粒子の平均粒径は、いずれも、5μmであった。また、試料I1~試料I15では、いずれも、大粒子の比率を80wt%、中粒子の比率を10wt%、および、小粒子の比率を10%に設定した。上記以外の実験条件は、実験1~2と同様とした。
【0129】
実験6では、軟磁性粉末の構成に応じて、それぞれ、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00の比較例、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.50の実施例、および、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例の3種の磁性部品を製造した。また、実験6では、対応する比較例および実施例が同程度のインダクタンスL0を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0130】
【表9】
【0131】
表9に示す評価結果から、軟磁性粉末を3種の粒子群で構成した場合であっても、歪度の差に基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【0132】
(実験7)
実験7では、大粒子の組成を変更して、表10~表12に示す磁気コアを製造した。表10の試料J1~試料J9では、非晶質構造を有する大粒子を用い、表11の試料K1~試料K9では、ナノ結晶構造を有する大粒子を用い、表12の試料L1~試料L12では、結晶質構造を有する大粒子を用いた。実験7の各実施例で使用した大粒子の平均粒径は、いずれも25μmであり、各試料における大粒子には、いずれも、平均厚みが20nmで実験1と同じ組成を有する絶縁被膜を形成した。
【0133】
実験7では、大粒子の組成に応じて、それぞれ、歪度の差(Sα-Sβ)が0.00の比較例、歪度の差(Sα-Sβ)が-0.50の実施例、および、歪度の差(Sα-Sβ)が0.50の実施例の3種の磁性部品を製造した。また、実験7では、対応する比較例および実施例が同程度のインダクタンスL0を示すように、各試料における成形圧を設定し、比較例におけるIsatを基準として、各実施例におけるIsatの向上率を算出した。
【0134】
【表10】
【表11】
【表12】
【0135】
実験7の表10~表12に示す評価結果から、大粒子の組成に拘わらず、歪度の差に基づいて、直流重畳特性の向上が図れることがわかった。
【符号の説明】
【0136】
100 … 磁性部品
2 … 磁気コア
1 … 軟磁性粉末
10 … 金属粒子
10a … 大粒子
10b … 小粒子
10c … 中粒子
3 … 樹脂
20 … 正方形領域
2α … 中芯部
2β … 外側部
2s1 … 上面
2s2 … 下面
5 … コイル
5a,5b … 端部
6 … 外部電極
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10