(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172499
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】膜電極接合体用の触媒層、膜電極接合体、及び導電性繊維材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241205BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20241205BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241205BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20241205BHJP
H01B 1/04 20060101ALI20241205BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20241205BHJP
C25B 11/065 20210101ALI20241205BHJP
C25B 11/056 20210101ALI20241205BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241205BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01M12/08 K
H01M12/06 F
H01B1/04
C25B11/052
C25B11/065
C25B11/056
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090257
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】西山(小林) 亜貴
(72)【発明者】
【氏名】吉村 光生
(72)【発明者】
【氏名】玄番 美穂
【テーマコード(参考)】
4K011
5G301
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA23
4K011AA30
4K011BA07
5G301BA01
5G301BA03
5G301BE10
5H018AA06
5H018DD05
5H018EE05
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH03
5H018HH05
5H032AA01
5H032AS11
5H032CC11
5H032EE15
5H032EE18
5H126BB06
5H126DD02
5H126DD05
5H126DD14
(57)【要約】
【課題】電気化学反応の効率を向上させるための技術を提供する。
【解決手段】本開示の触媒層は、複数の担体粒子11、複数の触媒粒子12及び導電性繊維材料13を備える。導電性繊維材料13は、複数の第1導電性繊維13aと複数の第2導電性繊維13bとを有し、複数の第1導電性繊維13aの親水性が複数の第2導電性繊維13bの親水性よりも高く、下記要件(a)及び(b)から選択される少なくとも1つを満たす。(a)複数の第2導電性繊維13bの平均長さが複数の第1導電性繊維13aの平均長さ未満である。(b)導電性繊維材料13の粒度分布が複数の第1導電性繊維13aに基づく第1ピークと複数の第2導電性繊維13bに基づく第2ピークとを有し、第2ピークは、第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の担体粒子と、
前記複数の担体粒子に担持された複数の触媒粒子と、
前記複数の担体粒子に接するように配置された導電性繊維材料と、
を備え、
前記導電性繊維材料は、複数の第1導電性繊維と複数の第2導電性繊維とを有し、
前記複数の第1導電性繊維の親水性が前記複数の第2導電性繊維の親水性よりも高く、
下記要件(a)及び(b)から選択される少なくとも1つを満たす、
膜電極接合体用の触媒層。
(a)前記複数の第2導電性繊維の平均長さが前記複数の第1導電性繊維の平均長さ未満である、
(b)前記導電性繊維材料の粒度分布が前記複数の第1導電性繊維に基づく第1ピークと前記複数の第2導電性繊維に基づく第2ピークとを有し、前記第2ピークは、前記第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。
【請求項2】
前記複数の第1導電性繊維が親水性を有する、
請求項1に記載の膜電極接合体用の触媒層。
【請求項3】
前記担体粒子、前記触媒粒子及び前記導電性繊維材料の合計質量に対する前記導電性繊維材料の質量の比率が20質量%から50質量%の範囲にある、
請求項1に記載の膜電極接合体用の触媒層。
【請求項4】
前記第2導電性繊維の平均長さが前記担体粒子の平均粒径を上回る、
請求項1に記載の触媒層。
【請求項5】
前記担体粒子がメソポーラスカーボン粒子を含む、
請求項1に記載の触媒層。
【請求項6】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが請求項1に記載の触媒層を含む、
膜電極接合体。
【請求項7】
導電性繊維材料であって、
複数の第1導電性繊維と、
複数の第2導電性繊維と、
を備え、
前記複数の第1導電性繊維の親水性が前記複数の第2導電性繊維の親水性よりも高く、
下記要件(a)及び(b)から選択される少なくとも1つを満たす、
導電性繊維材料。
(a)前記複数の第2導電性繊維の平均長さが前記複数の第1導電性繊維の平均長さ未満である、
(b)前記導電性繊維材料の粒度分布が前記複数の第1導電性繊維に基づく第1ピークと前記複数の第2導電性繊維に基づく第2ピークとを有し、前記第2ピークは、前記第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体用の触媒層、膜電極接合体、及び導電性繊維材料に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池などの電気化学デバイスには、アノード、電解質膜及びカソードを有する膜電極接合体が用いられる。膜電極接合体のアノード及びカソードは、それぞれ、触媒層を有する。触媒層には、電極触媒として、触媒粒子を担持したカーボン粒子などが用いられる。触媒層において、電極触媒は、イオン伝導性を有するアイオノマーで覆われている。
【0003】
特許文献1には、触媒層に繊維状物質が含まれていること、及び、繊維状物質が触媒層の空孔を増加させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、電気化学反応の効率を向上させるための技術が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
複数の担体粒子と、
前記複数の担体粒子に担持された複数の触媒粒子と、
前記複数の担体粒子に接するように配置された導電性繊維材料と、
を備え、
前記導電性繊維材料は、複数の第1導電性繊維と複数の第2導電性繊維とを有し、
前記複数の第1導電性繊維の親水性が前記複数の第2導電性繊維の親水性よりも高く、
下記要件(a)及び(b)から選択される少なくとも1つを満たす、
膜電極接合体用の触媒層を提供する。
(a)前記複数の第2導電性繊維の平均長さが前記複数の第1導電性繊維の平均長さ未満である、
(b)前記導電性繊維材料の粒度分布が前記複数の第1導電性繊維に基づく第1ピークと前記複数の第2導電性繊維に基づく第2ピークとを有し、前記第2ピークは、前記第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。
【0007】
別の側面において、本開示は、
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが上記本開示の触媒層を含む、
膜電極接合体を提供する。
【0008】
さらに別の側面において、本開示は、
導電性繊維材料であって、
複数の第1導電性繊維と、
複数の第2導電性繊維と、
を備え、
前記複数の第1導電性繊維の親水性が前記複数の第2導電性繊維の親水性よりも高く、
下記要件(a)及び(b)から選択される少なくとも1つを満たす、
導電性繊維材料を提供する。
(a)前記複数の第2導電性繊維の平均長さが前記複数の第1導電性繊維の平均長さ未満である、
(b)前記導電性繊維材料の粒度分布が前記複数の第1導電性繊維に基づく第1ピークと前記複数の第2導電性繊維に基づく第2ピークとを有し、前記第2ピークは、前記第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、電気化学反応の効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1における固体高分子形燃料電池の概略断面図
【
図4】実施の形態2における導電性繊維材料を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見等)
本発明者らが本開示に想到するに至った当時、カーボンナノファイバーなどの繊維状物質を含む触媒層が知られていた(特許文献1)。繊維状物質は、細孔の形成を促し、排水性及びガス拡散性を向上させると考えられていた。ただし、電気化学デバイスにおいて、触媒層からガス拡散層に排出される水の流れとガス拡散層から触媒層に供給されるガスの流れとは対抗する流れである。そのため、排水とガス拡散とが細孔の内部で競合する可能性がある。
【0012】
そうした状況下において、本発明者らは、排水に適した細孔とガス拡散に適した細孔とを作り分けることについて検討した。排水に適した細孔とガス拡散に適した細孔とを共存させることができれば、排水性及びガス拡散性が向上して電気化学反応の効率が向上することが期待される。鋭意検討の結果、大きい直径を有する細孔に親水性の性質を持たせること、及び、小さい直径を有する細孔に疎水性の性質を持たせることを想到した。このような構成によれば、大きい細孔への水の浸入及び大きい細孔からの水の排出が促進され、かつ、小さい細孔への水の浸入が抑制されうる。
【0013】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、又は、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0014】
添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0015】
(実施の形態1)
以下、
図1から
図3を用いて、実施の形態1を説明する。
【0016】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1における燃料電池101の概略断面図である。燃料電池101は、膜電極接合体113、アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111を備えている。アノードセパレータ106とカソードセパレータ111との間に膜電極接合体113が配置されている。燃料電池101は、例えば、固体高分子形燃料電池である。
【0017】
膜電極接合体113は、水素の精製を行う水素精製デバイスなどの他の電気化学デバイスにも使用されうる。
【0018】
膜電極接合体113は、アノード103、電解質膜102及びカソード108を有する。電解質膜102の一方の面にアノード103が接合されている。電解質膜102の他方の面にカソード108が接合されている。
【0019】
電解質膜102は、アノード103とカソード108との間に配置されている。電解質膜102は、プロトン伝導性を有する高分子材料で作られている。電解質膜102は、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、又は、炭化水素系の高分子材料でできた膜である。
【0020】
アノード103は、アノード触媒層104及びアノードガス拡散層105を有する。電解質膜102とアノードガス拡散層105との間にアノード触媒層104が配置されている。カソード108は、カソード触媒層109及びカソードガス拡散層110を有する。電解質膜102とカソードガス拡散層110との間にカソード触媒層109が配置されている。
【0021】
アノード触媒層104は、水素をプロトンに解離する電気化学反応を促進する機能を有する。アノード触媒層104は、電極触媒及びアイオノマーを有する。アノード触媒層104は、触媒粒子を担持したカーボン粒子及びアイオノマーを有していてもよい。
【0022】
アノードガス拡散層105は、アノード触媒層104に水素含有ガスを供給する機能、及び、アノード触媒層104から電子を受け取る機能を有する。アノードガス拡散層105は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。アノードガス拡散層105は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0023】
カソード触媒層109は、プロトンと酸素とから水を生成する電気化学反応を促進する機能を有する。カソード触媒層109の詳細な構造は後述する。
【0024】
カソードガス拡散層110は、カソード触媒層109に酸化剤ガスを供給する機能、及び、カソード触媒層109に電子を受け渡す機能を有する。カソードガス拡散層110は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。カソードガス拡散層110は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0025】
アノードセパレータ106には、アノードガスの流路であるアノードガス流路107が設けられている。カソードセパレータ111には、カソードガスの流路であるカソードガス流路112が設けられている。アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111は、それぞれ、カーボン、金属などの導電性材料で作られている。腐食を防止するために、樹脂、めっきなどの耐食性を有する被膜が設けられていてもよい。
【0026】
図2は、カソード触媒層109の部分拡大断面図である。カソード触媒層109は、電極触媒10、導電性繊維材料13、及びアイオノマー15を有する。電極触媒10、導電性繊維材料13、及びアイオノマー15が相互に接している。
【0027】
電極触媒10は、粒子の形状を有する。電極触媒10の粒子は、担体粒子11及び複数の触媒粒子12を有する。複数の触媒粒子12が担体粒子11に担持されている。
【0028】
担体粒子11は導電性を有する。担体粒子11は、例えば、中実又は多孔質のカーボン粒子である。中実のカーボン粒子としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックの粒子が挙げられる。中実のカーボン粒子の場合、その表面に触媒粒子12が担持される。多孔質のカーボン粒子としては、メソポーラスカーボン粒子が挙げられる。多孔質のカーボン粒子の場合、細孔(メソ孔)の内部に触媒粒子12が配置される。メソポーラスカーボン粒子の細孔の内部に触媒粒子12を配置することによって、アイオノマー15による触媒粒子12の被毒を抑制することができる。
【0029】
触媒粒子12は、白金、白金合金などの貴金属を含む粒子でありうる。白金合金としては、白金と、コバルト、ニッケル、ルテニウム及びパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種との合金が挙げられる。
【0030】
触媒粒子12は、ナノ粒子であってもよい。触媒粒子12は、例えば、1nm以上30nm以下の平均粒径を有する。触媒粒子12の平均粒径は、複数(例えば、100個以上)の触媒粒子12の直径の平均値である。触媒粒子12の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定されうる。電極触媒10のTEM像において、触媒粒子12の面積を画像処理によって求める。求めた面積と等しい面積を有する円の直径を触媒粒子12の直径とみなすことができる。
【0031】
アイオノマー15は、プロトン伝導性を有する電解質であり、電極触媒10を互いにプロトン伝導可能な状態に連結している。アイオノマー15は、担体粒子11に付着している。担体粒子11の表面の一部のみがアイオノマー15によって被覆されていてもよく、担体粒子11の表面の全部がアイオノマー15によって被覆されていてもよい。アイオノマー15は、導電性繊維材料13に付着していてもよい。
【0032】
アイオノマー15としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、炭化水素系の高分子材料などが挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料は、優れたプロトン伝導性を有するので、アイオノマー15に適している。
【0033】
導電性繊維材料13は、複数の第1導電性繊維13a及び複数の第2導電性繊維13bを有する。導電性繊維材料13は、電極触媒10の粒子間に細孔を形成し、排水性及びガス拡散性を高める。カソード触媒層109において、導電性繊維材料13は、電極触媒10の担体粒子11に接するように配置されている。電極触媒10の粒子同士が導電性繊維材料13によって接続される。これにより、プロトン伝導及び電子伝導が促進される。
【0034】
第1導電性繊維13a及び第2導電性繊維13bは、例えば、炭素繊維である。炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維などが挙げられる。
【0035】
本実施の形態では、第1導電性繊維13aの性質が第2導電性繊維13bの性質と異なる。具体的には、複数の第1導電性繊維13aの親水性が複数の第2導電性繊維13bの親水性よりも高い。つまり、第2導電性繊維13bが水を弾きやすい。親水性の度合いは、親水性の官能基の有無及び数によって判断することができる。例えば、親水性の官能基が表面に多く存在する繊維を第1導電性繊維13aとみなし、親水性の官能基が表面に殆ど存在しない繊維を第2導電性繊維13bとみなすことができる。親水性の官能基が表面に多く存在することは、例えば、親水性の官能基を付与するための表面処理がなされていることを意味する。親水性の官能基が表面に殆ど存在しないことは、親水性の官能基を付与するための表面処理がなされていないことを意味する。
【0036】
また、第1導電性繊維13aの長さは、第2導電性繊維13bの長さと異なる。具体的には、複数の第2導電性繊維13bの平均長さが複数の第1導電性繊維13aの平均長さ未満である。複数の第1導電性繊維13aの平均長さは、例えば、6μm以上10μm以下である。複数の第2導電性繊維13bの平均長さは、例えば、2μm以上4μm以下である。第1導電性繊維13a及び第2導電性繊維13bの平均繊維直径は、例えば、0.15nm以上0.3nm以下である。
【0037】
第1導電性繊維13aの平均長さ及び第2導電性繊維13bの平均長さは、例えば、次の方法によって測定することができる。カソード触媒層109を水-エタノール混合物のような溶媒に分散させて分散液を調製し、分散液をガラス板などの基板上に薄く塗布して塗布膜を形成する。塗布膜を乾燥させた後、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置)又はTEM-EDX(透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置)を用い、塗布膜を1又は複数の視野で観察する。例えば、親水性の官能基の有無に基づき、EDXによって第1導電性繊維13aと第2導電性繊維13bとを区別することができる。SEM像又はTEM像から複数の第1導電性繊維13aの長さを測定する。例えば、長い方から数えて20個以上の測定値の平均値を第1導電性繊維13aの平均長さとみなすことができる。同じ方法で第2導電性繊維13bの平均長さを求めることができる。平均繊維直径も同じ方法で求めることができる。第1導電性繊維13aの平均長さ及び第2導電性繊維13bの平均長さは、電子顕微鏡によるカソード触媒層109の直接観察によって測定されてもよい。
【0038】
第1導電性繊維13aの長さと第2導電性繊維13bの長さとの違いは、導電性繊維材料13の粒度分布にも現れる。すなわち、導電性繊維材料13の粒度分布が複数の第1導電性繊維13aに基づく第1ピークと複数の第2導電性繊維13bに基づく第2ピークとを有する。第2ピークは、第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。
【0039】
図3は、導電性繊維材料13の粒度分布を模式的に示す図である。横軸は粒子寸法(粒子径)を表す。横軸の単位は、通常、マイクロメートルである。横軸のスケールは対数スケールであってもよい。縦軸は頻度(%)を表す。このような粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置によって得られる。粒子寸法D1の位置に第1導電性繊維13aに基づく第1ピークP1が現れる。粒子寸法D2の位置に第2導電性繊維13bに基づく第2ピークP2が現れる。粒子寸法D2は、粒子寸法D1よりも小さい。
【0040】
導電性繊維材料13の粒度分布は、カソード触媒層109を水-エタノール混合物のような溶媒に溶かして溶液を調製することによって測定可能である。粒度分布には、電極触媒10に基づくピークも現れる。ただし、電極触媒10に基づくピークは、
図3に示す第1ピークP1及び第2ピークP2と異なる位置に現れる場合が殆どである。例えば、電極触媒10の担体粒子11が中実のカーボン粒子である場合、その平均粒径は、例えば20nmから40nmである。この場合、担体粒子11に基づくピークは、粒子寸法D2よりも十分に小さい粒子寸法の位置に現れる。電極触媒10の担体粒子11がメソポーラスカーボン粒子である場合、その平均粒径は、例えば0.6μmから2.0μmである。この場合、担体粒子11に基づくピークは、粒子寸法D1よりも十分に大きい粒子寸法の位置に現れる。導電性繊維材料13の粒度分布のピークは、平均長さよりも十分に小さい領域に現れるためである。
【0041】
導電性繊維材料13が以上に説明した構成を有する場合、
図2に示すように、カソード触媒層109に第1細孔14a及び第2細孔14bが形成されうる。第1細孔14aは、相対的に大きい直径を有する細孔である。第2細孔14bは、相対的に小さい直径を有する細孔である。長い第1導電性繊維13aが大きい第1細孔14aを形成する傾向にある。短い第2導電性繊維13bが小さい第2細孔14bを形成する傾向にある。第1導電性繊維13aの親水性が第2導電性繊維13bの親水性よりも高いので、第2細孔14bには水が浸入しにくい。つまり、第2細孔14bを通じてガスが拡散しやすい。第1細孔14aには水が浸入しやすく、第1細孔14aから水が排出されやすい。第1細孔14aが主に排水経路として機能し、第2細孔14bが主にガス供給経路として機能する。本実施の形態によれば、カソード触媒層109に排水経路とガス供給経路とを独立して形成することができる。その結果、排水性及びガス拡散性が向上し、カソード触媒層109における電気化学反応の効率が向上しうる。
【0042】
細孔の内部での水の挙動を表すパラメータとして毛管圧(pc)がある。毛管圧(pc)は下記のヤング-ラプラスの式で決定される。下記式において、γH2Oは水の表面張力を表す。θは細孔の表面に対する水の内部接触角を表す。dporeは細孔直径を表す。
【0043】
【0044】
毛管圧pcが正の値をとるとき、毛管圧pcが大きければ大きいほど細孔から水が排出されにくく、毛管圧pcがゼロに近ければ近いほど細孔から水が排出されやすい。毛管圧pcが負の値をとるとき、毛管圧pcが小さければ小さいほど細孔に水が浸入しやすく、毛管圧pcがゼロに近ければ近いほど細孔に水が浸入しにくい。細孔直径dporeは、導電性繊維材料13を構成する繊維の長さに応じて変化する。内部接触角θは、導電性繊維材料13を構成する繊維の性質に応じて変化する。ヤング-ラプラスの式から導かれる細孔直径と性質との関係は、表1に示すとおりである。
【0045】
【0046】
表1の右下欄に示すように、長い親水性の繊維である第1導電性繊維13aによれば、水が排出されやすい大きい第1細孔14aを形成することができる。表1の左上欄に示すように、短い疎水性の繊維である第2導電性繊維13bによれば、水が浸入しにくい小さい細孔14bを形成することができる。水が浸入しにくい小さい第2細孔14bは、ガス拡散を促進する細孔でありうる。互いに異なる特性を持つ第1細孔14a及び第2細孔14bがカソード触媒層109に存在するので、排水の作用とガス拡散の作用が競合しにくい。その結果、電気化学反応の効率が向上しうる。
【0047】
本実施の形態において、第1導電性繊維13aの親水性が第2導電性繊維13bの親水性を上回るように、第1導電性繊維13aに親水性が付与されうる。第1導電性繊維13aが親水性を有する場合、第1細孔14aの表面に対する内部接触角θ1が小さい値をとる。内部接触角θ1は、例えば、0°<θ1<90°を満たす。このとき、正の毛管圧(pc>0kPa)も小さい値をとる。一方、第2細孔14bの表面に対する内部接触角θ2は大きい値をとる。内部接触角θ2は、例えば、90°<θ2<180°を満たす。このとき、負の毛管圧(pc<0kPa)の絶対値も大きい値をとる。その結果、第1細孔14aはカソード触媒層109で生成された水を積極的に排出することができる。第2細孔14bはガス拡散に有利に利用されうる。
【0048】
詳細には、第1導電性繊維13aの表面に親水性の官能基が付与されていてもよい。親水性の官能基としては、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)などが挙げられる。第1導電性繊維13aに親水性を付与するために、第1導電性繊維13aの原料繊維に酸素プラズマ処理、フッ素ガス処理、酸処理、熱処理などの表面処理を施すことによって、親水性の官能基が表面に付与され、親水性を有する第1導電性繊維13aが得られる。複数の種類の親水性の官能基が第1導電性繊維13aの表面に付与されていてもよい。気相成長炭素繊維、カーボンナノファイバーなどの炭素繊維の表面には、アルキル基が存在することが知られている。特別な処理を施さない場合、それらの炭素繊維は疎水性を有する。プラズマ処理などの表面処理によって、アルキル基を親水性の官能基に置き換えることができる。親水性の官能基を付与するための処理が施された繊維を第1導電性繊維13aとみなし、親水性の官能基を付与するための処理がなされていない繊維を第2導電性繊維13bとみなすことができる。第2導電性繊維13bには、フッ素プラズマ処理などの疎水化処理が施されていてもよい。
【0049】
複数の担体粒子11が複数のメソポーラスカーボン粒子を含む場合、本開示の技術が特に有効である。メソポーラスカーボン粒子は、中実のカーボン粒子に比べて大きい寸法を有する傾向にある。そのため、担体粒子11としてメソポーラスカーボン粒子を使用すると、カソード触媒層109の厚さが増加する傾向にある。カソード触媒層109の厚さが増加すると、カソード触媒層109におけるガス拡散性が低下する。メソポーラスカーボン粒子の使用によるガス拡散性の低下を本開示の技術によって補うことができる。
【0050】
カソード触媒層109において、担体粒子11、触媒粒子12及び導電性繊維材料13の合計質量に対する導電性繊維材料13の質量の比率は、例えば、20質量%から50質量%の範囲にある。このような構成によれば、カソード触媒層109におけるガス拡散性とプロトン伝導性とを向上させることができる。
【0051】
第2導電性繊維13bの平均長さは、担体粒子11の平均粒径より大きくてもよい。このような構成によれば、導電性繊維材料13によって接続された電極触媒10の粒子間に細孔が形成されやすい。
【0052】
担体粒子11の平均粒径は、複数(例えば、20個以上)の担体粒子11の直径の平均値である。担体粒子11の直径は、電子顕微鏡(SEM又はTEM)を用いて測定されうる。担体粒子11のSEM像又はTEM像において、担体粒子11の面積を画像処理によって求める。求めた面積と等しい面積を有する円の直径を担体粒子11の直径とみなすことができる。
【0053】
導電性繊維材料13における第1導電性繊維13aと第2導電性繊維13bとの比率は特に限定されない。当該比率は、例えば、質量比にて、(第1導電性繊維13a):(第2導電性繊維13b)=1:9から9:1の範囲にある。
【0054】
本実施の形態において、導電性繊維材料13は、触媒粒子12を担持していない材料でありうる。このような構成によれば、アイオノマー15によって触媒粒子13が被毒されることを回避できる。ただし、電極触媒10から脱落した触媒粒子12が導電性繊維材料13に付着していてもよい。つまり、「導電性繊維材料13が触媒粒子12を担持していない」とは、導電性繊維材料13に触媒粒子12を担持させるための処理が行われていないことを意味する。
【0055】
第1導電性材料13a及び第2導電性繊維13bは、単一の原料繊維から作製することが可能である。例えば、特定の平均長さを有する炭素繊維に親水性の官能基を付与するための処理を施すことによって、第1導電性繊維13aが得られる。平均長さが短くなるように原料繊維を粉砕することによって、第2導電性繊維13bが得られる。ただし、第1導電性繊維13aの原料繊維が第2導電性繊維13bの原料繊維と異なっていてもよい。
【0056】
電極触媒10の粉末、第1導電性繊維13a、第2導電性繊維13b、アイオノマー15及び溶媒を混合することによって、カソード触媒層109を形成するためのインクを調製できる。電解質膜102にインクを塗布して乾燥させることによって、カソード触媒層109が得られる。
【0057】
[1-2.動作]
以上のように構成された燃料電池101について、
図1を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0058】
アノードガス流路107に水素含有ガスを供給する。カソードガス流路112に酸化剤ガスを供給する。酸化剤ガスは典型的には空気である。アノード103においては下記式(1)で表される電気化学反応にて、水素(H2)がプロトン(H+)と電子(e-)とに分かれる。プロトンは、電解質膜102を伝導してアノード103からカソード108に向かって移動する。電子は、外部回路を通じてアノード103からカソード108に向かって移動する。カソード108においては下記式(2)で表される電気化学反応にて、プロトン、酸素(O2)及び電子による電気化学反応にて水(H2O)が生成する。
【0059】
H2→2H++2e- (1)
4H++O2+2e-→2H2O(2)
【0060】
図2を参照して説明したように、電気化学反応によって生成した水は、第1細孔14aから排出されやすい。酸素は、第2細孔14bを通じてカソード触媒層109に拡散されやすい。互いに異なる特性を持つ第1細孔14a及び第2細孔14bがカソード触媒層109に存在するので、排水の作用とガス拡散の作用が競合しにくい。その結果、電気化学反応の効率が向上しうる。
【0061】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、導電性繊維材料13は、複数の第1導電性繊維13aと複数の第2導電性繊維13bとを有する。複数の第1導電性繊維13a及び複数の第2導電性繊維13bによって、カソード触媒層109に排水経路とガス供給経路とを独立して形成することができる。その結果、排水性及びガス拡散性が向上し、カソード触媒層109における電気化学反応の効率が向上しうる。
【0062】
また、本実施の形態において、複数の第1導電性繊維13aが親水性を有していてもよい。このような構成によれば、第1導電性繊維13aによって形成される第1細孔14aの排水性が高まる。
【0063】
また、本実施の形態において、担体粒子11、触媒粒子12及び導電性繊維材料13の合計質量に対する導電性繊維材料13の質量の比率が20質量%から50質量%の範囲にあってもよい。このような構成によれば、カソード触媒層109におけるガス拡散性とプロトン伝導性とを向上させることができる。
【0064】
また、本実施の形態において、第2導電性繊維13bの平均長さが担体粒子11の平均粒径を上回ってもよい。このような構成によれば、導電性繊維材料13によって接続された電極触媒10の粒子間に細孔が形成されやすい。
【0065】
また、本実施の形態において、担体粒子がメソポーラスカーボン粒子を含んでいてもよい。このような構成によれば、メソポーラスカーボン粒子の使用によるガス拡散性の低下を本開示の技術によって補うことができる。
【0066】
(実施の形態2)
以下、
図4を用いて、実施の形態2を説明する。
【0067】
[2-1.構成]
図4は、実施の形態2における導電性繊維材料200の模式図である。導電性繊維材料200は、複数の第1導電性繊維13a及び複数の第2導電性繊維13bを含む。詳細には、導電性繊維材料200は、複数の第1導電性繊維13a及び複数の第2導電性繊維13bの混合物である。第1導電性繊維13a及び第2導電性繊維13bは、実施の形態1で説明したとおりである。
【0068】
[2-2.効果等]
すなわち、本実施の形態において、第1導電性繊維13aの親水性が第2導電性繊維13bの親水性よりも高い。導電性繊維材料200は、下記要件(a)及び(b)から選択される少なくとも1つを満たす。(a)複数の第2導電性繊維13bの平均長さが複数の第1導電性繊維13aの平均長さ未満である。(b)導電性繊維材料13の粒度分布が複数の第1導電性繊維13aに基づく第1ピークと複数の第2導電性繊維13bに基づく第2ピークとを有し、第2ピークは、第1ピークよりも小さい粒子寸法の位置に現れるピークである。導電性繊維材料200によれば、互いに異なる特性を持つ第1細孔14a及び第2細孔14bを導電性繊維材料200が用いられた構造に付与することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示の技術は、二次電池、燃料電池、水素精製デバイスなどの電気化学デバイスに有用である。
【符号の説明】
【0070】
10 電極触媒
11 担体粒子
12 触媒粒子
13 導電性繊維材料
13a 第1導電性繊維
13b 第2導電性繊維
14a 第1細孔
14b 第2細孔
15 アイオノマー
101 燃料電池
102 電解質膜
103 アノード
104 アノード触媒層
105 アノードガス拡散層
106 アノードセパレータ
107 アノードガス流路
108 カソード
109 カソード触媒層
110 カソードガス拡散層
111 カソードセパレータ
112 カソードガス流路
113 膜電極接合体
200 導電性繊維材料