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特開2024-172510被覆金属材の耐食性試験方法、耐食性試験装置、耐食性試験用プログラム及び記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172510
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】被覆金属材の耐食性試験方法、耐食性試験装置、耐食性試験用プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/2045 20190101AFI20241205BHJP
   G01N 17/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N33/2045 100
G01N17/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090276
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 將展
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 達哉
【テーマコード(参考)】
2G050
2G055
【Fターム(参考)】
2G050AA01
2G050BA20
2G050EB07
2G055AA03
2G055AA07
2G055BA12
2G055FA02
(57)【要約】
【課題】試験対象個所の姿勢に拘わらず、耐食性試験の精度及び信頼性を向上できる被覆金属材の耐食性試験方法、耐食性試験装置、耐食性試験用プログラム及び記録媒体をもたらす。
【解決手段】鋼板2に電着塗膜4が設けられてなる被覆金属材1の耐食性試験方法であって、試験対象個所Eにおいて電着塗膜4に接触するように含水材料6を保持する容器11と、含水材料6に接触する電極12と、を配置するとともに、電極12及び鋼板2間を外部回路7により電気的に接続する準備ステップS1と、通電手段8により、電極12及び鋼板2を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、被覆金属材1の腐食を進行させる通電ステップS3と、腐食の進行度合いを算出する算出ステップS4と、試験対象個所Eの姿勢に基づいて、腐食の進行度合いを補正する補正ステップS5と、腐食の進行度合いの補正値に基づいて、被覆金属材1の耐食性を評価する評価ステップS6と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験方法であって、
上記被覆金属材の試験対象個所において上記表面処理膜に接触するように含水材料を保持する1つ又は2つの容器と、該1つの容器に収容された上記含水材料に接触する1つの電極又は該2つの容器の各々に収容された上記含水材料にそれぞれ接触する2つの電極と、を配置するとともに、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を外部回路により電気的に接続する準備ステップと、
上記外部回路上に設けられた通電手段により、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、上記被覆金属材の腐食を進行させる通電ステップと、
上記通電ステップにおける上記腐食の進行度合いを算出する算出ステップと、
上記試験対象個所の姿勢に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する補正ステップと、
上記腐食の進行度合いの補正値に基づいて、上記被覆金属材の耐食性を評価する評価ステップと、を備えた
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記試験対象個所の姿勢は、該試験対象個所の基準姿勢からの傾斜角度で表され、
上記基準姿勢は、上記被覆金属材を上記表面処理膜が上側となるように配置した状態で、上記試験対象個所が略水平方向となる姿勢である
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記準備ステップで、上記傾斜角度を計測しておき、
上記補正ステップで、予め試験的に求めておいた上記傾斜角度と上記腐食の進行度合いとの相関関係と、上記準備ステップで計測した上記傾斜角度と、に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項4】
請求項3において、
上記相関関係は、上記傾斜角度に対して上記腐食の進行度合いが比例的に減少する関係であり、
上記補正ステップで、下記式(1)に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する
=A+aθ ・・・(1)
但し、式(1)中、Aは上記補正値、Aは上記腐食の進行度合い、aは上記相関関係の傾き、θは上記傾斜角度(0°≦θ≦90°)である
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項5】
請求項3において、
上記相関関係は、上記傾斜角度に対して上記腐食の進行度合いが比例的に減少する関係であり、
上記補正ステップで、下記式(2)に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する
=A/[1-(a/b)]×θ ・・・(2)
但し、式(2)中、Aは上記補正値、Aは上記腐食の進行度合い、aは上記相関関係の傾き、bは上記相関関係の切片、θは上記傾斜角度(0°≦θ≦90°)である
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
上記被覆金属材は、上記試験対象個所において、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する1箇所又は2箇所の傷を備えており、
上記容器は、上記含水材料が上記1箇所の傷又は上記2箇所の傷に接触するように配置される
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項7】
請求項6において、
上記通電ステップで、上記被覆金属材の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する上記表面処理膜の膨れとして現れるものであり、
上記算出ステップで、上記表面処理膜の膨れの大きさに基づいて、上記腐食の進行度合いを算出する
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項8】
請求項1又は請求項2において、
上記通電ステップで、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間に直流の定電流を印加する
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項9】
請求項1又は請求項2において、
上記表面処理膜は、樹脂塗膜である
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験方法。
【請求項10】
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験装置であって、
上記被覆金属材の試験対象個所において上記表面処理膜に接触するように含水材料を保持する1つ又は2つの容器と、
上記1つの容器に収容された上記含水材料に接触する1つの電極又は上記2つの容器の各々に収容された上記含水材料にそれぞれ接触する2つの電極と、
上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を電気的に接続する外部回路と、
上記外部回路上に設けられ、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電する通電手段と、
上記通電により進行した上記被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する算出部と、
上記試験対象個所の姿勢に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する補正部と、
上記腐食の進行度合いの補正値に基づいて、上記被覆金属材の耐食性を評価する評価部と、を備えた
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項11】
請求項10において、
上記被覆金属材は、上記試験対象個所において、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する1箇所又は2箇所の傷を備えており、
上記容器は、上記含水材料が上記1箇所の傷又は上記2箇所の傷に接触するように配置され、
上記被覆金属材の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する上記表面処理膜の膨れとして現れるものであり、
上記算出部は、上記表面処理膜の膨れの大きさに基づいて、上記被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験装置。
【請求項12】
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験用プログラムであって、
上記耐食性試験は、
上記被覆金属材の試験対象個所において上記表面処理膜に接触するように含水材料を保持する1つ又は2つの容器と、該1つの容器に収容された上記含水材料に接触する1つの電極又は該2つの容器の各々に収容された上記含水材料にそれぞれ接触する2つの電極と、を配置するとともに、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を外部回路により電気的に接続する準備ステップと、
上記外部回路上に設けられた通電手段により、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、上記被覆金属材の腐食を進行させる通電ステップと、
上記通電ステップにおける上記腐食の進行度合いを算出する算出ステップと、
上記試験対象個所の姿勢に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する補正ステップと、
上記腐食の進行度合いの補正値に基づいて、上記被覆金属材の耐食性を評価する評価ステップと、を備えており、
コンピュータに、上記補正ステップの手順を実行させる
ことを特徴とする被覆金属材の耐食性試験用プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載された被覆金属材の耐食性試験用プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆金属材の耐食性試験方法、耐食性試験装置、耐食性試験用プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塗膜性能を評価する手法として複合サイクル試験、塩水噴霧試験等の腐食促進試験が行われている。
【0003】
しかし、かかる腐食促進試験においては、評価に数ヶ月を要するため、例えば塗装鋼板の構成材料や焼付条件の異なる塗膜の状態を簡便に評価し、塗装条件の最適化等を迅速に行うことが困難である。従って、材料開発、塗装工場の工程管理、車両防錆に係る品質管理の場において、塗装鋼板の耐食性を迅速且つ簡便に評価する定量評価法の確立が望まれている。
【0004】
これに対して、特許文献1には、被覆金属材の塗膜表面側に電解質材料を介して電極を配置し、被覆金属材の基材と塗膜表面との間に電圧を印加し、塗膜が絶縁破壊するときの電圧値に基づいて、被覆金属材の耐食性を評価することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、電解質溶液を充填可能であって、内部に金属試料が配置される試験槽と、前記試験槽の内部に挿入可能な圧子と、前記金属試料及び前記圧子の端面の傾きを測定可能な傾き測定装置と、を備える、腐食試験装置が開示されている。そして、当該装置により金属試料の表面に均一な厚さの水膜を形成しつつ電気化学測定を行うことができると記載されている。
【0006】
特許文献3には、セル本体が、ペースト状の電解質溶液を保持する一定の大きさの開口部及び該電解質溶液が乾燥するのを防ぐためのカバーを備えたマグネットシートであり、該開口部に分極の小さい対極材が設置され、更にセル全体が導電性遮蔽材料で覆われ、該導電性遮蔽材料が高絶縁材を介して塗膜上に着脱自在に保持され、アースされた電気化学的測定セル及びこれを用いた電気化学的測定方法が記載されている。そして、当該セル及び方法によれば、曲面、凹凸の激しい面、垂直面、下向き面等、被塗面の状態を問わず測定することができ、かつ外部ノイズの影響を避けられ、正確な測定をすることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-50915号公報
【特許文献2】特開2021-085692号公報
【特許文献3】特開2003-344332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~3のように、被覆金属材の耐食性を迅速且つ簡便に評価する定量評価法として種々の方法が開発されている。しかしながら、測定試料の姿勢や形状により、測定精度にばらつきが出るという問題があった。
【0009】
この点、特許文献3の技術では、測定セル自体の構成により、測定試料の姿勢や形状によらず測定精度を担保するようにしている。
【0010】
しかしながら、試験中、化学反応によりガスが発生する場合には、測定試料の姿勢や形状によって当該ガスの抜け性が異なり、測定精度に影響を及ぼすおそれがある。従来技術ではこのようなガスの抜け性を考慮していないため、測定精度向上の観点から、改善の余地がある。
【0011】
そこで本開示では、試験対象個所の姿勢に拘わらず、耐食性試験の精度及び信頼性を向上できる被覆金属材の耐食性試験方法、耐食性試験装置、耐食性試験用プログラム及び記録媒体をもたらすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、ここに開示する被覆金属材の耐食性試験方法の一態様は、
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験方法であって、
上記被覆金属材の試験対象個所において上記表面処理膜に接触するように含水材料を保持する1つ又は2つの容器と、該1つの容器に収容された上記含水材料に接触する1つの電極又は該2つの容器の各々に収容された上記含水材料にそれぞれ接触する2つの電極と、を配置するとともに、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を外部回路により電気的に接続する準備ステップと、
上記外部回路上に設けられた通電手段により、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、上記被覆金属材の腐食を進行させる通電ステップと、
上記通電ステップにおける上記腐食の進行度合いを算出する算出ステップと、
上記試験対象個所の姿勢に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する補正ステップと、
上記腐食の進行度合いの補正値に基づいて、上記被覆金属材の耐食性を評価する評価ステップと、を備えた
ことを特徴とする。
【0013】
一般に、金属の腐食は、水と接触する金属が溶解(イオン化)して遊離電子を生ずるアノード反応(酸化反応)と、その遊離電子によって水中の溶存酸素等が水酸化物イオンOH等を生成するカソード反応(還元反応)とが同時に起こることで進行することが知られている。
【0014】
本構成では、電極及び金属製基材、又は、2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして、両者間に通電する。電極をアノード、金属製基材をカソードとして通電した場合、表面処理膜中に浸透した含水材料が金属製基材に到達すると、含水材料と金属製基材との接触部においてカソード反応が進行する。また、2つの電極の一方をアノード、他方をカソードとした場合、アノードとなっている電極側に位置する金属製基材と含水材料との接触部においてカソード反応が進行する。さらに、いずれの場合も、通電条件によっては、すなわち、例えば水の電気分解により水素が発生する理論電圧(系の温度が25℃の場合、1.23V)以上の電圧又はそのような電圧を要する電流を印加するような通電条件の場合には、水の電気分解も進行し、水素ガスが発生する。
【0015】
カソード反応が進行すると、OHの生成により含水材料と金属製基材との接触部周辺がアルカリ性環境になる。これにより、金属製基材表面の下地処理(化成処理)がダメージを受けて表面処理膜の密着性が低下し(下地処理がされていない場合は単純に金属製基材と表面処理膜の密着性が低下し)、接触部において表面処理膜が浮き上がり、表面処理膜の膨れが発生する。そして、アルカリ性環境下で金属製基材との密着性が低下した表面処理膜は、水の電気分解やHの還元により発生した水素ガスによりさらに押し上げられ、表面処理膜の膨れが進展する。このようなカソード反応の進行並びに表面処理膜の膨れの発生及び進展は、被覆金属材の実際の腐食を加速再現するものである。すなわち、本明細書において、「被覆金属材の腐食を進行させる」とは、「表面処理膜の膨れを発生及び進展させる」ことを意味する。従って、例えば接触部において発生した表面処理膜の膨れの発生状況や進展の程度をみることによって、被覆金属材の腐食の進行度合いを計ることができる。
【0016】
なお、試験対象の被覆金属材の形状や配置状況により、試験対象個所の姿勢は様々である。そして、試験対象個所の姿勢によって、通電ステップにおける水素ガスの表面処理膜外への抜け性は変化する。水素ガスの抜け性が変化すると、被覆金属材の腐食の進行度合いに影響が生じる。
【0017】
従って、補正ステップを設け、試験対象個所の姿勢に基づいて腐食の進行度合いを補正することにより、水素ガスの抜け性の違いに起因する腐食の進行度合いの誤差を是正することができるから、耐食性試験の精度及び信頼性を高めることができる。
【0018】
なお、本明細書において、「被覆金属材の試験対象個所」とは、含水材料と表面処理膜との接触領域に対応する被覆金属材の部分を意味する。
【0019】
また、本明細書において、「試験対象個所の姿勢」は、試験対象個所に含まれる金属製基材の表面処理膜が設けられた表面を平面と仮定したときの当該表面の姿勢を意味する。
【0020】
好ましくは、上記試験対象個所の姿勢は、該試験対象個所の基準姿勢からの傾斜角度で表され、
上記基準姿勢は、上記被覆金属材を上記表面処理膜が上側となるように配置した状態で、上記試験対象個所が略水平方向となる姿勢である。
【0021】
被覆金属材を表面処理膜が上側となるように配置した状態で、試験対象個所が略水平方向となる姿勢は、最も水素ガスの抜け性がよくなる姿勢であるから、当該姿勢における腐食の進行度合いが被覆金属材の耐食性を評価する上で最も信頼性が高い。本構成によれば、当該姿勢を基準姿勢とするから、被覆金属材の耐食性を評価する補正値の信頼性が高まり、試験精度が向上する。
【0022】
なお、本明細書において、「略水平方向」とは、水平方向を含み、該水平方向からの角度が±5°の範囲の方向をいう。
【0023】
好ましくは、上記準備ステップで、上記傾斜角度を計測しておき、
上記補正ステップで、予め試験的に求めておいた上記傾斜角度と上記腐食の進行度合いとの相関関係と、上記準備ステップで計測した上記傾斜角度と、に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する。
【0024】
本構成によれば、予め求めておいた相関関係に基づいて、腐食の進行度合いを補正するから、簡易な構成で信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0025】
一実施形態では、上記相関関係は、上記傾斜角度に対して上記腐食の進行度合いが比例的に減少する関係であり、
上記補正ステップで、下記式(1)に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する。
【0026】
=A+aθ ・・・(1)
但し、式(1)中、Aは上記補正値、Aは上記腐食の進行度合い、aは上記相関関係の傾き、θは上記傾斜角度(0°≦θ≦90°)である。
【0027】
本構成によれば、簡潔な式で精度よく腐食の進行度合いを補正することができる。
【0028】
一実施形態では、上記相関関係は、上記傾斜角度に対して上記腐食の進行度合いが比例的に減少する関係であり、
上記補正ステップで、下記式(2)に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する。
【0029】
=A/[1-(a/b)]×θ ・・・(2)
但し、式(2)中、Aは上記補正値、Aは上記腐食の進行度合い、aは上記相関関係の傾き、bは上記相関関係の切片、θは上記傾斜角度(0°≦θ≦90°)である。
【0030】
本構成によれば、相関関係の切片も考慮して補正するから、精度よく腐食の進行度合いを補正することができる。
【0031】
好ましくは、上記被覆金属材は、上記試験対象個所において、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する1箇所又は2箇所の傷を備えており、
上記容器は、上記含水材料が上記1箇所の傷又は上記2箇所の傷に接触するように配置される。
【0032】
一般に、表面処理膜を備えた被覆金属材では、例えば塩水などの腐食因子が表面処理膜に浸透し、金属製基材に到達することで腐食が開始する。すなわち、被覆金属材の腐食過程は、腐食が発生するまでの過程と腐食が進展する過程とに分けられ、それぞれ腐食が開始するまでの期間(腐食抑制期間)と腐食が進展する速度(腐食進展速度)とを求めることにより評価することができる。
【0033】
本構成のように、被覆金属材が表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する傷を備える場合、腐食因子としての含水材料を傷に接触するように配置すると、含水材料は傷の内側に侵入し、金属製基材の露出部に到達する。含水材料が金属製基材の露出部と接触すると、当該露出部において腐食が開始する。そして、通電により、カソード反応が進行する露出部の周りで表面処理膜の膨れが発生及び進展する。すなわち、被覆金属材が傷を備えていることにより、被覆金属材の腐食過程のうち、腐食抑制期間終了時の状態を模擬的に作り出すことができる。そうして、通電開始から表面処理膜の膨れの発生までの時間を短縮化できる。
【0034】
好ましくは、上記通電ステップで、上記被覆金属材の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する上記表面処理膜の膨れとして現れるものであり、
上記算出ステップで、上記表面処理膜の膨れの大きさ、より好ましくは通電前の傷の大きさと通電後の表面処理膜の膨れの大きさとに基づいて、上記腐食の進行度合いを算出する。
【0035】
本構成では、表面処理膜の膨れの大きさ、より好ましくは通電前の傷の大きさと通電後の表面処理膜の膨れの大きさとに基づいて、被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する。これにより、簡単な構成で精度よく耐食性を評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0036】
なお、本明細書において、「表面処理膜の膨れの大きさ」とは、膨れ径若しくは膨れ面積、又は、剥離径若しくは剥離面積のことをいう。「膨れ径」及び「膨れ面積」は、それぞれ、表面処理膜の膨れ部の径及び面積である。「剥離径」及び「剥離面積」は、それぞれ、耐食性試験後に、表面処理膜の膨れ部を剥がして現れた金属製基材の露出面である剥離部の径及び面積である。
【0037】
また、本明細書において、「傷の大きさ」とは、平面視における傷の大きさをいい、傷の径、面積等である。例えば、傷の形状が平面視で円形の場合、傷の面積は、円の面積で与えられる。また、傷の径は、傷の最大幅で与えられる。なお、本明細書において、傷の大きさは、傷における金属製基材の露出部の大きさと同一と想定している。
【0038】
好ましくは、上記通電ステップで、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間に直流の定電流を印加する。
【0039】
直流の定電流を印加することにより、安定して腐食が進行する。そうして、試験の信頼性を向上できる。
【0040】
好ましくは、上記表面処理膜は、樹脂塗膜である。
【0041】
金属製基材に表面処理膜として樹脂塗膜が設けられた塗装金属材では、通電時における腐食が進展しやすいため、本耐食性試験の試験対象として好適である。
【0042】
ここに開示する被覆金属材の耐食性試験装置の一態様は、
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験装置であって、
上記被覆金属材の試験対象個所において上記表面処理膜に接触するように含水材料を保持する1つ又は2つの容器と、
上記1つの容器に収容された上記含水材料に接触する1つの電極又は上記2つの容器の各々に収容された上記含水材料にそれぞれ接触する2つの電極と、
上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を電気的に接続する外部回路と、
上記外部回路上に設けられ、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電する通電手段と、
上記通電により進行した上記被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する算出部と、
上記試験対象個所の姿勢に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する補正部と、
上記腐食の進行度合いの補正値に基づいて、上記被覆金属材の耐食性を評価する評価部と、を備えた
ことを特徴とする。
【0043】
補正部で試験対象個所の姿勢に基づいて腐食の進行度合いを補正することにより、水素ガスの抜け性の違いに起因する腐食の進行度合いの誤差を是正することができるから、耐食性試験の精度及び信頼性を高めることができる。
【0044】
好ましくは、上記被覆金属材は、上記試験対象個所において、上記表面処理膜を貫通して上記金属製基材に達する1箇所又は2箇所の傷を備えており、
上記容器は、上記含水材料が上記1箇所の傷又は上記2箇所の傷に接触するように配置され、
上記被覆金属材の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する上記表面処理膜の膨れとして現れるものであり、
上記算出部は、上記表面処理膜の膨れの大きさ、より好ましくは通電前の傷の大きさと通電後の表面処理膜の膨れの大きさとに基づいて、上記被覆金属材の腐食の進行度合いを算出する。
【0045】
被覆金属材が傷を備えていることにより、被覆金属材の腐食過程のうち、腐食抑制期間終了時の状態を模擬的に作り出すことができる。そうして、通電開始から表面処理膜の膨れの発生までの時間を短縮化できる。また、表面処理膜の膨れの大きさ、より好ましくは通電前の傷の大きさと通電後の表面処理膜の膨れの大きさとに基づいて、被覆金属材の腐食の進行度合いを算出することにより、被覆金属材の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0046】
ここに開示する被覆金属材の耐食性試験用プログラムは、
金属製基材に表面処理膜が設けられてなる被覆金属材の耐食性試験用プログラムであって、
上記耐食性試験は、
上記被覆金属材の試験対象個所において上記表面処理膜に接触するように含水材料を保持する1つ又は2つの容器と、該1つの容器に収容された上記含水材料に接触する1つの電極又は該2つの容器の各々に収容された上記含水材料にそれぞれ接触する2つの電極と、を配置するとともに、上記電極及び上記金属製基材間、又は、上記2つの電極間を外部回路により電気的に接続する準備ステップと、
上記外部回路上に設けられた通電手段により、上記電極及び上記金属製基材、又は、上記2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、上記被覆金属材の腐食を進行させる通電ステップと、
上記通電ステップにおける上記腐食の進行度合いを算出する算出ステップと、
上記試験対象個所の姿勢に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する補正ステップと、
上記腐食の進行度合いの補正値に基づいて、上記被覆金属材の耐食性を評価する評価ステップと、を備えており、
コンピュータに、上記補正ステップの手順を実行させる
ことを特徴とする。
【0047】
コンピュータに、上記補正ステップの手順を実行させるから、信頼性の高い耐食性試験を行うことができる。
【0048】
ここに開示する記録媒体は、上述の被覆金属材の耐食性試験用プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0049】
以上述べたように、本開示によると、補正ステップを設け、試験対象個所の姿勢に基づいて腐食の進行度合いを補正することにより、水素ガスの抜け性の違いに起因する腐食の進行度合いの誤差を是正することができるから、耐食性試験の精度及び信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】実施形態1に係る耐食性試験装置の一例を示す図。
図2】実施形態1に係る耐食性試験方法を説明するためのフロー図。
図3】試験対象個所の姿勢と水素の抜け性のとの関係を説明するための図。
図4】実験例の試験片について傾斜角度と腐食の進行度合いとの関係を示すグラフ。
図5】補正方法の例を説明するための図。
図6】実施形態2に係る耐食性試験装置の容器の一例を示す図。
図7図6の耐食性試験装置の容器のA-A線断面図であって、試験対象個所が基準姿勢にある被覆金属材上に該容器を載置したときの図。
図8図6の耐食性試験装置の容器のA-A線断面図であって、試験対象個所が傾斜角度90°の姿勢にある被覆金属材上に該容器を載置したときの図。
図9図6の耐食性試験装置の容器を第2筒部の先端面側から見た図。
図10図6の容器の接続部の構成例を示す図。
図11】実施形態3に係る耐食性試験装置の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0052】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る耐食性試験方法の原理及び耐食性試験装置の一例を示す。同図において、1は被覆金属材、10は耐食性試験装置である。
【0053】
<被覆金属材>
図1に示すように、本実施形態の耐食性試験において試験対象となる被覆金属材1は、金属製基材に表面処理膜が設けられてなる。
【0054】
金属製基材は、例えば、家電製品、建材、自動車部品等を構成する鋼材、例えば、冷間圧延鋼板(SPC)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、高張力鋼板又はホットスタンプ材等であり、或いは軽合金材であってもよい。金属製基材は、好ましくは自動車部材用鋼板である。金属製基材は、表面に化成皮膜(リン酸塩皮膜(例えば、リン酸亜鉛皮膜)、クロメート皮膜等)が形成されたものであってもよい。
【0055】
樹脂塗膜は、樹脂系塗料を用いて形成された樹脂塗膜、好ましくは電着塗膜である。金属製基材に表面処理膜として樹脂塗膜が設けられた被覆金属材では、通電時における腐食が進展しやすいため、本耐食性試験の試験対象として好適である。樹脂塗膜としては、具体的には例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のカチオン電着塗膜(下塗り塗膜)がある。
【0056】
被覆金属材は、表面処理膜として二層以上の多層膜を備えていてもよい。具体的には例えば、表面処理膜が樹脂塗膜の場合は、電着塗膜に上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜、電着塗膜に中塗り塗膜及び上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜等であってもよい。
【0057】
中塗り塗膜は、被覆金属材の仕上り性と耐チッピング性を確保するとともに、電着塗膜と上塗り塗膜との密着性を向上させる役割を有する。また、上塗り塗膜は、被覆金属材の色、仕上り性及び耐候性を確保するものである。これらの塗膜は、具体的には例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とからなる塗料等により形成することができる。
【0058】
以下の説明では、鋼板2の表面に化成皮膜3が形成されてなる金属製基材に、表面処理膜としての電着塗膜4(樹脂塗膜)が設けられてなる被覆金属材1を例に挙げて説明する。
【0059】
図1に示すように、被覆金属材1には、電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5が少なくとも1箇所形成されていることが好ましい。なお、傷5は、人工的に形成されたものであってもよいし、自然に形成されたものであってもよい。また、傷5は、相離れた複数箇所に形成されていてもよく、その場合、上記1箇所は、複数箇所のうちの1つを意味する。
【0060】
<含水材料>
含水材料6は、水及び支持電解質を含有し、導電材としての機能を有する。含水材料6は、さらに粘土鉱物を含有してなる泥状物でもよい。含水材料6が粘土鉱物を含有する場合、後述する保持ステップS2及び通電ステップS3において、含水材料6中のイオン及び水が傷5周りの電着塗膜4に浸透し易くなる。
【0061】
支持電解質は、塩であり、含水材料6に十分な導電性を付与するためのものである。支持電解質としては、具体的には例えば、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、塩化カリウム、硝酸カリウム、酒石酸水素カリウム及び硫酸マグネシウムから選択される少なくとも一つの塩を採用することができる。支持電解質としては、特に好ましくは塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム及び塩化カルシウムから選択される少なくとも一つの塩を採用することができる。含水材料6における支持電解質の含有量は、好ましくは1質量%以上20質量%以下、より好ましくは3質量%以上15質量%以下であること、特に好ましくは5質量%以上10質量%以下である。
【0062】
粘土鉱物は、含水材料6を泥状にするとともに、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、通電ステップS3における腐食の進行を促すためのものである。粘土鉱物としては、例えば、層状ケイ酸塩鉱物又はゼオライトを採用することができる。層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、カオリナイト、モンモリロナイト、セリサイト、イライト、グローコナイト、クロライト及びタルクから選択される少なくとも一つを採用することができ、特に好ましくはカオリナイトを採用することができる。含水材料における粘土鉱物の含有量は、好ましくは1質量%以上70質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、特に好ましくは20質量%以上30質量%以下である。なお、含水材料6が泥状物であることにより、電着塗膜4が水平になっていない場合でも、該電着塗膜4の表面に含水材料6を設けることができる。
【0063】
含水材料6は、水、支持電解質及び粘土鉱物以外の添加物を含有してもよい。このような添加物としては、具体的には例えばアセトン、エタノール、トルエン、メタノール等の有機溶剤、塗膜の濡れ性を向上させるような物質等が挙げられる。これらの有機溶剤、物質等も電着塗膜4への水の浸透を促す機能を有し得る。これらの有機溶剤、物質等を、粘土鉱物に代えて含水材料6に添加してもよい。含水材料6が有機溶剤を含有する場合は、有機溶剤の含有量は、水に対して体積比で5%以上60%以下であることが好ましい。その体積比は、10%以上40%以下であること、20%以上30%以下であることがさらに好ましい。
【0064】
<被覆金属材の耐食性試験装置>
図1に示すように、本実施形態に係る耐食性試験装置10は、容器11と、電極12と、外部回路7と、通電手段8(電源部、検出部)と、制御装置9(算出部、補正部、評価部)と、を備える。
【0065】
≪容器≫
容器11は、液漏れ防止用のシール材(不図示)を介して被覆金属材1の電着塗膜4上に載置されている。含水材料6は、容器11内に収容された状態で、試験対象個所Eの電着塗膜4の表面に接触している。
【0066】
容器11の形状は特に限定されるものではなく、例えば円筒状、多角筒状等の筒状である。容器11は、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料製やセラミック製等、特に好ましくはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の樹脂材料製とすることができる。これにより、容器11と外部との絶縁性を確保しつつ、耐食性試験装置10を軽量化及び低コスト化することができる。
【0067】
シール材は、例えばシリコーン樹脂製のシート状のシール材であり、容器11を被覆金属材1上に載置したときに、容器11と電着塗膜4との密着性を向上させるとともに、両者の隙間を埋めることができる。そうして、容器11と電着塗膜4との間からの含水材料6の漏れを効果的に抑制することができる。シール材を設けない構成も可能であるが、含水材料6の漏れを十分に抑制する観点から設けることが好ましい。
【0068】
≪電極≫
電極12は、鋼板2と電着塗膜4の表面との間に電圧を印加するためのものであり、被覆金属材1の電着塗膜4側に配置されている。そして、電着塗膜4と電極12との間には両者に接触するように含水材料6が配置されている。具体的には、電極12は、少なくともその先端が含水材料6に埋没状態に設けられており、含水材料6に接触している。
【0069】
電極12としては、電気化学測定において一般的に用いられる電極を使用することができ、具体的には例えば炭素電極、白金電極等を使用することができる。
【0070】
電極12の形状は、例えば棒状、板状等、電気化学測定において一般的に用いられる形状であればよい。また、例えば電極12として、先端に少なくとも1つの孔を有する有孔電極を採用してもよい。例えば、先端がリング状の有孔電極を採用する場合は、当該リングが電着塗膜4と略平行になるように、有効電極を配置すればよい。或いは、有孔電極としてメッシュ状の電極を採用し、該メッシュ電極を含水材料6に埋没した状態で電着塗膜4と略平行になるように配置してもよい。
【0071】
≪外部回路≫
外部回路7は、配線71と、配線71上に配置された通電手段8と、を備える。配線71は、電極12及び鋼板2間を電気的に接続している。配線71としては、公知のものを適宜使用できる。
【0072】
≪通電手段≫
通電手段8は、配線71により、電極12と鋼板2とに接続されており、電極12と鋼板2との間に通電、すなわち電圧及び/又は電流を印加する電源部としての役割を担う。また、同時に、通電手段8は、電圧及び/又は電流の印加に伴い、両者間に流れる電流及び/又は電圧を検出する電流検出手段/電圧検出手段(検出部)としての役割も担う。通電手段8としては、具体的には例えば、電圧/電流の印加法として制御可能なポテンショ/ガルバノスタット等を使用することができる。
【0073】
通電手段8は、後述する制御装置9と電気的に接続又はワイヤレス接続されており、制御装置9により制御される。また、通電手段8により外部回路7に印加された又は通電手段8により検出された電圧値、電流値、及び、通電時間等の通電情報は、制御装置9に送られる。
【0074】
≪制御装置≫
制御装置9は、例えば周知のマイクロコンピュータをベースとする装置であり、制御部91と、記憶部92と、演算部93と、を備える。また、制御装置9は、例えばキーボード等からなる入力部94と、例えばディスプレイ等からなる出力部95と、を備える。記憶部92には、各種データ及び演算処理プログラム等の情報が格納されている。
【0075】
演算部93は、記憶部92に格納された上記情報、入力部94を介して入力された情報等に基づいて、各種演算処理を行う。すなわち、演算部93は、通電により進行した被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出する算出部として機能する。また演算部93は、試験対象個所Eの姿勢に基づいて、腐食の進行度合いを補正する補正部としても機能する。さらに、演算部93は、腐食の進行度合いの補正値に基づいて、被覆金属材1の耐食性を評価する評価部としても機能する。
【0076】
被覆金属材1の腐食の進行度合いの情報、補正値を含む演算部93による演算処理結果は記憶部92に格納される。
【0077】
制御部91は、記憶部92に格納されたデータ、演算部93の演算結果等に基づいて、制御対象に制御信号を出力し、各種制御を行う。
【0078】
≪その他の構成≫
図1には図示していないが、含水材料6、特に試験対象個所近傍の含水材料6を加温・温度調整するために、容器11の周辺に容器11を覆うように、又は、容器11の外側における被覆金属材1の電着塗膜4上にラバーヒータ、フィルムヒータ等の加温・温調手段を設けてもよい。また、同様の目的で、被覆金属材1の鋼板2側にホットプレート、ペルチェ素子等の加温・温調手段を設けてもよい。本構成によれば、含水材料6及び被覆金属材1を適切に加温・温度調整することができるから、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させ、腐食を効果的に進行させることができる。そうして、より短時間且つ信頼性の高い耐食性試験が可能となる。また、所望の試験時間に亘って含水材料6及び被覆金属材1の温度を一定に保つことができるから、所定の温度条件における信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0079】
また、含水材料6の温度を検出するための温度センサ(温度検出手段)を設けてもよい。温度センサは、具体的には例えば熱電対、光ファイバー式温度計、赤外線温度計等である。本耐食性試験では、含水材料6、特に電試験対象個所近傍の含水材料6の温度が重要になる。従って、温度センサを設けるときは、電着塗膜4近傍の含水材料6の温度を検出できるように、含水材料6の温度を検出するようにセンサ部を配置することが好ましい。
【0080】
これらの加温・温調手段、温度センサ等は、制御装置9に電気的に接続又はワイヤレス接続され、制御装置9により制御されることが好ましい。
【0081】
また、被覆金属材1の表面の写真を撮影するための装置としてカメラを設けてもよい。カメラは、例えばCCDカメラ等からなる。カメラは、制御装置9に電気的に接続又はワイヤレス接続されている。カメラにより撮影された写真、すなわち画像データは、制御装置9に送られる。カメラは、通電前の傷5の写真及び通電後の電着塗膜4の膨れの写真を撮影する。
【0082】
≪特徴≫
詳細は後述するが、本耐食性試験装置10では、演算部93で試験対象個所Eの姿勢に基づいて腐食の進行度合いを補正する。これにより、水素ガスの抜け性の違いに起因する腐食の進行度合いの誤差を是正することができるから、耐食性試験の精度及び信頼性を高めることができる。
【0083】
なお、試験対象個所Eに傷5を備える場合、被覆金属材1の腐食の進行は、上記傷の周りで発生する電着塗膜4の膨れとして現れる。この場合、演算部93は、電着塗膜4の膨れの大きさに基づいて、被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出する。表面処理膜の膨れの大きさに基づいて、被覆金属材の腐食の進行度合いを算出することにより、簡単な構成で精度よく耐食性を評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0084】
<被覆金属材の耐食性試験方法>
図2は、本実施形態に係る耐食性試験方法の工程を示すフローチャートである。図3は、試験対象個所の姿勢と水素の抜け性のとの関係を説明するための図である。図4は、実験例の試験片について傾斜角度と腐食の進行度合いとの関係を示すグラフである。図5は、補正方法の例を説明するための図である。以下、図2図5を参照して、本実施形態に係る耐食性試験方法について説明する。
【0085】
本耐食性試験方法は、図2に示すように、準備ステップS1と、任意の保持ステップS2と、通電ステップS3と、算出ステップS4と、補正ステップS5と、評価ステップS6と、を備える。以下、各ステップについて説明する。
【0086】
≪準備ステップ≫
準備ステップS1では、被覆金属材1、好ましくは電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5を1箇所備えた被覆金属材1を準備する。
【0087】
被覆金属材1の傷5は形成されていなくてもよいが、以下の理由により形成されていることが好ましい。すなわち、電着塗膜4及び化成皮膜3を貫通して鋼板2に達する傷5が存在すると、含水材料6を接触させたときに、含水材料6が傷5内に侵入して、傷5において露出する鋼板2に接触する。従って、傷5を加えることにより、被覆金属材1の上述の腐食過程のうち、腐食が発生するまでの過程が終了した状態、すなわち腐食抑制期間終了時の状態を模擬的に作り出すことができる。そうして、耐食性試験において、腐食進展速度に関する情報を効率的に得ることができる。
【0088】
上述のごとく、傷5は、自然傷であってもよいし、人工的に加えられた人工傷であってもよいが、人工傷であることが望ましい。人工的に傷5を形成することにより、傷5の形状、大きさ等をある程度所望の形状、大きさ等にすることができる。そうして、通電ステップS3で発生する電着塗膜4の膨れの進展が容易となる。
【0089】
傷5は、点状の傷であってよいし、カッター傷のような線状の傷であってもよいが、好ましくは点状の傷である。「点状」とは、平面視において円形、多角形等の形状であり、その最大幅と最小幅との比が2以下の形状であることをいう。傷5が点状であることにより、腐食に伴い電着塗膜4を有効にドーム状に膨れさせることができ、腐食の促進性を向上できる。
【0090】
傷5が人工傷の場合、傷5を付ける道具の種類は特に問わない。点状の傷5を形成する場合には、傷5の大きさや深さにばらつきを生じないように、すなわち、定量的に傷を付ける観点から、例えば、自動傷付けポンチを用いる方法、ビッカース硬さ試験機を用いてその圧子により所定荷重で傷を付ける方法等が好ましい。点状以外の形状、例えば上述の線状の傷5を形成する場合には、カッター等を用いればよい。
【0091】
また、傷5の大きさを、予め計測しておくことが好ましい。傷5の大きさの計測は、特に限定されず、公知の方法を用いて行うことができる。具体的には例えば、カメラを用いて、電着塗膜4の表面上における傷5周辺を撮影する。得られた画像データ上で、演算部93により傷5の大きさ、すなわち、傷5の径、面積等を計測する。
【0092】
傷5の形状が点状の場合、傷5の径は、好ましくは0.1mm以上7mm以下、より好ましくは0.2mm以上5mm以下、特に好ましくは0.3mm以上1.5mm以下である。また、傷5の形状に拘わらず、傷5の面積は、好ましくは0.01mm以上40mm以下、より好ましくは0.02mm以上20mm以下、特に好ましくは0.05mm以上2mm以下である。
【0093】
上記好ましい範囲においては、径又は面積が小さいほど、通電ステップS3における腐食の加速性は上昇する。もっとも、その径が0.1mm(及び/又は面積が0.01mm)未満まで小さくなると、通電性が低下してカソード反応が進み難くなる。一方、径が7mm(及び/又は面積が40mm)を超えて大きくなると、カソード反応が不安定になるとともに、後述する電着塗膜4の膨れの進行が遅くなる。傷5の大きさを上記範囲とすることにより、カソード反応及び電着塗膜4の膨れの進行が促進される。
【0094】
次に、試験対象個所Eの姿勢が該試験対象個所の基準姿勢からの傾斜角度θ(図3(c)参照)で表される場合、準備ステップS1で、当該傾斜角度θを計測しておくことが好ましい。
【0095】
なお、図3(a)に示すように、基準姿勢は、限定する意図ではないが、被覆金属材1を電着塗膜4が上側となるように配置した状態で、試験対象個所Eが略水平方向となる姿勢であることが好ましい。当該姿勢は、最も水素ガスの抜け性がよくなる姿勢であるから、当該姿勢における腐食の進行度合いが被覆金属材1の耐食性を評価する上で最も信頼性が高い。当該姿勢を基準姿勢とすることにより、被覆金属材の耐食性を評価する補正値の信頼性が高まり、試験精度が向上する。
【0096】
傾斜角度θの計測は、特に限定されるものではなく、市販の角度計や、分度器等の公知の手段を用いて行うことができる。
【0097】
そして、被覆金属材1の電着塗膜4側に、容器11と、含水材料6と、電極12と、を配置する。含水材料6は、容器11内に収容、保持され、被覆金属材1の試験対象個所Eにおいて電着塗膜4に接触するように、好ましくは傷5に接触されるように配置される。電極12は、含水材料6に接触するように配置される。
【0098】
具体的には例えば、まず、被覆金属材1の試験片における電着塗膜4表面上、好ましくは傷5を囲むように、シール材を介して容器11を設置し、該容器11内に含水材料6を充填する。そうして、電着塗膜4の表面、好ましくは傷5に含水材料6を接触させる。そして、この含水材料6内に、配線71の一端側に接続された電極12を浸漬させる。配線71の他端側は、鋼板2に接続されている。このため、電極12と鋼板2とが外部回路7で電気的に接続された状態となる。
【0099】
なお、容器11は傷5と同心に設けることが好ましい。また、電極12として有孔電極を使用する場合は、電極12は、孔を有する先端12a部分が電着塗膜4の表面と平行になるように、且つ傷5と同心になるように設けることが好ましい。
【0100】
≪保持ステップ≫
次の通電ステップS3前に、含水材料6を試験対象個所Eの電着塗膜4の表面上に配置した状態で、所定時間保持する保持ステップS2を設けてもよい。所定時間、すなわち保持時間は、好ましくは1分以上1日以下、より好ましくは10分以上120分以下、特に好ましくは15分以上60分以下である。
【0101】
含水材料6を電着塗膜4の表面上に配置した状態で保持することにより、予め電着塗膜4への含水材料6の浸透、特にイオンの移動及び水の浸透を促すことができる。このことは、試験対象個所Eにおいて、いわば腐食抑制期間が終了した状態を、実際の腐食過程により近い形で、模擬的に再現していることになる。そうして、次の通電ステップS3における被覆金属材1の腐食をよりスムーズに進行させて、腐食が進展する過程を表す腐食進展速度を評価するための電着塗膜4の膨れの進展を促すことができる。これにより、試験時間の短縮化をはかるとともに、耐食性試験の信頼性を向上させることができる。
【0102】
なお、保持ステップS2及び通電ステップS3では、被覆金属材1及び/又は含水材料6は加温・温度調整されていることが望ましい。被覆金属材1及び/又は含水材料6の温度は、好ましくは30℃以上100℃以下、より好ましくは50℃以上100℃以下、特に好ましくは50℃以上80℃以下である。これにより、電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透を促進させることができる。そうして、所定の温度条件における信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0103】
≪通電ステップ≫
通電ステップS3は、通電手段8により、図1に示すように、電極12及び鋼板2をそれぞれアノード及びカソードとして両者間に通電することにより、鋼板2の腐食を進行させる、好ましくは傷5の周りで鋼板2の腐食を進行させるステップである。
【0104】
電極12をアノード、鋼板2をカソードとして通電した場合、含水材料6と鋼板2との接触部、好ましくは傷5における鋼板2の露出部5Aにおいて、カソード反応が進行する。そして、通電条件によっては、すなわち、例えば水の電気分解により水素が発生する理論電圧(系の温度が25℃の場合、1.23V)以上の電圧又はそのような電圧を要する電流を印加するような通電条件の場合には、水の電気分解も進行し、水素が発生する。
【0105】
カソード反応が進行すると、上述のごとく、電着塗膜4の膨れが発生する。また、水素ガスが電着塗膜4の膨れを促進する。
【0106】
このようなカソード反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展、好ましくは傷5の周りで発生するカソード反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展は、被覆金属材1の実際の腐食を加速再現するものである。すなわち、電着塗膜4の膨れの進展は、被覆金属材1の腐食の進行を模擬的に再現したものとなる。従って、上記通電開始から所定時間を経過した時点での電着塗膜4の膨れの大きさを評価することによって、被覆金属材1の腐食の進行度合いを評価できる。特に、電着塗膜4の膨れの大きさの増加速度は、上述の金属の腐食過程のうちの腐食進展速度に相当する。従って、被覆金属材1の腐食の進行度合いとして、電着塗膜4の膨れの大きさの増加速度を得ることにより、被覆金属材1の腐食進展速度に関する耐食性を精度よく評価できる。
【0107】
なお、通電ステップS3では、含水材料6に電圧が加わることにより、それぞれ含水材料6中の陰イオン(Cl等)及び陽イオン(Na等)が電着塗膜4を通って鋼板2に向かって移動する。そして、この陰イオン及び陽イオンに引きずられて水が電着塗膜4に浸透していく。
【0108】
また、傷5が形成されている場合には、電極12が傷5を囲むように配置されているから、傷5周りの電着塗膜4に電圧が安定して印加され、通電時における該電着塗膜4へのイオンの移動及び水の浸透が効率良く行なわれる。
【0109】
こうして、通電により、電着塗膜4へのイオン及び水の浸透が促進されるから、電気の流れが速やかに安定した状態になる。よって、電着塗膜4の膨れの進展が安定したものになる。
【0110】
このように、本実施形態では、カソード反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展を安定的に促進できるから、被覆金属材1の耐食性試験を極めて短時間で精度よく行うことができる。
【0111】
なお、通電ステップS3では、電極12及び鋼板2間に直流の定電流又は定電圧、好ましくは定電流を印加することが望ましい。直流の定電流を印加することにより、安定して腐食が進行する。そうして、試験の信頼性を向上できる。
【0112】
通電ステップS3における電流値は、好ましくは10μA以上10mA以下、より好ましくは100μA以上5mA以下、特に好ましくは500μA以上2mA以下である。電流値が10μA未満では、腐食の加速再現性が低下して試験に長時間を要するようになる。一方、電流値が10mAを超えると、腐食反応速度が不安定になり、実際の腐食の進行との相関性が悪くなる。電流値を上記範囲とすることにより、試験時間の短縮化と試験の信頼性の向上とを両立させることができる。
【0113】
通電ステップS3における通電時間は、塗膜膨れの十分な広がりを得つつ試験時間を短縮化させる観点から、例えば、0.05時間以上24時間以下、好ましくは0.1時間以上10時間以下、より好ましくは0.1時間以上5時間以下とすることができる。なお、保持ステップS2を設ける場合には、好ましくは0.1時間以上1時間以下とすることができる。
【0114】
≪算出ステップ≫
算出ステップS4では、通電ステップS3における被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出する。
【0115】
上述のごとく、通電ステップS3における通電開始から所定時間を経過した時点で電着塗膜4の膨れがどこまで進展したかをみることによって、被覆金属材1の腐食の進行度合いを得ることができる。
【0116】
腐食の進行度合いを示す指標としては、電着塗膜4の膨れの大きさ(傷5が形成されていない場合や傷5の大きさが極めて小さい場合)、通電前の傷5の大きさと通電後の電着塗膜4の膨れの大きさとの差、当該差を通電時間で除して得られる電着塗膜4の膨れの進展速度等が挙げられるが、好ましくは、電着塗膜4の膨れの進展速度である。電着塗膜4の膨れの進展速度は、上述の腐食進展速度に相当するからである。
【0117】
電着塗膜4の膨れの大きさは、傷5の大きさと同様の方法で計測できる。
【0118】
上述の準備ステップS1で、傷5の大きさとして、その径を計測した場合には、電着塗膜4の膨れの大きさは、例えば、電着塗膜4の膨れにより現れた傷5周りの円の径(「膨れ径」)を計測することにより得られる。また、好ましくは、電着塗膜4の膨れの大きさは、耐食性試験後に、電着塗膜4に粘着テープを貼り、電着塗膜4の膨れた部分を剥がし、露出した鋼板2の露出面の径(「剥離径」)を計測して得てもよい。
【0119】
具体的には例えば、カメラを用いて、剥離後の傷5周辺を撮影する。得られた画像データ上で、演算部93により膨れ径又は剥離径を計測できる。
【0120】
なお、上述の準備ステップS1で、傷5の大きさとして、その表面積を採用した場合には、電着塗膜4の膨れの大きさとしても表面積を採用すればよい。
【0121】
腐食の進行度合いとして、電着塗膜4の膨れの進展速度を算出する場合は、例えば以下の手順で行う。傷5の面積又は径と、膨れ面積若しくは剥離面積又は膨れ径若しくは剥離径と、に基づいて、通電中に電着塗膜4の膨れが進展した領域の面積又は距離等を算出する。この進展した領域の面積又は距離と、通電ステップS3における通電時間と、に基づいて、電着塗膜4の膨れが進展する速度を算出する。
【0122】
これにより、被覆金属材の腐食の進行度合いを精度よく評価できる。そうして耐食性試験の信頼性及び汎用性を向上できる。
【0123】
≪補正ステップ≫
次に、補正ステップS5で、試験対象個所Eの姿勢に基づいて、算出ステップS4で得られた腐食の進行度合いを補正する。
【0124】
通電ステップS3における腐食の進行度合いは、上述のごとく、試験対象個所Eの姿勢により異なってくることが予測される。具体的には、図3に示すように、例えば傾斜角度θが0°の場合(図3(a))と、傾斜角度θが90°の場合(図3(b))とでは、通電ステップS3における水素の抜け性は異なると考えられる。
【0125】
-実験例-
上記の仮説を検証すべく、実験を行った。
【0126】
まず、実験例の耐食性試験において使用する試験片(「TP」ともいう。)を作製した。
【0127】
被覆金属材1の仕様は以下の通りである。すなわち、金属製基材としては、平らな鋼板2としてのSPCの表面に化成皮膜3としてのリン酸亜鉛皮膜が形成されてなるものを用いた。なお、リン酸亜鉛皮膜の形成に係る化成処理時間は120秒であった。表面処理膜としては、エポキシ系樹脂からなる電着塗膜4を形成した。電着焼付条件は140°×15分、電着塗膜4の厚さは約10μmであった。
【0128】
TPの電着塗膜4が形成された面に対し、ビッカース硬さ試験機を用いて、30kgの荷重により人工的に傷5を形成した。通電前の傷5の大きさは、0.8mm~0.9mmであった。
【0129】
そして、TPの傾斜角度θを0°、45°及び90°の3種類に設定し、図1に示す装置で耐食性試験を行った。具体的には、含水材料6の温度が65℃の環境で30分静置し、その後同温度にて、1mAの定電流を30分印加した。なお、含水材料6としては、模擬泥(組成:水1.2L、カオリナイト1kg、硫酸ナトリウム50g、塩化ナトリウム50g、塩化カルシウム50g)を用いた。
【0130】
その後、模擬泥を除去し、TPの表面を洗浄後、粘着テープで電着塗膜4の膨れ部を除去した後、剥離径を計測した。
【0131】
図4に、剥離後のTPの表面のデジタル顕微鏡写真と、傾斜角度θに対し剥離径をプロットしたグラフを示している。
【0132】
図4に示すように、傾斜角度θが0°、45°、90°と増加するにつれて、剥離径は比例的に減少することが判った。このように、本実験から、試験対象個所Eの姿勢により、腐食の進行度合いは異なってくることが示された。
【0133】
なお、図4のグラフから、近似直線Lの式を算出すると、図4に示す式y=ax+b(但し、a=-0.0567、b=10.25)が得られた。この式は、傾斜角度θと腐食の進行度合いとの相関関係を示している。当該式を利用することにより、通電ステップS3で得られた腐食の進行度合いを補正することが考えられる。
【0134】
-補正方法の例-
すなわち、予め試験的に求めておいた傾斜角度θと腐食の進行度合いとの相関関係(例えば図4に示す式)と、準備ステップS1で計測した被覆金属材1の試験対象個所Eの傾斜角度θと、に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正することが挙げられる。
【0135】
本構成によれば、予め求めておいた相関関係に基づいて、腐食の進行度合いを補正するから、簡易な構成で信頼性の高い耐食性試験が可能となる。
【0136】
具体的には、図4のグラフから、傾斜角度θと腐食の進行度合いとの間には、傾斜角度に対して腐食の進行度合いが比例的に減少する相関関係がある。当該相関関係をy=ax+b(但し、a<0、b>0)で表すものとする。
【0137】
補正方法の一例は、図5(a)に示すように、下記式(1)に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する方法である。
【0138】
=A+aθ ・・・(1)
但し、式(1)中、Aは上記補正値、Aは上記腐食の進行度合いの測定値、aは上記相関関係の傾き、θは上記傾斜角度(0°≦θ≦90°)である。
【0139】
本構成では、予め試験的に得られた相関関係の傾きaを用い、種々の傾斜角度θで測定された腐食の進行度合いの測定値Aを、基準姿勢(θ=0°)の値Aに補正する。図5(a)に示すように、補正係数として、傾きaをそのまま使用するイメージである。本構成によれば、簡潔な式で精度よく腐食の進行度合いを補正することができる。
【0140】
また、補正方法の他の例は、図5(b)に示すように、下記式(2)に基づいて、上記腐食の進行度合いを補正する方法である。
【0141】
=A/[1-(a/b)]×θ ・・・(2)
但し、式(2)中、Aは上記補正値、Aは上記腐食の進行度合い、aは上記相関関係の傾き、bは上記相関関係の切片、θは上記傾斜角度(0°≦θ≦90°)である。
【0142】
本構成では、予め試験的に得られた相関関係の傾きaと切片bの両者を用い、種々の傾斜角度θで測定された腐食の進行度合いの測定値Aを、基準姿勢(θ=0°)の値Aに補正する。
【0143】
本構成によれば、相関関係の切片も考慮して補正するから、精度よく腐食の進行度合いを補正することができる。また、式(1)では、極端に測定値Aが小さい場合、基準姿勢の設定によっては補正値として負の値が得られる可能性がある。式(2)では、そのような場合であっても、適正な補正値を得ることができる。
【0144】
このように、補正ステップS5を設け、試験対象個所Eの姿勢に基づいて腐食の進行度合いを補正することにより、水素ガスの抜け性の違いに起因する腐食の進行度合いの誤差を是正することができるから、耐食性試験の精度及び信頼性を高めることができる。
【0145】
なお、上記相関関係、特にa、bの値は、被覆金属材1の仕様、耐食性試験の条件等により変化し得る。種々の条件について、上記相関関係を予め試験的に求めておき、記憶部92に格納しておくようにしてもよい。
【0146】
≪評価ステップ≫
評価ステップS6は、補正ステップS5で得られた腐食の進行度合いの補正値に基づいて、被覆金属材1の耐食性を評価するステップである。
【0147】
当該補正値は、例えば、実腐食試験と関連付けて被覆金属材1の耐食性の評価に用いることができる。具体的には例えば、当該耐食性試験により得られた腐食の進行度合いの補正値と、実腐食試験で得られた腐食進展速度との関係を予め求めておき、当該耐食性試験結果に基づいて、それが実腐食試験においてどの程度の耐食性に相当するかをみることができる。
【0148】
<耐食性試験用プログラム及びその記録媒体>
以上の耐食性試験方法の各工程の少なくとも一部は、耐食性試験用プログラムとしてプログラム化されている。具体的に、本実施形態に係る耐食性試験用プログラムは、コンピュータに、上記各工程のうち、少なくとも補正ステップS5の手順、好ましくは通電ステップS3の手順、算出ステップS4の手順、補正ステップS5の手順及び評価ステップS6の手順を実行させるプログラムである。この耐食性試験用プログラムは、記憶部92に格納された状態で、制御部91及び演算部93により実行され得る。また、当該耐食性試験用プログラムは、記憶部92に格納された状態に限らず、例えば光ディスク媒体や磁気テープ媒体など、コンピュータ読み取り可能な種々の周知の記録媒体に記録させておくことができる。そして、このような記録媒体を制御装置9の読み出し装置(不図示)に装着して耐食性試験用プログラムを読み出すことにより、当該プログラムを実行可能である。
【0149】
本構成によれば、コンピュータに、上記補正ステップS5の手順を実行させるから、信頼性の高い耐食性試験を行うことができる。
【0150】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0151】
耐食性試験装置10で使用する容器11は実施形態1の構成に限られない。例えば、図6図10に示す容器11を本耐食性試験に好適に用いることができる。
【0152】
図6図8に示すように、容器11は、筒状の容器本体100と、角度計150(姿勢計測手段)と、を備える。
【0153】
≪容器本体≫
容器本体100は、被覆金属材1の電着塗膜4側に載置されることでその内部に含水材料6を保持可能である。なお、図6図10に示す容器11では、容器本体100は角筒形状を有しているが、筒状であれば当該形状に限られるものではなく、実施形態1と同様に円筒形状であってもよいし、多角筒形状等の他の形状であってもよい。
【0154】
容器本体100は、基端部111側において電着塗膜4に接触する第1筒部110と、該第1筒部110の先端部112側に接続部130を介して接続された第2筒部120と、を備えている。
【0155】
第2筒部120は、第1筒部110の先端部112側に配置される基端部121と、該基端部121の第1筒部110側と反対側に延設され、該基端部121に対して所定の角度で傾斜した先端部122と、と有する。
【0156】
第2筒部120の内周部123は第1筒部110の内周部113に連通している。
【0157】
第2筒部120の先端部122の側壁には、貫通孔124が設けられている。貫通孔124は、試験中に発生する水素ガスや含水材料の揮発成分等により容器本体100内の内圧が上昇しすぎるのを抑制するための内圧解放用、含水材料6の注入用、電極12又は外部回路7の配線71の引き出し用等のために設けられている。なお、図7図8に示すように、容器本体100内を含水材料6で満たし、第2筒部120の先端面122Aを蓋で閉塞しない場合には、貫通孔124を栓等で塞ぐようにしてもよい。
【0158】
図6の白抜き矢印で示すように、第2筒部120は、接続部130により、第1筒部110に対して第1筒部110の周方向に回転可能に接続されている。
【0159】
試験対象個所の姿勢に応じて、第1筒部110に対して第2筒部120を回転させることにより、第2筒部120の先端部122を常に鉛直方向上向きに配置できる。そうして、容器本体の内部に収容された含水材料の容器本体からの漏れを抑制できる。
【0160】
なお、図6図8の容器11の例では、第1筒部110と第2筒部120の少なくとも基端部121とは同軸上に設けられている。従って、第2筒部120を第1筒部110の周方向に回転させると、第2筒部120の少なくとも基端部121は該基端部121の周方向に回転するようになっている。
【0161】
また、図6図8の容器11の例では、シール性の観点から、第2筒部120を第1筒部110の周方向に回転させていない状態(図7)及び180°回転させた状態(図6及び図8)のいずれかの状態しかとれないようになっている。
【0162】
図7は、本実施形態の容器11を、試験対象個所の姿勢が基準姿勢の水平方向となっている被覆金属材1の試験片上に載置した場合を示している。
【0163】
図7に示すように、第1筒部110の基端面111Aが電着塗膜4に接触するように容器11を試験片上に載置する。そして、第2筒部120の先端部122は、鉛直方向上向きに延びるように配置される。これにより、容器本体100内の含水材料6の漏れを抑制することができる。
【0164】
なお、図7に示す試験片には、溶接部1Aが存在する。このように溶接部1A等が存在して実施形態1の容器11のように一方向に延びる筒状の容器では配置が難しいような部分であっても、本実施形態の容器11であれば、容易に安定して容器11及び含水材料6を配置できる。
【0165】
また、図8は、実施形態の容器11を、試験対象個所の姿勢、すなわち水平方向からの傾斜角度θが90°となっている被覆金属材1の試験片上に載置した場合を示している。
【0166】
図8に示すように、試験対象個所の傾斜角度θが90°の場合は、第2筒部120を図7の状態から第1筒部110の周方向に180°回転させて、第2筒部120の先端面122Aが鉛直方向上向きに配置させることができる。こうして、試験対象個所の傾斜角度θが90°の場合であっても、先端面122Aが上向きとなっているから、含水材料6の漏れを効果的に抑制できる。
【0167】
接続部130の構成は、第1筒部110に対して第2筒部120が第1筒部110の周方向に回転可能であり、内部の含水材料6の外部への漏れが抑制される構成であればよい。
【0168】
接続部130の構成の具体例を図9に示す。
【0169】
接続部130は、例えば環状のシール部材を含む構成とすることができる。図9(a)は、接続部130を環状のシール部材で構成した例である。
【0170】
図9(a)に示すように、例えば第2筒部120の基端部121の外径を第1筒部110の先端部112の内径よりも小さい構成としてもよい。
【0171】
そして、接続部130を、第2筒部120の基端部121の外周面121Aと、第1筒部110の先端部112の内周面112Aとの間に両者に接触するように配置された環状のシール部材を含む構成とすることができる。
【0172】
環状のシール部材としては、具体的には例えば可撓性のリップ構造を有するリップパッキンが挙げられる。リップパッキンとしては、例えばUパッキン、Vパッキン、Yパッキン等が挙げられ、好ましくはUパッキンである。
【0173】
接続部130を環状のシール部材を含む構成とすることにより、第2筒部120は第1筒部110の周方向にスムーズに回転可能であり、且つ、内部の含水材料6の外部への漏れが効果的に抑制される。
【0174】
また、図9(b)に示すように、接続部130は、磁石を含む構成としてもよい。図9(b)では、第1筒部110の先端部112の先端面112Bと、第2筒部120の基端部121の基端面121Bとが磁石を介して着脱可能に構成されている。この場合、具体的には例えば、先端面112B及び基端面121Bの一方に磁石を接着剤や樹脂モールド等により固定するとともに、他方に金属板等を接着剤や樹脂モールド等により固定し、両者が着脱可能となるように構成すればよい。
【0175】
本構成によれば、磁石により両者が着脱可能に構成されているから、第1筒部110の周方向に所望の角度回転させた位置で第2筒部120を固定させることができる。そうして、装置の汎用性が向上する。
【0176】
さらに、図9(c)に示すように、接続部130は、蛇腹構造を有していてもよい。これにより、第2筒部120を第1筒部110に対して種々の方向に向けることができる。そうして、試験対象の試験片の自由度が向上するから、装置の汎用性が向上する。また、第1筒部110と第2筒部120とを一体的に形成できるから、含水材料6の漏れを効果的に抑制できる。
【0177】
図6図8及び図10に示すように、第2筒部120の先端部122は、試験対象個所を観察するために設けられた第1切欠き127Aを有する。第1切欠き127Aは、先端部122の先端面122Aから内周面122Bにかけて設けられている。
【0178】
また、第2筒部120の基端部121と先端部122との連結部の内周面に、試験対象個所を観察するための第2切欠き127Bが設けられている。第2切欠き127Bは、基端部121及び先端部122の軸方向に延びるように設けられている。
【0179】
特に図10に示すように、第1切欠き127A及び第2切欠き127Bの径方向断面は三角形であるが、当該形状に限られず、円形、他の多角形状等でもよい。
【0180】
図7図8図10に示すように、先端部122の先端面122A側から容器本体100の内部を観察したときに、第1切欠き127Aと第2切欠き127Bとにより観察窓、好ましくは矩形の観察窓が形成される。これにより、図7及び図8において二点鎖線で示すように、容器本体の外側(先端部の先端面側)から容器本体の内部を観察したときに、当該観察窓を通じて試験対象個所E、特に傷5が設けられた個所を観察できる。なお、図10では、観察窓の形状は矩形であるが、当該形状に限られるものではなく、例えば円形、楕円形、多角形等の他の形状であってもよい。
【0181】
≪角度計≫
角度計150は、該容器本体100に付設され、被覆金属材1の姿勢、好ましくは基準姿勢からの傾斜角度θを計測する。角度計150は、第1筒部110の先端部112側に付設されている。これにより、容器本体100を被覆金属材1の電着塗膜4上に載置したときに角度計150が試験対象個所の近傍における電着塗膜4上に配置される。そうして、角度計150により試験対象個所の基準姿勢からの傾斜角度θを計測できる(正確には、試験対象個所の近傍の傾斜角度を計測することになるが、十分に近傍であるため、測定対処個所の傾斜角度θと近似できる)。
【0182】
本構成によれば、容器11を試験片上に載置しただけで自動的に傾斜角度を計測できるから、耐食性試験の工程が簡潔化できる。
【0183】
≪特徴≫
以上まとめると、実施形態2に係る耐食性試験装置10で使用する容器11は、以下の特徴を有する。
【0184】
上記容器は、上記被覆金属材の上記表面処理膜側に載置されることでその内部に上記含水材料を保持可能な筒状の容器本体と、該容器本体に付設され、上記被覆金属材の姿勢、好ましくは基準姿勢からの傾斜角度を計測する姿勢計測手段(角度計)と、を備える。
【0185】
上記容器本体は、基端側において上記表面処理膜に接触する第1筒部と、該第1筒部の先端側に延設された第2筒部と、を備えている。
【0186】
前記第2筒部の内周部は第1筒部の内周部に連通している。
【0187】
前記第2筒部は、前記第1筒部の先端側に配置される基端部と、該基端部の該第1筒部側と反対側に延設され、該基端部に対して所定の角度で傾斜した先端部と、を有する。
【0188】
前記第2筒部は、前記第1筒部に対して該第1筒部の周方向に回転可能に接続されている。試験対象個所の姿勢に応じて、第1筒部に対して第2筒部を回転させることにより、第2筒部の先端部を常に鉛直方向上向きに配置できる。そうして、容器本体の内部に収容された含水材料の容器本体からの漏れを抑制できる。
【0189】
前記第1筒部と前記第2筒部の少なくとも基端部とは同軸上に設けられている。
【0190】
前記第2筒部を第1筒部の周方向に回転させることにより、第2筒部の少なくとも基端部は該基端部の周方向に回転する。
【0191】
前記第2筒部は、接続部を介して前記第1筒部に接続されている。
・前記第2筒部の基端部の外径を前記第1筒部の先端部の内径よりも小さい構成としてもよい。
【0192】
前記接続部は、前記第2筒部の前記基端部の外周面と、前記第1筒部の前記先端部の内周面との間に両者に接触するように配置された環状のシール部材、好ましくは可撓性のリップ構造を有するリップパッキン、より好ましくはUパッキンを含んでもよい。
【0193】
前記接続部は、磁石を含んでもよい。
【0194】
前記接続部は、蛇腹構造を有していてもよい。
【0195】
前記第2筒部の先端部は、試験対象個所を観察するために設けられた第1切欠きを有する。前記第1切欠きは、前記第2筒部の先端部の先端面から内周面にかけて設けられている。
【0196】
前記第2筒部の基端部と先端部との連結部の内周面に、試験対象個所を観察するための第2切欠きが設けられている。第2切欠きは、前記第2筒部の基端部及び先端部の軸方向に延びるように設けられている。
【0197】
前記第2筒部の先端部の先端面側から容器本体の内部を観察したときに、第1切欠きと第2切欠きとにより観察窓、好ましくは矩形の観察窓が形成される。これにより、容器本体の外側(先端部の先端面側)から容器本体の内部を観察したときに、当該観察窓を通じて試験対象個所、特に傷5が設けられた個所を観察できる。
【0198】
(実施形態3)
実施形態1、2では、電極12及び鋼板2間に通電する試験方法を例に挙げて説明したが、当該構成に限られない。
【0199】
図11に示すように、容器11を2個所に設置し、各々に含水材料6及び電極12を配置して、2つの電極12間に通電する試験方法を採用してもよい。
【0200】
この場合、準備ステップS1では、2つの容器11と、該2つの容器の各々に収容された含水材料6にそれぞれ接触する2つの電極12と、を配置するとともに、2つの電極12間を外部回路により電気的に接続する。
【0201】
なお、図11に示すように、被覆金属材1は、2つの試験対象個所Eにおいて、電着塗膜4を貫通して鋼板2に達する2箇所の傷を備えてもよい。この場合、2つの容器11は、含水材料6が2箇所の傷の各々に接触するように配置される。
【0202】
本実施形態では、耐食性試験装置10は、2つの容器11と、該2つの容器の各々に収容された含水材料6にそれぞれ接触する2つの電極と、2つの電極間を電気的に接続する外部回路を備える。
【0203】
そして、通電ステップS3で、通電手段8は、2つの電極の一方及び他方を、それぞれアノード及びカソードとして両者間に通電する。そうして、被覆金属材1の腐食を進行させる。
【0204】
例えば図11では、左側の電極12がカソード、右側の電極12がアノードとなる。この場合、左側の試験対象個所E、好ましくは傷5がアノードサイト、右側の試験対象個所E、好ましくは傷5がカソードサイトとなる。
【0205】
アノードサイトでは、アノード反応が進行し、カソード反応の進行は抑制されるから、電着塗膜4の膨れはほとんど発生しない。
【0206】
一方、カソードサイトでは、電着塗膜4の膨れが進展する。従って、通電開始から所定時間を経過した時点でのカソードサイトにおける電着塗膜4の膨れの大きさを評価することによって、被覆金属材1の腐食の進行度合いを評価できる。
【0207】
なお、傷5の大きさ、形状等、通電手段8による通電時の電流値等の条件によっては、アノードサイトにおいてもカソード反応が進行する場合がある。すなわち、本実施形態において、2箇所の傷5において、アノード反応が進行する傷5と、カソード反応が進行する傷5とが明瞭に分かれることが好ましいが、明瞭に分かれない場合もある。この場合、アノードサイトにおいても電着塗膜4の膨れが進展し得る。このような場合には、2箇所の傷5の双方において電着塗膜4の膨れが進行し得るから、算出ステップS4において、電着塗膜4の膨れが大きい方の傷5に基づいて、被覆金属材1の腐食の進行度合いを算出することになる。
【0208】
このように、本実施形態では、通電により、アノード反応が進行するアノードサイトと、カソード反応が進行するカソードサイトとを分離するとともに、両反応の進行及び電着塗膜4の膨れの進展を安定的に促進できるから、被覆金属材1の耐食性試験を極めて短時間で精度よく行うことができる。
【0209】
なお、2つの電極12間には、実施形態1と同様に、定電流又は定電圧、好ましくは定電圧を印加することが望ましい。
【0210】
また、2つの電極12間に流れる電流値も、実施形態1と同様の値とすることが望ましい。
【0211】
なお、傷5を形成する場合、2箇所の傷5のうち、少なくとも一方は、点状に形成されていることが望ましい。また、電着塗膜4の膨れの大きさが大きい方の傷5は、準備ステップS1において、点状に形成されていることが好ましい。さらに、通電ステップS3でカソード反応が進行する傷5、すなわちカソードサイトとなる傷5は、点状に形成されていることが好ましい。この場合、アノードサイトとなる傷5の形状は特に限定されず、点状であってもよいし、例えばカッター傷のような線状等であってもよい。
【0212】
2箇所の傷5間の距離は電着塗膜4の膨れの確認の容易さの観点から、2cm以上であることが好ましく、3cm以上であることがさらに好ましい。
【0213】
図11の試験方法によって得られた腐食の進行度合いについても、試験対象個所Eの姿勢に基づいて、腐食の進行度合いを補正し、得られた補正値に基づいて耐食性を評価すればよい。試験対象個所の姿勢に基づいて腐食の進行度合いを補正することにより、水素ガスの抜け性の違いに起因する腐食の進行度合いの誤差を是正することができるから、耐食性試験の精度及び信頼性を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0214】
本開示は、試験対象個所の姿勢に拘わらず、耐食性試験の精度及び信頼性を向上できる被覆金属材の耐食性試験方法、耐食性試験装置、耐食性試験用プログラム及び記録媒体をもたらすことができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0215】
1 被覆金属材
2 鋼板(金属製基材)
3 化成皮膜(金属製基材)
4 電着塗膜(表面処理膜)
6 含水材料
7 外部回路
8 通電手段(電源部、検出部)
9 制御装置(算出部、補正部、評価部)
11 容器
12 電極
10 耐食性試験装置
100 容器本体
110 第1筒部
120 第2筒部
130 接続部
150 角度計(姿勢計測手段)
127A 第1切欠き
127B 第2切欠き
S1 準備ステップ
S3 通電ステップ
S4 算出ステップ
S5 補正ステップ
S6 評価ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11