(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172520
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】作業機
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20241205BHJP
B23D 47/12 20060101ALI20241205BHJP
B23D 45/16 20060101ALI20241205BHJP
H02P 25/18 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B23D47/12
B23D45/16
H02P25/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090296
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 弘実
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 隆
(72)【発明者】
【氏名】武久 真之
(72)【発明者】
【氏名】谷本 英之
【テーマコード(参考)】
3C040
3C064
5H505
【Fターム(参考)】
3C040AA01
3C040DD01
3C040LL05
3C064AA01
3C064AA02
3C064AA03
3C064AA04
3C064AA05
3C064AA06
3C064AA08
3C064AA09
3C064AA10
3C064AA20
3C064AB02
3C064AC02
3C064BA03
3C064BA13
3C064BA35
3C064BA36
3C064BB01
3C064CA03
3C064CA06
3C064CA09
3C064CA10
3C064CA11
3C064CA54
3C064CA60
3C064CA61
3C064CA62
3C064CA72
3C064CA74
3C064CA75
3C064CA78
3C064CA79
3C064CA80
3C064CA82
3C064CB17
3C064CB24
3C064CB28
3C064CB63
3C064CB72
3C064CB85
3C064CB91
3C064DA02
3C064DA12
3C064DA23
3C064DA28
3C064DA37
3C064DA56
3C064DA57
3C064DA59
3C064DA60
3C064DA65
3C064DA89
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE23
5H505EE49
5H505HA06
5H505HB01
5H505JJ09
5H505JJ12
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505MM02
(57)【要約】
【課題】使い勝手の良い作業機を提供する。
【解決手段】作業機1は、ステータコイル345を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、ステータコイル345を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成されたリレー素子31を備える。演算部50は、モータ電流に関する第1条件を満たすと、高回転モードから高トルクモードに切り替え、モータ電流に関する第2条件を満たすと、高トルクモードから高回転モードに切り替える。演算部50は、高回転モードから高トルクモードに切り替えてから、第3条件を満たすまでは、第2条件を満たした場合でも高トルクモードを維持するよう構成される。高回転モードから高トルクモードに切り替えた直後に一時的にモータ電流が小さい期間が生じても高回転モードに戻らないようにするための条件である。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を有するモータと、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記複数の巻線を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、前記複数の巻線を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部と、
前記駆動部及び前記結線切替部を制御する制御部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、
前記モータに流れる電流に関する第1条件を満たすと、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替え、
前記モータに流れる電流に関する第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替え、
前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えてから、第3条件を満たすまでは、前記第2条件を満たした場合でも前記高トルクモードを維持するよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項2】
請求項1に記載の作業機であって、
前記第1条件は、前記モータに流れる電流が第1電流閾値以上の状態が第1時間閾値以上継続することを含み、
前記第2条件は、前記モータに流れる電流が前記第1電流閾値より小さい第2電流閾値以下の状態が第2時間閾値以上継続することを含み、
前記第3条件は、前記第2時間閾値よりも長い時間が経過することを含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項3】
請求項1に記載の作業機であって、
前記第2条件は、前記モータに流れる電流が第2電流閾値以下になることを含み、
前記第3条件は、前記モータに流れる電流が第3電流閾値以上であることを含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項4】
請求項1に記載の作業機であって、
前記第3条件は、予め設定された一定の時間が経過すること、又は、前記モータの回転数が所定回転数以下であること、を含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項5】
請求項4に記載の作業機であって、
前記第2条件は、前記モータに流れる電流が第2電流閾値以下になることを含み、
前記所定回転数は、前記高トルクモードにおいて前記モータに流れる電流が第3電流閾値である場合に対応する回転数である、
ことを特徴とする作業機。
【請求項6】
複数の巻線を有するモータと、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記複数の巻線を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、前記複数の巻線を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部と、
前記モータに加わる負荷に関する第1条件を満たすと、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えるよう構成された制御部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えた後に、前記モータに加わる負荷に関する条件であって前記第1条件と異なる第2条件と、前記第1条件及び前記第2条件と異なる第3条件と、を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替えるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項7】
請求項6に記載の作業機であって、
前記第1条件は、前記負荷が第1負荷閾値以上の状態が第1時間閾値以上継続することを含み、
前記第2条件は、前記負荷が前記第1負荷閾値より小さい第2負荷閾値以下の状態が第2時間閾値以上継続することを含み、
前記第3条件は、前記第2時間閾値よりも長い時間が経過することを含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項8】
請求項6に記載の作業機であって、
前記第3条件は、所定時間が経過すること、及び/又は、前記モータの回転数が所定回転数以下であることを含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項9】
請求項6に記載の作業機であって、
前記第2条件は、前記負荷が第2負荷閾値以下になることを含み、
前記第3条件は、前記負荷が第3負荷閾値以上であることを含み、
前記制御部は、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えた後、かつ前記第3条件を満たした後に、前記第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替えるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項10】
請求項6に記載の作業機であって、
前記第3条件は、予め設定された一定の時間が経過することを含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項11】
請求項6に記載の作業機であって、
前記第2条件は、前記負荷が第2負荷閾値以下になることを含み、
前記第3条件は、前記モータの回転数が、前記高トルクモードにおいて前記負荷が第3負荷閾値である場合に対応する回転数以下であることを含み、
前記制御部は、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えた後、かつ前記第3条件を満たした後に、前記第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替えるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項12】
請求項1又は6に記載の作業機であって、
前記制御部は、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えた後、かつ前記第3条件を満たした後に、前記第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替えるよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項13】
複数の巻線を有するモータと、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記複数の巻線を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、前記複数の巻線を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部と、
前記駆動部及び前記結線切替部を制御する制御部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、
前記モータに流れる電流に関する第1条件を満たすと、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替え、
前記モータに流れる電流に関する第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替え、
前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替える場合、前記高回転モードでの前記モータへの通電を停止後、第3条件を満たした場合に、前記高トルクモードでの前記モータへの通電を開始するよう構成された、
ことを特徴とする作業機。
【請求項14】
請求項13に記載の作業機であって、
前記第3条件は、前記モータの回転数が所定回転数以下であることを含む、
ことを特徴とする作業機。
【請求項15】
請求項14に記載の作業機であって、
前記第2条件は、前記モータに流れる電流が第2電流閾値以下になることを含み、
前記所定回転数は、前記高トルクモードにおいて前記モータに流れる電流が第3電流閾値である場合に対応する回転数である、
ことを特徴とする作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、モータの巻線の結線を負荷に応じて高回転巻線と高トルク巻線との間で切替え可能であり、巻線切替閾値を変更可能な電動工具を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モータの結線を高回転巻線から高トルク巻線に切り替える際、切り替えた直後に慣性によってモータの回転数が高い状態に維持されていると、高トルク巻線での駆動開始時に瞬間的に電流がほとんど流れない時間が発生することがある。当該時間における電流値が、高トルク巻線から高回転巻線に切り替える電流閾値以下の場合、高トルク巻線での駆動直後に高回転巻線に戻ってしまい、使い勝手が悪い。すなわち、高トルク巻線での駆動直後に高回転巻線に戻り、高回転結線に戻った後は切替閾値に達しているためまたすぐに高トルク結線に切り替わる。これが短い時間で繰り返し発生してしまい、不要な切替が頻発することでスイッチング素子の寿命を縮めてしまう。一方で高トルク結線から高回転結線に切り替える閾値を厳しくしてしまうと高回転結線に戻りにくくなり、使い勝手が悪くなる。
【0005】
本発明の目的は、使い勝手の良い作業機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、作業機である。この作業機は、
複数の巻線を有するモータと、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記複数の巻線を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、前記複数の巻線を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部と、
前記駆動部及び前記結線切替部を制御する制御部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、
前記モータに流れる電流に関する第1条件を満たすと、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替え、
前記モータに流れる電流に関する第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替え、
前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えてから、第3条件を満たすまでは、前記第2条件を満たした場合でも前記高トルクモードを維持するよう構成された、
ことを特徴とする。
【0007】
本発明の別の態様は、作業機である。この作業機は、
複数の巻線を有するモータと、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記複数の巻線を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、前記複数の巻線を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部と、
前記モータに加わる負荷に関する第1条件を満たすと、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えるよう構成された制御部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替えた後に、前記モータに加わる負荷に関する条件であって前記第1条件と異なる第2条件と、前記第1条件及び前記第2条件と異なる第3条件と、を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替えるよう構成された、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は、作業機である。この作業機は、
複数の巻線を有するモータと、
前記モータを駆動する駆動部と、
前記複数の巻線を高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、前記複数の巻線を高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部と、
前記駆動部及び前記結線切替部を制御する制御部と、
を備えた作業機であって、
前記制御部は、
前記モータに流れる電流に関する第1条件を満たすと、前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替え、
前記モータに流れる電流に関する第2条件を満たすと、前記高トルクモードから前記高回転モードに切り替え、
前記高回転モードから前記高トルクモードに切り替える場合、前記高回転モードでの前記モータへの通電を停止後、第3条件を満たした場合に、前記高トルクモードでの前記モータへの通電を開始するよう構成された、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明は「電動作業機」や「電動工具」、「電気機器」等と表現されてもよく、そのように表現されたものも本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、使い勝手の良い作業機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態1に係る作業機1を上方側から見た斜視図。
【
図5】
図4において中間ハウジング324の左部開口をカバー部材328で覆った状態を示す断面図。
【
図9】作業機1の自動切替モードの制御フローチャート。
【
図10】作業機1の第1動作例のタイムチャートであって、作業負荷の上昇速度が通常の場合のタイムチャート。
【
図11】作業機1の第2動作例のタイムチャートであって、作業負荷の上昇速度が緩やかな場合のタイムチャート。
【
図12】作業機1の第3動作例のタイムチャートであって、第1動作例(
図10)において低負荷検知マスク期間(T4~T5の期間)のうちに作業負荷が解消した場合のタイムチャート。
【
図13】作業負荷の上昇速度が通常の場合における作業機1の電池電流とモータ回転数の変化を示すグラフ。
【
図14】作業負荷の上昇速度が緩やかな場合における作業機1の電池電流とモータ回転数の変化を示すグラフ。
【
図15】作業負荷が低下する場合における作業機1の電池電流とモータ回転数の変化を示すグラフ。
【
図16】作業機1においてコイル結線方式をΔ結線からY結線に切り替える第1結線切替制御を行う条件(第1条件)の一例を示す表。
【
図17】本発明の実施形態2の作業機の自動切替モードの制御フローチャート。
【
図18】本発明の実施形態3の作業機の自動切替モードの制御フローチャート。
【
図19】本発明の実施形態4の作業機の自動切替モードの制御フローチャート。
【
図20】本発明の実施形態5の作業機の自動切替モードの制御フローチャート。
【
図21】本発明の実施形態6に係る作業機5を上方側から見た斜視図。
【
図22】作業機5のハウジング1320の一部を取り外して上方側から見た斜視図。
【
図24】作業機5のハウジング1320の一部を取り外して側方側から見た側面図。
【
図25】
図22においてモータハウジング1321及び制御基板1311を取り外した状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
図1~
図16は、本発明の実施形態1に係る作業機1に関する。
図3及び
図4により、作業機1における互いに直交する前後、上下、左右の各方向を定義する。左右方向は、作業機1のモータ軸341の軸方向と平行な方向である。作業機1は、携帯用丸鋸である。作業機1は、ハウジング320を備える。
【0013】
ハウジング320は、例えば樹脂成形体であり、モータ340等を収容するモータハウジング321、作業者が把持するハンドルハウジング322、バッテリ装着部323、及び中間ハウジング324を含む。
【0014】
モータハウジング321は、中心軸が左右方向と略平行な筒状部である。ハンドルハウジング322は、モータハウジング321の右部上方において前後及び上下方向に斜めに延びる。ハンドルハウジング322の上端部に、ユーザがモータ340の起動及び停止を指示するための操作部としてのトリガスイッチ306が設けられる。
【0015】
ハンドルハウジング322の左方には、金属製のギヤケース(ソーカバー)325が接続される。ギヤケース325は、図示しない減速機構を収容すると共に、先端工具としての鋸刃309の上半分を覆う。
【0016】
バッテリ装着部323は、ハンドルハウジング322の後端部から左方に連なり、電池パック307を着脱可能に装着できる。作業機1は、電池パック307を電源とし、電池パック307の電力で動作する。作業機1は、バッテリ装着部323の上面に、操作パネル316を有する。ユーザは、操作パネル316により、作業機1の動作モードを切り替えられる。
【0017】
中間ハウジング324は、モータハウジング321の後方でバッテリ装着部323の側方(右方)且つハンドルハウジング322の下方に位置する。
【0018】
作業機1は、モータハウジング321の内部に、モータ340を有する。モータ340の回転は、ギヤケース325内の減速機構によって減速され、鋸刃309に伝達される。
【0019】
モータ340は、インナーロータ型のブラシレスモータである。
図6に示すように、モータ340は、モータ軸341(出力軸)、ロータコア342、ロータマグネット343(永久磁石)、ステータコア344、及びステータコイル345を含む。
【0020】
ロータコア342は、モータ軸341の周囲に設けられ、モータ軸341と一体にステータコア344に対して回転する。ロータマグネット343は、4つあり、ロータコア342に周方向において90度間隔で挿入保持される。ロータコア342とロータマグネット343は、モータ340のロータを構成する。
【0021】
ステータコア344は、ロータコア342の外周を囲むように設けられる。ステータコア344は、円筒状(環状)のヨーク部346と、ヨーク部346から径方向内側に突出する6個のティース347(ティース部)と、を含む。各ティース347に、ステータコイル345が設けられる。各ティース347は、巻線スロットを成す。ステータコア344及びステータコイル345は、モータ340のステータを構成する。各ティース347に設けられたステータコイル345は、モータ340の複数の巻線を構成する。
【0022】
作業機1は、バッテリ装着部323の内部に、制御基板311(
図5)及び複数のバッテリ接続端子327(
図2)を有する。複数のバッテリ接続端子327は、バッテリ装着部323の下方に臨む。複数のバッテリ接続端子327は、バッテリ装着部323に装着された電池パック307の端子と接触して電気的に接続される。
【0023】
図4に示すように、作業機1は、中間ハウジング324の内部に、リレー基板30を有する。リレー基板30は、複数のリレー素子31を搭載する。複数のリレー素子31は、リレーユニットを構成する。複数のリレー素子31は、ステータコイル345の結線方式(以下「コイル結線方式」)を高回転用の第1結線方式と高トルク用の第2結線方式との間で切替可能な結線切替部、すなわち、複数の巻線を他の特性より回転数が高い特性である高回転数特性となるよう互いに接続する高回転モードと、複数の巻線を他の特性よりトルクが高い特性である高トルク特性となるよう互いに接続する高トルクモードと、を切替え可能に構成された結線切替部の例示である。
【0024】
リレー基板30は中間ハウジング324に対してネジ等で取り付けられる。中間ハウジング324は、左方に開口する。この開口は、バッテリ装着部323に装着された電池パック307に覆われる。なお、
図5に示すように、この開口には、カバー部材328がネジやラッチによって取り付けられており、開口をカバー部材328で覆うことでリレー基板30の脱落防止、防水や防塵を図っている。
【0025】
図7に示すように、操作パネル316には、運転モード切替スイッチ312、運転モード表示LED313、ライトモード切替スイッチ314、ライトモード表示LED315、317が設けられる。
【0026】
運転モード切替スイッチ312は、作業者が作業機1の運転モードを自動切替モード(第1モード)とねばりモード(第2モード)との間で切替可能な運転モード切替部(モード選択部)である。運転モード表示LED313は、現在の運転モードを表示する運転モード表示部であり、例えば、自動切替モードでは消灯し、ねばりモードでは点灯する。
【0027】
ライトモード切替スイッチ314は、作業者が作業機1のライトモードを切替可能なライトモード切替部である。ライトモードは、例えば、常時点灯モードと、トリガスイッチ306を引いたときだけ点灯するトリガ操作時点灯モードと、がある。ライトモード表示LED315は、トリガ操作時点灯モードの場合に点灯し、常時点灯モードの場合に消灯する。ライトモード表示LED317は、常時点灯モードの場合に点灯し、トリガ操作時点灯モードの場合に消灯する。
【0028】
【0029】
電池パック307は、電池セル67及び保護IC68を含む。保護IC68は、電池側制御部としての機能を有し、電池セル67からの放電電流が電池側過電流保護閾値を超えると放電停止信号(LD信号)を出力する。
【0030】
インバータ回路64は、三相ブリッジ接続された6つのスイッチング素子からなり、モータ340を駆動する駆動部である。インバータ回路64の各スイッチング素子は、作業機1を構成する発熱素子の例示である。インバータ回路64は、電池パック307の出力端子間に設けられる。検出抵抗65は、ステータコイル345に流れる電流(以下「モータ電流」)の経路に設けられる。インバータ回路64は制御基板311に搭載される。
【0031】
制御電源回路51は、電池パック307の出力電圧を、演算部50等の電源電圧に変換し、演算部50等に供給する。電流検出回路52は、検出抵抗65の両端の電圧によりモータ電流を検出し、制御部としての演算部50に送信する。スイッチ操作検出回路53は、トリガスイッチ306の操作を検出し、演算部50に送信する。バッテリ種類検出回路54は、電池パック307の図示しない識別端子の電圧により電池パック307の種類(定格電圧や定格容量等)を検出し、演算部50に送信する。バッテリ種類検出回路54は、電源の容量を検出する検出部を構成する。電圧検出回路55は、電池パック307の出力電圧(以下「電池電圧」)を検出し、演算部50に送信する。
【0032】
LD検出回路66は、電池パック307からの放電停止信号(LD信号)を検出し、演算部50に送信する。制御電源回路51等の各回路及び演算部50は制御基板311に搭載される。
【0033】
制御信号回路56は、演算部50の制御に従い、インバータ回路64の各スイッチング素子のオンオフを制御する制御信号を出力する。回転位置検出回路57は、ロータマグネット343の近傍に設けられたホールIC(磁気センサ)63の出力信号によりモータ340の回転位置を検出し、演算部50に送信する。回転数検出回路58は、回転位置検出回路57の出力信号によりモータ340の回転数(以下「モータ回転数」)を検出し、演算部50に送信する。なお、本明細書において「回転数」は、単位時間当たりの回転数であり、回転速度を意味する。動作モード検出回路59は、ユーザによる運転モード切替スイッチ312の操作に応じた運転モード(動作モード)を検出し、演算部50に送信する。照明LED駆動回路61は、演算部50の制御に従い、照明LED62を駆動する。
【0034】
演算部50は、マイクロコントローラ等を含み、作業機1の全体の動作を制御する制御部である。演算部50は、制御信号回路56を介してインバータ回路64の駆動を制御(例えばインバータ回路64の各スイッチング素子をPWM制御)し、ステータコイル345に供給する駆動電流を制御する。演算部50は、モータ電流によりモータ340のトルク(以下「モータトルク」)、すなわちモータ340に加わる負荷を検出できる。本明細書において、作業によってモータ340に加わる負荷を「作業負荷」と表記する。作業負荷は、回転する鋸刃309が相手材に押し付けられることによってモータ340に加わる負荷であり、モータ340の起動に伴う一時的な高い負荷は含まない。
【0035】
演算部50は、リレー素子31を制御して、コイル結線方式(コイル結線)を高回転用であるΔ結線(デルタ結線)と高トルク用であるY結線(スター結線)との間で切り替える。コイル結線方式がΔ結線の状態は高回転モードに対応し、コイル結線方式がY結線の状態は高トルクモードに対応する。
【0036】
複数のリレー素子31は、第1リレーユニットとしての3つのΔ結線用リレー素子32と、第2リレーユニットとしての3つのY結線用リレー素子33と、を含む。演算部50は、Δ結線用リレー素子32をオンかつY結線用リレー素子33をオフとすることでコイル結線方式をΔ結線とし、Y結線用リレー素子33をオンかつΔ結線用リレー素子32をオフとすることでコイル結線方式をY結線とする。なお、Y結線用リレー素子33は2つでもよい。すなわち3つのY結線用リレー素子33のうち1つを短絡に置換してもよい。
【0037】
演算部50は、コイル結線方式をΔ結線からY結線に切り替える第1結線切替制御、すなわち高回転モードから高トルクモードへ切り替える第1結線切替制御を実行可能である。第1結線切替制御を実行するのは、第1条件を満たした場合である。第1条件は、モータ電流が第1電流閾値以上の状態、すなわち作業負荷が第1負荷閾値以上の状態が、第1時間閾値以上継続することである。
【0038】
演算部50は、コイル結線方式をY結線からΔ結線に切り替える第2結線切替制御、すなわち高トルクモードから高回転モードへ切り替える第2結線切替制御を実行可能である。第2結線切替制御を実行するのは、第2条件を満たした場合である。第2条件は、モータ電流が第1電流閾値より小さい第2電流閾値以下の状態、すなわち作業負荷が第1負荷閾値より小さい第2負荷閾値以下の状態が、第2時間閾値以上継続することである。
【0039】
演算部50は、高回転モードから高トルクモードに切り替えてから、第3条件を満たすまでは、モータ電流が第2条件を満たした場合でも高トルクモードを維持するよう構成される。第3条件は、高回転モードから高トルクモードに切り替えた直後に一時的にモータ電流が小さい期間が生じても高回転モードに戻らないようにするための条件である。第3条件は、第1条件及び第2条件とは異なる条件であり、ここでは第2時間閾値よりも長い時間(後述の低負荷検知マスク時間)が経過することである。
【0040】
作業機1の運転モード(演算部50による制御モード)は、自動切替モード(第1モード)と、ねばりモード(第2モード)とがある。前述のように作業者は運転モード切替スイッチ312により運転モードを選択できる。自動切替モード(第1モード)は、前述の第1結線切替制御と第2結線切替制御を実行するモードである。ねばりモード(第2モード)は、作業負荷の増加にかかわらずコイル結線方式を高回転用から高トルク用に切り替えないモードであり、コイル結線方式をY結線に固定するモードである。作業機1の運転モードは、ねばりモードを含まなくてもよい。
【0041】
以下、自動切替モードについて詳細に説明する。
【0042】
図9は、作業機1の自動切替モードの制御フローチャートである。演算部50は、起動すると、3つのΔ結線用リレー素子32をオン、3つのY結線用リレー素子33をオフにする(S1)。
【0043】
演算部50は、トリガスイッチ306がオフの場合(S3の「トリガOFF維持」)、S1に戻る。演算部50は、トリガスイッチ306がオンの場合(S3の「トリガON」)、3つのΔ結線用リレー素子32がオンの状態(高回転モードの状態)でインバータ回路64を制御しモータ340を駆動する(S5)。
【0044】
演算部50は、高負荷状態か否かを確認する(S7)。高負荷状態は、作業負荷が第1負荷閾値以上の状態であり、またモータ電流が第1電流閾値以上の状態である。第1電流閾値は例えば110Aである。
【0045】
演算部50は、高負荷状態を検知しない場合(S7の「いいえ」)、S11に進む。演算部50は、トリガスイッチ306がオンの場合(S11の「トリガON維持」)、S5に戻る。演算部50は、トリガスイッチ306がオフの場合(S11の「トリガOFF」)、モータ340の電気ブレーキ制御を行う(S13)。電気ブレーキ制御は、例えばインバータ回路64の3つの下アーム側スイッチング素子をオンにすることである。電気ブレーキ制御においてオンする下アーム側スイッチング素子は1つ又は2つでもよい。演算部50は、モータ340が停止するまで電気ブレーキを継続し(S15の「いいえ」)、モータ340が停止すると(S15の「はい」)、S1に戻る。
【0046】
演算部50は、高負荷状態を検知した場合(S7の「はい」)、高負荷状態の継続時間を確認する(S9)。演算部50は、高負荷状態の継続時間が第1時間閾値未満の場合(S9の「いいえ」)、S11に進む。演算部50は、高負荷状態の継続時間が第1時間閾値以上の場合(S9の「はい」)、第1結線切替制御を行う(S17)。第1結線切替制御では、演算部50は、インバータ回路64の6つのスイッチング素子をオフにし、3つのΔ結線用リレー素子32をオフにし、3つのY結線用リレー素子33をオンにする。第1時間閾値は、例えば1msである。
【0047】
演算部50は、低負荷検知マスク時間のカウントを開始し(S19)、3つのY結線用リレー素子33がオンの状態(高トルクモードの状態)でインバータ回路64を制御しモータ340を駆動する(S21)。高トルクモードでのモータ340の駆動開始後に低負荷検知マスク時間のカウントを開始してもよい。低負荷検知マスク時間は、ここでは予め設定された一定の時間であり、例えば500msである。
【0048】
演算部50は、高トルクモード(Y結線)でのモータ340の駆動開始後、低負荷検知マスク時間のカウント値が所定値(例えば500ms)未満の場合(S23の「いいえ」)、S29に進む。演算部50は、トリガスイッチ306がオンの場合(S29の「トリガON維持」)、S21に戻る。演算部50は、トリガスイッチ306がオフの場合(S29の「トリガOFF」)、モータ340の電気ブレーキ制御を行う(S31)。電気ブレーキ制御は、S13と同様、例えばインバータ回路64の1つ~3つの下アーム側スイッチング素子をオンにすることである。演算部50は、モータ340が停止するまで電気ブレーキを継続し(S33の「いいえ」)、モータ340が停止すると(S33の「はい」)、S1に戻る。
【0049】
演算部50は、高トルクモード(Y結線)でのモータ340の駆動開始後、低負荷検知マスク時間のカウント値が所定値(例えば500ms、好ましくは200ms以上)になると(S23の「はい」)、低負荷状態か否かを確認する(S25)。低負荷状態は、作業負荷が第1負荷閾値より小さい第2負荷閾値以下の状態であり、またモータ電流が第1電流閾値より小さい第2電流閾値以下の状態である。第2電流閾値は例えば30Aである。
【0050】
演算部50は、低負荷状態を検知しない場合(S25の「いいえ」)、S29に進む。演算部50は、低負荷状態を検知した場合(S25の「はい」)、低負荷状態の継続時間を確認する(S27)。演算部50は、低負荷状態の継続時間が第2時間閾値未満の場合(S27の「いいえ」)、S29に進む。演算部50は、低負荷状態の継続時間が第2時間閾値以上の場合(S27の「はい」)、第2結線切替制御を行い(S35)、3つのΔ結線用リレー素子32がオンの状態(高回転モードの状態)でインバータ回路64を制御しモータ340を駆動する(S5)。第2結線切替制御では、演算部50は、インバータ回路64の6つのスイッチング素子をオフにし、3つのY結線用リレー素子33をオフにし、3つのΔ結線用リレー素子32をオンにする。第2時間閾値は、例えば50msである。
【0051】
このように演算部50は、高トルクモード(Y結線)でのモータ340の駆動開始後、所定時間が経過するまで(低負荷検知マスク時間のカウント値が所定値に達するまで)は、低負荷状態か否かの判断(S25)を行わない。これにより、高回転モードから高トルクモードに切り替えた際、切り替えた直後に慣性によってモータ回転数が高い状態に維持されていて、高トルクモードでの駆動開始時に瞬間的にモータ電流がほとんど流れない時間が発生しても、当該時間のうちに高回転モードに戻ってしまうことが抑制され、使い勝手の悪化が抑制される。
【0052】
図10~
図12は、作業機1の動作例を示す。これらの図において、時刻T1は、高負荷状態を検知してインバータ回路64の出力(転流制御)が停止する時刻である。時刻T2は、高回転側スイッチすなわち3つのΔ結線用リレー素子32のターンオフの時刻である。時刻T3は、高トルク側スイッチすなわち3つのY結線用リレー素子33のターンオンの時刻である。時刻T4は、インバータ回路64の出力(転流制御)の開始時刻である。時刻T4~T5の期間は、低負荷検知マスク期間、すなわち時刻T4から低負荷検知マスク時間が経過するまでの期間である。時刻T6は、低負荷状態を検知してインバータ回路64の出力(転流制御)が停止する時刻である。時刻T7は、高トルク側スイッチすなわち3つのY結線用リレー素子33のターンオフの時刻である。時刻T8は、高回転側スイッチすなわち3つのΔ結線用リレー素子32のターンオンの時刻である。時刻T9は、インバータ回路64の出力(転流制御)の開始時刻である。なお、見やすさのため、時刻T1~T4までの期間と、時刻T6~T9までの期間は、他の期間と比較して横軸を拡大している。
【0053】
図10は、作業機1の第1動作例のタイムチャートであって、作業負荷の上昇速度が通常の場合のタイムチャートである。
【0054】
演算部50は、時刻T1までの期間、高回転モードの状態でインバータ回路64を制御しモータ340を駆動する。時刻T1までの期間に、作業負荷が上昇し、モータ電流が増大し、モータ回転数が低下する。時刻T1において、モータ電流が高負荷検知電流閾値S1(第1電流閾値)を超えた状態(高負荷状態)の継続時間が第1時間閾値となり、演算部50は、インバータ回路64の出力(転流制御)を停止する。その後、演算部50は、高回転側スイッチすなわち3つのΔ結線用リレー素子32をターンオフし(T2)、高トルク側スイッチすなわち3つのY結線用リレー素子33をターンオンし(T3)、インバータ回路64の出力(転流制御)を開始する(T4)。
【0055】
時刻T6において、モータ電流が低負荷検知電流閾値S2(第2電流閾値)以下の状態(低負荷状態)の継続時間が第2時間閾値となり、演算部50は、インバータ回路64の出力(転流制御)を停止する。その後、演算部50は、高トルク側スイッチすなわち3つのY結線用リレー素子33をターンオフし(T7)、高回転側スイッチすなわち3つのΔ結線用リレー素子32をターンオンし(T8)、インバータ回路64の出力(転流制御)を開始する(T9)。
【0056】
図11は、作業機1の第2動作例のタイムチャートであって、作業負荷の上昇速度が緩やかな場合のタイムチャートである。以下、
図10との相違点を中心に説明する。
図11では、時刻T1までの期間における作業負荷の上昇が緩やかなため、時刻T1、T4におけるモータ回転数がY結線最高回転数よりも高い。Y結線最高回転数は、所定回転数の例示であり、高トルクモードにおいてモータ電流が第2電流閾値(低負荷検知電流閾値S2)である場合に対応する回転数である。演算部50は、時刻T4において、モータ回転数がY結線最高回転数よりも高い状態で、高トルクモードでインバータ回路64の出力(転流制御)を開始する。このため、時刻T4の直後は、モータ電流が低負荷検知電流閾値S2より小さい。しかし、モータ電流は時刻T5以前、すなわち低負荷検知マスク期間のうちに低負荷検知電流閾値S2を超える。このため、時刻T4の直後にモータ電流が低負荷検知電流閾値S2より小さくても高回転モードには戻らない。
【0057】
図12は、作業機1の第3動作例のタイムチャートであって、第1動作例(
図10)において低負荷検知マスク期間(T4~T5の期間)のうちに作業負荷が解消した場合のタイムチャートである。以下、
図10との相違点を中心に説明する。
図12では、低負荷検知マスク期間(T4~T5の期間)のうちに作業負荷が解消しているため、低負荷検知マスク期間の終了時刻T5の後、演算部50は直ちに低負荷状態を検知してインバータ回路64の出力(転流制御)を停止する(T6)。
【0058】
図13は、作業負荷の上昇速度が通常の場合における作業機1の電池電流とモータ回転数の変化を示すグラフである。区間Aは、高回転モードかつ定速度制御の区間である。演算部50は、区間A(作業負荷が低い段階)では、例えばPWM制御のデューティ(以下「デューティ」)を調節することで、作業負荷の上昇(モータ電流の増大)によらずモータ回転数を一定に制御する。区間Aの最後には、デューティは100%となる。なお、定速度制御は省略し、演算部50は作業負荷が低い段階からデューティを100%としてもよい。区間Bは、高回転モードかつデューティ100%制御の区間である。区間Bでは、デューティが100%になっているため、作業負荷の上昇に伴いモータ回転数が低下する。区間Bの最後には、モータ電流が高負荷検知電流閾値S1以上になる。区間Cは、コイル結線方式をΔ結線からY結線に切り替える第1結線切替制御の区間である。この間も作業負荷は上昇しており、モータ回転数は低下する。区間Dは、高トルクモードかつデューティ100%制御の区間である。区間Dでは、作業負荷の上昇に伴いモータ回転数が低下する。
【0059】
図14は、作業負荷の上昇速度が緩やかな場合における作業機1の電池電流とモータ回転数の変化を示すグラフである。以下、
図13との相違点を中心に説明する。
図14では、作業負荷の上昇速度が緩やかなため、区間C、Dの境界点においてモータ回転数がY結線最高回転数より高い。このため区間Dの最初においてモータ電流は低負荷検知電流閾値S2より小さい。しかし、区間Dにおいて、低負荷検知マスク期間のうちに作業負荷が上昇してモータ電流が低負荷検知電流閾値S2を超えることで、高トルクモードに戻ることが回避される。
【0060】
図15は、作業負荷が低下する場合における作業機1の電池電流とモータ回転数の変化を示すグラフである。区間Aは、高トルクモードかつデューティ100%制御の区間である。区間Aでは、作業負荷の低下に伴いモータ回転数が上昇する。区間Bは、コイル結線方式をY結線からΔ結線に切り替える第2結線切替制御の区間である。Y結線からΔ結線に切り替わることで、モータ回転数が上昇する。区間Cは、高回転モードかつ定速度制御の区間である。演算部50は、区間Cでは、デューティを調節することで、作業負荷の低下(モータ電流の減少)によらずモータ回転数を一定に制御する。
【0061】
図16は、作業機1においてコイル結線方式をΔ結線からY結線に切り替える第1結線切替制御を行う条件(第1条件)の一例を示す表である。第1条件は、モータ電流及びその継続時間の組合せによって表される。具体的には、電流閾値(ここでは一例として60A)以上のモータ電流に複数の範囲(以下「電流範囲」)が設定され、電流範囲ごとに当該電流範囲内のモータ電流の継続時間の閾値(以下「時間閾値」)が設定される。第1条件は、電流値が大きい電流範囲ほど時間閾値が小さくなるように設定される。なお、コイル結線方式をY結線からΔ結線に切り替える第2結線切替制御を行う条件(第2条件)は、単一の電流閾値と単一の継続時間の組合せでよい(図示省略)。
【0062】
本実施形態によれば、演算部50は、高回転モードから高トルクモードに切り替えてから、第3条件を満たすまで、すなわち低負荷検知マスク時間(例えば500ms)が経過するまでは、第2条件を満たした場合でも高トルクモードを維持するよう構成される。このため、高回転モードから高トルクモードに切り替えた際、切り替えた直後に慣性によってモータ回転数が高い状態に維持されていて、高トルクモードでの駆動開始時に一時的にモータ電流がほとんど流れない時間が発生した場合でも、当該時間のうちに高回転モードに戻ってしまうことが抑制される(当該時間が低負荷検知マスク時間以内であれば高回転モードに戻らない)。よって、不要なモード切替が抑制され、使い勝手の悪化が抑制される。ここで、低負荷検知電流閾値S2(第2電流閾値)を小さくする対応では、作業負荷が低下した場合に高トルクモードから高回転モードへ切り替わりにくくなり、使い勝手が悪くなる。この点、上述のように低負荷検知マスク時間による対応の場合、低負荷検知電流閾値S2(第2電流閾値)を小さくする必要がないため、作業負荷が低下した場合に高トルクモードから高回転モードへ切り替わりにくくなることが抑制される。すなわち本実施形態は、作業負荷が低下した場合に高トルクモードから高回転モードへ切り替わりにくくすることを抑制しつつ、高回転モードから高トルクモードに切り替えてモータ340を駆動した直後に高回転モードに戻ること(結線切替の頻発)を抑制し、安定した結線切替を可能とするものである。
【0063】
(実施形態2)
図17は、実施形態2の作業機の自動切替モードの制御フローチャートである。以下、実施形態1の
図9との相違点を中心に説明する。
図17では、
図9のS19(低負荷検知マスク時間のカウントを開始)及びS23(低負荷検知マスク時間の経過確認)が無くなり、
図9のS27がS27aに替わっている。S27、S27aは共に低負荷状態の継続時間による分岐であるが、
図9のS27では第2時間閾値を50msとしていたのに対し、
図17のS27aでは第2時間閾値を500ms、好ましくは200ms以上としている。すなわち、本実施形態では、第2時間閾値を実施形態1の低負荷検知マスク時間と同等に長くすることで、高回転モードから高トルクモードに切り替えてモータ340を駆動した直後に高回転モードに戻ること(結線切替の頻発)を抑制する。本実施形態において、第2条件は、モータ電流が第2電流閾値以下の状態すなわち作業負荷が第2負荷閾値以下の状態を検知することであり、第3条件は、当該状態が第2時間閾値以上継続することである。本実施形態では、実施形態1と比較して第2時間閾値が長くなった分、高トルクモードにおいて作業負荷が低下した場合に高回転モードに切り替わるレスポンスは低下するが、その他の点では実施形態1と同様の作用効果が得られる。
【0064】
(実施形態3)
図18は、実施形態3の作業機の自動切替モードの制御フローチャートである。以下、実施形態1の
図9との相違点を中心に説明する。
図18では、
図9のS19(低負荷検知マスク時間のカウントを開始)が無くなり、
図9のS23(低負荷検知マスク時間の経過確認)がS23a(非低負荷状態の検知確認)に替わっている。演算部50は、高トルクモードの状態でのモータ340の駆動開始(S21)の後、モータ電流が第3電流閾値以上の状態すなわち作業負荷が第3負荷閾値以上の状態(非低負荷状態)を1回でも検知した場合(S23aの「はい」)、S25に進み、非低負荷状態を1回も検知していない場合(S23aの「いいえ」)、S29に進む。第3電流閾値は、好ましくは第2電流閾値以上である。第3負荷閾値は、好ましくは第2負荷閾値以上である。
【0065】
本実施形態では、高回転モードから高トルクモードに切り替えてから非低負荷状態になったことを確認するまでは、第2条件を満たした場合でも高トルクモードを維持することで、高回転モードから高トルクモードに切り替えてモータ340を駆動した直後に高回転モードに戻ること(結線切替の頻発)を抑制する。本実施形態では、例えば
図11のようなモータ電流の変化の場合、時刻T4と時刻T5の間の時刻であってモータ電流が例えば低負荷検知電流閾値S2以上になるタイミングで低負荷検知マスク期間が完了することになる。これにより、低負荷状態を検知できない期間が短くなり、高トルクモードから高回転モードに切り替える判断を早めることができる。
【0066】
(実施形態4)
図19は、実施形態4の作業機の自動切替モードの制御フローチャートである。以下、実施形態3(
図18)との相違点を中心に説明する。
図19では、
図18のS23aがS23bに替わっている。すなわち、演算部50は、非低負荷状態の判断にモータ回転数を用いる。具体的には、演算部50は、モータ回転数が所定回転数以下の状態(非低負荷状態)を1回でも検知した場合(S23bの「はい」)、S25に進み、非低負荷状態を1回も検知していない場合(S23bの「いいえ」)、S29に進む。所定回転数は、高トルクモードにおいてモータ電流が第3電流閾値である場合に対応する回転数である。
【0067】
本実施形態では、例えば
図11のようなモータ電流の変化の場合、時刻T4と時刻T5の間の時刻であってモータ回転数が例えばY結線最高回転数以下になるタイミングで低負荷検知マスク期間が完了することになる。これにより、低負荷状態を検知できない期間が短くなり、高トルクモードから高回転モードに切り替える判断を早めることができる。なお、所定回転数をY結線最高回転数より低くすることで、低負荷検知マスク期間の完了が早くなりすぎるリスクを抑制できる。
【0068】
実施形態3及び実施形態4の場合、例えば高回転モードから高トルクモードへの切替中や切替直後に作業負荷が解消した場合に高回転モードに復帰できない又は復帰しにくいことがある。この対策として、
図18及び
図19のフローチャートに
図9(実施形態1)のS19(低負荷検知マスク時間のカウントを開始)を追加し、
図18及び
図19のS23a及びS23bに
図9のS23(低負荷検知マスク時間の経過確認)をOR条件として追加してもよい。これによれば、非低負荷状態を1回も検知しないまま作業負荷が解消した場合でも、低負荷検知マスク時間の経過後は低負荷状態の検知が可能なため、高回転モードに復帰できる。
【0069】
(実施形態5)
図20は、実施形態5の作業機の自動切替モードの制御フローチャートである。以下、実施形態1の
図9との相違点を中心に説明する。
図20では、
図9のS19(低負荷検知マスク時間のカウントを開始)及びS23(低負荷検知マスク時間の経過確認)が無くなり、
図9のS17とS21の間にS20が追加されている。演算部50は、第1結線切替制御(S17)の後、第3条件を満たさない場合は待機し(S20の「いいえ」)、第3条件を満たした場合(S20の「はい」)、S21に進む。第3条件は、例えば、所定時間が経過すること、及び/又は、モータ回転数が所定回転数以下であることである。所定回転数は、高トルクモードにおいてモータ電流が第3電流閾値である場合(作業負荷が第3負荷閾値である場合)に対応する回転数である。第3電流閾値は、好ましくは第2電流閾値以上である。第3負荷閾値は、好ましくは第2負荷閾値以上である。
【0070】
本実施形態では、高トルクモードでのモータ340の駆動開始前に所定時間待機したりモータ回転数が所定回転数以下であることを確認したりすることで、モータ回転数が高いまま高トルクモードでモータ340を駆動することを抑制し、高トルクモードでの駆動開始時に一時的にモータ電流がほとんど流れない時間が発生することを抑制する。これにより、高回転モードから高トルクモードに切り替えてモータ340を駆動した直後に高回転モードに戻ること(結線切替の頻発)が抑制される。
【0071】
(実施形態6)
図21~
図25は、本発明の実施形態6に係る作業機5に関する。作業機5は、前述の各実施形態の作業機と機械構成が一部異なる。作業機5の回路構成や制御は前述の各実施形態の作業機のいずれかを適用できる。
図23及び
図24により、作業機5における互いに直交する前後、上下、左右の各方向を定義する。作業機5は、携帯用丸鋸である。作業機5は、ハウジング1320を備える。
【0072】
ハウジング1320は、例えば樹脂成形体であり、モータ340等を収容するモータハウジング1321、作業者が把持するハンドルハウジング1322、及びバッテリ装着部1323を含む。
【0073】
モータハウジング1321は、中心軸が左右方向と略平行な筒状部である。ハンドルハウジング1322は、モータハウジング1321の右部上方において前後及び上下方向に斜めに延びる。ハンドルハウジング1322の上端部に、ユーザがモータ340の起動及び停止を指示するためのトリガスイッチ1306が設けられる。
【0074】
ハンドルハウジング1322の左方には、金属製のギヤケース(ソーカバー)1325が接続される。ギヤケース1325は、図示しない減速機構を収容すると共に、鋸刃1309の上半分を覆う。
【0075】
バッテリ装着部1323は、ハンドルハウジング1322の後端部から左方に連なり、電源となる電池パック1307を着脱可能に装着できる。作業機5は、電池パック1307の電力で動作する。作業機5は、バッテリ装着部1323の上方に、操作パネル1316を有する。ユーザは、操作パネル1316により、作業機5の動作モードを切り替えられる。
【0076】
ハンドルハウジングの1322前方にはフック1324が取り付けられており、作業機5を被引っ掛け部に引っ掛けられるように構成されている。フック1324はハウジング1320に対して回動可能に取り付けられている。また、モータハウジング1321の上方にはサブハンドル1326が設けられる。サブハンドル1326は作業中に作業者が把持する部分である。
【0077】
作業機5は、モータハウジング1321の内部に、モータ340を有する。モータ340の回転は、ギヤケース1325内の減速機構によって減速され、鋸刃1309に伝達される。
【0078】
作業機5は、モータハウジング1321の内部に、制御基板1311(
図22)、バッテリ装着部1323の内部に、複数のバッテリ接続端子(不図示)を有する。制御基板1311は、前述の演算部50や制御電源回路51、インバータ回路64等の各回路を搭載する。複数のバッテリ接続端子は、バッテリ装着部1323の下方に臨む。複数のバッテリ接続端子は、バッテリ装着部1323に装着された電池パック1307の端子と接触して電気的に接続される。
【0079】
図22に示すように、作業機5は、モータハウジング1321の内部に、リレー基板30を有する。リレー基板30は、複数のリレー素子31を搭載する。リレー基板30はモータ340に対してネジ等で取り付けられる。リレー基板30はモータハウジング1321に設けられた風孔と対向する。
【0080】
以上、実施形態を例に本発明を説明したが、本発明は実施形態に限定されない。実施形態で具体的に説明した各事項には請求項に記載の範囲で種々の変形が可能である。
【0081】
実施形態で具体的な数値として例示したモータ電流や時間等は、発明の範囲を何ら限定するものではなく、要求される仕様に合わせて任意に変更できる。
【0082】
本発明の作業機は、携帯用丸鋸に限定されず、卓上丸鋸やロータリバンドソー、ジグソー、セーバソー(レシプロソー)、刈払機等の他の種類の切断用作業機であってもよい。また本発明の作業機は、グラインダのような研削用の先端工具を有する研削用作業機や、サンダ、ポリッシャのような研磨用の先端工具を有する研磨用作業機や、かんな、トリマ、ルータのような切削用の先端工具を有する切削用作業機や、ドリル、ハンマー、アースオーガのような穴あけ用の先端工具を有する穴あけ用作業機や、インパクトドライバ、インパクトレンチ、ドライバドリル、シャーレンチ、リベッター、鉄筋結束機のような締付け用の先端工具を有する締付け用作業機や、圧着機のような圧着用の先端工具を有する圧着用作業機や、鉄筋ベンダのような曲げ加工用の先端工具を有する曲げ加工用作業機や、釘打機、タッカのような打込み用の先端工具を有する打込み用作業機であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1、5…作業機、50…演算部(制御部)、51…制御電源回路(制御回路電圧供給回路)、52…電流検出回路(モータ電流検出回路)、53…スイッチ操作検出回路、54…バッテリ種類検出回路、55…電圧検出回路(電池電圧検出回路)、56…制御信号回路(制御信号出力回路)、57…回転位置検出回路(ロータ位置検出回路)、58…回転数検出回路、59…動作モード検出回路、61…照明LED駆動回路、62…照明LED、63…ホールIC(磁気センサ)、64…インバータ回路、65…検出抵抗、66…LD検出回路、67…電池セル、68…保護IC(電池側制御部)、306…トリガスイッチ、307…電池パック、309…鋸刃、311…制御基板、312…運転モード切替スイッチ、313…運転モード表示LED、314…ライトモード切替スイッチ、315…ライトモード表示LED、316…操作パネル、317…ライトモード表示LED、320…ハウジング、321…モータハウジング、322…ハンドルハウジング、323…バッテリ装着部、324…中間ハウジング、325…ギヤケース(ソーカバー)、327…バッテリ接続端子、328…カバー部材、340…モータ、341…モータ軸、342…ロータコア、343…ロータマグネット(永久磁石)、344…ステータコア、345…ステータコイル、346…ヨーク部、347…ティース(ティース部)、1306…トリガスイッチ、1307…電池パック、1309…鋸刃、1311…制御基板、1316…操作パネル、1320…ハウジング、1321…モータハウジング、1322…ハンドルハウジング、1323…バッテリ装着部、1324…フック、1325…ギヤケース(ソーカバー)、1326…サブハンドル。