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特開2024-172531リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池
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  • 特開-リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172531
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241205BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090312
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA08
5H050DA10
5H050EA10
5H050FA16
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
5H050HA08
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池のハイレート劣化を抑制すること。
【解決手段】リチウムイオン二次電池の正極板3の正極合材層32において、正極活物質33と、正極活物質33の表面において分散された繊維状導電材34を備え、繊維状導電材34において、その一部が正極活物質33に固着しないで正極活物質33の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体35を形成し、球状凝集体35の正極合材層32全体に対する配合比率Rpが0.3[vol%]以上で形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池の正極板の正極合材層において、正極活物質と、前記正極活物質の表面において分散された繊維状導電材を備え、
前記繊維状導電材において、その一部が前記正極活物質に固着しないで前記正極活物質の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体を形成し、
前記球状凝集体の前記正極合材層全体に対する配合比率Rpが0.3[vol%]以上で形成されていることを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項2】
前記球状凝集体の前記正極合材層全体に対する配合比率Rpが1.8[vol%]以下で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項3】
前記球状凝集体は、前記正極活物質の平均径Da(D50)の50[%]以上、80[%]以下の平均径Df(D50)であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項4】
前記球状凝集体の平均径Df(D50)が1[μm]以上、8[μm]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項5】
前記球状凝集体は、アスペクト比ARが1~1.5であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項6】
前記球状凝集体は、密度Dが0.3[g/cm]以上、0.8[g/cm]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項7】
前記繊維状導電材の正極合材層に対する配合比率Rfが0.1[wt%]以上、2.0[wt%]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項8】
前記球状凝集体の前記繊維状導電材に対する配合比率Rrが10[wt%]以上、60[wt%]以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項9】
前記繊維状導電材はカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1~8のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極板。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン二次電池用正極板を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池に係り、詳しくはハイレート劣化を抑制するリチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、容量が大きく高電圧であるため、例えば、電気自動車やハイブリッド自動車などの駆動用電源として用いられている。また、家庭や工場における定置用の電池としても活用されている。このようなリチウムイオン二次電池においては、さらに高出力のものが要求されている。
【0003】
そこで、入出力向上のため、高比表面積の正極活物質を用いて反応抵抗を低減することが考えられる。このような場合活物質の高比表面積を活かすため導電材に繊維状導電材を用いることで更に反応抵抗の低減に寄与することができる。このような繊維状導電材であるカーボンナノチューブ(CNT)や、カーボンナノファイバ(CNF)は、その導電性や形状から少量でも正極活物質の粒子間の導電ネットワークが形成できる。その結果正極合材層の正極活物質の比率を上げることができるような発明が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、極めて高い凝集力を有し、凝集体となっている微細炭素繊維を有機溶媒中において均一に分散・解繊させ、かつ安定な分散状態の微細炭素繊維分散液が開示されている。このような微細炭素繊維は、二次電池電極材料の分野において電極膜の添加剤としての使用が提案されている。例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車に用いる高出力、高容量の二次電池の正極膜用添加剤として、正極活物質であるコバルト酸リチウム、リン酸鉄リチウム等と微細炭素繊維を混合することが開示されている。このような微細炭素繊維を添加することで、導電補助効果および正極膜の強度向上、高密度化、電極液の浸透性向上等が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2012/036172号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ハイブリッド自動車や電気自動車に用いる高出力、高容量のリチウムイオン二次電池では、急速充電や急減速などでの回生電流による高いレートの充電や、急加速などの高いレートの放電が行われる。このようなハイレートの充放電では、電極がリチウムイオンLiの出入りにより、膨張や収縮を繰り返すことがある。そうすると電極の膨張時には非水電解液は電極間から排出される。一方、収縮時には、電極間に非水電解液が吸い込まれる。このようにハイレート充放電時に非水電解液が電極間で出入りすると、リチウムイオンLiの濃度分布にムラが生じる。そうすると、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が悪化する、いわゆる「ハイレート劣化」を生じる。また、リチウムイオンLiの濃度分布にムラが生じると、極板表面の電流密度[A/mm]にもムラが生じて、金属析出などの要因にもなりうる。
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池が解決しようとする課題は、ハイレート劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明のリチウムイオン二次電池用正極板では、リチウムイオン二次電池の正極板の正極合材層において、正極活物質と、前記正極活物質の表面において分散された繊維状導電材を備え、前記繊維状導電材において、その一部が前記正極活物質に固着しないで前記正極活物質の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体を形成し、前記球状凝集体の前記正極合材層全体に対する配合比率Rpが0.3[vol%]以上で形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記球状凝集体の前記正極合材層全体に対する配合比率Rpが1.8[vol%]以下で形成されていることが望ましい。
前記球状凝集体は、前記正極活物質の平均径Da(D50)の50[%]以上、80[%]以下の平均径Df(D50)であることが望ましい。
【0010】
前記球状凝集体の平均径Df(D50)が1[μm]以上、8[μm]以下であることが望ましい。
前記球状凝集体は、アスペクト比ARが1~1.5であることが望ましい。
【0011】
前記球状凝集体は、密度Dが0.3[g/cm]以上、0.8[g/cm]以下であることが望ましい。
前記繊維状導電材の正極合材層に対する配合比率Rfが0.1[wt%]以上、2.0[wt%]以下であることが望ましい。
【0012】
前記球状凝集体の前記繊維状導電材に対する配合比率Rrが10[wt%]以上、60[wt%]以下であることが望ましい。
前記繊維状導電材はカーボンナノチューブであることが望ましい。
【0013】
リチウムイオン二次電池は、上記リチウムイオン二次電池用正極板を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池によれば、ハイレート劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。
図2】本実施形態の捲回される電極体の構成を示す模式図である。
図3】本実施形態の正極板3の表面の模式図である。
図4】従来技術の正極板3の表面の模式図である。
図5】本実施形態の実験例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(本実施形態の概略)
まず、本実施形態の正極板3の発明の原理を説明する。従来技術で述べたとおり、図3に示すリチウムイオン二次電池1の正極板3において、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバなどの繊維状導電材34が用いられている。近年、正極活物質33の比表面積を大きくし、非水電解液13と接触する面積を大きくすることで電池性能の向上を図っている。この場合、正極活物質33の表面同士を電気的に接続する導電ネットワークを形成することが望まれている。繊維状導電材34は、必ずしもカーボンナノチューブに限定するものではないが、なかでもカーボンナノチューブは、電気的、熱的、機械的および複合的効果を併せ持つ材料として様々な用途への適用が行われている。そこで本実施形態でも、繊維状導電材34としてカーボンナノチューブを採用している。一般的に添加効果を最大限に引き出すためには、カーボンナノチューブが均一に分散していることが望ましい。一本一本に解繊されたカーボンナノチューブは、非常に強い凝集力(ファンデルワールス力)が作用している。
【0017】
通常、凝集物は定まった形状をしておらず、サイズもまちまちで数十μm以下のものが多い。また、これを制御することも困難である。
このような事情から従来はカーボンナノチューブを凝集させないように、例えば、水、有機溶媒、樹脂溶液などの分散媒体中に、一本一本に解繊され分散されている状態で流通していることが多い。
【0018】
図4は、従来技術の正極板の表面の模式図である。従来は図4に示すように、正極活物質33と結着材(バインダ)と有機溶媒とを混練する。そこに媒体中で分散している繊維状導電材34であるカーボンナノチューブが凝集しないように混練する。そして混練後の正極合材ペーストを正極集電体31に塗工して乾燥することで作製される。このように製造することで、カーボンナノチューブが均一に分散した正極合材ペーストを製造することができる。
【0019】
この場合、カーボンナノチューブは、上述のとおり非常に導電性が良く、繊維状の形状から少ない添加量でも、有効な導電ネットワークを形成する。このため、従来の導電材と比較すると少ない量で充分な導電ネットワークを形成する。
【0020】
また、導電材の量を減らすことができれば、正極合材層32内の正極活物質33の量を相対的に多くすることができるので、正極板3の容量を大きくすることもできるという利点もあった。
【0021】
しかしながら、背景技術で述べたようにハイレート充放電時には、正極板3や負極板2などの電極板の膨張収縮に伴い、非水電解液13が電極間から流出したり流入したりすることで、リチウムイオンLiの濃度にムラを生じ、ハイレート劣化を生じるという問題があった。
【0022】
そこで、本発明者は、正極板3で分散している繊維状導電材34の一部を一定範囲で一定の大きさの球状凝集体35を生成させることで非水電解液13を貯留することができることを見出した。本実施形態において、「球状凝集体35」の名称は厳密な球状をいうものではなく、繊維状に対して、板状や棒状ではなく概ね塊形状であることをいう。また、表面形状が球のように円滑な曲面である必要もない。本実施形態の発明の趣旨から、正極合材層32の非水電解液13を十分に吸収・放出すればよい。また、一定の厚みがあり、正極活物質33の膨張・収縮を機械的に吸収する弾力があればよい。
【0023】
このような球状凝集体35に非水電解液13を貯留することで、電極板の膨張時には、狭くなった間隙から押し出される非水電解液13を吸収して貯留する。逆に、電極板の収縮時には、広くなった電極間に貯留してあった非水電解液13を放出して電極間の非水電解液13の欠乏を抑制することができると考えた。
【0024】
さらに、球状凝集体35であれば、分散した繊維状導電材34と比較して弾性を有するため、球状凝集体35自体が、正極活物質33の膨張収縮時の体積変化に対する緩衝材として機能し、正極活物質33同士の導電パス切れを抑制できることも確認した。
【0025】
本発明者は、このような構成を実現するため、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、繊維状導電材の一部を一定のサイズの微小な球状に制御する方法を開発した。そして、実験によりハイレート劣化を抑制することができる効果を実証した。またこれらの製造を制御する方法も見出した。
【0026】
(本実施形態の構成)
以下、本実施形態の構成について説明する。
<リチウムイオン二次電池の構成>
まず、本実施形態の前提となるリチウムイオン二次電池1の全体の構成の一例を簡単に説明する。
【0027】
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成の概略を示す斜視図である。図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から非水電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、図1に示されるものに限定されない。
【0028】
<電極体12>
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、多数の負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが扁平に捲回されて形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されておらず負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0029】
<電極体12の積層構造>
図2に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12は、負極板2と正極板3とセパレータ4とを備える。
【0030】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部31aとなっている。
【0031】
負極板2と、正極板3とは、セパレータ4を介して重ねることで積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0032】
<非水電解液13>
図1に示すように非水電解液13は、電池ケース11により構成される電槽内に充填されている。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート(F.PC)等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(TFH)、2‐メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液13として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0033】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0034】
なお、本実施形態では、「平均径」は、特に断りがない限り体積基準の粒度分布における累積50%に相当するメジアン径(D50:50%体積平均粒径)を意味する。平均粒径がおおよそ1μm以上の範囲については、レーザ回折・光散乱法により求めることができる。また、平均粒径がおおよそ1μm以下の範囲については、動的光散乱(Dynamic Light Scattering:DLS)法により求めることができる。DLS法に基づく平均粒径は、JISZ8828:2013に準じて測定することができる。
【0035】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0036】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着材(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
<正極板3>
図3は、本実施形態の正極板3の表面の模式図である。
【0037】
正極板3は、正極集電体31(図2)と、ここに塗工された正極合材層32とから構成される。
<正極集電体31>
図2に示すように、正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されることで正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではアルミニウム箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0038】
なお、正極集電体31を構成する正極基材は、アルミニウム箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電材料により構成される。導電材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0039】
<正極合材層32>
正極合材層32は、正極合材ペーストを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。図3に示すように、正極合材層32は、正極活物質33、繊維状導電材34、球状凝集体35のほか、図示しない結着材(バインダ)、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0040】
<正極活物質33の組成>
実施形態で例示したものに限定されず、正極活物質33の粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0041】
正極活物質33は、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。正極活物質33の付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を挙げることができる。
【0042】
本実施形態では、出力性能が高い粒状のニッケルコバルトマンガン酸リチウムを用いている。
<繊維状導電材34>
繊維状導電材34は、正極合材層32中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層32に適量の繊維状導電材34を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。本実施形態の導電体としては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)などの炭素材料からなる繊維状導電材34を用いることができる。また、径に対する長さのアスペクト比が30以上のひも状のものを用いることが望ましい。長さは、100[nm]以上、1000[nm]であることが好ましい。100[nm]未満であると、十分な導電ネットワークが形成できない。1000[nm]を超えると分散させにくくなる。
【0043】
本実施形態では、長さ[nm]が100[nm]以上、1000[nm]のカーボンナノチューブを用いている。
<球状凝集体35>
次に、本実施形態の発明の特徴である球状凝集体35について詳細に説明する。
【0044】
繊維状導電材34において、その一部が正極活物質33に固着しないで正極活物質33の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体35を形成する。球状凝集体35の正極合材層32全体に対する配合比率Rpが0.3[vol%]以上で形成されている。
【0045】
このため、球状凝集体35が、非水電解液13の吸収、放出により正極合材層32内のリチウムイオンLi濃度のムラを抑制する。また、正極活物質33の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体35が、膨張収縮する正極合材層32に対して物理的な緩衝材として機能するため、繊維状導電材34による正極活物質33間の導電パスが切断されることを抑制することができる。
【0046】
また、配合比率Rpが1.8[vol%]以下で形成されている。このため、導電パスに寄与する繊維状導電材34の量を確保することができる。
球状凝集体35は、正極活物質の平均径Da(D50)の50[%]以上の平均径Df(D50)としている。このため、十分に非水電解液13の貯留量を確保し、緩衝材としても十分に機能する。
【0047】
球状凝集体35は、正極活物質33の平均径Da(D50)の80[%]以下の平均径Df(D50)としている。このため、正極活物質33が存在しない領域を小さくすることができ、正極活物質33の偏在を抑制することができる。
【0048】
球状凝集体35の平均径Df(D50)は、1[μm]以上としている。このため、十分に非水電解液13の貯留量を確保し、緩衝材としても十分に機能する。
球状凝集体35の平均径Df(D50)は8[μm]以下としている。このため、正極活物質33が存在しない領域を小さくすることができ、正極活物質33の偏在を抑制することができる。
【0049】
球状凝集体35は、アスペクト比ARが1~1.5としている。このため、形状が板状や棒状でなく、より真球に近く、表面積に比べて多くの量の非水電解液13を貯留することができるとともに、厚みがあり緩衝材としても十分に機能する。
【0050】
球状凝集体35は、密度Dを0.3[g/cm]以上としている。このため、非水電解液13の貯留や緩衝材として、形状をしっかりと維持することができる。また、球状凝集体35の密度Dは0.8[g/cm]以下としている。このため、十分に非水電解液13を貯留する空隙を確保できるとともに、緩衝材としても、硬すぎず十分な弾性を有することができる。
【0051】
繊維状導電材34の正極合材層32に対する配合比率Rfを0.1[wt%]以上としている。このため、導電材として導電パスを十分に形成することができるため、正極合材層32における有効な導電ネットワークを形成することができる。
【0052】
また、配合比率Rfは2.0[wt%]以下としている。このため、正極合材層32において十分な正極活物質33の量を確保することができる。
球状凝集体35の繊維状導電材34に対する配合比率Rrが10[wt%]以上である。このため、十分に非水電解液13の貯留量を確保し、緩衝材としても十分に機能する。
【0053】
また、配合比率Rrは60[wt%]以下としている。このため、導電パスを形成する繊維状導電材34の量を十分に確保することができ、正極合材層32における有効な導電ネットワークを形成することができる。
【0054】
<結着材(バインダ)>
結着材には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0055】
(本実施形態のリチウムイオン二次電池の正極板3の製造方法)
正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32とから構成される。正極合材層32は、正極合材ペーストを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材ペーストは、正極活物質33、繊維状導電材34、球状凝集体35のほか、結着材、及び分散剤等の添加剤を混合して、練り上げる。
【0056】
<正極合材ペースト>
従来は、有機溶剤などの分散媒体に均一に分散させたカーボンナノチューブをそのまま、正極活物質33のほか、結着材、及び分散剤等の添加剤を混合して、溶剤で固形分率NV[%]、粘度[Pa・s]を調整して混錬していた。このように製造することで、図4に示すようなカーボンナノチューブが均一に分散した正極合材ペーストを製造することができる。
【0057】
一方、本実施形態では、予め有機溶剤などの分散媒体に均一に分散させたカーボンナノチューブを凝集させる。一本一本に解繊されたカーボンナノチューブ同士或いは数nm~数十nmの凝集体同士間には、非常に強い凝集力(ファンデルワールス力)が作用している。そのため、有機溶媒などの分散媒体中に、一本一本に解繊されている状態で流通している。本実施形態では、分散状態のカーボンナノチューブに剪断力を加えることで、敢えて凝集を生じさせる。ペースト状になったものに対して行うことができるが、予め媒体中で分散している繊維状導電材34に対して行う。
【0058】
このような剪断力を加えるには、コロイドミルを用いることができる。コロイドミルは、超微粒にする粉砕機の総称である。普通の粉砕手段では不可能な細分化を行なう装置で、固体粒子を液体とともに、きわめて接近して回転する二つの面のギャップに流し込み、液体に剪断力を与えて、固体を微粉化して液体中に分散させるようになっている。回転面を歯状にしたものもあり、1μm以下のコロイドに近いものが得られる。このような湿式のものの他に乾式など各種の形式がある。製紙、ゴム、化粧品、食品などの充填材、顔料、塗料、エナメル工業に利用される。本実施形態のコロイドミルの例としては、例えばIKAジャパン株式会社のMK2000のようなカーボンナノチューブ湿式粉砕機などが挙げられる。
【0059】
通常は、大きな固体粒子を細分化することを目的として使用するが、分散媒体中に、一本一本に解繊されている状態のカーボンナノチューブにコロイドミルを用いることで、却って凝集体を形成することができることを本発明者らは見出した。
【0060】
<球状凝集体35の形成>
上述のように繊維状導電材34を構成するカーボンナノチューブは繊維状であり、高粘度(高固形分)のペーストを一定の条件でシェア(せん断力)を掛け混練すると繊維同士が絡まり、毛玉状の球状凝集体35の生成を制御することができる。
【0061】
この混錬時の固形分率NV[%]、粘度[Pa・s]、ギャップ[μm](混練時のせん断力)、せん断速度[s-1]・撹拌速度[rpm]、処理温度[°C]、撹拌時間[sec]などを調整する。これらを調整することで、球状凝集体35の割合、サイズ、密度[g/cm]を調整できる。
【0062】
例えば、粘度[Pa・s]、ギャップ[μm](混練時のせん断力)を上げ、撹拌時間[sec]を長くすると凝集物が発生しやすく、径も大きくなる。しかし、上げすぎても凝集物は大きくなりすぎ、サイズも不均一となってしまう。
【0063】
なお、これらの変化は多くの要素が絡み合いリニアな変化ではないため、最適値は実験によりトライアンドエラーで決定する。以下、調整に当たり一般的な傾向について説明する。
【0064】
<固形分率NV[%]>
固形分率NV[%]が高いと、球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向がある。これは、カーボンナノチューブ同士の接触頻度が高くなるからだと考えられる。一方、固形分率NV[%]が低いと、球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向がある。但し、ある範囲の傾向であるため、必ずしもすべての場合に当てはまるわけではなく、実際の実験が必要である。
【0065】
<粘度[Pa・s]>
粘度[Pa・s]が低くなると、球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向がある。これは、ペーストの流動性が高いと厚み方向の接触が減るためと推測される。一方、粘度[Pa・s]が高くなると、球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向があった。この場合もある範囲の傾向であるため、必ずしもすべての場合に当てはまるわけではなく、実際の実験が必要である。
【0066】
<ギャップ[μm]>
一対の回転体のギャップ[μm]が広いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向にある。ギャップ[μm]が広いほどカーボンナノチューブ同士の各方向の接触頻度が上がるためと推測される。一方、一対の回転体のギャップ[μm]が狭いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向にある。ギャップ[μm]が狭いと剪断力が大きくなるからであると推測される。この場合もある範囲の傾向であるため、必ずしもすべての場合に当てはまるわけではなく、実際の実験が必要である。
【0067】
<撹拌速度[rpm]、せん断速度[s-1]>
撹拌速度(回転数)[rpm]が遅いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向にある。一方、撹拌速度(回転数)[rpm]が速いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向にある。回転が速いほど凝集がほぐされるからであると推測される。
【0068】
同様の傾向はせん断速度[s-1]にも表れる。せん断速度[s-1]が遅いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向にある。一方、せん断速度[s-1]が速いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向にある。
【0069】
この場合もある範囲の傾向であるため、必ずしもすべての場合に当てはまるわけではなく、実際の実験が必要である。
<処理温度[°C]>
処理温度[°C]が高いほど球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向にある。温度[°C]が高いほど運動エネルギーが増加してカーボンナノチューブの接触頻度が高くなるためであると推測される。一方、処理温度[°C]が低いほど球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向にある。この場合もある範囲の傾向であるため、必ずしもすべての場合に当てはまるわけではなく、実際の実験が必要である。
【0070】
<撹拌時間[sec]>
攪拌処理する攪拌時間[sec]が長いほど球状凝集体35の平均径Df[μm]が小さくなる傾向にある。撹拌時間が長いほど凝集がほぐされるからであると推測される。一方、攪拌時間[sec]が短いと球状凝集体35の平均径Df[μm]が大きくなる傾向にある。この場合もある範囲の傾向であるため、必ずしもすべての場合に当てはまるわけではなく、実際の実験が必要である。
【0071】
<混練条件例>
本実施形態の混錬条件の一例を示す。最初は溶媒を加えず、目標とする最終固形分率NVより3[%]高い固形分率NVで「固練り」を行う。固練りは、せん断速度5000[s-1]で、ペーストを1[kg]を、撹拌時間600[sec]間混練する。その後、溶媒を加えて固形分率NVを3[%]下げ、せん断速度は5000[s-1]のまま、ペースト1[kg]を600[sec]混練する。
【0072】
さらに最終固形分率NVは塗工のしやすい粘度10000[mPas]程度となるように固形分率NVを調整して、正極合材ペーストを作成する。
このような工程で、球状凝集体35の平均径Df[μm(D50)]を調整した正極合材ペーストを調製した。
【0073】
(実験例)
図5は、本実施形態の実験例を示す表である。
<実験の目的>
実験の目的は、「正極合材層中の球状凝集体の配合比率Rp[vol%]」、「繊維状導電材中の球状凝集体の配合比率Rr[wt%]」により、電池性能がどのように変わるかを検証するものである。
【0074】
実験は、実施例1~5、比較例1~4について、「正極合材層中の球状凝集体の配合比率Rp[vol%]」、「繊維状導電材中の球状凝集体の配合比率Rr[wt%]」の条件を変えて正極板3を作成した。そして、それぞれの「ハイレート特性HC」、「電池容量維持率CP」、「電池抵抗R[mΩ]」を測定した。これらの「ハイレート特性HC」、「電池容量維持率CP」、「電池抵抗R[mΩ]」により電池性能を評価した。
【0075】
ここで「ハイレート特性HC」とは、30Cのハイレートで充放電を400サイクル行った後の、最初の電池の内部抵抗[mΩ]を1とした場合の指数である。増加率が低いほど良好な結果となる。また、「電池容量維持率CP」とは、充放電を1500サイクル行った場合に電池容量[Ah]がどの程度低下するかを、元の電池容量[Ah]を1とした場合の指数である。1に近いほど良好な結果となる。電池抵抗[mΩ]は、内部抵抗の値である。抵抗値が小さいほど良好な結果である。
【0076】
<実験の条件と測定結果>
・実施例1:
正極合材層32中の球状凝集体35の配合比率Rpを0.4[vol%]、繊維状導電材34中の球状凝集体35の配合比率Rrを20[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.15、電池容量維持率CPが0.92、電池抵抗Rが2.0[mΩ]となった。
【0077】
・実施例2:
配合比率Rpを0.4[vol%]、配合比率Rrを13[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.12、電池容量維持率CPが0.92、電池抵抗Rが1.9[mΩ]となった。
【0078】
・実施例3:
配合比率Rpを1.2[vol%]、配合比率Rrを40[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.12、電池容量維持率CPが0.93、電池抵抗Rが1.8[mΩ]となった。
【0079】
・実施例4:
配合比率Rpを1.8[vol%]、配合比率Rrを60[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.10、電池容量維持率CPが0.93、電池抵抗Rが1.9[mΩ]となった。
【0080】
・実施例5:
配合比率Rpを0.3[vol%]、配合比率Rrを10[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.11、電池容量維持率CPが0.92、電池抵抗Rが1.8[mΩ]となった。
【0081】
・比較例1:
配合比率Rpを0.1[vol%]、配合比率Rrを10[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.38、電池容量維持率CPが0.86、電池抵抗Rが1.9[mΩ]となった。
【0082】
・比較例2:
配合比率Rpを2.5[vol%]、配合比率Rrを60[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.13、電池容量維持率CPが0.95、電池抵抗Rが2.4[mΩ]となった。
【0083】
・比較例3:
配合比率Rpを0.8[vol%]、配合比率Rrを80[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.23、電池容量維持率CPが0.83、電池抵抗Rが2.6[mΩ]となった。
【0084】
・比較例4:
配合比率Rpを0.3[vol%]、配合比率Rrを7.5[wt%]とした。その結果、ハイレート特性HCが1.13、電池容量維持率CPが0.95、電池抵抗Rが2.3[mΩ]となった。
【0085】
<実験の結果>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1においては、判断基準として、ハイレート特性HCが1.23以下、電池容量維持率CPが0.92以上、電池抵抗Rが2.0[mΩ]以下を良好なリチウムイオン二次電池1として合格と判断した。
【0086】
その結果、実施例1~5は、いずれも良好なハイレート特性HC、電池容量維持率CP、電池抵抗R[mΩ]を示した。
一方、比較例1では、ハイレート特性HC、電池容量維持率CPが不合格であった。
【0087】
比較例2、4では、電池抵抗Rが2.0[mΩ]が高く不合格であった。
比較例3では、ハイレート特性HC、電池容量維持率CP、電池抵抗Rが2.0[mΩ]のいずれもが不合格であった。
【0088】
<実験のまとめ>
上記結果から、正極合材層32中の球状凝集体35の配合比率Rpを0.3~1.8[vol%]、繊維状導電材34中の球状凝集体35の配合比率Rrを10~60[wt%]とした場合に、ハイレート特性HC、電池容量維持率CP、電池抵抗R[mΩ]において良好な結果を得ることができた。
【0089】
さらに詳細に分析すると、「比較例1」では正極合材層32中の球状凝集体35の配合比率Rpを0.1[vol%]と、低くすると、ハイレート特性が1.38と高くなる。このことから、正極合材層32において球状凝集体35の量が少ないと、ハイレートの充放電によりハイレート劣化が大きくなることが推定できる。また、電池容量維持率CPが0.86と大きく電池容量[Ah]が大きく減少していることからもハイレート劣化が進んでいるものと推察される。
【0090】
逆に、「比較例2」では正極合材層32中の球状凝集体35の配合比率Rpを2.5[vol%]と、高くすると、電池抵抗R[mΩ]が2.4[mΩ]と大きくなっている。このことから、球状凝集体35が多すぎると、電池抵抗R[mΩ]が大きくなることが分かる。正極合材層32中の球状凝集体35が範囲内であるのに繊維状導電材34の凝集の割合が低いということは繊維状の繊維状導電材34の量が多すぎるということである。そのため、過剰な量の繊維状導電材34があるとその分、分散した繊維状導電材34の量も増え、電池抵抗R[mΩ]が悪化するためであると思われる。
【0091】
「比較例3」では、繊維状導電材34中の球状凝集体35の配合比率Rrを80[wt%]とした場合に、ハイレート特性HC、電池容量維持率CP、電池抵抗R[mΩ]のいずれもが悪化している。特に、配合比率Rrを80[wt%]と多いのでバランスが悪く、分散している繊維状導電材34の量が少なくなって導電ネットワークを形成しにくくなっているものと考えられる。
【0092】
「比較例4」では、繊維状導電材34中の球状凝集体35の配合比率Rrを7.5[wt%]とした場合に、電池抵抗R[mΩ]が悪化している。この場合も正極合材層32中の球状凝集体35が範囲内であるのに繊維状導電材34の凝集の割合が低いということは繊維状の繊維状導電材34の量が多すぎるということである。そのため、過剰な量の繊維状導電材34があるとその分、分散した繊維状導電材34の量も増え、電池抵抗R[mΩ]が悪化するためであると思われる。
【0093】
<実験まとめ>
以上説明したように本実験結果から導かれることは以下のとおりである。正極合材層32中の球状凝集体35の配合比率Rpを0.3~1.8[vol%]、繊維状導電材34中の球状凝集体35の配合比率Rrを10~60[wt%]とする。この場合に、ハイレート特性HC、電池容量維持率CP、電池抵抗R[mΩ]において良好な結果を得ることができることが分かった。
【0094】
(本実施形態の作用)
本実施形態では正極板3で分散している繊維状導電材34の一部を一定範囲で一定の大きさの球状凝集体35を生成させる。この構成で非水電解液13を貯留することができるという作用を奏する。そして球状凝集体35に非水電解液13を貯留することで、電極板の膨張時には、狭くなった間隙から押し出される非水電解液13を吸収して貯留するという作用を奏する。逆に、電極板の収縮時には、広くなった電極間に貯留してあった非水電解液13を放出して電極間の非水電解液13の欠乏を抑制することができるという作用を奏する。
【0095】
さらに、球状凝集体35であれば、分散した繊維状導電材34と比較して弾性を有する。このため、球状凝集体35自体が、電極の膨張収縮時の電極間の容量の変化に対する緩衝材として作用する。このため、電極板の膨張収縮により変化を吸収し、導電パス切れを抑制できるという作用を奏する。
【0096】
以上のような作用が総合して、リチウムイオン二次電池1のハイレート劣化を抑制するという作用を奏する。
(本実施形態の効果)
本実施形態では、上記のような構成を備えるため、以下のような効果を奏する。
【0097】
(1)実施形態のリチウムイオン二次電池用正極板及びリチウムイオン二次電池によれば、高い電池容量と低い電池抵抗を維持しつつ、ハイレート劣化を抑制することができるという効果がある。
【0098】
(2)本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3の正極合材層32において、正極活物質33と、正極活物質33の表面において分散された繊維状導電材34を備える。繊維状導電材34において、その一部が正極活物質33に固着しないで正極活物質33の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体35を形成する。球状凝集体35の正極合材層32全体に対する配合比率Rpが0.3[vol%]以上で形成されている。
【0099】
このため、正極活物質33の平均径Da(D50)より小さな平均径Df(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体35が、非水電解液13の吸収、放出により、電極間のリチウムイオンLi濃度のムラを抑制する。また、正極活物質33の平均径(D50)より小さな平均径(D50)の毛玉状に凝集した球状凝集体35が、膨張収縮する電極板に対して物理的な緩衝材として機能する。このため、ハイレート充放電でも繊維状導電材34による正極活物質間の導電パスが切断されることを抑制することができるという効果がある。
【0100】
(3)球状凝集体35の正極合材層32全体に対する配合比率Rpが1.8[vol%]以下で形成されている。このため、導電パスに寄与する繊維状導電材34の量を確保することができるという効果がある。
【0101】
(4)球状凝集体35は、正極活物質33の平均径Da(D50)の50[%]以上の平均径Df(D50)である。このため、十分に非水電解液13の貯留量を確保し、緩衝材としても十分に機能するという効果がある。
【0102】
(5)球状凝集体35は、正極活物質33の平均径Da(D50)の80[%]以下の平均径Df(D50)である。このため、正極活物質33が存在しない領域を小さくすることができ、正極活物質の偏在を抑制することができるという効果がある。
【0103】
(6)球状凝集体35の平均径Df(D50)が1[μm]以上である。このため、十分に非水電解液13の貯留量を確保し、緩衝材としても十分に機能するという効果がある。
【0104】
(7)球状凝集体35の平均径Df(D50)は8[μm]以下である。このため、正極活物質が存在しない領域を小さくすることができ、正極活物質の偏在を抑制することができるという効果がある。
【0105】
(8)球状凝集体35は、アスペクト比ARが1~1.5である。このため、形状がより真球に近く、表面積に比べて多くの量の非水電解液13を貯留することができるとともに、緩衝材としても十分に機能するという効果がある。
【0106】
(9)球状凝集体35は、密度Dが0.3[g/cm]以上である。このため、非水電解液13の貯留や緩衝材として、形状をしっかりと維持することができるという効果がある。
【0107】
(10)球状凝集体35は、密度Dが0.8[g/cm]以下である。このため、十分に非水電解液13を貯留する空隙を確保できるとともに、緩衝材としても、硬すぎず十分な弾性を有することができるという効果がある。
【0108】
(11)繊維状導電材34の正極合材層32に対する配合比率Rfが0.1[wt%]以上である。このため、導電材として導電パスを十分に形成することができ、正極合材層32における有効な導電ネットワークを形成することができるという効果がある。
【0109】
(12)繊維状導電材34の正極合材層32に対する配合比率Rfが2.0[wt%]以下である。このため、正極合材層32において十分な正極活物質33の量を確保することができるという効果がある。
【0110】
(13)球状凝集体35の繊維状導電材34に対する配合比率Rrが10[wt%]以上である。このため、十分に非水電解液13の貯留量を確保し、緩衝材としても十分に機能するという効果がある。
【0111】
(14)球状凝集体35の繊維状導電材34に対する配合比率Rrが60[wt%]以下である。このため、導電パスを形成する繊維状導電材34の量を十分に確保することができ、正極合材層における有効な導電ネットワークを形成することができるという効果がある。
【0112】
(15)繊維状導電材34はカーボンナノチューブを用いた。このため、高い導電性と繊維状の形状から、少量でも有効な導電ネットワークを形成することができるという効果がある。
【0113】
(16)本実施形態のリチウムイオン二次電池では、正極板として上記のようなリチウムイオン二次電池用正極板を用いた。このため、ハイレート劣化の生じにくいリチウムイオン二次電池とすることができるという効果がある。
【0114】
(別例)
○本実施形態では、車両の駆動用のリチウムイオン二次電池1を例示したが、車載用に限定されず、定置用の電池や、他の用途の電池にも適用できる。
【0115】
○また、扁平な捲回型の電極体12のリチウムイオン二次電池1を例示したが、円筒形の電極体や、平面的な電極体の電池であってもよい。
○本実施形態で例示したリチウムイオン二次電池1は、本発明の説明のための例示であり、これを構成する材質、形状などを限定するものではなく、当業者において適宜変更することができる。
【0116】
○また、本実施形態で挙げた数値及びその範囲、閾値などは好ましい例として挙げたものであり、これらに限定されず、リチウムイオン二次電池の構成に応じ、当業者により適宜最適化されることは言うまでもない。
【0117】
○本実施形態のリチウムイオン二次電池1用の正極板3の製造方法は、製造方法の一例であり、本発明はこの製造方法に限定されるものではない。
○その他、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲で当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0118】
1…リチウムイオン二次電池
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
22…負極合材層
23…負極接続部
3…正極板
31…正極集電体
32…正極合材層
33…正極活物質
34…繊維状導電材
35…球状凝集体
31a…正極接続部
4…セパレータ
Df[μm]…球状凝集体35の平均径(D50
Da[μm]…正極活物質33の平均径(D50
AR…球状凝集体35のアスペクト比
D[g/cm]…球状凝集体35の密度
Rf…繊維状導電材の正極合材層に対する配合比率
Rp[vol%]…正極合材層中の球状凝集体の配合比率
Rr[wt%]…繊維状導電材中の球状凝集体の配合比率
図1
図2
図3
図4
図5