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特開2024-172536電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体
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  • 特開-電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172536
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体
(51)【国際特許分類】
   C25D 13/22 20060101AFI20241205BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20241205BHJP
   G06F 30/15 20200101ALI20241205BHJP
   C25D 13/12 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C25D13/22 Z
G06F30/20
G06F30/15
C25D13/12 A
C25D13/22 304B
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090319
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA05
5B146DJ01
5B146DJ11
(57)【要約】
【課題】電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測できる電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体をもたらす。
【解決手段】コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析方法であって、被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する解析工程S3と、経時変化情報に基づいて、各部位における電着塗膜の膜質を予測する膜質予測工程S4と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析方法であって、
被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する解析工程と、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における電着塗膜の膜質を予測する膜質予測工程と、を備えた
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質係数を算出する膜質係数算出工程をさらに備え、
前記膜質予測工程で、前記電着塗膜の基準膜質情報と、前記膜質係数と、に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質を予測する
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記膜質予測工程で予測した前記膜質と、前記各部位に形成される前記電着塗膜の膜厚情報と、に基づいて、該各部位における該電着塗膜の耐食性を予測する耐食性予測工程をさらに備えた
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項4】
請求項3において、
前記経時変化情報に基づいて、前記膜厚情報を算出する膜厚情報算出工程をさらに備えた
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項5】
請求項3において、
前記耐食性予測工程で、前記耐食性として前記電着塗膜の腐食抑制期間を算出する
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項6】
請求項2において、
前記解析工程で、前記経時変化情報として、前記電圧の経時変化情報を算出し、
前記膜質係数算出工程で、前記膜質係数は、前記電圧の経時変化情報における電圧印加開始から電圧印加終了までの全電圧印加時間と、前記電圧印加開始から該電圧が初めて所定の電圧値以上となるまでの初期電圧印加時間と、に基づいて算出される
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項7】
請求項6において、
前記所定の電圧値は、5Vである
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一において、
前記被塗物は、自動車部材用鋼板である
ことを特徴とする電着塗装の解析方法。
【請求項9】
コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析装置であって、
被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する解析部と、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における電着塗膜の膜質を予測する膜質予測部と、を備えた
ことを特徴とする電着塗装の解析装置。
【請求項10】
請求項9において、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質係数を算出する膜質係数算出部をさらに備え、
前記膜質予測部は、前記電着塗膜の基準膜質情報と、前記膜質係数と、に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質を予測する
ことを特徴とする電着塗装の解析装置。
【請求項11】
請求項9において、
前記膜質予測部により予測された前記膜質と、前記各部位に形成される前記電着塗膜の膜厚情報と、に基づいて、該各部位における該電着塗膜の耐食性を予測する耐食性予測部をさらに備えた
ことを特徴とする電着塗装の解析装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記経時変化情報に基づいて、前記膜厚情報を算出する膜厚情報算出部をさらに備えた
ことを特徴とする電着塗装の解析装置。
【請求項13】
コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析プログラムであって、
コンピュータに、
被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する手順Aと、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における電着塗膜の膜質を予測する手順Bと、を実行させる
ことを特徴とする電着塗装の解析プログラム。
【請求項14】
請求項13に記載された電着塗装の解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンピュータシミュレーションにより、被塗物の各部位への電圧/電流の掛かり方に基づいて、各部位における電着塗膜の膜厚分布を予測することが行われている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-89953号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小原 勝彦、「電着塗膜の膜厚分布シミュレーション」、表面技術、Vol.53、No.5、2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電着塗膜の耐食性(防錆力)は、その膜厚と、膜質とにより決定されるから、耐食性を精度よく予測するためには、膜質を精度よく予測する技術が必要である。
【0006】
しかしながら、電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測する技術は未だ報告されていない。すなわち、市場では、電着塗膜の最低膜厚を規定しておき、当該最低膜厚以上の膜厚となるように電着条件等を調整することで、製品品質を確保しているのが現状である。
【0007】
電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測することができれば、製品設計の容易化、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減等に繋がる。
【0008】
そこで本開示では、電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測できる電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体をもたらすことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、ここに開示する電着塗装の解析方法の一態様は、
コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析方法であって、
被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する解析工程と、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における電着塗膜の膜質を予測する膜質予測工程と、を備えた
ことを特徴とする。
【0010】
本願発明者らは、鋭意研究によって、電着塗装時において被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報と、各部位に形成される電着塗膜の膜質との間に、相関関係があることを見出した。本構成によれば、当該経時変化情報に基づいて電着塗膜の膜質を精度よく予測できるから、製品設計が容易となり、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【0011】
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質係数を算出する膜質係数算出工程をさらに備え、
前記膜質予測工程で、前記電着塗膜の基準膜質情報と、前記膜質係数と、に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質を予測することが好ましい。
【0012】
本構成によれば、電着塗膜の膜質の予測精度を向上できる。
【0013】
前記膜質予測工程で予測した前記膜質と、前記各部位に形成される前記電着塗膜の膜厚情報と、に基づいて、該各部位における該電着塗膜の耐食性を予測する耐食性予測工程をさらに備えることが好ましい。
【0014】
電着塗膜の耐食性は、その膜厚と膜質とにより決定される。本構成によれば、上述のごとく、電着塗膜の膜質を精度よく予測することができるから、膜質の予測結果と、膜厚情報とにより、電着塗膜の耐食性を精度よく予測できる。そうして、製品設計の容易化、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【0015】
前記経時変化情報に基づいて、前記膜厚情報を算出する膜厚情報算出工程をさらに備えることが好ましい。
【0016】
各部位に形成される電着塗膜の膜厚は、前記経時変化情報に基づいて算出できる。本構成によれば、各部位に形成される電着塗膜の膜厚情報及び膜質情報をともに前記経時変化情報に基づいて取得できるから、シンプルな解析で精度よく電着塗膜の耐食性を予測できる。
【0017】
前記耐食性予測工程で、前記耐食性として前記電着塗膜の腐食抑制期間を算出することが好ましい。
【0018】
一般に、電着塗膜を備えた電着金属材では、例えば塩水、電解質を含む泥等の腐食因子が電着塗膜に浸透し、金属製基材に到達することで腐食が開始する。すなわち、電着金属材の腐食過程は、腐食が発生するまでの過程と腐食が進展する過程とに分けられ、それぞれ腐食が開始するまでの期間(腐食抑制期間)と腐食が進展する速度(腐食進展速度)とを求めることにより評価できる。
【0019】
従って、腐食抑制期間を算出することにより、電着塗膜の耐食性を精度よく予測できる。
【0020】
前記解析工程で、前記経時変化情報として、前記電圧の経時変化情報を算出し、
前記膜質係数算出工程で、前記膜質係数は、前記電圧の経時変化情報における電圧印加開始から電圧印加終了までの全電圧印加時間と、前記電圧印加開始から該電圧が初めて所定の電圧値以上となるまでの初期電圧印加時間と、に基づいて算出されることが好ましい。
【0021】
本願発明者らは、電圧の経時変化情報における初期電圧印加時間が膜質に影響を与えることを見出した。本構成では、全電圧印加時間及び当該初期電圧印加時間に基づいて膜質を予測するから、膜質の予測精度を向上できる。
【0022】
前記所定の電圧値は、5Vであることが好ましい。
【0023】
本願発明者らは、特に5V未満の電圧値が印加される時間の長短が膜質に影響を与えることを見出した。本構成によれば、さらに膜質の予測精度を向上できる。
【0024】
前記被塗物は、自動車部材用鋼板であることが好ましい。
【0025】
ここに開示する電着塗装の解析装置の一態様は、
コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析装置であって、
被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する解析部と、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における電着塗膜の膜質を予測する膜質予測部と、を備えた
ことを特徴とする。
【0026】
本構成によれば、前記経時変化情報に基づいて電着塗膜の膜質を精度よく予測できるから、製品設計が容易となり、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【0027】
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質係数を算出する膜質係数算出部をさらに備え、
前記膜質予測部は、前記電着塗膜の基準膜質情報と、前記膜質係数と、に基づいて、前記各部位における前記電着塗膜の膜質を予測することが好ましい。
【0028】
本構成によれば、電着塗膜の膜質の予測精度を向上できる。
【0029】
前記膜質予測部により予測された前記膜質と、前記各部位に形成される前記電着塗膜の膜厚情報と、に基づいて、該各部位における該電着塗膜の耐食性を予測する耐食性予測部をさらに備えることが好ましい。
【0030】
電着塗膜の耐食性は、その膜厚と膜質とにより決定される。本構成によれば、上述のごとく予測された膜質と、膜厚情報とにより、電着塗膜の耐食性を精度よく予測できる。
【0031】
前記経時変化情報に基づいて、前記膜厚情報を算出する膜厚情報算出部をさらに備えることが好ましい。
【0032】
各部位に形成される電着塗膜の膜厚は、前記経時変化情報に基づいて算出できる。本構成によれば、各部位に形成される電着塗膜の膜厚情報及び膜質情報をともに前記経時変化情報に基づいて取得できるから、シンプルな解析で精度よく電着塗膜の耐食性を予測できる。
【0033】
ここに開示する電着塗装の解析プログラムの一態様は、コンピュータシミュレーションを用いた電着塗装の解析プログラムであって、
コンピュータに、
被塗物の形状を示す解析モデルと、設定された解析条件と、に基づいて解析を行うことにより、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を取得する手順Aと、
前記経時変化情報に基づいて、前記各部位における電着塗膜の膜質を予測する手順Bと、を実行させる
ことを特徴とする。
【0034】
本構成によれば、前記経時変化情報に基づいて電着塗膜の膜質を精度よく予測できるから、製品設計が容易となり、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【0035】
ここに開示する記録媒体の一態様は、上述の電着塗装の解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように、本開示によると、電着塗装時において被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報に基づいて電着塗膜の膜質を精度よく予測できるから、製品設計が容易となり、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】本開示に係る耐食性予測装置の構成例を示す図。
図2】本開示に係る耐食性予測方法を説明するためのフローチャート。
図3】被塗物の一例としての車体の一部を示す図。
図4】解析工程で得られた、電着塗装時にフェンダ(実線)及びフロアパネル(破線)に印加される電圧の経時変化情報を示すグラフ及び対応する試験片の実腐食試験後のデジタル顕微鏡写真。
図5】算出した腐食抑制期間をマップ化したイメージ図。
図6】他の実施形態に係る図4のグラフ相当図。
図7】他の実施形態に係る図4のグラフ相当図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本開示、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0039】
(実施形態1)
<電着金属材>
本実施形態の耐食性予測において予測対象となる電着金属材は、金属製基材からなる被塗物に電着塗膜が設けられてなる。
【0040】
被塗物は特に限定されるものではなく、家電製品、建材、各種車両、自動車部品等である。被塗物を構成する金属製基材は、例えば、冷間圧延鋼板(SPC)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、高張力鋼板又はホットスタンプ材等の鋼材であり、或いは軽合金材であってもよい。金属製基材は、好ましくは自動車部材用鋼板である。金属製基材は、表面に化成皮膜(リン酸塩皮膜(例えば、リン酸亜鉛皮膜)、クロメート皮膜等)が形成されたものであってもよい。
【0041】
電着塗膜は、塗料、好ましくは樹脂系塗料を用いて電着塗装により形成された塗膜である。樹脂系塗料を使用して形成された樹脂塗膜としては、具体的には例えば、エポキシ樹脂系、アクリル樹脂系等のカチオン電着塗膜(下塗り塗膜)がある。
【0042】
電着金属材は、電着塗膜として二層以上の多層膜を備えていてもよい。具体的には例えば、電着塗膜が樹脂塗膜の場合は、電着塗膜に上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜、電着塗膜に中塗り塗膜及び上塗り塗膜が重ねられた積層塗膜等であってもよい。
【0043】
中塗り塗膜は、電着金属材の仕上り性と耐チッピング性を確保するとともに、電着塗膜と上塗り塗膜との密着性を向上させる役割を有する。また、上塗り塗膜は、電着金属材の色、仕上り性及び耐候性を確保するものである。これらの塗膜は、具体的には例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アルキド等の基体樹脂と、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物(ブロック体も含む)等の架橋剤とからなる塗料等により形成することができる。
【0044】
以下の説明では、鋼板の表面に化成皮膜が形成されてなる金属製基材に電着塗膜(樹脂塗膜)が設けられてなる電着金属材に関し、解析を行う場合を例に挙げて説明する。
【0045】
<電着塗膜の膜質及び耐食性に関するパラメータ>
電着塗膜の膜質及び耐食性を実験的に評価する方法としては、複合サイクル試験、塩水噴霧試験等の腐食促進試験や、例えば特開2016-50915号公報に記載された評価方法等が挙げられる。
【0046】
本開示では、膜質及び耐食性を定量的に扱うため、特開2016-50915号公報に記載された評価方法に基づいて、これらのパラメータを設定する。なお、当該文献に記載の評価方法は、試験時間が短く、簡単な装置で精度よく膜質及び耐食性を評価できるため、当該方法で用いられるパラメータで膜質及び耐食性を定量的に扱うことは、解析方法の精度向上及び簡潔化を目指す上でも望ましい。
【0047】
上記文献に記載の方法では、腐食因子を電着塗膜の表面に接触させて電着塗膜の表面と金属製基材との間に電圧を印加し、塗膜が絶縁破壊するときの電圧値に基づいて、電着金属材の耐食性のうちの上述の腐食抑制期間を評価している。具体的に、電着塗膜が正常塗膜である場合、時間に対して漸増する電圧を印加すると、電着塗膜の表面と金属製基材との間には当初ほとんど電流が流れないが、ある電圧値を超えたところで急激に電流値が増加する(特開2016-50915号公報の図2参照)。この検出電流値の急激な上昇は、電圧の印加に伴い腐食因子の電着塗膜への浸透が促され、腐食因子が金属製基材の表面に到達したことを示している。すなわち、検出電流値が所定の閾値に達したときの印加電圧値を絶縁電圧とすると、当該絶縁電圧に到達するまでの時間は、腐食因子が鋼板に到達するまでの期間、すなわち電着金属材の腐食抑制期間に対応している。
【0048】
すなわち、上記絶縁電圧[V]を、腐食抑制期間、すなわち耐食性を示すパラメータ(本明細書において、「腐食抑制期間D[V]」と称することがある。)とするとともに、上記絶縁電圧を電着塗膜の膜厚で除して単位膜厚あたりの電圧値に換算した値[V/μm]を、膜質を示すパラメータ(本明細書において、「膜質Q[V/μm]」と称することがある。)として設定できる。
【0049】
<電着塗装の解析装置>
図1に、本開示に係る電着塗装の解析装置100の構成例を示す。解析装置100は、コンピュータシミュレーションにより、有限要素法を用いて、電着塗装の解析、特に電着金属材1に形成された電着塗膜4の膜質及び耐食性を予測する装置である。すなわち、解析装置100は、コンピュータ110を基本構成とするCAE(Computer Aided Engineering)システムである。
【0050】
解析装置100は、記憶部120と、プロセッサ130と、を備える。また、解析装置100は、例えばディスプレイ等からなる表示部140、キーボード等からなる入力部150、及び各種記録媒体170に保存された情報を取得するための読取部160等を備える。記憶部120及び/又は記録媒体170には、演算処理用のプログラム及び各種解析用データ等の情報が格納される。プロセッサ130は、記憶部120に格納された上記情報、入力部150を介して入力された情報、及び読取部160を介して記録媒体170から取得した情報等に基づいて、各種演算処理を行う。
【0051】
解析装置100は、解析モデル作成部131により被塗物の形状を定義した3D CADデータ等の形状データを複数の微小要素に分割して解析モデルを作成する。微小要素を作成する解析モデル作成部131としては、特に限定されるものではなく、例えば市販のCAEプリプロセッサ等を使用できる。
【0052】
また、解析モデルの微小要素としては、特に限定されるものではなく、例えばソリッド要素、シェル要素等の周知の要素を採用できる。
【0053】
電着塗料の成分、配合、電導度、濃度等の材料特性、被塗物の構造、サイズ、板厚等の形状特性、印加電圧値、電解槽温度、電極から被塗物の各部位までの距離等の電着条件、必要に応じて後述する電着塗膜の基準膜質情報等の境界条件データを入力し、解析条件設定部132で解析条件を設定する。
【0054】
そして、解析部133で、電着塗装時の解析を実行する。解析により、電着塗装時において被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報を含む各種データが得られる。解析条件設定部132及び流動解析部133としては、特に限定されるものではなく、例えばDELIGHT社製EDDL等の市販のCAEソフトウエアを使用できる。
【0055】
算出部134(膜質予測部、膜質係数算出部、耐食性予測部、膜厚情報算出部)は、上述の経時変化情報に基づいて、各部位における電着塗膜の膜質を予測する。
【0056】
具体的には例えば、算出部134は、経時変化情報に基づいて、各部位における電着塗膜の膜質係数を算出する。
【0057】
そして、算出部134は、電着塗膜の基準膜質情報と、膜質係数と、に基づいて、各部位における電着塗膜の膜質を予測する。
【0058】
算出部134は、さらに、経時変化情報に基づいて、膜厚情報を算出してもよい。
【0059】
そして、算出部134は、膜質の予測結果と、電着塗膜の膜厚情報と、に基づいて、各部位における電着塗膜の耐食性を予測するようにしてもよい。
【0060】
<耐食性予測方法>
図2は、本開示に係る電着塗装の解析方法の実施の手順の一例を示すフローチャートである。解析方法は、コンピュータシミュレーションを用いて電着塗装の解析を行う方法であって、解析モデル作成工程S1と、解析条件設定工程S2と、解析工程S3(手順A)と、膜質予測工程S4(手順B)と、耐食性予測工程S5と、を備える。
【0061】
[解析モデル作成工程]
まず、解析モデル作成工程S1において、上述のごとく、解析モデル作成部131により、3次元CAD等を用いて作成した被塗物の形状データ等を数値解析用の微小要素に分割し、解析モデルを作成する。なお、過去に作成した既存の解析モデル等を使用する場合は、解析モデル作成工程S1を省略できる。
【0062】
[解析条件設定工程]
続いて、解析条件設定工程S2において、材料特性、形状特性、電着条件、必要に応じて基準膜質情報等の境界条件データを入力し、解析条件を設定する。
【0063】
[解析工程]
そして、解析工程S3において、解析モデルと、解析条件と、に基づいて電着塗装時の解析を行う。そうして、電着塗装時において被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報(本明細書において、電圧の経時変化情報を「電圧情報」、電流の経時変化情報を「電流情報」ともいう。)、好ましくは電圧の経時変化情報を取得する。
【0064】
また、解析工程S3において、経時変化情報に基づいて、各部位に形成される電着塗膜の膜厚情報を算出してもよい(膜厚情報算出工程)。膜厚情報の算出は、例えば被塗物上の電位分布から各部位の電流量を試算して推定することができ、例えば上述の市販のCAEソフトウエアを用いることにより実行できる。
【0065】
[膜質予測工程]
次に、膜質予測工程S4において、上述の経時変化情報に基づいて、各部位における電着塗膜の膜質を予測する。
【0066】
膜質の予測は、具体的には例えば、経時変化情報に基づいて、各部位における電着塗膜の膜質係数Qを算出し(膜質係数算出工程)、電着塗膜の基準膜質Q(基準膜質情報)と、膜質係数Qと、に基づいて、膜質Q[V/μm]を算出することにより行われる。以下、詳細を説明する。
【0067】
図3は、被塗物の一例としての車体10の一部を示している。車体10における例えばフェンダ11等の外装部材の表面は、電流が流れやすい等の理由から電着塗料の付き周りがよく、良好な膜質且つ十分な膜厚の電着塗膜が短時間で形成される傾向がある。一方で、車体10の例えば車室内のフロアパネル12等のいわゆる袋部の内側では、電流が流れにくく電着塗料の付き周りが劣り、電着塗膜の十分な膜厚及び膜質が得られない場合がある。
【0068】
実際、特開2016-50915号公報に記載された評価方法を用いて、実際に電着塗装を行って、フェンダ11及びフロアパネル12に形成された電着塗膜の腐食抑制期間D[V]を測定し、膜質Q[V/μm]を算出した。
【0069】
なお、被塗物としては、GAの表面に化成皮膜としてのリン酸亜鉛皮膜が形成されてなるものを用いた。なお、リン酸亜鉛皮膜の形成に係る化成処理時間は120秒であった。電着塗装により、エポキシ系樹脂からなる電着塗膜を形成した。電着焼付条件は150℃×20分であった。
【0070】
フェンダ11及びフロアパネル12に形成された電着塗膜の膜質Q[V/μm]は、それぞれ約26V/μm及び約3V/μm(最小値)であった。このことは、例えば膜厚10μmの電着塗膜が形成されている場合、フェンダ11では腐食抑制期間Dが260Vで耐食性に優れているのに対し、フロアパネル12では腐食抑制期間Dが30Vしかなく耐食性に劣ることを意味している。
【0071】
次に、図4は、解析工程S3で得られた、電着塗装時にフェンダ11(実線)及びフロアパネル12(破線)に印加される電圧の経時変化情報を示している。
【0072】
図4に示すように、フェンダ11(実線)では、電圧印加開始から約35秒で電圧値が急激に増加し、その後電圧印加終了に伴い、フェンダ11の電圧値もゼロまで低下することが判った。一方、フロアパネル12(破線)では、電圧印加開始から約120秒までは5V未満の低電圧値の状態が続き、約120秒を経過すると徐々に電圧値が漸増し、電圧印加終了に伴い、フロアパネル12の電圧値もゼロまで低下することが判った。
【0073】
両部位の電圧値の経時変化情報の違いの1つは、電圧印加開始から該電圧が初めて所定の電圧値、好ましくは5V以上となるまでの初期電圧印加時間tが、前者では約35秒(図4中符号t11で示す)であるのに対し、後者では約120秒(図4中符号t12で示す)であり、大きく異なることである。
【0074】
本願発明者らは、鋭意研究によって、初期電圧印加時間tと膜質との間に相関関係があることを見出した。具体的には、初期電圧印加時間t、特に所定の電圧値を5Vとして5V未満の電圧値が印加される時間が長いほど、電着塗膜の膜質は低下することを見出した。
【0075】
実際、フェンダ11及びフロアパネル12の電着塗膜の膜質Q[V/μm]は、上述のごとくそれぞれ約26V/μm及び約3V/μm(最小値)で、フェンダ11の電着塗膜の方が、フロアパネル12の電着塗膜よりも膜質が優れていることを示している。
【0076】
また、図4に示すように、試験片TP(GA+リン酸亜鉛被膜+エポキシ樹脂系電着塗膜)に対し実腐食試験(塩水噴霧(6時間)、乾燥(3時間)、湿潤(14時間)、送風(1時間)の各工程を24時間1サイクルとして30日施す)を施した場合も、フェンダ11の電着塗膜ではほとんど腐食が進行していないのに対し、フロアパネル12の電着塗膜は腐食が進行することが判った。このように、実腐食試験の結果も、膜質Q[V/μm]の実験値と整合する結果となっている。
【0077】
初期電圧印加時間tが長くなると、低電圧が印加した状態が長く続くために、塗料成分の偏積が生じ、塗膜の均一性が低下することが、膜質が低下する原因の1つと考えられる。
【0078】
すなわち、上記現象を考慮すれば、初期電圧印加時間tに基づいて、膜質Q[V/μm]を予測することができる。
【0079】
具体的には、まず、上記初期電圧印加時間tに基づいて、膜質係数Qを下記式(1)により算出する。
【0080】
膜質係数Q=α×[(tend-t)/tend×b ・・・(1)
但し、tendは、電圧の経時変化情報における電圧印加開始から電圧印加終了までの全電圧印加時間、αは、塗料種によって変化する係数である。
【0081】
また、bは被塗物の部位が縦面又は受け面の違いにより変化する係数である。フェンダやドア等の縦面と比較すると、ボンネット等の受け面では、電着塗装時に塗料が降り積もりやすいために、塗料成分の偏積が起こりやすい。従って、縦面の場合のbを1とすると受け面では膜質が低下し、bは0.9程度になる。実際、試験片TP(GA+リン酸亜鉛被膜+エポキシ樹脂系電着塗膜、電着焼付条件:150℃×20分、膜厚10μm)について、TPの姿勢を変化させて電着塗膜を形成し、腐食抑制期間Dを測定した。そうすると、縦面の姿勢の試験片TPでは、腐食抑制期間Dは303Vとなり、受け面の姿勢の試験片TPでは、腐食抑制期間Dは271Vとなった。
【0082】
次に、膜質Q[V/μm]を、下記式(2)により算出する。
【0083】
膜質Q[V/μm]=基準膜質Q[V/μm]×膜質係数Q ・・・(2)
基準膜質Q[V/μm]は、解析対象の条件において基準となる膜質である。基準膜質Q[V/μm]は、具体的には例えば、フェンダやドア等の電極から近く、正常塗膜、すなわち優れた膜質の電着塗膜が安定して形成される部位の電着塗膜の膜質等を採用することができる。基準膜質Q[V/μm]は、別途実験的に求めた値とすることができ、予め記憶部120に格納しておいてもよいし、解析に際してユーザにより入力するようにしてもよい。
【0084】
式(2)では、基準膜質Q[V/μm]に、膜質係数Qを乗じることにより、膜質Q[V/μm]を算出する。
【0085】
[耐食性予測工程]
膜質の予測に加えて、耐食性を予測する場合には、次の耐食性予測工程S5(任意工程)に進む。
【0086】
耐食性予測工程S5では、膜質予測工程S4で予測した膜質と、各部位に形成される電着塗膜の膜厚情報と、に基づいて、該各部位における該電着塗膜の耐食性を予測する。
【0087】
具体的には、耐食性を示すパラメータである腐食抑制期間Dを、下記式(3)により算出する。
【0088】
腐食抑制期間D[V]=膜厚T[μm]×膜質Q[V/μm] ・・・(3)
膜厚情報は、実際に電着塗装を行うことにより形成された電着塗膜の膜厚を物理的に計測して得られた情報であってもよいし、上述のごとく解析工程S3で、経時変化情報に基づいて算出した情報であってもよい。好ましいのは、膜厚情報として、解析工程S3で経時変化情報に基づいて算出した情報を使用することである。これにより、各部位に形成される電着塗膜の膜厚情報及び膜質情報の両方を上記経時変化情報に基づいて取得できるから、シンプルな解析で精度よく電着塗膜の耐食性を予測できる。
【0089】
図5は、算出した腐食抑制期間Dをマップ化したイメージ図である。車体10の各部位について耐食性の高低が一目で判別できるようになっている。最終的には、例えば図5のような予測結果データを出力できるようにすることが好ましい。
【0090】
以上述べたように、本実施形態に係る解析方法では、電圧及び電流の経時変化情報、好ましくは、電圧の経時変化情報における初期電圧印加時間に基づいて膜質を予測するから、高い精度で電着塗膜の膜質を予測することができる。また、膜厚情報と膜質情報とを組み合わせて腐食抑制期間を算出できるから、高い精度で電着塗膜の耐食性も予測することができる。そうして、製品設計が容易となり、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【0091】
<実験例>
上述の解析方法に基づいて、膜質及び腐食抑制期間の試算及び実測値との比較を行った。試算結果及び実測値を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
なお、解析に使用した被塗物としては、図3に示す車体10であり、GAの表面に化成皮膜としてのリン酸亜鉛皮膜(化成処理時間:120秒)が形成されてなるものを想定した。また、電着塗膜としては、エポキシ系樹脂からなる電着塗膜を想定した。また、実測値は、被塗物としての図3に示す車体10に、解析と同じ条件で実際に電着塗装を行ったときの各部位から切り出した試験片について、特開2016-50915号公報に記載の評価方法を用いて算出した値である。なお、電着焼付条件は150℃×20分であった。
【0094】
実験例1~6は、車体10のそれぞれ異なる部位での結果である。なお、解析において、式(2)におけるbは、1と仮定した。また、表1において、実測値は、実験例1、3、6のみ示している。
【0095】
表1に示すように、初期電圧印加時間tが増加するにつれて、膜質係数Qは小さくなり、膜質Q及び腐食抑制期間Dのいずれも値が小さくなっていることが判る。また、実験例1、3、6の腐食抑制期間Dの試算値は、実測値とも概ね整合する値であり、本開示の解析方法は、実現象の傾向を十分に予測可能であることが判る。すなわち、表1の結果から、本開示に係る解析方法により電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測することができることが示された。
【0096】
<プログラム及びその記録媒体>
以上の耐食性予測方法の各工程は、プログラム化されている。すなわち、本実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上述の工程のうち少なくとも解析工程S3及び膜質予測工程S4、好ましくは少なくとも解析工程S3、膜質予測工程S4及び耐食性予測工程S5の手順を実行させるためのプログラムであり、膜質予測式及び必要に応じて耐食性予測式として、上述の式(1)~(3)を使用する。このプログラムは、記憶部120に格納された状態で、プロセッサ130により実行され得る。また、当該プログラムは、記憶部120に格納された状態に限らず、例えば光ディスク媒体や磁気テープ媒体等、コンピュータ読み取り可能な種々の周知の記録媒体170に記録させておくことができる。そして、このような記録媒体を読取部160に装着して上記プログラムを読み出すことにより、当該プログラムを実行可能である。
【0097】
本構成によれば、前記経時変化情報に基づいて電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測できるから、製品設計が容易となり、使用する塗料量の削減、製品開発及び電着塗装の工数及びコストの削減に資することができる。
【0098】
(実施形態2)
以下、本開示に係る他の実施形態について詳述する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0099】
上記実施形態1では、膜質係数Qを初期電圧印加時間tに基づいて算出する構成であったが、当該構成に限られない。
【0100】
例えば図6に示すように、全電圧印加時間における電圧値の最大値Vmaxを与える点の傾き角度θに基づいて、膜質係数Qを算出してもよい。図6では、フェンダ11(実線)の最大値Vmax1を与える点の傾き角度θ1は、フロアパネル12(破線)の最大値Vmax2を与える点の傾き角度θ2よりも大きい。この傾き角度θxと膜質との間には相関関係があると考えられる。
【0101】
また、図7に示すように、全電圧印加時間における電圧値の面積(積算電圧量)に基づいて膜質係数Qを算出してもよい。図6では、フェンダ11(実線)の積算電圧量S1は、フロアパネル12(破線)の積算電圧量S2よりも大きい。この積算電圧量Sと膜質との間には相関関係があると考えられる。
【0102】
このように、膜質係数Qは、電着塗装時において前記被塗物の各部位に印加される電圧及び電流の少なくとも一方の経時変化情報のうち、膜質と関係がある波形の特徴に基づいて算出できる。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本開示は、電着塗膜の膜質及び耐食性を精度よく予測できる電着塗装の解析方法、解析装置、解析プログラム及び記録媒体をもたらすことができるので、極めて有用である。
【符号の説明】
【0104】
10 車体(被塗物)
11 フェンダ(部位)
12 フロアパネル(部位)
100 電着塗装の解析装置
133 解析部
134 算出部(膜質予測部、膜質係数算出部、耐食性予測部、膜厚情報算出部)
S3 解析工程
S4 膜質予測工程
S5 耐食性予測工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7