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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172542
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】プランジャ及びシリンジ型噴出器
(51)【国際特許分類】
   A61M 11/00 20060101AFI20241205BHJP
   A61M 15/08 20060101ALI20241205BHJP
   A61M 5/315 20060101ALI20241205BHJP
   B05B 11/02 20230101ALI20241205BHJP
   B05B 9/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
A61M11/00 D
A61M15/08
A61M5/315 500
A61M5/315 550X
B05B11/02
B05B9/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090328
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006909
【氏名又は名称】株式会社吉野工業所
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】星野 真弥
【テーマコード(参考)】
4C066
4F033
【Fターム(参考)】
4C066AA06
4C066AA10
4C066BB01
4C066BB10
4C066CC01
4C066DD07
4C066EE14
4C066FF02
4C066GG16
4C066HH12
4C066HH17
4C066QQ32
4F033RA06
4F033RA12
(57)【要約】
【課題】シリンジ内の内容物の一部を定量的に噴出させると共に操作性を向上させた、プランジャ及びシリンジ型噴出器を提供する。
【解決手段】本開示のプランジャ3は、第1シャフト部材3aと、第2シャフト部材3bとを有し、第1シャフト部材3aは、第1主軸3a4と、後方に向かって延びる弾性片3a1とを有し、弾性片3a1には、シリンジ2の内周面2fを摺動可能な摺動突起3a2と、シリンジ2の後端に係止される係止突起3a3とが設けられ、第2シャフト部材3bは、第2主軸3b4と、係止突起3a3に係合可能な径方向規制部3f1とを有し、弾性片3a1は、係止突起3a3がシリンジ2の後端部に係止され、弾性片3a1の更なるシリンジ2内への移動を制限する一部噴出位置と、係止突起3a3が径方向規制部3f1を乗り越えて径方向内側に移動し、係止突起3a3がシリンジ2内に移動可能となる全量噴出位置との間で移動可能であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンジ型噴出器のシリンジ内に押し込み可能なプランジャであって、
前記プランジャは、先端にピストンが装着された第1シャフト部材と、該第1シャフト部材の後部に係合する第2シャフト部材とを有し、
前記第1シャフト部材は、中心軸線方向に延びる第1主軸と、該第1主軸に連なり後方に向かって延びる少なくとも1つの弾性片とを有し、該弾性片には、前記シリンジの後端開口部から進入して該シリンジの内周面を摺動可能な摺動突起と、前記シリンジの後端に係止される係止突起とが設けられており、
前記第2シャフト部材は、中心軸線方向に延びる第2主軸と、前記係止突起に対向し、前記係止突起に係合可能な径方向規制部とを有し、
前記弾性片は、
前記第2シャフト部材の前方への押圧によって前記係止突起が前記シリンジの後端部に係止され、前記弾性片の更なる前記シリンジ内への移動を制限する一部噴出位置と、
前記弾性片の径方向内側への押圧によって前記係止突起が前記径方向規制部を乗り越えて径方向内側に移動し、前記係止突起が前記シリンジ内に移動可能となる全量噴出位置と
の間で移動可能であることを特徴とするプランジャ。
【請求項2】
前記係止突起は、後方に突出すると共に、前記全量噴出位置において前記径方向規制部に係合する径方向規制突起を有する、請求項1に記載のプランジャ。
【請求項3】
前記第2シャフト部材は、前記第1シャフト部材の後部を受け入れる挿入筒部を有し、
前記挿入筒部の内面に設けた軸方向規制部が、前記第1シャフト部材の後部に係合する、請求項1又は2に記載のプランジャ。
【請求項4】
前記第1シャフト部材の後部の外面には、前記軸方向規制部に係合すると共に中心軸線方向に並んで配置された2つの係合部を有し、該2つの係合部の間には前方に向かって径方向外側に傾斜する第1傾斜面が設けられ、
前記軸方向規制部には、前方に向かって径方向外側に傾斜する第2傾斜面が設けられている、請求項3に記載のプランジャ。
【請求項5】
前記径方向規制突起の径方向内側面は、前方に向かって径方向内側に傾斜する第3傾斜面を有する、請求項2に記載のプランジャ。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のプランジャと、前記シリンジとを備える、シリンジ型噴出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリンジ内に押し込み可能なプランジャ、並びに当該プランジャ及びシリンジを備えるシリンジ型噴出器であって、プランジャの押し込み量を切り替える技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンジ型噴出器には、例えば、シリンジ内にプランジャを押し込んで薬液などの内容物を取り出すものがあるが、従来のシリンジ型噴出器は、シリンジ内にプランジャを押し込むにすぎないため、内容物の噴出量を定量的に調整することが困難であった。
【0003】
上記の問題に対して、特許文献1には、プランジャに切断可能なストッパを設け、ストッパが付いた状態でプランジャを押圧することでプランジャの押圧距離が制限されて第1段の内容物の噴出を行い、ストッパをプランジャから切断した状態でプランジャを押圧することで全量を噴出させる、又は第2段の内容物を噴出させることが可能な定量シリンジ型噴出器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-208391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の定量シリンジ型噴出器では、シリンジ内の内容液の全量を噴出させる、又は第2段の噴出を行わせる際にプランジャからストッパを切り離す必要があり、操作性について改善の余地があった。
【0006】
本開示の目的とするところは、シリンジ内の内容物の一部を定量的に噴出することができると共に操作性を向上させた、プランジャ、及びシリンジ型噴出器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示に係るプランジャは、
[1]
シリンジ型噴出器のシリンジ内に押し込み可能なプランジャであって、
前記プランジャは、先端にピストンが装着された第1シャフト部材と、該第1シャフト部材の後部に係合する第2シャフト部材とを有し、
前記第1シャフト部材は、中心軸線方向に延びる第1主軸と、該第1主軸に連なり後方に向かって延びる少なくとも1つの弾性片とを有し、該弾性片には、前記シリンジの後端開口部から進入して該シリンジの内周面を摺動可能な摺動突起と、前記シリンジの後端に係止される係止突起とが設けられており、
前記第2シャフト部材は、中心軸線方向に延びる第2主軸と、前記係止突起に対向し、前記係止突起に係合可能な径方向規制部とを有し、
前記弾性片は、
前記第2シャフト部材の前方への押圧によって前記係止突起が前記シリンジの後端部に係止され、前記弾性片の更なる前記シリンジ内への移動を制限する一部噴出位置と、
前記弾性片の径方向内側への押圧によって前記係止突起が前記径方向規制部を乗り越えて径方向内側に移動し、前記係止突起が前記シリンジ内に移動可能となる全量噴出位置と
の間で移動可能であることを特徴とする。
【0008】
また、本開示のプランジャは、
[2]
上記[1]に記載の構成において、前記係止突起は、後方に突出すると共に、前記全量噴出位置において前記径方向規制部に係合する径方向規制突起を有することが好ましい。
【0009】
また、本開示のプランジャは、
[3]
上記[1]又は[2]に記載の構成において、前記第2シャフト部材は、前記第1シャフト部材の後部を受け入れる挿入筒部を有し、前記挿入筒部の内面に設けた軸方向規制部が、前記第1シャフト部材の後部に係合することが好ましい。
【0010】
また、本開示のプランジャは、
[4]
上記[3]に記載の構成において、前記第1シャフト部材の後部の外面には、前記軸方向規制部に係合すると共に中心軸線方向に並んで配置された2つの係合部を有し、該2つの係合部の間には前方に向かって径方向外側に傾斜する第1傾斜面が設けられ、前記軸方向規制部には、前方に向かって径方向外側に傾斜する第2傾斜面が設けられていることが好ましい。
【0011】
また、本開示のプランジャは、
[5]
上記[2]、又は[2]に従属する[3]若しくは[4]に記載の構成において、前記径方向規制突起の径方向内側面は、前方に向かって径方向内側に傾斜する第3傾斜面を有することが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するために、本開示に係るシリンジ型噴出器は、
[6]
上記[1]から[5]のいずれかに記載のプランジャと、前記シリンジとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、シリンジ内の内容物の一部を定量的に噴出することができると共に操作性を向上させた、プランジャ、及びシリンジ型噴出器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の一実施形態であるシリンジ型噴出器の正面一部断面図である。
図2図1におけるA部詳細図である。
図3】本開示の一実施形態であるシリンジ型噴出器において、弾性片が一部噴出位置に位置決めされた状態を示す、正面一部断面図である。
図4図3の状態からプランジャを押し込むことにより、係止突起がシリンジの後端部に係止された状態を示す、正面一部断面図である。
図5】本開示の一実施形態であるシリンジ型噴出器において、弾性片が全量噴出位置に位置決めされた状態を示す、正面一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本開示の一実施形態であるシリンジ型噴出器1及びこれに用いられるプランジャ3について詳細に説明する。
【0016】
図1において、符号2は、例えば点鼻薬やワクチン等の内容物Cを充填可能なシリンジである。なお、本明細書、特許請求の範囲、要約書および図面では、内容物Cが噴出する方向(図1における下方向)を前方(先端方向)とし、第2シャフト部材3bが位置する側(図1における上方向)を後方(基端方向)とする。また、径方向外側とは、図1におけるシリンジ型噴出器1及びプランジャ3の中心軸線Oを通り中心軸線Oに垂直な直線に沿って中心軸線Oから離れる方向であり、径方向内側とは、当該直線に沿って中心軸線Oに向かう方向を意味するものとする。
【0017】
シリンジ2は、中空の胴部2aを有し、この胴部2aには、肩部2bを介して先端部2cが一体に繋がっている。先端部2cは、胴部2aよりも小径としてなる。また、胴部2aの後端には、拡径されたシリンジ後端部2d0が設けられ、このシリンジ後端部2d0にフランジ部2dが装着されている。つまり、前記フランジ部2dがシリンジ2の後端を構成している。
【0018】
符号6は、シリンジ2の先端部2cに装着されるノズルである。ノズル6は、噴霧チップ5を内蔵し、先端貫通孔A1を通って圧送された点鼻薬やワクチン等の内容物Cを噴出孔A0より噴霧させることができる。
【0019】
符号3は、シリンジ2内に収納されるプランジャである。プランジャ3は、第1シャフト部材3aと、この第1シャフト部材3aの後方に配置され装着される第2シャフト部材3bとを有している。
【0020】
第1シャフト部材3aは、中心軸線O方向に延びる第1主軸3a4と、第1主軸3a4に連なり後方に延びる副軸3a40と、第1主軸3a4の後部における副軸3a40の径方向外側から後方に向かって延びる2つの弾性片3a1とを有している。弾性片3a1には、シリンジ2の後端開口部A2から進入してシリンジ2の内周面2fを摺動可能な摺動突起3a2と、シリンジ2の後端に設けたフランジ部2dに係止される係止突起3a3とが設けられている。第1主軸3a4の先端部には、ピストン4が装着されている。ピストン4は、例えば、ゴムなどの弾性材料からなり、シリンジ2の胴部2aの内周面2fに摺動可能に保持されている。
【0021】
シリンジ2とピストン4との間には空間Rが形成されている。空間Rには、内容物Cが充填される。空間Rに充填された内容物Cは、プランジャ3の押し込みによって、先端部2cに形成した先端貫通孔A1に圧送される。
【0022】
第1シャフト部材3aの後部(副軸3a40)の外面には、図2に示すように、後述する第2シャフト部材3bの軸方向規制部3f2に係合すると共に中心軸線O方向に並んで配置された、径方向内側に凹む2つの係合部(第1係合部3a41及び第2係合部3a43)が設けられている。また、第1係合部3a41及び第2係合部3a43の間の軸方向位置には、前方に向かって径方向外側に傾斜する第1傾斜面3a42が設けられている。
【0023】
第1シャフト部材3aの弾性片3a1には、摺動突起3a2と係止突起3a3とが設けられている。摺動突起3a2と係止突起3a3は、摺動突起3a2、係止突起3a3の順で、中心軸線Oに沿って後方に向かって間隔を置いて設けられている。摺動突起3a2は、先端に向かって先細りに傾斜するテーパ部3a21を有する。これにより、摺動突起3a2は、シリンジ2の後端開口部A2から進入して、シリンジ2の内周面2fを摺動可能となるため、プランジャ3の押し込みを許容する。また、摺動突起3a2と係止突起3a3とは薄肉部3a6によって連結され、摺動突起3a2を起点として弾性片3a1が撓み変形し易いように構成されている。弾性片3a1が後述する一部噴出位置にあるとき(図3及び図4参照)、係止突起3a3は、後述のように、シリンジ2の後端に設けられたフランジ部2dの内周端に引っ掛かってプランジャ3の押し込みを阻止する。他方、弾性片3a1が後述する全量噴出位置にあるとき(図5参照)、弾性片3a1は、第2シャフト部材3bの前方への押圧によってシリンジ2内に収容されるように配置される。なお、図1に示すように、初期状態(一部噴出位置)における摺動突起3a2の外径は、シリンジ2の内径よりも大きく形成されている。
【0024】
第1シャフト部材3aは、図1等に示すように、ピストン4を固定する第1主軸3a4を有し、弾性片3a1はそれぞれ、第1主軸3a4の後部に連結されている。第1主軸3a4は、例えば、円板状の前壁及び後壁の間に、十字形断面形状となるように前後方向に延びる2つの壁面が中央で直角に交わるように配置された形状のものを採用することができる。これにより、弾性片3a1は、第1主軸3a4との連結部分を固定端として、係止突起3a3が設けられている自由端側を変形および復元可能に撓み変形させることができる。
【0025】
係止突起3a3は、弾性片3a1の自由端側に一体に形成されている。また、係止突起3a3の後端面は、図2に示すように、第2シャフト部材3bからの押圧力を受ける第1受圧面3a34及び第2受圧面3a32として形成されている。第1受圧面3a34は、図3に示すように、弾性片3a1が一部噴出位置にあるときに、第2シャフト部材3bの径方向規制部3f1の先端部から前方への圧力を受けて第1シャフト部材3a及びピストン4を前方へと移動させる。第2受圧面3a32は、図5に示すように、弾性片3a1が全量噴出位置にあるときに、第2シャフト部材3bの径方向規制部3f1の先端部から前方への圧力を受けて第1シャフト部材3a及びピストン4を前方へと移動させる。
【0026】
第1受圧面3a34と第2受圧面3a32との間の径方向位置には、後方に突出すると共に、図5に示す弾性片3a1の全量噴出位置において径方向規制部3f1に係合する径方向規制突起3a31が設けられている。径方向規制突起3a31は、図5に示すように、利用者が弾性片3a1を白抜き矢印の方向(径方向内側に向かう方向)に押圧したときに、径方向規制突起3a31が第2シャフト部材3bの径方向規制部3f1を乗り越えて径方向内側まで移動した後、弾性片3a1が再び径方向外側に戻らないように径方向規制部3f1に径方向内側から当接する。これによって、弾性片3a1は、図5に示す全量噴出位置において径方向外側への移動を規制されている。
【0027】
径方向規制突起3a31における径方向内側の側面には、図2等に示すように、前方に向かって径方向内側に傾斜する第3傾斜面3a33が設けられている。第3傾斜面3a33は、図3の状態から利用者が第2シャフト部材3bを前方に押圧し、摺動突起3a2がシリンジ2内を摺動するとき、径方向規制部3f1がこの第3傾斜面3a33に乗り上げて、係止突起3a3の径方向外側への変位を促進するように第3傾斜面3a33を下方に押圧する(図4参照)。従って、弾性片3a1の一部噴出位置において係止突起3a3を径方向外側へと確実に変位させてシリンジ2の後端部に係止させることができる。
【0028】
第2シャフト部材3bは、図1及び図2に示すように、中心軸線O方向に延びる第2主軸3b4と、第2主軸3b4から前方に延び第1シャフト部材3aの後部(副軸3a40)を受け入れる挿入筒部3fと、第2主軸3b4の後端部から径方向外側に延在し利用者がプランジャ3を前方に押し込むための押圧フランジ3b1とを備えている。挿入筒部3fの前部における弾性片3a1に対応する周方向位置には、弾性片3a1が配置される切り欠き部3f5が設けられている。また、挿入筒部3fにおける弾性片3a1に対応する周方向位置には、係止突起3a3に対向し、係止突起3a3に係合可能な径方向規制部3f1が設けられている。径方向規制部3f1は、挿入筒部3fにおける周方向2箇所において前方に突出する突部として形成されており、第1シャフト部材3aの径方向規制突起3a31に係合して弾性片3a1の径方向外側への変位を規制するとともに、第1受圧面3a34及び第2受圧面3a32を押圧して第1シャフト部材3aをシリンジ2内に押し込む。
【0029】
挿入筒部3fの内面における径方向規制部3f1と同じ周方向位置には、図2等に示すように、径方向内側に突出する軸方向規制部3f2が設けられている。軸方向規制部3f2は、図2等に示すように、第1シャフト部材3aの後部(副軸3a40)に溝部として設けた第1係合部3a41及び第2係合部3a43に係合して第1シャフト部材3aに対する第2シャフト部材3bの中心軸線O方向の相対移動を規制している。特に、第2シャフト部材3bが第1シャフト部材3aに対して後方に相対変位しないように、第1係合部3a41及び第2係合部3a43における後方側の壁部が中心軸線Oに対して略直角となるように形成されており、軸方向規制部3f2の後端面に当接するように構成されている。
【0030】
また、軸方向規制部3f2の下部には、図2に示すように、前方に向かって径方向外側に傾斜する第2傾斜面3f3が設けられている。第2傾斜面3f3は、図2に示すように、軸方向規制部3f2が第1係合部3a41に係合しているとき、第1係合部3a41と第2係合部3a43との間に設けられた第1傾斜面3a42に当接している。この構成によって、第2シャフト部材3bに前方方向の押圧力がかけられたとき、第1係合部3a41内に嵌合している軸方向規制部3f2は、第2傾斜面3f3が第1傾斜面3a42上を前方に向かって滑ることによって比較的小さな押圧力で第2係合部3a43内に係合することができる。
【0031】
次に、内容物Cとして点鼻薬やワクチンを用いる場合を例に、本実施形態の使用方法を説明する。
【0032】
利用者は先ず、図2に示すように、弾性片3a1が一部噴出位置に位置し(径方向内側に弾性変形していない状態)、軸方向規制部3f2が第1係合部3a41に係合し、径方向規制部3f1が係止突起3a3から離隔した状態から第2シャフト部材3bの押圧フランジ3b1を前方に向けて押し込む。この操作によって、第1係合部3a41内に嵌合している軸方向規制部3f2は、第2傾斜面3f3が第1傾斜面3a42上を前方に向かって滑ることによって比較的小さな押圧力で第2係合部3a43内に係合する。また、第2シャフト部材3bの径方向規制部3f1の前端部が第1シャフト部材3aの第1受圧面3a34に当接し、前方への押圧を開始する(図3参照)。
【0033】
第1シャフト部材3aが、図3に示す状態から前方に押し込まれると、やがて第1シャフト部材3aの摺動突起3a2がシリンジ2のフランジ部2dに当接する。このとき、第1シャフト部材3aの摺動突起3a2は、先端に向かって先細りするテーパ部3a21を有しているため、第1シャフト部材3aはシリンジ2の後端開口部A2からシリンジ2内に進入することができる。
【0034】
摺動突起3a2がシリンジ2内に進入すると、図4に示すように摺動突起3a2の径方向外側縁がシリンジ2により拘束されて径方向内側に変位する。これによって、係止突起3a3も径方向内側に変位しようとするが、径方向規制部3f1が第3傾斜面3a33に当接するため、係止突起3a3は径方向規制部3f1から径方向外側方向への押圧力を受けて薄肉部3a6を屈曲させながら径方向外側へと変位する(図4参照)。これによって、係止突起3a3は、シリンジ2のフランジ部2dにより係止されるため、プランジャ3は、前方への変位を規制される。
【0035】
弾性片3a1に設けた係止突起3a3がフランジ部2dの後端に接触すると、図4に示すように、プランジャ3を押し込むことができなくなるので、空間Rに一定量の内容物C(点鼻薬)を残した状態で噴出は終了する。なお、噴出される内容物Cの容量は、使用目的に応じて適宜選択できるが、例えば、図1における空間Rの容量の半分とすることができる。
【0036】
図4に示すようにプランジャ3の係止突起3a3がフランジ部2dの後端に係止されたとき、軸方向規制部3f2は既に第2係合部3a43に係合して上方への変位を規制されているため、係止突起3a3の第1受圧面3a34及び第3傾斜面3a33は、径方向規制部3f1によって上方からも係止されている。この構成によって、係止突起3a3はもはや径方向内側方向に移動することができず、係止突起3a3はフランジ部2dの後端に係止された状態から元に戻ることができない。従って、利用者は、図4の状態からいかなる操作によってもプランジャ3を更にシリンジ2内に押し込むことができないので、シリンジ型噴出器1の再使用を抑制することができる。
【0037】
このように、本実施形態では、係止突起3a3がシリンジ2のフランジ部2dにより係止された状態となるまでに、シリンジ2内の内容物Cの半分が噴出孔A0から噴出されるように構成することができる。このような構成によって、例えばシリンジ2として点鼻薬があらかじめ充填されたプレフィルドシリンジを用いる場合、図3及び図4に示すように、弾性片3a1を一部噴出位置としてプランジャ3を前方に押圧することによって一部の内容物Cのみを噴霧することができる。すなわち、プランジャ3の位置が図4に示す位置で規制されるため、シリンジ2内の内容物Cの半分のみを定量的に噴出させることができる。また、シリンジ2として、インフルエンザや日本脳炎などの感染症予防ワクチン0.5mlを内容物Cとして収容したプレフィルドシリンジを用いた場合、3歳未満の接種対象者に対して内容物Cを接種する際にも、弾性片3a1を一部噴出位置としてプランジャ3を前方に押圧すればよい。これによって、プランジャ3の位置が図4に示す位置で規制されるため、プレフィルドシリンジに収容されていた0.5mlの内容物Cのうち0.25mlだけを正確に接種対象者に接種することができる。このように、本実施形態によりシリンジ2内の内容物Cの一部を定量的に噴出することができると共に操作性を向上させた、プランジャ3、及びシリンジ型噴出器1を提供することができる。
【0038】
一方、シリンジ2内の内容物Cの全量を噴出する場合には、プランジャ3を前方に押圧する前に、以下の操作を行う。すなわち、図5に示すように第2シャフト部材3bの軸方向規制部3f2が第1シャフト部材3aの第1係合部3a41に係合している状態で、利用者が白抜き矢印で示すように弾性片3a1の摺動突起3a2を径方向内側に押し込む(弾性片3a1が全量噴出位置にある状態)。この操作によって、弾性片3a1の後端部に設けられた係止突起3a3は、薄肉部3a6を屈曲させながら第2シャフト部材3bの径方向規制部3f1を乗り越えて径方向内側に移動する。本実施形態では、この係止突起3a3の径方向内側への移動によって、係止突起3a3の径方向外縁部は、シリンジ2の内面よりも径方向内側に位置する。そのため、続いて利用者が押圧フランジ3b1を前方に押し込むことによって、係止突起3a3がシリンジ2の後端部で係止されることなく、プランジャ3はシリンジ2内を前方に進むことができる。プランジャ3先端のピストン4は、シリンジ2内の内容物Cの全てを噴出孔A0から噴出させることができる。従って、利用者は、弾性片3a1の摺動突起3a2を径方向内側に押し込むことで弾性片3a1を全量噴出位置に移動させるという容易な操作によって、対象者(ワクチンの場合は3歳以上)に対してシリンジ2内の点鼻薬やワクチンの全量を接種することができる。
【0039】
以上のように、本実施形態は、シリンジ型噴出器1のシリンジ2内に押し込み可能なプランジャ3であって、プランジャ3は、先端にピストン4が装着された第1シャフト部材3aと、第1シャフト部材3aの後部に係合する第2シャフト部材3bとを有し、第1シャフト部材3aは、中心軸線O方向に延びる第1主軸3a4と、第1主軸3a4に連なり後方に向かって延びる少なくとも1つの弾性片3a1とを有し、弾性片3a1には、シリンジ2の後端開口部A2から進入してシリンジ2の内周面2fを摺動可能な摺動突起3a2と、シリンジ2の後端に係止される係止突起3a3とが設けられており、第2シャフト部材3bは、中心軸線O方向に延びる第2主軸3b4と、係止突起3a3に対向し、係止突起3a3に係合可能な径方向規制部3f1とを有し、弾性片3a1は、第2シャフト部材3bの前方への押圧によって係止突起3a3がシリンジ2の後端部に係止され、弾性片3a1の更なるシリンジ2内への移動を制限する一部噴出位置と、弾性片3a1の径方向内側への押圧によって係止突起3a3が径方向規制部3f1を乗り越えて径方向内側に移動し、係止突起3a3がシリンジ2内に移動可能となる全量噴出位置との間で移動可能であるように構成した。このような構成の採用によって、弾性片3a1が一部噴出位置にあるときは、係止突起3a3がシリンジ2の後端部に係止されるまでの間、シリンジ2内に充填されている内容物Cの一部を定量的に噴出させることができる。また、弾性片3a1を径方向内側に押し込んで全量噴出位置へと移動させるという容易な操作によって、シリンジ2内の内容物Cの全てを噴出させることができるので、内容物Cの噴出量の切り替え操作を向上させることができる。
【0040】
また、本実施形態では、係止突起3a3は、後方に突出すると共に、全量噴出位置において径方向規制部3f1に係合する径方向規制突起3a31を有するように構成した。このような構成の採用によって、利用者が弾性片3a1を径方向内側に押圧すると、径方向規制突起3a31が径方向規制部3f1と係合して弾性片3a1を径方向外側へ戻らないように係止する。従って、弾性片3a1を安定的に全量噴出位置に維持して、シリンジ2内の内容物Cを全量噴出させることができる。
【0041】
また、本実施形態では、第2シャフト部材3bは、第1シャフト部材3aの後部を受け入れる挿入筒部3fを有し、挿入筒部3fの内面に設けた軸方向規制部3f2が、第1シャフト部材3aの後部(副軸3a40)に係合するように構成した。このような構成の採用によって、第2シャフト部材3bが第1シャフト部材3aに対して後方に相対移動するのを抑制して、係止突起3a3と径方向規制部3f1との係合を確実に行わせることができる。
【0042】
また、本実施形態では、第1シャフト部材3aの後部の外面には、軸方向規制部3f2に係合すると共に中心軸線O方向に並んで配置された2つの係合部(第1係合部3a41及び第2係合部3a43)を有し、2つの係合部の間には前方に向かって径方向外側に傾斜する第1傾斜面3a42が設けられ、軸方向規制部3f2には、前方に向かって径方向外側に傾斜する第2傾斜面3f3が設けられるように構成した。このような構成の採用によって、第2傾斜面3f3が第1傾斜面3a42上を前方に滑ることによって、比較的小さな力で軸方向規制部3f2が第1係合部3a41に係合した状態から第2係合部3a43に係合した状態へと遷移させることができる。従って、図4に示す一部噴出位置において、押圧フランジ3b1の前方への押圧によって軸方向規制部3f2が第2係合部3a43に係合した状態へと容易に遷移させて径方向規制部3f1を係止突起3a3により近づけることができる。この構成によって、一部噴出位置において係止突起3a3を径方向外側へと確実に変位させることができる。
【0043】
また、本実施形態では、径方向規制突起3a31の径方向内側面は、前方に向かって径方向内側に傾斜する第3傾斜面3a33を有するように構成した。このような構成の採用によって、第3傾斜面3a33は、図3の状態から利用者が第2シャフト部材3bを前方に押圧し、摺動突起3a2がシリンジ2内を摺動するとき、径方向規制部3f1がこの第3傾斜面3a33に乗り上げて、係止突起3a3の径方向外側への変位を促進するように第3傾斜面3a33を下方に押圧する(図4参照)。従って、弾性片3a1の一部噴出位置において係止突起3a3を径方向外側へと確実に変位させてシリンジ2の後端部に係止させることができる。
【0044】
本開示を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成部に含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成部を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。本発明の範囲にはこれらも包含されるものと理解されたい。
【0045】
例えば、弾性片3a1は、少なくとも1箇所に設けることができるが、一部噴出位置においてプランジャ3を確実に停止させて正確な一部噴出を実現する場合には、本実施形態のように複数設けることが好ましい。特に、本実施形態のように、対向位置に一対となるように配置すれば、中心軸線O周りのバランスが安定するため、良好な操作が実現できる。上述の実施形態では、内容物Cを通常の液体として噴出させるものとして説明したが、本開示に従えば、泡として噴出させ、又は霧状態で噴出させるなど、内容物Cを様々な形態で噴出させることができる。
【0046】
また、内容物Cは点鼻薬やワクチンに限定されることなく、様々なものを採用することができる。また、内容物Cにワクチンを用いる場合には、本実施形態の内容物Cを噴霧可能なノズル6に代えて注射針を用いることが好ましく、内容物C等に応じて任意の先端形状とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本開示は、シリンジ2内に押し込み可能なプランジャ3、並びにシリンジ2及びプランジャ3を備えるシリンジ型噴出器1であれば、様々な形態のものに採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 シリンジ型噴出器
2 シリンジ
2a 胴部
2b 肩部
2c 先端部
2d フランジ部
2d0 シリンジ後端部
2f 内周面
3 プランジャ
3a 第1シャフト部材
3a1 弾性片
3a2 摺動突起
3a21 テーパ部
3a3 係止突起
3a31 径方向規制突起
3a32 第2受圧面
3a33 第3傾斜面
3a34 第1受圧面
3a4 第1主軸
3a40 副軸
3a41 第1係合部
3a42 第1傾斜面
3a43 第2係合部
3a6 薄肉部
3b 第2シャフト部材
3b1 押圧フランジ
3b4 第2主軸
3f 挿入筒部
3f1 径方向規制部
3f2 軸方向規制部
3f3 第2傾斜面
3f5 切り欠き部
4 ピストン
5 噴霧チップ
6 ノズル
A0 噴出孔
A1 先端貫通孔
A2 後端開口部
C 内容物
O 中心軸線
R 空間
図1
図2
図3
図4
図5