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特開2024-172548デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172548
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/70 20060101AFI20241205BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C12N15/70 Z
C12N1/21 ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090336
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】501061319
【氏名又は名称】学校法人 東洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(72)【発明者】
【氏名】鳴海 一成
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA56
(57)【要約】
【課題】
デイノコッカス・グランディスに対して発現プラスミドを安定的に導入および保持することができる、デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明により、主に、デイノコッカス・グランディスの内在性プラスミドpDEGR-3または内在性プラスミドpDEGR-3および91,291bpの内在性プラスミドを除去することで改変したデイノコッカス・グランディス宿主細胞;デイノコッカス・グランディスの内在性プラスミドpDEGR-3の複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミド;およびデイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミドを含む宿主ベクター系が提供される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デイノコッカス・グランディスの形質転換のための方法であって、以下の:
(1)デイノコッカス・グランディスから内在性プラスミドpDEGR-3または内在性プラスミドpDEGR-3および91,291bpの内在性プラスミドpDEGR-PLを除去して、遺伝子組換え微生物宿主細胞を得ること;
(2)以下のシャトルベクタープラスミドを構築すること:
a.上記(1)で除去されたpDEGR-3の複製開始領域および大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミド;
b.デイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域および大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミド;または
c.上記aのシャトルベクタープラスミドおよび上記bのシャトルベクタープラスミドであって、ただしそれら2つのシャトルベクタープラスミドは、互いに異なる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含む、前記シャトルベクタープラスミド;
(3)以下の発現プラスミドを構築すること:
a’.宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、上記aで構築したシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミド;
b’.宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、上記bで構築したシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミド;または
c’.宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、上記cで構築した各々のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミドであって、ただし各々のシャトルベクタープラスミドに挿入される目的遺伝子が互いに異なる、前記発現プラスミド;
(4)上記(3)で構築した発現プラスミドを大腸菌に導入して増幅させること;および
(5)上記(4)で増幅させた発現プラスミドにより上記(1)の宿主細胞を形質転換すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記aのシャトルベクタープラスミドに含まれるpDEGR-3の複製開始領域が、pDEGR-3由来のレプリコンであるpDEGR-3 repに相当する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記bのシャトルベクタープラスミドに含まれるデイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域が、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 repに相当する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(2)のシャトルベクタープラスミドが、さらにスクリーニングマーカーとしての抗生物質耐性遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
さらに、
(3’)宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、デイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミドであって、ただし該目的遺伝子が前記a’~c’の目的遺伝子のいずれとも異なり、且つ、該シャトルベクタープラスミドが前記a’~c’に含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域とは異なる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含む、前記発現プラスミドを構築すること;
(4’)上記(3’)で構築した発現プラスミドを大腸菌に導入して増幅させること;および
(5’)上記(4’)で増幅させた発現プラスミドにより上記(1)の宿主細胞を形質転換すること、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(3’)のシャトルベクタープラスミドが、さらにスクリーニングマーカーとしての抗生物質耐性遺伝子を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
デイノコッカス・グランディスの内在性プラスミドpDEGR-3由来のレプリコンであるpDEGR-3 rep領域、大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコンであるp15A ori領域およびスクリーニングマーカーとしての抗生物質耐性遺伝子を含む、シャトルベクタープラスミド。
【請求項8】
前記抗生物質耐性遺伝子が、大腸菌ベクターpGBM5由来のストレプトマイシン耐性遺伝子であるaad遺伝子である、請求項7に記載のシャトルベクタープラスミド。
【請求項9】
デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 rep領域、大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコンであるpSC101 ori rep領域およびスクリーニングマーカーとしての第2の抗生物質耐性遺伝子を含む、シャトルベクタープラスミド。
【請求項10】
前記第2の抗生物質耐性遺伝子が、大腸菌ベクターpcDNA3.1CAT由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子であるcat遺伝子である、請求項9に記載のシャトルベクタープラスミド。
【請求項11】
請求項7または8に記載のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を挿入した、発現プラスミド。
【請求項12】
請求項9または10に記載のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を挿入した、発現プラスミド。
【請求項13】
請求項11に記載の発現プラスミドが請求項1に記載の遺伝子組換え微生物宿主細胞に導入されている、形質転換体。
【請求項14】
請求項12に記載の発現プラスミドが請求項1に記載の遺伝子組換え微生物宿主細胞に導入されている、形質転換体。
【請求項15】
請求項11に記載の発現プラスミドおよび請求項12に記載の発現プラスミドであって、ただし各々の発現プラスミドには互いに異なる目的遺伝子が挿入されている前記発現プラスミドが、請求項1に記載の遺伝子組換え微生物宿主細胞に導入されており、それにより2種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
【請求項16】
請求項13に記載の形質転換体に対して第2の発現プラスミドがさらに導入され、ただし該第2の発現プラスミドはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入された第2の1つ以上の目的遺伝子を含み、且つ、該シャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はp15A ori領域ではなく、それにより2種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
【請求項17】
請求項14に記載の形質転換体に対して第2の発現プラスミドがさらに導入され、ただし該第2の発現プラスミドはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入された第2の1つ以上の目的遺伝子を含み、且つ、該シャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はpSC101 ori rep領域ではなく、それにより2種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
【請求項18】
請求項15に記載の形質転換体に対して第3の発現プラスミドがさらに導入され、ただし該第3の発現プラスミドはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入された第3の1つ以上の目的遺伝子を含み、且つ、該シャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はp15A ori領域でもpSC101 ori rep領域でもなく、それにより3種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デイノコッカス・グランディス(Deinococcus grandis)の形質転換の方法に関する。特に、外来プラスミドを導入するために改変されたデイノコッカス・グランディスの利用に関する。また、デイノコッカス・グランディスと大腸菌のシャトルベクタープラスミド、当該シャトルベクタープラスミドを利用した目的遺伝子の発現プラスミドおよび当該発現プラスミドを導入した形質転換体に関する。
【背景技術】
【0002】
生物の放射線耐性は、生物の種によって大きく異なる。これまでに、放射線に極めて強い抵抗性を持つ細菌群が知られており、それらは放射線抵抗性細菌と呼ばれている。これらの放射線抵抗性細菌に、難分解性の物質や有害な物質などを除去する機能を持つ遺伝子や、元素の細胞内取り込みに関わる遺伝子を遺伝子工学的手法により導入したり高発現させることができれば、放射性核種で汚染された廃棄物中に含まれる難分解性の物質や有害な物質を除去したり、放射性物質で汚染された土壌や河川から放射性核種を除去したりすることが可能となる。したがって、放射線抵抗性細菌の遺伝子工学的手法による形質転換は、放射性物質除去関連のバイオレメディエーション技術として非常に有用である。
【0003】
放射線抵抗性細菌の中で最も研究が盛んであり、遺伝子工学的手法が使用できる細菌は、デイノコッカス(Deinococcus)属細菌である。デイノコッカス属細菌の放射線耐性は、大腸菌の約100倍以上で、ヒトの細胞の約1000倍以上であることが知られている。デイノコッカス属細菌の中で、特に研究報告が多いものはデイノコッカス・ラジオデュランス(D.radiodurans)である。デイノコッカス・ラジオデュランスは、生育至適温度が30℃の中温菌であり、通常、四連球菌の形態をとる。この細菌は、ポリプロイド(細胞あたり4~10コピーのゲノム)であり、高い自然形質転換能を持つことが知られている。デイノコッカス属細菌が示す強い放射線抵抗性は、主に、その極めて高いDNA修復能力によるものと考えられている。
【0004】
現在までに、デイノコッカス・ラジオデュランスを用いたバイオレメディエーション技術の例として、デイノコッカス・ラジオデュランスの染色体上でシュードモナス・プチダ由来のトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子を発現させ、難分解性のトルエンをより分解しやすい物質に変換した例(非特許文献1);デイノコッカス・ラジオデュランスの染色体上で大腸菌由来の2価水銀イオン還元遺伝子を発現させ、2価水銀イオンをより毒性の低い揮発性金属水銀に還元した例(非特許文献2);デイノコッカス・ラジオデュランスを宿主として、サルモネラ・エンテリカ・タイフィ由来の非特異的酸性フォスファターゼ遺伝子またはスフィンゴモナス属細菌由来のアルカリフォスファターゼ遺伝子をプラスミド上で発現させ、硝酸ウラニル溶液からウランを沈殿させた例(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5);放射能環境におけるセルロース系廃棄物のバイオレメディエーションに資することを目的として、デイノコッカス・ラジオデュランスを宿主として、バチルス・プミルス由来のエンドグルカナーゼ遺伝子をプラスミド上で発現させた例(非特許文献6);デイノコッカス・ラジオデュランスを宿主として、フィトケラチンアナログをコードする合成遺伝子またはシネココッカス属細菌由来のメタロチオネイン遺伝子をプラスミド上で発現させ、カドミウム蓄積能を向上させた例(非特許文献7);および、デイノコッカス・ラジオデュランスを宿主として、ロドシュードモナス・パルストリスあるいはノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス由来のニッケル/コバルトトランスポーター遺伝子をプラスミド上で発現させ、放射能汚染水からの放射性コバルトの除去効率を向上させた例(非特許文献8)がある。また、デイノコッカス・ジオサーマリスを宿主として、大腸菌由来の2価水銀イオン還元遺伝子をプラスミド上で発現させ、2価水銀イオンをより毒性の低い揮発性金属水銀に還元した例がある(非特許文献9)。
【0005】
デイノコッカス属細菌に関する遺伝子工学的手法に関連して、これまでにデイノコッカス・ラジオデュランスあるいはデイノコッカス・ジオサーマリス(D.geothermalis)を宿主として外来遺伝子を発現させるためのプラスミドベクターは、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来プラスミドpUE10のレプリコンと大腸菌ベクターを用いて開発されたデイノコッカス・ラジオデュランス-大腸菌シャトルベクターpI3およびその派生プラスミドに限られており(非特許文献10、非特許文献11)、pI3系以外のレプリコンを持つプラスミドベクターを用いて外来遺伝子を発現させた例はない。
【0006】
また、デイノコッカス属細菌のDNA修復遺伝子の機能解析の過程で、pI3系プラスミドが、デイノコッカス・デザーティ(D.deserti)でも複製できることが報告されているが(非特許文献12)、現在までにデイノコッカス・デザーティを用いたバイオレメディエーションの研究例は報告されていない。また、デイノコッカス・デザーティで複製可能なプラスミドベクターは、pI3系プラスミドに限られており、pI3系以外のレプリコンを持つプラスミドベクターを用いてデイノコッカス・デザーティを形質転換した例はない。
【0007】
また、デイノコッカス・グランディスを宿主として遺伝子を発現させるためのプラスミドベクターpZT15およびその派生プラスミドが開発されており(特許文献1、非特許文献13を参照。)、デイノコッカス・グランディスのrodZ遺伝子欠失株を宿主として、プラスミド上でデイノコッカス・グランディスのrodZ遺伝子を発現させ、相補株を作製した例があるが(非特許文献14)、現在までにデイノコッカス・グランディスを用いたバイオレメディエーションの研究例は報告されていない。また、pZT15系プラスミド以外のレプリコンを持つプラスミドがデイノコッカス・グランディスで複製できることを示した例はない。
【0008】
デイノコッカス・グランディスの標準株(ATCC43672)のゲノムは、3,241,502bpの染色体、389,567bpのプラスミド(pDEGR-1)、373,915bpのプラスミド(pDEGR-2)、91,291bpのプラスミド(いずれの先行技術文献もこのプラスミドの特定の名称を記載していないため、本明細書では「pDEGR-PL」と呼ぶ。)および8,055bpのプラスミド(pDEGR-3)を持つと報告されており、これらのゲノム配列情報はDNAデータベースで公開されている(非特許文献15、非特許文献16)。これまでに、デイノコッカス・グランディスのこれらのプラスミドをベクター化した例はない。
【0009】
前述のとおり、デイノコッカス属細菌は放射線抵抗性細菌であり、極めて高いDNA修復能力を持つ。したがって、複数のプラスミド上に同じ塩基配列を持つDNA領域が存在すると、相同組換え修復タンパク質群の働きによってプラスミド間の相同組換え反応が高頻度で起こり、複数のプラスミドを安定に菌体内に保持することが極めて難しい。
【0010】
別の問題として、一般に、プラスミドベクターに安定的に組込むことのできるDNA断片のサイズは10kbp程度までとされている。すなわち、サイズが大きなDNA断片を組込んだ発現プラスミドは宿主細胞内で不安定になると考えられている。したがって、特に複数の遺伝子で宿主細胞を形質転換する場合には、1種類のプラスミドに組込む遺伝子の総サイズを減少できるように、複数種類のプラスミドベクターを使用することが望ましい。しかしながら、デイノコッカス・グランディスで使用可能な公知のプラスミドベクターのレパートリーは、あまり多くない。加えて、前述のとおり、複数種類のプラスミドベクターを用いる場合、それらの間の相同組換え反応も抑制しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3845697号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Lange et al.,Nature Biotechnol.,16:929-933,1998
【非特許文献2】Brim et al.,Nature Biotechnol.,18:85-90,2000
【非特許文献3】Appukuttan et al.,Appl.Environ.Microbiol.,72:7873-7878,2006
【非特許文献4】Appukuttan et al.,J.Biotechnol.,154:285-290,2011
【非特許文献5】Kulkarni et al.,J.Hazard.Mater.,262:853-861,2013
【非特許文献6】Telang et al.,3 Biotech,4:57-65,2014
【非特許文献7】Chaturvedi and Archana,Biometals,27:471-482,2014
【非特許文献8】Gogada et al.,Appl.Microbiol.Biotechnol.,99:9203-9213,2015
【非特許文献9】Brim et al.,Appl.Environ.Microbiol.,69:4575-4582,2003
【非特許文献10】Masters and Minton,Plasmid,28:258-261,1992
【非特許文献11】Meima and Lidstrom,Appl.Environ.Microbiol.,66:3856-3867,2000
【非特許文献12】Dulermo et al.,Mol.Microbiol.,74:194-208,2009
【非特許文献13】Satoh et al.,Plasmid,62:1-9,2009
【非特許文献14】Nishino et al.,Microbiology,164:1361-1371,2018
【非特許文献15】Satoh et al.,Genome Announc.,4:e01631-15,2016
【非特許文献16】Shibai et al.,Microbiol.Resour.Announc.,8:e01226-19,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明は、デイノコッカス・グランディスに対して発現プラスミドを安定的に導入および保持することができる、デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系を提供することを課題とする。
【0014】
また、本発明の別の追加的課題は、複数種類のプラスミドベクターを使用することができる、デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者は、デイノコッカス・グランディスの標準株(ATCC43672)の内在性プラスミドを除去(本明細書において、プラスミドに関する場合、用語「除去」と「欠失」は互いに同じ意味を有するものとして用いられる。)することで改変したデイノコッカス・グランディスを宿主細胞として用いることで、当該内在性プラスミドと導入した発現プラスミドとの間の相同組換えを防止することができることを想起した。そこで、当該内在性プラスミドとしてpDEGR-3を除去することを試みたが、当業者が用いる典型的なプラスミド除去法(例えば、Trevors,FEMS Microbiol.Rev.,32:149-157,1986を参照)によってはそれを除去することはできなかった。そのような技術的困難性に直面した本発明者は、後述する特別な方法を見出すことによりpDEGR-3を除去することを試み、当該内在性プラスミドを除去することに成功した。
【0016】
また、本発明者は、デイノコッカス・グランディスの標準株内に存在する91,291bpのサイズを有する内在性プラスミドも除去した。内在性プラスミドpDEGR-PLは、pDEGR-3よりも比較的容易に除去することができた。
【0017】
さらに、本発明者は、上記のようにして改変されたデイノコッカス・グランディス宿主細胞において利用可能なシャトルベクタープラスミド(本明細書において、用語「シャトルベクタープラスミド」、「シャトルベクター」、「シャトルプラスミド」および「プラスミドベクター」は、特に断りのないかぎり互いに同じ意味を有するものとして用いられる。)を構築した。具体的に、本発明の改変デイノコッカス・グランディス宿主細胞からは内在性プラスミドpDEGR-3が除去されていることから、当該pDEGR-3の複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミドを構築した。そして、本発明者は、当該シャトルベクタープラスミドに基づく発現プラスミドが、本発明の改変デイノコッカス・グランディス宿主細胞内で安定に保持されることを実証した。
【0018】
さらに、本発明者は、本発明の改変デイノコッカス・グランディス宿主細胞で利用可能な別のシャトルベクタープラスミドも構築した。具体的に、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 rep領域および、前記のpDEGR-3の複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミドに使用した大腸菌由来プラスミドの複製開始領域とは別の複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミドを構築した。そのようにして、シャトルベクタープラスミド間の相同組換えの可能性が最小化されることで、それら2つのシャトルベクタープラスミドに基づく発現プラスミドの双方が、本発明の改変デイノコッカス・グランディス宿主細胞内で安定に保持された。よって、本発明の第1の態様によれば、以下の方法が提供される。
<1> デイノコッカス・グランディスの形質転換のための方法であって、以下の:
(1)デイノコッカス・グランディスから内在性プラスミドpDEGR-3または内在性プラスミドpDEGR-3および91,291bpの内在性プラスミドpDEGR-PLを除去して、遺伝子組換え微生物宿主細胞を得ること;
(2)以下のシャトルベクタープラスミドを構築すること:
a.上記(1)で除去されたpDEGR-3の複製開始領域および大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミド;
b.デイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域および大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含むシャトルベクタープラスミド;または
c.上記aのシャトルベクタープラスミドおよび上記bのシャトルベクタープラスミドであって、ただしそれら2つのシャトルベクタープラスミドは、互いに異なる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含む、前記シャトルベクタープラスミド;
(3)以下の発現プラスミドを構築すること:
a’.宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、上記aで構築したシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミド;
b’.宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、上記bで構築したシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミド;または
c’.宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、上記cで構築した各々のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミドであって、ただし各々のシャトルベクタープラスミドに挿入される目的遺伝子が互いに異なる、前記発現プラスミド;
(4)上記(3)で構築した発現プラスミドを大腸菌に導入して増幅させること;および
(5)上記(4)で増幅させた発現プラスミドにより上記(1)の宿主細胞を形質転換すること、
を含む、前記方法。
【0019】
また、本発明の第1の態様には、以下の好適な実施形態が含まれる。
<2> 前記aのシャトルベクタープラスミドに含まれるpDEGR-3の複製開始領域が、pDEGR-3由来のレプリコンであるpDEGR-3 repに相当する、上記<1>の方法。
<3> 前記bのシャトルベクタープラスミドに含まれるデイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域が、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 repに相当する、上記<1>の方法。
<4> 前記(2)のシャトルベクタープラスミドが、さらにスクリーニングマーカーとしての抗生物質耐性遺伝子を含む、上記<1>の方法。
【0020】
さらに、デイノコッカス・グランディス宿主細胞での遺伝子発現に利用可能なプラスミドベクターとしてpZT15およびその派生プラスミドが知られている(特許文献1、非特許文献13を参照。)。本発明者は、当該公知のプラスミドベクターが、前記2つの本発明のシャトルベクタープラスミドのいずれとも干渉することなく、本発明の改変デイノコッカス・グランディス宿主細胞内で安定に共存できることを実証した。よって、本発明の第1の態様には、以下の実施形態も含まれる。
<5> さらに、
(3’)宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を、デイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入した発現プラスミドであって、ただし該目的遺伝子が前記a’~c’の目的遺伝子のいずれとも異なり、且つ、該シャトルベクタープラスミドが前記a’~c’に含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域とは異なる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を含む、前記発現プラスミドを構築すること;
(4’)上記(3’)で構築した発現プラスミドを大腸菌に導入して増幅させること;および
(5’)上記(4’)で増幅させた発現プラスミドにより上記(1)の宿主細胞を形質転換すること、
を含む、上記<1>~<4>のいずれかの方法。
<6> 前記(3’)のシャトルベクタープラスミドが、さらにスクリーニングマーカーとしての抗生物質耐性遺伝子を含む、上記<5>の方法。
【0021】
さらに、本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様による方法に使用するのに適した以下のシャトルベクタープラスミドが提供される。
<7> デイノコッカス・グランディスの内在性プラスミドpDEGR-3由来のレプリコンであるpDEGR-3 rep領域、大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコンであるp15A ori領域およびスクリーニングマーカーとしての抗生物質耐性遺伝子を含む、シャトルベクタープラスミド。
<8> 前記抗生物質耐性遺伝子が、大腸菌ベクターpGBM5由来のストレプトマイシン耐性遺伝子であるaad遺伝子である、上記<7>のシャトルベクタープラスミド。
<9> デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 rep領域、大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコンであるpSC101 ori rep領域およびスクリーニングマーカーとしての第2の抗生物質耐性遺伝子を含む、シャトルベクタープラスミド。
<10> 前記第2の抗生物質耐性遺伝子が、大腸菌ベクターpcDNA3.1CAT由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子であるcat遺伝子である、上記<9>のシャトルベクタープラスミド。
【0022】
さらに、本発明の第3の態様によれば、本発明の第2の態様によるシャトルベクタープラスミドに基づく以下の発現プラスミドが提供される。
<11> 上記<7>または<8>のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を挿入した、発現プラスミド。
<12> 上記<9>または<10>のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに宿主細胞内で発現させるための1つ以上の目的遺伝子を挿入した、発現プラスミド。
【0023】
さらに、本発明の第4の態様によれば、本発明の第1の態様による方法により得られる以下の形質転換体が提供される。
<13> 上記<11>の発現プラスミドが上記<1>の遺伝子組換え微生物宿主細胞に導入されている、形質転換体。
<14> 上記<12>の発現プラスミドが上記<1>の遺伝子組換え微生物宿主細胞に導入されている、形質転換体。
<15> 上記<11>の発現プラスミドおよび上記<12>の発現プラスミドであって、ただし各々の発現プラスミドには互いに異なる目的遺伝子が挿入されている前記発現プラスミドが上記<1>の遺伝子組換え微生物宿主細胞に導入されており、それにより2種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
<16> 上記<13>の形質転換体に対して第2の発現プラスミドがさらに導入され、ただし該第2の発現プラスミドはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入された第2の1つ以上の目的遺伝子を含み、且つ、該シャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はp15A ori領域ではなく、それにより2種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
<17> 上記<14>の形質転換体に対して第2の発現プラスミドがさらに導入され、ただし該第2の発現プラスミドはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入された第2の1つ以上の目的遺伝子を含み、且つ、該シャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はpSC101 ori rep領域ではなく、それにより2種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
<18> 上記<15>の形質転換体に対して第3の発現プラスミドがさらに導入され、ただし該第3の発現プラスミドはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入された第3の1つ以上の目的遺伝子を含み、且つ、該シャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はp15A ori領域でもpSC101 ori rep領域でもなく、それにより3種類のプラスミド上の異なる遺伝子の発現が可能な、形質転換体。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、デイノコッカス・グランディスに対して発現プラスミドを安定的に導入および保持することができる、デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系が提供される。また、本発明の追加的な効果として、複数種類のプラスミドベクターを使用することができる、デイノコッカス・グランディス宿主ベクター系が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、デイノコッカス・グランディス標準株(ATCC43672)のコロニーから抽出したプラスミドのアガロース電気泳動像である。レーン1~10は40℃での培養を経て取得したコロニー由来の抽出液、レーン11は40℃での培養を経ていないコントロール由来の抽出液をそれぞれ示しており、レーン1~11すべてにおいて8,055bpのプラスミドpDEGR-3が見られた。
図2図2は、デイノコッカス・グランディスATCC43672の内在性プラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400031遺伝子、DEIGR_400086遺伝子およびDEIGR_400127遺伝子に由来するPCR増幅産物の有無を、アガロースゲル電気泳動によって確認した結果を示す。この図のpDEGR-PLのプラスミドマップ上において、AはDEIGR_400031遺伝子領域のPCR増幅部位、BはDEIGR_400086遺伝子領域のPCR増幅部位、CはDEIGR_400127遺伝子領域のPCR増幅部位を示す。また、この図のアガロース電気泳動像において、Mは市販の直鎖状DNA分子サイズマーカーを示す。レーン1~5はコントロールとして40℃での培養を経ていないデイノコッカス・グランディスATCC43672から調製したゲノムDNAを用いてPCR反応を行ったものであり、レーン6~10は40℃での培養を経て取得したコロニー由来のゲノムを鋳型としてPCR反応を行ったものをそれぞれ示している。また、レーン1と6は染色体に存在するグルタミン合成酵素遺伝子領域(723bp)のPCR産物、レーン2と7はプラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400031遺伝子領域(623bp)のPCR産物、レーン3と8はプラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400086遺伝子領域(659bp)のPCR産物、レーン4と9はプラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400127遺伝子領域(687bp)のPCR産物、レーン5と10はプラスミドpDEGR-3に存在するDEIGR_500007遺伝子領域(750bp)のPCR産物をそれぞれ示す。これらの結果から、40℃での培養を経たデイノコッカス・グランディスではプラスミドpDEGR-PLが欠失しているが、プラスミドpDEGR-3が保持されていることが示された。
図3図3は、プラスミドpDEGR-PLが欠失しているが、プラスミドpDEGR-3が保持されていることが示されたデイノコッカス・グランディス(TY1株)からプラスミドpDEGR-3を欠失させた結果を示すアガロース電気泳動像である。レーン1はデイノコッカス・グランディスTY1株から抽出したプラスミド、レーン2はデイノコッカス・グランディスTY1Nluc株から抽出したプラスミド、レーン3と4は5ng/μlのノボビオシンを含むTGY培地中で40℃培養を行った菌液から取得したコロニー由来の抽出液、レーン5と6は5ng/μlのリファンピシンを含むTGY培地中で40℃培養を行った菌液から取得したコロニー由来の抽出液をそれぞれ示しており、レーン1では8,055bpのプラスミドpDEGR-3、レーン2ではDEIGR_500008遺伝子の代わりにNlucおよびストレプトマイシン耐性遺伝子(aad)を含む8,961bpのプラスミドpDEGR-3Δ8LAが見られたのに対して、レーン3~6にはプラスミドが見られなかった。これらの結果から、TY1株に存在するプラスミドpDEGR-3が欠失しているデイノコッカス・グランディス(TY3株)が得られたことが示された。
図4図4は、デイノコッカス・グランディスATCC43672のpDEGRのレプリコンを含むシャトルベクターpGRC5のマップを示す。図4において、pDEGR-3 repはデイノコッカス・グランディスATCC43672の8,055bpプラスミドのレプリコン、p15A oriは大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコン、katA-pはデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター、aadは大腸菌ベクターpGBM5由来のストレプトマイシン耐性遺伝子をそれぞれ示す。
図5図5は、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンを含むシャトルベクターpRADN8のマップを示す。図5において、pUE10 repはデイノコッカス・ラジオデュュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコン、pSC101 ori repは大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコン、katA-pはデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター、catは大腸菌ベクターpcDNA3.1CAT由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子をそれぞれ示す。
図6図6は、デイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドひとつであるpZT29を基にして構築されたシャトルベクターpZT29Hのマップを示す。図6において、pUE30 repはデイノコッカス・ラジオプグナンスATCC19172のプラスミドpUE30由来のレプリコン、pUC19 oriは大腸菌ベクターpUC19由来のレプリコン、katA-pはデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター、hygは大腸菌ベクターpDR2由来のハイグロマイシン耐性遺伝子をそれぞれ示す。
図7図7は、シャトルベクターpGRC5、シャトルベクターpRADN8およびシャトルベクターpZT29Hをデイノコッカス・グランディスTY3株に導入した形質転換体内での、それらのプラスミドの保持を示すアガロース電気泳動像である。レーン1はデイノコッカス・グランディスTY1株から抽出したプラスミドpDERG-3(8,055bp)、レーン2はデイノコッカス・グランディスTY3株由来の抽出液である。レーン3はpGRC5(3,908bp)を導入した形質転換体、レーン4はpZT29Hを導入した形質転換体(pZT29Hの単量体に由来する4,601bpの位置とpZT29Hの2量体に由来する9,202bpの位置にバンドが見られる。)、レーン5はpRADN8を導入した形質転換体(pRAND8の単量体に由来する6,046bpの位置とpRAND8の2量体に由来する12,092bpの位置にバンドが見られる。)、レーン6は2種類のプラスミドpGRC5とpZT29Hを同時に含む形質転換体、レーン7は2種類のプラスミドpZT29HとpRADN8を同時に含む形質転換体、レーン8は2種類のプラスミドpRADN8とpGRC5を同時に含む形質転換体、レーン9は3種類のプラスミドpGRC5とpZT29HとpRADN8を同時に含む形質転換体、レーンMは市販のスーパーコイルDNAサイズマーカーをそれぞれ示している。また、矢印はプラスミド抽出液に混在しているゲノムDNAを示している。これらの結果から、プラスミドpGRC5、pZT29HおよびpRAND8は、デイノコッカス・グランディスTY3株で共存できることが示された。
図8図8は、トビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドpGRC5GN、pZT29HGNおよびpRADN8GNをデイノコッカス・グランディスTY3株に導入した形質転換体内のプラスミドのサイズと存在様態を確認したアガロース電気泳動像である。レーンMは市販のスーパーコイルDNAサイズマーカー、レーン1はpGRC5GN(4,545bp)を導入した形質転換体、レーン2はpZT29HGN(5,250bp)を導入した形質転換体、レーン3はpRADN8GN(6,683bp)を導入した形質転換体をそれぞれ示している。また、矢印はプラスミド抽出液に混在しているゲノムDNAを示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
デイノコッカス・グランディス宿主細胞
本発明では、デイノコッカス・グランディスの野生株から内在性プラスミドを除去(欠失)することにより改変された細胞が、形質転換のための宿主として用いられる。本明細書において使用される「内在性プラスミド」という用語は、野生株に存在するプラスミドを意味する。また、本明細書において使用される「野生株」という用語は、天然に存在する細菌株や天然界から分離された細菌株のみならず、本発明の改変以外のいかなる改変(遺伝的であるか非遺伝的であるかにかかわらず)を受けた細菌株も含む。本発明において使用できる野生株の例としては、デイノコッカス・グランディスの標準株(ATCC43672)を挙げることができる。この株は、American Type Culture Collectionから入手可能である。
【0027】
デイノコッカス・グランディスの標準株(ATCC43672)のゲノムは3,241,502bpの染色体、並びに389,567bpのプラスミド(pDEGR-1)、373,915bpのプラスミド(pDEGR-2)、91,291bpのプラスミドおよび8,055bpのプラスミド(pDEGR-3)の4つのプラスミドを持つと報告されており、これらのゲノム配列情報はDNAデータベースで公開されている(非特許文献15:Satoh et al.,Genome Announc.,4:e01631-15,2016、および非特許文献16:Shibai et al.,Microbiol.Resour.Announc.,8:e01226-19,2019)。なお、それらの文献やデータベースにおいて91,291bpのプラスミドには特定の名称が付されていないため、本明細書ではこのプラスミドを「pDEGR-PL」と呼ぶ。また、pDEGR-PLおよびpDEGR-3の配列情報は、それぞれ、<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000006>および<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000007>として登録されている。
【0028】
本発明によれば、デイノコッカス・グランディスの野生株からpDEGR-3またはpDEGR-3およびpDEGR-PLの2つのプラスミドが除去される。
【0029】
微生物からプラスミドを欠失させるための様々な方法が知られている(Trevors,FEMS Microbiol.Rev.,32:149-157,1986を参照)。プラスミドpDEGR-PLは、そのような既知の方法によって欠失させ得る。例えば、後述する実施例のように、デイノコッカス・グランディスATCC43672株を許容高温度で繰り返し培養することによって、当該プラスミドを欠失させることができる。
【0030】
しかしながら、もう1種類のプラスミドpDEGR-3を除去することは容易ではなく、プラスミドpDEGR-PLの場合と同様の方法では欠失させることはできなかった。そこで、後述の実施例のように、本発明者は、プラスミドpDEGR-3にマーカー遺伝子を挿入した上で許容高温度での繰り返し培養を行うというような、2重の選択圧を微生物に負荷することにより、デイノコッカス・グランディスからプラスミドpDEGR-3が欠失した菌株を作出することに成功した。
【0031】
上記のようにして作出したデイノコッカス・グランディスATCC43672のプラスミドpDEGR-3およびプラスミドpDEGR-PLが欠失した菌株(TY3株)は、2023年4月12日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(NPMD)に受託番号NITE BP-03880として、ブダペスト条約に基づいた国際寄託がされている。
【0032】
シャトルベクタープラスミド
前述のとおり、デイノコッカス属細菌は極めて高いDNA修復能力を持つため、複数のプラスミド上に同じ塩基配列を持つDNA領域が存在すると、相同組換え修復タンパク質群の働きによってプラスミド間の相同組換え反応が高頻度で起こる。このために、デイノコッカス属細菌を宿主とした場合には、複数のプラスミドを安定に菌体内に保持することが極めて難しい。よって、本発明は、本発明のデイノコッカス・グランディス宿主細胞に安定的に保持され得るシャトルベクタープラスミドも提供する。具体的に、本発明者は、塩基配列の相同性によるプラスミドの不安定化を回避するために、異なる塩基配列を持つ3種類の大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域と、異なる塩基配列を持つ3種類のデイノコッカス属細菌由来のプラスミドの複製開始領域を連結した形のシャトルベクタープラスミドを構築した。
【0033】
本発明によるシャトルベクタープラスミドの1つは、デイノコッカス・グランディスの内在性プラスミドpDEGR-3の複製開始領域を含む。すなわち、本発明ではデイノコッカス・グランディスからプラスミドpDEGR-3を除去した宿主細胞が用いられるので、当該プラスミドpDEGR-3の複製開始領域を有利に利用できるようになった。このシャトルベクタープラスミドはまた、当然に、デイノコッカス・グランディスからプラスミドpDEGR-3およびプラスミドpDEGR-PLを除去した宿主細胞にも使用することができる。本発明によるシャトルベクタープラスミドにおけるデイノコッカス・グランディスの内在性プラスミドpDEGR-3の複製開始領域としては、pDEGR-3由来のレプリコンであるpDEGR-3 repに相当する領域を挙げることができる。
【0034】
本発明によるシャトルベクタープラスミドは、大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域も含む。そのような複製開始領域は、大腸菌由来のプラスミドに存在するいずれの複製開始配列を含んでいてもよい。したがって、本発明のシャトルベクタープラスミドの具体的な例としては、デイノコッカス・グランディスATCC43672プラスミドpDEGR-3由来のレプリコン(pDEGR-3 rep)および大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコン(p15A ori)を含むシャトルプラスミドを挙げることができる。
【0035】
本発明の好適な実施形態の1つにおいて、前記のシャトルプラスミドに対して抗生物質耐性遺伝子がスクリーニングマーカーとして付加される。そうすることで、培養培地への抗生物質の添加による菌体内でのプラスミドの存在、菌体からのプラスミドの抽出・精製、形質転換による菌体へのプラスミドの導入を確実にすることができる。そのような抗生物質耐性遺伝子の非限定的な例としては、ストレプトマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、テトラサイクリン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子およびピューロマイシン耐性遺伝子をあげることができる。したがって、本発明のシャトルベクタープラスミドの好適な具体例としては、デイノコッカス・グランディスATCC43672プラスミドpDEGR-3由来のレプリコン(pDEGR-3 rep)、大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコン(p15A ori)および大腸菌プラスミドpGBM5由来のストレプトマイシン耐性遺伝子(aad)を有するシャトルプラスミドを挙げることができる。
【0036】
本発明による別のシャトルベクタープラスミドは、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域を含む。当該デイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域の例としては、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 repに相当する領域を挙げることができる。本発明者は、そのような複製開始領域を有するシャトルベクタープラスミドも本発明のデイノコッカス・グランディス宿主細胞内に安定的に保持されることを実験的に確認した。さらに特筆すべきことに、本発明者は、当該シャトルベクタープラスミドが、本発明の他のシャトルベクターのいずれとも(すなわち、プラスミドpDEGR-3の複製開始領域を有するベクタープラスミドおよび/またはデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドと)お互いに干渉せずに、本発明のデイノコッカス・グランディス宿主細胞の中で共存できることを実験的に証明した。すなわち、本明細書の実施例で用いた3種類の大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域はお互いに干渉せずに大腸菌の中で共存できることが知られているが、3種類のデイノコッカス属細菌由来のプラスミドの複製開始領域がお互いに干渉するかどうかはまったく不明であった。本発明において、異なる塩基配列を持つ3種類のデイノコッカス属細菌由来のプラスミドの複製開始領域を連結した形の3種類のシャトルベクタープラスミドが、本発明のデイノコッカス・グランディス宿主細胞の中でお互いに干渉せずに外来遺伝子を菌体内で発現させることができたのは、驚くべきことであった。
【0037】
本発明による別のシャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域も、大腸菌由来のプラスミドに存在するいずれの複製開始配列を含んでいてもよい。ただし、本発明のデイノコッカス・グランディスに対して1種以上の本発明のシャトルベクタープラスミドを導入する場合、各々のシャトルベクタープラスミドに含まれる大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域が互いに異なるべきである。したがって、本発明による別のシャトルベクタープラスミドの具体的な例としては、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンであるpUE10 rep領域および大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコンであるpSC101 ori rep領域を含むシャトルプラスミドを挙げることができる。
【0038】
本発明による別のシャトルベクタープラスミドに対しても抗生物質耐性遺伝子をスクリーニングマーカーとして付加することが好ましい。ただし、本発明のデイノコッカス・グランディスに対して1種以上の本発明のシャトルベクタープラスミドを導入する場合、各々のシャトルベクタープラスミドに含まれる抗生物質耐性遺伝子は互いに異なるべきである。したがって、本発明による別のシャトルベクタープラスミドの好適な具体的な例としては、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコン(pUE10 rep)、大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコン(pSC101 ori rep)および大腸菌ベクターpcDNA3.1CAT由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)を有するシャトルプラスミドを挙げることができる。
【0039】
上記の抗生物質耐性遺伝子に関連して、本明細書の実施例として記載した3種類のシャトルベクタープラスミド(以下、「3種類のシャトルベクター」という。)のそれぞれは、異なる抗生物質耐性遺伝子をそれらのスクリーニングマーカーとして使用している。しかしながら、それらの抗生物質耐性遺伝子はいずれも、それらの配列の上流領域に配置されたデイノコッカス・ラジオデュランス由来のカタラーゼ遺伝子のプロモーター(katA-p)によって発現制御されていることに留意すべきである。すなわち、このプロモーター領域は3種類のシャトルベクターで同じ塩基配列となっている。しかしながら、発明者は、デイノコッカス属細菌に関するこれまでの長年にわたる研究経験から、プロモーター領域のサイズが150塩基対未満であれば、デイノコッカス属細菌では相同組換え反応が起こらないことを見出していた(未発表)。よって、本発明者は、3種類のシャトルベクターが本発明のデイノコッカス・グランディス宿主内に共存した場合でさえも、それらの安定性がカタラーゼ遺伝子プロモーターによりもたらされる塩基配列相同性の影響を受けないことを経験的に予測可能であった。そして、本発明では、プラスミド間で重複する領域のサイズが150塩基対未満であれば、デイノコッカス属細菌では相同組換え反応が起こらないことが改めて確認された。しかしながら、所望により、各々の抗生物質耐性遺伝子に対して異なるプロモーターを用いることもできる。なお、デイノコッカス・ラジオデュランスSark株由来のプラスミドの複製開始領域を含む本発明による別のシャトルベクタープラスミドは、デイノコッカス・グランディスの野生株(たとえば、ATCC43672株など)を宿主として使用した場合にも利用できることを当業者は容易に理解できる。
【0040】
本発明のデイノコッカス・グランディス宿主内で好適に使用し得る他のシャトルベクタープラスミドは、デイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択されるシャトルベクタープラスミドである。本明細書において、pZT15系のプラスミドは、デイノコッカス・ラジオプグナンス(D.radiopugnans)ATCC19172株由来の内在性プラスミドpUE30の複製に関与するpUE30断片をデイノコッカス属細菌内での複製開始領域として使用し、且つ大腸菌由来のプラスミドの複製開始領域を有するシャトルベクタープラスミドと定義される。pZT15系のプラスミドのいくつかは公知であり、本発明でも利用可能である。pZT15系のプラスミドの例としては、文献に記載されているpZT15、pZT17、pZT23、pZT27、pZT29およびpZT90が挙げられる(特許第3845697号明細書(特許文献1)およびSatoh et al.,Plasmid,62:1-9,2009(非特許文献13)を参照。)。それらのいずれもが本発明のデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドとして用いることができる。また、それらの誘導体、典型的には、文献に記載のシャトルベクターに用いられている大腸菌の複製開始領域とは異なる大腸菌の複製開始領域および/または文献に記載のシャトルベクターに用いられている抗生物質耐性遺伝子とは異なる抗生物質耐性遺伝子を有するシャトルベクターも、本発明において使用可能である。したがって、本発明のデイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドには、pZT15、pZT17、pZT23、pZT27、pZT29およびpZT90に含まれる大腸菌の複製開始領域とは異なる大腸菌の複製開始領域および/または抗生物質耐性遺伝子とは異なる抗生物質耐性遺伝子を有するシャトルベクタープラスミドが含まれる。なお、デイノコッカス/大腸菌シャトルベクターpZT15系のプラスミドから選択される本発明の他のシャトルベクタープラスミドは、デイノコッカス・グランディスの野生株(たとえば、ATCC43672株など)を宿主として使用した場合にも利用できることを当業者は容易に理解できる。
【0041】
本発明によるシャトルベクタープラスミドはマルチクローニングサイトを有することが好ましい。マルチクローニングサイトには、例えばEcoRV、HindIII、ClaI、SalI、XhoI、KpnI、BamHI、XbaI、SalI、PstI、SphI、HindIII、EcoRIおよびSacIなどの制限酵素認識部位が含まれてよい。そのようなマルチクローニングサイトを有する本発明のシャトルベクタープラスミドは、当業者に周知の方法によって作製することができる。
【0042】
発現プラスミド
本発明は、1つ以上の目的遺伝子を本発明によるシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入することにより構築した発現プラスミドを使用する。本明細書において使用する「目的遺伝子」との用語は、発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子のことを意味する。当該目的遺伝子は、宿主微生物とは異なる生物由来の遺伝子であってもよいし、あるいは宿主微生物と同じ株、種または属の微生物由来の遺伝子であって、本発明の宿主細胞において発現の増強が望まれる遺伝子であってもよい。
【0043】
当該目的遺伝子は、「発現カセット」として本発明のシャトルベクタープラスミドのクローニングサイトに挿入することができる。本明細書において、「発現カセット」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写および翻訳をレギュレートする核酸配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現カセットは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主微生物に「発現可能に導入」される。
【0044】
プロモーターは、構造性プロモーターであるか調節プロモーターであるかに拘わらず、RNAポリメラーゼをDNAに結合させ、RNA合成を開始させるDNA配列と定義される。強いプロモーターとはmRNA合成を高頻度で開始させるプロモーターであり、本発明においても好適に使用される。本発明の発現プラスミドにおいて好適に使用できるプロモーターの非限定的な例として、デイノコッカス・ラジオデュランスのgroES遺伝子のプロモーター並びにデイノコッカス・ラジオデュランスで遺伝子を高発現させることが知られているDR1261rpmBおよびdnaK遺伝子のプロモーターなどを挙げることができる(Chen et al.,Appl.Environ.Microbiol.,85:e01356-19,2019を参照。)。また、本発明の発現プラスミドにおいて好適に使用できる他のプロモーターとしては、pprAddrAddrBgyrB遺伝子などの上流に存在し、放射線乾燥応答モチーフと呼ばれるオペレーター配列を近傍に持つプロモーターを挙げることができる(Tanaka et al.,Genetics,168:21-33,2004を参照。)。これらのプロモーターの下流に発現させたい遺伝子を配置することで、紫外線、マイトマイシンC、メチルメタンスルホン酸、臭化エチジウムなどを形質転換体の培養培地に添加することにより遺伝子発現を誘導調節することが可能となる(Narasimha and Basu,J. Biosci.,46:10,2021を参照。)。
【0045】
本発明のシャトルベクタープラスミドには複数個の遺伝子を挿入することもできる。高発現プロモーターを2箇所に配置し、それぞれのプロモーターの下流に別々の遺伝子を挿入することができるようなデュアル発現ベクターがすでに開発されている(Novy et al.,inNovations,15:2-6,2002およびMurakami et al.,PLOS ONE,16:e0258553,2021を参照。)。本発明の各々のシャトルベクタープラスミドの2箇所以上に高発現プロモーターを配置することで、より多くの遺伝子群の発現が可能となる。
【0046】
増幅および形質転換
本発明の発現プラスミドは大腸菌で増幅することができる。通常の分子生物学的研究に使用されている大腸菌株のいずれも、本発明の発現プラスミドを増幅するための宿主細胞として使用することができる。例えば、大腸菌宿主としては大腸菌K12株またはB株由来の菌株などを例示できるが、それらに限定されない。
【0047】
本発明の発現プラスミドを宿主微生物細胞に導入するために、共沈殿法やエレクトロポレーションなどの慣用のトランスフェクション法が利用され得る。それらの例は、Current Protocols in Molecular Biology,F.Ausubel et al.,Publ.Wiley Interscience,New York,1997またはSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,1989に記載されている。
【0048】
上記のようにして本発明の発現プラスミドが導入された大腸菌は、その生育に適した条件下で培養される。各種の宿主微生物細胞に由来する形質転換体のための好適な培地組成、培養条件、培養時間は当業者に公知である。培地は、1つ以上の炭素源、窒素源、無機塩、ビタミンおよび場合により微量元素ないしビタミン等の微量成分を含む天然、半合成、合成培地であってよい。また、培地は、増幅すべき発現プラスミドに含まれるスクリーニングマーカー(抗生物質耐性遺伝子)に対応する抗生物質を含有する。培養は、好適な温度、酸素濃度、pH等を維持しながら継続されるべきである。大腸菌の好適な培養温度は、通常、25℃~37℃の範囲である。大腸菌の培養は、生育中の適切な酸素濃度を確保するために、振盪または攪拌下で実施することが好ましい。それらの培養条件は、当業者にとって容易に設定可能である。培地に添加した抗生物質に耐性を示す形質転換体株の中から、所望の発現プラスミドを持つ株を選択して本発明の発現プラスミドを回収することができる。
【0049】
回収された発現プラスミドは、本発明の改変デイノコッカス・グランディス宿主細胞の形質転換に用いることができる。前述の共沈殿法やエレクトロポレーションなどの慣用のトランスフェクション法が、本発明の発現プラスミドをデイノコッカス・グランディス宿主細胞に導入するためにも利用できる。
【0050】
形質転換体の応用
本発明によるデイノコッカス・グランディス形質転換体の応用の例は、宿主の放射線耐性を利用して放射性物質除去関連のバイオレメディエーションを実現させることを含む。特に、本発明によれば複数のバイオレメディエーション関連の外来遺伝子をデイノコッカス・グランディスで発現させることが可能となる。例えば、複数のバイオレメディエーション関連の外来遺伝子(例として、シュードモナス・プチダ由来のトルエンジオキシゲナーゼ遺伝子、大腸菌由来の2価水銀イオン還元遺伝子、サルモネラ・エンテリカ・タイフィ由来の非特異的酸性フォスファターゼ遺伝子、スフィンゴモナス属細菌由来のアルカリフォスファターゼ遺伝子、バチルス・プミルス由来のエンドグルカナーゼ遺伝子、シネココッカス属細菌由来のメタロチオネイン遺伝子、ロドシュードモナス・パルストリスあるいはノボスフィンゴビウム・アロマチシボランス由来のニッケル/コバルトトランスポーター遺伝子など)をデイノコッカス・グランディスで発現させることが可能となり、宿主の放射線耐性を利用して、放射性物質除去関連のバイオレメディエーションを実現させることができる。
【0051】
本発明によるデイノコッカス・グランディス形質転換体の応用は、必ずしもデイノコッカス属細菌の放射線抵抗性という特性に関係していなくてもよい。したがって、本発明によるデイノコッカス・グランディス形質転換体の他の応用の例は、デイノコッカス属細菌の他のバイオレメディエーションへの適用や、当該細菌のその他の産業上有用な遺伝資源としての利用を含み得る。これまでに、デイノコッカス属細菌が、活性酸素除去作用の高い抗酸化成分デイノキサンチンを生産する能力(Lemee et al.,Tetrahydron,53:919-926,1997)、都市大気汚染物質である多環芳香族炭化水素を分解する能力(Waight et al.,J.Gen.Microbiol.,53:265-272,2007)、海洋汚染物質である酢酸エチルを分解する能力(Kongpol et al.,FEMS Microbiol.Lett.,286:227-235,2008)、健康寿命伸長効果の高いポリアミンを生産する能力(Hamana et al.,極限環境微生物学会誌,8:59-68,2009)、内分泌撹乱物質であるフタル酸ジブチルを分解する能力(Liao et al.,Chemosphere,78:342346,2010)、食品の腐敗防止、細菌感染防止、バイオレメディエーションに活用できるクオラムクエンチング酵素を生産する能力(Kelia et al.,Open Microbiol.J.,5:1-3,2011)、水産動物への使用が禁止されているマラカイトグリーンを分解する能力(Lv et al.,Bioresour.Technol.,144:275-280,2013)、内分泌撹乱物質である17β-estradiolを分解する能力(Xiong et al.,3 Biotech,8:433,2018)、イネの重金属毒性を緩和する能力(Dai et al.,Environ.Pollut.,284:117127,2021)、人体に対して非常に有害なヒ素(V)イオンを還元して毒性を軽減する能力(Zhang et al.,Environ.Pollut.,312:120040,2022)を有することが報告されている。
【0052】
上記の、活性酸素除去作用の高い抗酸化成分デイノキサンチンの生産;都市大気汚染物質である多環芳香族炭化水素の分解;海洋汚染物質である酢酸エチルの分解;健康寿命伸長効果の高いポリアミンの生産;内分泌撹乱物質であるフタル酸ジブチルの分解;食品の腐敗防止、細菌感染防止、バイオレメディエーションに活用できるクオラムクエンチング酵素の生産;水産動物への使用が禁止されているマラカイトグリーンの分解;内分泌撹乱物質である17β-estradiolの分解;イネの重金属毒性の緩和;および人体に対して非常に有害なヒ素(V)イオンの還元による毒性の軽減などに関連するデイノコッカス属細菌由来の遺伝子群を本発明の発現プラスミドに導入し、デイノコッカス・グランディスを形質転換することで、有害物質分解能や有用物質生産能が強化された宿主を効率的に作出することができるので、バイオレメディエーション分野に加えて、アンチエイジング関連の化粧品・健康食品(例えば、国際公開第WO2022/050559号を参照。)製造分野への貢献が期待できる。
【0053】
とりわけ、有害物質分解能や有用物質生産能といった有用形質の発現には、複数種類の遺伝子が関わる場合が多いため、これらの有用形質の発現に関わるデイノコッカス属細菌由来の遺伝子群を本発明の発現プラスミドに導入し、デイノコッカス・グランディスを形質転換することで、有害物質分解能や有用物質生産能が強化された宿主を効率的に作出することができる。
【0054】
以下の実施例により本発明をさらに説明する。本発明は、当該実施例に限定されない。
【実施例0055】
実施例1:デイノコッカス・グランディスのプラスミド欠失株TY1の作製
American Type Culture Collectionから入手したデイノコッカス・グランディスATCC43672を、TGY培地(バクトトリプトン0.5%、酵母エキス0.3%、グルコース0.1%)中40℃で48時間振とう培養した菌液を、TGY寒天培地(バクトトリプトン0.5%、酵母エキス0.3%、グルコース0.1%、バクトアガー1.5%)に播種し、30℃で48時間静置培養した。TGY寒天培地に生育したコロニーをランダムに10個釣菌し、1mlのTGY培地に植菌し、30℃で24時間培養した。培養菌液にグリセロールを添加して作製したグリセロールストックを-80℃で保存した。
【0056】
少量のグリセロールストックを4mlのTGYM培地(TGY培地+70μM 塩化マンガン)に植菌し、30℃で24時間培養した菌体から定法(非特許文献13を参照。)を用いてプラスミドを抽出した。また、コントロールとして、30℃で培養し、40℃での培養を経ていないデイノコッカス・グランディスATCC43672からも同様の方法でプラスミドを抽出した。アガロースゲル電気泳動で解析して、プラスミドpDEGR-3が菌体に保持されているかどうか確認した。
【0057】
抽出したプラスミドのアガロース電気泳動像を図1に示す。図1においてレーン1から10は40℃での培養を経て取得したコロニー由来の抽出液、レーン11は40℃での培養を経ていないコントロール由来の抽出液をそれぞれ示しており、レーン1から11すべてにおいて8,055bpのプラスミドpDEGR-3が見られた。
【0058】
40℃での培養を経て取得したコロニー由来のグリセロールストックを4mlのTGY培地に植菌し、30℃で24時間培養した菌体からFastDNA SPIN Kit(エムピーバイオメディカルズ社製)用いてゲノムDNAを抽出した。また、コントロールとして、40℃での培養を経ていないデイノコッカス・グランディスATCC43672からも同様の方法でゲノムDNAを抽出した。抽出したゲノムDNAを鋳型としてTks Gflex DNA polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR反応を行い、デイノコッカス・グランディスATCC43672の染色体に存在するグルタミン合成酵素遺伝子、プラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400031遺伝子、DEIGR_400086遺伝子、DEIGR_400127遺伝子およびプラスミドpDEGR-3に存在するDEIGR_500007遺伝子に由来するPCR増幅産物の有無をアガロースゲル電気泳動で確認した。
【0059】
ここで、PCR増幅に用いたプライマーは以下のとおり(配列番号1~10)である。プライマーはDNAデータベースの、
・デイノコッカス・グランディスのゲノム塩基配列
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000001)、
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000006)、および
(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000007)、
を参考して設計した。
【0060】
グルタミン合成酵素遺伝子断片のフォワードプライマー(DEIGR_102181vF:配列番号1)
CAGCAGCCCGGCGTTCATCATGCGT
【0061】
グルタミン合成酵素遺伝子断片のリバースプライマー(DEIGR_102181vR:配列番号2)
ATGCGCAGCAGGTCCTGGTGCTCGT
【0062】
DEIGR_400031遺伝子断片のフォワードプライマー(DEIGR_400031vF:配列番号3)
CTCAACCTCAAGCAGGAAGCCG
【0063】
DEIGR_400031遺伝子断片のリバースプライマー(DEIGR_400031vR:配列番号4)
TTGTTCCCGTCGCCGTTCTTC
【0064】
DEIGR_400086遺伝子断片のフォワードプライマー(DEIGR_400086vF:配列番号5)
ATGACGGGCTGACCGGCGATGCTCT
【0065】
DEIGR_400086遺伝子断片のリバースプライマー(DEIGR_400086vR:配列番号6)
AGTTGCGCCGGCTCTCACGTGGACTT
【0066】
DEIGR_400127遺伝子断片のフォワードプライマー(DEIGR_400127vF:配列番号7)
CTCACGCAGCCGAACGCGGAGGTCAA
【0067】
DEIGR_400127遺伝子断片のリバースプライマー(DEIGR_400127vR:配列番号8)
CGTGGCCTGCATCAGTGCCCGCAGT
【0068】
DEIGR_500007遺伝子断片のフォワードプライマー(DEIGR_500008vF:配列番号9)
TAGGCTGTCCGCGTGTCCGC
【0069】
DEIGR_500007遺伝子断片のリバースプライマー(DEIGR_500008vR:配列番号10)
CTAGTGCCCCAGCTCCGGGAC
【0070】
結果を図2に示す。この図のpDEGR-PLのプラスミドマップ上において、AはDEIGR_400031遺伝子領域のPCR増幅部位、BはDEIGR_400086遺伝子領域のPCR増幅部位、CはDEIGR_400127遺伝子領域のPCR増幅部位を示す。図2のアガロース電気泳動像において、Mは市販の直鎖状DNA分子サイズマーカーを示す。レーン1から5は、コントロールとして、40℃での培養を経ていないデイノコッカス・グランディスATCC43672から調製したゲノムDNAを用いてPCR反応を行ったものであり、レーン6から10は、40℃での培養を経て取得したコロニー由来のゲノムを鋳型としてPCR反応を行ったものをそれぞれ示している。また、レーン1と6は染色体に存在するグルタミン合成酵素遺伝子領域(723bp)のPCR産物、レーン2と7はプラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400031遺伝子領域(623bp)のPCR産物、レーン3と8はプラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400086遺伝子領域(659bp)のPCR産物、レーン4と9はプラスミドpDEGR-PLに存在するDEIGR_400127遺伝子領域(687bp)のPCR産物、レーン5と10はプラスミドpDEGR-3に存在するDEIGR_500007遺伝子領域(750bp)のPCR産物をそれぞれ示す。コントロールで増幅が確認されたレーン2から4のPCR産物が、レーン7から9ではまったく見られなかった。これらの結果から、40℃での培養を経たデイノコッカス・グランディスではプラスミドpDEGR-PLが欠失しているが、プラスミドpDEGR-3が保持されていることが示され、これをデイノコッカス・グランディスTY1株と命名した。
【0071】
実施例2:デイノコッカス・グランディスのプラスミド欠失株TY3の作製
デイノコッカス・グランディスTY1株のプラスミドpDEGR-3の欠失株のスクリーニングを容易に行うために、pDEGR-3に存在するDEIGR_500008遺伝子をトゲオキヒオドシエビ由来のルシフェラーゼ遺伝子および抗生物質ストレプトマイシン耐性遺伝子に置換したデイノコッカス・グランディスを作製した。作製方法は以下のとおりである。
【0072】
まず、デイノコッカス・グランディスATCC43672のゲノムDNAを鋳型としてDNA損傷応答リプレッサーDdrO遺伝子のプロモーター断片263bpをPCR増幅した。次に、pNL1.1[Nluc]ベクター(プロメガ社製)を鋳型として、トゲオキヒオドシエビ由来のルシフェラーゼ遺伝子断片564bpをPCR増幅した。263bpのPCR断片を制限酵素KpnIおよびNcoIで処理し、564bpのPCR断片を制限酵素NcoIおよびXhoIで処理したものを、ストレプトマイシン耐性遺伝子供給プラスミドpKatAAD2(Satoh et al.,Microbiology,152:3217-3226,2006を参照。)のKpnIおよびXhoI部位に連結し、プラスミドpRNKAADを構築した。
【0073】
次に、デイノコッカス・グランディスATCC43672のゲノムDNAを鋳型としてDEIGR_500008遺伝子の上流769bpおよびDEIGR_500008遺伝子の下流770bpをPCR増幅した断片を混合し、制限酵素EcoRI、KpnI、PstI、HindIIIで処理した。また、プラスミドpRNKAADを鋳型としてNlucおよびストレプトマイシン耐性遺伝子(aad)を含む3,025bpの断片をpUC19のインサートを増幅するプライマーを用いてPCR増幅したものをKpnIおよびPstIで処理した。これら3種類の制限酵素処理断片を、プラスミドpUC19のEcoRIおよびHindIII部位に連結し、プラスミドpΔ500008LAを構築した。さらに、プラスミドpΔ500008LAを鋳型としてpUC19のインサートを増幅するプライマーでPCR増幅した断片を用いて、非特許文献13に記載の方法でデイノコッカス・グランディスATCC43672を形質転換し、ストレプトマイシン耐性コロニーを取得し、TY1Nluc株と命名した。
【0074】
PCR増幅に用いたプライマーは以下のとおり(配列番号11~20)である。プライマーはDNAデータベースの、
・デイノコッカス・グランディスのゲノム塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000007)、
・pNL1.1[Nluc]の塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/JQ437370.1)、および
・pUC19の塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/6691170)、
を参考して設計した。下線は制限酵素消化部位を示す。
【0075】
DNA損傷応答リプレッサーDdrO遺伝子のプロモーター領域のフォワードプライマー(ddrO-RDRM5Kpn:配列番号11)
ATCAGGTACCTCTGCTGTGGGCGAATCCTTCTTG
【0076】
DNA損傷応答リプレッサーDdrO遺伝子のプロモーター領域のリバースプライマー(ddrO-RDRM3Nco:配列番号12)
CGTACCATGGTTCACCTCCTCGGCTGCG
【0077】
トゲオキヒオドシエビ由来のルシフェラーゼ遺伝子断片のフォワードプライマー(Nluc-5Nco:配列番号13)
GCCACCATGGTCTTCACACTCGAAGATTTCGTTGG
【0078】
トゲオキヒオドシエビ由来のルシフェラーゼ遺伝子断片のリバースプライマー(Nluc-3Xho:配列番号14)
GCTACTCGAGCGGCCGGCCGCCCC
【0079】
DEIGR_500008遺伝子の上流領域のフォワードプライマー(DEIGR_500008-Eco5F:配列番号15)
ATGCGAATTCTAGGCTGTCCGCGTGTCCGC
【0080】
DEIGR_500008遺伝子の上流領域のリバースプライマー(DEIGR_500008-Kpn5R:配列番号16)
CGATGGTACCTAGTGCCCCAGCTCCGGGAC
【0081】
DEIGR_500008遺伝子の下流領域のフォワードプライマー(DEIGR_500008-Pst3F:配列番号17)
ATGCCTGCAGCCGCCTCAGATGACCTGCTGA
【0082】
DEIGR_500008遺伝子の下流領域のリバースプライマー(DEIGR_500008-Hin3R:配列番号18)
CTACAAGCTTAGCCGCCAACAACACTCATTCC
【0083】
pUC19のインサートを増幅するフォワードプライマー(pKat-FP:配列番号19)
CGACGGCCAGTGAATTCGAGC
【0084】
pUC19のインサートを増幅するプライマーリバースプライマー(pKat-RP:配列番号20)
CAGCTATGACCATGATTACGCCAAGC
【0085】
微生物のプラスミドを欠失させる方法としては高温での培養の他に、薬剤を使用する方法が知られている(Trevors,FEMS Microbiol.Rev.,32:149-157,1986を参照。)。これを参考して、TY1Nluc株を5ng/μlのノボビオシンあるいは5ng/μlのリファンピシンを添加したTGY培地中40℃で48時間振とう培養した菌液を100倍希釈後、再度5ng/μlのノボビオシンあるいは5ng/μlのリファンピシンを添加したTGY培地に接種し、40℃で72時間振とう培養した。この培養液をTGY寒天培地に播種し、30℃で48時間静置培養した。TGY寒天培地に生育したルシフェラーゼ非生産性でストレプトマイシン感受性のコロニーを2個ずつ釣菌し、1mlのTGY培地に植菌し、30℃で24時間培養した。培養菌液にグリセロールを添加して作製したグリセロールストックを-80℃で保存した。
【0086】
実施例1と同様の操作によって、デイノコッカス・グランディスからプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動により、プラスミドが菌体に保持されているかどうか確認した。その結果を図3に示す。この図においてレーン1はデイノコッカス・グランディスTY1株から抽出したプラスミド、レーン2はデイノコッカス・グランディスTY1Nluc株から抽出したプラスミド、レーン3と4は5ng/μlのノボビオシンを含むTGY培地中で40℃培養を行った菌液から取得したコロニー由来の抽出液、レーン5と6は5ng/μlのリファンピシンを含むTGY培地中で40℃培養を行った菌液から取得したコロニー由来の抽出液をそれぞれ示しており、レーン1では8,055bpのプラスミドpDEGR-3、レーン2ではDEIGR_500008遺伝子の代わりにNlucおよびストレプトマイシン耐性遺伝子(aad)を含む8,961bpのプラスミドpDEGR-3Δ8LAが見られたのに対して、レーン3から6にはプラスミドが見られなかった。これらの結果から、得られたデイノコッカス・グランディスはTY1株に存在するプラスミドpDEGR-3が欠失していることが示され、これをデイノコッカス・グランディスTY3株と命名した。
【0087】
実施例3:デイノコッカス・グランディス-大腸菌シャトルベクターpGRC5の構築
大腸菌ベクターpACYC184を鋳型としてレプリコンを含む933bpをPCR増幅し、制限酵素SphIおよびKpnIで処理した。また、大腸菌プラスミドpGBM5(国立遺伝学研究所から入手)由来のストレプトマイシン耐性遺伝子(aad)をデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター(katA-p)で発現できるプラスミドpKatAAD2をSphIおよびKpnIで処理して981bpのDNA断片を得た。これらのDNA断片を連結し、プラスミドpKatAAD2Lを構築した。
【0088】
次に、デイノコッカス・グランディスATCC43672の8,055bpのプラスミドpDEGR-3を鋳型としてレプリコン(pDEGR-3 rep)を含む2022bpをPCR増幅後KpnIで処理した。この断片を、プラスミドpKatAAD2LのKpnI部位に連結し、プラスミドpGRC5を構築した。シャトルベクターpGRC5のマップを図4に示す。図4において、pDEGR-3 repはデイノコッカス・グランディスATCC43672の8,055bpプラスミドのレプリコン、p15A oriは大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコン、katA-pはデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター、aadは大腸菌ベクターpGBM5由来のストレプトマイシン耐性遺伝子をそれぞれ示す。
【0089】
PCR増幅に用いたプライマーは以下のとおり(配列番号21~24)である。プライマーはDNAデータベースの、
・pACYC184の塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/X06403)、および
・デイノコッカス・グランディスのゲノム塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/BCMS01000007)、
を参考して設計した。下線は制限酵素消化部位を示す。
【0090】
大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコンのフォワードプライマー(p15A-FP_Sph:配列番号21)
GACTGCATGCGCGCTAGCGGAGTGTATACTGG
【0091】
大腸菌ベクターpACYC184由来のレプリコンのリバースプライマー(p15A-RP_Kpn:配列番号22)
TGCAGGTACCACAACTTATATCGTATGGGGCTGAC
【0092】
デイノコッカス・グランディスATCC43672の8,055bpプラスミドpDEGR-3のレプリコンのフォワードプライマー(DEGR3F1Kpn:配列番号23)
AGCTGGTACCACTTTGACGATCTTGGGGGAATGAG
【0093】
デイノコッカス・グランディスATCC43672の8,055bpプラスミドpDEGR-3のレプリコンのリバースプライマー(DEGR3R1Kpn:配列番号24)
ACGTGGTACCATGATGACCACCCGGCTCATG
【0094】
実施例4:デイノコッカス・グランディス-大腸菌シャトルベクターpRADN8の構築
デイノコッカス・ラジオデュランス-大腸菌シャトルベクターpI3由来のシャトルベクターpRADN1(Ohba et al,Gene,363:133-141,2005を参照。)を鋳型としてデイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコン(pUE10 rep)を含む3,164bpをPCR増幅後、制限酵素XhoIおよびEcoRVで処理した。また、pcDNA3.1CAT由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子(cat)をデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター(katA-p)で発現できるプラスミドpKatCAT5(非特許文献13を参照。)をXhoIおよびEcoRVで処理した。これらの断片を連結し、プラスミドpRADN7を構築した。
【0095】
次に、大腸菌ベクターpGBM5を鋳型としてレプリコン(pSC101 ori rep)を含む1,997bpをPCR増幅後、制限酵素XhoIおよびHindIIIで処理した。また、プラスミドpRADN7をXhoIおよびHindIIIで処理し4,063bpのDNA断片を得た。これらのDNA断片を連結し、プラスミドpRADN8を構築した。シャトルベクターpRADN8のマップを図5に示す。図5において、pUE10 repはデイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコン、pSC101 ori repは大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコン、katA-pはデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター、catは大腸菌ベクターpcDNA3.1CAT由来のクロラムフェニコール耐性遺伝子をそれぞれ示す。
【0096】
PCR増幅に用いたプライマーは以下のとおり(配列番号25~28)である。プライマーはDNAデータベースの、
・ベクターpI3の塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF206717)、および
・プラスミドpSC101の塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_002056.1)、
を参考して設計した。下線は制限酵素消化部位を示す。
【0097】
デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンのフォワードプライマー(pRADN1-Xho-F2:配列番号25)
ATGCCTCGAGCCAGTTCTCGCGTGTCAGCCGA
【0098】
デイノコッカス・ラジオデュランスSark株プラスミドpUE10由来のレプリコンのリバースプライマー(pRADN1-EcoRV-R:配列番号26)
GCATGATATCCGATTCGACCTGCAGGCATGC
【0099】
大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコンのフォワードプライマー(pGBM5-HindIII-F:配列番号27)
GCATAAGCTTGACTCTAGAGGATCCCCGGG
【0100】
大腸菌ベクターpSC101由来のレプリコンのリバースプライマー(pGBM5-XhoI-R:配列番号28)
ATGCCTCGAGATGTAACGGTGAACAGTTGTTCTAC
【0101】
実施例5:デイノコッカス・グランディス-大腸菌シャトルベクターpZT29Hの構築
特許文献1に記載のpZT15系シャトルベクターのひとつであり非特許文献13に記載のシャトルベクターpZT29を、制限酵素KpnIで処理した2,109bpのDNA断片と、Murakami et al.,PLOS ONE,16:e0258553,2021に記載のハイグロマイシン耐性遺伝子供給プラスミドpKatHPHをKpnIで処理した2,492bpのDNA断片を連結し、シャトルベクターpZT29Hを構築した。シャトルベクターpZT29Hのマップを図6に示す。図6において、pUE30 repはデイノコッカス・ラジオプグナンスATCC19172のプラスミドpUE30由来のレプリコン、pUC19 oriは大腸菌ベクターpUC19由来のレプリコン、katA-pはデイノコッカス・ラジオデュランスのカタラーゼ遺伝子プロモーター、hygは大腸菌ベクターpDR2由来のハイグロマイシン耐性遺伝子をそれぞれ示す。
【0102】
実施例6:デイノコッカス・グランディス-大腸菌シャトルベクターによるデイノコッカス・グランディス形質転換株の作出
実施例3で構築したシャトルベクターpGRC5、実施例4で構築したシャトルベクターpRADN8、実施例5で構築したシャトルベクターpZT29Hを、実施例2で作製したデイノコッカス・グランディスTY3株に導入して形質転換体を取得した。pGRC5を導入した形質転換体を取得する際はストレプトマイシンを、pRADN8を導入した形質転換体を取得する際はクロラムフェニコールを、pZT29Hを導入した形質転換体を取得する際はハイグロマイシンを選択マーカーとして用いた。次に、実施例1と同様の操作によって、デイノコッカス・グランディスの形質転換体からプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動により、プラスミドが菌体に保持されているかどうか確認した。
【0103】
その結果を図7に示す。この図においてレーン1はデイノコッカス・グランディスTY1株から抽出したプラスミドpDERG-3(8,055bp)、レーン2はデイノコッカス・グランディスTY3株由来の抽出液である。レーン3はpGRC5(3,908bp)を導入した形質転換体、レーン4はpZT29H(4,601bp)を導入した形質転換体、レーン5はpRADN8(6,046bp)を導入した形質転換体、レーン6は2種類のプラスミドpGRC5とpZT29Hを同時に含む形質転換体、レーン7は2種類のプラスミドpZT29HとpRADN8を同時に含む形質転換体、レーン8は2種類のプラスミドpRADN8とpGRC5を同時に含む形質転換体、レーン9は3種類のプラスミドpGRC5とpZT29HとpRADN8を同時に含む形質転換体、レーンMは市販のスーパーコイルDNAサイズマーカーをそれぞれ示している。また、矢印はプラスミド抽出液に混在しているゲノムDNAを示している。
【0104】
レーン3、6および9には、pGRC5に由来する3,908bpの位置にバンドが見られることから、pGRC5はデイノコッカス・グランディスTY3株中で単量体としてのみ存在することが示された。レーン4ではpZT29Hの単量体に由来する4,601bpの位置とpZT29Hの2量体に由来する9,202bpの位置にバンドが見られた。レーン5ではpRAND8の単量体に由来する6,046bpの位置とpRAND8の2量体に由来する12,092bpの位置にバンドが見られた。レーン3、4、6および9を比較すると、プラスミドpGRC5が単独で存在する形質転換体と他のプラスミドpGRC5やpZT29Hを同時に含む形質転換体では、プラスミドpGRC5の存在量に大きな差異がなかった。同様に、レーン4、6、7および9を比較すると、プラスミドpZT29Hが単独で存在する形質転換体と他のプラスミドpGRC5やpRAND8を同時に含む形質転換体では、プラスミドpZT29Hの存在量に大きな差異がなかった。一方、レーン5、7、8および9を比較すると、プラスミドpRAND8が単独で存在する形質転換体よりも、他のプラスミドpGRC5やpZT29Hを同時に含む形質転換体で、プラスミドpRAND8は単量体よりも2量体としてより多く存在していた。レーン8では、ゲノムDNAが泳動される位置よりも異動度が少ないところに複数のバンドが見られ、これはプラスミドpRADN8とpGRC5が共存する形質転換体で、pRADN8が2量体以上の多量体を形成することに由来していると考えられた。これらの結果から、プラスミドpGRC5、pZT29H、pRAND8は、デイノコッカス・グランディスTY3株で共存できることが示された。
【0105】
実施例7:トビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドの構築
非特許文献13に記載のシャトルプラスミドpZT90は、デイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーター配列をもつ発現ベクターである。pZT90を鋳型にしてデイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーター領域を含む152bpをPCR増幅後、制限酵素KpnIおよびNcoIで処理した。このDNA断片を、実施例2で構築したプラスミドpRNKAADのKpnI-NcoI部位に挿入し、pGNKAADを構築した。
【0106】
プラスミドpGNKAADを鋳型としてデイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子を配列番号31および32のプライマーを用いてPCR増幅した669bpのDNA断片を制限酵素BamHIおよびPstIで処理し、実施例3で構築したシャトルベクターpGRC5の制限酵素BamHI-PstI部位に挿入し、ルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドpGRC5GNを構築した。
【0107】
プラスミドpGNKAADを鋳型としてデイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子を配列番号33および34のプライマーを用いてPCR増幅した667bpのDNA断片を制限酵素SalIおよびHindIIIで処理し、実施例4で構築したシャトルベクターpRADN8の制限酵素SalI-HindIII部位に挿入し、ルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドpRADN8GNを構築した。
【0108】
プラスミドpGNKAADを鋳型としてデイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子を配列番号31および35のプライマーを用いてPCR増幅した669bpのDNA断片を制限酵素BamHIおよびXbaIで処理し、実施例5で構築したシャトルベクターpZT29Hの制限酵素BamHI-XbaI部位に挿入し、ルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドpZT29HGNを構築した。
【0109】
PCR増幅に用いたプライマーは以下のとおり(配列番号29~35)である。プライマーは
・デイノコッカス・ラジオデュランスのゲノム塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NZ_CP038663.1)、および
・pNL1.1[Nluc]の塩基配列(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/JQ437370.1)、
を参考して設計した。下線は制限酵素消化部位を示す。
【0110】
プラスミドpZT90のgroESプロモーター領域のフォワードプライマー(groEp-Kpn-F:配列番号29)
CGACGGTACCGATTGTCAGCTTCGGTCA
【0111】
プラスミドpZT90のgroESプロモーター領域のリバースプライマー(groEp-Nco-R:配列番号30)
CTTACCATGGGGGGTCCTCCTGTGAGTGAGATG
【0112】
デイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子をプラスミドpGRC5あるいはpZT29Hに連結するためのフォワードプライマー(GN-BamF:配列番号31)
AGCTGGATCCATTGTCAGCTTCGGTCAGTTGACAT
【0113】
デイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子をプラスミドpGRC5に連結するためのリバースプライマー(GN-PstR:配列番号32)
CTAGCTGCAGTTACGCCAGAATGCGTTCGCA
【0114】
デイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子をプラスミドpRADN8に連結するためのフォワードプライマー(GN-SalF:配列番号33)
AGCTGTCGACATTGTCAGCTTCGGTCAGTTGACAT
【0115】
デイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子をプラスミドpRADN8に連結するためのリバースプライマー(GN-HinR:配列番号34)
CTAGAAGCTTACGCCAGAATGCGTTCGCA
【0116】
デイノコッカス・ラジオデュランスgroESプロモーターとトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子をプラスミドpZT29Hに連結するためのリバースプライマー(GN-XbaR:配列番号35)
CTAGTCTAGATTACGCCAGAATGCGTTCGCA
【0117】
実施例8:相対プラスミドコピー数の計測
実施例7で構築したトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子発現プラスミドpGRC5GN、pZT29HGNおよびpRADN8GNを実施例6と同様にデイノコッカス・グランディスTY3株に導入し形質転換体を取得した。次に、デイノコッカス・グランディスの形質転換体からプラスミドを抽出し、アガロースゲル電気泳動により、プラスミドのサイズと存在様態を確認した。その結果を図8に示す。図8において、レーンMは市販のスーパーコイルDNAサイズマーカー、レーン1はpGRC5GN(4,545 bp)を導入した形質転換体、レーン2はpZT29HGN(5,250bp)を導入した形質転換体、レーン3はpRADN8GN(6,683bp)を導入した形質転換体をそれぞれ示している。また、矢印はプラスミド抽出液に混在しているゲノムDNAを示している。
【0118】
レーン1には、pGRC5GNに由来する4,545bpの位置にバンドが見られることから、実施例6で示したpGRC5の結果と同様に、pDEGR-3のレプリコンを持つプラスミドはデイノコッカス・グランディスTY3株中で単量体としてのみ存在することが示された。レーン2ではpZT29HGNの単量体に由来する5,250bpの位置とpZT29Hの2量体に由来する10,500bpの位置にバンドが見られた。レーン3ではpRADN8GNの単量体に由来する6,683bpの位置にバンドが見られたのに加えて、プラスミドの多量体構造を示すサイズの大きなバンドが見られた。
【0119】
発現プラスミドを導入した3種類の形質転換体に含まれるトビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子の発現量を比較するために、Nano-Glo Luciferase Assay System(プロメガ社製)を用いて形質転換体のルシフェラーゼ活性(相対発光量/形質転換体培養菌液の波長600nmでの吸光度)を測定した。その結果、pGRC5GNを導入した形質転換体のルシフェラーゼ活性は8,886±152、pZT29HGNを導入した形質転換体のルシフェラーゼ活性は12,706±86、pRADN8GNを導入した形質転換体のルシフェラーゼ活性は2,792±106という値を示し、この値は図8で見られた発現プラスミドのバンドの蛍光強度と比例しているものと考えられた。これらの結果から、トビオキヒオドシエビルシフェラーゼ遺伝子を含む3種類の発現プラスミドのデイノコッカス・グランディスTY3株での遺伝子発現が示された。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、バイオレメディエーションなどの環境産業において利用可能である。また、本発明は、化粧品・健康食品製造分野においても利用可能であり得る。
【受託番号】
【0121】
デイノコッカス・グランディスTY3株(Deinococcus grandis TY3)は、2023年4月12日付で、日本国、郵便番号292-0818、千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室に住所を有する独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(NPMD)に、受託番号NITE BP-03880として、ブダペスト条約に基づいた国際寄託がされている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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