(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172555
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】モータ制御装置及びモータ制御方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/12 20160101AFI20241205BHJP
【FI】
H02P21/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090344
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧原 知秀
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505DD06
5H505EE07
5H505EE41
5H505EE49
5H505EE55
5H505EE60
5H505GG02
5H505HB01
5H505JJ04
5H505JJ17
5H505JJ25
5H505LL01
5H505LL24
5H505LL45
5H505LL52
(57)【要約】
【課題】モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御可能とする。
【解決手段】モータ制御装置(10)は、予めモータ(30)の進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶するメモリ(14)と、モータ(30)に対するモータ印加電圧でのモータ(30)の負荷率を算出し、算出した負荷率を用いて進角マップから得られた進角マップ値とモータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定する進角設定部(13)と、設定した進角でモータを制御するPWM駆動制御部(17)と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予めモータ(30)の進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶する記憶部(14)と、
前記モータに対する印加電圧であるモータ印加電圧での前記モータの負荷率を算出する算出部(13)と、
算出した前記負荷率を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と前記モータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定する設定部(13)と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部(17)と、
を備えたモータ制御装置(10)。
【請求項2】
前記進角マップは、前記モータのd軸電流が0となるように設定される、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記進角マップは、前記モータのd軸電流が0となるように設定された前記進角マップより、特定の負荷率範囲で進角が大きく設定される、
請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記進角マップは、前記負荷率が所定値未満の範囲では遅角になるように設定される、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記所定値未満の範囲は、前記負荷率がマイナスの範囲である、
請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記モータの回転速度が閾値以下の場合、前記進角を固定するモードに切り替える、
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記モータの温度に応じて前記進角を補正する補正部(15)を更に備えた
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
外部から取得した情報に基づいて前記進角を補正する補正部(15)を更に備えた
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
予めモータの進角マップ値と回転速度を関係付けた進角マップを記憶する記憶部(14)と、
前記モータの負荷を推定する推定部(13)と、
推定した前記負荷から進角補正値を算出する算出部(13)と、
前記モータの実際の回転速度を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と算出した前記進角補正値に基づいて算出した進角を設定する設定部(13)と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部(17)と、
を備えたモータ制御装置(10A)。
【請求項10】
予めモータの進角マップ値と負荷を関係付けた進角マップを記憶する記憶部(14)と、
前記モータの負荷を推定する推定部(13)と、
前記モータの実際の回転速度から進角補正値を算出する算出部(13)と、
推定した前記負荷を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と算出した前記進角補正値に基づいて算出した進角を設定する設定部(13)と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部(17)と、
を備えたモータ制御装置(10B)。
【請求項11】
予めモータの進角マップ値と回転速度を関係付けた第1進角マップを記憶する第1記憶部(14)と、
予めモータの進角マップ値と負荷を関係付けた第2進角マップを記憶する第2記憶部(14)と、
前記モータの負荷を推定する推定部(13)と、
前記モータの実際の回転速度を用いて前記第1進角マップから得られた第1進角マップ値と、推定した前記負荷を用いて前記第2進角マップから得られた第2進角マップ値とを用いて算出した進角を設定する設定部(13)と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部(17)と、
を備えたモータ制御装置(10C)。
【請求項12】
予めモータの進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶する記憶部(14)を備えたモータ制御装置(10)によるモータ制御方法であって、
前記モータ制御装置が、
前記モータに対する印加電圧であるモータ印加電圧での前記モータの負荷率を算出し、
算出した前記負荷率を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と前記モータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定し、
設定した前記進角で前記モータを制御する、
モータ制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置及びモータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラシレスモータは、ベクトル制御を用いることにより、回転速度や負荷が変化しても最適な電流位相に調整され、最適なモータ特性で電流を抑制し効率的に動作させることができる。
【0003】
例えば、特許文献1には、永久磁石同期モータを駆動する電力変換器の出力電圧を、第1のd軸電流指令値から演算した第2のd軸電流指令値と、第1のq軸電流指令値から演算した第2のq軸電流指令値と、周波数指令値と、モータ定数設定値とに基づいて制御する、永久磁石同期モータのベクトル制御装置が記載されている。このベクトル制御装置は、第2のd軸電流指令値と第2のq軸電流指令値と、電力変換器の出力電流の検出値と、モータ定数設定値とを用いて、電力変換器に接続した永久磁石同期モータのモータ定数を同定するモータ定数同定演算部を備え、モータ定数同定演算部が同定したモータ定数をベクトル制御演算に用いて永久磁石モータを駆動制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記ベクトル制御では、電流を検出する電流検出部と、座標変換等の演算を行う演算部と、が必要とされ、特に電流変化が大きい場合は電流制御の周期を高速化しなくてはならず、処理能力の高いマイクロコンピュータを採用する必要がある。このため、コストを重視する場合は、予め進角を固定又は回転速度に応じて進角を設定することがある。この場合、回転速度や負荷が変動する用途では、d軸電流が過大となり、効率、速度制御性が低下する場合があった。
【0006】
本開示は、モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御可能とするモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1態様に係るモータ制御装置は、予めモータの進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶する記憶部と、前記モータに対する印加電圧であるモータ印加電圧での前記モータの負荷率を算出する算出部と、算出した前記負荷率を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と前記モータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定する設定部と、設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部と、を備える。
【0008】
本開示の第2態様に係るモータ制御方法は、予めモータの進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶する記憶部を備えたモータ制御装置によるモータ制御方法であって、前記モータ制御装置が、前記モータに対する印加電圧であるモータ印加電圧での前記モータの負荷率を算出し、算出した前記負荷率を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と前記モータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定し、設定した前記進角で前記モータを制御する。
【発明の効果】
【0009】
開示の技術によれば、モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係るブラシレスモータシステムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係るブラシレスモータのd軸及びq軸の関係を模式的に示す図である。
【
図3】実施形態に係る進角マップ及び進角マップ値の設定例を示すグラフである。
【
図4】(A)はモータ印加電圧Va=Vsのときのブラシレスモータの回転速度とトルクとの関係及びd軸電流とトルクとの関係の一例を示すグラフである。(B)はモータ印加電圧Va=Vs/2のときのブラシレスモータの回転速度とトルクとの関係及びd軸電流とトルクとの関係の一例を示すグラフである。
【
図5】比較例に係るモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図6】第1の実施形態に係るモータ制御装置による進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】(A)はモータ印加電圧Va=Vsのときのブラシレスモータの進角マップの別の設定例を示すグラフである。(B)はモータ印加電圧Va=Vsのときのブラシレスモータの回転速度とトルクとの関係の別の例を示すグラフである。
【
図8】フロントガラスに設けられたワイパアームの上反転位置及び下反転位置の一例を模式的に示す図である。
【
図9】ワイパアームの上反転位置及び下反転位置におけるワイパモータ回転速度、進角、q軸電流及びd軸電流のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】第2の実施形態に係るモータ制御装置による進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図11】(A)は負荷と進角補正値を関係付けた補正値テーブルの一例を示す図である。(B)は進角マップ値と回転速度を関係付けた進角マップの一例を示す図である。(C)は回転方向と負荷との対応関係の一例を示す図である。
【
図12】第3の実施形態に係るモータ制御装置による進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図13】第4の実施形態に係るモータ制御装置による進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本開示の技術を実施するための形態の一例について詳細に説明する。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係るブラシレスモータシステム100の構成の一例を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係るブラシレスモータシステム100は、モータ制御装置10と、インバータ20と、ブラシレスモータ30と、温度センサ40と、を備えている。本実施形態に係るブラシレスモータシステム100は、一例として、車両のフロントガラス等を払拭するワイパ装置の駆動に適用されるが、車両に搭載される各種の補機類に適用することが可能である。なお、ブラシレスモータ30は、モータの一例である。
【0014】
モータ制御装置10は、インバータ20と接続され、インバータ20を介してブラシレスモータ30の動作を制御するコントローラであり、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を備えたマイクロコンピュータ等で構成されている。
【0015】
インバータ20は、モータ制御装置10とブラシレスモータ30との間に配置され、外部電源(図示省略)とブラシレスモータ30の電機子コイル(図示省略)とを接続及び遮断するスイッチング素子(図示省略)を備えている。このスイッチング素子は、例えば、FET(Field Effect Transistor)等の半導体素子により構成されている。より具体的には、U相、V相、W相に対応し、外部電源の正極に接続される3つの正極側のスイッチング素子と、U相、V相、W相に対応し、外部電源の負極側に接続される3つの負極側のスイッチング素子とを含む。モータ制御装置10による制御に従って、スイッチング素子が接続(オン)されると、外部電源から各電機子コイルに電流が供給され、スイッチング素子が遮断(オフ)されると、外部電源から各電機子コイルに電流は供給されない。なお、外部電源は、車両に搭載されたバッテリまたはキャパシタ等である。
【0016】
ブラシレスモータ30としては、一例として、3相2極形又は3相4極形のモータが用いられる。ブラシレスモータ30は、ステータ(図示省略)及びロータ(図示省略)を有する。また、ブラシレスモータ30は、例えば、有底円筒形状のケース(図示省略)を有しており、ケースの内周にステータが固定して設けられている。ステータは、3相、具体的には、U相、V相、W相の電機子コイルを有する。ロータは、ステータの内側に設けられており、ロータは、回転軸(図示省略)と、回転軸に取り付けた永久磁石(図示省略)とを有する。ケース内には複数の軸受(図示省略)が設けられており、回転軸は複数の軸受により回転可能に支持されている。
【0017】
温度センサ40は、ブラシレスモータ30の温度を計測するセンサであり、非接触式又は接触式のセンサが用いられる。温度センサ40で計測された温度情報は、モータ制御装置10に出力される。
【0018】
本実施形態に係るモータ制御装置10は、位置検出部11、速度制御部12、進角設定部13、メモリ14、進角補正部15、3相変換部16、及びPWM(Pulse Width Modulation)駆動制御部17を備えている。
【0019】
位置検出部11は、ブラシレスモータ30に取り付けられた3つのホールIC(図示省略)から、ブラシレスモータ30の回転位置信号(例えば電気角60°毎)を取得する。位置検出部11は、回転位置信号に基づき回転位置信号間の位置を補間して推定することで電気角θを算出し、算出した電気角θを3相変換部16に出力する。また、位置検出部11は、回転位置信号を用いて現在速度(実際の回転速度、以下、「実回転速度」ともいう。)に換算し、換算した実回転速度ωを速度制御部12及び進角設定部13の各々に出力する。
【0020】
速度制御部12は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)等の上位装置から、目標回転速度を含む速度指令を取得する。なお、モータ制御装置10がプログラム作成機能を有している場合には、モータ制御装置10自体がPLCとして機能してもよい。また、速度制御部12は、位置検出部11から実回転速度ωを取得し、速度指令に含まれる目標回転速度と実回転速度ωとの差が小さくなるようにモータ印加電圧Vaを算出し、算出したモータ印加電圧Vaを進角設定部13及び3相変換部16の各々に出力する。モータ印加電圧Vaは、ブラシレスモータ30に対して印加する電圧である。
【0021】
メモリ14には、本実施形態に係る進角制御処理を実行するためのモータ制御プログラム及び必要なデータが記憶されている。また、メモリ14には、予めブラシレスモータ30の進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップが記憶されている。メモリ14は、記憶部の一例である。
【0022】
進角設定部13は、ブラシレスモータ30に対する印加電圧であるモータ印加電圧Vaでのブラシレスモータ30の負荷率を算出する。また、進角設定部13は、算出した負荷率を用いてメモリ14の進角マップから進角マップ値を導出し、導出した進角マップ値とモータ印加電圧Vaに基づいて算出した進角θadvを設定する。進角設定部13は、設定した進角θadvを3相変換部16に出力する。進角設定部13は、算出部及び設定部の一例である。
【0023】
進角補正部15は、ブラシレスモータ30の温度に応じて進角θadvを補正する。ブラシレスモータ30の温度は、温度センサ40により取得される。具体的には、例えば、ブラシレスモータ30の温度と進角θadvとの関係を予め対応付けたデータテーブルを用いて補正することが考えられる。進角補正部15は、補正部の一例である。
【0024】
また、進角補正部15は、外部から取得した情報に基づいて進角θadvを補正してもよい。なお、外部から取得する情報とは、例えば、LIN(Local Interconnect Network)を介してLIN信号として取得される。具体的には、例えば、LIN信号と進角θadvとの関係を予め対応付けたデータテーブルを用いて補正することが考えられる。
【0025】
3相変換部16は、位置検出部11から電気角θ、速度制御部12からモータ印加電圧Va、進角設定部13から進角θadvを各々取得し、電気角θ及び進角θadvに基づいて、モータ印加電圧Vaを3相のモータ印加電圧Vu、Vv、Vwに変換し、変換した3相のモータ印加電圧Vu、Vv、VwをPWM駆動制御部17に出力する。
【0026】
PWM駆動制御部17は、3相変換部16から3相のモータ印加電圧Vu、Vv、Vwを取得し、取得した3相のモータ印加電圧Vu、Vv、VwからPWM信号を生成し、生成したPWM信号をインバータ20に出力する。PWM駆動制御部17は、駆動制御部の一例である。
【0027】
次に、
図2を参照して、ブラシレスモータ30のd軸及びq軸について具体的に説明する。
【0028】
図2は、本実施形態に係るブラシレスモータ30のd軸及びq軸の関係を模式的に示す図である。
【0029】
図2に示すように、ブラシレスモータ30には、仮想的にd相コイル及びq相コイルが構成される。d相コイル及びq相コイルは、永久磁石が回転すると一緒に回転する。d軸はマグネット磁束に平行な方向であり、q軸はd軸に対して垂直な方向である。d軸電流はマグネット磁束と平行な磁束を発生させる電流成分であり、マグネットトルクには寄与しない電流成分である。q軸磁束はマグネット磁束と垂直な磁束を発生させる電流成分であり、マグネットトルクを発生させる電流成分である。
【0030】
負のd軸電流を流すと、マグネット磁束を打ち消すため界磁が弱めとなる。このため、低負荷域では電流は増加するが高回転化することができる。
【0031】
図3は、本実施形態に係る進角マップ及び進角マップ値の設定例を示すグラフである。
図3において、横軸は負荷率[%]を示し、縦軸は進角マップ値[deg]を示す。なお、グラフの数値は一例である。
【0032】
図3に示す進角マップM1は、上述したように、予めブラシレスモータ30の進角マップ値と負荷率を関係付けたもので、メモリ14に記憶されている。ここで、負荷率Lは、例えば、以下の式(1)を用いて算出される。
【0033】
L=Vb/Va ・・・(1)
【0034】
但し、Vaはモータ印加電圧を示し、モータ印加電圧Vaは速度制御部12により決定される電圧である。Vbはモータ負荷電圧を示し、モータ負荷電圧Vbはモータ印加電圧Vaから逆起電圧を減じた値である。モータ負荷電圧Vbは、例えば、以下の式(2)を用いて算出される。
【0035】
Vb=Va-k×ω ・・・(2)
【0036】
但し、kは逆起電力定数を示し、ωは実回転速度を示す。
【0037】
図3において、進角マップM1は、例えば、モータ印加電圧Va=Vsの場合に、ブラシレスモータ30のd軸電流Idが0となるように設定される。ここで、進角θ
advと進角マップ値θ
mpとの関係は、以下の式(3)により表される。
【0038】
θadv=θmp×Va/Vs ・・・(3)
【0039】
但し、Vaはモータ印加電圧を示し、Vsは基準電圧(例えば、13.5V)を示す。
【0040】
ここで、一例として、モータ印加電圧Va=Vs/2である場合について説明する。上述の式(1)及び式(2)を用いて、Va=Vs/2でのブラシレスモータ30の負荷率Lを算出する。次に、算出した負荷率Lを用いて進角マップM1を参照して進角マップ値θmpを導出し、導出した進角マップ値θmpとモータ印加電圧Va=Vs/2を、上述の式(3)に代入し、モータ印加電圧Vaに応じた進角θadvを算出する。
【0041】
ここで、進角マップM1は、負荷率が所定値未満の範囲では遅角、つまり、マイナスの角度になるように設定される。具体的には、所定値未満の範囲は、負荷率がマイナスの範囲であることが望ましい。本実施形態に係る「進角」とは、プラスの進角と、マイナスの進角である遅角も含む。
【0042】
図4(A)はモータ印加電圧Va=Vsのときのブラシレスモータ30の回転速度とトルクとの関係及びd軸電流Idとトルクとの関係の一例を示すグラフである。
図4(B)はモータ印加電圧Va=Vs/2のときのブラシレスモータ30の回転速度とトルクとの関係及びd軸電流Idとトルクとの関係の一例を示すグラフである。
【0043】
図4(A)及び
図4(B)の各々において、上のグラフの横軸はトルク[N・m]を示し、縦軸は回転速度[rpm]を示す。上のグラフに示す特性R1は進角が20°の場合について示し、特性R2は進角が10°の場合について示し、特性R3は進角が0°の場合について示し、特性R4は本実施形態のId=0の場合について示す。また、下のグラフの横軸はトルク[N・m]を示し、縦軸はd軸電流Id[A]を示す。下のグラフに示す特性I1は進角が20°の場合について示し、特性I2は進角が10°の場合について示し、特性I3は進角が0°の場合について示し、特性I4は本実施形態のId=0の場合について示す。
【0044】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、モータ印加電圧に応じて進角を調整することにより、モータ印加電圧、回転速度、及びトルクが変化しても、d軸電流Idはほぼ0となる。つまり、ベクトル制御の一種であるId=0制御と同様の制御を行うことができる。
【0045】
なお、上記では、正弦波通電、または正弦波に3次高調波を重畳させた波形による実質的な正弦波通電の場合について示したが、例えば、矩形波通電、台形波通電等の種々の通電方式にも適用が可能である。この場合、正弦波通電のようにId=0とすることはできないが、Idを最小化する進角を設定することができる。
【0046】
図5は、比較例に係るモータ制御装置200の構成を示すブロック図である。
【0047】
図5に示すように、比較例に係るモータ制御装置200は、速度制御部201、位置検出部202、電流制御部203、逆座標変換部204、3相変換部205、PWM駆動制御部206、電流検出部207、2相変換部208、及び座標変換部209を備えている。
【0048】
比較例に係るモータ制御装置200は、ベクトル制御を行う構成とされる。ベクトル制御を行うモータ制御装置200は、上述したように、電流を検出する電流検出部207と、座標変換の演算を行う演算部である逆座標変換部204及び座標変換部209と、が必要とされる。特に電流変化が大きい場合は電流制御の周期を高速化しなくてはならず、処理能力の高いマイクロコンピュータを採用する必要がある。このため、コストを重視する場合は、予め進角を固定又は回転速度に応じて進角を設定することがある。この場合、回転速度や負荷が変動する用途では、d軸電流が過大となり、効率、速度制御性が低下する場合がある。
【0049】
これに対して、本実施形態に係るモータ制御装置10は、ブラシレスモータ30の進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップM1を記憶して有している。モータ制御装置10は、モータ印加電圧Vaでのブラシレスモータ30の負荷率Lを算出し、算出した負荷率Lを用いて進角マップM1から得られた進角マップ値θmpとモータ印加電圧Vaに基づいて算出した進角θadvを設定し、設定した進角θadvでブラシレスモータ30を制御する。
【0050】
これにより、ブラシレスモータ30の負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御することができる。
【0051】
なお、進角設定部13は、ブラシレスモータ30の回転速度が閾値以下の場合、進角θadvを固定するモードに切り替えるようにしてもよい。なお、閾値には、例えば、過去の知見又は実験結果に基づいて適切な値が設定される。例えば、ホールICで電気角を検出する場合に、回転速度が低い起動時は電気角の推定誤差が大きくなるため、確実にトルクを発生することができる進角θadvに固定することが望ましい。
【0052】
また、進角補正部15は、ブラシレスモータ30の温度に応じて進角θadvを補正するようにしてもよい。これにより、環境温度、モータの発熱による特性の変化の影響を抑制することができる。
【0053】
また、進角補正部15は、外部から取得した情報(例えば、LIN信号)に基づいて進角θadvを補正するようにしてもよい。これにより、環境温度、外部環境の変化に応じて進角θadvを補正することができる。
【0054】
次に、
図6を参照して、第1の実施形態に係るモータ制御装置10の作用を説明する。
【0055】
図6は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10による進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0056】
まず、モータ制御装置10に対して進角制御処理の実行が指示されると、モータ制御プログラムが起動され、以下の各ステップを実行する。
【0057】
図6のステップS101では、位置検出部11が、ブラシレスモータ30に取り付けられた3つのホールIC(図示省略)から、ブラシレスモータ30の回転位置信号(例えば電気角60°毎)を取得する。位置検出部11は、回転位置信号に基づき回転位置信号間の位置を補間して推定することで電気角θを算出し、算出した電気角θを3相変換部16に出力する。また、位置検出部11は、回転位置信号を用いて実回転速度ωに換算し、換算した実回転速度ωを速度制御部12及び進角設定部13の各々に出力する。
【0058】
ステップS102では、速度制御部12が、例えば、PLC等の上位装置から、目標回転速度を含む速度指令を取得し、位置検出部11から実回転速度ωを取得する。速度制御部12は、速度指令に含まれる目標回転速度と実回転速度ωとの差が小さくなるようにモータ印加電圧Vaを算出し、算出したモータ印加電圧Vaを進角設定部13及び3相変換部16の各々に出力する。
【0059】
ステップS103では、進角設定部13が、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。負荷に相当するパラメータとして、例えば、(モータ印加電圧Va-逆起電圧)を推定する。具体的には、一例として、上述の式(2)を用いてモータ負荷電圧Vbを算出する。
【0060】
ステップS104では、進角設定部13が、ステップS102で算出したモータ印加電圧Va、及び、ステップS103で算出したモータ負荷電圧Vbから、一例として、上述の式(1)を用いて負荷率Lを算出する。
【0061】
ステップS105では、進角設定部13が、ステップS104で算出した負荷率Lを用いてメモリ14に記憶されている進角マップM1を参照して進角マップ値θmpを導出する。
【0062】
ステップS106では、進角設定部13が、ステップS105で導出した進角マップ値θmpと、ステップS102で算出したモータ印加電圧Vaを上述の式(3)に代入し、モータ印加電圧Vaに応じた進角θadvを算出する。進角設定部13は、設定した進角θadvを3相変換部16に出力する。
【0063】
ステップS107では、3相変換部16が、位置検出部11から電気角θ、速度制御部12からモータ印加電圧Va、進角設定部13から進角θadvを各々取得し、電気角θ及び進角θadvに基づいて、モータ印加電圧Vaを3相のモータ印加電圧Vu、Vv、Vwに変換し、変換した3相のモータ印加電圧Vu、Vv、VwをPWM駆動制御部17に出力する。PWM駆動制御部17は、モータ印加電圧Vu、Vv、Vwに基づいて、ブラシレスモータ30の駆動を制御し、本モータ制御プログラムによる進角制御処理を終了する。
【0064】
図7(A)はモータ印加電圧Va=Vsのときのブラシレスモータ30の進角マップの別の設定例を示すグラフである。また、
図7(B)はモータ印加電圧Va=Vsのときのブラシレスモータ30の回転速度とトルクとの関係の別の例を示すグラフである。
【0065】
図7(A)に示す進角マップM3は、ブラシレスモータ30のより、特定の負荷率範囲で進角が大きく設定される。
【0066】
ここで、
図7(A)に示す進角マップM3は、d軸電流Idが0となるように設定された進角マップM1に対して、特定の負荷率範囲のみ進角マップ値θ
mpを大きく設定し、負のd軸電流Idで弱め界磁にしてモータの回転速度を上げる。
【0067】
つまり、
図7(B)に示す特性R5のように、製品の動作範囲に応じて、弱め界磁領域を設定することにより、製品の動作範囲ではモータの回転速度を上げて、当該動作範囲の特性を補うことができる。
【0068】
次に、
図8及び
図9を参照して、本実施形態に係るモータ制御装置10による進角制御処理をワイパ装置に適用した場合のシミュレーション結果について説明する。
【0069】
図8は、フロントガラス50に設けられたワイパアーム51,52の上反転位置P1及び下反転位置P2の一例を模式的に示す図である。また、
図9は、ワイパアーム51,52の上反転位置P1及び下反転位置P2におけるワイパモータ回転速度、進角、q軸電流Iq及びd軸電流Idのシミュレーション結果を示すグラフである。
【0070】
上述の
図3に示す進角マップM1を用いて、風の抗力による負荷変化をシミュレーションにより再現し、本実施形態に係る進角制御処理の効果を確認した。
【0071】
図8に示すように、本実施形態に係るブラシレスモータ30が直接又は間接的に駆動連結されてワイパ装置のワイパアーム51,52の駆動に用いる場合について想定する。ワイパアーム51,52は、フロントガラス50に設けられ、上反転位置P1と下反転位置P2との間を往復運動する。
【0072】
確実にトルクを発生させるため、モータの回転速度が低いときには進角を0°に固定する。q軸電流Iqがモータの発生トルクに比例した値となるため、
図9に示すように、停車時と高速走行時とで負荷が大きく異なる。一方、進角が負荷状態に応じて適切に変化しており、d軸電流Idは負荷状態に関わらずほぼ0にできていることが分かる。
【0073】
往路作動時、つまり、下反転位置P2から上反転位置P1への作動時は、風の影響により回生となるため、遅角(つまり、マイナスの進角)となる。一方、復路作動時、つまり、上反転位置P1から下反転位置P2への作動時は、風の影響により負荷が増大するため、進角が増加する。
【0074】
このように本実施形態によれば、モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御することができる。
【0075】
[第2の実施形態]
上記第1の実施形態では、進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを用いて進角制御処理を行う形態について説明した。第2の実施形態では、進角マップ値と回転速度を関係付けた進角マップを用いて進角制御処理を行う形態について説明する。
【0076】
第2の実施形態に係るモータ制御装置10Aの機能的な構成は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10(
図1参照)と同様である。第2の実施形態に係るモータ制御装置10Aのメモリ14には、予めブラシレスモータ30の進角マップ値と回転速度を関係付けた進角マップが記憶される。メモリ14は、記憶部の一例である。
【0077】
進角設定部13は、推定部の一例であり、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。進角設定部13は、算出部の一例であり、推定した負荷から進角補正値を算出する。進角設定部13は、設定部の一例であり、ブラシレスモータ30の実回転速度を用いてメモリ14の進角マップから得られた進角マップ値と算出した進角補正値に基づいて算出した進角を設定する。
【0078】
PWM駆動制御部17は、駆動制御部の一例であり、進角設定部13により設定された進角でブラシレスモータ30を制御する。
【0079】
次に、
図10を参照して、第2の実施形態に係るモータ制御装置10Aの作用を説明する。
【0080】
図10は、第2の実施形態に係るモータ制御装置10Aによる進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0081】
まず、モータ制御装置10Aに対して進角制御処理の実行が指示されると、モータ制御プログラムが起動され、以下の各ステップを実行する。
【0082】
図10のステップS111では、位置検出部11が、ブラシレスモータ30に取り付けられた3つのホールIC(図示省略)から、ブラシレスモータ30の回転位置信号(例えば電気角60°毎)を取得する。位置検出部11は、回転位置信号に基づき回転位置信号間の位置を補間して推定することで電気角を算出し、算出した電気角を3相変換部16に出力する。また、位置検出部11は、回転位置信号を用いて実回転速度に換算し、換算した実回転速度を速度制御部12及び進角設定部13の各々に出力する。
【0083】
このとき、速度制御部12は、例えば、PLC等の上位装置から、目標回転速度を含む速度指令を取得し、位置検出部11から実回転速度を取得する。速度制御部12は、速度指令に含まれる目標回転速度と実回転速度との差が小さくなるようにモータ印加電圧を算出し、算出したモータ印加電圧を進角設定部13及び3相変換部16の各々に出力する。
【0084】
ステップS112では、進角設定部13が、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。負荷に相当するパラメータとして、例えば、(モータ印加電圧-逆起電圧)を推定する。具体的には、一例として、上述の式(2)を用いてモータ負荷電圧を算出する。
【0085】
ステップS113では、進角設定部13が、ステップS112で推定した負荷(例えば、モータ負荷電圧)から進角補正値を算出する。
【0086】
図11(A)は、負荷と進角補正値を関係付けた補正値テーブルの一例を示す図である。この補正値テーブルは、メモリ14に予め記憶されている。進角設定部13は、一例として、推定した負荷(例えば、モータ負荷電圧)を用いて
図11(A)に示す補正値テーブルを参照し、進角補正値を算出する。
【0087】
ステップS114では、進角設定部13が、ステップS111で算出した実回転速度を用いてメモリ14に記憶されている進角マップを参照して進角マップ値を導出する。
【0088】
図11(B)は、進角マップ値と回転速度を関係付けた進角マップの一例を示す図である。この進角マップは、メモリ14に予め記憶されている。進角設定部13は、一例として、実回転速度を用いて
図11(B)に示す進角マップを参照し、進角マップ値を算出する。
【0089】
ステップS115では、進角設定部13が、ステップS114で導出した進角マップ値とステップS113で算出した進角補正値に基づいて算出した進角を設定する。進角設定部13は、設定した進角を3相変換部16に出力する。
【0090】
図11(C)は、回転方向と負荷との対応関係の一例を示す図である。進角設定部13は、一例として、進角マップ値に進角補正値を乗じることにより進角を算出する。進角の符号(+/-)は、
図11(C)に示す対応関係から決定される。
【0091】
ステップS116では、3相変換部16が、位置検出部11から電気角、速度制御部12からモータ印加電圧、進角設定部13から進角を各々取得し、電気角及び進角に基づいて、モータ印加電圧を3相(u相、v相、w相)のモータ印加電圧に変換し、変換した3相のモータ印加電圧をPWM駆動制御部17に出力する。PWM駆動制御部17は、3相のモータ印加電圧に基づいて、ブラシレスモータ30の駆動を制御し、本モータ制御プログラムによる進角制御処理を終了する。
【0092】
このように本実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御することができる。
【0093】
[第3の実施形態]
第3の実施形態では、進角マップ値と負荷を関係付けた進角マップを用いて進角制御処理を行う形態について説明する。
【0094】
第3の実施形態に係るモータ制御装置10Bの機能的な構成は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10(
図1参照)と同様である。第3の実施形態に係るモータ制御装置10Bのメモリ14には、予めブラシレスモータ30の進角マップ値と負荷を関係付けた進角マップが記憶される。メモリ14は、記憶部の一例である。
【0095】
進角設定部13は、推定部の一例であり、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。進角設定部13は、算出部の一例であり、実回転速度から進角補正値を算出する。進角設定部13は、設定部の一例であり、ブラシレスモータ30の負荷を用いてメモリ14の進角マップから得られた進角マップ値と算出した進角補正値に基づいて算出した進角を設定する。
【0096】
PWM駆動制御部17は、駆動制御部の一例であり、進角設定部13により設定された進角でブラシレスモータ30を制御する。
【0097】
次に、
図12を参照して、第3の実施形態に係るモータ制御装置10Bの作用を説明する。
【0098】
図12は、第3の実施形態に係るモータ制御装置10Bによる進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0099】
まず、モータ制御装置10Bに対して進角制御処理の実行が指示されると、モータ制御プログラムが起動され、以下の各ステップを実行する。
【0100】
図12のステップS121では、位置検出部11が、ブラシレスモータ30に取り付けられた3つのホールIC(図示省略)から、ブラシレスモータ30の回転位置信号(例えば電気角60°毎)を取得する。位置検出部11は、回転位置信号に基づき回転位置信号間の位置を補間して推定することで電気角を算出し、算出した電気角を3相変換部16に出力する。また、位置検出部11は、回転位置信号を用いて実回転速度に換算し、換算した実回転速度を速度制御部12及び進角設定部13の各々に出力する。
【0101】
このとき、速度制御部12は、例えば、PLC等の上位装置から、目標回転速度を含む速度指令を取得し、位置検出部11から実回転速度を取得する。速度制御部12は、速度指令に含まれる目標回転速度と実回転速度との差が小さくなるようにモータ印加電圧を算出し、算出したモータ印加電圧を進角設定部13及び3相変換部16の各々に出力する。
【0102】
ステップS122では、進角設定部13が、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。負荷に相当するパラメータとして、例えば、(モータ印加電圧-逆起電圧)を推定する。具体的には、一例として、上述の式(2)を用いてモータ負荷電圧を算出する。
【0103】
ステップS123では、進角設定部13が、ステップS121で算出した実回転速度から進角補正値を算出する。この場合、上述の
図11(A)に示す補正値テーブルを、回転速度と進角補正値を関係付けた補正値テーブルとすればよい。この補正値テーブルは、メモリ14に予め記憶されている。進角設定部13は、一例として、算出した実回転速度を用いて補正値テーブルを参照し、進角補正値を算出する。
【0104】
ステップS124では、進角設定部13が、ステップS122で推定した負荷を用いてメモリ14に記憶されている進角マップを参照して進角マップ値を導出する。この場合、上述の
図11(B)に示す進角マップを、負荷と進角マップ値を関係付けた進角マップとすればよい。この進角マップは、メモリ14に予め記憶されている。進角設定部13は、一例として、推定した負荷を用いて進角マップを参照し、進角マップ値を算出する。
【0105】
ステップS125では、進角設定部13が、ステップS124で導出した進角マップ値とステップS123で算出した進角補正値に基づいて算出した進角を設定する。進角設定部13は、一例として、進角マップ値に進角補正値を乗じることにより進角を算出する。進角設定部13は、設定した進角を3相変換部16に出力する。
【0106】
ステップS126では、3相変換部16が、位置検出部11から電気角、速度制御部12からモータ印加電圧、進角設定部13から進角を各々取得し、電気角及び進角に基づいて、モータ印加電圧を3相(u相、v相、w相)のモータ印加電圧に変換し、変換した3相のモータ印加電圧をPWM駆動制御部17に出力する。PWM駆動制御部17は、3相のモータ印加電圧に基づいて、ブラシレスモータ30の駆動を制御し、本モータ制御プログラムによる進角制御処理を終了する。
【0107】
このように本実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御することができる。
【0108】
[第4の実施形態]
第4の実施形態では、進角マップ値と回転速度を関係付けた第1進角マップ、及び、進角マップ値と負荷を関係付けた第2進角マップを用いて進角制御処理を行う形態について説明する。
【0109】
第4の実施形態に係るモータ制御装置10Cの機能的な構成は、第1の実施形態に係るモータ制御装置10(
図1参照)と同様である。第4の実施形態に係るモータ制御装置10Cのメモリ14には、ブラシレスモータ30の進角マップ値と回転速度を関係付けた第1進角マップ、及び、進角マップ値と負荷を関係付けた第2進角マップが予め記憶される。メモリ14は、第1記憶部及び第2記憶部の一例である。
【0110】
進角設定部13は、推定部の一例であり、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。進角設定部13は、設定部の一例であり、ブラシレスモータ30の実回転速度を用いてメモリ14の第1進角マップから得られた第1進角マップ値と、推定した負荷を用いてメモリ14の第2進角マップから得られた第2進角マップ値とを用いて算出した進角を設定する。
【0111】
PWM駆動制御部17は、駆動制御部の一例であり、進角設定部13により設定された進角でブラシレスモータ30を制御する。
【0112】
次に、
図13を参照して、第4の実施形態に係るモータ制御装置10Cの作用を説明する。
【0113】
図13は、第4の実施形態に係るモータ制御装置10Cによる進角制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0114】
まず、モータ制御装置10Cに対して進角制御処理の実行が指示されると、モータ制御プログラムが起動され、以下の各ステップを実行する。
【0115】
図13のステップS131では、位置検出部11が、ブラシレスモータ30に取り付けられた3つのホールIC(図示省略)から、ブラシレスモータ30の回転位置信号(例えば電気角60°毎)を取得する。位置検出部11は、回転位置信号に基づき回転位置信号間の位置を補間して推定することで電気角を算出し、算出した電気角を3相変換部16に出力する。また、位置検出部11は、回転位置信号を用いて実回転速度に換算し、換算した実回転速度を速度制御部12及び進角設定部13の各々に出力する。
【0116】
このとき、速度制御部12は、例えば、PLC等の上位装置から、目標回転速度を含む速度指令を取得し、位置検出部11から実回転速度を取得する。速度制御部12は、速度指令に含まれる目標回転速度と実回転速度との差が小さくなるようにモータ印加電圧を算出し、算出したモータ印加電圧を進角設定部13及び3相変換部16の各々に出力する。
【0117】
ステップS132では、進角設定部13が、ブラシレスモータ30の負荷を推定する。負荷に相当するパラメータとして、例えば、(モータ印加電圧-逆起電圧)を推定する。具体的には、一例として、上述の式(2)を用いてモータ負荷電圧を算出する。
【0118】
ステップS133では、進角設定部13が、ステップS131で算出した実回転速度を用いてメモリ14に記憶されている第1進角マップを参照して第1進角マップ値を導出する。この場合、進角設定部13は、一例として、実回転速度を用いて上述の
図11(B)に示す第1進角マップを参照し、第1進角マップ値を算出する。
【0119】
ステップS134では、進角設定部13が、ステップS132で推定した負荷を用いてメモリ14に記憶されている第2進角マップを参照して第2進角マップ値を導出する。この場合、上述の
図11(B)に示す第1進角マップを、負荷と進角マップ値を関係付けた第2進角マップとすればよい。進角設定部13は、一例として、推定した負荷を用いて第2進角マップを参照し、第2進角マップ値を算出する。
【0120】
ステップS135では、進角設定部13が、ステップS133で導出した第1進角マップ値と、ステップS134で導出した第2進角マップ値とを用いて算出した進角を設定する。進角設定部13は、一例として、第1進角マップ値に第2進角マップ値を乗じることにより進角を算出する。進角設定部13は、設定した進角を3相変換部16に出力する。
【0121】
ステップS136では、3相変換部16が、位置検出部11から電気角、速度制御部12からモータ印加電圧、進角設定部13から進角を各々取得し、電気角及び進角に基づいて、モータ印加電圧を3相(u相、v相、w相)のモータ印加電圧に変換し、変換した3相のモータ印加電圧をPWM駆動制御部17に出力する。PWM駆動制御部17は、3相のモータ印加電圧に基づいて、ブラシレスモータ30の駆動を制御し、本モータ制御プログラムによる進角制御処理を終了する。
【0122】
このように本実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、モータの負荷や回転速度が変化しても、電流検出を不要としかつ複雑な演算処理をすることなく、d軸電流を制御することができる。
【0123】
以上の実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0124】
(付記1)
予めモータの進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶する記憶部と、
前記モータに対する印加電圧であるモータ印加電圧での前記モータの負荷率を算出する算出部と、
算出した前記負荷率を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と前記モータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定する設定部と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部と、
を備えたモータ制御装置。
(付記2)
前記進角マップは、前記モータのd軸電流が0となるように設定される、
付記1に記載のモータ制御装置。
(付記3)
前記進角マップは、前記モータのd軸電流が0となるように設定された前記進角マップより、特定の負荷率範囲で進角が大きく設定される、
付記2に記載のモータ制御装置。
(付記4)
前記進角マップは、前記負荷率が所定値未満の範囲では遅角になるように設定される、
付記1~付記3の何れか1に記載のモータ制御装置。
(付記5)
前記所定値未満の範囲は、前記負荷率がマイナスの範囲である、
付記4に記載のモータ制御装置。
(付記6)
前記設定部は、前記モータの回転速度が閾値以下の場合、前記進角を固定するモードに切り替える、
付記1~付記5の何れか1に記載のモータ制御装置。
(付記7)
前記モータの温度に応じて前記進角を補正する補正部を更に備えた
付記1~付記6の何れか1に記載のモータ制御装置。
(付記8)
外部から取得した情報に基づいて前記進角を補正する補正部を更に備えた
付記1~付記7の何れか1に記載のモータ制御装置。
(付記9)
予めモータの進角マップ値と回転速度を関係付けた進角マップを記憶する記憶部と、
前記モータの負荷を推定する推定部と、
推定した前記負荷から進角補正値を算出する算出部と、
前記モータの実際の回転速度を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と算出した前記進角補正値に基づいて算出した進角を設定する設定部と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部と、
を備えたモータ制御装置。
(付記10)
予めモータの進角マップ値と負荷を関係付けた進角マップを記憶する記憶部と、
前記モータの負荷を推定する推定部と、
前記モータの実際の回転速度から進角補正値を算出する算出部と、
推定した前記負荷を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と算出した前記進角補正値に基づいて算出した進角を設定する設定部と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部と、
を備えたモータ制御装置。
(付記11)
予めモータの進角マップ値と回転速度を関係付けた第1進角マップを記憶する第1記憶部と、
予めモータの進角マップ値と負荷を関係付けた第2進角マップを記憶する第2記憶部と、
前記モータの負荷を推定する推定部と、
前記モータの実際の回転速度を用いて前記第1進角マップから得られた第1進角マップ値と、推定した前記負荷を用いて前記第2進角マップから得られた第2進角マップ値とを用いて算出した進角を設定する設定部と、
設定した前記進角で前記モータを制御する駆動制御部と、
を備えたモータ制御装置。
(付記12)
予めモータの進角マップ値と負荷率を関係付けた進角マップを記憶する記憶部を備えたモータ制御装置によるモータ制御方法であって、
前記モータ制御装置が、
前記モータに対する印加電圧であるモータ印加電圧での前記モータの負荷率を算出し、
算出した前記負荷率を用いて前記進角マップから得られた進角マップ値と前記モータ印加電圧に基づいて算出した進角を設定し、
設定した前記進角で前記モータを制御する、
モータ制御方法。
【符号の説明】
【0125】
10、10A、10B、10C モータ制御装置、11 位置検出部、12 速度制御部、13 進角設定部、14 メモリ、15 進角補正部、16 3相変換部、17 PWM駆動制御部、20 インバータ、30 ブラシレスモータ、40 温度センサ、100 ブラシレスモータシステム